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コラム
2021年11月30日
2021年11月30日

ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ALSについてインターネット上の情報が示すのは絶望的な情報。でも、アップデートされた正しい情報が示すのは、「ALSはともに生きていく病気だ!」 検索上位は絶望を誘う情報ばかり ALSと診断された患者や家族は、診断を受けたら、インターネットを使ってALSのことを調べるでしょう。 「ALS」と入力したら、検索の上位に出てくるのは「症状」や「寿命」などのワード。 ALSとはどんな病気か、まだほとんど知らない状態で入ってくるのが、平均寿命が2年〜5年という衝撃的な情報です。多くの人が、そこで、「自分はあと数年しか生きられないのか」と理解し、絶望するのです。 恥ずかしながら、医師である私も、そう理解しました。 発症当時34歳だった私は何の持病もなく、健康そのものでした。それなのに、40歳まで生きられないのか……。そう思い、愕然としました。愕然としすぎて、どこか他人事のようで現実感がなかったくらいですが、ただ漠然とした恐怖と不安に押しつぶされていました。 多くのALS患者さんも、同じような感情を抱くのだと思います。 『呼吸筋麻痺は終末期』は本当か インターネット上の多くの情報は、呼吸筋麻痺を「ALSの終末期」ととらえています。 確かに、ALS患者さんの多くは、気管切開による侵襲的人工呼吸療法(TPPV)をして生きていく道を選びません。実際、TPPVの導入割合は、日本で約 20〜30%と推計されています。 (余談ですが、欧米では数%から10%強そこそこなので、これでも日本は世界からみたら飛びぬけて TPPV が多い国ととらえられています。1)) なぜこんなにも、TPPVで生きていく人が少ないのでしょうか? それは多くの人が、ほとんど体が動かせず、治療法もないこの病気に希望が見いだせないからでしょう。 在宅環境のめまぐるしい進歩を味方に 確かに治療法はまだありません。しかしTPPVで在宅療養していく生活環境は、目まぐるしく進歩しています。特にtechnologyの進歩はすごい! 医学の進歩をはるかに凌駕しています。 ここ数年で、体の一部分が動かせさえすれば、iPhoneやiPadを操作できるようになりました。私も、最初のころは手の指で、手が難しくなってきて次は足の指で、その次は歯で、操作しています。私は今でも、これで、医師として仕事もするし、メールやLINEもするし、さまざまな動画コンテンツだって見ることができるし、本や漫画も読めるし、ゲームだってできる。ちなみに私はドラクエをしています(笑)。 たぶんこれからも、technologyはどんどん進歩していくし、それに伴ってALSの在宅療養環境もどんどん改善していくでしょう。 これだけでも、大きな希望です! 『呼吸筋麻痺は維持期』という考えかた だから私は、「呼吸筋麻痺はALSの終末期」ではなく、「呼吸筋麻痺はALSの維持期」と考えます! 実際、「胃瘻造設をして栄養管理を行いながらTPPVをしているALS患者の生存期間中央値は20年」というデータも都立神経病院から出ています2)。ALSの好発年齢が50〜70歳であることを考えると、十分に天寿も全うできる数字です。 これからは「ALSは死ぬ病気ではなく、ともに生きていく病気」になっていくでしょう。 ALSは20年だって生きられる病気だ 私もALS患者です、「ともに生きていく」ことが大変なのはよくわかります。私の考えを押しつけるつもりもまったくありません。TPPVを選ばないことも、立派な選択肢の一つだと思います。 ただ同じALS患者として、医師として、ALS患者さんには、正しい、アップデートされた情報をもって、TPPVをするかTPPVをしないかを選択してほしいと切に思います。私の記事がその一端を担えれば幸いです。 もう一度言います。 「ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!」 「気管切開して、TPPVをした場合、ALSは20年だって生きられる可能性のある病気だ!」 ** コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)荻野美恵子.『日本におけるALS終末期』臨床神経.48,2008,973-5.2)木村英紀.『長期TPPV下における問題点とその対策について』難病と在宅ケア.27(2),2021,60-3.

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特集
2022年3月1日
2022年3月1日

Spo2(サチュレーション)が低いが「苦しくない」と答える患者への確認ポイント5つ

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第5回は、SpO2が平常時は95%あるのに、90%になっている患者さん。呼吸困難感を尋ねると本人は「苦しくない」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 ベッド上で全介助の82歳男性。バイタルサイン測定時にSpO2が90%でした。ふだんは95%ぐらいあり、呼吸困難感について尋ねたのですが、「苦しくない」と言っています。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 SpO2が90%であり、低酸素状態が疑われます。高齢者では呼吸困難の自覚が乏しいことがあるので、客観的データを十分に収集する必要があります。低酸素状態は、▷肺や呼吸の問題 ▷循環の問題 ── が考えられます。 一方、全身的な低酸素状態ではないのに、測定部位の循環障害でSpO2値が低く出る場合があるので、まずは正しく測定できているかの確認から始めましょう。 ここに注目! ●SpO2値でみると、低酸素状態であり、呼吸障害や全身の循環不全が考えられるのでは?●症状がほとんどないことから、末梢のみの循環障害か? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・低酸素に伴う症状(呼吸困難、胸が苦しい感じ、頭痛、頭が重い感じ、ぼーっとする感じ、目の見えにくさ、声の出にくさ、言葉の出ない感じ、不安感、焦燥感、傾眠傾向、など)・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、喘鳴、など)・生活への影響(食欲・食事摂取量の低下、活動量・活気の減少) 客観的情報の収集 SpO2測定部位の末梢循環 SpO2が低く出たときの測定部位の指先について、冷感、皮膚の色、圧迫されていないかを確認します。 SpO2を簡便に測定することができるパルスオキシメーターのしくみは、手または足の指にプローブを装着することで、血液の色を検知し、酸素と結びついたヘモグロビンがどの程度存在するかを計算します。循環障害のない(皮膚色の変化のない)指で測定しなければ、正しい値が出ないことがあります。 SpO2が低く出た測定部位が一時的な循環不全だった可能性があれば、加温やマッサージ後に、もう一度測定します。また、ほかの手指、足指で測定してみて値が回復するようなら、全身的な低酸素状態ではないと確認できます。 チアノーゼと冷汗 全身性のチアノーゼ、じっとりとした冷たい汗をかいている場合は、全身の循環障害(ショック状態)が強く疑われます。速やかな対応が必要です。 呼吸数・胸郭拡張の確認 もし低酸素状態であれば、頻呼吸となり、浅速呼吸や努力呼吸になっていることがあります。 平均的な呼吸数は12~20回/分です。必ず呼吸数を確認し、報告しましょう。 胸郭の視診・触診で、呼吸運動が十分に行われているかを確認します。ただし、COPDなど閉塞性の肺疾患のある人は、もともと胸郭が動きにくいので、胸鎖乳突筋や腹筋などの呼吸補助筋の緊張が高まっていないかをチェックすることが役立ちます。 肺音の聴取 努力呼吸のときには呼吸音は増大します。大きく聞こえているからといって、酸素を十分に取り込めているわけではないので注意してください。呼吸音の消失や減弱、代償性の増強、肺胞音が聞かれるべき部位で気管支呼吸音のような強い音が聞かれる気管支呼吸音化をチェックします。 副雑音は正常では聞かれない音です。副雑音があるようなら、肺胞や気管支に何らかの異常があると判断できます。 脈拍・血圧測定 呼吸機能が原因の低酸素の場合、末梢へ酸素供給を行うために脈拍が速くなり、血圧は高くなります。低酸素状態が悪化すると血圧は低下します。 報告のポイント ・正しく測定したSpO2の値とその経過・バイタルサイン・呼吸形態や肺音聴取の結果から、呼吸器障害の推測・全身の循環障害の徴候 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
コラム
2025年6月24日
2025年6月24日

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、医師がどのようにALSと診断するのか、梶浦先生のご経験も交えながら解説していただきます。 ALSの診断には2つの重要なポイントがある 重要なポイント、それは次のとおりです。順番に説明していきます。(1) ALSは除外診断である(2) 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が体の広範囲で障害されていることを証明できる ALSは除外診断である 例えば、インフルエンザはウイルスを特定することで診断され、がんは画像検査や生検(腫瘍細胞の一部を採取して行う検査)によって診断を確定できます。しかし、ALSには特異的マーカーや決定的な検査所見がありません。そのため、ALSと同じように運動ニューロンが障害される疾患を一つひとつ除外し、どれにも当てはまらない場合に初めてALSと診断されます。これを「除外診断」といいます。 ALS以外の疾患を除外するために、以下のような検査が行われます。・神経伝導検査・筋電図検査・血液検査・髄液検査・MRI検査(脳、脊髄) など 運動ニューロン障害の広がりを証明する 前回のコラム(>>分かりやすい! ALSの病態と症状)でお伝えしたように、上位運動ニューロンは主に「ブレーキ」の役割を、下位運動ニューロンは主に「アクセル」の役割を担っています。これらが体の広範囲で障害されていることを証明していきます。 ■上位運動ニューロン障害の検査方法 「ブレーキ」が障害されるため、「アクセル」の制御ができない状態です。代表的な症状として、以下の現象がみられます。 腱反射亢進:アキレス腱や膝、肘などの腱を医療用のハンマーで軽く叩くと筋肉が過剰に動く。 クローヌス:アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、筋肉の動きを止めることができず、「ガクガク」と一定のリズムで動き続ける。 医師はこれらの症状の有無や範囲を診察し、上位運動ニューロンの障害を確認します。 下位運動ニューロン障害の検査方法 「アクセル」が障害されるため、以下のような変化が起こります。 筋力低下と筋委縮:筋肉が動かせず、筋肉が細くなり、筋力が落ちていく。 筋力が低下している部位を客観的に把握するため、筋力を数値化していきます。具体的には、握力の測定や、筋力を徒手的に評価する「徒手筋力検査」(manual muscle testing:MMT)が行われます。MMTは主要な部位の筋力を判定し、0~5点の6段階で判定します。参考までに表1に実際の点数の付け方を示します。 表1 徒手筋力検査(MMT) 点数 機能段階 5 強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 4 抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 3 抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる 2 重力を除去すれば、運動域全体にわたって動かせる 1 筋の収縮がわずかに確認されるだけで、関節運動は起こらない 0 筋の収縮はまったくみられない 線維束性収縮:体のさまざまな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に「ピクピク」と細かく動く症状。 前回のコラムで紹介したとおり、線維束性収縮も下位運動ニューロン障害の存在を証明する大切な所見です。線維束性収縮は自覚でき、強く症状が出ているときは他人からも目視できますが、わずかな症状でも客観的に確認できる「針筋電図検査」を実施します。 針筋電図検査は、細い針電極を体のさまざまな部位の筋肉に刺し、筋肉のわずかな「ピクピク」を電気的な活動として捉えることで、まだ筋力低下が起こっていない早期の段階でも異常を発見できます。ただし、線維束性収縮は常にみられるわけではなく、同じ場所に起こるとも限りません。針を刺した場所とタイミングで「ピクピク」が出ていなければ、確実な診断が難しい場合もあり、そこにもどかしさを感じています。 なお、最も多いALSの症状の進行パターンは、まず左右どちらかの手や足の遠位部の筋力が低下していき、徐々に体の中心に近い部分や反対側の筋力が低下していき、全身に広がっていきます。 発症初期は、まだ筋力の低下は限局した部位にしかみられないため、この段階で診断するのはとても難しいです。 私の診断までの経過 発症と初めての受診 2015年、当時34歳の私は、アメリカのカリフォルニア大学(UCSD)に研究のために留学していました。同年の7月に、右手の指先の筋力低下と、利き腕である右腕が左腕よりも細いことに気がつきました。8月にUCSDの神経内科を受診すると、「ALSの可能性が高いので精査が必要です」と言われ、10月に帰国しました。 診断への長い道のり 帰国後、すぐに総合病院の神経内科を受診し、MRIや筋電図検査などで精査したところ、「まだ右腕だけに症状は限局しているものの、ほかの疾患は考えにくいので、おそらくALSだろう」と言われました。「もしかしたらALSではないのでは?」という私の淡い期待は崩れ去り、絶望と恐怖で一晩中泣いていました……。 しかし、その後、診断は二転三転したのです。 2015年11月 今後の治療法を相談していくために神経内科専門の病院を紹介され受診しました。そこで、担当の医師に「ALSと確定するのはまだ早いので、運動ニューロン病を専門としている大学病院の神経内科にセカンドオピニオンに行かないか」と提案されました。わらにもすがる思いだった私は、すぐに行くことを決めました。 同年12月 あらためて精査するために、紹介された大学病院に2週間入院することになりました。そこではMRIや筋電図検査に加えて髄液検査やエコー検査など、さまざまな検査をしました。 すべての検査結果が出て、教授回診のときに診断が告げられることになりました。尋常ではない緊張感で座って待っていた私のもとに、教授を筆頭に医局の医師たち、研修医、医学部の実習生たちなど10人以上がやってきました。そして、少しの沈黙の後に、教授が私の肩をポンポンと軽く叩き「よかったね、ALSじゃないよ」と言ってくれました。 その瞬間、私はあまりのうれしさと安堵感で、緊張の糸が切れ、その場で泣き崩れました。「先生、僕はまだ生きられるんですね!」と言って、人目もはばからず、大勢の前で泣きじゃくりました。そのときの診断名は「多巣性運動ニューロパチー」というものでした。 翌年(2016年)1月 診断名もついたことですし、私は神奈川県にある自分の所属する大学病院で仕事を再開しながら、治療をしていくことにしました。検査結果や紹介状を持参して、自分の所属する大学病院の神経内科を受診すると、「この診断は違うのではないか」と言われ、再度精査することになりました……。 感情が揺さぶられ過ぎて、まるでジェットコースターに乗っている感じで、精神的にどんどん削られていき疲弊していきました。結局そこでも筋電図検査をはじめさまざまな検査を行い、今度は「平山病」という診断になりました。平山病は手術をすれば症状の改善が見込めるため、手術をする予定になりました。 同年4月 手術の予定日が決まっていましたが、手術の直前に舌に線維束性収縮がみられたため、ALSと確定診断され、手術は急遽中止になりました。そのときの私は「自分はALSじゃないのか?」とうすうす気がついていたため、ショックという感情よりは、やっと診断が確定したことに対する安堵感のほうが強かったことを覚えています。 診断の難しさと私が伝えたいこと 私を担当してくださった神経内科専門医の皆さんは、本当に親身になって一所懸命に検査をしてくれました。それでも、そのつど診断名が変わり、確定診断に9ヵ月かかりました。そのくらい、発症初期の段階でALSを診断するのは難しいのです。 私と同じように、なかなか確定診断にいたらず、「つらくて不安な期間」を過ごしている方も少なからずいらっしゃると思い、今回は診断方法とともに私の経験談も書きました。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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コラム
2021年8月31日
2021年8月31日

私はALSを発症して6年になる40歳の医師です

enjoy! ALS 『enjoy! ALS』では、ALS患者として在宅療養をしながら、現在も診療を行っている現役の医師が、ALSに関するpositiveな情報をお届けします。 まず簡単に自己紹介を 私はALSという病気を発症して6年になる40歳の医師です。もともと、大学病院で皮膚科医として勤務しながら、医学部と看護学部で皮膚科の講義を行なったり、『毛包幹細胞』について研究したりしていました。2015年に研究のため、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学したのですが、同年の7月にALSを発症して帰国してきました。帰国後は、さまざまな検査や治療をしながら、同僚のサポートのもと大学病院で医師として診療を続けていました。徐々に手が動かなくなっていったため、カルテは音声入力で記録。歩けなくなったため、電動車いすで通勤……など工夫をしていましたが、発声が困難になってしまったため、2019年の3月に退職しました。 その後は自宅で、皮膚科医として遠隔診療をしながら、現在に至るまで在宅加療を続けています。診療の対象は、離島など皮膚科医のいない地域の患者さんや、私のように在宅療養しており皮膚科医の診察を受けられない患者さんで、iPadで画像や問診票を見て診療する形です。 このたび、お世話になっている訪問看護師さんから、「NsPaceでコラムを書いてみないか?」というお話をいただきました。すぐに「やります」と答えました。自分で言うのもなんですが、私は医師で、若年発症のALSという、かなりまれな患者です。発症してから国内外問わずさまざまな論文を読んでALSに関する知識を深めてきましたし、工夫をこらして快適な生活環境を作ってきました。 その中で強く感じたのは、「世の中にはALSに関してnegativeな情報が多すぎる!!」ということ。 あふれるnegativeな情報 ALSと診断された患者やその家族、それにかかわる看護師や介護士が、まずインターネットなどでALSを調べると、 “ALSは進行性の神経難病で、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていき、治療法はなく、発症してからの平均余命は2〜5年” そんな乾いた文字だけが針のように突き刺さってきます。それは、今までのALS患者の症状や経過をただ統計学的にまとめて、羅列しただけ。 そういう私も約20年前、医学部生だったころに神経内科の授業でそう習いました。なんてつらくて、無慈悲な病気なんだと思い、絶対になりたくない病気ランキングワースト3には必ず入っていました。その当時はまさか自分がなるなんて思ってもおらず、ただ他人ごとのように授業を聞いていたものです。 つらい・残酷なだけの病気なのか しかし、そんな文字からは、現場の生の声は、入ってこないのです! 確かにALSは今でも治療法はありませんが、私が医学部生の時代とは違い、病態はわかってきています。運動ニューロンの中にTDP-43という異常なタンパク質が蓄積して、それが細胞死を引き起こしているということです。なんでTDP-43が蓄積するのか? どうすればそれを除去できるのか? それがわかれば根本的な治療につながってくるのですが、そこはまだ時間はかかりそうです。 しかし、ALS患者を取り巻く環境は劇的に進歩してきています!特にコミュニケーションツールの発展は目覚ましいものがあります。私は2021年2月に気管切開+声門閉鎖手術をしたため、声は出せず、目と口、足が少し動くくらいです。でもそれだけ動けば、できることが山ほどあります。歯のわずかな動きでiPadを操作して、皮膚科医として月100〜300人の患者さんを診察しているし、YouTubeやNetflixなども見ることができます。また、iPadに赤外線リモコンを記憶させて、テレビをはじめ、エアコンや扇風機など、さまざまな家電を操作することができます。目の動きだけで文字盤など何も使わずに会話することができるし(後々紹介します!)、目の動きだけでパソコンを操作して、大学で講義をする時のPowerPointスライドを作っています。ほかにもできることはたくさんあるし、やりたいこともたくさんあって、毎日時間が足りません。 ALSと前向きに向き合っていく人たちへ 私は日々充実して本当に楽しく過ごしています。 多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!ALSと前向きに向き合っていく、患者とその家族、周りの医療スタッフに、ただただpositiveで有益な情報を伝えたくて、このコラムのタイトルをつけました。『enjoy! ALS』 **コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

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分かりやすい! ALSの病態と症状
分かりやすい! ALSの病態と症状
コラム
2025年5月27日
2025年5月27日

分かりやすい! ALSの病態と症状

ALSを発症して10年、現役医師でもある梶浦先生が、ALSとはどういった病気なのか、分かりやすく解説します。 ALSへの理解がケアやリハに活かされる 「分かりやすい」と自分へのハードルを上げてから書き始めた今回のコラムですが、これには私なりの思いがあります。 これから書いていく具体的な日常生活の工夫やリハビリテーションの工夫を理解して取り入れていただくには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは「どんな病気で、なぜこんな症状が起こるのか」を簡単にでも知っておいていただきたいです。そのほうが、なぜこの工夫をするとよいのか、納得しながら実践できますので、より身につきやすいかと思います。 難しいことを難しく書くのは簡単です。ですが、私なりにできる限り簡単に説明しようと、自分を戒めるために今回このようなタイトルにしました。 ALS当事者の方が理解しづらい場合には、支援者である介護士や看護師、リハビリテーションスタッフの皆さんにはこれから説明することをぜひ参考にしていただき、利用者さんにお伝えいただければと思います。 ALS理解の鍵は運動神経のしくみを知ること 人体においての神経系は、機能的に大きく分けると運動神経と感覚神経、自律神経の3つに分類されます(表1)。 表1 人体の3つの神経系 運動神経体を動かす筋肉につながり、脳からの命令を筋肉に伝える神経感覚神経痛い、痒い、冷たい、熱い、何かに触れているなど、さまざまな感覚を脳に伝える神経自律神経体温、心拍、血圧、排尿、排便など、生きていく上で必要な機能を自然にコントロールしてくれる神経 ALSは、この中の筋肉を動かす運動神経だけが選択的に障害され、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の神経疾患です。 この運動神経のしくみを理解することがALSの病態を理解する上で、一番大切になってきます。 例えば、脳で「手を動かしたい」と考えるとします。すると、脳の中の運動神経細胞(上位運動ニューロン)からその命令が神経線維を伝わり、脳幹あるいは脊髄で次の神経細胞(下位運動ニューロン)に命令を伝えます。そして、この命令は下位運動ニューロンの神経線維を伝わり、手の筋肉に到達して手を動かします。 ALSで障害される場所は、脳から下りてくる上位運動ニューロンと、命令の乗り換えの場所(前角細胞)から始まる下位運動ニューロンの両方です。両方が障害されると、結果的に筋肉を動かすことができなくなってしまいます。 注)「運動ニューロン」という言葉が分かりにくい方は、運動ニューロンとは脳からの命令を筋肉に伝える「導線」のようなものだとイメージしてください 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働き では、実際上位運動ニューロンと下位運動ニューロンはそれぞれどんな働きをしているのでしょうか? 例えば、皆さんがペンで文字を書くときの繊細な動きをする場合と、りんごをわしづかみにするときの大胆な動きをする場合とでは、力の入れ方を無意識のうちに使い分けていると思います。 これは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが、お互いにバランスを取り合って、自然な動きになるように力の配分をコントロールしているためです。具体的には、脳からの命令を受けた下位運動ニューロン(下位運動ニューロンは筋肉に直接つながっています)が主に「アクセル」の役割を果たし、筋肉を動かします。一方、上位運動ニューロンは「ブレーキ」として機能し、下位運動ニューロンの「アクセル」の力加減を調整して、力が暴走しないようにしているのです。(図1を参照) 図1 運動神経のしくみ ALSの主な症状 ALSの初期症状は、上肢に現れることが比較的多いですが、患者さんによっては下肢や喉から症状が現れることもあります。進行すると徐々に自分の意思で身体を動かすことが難しくなり、ペンや箸が握れなくなったり、歩行が困難になっていきます。 口や喉が動かなくなると、話す、食べるといった行為が困難になり、誤嚥する可能性も高くなります。さらに進行すると、自身で呼吸することができなくなり、生きていくためには人工呼吸器が必要となります。また、ALSでは筋肉を動かす運動神経のみが選択的に障害されるため、感覚は残ります。また、意識ははっきりしており、精神的な働きは障害されないことも大きな特徴です(例外もありますが)。 次に上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働きをもとに、ALSに特徴的な症状を紹介します。 筋肉が「ガクガク」と痙攣して治まらない! アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、「ガクガク」と一定のリズムでその筋肉が動き続けることがあります。これは「クローヌス」と呼ばれる症状で、上位運動ニューロンが障害されることで起こります。つまり、「ブレーキ」が壊れることで、「アクセル」の制御ができなくなっている状態です。 筋肉が勝手にピクピクと動く! 体のいろいろな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に勝手にピクピクと細かく動くことがあります。これは「線維束性収縮」と呼ばれる症状で、下位運動ニューロンが障害されることで起こります。例えるなら、正常なら10本の下位運動ニューロンで動かしていた筋肉を、1本の下位運動ニューロンで動かさなくてはいけないという状態です。1本のニューロンにかかる負担が過度に大きくなり、がんばり過ぎることで勝手に動いてしまっている状態です(図2)。 この症状が起きている部分は、「アクセル」が壊れてきている場所なので、徐々に筋肉が細くなり、動かせなくなっていきます。 図2 下位運動ニューロンの正常な状態と障害された状態(線維束性収縮) ALSの4大陰性徴候とは ALSは全身の筋肉が動かせなくなっていく病気ですが、出にくい症状というものが4つほどあり、4大陰性徴候といいます。 (1)目は最後まで動かせる!手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。(2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。(3)感覚障害が起こりにくい!これは最初のほうでも書きましたが、見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。(4)「褥瘡」、いわゆる“床ずれ”ができにくい!徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 * * * これまでの症状を読まれた方の多くは、「感覚は残るのに動けないなんてつらすぎる……」と思われるかもしれません。ですが、このALSに出にくい症状を前向きに捉えて、うまく日常生活の工夫に取り入れていくことが、困難な状況の中でも、日々の生活をできる限り豊かにしていく方法なのだと思います!! なので、今後このコラムでALSの4大陰性徴候を活用して快適に生活する具体的な方法を書いていこうと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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脱水症は何日で治る?症状や対処法から熱中症との違いまで解説
脱水症は何日で治る?症状や対処法から熱中症との違いまで解説
特集
2025年7月15日
2025年7月15日

脱水症は何日で治る?症状や対処法から熱中症との違いまで解説

脱水症は、体内の水分と電解質が不足することで引き起こされる症状です。本記事では、脱水症の症状や原因、熱中症との違い、適切な対処法について解説します。脱水症について正しく理解し、早期発見・予防の意識を高め、自信を持ってアセスメントおよび対処ができるようになりましょう。 脱水症とは 脱水症とは、体内の水分とナトリウム(Na)やカリウム(K)などの電解質のバランスが崩れ、必要な体液が不足した状態を指します。私たちは日常的に汗や尿、呼吸を通じて水分を失っていますが、水分補給が十分でなかったり、発熱や下痢などで急激に体内の水分が失われたりすると脱水が進行します。 脱水症の症状 脱水症になると、血液の循環が滞り、血圧が低下します。また、全身への栄養供給が十分に行われず、老廃物の排出機能も低下してしまいます。主な症状は、口の渇きや倦怠感、食欲減退などです。また、筋肉や骨に必要な電解質が不足すると、足がつったり、しびれを感じたりすることもあります。 また、脱水症の症状の重さは、体内の水分がどの程度失われたかによって異なります。 軽度(体重減少率1~2%)の脱水:喉の渇きを強く感じるようになり、尿の回数や量が減少します。また、発熱や軽い下痢、嘔吐など、消化器官や全身に症状が現れる場合もあります。 中等度(体重減少率3~9%)の脱水:倦怠感が強まり、めまいや頭痛が現れます。血圧や臓器の血流が低下するなど、全身に影響が生じます。 重度(体重減少率10%以上)の脱水:生命に関わる危険な状態です。心臓や腎臓の機能が低下し、血流が著しく減少することでショック状態に陥る可能性があります。意識がもうろうとしたり、極端な低血圧により臓器不全を引き起こしたりすることもあり、迅速な対応が必要です。最悪の場合、死に至ることもあるため、重度の脱水に至る前に対処しましょう。 脱水症の原因 身体から水分が失われる主な要因は以下のとおりです。 原因説明朝食を抜く睡眠中に呼気や発汗で水分が失われているため、朝食を抜くと補水の機会を逃し、脱水のリスクが高まる寝すぎ長時間にわたって水分補給をしない状態が続くことで、体内の水分が不足し、脱水を招く可能性がある。就寝中も汗をかいているため、睡眠時間が長くなるほど脱水傾向が強まる点にも注意が必要ストレス緊張が続くと交感神経が活発になり、心拍数や体温が上昇することで水分消費が増え、脱水状態になりやすい高温の室内環境風通しが悪く、エアコンを使わない室内では発汗が促され、水分不足になりやすい二日酔いアルコールの利尿作用により体液が過剰に排出されるため、翌朝に脱水症状を引き起こしやすい発熱体温上昇により発汗が増え、水分が失われることで脱水のリスクが高まる下痢や嘔吐感染症や食あたり、体調不良などによる下痢や嘔吐で、体内の水分や電解質が急速に失われる食べ過ぎ消化のために胃腸へ血液が集中することで全身の血流が低下し、体温調整が乱れ、脱水を引き起こすことがある 脱水症と熱中症の違い 脱水症が進行すると、体温調節が難しくなり、熱中症に移行するリスクが高まります。脱水症と熱中症は混同されやすいですが、熱中症は、高温環境の中で体温調節機能が適切に働かなくなることで発生する症状の総称です。体内の水分・電解質のバランスが崩れ、体温が異常に上昇することで、めまいや吐き気、強い倦怠感が生じることがあります。重症例では、けいれんや意識障害を伴い、適切な処置が行われなければ生命に危険を及ぼす可能性があります。そのため、早期発見と迅速な対応が不可欠です。 脱水の種類 脱水は、原因や体液の失われ方によって「高張性脱水」「等張性脱水」「低張性脱水」の3つのタイプに分けられます。それぞれの特徴と主な原因は次のとおりです。 高張性脱水 高張性脱水は、血液中のナトリウム濃度が高くなり、細胞内から細胞外へ水分が移動し、細胞内液が減少した状態のことをいいます。大量に汗をかいたにもかかわらず十分な水分補給ができていない場合に発生しやすく、循環血液量は保たれますが、強い喉の渇きを感じるのが特徴です。 また、脳血管障害や脳腫瘍、頭部外傷などによって口渇中枢の機能障害がある場合、自覚しないまま脱水が進行することがあるため、特に注意が必要です。 等張性脱水 等張性脱水は、水分と電解質がほぼ同じ割合で失われる血漿浸透圧の変化を伴わない脱水で、下痢や嘔吐、出血、重度の熱傷などによって急激に体液が減少する際に起こります。 血圧低下やショック状態に陥る危険があり、適切な補水と電解質の補充が必要です。特に、大量の下痢や出血が続く場合には、医療機関での早急な対応が求められます。 低張性脱水 低張性脱水は、水分・ナトリウムをはじめとした電解質が減少したにもかかわらず、水分のみが補給され、血液中のナトリウム濃度が低下することで生じます。浸透圧によって、細胞外液から細胞内へ水分が移動し、血液を含む細胞外液量の減少を伴うことが特徴です。その結果、循環血液量の減少や循環不全を起こしやすく、特に血圧低下や意識障害を伴う場合には迅速な対応が求められます。 大量に汗をかいた際に、水分補給を水やお茶だけで行い、塩分を適切に補充しないと、この脱水が引き起こされます。また、頻回の嘔吐や下痢、副腎機能の低下、不適切な輸液管理なども誘因となるため、病態に応じた適切な補液が必要です。 脱水症は何日で治る? 脱水症状が改善するまでの期間は、その程度や原因によって異なります。一般的に、軽度の脱水であれば、水分を適切に補給し、安静にすることで数時間から1日程度で回復するといわれています。 しかし、強い倦怠感や頭痛、めまいを伴う場合は、回復により長い時間が必要でしょう。また、重度の脱水症になると体液バランスが大きく崩れており、医療機関での点滴治療が必要で、回復までに数日かかることもあります。 脱水の検査 脱水の診断は、問診や身体診察で得た情報をもとに行います。皮膚の乾燥や口の渇き、血圧の低下、脈拍の増加などの症状が見られる場合、脱水の可能性が高いと判断されます。また、既往歴や服用している薬の種類も、判断材料の1つです。 脱水の程度を詳しく調べるために、血液検査を行うこともあります。血液中のナトリウムやカリウムなどの電解質の濃度を測定することで、どのタイプの脱水が進行しているのかを確認できます。 脱水の対処法 脱水の症状が見られた場合、まずは適切な水分補給を行うことが重要です。水だけではなく、電解質を含む飲み物を摂取することで、体内の水分バランスを素早く整えることができます。 脱水によってめまいやふらつきが生じた場合は、すぐに安静にし、無理に動かないようにしましょう。症状が軽ければ、休息を取りながらゆっくりと水分補給を行うことで改善されます。しかし、症状が長引いたり、意識がもうろうとしたりする場合は、すぐに医療機関へ連絡し、適切な治療を受ける必要があります。 脱水のフィジカルアセスメント 脱水のフィジカルアセスメントでは、体重減少率や皮膚の冷感、口腔粘膜の乾燥度、呼吸や脈拍の変化などを指標として、脱水の重症度を評価します。 上述したように健康時からの体重減少率が3%未満であれば軽度、3~9%であれば中等度、10%以上になると重度です。 皮膚の冷感や毛細血管再充満時間の遅延は、中等度以上の脱水では四肢が冷たく感じられることが多いでしょう。重度では「かなり冷たい」と表現されるほど血流が低下し、末梢の血液供給が著しく減少していることがわかります。 呼吸や脈拍の変化も脱水の進行に伴い明確に現れます。軽度ではほぼ正常ですが、中等度になると呼吸がやや速くなり、脈拍も増加します。重度の脱水では呼吸が荒くなり、深く速い呼吸になることが多く、脈も速くなり触れにくくなるため、ショック状態へ進行する危険があります。 さらに、意識レベルの変化も見逃せないポイントです。軽度では「いつもと違う」と感じる程度の変化ですが、中等度では意識が混乱し、もうろうとすることがあります。重度になるとぐったりして反応が鈍くなり、昏睡状態に陥ることもあるため、直ちに医療機関での対応が必要です。 * * * 軽度の脱水であれば自宅での対策が可能ですが、倦怠感や意識の混濁などの重い症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。本記事で解説した内容を利用者さんとそのご家族のアセスメントに役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。

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溶連菌感染症の原因・症状・対処法
溶連菌感染症の原因・症状・対処法
特集
2024年4月16日
2024年4月16日

溶連菌感染症の原因・症状・対処法。大人の感染や気づかず放置した場合は?

溶連菌感染症は、子どもがかかるイメージが強いかもしれませんが、大人もかかる可能性があります。また、溶連菌といえば、ニュースやドキュメンタリー番組でしばしば聞く「人食いバクテリア」が気になる方も多いのではないでしょうか。この記事では、溶連菌感染症の症状や原因から大人の感染、治療法、ワクチンなどについて解説します。 溶連菌感染症とは 溶連菌(溶血性連鎖球菌)感染症とは、主にA群溶血性レンサ球菌の感染によって引き起こされる感染症です。菌が侵入した部位や組織に応じてさまざまな症状が現れます。「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型溶血性レンサ球菌感染症への進展も懸念されるため、放置せずに医療機関を受診することが大切です。 溶連菌感染症の症状 溶連菌感染症は、2~5日の潜伏期間を経て発熱や全身倦怠感、咽頭痛、軟口蓋の小点状出血、いちご舌、嘔吐などの症状が現れます。また、溶連菌の発赤毒素という酵素によって、咽頭痛と発熱、皮膚症状として皮疹が現れる場合があります。この状態はかつて「猩紅熱(しょうこうねつ)」と呼ばれていました。なお、皮膚症状をきたす溶連菌感染症は夏に、咽頭に症状が現れるものは冬に流行する傾向があります。 溶連菌感染症の原因 溶連菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌が飛沫感染か接触感染することでかかります。家庭だけではなく、学校や会社などで集団感染が起きる場合もあります。 溶連菌感染症にかかりやすい年齢は?大人もかかる? 溶連菌感染症は年齢を問わず罹患する可能性がありますが、学童期の子どもに多くみられます。また、3歳以下や大人は感染しても典型的な症状が現れず、軽症で済む傾向があります。 溶連菌感染症の治療法 溶連菌感染症の治療には、ペニシリン系抗生物質の内服薬を使用します。ただし、薬剤に対するアレルギーがある場合は、第1世代のセフェム系抗生物質やマクロライド系抗生物質のエリスロマイシンの使用も可能です。最低でも10日は内服を続ける必要があります。それでも細菌を除去できていないと思われる場合には、追加で別の抗生物質を使用します。 なお、溶連菌感染症は学校保健安全法で「第三種学校伝染病」に指定されており、治療開始から 24 時間が経過し、全身状態が良ければ登校・登園が可能です。会社についても同様の扱いで出社できます。ただし、溶連菌感染症は重症化のリスクもあるため無理は禁物です。 溶連菌感染症に有効なワクチンはない 溶連菌感染症の予防や症状の軽減に有効なワクチンは、製造されていません(2024年2月現在)。そのため、感染予防と発症時の適切な対処がより重要といえます。また、溶連菌に感染しても終生免疫ができるわけではないため、生涯で複数回かかる可能性があります。周りに溶連菌感染症の人がいる場合は、うつる可能性を踏まえて対応することが大切です。 溶連菌感染症を放置するとどうなる? 溶連菌感染症は、抗生物質による治療を行わなくても自然に治癒する場合があります。しかし、重症化する可能性があるため、症状が現れたら放置せずに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。溶連菌感染症の重症化に関して、警戒すべきは「人食いバクテリア」とも呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。 人食いバクテリアとは 人食いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)の場合、皮膚や粘膜から通常は無菌の肺や筋肉、脂肪組織や血液に溶血性レンサ球菌が侵入し、発症します。手足の壊死や多臓器不全、肺炎などにより死亡することもある疾患です。発熱や食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、全身倦怠感、低血圧、筋肉痛などから始まり、循環器や呼吸器などさまざまな臓器の機能が低下します。 通常、発症から24時間以内に多臓器不全が起きるという、急速に病状が進展する疾患です。国立感染症研究所によると1)、A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発症数は2023年に340例(死亡97例)です。そのうち、20歳未満は約4%、20~49歳が約24%、50~69歳が35%、70歳以上が約37%で、大人のほうがかかりやすい疾患といえます。少しでも症状が現れた場合はすぐに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。 * * * 溶連菌感染症は、発熱や咽頭痛、皮膚症状などを伴う感染症です。猩紅熱や人食いバクテリアへと進展するかどうかは発症時にはわかりません。訪問先で利用者さんやその家族に溶連菌感染症を疑う症状がみられた際は、医療機関を受診するよう促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長  医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【引用】1)国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html2024/2/6閲覧 【参考】〇NIID国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html2024/2/6閲覧〇国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html2024/2/6閲覧〇厚生労働省「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html2024/2/6閲覧

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血行障害 対策&予防
血行障害 対策&予防
特集
2023年10月17日
2023年10月17日

血行障害とは?血行不良や血流障害との違いから症状・原因・対処法まで解説

身体の冷えや不規則な生活などによって血液が流れにくくなります。その結果、肩こりや関節痛、冷え、むくみなどの不調が起こるほか、心筋梗塞や脳梗塞といった生命に関わる病気のリスクが高まります。 本記事では、血行障害がどのような状態を指すのかを解説するとともに、血行不良や血流障害との違い、症状、原因、対処法などについて詳しくご紹介します。 訪問看護における利用者さんのアセスメントはもちろん、ご自身の体調管理にもお役立てください。 血行障害・血行不良・血流障害の違い 血行障害と血行不良、血流障害は、しばしば同じ状態を指す言葉として扱われています。 血行と血流の定義は以下のとおりです。 血行……身体に血が巡ること血流……血液が血管を流れること つまり、血行障害と血行不良は、身体に血液が正常に巡ることができなくなっている状態です。血流障害は、血管内に血液がうまく流れない状態を指します。 血流障害が起きている状態では身体に血液がうまく巡らなくなるため、血行障害・血行不良・血流障害はほぼ同じ意味といえるでしょう。 本記事では、血行障害と血行不良、血流障害は同じものとして扱い、症状や起こりえる病気、対処法などについて解説します。 血行障害の症状 血行障害が起きると身体にさまざまな不調が現れます。 肩こり・関節痛 血行障害が起きている状態では、筋肉が負荷を受けたときに発生する疲労物質が特定の部位に溜まり、炎症や筋肉の緊張を引き起こします。その結果、重い頭を支える首や肩、身体の軸となる腰などを中心に、全身に痛みやこりなどが現れます。 冷え 血液は、体温調節に関与しています。血行障害があると、心臓から遠く離れた手足に血液が十分に届かなくなり、冷えが起こります。手足のような末梢部は血管が細いため、ただでさえ血流が滞りやすい部位です。また、全身が冷えると頭痛やめまい、下腹部の痛みなどが現れるほか、感染症にかかりやすくなります。 むくみ 血行障害によって下半身の血液の流れが滞ると、血液中の水分が血管の外ににじみ出ることでむくみが生じます。足が大きくむくむことで靴のサイズが合わなくなったり、靴ずれが起きたりします。 血行障害の原因 血行障害は複数の要因が重なって生じます。それぞれの要因について詳しく見ていきましょう。 運動不足 軽いむくみや少し冷える程度の症状は、運動不足の方によく見られます。運動不足の方は筋肉量が少ないため、筋肉が収縮するときに血液を押し上げる「筋ポンプ作用」が弱くなります。その結果、全身への血流が不足して、むくみや冷えなどの症状が現れます。 不規則な食生活 食事の回数が少なく、1回でカロリーを過剰に摂取する食生活は肥満につながります。肥満になると、血行が悪くなる糖尿病や脂質異常症、高血圧症などのリスクが高まります。また、これらの病気は動脈硬化を促すため、不規則な食生活は血行障害の要因といえるでしょう。 身体の冷え 身体が冷えると末梢部まで血液が届きにくくなります。その結果、冷えやむくみといった血行障害による症状が現れます。 動脈硬化 動脈硬化とは、動脈の血管の弾力性が失われて硬くなることです。動脈硬化にはいくつかの種類がありますが、一般的に動脈硬化といえば、血管壁にお粥のような粥腫(アテローム)が作られる「粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)」を指します。粥状動脈硬化が起きると、血管の内腔が狭くなることで血行障害が生じます。 血行障害によって起こりえる病気 血行障害が起きると、次のような病気・症状が生じるリスクが高まります。 閉塞性動脈硬化症 閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化によって血管の内腔が狭くなったり詰まったりすることで血行障害が起きる疾患です。手足の冷えやしびれなどが現れ、進行すると筋肉に痛みが生じます。血行障害がさらに進行すると歩行中に足が痛くなり、歩けなくなることもあります。 狭心症 心臓への血行が悪くなると、心臓に酸素や栄養が十分に供給されなくなります。こうして起きる疾患を虚血性心疾患といい、狭心症や心筋梗塞などが挙げられます。 狭心症は、動脈硬化や血栓などによって心臓の血管が細くなり、血行障害が生じることで心臓への血流が不足した状態です。胸の痛みに加え、左腕、左肩、顎などの圧迫感が生じます。 心筋梗塞 心筋梗塞は、冠動脈が詰まることで心臓への血液の流入が極端に少なくなるか、まったくなくなってしまい、心臓の筋肉が壊死する疾患です。胸の痛みや冷や汗、吐き気、嘔吐、呼吸困難などが生じます。 脳梗塞 脳梗塞は、内頚動脈や椎骨動脈などの血管が詰まったり狭くなったりして、脳に十分な血液が供給されなくなる疾患です。身体の片側の麻痺や失語、意識障害などが現れます。 潰瘍・壊死 血行障害によって、酸素や栄養が細胞に供給されなくなると、その部分に潰瘍や壊死が生じる恐れがあります。例えば、糖尿病患者が血糖コントロールが不良な場合、下肢への血行障害が生じて潰瘍や壊死が起こります。 血行障害の対処法 単なる運動不足や身体を冷やすことで起きている血行障害であれば、生活習慣の改善や身体を冷やさないことで対処できるかもしれません。しかし、動脈硬化による血行障害が生じている場合は医療機関で治療が必要です。血行障害の症状が現れている場合は、まずは医療機関を受診しましょう。 血行障害の対処法は原因や状況で大きく異なります。医療機関での治療法と日常における対応方法についてご紹介します。 薬物療法 動脈硬化が起きている場合は、血管拡張薬や抗凝固、抗血小板薬などを使用することがあります。使用する薬は、患者の状態や動脈硬化の程度などで異なります。 生活習慣の改善 肩こりや冷え、むくみなどが起きている場合は、規則正しい睡眠習慣や食生活、適度な運動、ストレスケアなどから始めましょう。動脈硬化が起きている場合も、生活習慣の改善を医師に指導されます。 身体を冷やさない 身体が冷えると血流が滞りやすくなるため、エアコンや衣類などで適温を保つようにしましょう。ただし、エアコンの過剰な使用は自律神経のバランスが崩れることで疲労や肩こり、むくみなどを悪化させる恐れがあります。 * * * 血行障害は、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞といった生命に関わる病気のリスクが高まるため、少しでも気になったら医師に相談しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07384.html2023/7/17閲覧〇一般社団法人日本ペインクリニック学会「血行障害性疼痛」https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_kekkou.html2023/7/17閲覧

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食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法
食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法
特集
2024年10月8日
2024年10月8日

食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法は?子どもと大人の違いも解説

食物アレルギーの症状は、軽度から重度までさまざま。花粉症の人が発症しやすい食物アレルギーもあります。本記事では、食物アレルギーの症状や治療法、子どもと大人の違い、アレルギー発症時の対処法、おさまるまでの時間などついて解説します。訪問看護の利用者さんやそのご家族、あるいはご自身の健康管理に役立てるために、食物アレルギーの知識を身につけましょう。 食物アレルギーとは 食物アレルギーとは、免疫システムが特定の食物を誤って有害物質と認識し、それに対して過剰に反応することで発症する疾患です。その多くはIgE抗体が関与しており、食物を摂取した後に、皮膚のかゆみや蕁麻疹、呼吸困難などの症状が現れます。症状が現れるタイミングの多くは、アレルゲンを摂取してから数分~数時間以内ですが、半日ほど経過後に現れる場合もあります。 食物アレルギーにはいくつかの種類があります。最も一般的なのは、甲殻類やそば、ナッツ類などによる「通常の食物アレルギー」です。そのほか、果物や野菜などによって引き起こされる「口腔アレルギー症候群(OAS)」や、ラテックスアレルギーの方が果物を摂取することで起こる「ラテックス・フルーツ症候群」、特定の食物を摂取した後、運動すると起こる「食物依存性運動誘発性アナフィラキシー」があります。それぞれ見ていきましょう。 即時型食物アレルギー 即時型食物アレルギーは、甲殻類、そば、ナッツ類、卵、小麦などが原因となり、発症します。 症状:皮膚の発赤、蕁麻疹、皮疹、咳、喘鳴、腹痛、嘔吐など発症までの時間:食物を摂取してから2時間以内(多くは30分以内)おさまる時間:数日好発年齢:0~1歳(ただし全年齢発症の可能性あり) 複数の箇所に比較的強い症状が現れた状態である「アナフィラキシー」になると、アナフィラキシーショック(症状が進行して血圧が低下し、気道狭窄、呼吸困難、低酸素血症、意識障害を生じた状態)へと進行し、生命に危険が及ぶおそれがあります。 口腔アレルギー症候群(OAS) 口腔アレルギー症候群(OAS)は、特定の果物や野菜を食べた際に発症します。花粉症と密接に関連しており、特定の花粉にアレルギーを持つ人が、似た抗原構造を持つ果物や野菜を食べた際にアレルギー反応を起こします。たとえば、シラカバによる花粉症の人はリンゴやモモ、カモガヤによる花粉症の人はメロンやスイカに反応することがあります。これは、含まれる抗原が似ているために起こる「交差反応」と呼ばれる現象によるものです。 症状:口の中や喉のかゆみ・腫れ・違和感発症までの時間:食物を摂取してから数分以内おさまる時間:30分~1時間程度好発年齢:幼児~成人 ラテックス・フルーツ症候群 ラテックス・フルーツ症候群は、ラテックスアレルギー(※)を持つ人が、特定の果物に含まれる抗原に反応することで発症します。特にバナナ、アボカド、キウイ、栗などの果物は発症リスクが高く、重症化する可能性があります。これは、ラテックスとこれらの果物に含まれる抗原が似ているためと考えられており、摂取する際は注意が必要です。 ※ラテックスアレルギーとは、ゴム手袋や風船などのラテックス製品が皮膚に接触することで発症するアレルギー反応です。 症状:口腔内の違和感やしびれ、顔面浮腫、呼吸困難感、動悸、かゆみを伴う全身性の蕁麻疹など発症までの時間:食物を摂取してから15分程度おさまる時間:体調などにより個人差あり好発年齢:特になし 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA) 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)は、小麦や甲殻類、果物など特定の食物を摂取した後に運動することで症状が出現し、ショック状態にいたることもあります。 FDEIAは激しい運動だけでなく、散歩程度の軽い運動でも発症することがあります。さらに、疲労、寝不足、風邪、ストレス、月経前症状、気象条件、アスピリンや非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)の服用なども症状を誘発する要因となり得ます。通常の小麦アレルギーとは異なる成分が原因となっており、一般のアレルギー検査では検出できません。そのため、自分がFDEIAに該当するかどうかを確認するためには、専門的な検査が必要です。 症状:蕁麻疹、呼吸困難、気分不快、意識消失発症までの時間:摂取した後2時間以内に運動すると発症するケースが多いおさまる時間:重篤化しなければ1日程度好発年齢:10代~20代 大人と子どもの食物アレルギーの違い 食物アレルギーは子どもと大人で異なる特徴を持っています。その違いについても見ていきましょう。 治る可能性 大人の場合、一度食物アレルギーを発症すると寛解することは困難で、原因となる食品を完全に避ける以外の方法はほぼないとされています。 一方、子どもの食物アレルギーは、成長するにつれて消化管のバリア機能が発達し、アレルゲンに対する耐性がつくことで寛解するケースがほとんどです。たとえば、幼少期に卵アレルギーがあっても、成長するにつれて加熱した卵を食べられるようになり、最終的には生卵を食べてもアレルギー反応が現れなくなります。 自然に耐性を獲得するのが難しい場合、医師の指導のもとで少量のアレルゲンを徐々に摂取して体を慣らしていく「経口免疫療法(経口減感作療法)」という治療法があります。ただし、この治療は副反応が起こりやすく、まれにアナフィラキシーをはじめとした重篤な症状を引き起こす可能性があり、安全性に十分な配慮が求められます。一部の症例には治療効果はありますがエビデンスレベルは低いため、食物アレルギーの一般診療としては推奨されていません。 アレルギー出現時の対処方法 アレルギー反応が出た場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。特に、アナフィラキシーショックが発生した場合は、アドレナリン自己注射薬をすぐに使用、救急車を要請し、医療機関での治療を受ける必要があります。 アレルギー反応が軽度の場合、症状は数時間以内におさまることが通常です。一方、アナフィラキシーショックのような重篤な反応では数日間にわたり症状が続き、入院治療が必要な場合もあります。 アレルギーの予防と対策 食物アレルギーを防ぐために、次のポイントを押さえましょう。 食品成分表を十分に確認する 食物アレルギーを予防するためには、食品成分表をしっかりと確認することが重要です。特に加工食品には、思わぬアレルゲンが含まれていることがあるため、注意が必要です。たとえば、チョコレートやクッキーには、小麦、卵、乳製品、ナッツが含まれている場合があります。また、ソースやドレッシングには、大豆や小麦が含まれていることが多いため、小麦や大豆にアレルギーがある方は注意しましょう。 体調の悪いときは避ける 体調が悪いときは、アレルゲンを含む食品を避けることが賢明です。加熱すればアレルギー反応が出ない方も、体調不良のときは避けましょう。たとえば、加熱した卵であれば問題ない程度の卵アレルギーでも、体調不良のときは加熱した卵でも症状が出る可能性があります。 果物アレルギーに関しては、症状が出るときと出ないときがあるため、ひとまず気にせずに食べて、症状が現れたら対処すればよいという考え方の人も少なくありません。そのような方が体調不良のときに果物を食べる場合は、アレルギー反応が現れる可能性を少しでも抑えるために、アレルギーを起こす可能性のあるタンパク質を加熱処理して食べるとよいでしょう。 また、花粉症自体の治療により、食物アレルギーの症状が改善することもあるため、医師に相談してみてください。 食物負荷テストを受ける 食物負荷テストは、アレルギーの有無を確認するための方法で、医療機関や家庭で行うことができます。医療機関で行う場合は、専門医の監督下で少量のアレルゲンを摂取し、反応を観察します。家庭で行う場合は、医師の指導を受けた上で、慎重に進めることが重要です。 災害時に備えておく 災害時には、食物アレルギーを持つ人が避難所で困ることが多いため、事前の準備が必要です。非常用袋や防災セットには、アレルギー対応食品やアドレナリン自己注射薬、抗ヒスタミン薬を備えておきましょう。また、学校や宿泊先などにも、アレルギーについて事前に伝えておくことが大切です。 注意したいのが、炊き出しに使用している食物を確認することです。しかし、炊き出しは大量調理のため、多少のアレルゲンの混入は避けられないものと考える必要があります。 *** 食物アレルギーは、子どもから大人まで誰にでも見られる疾患です。アレルギー反応が出た場合の対応や日常生活における予防策をしっかりと理解し、常に注意を払うことが大切です。今回解説した内容を自身や訪問看護の利用者さん、そのご家族などの健康管理に役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:村田 朗医療法人財団日睡会 理事長御茶ノ水呼吸ケアクリニック 院長日本医科大学内科学講座(呼吸器・感染・腫瘍部門)非常勤講師。日本医科大学、 同大学院卒業。資格・学会:医学博士、日本内科学会認定内科医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本睡眠学会会員、肺音(呼吸音)研究会世話人、東京呼吸ケア研究会幹事、American Thoracic Society 会員、European Respiratory Society 会員、International Lung Sounds Association 会員、NPO法人日本呼吸器障害者情報センター顧問、東京都三宅村呼吸器専門診療委託医、日本医師会認定産業医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)、千代田区公害健康被害診療報酬審査委員。 【参考】〇厚生労働省.「4食物アレルギー」https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf2024/9/20閲覧〇日本小児アレルギー学会「食物アレルギーのこどもへの対応」(2017年11月)https://www.jspaci.jp/assets/documents/saigai_pamphlet_2021.pdf2024/9/20閲覧

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私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
コラム
2025年4月30日
2025年4月30日

私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です

「enjoy!ALS」の第2弾が始まりました!今回のシリーズでは、梶浦智嗣先生に寄せられた在宅療養に関する疑問や悩みをもとに、さまざまな疾患の方にも役立つ実践的な情報をお届けします。 再開!「enjoy!ALS 2」 皆さん、こんにちは。私は2021~2023年までの2年間、こちらで「enjoy!ALS」のタイトルでコラムの連載をしておりました。 ありがたいことに、連載が終了してからもたくさんの反響をいただきました。訪問看護師さんや訪問リハビリスタッフさん、在宅療養中のALS当事者の方やその介護士の方々から、「今このような状況なのですが、この場合どうすればよいでしょうか?」との質問が多く寄せられ、実際に家に来ていただいて説明したこともありました。質問の中には工夫次第で解決できるものも多くあり、似たような質問も少なくありませんでした。 いただいたご質問の一部をご紹介します。 【訪問看護師さん】・侵襲の少ない気管吸引や鼻・口吸引のコツ・安全な人工呼吸器のホースの固定方法 など【訪問リハビリスタッフさん】・体や胸郭(肺)の拘縮予防に関するリハビリテーションの工夫【ALS当事者】・安楽な体位(仰臥位や座位、側臥位)のとり方・身の回りに置く必要がある物品(人工呼吸器や吸引器、吸引カテーテルなど)の配置方法・最新のコミュニケーションツール(コミュニケーション方法全般)・ALSの最新の治療について など 実際の在宅療養の現場では、居住スペースの広さや環境は整っているか、ケアに必要な物品が充実しているか、介助者の人数は足りているか、当事者がどこまで積極的なケアの介入を望んでいるかなど、家庭ごとに状況が異なります。そのため、個々に合ったケアプランを立てていく必要があり、なかなか皆さんに共通して当てはまるよいケア方法を見つけていくのは難しいのが現状です。 ただ、そんな中でも皆さんが困っていることには似ているところも多くありました。そこで、ALSに限らず、在宅療養を必要としている、さまざまな疾患の皆さんにも応用できる内容を「enjoy!ALS 2」として、連載していく運びとなりました。 連載終了後の私の経過と現在の状況 はじめに、前回の連載が終了してからの2年間の私の経過と現在の状況を説明させていただきたいと思います。 体調面での大きな変化はなし すでに4年前くらいから全身の運動機能はほぼ全廃しておりましたので、ほとんど変わっていません。唯一自分の意思で動かせるわずかな嚥下機能と噛む力も、さほど変わらず残っていますので、工夫をした飲食方法(>>「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!参照)や歯を使ったタブレット端末の操作(今後の連載で詳しく書きます)は現在もできています。 呼吸機能は、毎日の呼吸リハビリテーション(こちらも今後の連載で詳しく書きます)のおかげで、気管切開を行い侵襲的人工呼吸器(TPPV)を着けた4年前と比べても全然変わっていません。(むしろ、呼吸器の設定は変えていないのに、座位での一回換気量は上がっているので、よくなってるともいえます!) ただ、まぶたを上げる力の低下(眼瞼下垂)と目を動かす力の低下は徐々に進んできています……。 仕事面では新しく始めたことも 約2年前より、訪問診療を行っている「さくらクリニック」の中野の本院と練馬の分院で皮膚科医として働くようになりました。私のように在宅療養を必要とする患者さんたちの主治医と情報を共有して連携しながら、皮膚病変の診療を行っています。 このような体で、どのように患者さんたちの診療しているのか、皆さん、想像できないと思います。参考までに、下記に実際のカルテの一部を載せておきます(図1)。 図1 実際のカルテ(一部) ODT:occlusive dressing technique ※カルテの掲載に関しては、本人・家族、関係者の了承を得ています。 その他、コラムの執筆を行ったり、医師向けのサイトで全科横断コンサルトドクターとしても活動しています。 * * * 以上のように、私の経過を書かせていただきましたが、客観的に見て、私のALSの進行スピードは特別速くもなく、遅くもなく、標準的な範囲だと思います。 たとえALSを発症して10年も経ち、運動機能がほぼ全廃し、声も出せず、人工呼吸器を装着していても、適切なリハビリテーションと、日々の生活の工夫次第で、今までとはまったく違う形で自分らしい充実した人生を見つけていけると私は信じています! ALSを知ってほしい:私の経験から伝えたいこと 今はまだ、日々の診療もコラムの執筆もすべて、歯のわずかな噛む力でタブレット端末を操作して行えています。しかし、ALSは進行性の病気であり、正直に言って、私もあとどのくらいの期間文字を打てるかは分かりません。 それでも、文字が打てるうちに、たとえALSと診断されたとしても「生きたい」と願う人が生きる希望を持てる世の中をつくりたいと考えています。私の10年間にわたる闘病生活の経験と医師としての知識を生かして、後に続く同じ病気の方々の生活が少しでも豊かになるよう、ALS当事者や支援者の皆さんにとって参考になる情報を具体的に、分かりやすく書いていこうと思っています。 そのためには、まず、ALS当事者や支援者の皆さんが、少しでもよいのでALSという病気・病態について理解していただくことが大切と感じています。どんなことができなくなり、何が最後までできるのかを、私なりに説明してから、冒頭でご紹介した皆さんからの質問に答えていく形でコラムを書いていきたいと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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