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高齢者の健康・生活支援
近くに医療機関やスーパーなどがない中山間地域に、オンライン診療機能を備えた多目的車両を派遣する「医療ＭａａＳ」と呼ばれる取り組みが度会町一之瀬地区で始まった。食品を車に積んだ「移動スーパー」など暮らしに密着したサービスも同時に提供している。マイカー以外の交通手段が乏しい地域で、次世代モビリティー（乗り物）を活用して高齢者の健康や生活を支える試みとして期待されている。（新良雅司、写真も）
スーパー跡地で
２１日、一之瀬地区の駐車場に、近未来的なペイントが施された大型ワゴン車がとまった。場所は、３月に閉店したスーパー「ＪＡショップ一之瀬」前の駐車場。車内には、電子聴診器などの医療機器が並ぶ。近くに住む長谷川順子さん（８０）が乗り込むと、看護師が血圧や体温を測定した。
車内のモニターには医師の姿が映し出された。「血圧がちょっと高めやけど、薬はちゃんと飲んどるかな。心音を聞かせてもらおうか」。約１０分間の受診を終えた長谷川さんは、薬剤師からオンラインで服薬指導も受けた。
医療人材の紹介やオンライン診療アプリの提供などを手がけるＭＲＴ（東京）が、経済産業省の委託を受けて始めた実証実験。大台町や度会町など６町で構成する「三重広域連携スーパーシティ推進協議会」などと連携し、ソフトバンクやトヨタ自動車などが出資する「モネ・テクノロジーズ」も参加している。
長谷川さんは高血圧治療のため、自宅から約１２キロ離れた役場近くの「越智ファミリークリニック」に２か月に１回のペースで通っている。役場方面へ向かうバスは２時間に１本ほどしかなく、娘や妹に車で送迎してもらっている。
長谷川さんは「ここやったら歩いて来られるから便利や。薬も送ってもらえるらしいし」と、ほっとした表情を浮かべた。診察した越智則晶院長（６１）は「なかなかクリニックに来られない患者の表情をモニターで見て、聴診器を当てるだけでも意味がある」と話した。
コスト
オンライン診療の実証実験は２０２１、２２年度にも大台町や度会町などで実施した。今年度は、車を使った生活サービスの提供も行い、新たな効果を探る。
医療ＭａａＳ車両の近くで、食品スーパー「ぎゅーとら」（伊勢市）の移動スーパー「とくし丸」が食品などを販売した。地域おこし協力隊によるカフェや町地域包括支援センターによる介護予防体操も行われ、大勢の住民が訪れた。
２９日には度会町中川地区で同様の実証実験を行うほか、来年１月にも実施する予定だ。オンライン診療を受けた患者や医師らにアンケートをするほか、日常的に家族を病院などに送迎している世帯や自治体、地域住民らにも意見を聞く。
課題は、サービスに必要な人材の確保と、コストをどう分担するかだ。
オンライン診療は新型コロナの感染拡大を機に全国的に広がり始めた。だが、対面診療に比べて診療報酬が低く、医療機関側のメリットは小さい。診療に協力してくれる医師や看護師、多目的車両の運転手の確保、システムの導入など経費は多岐にわたる。
「へき地では、運転免許を返納すると病院や買い物に行けなくなってしまう」。実証実験を担うＭＲＴの小川智也社長（５０）はそう訴える。「多目的車によるオンライン診療に加え、生活に必要なサービスを集めれば、公共交通機関の負担を軽減し、地域のにぎわいを生み出すことができる」と話し、次世代モビリティーの活用が広がれば、効率的な運用が可能になると指摘している。
医療ＭａａＳ 医療機器などを積んだ車を患者宅などに派遣し、オンラインで医師とつないで診療や健康相談を行う次世代移動サービス。ＭａａＳは「Ｍｏｂｉｌｉｔｙ ａｓ ａ Ｓｅｒｖｉｃｅ」の略で、情報通信技術を活用した最適な交通手段の提供を意味する。
