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幸せホルモンを増やす方法 セロトニン・オキシトシン・ドーパミン
幸せホルモンを増やす方法 セロトニン・オキシトシン・ドーパミン
特集
2024年8月20日
2024年8月20日

幸せホルモンを増やす方法とは セロトニン・オキシトシン・ドーパミンなど

最近メディアやニュースでも取り上げられる「幸せホルモン」。幸せホルモンが正常に働くことにより、心と体のバランスを安定させ、幸せを感じやすくするといわれています。 本記事では、幸せホルモンの意味や種類、高齢者に不足しがちなセロトニンの分泌を活性化させる方法について解説します。幸せホルモンは誤解されやすい部分もあるため、利用者さんに正しい情報を提供できるようにしておきましょう。 幸せホルモンとは 一般的にいわれている幸せホルモンとは、セロトニンやオキシトシンといった神経伝達物質のことを指します。適切な量が分泌されることによって、心身の安定や幸福感などがもたらされるため、幸せホルモンと呼ばれています。 幸せホルモンの種類 幸せホルモンと呼ばれているのは、主に次の4つです。 セロトニン セロトニンは脳内の神経伝達物質の1つで、主に大脳基底核や延髄の縫線核、視床下部などに存在しています。セロトニンには、快感や喜びに関係するドーパミンや不安や恐怖に影響するノルアドレナリンといった神経伝達物質の分泌をコントロールし、脳内の興奮を鎮めて精神を安定させる働きがあります。セロトニンの分泌が低下すると、疲労感やイライラ、不安や恐怖などの慢性的ストレスを感じやすくなり、うつ症状や不眠、パニック症などが現れることがあります。セロトニンが十分に分泌されている状態を保つことで、これらの精神症状を抑えることが可能です。 オキシトシン オキシトシンは、脳の視床下部から分泌される神経伝達物質の1つです。妊娠・出産時に多く分泌されるホルモンとして知られていますが、信頼感や共感性を高めるだけでなく、不安や恐怖の緩和にも関与しています。人との抱擁・手をつなぐなどのスキンシップや親しい人との会話によって老若男女問わず、脳内で分泌されることが分かっています。 ドーパミン ドーパミンは、快楽を感じる脳内報酬系を活性化させる神経伝達物質です。アルコールや麻薬など依存性があるものの多くはドーパミンの分泌を活性化させることで快楽をもたらすといわれています。 エンドルフィン エンドルフィンは脳内麻薬とも呼ばれ、気分の高揚や幸福感、鎮痛作用などをもたらす神経伝達物質で、α(アルファ)とβ(ベータ)、γ(ガンマ)に分類されます。なかでもβ-エンドルフィンは、痛みを抑えるモルヒネの数倍から数十倍の鎮痛作用があるといわれています。 幸せホルモンは高齢者にも効果はある? 幸せホルモンといえば、身体活動が活発な若年層や中年層に注目されることが多いものですが、高齢者にも効果が期待できます。セロトニンやドーパミン、エンドルフィンなどは、どれも年齢を問わず分泌されており、精神の安定や幸福感などに関与しています。 高齢者は外出機会の減少により日光を浴びることが少なくなったり、閉経により女性ホルモンが減少したりすることで、セロトニンが不足しがちです。その結果、ストレスを感じやすくなり、イライラや恐怖など、さまざまなネガティブな感情がわき起こるようになります。 さらに、意欲や集中力が低下するため、外出しなくなったり趣味を楽しめなくなったりすることもあるでしょう。結果的にうつや認知症にもつながる可能性があるため、高齢者こそ幸せホルモンの分泌が活性化されるような行動を心がけることが大切です。 高齢者に不足しがちなセロトニン 幸せホルモンのなかでも高齢者に不足しがちなセロトニンは、生活習慣の工夫によって分泌を促すことができます。高齢者でもできるセロトニンの分泌を活性化させる方法を3つ紹介します。 外出 外出の際に日光を浴びることで、セロトニンの分泌量が増えます。また、友人や家族と外出する場合は、コミュニケーションによってオキシトシンの分泌も促されるため、なるべく複数人で外出すると良いでしょう。公園を散歩する、友人とランチに出かける、地域のイベントに参加するなど、さまざまな方法を取り入れましょう。 適度な運動 適度な運動もセロトニンの分泌を促します。ウォーキング、ストレッチなどの適度な運動は、体力や筋力の維持にもつながるため、高齢者こそ習慣づけたいところでしょう。 アミノ酸を十分にとる セロトニンの材料となる必須アミノ酸であるトリプトファンを多く含む食品を摂取することが大切です。たとえば、チーズやヨーグルトなどの乳製品、大豆製品、魚介類や肉、卵などがあります。高齢者はタンパク質の摂取不足な傾向があることから、より意識的にこれらの食品を取り入れることが大切です。ただし、タンパク質を多く摂りすぎると、結果的に塩分や脂質の過剰摂取につながりやすいため、野菜や果物などとのバランスも考慮して日々の献立を決めましょう。 * * * 年齢にかかわらず、外出や運動、栄養のバランスを考えた食事などを日常生活に取り入れることで、幸せホルモンの分泌を促しましょう。心身の健康を維持し、豊かな人生を送るためにも幸せホルモンについて知っておくことが大切です。訪問看護の際に幸せホルモンについて質問された際は、正しい知識をもってアドバイスしましょう。   編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇H H Loh, L F Tseng, E Wei, and C H Li:beta-endorphin is a potent analgesic agent. 1976 Aug; 73(8): 2895–2898.〇厚生労働省.e-ヘルスネット「セロトニン(せろとにん)」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-074.html2024/8/8閲覧

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ヘルパンギーナと手足口病の違いは? 症状・原因・治療法・予防法を解説
ヘルパンギーナと手足口病の違いは? 症状・原因・治療法・予防法を解説
特集
2025年6月10日
2025年6月10日

ヘルパンギーナと手足口病の違いは? 症状・原因・治療法・予防法を解説

ヘルパンギーナと手足口病は夏に流行しやすいウイルス感染症で、主に乳幼児がかかります。どちらも発熱や口内の水疱を伴うため、症状が似ており、見分けがつきにくいことがあるでしょう。 本記事では、ヘルパンギーナと手足口病の原因や症状、治療法、予防法について解説します。利用者さんやそのご家族の症状から、ヘルパンギーナと手足口病の違いを見分けられるように知識を身につけておきましょう。※本記事は2023年7月に公開されたものです。法令や制度、関連ガイドラインは変更される場合がありますので、最新情報をご確認ください。 >>関連記事 大人も要注意!手足口病の症状・原因・治療法を解説 ヘルパンギーナの症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの? ヘルパンギーナと手足口病の原因 ヘルパンギーナと手足口病は、どちらもエンテロウイルスによって引き起こされる感染症です。エンテロウイルスは、ピコルナウイルス科に属するRNAウイルスの一種であり、多くの型が存在します。 ヘルパンギーナの主な原因ウイルス コクサッキーウイルスA群(CA2~CA6、CA10)※まれにコクサッキーウイルスB群(CB)やエコーウイルスが原因となることも 手足口病の主な原因ウイルス コクサッキーウイルスA16型(CA16) エンテロウイルス71型(EV71) コクサッキーウイルスA6型(CA6) どちらも複数の型があるため、一度かかっても再び感染する可能性があります。 ヘルパンギーナと手足口病の症状&見分け方 ヘルパンギーナと手足口病は、流行時期や好発年齢、症状が似ており、見分けるのが難しいことがあります。見分け方のポイントは以下のとおりです。 ◆ヘルパンギーナと手足口病の症状の違い  ヘルパンギーナ手足口病発熱突然の高熱(39~40℃)、2~4日で解熱軽度の発熱(38℃以下が多い)水疱の部位口腔内(特に軟口蓋・口蓋弓)口腔内(前方にみられやすい)、手のひら・足の裏・足の甲・肘・膝・臀部など全身に水疱性発疹口腔内症状小水疱ができ、破れると浅い潰瘍となり痛みを伴う小潰瘍を形成することがある発疹の特徴口腔内のみ、水疱はやがて潰瘍化手足や臀部にも水疱ができ、痂皮を形成せず自然に消失その他の症状喉の痛みが強く、哺乳障害や脱水を起こしやすい口腔内の痛みは軽度で、食事を取れることが多い ヘルパンギーナと手足口病の流行時期 ヘルパンギーナの流行時期や好発年齢についても見ていきましょう。流行時期は重なっていますが、手足口病のほうが比較的時期が早い傾向にあります。 ◆ヘルパンギーナと手足口病の流行時期や発症年齢の違い  ヘルパンギーナ手足口病流行時期5~7月頃9月以降はほぼみられなくなる7~8月頃好発年齢5歳以下 特に1歳が多い4歳以下、特に2歳以下が多く(約半数)、小学校低学年でもかかることがある ヘルパンギーナと手足口病の感染経路 主な感染経路は、ヘルパンギーナ・手足口病ともに飛沫感染※1・接触感染※2・糞口感染※3です。 ヘルパンギーナも手足口病も、症状が治まったあと、体内にウイルスが残る点に違いはありません。便からは、2~4週間にわたってウイルスが排出されることがあるため、注意しましょう。 ※1 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみで飛散したウイルスが、ほかの人の鼻や口から侵入し感染すること。※2 接触感染:ウイルスや細菌などに直接触れた手で鼻や口を触り、皮膚や粘膜を介して感染すること。※3 糞口感染:ウイルスを含む排泄物に触れた後、手洗いが不十分なため主に手指を介して感染すること。 ヘルパンギーナと手足口病の治療方法と治癒期間 ヘルパンギーナと手足口病はどちらも特定の治療法がないウイルス感染症であり、症状に応じた対症療法が中心となります。 ヘルパンギーナの対症療法 ヘルパンギーナの発熱に対しては、解熱鎮痛作用がある内服薬(例:アセトアミノフェン)を使用する場合があります。咽頭痛があると飲食を避けがちになるため、脱水を防ぐためにも、ゼリーや冷ましたおかゆ、お豆腐など、薄味で柔らかく口当たりのよいものを選ぶとよいでしょう。特に乳幼児は脱水のリスクが高いため、こまめな水分補給が大切です。脱水が見られた場合は、医療機関で輸液が検討されることがあります。 重症化することは少ないものの、無菌性髄膜炎や心筋炎などの合併症が疑われる場合には、入院治療が必要となる場合があります。 手足口病の対症療法 子どもの場合、手足や口腔内の発疹にかゆみを伴うことは少なく、通常は外用薬の使用を必要としません。発疹はかさぶたを残さずに3〜7日ほどで消失します。ただし、口の中にできた潰瘍が痛みを引き起こし、食事が摂りにくくなることがあるため、薄味のスープや柔らかいおかゆ、ゼリーなど刺激の少ない食事を選ぶことが大切です。 発熱は38℃以下の軽度なものが多く、解熱剤なしでも経過を見守ることができますが、発熱が2日以上続く場合や、頭痛、嘔吐、元気がないなどの症状が見られる場合は、髄膜炎や脳炎といった合併症のリスクがあるため、医療機関を受診することが必要です。ヘルパンギーナと同様に脱水にも注意が必要です。 なお、大人が手足口病にかかった際は、発疹の痛みや倦怠感、悪寒等の症状が強く出ることがあります。大人の場合、原因が手足口病だと思い至らないケースもあるため、注意が必要です。 ヘルパンギーナと手足口病の予防方法 ヘルパンギーナと手足口病にはワクチンがなく、基本的な感染対策を行って感染リスクを抑えるほかありません。 食事の前後や外出後には石けんで丁寧に手を洗いましょう。また、便にはウイルスが長期間排泄されるため、排便後の手洗いを徹底することが重要です。特に乳幼児は手洗いの習慣が十分に定着していないことが多いため、保護者や保育者が意識して清潔な環境を保ちましょう。 * * * ヘルパンギーナと手足口病は日頃からの感染対策が重要です。手洗いやうがいを徹底し、感染者との接触を避けることで、感染リスクを軽減することができます。脱水や合併症のリスクがある場合には、早めに医療機関を受診しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「ヘルパンギーナとは」(2014年07月23日 改訂)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/herpangina/010/herpangina.html2025/6/4閲覧〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「手足口病とは」(2014年10月17日 改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.html2025/6/4閲覧〇東京都感染症情報センター「ヘルパンギーナ Herpangina」(2023年6月22日)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/herpangina2025/6/4閲覧〇東京都感染症情報センター「手足口病 Hand , Foot and Mouth Disease」(2024年6月20日)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/handfootmouth2025/6/4閲覧

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分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
コラム
2025年6月24日
2025年6月24日

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、医師がどのようにALSと診断するのか、梶浦先生のご経験も交えながら解説していただきます。 ALSの診断には2つの重要なポイントがある 重要なポイント、それは次のとおりです。順番に説明していきます。(1) ALSは除外診断である(2) 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が体の広範囲で障害されていることを証明できる ALSは除外診断である 例えば、インフルエンザはウイルスを特定することで診断され、がんは画像検査や生検(腫瘍細胞の一部を採取して行う検査)によって診断を確定できます。しかし、ALSには特異的マーカーや決定的な検査所見がありません。そのため、ALSと同じように運動ニューロンが障害される疾患を一つひとつ除外し、どれにも当てはまらない場合に初めてALSと診断されます。これを「除外診断」といいます。 ALS以外の疾患を除外するために、以下のような検査が行われます。・神経伝導検査・筋電図検査・血液検査・髄液検査・MRI検査(脳、脊髄) など 運動ニューロン障害の広がりを証明する 前回のコラム(>>分かりやすい! ALSの病態と症状)でお伝えしたように、上位運動ニューロンは主に「ブレーキ」の役割を、下位運動ニューロンは主に「アクセル」の役割を担っています。これらが体の広範囲で障害されていることを証明していきます。 ■上位運動ニューロン障害の検査方法 「ブレーキ」が障害されるため、「アクセル」の制御ができない状態です。代表的な症状として、以下の現象がみられます。 腱反射亢進:アキレス腱や膝、肘などの腱を医療用のハンマーで軽く叩くと筋肉が過剰に動く。 クローヌス:アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、筋肉の動きを止めることができず、「ガクガク」と一定のリズムで動き続ける。 医師はこれらの症状の有無や範囲を診察し、上位運動ニューロンの障害を確認します。 下位運動ニューロン障害の検査方法 「アクセル」が障害されるため、以下のような変化が起こります。 筋力低下と筋委縮:筋肉が動かせず、筋肉が細くなり、筋力が落ちていく。 筋力が低下している部位を客観的に把握するため、筋力を数値化していきます。具体的には、握力の測定や、筋力を徒手的に評価する「徒手筋力検査」(manual muscle testing:MMT)が行われます。MMTは主要な部位の筋力を判定し、0~5点の6段階で判定します。参考までに表1に実際の点数の付け方を示します。 表1 徒手筋力検査(MMT) 点数 機能段階 5 強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 4 抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 3 抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる 2 重力を除去すれば、運動域全体にわたって動かせる 1 筋の収縮がわずかに確認されるだけで、関節運動は起こらない 0 筋の収縮はまったくみられない 線維束性収縮:体のさまざまな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に「ピクピク」と細かく動く症状。 前回のコラムで紹介したとおり、線維束性収縮も下位運動ニューロン障害の存在を証明する大切な所見です。線維束性収縮は自覚でき、強く症状が出ているときは他人からも目視できますが、わずかな症状でも客観的に確認できる「針筋電図検査」を実施します。 針筋電図検査は、細い針電極を体のさまざまな部位の筋肉に刺し、筋肉のわずかな「ピクピク」を電気的な活動として捉えることで、まだ筋力低下が起こっていない早期の段階でも異常を発見できます。ただし、線維束性収縮は常にみられるわけではなく、同じ場所に起こるとも限りません。針を刺した場所とタイミングで「ピクピク」が出ていなければ、確実な診断が難しい場合もあり、そこにもどかしさを感じています。 なお、最も多いALSの症状の進行パターンは、まず左右どちらかの手や足の遠位部の筋力が低下していき、徐々に体の中心に近い部分や反対側の筋力が低下していき、全身に広がっていきます。 発症初期は、まだ筋力の低下は限局した部位にしかみられないため、この段階で診断するのはとても難しいです。 私の診断までの経過 発症と初めての受診 2015年、当時34歳の私は、アメリカのカリフォルニア大学(UCSD)に研究のために留学していました。同年の7月に、右手の指先の筋力低下と、利き腕である右腕が左腕よりも細いことに気がつきました。8月にUCSDの神経内科を受診すると、「ALSの可能性が高いので精査が必要です」と言われ、10月に帰国しました。 診断への長い道のり 帰国後、すぐに総合病院の神経内科を受診し、MRIや筋電図検査などで精査したところ、「まだ右腕だけに症状は限局しているものの、ほかの疾患は考えにくいので、おそらくALSだろう」と言われました。「もしかしたらALSではないのでは?」という私の淡い期待は崩れ去り、絶望と恐怖で一晩中泣いていました……。 しかし、その後、診断は二転三転したのです。 2015年11月 今後の治療法を相談していくために神経内科専門の病院を紹介され受診しました。そこで、担当の医師に「ALSと確定するのはまだ早いので、運動ニューロン病を専門としている大学病院の神経内科にセカンドオピニオンに行かないか」と提案されました。わらにもすがる思いだった私は、すぐに行くことを決めました。 同年12月 あらためて精査するために、紹介された大学病院に2週間入院することになりました。そこではMRIや筋電図検査に加えて髄液検査やエコー検査など、さまざまな検査をしました。 すべての検査結果が出て、教授回診のときに診断が告げられることになりました。尋常ではない緊張感で座って待っていた私のもとに、教授を筆頭に医局の医師たち、研修医、医学部の実習生たちなど10人以上がやってきました。そして、少しの沈黙の後に、教授が私の肩をポンポンと軽く叩き「よかったね、ALSじゃないよ」と言ってくれました。 その瞬間、私はあまりのうれしさと安堵感で、緊張の糸が切れ、その場で泣き崩れました。「先生、僕はまだ生きられるんですね!」と言って、人目もはばからず、大勢の前で泣きじゃくりました。そのときの診断名は「多巣性運動ニューロパチー」というものでした。 翌年(2016年)1月 診断名もついたことですし、私は神奈川県にある自分の所属する大学病院で仕事を再開しながら、治療をしていくことにしました。検査結果や紹介状を持参して、自分の所属する大学病院の神経内科を受診すると、「この診断は違うのではないか」と言われ、再度精査することになりました……。 感情が揺さぶられ過ぎて、まるでジェットコースターに乗っている感じで、精神的にどんどん削られていき疲弊していきました。結局そこでも筋電図検査をはじめさまざまな検査を行い、今度は「平山病」という診断になりました。平山病は手術をすれば症状の改善が見込めるため、手術をする予定になりました。 同年4月 手術の予定日が決まっていましたが、手術の直前に舌に線維束性収縮がみられたため、ALSと確定診断され、手術は急遽中止になりました。そのときの私は「自分はALSじゃないのか?」とうすうす気がついていたため、ショックという感情よりは、やっと診断が確定したことに対する安堵感のほうが強かったことを覚えています。 診断の難しさと私が伝えたいこと 私を担当してくださった神経内科専門医の皆さんは、本当に親身になって一所懸命に検査をしてくれました。それでも、そのつど診断名が変わり、確定診断に9ヵ月かかりました。そのくらい、発症初期の段階でALSを診断するのは難しいのです。 私と同じように、なかなか確定診断にいたらず、「つらくて不安な期間」を過ごしている方も少なからずいらっしゃると思い、今回は診断方法とともに私の経験談も書きました。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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分かりやすい! ALSの病態と症状
分かりやすい! ALSの病態と症状
コラム
2025年5月27日
2025年5月27日

分かりやすい! ALSの病態と症状

ALSを発症して10年、現役医師でもある梶浦先生が、ALSとはどういった病気なのか、分かりやすく解説します。 ALSへの理解がケアやリハに活かされる 「分かりやすい」と自分へのハードルを上げてから書き始めた今回のコラムですが、これには私なりの思いがあります。 これから書いていく具体的な日常生活の工夫やリハビリテーションの工夫を理解して取り入れていただくには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは「どんな病気で、なぜこんな症状が起こるのか」を簡単にでも知っておいていただきたいです。そのほうが、なぜこの工夫をするとよいのか、納得しながら実践できますので、より身につきやすいかと思います。 難しいことを難しく書くのは簡単です。ですが、私なりにできる限り簡単に説明しようと、自分を戒めるために今回このようなタイトルにしました。 ALS当事者の方が理解しづらい場合には、支援者である介護士や看護師、リハビリテーションスタッフの皆さんにはこれから説明することをぜひ参考にしていただき、利用者さんにお伝えいただければと思います。 ALS理解の鍵は運動神経のしくみを知ること 人体においての神経系は、機能的に大きく分けると運動神経と感覚神経、自律神経の3つに分類されます(表1)。 表1 人体の3つの神経系 運動神経体を動かす筋肉につながり、脳からの命令を筋肉に伝える神経感覚神経痛い、痒い、冷たい、熱い、何かに触れているなど、さまざまな感覚を脳に伝える神経自律神経体温、心拍、血圧、排尿、排便など、生きていく上で必要な機能を自然にコントロールしてくれる神経 ALSは、この中の筋肉を動かす運動神経だけが選択的に障害され、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の神経疾患です。 この運動神経のしくみを理解することがALSの病態を理解する上で、一番大切になってきます。 例えば、脳で「手を動かしたい」と考えるとします。すると、脳の中の運動神経細胞(上位運動ニューロン)からその命令が神経線維を伝わり、脳幹あるいは脊髄で次の神経細胞(下位運動ニューロン)に命令を伝えます。そして、この命令は下位運動ニューロンの神経線維を伝わり、手の筋肉に到達して手を動かします。 ALSで障害される場所は、脳から下りてくる上位運動ニューロンと、命令の乗り換えの場所(前角細胞)から始まる下位運動ニューロンの両方です。両方が障害されると、結果的に筋肉を動かすことができなくなってしまいます。 注)「運動ニューロン」という言葉が分かりにくい方は、運動ニューロンとは脳からの命令を筋肉に伝える「導線」のようなものだとイメージしてください 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働き では、実際上位運動ニューロンと下位運動ニューロンはそれぞれどんな働きをしているのでしょうか? 例えば、皆さんがペンで文字を書くときの繊細な動きをする場合と、りんごをわしづかみにするときの大胆な動きをする場合とでは、力の入れ方を無意識のうちに使い分けていると思います。 これは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが、お互いにバランスを取り合って、自然な動きになるように力の配分をコントロールしているためです。具体的には、脳からの命令を受けた下位運動ニューロン(下位運動ニューロンは筋肉に直接つながっています)が主に「アクセル」の役割を果たし、筋肉を動かします。一方、上位運動ニューロンは「ブレーキ」として機能し、下位運動ニューロンの「アクセル」の力加減を調整して、力が暴走しないようにしているのです。(図1を参照) 図1 運動神経のしくみ ALSの主な症状 ALSの初期症状は、上肢に現れることが比較的多いですが、患者さんによっては下肢や喉から症状が現れることもあります。進行すると徐々に自分の意思で身体を動かすことが難しくなり、ペンや箸が握れなくなったり、歩行が困難になっていきます。 口や喉が動かなくなると、話す、食べるといった行為が困難になり、誤嚥する可能性も高くなります。さらに進行すると、自身で呼吸することができなくなり、生きていくためには人工呼吸器が必要となります。また、ALSでは筋肉を動かす運動神経のみが選択的に障害されるため、感覚は残ります。また、意識ははっきりしており、精神的な働きは障害されないことも大きな特徴です(例外もありますが)。 次に上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働きをもとに、ALSに特徴的な症状を紹介します。 筋肉が「ガクガク」と痙攣して治まらない! アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、「ガクガク」と一定のリズムでその筋肉が動き続けることがあります。これは「クローヌス」と呼ばれる症状で、上位運動ニューロンが障害されることで起こります。つまり、「ブレーキ」が壊れることで、「アクセル」の制御ができなくなっている状態です。 筋肉が勝手にピクピクと動く! 体のいろいろな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に勝手にピクピクと細かく動くことがあります。これは「線維束性収縮」と呼ばれる症状で、下位運動ニューロンが障害されることで起こります。例えるなら、正常なら10本の下位運動ニューロンで動かしていた筋肉を、1本の下位運動ニューロンで動かさなくてはいけないという状態です。1本のニューロンにかかる負担が過度に大きくなり、がんばり過ぎることで勝手に動いてしまっている状態です(図2)。 この症状が起きている部分は、「アクセル」が壊れてきている場所なので、徐々に筋肉が細くなり、動かせなくなっていきます。 図2 下位運動ニューロンの正常な状態と障害された状態(線維束性収縮) ALSの4大陰性徴候とは ALSは全身の筋肉が動かせなくなっていく病気ですが、出にくい症状というものが4つほどあり、4大陰性徴候といいます。 (1)目は最後まで動かせる!手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。(2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。(3)感覚障害が起こりにくい!これは最初のほうでも書きましたが、見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。(4)「褥瘡」、いわゆる“床ずれ”ができにくい!徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 * * * これまでの症状を読まれた方の多くは、「感覚は残るのに動けないなんてつらすぎる……」と思われるかもしれません。ですが、このALSに出にくい症状を前向きに捉えて、うまく日常生活の工夫に取り入れていくことが、困難な状況の中でも、日々の生活をできる限り豊かにしていく方法なのだと思います!! なので、今後このコラムでALSの4大陰性徴候を活用して快適に生活する具体的な方法を書いていこうと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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特集
2022年3月15日
2022年3月15日

かぶれ?褥瘡?臀部が広範囲に赤くなっている場合のアセスメント

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第6回は、3日間下痢便が続き、臀部が広範囲に赤くなっている患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 98歳女性。 おむつで排泄しています。ここ3日間下痢便が続き、まったくベッドから出ない生活になってしまいました。臀部が広範囲に赤くなっているようです。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 臀部の発赤がみられる事例です。 皮膚のびらんの原因は、下痢便であることは確かだと思われます。発赤が紅斑化していれば、末梢血管がすでに損傷を受けていると判断されます。 ベッドから出ない生活、皮膚の浸軟、下痢による栄養状態の悪化・脱水から、褥瘡を生じている可能性も高いです。 どちらも、早期に適切な皮膚ケアを行うことで悪化を防ぐ必要があります。 ここに注目! ●下痢便による、びらんの可能性がある。●皮膚のびらんだけでなく、褥瘡を生じている可能性がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・皮膚トラブルについて(時期、範囲、経過、疼痛・瘙痒感などの随伴症状)・下痢の原因・頻度と経過・おむつ交換の回数と、陰部・臀部の皮膚の清潔ケアの方法と頻度 客観的情報の収集 かぶれ かぶれとは、化学的刺激への接触により皮膚炎を生じた状態です。紅斑や丘疹から始まり、びらんとなります。 便によるかぶれであれば、肛門部を中心に、下痢で汚染される範囲にみられます。真菌感染等を併発することもあるため、難治性の場合は速やかに報告する必要があります。 皮膚の清潔度 肛門部・臀部・陰部の清潔度合いを観察してください。きれいにできておらず便が残っていると、便による化学的刺激が除去されていないため、皮膚症状は改善しません。 また、きれいにしようとこすることによって、その摩擦により皮膚トラブルが悪化することもよくあります。清潔度とともに、どのようなケアを家庭で行っているかを確認するとよいでしょう。 褥瘡  褥瘡の好発部である、体圧が集中する仙骨部の皮膚を観察します。周囲のかぶれとの違いを観察し、赤みが強い場合は、紅斑化している可能性が高いので、一時的な発赤なのか、紅斑化した初期の褥瘡かを、判別することが重要です。 紅斑化した初期の褥瘡では、出血や滲出液がみられないため、視診した際には単に「赤くなっている」という印象しかありません。褥瘡好発部位に発赤を発見した場合は、それが紅斑化していないかを必ず確認してください。 紅斑化している場合は、押しても白くならず赤いまま、または、赤みが戻るスピードが速くなります1)。これは、毛細血管に障害があって血流が妨げられているサインです。Ⅰ度の褥瘡になっていると考えられる状態です。これを見逃さず、早めの対処をしましょう。早期発見は早期治癒への近道です。 さらに、水疱があり、滲出液が出ている場合はⅡ度と判定されます。早めに褥瘡・皮膚ケアの専門家に状況を伝えて、相談してください。 報告のポイント ・皮膚トラブルの部位、範囲、湿疹の種類、分布の特徴、随伴症状・褥瘡の有無とリスク・下痢の原因と経過 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)日本褥瘡学会学術教育委員会ガイドライン改訂委員会.褥瘡予防・管理ガイドライン.第3版.http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline3.pdf

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コラム
2022年10月25日
2022年10月25日

ALS患者最大の選択肢。気管切開するか? しないか?

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、気管切開をするかしないかの葛藤を経て、ALS患者さんや支える人に伝えたい梶浦さんのメッセージです。 ALS患者が通る大きな決断 ALS患者は、その診断名を告げられてから、つらい選択肢をいくつも乗り越えていかなければなりません。仕事をやめるタイミングや、自分で食べることを諦めて人に食べさせてもらうタイミング、歩くことを諦めて車いすで移動するタイミングなど、さまざまなことを決断しないといけません。 そのなかでも大きな決断は、「胃瘻を作る手術をするか?」「気管切開をして侵襲的人工呼吸療法(TPPV)を行うか?」だと思います。 「胃瘻を作る手術をするか?」に関しては、第7回でも書きましたが、早期に行うことを強くおすすめします。ALSでは栄養療法がとても重要ですし、嚥下が困難になったときの栄養や薬剤の投与経路を確保する点でも、とても大切です。 「気管切開をするか?」に関しては、多くの患者さんがいちばん悩むところでしょう。 気管切開をするか? しないか? 気管切開をするほうがよいのか・しないほうがよいのかについては、簡単に答えが出せる問題ではありません。患者さん自身を取り巻く環境や、人生観によって大きく左右されることになります。 最終的には本人が決めていくことになるのですが、本当は生きたいのに、家族に負担をかけたくないという思いから気管切開を諦める人もいます。体も動かせず、声も出せない状態になることが想像できず、生きていける自信がないという理由から気管切開を決断できないでいる人もいます。また、残念ながら医療者側の無知により、気管切開をする選択肢を奪われてしまう人もいます。 そのような理由から、日本のALS患者で気管切開を行う人はわずか20~30%にとどまります。この数字を見た人の多くは、やはり気管切開をして生きていくことはハードルが高く、過酷な選択であると感じるでしょう。 しかし、本連載の第4回でも書きましたが、欧米では気管切開を行う人は数%~10%強ですので、世界からみたら日本は飛びぬけて気管切開を行う人が多い国ととらえられています。その理由はさまざまだと思いますが、大きな理由として上げられるのは、日本は非常に医療福祉に厚い国であることでしょう。 公助を上手に使いましょう 重度の肢体不自由者などの要件を満たす患者さんであれば、障害者自立支援法の重度訪問介護制度の対象です。重度訪問介護を使えば、介護保険とは別にヘルパーによる訪問介護サービスを受けることができます。一人ひとりの身体状況や同居家族の状況などをふまえて各市町村がサービス時間を決定するのですが、最大で一日24時間365日のサービスを受けている人もいます。(市町村ごとに独自の決定権があるため、市町村によってバラつきがあるのが難点ですが…。患者・家族が粘り強くサービスの必要性を訴えていかないといけません。) この重度訪問介護による訪問介護サービスと、介護保険による訪問介護サービスはそれぞれ独立した制度ですので、これらをうまく組み合わせれば、多くの時間を家族以外の人に支援してもらえるようになり、家族の負担を軽減できるようになります。 介護の基本は「自助→共助→公助」ですが、ALS患者は自助や共助ではどうしようもできない段階が来ます。なので公助をうまく使い、生きやすい環境を整えてください。 諸外国と比べても、こんなに手厚いサービスを受けられる国などなかなかないので、日本人に生まれてきて本当によかったなぁとつくづく思います。日本という国は気管切開して人工呼吸器をつけて生きていくには、とても恵まれた環境にあると思います。 気管切開をするか、しないか、悩んでいるALS患者さんへ さまざまな心の葛藤があるかと思います。しかし、「生きたい」という気持ちがあるのであれば、どうぞそのお気持ちを大切になさってください。私は大学病院で医師をしていたころ、生きたいと思っていても、生きられなかった患者さんを何人も見てきました。生きたい気持ちがあり、生きられる選択肢がある自分はまだ幸せなのだなぁと思ったりもします。気管切開をして、この先どうなっていくのかは私自身もわかりません。つらいこともあると思います。でも私は気管切開を行うことで呼吸苦から解放されて、たくさんの幸せな時間を過ごすことができています。そのことを考えたら、この先どんな状況になっても、気管切開をしたことを後悔はしないだろうなと思っています。 この文章は、気管切開をするかどうか悩んでいたALS患者さんから相談を受けたときに、私が送ったメールの一部です。その人からは、先の見えない不安や恐怖と闘いながらも、心の底にある「生きたい」という気持ちが伝わってきました。今は無事に気管切開を終えられています。 これはあくまでも私個人の考えかたです。気管切開をしないという考えかたを否定するものではありません。気管切開をしないという決断も立派な選択肢の一つだと思います。 ただ、この記事が、同じ心の葛藤を抱えたALS患者さんの「生きたい」という気持ちに少しでも寄り添い、心の支えになれたら嬉しいです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇荻野美恵子.『日本におけるALS終末期』臨床神経.48,2008,973-5.

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コラム
2021年9月28日
2021年9月28日

positiveに生きよう! 〜ALSと診断されてからの経過と心の葛藤〜

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載。第2回は、診断前後の日々と葛藤の様子をお話しします。「enjoy!ALS」と思えるまでの心の動きは…… 「今の自分にできることを考えていこう!」 私は体も動かないし、声も出せないが、内面は何も変わっていない。 できなくなったことも多いし、大変なことも多いが、できることも、まだまだたくさんある。 できなくなったことを悔やむのではなく、今の自分にできることだけを考えて、生きていこう! ALSと診断されてから、すぐにそう考えられたわけではありません。そこまでには、さまざまな苦悩や葛藤がありました。 ALSという病気は、今まで培ってきたキャリアや地位やプライドがひっくり返されて、まったく違う人生を歩んでいかないといけない病気です。 そこで、まず私がALSと診断されてから在宅加療を開始するまでの、経過と心の葛藤についてお話ししたいと思います。 留学先で、「何かおかしい!?」 前回もお話ししましたが、私は大学病院で皮膚科医として勤務しながら、「毛包幹細胞」について研究をしていました。その研究のため、2015年の4月に、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学しました。 留学中は毎日趣味のサーフィンをしてから、職場に行く、充実した日々を過ごしていました。ところが、7月ごろから、少しずつ文字が書きづらくなってきたことに気が付きました。 当初は疲れているだけかと思い、さほど気にしていませんでしたが、8月になっても治らず、右腕が左腕よりも細いことに気が付きました。 さすがにおかしいと思い、自分の症状について調べはじめました。ちょうどサーフィンで首を痛めていたこともあり、同僚の整形外科医にも相談し、頸椎症や椎間板ヘルニアなどの可能性を考えMRIを撮りましたが、明らかな異常はありませんでした。するとUCSDの神経内科を紹介され、診察してもらうと、すぐにALS専門医に紹介されました。 何が何だか…… その時点で頭が真っ白になっていました。専門的な話を英語で説明され、さらに、何が何だかわかりませんでした。ただ、最後に「ALS専門医の貴方からみて、私はALSだと思いますか?」と聞くと、「多分ALSだろう」と言われたことだけは、はっきり覚えています。 その瞬間、後頭部をハンマーで殴られたような衝撃が走りました。事態が飲み込めず、ただただ呆然としていました。徐々にその診断の重さを理解して、気がついたら帰り道で号泣していました。 当時、私は34歳でした。2歳になる息子もおり、これからのことを考えると、恐怖と絶望で胸が張り裂けそうでした。ただそんななか、妻だけは気丈に振る舞い、私を支えてくれたおかげで、何とか正気を保つことができました。 まだ診断が確定したわけではないため、急いで帰国して精査しました。その後、さまざまな病院で検査するも、なかなか確定診断がつきません。さまざまな診断名を言われ、そのたびに一喜一憂する日々が続き、精神的にかなり疲弊して行きました。 結局ALSと確定診断されたのは、症状が出現してから9か月後の、2016年4月でした。そのときには右腕以外にも症状が出現しており、ALSの診断に納得したのを覚えています。 ALSと確定してから その後の日々は、今までとはまったく違うものでした。 すぐに仕事に復帰し、元どおりの生活を再開しましたが、右手が動かずカルテが書けなかったり、手術ができなくなったり、今まで当たり前のようにできていたことが、徐々にできなくなっていきました。なぜこんなことになってしまったのか? 何かの間違いではないか? と、自問自答を繰り返す日々が続きました。いくら考えても答えは出るはずもなく、考えれば考えるだけ気分が落ち込むだけでした。 時間があればいろいろ考えてしまいます。暇な時間を作らないように、一生懸命仕事をし、たくさん息子と遊び、映画を観て、ボーッとする時間をなくすようにしました。そして遠い未来のことは考えすぎず、今の自分の状態でできることだけをやるようにしました。 どうしても、つらく悲しくなるときは、ため込まず思いっきり泣くようにしました。よく手嶌葵さんの『明日への手紙』を聴き「明日を描こうともがきながら、進んでいく」という歌詞に自分を投影して泣いたのを覚えています。 そうやって、ストレスをコントロールしながら徐々に病気を受け入れて、自分の症状と向き合っていきました。何よりも妻が常にサポートしつづけ、息子がそばにいてくれたおかげで、前向きにやってこられました。 限界まで現場に出たい 私は医師という仕事が大好きです。限界まで、現場で働いて、直接患者さんを診療したいと思いました。 パソコンのキーボードがうてなくなったら音声入力装置を使い、歩けなくなったら電動車いすで通勤し、何とか診療を続けることができました。最後は声が出しづらくなっていましたが、同僚が自分の手となり声となって、ペアで診療してくれました。 さすがに、最後は患者さんより自分のほうが明らかに重症で、患者さんたちに心配されてしまい、診療が滞ってしまったため、2019年3月に退職し、東京の実家に戻り在宅加療を開始しました。 次回は、在宅加療を開始してから今に至るまでの経過をお話ししたいと思います。 私の主治医であるさくらクリニック練馬の佐藤先生が、クリニックのブログに前回コラムの感想を載せてくれました。よかったらこちらもご覧ください。 ** コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版

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特集
2022年3月29日
2022年3月29日

[3]身体の死後変化はエンゼルケアの必須知識!

死後のご遺体の変化に驚かれるご家族が少なくありません。ご家族にきちんと説明できるためにも、死後の身体変化に関する情報をしっかりと押さえておきましょう。また、どういった変化が生じるのか把握しておくことで、変化を最小限に抑える対処が可能ですし、さまざまな身体変化に遭遇しても冷静に対応することができます。 亡くなった高齢女性Aさんのご家族から困惑した声音で、担当だった看護師に電話がありました。 「おばあちゃんの口のまわりに灰色の輪がくっきりと浮き出てきたんです。不吉なことなんじゃないかって言う人もいて・・・・・・。一体、何なんでしょう、これ」 Aさんは黄疸が出ていたために、その死後変化として皮膚に変色が起こったのです。黄疸をもたらしているビリルビン色素の酸化亢進などによって時間とともに変色が起こります。毛根部が変色の生じやすい部位で、髪の生え際や眉、ひげ(あるいは口まわり、女性も口周囲にうぶ毛があるため)などに注意が必要です。 Aさんのご家族はそれを知らなかったため驚かれたのですね。看護師は異常事態ではないことを伝え、対処法などを次のように説明し安心していただきます。 「黄疸が出ていた方は、お口のまわりがくすんで輪のように見えることもあります。自然な変化ですから、ご心配はいりません。気になるようでしたら、その部分をファンデーションでカバーしていただいて問題ありません」 そして、必要に応じてファンデーションを使用したカバー方法なども説明します。 望ましいのは、黄疸のある肌は時間の経過とともに皮膚に変色が生じると思われることを、あらかじめエンゼルケアのときに説明できることです。さらに、最も望ましいのは、そのことを含めて死後変化のことなどが書いてある文書をお渡しすることです。文書については、連載の最終回でふれる予定ですので参考になさってください。 身体の死後変化の知識を得ておくことは、エンゼルケアを行ううえで必須です。亡くなった人のそれまでの身体の状態を把握している看護師は、例えば前出の黄疸の出ている方のように、変化についてのさまざまな配慮・対応が可能なためです。 知っておきたい身体の死後変化の特徴 では、ここで「身体の主な死後変化」を図1に示します。 図1 身体の主な死後変化 ( )内は、変化が始まる目安の時間を示す。変化の強度や速度には個人差がある。各項目の詳細については以下を参照。筋の硬直(死後硬直)(1時間~)筋弛緩後、下顎(1~3時間)、全身(3~6時間)へと硬直が進む。循環停止により酸素供給が停止することなどによる。死後半日から1日の間に硬直のピークを迎え、その後、解けはじめる。死の直前まで筋肉を使用していたり(急死)、高齢ではない場合などは硬直が強く表れる。体表面の乾燥(3時間~)循環停止によって内部から体表面への水分補給がなくなり、自力で保湿できなくなり乾燥する。特に外気にふれている頭部(その中でも口唇)は乾燥が急激に進む。表皮が失われている箇所や開放性の創部も乾燥しやすい。また、乾燥とともに皮膚の脆弱化も進む。水分量の多い乳児・小児は、成人よりも乾燥傾向が強い。顔の扁平化(直後~)重力の影響による。蒼白化(30分~)重力の影響を受け、比重の重い赤血球が沈下することで、皮膚の血色が失われる。全身の上面に生じるが、露出している顔面が特に目立つ。顔のうっ血(3時間~)急性の心疾患で亡くなった方に生じることが多い。腐敗(6時間~)恒常性の消失で細菌バランスが崩壊し、細菌群(中温菌)が異常繁殖することによって生じる。腹腔内からはじまり胸腔内、そして全身に広がる。身体の状態(水分が多い、栄養が多い、温かいなど)によって腐敗の進行度が変わる。体温低下(直後~)恒常性の消失で、気温の影響をまともに受ける。上下肢の末端部や外気にふれる顔面などから低下する。体幹部は下がりにくい。止血しづらくなる血液の凝固因子が大量に消費されることなどから、止血しづらい状態になる。黄疸の方の皮膚色の変化(24時間~)黄疸をもたらしている色素の酸化亢進などによって生じる。黄色→淡緑色→淡緑灰色に変化する。 さまざまな変化を図1で把握するとともに、全体的な変化の特徴として次の4点も押さえておくとよいでしょう。各タイミングでの判断に役立ちます。 ①死後の身体は「不可逆的に変化する」 図1に示した変化をはじめとして、死後変化のすべては不可逆的に進行します。つまり、変化する一方で、元の状態に戻ることはありません。生きているときのように、維持しよう、回復しようと身体は機能しません。 例えば、口唇は粘膜のため特に乾燥しやすい部分です。時間とともに乾燥が進み、表面が茶褐色に変色してしまったり、口唇全体の厚みが減ってしまったりし、それらが元の状態に戻ることはありません。ですから、早い段階で油分を塗布するなど、乾燥防止を行う必要があるのです。 ちなみに、葬儀社の方から看護師に対して「とにかく唇だけでも早めに油分を付けておいてほしい」と言われることがあります。葬儀社の方が担当する段には、すでに口唇の乾燥が極まってしまっていることがあるからのようです。 エンゼルメイクを含むエンゼルケアの時点で何をしておくべきなのかを判断し、実施することがポイントになってきます。 ②死後の身体変化は「予測しきれない面がある」 どんな死後変化がどの程度、どんな速さで起こるのか、エンゼルケアの時点ではその後を予測しきれない面があります。その大きな理由として、次の2点が挙げられます。 ・個体差を厳密には予測できない死後の身体変化は、死に至ったときの身体状態により個体差があります。例えば、体内の水分量が多く、さらに亡くなるまで高熱が続いていた場合は腐敗が早く強く出るかもしれないというようにおよその予想はできますが、厳密な予想はできません。 ・管理状況に左右されるご遺体は、身体の状態を一定に保つ機能は働いていないので、気温、湿度など身体を取り巻く環境の影響をまともに受けます。皆さんの手が離れた後、例えば暑い日などに適切な冷却がなされなければ急激に腐敗が進み、体液が漏れ出たりします。 身体の変化に困惑したご家族から問い合わせや相談の連絡があったなら、まず「お身体はいろいろな変化が出るのが自然のことです。異常事態ではないので心配はいりませんよ」と応対し、具体的な対応方法を説明するとよいでしょう。 ③死後の身体は「傷みやすい」 死後の身体変化が生じているイメージをつかんでほしいと思い、あえて「傷む」という表現を使います。 例えはあまりよくありませんが、釣ってきた魚を暖かい日に冷却もせず、ラップもかけずにテーブルの上に放置してしまうと、魚は急激に傷んでいきますね。人の身体も何もしなければ同じように傷んでいきます。 冷却や乾燥防止対策を行い、なるべく変化を抑えますが、抑えきれないケースも少なくありません。ただ現在は、亡くなった人との対面時には、衣類や花などでカバーされて目にふれないような配慮がされており、私たちは「傷む」という自然現象を忘れがちです。このことを含んでおいて、必要なときに「ご遺体は傷みやすいですよ」とご家族に説明します。 ④死後の身体は「重力の影響を受ける」 図1に示した「蒼白化」や「顔の扁平化」は重力に抗えなくなった結果、起こる変化です。他にも、身体の後面に開放性の創部(褥瘡など)がある場合は滲出液が漏れ出やすいので、あらかじめ対応をしておくといった判断ができます。 また、図1に示したように血液は止血しづらい状態になるため、鼻出血などがあると長く出続けることがあります。その場合は枕の高さを変えたり顔の向きを変えるなどし、重力の働く方向を変えることで、体外への出血量を減らせることがあります。 ご家族がご遺体を「起立させてほしい」と希望した例では、担当の看護師は便漏れなどがないように、重力の影響を考えながら希望に応じたとのことでした。 ワンポイントメモ臭気の話死後の早い段階で、気になる臭いが発生しやすい場所は、口腔内と瞼内です。 下顎が、早ければ死後1時間程度で硬くなるため、臭気防止のために口腔内だけは早めにケアを行います。マウスケア用のスポンジやガーゼなどで汚れを拭ったり、可能であれば歯磨きもします。瞼内のケアでは、眼脂に注意します。眼脂などの分泌物からも臭気発生の恐れがあるため、綿棒で拭うなど可能な範囲で除去しておきます。 腐敗による臭気もその後発生します。エンゼルケアの段階で行う臭気対策は、第4回で解説する冷却が有効です。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!
「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!
コラム
2022年11月29日
2022年11月29日

「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、嚥下機能が低下しても誤嚥を起こさなくする、誤嚥防止術のお話です。 誤嚥防止術という選択肢 ALS患者さんで、気管切開は受けても、誤嚥防止術まで受ける人はかなり少ないのが現実です。 気管切開をするかどうかギリギリまで悩んで、結果的に呼吸状態が悪化して緊急処置として気管切開をする人もいます。また気管切開をするかどうかで頭がいっぱいで、その先にある誤嚥防止術のことまで考えられない人や、そもそもその選択肢を知らない人もいます。 気管切開をして人工呼吸器をつけて生きていくと決めた人には、誤嚥防止術を受ける選択肢もあることを、ぜひ知っておいてほしいと思います。 気管切開をするとどうなる? 気管切開という手術は、文字どおり気管を切開して、気管と外部(皮膚)を交通する孔を開ける方法です。その孔に外部からカニューレという管を入れて、そこに人工呼吸器をつないで呼吸をサポートしてもらいます。 この方法で安定した呼吸状態が確保されます。カニューレには、空気で膨らむ風船のようなもの(カフ)が付いています。カフを膨らませることで、カニューレを気管内に固定することができ、同時に、喉から気管内に垂れ込んでくる唾液をせき止める働きもします。しかし、垂れ込みを完全に予防することはできず、カフの脇から垂れ込んだ唾液は適宜吸引しないといけません。吸引しきれず肺の奥に落ちてしまった唾液は、誤嚥性肺炎の原因になってしまいます。 唾液の垂れ込みを防ぐ誤嚥防止術 唾液の垂れ込みを完全に防ぐために気道の一部を閉鎖する手術が、「誤嚥防止術」です。喉頭を温存するか・気道をどの部分で閉鎖するか(声門上か、声門部か、声門下か)などによって、いろいろな術式があります。 以上のように、さまざまな術式がありますので、誤嚥防止術を検討される人はぜひ主治医と相談してみてください。 誤嚥防止術のメリットとデメリット 私は将来的に誤嚥防止術を受けると決めており、手術や入院の回数を減らすため、気管切開+声門閉鎖術を同時にしました。 嚥下機能・発声機能が残っている人や、いきなり誤嚥防止術を受けることに抵抗がある人は、呼吸状態を安定させる目的で、まずは気管切開のみで様子をみる。その後嚥下機能が低下して、唾液の垂れ込みが多くなって気管吸引の回数が増えたり、誤嚥性肺炎を起こしたりがあれば、改めて誤嚥防止術を行うという方法もあります。 誤嚥防止術を行うメリット・気管吸引の回数が減るので、本人・介助者ともに負担が軽減される・誤嚥性肺炎を起こすリスクがなくなる・誤嚥をするリスクがなくなるので、多少の嚥下機能が残っていれば、食べかたの工夫(後述)しだいで長期間食事を楽しめる誤嚥防止術を行うデメリット・発声を失う・気管切開のみ受けた人は、もう一度入院して手術を受けなければならない・手術をできる医師と施設が少ない 食べかたの工夫 以下は、私が行なっている方法です。個々の嚥下機能に依存しますので、すべての人ができるわけではありませんので、お試しする際は必ず主治医の同意のもと、言語聴覚士(ST)さんとともに行なってください。 嚥下の工夫 嚥下機能が低下していて気管切開(誤嚥防止術)をしていない場合は、誤嚥を予防するために顎を引くようにして嚥下するのがよいです。頸部を後屈した姿勢で嚥下しようとすると誤嚥しやすくなるので、注意が必要です。 誤嚥防止術を受けている場合は誤嚥をする心配がないので、逆に、頸部を後屈したほうが飲み込みやすいです。頸部を後屈した姿勢で、食べ物を飲み込むタイミングで介助者に顎を上げてもらい、嚥下反射を促してもらいながら、重力を利用して食事を喉の奥に落とすイメージで嚥下します。表現が悪いかもしれないですが、鵜飼いの鵜のイメージです。私はベッドの角度を40度まで上げて、枕を薄くして首を後屈した状態で食事をとるようにしています。 食形態の工夫 残存する嚥下機能にもよりますが、一般的には、食事の形態もできるかぎりペースト状やトロミ食のほうが、嚥下はしやすくなります。粒状のものは、喉の奥に引っかかる感じがして嚥下しにくく、私の場合は喉の奥を綿棒でつつかれた感じがして、嘔吐反射を起こします。 私は、固形物を食べたいときは、ガーゼに包んで奥歯で咀嚼し、食事の味だけを楽しんでいます。味を搾り出した後はガーゼごと取り出します。この方法はかなりおすすめで、果物など汁気の多い食べ物はもちろん、焼肉やお刺身から、ラーメンなどの麺類まで、幅広く楽しむことができます。 ちなみに私は、焼肉をガーゼに包んで奥歯で咀嚼して味を絞り出した後に、味付けした生卵とお粥を食べて、「すき焼き風」にして楽しむことが多いです。 液体の飲みかたの工夫 飲み物などの液体は、嚥下機能が弱くても重力を利用して比較的簡単に摂取することができます。ただ、コツがいります。ふつうのコップで飲もうとすると口の脇からこぼれてしまいます。 上述した食事のときの体勢をとり、介助者に顎を上げてもらい後屈した姿勢を保ちながら、舌の真ん中~やや奥に飲み物を入れるとこぼさずにうまく飲めます。 私は30mLのカテーテルチップ型シリンジに飲み物を入れて、口に差し込んで飲んでいます。この方法ですと、ちょうどシリンジの先端が舌の真ん中あたりにきます。目盛が付いているため一回に入れる量も調整しやすく、おすすめです。 味覚変化をふまえた介助の工夫 誤嚥防止術をしてもしなくても、気管切開をして人工呼吸器を装着すれば、鼻腔に空気は通らなくなるため、匂いはほとんどわからなくなります。 また私の場合は味覚も変化しました。甘味・塩味は変わりませんでしたが、苦味・酸味・辛味などは強く感じるようになりました。特に苦味はかなり強く、大好きだったコーヒーやビールは飲めなくなりました(人によると思いますが)。 ちなみに、甘味・塩味は舌先で感じるので、介助者には舌の手前~真ん中に食べ物をのせるように食事介助してもらうと、より味を感じやすくなると思います。 以上、私が思いつくかぎりのメリット・デメリットを書いてみました。誤嚥防止術を行うかどうかの参考にしていただけたら幸いです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇荻野美恵子ほか編.『神経疾患の緩和ケア』東京,南山堂,2019,364p.

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コラム
2021年8月31日
2021年8月31日

私はALSを発症して6年になる40歳の医師です

enjoy! ALS 『enjoy! ALS』では、ALS患者として在宅療養をしながら、現在も診療を行っている現役の医師が、ALSに関するpositiveな情報をお届けします。 まず簡単に自己紹介を 私はALSという病気を発症して6年になる40歳の医師です。もともと、大学病院で皮膚科医として勤務しながら、医学部と看護学部で皮膚科の講義を行なったり、『毛包幹細胞』について研究したりしていました。2015年に研究のため、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学したのですが、同年の7月にALSを発症して帰国してきました。帰国後は、さまざまな検査や治療をしながら、同僚のサポートのもと大学病院で医師として診療を続けていました。徐々に手が動かなくなっていったため、カルテは音声入力で記録。歩けなくなったため、電動車いすで通勤……など工夫をしていましたが、発声が困難になってしまったため、2019年の3月に退職しました。 その後は自宅で、皮膚科医として遠隔診療をしながら、現在に至るまで在宅加療を続けています。診療の対象は、離島など皮膚科医のいない地域の患者さんや、私のように在宅療養しており皮膚科医の診察を受けられない患者さんで、iPadで画像や問診票を見て診療する形です。 このたび、お世話になっている訪問看護師さんから、「NsPaceでコラムを書いてみないか?」というお話をいただきました。すぐに「やります」と答えました。自分で言うのもなんですが、私は医師で、若年発症のALSという、かなりまれな患者です。発症してから国内外問わずさまざまな論文を読んでALSに関する知識を深めてきましたし、工夫をこらして快適な生活環境を作ってきました。 その中で強く感じたのは、「世の中にはALSに関してnegativeな情報が多すぎる!!」ということ。 あふれるnegativeな情報 ALSと診断された患者やその家族、それにかかわる看護師や介護士が、まずインターネットなどでALSを調べると、 “ALSは進行性の神経難病で、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていき、治療法はなく、発症してからの平均余命は2〜5年” そんな乾いた文字だけが針のように突き刺さってきます。それは、今までのALS患者の症状や経過をただ統計学的にまとめて、羅列しただけ。 そういう私も約20年前、医学部生だったころに神経内科の授業でそう習いました。なんてつらくて、無慈悲な病気なんだと思い、絶対になりたくない病気ランキングワースト3には必ず入っていました。その当時はまさか自分がなるなんて思ってもおらず、ただ他人ごとのように授業を聞いていたものです。 つらい・残酷なだけの病気なのか しかし、そんな文字からは、現場の生の声は、入ってこないのです! 確かにALSは今でも治療法はありませんが、私が医学部生の時代とは違い、病態はわかってきています。運動ニューロンの中にTDP-43という異常なタンパク質が蓄積して、それが細胞死を引き起こしているということです。なんでTDP-43が蓄積するのか? どうすればそれを除去できるのか? それがわかれば根本的な治療につながってくるのですが、そこはまだ時間はかかりそうです。 しかし、ALS患者を取り巻く環境は劇的に進歩してきています!特にコミュニケーションツールの発展は目覚ましいものがあります。私は2021年2月に気管切開+声門閉鎖手術をしたため、声は出せず、目と口、足が少し動くくらいです。でもそれだけ動けば、できることが山ほどあります。歯のわずかな動きでiPadを操作して、皮膚科医として月100〜300人の患者さんを診察しているし、YouTubeやNetflixなども見ることができます。また、iPadに赤外線リモコンを記憶させて、テレビをはじめ、エアコンや扇風機など、さまざまな家電を操作することができます。目の動きだけで文字盤など何も使わずに会話することができるし(後々紹介します!)、目の動きだけでパソコンを操作して、大学で講義をする時のPowerPointスライドを作っています。ほかにもできることはたくさんあるし、やりたいこともたくさんあって、毎日時間が足りません。 ALSと前向きに向き合っていく人たちへ 私は日々充実して本当に楽しく過ごしています。 多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!ALSと前向きに向き合っていく、患者とその家族、周りの医療スタッフに、ただただpositiveで有益な情報を伝えたくて、このコラムのタイトルをつけました。『enjoy! ALS』 **コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

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