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特集
2022年5月31日
2022年5月31日

「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第11回は、ふだんは朝に排尿があるのに、昨夜から今朝まで排尿がない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 おむつを使用して排泄している90歳男性。ふだんは朝に排尿があるにもかかわらず、昨日の夜から、朝までおむつに排尿がみられません。 あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 尿が出ていない場合は、①尿の生成量が少なく、膀胱に尿がほとんど貯留していない(乏尿・無尿) ②尿の生成ができていて膀胱に貯留していても排出できない(尿閉) ── が考えられます。 ①乏尿では、▷脱水や嘔吐、発熱、心臓のポンプ能力の低下などで腎血流量が減少して尿の生成ができない ▷腎機能そのものに障害がある ▷尿路結石や腫瘍の浸潤により尿管が閉塞し、膀胱に尿がたまらない状態 ── などが考えられます。 ②尿閉は、膀胱よりも下位の障害、神経因性膀胱や前立腺肥大、尿道狭窄により起こるものです。患者さんの苦痛が大きく、放置しておくと尿貯留が上行性に広がり、水腎症や腎盂腎炎などを引き起こす恐れがあります。 乏尿(無尿)と尿閉では対処方法がまったく違いますので、これらが区別できるような情報を収集し、報告しましょう。 ここに注目! ●乏尿(無尿)により排尿がないのではないか?●尿閉により排尿がないのではないか? 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。最終排尿からの時間で換算すると、単純計算では8時間以上間隔が空くと要注意です。 ただし、ホルモンや血流量の関係で、日中は排尿間隔が長く、夜間には短くなるので、いつもの排尿時刻や回数と比較してください。 腎機能が保たれているのに尿量が少ない場合は、尿が濃くなります。最終排尿の色や臭気、いつもとの違いを確認してください。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 体温測定 高体温になると、不感蒸泄の増加で脱水状態となり、乏尿をきたす可能性があります。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 尿閉のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など)・尿閉の原因(前立腺肥大、尿線が細い、残尿がある、脳血管疾患や脊髄疾患等、神経因性膀胱となる要因、など) 尿閉のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 最終排尿時刻を確認し、どれくらいの時間出ていないのか、排泄できずに貯留している尿量を見積もります。また、ふだんの排尿時に、尿線が細い、排尿に時間がかかる、出きらない感覚がなかったかを確認します。 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、血圧や脈拍が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症の患者さんの場合には、苦痛の有無をバイタルサインから推測してください。 膀胱内の尿貯留の確認 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉などで貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 腎臓の叩打診 背部の肋骨の下縁くらいに手を置き、その手の上を叩きます。両側行います。 尿路結石や尿路の狭窄では、叩打診をした場合に響くような痛みを感じることがあります。 カテーテルを挿入しての尿排出の確認 医師の指示を得て行いましょう。カテーテルを挿入する経路に狭窄や閉塞がある可能性があるので、なるべく細いカテーテルを用いること、違和感があった場合は速やかに挿入をやめて、医師に相談することが必要です。 報告のポイント ・最終排尿時刻と尿の性状、本人の訴え・乏尿または、尿閉の可能性があると判断したアセスメント結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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「看多機」を訪れた看護師たちが語ったこと——見学プログラム参加者報告会レポート
「看多機」を訪れた看護師たちが語ったこと——見学プログラム参加者報告会レポート
特集
2026年11月4日
2026年11月4日

「看多機」を訪れた看護師たちが語ったこと——見学プログラム参加者報告会レポート

「訪問看護や病棟での関わりは、点でしかなかった」 「その人がどのように生きたいのかを一緒に考えながら、暮らしのそばにいたい」 「誰かやってくれないかと思っていた。誰もやらないなら、私がやろうと決めました」 2026年9月27日、一般社団法人Nurse for Nurseが主催する「看多機」見学プログラム(公益財団法人テルモ生命科学振興財団2025年度医療貢献活動助成事業)の参加者報告会がオンラインで開催されました。 今回の報告者は、9月11日・12日に2つの看護小規模多機能型居宅介護(以下、看多機)を訪れた5名の看護職です。訪問看護、大学病院、急性期医療、行政、クリニックなど、歩んできた道は異なります。しかし、90分の報告会では「今いる場所だけでは届かない支援がある」という思いが、5名の言葉に何度も表れていました。 実際に看多機を訪れたことで、参加者の思いはどう変わったのでしょうか。5名の報告から見えてきたのは、看多機というサービスのしくみだけではなく「暮らしを支える看護」の姿でした。 「点」だった支援が「線」につながる 参加者が訪れたのは、千葉県八千代市の「まちのナースステーション八千代」と、東京都日野市の「ラピオンナーシングホーム」の2施設です。報告会で何度も聞かれたのが「点」と「線」という言葉でした。 「訪問看護や病棟での関わりは点でしかなかった。看多機では、1つの事業所がその人の生活を継続してみていける」 看多機では「通い」「泊まり」「訪問看護」「訪問介護」を一体的に提供します。参加者が現場で感じたのは、同じ事業所が関わり続けることで、利用者さんの生活を途切れさせずにみられる良さでした。 病院や訪問看護など、異なる場所で患者さんや利用者さんに関わってきた参加者にとって、看多機での支援は「点だった支援が線につながる」体験として映ったようです。 ラピオンナーシングホーム前にて 看多機で見えたのは、「暮らしを看る」ということ 参加者の印象に残っていたのが、利用者さんの過ごし方です。 看多機では、決められたプログラムに全員が合わせるのではなく、一人ひとりが自分のペースで過ごしていました。 「利用者さんが自分で過ごし方を選んでいました。何かをさせられるのではなく、自分のペースで過ごしていた」 自分らしく過ごせる環境が、在宅生活の継続にもつながると感じた参加者もいました。 また、日々の何気ない関わりの積み重ねが「毎日のモニタリング」として機能しており、病気や症状だけではなく、食事や活動、表情、家族との関係など、暮らしそのものを見守っています。必要なときには「通い」「泊まり」「訪問看護」「訪問介護」を組み合わせながら、利用者さんの生活に合わせて支援の形を変えていきます。 スタッフや利用者さんの表情、施設に流れる空気などから、制度やサービスの説明だけではわからない看多機の実際の姿を感じ取っていました。 まちのナースステーション八千代の様子 異なる5人が描いた「次の一歩」 5名が見学後に描いた「次の一歩」はさまざまです。看多機の立ち上げを具体的に考える人がいる一方、現在の仕事に学びを持ち帰る人、看多機でのケアを自らの看護やキャリアと重ね合わせて考える人もいました。 「現在の勤務地は故郷ではないものの、自分にとって大切な街になりました。ここで、いつでも『大丈夫』と思える場所を作りたい」 「そこにいてもらうだけで価値がある、無力じゃないと思える場所にしたい」 看多機の立ち上げを考える参加者からは、地域で実現したい場の姿が語られました。 一方、見学で得た学びを、現在の仕事や自らの看護に持ち帰るという参加者もいました。 「退院調整では、医療的な安定だけでなく、その人の生活が成り立つかという視点が重要だと学んだ」 「医療者の正しさだけで導くのではなく、その人がどのように生きたいのかを一緒に考えながら、暮らしのそばにいたい。私は人生の伴走者のような看護師になりたい」 看多機を開設することだけが、当見学プログラムの「次の一歩」ではありません。5名はそれぞれの場所で、自分なりの次の一歩、キャリアを描いていました。 ラピオンナーシングホームにて、管理者の柴田さんからお話を伺う参加者 「看多機」は単独では経営的に成り立たないのか 報告会には、見学を受け入れてくださった福田 裕子さん(まちのナースステーション八千代統括所長)と柴田 三奈子さん(株式会社ラピオン代表取締役)のほか、聖路加国際大学大学院教授の山田 雅子先生にもご参加いただきました。 山田先生からは「看多機は単独では経営的に成り立たないのでしょうか?」という本質的な質問をいただき、参加者を交えてディスカッションが行われました。 看多機の設立を考えている参加者からは、「資金計画を立てたときに、いきなり看多機を建てる高額の借金をする必要がある(個人ではローンが組めない)。『訪問看護としての稼ぎが安定してますよ』っていう証明が社会的にされないと、ローンが難しいことが分かったので、単独ではできないんだろうなと今は思っている」という設立の際のハードルが語られました。 柴田さんからは「単独で成り立つか成り立たないかというと、成り立つとは思う。初期投資がクリアさえできれば、日々の運営っていうのは全然やっていけると思う」というお言葉がありました。 そして、訪問看護ステーション設立3年後に看多機を立ち上げられた福田さんからは、地域のニーズを聞きながら、出会った人が一人でも幸せになれるようなサービスを考えた末、新たな建物の建設に至った、という経緯が紹介されました。 それぞれの場所で「暮らしを支える看護」へ 5名が本見学プログラムから持ち帰ったものは、一人ひとり異なります。地域に新たな場をつくる人もいれば、今いる場所で実践を変える人、自らの看護やキャリアを考える人もいます。今回の見学プログラムは「看多機を知る」だけでなく、それぞれの場所で実践や次の一歩を考える機会となりました。 看護の現場では、制度上の制約や地域の受け入れ体制など、さまざまな事情によって、必要な支援が届かないことがあります。山田先生は、課題に気づき、必要な支援を形にしてきた柴田さんや福田さん、そして新たな一歩を踏み出そうとする参加者の姿に「そこを埋めようとする看護師って、本当にすごいパワーを持っている」と語りました。そして、現場で生活を支える看護職の声と制度をつくる側がつながることにも期待を寄せ、看護師が持つ力を発揮できるような出会いを、これからもNurse for Nurseに紡いでほしいと締めくくりました。 看護職の新たな挑戦につながる出会いが生まれたことも、今回のプログラムの成果のひとつでした。 ※本事業は2023年度に続き「公益財団法人テルモ生命科学振興財団2025年度医療貢献活動助成」を受け実施しています。 執筆:押川 映子(おしかわ えいこ)/Nurse for Nurse会員・看護師・ライター2001年看護師免許取得。大学病院・総合病院・訪問看護ステーションなど複数の医療現場を経験。個人病院では看護師長・看護部長として組織運営や人材マネジメントに従事。現在はマインヘルスケア株式会社にて医療機関の採用・定着支援を行いながら、訪問診療所でも看護師として勤務。2023年「ナースまつり」初回開催より実行委員として参加し、2024年より副大会長を務める。看護職のキャリアや医療現場のリアルを伝えるライターとしても活動している。

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特集
2021年7月20日
2021年7月20日

自己負担上限額管理票

今回は、自己負担上限額管理票について取り上げます。前回2回にわたり紹介した難病(54)・更生医療(15)・育成医療(16)・小児慢性特定疾病(52)は、いずれも自己負担上限額管理票の記載が必要です。記載方法自体はそれほど難しくありませんが、在宅医療では扱いが複雑になりやすいため、複数機関での事前の取り決めがキモになります。 ※本記事は2021年7月に公開されたものです。 法令や制度、関連ガイドラインは変更される場合がありますので、最新情報をご確認ください。 自己負担上限額管理票とは 自己負担上限額管理票とは、月初からの患者自己負担がいくらに達したかを管理するものです。患者が複数の医療機関(訪問看護ステーション、保険薬局も含む)で医療やサービスを受ける場合、医療費は各々の医療機関で発生するので、それぞれの医療費と自己負担額が記載されることになります。 在宅患者の場合、主治医と訪問看護、保険薬局と、一人の患者に複数の医療機関がかかわるケースが多いです。今月の医療費がまだ限度額に達していないか(=今回かかった費用は 公費請求するのか、患者から徴収していいのか)は、自分の事業所が持っている情報だけではわかりません。そのうえ、自己負担上限額は、公費対象の患者であっても全員同じわけではなく、患者の収入や治療状況に応じて、患者ごとに設定されます。設定された自己負担上限額と、管理票への記載を見て、患者へ請求するのか、公費へ請求するのかを判断できるわけです。 自己負担上限額管理票は公費対象の方全員に発行されているわけではなく、自己負担上限額設定がある患者だけが対象です。前述の54・15・16・52のほかには、特定疾患(51)・精神通院(21)・療養介護医療(24)なども自己負担上限額管理票が発行されます。 様式例 (細部は自治体ごとに異なります) (1)自己負担を徴収した際に、①日付、②指定医医療機関名、③特定医療(※1)の医療費総額(10割分)(※2)、④特定医療の自己負担額(※3)、⑤自己負担の累積(月額)(※4)を記載し、⑥押印します。 ※1 認定された難病に起因する傷病に対する医療。認定難病に関連しない傷病への医療費は③には含めず記載します。 ※2 ③「医療費総額(10割分)」は、点数ではなく、額(円)で記載します。 ※3 介護保険では1円単位での請求がありますが、④には10円単位で記載します。10円未満は四捨五入します。 (2)自己負担上限額に達したら(※4)、⑦所定欄に日付と指定医療機関名を記入し、押印します。 ※4 限度額に達した日の自己負担額は、自己負担割合(例の場合は3,000円)ではなく、実際に患者から徴収した額(月額自己負担上限額との差額)を記載することになります。 (3)自己負担上限額に達した後は、自己負担額・累積額・徴収印の欄は斜線を記入します。「医療費総額(10割分)」の欄には、総額が5万円に達するまで、引き続き記載します(医療費総額が、次回の自己負担上限額の設定に影響するため)。 よくある質問 訪問したら、そのたびに記載が必要? また、訪問時に請求額を確定しないといけないのでしょうか。 原則は受診日・訪問日に記載ですが、たとえば月の最終日にひと月分を記載するなど、まとめて記載することも認められています。 また、訪問看護事業所、病院や診療所、薬局と、複数の医療機関で医療費は発生します。必ずしも日付順に記載する必要はなく、前後しても問題ありません。最終的に「その月の患者自己負担が限度額までであり、限度額を超えた分は公費へ請求」の辻褄が合えば、記載の順番は気にしなくて構いません。 自治体の公費適用があり患者自己負担が発生しない場合、自己負担額はどのように記載するのですか。 自治体の公費や生活保護(12)の併用がある場合は、それらがない場合に本来患者が自己負担することになる額を、自己負担額として記載します。 たとえば、限度額が1万円の場合、1万円までは公費12へ請求し、それ以降は54に請求となります。もし公費12を適用した後の自己負担額を記載すると、いつまでも公費12へ1~2割を請求することになってしまいます。 上記で紹介した様式例は公費54の場合で、公費52も同様の様式です。 一方、下は自立支援の様式例です。 自立支援では、「医療費総額(10割)」の欄がないところが異なります。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】 東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医院。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】 ・厚生労働省 保医発0327第1号 令和2年3月27日「「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について」 ・厚生労働省健康局難病対策課 令和元年6月「特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用)」 当記事に掲載している自己負担上限額管理票の記載例は【ツール】に掲載しておりますのでご参照ください。

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分かりやすい! ALSの病態と症状
分かりやすい! ALSの病態と症状
コラム
2025年5月27日
2025年5月27日

分かりやすい! ALSの病態と症状

ALSを発症して10年、現役医師でもある梶浦先生が、ALSとはどういった病気なのか、分かりやすく解説します。 ALSへの理解がケアやリハに活かされる 「分かりやすい」と自分へのハードルを上げてから書き始めた今回のコラムですが、これには私なりの思いがあります。 これから書いていく具体的な日常生活の工夫やリハビリテーションの工夫を理解して取り入れていただくには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは「どんな病気で、なぜこんな症状が起こるのか」を簡単にでも知っておいていただきたいです。そのほうが、なぜこの工夫をするとよいのか、納得しながら実践できますので、より身につきやすいかと思います。 難しいことを難しく書くのは簡単です。ですが、私なりにできる限り簡単に説明しようと、自分を戒めるために今回このようなタイトルにしました。 ALS当事者の方が理解しづらい場合には、支援者である介護士や看護師、リハビリテーションスタッフの皆さんにはこれから説明することをぜひ参考にしていただき、利用者さんにお伝えいただければと思います。 ALS理解の鍵は運動神経のしくみを知ること 人体においての神経系は、機能的に大きく分けると運動神経と感覚神経、自律神経の3つに分類されます(表1)。 表1 人体の3つの神経系 運動神経体を動かす筋肉につながり、脳からの命令を筋肉に伝える神経感覚神経痛い、痒い、冷たい、熱い、何かに触れているなど、さまざまな感覚を脳に伝える神経自律神経体温、心拍、血圧、排尿、排便など、生きていく上で必要な機能を自然にコントロールしてくれる神経 ALSは、この中の筋肉を動かす運動神経だけが選択的に障害され、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の神経疾患です。 この運動神経のしくみを理解することがALSの病態を理解する上で、一番大切になってきます。 例えば、脳で「手を動かしたい」と考えるとします。すると、脳の中の運動神経細胞(上位運動ニューロン)からその命令が神経線維を伝わり、脳幹あるいは脊髄で次の神経細胞(下位運動ニューロン)に命令を伝えます。そして、この命令は下位運動ニューロンの神経線維を伝わり、手の筋肉に到達して手を動かします。 ALSで障害される場所は、脳から下りてくる上位運動ニューロンと、命令の乗り換えの場所(前角細胞)から始まる下位運動ニューロンの両方です。両方が障害されると、結果的に筋肉を動かすことができなくなってしまいます。 注)「運動ニューロン」という言葉が分かりにくい方は、運動ニューロンとは脳からの命令を筋肉に伝える「導線」のようなものだとイメージしてください 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働き では、実際上位運動ニューロンと下位運動ニューロンはそれぞれどんな働きをしているのでしょうか? 例えば、皆さんがペンで文字を書くときの繊細な動きをする場合と、りんごをわしづかみにするときの大胆な動きをする場合とでは、力の入れ方を無意識のうちに使い分けていると思います。 これは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが、お互いにバランスを取り合って、自然な動きになるように力の配分をコントロールしているためです。具体的には、脳からの命令を受けた下位運動ニューロン(下位運動ニューロンは筋肉に直接つながっています)が主に「アクセル」の役割を果たし、筋肉を動かします。一方、上位運動ニューロンは「ブレーキ」として機能し、下位運動ニューロンの「アクセル」の力加減を調整して、力が暴走しないようにしているのです。(図1を参照) 図1 運動神経のしくみ ALSの主な症状 ALSの初期症状は、上肢に現れることが比較的多いですが、患者さんによっては下肢や喉から症状が現れることもあります。進行すると徐々に自分の意思で身体を動かすことが難しくなり、ペンや箸が握れなくなったり、歩行が困難になっていきます。 口や喉が動かなくなると、話す、食べるといった行為が困難になり、誤嚥する可能性も高くなります。さらに進行すると、自身で呼吸することができなくなり、生きていくためには人工呼吸器が必要となります。また、ALSでは筋肉を動かす運動神経のみが選択的に障害されるため、感覚は残ります。また、意識ははっきりしており、精神的な働きは障害されないことも大きな特徴です(例外もありますが)。 次に上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働きをもとに、ALSに特徴的な症状を紹介します。 筋肉が「ガクガク」と痙攣して治まらない! アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、「ガクガク」と一定のリズムでその筋肉が動き続けることがあります。これは「クローヌス」と呼ばれる症状で、上位運動ニューロンが障害されることで起こります。つまり、「ブレーキ」が壊れることで、「アクセル」の制御ができなくなっている状態です。 筋肉が勝手にピクピクと動く! 体のいろいろな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に勝手にピクピクと細かく動くことがあります。これは「線維束性収縮」と呼ばれる症状で、下位運動ニューロンが障害されることで起こります。例えるなら、正常なら10本の下位運動ニューロンで動かしていた筋肉を、1本の下位運動ニューロンで動かさなくてはいけないという状態です。1本のニューロンにかかる負担が過度に大きくなり、がんばり過ぎることで勝手に動いてしまっている状態です(図2)。 この症状が起きている部分は、「アクセル」が壊れてきている場所なので、徐々に筋肉が細くなり、動かせなくなっていきます。 図2 下位運動ニューロンの正常な状態と障害された状態(線維束性収縮) ALSの4大陰性徴候とは ALSは全身の筋肉が動かせなくなっていく病気ですが、出にくい症状というものが4つほどあり、4大陰性徴候といいます。 (1)目は最後まで動かせる!手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。(2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。(3)感覚障害が起こりにくい!これは最初のほうでも書きましたが、見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。(4)「褥瘡」、いわゆる“床ずれ”ができにくい!徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 * * * これまでの症状を読まれた方の多くは、「感覚は残るのに動けないなんてつらすぎる……」と思われるかもしれません。ですが、このALSに出にくい症状を前向きに捉えて、うまく日常生活の工夫に取り入れていくことが、困難な状況の中でも、日々の生活をできる限り豊かにしていく方法なのだと思います!! なので、今後このコラムでALSの4大陰性徴候を活用して快適に生活する具体的な方法を書いていこうと思います。 関連:ALSの療養者を支える看護職の方へ。状態の変化に応じたケアを考える訪問看護の事例はこちら(会員限定)  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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新型コロナウイルスとインフルエンザ、症状・潜伏期間・対応を比較
新型コロナウイルスとインフルエンザ、症状・潜伏期間・対応を比較
特集
2024年10月1日
2024年10月1日

新型コロナウイルスとインフルエンザ、同時検査は可能? 症状・潜伏期間・対応を比較

2024年夏は、新型コロナウイルス感染症の第11波が到来し、感染者数が急増しました。冬に向けては、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行が懸念されています。 本記事では、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時検査のほか、症状や潜伏期間、対応策などについて解説します。訪問看護の利用者さんやご家族に質問された際に回答できるようにしておくためにも、確認しておきましょう。 コロナ・インフルエンザ・一般的な風邪の違い 新型コロナウイルス感染症とインフルエンザ、一般的な風邪には、症状や潜伏期間、検査の推奨期間、対応方法などに違いがあります。それぞれ見ていきましょう。 潜伏期間・感染力 潜伏期間(病原体に感染してから症状が現れるまでの期間)と感染力の違いは、以下のとおりです。 病名潜伏期間(一般/最大)感染力のある期間感染力が最も強い期間 新型コロナウイルス1~14日間(平均3日~5日程度)   発症後7~10日発症2日前~3日     インフルエンザ     1~3日間程度発症1日前~発症後5日   発症1日前~3日後風邪2~4日(原因によって異なる)   発症1日前~7日(原因によって異なる)発症直後~2日後 新型コロナウイルスは、潜伏期間が最長2週間程度と比較的長いのが特徴です。ウイルスを体内に保有しながら症状が現れない期間が長いため、感染者は知らないうちに多くの人にウイルスを広めてしまう危険性があります。一方、インフルエンザの潜伏期間は1~3日程度で、風邪と比べても早く症状が発現します。 症状 症状の違いも見ていきましょう。 病名主な症状新型コロナウイルス発熱、咳や痰、咽頭痛、鼻汁、呼吸困難感、倦怠感、味覚・嗅覚障害、頭痛、筋肉痛、消化器症状 などインフルエンザ     発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、咳、咽頭痛 など風邪くしゃみ、鼻汁、咽頭痛、微熱、発熱、咳、倦怠感 など コロナウイルス感染症では、咽頭痛や鼻汁などの上気道症状に加え、インフルエンザと類似した症状(発熱・倦怠感・関節痛など)を生じることが多いとされています。また頻度は減少しているものの、味覚・嗅覚障害を伴うこともあります。インフルエンザは関節痛、筋肉痛などを伴う全身症状が強く現れるのが特徴的。風邪は軽い咳や鼻水、微熱が中心であり、比較的軽症です。 二峰性発熱に注意 二峰性発熱とは、高熱が一度下がった後に再び発熱する現象を指し、特にインフルエンザや風邪、デング熱、麻疹などの感染症で見られることが多いです。この現象は通常、ウイルス感染による体の反応として現れますが、原因は完全には解明されていません。二峰性発熱は時に重症の合併症を引き起こすことがあり、肺炎や脳症などのリスクもあります。子どもに異常な行動やけいれんが見られた場合、速やかに医師の診察を受けるか、必要に応じて救急車を呼ぶことが重要です。 検査の推奨期間 新型コロナウイルス感染症は、発症から2日目~9日以内に行うことが通常です。 インフルエンザの場合は、検査で陽性が出る期間は発症後1~5日頃です。24時間以内は陽性が出づらい傾向があります。ただし抗インフルエンザウイルス薬が処方された場合、発症から48時間以内の服用が推奨されています。そのため、症状が出始めてから24時間~48時間以内に医療機関を受診し、インフルエンザ検査を受けることが望ましいでしょう。 風邪は、通常は検査を行いませんが、溶連菌感染症やインフルエンザなど検査可能な疾患の疑いがある場合には検査の実施を検討します。 コロナとインフルエンザの同時検査の信憑性は? コロナウイルスとインフルエンザの同時検査は可能ですが、その精度についてはまだ完全に明らかになっていません。特にインフルエンザでは、発熱後すぐに検査すると、偽陰性になる可能性があるため、24時間以上経過してからの検査が推奨されます。検査には、「研究用」と書かれたものは使わず、国が承認した体外診断用医薬品や第1類医薬品を使用することが重要です。   対応と薬 対応方法と薬の違いについては以下のとおりです。 病名対応薬(一般名)新型コロナウイルス自宅療養、酸素吸入、重症者は入院レムデシビル、カシリビマブ/イムデビマブ(抗体カクテル療法)、バリシチニブインフルエンザ       安静、解熱剤の使用、水分補給、必要に応じて入院  抗インフルエンザウイルス薬(オセルタミビルリン酸塩・ザナミビル水和物・ペラミビル水和物注射薬・バロキサビル マルボキシル など)風邪安静、解熱剤の使用、十分な休養アセトアミノフェン、イブプロフェンなど、症状に応じた薬(細菌感染の可能性が高い場合には抗菌薬) なお、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症にかかった子どもが出席停止期間を経過して登校する際、再受診や検査は通常必要ありませんし、治癒証明書や陰性証明書の提出も求められません。しかし、症状が続く場合や医師から再受診の指示があった場合は、指示に従うことが重要です。 治療開始から3~4日経過しても解熱しない場合や、風邪の場合で4~5日以上発熱が続く場合は、再受診を検討してください。なお、むやみに再受診すると感染拡大や体力消耗による悪化を招く恐れがあるため、再受診の目安を事前にかかりつけ医に確認しておくことが大切です。 大人の場合は、症状が改善すれば通常の生活に戻れますが、必要に応じて再受診を考慮してください。 2024~2025年冬の特徴 2024~2025年シーズンは、以下がワクチン製造株として選定されました。 新型コロナウイルスJN.1系統及びその下位系統に対応した株インフルエンザ A型株・A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238)(H1N1)・A/カリフォルニア/122/2022(SAN-022)(H3N2) B型株 ・B/プーケット/3073/2013(山形系統)・B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)(ビクトリア系統) 一般的に、冬は気温の低下と空気の乾燥により、インフルエンザをはじめとした呼吸器系ウイルス感染症が流行しやすくなります。このため、マスクの着用や手洗い・手指消毒、室内の換気、ワクチン接種などの基本的な感染対策が重要です。インフルエンザと新型コロナウイルスの同時感染の可能性もゼロではありません。適切な予防策を講じましょう。 *** 冬季は、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行が懸念されており、発熱患者の増加に伴い診療所や検査機関が逼迫する可能性があります。そのため、事前に各自で準備を整え、感染予防に努めることが大切です。今回、解説した内容をご自身の体調管理、利用者さんのアセスメントなどにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「2024/25シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について」(2024年9月20日)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/flu/flu/vaccine2024/2024/9/20閲覧〇厚生労働省.「新型コロナウイルス・季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00003.html2024/9/20閲覧〇国⽴感染症研究所「COVID-19の抗原・抗体検査について」(2020年12月22日)https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/2_suzuki.pdf2024/9/20閲覧〇厚生労働省.「新型コロナウイルス最前線」『第12回新型コロナウイルス感染症の治療について』.広報誌『厚生労働』.2021年10月号 ,(株)日本医療企画,(2021年10月)https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202110_00003.html2024/9/20閲覧〇厚生労働省「令和5年度インフルエンザQ&A」(令和5年10月13日版)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2023.html2024/9/20閲覧

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また行き違い……ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】
また行き違い……ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】
特集
2026年11月4日
2026年11月4日

また行き違い……ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

連絡のタイミングがなかなか合わない! ケアマネさんに電話したら不在、戻ったら「折り返しがありました」…。今日も同じ方と何度もすれ違ってしまったにゃ~ 訪問看護師は多職種と連携する機会が多く、電話やFAXでのやりとりが欠かせません。ところが、お互いに訪問で外に出ていると、連絡のタイミングがなかなか合わないことも。訪問看護師さんからは、「みんな訪問が終わる夕方に連絡することが多いけれど、リズムが合わないと同じ方と1日に何度もすれ違ってしまう」「行き違いが続くときは、事務の方やほかのスタッフに用件を伝えて、連絡を引き継いでもらうこともある」といった声が聞かれました。相手が事業所に戻る時間を確認しておくなど、ちょっとした工夫でスムーズに連絡がとれるとよいですね。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

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特集
2021年7月13日
2021年7月13日

公費54の請求方法

前回、難病患者が利用できるいくつかの制度について、概要をご紹介しました。今回は、そのうち難病法に基づく助成制度(公費54)での注意点や請求上のポイントをお伝えします。 ※本記事は2021年7月に公開されたものです。法令や制度、関連ガイドラインは変更される場合がありますので、最新情報をご確認ください。 概要 「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)にもとづく、医療費負担軽減の制度です。法別番号から、「公費54(ご・よん)」と呼ばれます。 助成内容 認定を受けた指定難病に対する医療費(訪問看護費、薬剤費を含む)が対象です。月の自己負担が一定額を超えると、その月の月末まで、自己負担分は公費で支払われます。 対象 指定難病のある患者が公費54を利用するには、①難病指定医による指定難病の診断を受ける②診断書と必要書類を都道府県に提出し、申請する③都道府県による審査が行われ、認定がおりると医療受給者証が発行されるといった流れの手続きが必要です。指定医療機関で特定医療(認定を受けた指定難病に起因する傷病への医療)を提供された際に、医療受給者証を提示し、医療費助成を受けることができます。 受給者証の確認 医療受給者証はこのようなものです。 ※実際の様式は自治体により異なります 通常のレセプトと同様、公費への請求も、正しい医療受給者証情報でなければ、実施したケアの医療費が支払われないことになります。被保険者証類とあわせて、確認のタイミングと確認方法を事業所で統一し、確認漏れがないようにしましょう。 (1) 有効期間医療受給者証の有効期間外に提供した医療は、公費の対象とはなりません。期限は1年で、更新するには新たに診断書作成が必要なので、難病指定医または協力難病指定医(更新の診断書のみ作成可能)の診断を受け、更新の申請をする必要があります。なお現在は、新型コロナウイルス感染症拡大防止対応として、有効期限延長の特別措置がとられています。有効期間終了が令和2年3月1日~令和3年2月28日と記載の医療受給者証は、原則1年間有効期限を延長して取り扱うことができます。(※1)(2)自己負担上限額自己負担上限額に達するまでは、自己負担分(主保険の負担割合に応じて1割または2割)を患者に請求します。(3)指定難病名指定難病の病名を確認します。公費への請求時に、提供したケアが起因する傷病に対するものであることを確認します。(4)指定医療機関名自治体によっては、特定医療を提供するには、この欄に医療機関名の記載が必要な場合があります。(5)適用区分、公費負担者番号、受給者番号、氏名、住所被保険者証と同様に、レセプト記載と合致していなければ、医療費の支払いが保留されレセプトが返ってきます。カルテなどと一致しているかを1字ずつ突き合わせて確認します。 ・文字の突き合わせのコツすでにカルテなどに入力されている文字情報があると、人の目ではどうしても思い込みがあり、相違を見過ごしてしまう可能性があります。意味を読むことをせず、記号だと思って1字ずつ見ていくことで、見落としリスクが低くなります。文字の並びを逆から見て確認する方法もあります。たとえば「1234567」なら、後ろから1字ずつ、1文字目の「7」と「7」は合っているか、「6」と「6」は合っているか、……と確認します。2人以上で確認できる場合は、1人目は頭から「1234567」、2人目は後ろから「7654321」と確認します。このように、見る人を2人にするだけではなく、チェック方式を変えて2回チェックすることが、本来のダブルチェックです。 請求 医療保険の場合を例に説明します。公費54は介護保険での訪問看護も対象であり、介護レセプトでも考えかたは同様です。 ● 主保険が国保・後期高齢者医療なら国保連合へ、社保なら支払基金へ請求します。レセプトは公費併用レセプトになります。● 公費負担者番号・受給者番号の欄に、医療受給者証に記載の番号が記載されていることを確認します。● 主保険と54の併用の場合、「2併」を選択します。他にも公費がある場合は「3併」になります。● 特記事項欄に、適用区分を記載します。● 主保険へ請求する分は通常と同様に記載し、公費へ請求分を、右列の「公費分金額」へ記載します。● 特定医療※とそれ以外の医療が1枚のレセプトで混在するなど、公費適用有無の区別が必要な場合は、公費適用の項目に下線を引きます(レセプト記載内容から公費適用有無が明らかなら省略しても構いません)。 ※特定医療(認定された指定難病に対して、指定医療機関が提供する医療)以外にかかった医療費は、助成の対象となりません 。通常と同様に、負担割合に応じた自己負担と、主保険への請求になります。 市町村の助成との併用 難病を対象にした自治体独自の助成も数多くあり、次のようなタイプに分けられます。 (1)対象拡大【例】国の指定難病以外に、自治体が独自に定めた疾病に対し、自治体による助成が行われる(2)助成額の拡大【例】国の制度により発生する自己負担分を、一部自治体が補助し、患者自己負担をさらに軽減する 自治体独自の助成が利用できる場合は、対象や助成範囲を理解しておきましょう。 請求の際に重要なことは、国の公費が利用できる場合は、自治体の公費は国公費の後に使うことです。 たとえば、公費54と自治体の公費を併用する場合は、主保険→公費54→自治体の公費の順で請求します。 例 ①    主保険…1割負担②    公費54…自己負担額1万円③    自治体の公費…1回の自己負担額上限が500円の3つを併用する場合を考えてみましょう。  4月1日に訪問し、かかった費用が7000円だったとします。4月1日分の請求は、(1)主保険への請求 この患者は1割負担なので、9割の6300円を主保険に請求します。 (2)公費54への請求 公費54の対象になるのは主保険負担分を差し引いた700円ですが、今月はまだ患者自己負担額が上限1万円に達していません。ですから、公費54への請求はありません。 (3)自治体公費への請求 自治体公費には、1回の自己負担500円を超えた額を請求します。4月1日分は、500円との差額200円を自治体公費に請求し、患者には500円支払ってもらいます。 上記は1回の支払いの場合の考えかたですが、実際は、訪問看護では月まとめ請求が多いと思います。 月まとめ請求での考えかたについては、次回の記事でお伝えします。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医院。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】※1 厚生労働省 令和2年4月30日事務連絡「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公費負担医療等の取扱いについて」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000626936.pdf ・難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)・厚生労働省 保医発0327第1号 令和2年3月27日「「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について」・厚生労働省健康局難病対策課 令和元年6月「特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用)」

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ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方
ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方
コラム
2026年8月12日
2026年8月12日

ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方|症状の違いと受診目安

ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、どちらも発熱やのどの痛みがみられる病気です。症状が似ているため、「どちらなのか見分けにくい」と感じることもあります。 ただし、ヘルパンギーナは主にウイルスが原因で、のどの奥に水疱や潰瘍がみられやすい病気です。一方、溶連菌感染症は細菌が原因で、急なのどの痛みや発熱、扁桃の腫れ、首のリンパ節の腫れなどがみられます。この記事では、ヘルパンギーナと溶連菌感染症の違い、観察ポイント、受診の目安を解説します。 ヘルパンギーナとは ヘルパンギーナは、発熱とのどの痛み、口の中の水疱を特徴とする感染症です。乳幼児を中心に、夏に流行しやすい「夏かぜ」のひとつとされています。主な原因はコクサッキーウイルスA群などのエンテロウイルスです。 厚生労働省によると、ヘルパンギーナは感染してから2〜4日後に突然の発熱が起こり、その後、のどの痛みや水疱が現れます。発熱は1〜3日続くことが多く、食欲不振、全身のだるさ、頭痛などを伴うこともあります。 のどの奥に小さな水疱や潰瘍ができるため、飲み込むときに痛みが強くなり、水分や食事を取りにくくなることがあります。小児では、脱水症に注意が必要です。 溶連菌感染症とは 溶連菌感染症は、主にA群β溶血性レンサ球菌という細菌によって起こる感染症です。感染すると、急な発熱や強いのどの痛み、飲み込むときののどの痛み、扁桃が赤く腫れるなどの症状がみられ、首の前側のリンパの腫れ、口蓋の赤い点状出血、扁桃の白い付着物といった特徴的な症状が出現することもあります。 溶連菌感染症は細菌感染のため、A群β溶血性レンサ球菌による扁桃咽頭炎では、医師の判断により抗菌薬が投与されることがあります。 見分けるポイント ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、症状だけで完全に見分けることは難しい場合があります。ただし、観察のポイントを整理すると、違いを把握しやすくなります。 項目ヘルパンギーナ溶連菌感染症原因主にウイルス主に細菌流行時期夏に多い冬季と春から初夏の2つの流行ピークがある年齢乳幼児に多い学童期の子どもに多い発熱突然の高熱がみられ、発熱は1~3日続く急な発熱が多いが、通常発熱は3~5日以内に下がるのどの所見のどの奥に水疱・潰瘍扁桃の腫れ、白い付着物咳・鼻水みられることがある目立たないことが多い治療対処療法が中心抗菌薬が必要な場合がある ヘルパンギーナでは、のどの奥の水疱や潰瘍が特徴です。一方、溶連菌感染症では、扁桃の腫れや白い付着物、首の前側のリンパ節の腫れなどが手がかりになります。 ただし、実際には症状が重なることもあります。家庭や在宅ケアの現場で「ヘルパンギーナだ」「溶連菌だ」と断定せず、症状の経過や全身状態を確認し、必要に応じて受診につなげることが大切です。 受診を考えたい症状 溶連菌感染症では、扁桃周囲膿瘍などの局所化膿性合併症やリウマチ熱、糸球体腎炎に至ることがあるため、早期に診断し抗菌薬投与する必要があるとされています。そのため、以下のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 水分がほとんど取れない 尿の回数が明らかに少ない ぐったりしている 呼びかけへの反応が弱い 高熱が続く のどの痛みが強く、飲み込めない 発疹がある 首の腫れや強い痛みがある 呼吸が苦しそう けいれんがある ヘルパンギーナでは、のどの痛みによって水分摂取が難しくなり、脱水症につながることがあります。厚生労働省も、ヘルパンギーナの合併症として、熱性けいれん、脱水症、小児ではまれに髄膜炎や心筋炎などへの注意を挙げています。 在宅での観察ポイント 訪問看護や在宅ケアでは、病名を見分けることよりも、利用者さんや子どもの状態を具体的に観察することが重要です。 確認したいポイントは、以下のとおりです。 発熱がいつからあるか 最高体温 のどの痛みの程度 水分摂取量 食事量 尿量や尿の回数 口の中の水疱や潰瘍の有無 扁桃の腫れや白い付着物の有無 咳や鼻水の有無 発疹の有無 家族や園、学校での流行状況 活気の低下や意識状態の変化 記録する場合は、以下のように、症状と経過を具体的に書くと共有しやすくなります。 「昨日夕方から発熱。最高体温39.0度。のどの痛みが強く、水分摂取は少量。口腔内奥に小さな水疱様の所見あり。尿は朝から1回のみ。」 「本日朝から発熱とのどの痛みあり。咳・鼻水は目立たない。扁桃に白い付着物あり。首の前側に圧痛あり。食事摂取は半分程度。」 このように記録すると、医師や看護師に状況を伝えやすくなります。 家庭で気をつけたいこと ヘルパンギーナでも溶連菌感染症でも、発熱やのどの痛みがあるときは、無理に食事を取らせるよりも、水分摂取を優先します。冷たい飲み物、ゼリー、スープなど、のどにしみにくく飲み込みやすいものを選ぶとよいでしょう。 酸味の強い飲み物や熱い食べ物は、のどや口の中の痛みを強めることがあります。食事量が少なくても、水分が取れていて尿が出ているかを確認します。 溶連菌感染症が疑われる場合は、検査や治療が必要になることがあります。自己判断で市販薬だけで様子を見るのではなく、症状や流行状況に応じて医療機関へ相談しましょう。 まとめ ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、どちらも発熱とのどの痛みがみられるため、見分けにくいことがあります。ヘルパンギーナは、夏に乳幼児を中心に流行し、のどの奥の水疱や潰瘍が特徴です。溶連菌感染症は、急なのどの痛み、発熱、扁桃の腫れ、首のリンパ節の腫れなどが手がかりになります。 ただし、症状だけで正確に判断することは難しいため、家庭や在宅ケアの現場では、病名を決めつけず、発熱の経過、水分摂取量、尿量、のどの所見、全身状態を観察することが大切です。ぐったりしている、水分が取れない、高熱が続くなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 厚生労働省:「ヘルパンギーナ」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/herpangina.html2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「ヘルパンギーナ(詳細版)」.https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/herpangina/010/index.html2026/8/12閲覧 CDC:「About Strep Throat」.https://www.cdc.gov/group-a-strep/about/strep-throat.html2026/8/12閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「扁桃咽頭炎」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/16-耳鼻咽喉疾患/口腔咽頭疾患/扁桃咽頭炎2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「A群溶血性レンサ球菌感染症」.https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/group-a-streptococcal-infection/index.html2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「IDWR 2023年第43号<注目すべき感染症> A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」.https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/featured/2023/43/index.html2026/8/12閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「扁桃周囲膿瘍および蜂窩織炎」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/16-耳鼻咽喉疾患/口腔咽頭疾患/扁桃周囲膿瘍および蜂窩織炎2026/8/12閲覧

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分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
コラム
2025年6月24日
2025年6月24日

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、医師がどのようにALSと診断するのか、梶浦先生のご経験も交えながら解説していただきます。 ALSの診断には2つの重要なポイントがある 重要なポイント、それは次のとおりです。順番に説明していきます。(1) ALSは除外診断である(2) 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が体の広範囲で障害されていることを証明できる ALSは除外診断である 例えば、インフルエンザはウイルスを特定することで診断され、がんは画像検査や生検(腫瘍細胞の一部を採取して行う検査)によって診断を確定できます。しかし、ALSには特異的マーカーや決定的な検査所見がありません。そのため、ALSと同じように運動ニューロンが障害される疾患を一つひとつ除外し、どれにも当てはまらない場合に初めてALSと診断されます。これを「除外診断」といいます。 ALS以外の疾患を除外するために、以下のような検査が行われます。・神経伝導検査・筋電図検査・血液検査・髄液検査・MRI検査(脳、脊髄) など 運動ニューロン障害の広がりを証明する 前回のコラム(>>分かりやすい! ALSの病態と症状)でお伝えしたように、上位運動ニューロンは主に「ブレーキ」の役割を、下位運動ニューロンは主に「アクセル」の役割を担っています。これらが体の広範囲で障害されていることを証明していきます。 ■上位運動ニューロン障害の検査方法 「ブレーキ」が障害されるため、「アクセル」の制御ができない状態です。代表的な症状として、以下の現象がみられます。 腱反射亢進:アキレス腱や膝、肘などの腱を医療用のハンマーで軽く叩くと筋肉が過剰に動く。 クローヌス:アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、筋肉の動きを止めることができず、「ガクガク」と一定のリズムで動き続ける。 医師はこれらの症状の有無や範囲を診察し、上位運動ニューロンの障害を確認します。 下位運動ニューロン障害の検査方法 「アクセル」が障害されるため、以下のような変化が起こります。 筋力低下と筋委縮:筋肉が動かせず、筋肉が細くなり、筋力が落ちていく。 筋力が低下している部位を客観的に把握するため、筋力を数値化していきます。具体的には、握力の測定や、筋力を徒手的に評価する「徒手筋力検査」(manual muscle testing:MMT)が行われます。MMTは主要な部位の筋力を判定し、0~5点の6段階で判定します。参考までに表1に実際の点数の付け方を示します。 表1 徒手筋力検査(MMT) 点数 機能段階 5 強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 4 抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 3 抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる 2 重力を除去すれば、運動域全体にわたって動かせる 1 筋の収縮がわずかに確認されるだけで、関節運動は起こらない 0 筋の収縮はまったくみられない 線維束性収縮:体のさまざまな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に「ピクピク」と細かく動く症状。 前回のコラムで紹介したとおり、線維束性収縮も下位運動ニューロン障害の存在を証明する大切な所見です。線維束性収縮は自覚でき、強く症状が出ているときは他人からも目視できますが、わずかな症状でも客観的に確認できる「針筋電図検査」を実施します。 針筋電図検査は、細い針電極を体のさまざまな部位の筋肉に刺し、筋肉のわずかな「ピクピク」を電気的な活動として捉えることで、まだ筋力低下が起こっていない早期の段階でも異常を発見できます。ただし、線維束性収縮は常にみられるわけではなく、同じ場所に起こるとも限りません。針を刺した場所とタイミングで「ピクピク」が出ていなければ、確実な診断が難しい場合もあり、そこにもどかしさを感じています。 なお、最も多いALSの症状の進行パターンは、まず左右どちらかの手や足の遠位部の筋力が低下していき、徐々に体の中心に近い部分や反対側の筋力が低下していき、全身に広がっていきます。 発症初期は、まだ筋力の低下は限局した部位にしかみられないため、この段階で診断するのはとても難しいです。 私の診断までの経過 発症と初めての受診 2015年、当時34歳の私は、アメリカのカリフォルニア大学(UCSD)に研究のために留学していました。同年の7月に、右手の指先の筋力低下と、利き腕である右腕が左腕よりも細いことに気がつきました。8月にUCSDの神経内科を受診すると、「ALSの可能性が高いので精査が必要です」と言われ、10月に帰国しました。 診断への長い道のり 帰国後、すぐに総合病院の神経内科を受診し、MRIや筋電図検査などで精査したところ、「まだ右腕だけに症状は限局しているものの、ほかの疾患は考えにくいので、おそらくALSだろう」と言われました。「もしかしたらALSではないのでは?」という私の淡い期待は崩れ去り、絶望と恐怖で一晩中泣いていました……。 しかし、その後、診断は二転三転したのです。 2015年11月 今後の治療法を相談していくために神経内科専門の病院を紹介され受診しました。そこで、担当の医師に「ALSと確定するのはまだ早いので、運動ニューロン病を専門としている大学病院の神経内科にセカンドオピニオンに行かないか」と提案されました。わらにもすがる思いだった私は、すぐに行くことを決めました。 同年12月 あらためて精査するために、紹介された大学病院に2週間入院することになりました。そこではMRIや筋電図検査に加えて髄液検査やエコー検査など、さまざまな検査をしました。 すべての検査結果が出て、教授回診のときに診断が告げられることになりました。尋常ではない緊張感で座って待っていた私のもとに、教授を筆頭に医局の医師たち、研修医、医学部の実習生たちなど10人以上がやってきました。そして、少しの沈黙の後に、教授が私の肩をポンポンと軽く叩き「よかったね、ALSじゃないよ」と言ってくれました。 その瞬間、私はあまりのうれしさと安堵感で、緊張の糸が切れ、その場で泣き崩れました。「先生、僕はまだ生きられるんですね!」と言って、人目もはばからず、大勢の前で泣きじゃくりました。そのときの診断名は「多巣性運動ニューロパチー」というものでした。 翌年(2016年)1月 診断名もついたことですし、私は神奈川県にある自分の所属する大学病院で仕事を再開しながら、治療をしていくことにしました。検査結果や紹介状を持参して、自分の所属する大学病院の神経内科を受診すると、「この診断は違うのではないか」と言われ、再度精査することになりました……。 感情が揺さぶられ過ぎて、まるでジェットコースターに乗っている感じで、精神的にどんどん削られていき疲弊していきました。結局そこでも筋電図検査をはじめさまざまな検査を行い、今度は「平山病」という診断になりました。平山病は手術をすれば症状の改善が見込めるため、手術をする予定になりました。 同年4月 手術の予定日が決まっていましたが、手術の直前に舌に線維束性収縮がみられたため、ALSと確定診断され、手術は急遽中止になりました。そのときの私は「自分はALSじゃないのか?」とうすうす気がついていたため、ショックという感情よりは、やっと診断が確定したことに対する安堵感のほうが強かったことを覚えています。 診断の難しさと私が伝えたいこと 私を担当してくださった神経内科専門医の皆さんは、本当に親身になって一所懸命に検査をしてくれました。それでも、そのつど診断名が変わり、確定診断に9ヵ月かかりました。そのくらい、発症初期の段階でALSを診断するのは難しいのです。 私と同じように、なかなか確定診断にいたらず、「つらくて不安な期間」を過ごしている方も少なからずいらっしゃると思い、今回は診断方法とともに私の経験談も書きました。 関連:ALSの療養者を支える看護職の方へ。長期療養でのケアを考える事例はこちら(会員限定) コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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「高血圧」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「高血圧」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年6月18日
2024年6月18日

「高血圧」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は高血圧について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 高血圧の基礎知識 高血圧は喫煙に次ぐ死亡の危険因子です。急性または慢性の血圧上昇は、眼、血管、脳、心臓、腎臓に表1のような重大な障害をもたらします。 表1 高血圧により生じる疾患 高血圧の90%は本態性(一次性)高血圧です。原因が分かりません。二次性高血圧の原因には、慢性腎疾患、腎動脈狭窄、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症、睡眠時無呼吸症候群があります。 血圧が140/90mmHg未満にコントロールされている人は約半数です。無治療または治療を受けていても十分に治療されていない可能性があります。 血圧測定の方法 非常に重要なバイタルサインの1つであるにもかかわらず、正しい血圧測定についてトレーニングを受けている医療従事者はほとんどいません。正しい測定方法をあらためて確認しておきましょう。 血圧測定の30分前にはカフェイン摂取、運動、喫煙を避ける排尿を済ませておく背もたれがある椅子に、脚を組まずに5分以上安静にして座って測定する(ベッドで寝て測定しない)測定者との会話は避ける上肢を圧迫する衣類をゆるめ、上肢(測定部位)を心臓と同じ高さ(胸骨の中点)にする聴診による測定が好ましい正しいサイズのカフを使用する(空気袋は上腕径80%に達すること)上腕動脈を触知しながらカフを膨らませ、拍動触知が消失する圧がおおよその収縮期血圧である(触診法)。推定収縮期血圧から、さらに30mmHg圧をかけ、2mmHg/秒のスピードで減圧する2回以上測定し平均を求める 高血圧の診断 白衣高血圧(診察室での血圧測定値が高い)の可能性を除外するため、家庭血圧の測定が大切です。手首や指で血圧測定をすることはできますが不正確です。 表2に成人における血圧値の分類を示します。 表2 成人における血圧値の分類 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.『高血圧治療ガイドライン2019』.ライフサイエンス出版,p.18,表2-5より許諾を得て転載. 病歴聴取のポイント 病歴聴取のポイントは次のとおりです。 既往歴に脳血管障害、心筋梗塞、甲状腺疾患、腎疾患、睡眠時無呼吸症候群はあるかを確認する。これらは高血圧の原因となる心血管系疾患の危険因子(喫煙、脂質異常症、糖尿病)をチェックする生活習慣(座りっぱなしの日常生活、アルコール多飲、喫煙、塩分の過剰摂取)を調べる薬剤(非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド、抗うつ薬)やカフェインは血圧を高めるため、服用をしていないか確認する 身体診察のポイント 身体診察では以下の点に注意します。 両腕の血圧を正確に測定する身長と体重を測定し、BMIを算出する標的臓器が障害されていないかを確認する。視力低下、脳梗塞(片麻痺、構音障害)、心不全(SpO2低下、肺の湿性ラ音、頸静脈怒張、下腿浮腫)などの所見がないか確認する→臓器障害を認める場合には、すぐに主治医に連絡する 検査で確認すること 心電図で左室肥大や心筋梗塞の既往を評価します。血液検査は表3の項目を提出します。糖尿病や慢性腎臓病(CKD)が疑われる患者さんでは、尿中アルブミンを測定し、尿中アルブミン-クレアチニン比を求めます。 表3 確認しておきたい血液検査の項目 ●全血検査(CBC)●クレアチニン●推定糸球体濾過量(eGFR)●ナトリウム●カリウム●カルシウム●グルコース●HbA1c●コレステロール(LDL、HDL)●甲状腺刺激ホルモン(TSH) 主な治療 降圧薬物療法は脳卒中を40%、心筋梗塞を25%、心不全を50%減少させます。降圧薬はサイアザイド系利尿薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)から用いるのが原則です。心筋梗塞後や心不全にはβ遮断薬、心不全にはアルドステロン受容体拮抗薬、進行したCKDにはループ利尿薬をなるべく使用します。 ●2017年の米国心臓病学会/米国心臓協会の血圧(BP)ガイドラインでは、ほとんどの成人では血圧の目標を130/80mmHg未満とすることが推奨されています。●すべての患者さんで生活習慣の改善(減量、減塩、運動)を行います。●130~139mmHg/80~89mmHgの患者さんで心血管系疾患があるか、10年以内の動脈硬化性疾患発症確率≧10%の患者さん、および140/90mmHg以上のすべての患者さんでは薬物療法を開始します。 今後10年の心血管系リスク予測は次のサイトから計算できます。▼日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患発症予測ツール(医師・医療従事者向け)」https://www.j-athero.org/jp/general/ge_tool2/10kgの減量で5~10mmHg血圧は下がります。食事療法では減塩を意識した和食中心のメニューが推奨されます。カリウム(野菜や果物)の摂取は降圧にとても重要です。毎日30分程度の運動もよいです。 アドヒアランスにも配慮する アドヒアランスの向上を目的に1日1回の投与で済む長時間作用型降圧薬を使用するか、または配合薬を処方することがあります。降圧薬を朝投与した場合と夕方投与した場合、心血管系疾患の発生に差はみられません。したがって、患者さんが内服しやすい方法でよいでしょう。 最後に高齢成人患者さんの目標血圧を紹介します。ガイドラインにより異なりますが、現在示されていることをまとめました。 ●ACC/AHAの65歳以上の外来(在宅)患者さんに対する収縮期血圧の目標は130mmHg未満です。●ACPのガイドラインでは、60歳以上の患者さんの収縮期血圧の目標は150mmHg未満です。●厳しく降圧すると起立性低血圧を起こし転倒するリスクが上昇します。 ACC:American College of Cardiology,米国心臓病学会AHA:American Heart Association,米国心臓協会ACP:American College of Physicians,米国内科学会 執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。編集:株式会社照林社 【参考文献】○Chick D et al. Hypertension. MKSAP19 Nephrology p26-41, American Collete of Physicians, 2021○Carey RM, Moran AE et al. Treatment of Hypertension. JAMA.2022;328(18):1849-1861. doi:10.1001/jama.2022.19590

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