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退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス
退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス
特集 会員限定
2024年10月22日
2024年10月22日

退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス【セミナーレポート後編】

2024年7月12日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーのテーマは、在宅緩和ケアと病院との連携。講師には、訪問看護と病院の地域連携部門の両方を経験した廣田芳和さん(楓の風在宅療養支援株式会社)をお招きしました。 セミナーレポートの後編では、退院支援・退院調整の具体的なプロセスを中心にまとめます。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本【セミナーレポート前編】 【講師】廣田 芳和さん楓の風在宅療養支援株式会社 スーパーバイザー/元 緩和ケア認定看護師(~2024年6月)神奈川県内の病院で約13年にわたって勤務した後、「在宅療養支援ステーション楓の風」に入職し、管理者も経験。その後は前職の病院に戻り、地域連携部門に約3年間勤め、再び訪問看護の現場に戻って現在に至る。 退院支援・退院調整のプロセス 退院支援・退院調整は3段階に分けられ、以下のような内容を実施します。 第1段階:外来入院が決定してから入院後3日以内入院前の生活状況を調査するとともに、入院理由・目的・治療計画などをふまえて退院時の状態像を把握。また、退院支援の必要性を医療者と患者さん、ご家族で共有。第2段階:入院3日目から退院までアセスメントを継続し、チームで情報の共有や支援策の検討を実施。また、患者さんとご家族が疾患について理解、受容するための支援や、退院後の生活イメージの構築も行う。第3段階:必要になった時点から退院まで退院を可能にする制度・社会資源の調整や、退院前カンファレンスを実施。 段階ごとの詳細やポイントも見ていきましょう。 第1段階の内容とポイント 入院前面談 多くの病院では、患者さんの情報を把握し、患者さんに情報を提供するための面談を入院前に行います。主な面談の内容は以下のとおりです。 ・身体・社会・精神的な情報の把握 ・現在利用している介護サービスの把握・褥瘡や栄養状態の評価・服薬中の薬の把握・退院困難な要因の有無の評価・入院中に行われる治療・検査や入院生活についての説明 退院困難要因の把握 早期にスクリーニングを実施し、入院理由や目的、治療計画などをふまえ、退院困難要因の有無を予測します。なお、ほとんどの患者さんが何らかの項目に当てはまるのが実状です。 退院支援の必要性の共有 患者さんとご家族の病状への理解度を確認。退院後の見通しの説明も行います。 第2段階の内容とポイント 継続的にアセスメントし、チームで支援 多くの場合、スクリーニングに基づいたカンファレンスを実施し、情報を整理しながら具体的な支援方法を決めていきます。 退院後の生活イメージを相談・構築 患者さんやご家族の不安を一つひとつ明確にし、在宅に戻る自信がもてるように支援します。不安を払拭するには以下3つの点を意識し、医療・看護を在宅モードに変換することが必要です。 (1)今後の変化を予測し、必要な処置や治療に関する準備・調整をしておく(2)自己管理がどの程度可能か、サポート体制はどのくらい整っているかを把握する(3)生活の場に合わせて可能な限りシンプルに管理できる方法を考える なお、ご家族の介護力をふまえて訪問看護の利用が決まっていれば、この段階で退院指導に訪問看護師も携われると、「在宅での現実的な方法」をより見つけやすくなるはずです。これは、退院前カンファレンスの意義にも通じると思います。 また、入院に伴うADLの低下を最小限にするよう調整すること、家族が不安な思いを表出できるようにすること、食事や排泄、入浴などのアセスメントと支援を行っていくことが重要です。 患者さんとご家族の疾患理解・受容への支援 第2段階では、患者さんとご家族が疾患について理解し、受け入れるための支援も行います。例を挙げながら見ていきましょう。 入院時の患者さんの情報 肝臓がんを患い、外来で化学療法を続けていたが、緊急入院1ヵ月前から食事量が減り、体重も5kg減少体力が低下しており、トイレに行くのがやっとの状態腹部の痛みあり 検査の結果 がんは腹膜にも転移し、腹水が溜まっていた末期状態と診断医療用麻薬が使用され、痛みは改善傾向 検査結果をふまえ、医師から病状と新たな治療選択肢がないことが説明され、「残された時間の過ごし方(病院、ホスピス、家のどこで最期を迎えるか)を考えてほしい」と伝えられました。本人とご家族はもちろんショックを受けて動揺しますが、この先の選択にはあまり多くの時間はかけられません。 この場合、病棟や退院支援部門の看護師は以下のような関わりをします。 ・時間の許す限り不安な気持ちに寄り添う・返答できる質問には真摯な態度で丁寧に答える・利用者さんとご家族の希望を伺う・転帰先をイメージできるよう、ホスピスやそれに類似する施設、もしくは在宅での生活についてそれぞれわかりやすく説明する 特に、不安から「在宅療養は不可能」と判断してしまうご家族が非常に多いです。適切なサービスを利用すれば選択できることを、きちんと説明しなければなりません。 また、以前は病棟看護師が在宅療養は困難と判断してしまうケースもありましたが、最近では在宅緩和ケアの知識をもった退院支援部門の看護師やソーシャルワーカーに対応を任せる病院が増加しています。そのため、説明不足が原因で在宅を選べなくなる事例は減ってきています。 第3段階の内容とポイント 第3段階で行う退院前カンファレンスには、3つの目的があります。 (1)包括的なケアのための情報の共有(2)患者・家族が安心して退院できる環境づくり(3)安定した退院後の療養生活の確保 本来は、地域ケアが必要な全ケースで退院前カンファレンスを行うのが理想的でしょう。しかし、人員が潤沢ではない現状では難しいため、必要性が明確なケースに絞って行われています。 退院前カンファレンスでは、以下のような点を確認します。 ・住環境や家族との関係を含めた利用者さんの基本情報・病名や予後告知の状況、それに対する本人とご家族の理解度・本人とご家族の意向 ・転帰先(在宅or施設)・住環境の改修(手すりの設置や車イスの導入)の必要性・訪問看護指示書をはじめとした書類の内容・薬の処方(退院時処方の量や訪問診療との調整)・退院時の移送方法 そのほか、医療管理の状況や課題を地域ケアチームへ引き継いだり、訪問看護の頻度や内容、その費用を説明したりもします。必要に応じて、ヘルパーやデイサービス、訪問リハビリの活用検討も行います。 * * * 在宅緩和ケアに移行するにあたっての流れや課題を見てきましたが、やはり重要なのは訪問看護と病院の連携です。互いを「同じ地域の一員であり、同じ志をもつ者」と認識し、協力することが、よりよいサービスにつながるはず。ぜひ歩み寄る意識をもっていただけたら幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス「在宅ケア移行の為のヒント」https://www.utsunomiyahiroko-office.com/zaitaku.html2024/08/26閲覧

訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ
訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ
特集
2024年10月22日
2024年10月22日

訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ 疼痛管理、家族看護etc.

緩和ケア・看取りのケアは、どんなに経験を積んでもその度に学びをいただけるもの。訪問看護師だからこそできるケアや叶えられる希望があり、やりがいを感じている方も多いと思います。その一方で、ご本人・ご家族にとっての「最善」は何か、悩むことも多いのではないでしょうか。 NsPace編集部にも「緩和ケアや看取りについて知りたい」というご意見を数多くいただいており、これまで多くの記事を公開してきました。今回は、「何から読もう」と迷っている方に向けて、はじめにお読みいただきたい記事をピックアップしてご紹介します。ご本人・ご家族にとってはもちろん、看護師自身もともに豊かな時間を共有できるように、学びを深めていきましょう。 悩むことの多いケアに関する学びを深める 緩和ケアでは、多くの調整困難な苦痛が出現し、その対応や関わりに苦慮します。NsPaceでは緩和ケアを系統的に学んでいただけるように、「がん疼痛」「がん身体症状」「精神症状」「スピリチュアルペイン」についての解説記事をシリーズでお届けしています。 例えば、以下のような記事があります。 がん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】 事例をとおしてがん疼痛に関する基本的な知識を学べる内容になっています。適切な薬剤調整によって疼痛の緩和、QOLの向上が叶うことがあります。日々関わる看護師が痛みの特徴を知り、痛みをどう聴き、どうアセスメントするかが、医師の効果的な薬剤選択、苦痛が緩和できるかに大きく関わってくるでしょう。この記事も含めて「がん身体症状の緩和ケア」に関する記事は4本あります。ぜひご活用ください。 せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】 せん妄は、ご本人・ご家族、支援者にも多大な苦痛や負担を与えてしまうことが多く、在宅療養の継続を断念する大きな要因にもなります。改善できる要因があるにもかかわらず、見過ごされたり、「終末期せん妄」と判断されたりして、介入されずに悪化させてしまうことも。早期の積極的な介入により、せん妄の改善が見込めるため、看護師によるアセスメントが重要です。ぜひ知識を深めていただきたいテーマです。 その他の緩和ケアシリーズ記事は、以下からお読みください。>>緩和ケアシリーズ一覧https://www.ns-pace.com/series/palliative-care/ がん性創傷のケア アセスメントと痛み・滲出液・出血・臭気対策(会員限定) 皮膚・排泄ケア認定看護師の岡部美保さんにご執筆いただいた「在宅の褥瘡・スキンケア」シリーズでは、がん性創傷についても症例写真を交えながらケアのポイントを詳しく解説いただいています。創傷がどんどん広がる、浸出液が増える、臭気がつらい…。さまざまなご本人の苦痛、ご家族のケアの負担など、困難を伴うことが多いがん創傷ケア。「少しでもよい方法を」と日々悩みながら工夫されている分野ではないでしょうか。 ターミナル期における家族ケアを深める 緩和ケアでは、ご家族を本人と同等、またはそれ以上に苦痛を抱える「ケア対象」と考えます。訪問看護では、ご家族との関わりに苦慮することも多いはず。家族ケアについて学びを深められるコンテンツをピックアップしました。 妻の病状を受け入れらない夫に対する関わり【家族看護 事例】 終末期の病状を家族が受け入れられないとき、家族の言動を「現象」としてそのまま受け止めて対応することもあるでしょう。しかし、その言動の奥にあるご家族の思いや背景、関係性に焦点を当ててアセスメントとアプローチを重ねると見えてくるものがあります。関わる看護師自身の価値観や感情が影響しているという認識も必要です。 「家族看護シリーズ」では、「渡辺式/支援モデル」を使用した事例展開をとおして、関わりに困ったときの支援の方策を導き出す手法を学びます。シリーズ冒頭では、家族看護に関する総論(家族看護における大切な視点、「渡辺式/支援モデル」についての解説)もありますので、あわせてご覧ください。 >>家族看護シリーズhttps://www.ns-pace.com/series/family-nursing/ 【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-(会員限定) 具体例を交えながら、ターミナル期における家族看護のポイントについて紹介しています。Vol.2のQ&A記事では、訪問看護師が迷いやすい場面に関する具体的なノウハウも紹介されていますので、あわせてご参照ください。これから緩和ケア・看取りのケアに取り組む方にも、知っておいていただきたい内容を学べます。 【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア ホスピスケアに注力している「在宅療養支援ステーション楓の風」の経験豊富な訪問看護師さんたちに普段働く事業所を越えて集まっていただき、座談会形式でお話を伺いました。「子どもに病気や死をどう伝えるか」や「外国人家族への関わり」といった苦慮するテーマに対して試行錯誤の過程も踏まえながらご経験談をお話しいただいており、学びを深められる記事になっています。 看取りとの向き合い方 いよいよ最期が近づいてきたとき、訪問看護師としてどのように対応すればいいのか。特に、訪問看護師になったばかりの方は迷うことでしょう。コラムやセミナーレポートをぜひ参考にしてください。 看取りの作法 ~ 最期の1週間 杉並PARK在宅クリニック院長の田中公孝先生に、家庭医療専門医の視点から、看取りの作法について解説いただいているコラムです。最期の1週間を迎えたとき、どのような説明をご家族にするか。「看取りのパンフレット」の活用方法や、「訪問看護師に期待すること」などについて知ることができます。 【セミナーレポート】看取りの作法 Q&A≪特別先行公開≫(会員限定) 同じく田中先生にご登壇いただいたセミナーのレポート記事も公開しています。セミナーレポートでは、セミナー開催時に寄せられた訪問看護師の皆さまからのご質問への回答も豊富に掲載されていますので、ぜひ参考にしてみてください。 視点を広げるために役立つ情報 緩和ケアでは、「視点を拡げること」も力になります。ちょっと視点を変えたコンテンツもピックアップしました。 アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】(会員限定) アロマを手軽に活用する方法を学べます。利用者さんやご家族にリラックスいただくことはもちろん、場の心地よさを整えることは、心のケアにもつながります。エンゼルケア時の清拭にアロマを活用することで、ご家族が故人との思い出を振り返る手助けになることも。アロマの基礎知識や具体的な使用方法、注意点、看護師自身のアロマケアについても紹介されています。 【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」 在宅分野の学会ではさまざまな活動が紹介されており、同じような悩みを抱えながら活路を見出そうとしている方々から勇気をもらえることがあります。看取り・緩和ケアに関するプログラムの様子もご紹介しています。ぜひ、今後のご参考にしてみてください。 * * * 悩み・苦しむことが多く、時には負担に感じることもある反面、訪問看護師としての醍醐味ややりがい、多くの学びをいただく緩和ケア・看取りのケア。ご本人・ご家族にとっての最善に関われたと思えることが看護師としての大きな力になっていきますよね。学びをとおして、その喜びがより広がっていくことを願って、これからもコンテンツをお届けしていきます。 執筆・編集: NsPace編集部

咳喘息の症状チェックリスト 百日咳・気管支炎との鑑別や治療・対策
咳喘息の症状チェックリスト 百日咳・気管支炎との鑑別や治療・対策
特集
2024年10月22日
2024年10月22日

咳喘息の症状チェックリスト 百日咳・気管支炎との鑑別や治療・対策

咳が長引く症状に悩まされることはありませんか? もし、息苦しさや喘鳴がないのに咳だけがしつこく続く場合、咳喘息の可能性があり、早期の診断と適切な治療が重要です。 この記事では、咳喘息の特徴や症状、その他の疾患との鑑別方法、治療について解説します。自身の健康管理や訪問看護先の利用者さんのアセスメントなどに活かすために、咳喘息について確認しておきましょう。 咳喘息とは 咳喘息は、気道が過敏になり、長期間にわたって咳だけが続く状態を指します。喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難を伴わず、呼吸機能はほぼ正常なことが特徴です。咳喘息は「喘息の前段階」ともいわれ、適切な治療が行われないと約30%の患者が典型的な喘息に移行するリスクがあります。 季節の変わり目や梅雨時、台風シーズンに発症しやすく、冷気や空気の乾燥、ハウスダスト、花粉などが引き金となります。特に秋から冬にかけての寒冷な時期に悪化することが多いため、この時期に咳が長引く場合は咳喘息の可能性も。 咳喘息の症状・チェック リスト 下記の症状に当てはまる場合、咳喘息の可能性があります。 咳の持続期間が8週間以上である喘鳴や呼吸困難の症状がない夜間や早朝に咳が悪化する季節の変わり目や特定の季節に咳が出やすい気道過敏性の増強を感じる咳が長引くが、ほかの症状はみられない気管支拡張薬で咳が軽減する冷気にあたったとき、乾燥しているとき、運動しているときなどに咳が出やすい喀痰がほとんど出ない「コンコン」「ケンケン」等の乾いた咳(乾性咳嗽)である 喘息とその他疾患との鑑別 咳喘息は他の呼吸器疾患と症状が似ているため、鑑別が重要です。各疾患の特徴と鑑別のポイントは下記のとおりです。 疾患名主な特徴鑑別のポイント百日咳上気道感染症状出現後、吸気性笛声(ヒューという笛のような音)を伴う特有の短く乾いた連続性・痙攣性の咳発作(痙咳発作)がみられるのが特徴          鑑別には検査診断が必要。 病原体検査(菌培養、血清学的検査、遺伝子検査)にて確定診断胃食道逆流症(GERD)    胃酸が逆流することで気道やのどを刺激し、咳を引き起こす  胸やけ、呑酸など食道症状を伴う。会話・食事中・体動などのタイミング、また夕方~夜にかけて、横になると咳が悪化しやすく、夜間の咳は少ない。 プロトンポンプ阻害薬(PPI)や消化管機能改善薬で症状が改善副鼻腔気管支症候群副鼻腔炎と気管支炎が同時に発症し、痰を伴う湿った咳が特徴気管支拡張所見や膿性痰の有無が鑑別のポイント。マクロライド系抗菌薬や去痰薬による治療が有効慢性気管支炎喫煙が主な原因で、痰が絡む咳が特徴長期の喫煙歴、労作時の呼吸困難感があり。呼吸機能検査にて閉塞性障害の有無を確認し鑑別  アトピー性咳嗽季節性の症状で、のどの掻痒感やイガイガ感がある。喘鳴や呼吸困難感の伴わない乾いた咳が続く  気管支拡張薬が効かないことが鑑別のポイント。 アトピー素因あり(アレルギー疾患の既往、末梢血好酸球増加、特異的IgE抗体陽性など)。 ヒスタミンH1受容体拮抗薬やステロイド薬が有効 咳喘息の治療 咳が2~3週間以上続く場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。8週間以上咳が続いている場合は、咳喘息の可能性が高く、専門医の診断が必要です。 治療は主に吸入ステロイド薬(ICS)と気管支拡張薬が用いられます。吸入ステロイド薬は気道の炎症を抑え、咳症状を軽減することで、咳喘息の進行や喘息への移行を予防しますが、難治性の場合、長期的な治療の継続が必要になります。吸入ステロイド薬を中心とした治療により症状が改善すれば薬剤の減量が可能ですが、治療を中止すると再燃するリスクが高くなるため、慎重な対応が求められます。 妊娠中の咳喘息 妊娠中は悪阻(つわり)の影響で胃酸の逆流が生じ、それが咳喘息を悪化させることがあります。この場合、胃薬が有効な場合もありますが、妊娠中は薬の使用に制限があるため、医師と相談の上、最適な治療法を選択することが重要です。 訪問看護中の対策 咳喘息の方が訪問看護を行う際は、訪問先のタバコの煙やハウスダスト、ペットの毛などが気道を刺激して症状を悪化させる可能性があります。 訪問時にはまず、部屋の換気を徹底することが大切です。特にタバコを吸う家庭や、ホコリが溜まりやすい環境では、新鮮な空気を取り入れることで症状緩和につながる可能性があります。換気は感染症予防にも効果的なため、訪問先の利用者さんからも理解を得やすいでしょう。 また、マスクを着用することで、ハウスダストやタバコの煙の吸引を防ぎ、気道の保護につながります。特に冬場や花粉の多い季節には、マスク着用を心がけましょう。 *** 咳喘息は長引く咳が特徴で、特に夜間や早朝に悪化しやすい疾患です。自然に治ることはなく、放置すると、典型的な喘息に移行するリスクがあるため、早期の診断と適切な治療が不可欠。主に吸入ステロイド薬(ICS)と気管支拡張薬を用いた長期間の継続的な治療を行うことになります。訪問先の環境によっては症状が悪化する可能性もあるため、必要な対策を取りましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:村田 朗医療法人財団日睡会 理事長御茶ノ水呼吸ケアクリニック 院長日本医科大学内科学講座(呼吸器・感染・腫瘍部門)非常勤講師。日本医科大学、 同大学院卒業。資格・学会:医学博士、日本内科学会認定内科医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本睡眠学会会員、肺音(呼吸音)研究会世話人、東京呼吸ケア研究会幹事、American Thoracic Society 会員、European Respiratory Society 会員、International Lung Sounds Association 会員、NPO法人日本呼吸器障害者情報センター顧問、東京都三宅村呼吸器専門診療委託医、日本医師会認定産業医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)、千代田区公害健康被害診療報酬審査委員。 【参考】〇新実 彰男.「第 113 回日本内科学会講演会 結実する内科学の挑戦~今,そしてこれから~」『慢性咳嗽の病態,鑑別診断と治療』日本内科学会雑誌.105巻9号.(2018年4月15日)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/9/105_1565/_pdf2024/10/21閲覧〇斎藤 純平.「咳喘息」.日内会誌 109:2116~2123,2020https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2116/_pdf2024/10/21閲覧

在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本
在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本
特集 会員限定
2024年10月15日
2024年10月15日

在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本【セミナーレポート前編】

2024年7月12日に開催したNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「【事例で解説】在宅緩和ケアの課題&病院との連携」。在宅における緩和ケアの課題や退院支援・退院調整の具体的な工夫などを、訪問看護と病院の地域連携部門の両方を経験した廣田芳和さん(楓の風在宅療養支援株式会社)に教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、在宅緩和ケアの課題の概要と、その解消に向けて訪問看護師に求められることなどをまとめました。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】廣田 芳和さん楓の風在宅療養支援株式会社 スーパーバイザー/元 緩和ケア認定看護師(~2024年6月)神奈川県内の病院で約13年にわたって勤務した後、「在宅療養支援ステーション楓の風」に入職し、管理者も経験。その後は前職の病院に戻り、地域連携部門に約3年間勤め、再び訪問看護の現場に戻って現在に至る。 在宅緩和ケアの課題 在宅緩和ケアの難しさは、利用者さんによってアプローチの内容やタイミング、求められることが異なる点にあります。 例えば、がんの利用者さんは非がんの方に比べて「訪問看護開始から死亡までの期間」が短く1)、スピーディーな対応が求められます。一方で、非がんの慢性疾患を抱える利用者さんは予後予測が難しく、死にゆく過程は多様。治療の必要性も最後まで残されており、「終末期」の定義づけが難しいため、緩和ケアが必要になる時期はさまざまです。また、非がん疾患の高齢者の意思決定支援2)では、本人がどう生きたいかを明確にして、その実現を支えることが求められます。 このように、在宅緩和ケアに取り組むにあたっては、医療機関との情報共有が重要になります。そこで必要になるのが、退院支援・退院調整。特に慢性疾患の利用者さんのケースでは、退院支援・退院調整がケアの質を左右するといっても過言ではありません。 退院支援・退院調整とは 退院支援・退院調整とは、それぞれ以下の内容を指します(具体的な内容やポイントは後編でご紹介します)。 退院支援患者さんが自身の病気や障害について理解し、退院後も必要な医療・看護を受けながらどこでどのように生活を送るか、自己決定するための支援。退院調整退院支援で明らかになった想いや願いを実現するために、ご家族の意向をふまえて、「環境・人・物」を社会保障制度や社会資源につないでいく過程。 退院支援・退院調整は、患者さんの「こう生きていきたい」という想いに基づき、人生の再構築をサポートすることといえるでしょう。 少子高齢化が進み、医療費が増加している今、在院日数の削減は全病院の共通の課題。その解消のカギとなるのが、より効率的な退院支援・退院調整です。その重要性はますます認識されており、病院で専門の部門や担当者が設けられたり、関連する診療報酬が追加されたりする動きもあります。 病院との連携に関する今後の課題 在宅緩和ケアへの移行に伴う「訪問看護ステーションと病院との連携」においては、さまざまな課題があります。 多くの病院で看護師が不足する今、一人ひとりの退院後を見据えて退院支援部門につなげたり、訪問看護への依頼を考えたりする時間が十分にとれないことは珍しくありません。また、連携に関する教育が行き届いていないケースもあると思います。 そのために訪問看護師のみなさんにお願いしたいのが、病院関係者への積極的な働きかけです。連携の基本は、相手を知り、理解すること。患者さんが入院している間に退院前カンファレンスをはじめとした話し合いの機会をもち、在宅緩和ケアについて一緒に考えることができれば、連携体制はよい方向に変わるはずです。そんな双方の歩み寄りが、今後の在宅緩和ケアにおける連携で最も重要になると思います。 >>後編はこちら退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】1)厚生労働省.「訪問看護について」(平成23年11月11日)P.30https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001uo3f-att/2r9852000001uo71.pdf2024/08/26閲覧2)藤田愛.『「最期の場所」を決める 最終的な意思決定支援とは』.訪問看護と介護,医学書院.2015,20(2)

ニャースペース【訪問看護あるある】
ニャースペース【訪問看護あるある】
特集
2024年10月15日
2024年10月15日

連携先からのお褒めの言葉!ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

「任せると安心」と言われるとうれしい! かかりつけ医をはじめ、訪問看護では他の施設や職種の方と連携することが多いにゃ。 連携先の方に褒められると、励みになるにゃ! 訪問看護では、ケアマネジャーや医師をはじめ、ほかの職種や施設と連携する場面が多いもの。「『○○ステーションにお願いすると利用者さんもご家族も安心してくれるから、またぜひお願いしたい』と、新規のご紹介をいただいた時は、これまでのがんばりが報われたような気持ちになる」「退院前カンファレンスや担当者会議、報告書を届けに伺ったときなどに『安心して任せられます』などとお声がけいただくと、すごく嬉しい!」といった声をいただきました。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

「透析療法」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「透析療法」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年10月15日
2024年10月15日

「透析療法」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は腎不全の治療として導入される透析療法をメインに取り上げ、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 透析療法の基礎知識 推定糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満(CKDの重症度分類:G4)の患者は、腎代替療法(RRT:renal replacement therapy)である血液透析や腹膜透析、腎移植について教育を受ける必要があります。透析導入より3~6ヵ月以上前の腎臓専門医への紹介は、透析導入後の良好な予後が期待できます。多職種によるRRTの説明と教育を行うことが、腎障害進行速度の抑制、緊急透析の回避、RRTの選択に関連することが報告されています。 日本では慢性透析療法を受けている患者数が約35万人いて、台湾、韓国に次いで世界第3位の透析大国です。RRTは進行したCKD(慢性腎臓病)患者の生活の質(QOL)を改善させ維持することを目的としています。高齢または複数の合併症を有する患者は、RRTを望まない可能性があります。緩和ケアによる苦痛の軽減が重要です。 >>関連記事「慢性腎不全(CKD)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】CKD(慢性腎臓病)について詳しく解説しています。 透析療法の種類 透析療法には血液透析と腹膜透析があります。また、ここでは先述したRRTの1つ、腎移植についても紹介します。 血液透析 血液透析は、半透膜で隔てられた血液と透析液を対流させ、濃度勾配に逆らう対流と拡散によって血液中の溶質を除去します。週3回、4時間程度の通院治療が必要です。透析室での拘束時間に加え、透析中または透析後の低血圧、透析後の過度の疲労が問題となることがあります。 腹膜透析 腹部に留置したカテーテルから腹腔に透析液を注入します。腹膜が半透膜の役割を果たし、腹膜を介して拡散と浸透の原理により水と物質の交換が可能になります。この方法を連続携行式腹膜透析(CAPD)といいます。透析液の交換は1日に約3~4回行われます。日中に交換を行うこともできますが、サイクラーと呼ばれる自動腹膜透析装置を用いれば眠っている間に透析液を交換することができます。この方法をAPD(自動腹膜透析)といいます。 腹膜透析の利点には、時間の制約が少ないため自律性を高められることや穿刺の苦痛がないといったことが挙げられます。腹膜透析の生命予後は血液透析とほぼ同じですが、近年では腹膜透析の方が予後はよいとの報告があります。 腹膜炎は死亡率の増加に関連する重大な合併症で、感染を繰り返すと腹膜障害により透析療法の効果が低下します。腹膜透析に関連した腹膜炎の発生頻度は低く、2~3年に1回程度です。通常はグラム陽性球菌(皮膚常在菌)が原因で、カテーテルを取り扱う際の適切な皮膚衛生と無菌的手技が重要となります。 腎移植 平均余命とQOLを改善し、透析と比較して医療コストの大幅な削減をもたらします。わが国では深刻な死体腎提供不足のため、生体腎移植に依存しています。その一方で、生体腎ドナーが腎臓を提供することで末期腎不全に至るリスクが増加するという問題があります。 また血液透析や腹膜透析を開始する前に施行される先行的腎移植が行われることもあり、有用性が示されています。 図1 RRTの種類 RRT導入は尿毒症の症状や検査所見(脳症、嘔吐、肺水腫、高カリウム血症、出血)およびeGFR<15mL/分/1.73m2で判断します。 合併症と治療 血液透析や腹膜透析では次の合併症が起こることがあります。 感染症 感染症は末期腎不全(ESKD: end stage kidney disease)における死亡原因の第1位です。透析患者では、B細胞の減少やT細胞による免疫反応の低下に加え、穿刺により皮膚から細菌が侵入する危険があります。発熱の原因は感染症が多く、悪寒戦慄(毛布をかけても体の震えが止まらない)がある時は菌血症の可能性が高くなります。 透析時に脱血や返血で使用するバスキュラーアクセスの感染が48~89%です1)。バスキュラーアクセス以外の感染症の存在を確認するため、発熱以外に咳や痰、腹痛や下痢、頻尿や残尿感がないかを問診する必要があります。抗菌薬投与前に血液培養や痰培養、尿培養を考慮します。菌血症が疑われる場合には、血液培養の結果を待つことなく抗菌薬治療が開始されます。 心血管疾患 心臓突然死は第二の死因です。透析中の血清電解質の急激な変化や慢性的な容量負荷が心肥大を起こします。また、カリウムやカルシウムなどの電解質、血圧、体液量、pHの変化が不整脈の原因となります。 弁膜症(特に大動脈弁狭窄症)も多く、透析中の急激な体液除去によって誘発される透析内低血圧は、臓器低灌流による心血管系および中枢神経系の障害を引き起こす可能性があります。また、透析患者は動脈硬化進行例が多いです。 むずむず脚症候群(RLS:restless legs syndrome) むずむず脚症候群とは、安静時や夜間に生じる、下肢がむずむずするような不快感や異常知覚のことです。周期的に脚がぴくつき、不眠となる場合があります。原因は脳のドパミン系の機能異常で、鉄剤による鉄の補充やドパミン作動性抗パーキンソン病治療薬(プラミペキソール、ロチゴチン)が有効です。 メンタルヘルス 透析患者の5~10人に一人はうつ病を有している可能性があります。不眠(または過眠)、食欲低下(または過食)、抑うつ気分、今までに楽しめていたことが楽しめないという症状があれば、担当医に連絡することが必要です。 かゆみ そう痒症の病因は明らかではありません。透析患者の約70%程度にみられます。夜間や透析中(または透析直後)に背部や顔、シャント肢を中心にかゆみを訴えることが多いのが特徴です。保湿剤、タクロリムス軟膏、ステロイド外用薬が治療に用いられます。訴えがなくても、かきむしったあとがあるかどうか、皮膚の観察を行いましょう。 透析患者で注意すべき薬剤 腎機能が低下している透析患者には注意すべき薬剤があります。表1に主なものをまとめました。また、薬剤投与量の一覧表は日本腎臓病薬物療法学会のホームページから無料で閲覧ができます。 ▼日本腎臓病薬物療法学会「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」https://www.jsnp.org/ckd/yakuzaitoyoryo.php 表1 透析患者で注意すべき薬剤 慢性心不全治療薬                  予後改善薬とされるRAS(レニン・アンギオテンシン系)阻害薬、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプライシン阻害薬)、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)をすべて使用すると高カリウム血症や血圧低下を起こす可能性がある降圧薬● 腎排泄型のβ遮断薬は減量して使用する● 特殊な膜を用いた透析ではACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬の使用が禁忌となる● MRAは高カリウム血症のリスクが上昇する抗凝固薬● 直接経口抗凝固薬(DOAC:direct oral anticoagulant)は禁忌● ワルファリンを使用することもあるが、出血性合併症に厳重な注意が必要脂質異常症治療薬● すべてのスタチンとペマフィブラート、エゼチミブは使用できる● ベザフィブラートとフェノフブラートは禁忌血糖降下薬● インスリン、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬(腎排泄型では減量)が用いられる● SU(スルホニル尿素)薬やメトホルミン、ピオグリタゾン、SGLT2阻害薬は避けたほうがよい鎮痛薬● アセトアミノフェンは常用量で使用できる● トラマドールやプレガバリン、ミロガバリンは減量が必要● モルヒネやコデインは代謝物が蓄積するため避けたほうがよい 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント 発熱があれば、バスキュラーアクセス部位の発赤や腫脹、咳や痰、腹痛や下痢、頻尿や残尿感についてアセスメントします。 設定されたドライウェイト(身体に溜まった余分な水分を透析療法によって取り除いたときの体重)を基準とした体重増加、心不全を示唆する夜間発作性呼吸困難、SpO2低下、肺のcrackles(クラックル)、頸静脈怒張、下腿浮腫について確認し、心不全をできるだけ早期に発見します。 不眠(または過眠)、食欲低下(または過食)、抑うつ気分、今までに楽しめていたことが楽しめない気持ち、希死念慮について確認します。 最新トピックス透析の差し控えや継続中止の決断に至った場合、保存的腎臓療法(CKM:conservative kidney management)を行う必要があります。CKMには共同意思決定(SDM:shared decision making)と患者中心のケア、積極的な症状管理、アドバンス・ケア・プランニング(ACP:advance care planning)の重視、末期腎不全(ESKD:end stage kidney disease)の進行を遅らせるための介入が含まれています。CKMとRRTの比較に関するシステマティックレビューによれば、生存率はRRTのほうが有意に良好でしたが、QOLについては同等あるいはCKMのほうが良好な傾向にあったことが報告されています。 患者の意思の尊重 患者が自分らしく、よりよい最期を迎えることができるよう、人生の最終段階における医療とケアを進めていくことが大切です。医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされたのちに、患者本人が意思を決定することが重要です。本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合には、家族の希望を問うのではなく「ご本人がもし意思表示できるとしたらどのように仰ると思いますか」と家族と医療従事者で患者の意思を推定する必要があります。 ● eGFRが30mL/分/1.73m2未満(G4)の患者は、腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)について教育を受ける必要があります。● 透析の合併症では感染と心臓突然死に注意します。● 透析患者では薬の減量が必要になることや使用禁忌の薬があります。   執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Vandecasteele SJ,et al.:Staphylococcus aureus infections in hemodialysis: what a nephrologist should know.Clin J Am Soc Nephrol 2009;4(8):1388-400. 【参考文献】○日本腎臓学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,東京,2023.○日本透析医学会:2022年慢性透析療法の現況.2022年末の慢性透析患者に関する集計,2022.https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2022/pdf/01.pdf2024/07/8閲覧○Chick D,et al.:Chronic kidney disease.MKSAP19 Nephrology,American College of Physicians,p75-91,2021.○坂井正弘他編集:透析療法のすべて.Hospitalist 2023;11(2).○透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会:透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.透析会誌 53(4):173~217,2020○Tsai HB, et al.:Conservative management and health-related quality of life in end-stage renal disease: a systematic review.Clin Invest Med 2017;40(3):E127-E134.○Ren Q, et al.:Quality of life, symptoms, and sleep quality of elderly with end-stage renal disease receiving conservative management: a systematic review.Health Qual Life Outcomes 2019;17(1):78.○厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.2018.https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf2024/7/8閲覧

CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応
CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応
特集 会員限定
2024年10月8日
2024年10月8日

CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応

睡眠時無呼吸症候群は、いびき・日中の眠気・倦怠感などの症状がみられる疾患で、在宅診療でも遭遇することがあります。上気道の狭窄が原因であることが多く、CPAP(持続陽圧呼吸)療法が行われています。今回はCPAP療法の適応・装置・メンテナンス法などを紹介します。 CPAP療法の適応疾患・基準 睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられる 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は、夜間の断続的な低酸素血症・高二酸化炭素血症・睡眠の分断などが原因で、いびきのほかに日中の眠気・倦怠感などを感じるようになる疾患です。2003年の新幹線オーバーラン報道がきっかけで、SASは世間一般にもよく知られるようになりました。 日本人を対象とした研究では、男性で約24%、女性で約10%に睡眠呼吸障害が報告されており1),2)、SASは有病率の高いcommon diseaseであると考えられています。心血管イベントや認知機能低下などのリスクも高くなることから、適切な治療が必要です。 SASは、上気道が閉塞してしまう「閉塞性睡眠時無呼吸」と、気道閉塞を伴わない「中枢性睡眠時無呼吸」に大きく分類されます。CPAP(continuous positive airway pressure)療法は、持続的に気道へ圧力をかけることで上気道の閉塞を解除し無呼吸を改善する治療法で、閉塞性睡眠時無呼吸に対して有効となります(図1)。 ただしCPAP療法はあくまで対症療法であり、根本的な原因治療ではないことを知っておかなければいけません。肥満であれば減量を試みる価値がありますし、扁桃肥大・アデノイドなど耳鼻科疾患があれば、その切除を検討することが必要です。 図1 CPAP療法のしくみ AHI20以上で在宅CPAP療法が適応に 在宅CPAP療法の使用基準は診療報酬上、以下に該当することとされています3)。 (1)無呼吸低呼吸指数(apnea-hypopnea index:AHI、1時間あたりの無呼吸および低呼吸数)が20以上であること(2)日中の傾眠・起床時の頭痛などの自覚症状が強く、日常生活に支障を来していること(3)睡眠ポリグラフィー上、頻回の睡眠時無呼吸が原因で、睡眠の分断化、深睡眠が著しく減少または欠如し、CPAP療法により改善する症例であることC107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料 ただし、睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)は、睡眠時にさまざまなセンサーを取り付ける煩雑な対応が必要で、入院で実施する必要があります。そのため、自宅で実施可能な施設外睡眠検査をはじめに行うことも多く、AHI の代わりに呼吸イベント指数(respiratory event index:REI)40以上の結果が得られ、かつ上記の(2)の症状を認めれば、CPAP療法の導入を行うことができます。 CPAP療法が使用できないケース CPAP療法は、嚢胞性肺疾患(巨大なブラがある、肺リンパ脈管筋腫症、Birt-Hogg-Dube症候群など)、気胸、病的な低血圧症、脱水症、脳脊髄液の漏れ・頭部外傷歴・頭蓋内気腫がある患者さんには使用できません。 またSASの症状があっても、AHIが5〜20の場合はCPAP療法の適応とはなりません。ただし、歯科で作製してもらった口腔内装置(マウスピース)を用いた治療は行うことができます。 CPAP療法の標準装備 CPAP装置は、メーカーによりデザインの違いはあるものの、そのしくみはほとんど同じです。CPAP装置に加え、加湿器(CPAP装置と一体型になっているものも多い)、チューブ(もしくは加温チューブ)、マスクが標準装備です(図2)。 図2 CPAP療法に必要な装置 マスクの形にも種類があり、鼻全体を覆うタイプ(ネーザルタイプ)、鼻腔に当てるタイプ(ピロータイプ)、鼻と口全体を覆うタイプ(フルフェイスタイプ)があります(表1)。ネーザルタイプが一般的ですが、それぞれにメリット・デメリットがあるので、適切なマスクを選択することが必要です。 表1 CPAPマスクの種類と特徴 マスクの装着方法 マスクのタイプ、メーカーによって装着方法は少し異なりますが、よく使用されているネーザルタイプの標準的な装着方法を紹介します4)。(1)マスクはチューブから外し、単体で装着する(2)マスクの左右の方向を確認し、マスククッションを鼻に当てる(3)ストラップあるいはヘッドギアを装着する(4)マスクからリークがないよう、また痛みを感じることがないよう、バンドを調整しマスクをフィットさせる(5)最後にチューブをマスクに接続し、CPAP装置を起動させる 各メーカーがマスクの装着方法を動画で紹介しているので、一度確認しておくとよいでしょう。 ネーザルマスクを用いる際に、開口が問題となる場合には、顎が下がらないようにチンストラップや細いテープの使用を考慮します。 CPAP療法の実際 患者さんごとの最適な圧力調整が必要 CPAPの陽圧値は、固定圧あるいは自動圧調整(Auto CPAP)で設定します。固定圧は、それぞれの患者さんに適した一定陽圧を調整し決めなければならないので(タイトレーションといいます)、適切な管理ができるまで細やかな調整が必要となります。 それに対しAuto CPAPは、装置内のセンサーを用いて無呼吸や気流制限を解析し、睡眠中の圧力を自動的に増減させるしくみです。基本的に最低・最高圧を設定するだけでいいのでタイトレーションが簡便であり、近年頻用されるようになっています。しかし、圧力変動で違和感を覚える場合があること、睡眠状況の変化を察知してから圧力調整が行われるため予防的効果が低くなってしまうことがデメリットとして挙げられます。 陽圧そのものが不快に感じられることは多く、CPAP開始後にゆっくりと圧力を上昇させるramp機能や、呼気時に圧力を下げる機能が備わっているものもあります。 アドヒアランス低下の要因に適切に対応 CPAP療法は、患者さん自身が治療方針に賛同し、積極的に治療を継続する「アドヒアランス」が大切です。アドヒアランスが低下する原因として、鼻閉感、鼻の刺激、口の乾燥、腹部膨満感、リークの刺激、マスク痕や皮膚の炎症などが挙げられます。抗ヒスタミン薬の導入、加温加湿器の使用、マスクフィッティングの調整、圧設定の調整、皮膚保護など、患者さんの訴えに合わせた対応をすることで、アドヒアランスの向上が期待できます。 CPAP療法を継続できない患者さんには、顎矯正手術や植え込み型舌下神経刺激療法を行うことがあります。高度肥満患者さん(BMI 35以上)には腹腔鏡下スリープ状胃切除術の適応があり、減量することでAHIを低下させられる可能性が報告されています5)。 なお、マグネット付きストラップのマスクは装着が容易ですが、マグネットと相互作用する医療機器(ペースメーカー、植込み型除細動器など)を使用している患者さん、器具(脳動脈瘤クリップ、塞栓コイルなど)が体内に存在している患者さんには使用禁忌となっており、注意が必要です。 治療継続とAHI5以下が目標 CPAP装置の設定は医師が行います。患者さんは寝る直前にマスクを装着し、CPAP装置を起動させるだけでよいです。訪問看護師さんをはじめとした医療従事者は、CPAP装置に記録されたデータをもとに、CPAP療法が適切に行われているか評価します。装着日数を増やすこと、AHIが5以下になること、4時間以上の使用日数が70%以上になるように、アドヒアランス改善を目指します。リークが多いようであれば、マスクフィッティングの再確認が必要です。 CPAP装置は毎日のメンテナンスが必須 CPAP装置使用後は、チューブ差込口や空気取り入れ口にほこりが詰まっていないか毎日確認が必要です。清潔を維持するため、マスク本体はパーツごとに分解し、中性洗剤を用いてぬるま湯で毎日洗います。チューブは使用後吊り下げて保管し、週に1回はぬるま湯と中性洗剤で洗います。加湿器のチャンバーも、毎日使用後にぬるま湯と中性洗剤で洗います。これらの洗浄処置を怠ると、細菌・真菌などが繁殖し感染症の原因となります。なお、実際のメンテナンスは、使用している装置の取扱説明書や添付文書に従い行うようにしてください。 また、マスクやチューブに傷がないか毎日確認する必要があります。問題があればメーカーに問い合わせし交換してもらいます。 執筆:細野 裕貴地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸器内科 診療主任 監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長 編集:株式会社照林社 【参考文献】1)Matsumoto T,Murase K,Tabara Y,et al. 「Impact of sleep characteristics and obesity on diabetes and hypertension across genders and menopausal status: the Nagahama study」. Sleep 2018;41(7):1-10.2)松本健. 「本邦の睡眠呼吸障害―ながはまコホートの結果から」. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2021;30(1):33-38.3)厚生労働省:「医科診療報酬点数表に関する事項」. 20244)帝人ファーマ「操作動画「AirFit N20 マスク」」.https://medical.teijin-pharma.co.jp/product/zaitaku/airfit-n20/movie.html2024/03/29閲覧5)西島宜生.「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)におけるCPAP以外の治療」. 日本内科学会雑誌 2020;109:1082-1088.

ニャースペースのつぶやき 夏
ニャースペースのつぶやき 夏
特集
2024年10月8日
2024年10月8日

家ならペットとも一緒だね!ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

ずっと一緒にいられるね 在宅だからこそ、大切なペットと一緒に暮らすことができるんだにゃ 入院生活ではどうしても制限が多くなりますが、愛するペットとも会えなくなってしまうつらさもあります。訪問看護師さんからは、「ペットが何よりも大切な存在で、そのために在宅療養を希望された利用者さんもいらっしゃいます。ベッドの傍らにワンちゃんやネコちゃんがいて、嬉しそうになでている利用者さんの様子をみると、こちらも嬉しくなります」という声が寄せられました。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法
食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法
特集
2024年10月8日
2024年10月8日

食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法は?子どもと大人の違いも解説

食物アレルギーの症状は、軽度から重度までさまざま。花粉症の人が発症しやすい食物アレルギーもあります。本記事では、食物アレルギーの症状や治療法、子どもと大人の違い、アレルギー発症時の対処法、おさまるまでの時間などついて解説します。訪問看護の利用者さんやそのご家族、あるいはご自身の健康管理に役立てるために、食物アレルギーの知識を身につけましょう。 食物アレルギーとは 食物アレルギーとは、免疫システムが特定の食物を誤って有害物質と認識し、それに対して過剰に反応することで発症する疾患です。その多くはIgE抗体が関与しており、食物を摂取した後に、皮膚のかゆみや蕁麻疹、呼吸困難などの症状が現れます。症状が現れるタイミングの多くは、アレルゲンを摂取してから数分~数時間以内ですが、半日ほど経過後に現れる場合もあります。 食物アレルギーにはいくつかの種類があります。最も一般的なのは、甲殻類やそば、ナッツ類などによる「通常の食物アレルギー」です。そのほか、果物や野菜などによって引き起こされる「口腔アレルギー症候群(OAS)」や、ラテックスアレルギーの方が果物を摂取することで起こる「ラテックス・フルーツ症候群」、特定の食物を摂取した後、運動すると起こる「食物依存性運動誘発性アナフィラキシー」があります。それぞれ見ていきましょう。 即時型食物アレルギー 即時型食物アレルギーは、甲殻類、そば、ナッツ類、卵、小麦などが原因となり、発症します。 症状:皮膚の発赤、蕁麻疹、皮疹、咳、喘鳴、腹痛、嘔吐など発症までの時間:食物を摂取してから2時間以内(多くは30分以内)おさまる時間:数日好発年齢:0~1歳(ただし全年齢発症の可能性あり) 複数の箇所に比較的強い症状が現れた状態である「アナフィラキシー」になると、アナフィラキシーショック(症状が進行して血圧が低下し、気道狭窄、呼吸困難、低酸素血症、意識障害を生じた状態)へと進行し、生命に危険が及ぶおそれがあります。 口腔アレルギー症候群(OAS) 口腔アレルギー症候群(OAS)は、特定の果物や野菜を食べた際に発症します。花粉症と密接に関連しており、特定の花粉にアレルギーを持つ人が、似た抗原構造を持つ果物や野菜を食べた際にアレルギー反応を起こします。たとえば、シラカバによる花粉症の人はリンゴやモモ、カモガヤによる花粉症の人はメロンやスイカに反応することがあります。これは、含まれる抗原が似ているために起こる「交差反応」と呼ばれる現象によるものです。 症状:口の中や喉のかゆみ・腫れ・違和感発症までの時間:食物を摂取してから数分以内おさまる時間:30分~1時間程度好発年齢:幼児~成人 ラテックス・フルーツ症候群 ラテックス・フルーツ症候群は、ラテックスアレルギー(※)を持つ人が、特定の果物に含まれる抗原に反応することで発症します。特にバナナ、アボカド、キウイ、栗などの果物は発症リスクが高く、重症化する可能性があります。これは、ラテックスとこれらの果物に含まれる抗原が似ているためと考えられており、摂取する際は注意が必要です。 ※ラテックスアレルギーとは、ゴム手袋や風船などのラテックス製品が皮膚に接触することで発症するアレルギー反応です。 症状:口腔内の違和感やしびれ、顔面浮腫、呼吸困難感、動悸、かゆみを伴う全身性の蕁麻疹など発症までの時間:食物を摂取してから15分程度おさまる時間:体調などにより個人差あり好発年齢:特になし 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA) 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)は、小麦や甲殻類、果物など特定の食物を摂取した後に運動することで症状が出現し、ショック状態にいたることもあります。 FDEIAは激しい運動だけでなく、散歩程度の軽い運動でも発症することがあります。さらに、疲労、寝不足、風邪、ストレス、月経前症状、気象条件、アスピリンや非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)の服用なども症状を誘発する要因となり得ます。通常の小麦アレルギーとは異なる成分が原因となっており、一般のアレルギー検査では検出できません。そのため、自分がFDEIAに該当するかどうかを確認するためには、専門的な検査が必要です。 症状:蕁麻疹、呼吸困難、気分不快、意識消失発症までの時間:摂取した後2時間以内に運動すると発症するケースが多いおさまる時間:重篤化しなければ1日程度好発年齢:10代~20代 大人と子どもの食物アレルギーの違い 食物アレルギーは子どもと大人で異なる特徴を持っています。その違いについても見ていきましょう。 治るの可能性 大人の場合、一度食物アレルギーを発症すると寛解することは困難で、原因となる食品を完全に避ける以外の方法はほぼないとされています。 一方、子どもの食物アレルギーは、成長するにつれて消化管のバリア機能が発達し、アレルゲンに対する耐性がつくことで寛解するケースがほとんどです。たとえば、幼少期に卵アレルギーがあっても、成長するにつれて加熱した卵を食べられるようになり、最終的には生卵を食べてもアレルギー反応が現れなくなります。 自然に耐性を獲得するのが難しい場合、医師の指導のもとで少量のアレルゲンを徐々に摂取して体を慣らしていく「経口免疫療法(経口減感作療法)」という治療法があります。ただし、この治療は副反応が起こりやすく、まれにアナフィラキシーをはじめとした重篤な症状を引き起こす可能性があり、安全性に十分な配慮が求められます。一部の症例には治療効果はありますがエビデンスレベルは低いため、食物アレルギーの一般診療としては推奨されていません。 アレルギー出現時の対処方法 アレルギー反応が出た場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。特に、アナフィラキシーショックが発生した場合は、アドレナリン自己注射薬をすぐに使用、救急車を要請し、医療機関での治療を受ける必要があります。 アレルギー反応が軽度の場合、症状は数時間以内におさまることが通常です。一方、アナフィラキシーショックのような重篤な反応では数日間にわたり症状が続き、入院治療が必要な場合もあります。 アレルギーの予防と対策 食物アレルギーを防ぐために、次のポイントを押さえましょう。 食品成分表を十分に確認する 食物アレルギーを予防するためには、食品成分表をしっかりと確認することが重要です。特に加工食品には、思わぬアレルゲンが含まれていることがあるため、注意が必要です。たとえば、チョコレートやクッキーには、小麦、卵、乳製品、ナッツが含まれている場合があります。また、ソースやドレッシングには、大豆や小麦が含まれていることが多いため、小麦や大豆にアレルギーがある方は注意しましょう。 体調の悪いときは避ける 体調が悪いときは、アレルゲンを含む食品を避けることが賢明です。加熱すればアレルギー反応が出ない方も、体調不良のときは避けましょう。たとえば、加熱した卵であれば問題ない程度の卵アレルギーでも、体調不良のときは加熱した卵でも症状が出る可能性があります。 果物アレルギーに関しては、症状が出るときと出ないときがあるため、ひとまず気にせずに食べて、症状が現れたら対処すればよいという考え方の人も少なくありません。そのような方が体調不良のときに果物を食べる場合は、アレルギー反応が現れる可能性を少しでも抑えるために、アレルギーを起こす可能性のあるタンパク質を加熱処理して食べるとよいでしょう。 また、花粉症自体の治療により、食物アレルギーの症状が改善することもあるため、医師に相談してみてください。 食物負荷テストを受ける 食物負荷テストは、アレルギーの有無を確認するための方法で、医療機関や家庭で行うことができます。医療機関で行う場合は、専門医の監督下で少量のアレルゲンを摂取し、反応を観察します。家庭で行う場合は、医師の指導を受けた上で、慎重に進めることが重要です。 災害時に備えておく 災害時には、食物アレルギーを持つ人が避難所で困ることが多いため、事前の準備が必要です。非常用袋や防災セットには、アレルギー対応食品やアドレナリン自己注射薬、抗ヒスタミン薬を備えておきましょう。また、学校や宿泊先などにも、アレルギーについて事前に伝えておくことが大切です。 注意したいのが、炊き出しに使用している食物を確認することです。しかし、炊き出しは大量調理のため、多少のアレルゲンの混入は避けられないものと考える必要があります。 *** 食物アレルギーは、子どもから大人まで誰にでも見られる疾患です。アレルギー反応が出た場合の対応や日常生活における予防策をしっかりと理解し、常に注意を払うことが大切です。今回解説した内容を自身や訪問看護の利用者さん、そのご家族などの健康管理に役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:村田 朗医療法人財団日睡会 理事長御茶ノ水呼吸ケアクリニック 院長日本医科大学内科学講座(呼吸器・感染・腫瘍部門)非常勤講師。日本医科大学、 同大学院卒業。資格・学会:医学博士、日本内科学会認定内科医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本睡眠学会会員、肺音(呼吸音)研究会世話人、東京呼吸ケア研究会幹事、American Thoracic Society 会員、European Respiratory Society 会員、International Lung Sounds Association 会員、NPO法人日本呼吸器障害者情報センター顧問、東京都三宅村呼吸器専門診療委託医、日本医師会認定産業医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)、千代田区公害健康被害診療報酬審査委員。 【参考】〇厚生労働省.「4食物アレルギー」https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf2024/9/20閲覧〇日本小児アレルギー学会「食物アレルギーのこどもへの対応」(2017年11月)https://www.jspaci.jp/assets/documents/saigai_pamphlet_2021.pdf2024/9/20閲覧

「慢性腎不全(CKD)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「慢性腎不全(CKD)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年10月1日
2024年10月1日

「慢性腎不全(CKD)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は慢性腎不全(CKD:chronic kidney disease)について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 慢性腎不全(CKD)の基礎知識 腎臓の障害または腎機能低下が3ヵ月以上続く病態を慢性腎不全、CKD(chronic kidney disease)といいます。腎臓の障害は血清クレアチニンの上昇や、タンパク尿またはアルブミン尿の持続、画像診断による両側の腎臓萎縮から判断されます。腎機能低下とは糸球体濾過量(GFR)が60mL/分/1.73m2未満を指します。 日本では成人の8人に1人がCKDとされ、高齢になるほど発症率は高くなり、80歳代では2人に1人といわれています。人工透析にかかる医療費は、患者一人あたり年間500万円にも上ります。医療費抑制の点からもCKDの悪化予防が大切です。 CKD患者のほとんどは末期腎不全に進行しません。30歳以上の健康な成人では、推定糸球体濾過量(eGFR:血清クレアチニン、性別、年齢からGFRを推算した値)の平均低下速度は年間約1mL/分/1.73m2です。アルブミン尿やタンパク尿の増加および/または糖尿病性腎疾患などの危険因子を有する患者は、より急速に進行する可能性が高いです。 CKDの重症度は、GFRのレベルに基づいてG1からG5に分類されます(表1)。アルブミン尿は腎疾患および心血管疾患の罹患率および死亡率の上昇と関連しているため、GFRに基づく腎臓の病期はアルブミン尿の程度によってさらに細かく分かれています。表1で示す緑→黄→オレンジ→赤の順に死亡リスクが高くなります。 表1 CKDの重症度分類 重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する.CKDの重症度は死亡,末期腎不全,CVD死亡発症のリスクを緑■のステージを基準に,黄■,オレンジ■,赤■の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する.(KDIGO CKD guideline 2012を日本人用に改変) 日本腎臓学会 編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,2023:4.より許諾を得て転載 診断 CKDの診断は先述したとおりですが、日常の臨床では血清クレアチニンから推定するeGFRを用いるのが一般的です。したがって、3ヵ月以上eGFR<60mL/分/1.73m2であることの確認、またはeGFRに関係なくタンパク尿またはアルブミン尿が持続していることの確認が必要です。 なお、eGFRは筋肉量が減少している患者では高めに算出されます。そのような場合はクレアチニンの代わりにシスタチンC値を用いてeGFRを計算します。 合併症と治療 CKDでは次の合併症が起こることがあります。 心血管疾患 心血管疾患はCKD患者の主要な死因です。死亡リスクはeGFRが低下し、アルブミン尿が増加するにつれて高くなります。 高血圧 高血圧を合併する頻度も高く、130/80mmHg未満にコントロールすることが推奨されています(米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)『血圧ガイドライン』[2017]、日本腎臓学会・日本高血圧学会『CKD診療ガイド 高血圧編』[2008])。ACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬の投与によりCKDの進行を遅らせる可能性があります。ループ利尿薬は心不全を合併している場合に使用されます。食塩摂取量は3~6g/日が推奨されています。 脂質異常症 ほとんどのケースでスタチンによる治療が勧められます。LDL<120mg/dL(可能なら<100mg/dL)を目標とします。 高カリウム血症 カリウム値が高くなると、典型的な心電図変化が見られます。テント状T波やQRS幅の延長、P波の消失、またQRS波とT波の区別が難しくなりサインカーブのように変化する心電図所見を認めます(図1)。腎機能の悪化した患者が徐脈性ショックを起こしたケースでは、高カリウム血症を必ず鑑別診断に挙げなければなりません。 図1 高カリウムの時の心電図 腎性貧血 腎機能が低下するとエリスロポエチン(EPO)の産生が低下し、正球性正色素性貧血となります。しかし、CKD患者には消化管出血もよく起こるので、鉄欠乏性貧血も確認する必要があります。息切れや動悸、倦怠感、黒色便、食欲低下、体重減少の有無を聞きましょう。 消化管出血に関連し、高齢者の消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)では腹痛をまったく訴えないことがあります。50歳以上の患者では、常に悪性腫瘍の可能性を考えてください。数ヵ月以内で5%を超える体重減少があったか、上部消化管内視鏡検査や下部消化管内視鏡検査が最近施行されているかを確認することが重要です。  最新トピックス糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は、糖尿病性腎臓病のみならず、糖尿病非合併のCKD患者においてタンパク尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制ができることが分かりました1)。 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント CKDのリスクとなる高血圧や糖尿病、腎疾患、膠原病、高尿酸血症の治療歴を確認します。NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)の内服や喫煙についてもチェックが必要です。 [注]NSAIDsの内服は、腎機能や心不全の悪化、消化性潰瘍を起こします。PPIは間質性腎炎を起こすことが知られています。担当医に服薬状況を伝えましょう。 ほとんどのCKD患者に症状はありません。進行すると全身や下腿に浮腫がみられます。心不全はできるだけ早期に診断して治療を行うことが重要です。心不全を示唆する次の症状や身体所見に注意してください。 左心不全 左心不全になると、就寝後2~3時間して突然息が苦しくなって目覚めます(夜間発作性呼吸困難)。体動時の息苦しさやSpO2の低下も認められます。進行すると前屈みで座位になっていないと苦しくなります(起座呼吸、図2)。靴紐を結ぶ動作のように前屈みになると息苦しくなるか(ベンドニア、前屈呼吸苦)を確認してもよいでしょう(図3)。息苦しくなれば、左心不全です。両側の肺下部で吸気時にcrackles(クラックル)が聴取されます。膜型聴診器を聴診器の跡が残るくらい強く背中に押しつけ、大きく深呼吸をしてもらうのがポイントです。 図2 左心不全における起座呼吸 臥位で呼吸困難が増強し、起座位で軽減する状態を起座呼吸という。前屈みで座位になっていないと苦しくなる。 図3 ベンドニア(前屈呼吸苦) 靴紐を結ぶ動作のように前屈みになったときに息苦しくなる症状のことをベンドニアという。 右心不全 右心不全では頸静脈の怒張や肝腫大、両下腿の浮腫を認めます(図4)。座位で頸静脈が確認できれば中心静脈はかなり高いと推定できます。下腿を指で圧迫し痕をつけた後に手を離すと40秒経っても圧痕が残ります(slow edema)。 図4 右心不全の所見 右心不全では頸静脈の怒張や肝腫大、両下腿の浮腫を認める。 * * * 多くの患者では、左心不全と右心不全が同時に起こります(両心不全)。右心不全の最大の原因は左心不全です。急激な体重増加は心不全の悪化を意味するため注意が必要です。また、末期腎不全になると、尿毒症症状(意識障害、頭痛、不眠、疲労感、嘔気、食欲不振、息苦しさ)が現れることがあります。 意識レベルの低下、急激な体重増加、SpO2低下(<90%)、急速な下腿浮腫の悪化があれば担当医に連絡しましょう。 ●CKDの診断には、3ヵ月以上eGFR<60mL/分/1.73m2であることの確認、またはeGFRに関係なくタンパク尿またはアルブミン尿が持続していることが必要です。●CKDは予防が重要。降圧目標は収縮期130/80mmHg未満、食塩制限は3~6g/日とします。●CKDと心不全は合併しやすいです。心不全を示す症状や身体所見を早期にアセスメントしましょう。   執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)⽇本腎臓学会:CKD 治療における SGLT2 阻害薬の適正使⽤に関するrecommendation.2022年11⽉29⽇策定.https://jsn.or.jp/medic/data/SGLT2_recommendation20221129.pdf2024/6/17閲覧 【参考文献】○日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,2023:4.○Chick D,et al.:Chronic kidney disease.MKSAP19 Nephrology,American College of Physicians,p75-91,2021.○Heerspink HJL,Stefánsson BV,Correa-Rotter R,et al.:Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease.N Engl J Med 2020;383(15):1436-1446.

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