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会話にユーモアを交えることは、常にリスクと隣り合わせだ。魔法のような効果を発揮する時もあれば、惨事を招く時もある。筆者らは医師と患者のやり取りに着目し、患者に対して実施した98万件以上のアンケート回答を分析した結果、思いやりを感じさせるユーモアと、侮辱を感じさせるユーモアの違いを生む要因を突き止めた。本稿では、職場で効果的にユーモアを発揮する方法を紹介する。


 職場のユーモアは、魔法のような効果を発揮する時もあれば、惨事を招く時もある。なぜだろうか。「なかにはよいジョークもある」「おもしろいと思う人もいれば、そう思わない人もいる」といった単純な話ではない。

 実際、仕事のやり取りにのんきな発言を交えることは、常にリスクと隣り合わせだ。そのリスクに価値があり、大きな見返りにつながるかどうか。感情が最も絡みやすい職業環境の一つであるヘルスケアのデータを、人工知能(AI)と自然言語処理を用いて分析したところ、リスクと見返りを判断する目安を導き出すことができた。

 筆者らがヘルスケアに関するユーモアに興味を持ったのは、思いがけないきっかけだった。患者がケアにおいて何を最も重視しているかを理解するために、患者のコメントの大規模なデータセットを精査していた時のことである。

 そこでは、2020年に全米の患者から集めた98万8161件のアンケート回答から、AIと自然言語処理を用いて、ポジティブなコメントとネガティブなコメントを抽出した。回答のうち17%は入院患者の体験、83%は外来患者の体験で、双方に同じ患者からの回答が含まれる可能性もある。

 これらのコメントから、筆者らの分析技術を使って127万件のインサイトを抽出し、ポジティブなものとネガティブなものをテーマとサブテーマに沿って分類した。この技術を用いれば、患者にとって重要でありながら、標準的な調査質問では把握できない問題を特定できる。たとえば、「担当医があなたに理解できるように説明した頻度は」という質問だけでは、医師が患者に情報を伝えたかどうかはわかるが、患者がどのように感じたかはわからない。

 筆者らの知る限り、調査質問で、患者が医師や看護師をユーモラスだと感じたかどうかを尋ねる項目はない。しかし、患者が記述したコメントを分析したところ、臨床医とのポジティブな経験を語る時は、ユーモアに繰り返し言及していることがわかった(表を参照)。

 彼らは医師が自分にどのように接したかを説明する際に、調査の質問内容に関係なく、医師が難しい場面でユーモアを使うことで、思いやりを示す行動を補強できるかどうかに注目するようだ。

 筆者らの分析によると、思いやりに関して、ユーモアはコースのメイン料理ではなく、むしろ重要な調味料に似ている。患者が評価するメイン料理は、礼儀、敬意、そして関連するサブテーマだ。医師の専門的なスキルにはあまり言及しないが、共感、優しさ、助けられたこと、忍耐力を具体的に評価する。そして、これらの要素を伴うユーモアがあったと患者がコメントする場合、そのユーモアは大いに歓迎されているようだ(表のコメント例を参照)。

 このようにユーモアを使うためには、目の前のやり取りに集中することと、思いやりが伝わるような信頼性が必要になる。つまり、臨床医は何よりも共感と優しさを確実に示し、患者に手を差し伸べることに意識を向ける必要があり、そのためには表の左側の欄にある要素を示すような振る舞いをする。そのような振る舞いが自分への思いやりを示していると患者が明確に感じる時、ユーモアを通じてつながりを築こうとする医師の穏やかな試みを、彼らは歓迎するだろう。

 その一方で、礼儀や敬意が欠けていると患者が感じる時、ケアを提供する側がユーモアを使うと、侮辱となって相手をさらに傷つける(表のコメント例を参照)。ユーモアは、それだけで効果をもたらすことも、マイナスに作用することもない。患者が医師や看護師から受け取るポジティブなシグナルやネガティブなシグナルを、ユーモアが増幅させるのだ。