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溶連菌感染症の原因・症状・対処法
溶連菌感染症の原因・症状・対処法
特集
2024年4月16日
2024年4月16日

溶連菌感染症の原因・症状・対処法。大人の感染や気づかず放置した場合は?

溶連菌感染症は、子どもがかかるイメージが強いかもしれませんが、大人もかかる可能性があります。また、溶連菌といえば、ニュースやドキュメンタリー番組でしばしば聞く「人食いバクテリア」が気になる方も多いのではないでしょうか。この記事では、溶連菌感染症の症状や原因から大人の感染、治療法、ワクチンなどについて解説します。 溶連菌感染症とは 溶連菌(溶血性連鎖球菌)感染症とは、主にA群溶血性レンサ球菌の感染によって引き起こされる感染症です。菌が侵入した部位や組織に応じてさまざまな症状が現れます。「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型溶血性レンサ球菌感染症への進展も懸念されるため、放置せずに医療機関を受診することが大切です。 溶連菌感染症の症状 溶連菌感染症は、2~5日の潜伏期間を経て発熱や全身倦怠感、咽頭痛、軟口蓋の小点状出血、いちご舌、嘔吐などの症状が現れます。また、溶連菌の発赤毒素という酵素によって、咽頭痛と発熱、皮膚症状として皮疹が現れる場合があります。この状態はかつて「猩紅熱(しょうこうねつ)」と呼ばれていました。なお、皮膚症状をきたす溶連菌感染症は夏に、咽頭に症状が現れるものは冬に流行する傾向があります。 溶連菌感染症の原因 溶連菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌が飛沫感染か接触感染することでかかります。家庭だけではなく、学校や会社などで集団感染が起きる場合もあります。 溶連菌感染症にかかりやすい年齢は?大人もかかる? 溶連菌感染症は年齢を問わず罹患する可能性がありますが、学童期の子どもに多くみられます。また、3歳以下や大人は感染しても典型的な症状が現れず、軽症で済む傾向があります。 溶連菌感染症の治療法 溶連菌感染症の治療には、ペニシリン系抗生物質の内服薬を使用します。ただし、薬剤に対するアレルギーがある場合は、第1世代のセフェム系抗生物質やマクロライド系抗生物質のエリスロマイシンの使用も可能です。最低でも10日は内服を続ける必要があります。それでも細菌を除去できていないと思われる場合には、追加で別の抗生物質を使用します。 なお、溶連菌感染症は学校保健安全法で「第三種学校伝染病」に指定されており、治療開始から 24 時間が経過し、全身状態が良ければ登校・登園が可能です。会社についても同様の扱いで出社できます。ただし、溶連菌感染症は重症化のリスクもあるため無理は禁物です。 溶連菌感染症に有効なワクチンはない 溶連菌感染症の予防や症状の軽減に有効なワクチンは、製造されていません(2024年2月現在)。そのため、感染予防と発症時の適切な対処がより重要といえます。また、溶連菌に感染しても終生免疫ができるわけではないため、生涯で複数回かかる可能性があります。周りに溶連菌感染症の人がいる場合は、うつる可能性を踏まえて対応することが大切です。 溶連菌感染症を放置するとどうなる? 溶連菌感染症は、抗生物質による治療を行わなくても自然に治癒する場合があります。しかし、重症化する可能性があるため、症状が現れたら放置せずに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。溶連菌感染症の重症化に関して、警戒すべきは「人食いバクテリア」とも呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。 人食いバクテリアとは 人食いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)の場合、皮膚や粘膜から通常は無菌の肺や筋肉、脂肪組織や血液に溶血性レンサ球菌が侵入し、発症します。手足の壊死や多臓器不全、肺炎などにより死亡することもある疾患です。発熱や食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、全身倦怠感、低血圧、筋肉痛などから始まり、循環器や呼吸器などさまざまな臓器の機能が低下します。 通常、発症から24時間以内に多臓器不全が起きるという、急速に病状が進展する疾患です。国立感染症研究所によると1)、A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発症数は2023年に340例(死亡97例)です。そのうち、20歳未満は約4%、20~49歳が約24%、50~69歳が35%、70歳以上が約37%で、大人のほうがかかりやすい疾患といえます。少しでも症状が現れた場合はすぐに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。 * * * 溶連菌感染症は、発熱や咽頭痛、皮膚症状などを伴う感染症です。猩紅熱や人食いバクテリアへと進展するかどうかは発症時にはわかりません。訪問先で利用者さんやその家族に溶連菌感染症を疑う症状がみられた際は、医療機関を受診するよう促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長  医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【引用】1)国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html2024/2/6閲覧 【参考】〇NIID国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html2024/2/6閲覧〇国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html2024/2/6閲覧〇厚生労働省「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html2024/2/6閲覧

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ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
特集
2025年4月22日
2025年4月22日

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?

ヒトメタニューモウイルス感染症は、乳幼児や高齢者を中心に発症しやすい呼吸器感染症の1つです。症状はRSウイルス感染症とよく似ており、発熱や鼻水、咳が現れるほか、重症化すると呼吸困難を引き起こすこともあります。 本記事では、ヒトメタニューモウイルス感染症の症状や原因、RSウイルスとの違い、感染経路や治療法について解説します。訪問看護の利用者さんが風邪のような症状を訴えた際のアセスメントに役立ててください。 ヒトメタニューモウイルス感染症とは ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)感染症は、特に乳幼児に多くみられる呼吸器感染症です。健康な成人や児童では、軽い風邪症状のみで経過することが多く、無症状のまま終わる場合もあります。しかし、乳幼児や高齢者、心肺疾患や神経筋疾患などの基礎疾患がある方、免疫不全状態の患者では重症化する危険があるため、RSウイルス感染症と並び、注意が必要な病気の1つとされています。 RSウイルス感染症は感染症法に基づく届出対象疾患であり、発生状況の把握が行われていますが、ヒトメタニューモウイルス感染症は届出対象ではないため、正確な流行状況を追跡できません。 ヒトメタニューモウイルス感染症の症状 ヒトメタニューモウイルス感染症は、感染後3~5日以内に鼻水や発熱が見られることが一般的です。軽症の場合は、発熱や咳嗽、鼻汁、咽頭痛、倦怠感など風邪に似た症状が現れますが、重症化すると、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難感が生じ、肺炎、細気管支炎へ進行することがあります。 初めて感染する小児では咳や喘鳴が生じることもあります。特に、生後6ヵ月未満の乳児の場合、初期症状として一時的に呼吸が止まる無呼吸発作が起こることがあります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の原因 ヒトメタニューモウイルス感染症は、ヒトメタニューモウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症です。このウイルスは2001年にvan den Hoogen(オランダ)らによって小児の気道分泌物から初めて分離されました。その後の研究で、ヒトメタニューモウイルスは世界中に広く分布し、呼吸器感染症の主要な原因の1つであることが明らかになりました。 ヒトメタニューモウイルス感染症と他の感染症の違い ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと同じニューモウイルス科に属しているため、症状や感染の広がり方がよく似ています。鼻水や発熱といった軽度の症状から、咳や喘鳴、呼吸困難といった重症化したケースまで幅広い症状を引き起こします。 >>関連記事RSウイルス感染症の症状・原因・治療法は?子どもも大人も注意 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路は、飛沫感染と接触感染です。感染した人が咳やくしゃみをした際に放出されたウイルスを吸い込むことで感染が成立します。 また、ウイルスが付着した手指や物を介して口や鼻、目の粘膜に触れることでも感染が広がります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の好発年齢 生後6ヵ月から2歳頃までの子どもが最も感染しやすく、初めての感染となるケースが多いため、免疫が十分に備わっておらず重症化しやすい傾向があります。また、多くの場合、5歳~10歳までに感染するとされています。一回の感染では再感染を防ぐための十分な終生免疫が得られず、再感染を繰り返します。 ヒトメタニューモウイルス感染時の登園・登校・通勤について ヒトメタニューモウイルス感染症は乳幼児や高齢者の感染のリスクが高く、無理に登園・登校・通勤すると感染拡大につながる可能性があります。感染拡大を防ぎながら日常生活へ復帰するための基準や注意点について解説します。 登園・登校の基準 ヒトメタニューモウイルス感染症は、第三種感染症・その他の感染症に該当し、校長が学校医の意見を参考に出席停止の判断を行うことができます。 保育園や幼稚園、小学校では、解熱後24時間以上が経過し、全身状態が良好であれば登園・登校が可能とされることが多いですが、咳や鼻水といった症状が強く、周囲に感染を広げる可能性が高い場合は、さらに数日間の経過観察を求められることもあります。 職場・通勤時の注意点 体調が優れない場合や発熱が続いている場合は無理に出勤せず、自宅での療養が推奨されます。通勤時にはマスクを着用し、手洗いや咳エチケットを徹底することで、周囲への感染拡大を防ぐことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症の治療・対応法 ヒトメタニューモウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在せず、対症療法が中心です。発熱がある場合は解熱剤を使用し、咳や痰がひどい場合は鎮咳薬や去痰薬を用います。十分な水分補給と休養をとりながら、体力の回復を促すことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症で医療機関を受診する目安 医療機関を受診する目安は、高熱が続く、息苦しさを感じる、喘鳴がひどくなっているときなどです。特に乳幼児では、無呼吸発作やぐったりしている様子が見られた場合、速やかな受診が必要です。また、基礎疾患のある方や高齢者は重症化しやすいため、症状が悪化する前に医療機関に相談しましょう。 * * * 訪問看護の現場では、感染の初期症状を見逃さず、適切な対策を講じることが重要です。呼吸の変化や発熱などに注意を払いながら、必要に応じて医療機関の受診を促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「COVID-19流行下の小児基幹病院における当院に入院した重症ヒトメタニューモウイルス感染症の状況」(2022年8月30日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/respiratory/1744-idsc.html?start=62025/4/15閲覧〇島根県感染症情報センター「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」(2018年4月)https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/hMPV/index.htm2025/4/15閲覧

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幸せホルモンを増やす方法 セロトニン・オキシトシン・ドーパミン
幸せホルモンを増やす方法 セロトニン・オキシトシン・ドーパミン
特集
2024年8月20日
2024年8月20日

幸せホルモンを増やす方法とは セロトニン・オキシトシン・ドーパミンなど

最近メディアやニュースでも取り上げられる「幸せホルモン」。幸せホルモンが正常に働くことにより、心と体のバランスを安定させ、幸せを感じやすくするといわれています。 本記事では、幸せホルモンの意味や種類、高齢者に不足しがちなセロトニンの分泌を活性化させる方法について解説します。幸せホルモンは誤解されやすい部分もあるため、利用者さんに正しい情報を提供できるようにしておきましょう。 幸せホルモンとは 一般的にいわれている幸せホルモンとは、セロトニンやオキシトシンといった神経伝達物質のことを指します。適切な量が分泌されることによって、心身の安定や幸福感などがもたらされるため、幸せホルモンと呼ばれています。 幸せホルモンの種類 幸せホルモンと呼ばれているのは、主に次の4つです。 セロトニン セロトニンは脳内の神経伝達物質の1つで、主に大脳基底核や延髄の縫線核、視床下部などに存在しています。セロトニンには、快感や喜びに関係するドーパミンや不安や恐怖に影響するノルアドレナリンといった神経伝達物質の分泌をコントロールし、脳内の興奮を鎮めて精神を安定させる働きがあります。セロトニンの分泌が低下すると、疲労感やイライラ、不安や恐怖などの慢性的ストレスを感じやすくなり、うつ症状や不眠、パニック症などが現れることがあります。セロトニンが十分に分泌されている状態を保つことで、これらの精神症状を抑えることが可能です。 オキシトシン オキシトシンは、脳の視床下部から分泌される神経伝達物質の1つです。妊娠・出産時に多く分泌されるホルモンとして知られていますが、信頼感や共感性を高めるだけでなく、不安や恐怖の緩和にも関与しています。人との抱擁・手をつなぐなどのスキンシップや親しい人との会話によって老若男女問わず、脳内で分泌されることが分かっています。 ドーパミン ドーパミンは、快楽を感じる脳内報酬系を活性化させる神経伝達物質です。アルコールや麻薬など依存性があるものの多くはドーパミンの分泌を活性化させることで快楽をもたらすといわれています。 エンドルフィン エンドルフィンは脳内麻薬とも呼ばれ、気分の高揚や幸福感、鎮痛作用などをもたらす神経伝達物質で、α(アルファ)とβ(ベータ)、γ(ガンマ)に分類されます。なかでもβ-エンドルフィンは、痛みを抑えるモルヒネの数倍から数十倍の鎮痛作用があるといわれています。 幸せホルモンは高齢者にも効果はある? 幸せホルモンといえば、身体活動が活発な若年層や中年層に注目されることが多いものですが、高齢者にも効果が期待できます。セロトニンやドーパミン、エンドルフィンなどは、どれも年齢を問わず分泌されており、精神の安定や幸福感などに関与しています。 高齢者は外出機会の減少により日光を浴びることが少なくなったり、閉経により女性ホルモンが減少したりすることで、セロトニンが不足しがちです。その結果、ストレスを感じやすくなり、イライラや恐怖など、さまざまなネガティブな感情がわき起こるようになります。 さらに、意欲や集中力が低下するため、外出しなくなったり趣味を楽しめなくなったりすることもあるでしょう。結果的にうつや認知症にもつながる可能性があるため、高齢者こそ幸せホルモンの分泌が活性化されるような行動を心がけることが大切です。 高齢者に不足しがちなセロトニン 幸せホルモンのなかでも高齢者に不足しがちなセロトニンは、生活習慣の工夫によって分泌を促すことができます。高齢者でもできるセロトニンの分泌を活性化させる方法を3つ紹介します。 外出 外出の際に日光を浴びることで、セロトニンの分泌量が増えます。また、友人や家族と外出する場合は、コミュニケーションによってオキシトシンの分泌も促されるため、なるべく複数人で外出すると良いでしょう。公園を散歩する、友人とランチに出かける、地域のイベントに参加するなど、さまざまな方法を取り入れましょう。 適度な運動 適度な運動もセロトニンの分泌を促します。ウォーキング、ストレッチなどの適度な運動は、体力や筋力の維持にもつながるため、高齢者こそ習慣づけたいところでしょう。 アミノ酸を十分にとる セロトニンの材料となる必須アミノ酸であるトリプトファンを多く含む食品を摂取することが大切です。たとえば、チーズやヨーグルトなどの乳製品、大豆製品、魚介類や肉、卵などがあります。高齢者はタンパク質の摂取不足な傾向があることから、より意識的にこれらの食品を取り入れることが大切です。ただし、タンパク質を多く摂りすぎると、結果的に塩分や脂質の過剰摂取につながりやすいため、野菜や果物などとのバランスも考慮して日々の献立を決めましょう。 * * * 年齢にかかわらず、外出や運動、栄養のバランスを考えた食事などを日常生活に取り入れることで、幸せホルモンの分泌を促しましょう。心身の健康を維持し、豊かな人生を送るためにも幸せホルモンについて知っておくことが大切です。訪問看護の際に幸せホルモンについて質問された際は、正しい知識をもってアドバイスしましょう。   編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇H H Loh, L F Tseng, E Wei, and C H Li:beta-endorphin is a potent analgesic agent. 1976 Aug; 73(8): 2895–2898.〇厚生労働省.e-ヘルスネット「セロトニン(せろとにん)」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-074.html2024/8/8閲覧

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「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!
「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!
コラム
2022年11月29日
2022年11月29日

「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、嚥下機能が低下しても誤嚥を起こさなくする、誤嚥防止術のお話です。 誤嚥防止術という選択肢 ALS患者さんで、気管切開は受けても、誤嚥防止術まで受ける人はかなり少ないのが現実です。 気管切開をするかどうかギリギリまで悩んで、結果的に呼吸状態が悪化して緊急処置として気管切開をする人もいます。また気管切開をするかどうかで頭がいっぱいで、その先にある誤嚥防止術のことまで考えられない人や、そもそもその選択肢を知らない人もいます。 気管切開をして人工呼吸器をつけて生きていくと決めた人には、誤嚥防止術を受ける選択肢もあることを、ぜひ知っておいてほしいと思います。 気管切開をするとどうなる? 気管切開という手術は、文字どおり気管を切開して、気管と外部(皮膚)を交通する孔を開ける方法です。その孔に外部からカニューレという管を入れて、そこに人工呼吸器をつないで呼吸をサポートしてもらいます。 この方法で安定した呼吸状態が確保されます。カニューレには、空気で膨らむ風船のようなもの(カフ)が付いています。カフを膨らませることで、カニューレを気管内に固定することができ、同時に、喉から気管内に垂れ込んでくる唾液をせき止める働きもします。しかし、垂れ込みを完全に予防することはできず、カフの脇から垂れ込んだ唾液は適宜吸引しないといけません。吸引しきれず肺の奥に落ちてしまった唾液は、誤嚥性肺炎の原因になってしまいます。 唾液の垂れ込みを防ぐ誤嚥防止術 唾液の垂れ込みを完全に防ぐために気道の一部を閉鎖する手術が、「誤嚥防止術」です。喉頭を温存するか・気道をどの部分で閉鎖するか(声門上か、声門部か、声門下か)などによって、いろいろな術式があります。 以上のように、さまざまな術式がありますので、誤嚥防止術を検討される人はぜひ主治医と相談してみてください。 誤嚥防止術のメリットとデメリット 私は将来的に誤嚥防止術を受けると決めており、手術や入院の回数を減らすため、気管切開+声門閉鎖術を同時にしました。 嚥下機能・発声機能が残っている人や、いきなり誤嚥防止術を受けることに抵抗がある人は、呼吸状態を安定させる目的で、まずは気管切開のみで様子をみる。その後嚥下機能が低下して、唾液の垂れ込みが多くなって気管吸引の回数が増えたり、誤嚥性肺炎を起こしたりがあれば、改めて誤嚥防止術を行うという方法もあります。 誤嚥防止術を行うメリット・気管吸引の回数が減るので、本人・介助者ともに負担が軽減される・誤嚥性肺炎を起こすリスクがなくなる・誤嚥をするリスクがなくなるので、多少の嚥下機能が残っていれば、食べかたの工夫(後述)しだいで長期間食事を楽しめる誤嚥防止術を行うデメリット・発声を失う・気管切開のみ受けた人は、もう一度入院して手術を受けなければならない・手術をできる医師と施設が少ない 食べかたの工夫 以下は、私が行なっている方法です。個々の嚥下機能に依存しますので、すべての人ができるわけではありませんので、お試しする際は必ず主治医の同意のもと、言語聴覚士(ST)さんとともに行なってください。 嚥下の工夫 嚥下機能が低下していて気管切開(誤嚥防止術)をしていない場合は、誤嚥を予防するために顎を引くようにして嚥下するのがよいです。頸部を後屈した姿勢で嚥下しようとすると誤嚥しやすくなるので、注意が必要です。 誤嚥防止術を受けている場合は誤嚥をする心配がないので、逆に、頸部を後屈したほうが飲み込みやすいです。頸部を後屈した姿勢で、食べ物を飲み込むタイミングで介助者に顎を上げてもらい、嚥下反射を促してもらいながら、重力を利用して食事を喉の奥に落とすイメージで嚥下します。表現が悪いかもしれないですが、鵜飼いの鵜のイメージです。私はベッドの角度を40度まで上げて、枕を薄くして首を後屈した状態で食事をとるようにしています。 食形態の工夫 残存する嚥下機能にもよりますが、一般的には、食事の形態もできるかぎりペースト状やトロミ食のほうが、嚥下はしやすくなります。粒状のものは、喉の奥に引っかかる感じがして嚥下しにくく、私の場合は喉の奥を綿棒でつつかれた感じがして、嘔吐反射を起こします。 私は、固形物を食べたいときは、ガーゼに包んで奥歯で咀嚼し、食事の味だけを楽しんでいます。味を搾り出した後はガーゼごと取り出します。この方法はかなりおすすめで、果物など汁気の多い食べ物はもちろん、焼肉やお刺身から、ラーメンなどの麺類まで、幅広く楽しむことができます。 ちなみに私は、焼肉をガーゼに包んで奥歯で咀嚼して味を絞り出した後に、味付けした生卵とお粥を食べて、「すき焼き風」にして楽しむことが多いです。 液体の飲みかたの工夫 飲み物などの液体は、嚥下機能が弱くても重力を利用して比較的簡単に摂取することができます。ただ、コツがいります。ふつうのコップで飲もうとすると口の脇からこぼれてしまいます。 上述した食事のときの体勢をとり、介助者に顎を上げてもらい後屈した姿勢を保ちながら、舌の真ん中~やや奥に飲み物を入れるとこぼさずにうまく飲めます。 私は30mLのカテーテルチップ型シリンジに飲み物を入れて、口に差し込んで飲んでいます。この方法ですと、ちょうどシリンジの先端が舌の真ん中あたりにきます。目盛が付いているため一回に入れる量も調整しやすく、おすすめです。 味覚変化をふまえた介助の工夫 誤嚥防止術をしてもしなくても、気管切開をして人工呼吸器を装着すれば、鼻腔に空気は通らなくなるため、匂いはほとんどわからなくなります。 また私の場合は味覚も変化しました。甘味・塩味は変わりませんでしたが、苦味・酸味・辛味などは強く感じるようになりました。特に苦味はかなり強く、大好きだったコーヒーやビールは飲めなくなりました(人によると思いますが)。 ちなみに、甘味・塩味は舌先で感じるので、介助者には舌の手前~真ん中に食べ物をのせるように食事介助してもらうと、より味を感じやすくなると思います。 以上、私が思いつくかぎりのメリット・デメリットを書いてみました。誤嚥防止術を行うかどうかの参考にしていただけたら幸いです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇荻野美恵子ほか編.『神経疾患の緩和ケア』東京,南山堂,2019,364p.

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分かりやすい! ALSの病態と症状
分かりやすい! ALSの病態と症状
コラム
2025年5月27日
2025年5月27日

分かりやすい! ALSの病態と症状

ALSを発症して10年、現役医師でもある梶浦先生が、ALSとはどういった病気なのか、分かりやすく解説します。 ALSへの理解がケアやリハに活かされる 「分かりやすい」と自分へのハードルを上げてから書き始めた今回のコラムですが、これには私なりの思いがあります。 これから書いていく具体的な日常生活の工夫やリハビリテーションの工夫を理解して取り入れていただくには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは「どんな病気で、なぜこんな症状が起こるのか」を簡単にでも知っておいていただきたいです。そのほうが、なぜこの工夫をするとよいのか、納得しながら実践できますので、より身につきやすいかと思います。 難しいことを難しく書くのは簡単です。ですが、私なりにできる限り簡単に説明しようと、自分を戒めるために今回このようなタイトルにしました。 ALS当事者の方が理解しづらい場合には、支援者である介護士や看護師、リハビリテーションスタッフの皆さんにはこれから説明することをぜひ参考にしていただき、利用者さんにお伝えいただければと思います。 ALS理解の鍵は運動神経のしくみを知ること 人体においての神経系は、機能的に大きく分けると運動神経と感覚神経、自律神経の3つに分類されます(表1)。 表1 人体の3つの神経系 運動神経体を動かす筋肉につながり、脳からの命令を筋肉に伝える神経感覚神経痛い、痒い、冷たい、熱い、何かに触れているなど、さまざまな感覚を脳に伝える神経自律神経体温、心拍、血圧、排尿、排便など、生きていく上で必要な機能を自然にコントロールしてくれる神経 ALSは、この中の筋肉を動かす運動神経だけが選択的に障害され、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の神経疾患です。 この運動神経のしくみを理解することがALSの病態を理解する上で、一番大切になってきます。 例えば、脳で「手を動かしたい」と考えるとします。すると、脳の中の運動神経細胞(上位運動ニューロン)からその命令が神経線維を伝わり、脳幹あるいは脊髄で次の神経細胞(下位運動ニューロン)に命令を伝えます。そして、この命令は下位運動ニューロンの神経線維を伝わり、手の筋肉に到達して手を動かします。 ALSで障害される場所は、脳から下りてくる上位運動ニューロンと、命令の乗り換えの場所(前角細胞)から始まる下位運動ニューロンの両方です。両方が障害されると、結果的に筋肉を動かすことができなくなってしまいます。 注)「運動ニューロン」という言葉が分かりにくい方は、運動ニューロンとは脳からの命令を筋肉に伝える「導線」のようなものだとイメージしてください 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働き では、実際上位運動ニューロンと下位運動ニューロンはそれぞれどんな働きをしているのでしょうか? 例えば、皆さんがペンで文字を書くときの繊細な動きをする場合と、りんごをわしづかみにするときの大胆な動きをする場合とでは、力の入れ方を無意識のうちに使い分けていると思います。 これは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが、お互いにバランスを取り合って、自然な動きになるように力の配分をコントロールしているためです。具体的には、脳からの命令を受けた下位運動ニューロン(下位運動ニューロンは筋肉に直接つながっています)が主に「アクセル」の役割を果たし、筋肉を動かします。一方、上位運動ニューロンは「ブレーキ」として機能し、下位運動ニューロンの「アクセル」の力加減を調整して、力が暴走しないようにしているのです。(図1を参照) 図1 運動神経のしくみ ALSの主な症状 ALSの初期症状は、上肢に現れることが比較的多いですが、患者さんによっては下肢や喉から症状が現れることもあります。進行すると徐々に自分の意思で身体を動かすことが難しくなり、ペンや箸が握れなくなったり、歩行が困難になっていきます。 口や喉が動かなくなると、話す、食べるといった行為が困難になり、誤嚥する可能性も高くなります。さらに進行すると、自身で呼吸することができなくなり、生きていくためには人工呼吸器が必要となります。また、ALSでは筋肉を動かす運動神経のみが選択的に障害されるため、感覚は残ります。また、意識ははっきりしており、精神的な働きは障害されないことも大きな特徴です(例外もありますが)。 次に上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働きをもとに、ALSに特徴的な症状を紹介します。 筋肉が「ガクガク」と痙攣して治まらない! アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、「ガクガク」と一定のリズムでその筋肉が動き続けることがあります。これは「クローヌス」と呼ばれる症状で、上位運動ニューロンが障害されることで起こります。つまり、「ブレーキ」が壊れることで、「アクセル」の制御ができなくなっている状態です。 筋肉が勝手にピクピクと動く! 体のいろいろな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に勝手にピクピクと細かく動くことがあります。これは「線維束性収縮」と呼ばれる症状で、下位運動ニューロンが障害されることで起こります。例えるなら、正常なら10本の下位運動ニューロンで動かしていた筋肉を、1本の下位運動ニューロンで動かさなくてはいけないという状態です。1本のニューロンにかかる負担が過度に大きくなり、がんばり過ぎることで勝手に動いてしまっている状態です(図2)。 この症状が起きている部分は、「アクセル」が壊れてきている場所なので、徐々に筋肉が細くなり、動かせなくなっていきます。 図2 下位運動ニューロンの正常な状態と障害された状態(線維束性収縮) ALSの4大陰性徴候とは ALSは全身の筋肉が動かせなくなっていく病気ですが、出にくい症状というものが4つほどあり、4大陰性徴候といいます。 (1)目は最後まで動かせる!手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。(2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。(3)感覚障害が起こりにくい!これは最初のほうでも書きましたが、見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。(4)「褥瘡」、いわゆる“床ずれ”ができにくい!徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 * * * これまでの症状を読まれた方の多くは、「感覚は残るのに動けないなんてつらすぎる……」と思われるかもしれません。ですが、このALSに出にくい症状を前向きに捉えて、うまく日常生活の工夫に取り入れていくことが、困難な状況の中でも、日々の生活をできる限り豊かにしていく方法なのだと思います!! なので、今後このコラムでALSの4大陰性徴候を活用して快適に生活する具体的な方法を書いていこうと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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特集
2022年5月10日
2022年5月10日

蓄尿バッグに尿がたまっていない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第9回は、膀胱留置カテーテル交換後、蓄尿バッグに尿がたまっていない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 87歳男性。膀胱留置カテーテルを使用して排尿しています。カテーテルの入れ替えを行い、その後、家族から「尿がたまっていない」と電話がありました。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 膀胱留置カテーテル交換後に排尿が確認できない事例です。 まず大前提として、カテーテル交換の際は、カテーテルが膀胱に正しく挿入されていることの確認が必須です。具体的には、尿が流出されることを確認してから固定します。 カテーテル交換時には尿が流出することを確認できている場合は、乏尿(無尿)を疑ってアセスメントを行います。 もしも万が一、カテーテル交換をした時、蓄尿バッグやチューブ内へ尿が流出することを確認できていなかったのであれば、カテーテル位置が不良(膀胱まで至っておらず、尿道に留置されている)で、尿閉になっていることが考えられます。その際は、すぐに固定を解除する必要があるので、早急に報告し、対応してください。 ここに注目! ●カテーテル留置不良による尿閉の可能性がある●カテーテル留置に問題がない場合、乏尿(無尿)の可能性がある カテーテル留置状態のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・留置カテーテル交換からの経過時間、交換時の違和感や疼痛・苦痛の訴え・バッグ内・チューブ内に尿がわずかでもあるか・亀頭部からの尿漏れはないか・陰部や下腹部の疼痛・苦痛の訴え・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など) カテーテル留置状態のアセスメント②客観的情報の収集 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、脈拍や血圧が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症のかたでは、苦痛の有無を適切に伝えることが難しいため、バイタルサインから推測します。 膀胱内の尿貯留のアセスメント 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉で貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 陰茎や陰嚢の観察 膀胱留置カテーテルのバルーンが周辺組織を圧迫し、血流障害を起こす可能性があります。組織は炎症を起こし、最終的には壊死に至ります。 陰茎や陰嚢の視診・触診を行い、発赤・腫脹・熱感、潰瘍や壊死を疑わせる皮膚の変化がないかを観察します。 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 報告のポイント ・膀胱留置カテーテル交換後、蓄尿バッグ内に尿が確認できないこと・カテーテルの尿道への留置の可能性と、陰部組織に与えた影響・乏尿(無尿)の可能性 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ)青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授記事編集:株式会社メディカ出版

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特集
2022年3月29日
2022年3月29日

[3]身体の死後変化はエンゼルケアの必須知識!

死後のご遺体の変化に驚かれるご家族が少なくありません。ご家族にきちんと説明できるためにも、死後の身体変化に関する情報をしっかりと押さえておきましょう。また、どういった変化が生じるのか把握しておくことで、変化を最小限に抑える対処が可能ですし、さまざまな身体変化に遭遇しても冷静に対応することができます。 亡くなった高齢女性Aさんのご家族から困惑した声音で、担当だった看護師に電話がありました。 「おばあちゃんの口のまわりに灰色の輪がくっきりと浮き出てきたんです。不吉なことなんじゃないかって言う人もいて・・・・・・。一体、何なんでしょう、これ」 Aさんは黄疸が出ていたために、その死後変化として皮膚に変色が起こったのです。黄疸をもたらしているビリルビン色素の酸化亢進などによって時間とともに変色が起こります。毛根部が変色の生じやすい部位で、髪の生え際や眉、ひげ(あるいは口まわり、女性も口周囲にうぶ毛があるため)などに注意が必要です。 Aさんのご家族はそれを知らなかったため驚かれたのですね。看護師は異常事態ではないことを伝え、対処法などを次のように説明し安心していただきます。 「黄疸が出ていた方は、お口のまわりがくすんで輪のように見えることもあります。自然な変化ですから、ご心配はいりません。気になるようでしたら、その部分をファンデーションでカバーしていただいて問題ありません」 そして、必要に応じてファンデーションを使用したカバー方法なども説明します。 望ましいのは、黄疸のある肌は時間の経過とともに皮膚に変色が生じると思われることを、あらかじめエンゼルケアのときに説明できることです。さらに、最も望ましいのは、そのことを含めて死後変化のことなどが書いてある文書をお渡しすることです。文書については、連載の最終回でふれる予定ですので参考になさってください。 身体の死後変化の知識を得ておくことは、エンゼルケアを行ううえで必須です。亡くなった人のそれまでの身体の状態を把握している看護師は、例えば前出の黄疸の出ている方のように、変化についてのさまざまな配慮・対応が可能なためです。 知っておきたい身体の死後変化の特徴 では、ここで「身体の主な死後変化」を図1に示します。 図1 身体の主な死後変化 ( )内は、変化が始まる目安の時間を示す。変化の強度や速度には個人差がある。各項目の詳細については以下を参照。筋の硬直(死後硬直)(1時間~)筋弛緩後、下顎(1~3時間)、全身(3~6時間)へと硬直が進む。循環停止により酸素供給が停止することなどによる。死後半日から1日の間に硬直のピークを迎え、その後、解けはじめる。死の直前まで筋肉を使用していたり(急死)、高齢ではない場合などは硬直が強く表れる。体表面の乾燥(3時間~)循環停止によって内部から体表面への水分補給がなくなり、自力で保湿できなくなり乾燥する。特に外気にふれている頭部(その中でも口唇)は乾燥が急激に進む。表皮が失われている箇所や開放性の創部も乾燥しやすい。また、乾燥とともに皮膚の脆弱化も進む。水分量の多い乳児・小児は、成人よりも乾燥傾向が強い。顔の扁平化(直後~)重力の影響による。蒼白化(30分~)重力の影響を受け、比重の重い赤血球が沈下することで、皮膚の血色が失われる。全身の上面に生じるが、露出している顔面が特に目立つ。顔のうっ血(3時間~)急性の心疾患で亡くなった方に生じることが多い。腐敗(6時間~)恒常性の消失で細菌バランスが崩壊し、細菌群(中温菌)が異常繁殖することによって生じる。腹腔内からはじまり胸腔内、そして全身に広がる。身体の状態(水分が多い、栄養が多い、温かいなど)によって腐敗の進行度が変わる。体温低下(直後~)恒常性の消失で、気温の影響をまともに受ける。上下肢の末端部や外気にふれる顔面などから低下する。体幹部は下がりにくい。止血しづらくなる血液の凝固因子が大量に消費されることなどから、止血しづらい状態になる。黄疸の方の皮膚色の変化(24時間~)黄疸をもたらしている色素の酸化亢進などによって生じる。黄色→淡緑色→淡緑灰色に変化する。 さまざまな変化を図1で把握するとともに、全体的な変化の特徴として次の4点も押さえておくとよいでしょう。各タイミングでの判断に役立ちます。 ①死後の身体は「不可逆的に変化する」 図1に示した変化をはじめとして、死後変化のすべては不可逆的に進行します。つまり、変化する一方で、元の状態に戻ることはありません。生きているときのように、維持しよう、回復しようと身体は機能しません。 例えば、口唇は粘膜のため特に乾燥しやすい部分です。時間とともに乾燥が進み、表面が茶褐色に変色してしまったり、口唇全体の厚みが減ってしまったりし、それらが元の状態に戻ることはありません。ですから、早い段階で油分を塗布するなど、乾燥防止を行う必要があるのです。 ちなみに、葬儀社の方から看護師に対して「とにかく唇だけでも早めに油分を付けておいてほしい」と言われることがあります。葬儀社の方が担当する段には、すでに口唇の乾燥が極まってしまっていることがあるからのようです。 エンゼルメイクを含むエンゼルケアの時点で何をしておくべきなのかを判断し、実施することがポイントになってきます。 ②死後の身体変化は「予測しきれない面がある」 どんな死後変化がどの程度、どんな速さで起こるのか、エンゼルケアの時点ではその後を予測しきれない面があります。その大きな理由として、次の2点が挙げられます。 ・個体差を厳密には予測できない死後の身体変化は、死に至ったときの身体状態により個体差があります。例えば、体内の水分量が多く、さらに亡くなるまで高熱が続いていた場合は腐敗が早く強く出るかもしれないというようにおよその予想はできますが、厳密な予想はできません。 ・管理状況に左右されるご遺体は、身体の状態を一定に保つ機能は働いていないので、気温、湿度など身体を取り巻く環境の影響をまともに受けます。皆さんの手が離れた後、例えば暑い日などに適切な冷却がなされなければ急激に腐敗が進み、体液が漏れ出たりします。 身体の変化に困惑したご家族から問い合わせや相談の連絡があったなら、まず「お身体はいろいろな変化が出るのが自然のことです。異常事態ではないので心配はいりませんよ」と応対し、具体的な対応方法を説明するとよいでしょう。 ③死後の身体は「傷みやすい」 死後の身体変化が生じているイメージをつかんでほしいと思い、あえて「傷む」という表現を使います。 例えはあまりよくありませんが、釣ってきた魚を暖かい日に冷却もせず、ラップもかけずにテーブルの上に放置してしまうと、魚は急激に傷んでいきますね。人の身体も何もしなければ同じように傷んでいきます。 冷却や乾燥防止対策を行い、なるべく変化を抑えますが、抑えきれないケースも少なくありません。ただ現在は、亡くなった人との対面時には、衣類や花などでカバーされて目にふれないような配慮がされており、私たちは「傷む」という自然現象を忘れがちです。このことを含んでおいて、必要なときに「ご遺体は傷みやすいですよ」とご家族に説明します。 ④死後の身体は「重力の影響を受ける」 図1に示した「蒼白化」や「顔の扁平化」は重力に抗えなくなった結果、起こる変化です。他にも、身体の後面に開放性の創部(褥瘡など)がある場合は滲出液が漏れ出やすいので、あらかじめ対応をしておくといった判断ができます。 また、図1に示したように血液は止血しづらい状態になるため、鼻出血などがあると長く出続けることがあります。その場合は枕の高さを変えたり顔の向きを変えるなどし、重力の働く方向を変えることで、体外への出血量を減らせることがあります。 ご家族がご遺体を「起立させてほしい」と希望した例では、担当の看護師は便漏れなどがないように、重力の影響を考えながら希望に応じたとのことでした。 ワンポイントメモ臭気の話死後の早い段階で、気になる臭いが発生しやすい場所は、口腔内と瞼内です。 下顎が、早ければ死後1時間程度で硬くなるため、臭気防止のために口腔内だけは早めにケアを行います。マウスケア用のスポンジやガーゼなどで汚れを拭ったり、可能であれば歯磨きもします。瞼内のケアでは、眼脂に注意します。眼脂などの分泌物からも臭気発生の恐れがあるため、綿棒で拭うなど可能な範囲で除去しておきます。 腐敗による臭気もその後発生します。エンゼルケアの段階で行う臭気対策は、第4回で解説する冷却が有効です。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2025年2月18日
2025年2月18日

「敗血症」の知識・注意点・最新情報【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が日々のケアで遭遇しやすい疾患について、おさらいしたい知識から最新の知見まで幅広く提供します。今回は敗血症ついて、訪問看護に求められる知識や注意点、押さえておきたい最新トピックスを在宅医療の視点から解説します。 敗血症の基礎知識 敗血症とは「感染に対して制御することができない生体反応が起こるために、生命を脅かすさまざまな臓器の機能不全が起こる状態」です。65歳を超えると発生率が年々増加します。敗血症による死亡率は高く、敗血症に関連する臓器不全が1つ増えるごとに、死亡率は約15%増加します1)。 敗血症の症状と注意すべき身体所見 発熱があり、意識はややぼんやりとしていることが多いです。尿失禁や転倒、食欲不振は、高齢者の敗血症においてよくみられる症状です。 敗血症に関連する状態として菌血症があります。菌血症は、一時的に血液に細菌が入った状態(血液培養陽性)です。免疫機能が正常ならば、細菌は排除されます。 一方、敗血症は、菌血症が進行して全身に炎症が広がり、臓器障害を引き起こす状態です。血液培養は必ずしも陽性となりません。菌血症では悪寒戦慄(shaking chills)を伴うことがあります。悪寒戦慄とは、強い寒気を感じ、毛布をかぶっても歯がガチガチと震える状態です。菌血症の相対リスクは12倍に上昇します2)。高齢者の悪寒戦慄では、胆管炎や尿路感染症を第一に考えます3)。 敗血症の最も初期の症状は、頻呼吸(呼吸性アルカローシス)です。呼吸数を確認しましょう。組織環流障害を示唆する症状と身体所見には、意識変容(中枢神経)、尿量減少(腎臓)、網状皮斑や冷感(皮膚)があります4)。 敗血症では、肺炎や腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染の頻度が高いので、表1の症状に注意して病歴を聴取し、身体所見を確認しましょう。 表1 注意が必要な症状と身体所見 症状身体所見肺炎咳、痰ラ音(crackles)腹腔内感染(胆道感染症、腸閉塞、虫垂炎)腹痛、嘔吐、下痢腹部の圧痛、肝叩打痛、腹膜刺激徴候尿路感染頻尿、排尿時痛、残尿感、腰痛下腹部に圧痛、肋骨脊柱角に叩打痛皮膚感染(褥瘡)発赤、疼痛、膿皮膚びらん、壊死 「昨日元気で今日ショック 皮疹があれば儲けもの」、これは感染症診療の第一人者である青木眞先生の言葉です。元気だった人が、急にショック状態となることがあります。この場合、皮疹が認められれば次の疾患を疑います。 ● トキシックショック症候群(toxic shock syndrome:TSS)● 髄膜炎菌感染症● リケッチア感染症(ツツガムシ病、日本紅斑熱)● 脾臓がない人の肺炎球菌/インフルエンザ桿菌/髄膜炎菌/Capnocytophaga感染症● 肝臓が悪い人のVibrio vulnificus/Aeromonas hydrophila感染症● 黄色ブドウ球菌などによる急性感染性心内膜炎● 劇症型Clostridium perfringens感染症 診断 敗血症の診断基準として、quick SOFA(quick sepsis-related organ failure assessment:qSOFA、クイックソファもしくはキューソファと呼ぶ)を確認します。 qSOFA (1)呼吸数≧22回/分(2)精神状態の変化(3)収縮期血圧≦100mmHg2つ以上を満たす場合に敗血症を疑う(予想死亡率10%以上) 呼吸数は、橈骨動脈を触れて、脈拍を測定するふりをしながら、患者さんに気がつかれないように30秒間計測し、その結果を2倍にして求めます。時計がないときは、患者さんの呼吸をまねて、自分の呼吸より速いか確かめます。 最新トピックス 2021年の敗血症ガイドラインでは、敗血症または敗血症性ショックの評価にqSOFAスコアを使用しないことを推奨しています。National Early Warning Score(NEWS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、Modified Early Warning Score(MEWS)などの他のスコアリングシステムは、院内死亡やICU入院の予測においてqSOFAよりも優れています5)。 研究により、qSOFAは特異度は高いのですが、感度が低いことが示されています。すなわち、qSOFA陽性であれば敗血症が疑われますが、陰性であっても必ずしも敗血症ではないとはいえないことに注意が必要です。 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント 意識レベル、発熱、悪寒戦慄、血圧、呼吸数を確認します。 既往歴(例えば、糖尿病や血液透析、がん)や薬剤歴(例えば、ステロイドや抗がん剤)を確認し、免疫不全状態がどうかを判断します。 症状や身体所見から、どこが感染巣なのかを推測します。 治療 敗血症が疑われる場合、迅速に治療を行わなければ患者の予後が悪くなります。病院での精査治療が必要になるので、訪問看護師としては敗血症の可能性を探り、主治医とすぐに連絡をとります。可能ならば末梢ルートを確保し、生理食塩液の点滴をしながら、早急に病院に救急搬送することが大切です。病院で行われる治療(敗血症の1時間バンドル)について要点を解説します。 敗血症の1時間バンドル 乳酸値が2mmol/L以上に上昇している場合は、改善を確認するために2~4時間以内に再検査します。 抗菌薬治療を開始する前に、2セットの血液培養を採取します。 広域スペクトルの抗菌薬を1時間以内に投与します。最も一般的な病原体は、グラム陰性菌(大腸菌、クレブシエラ属)、またはグラム陽性菌(黄色ブドウ球菌、肺炎球菌)です。  低血圧、または乳酸値>4mmol/Lなら生理食塩液または乳酸リンゲル液を30mL/kgで投与します3)。 十分な輸液にもかかわらず、平均動脈圧*を65mmHg以上に維持できなければ、血管収縮薬(ノルアドレナリン)を使用します。 *平均動脈圧=(収縮期血圧―拡張期血圧)÷3+拡張期血圧 ●菌血症を疑う症状は悪寒戦慄です。●qSOFAで(1)呼吸数≧22回/分、(2)精神状態の変化、(3)収縮期血圧≦100mmHgのうち、2つ以上を満たす場合に、敗血症を疑います。●敗血症の原因となる感染症で多いのは、肺炎、腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染です。 執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Chick D,ed:Sepsis.MKSAP 19 Pulmonary and Critical Care Medicine, American College of Physicians,2022:77-80.2)Tokuda Y,Miyasato H,Stein GH,et al:The degree of chills for risk of bacteremia in acute febrile illness.Am J Med 2005;118(12):1417.3)坂本壮:救急外来ただいま診断中!第2版.中外医学社,東京,2024:136-172.4)塩尻俊明監修,杉田陽一郎著:研修医のための内科診療ことはじめ.羊土社,東京,2022:21-24.5)Evans L,Rhodes A,Alhazzani W,et al:The Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021.Intensive Care Med 2021;47(11):1181-1247.

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コラム
2021年8月31日
2021年8月31日

私はALSを発症して6年になる40歳の医師です

enjoy! ALS 『enjoy! ALS』では、ALS患者として在宅療養をしながら、現在も診療を行っている現役の医師が、ALSに関するpositiveな情報をお届けします。 まず簡単に自己紹介を 私はALSという病気を発症して6年になる40歳の医師です。もともと、大学病院で皮膚科医として勤務しながら、医学部と看護学部で皮膚科の講義を行なったり、『毛包幹細胞』について研究したりしていました。2015年に研究のため、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学したのですが、同年の7月にALSを発症して帰国してきました。帰国後は、さまざまな検査や治療をしながら、同僚のサポートのもと大学病院で医師として診療を続けていました。徐々に手が動かなくなっていったため、カルテは音声入力で記録。歩けなくなったため、電動車いすで通勤……など工夫をしていましたが、発声が困難になってしまったため、2019年の3月に退職しました。 その後は自宅で、皮膚科医として遠隔診療をしながら、現在に至るまで在宅加療を続けています。診療の対象は、離島など皮膚科医のいない地域の患者さんや、私のように在宅療養しており皮膚科医の診察を受けられない患者さんで、iPadで画像や問診票を見て診療する形です。 このたび、お世話になっている訪問看護師さんから、「NsPaceでコラムを書いてみないか?」というお話をいただきました。すぐに「やります」と答えました。自分で言うのもなんですが、私は医師で、若年発症のALSという、かなりまれな患者です。発症してから国内外問わずさまざまな論文を読んでALSに関する知識を深めてきましたし、工夫をこらして快適な生活環境を作ってきました。 その中で強く感じたのは、「世の中にはALSに関してnegativeな情報が多すぎる!!」ということ。 あふれるnegativeな情報 ALSと診断された患者やその家族、それにかかわる看護師や介護士が、まずインターネットなどでALSを調べると、 “ALSは進行性の神経難病で、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていき、治療法はなく、発症してからの平均余命は2〜5年” そんな乾いた文字だけが針のように突き刺さってきます。それは、今までのALS患者の症状や経過をただ統計学的にまとめて、羅列しただけ。 そういう私も約20年前、医学部生だったころに神経内科の授業でそう習いました。なんてつらくて、無慈悲な病気なんだと思い、絶対になりたくない病気ランキングワースト3には必ず入っていました。その当時はまさか自分がなるなんて思ってもおらず、ただ他人ごとのように授業を聞いていたものです。 つらい・残酷なだけの病気なのか しかし、そんな文字からは、現場の生の声は、入ってこないのです! 確かにALSは今でも治療法はありませんが、私が医学部生の時代とは違い、病態はわかってきています。運動ニューロンの中にTDP-43という異常なタンパク質が蓄積して、それが細胞死を引き起こしているということです。なんでTDP-43が蓄積するのか? どうすればそれを除去できるのか? それがわかれば根本的な治療につながってくるのですが、そこはまだ時間はかかりそうです。 しかし、ALS患者を取り巻く環境は劇的に進歩してきています!特にコミュニケーションツールの発展は目覚ましいものがあります。私は2021年2月に気管切開+声門閉鎖手術をしたため、声は出せず、目と口、足が少し動くくらいです。でもそれだけ動けば、できることが山ほどあります。歯のわずかな動きでiPadを操作して、皮膚科医として月100〜300人の患者さんを診察しているし、YouTubeやNetflixなども見ることができます。また、iPadに赤外線リモコンを記憶させて、テレビをはじめ、エアコンや扇風機など、さまざまな家電を操作することができます。目の動きだけで文字盤など何も使わずに会話することができるし(後々紹介します!)、目の動きだけでパソコンを操作して、大学で講義をする時のPowerPointスライドを作っています。ほかにもできることはたくさんあるし、やりたいこともたくさんあって、毎日時間が足りません。 ALSと前向きに向き合っていく人たちへ 私は日々充実して本当に楽しく過ごしています。 多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!ALSと前向きに向き合っていく、患者とその家族、周りの医療スタッフに、ただただpositiveで有益な情報を伝えたくて、このコラムのタイトルをつけました。『enjoy! ALS』 **コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

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家族看護総論【後編】
家族看護総論【後編】
特集
2023年6月6日
2023年6月6日

家族看護 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは【総論 後編】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。今回は、渡辺先生にこのモデルの特徴や分析プロセスを詳しく解説していただきます。モデルの思考過程をツール化したシートについてもご紹介いただきます。 >>前編はこちら家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは、「援助者が対象者・家族との関わりに困った場面や時期に、いったい何が起こっていたのか、ことの全容を明らかにし、援助の方向性(方策)を導き出すための思考過程」をモデル化したものです。 例えば、「あのお母さん、何度説明しても自己流のケアのやり方を変えてくれない。どうしてなんだろう、困っちゃうな」とか、「本人と家族の思いがズレていて、にっちもさっちもいかない」といったような援助に行き詰まりを感じた場面で効力を発揮します。 モデルの前提にある考え方と特徴 このモデルの前提となっているのはシステム理論、すなわち「ある出来事は、そこに関与する人が互いに影響を及ぼし合って生じる」(循環的因果関係)という考え方です。したがって、「困った」場面を分析する際にも、相手(療養者や家族成員)のことはもちろんですが、自分たち援助者についても客観的に分析します。 家族看護においてもさまざまなモデルが開発されていますが、援助者を分析対象とするのはこのモデルをおいてほかにはなく、大きな特徴といえます。 「人間関係見える化シート®」 渡辺式家族アセスメント/支援モデルでは、その思考過程をツール化したシート(渡辺式シート)が開発されています。 このシートはⅠ:事例情報シートⅡ:人間関係見える化シート®Ⅲ:支援方法、実施、評価シートの3つのパートで構成されています。特に、「Ⅱ:人間関係見える化シート」に沿って分析していくと、複雑な問題も整理されて、支援の糸口を見出せるでしょう。このシートは思考過程を共有できるため、主にカンファレンスやコンサルテーションで活用されています。 図1に、Ⅱ:人間関係見える化シート®を抜粋し示します。 図1 Ⅱ:人間関係見える化シート® 渡辺式シートは、NPO法人 日本家族関係・人間関係サポート協会のウェブサイトからダウンロードできます。 文脈と関係性を解きほぐす(分析のプロセス) (1)登場人物と看護師の文脈(ストーリー)を考える まずは、「困りごと」「対処」「背景」という3つの視点から、個々の登場人物のストーリーを考えます。 事例として、何度説明しても自己流のやり方を変えようとしない母親と看護師との関わりを考えてみましょう。母親はいったい何に困り、どう対処しているのか、その対象の背景になっているものは何かを、母親の皮膚の内側に入ったようなつもりになって考え、シートに記入します(図2)。 看護師からすれば、望ましいとはいえないケアの方法にこだわる「困った」母親は、「看護師から再三指導されること」に困っていて(困り事)、「自分のやり方に固執する」という対処をとっているのかもしれません(対処)。その背景には、「母親としてのプライド」や「このやり方で大丈夫という自負」、あるいは「このやり方が慣れている」、「そこまで手間はかけられない」という母親なりの判断があるのかもしれません(背景)。 こうして母親になり替わったような気持ちで考えてみると、看護師にとっての「困った母親」は、実は看護師の存在に「困っている母親」でもあるという認識の転換が起こることがあります。 同様に、看護師のストーリーをあらためて考えてみると、「再三指導を繰り返す」という対処の裏側に、「療養者本人を守りたい」、「本人のために母親にはがんばって欲しい」という願いがあります。それと同時に、「あるべき母親に近づいて欲しい」といった願いもあり、母親をコントロールしたくなる気持ちが見え隠れすることもあるでしょう。 相手の、そして看護師自身のストーリーを深く推察することによって、対象を理解し、自分自身へのさまざまな気づきを得ることができます。 図2 文脈(ストーリー)と相互関係 (2)登場人物間の関係性を考える 登場人物と看護師のストーリーを分析した後、次は登場人物間の関係性を考えます。先の例でいえば、母親と看護師の関係性です。 この場合、看護師が再三指導することにより、母親は抵抗し、ますます自分のやり方に固執するという悪循環が生じているといえるでしょう。また、看護師が何とか母親に分かってもらいたいと思うがあまり、母親に向けるパワーが高くなり、母親もそれに負けじとパワーを高めている状態です。両者の心理的な距離は、知らず知らずのうちに近づきすぎており、両者ともに居心地の悪い関係になっていると考えられます。 シートでは、こういったパワーバランスや心理的距離を三角形の高さや楕円の位置によって表します。具体的には、図3に示したとおり、看護師、母親双方のパワーを示す三角形の高さは、適正ラインよりも高くなっていると考えられます。そして、看護師は母親との距離を近づけようと、矢印が示すように母親にパワーを向けています。一方母親は、看護師にこれ以上距離を詰められないように、看護師に対し、負けじとパワーを向けていると考えられます。 図3 パワーバランスと両者の心理的距離 看護師自身の変化も含め支援の方策を考える さて、登場人物と看護師のストーリー、および関係性を考えた後は、支援方策を検討します。すなわち、どうしたらパワーバランスや心理的距離を改善し、悪循環を是正できるのか、そのためには、看護師自身がどう変化すればよいのか、どのように相手に働きかけたらよいのかを考えます。 先の事例であれば、看護師の「再三指導を繰り返す」という対処から、「母親のやり方を(一旦は)認める」という方向に変化するという道が見えてきました。そうすれば、母親の抵抗のパワーは低くなり、母親と話し合える道が開きそうです。母親のプライドや自負を尊重し、安心感を届けることを意識することも大切でしょう。母親と目標を再度共有し、看護師としての判断も示すこと。そして、ともに目標達成のために望ましく、実現可能な方法を試行錯誤しながら見つけていくことが重要だといえます。表1に「支援の方策」をまとめましたのでご参照ください。 表1 支援の方策 ・母親のやり方を一旦は認め、母親のパワーを下げる・母親のプライドや自負を尊重し、安心感を届ける・母親と話し合って目標を共有する・ともに目標達成のために望ましく、実現可能な方法を見つけていく(考える) このように、分析をひとつの仮説とし、支援方策を考えて実施し、その結果を評価し、さらにアセスメントを繰り返していきます。 * 以上が渡辺式家族アセスメント/支援モデルの概要です。次回からは事例編です。実際に援助に行き詰まりを感じた場面を取り上げ、渡辺式家族アセスメント/支援モデルを使って支援の方策を考えていきます。 また、私が理事長を務める「日本家族関係・人間関係サポート協会」では、「渡辺式」家族看護に関する入門から認定インストラクターの養成にいたるまで、各種セミナーを開催しております。 ▼NPO法人 日本家族関係・人間関係サポート協会 各種セミナーのご案内https://famirela.com/seminar お問い合わせは、当協会までお寄せください。 執筆:渡辺 裕子NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長「渡辺式」家族看護研究会 副代表 ●プロフィール1982年千葉大学大学院看護研究科修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。長年、患者・家族、職場の人間関係に悩む看護職のサポートを行ってきた。 「NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会」では、「ケアが循環する社会の実現」を理念に掲げ、一般市民を対象とした「かぞくのがっこう」のほか、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」に関する各種セミナーを実施している。 ▶NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会のホームページ※渡辺式シートのダウンロードも可能です。編集:株式会社照林社 【参考】〇渡辺裕子著.「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」,渡辺裕子監修.『家族看護を基盤とした地域・在宅看護論 第6版』,東京,日本看護協会出版会,2022,p.107-119.〇渡辺裕子著,鈴木和子著.「家族看護過程」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』東京,日本看護協会出版会,2019,p.98-107.〇渡辺裕子著.「人間関係見える化シートのご紹介」コミュニティケア.21(11),2019,p.38-46.〇垣見留美子,株﨑雅子著.「行き詰まりを打開する、渡辺式家族アセスメント/支援モデル」訪問看護と介護.28(2),2023,p.102-108.〇富岡里江著.「療養者への医療提供を拒む家族」訪問看護と介護,28(2),2023,p.110-117.〇茶谷妙子著.「子の障害に戸惑う家族」訪問看護と介護,28(2),2023,p.118-128.〇堤 真紀著.「療養者に対して指示的な家族」訪問看護と介護,28(2),2023,p.130-138.

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