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【セミナーレポート】vol.1 生活期リハビリの要点 -訪問看護における生活期リハビリテーション-
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【セミナーレポート】vol.1 生活期リハビリの要点 -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハビリの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そのセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第1回は、仲村先生による「生活期リハビリのポイントや成果を出すコツ」「訪問看護師と療法士の連携」についての講演をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 「活動」と「参加」の問題へのアプローチが重要▶︎ 「できないこと」よりも「できること」に着目を ・活動・参加の内容の考え方▶︎ 生活期リハビリの具体的な流れとポイント ・ポイント1:活動・参加につながる目標を立てる ・ポイント2:リハビリは本人や家族だけでできる内容にする ・ポイント3:利用者さんの心を揺さぶる提示を意識 ・ポイント4:些細な変化を見逃さない&本人に伝える▶︎ 療法士が望む、生活期リハビリにおける訪問看護師との連携 ▶︎ 「活動」と「参加」の問題へのアプローチが重要 療法士が利用者さんの現在の状況を把握する際に使用する「ICF(国際生活機能分類)」の枠組みをご存じでしょうか。ICFとは、「(1)健康状態」「(2)生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」「(3)背景因子(環境因子/個人因子)」という互いに関係し合う3つの観点から、対象者の生活機能と障害について分類するものです。 このなかの「(2)生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」の視点から利用者さんの健康状態を整理すると、以下のような問題点が見えてきます。 ●「心身機能・身体構造(心体の動き)」の問題→麻痺、筋力低下など心身の機能や構造に問題がある状態●「活動」の問題→着替えや食事、排泄、家事動作など「生活に必要な行為」に支障がある状態●「参加」の問題→趣味や地域活動、労働など、本人がもつ「役割」を果たせない状態 「活動」は生活に必要な行為すべてを、「参加」は社会や家庭で役割を果たすことを指します。生活期リハビリを支援するにあたっては、この「活動」と「参加」の問題をいかに改善していくかを常に考えることが重要です。 ▶︎ 「できないこと」よりも「できること」に着目を 「活動」と「参加」にアプローチすることで、心身機能の向上を図ることもできます。なぜなら、心身機能と活動、参加は互いに影響を与え合うものだからです。 このときにポイントとなるのが、「できないこと」にばかり注目するのではなく、「できること」に目を向けること。支援する私たちも利用者さんも「できないこと」ばかりに意識が向いてしまいがちですが、それでは多くの場合うまくいきません。「心身機能に問題がある=実践できる活動や参加がない」ということは決してありません。「今できる活動・参加」を実践して成功体験を重ねれば、自己効力感が向上し、自信が回復してさまざまなことに能動的に挑戦できるようになるはず。そうして、心身機能の回復につながっていくことが期待できます。 活動・参加の内容の考え方 活動・参加に積極的に取り組んでもらうためには、利用者さんの希望に合った内容にすることが大切です。日頃から利用者さん中心のコミュニケーションを重ね、その人の価値観や生活背景を探り、それに基づいた内容を考えてみましょう。例えば「カメラが趣味だ」という利用者さんがいたとします。それだけ聞いて「撮影の練習をしましょう」と提案しても、その方が撮った写真を自慢することが好きだった場合、リハビリはうまくいきません。それよりも、今までに撮った写真について話せるコミュニティーへの参加を検討するほうが、きっと主体的に取り組んでくれるはずです。普段の会話のなかにひそむヒントをぜひ見つけてください。 ▶︎ 生活期リハビリの具体的な流れとポイント 続いて、生活期リハビリの具体的な流れに沿って、内容の決定や利用者さんへの提示などにおけるポイントをご紹介していきます。 ポイント1:活動・参加につながる目標を立てる まずは、利用者さんの課題や現状を整理し、本人が望む活動・参加につながる具体的な目標を立てましょう。例えば、「家族に食事を振る舞えるようにする」「孫を膝に乗せられるようにする」などです。 ポイント2:リハビリは本人や家族だけでできる内容にする そして次に、その目標を達成するためのリハビリ内容を考えていきます。このときのポイントは、療法士がいなくても本人や家族だけでもできるものにすることです。無理なく継続できるような内容にしましょう。 ポイント3:利用者さんの心を揺さぶる提示を意識 リハビリの提示をする際は、「心を揺さぶる伝え方」を意識してください。内容は同じでも、言い方ひとつで利用者さんのモチベーションは大きく変わるものです。 例えば、立ち上がり練習をしてもらいたいとき。「足の筋力が弱いので、立つ練習をしましょう」と伝えるよりも、「30秒つかまり立ちができれば、トイレや着替えがラクになりますよ。まずは10秒立つことから始めてみませんか?」と伝えたほうが、利用者さんのやる気を引き出しやすくなるはずです。 ポイント4:些細な変化を見逃さない&本人に伝える リハビリを継続してもらうには、効果を感じてもらえるようにすることが重要です。利用者さんの変化をよく観察し、言葉にして積極的に伝えましょう。また、療法士だけでなく看護師さんやご家族など、周りのみんなで伝えることもポイント。「前よりもよくなったね!」と声をかけられると、利用者さん本人も自身の変化を実感しやすくなります。 ▶︎ 療法士が望む、生活期リハビリにおける訪問看護師との連携 リハビリでは、PDCAサイクルを回して、常により効果的な形を模索していきます。訪問看護師のみなさんには、ぜひこのサイクルに参加してほしいと考えています。看護師さんの視点から、その方にあった活動と参加はどんなものか、その実現のためにはどんなリスクがあるのか、どんどん意見を出してほしい。また、リハビリの評価についてもぜひ話し合いたいです。そうやって、療法士と看護師さんとで一緒によりよいリハビリをつくっていければと思います。 次回は、日比先生による講演「vol.2 生活動作への具体的なアドバイス方法(1)」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

対話で変わる精神医療のありかた――オープンダイアローグとは何か
特集

対話で変わる精神医療のありかた――オープンダイアローグとは何か

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第9回は、医療者・患者・家族が平等に語り合うフィンランド発祥の精神医療の新潮流、 オープンダイアローグについて語りあった。(内容は2018年1月当時のものです。) ゲスト:森川すいめいみどりの杜クリニック院長、精神科医、鍼灸師明治国際医療大学、日本大学医学部卒。国立病院機構久里浜医療センター勤務を経て、現在、医療法人社団翠会みどりの杜クリニック院長。ホームレス支援を行うNPO法人TENOHASI理事、認定NPO法人「世界の医療団」理事、同法人「東京プロジェクト」代表医師。著書に「漂流ホームレス社会」(朝日文庫)、「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」(青土社)などがある。 対話によって入院患者が40%に激減 川越●精神科治療の分野で注目されているオープンダイアローグについて教えてください。 森川●オープンダイアローグは1984年にフィンランドのケロプダス病院で生まれた、開かれた対話による精神医療形全体を総称したものです。ニーズを聞いて、それに対する包括的なケアをするという考えかたを基礎にしています。 それまでは本人や家族が不在のなかで、医療者によって治療方針が決まっていったのですが、意思決定の場に本人と家族を招き、まずは両者に「ご加減いかがですか」と聞きはじめたのだそうです。ただそれだけで、入院患者が40%に減るということが起こりました。いかにそれまで本人の声を聞かなかったか、家族の声がそこになかったかがわかったともいえます。 川越●それまでは「精神疾患の人は自分で意思決定できないだろう」と判断されていたということですね。認知症の人の場合も同じ状況だといえそうです。 森川●もう一つ、「一対一で会わない」という決めごとがあります。医療者と患者だけだと、どうしても力関係が生じて対等になりにくい。でも複数の参加者がいて、そこにいるすべての人の声が同等に大切にされるように工夫されていくと、互いの関係性が対等になりやすくなる。本人の困りごとを共有している人が同席するので、学校の先生や近所の人も参加できます。 病名よりもその人の困りごとが大事 川越●認知症専門医が「これはレビーだ」「アルツハイマーだ」と診断するより、その人が何に困っているのかに注目しなさいということですね。 森川●はい。生きていくことにおいて困っているときに、病名が役立つことはあまりありません。求められていることは、困りごとについて一緒に考え試行錯誤していくことです。 川越●オープンダイアローグを行うためには、どんなトレーニングが必要なんですか。 森川●人は誰でも赤ちゃんのころから、言葉だけじゃなく体でも対話しています。でも大人になって頭で考えるようになると、そのやりかたを忘れてしまう。頭で考えることを外していく作業です。 川越●言葉だけじゃない、体を使った対話というと、ユマニチュードなどもそうですね。 森川●「オープン」といっても何でも話すという意味ではなく、本人たちにとって開かれている場であるという意味です。また、ダイアローグという言葉には、ギリシャ語で「あなたとわたしは違う存在」という意味があります。互いに違う人間だと確信し、相手を知らないと知ることから対話が始まるんです。 川越●日本の精神医療は「来ない人は診ない、治す気がない人は診ない」というスタンスが一般的ですが、それでは認知症やセルフ・ネグレクトの人などは診ないことになります。引きこもりの人やアルコール依存の人など、医療を断固拒否する人はどうしますか。 森川●家に行くための時間がつくれないのが今の精神医療の現状ですが、それをオープンダイアローグでは上手にマネジメントして、医療チームが外に出られるようにしました。 人生にかかわる症状が対話により解消 川越●オープンダイアローグの手法は、日本でも広がっていますか。 森川●日本でも広がりつつあり、私のクリニックでも2年前から実践しています。まずは日本の制度を使って、どう工夫するか。対話の場には医師がいなくてもいいので、訪問看護の制度でもオープンダイアローグが成り立ちます。セラピストとしての訓練はしなければなりませんが、精神科訪問看護は2人訪問が可能なので。私の場合は訪問診療という形で、対話をしに行きます。 先日は、高齢で幻覚・妄想が強くなった方のところで対話をしました。薬も全然効かなかった人です。その人は、家に泥棒が入るという幻覚・妄想を、家族を巻き込んで警察にまで相談していました。そこでわれわれは幻覚の問題はいったん置いて、本人と家族の困りごとを聞いていきました。幻覚として人が家に入ってくるということ。そのことに対して警察も家族もまともに対応してくれない。病気扱いされてしまう。それがどれほど本人にとって悔しいことかも見えてきました。 川越●思いを大切にすることで、安心するんですね。 診断や薬を使う前にまず対話を 森川●本人の気持ちを丁寧に扱っていくことができた。それが、本人にとっても家族にとってもよいことだったようです。閉じこもっていた人だったのに、デイサービスにも行くようになりました。人生にかかわっている幻覚を、対話によってみんなで共有することで、もう一度、人生に寄り添えるようになる。目的は治療ではなく、対話ができたことなんです。 川越●オープンダイアローグの手法を使って、同じ価値観、同じ方法論で情報が共有できると、物事が全部つながって、見える世界が変わってくる気がします。医療はどうしてもヒエラルキーのある世界で長年積み上がってきているので、まずはその考えかたを変えることが必要ですね。 森川●薬を使わない療法だというと、反対する人が多いんです。伝えかたが難しい。「診断や薬を考える前にまずは何度も対話をして、困りごとが何かを考えていこう」ということであって、対話で治すとか、そういうものではありません。 川越●大切なのは、医療の枠にとらわれず本人のニーズを基として何をするかという、人生にかかわる話ですね。 森川●本当に思います。そう簡単には広がらないとは思いますが、オープンダイアローグ、丁寧に広めていきたいですね。 あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年1月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

安心感をどう作るか⑧ コロナ禍のスタッフマネジメントで印象に残ったこと
特集

安心感をどう作るか⑧ コロナ禍のスタッフマネジメントで印象に残ったこと

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、第8回に続き、医療法人ハートフリーやすらぎの大橋奈美さんです。 お話大橋奈美医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師)  直行直帰を巡って コロナ禍で実施したあることに対して、スタッフが予想しなかった反応を示しました。 新型コロナウイルス感染症拡大の第1波から第3波まで、私たちの訪問看護ステーションでは、常勤看護師21名のうち、約半数を直行直帰としました。たとえ事業所内でクラスターが発生しても、少なくとも半数は、継続して業務ができるようにしたのです。 直行直帰組からは、「いちいち事業所に行かなくていいので、楽ちんや」とか、「残業がないから、いいわ〜」などの感想が返ってくると思っていました。 ところが、直行直帰をしていたスタッフは、予想外の言葉を口にするようになります。 「すごく心がしんどい」 あるスタッフは、「すごく心がしんどい」と打ち明けました。「いつステーションに行けますか?」「直行直帰は、いつまで続くんですか?」いつもの勤務形態に戻ることを切望する声が次々に聞こえてきます。「うつになりそうです」とまで言うスタッフもいました。 ことあるごとに、オンライン会議やチャットアプリのビデオ通話で「みんな元気?」「はい、元気です」などとやりとりをしているのですが、「一日でも早くみんなに会いたい」が本音のようでした。 訪問看護師の孤独 コロナ禍での業務経験を積むにつれ、PPE(個人防護具)の着用や手洗い・消毒などの感染予防を徹底さえすれば、それほど恐れる必要がないことはわかってきました。しかし、重症化リスクの高い利用者さんや高齢のご家族に感染させないように、細心の注意を払う必要があります。さらに、利用者さんのお宅でPPEを着用するときは、利用者さんを感染者扱いしているように思われない配慮が求められますし、玄関の外でPPEを着けると、「あそこの家は感染者がいる」と、いわゆる「コロナ差別」を誘発することにもつながりかねません。 ふだん以上に、気疲れするのがコロナ禍の訪問です。「仲間と話したい」と思っても、直行直帰では、それがかないません。多くのスタッフは、孤独感を深めます。 そんな直行直帰組が何よりも欲していたのは、仲間との何気ない会話です。会議やミーティングなどの改まった席ではなく、トイレで手を洗っているときや、昼食後の歯磨きのときに交わす「大変やね」「それ、わかるわ。そうや、大変やわ」「もう少し頑張れへんといけませんね」「そうやなあ、しんどいなあ」などの何気ない会話がどれほど大切なのかを、コロナ禍で痛感することになりました。 サポートできないもどかしさ 統括所長である私も、直行直帰組には、サポートがなかなか届かないもどかしさを感じていました。 たとえば、いつもなら朝礼でうつむいているスタッフを目にしたら、「家で何かあったの? 大丈夫? しんどいんとちゃうの?」などと声を掛けます。すると、うつむいていたスタッフの顔が、自然に上がってくるのです。ところが、直行直帰では、そんなサポートができません。 そこで、直行直帰組には、ビデオ通話で「頑張って〜、一人じゃないよ〜」と懸命に呼びかけました。通話している私のそばに事務所通勤組が集まってきて、「私たちも応援してるよ〜」と声を掛けます。それを聞いたスタッフは、「涙が出ました」と後で話してくれました。でもやっぱり、ステーションに行くことで感じる温もりにはかないません。 築き上げてきた「温もり」の大切さ 私は、何よりもスタッフを大事にしてきました。「さすが〜」「知らんかったわ」「すごいなあ」「センスいいわ」「そうやなあ」の〈さしすせそ〉を常に心掛けながら、スタッフに接してきました。 午前の訪問から帰って来て、「こうしたけど、よかったでしょうか?」と心配するスタッフには、「ええやん、それでええで、私も同じようにしたわ」と笑顔で応じました。その言葉を聞いて、スタッフは午後の訪問に元気良く出掛けます。 もちろん、所長だけではありません。先輩や仲間が、温かく声を掛けあいます。私たちのステーションには、たわいない会話や冗談が飛び交う日常がありました。それが、掛け替えのない財産なのだと、コロナ禍が続く今、しみじみと噛みしめています。 第4波以降、直行直帰を中止しました。 「あと1週間(直行直帰が)続いたら、私、病んでいたかもしれません」とあるスタッフが言い、「脅さんといて」と私が答えます。「マジだったんです」「申し訳なかったなあ、次から(直行直帰は)せえへんから」 本当にスタッフは宝物です。 ー第10回に続く記事編集:株式会社メディカ出版

「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!
コラム

「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、嚥下機能が低下しても誤嚥を起こさなくする、誤嚥防止術のお話です。 誤嚥防止術という選択肢 ALS患者さんで、気管切開は受けても、誤嚥防止術まで受ける人はかなり少ないのが現実です。 気管切開をするかどうかギリギリまで悩んで、結果的に呼吸状態が悪化して緊急処置として気管切開をする人もいます。また気管切開をするかどうかで頭がいっぱいで、その先にある誤嚥防止術のことまで考えられない人や、そもそもその選択肢を知らない人もいます。 気管切開をして人工呼吸器をつけて生きていくと決めた人には、誤嚥防止術を受ける選択肢もあることを、ぜひ知っておいてほしいと思います。 気管切開をするとどうなる? 気管切開という手術は、文字どおり気管を切開して、気管と外部(皮膚)を交通する孔を開ける方法です。その孔に外部からカニューレという管を入れて、そこに人工呼吸器をつないで呼吸をサポートしてもらいます。 この方法で安定した呼吸状態が確保されます。カニューレには、空気で膨らむ風船のようなもの(カフ)が付いています。カフを膨らませることで、カニューレを気管内に固定することができ、同時に、喉から気管内に垂れ込んでくる唾液をせき止める働きもします。しかし、垂れ込みを完全に予防することはできず、カフの脇から垂れ込んだ唾液は適宜吸引しないといけません。吸引しきれず肺の奥に落ちてしまった唾液は、誤嚥性肺炎の原因になってしまいます。 唾液の垂れ込みを防ぐ誤嚥防止術 唾液の垂れ込みを完全に防ぐために気道の一部を閉鎖する手術が、「誤嚥防止術」です。喉頭を温存するか・気道をどの部分で閉鎖するか(声門上か、声門部か、声門下か)などによって、いろいろな術式があります。 以上のように、さまざまな術式がありますので、誤嚥防止術を検討される人はぜひ主治医と相談してみてください。 誤嚥防止術のメリットとデメリット 私は将来的に誤嚥防止術を受けると決めており、手術や入院の回数を減らすため、気管切開+声門閉鎖術を同時にしました。 嚥下機能・発声機能が残っている人や、いきなり誤嚥防止術を受けることに抵抗がある人は、呼吸状態を安定させる目的で、まずは気管切開のみで様子をみる。その後嚥下機能が低下して、唾液の垂れ込みが多くなって気管吸引の回数が増えたり、誤嚥性肺炎を起こしたりがあれば、改めて誤嚥防止術を行うという方法もあります。 誤嚥防止術を行うメリット・気管吸引の回数が減るので、本人・介助者ともに負担が軽減される・誤嚥性肺炎を起こすリスクがなくなる・誤嚥をするリスクがなくなるので、多少の嚥下機能が残っていれば、食べかたの工夫(後述)しだいで長期間食事を楽しめる誤嚥防止術を行うデメリット・発声を失う・気管切開のみ受けた人は、もう一度入院して手術を受けなければならない・手術をできる医師と施設が少ない 食べかたの工夫 以下は、私が行なっている方法です。個々の嚥下機能に依存しますので、すべての人ができるわけではありませんので、お試しする際は必ず主治医の同意のもと、言語聴覚士(ST)さんとともに行なってください。 嚥下の工夫 嚥下機能が低下していて気管切開(誤嚥防止術)をしていない場合は、誤嚥を予防するために顎を引くようにして嚥下するのがよいです。頸部を後屈した姿勢で嚥下しようとすると誤嚥しやすくなるので、注意が必要です。 誤嚥防止術を受けている場合は誤嚥をする心配がないので、逆に、頸部を後屈したほうが飲み込みやすいです。頸部を後屈した姿勢で、食べ物を飲み込むタイミングで介助者に顎を上げてもらい、嚥下反射を促してもらいながら、重力を利用して食事を喉の奥に落とすイメージで嚥下します。表現が悪いかもしれないですが、鵜飼いの鵜のイメージです。私はベッドの角度を40度まで上げて、枕を薄くして首を後屈した状態で食事をとるようにしています。 食形態の工夫 残存する嚥下機能にもよりますが、一般的には、食事の形態もできるかぎりペースト状やトロミ食のほうが、嚥下はしやすくなります。粒状のものは、喉の奥に引っかかる感じがして嚥下しにくく、私の場合は喉の奥を綿棒でつつかれた感じがして、嘔吐反射を起こします。 私は、固形物を食べたいときは、ガーゼに包んで奥歯で咀嚼し、食事の味だけを楽しんでいます。味を搾り出した後はガーゼごと取り出します。この方法はかなりおすすめで、果物など汁気の多い食べ物はもちろん、焼肉やお刺身から、ラーメンなどの麺類まで、幅広く楽しむことができます。 ちなみに私は、焼肉をガーゼに包んで奥歯で咀嚼して味を絞り出した後に、味付けした生卵とお粥を食べて、「すき焼き風」にして楽しむことが多いです。 液体の飲みかたの工夫 飲み物などの液体は、嚥下機能が弱くても重力を利用して比較的簡単に摂取することができます。ただ、コツがいります。ふつうのコップで飲もうとすると口の脇からこぼれてしまいます。 上述した食事のときの体勢をとり、介助者に顎を上げてもらい後屈した姿勢を保ちながら、舌の真ん中~やや奥に飲み物を入れるとこぼさずにうまく飲めます。 私は30mLのカテーテルチップ型シリンジに飲み物を入れて、口に差し込んで飲んでいます。この方法ですと、ちょうどシリンジの先端が舌の真ん中あたりにきます。目盛が付いているため一回に入れる量も調整しやすく、おすすめです。 味覚変化をふまえた介助の工夫 誤嚥防止術をしてもしなくても、気管切開をして人工呼吸器を装着すれば、鼻腔に空気は通らなくなるため、匂いはほとんどわからなくなります。 また私の場合は味覚も変化しました。甘味・塩味は変わりませんでしたが、苦味・酸味・辛味などは強く感じるようになりました。特に苦味はかなり強く、大好きだったコーヒーやビールは飲めなくなりました(人によると思いますが)。 ちなみに、甘味・塩味は舌先で感じるので、介助者には舌の手前~真ん中に食べ物をのせるように食事介助してもらうと、より味を感じやすくなると思います。 以上、私が思いつくかぎりのメリット・デメリットを書いてみました。誤嚥防止術を行うかどうかの参考にしていただけたら幸いです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇荻野美恵子ほか編.『神経疾患の緩和ケア』東京,南山堂,2019,364p.

BCPとBCM(事業継続マネジメント)について考えてみよう
特集

[8]BCPとBCM(事業継続マネジメント)について考えてみよう

この連載では「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人、日本赤十字看護大学の石田千絵先生に訪問看護事業所ならではのBCPについて解説していただきます。最終回の今回は、ワークシートを使ったBCPの作成手順をおさらいし、さらにBCM(事業継続マネジメント)についても解説していきます。 【ここがポイント】・優先業務・重要業務の選定から事業継続計画サマリまでのワークシートの使い方をまとめています。・研修やシミュレーション訓練などをとおして、BCPの「計画・導入・運用・改善」を考えPDCAサイクルを回すことで、BCM(事業継続マネジメント)も行っていきましょう。 第8回、最後の回になりました。今回は、ここまでの連載でご紹介してきたリソース(資源)中心に考えることができるBCP策定のためのワークシートを再度取り上げ、その使い方を「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP) 考え方と記載例」のひな形に沿って復習します。そして、「1.総論」の「6)研修・訓練の実施、BCPの検証・見直し」(図1)について考えていきたいと思います。 図1 「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)」の目次(「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP)考え方と記載例」の項目を抜粋) 全国訪問看護事業協会.「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)―訪問看護ステーション向け―」,2020,p.2-3.より引用.https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r2-1-3.docx 2022/8/25閲覧 リソースを中心としたBCPの作成手順(優先業務・重要業務の選定~BCPのサマリ作成) まずは、この連載の第7回までにご紹介してきた事業所のBCP策定に使用可能なワークシートと使用方法を簡単におさらいしていきましょう(図2)。 ①優先業務・重大業務を選定する(業務トリアージ) 平常時における業務をリストアップし、各業務を発災後に「継続」「縮小」「中断」するか、振り分けます(業務トリアージ)。そして、「72時間以内」「72時間~1ヵ月以内」「1ヵ月以降」の時間軸でも検討し、72時間以内で「継続」となった業務が「優先業務・重要業務」といえます。 さらに、第4回からの+αの整理事項として、災害直後に行わなければならない特有の業務も書き出しておくとよいでしょう。この業務についても行うタイミングを「72時間以内」「72時間~1ヵ月以内」「1ヵ月以降」の時間軸で検討します。 ①についての詳細な解説は第4回を参照。 ②優先業務・重要業務のリソースを書き出す ①で選定した「優先業務・重要業務」について、業務遂行に必要なリソース(ヒト、モノ、カネ、情報)を検討し書き出します。 ②についての詳細な解説は第5回を参照。 ③リソースリスクを書き出す ②で検討したリソースに対して、大規模自然災害やパンデミックによって引き起こされるリスクを書き出します。 ③についての詳細な解説は第6回を参照。 ④リソースリスクを時系列ごとに書き出す リスクを災害直後、72時間以内、1ヵ月以内、1ヵ月以降、に分けて書き出します。 ④についての詳細な解説は第6回を参照。 ⑤平常時の対策とリソースリスクへの対策・対応を検討する 減らさない対策・対応、活用する対策・対応、増やす対策・対応に分けて、リソースリスクへの対策・対応を検討します。 ⑤についての詳細な解説は第6回を参照。 ⑥ 事業継続計画サマリの作成(BCPの概要の完成) ⑤の内容を事業継続計画サマリに転記します。このサマリは、⑤のワークシートの時間軸を横に書き換えたものです。これまで検討してきた内容を1つにまとめることができるので、発災時に役立つ資料となります。平常時から誰でも目に付く場所に貼っておいたり、BCPや災害対策マニュアルの表紙にしておくとよいでしょう。 ⑥についての詳細な解説は第6回を参照。 研修・訓練の実施とBCPの検証・見直し BCP策定の根拠法令は、厚生労働省令「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(2021(令和3)年1月)、および「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」の改定です(2022(令和4)年4月)。そして、訪問看護事業所が2024(令和6)年3月までに義務づけられた内容は次の通りです。 感染症や災害が発生した場合であっても、必要なサービスを継続的に提供できる体制の構築を目指し、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)などの計画・実施を行う。 つまり、BCPを策定するだけでなく、研修や訓練も行わないとならないと書いてあるのです。多くの事業所では、まだ十分に自事業所のBCPを検討できていないことがわかっています。そのため、研修や訓練を行うことまで求められている事実に、途方に暮れる方もいらっしゃると思います。また、何をもって研修や訓練というのかを疑問に思っている方も多いと思います。 では、訪問看護事業所におけるBCPの研修や訓練とは何を指しているのでしょうか? 実は、訪問看護事業所BCPにおいて、評価の指標は存在していません(2022年8月現在)。そして、研修や訓練の内容や規模についても、特に指定されているわけではありません。当然のことですが、だからといって、研修や訓練をする必要がないわけではありません。 例えば、先ほどお示ししたワークシートを用いてBCPを何度も見直し、ブラッシュアップすることも1つの研修と言えます。丁寧に自事業所の優先業務・重要業務を選定するだけでも、災害直後に一部の業務を「縮小」「中断」してもよいという判断が可能です。また、災害直後の混乱の中で判断がつきにくい状況であっても、事前の選定により、誰もが安心して重要業務を優先して実施することができます。 また、訓練(シミュレーション)も机上で実施可能です。自事業所のある地域で起こり得る自然災害の種類やその規模を、時間帯、曜日などを変えて、策定したBCPで対応できるのかをシミュレーションすることも訓練と言えるからです。 ケアプロ株式会社では、他地域で自然災害が起こるたびに、同じ災害が自事業所で起こったことと想定して、BCPを発動させるかどうか、させるとしたら現在のBCPで対応可能かといったことについてシミュレーションをしているそうです。そして、不足している想定やその対応方法が見つかり次第、自事業所におけるBCPをブラッシュアップし、多職種・多機関連携についても検討しているとのことです。 BCPとBCM 内閣府は、2005(平成17)年に初めてBCPガイドライン(第1版)を策定1)した後、2013(平成25)年のBCPガイドライン改定2)の際に、BCM(Business Continuity Management)、すなわち事業継続マネジメントが必要であることを記しています。BCP策定において事業継続のための計画を立案するだけでなく、BCMで「計画・導入・運用・改善」などを考えPDCAサイクルを回す必要があるためです。 図2は、内閣府が「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」の中で示したBCMのプロセスです。訪問看護事業のBCPにおいても、BCMの視点が初めから記されていたことがわかります。 図2 事業継続マネジメント(BCM)のプロセス 内閣府.「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(改定版),2013,p.8. より引用。フキダシは著者による。 最後に 訪問看護事業所のBCP策定のお話は以上となりますが、みなさん、いかがでしたでしょうか? 少しはお役に立てましたでしょうか? まずは、自事業所のある地域のハザードマップを手に入れ、自事業所の方針を立ててみてください。そして、優先業務・重要業務の選定から事業継続計画サマリまでつくってみましょう。同時に、利用者・家族への平常時の取り組みや、自事業所での平常時の取り組みも検討してみてください。 自事業所で対応しきれない事象が見つかれば、多職種・多機関などの外部リソースの活用を考えましょう。可能であれば、外部へのリソースの提供も検討してみるとよいでしょう。一度つくったら何度でもシミュレーションしてください。この繰り返しがBCMです。BCMのプロセスにより、よりよいBCPが策定できます。 「千里の道も一歩から」です。自事業所を守ることは、スタッフはもちろんのこと、利用者・家族を守ることであり、地域医療を守ることにつながります。何よりもみなさんご自身の健康をお祈りしつつ、新たな一歩を踏み出していただけることを願っています。 執筆 石田 千絵日本赤十字看護大学看護学部地域看護学 教授●プロフィール1989年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院他で勤務。1995年阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件を契機に、地域×災害に関わる教育や研究を始めた。災害の備えは「平時に自分らしく生き、かつ、社会的によい関係性を保つこと」がモットー。看護学博士。 「訪問看護BCP研究会」とは、2016年にケアプロ株式会社、日本赤十字看護大学、東京大学他の仲間による訪問看護×BCPに特化した研究会。毎月1~2回程度で研究や研修などを行っている。▼訪問看護BCP研究会のホームページはこちら※記録様式のダウンロードも可能です。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1)内閣府.「事業継続ガイドライン 第一版-わが国企業の減災と災害対応の向上のために -」,2005.2)内閣府.「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(改定版),2013.

【多職種連携】理学療法士が訪問看護でヒヤッとしたこと4選
特集

【多職種連携】理学療法士が訪問看護でヒヤッとしたこと4選

訪問看護の現場は病院やクリニックと全く異なる環境ですが、ヒヤリハットは同じように存在します。例えば、訪問看護スタッフの人為的なミスや、利用者さんが起こす予想外のハプニングなどです。一方、利用者さん宅へ移動中に起こる交通ハプニングもあり、これは訪問看護ならではのものですね。 今回は理学療法士である私自身が、訪問看護で経験したハプニングについてご紹介します。 目次・訪問看護ならではの車に関するトラブル・パーキンソン病を患う利用者さんの薬が切れてヒヤリ・利用者も介助者も転倒しそうになる場面がいっぱい・歩行訓練中、床に落ちている内服薬を発見・隠さずに共有することが大切 訪問看護ならではの車に関するトラブル 医療の現場ではなく「訪問」看護だからこそ起こり得るものとして、交通手段でのトラブルがあります。土地勘がない道路での運転は慣れが必要ですので、訪問看護の初めには道に迷うことが少なからずあります。 私が実際に経験したものとしては、道を間違えてしまい約束の時間に訪問予定のお宅にたどり着けなかったということがありました。可能であれば、訪問看護に伺う前にルートの確認ができればベストですね。しかし、時間に余裕を持って行動していれば多少の間違いがあっても大きな問題となることはなさそうです。 同じく車で起こり得るヒヤッとすることとして、スピード違反や事故といったものもあります。もちろん、訪問看護の車だからといって交通違反は見逃してもらえません。これらも時間に余裕を持って行うことが大切な予防策です。 また訪問看護の利用者さんのご自宅に十分な駐車スペースがない事もあります。路上に駐車する際は場所をご家族に確認することが必要ですね。実際に、利用者さんの家族に確認し忘れて、お隣の敷地に駐車してしまったために駐車違反の切符を取られた同僚もいました。近隣なら自転車など別の手段を使用するのも手段の一つですね。 パーキンソン病を患う利用者さんの薬が切れてヒヤリ 訪問看護の現場では時に日中独居の方もいらっしゃいます。 実際の例として夕方に家族が帰宅するまでの間、さまざまな職種が訪問をして投薬管理や日常生活のケアをしていた重度のパーキンソン病の利用者さんのお話をしたいと思います。その方は、娘さんと2人暮らしでしたが日中は独居であり、また薬のオンオフが激しく薬が切れてしまうと動作の最中でも動けなくなってしまう方でした。 1時間ごとにケアワーカー、ナースなどが訪問し、薬の飲み忘れがないかどうかも含めて管理していましたが、ある日訪問すると返答がなく、いつも座っている車椅子にもいません。呼びかけにも、声が出にくくなるというパーキンソン病のせいか返答もなく、少し開いているトイレを覗いたところ、車椅子に移る動作の途中転んだようで地面に倒れていました。薬の作用が切れてしまったらしく、立ち上がれなかったとのこと。病気によってはこのようなハプニングもあります。かかりつけ医に報告しましたが、診察の結果、骨折等もなくひと安心となりました。 利用者も介助者も転倒しそうになる場面がいっぱい これは訪問看護でも病院でも起こり得ることですが、トイレや車椅子への移乗もしくは歩行訓練中に、利用者さんがガクッと膝折れを起こしてしまいバランスを失うという事があります。実際に、脳梗塞後の高度な高次脳機能障害のある70歳女性のトイレ移乗動作を介助している時に、体が反り返ってガクッと膝折れを起こしてしまい、倒れこむようにベットに寝かせた経験がありヒヤッとしました。安全のために、歩行介助ベルトなどをつけて訓練を行いますが、不意に起こると対応が難しい場合もあります。やはり不測の事態にも備えて介助することが必要ですね。 また、訪問看護では靴を履きませんので、畳やフローリングなどで滑ることがあります。入浴現場での介助では、水滴や石鹸など一層滑りやすい要素もいっぱいです。余分な水分は十分に拭き取り、あらかじめシミュレーションを行って予防策を練ることが大切です。 歩行訓練中、床に落ちている内服薬を発見 訪問看護を受けている利用者さんの中には、年老いた配偶者が介護をしている老々介護の場合もたくさんあります。ご夫婦ともに軽度の認知症があると言った場合には、薬の内服に関することなどでもヒヤッとすることがあります。 実際の現場で起こった話として、日中はご高齢のご夫婦のみとなる利用者さんの自宅内で歩行訓練中、ベッドの下から内服薬が落ちているのを発見したことがあります。ご夫婦ともに軽度の認知症があり、落ちていた内服薬は、錠剤のみになっているためにどのような薬効のものなのかわからず、またいつに落としたものなのか、飲ませてもいいものかわからずにヒヤッとしたことがあります。 幸い全てのお薬には、製薬会社のマークと番号などが記載されているため、薬剤師さんに問い合わせたところ、胃薬であることがわかって飲まなくてもいいということになりました。 しかし、様々な病気を持ち合わせている可能性がある高齢者の場合には、循環器系の大切なお薬が含まれている場合もあり、飲まないと困るということもありますので、大切なお薬に関する知識も大切です。また、このような場合にはしっかりと報告し、専門家の指示を仰ぎましょう。 隠さずに共有することが大切 おわりになりましたが、どんな仕事内容の現場であってもヒヤッとする場面は存在します。 訪問看護のスタッフが起こす人為的なものだけでなく、利用者さんが薬を落としたり無くしたり、利用者さんご自身が体のバランスを崩して転倒してしまうなど、避けられない事態によることもあります。 また、病院では起こり得ないような交通手段でのヒヤッとすることは、訪問看護ならではのものですね。 重要なのは、現場でのヒヤッとしたことを放置せずに他のスタッフなどと共有することです。隠さずに共有することは、大きな事故を防ぐことや同じような状況下で起こり得ることを予測して対応策を考えることができるという利点もあります。もちろん、ヒヤッとした時には慌てることがないように行動することが最も重要ですので、普段からパニックに陥らないように心がけたいものですね。 記事提供:株式会社3Sunny(スリーサニー)

メンバーが指示どおりに動かない
コラム

メンバーが指示どおりに動かない

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第8回は、メンバーの動きが自分の期待に合わない状況の、どこに問題があるのかを考えてみましょう。 「ただ指示に従う」組織を目指しますか? 前回、「相手の良いところを探して、ノートの見開きいっぱいに箇条書きで書けるまでは相手に注意や指導はしない」と書きました。この話を若い管理職(Cさん)にしたところ「話としてはわかるし理想だと思いますが、実際にそんなことをしていたら時間がかかりすぎます。その間は気になることを注意しないなんて、上司として示しもつきません!」とのこと。確かにそれも一理あります。 そこで私はCさんに聞きました。「それではCさんは、時間をかけずにメンバーが自分の言うことを聞いてくれればよいと思っているのですか」。すると「もちろんです。時間はかからないほうがいいです。こっちだって忙しいし、組織なのですから上から言われたことは素直に聞いてほしいです」とCさん。 そこで私はさらに聞きました。「それならCさんは、上司の指示には何も言わず、そのまますぐに動き出しますか」と。するとCさんはうーんと腕を組みました。 命令を出して人を動かすことはできますし、スピードも速いでしょう。それが組織ですし、もちろんそれが必要なときもあります。でもそれがあなたの目指す組織でしょうか? 私は、個人を尊重した働きかたを推進して組織を活性化していくお手伝いをしています。人に言われてやるのではなく、自分で考えてアイデアを出して、チームみんなで目標達成していけるようなチームづくりを大事にしています。その視点でいえば、命令で人が動くマネジメントは、できるだけ避けるべきだと私は思っています。もしメンバーの動きと自分の思いにズレがあるのなら、そのズレを両者が認識することから始めるのがよいと考えます。 ズレがどこにあるのか そうCさんに話し、さらに詳しく状況を聞くと、そのメンバーは「忙しいときに頼んでもいない作業を勝手にやって、それを注意したらすねてしまった」ということでした。さて、どこに問題があるのでしょうか。    「メンバーの良いところを探す」という目でみると「頼まれてもいない作業を勝手にやった」は、自発的な行動であり、良いことです。そこを無視してまず注意した。これは否定から入ってしまっています。 チームとしては、そのメンバーのしたことは「そんなことは後でいいのに」という内容だったのでしょう。注意したくなるのもよくわかります。でも相手はそこをまだ理解できていなかったか、やるべきことがわかっていなかったのでしょう。だからその点を理解してもらえればよいのです。 「『それをやってくれたのは良いことだし、いいアイデアだと思います。ところで今、チームとしての優先順位は何だとあなたは思っていますか?』と聞いてみるところから始めてみては」と私はCさんに伝えました。 理解してもらいたければ、まず相手を理解する 「そんなこと言わなくてもわかっているでしょう」とCさんは言いましたが、「わかっていないからCさんとの意識のズレが生じたように見えます」「どちらかが悪いわけでもなく、ただ優先順位が共有できていなかっただけのように思えますよ」と話しました。するとCさんは「なるほど……。私はメンバーの良いところを探すつもりが、悪いところを探して、注意するのが先になっていました。褒めるほうが先なのにね」と言ってくれました。 「言うことを聞かせよう」と思うと、かえってその思いが相手に伝わって、思うようにいかないことがあります。自分のことを理解してもらおうと思えば、まず相手のことを先に理解すること。自分の思いを伝えたいあまりに相手の思いに気づかないことはよくあります。 管理者に大切な「自己一致」 前回の繰り返しになりますが、カール・ロジャーズの▷無条件の肯定的配慮 ▷共感的理解 ▷自己一致 ── の三つの視点で自分を振り返ってみましょう。 どれも大切なのですが、私は、管理者がメンバーマネジメントする上では「自己一致」がいちばん大切で、難しいように思います。 自己一致とは、自分にウソをつかず、矛盾しないということです。「ありのままに」いられることです。メンバーに合わせるために無理に相手に迎合したり、逆に虚勢をはって相手を威嚇したりしないことです。自分に正直でないとストレスがたまります。「自分さえ少し我慢すれば」などとは思わないことです。 マネジャーともなるとメンバーも複数いることでしょう。一人で我慢していると、ほかのメンバーの我慢も蓄積します。我慢が突然耐え切れなくなることもあります。気分に左右されず安定した判断をするためには、意識的に、つねに自分に正直でありつづけることです。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇諸富祥彦.『カール・ロジャーズ入門:自分が“自分”になるということ』東京,コスモス・ライブラリー,1997,362p.

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと
インタビュー

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと

前回「新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること」の記事で、新卒から訪問看護の世界に飛び込んだ3名の看護師の声をお伝えしました。今回は、その3名がキャリアを積んでから感じたこと、新卒者が訪問看護に携わることに対しての思いを取り上げます。 先輩になった今、後輩にしているサポートは? 職業を問わず、最初は新人であっても年月を経るにつれて経験を積み、次第に教える立場になっていきます。では、3名の新卒者は自分が先輩の立場となり、後輩をどう支えているのでしょうか?Aさん・訪問看護歴6年「最初は分からないこと自体が分からないと思うので、自分や歴代の新卒者さんがどのような勉強をしたかを伝え、誰もが同じようにできなかったところから乗り越えていることを伝えるようにしています」 Bさん・訪問看護歴6年「まずは相手の思いや考えを聞き、一旦受け止めます。そして、できていることは些細なことでも言葉にして伝えています」 Cさん・訪問看護歴7年「相手のできていないところばかりではなく、できているところはそのまま認めて、フィードバックすることを大切にしています。また、後輩の話を聞くときは、必ず手を止めて聞きますね。そして後輩が考えている時には待つ。答えをいわないようにして、後輩が自分自身で考えられるようにしています」 まずは後輩の思いや悩みを受け止める、という点は3名に共通しています。これには理由があり、自身の経験が少なかったころに「もう少し振り返りの時間がほしかった」(Bさん)、「自信を持てるような声かけ、フィードバックがほしかった」(Cさん)と感じたからだそうです。これから新卒者を迎える管理者、先輩看護師の方は、じっくり話を聞く時間を設けると良いかもしれません。 新卒を受け入れるために必要な環境、体制、心構えは? 未経験の人が訪問看護ステーションで働き、成長していくためには、何が必要なのでしょうか。大きく分けて、「新卒を受け入れる心構え」と「技術を学ぶ場」の2点が挙がりました。 Aさん「教育担当者や所長だけでは受け入れる側の負担も大きくなってしまうため、スタッフ全員で新卒を育てる気持ちが大切だと思います」 Bさん「看護技術・手技の勉強と復習を行いやすい環境が大切だと思います。受け入れる側の心構えとして、新卒でもできる、応援しているというスタンスが必要ではないでしょうか」 Cさん「受け入れる側の心構えとして『できなくて当然。時間がかかって当然』『新卒ウェルカム!』という余裕は必要だと思います。看護技術取得ができるような体制づくりも必要だと考えます」 新卒だからこそ、いち早く技術を習得して少しでも先輩方に追いつきたいもの。技術取得のための体制については、「大きめのステーションのほうが教育・体制面が整っている傾向にありそう」(Cさん)といった声も聞かれました。 「新卒からの訪問看護」にはどんなメリット・デメリットがある? 最後に、新卒者が訪問看護に携わるメリット・デメリットを聞いてみました。Aさん メリット・さまざまな先輩看護師と同行訪問することで、多様な看護観に触れられる。・一般常識が身につく(医療・介護物品などのコスト意識、訪問先のご自宅や外部連携でのマナーなど)。 デメリット・手技の獲得やひとりだちまで時間がかかり、ある程度自信をもって訪問できるまでは不安や劣等感を感じやすい。・事業所の教育体制によっては、ひとりで訪問する重圧、不安が大きい可能性がある。 Bさん メリット・利用者さんの生活や人生の一部に入り込むことができる。加えてもらえる。・医療者や支援者の知識が必ずしも正解ではないことを、利用者さんを通して気付ける。 デメリット・病院に就職した同期と比較してしまうと、スピード感の違いに落ち込む。・新卒訪問看護師への偏見がまだある印象がある。 Cさん メリット・夜勤がないため生活リズムが整いやすいこともあり、それによって『しんどいからやめたい』という看護師は少ないように思う。・キャリアが広がる印象がある(管理者、大学・大学院の教員、ケアマネ取得など)。 デメリット・スタッフのマンパワーが必要なケースが多い。・ステーションによって教育のしかたやスタッフの関わり方・雰囲気、利用者さんの受け入れ幅などが異なるが、新卒訪問看護師向けの情報が少ない。 「新卒からの訪問看護」は、乗り越えるべき課題がありますが、今回お話していただいたかつての新卒者の方々も、現在では一人前の訪問看護師として立派に仕事をこなしています。 新卒者を募る場合、訪問看護のメリットをアピールしつつ、ステーションとして新卒者の悩みや課題に向き合う姿勢を示してみてはいかがでしょうか。 記事編集:NsPace編集部

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