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2024年7月10日
2024年7月10日

受賞作品漫画「遠く離れていても<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、鳥居 香織さん(医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション/栃木県)の審査員特別賞エピソード「遠く離れていても」をもとにした漫画の後編をお届けします。 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。 「遠く離れていても」前回までのあらすじ医療サービスへの拒否感があった利用者の山田優一さんは、鳥居さんの看護によって心を開き、笑顔を見せてくれるようになりました。奥様との思い出話や「娘に迷惑をかけず、自分のことは自分でしたい」というご自身の思いを教えてくれ、大事にしている百合の葉書も見せてくれました。そんな中、突然東日本大震災が起きたのです。>>前編はこちら受賞作品漫画「遠く離れていても<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 遠く離れていても<後編> 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。エピソード投稿:鳥居 香織(とりい かおる)医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション(栃木県)この度は、審査員特別賞をいただきありがとうございます。勤め先でも職種に関わらずみんな受賞を喜んでくれて、漫画化も楽しみにしてくれました。いまだに「訪問看護って何?」と聞かれることもあり、このように訪問看護の事例を紹介いただける機会があることをとてもありがたく思っています。今回エピソードを投稿しようと思ったとき、まっさきに優一さん(仮名)のお顔が浮かびました。優一さんに葉書をいただいてから10年以上経ちましたが、今でも月を見ると「あのとき優一さんが言ってくれたような私でいられているかな」と自分を振り返っています。亡くなった後も優一さんが私を支えてくれていると感じます。これからも「お家で過ごしたい」と願う方に精一杯の手助けをしていきたいと思います。 * * * 次回、「第3回 みんなの訪問看護アワード」の「つたえたい訪問看護の話」エピソードは、2024年秋から応募開始予定です。 [no_toc]

特集
2024年7月9日
2024年7月9日

受賞作品漫画「遠く離れていても<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、鳥居 香織さん(医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション/栃木県)の審査員特別賞エピソード「遠く離れていても」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。 遠く離れていても<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「遠く離れていても<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。エピソード投稿:鳥居 香織(とりい かおる)医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション(栃木県) [no_toc]

NPPV療法の適応や設定モード、マスクフィッティングのコツとは? サムネイル
NPPV療法の適応や設定モード、マスクフィッティングのコツとは? サムネイル
特集
2024年7月9日
2024年7月9日

NPPV療法の適応や設定モード、マスクフィッティングのコツとは?

NPPV(非侵襲的陽圧換気)療法は気管挿管を行わず、マスクを介して行う人工呼吸療法です。一般的に在宅では、夜間にNPPVを行い、換気改善を図り、QOLを改善する効果が期待できます。NPPVの適応疾患や効果、設定項目や換気モード、マスクフィッティングなど基礎知識を分かりやすく解説します。 NPPV(非侵襲的陽圧換気)とは NPPVは、挿管下人工呼吸(IPPV:侵襲的陽圧換気)に比べて非侵襲的ですが、患者さんにとっては陽圧による不快とマスク使用による不快などがあり、完全に非侵襲的とはいえません。IPPVと比較したNPPVのメリットとデメリットを表1に示します。患者さんがNPPVの必要性を理解し、自らNPPVに取り組むことが不可欠となり、アドヒアランスの維持が重要な看護となります。 表1 IPPVと比較したNPPVとメリット・デメリット 在宅NPPVの適応はⅡ型呼吸不全が中心 在宅NPPVの導入が適応となる病態は、高二酸化炭素血症を伴うⅡ型呼吸不全が中心となります。NPPVの効果は以下のとおりです。 呼吸仕事量の軽減酸素化の改善換気の改善夜間睡眠呼吸障害の是正呼吸調節系のリセッティング(呼吸調節系:NPPVによりPaCO2が低くなると呼吸調節系がより低いPaCO2を維持する) 表2には在宅NPPVの対象となる主な疾患別にエビデンスレベルと推奨度をまとめました。 表2 在宅NPPVの対象となる主な疾患別エビデンスレベルと推奨度 文献1)を参考に作成(同文献のエビデンスレベル、推奨度についてはMindsの評価法が基本とされている) NPPVの設定項目(図1) IPAPとEPAP 吸気時にかける圧をIPAP(inspiratory positive airway pressure:吸気圧)、呼気時にかける圧をEPAP(expiratory positive airway pressure:呼気圧)、IPAPとEPAPの圧格差をプレッシャーサポート(pressure support:PS)といいます。IPAPを上げてPSが高いほど換気補助が大きくなります。PSには呼吸仕事量の軽減、吸気呼吸筋疲労の軽減、PaCO2の改善(PaCO2を下げる)といった効果があります。 EPAP 狭窄した気管や虚脱した肺胞を開き、酸素化を改善します。内因性PEEPが発生している場合、過膨張を防ぎつつ吸気トリガー感度を改善し、静脈還流量の減少により心負荷の軽減を図ります。 ライズタイム 気道内圧がEPAPからIPAPに到達するまでにかかる時間のことです。一般的に、閉塞性換気障害で0.05~0.1秒、拘束性胸郭疾患は0.1~0.2秒程度に設定します。 図1 NPPVの設定項目と効果 在宅NPPVの換気モード ここではS(spontaneous)モード、T(timed)モード、S/T(spontaneous/timed)モード、VAPS(volume assured pressure support)モード、Auto EPAPについて解説します(図2、3)。 Sモード 患者さんの自発呼吸に合わせて、吸気時にIPAP、呼気時にEPAPが入り換気を補助します。自発呼吸がない場合は換気を補助しないため、在宅NPPVではS/TモードやVAPSモードが多く使用されています。 Tモード 設定された呼吸回数で強制換気を行うモードで、自発呼吸に同期しません。 S/Tモード SモードとTモードを合わせたものです。自発呼吸に合わせて換気を補助し、自発呼吸を感知できない場合は、設定された呼吸回数に切り替えるバックアップ換気が入ります。 VAPSモード SモードやS/Tモードなどの固定圧モードに、目標換気量を維持するように設定した最大サポート圧(PS max)と最小サポート圧(PS min)の間でPSが変動するモードです。目標換気量の設定は、機種により一回換気量か、肺胞換気量か異なります。固定圧で、治療効果がみられない場合や圧の不快が強い場合などに使用されます。 VAPSモードの注意点として、リークが換気量に換算されてIPAPが上昇しないことがあるため、リークを最小限にする必要があります。 図2 在宅NPPVで使用する主な換気モード Ti min(最小吸気時間)は、IPAPを供給する時間の下限。頻呼吸で吸気時間が短い場合、IPAP時間を確保する。Ti max(最大吸気時間)はIPAPを供給する時間の上限。リークで吸気終了が検出できない場合、必要以上にIPAPが長引くことを防ぐ。また、COPD患者さんの場合、吸気終末に吸気流速が減弱しにくく、吸気終末が感知されにくいため適切な設定が必要。 Auto EPAP(図3) 睡眠時の上気道閉塞により換気が不十分な場合、最大EPAP圧(EPAPmax)と最小EPAP圧(EPAPmin)の設定範囲内で変動するAuto EPAPを併用します。睡眠中にEPAPが上昇しますので陽圧の苦痛を感じることなく気道閉塞を改善し換気量を上げることができます。VAPSモードで目標換気量が満たない場合は、PS minとPS maxの設定範囲内でIPAPも上昇します。 図3 Auto EPAP NPPVマスクは適切な種類とサイズを選択 在宅NPPVでは、フルフェイスマスク(鼻口マスク)を使用することが多いです。表3にフェイスマスクのメリットとデメリットを示します。 また、フルフェイスマスクには、鼻口全体を覆うOver-The-Noseタイプと鼻根部を覆わないUnder-The-Noseタイプがあります(図4)。Under-The-Noseタイプは、鼻根部にマスクが当たらないので褥瘡予防になり、眼鏡をかけることもできます。 表3 フルフェイスマスク(鼻口マスク)のメリット・デメリット 図4 NPPVマスクの種類 マスクやマスクの固定に使うヘッドギアには、それぞれいくつかのサイズがあります。サイジングゲージを使って、患者さんに適したサイズを選定します。サイジングゲージがない時は、軽く開口してもらった状態で、以下の点を確認します。 マスクが目に当たらないマスクに圧迫されて鼻孔が閉塞しないマスクより口角がはみ出さない少し開口しても下唇がはみ出さない リークが少なくゆるいフィッティングが必要 マスクフィッティングの是非が、NPPVの効果とアドヒアランスの維持、在宅でのNPPV継続に大きく影響します。ポイントはリークが少なく、かつゆるいフィッティングです。患者さんは、入院中に適切なマスクフィッティングを学び退院しますが、在宅に帰るとリークを気にしてベルトをきつく締めたり、マスクの位置がずれてしまった状態で装着したりすることがあります。 医療者はマスクフィッティングの基本とコツ、リークの原因を理解しておくことが重要です。ここではマスクフィッティングのポイントをお伝えします。 マスクのシリコン部にしわがないか 鼻根部に当たるシリコン部にしわが寄らないように、シリコン部の形を整えて、軽く顔に当てます。シリコンにしわがあるとリークの原因になるためです(図5)。また、フルフェイスマスクの場合、下顎あるいは正面からマスクを当てることがポイントです(図6)。 図5 シリコン部にしわをつくらない 図6 フルフェイスマスクの当て方 顔の真正面、もしくはし下顎からマスクを当てる。マスクを上側(頭側)からスライドするように当ててしまうと、ひだが鼻に突き刺さり発赤が生じたり、しわができリークにつながったりする。 ヘッドギアを締めすぎていないか ヘッドギアは指が1~2本入る程度に余裕をもたせ、きつく締めすぎないようにします(図7)。 図7 ヘッドギアを締めすぎない マスクの位置は適切か マスクの位置が顔面の正中にあること、ヘッドギアが左右対称、上下平行となっていることを確認します(図8)。前からだけでなく、後ろもチェックしましょう。 図8 フルフェイスマスクやヘッドギアの正しい位置 マスクと皮膚の間に指1本分のゆとりをもたせることも大切。 エアクッションは機能しているか(図9) フルフェイルスマスクは、マスクのフラップと内側のクッション部分に空気が入り込むこと(エアクッション)でより顔面にフィットします。マスクを強く締めつけず、IPAP時にエアクッションができるように調整します。 図9 エアクッションの有無の確認 IPAPの時にマスクのシリコン部分(斜線部)が膨らみ、マスクが顔面から少し浮く感じになるとよい。 アーム調整できるマスクの場合 アーム調整ができるマスクの場合は、額とマスクの間を一番あけた位置から電源を入れたときに眼側のリークが消失する位置までゆっくり締めていきます。 リークへの対応 リークには2種類ある リークにはインテンショナルリーク(意図的リーク)とアンインテンショナルリーク(非意図的リーク)があります(図10)。 インテンショナルリークは、マスク内に貯留した呼気に含まれるCO2を排気するためのリークで、必要不可欠なリークです。CO2は呼気排出孔(呼気ポート)から出ますので、呼気ポートは絶対に塞いではいけません。 アンインテンショナルリークはマスクと皮膚の隙間や回路の途中から出るリークです。不要なリークのため、できるだけ少なくすることが大切です。 なお、リークはモニター上に示されます。表示方法はトータルリークとペイシェントリークがあり、どちらを表示するかは機種によって異なります。トータルリークはインテンショナルリークとアンインテンショナルリークを合わせたもの、ペイシェントリークはアンインテンショナルリークと同じです。使用している機種の表示を確認し、許容リーク量を超えないようにしましょう。 例えば、V60 ベンチレータ(フィリップス・レスピロニクス合同会社)やVivo50(チェスト株式会社)はトータルリークが表示され、許容リーク量は60L/分以下です。NIPネーザルV-E※(レスメド株式会社)はペイシェントリークが表示され、24L/分以下です。 ※「NIPネーザル」は、レスメド株式会社の商標登録です。 特にアンインテンショナルリークの量が多いと、吸気トリガーエラーを引き起こし、非同調をきたします。患者さんの苦痛につながるだけでなく、酸素化や換気効率を悪化させるため、マスクフィッティングの技術がカギとなります。また、一回換気量によって患者さんへの影響も異なるため、リークの数値のみにとらわれるのではなく、同調性などを観察し、できるだけリーク量を少なくすることが大切です。 図10 2種類のリーク リークの原因をアセスメントし対処 リークの原因には、マスクフィッティングの不備(マスクのずれやベルトの緩みなど)だけでなく、回路や機器の異常、気道閉塞や無呼吸などがあります(表4)。 リークがあるとベルトをきつく締めがちですが、きつく締めすぎることでエアクッションを消失し、よりリークが起こってしまいます。医療者が適切なマスクフィッティングの方法を理解し、ゆるいマスクフィッティングに慣れること、リーク出現時にはベルトをすぐに締めるのではなく、なぜリークが起こっているのか原因をアセスメントし対処することが重要です。具体的な対処法については、次回ご説明します。 表4 リークの原因の例 監修・執筆:竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長慢性疾患看護専門看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長編集:株式会社照林社 【参考文献】1)日本呼吸器学会NPPVガイドライン作成委員会.『NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン 改訂第2版』.東京,南江堂,2015.〇石原英樹,竹川幸恵編.『医師・ナースのためのNPPVまるごと事典』.大阪,メディカ出版,2019.

麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際
麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際
特集 会員限定
2024年7月2日
2024年7月2日

麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際~【セミナーレポート後編】

2024年3月15日、御所南リハビリテーションクリニック院長・児玉万実先生を講師に迎え、オンラインセミナー「麻痺に伴う痙縮とは〜その症状には治療法があります!〜」を開催しました。セミナーレポートの後編では、ボツリヌス療法の6つのフェーズや、ボツリヌス治療の実際と目指すことなどをご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。※帝人株式会社・帝人ファーマ株式会社・帝人ヘルスケア株式会社による共催セミナーです。 >>前編はこちら麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】 【講師】児玉 万実(こだま まみ)先生京都大原記念病院グループ 御所南リハビリテーションクリニック 院長/京都府立医科大学 臨床講師/日本内科学会 認定医、日本リハビリテーション医学会 専門医、代議員。獨協医科大学 医学部を卒業後、大学病院、民間病院での勤務を経て、2006年から京都大原記念病院で診療にあたる。2015年には御所南リハビリテーションクリニックに移り、2018年に同院の院長に就任。 ボツリヌス療法6つのフェーズ 私は、ボツリヌス療法は以下の6つのステップに大きく分けられると考えています。 STEP1 お困りごとに患者自身が気づき受診 患者さんご自身が「この筋緊張の症状には治療法があるんだ」と知り、受診いただくことから治療が始まります。 この段階できちんとボツリヌス療法について説明を行います。症状に関係する筋肉に複数の注射を打たなければならないこと、注射をしてもすぐに手足が動きだすわけではないこと、継続が必要なこと、リハビリにも取り組む必要があることなども伝えます。 STEP2 客観的評価 医師や療法士(リハビリスタッフ)が客観的な評価を行い、ボツリヌス治療の適応かどうかを判断。痙縮評価指標のMAS(Modified Ashworth Scale)やMMT(Manual Muscle Test/徒手筋力テスト)だけでなく、装具の適合性や使用頻度、疼痛の有無なども確認します。 STEP3 目標をもとに治療戦略を立てる どんな症状で悩んでいるのか細かくヒアリング。STEP2の評価の内容に加え、どういう目的で手足をスムーズに動かしたいか、患者さん自身の現実的な目標に基づき、治療戦略を立てます。中枢をメインにするか、末梢を多めにするかなども考えていきます。 STEP4 施注(注射) 戦略に沿って注射を打ちます。 STEP5 情報共有 注射後は、すぐにマンツーマンのリハビリを行います。注射した箇所の筋肉をしっかりとストレッチしつつ、自宅での自主トレーニングのやり方をお伝えします。 ただし、疾患別リハビリテーション期限を越えている方で介護認定がおりている患者さんの場合、基本的には医療保険を使ったリハビリはできません。そこで、注射した箇所や単位、在宅で必要なリハビリなどについて申し送りをしています。情報共有は患者さん本人だけでなく、訪問看護師のみなさんをはじめとした、在宅で患者さんを支える方々にも行っています。 ちなみに、医療保険によるリハビリには期限の定めがあります。脳卒中をはじめとした痙縮の原因になる病気を発症して急性期の病院での治療が落ち着くと、回復期リハビリテーション病院に転院して本格的なリハビリテーションが始まります。しかし、国が定めた「医療保険を使って医療機関で密度の濃いリハビリができる期間」は、発症した日から半年のみ。これは制度上仕方のないことなのですが、ボツリヌス療法と濃いリハビリを組み合わせることが難しいのが問題点です。半年を過ぎた後の生活期は、介護保険を使った訪問リハビリや、デイケア(通所リハビリ)などを利用することになります。ですので、介護保険サービスの担当の方々ともしっかり連携を取ることが重要です。 STEP6 効果的な自主トレとフィードバック 指導に沿った自主トレーニングを患者さんに行ってもらい、訪問リハビリやデイケアの方などとも連携をとり、3ヵ月後に2回目の注射をします。来院時にフィードバックをし、注射とリハビリを繰り返し、3回目、4回目と続けていきます。 施注(注射)の実際 施注について、もう少し詳しくご紹介しましょう。 筋緊張が見られる箇所を針筋電図や超音波で細かく確かめながら注射を打っていきます。私は痛みのない超音波を選択することが多く、注射針が狙った箇所に刺さっているか、液体(薬剤)をきちんと注入できているかも超音波で確認。左手に超音波の機器を持ち、右手で注射を打ちます。なお、筋肉に注射すると体が反射的に動くこともあるので、療法士と看護師さんと3人1組で治療は行います。 注射箇所を見極めるためどうしても施注時間が長くなりがちですが、患者さんにとっては苦痛が大きい時間。なるべく短い時間で終えられるように心がけています。正確に、でもなるべく早く。そうやって患者さんの苦痛を最小限にすることが、継続のためのコツだと考えています。 ご本人と介護者のよりよい生活を目指して 痙縮へのボツリヌス療法は、医療従事者でも知らない方がまだまだ多いのが現状です。訪問看護師のみなさんには、ぜひ、痙縮に悩む患者さんをボツリヌス療法につなげてほしいと考えています。 経験豊富な医師に超音波で確認しながら施注してもらうのが理想ではありますが、比較的大きな筋肉や触診でわかる筋肉にはブラインドで注射を打つことも可能です。「オムツの交換が難しいので、硬くなっている太ももの内側の筋肉に注射する」といったやり方でも、筋肉の緊張を緩和し介護負担の軽減につながる可能性はあります。困難を抱えている患者さんや介護者の方に、まずはボツリヌス治療にどうにか結びついていただきたいと思っています。 訪問リハビリの担当者さんから、ボツリヌス治療を受けた患者さんが「新聞をとりにいったり、食器を洗ったりと、家庭での役割が増えた。IADL(手段的日常生活動作)が着実に拡大している」といったうれしい報告をいただくことが多々あります。 ボツリヌス治療の目的は、数値の改善ではなく、ご本人や介護者の生活が変わっていくこと。痙縮に悩む方々がひとりでも多くよりよい毎日を過ごせるよう、お伝えした知識をぜひ現場でいかしていただけたらうれしいです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

大規模事業所の人材マネジメント
大規模事業所の人材マネジメント
インタビュー
2024年7月2日
2024年7月2日

大規模事業所の人材マネジメント~次世代に繫ぐために~

兵庫県の西宮市訪問看護センターの管理者を長年務めた山﨑 和代さんへのインタビュー記事を、3回に渡ってご紹介。最終回は、大規模事業所の人材マネジメントや新たなチャレンジなどを伺いました。 >>これまでの記事はこちら訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~ 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 規模ありきでなく、成長の結果としての規模 ─西宮市訪問看護センターでは当初から大規模化を目指していたのでしょうか? いえ、最初から規模を大きくしようとしてしたわけではありません。地域のニーズに対して、スタッフが真摯にスピーディに応じてくれて、人の入れ替わりがありつつも、新たに仲間になってくれるスタッフが途切れなかったことで、結果的に大規模化につながりました。 これまで理念を掲げて長年突っ走ってきましたが、スタッフのみんなが理念を理解して、良質なサービスを提供しようと大変な努力をしながらやってきてくれました。本当に感謝しています。 ─採用に苦しんでいる事業所も多いと思いますが、西宮市訪問看護センターではどんな取り組みをされていたのでしょうか。 ホームページ、ナースセンター、ハローワークを活用しており、「訪問看護ブログ」を過去に掲載していました。ブログをご覧になった方からお問い合わせいただくケースが多かったですね。 また、西宮市訪問看護センターでは兵庫県で初めて新卒採用を行い、2023年度末までに6名を採用しています。新卒採用をきっかけに、「新卒を受け入れているなら、経験年数が短くても受け入れてもらえるのでは」という思考が働いたようで、副次的に既卒の20~30代の看護師確保もしやすくなりました。若手が増えたことで、ステーションの長期的な継続を見据えた準備ができるようにもなりました。 ─大規模な事業所の管理者に求められることを教えてください。 地域や制度の動向を見据えて組織をデザインし、どのように経営・運営するかを決めて実践していく。大規模事業所の管理者には、こうしたスキルやセンスが求められると思います。 また、リソース配分も重要です。常によりよい方法を模索していますが、例えば事務員に新規契約や連携における書類作成、簡便な連絡などを担ってもらい、管理職の負担軽減をするなど、今いる人員でいかに効率的に運営していくかということを考えています。 事業費の約1%はスタッフ教育へ ─次世代の育成にも大変力を入れていらっしゃると思います。具体的にどのようなことをされているか教えてください。 はい。スタッフの教育は良質なサービスを提供するにあたって欠かせませんので、事業費の約1%は研修教育費として使っています。例えば、月1回業務時間内に行っている集合研修、ポータブルエコーの購入、ウェブコンテンツの契約更新、特定行為研修への2名(年間)の派遣などに充てています。 チームリーダー業務を通じて次世代のリーダーも育成しています。次の管理者については、日本看護協会の認定看護管理者課程のファースト、セカンドレベルを済ませ、2024年度にサードレベルを受けて春に認定看護管理者の試験を受けることになっています。とても心強く、なにも心配していません。 傾聴を通じて知った今後の課題 ─人数が多い事業所ではコミュニケーションが課題になることも多いと思います。前回、情報共有アプリでのコミュニケーションのお話もありましたが、普段心がけていることを教えてください。 「傾聴」に力を入れています。実は、私は以前もっとも信頼していたスタッフをバイク事故で亡くした経験があります。この件に関しては私が一番精神的にダメージを受けて、みんなに支えてもらいました。そのことがきっかけで、メンタルケアをしてくれるカウンセラーの先生を探したという経緯があります。 その先生に、「山﨑さんの目指す事業所運営には傾聴が必要」と教えていただいたんです。傾聴というと、「ただ耳を傾けて聴く」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実は高度なテクニック。スタッフとともにグループ講座を受講したところ、いかに自分たちに足りていない能力だったかを実感しました。 特に多かった例は、「この人はこう考えるに違いない」と決めつけ、思い込んでしまう「ブロッキング」。つまり、先入観ですね。傾聴とは、自分の先入観を認識し、それを打ち消し、相手の話を芯から理解しようとすることなんです。 また、相手の言葉をそのまま返す「ミラーリング」という手法を実践してみて、その効果がよくわかりました。実際にミラーリングをしてもらうと、「この人、私のことをわかってくれているんだな」と感じるんです。翻って、普段私を含む管理職たちはアドバイスばかりしていたことに気付きました。 傾聴のスキルは、スタッフ同士はもちろん、利用者さんや自分の家族とのやりとりにも活かせます。自身の在り方を振り返り、ラクになることを実感しました。ただし、ちょっとトレーニングしただけではこれまで染みついたやり方はなかなか抜けません。すぐに思い込みや独りよがりで話してしまいますし、よかれと思ってアドバイスしてしまうんです。折に触れてお互いに確認し合い、気を付けなければ、と思っています。 次世代にバトンを渡し、新たな挑戦へ ─山﨑さんは、2024年4月より新たに訪問看護ステーションを立ち上げるとのことですが、立ち上げ経緯を教えてください。 想いを引き継いでくれる後進も育ったことですし、新たなチャレンジをしたいと思ったのがきっかけです。いざ準備を始めてみたら、やりたいことがいっぱい出てきて、絞るのに苦労するくらいでした。会社名は、「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」。訪問看護師だけでなく、ヘルパー、ケアマネジャーなど、「担う人」すべてを応援したいという気持ちで名付けました。 担い手は誰しも他人には真摯に向き合うのに、自分自身のケアはおろそかになりがちです。そうした人たちに「また明日からがんばろう」と前向きになってもらいたいので、訪問看護をはじめとした「受ける人」向けのサービスだけではなく、「担う人」向けの講座や相談・支援、リラクゼーションも用意しています。 長年の訪問看護ステーション運営で培ったノウハウを活かし、訪問看護のみならず介護事業の運営や経営で困っている人の相談支援や、ライフワークである暴力ハラスメント対策の研修も、より充実させていきたいと思っています。 2024年3月末に行われた送別会でのひとコマ。左の画像は、管理者を引き継いだ吉田さんとのツーショット。右の画像は趣味のヴァイオリンを披露する山﨑さん ─訪問看護ステーションではどのような取り組みをされるのでしょうか。 訪問看護ステーション(足とリンパとおなかの悩み訪問看護)は、通常の訪問看護はもちろん、それに付随してフットケアとリンパ浮腫のケアやそれに関連する処置。そして、浣腸摘便ではなく腸内環境や生活習慣に着目して排便コントロールをしていきたい方に向けた支援をします。これまでなかなか解決が難しい分野だと感じてきたからこそ、チャレンジしたいと思っています。 訪問看護が好きだからこそ、改革を続けていく ─訪問看護師として数多くの改革に取り組んでこられましたが、何がモチベーションになっているのでしょうか。 何でしょう…。「訪問看護が大好き」というのも大きいと思いますし、私が勝ち気だからかもしれません(笑)。 ─今後の訪問看護がどうなっていくべきか、お考えをお聞かせください。 「訪問看護でできること」の認知度を、もっと上げなければいけないと考えています。 本来であれば在宅療養開始に向けて、アセスメントシートを作成して医療機関とケアマネジャーが協議する時点で、「訪問看護」によるアプローチを始められるといいのですが、それができていないことは課題だと思います。訪問看護師が医療と生活の視点でその人の状態を評価し、退院直後に集中して支援できれば、当面の療養生活の見通しが立ち、救急搬送のリスクも低減させることができます。また、そのタイミングで訪問看護師の介入があると、ケアマネジャーと医療機関、双方にメリットがあると思います。 西宮市訪問看護センターでは、急性期病院の地域医療連携部署と一緒に病棟のカンファレンスに参加していますが、そうしたしくみが全国的に広がり、きちんと評価されるようになれば、医療・介護の連携が進み、病院と在宅の垣根が低くなっていくと思います。なにより利用者さんに大きなメリットがあるのではないでしょうか。 ─本当に学びの多いお話をありがとうございました。最後に、看護職の皆さまへのメッセージをお願いします。 もし訪問看護をやるかどうか迷っている人がいたら、魅力ある仕事なのでまずは飛び込んで経験してほしいと思います。また、看看連携はインセンティブがあまりつきませんが、支援の要です! 気軽に病院と訪問看護ステーションが話せる場を一緒につくってほしいです。 ─ありがとうございました! ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

受賞作品漫画「最期のキッス」【つたえたい訪問看護の話】
受賞作品漫画「最期のキッス」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年6月26日
2024年6月26日

受賞作品漫画「最期のキッス<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、大矢根 尚子さん(社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション/大阪府)のホープ賞エピソード「最期のキッス」をもとにした漫画の後編をお届けします。 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。  「最期のキッス」前回までのあらすじがん終末期の利用者 大野ゆみさんと夫のだいすけさんは、訪問看護に行っても「二人でできるから大丈夫」と言い、あまりケアができない状態でした。ユマニチュードを徹底することで少しずつ距離が近づき、思い出話も伺えるようになり、ゆみさんが好きな曲を流しながらケアするようにもなりました。しかし、だいすけさんはなかなか奥様の死を受け入れられないご様子で…。>>前編はこちら受賞作品漫画「最期のキッス<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 最期のキッス<後編> 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。エピソード投稿:大矢根 尚子(おおやね なおこ)社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション(大阪府)元々は訪問看護を続けられるかどうか不安を抱いていた私が、大野さんご夫婦(仮名)の訪問に入らせていただいたことで、「どう支えるのがベストか」を常に考えながらお仕事をするようになりました。ご自宅という利用者さんの生活の中に入らせていただき、その方の「人生の一部」にさせていただける訪問看護は本当に魅力的です。最初は紙袋を使っていた私も、お二方との関わりを機に、ちゃんと布バッグを新調しました(笑)。また、所属先の訪問看護ステーションの反応もすごく、受賞がわかったときはみんなで大盛り上がりだったので、建物が揺れたかと思うくらいでした(笑)。法人内にも受賞したことが共有され、「訪問看護の仕事が魅力的だということがよくわかり、勉強になった」「法人としても嬉しい」といった言葉ももらえました。本当にありがとうございました。 * * * 次回、「第3回 みんなの訪問看護アワード」の「つたえたい訪問看護の話」エピソードは、2024年秋から応募開始予定です。 [no_toc]

受賞作品漫画「最期のキッス」【つたえたい訪問看護の話】
受賞作品漫画「最期のキッス」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年6月25日
2024年6月25日

受賞作品漫画「最期のキッス<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、大矢根 尚子さん(社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション/大阪府)のホープ賞エピソード「最期のキッス」をもとにした漫画をお届けします。>>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。 最期のキッス<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「最期のキッス<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。エピソード投稿:大矢根 尚子(おおやね なおこ)社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション(大阪府) [no_toc]

麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】
麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2024年6月25日
2024年6月25日

麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】

2024年3月15日、オンラインセミナー「麻痺に伴う痙縮とは〜その症状には治療法があります!〜」を実施しました。講師としてお招きしたのは、痙縮に対するボツリヌス療法を数多くの患者さんに実践する医師の児玉万実先生。今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、痙縮によって生じる問題、治療方法とその課題など、基礎知識をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。※帝人株式会社・帝人ファーマ株式会社・帝人ヘルスケア株式会社による共催セミナーです。 【講師】児玉 万実(こだま まみ)先生京都大原記念病院グループ 御所南リハビリテーションクリニック 院長/京都府立医科大学 臨床講師/日本内科学会 認定医、日本リハビリテーション医学会 専門医、代議員。獨協医科大学 医学部を卒業後、大学病院、民間病院での勤務を経て、2006年から京都大原記念病院で診療にあたる。2015年には御所南リハビリテーションクリニックに移り、2018年に同院の院長に就任。 痙縮とは 痙縮とは、脳卒中や頭部外傷、頚髄損傷などに伴って起こる運動障害です。本人の意思とは関係なく手足の筋緊張が高くなり、スムーズに動かせなくなって、日常生活に支障をきたします。 痙縮の具体的なパターン1)は以下のとおりです。 脇が開かない肘や手首、指が曲がる手のひらが上を向かない股関節が内転する膝が曲がる内反尖足(足の裏全体が床につかない、踵がつかない) 痙縮によって生じる問題はさまざまです。スパズム(攣縮/れんしゅく:筋肉が不随意に収縮)やクローヌス(筋肉が不随意・リズミカルに収縮と弛緩を繰り返す)、疼痛、容姿の変化などの症状が見られるほか、ものを握る・放す・移動させる、歩行、体重支持といった動作が困難になることも。 日常生活でサポートを受けている方の場合、服の着替えや食事をはじめとした身の回りのケアが難しくなるため、本人だけでなく介護者にとっても負担となります。たとえば、オムツをしている方が痙縮で股関節が内転し、足が開きづらくなると、介護者1人ではオムツ交換が難しくなり、2~3人の手が必要になることもあるでしょう。 また、皮膚トラブルにも注意が必要です。高温多湿になる梅雨には、脇が蒸れてカビが生えてしまうことも。手指の握りこぶし状変形がある場合は、爪切りが困難なため、爪が皮膚に食い込んで潰瘍になってしまうこともあります。 痙縮と拘縮の違い 拘縮は、手術や交通事故の外傷などによって関節を動かす機会が減少し、関節自体がカチカチに固まってしまった状態のことです。五十肩などの痛みによって動かす機会が減り、拘縮につながることもあります。この場合はボツリヌス治療の適応ではありません。痙縮も適切な治療をせずに放っておくと、筋肉が固まってしまい関節の運動が制限される拘縮につながります。 痙縮の評価 痙縮の評価方法2)は、以下のとおりです。 (1)臨床的評価【主観的】疼痛・衛生、皮膚の状態、睡眠、気分、患者および介助者のQOL【診察】運動麻痺、関節可動域(ROM)、腱反射、筋緊張、感覚、姿勢【日常生活動作(QOL)】 上肢:つかむ、放す、運ぶ、の各動作 下肢:移動、歩行(2)神経生理学的評価(表面筋電図、動作解析、反射など)(3)生体力学的評価(伸張反射) 評価方法の中でぜひ訪問看護師のみなさんに知ってほしいのは、上記の(2)にあたる「打腱器」によるチェックです。痙縮がある方の肘の腱や膝を打腱器でポンポンと叩くと、筋緊張が高いため、反射が亢進しています。 治療方法の選択 さまざまな治療方法がある痙縮ですが、その中でも今回は、「ボツリヌス療法」についてご紹介します。脳卒中、頚髄損傷、多発性硬化症などがベースにあり、交通事故をはじめとした整形外科疾患ではないことがボツリヌス療法適応の判断基準です。 ボツリヌス療法硬くなった筋肉にボツリヌス毒素を注射する治療法で、歩きやすくなる、手を使いやすくなるといった機能改善を目的に行います。筋緊張が弱まることで、筋肉のつっぱりによる痛み(こむら返りのような手足がつる痛み)の緩和や介護の負担軽減につながる可能性があります。 内服治療も選択肢のひとつですが、比較的症状が軽い方が対象となります。 その他の治療法として、両手・両足、体幹など、痙縮の範囲が広く症状が強い場合、バクロフェン髄腔内投与療法(ITB療法)を選択することもあります。バクロフェンという液体が入った容器を腹部に埋め込み脊髄へ点滴の要領で流していく治療方法です。 >>関連記事ITB療法についてはこちら訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 後遺症「痙縮」【セミナーレポート後編】https://www.ns-pace.com/article/category/feature/stroke-prevention-3/ 継続治療の難しさ ボツリヌス療法は推奨度の高い治療であり、症状が緩和するケースが多い一方で、治療を継続できないケースも多く見受けられます。 その理由は、まず治療費が高額であること。そして、3ヵ月ごとに繰り返し注射を打たなければならず長期的に治療を継続する必要があること。さらに、比較的痛みの強い筋肉注射を複数箇所に実施するため、治療に対する恐怖心を抱く方もいらっしゃることなどが挙げられます。 抗生剤や抗がん剤、降圧剤、鎮痛剤など一般的な薬は使用目的が明確で、医師と患者さんの間で認識のズレが起こりにくいものです。これに対してボツリヌス療法は、継続治療の難しさから実施にあたり工夫が必要で、多職種で連携して患者さんを支えていくことが求められます。 次回はボツリヌス療法のフェーズ、治療の実際や多職種連携について解説します。>>後編はこちら麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際~【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】1)Brin MF, et al. Muscle Nerve.1997,20(Suppl 6): S208-S2202)正門由久.「痙縮の治療選択-その評価とマネジメント」臨床脳波2006;48:241-247

阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~
阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~
インタビュー
2024年6月25日
2024年6月25日

阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~

西宮市訪問看護センターはエリア内で最も長く地域を支え、幅広い取り組みを実施されてきたセンター。災害関連でも、阪神・淡路大震災での訪問看護を経験しているほか、新型コロナ感染症陽性者の支援のしくみづくりにも貢献。今回は、災害対策にも精通している山﨑 和代さんに、災害時の対応やICT化問題にいち早く取り組み、電子カルテや情報共有アプリを導入した際のお話などを伺いました。 >>前回の記事はこちら訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~ 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 震災を経て感じた訪問看護「終結」の重要性 ─西宮市訪問看護センターでは、1995年の阪神・淡路大震災時の訪問看護を経験され、その経験を活かして行政と連携しながら災害対策体制の構築をされたということでした。ステーション内での災害対策についても教えてください。 西宮市訪問看護センターの中で、阪神・淡路大震災のときに訪問看護をしていたメンバーは私のみになりましたが、当時、「訪問看護に行きたくても、行けない」という経験をしました。あの経験を通じて、利用者さんから「全面的に頼っていただく」サービスの限界を知ったように思います。 何かあったときに、我々が利用者さんのもとに行けないこともある。だからこそ、最終的には利用者さんがセルフケアを行えるようなサポートが「住み慣れた場所で最期まで過ごせる地域づくり」に繋がると強く思いました。病気を知る、背景を知る、ナラティブ(その人の物語)を知る。その上で適切にアセスメントし、セルフケアをしていただけるよう、「訪問看護の終結」を見据えてケアすることが、利用者さんのためでもあり、限られた訪問看護のマンパワーを効果的に活用することに繋がります。「タスクシフト」はまさにこのことだと思います。 重要なのは、緊急度・重症度に応じた訪問看護優先度の決定(トリアージ)です。当センターではトリアージ表を作成して支援内容や頻度をチームで検討し、常に終結や訪問頻度の低下ができないかウォッチしています。この考え方は、当センターのBCP(事業継続計画)にも反映しており、災害級といわれたコロナ禍で担い手が不足したときにも役立ちました。 ─「訪問看護の終結」が一筋縄ではいかないケースもあるのではないかと思いますが、どのように対応されていますか? まずは、合意形成することを大事にし、常に終結を見据えて利用者さんに情報を取捨選択して渡し、しっかりと相談に乗っています。 それでも利用者さんやケアマネジャー、主治医などから継続の要望があることは珍しくありません。多職種共通の客観的指標がないことが、利用者・家族の要求が優先されることに繋がると考えています。なので、そうした状況が起こるときこそ、支援の必要性を再度アセスメントし、その結果を踏まえて対応することが、西宮市訪問看護センターの役割と考えています。 本当に困っている人にリソースを割くための終結=タスクシフト ─利用者さんが訪問看護を継続したほうが経営面で安定するという側面もあると思います。多くの壁がある中で、それでも終結していくためのしくみづくりを推進されてきた背景にある想いを教えてください。 できるだけ多くの方の要求に対応したほうが経営的には安定すると思いますが、大規模ステーションである西宮市訪問看護センターだからこそすべきことがあります。我々のリソースには限りがある上、新規の利用者さんは対応を急ぐ重症なケースが多い。だからこそ、我々は訪問看護を終結していくことで、次々にいただく新規の依頼を断らずに受け入れることができます。今日明日の急な依頼も、原則としてすべて対応します。 現状の制度においては、「適切にアセスメントし、適切な時期に終結する」ことができたとしても、なんのインセンティブもない状況です。しかし、西宮市訪問看護センターのような大規模ステーションだからこそ、やるべきことだと考えて対応してきました。今後はタスクシフトがますます重要となってくるはずであり、より多くの方々が必要なサービスをタイムリーに受けられるよう、制度がアップデートされることを望みます。 新型コロナウイルス感染症の在宅療養対応 ─コロナ禍では、西宮市内で最初に在宅療養の対応をされたと伺いました。語り切れないほど大変な状況があったと思いますが、当時のことを教えてください。 はい、当時は本当に大変でしたね。ヘルパー事業所が撤退したらどうするか、「原則入院」とされている陽性者が入院できなかった場合にどうするか、などの課題に次々と直面しました。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会で県内の訪問看護ステーションの状況を確認しつつ、自治体に要望書を提出。その後、迅速に在宅療養者対応体制が構築されました。 西宮市訪問看護センターでは2021年の1月に初めて陽性者の訪問看護を開始しましたが、当然ながら訪問に行きたいというスタッフはいません。管理職のみで6人のチームを組み、これが「事業団の役割」なのだという使命感をもって訪問しました。 スタッフのストレスマネジメントも課題でしたね。疲労や「感染するかもしれない」という不安はもちろんのこと、学童保育や保育所が休みになって休まざるを得ないスタッフが、「みんなが頑張っているのに休むのは申し訳ない」と泣き崩れたこともあり…。「泣かんでもいいから」と慰めたことを思い出します。 当初は情報が錯綜していたので、私はとにかく多くの時間を情報収集に費やし、取捨選択して整理して、情報共有アプリを通じて伝達していました。「スタッフみんなに心身ともに健康でいてほしい」というメッセージを出し続けたことや、電話や面談でこまめに話をする機会をつくったのが功を奏したのでしょうか。コロナ禍による退職はありませんでした。 反対を受けながらもいち早くICT化を推進 ─情報共有アプリのお話が出ましたが、山﨑さんは訪問看護でITC化が一般的でなかった時代から、いち早く電子カルテや情報共有アプリを導入されているかと思います。こちらも災害対策の意味合いが大きかったのでしょうか。 災害対策だけではないですね。電子カルテを導入したのは2016年のことで、これは新卒スタッフを採用することをきっかけに導入しました。スタッフは入職後2年で独り立ちするプログラムになっていますが、それ以前からオンコールを担当します。当時はまだ紙のカルテを当たり前に使っていたのですが、明らかに電子カルテのほうが効率的に情報を収集できるため、導入は必須だと考えました。 ─スタッフの皆さんの反応はいかがでしたか? これに限らず、新しいことをすると必ず反発がありますね。私は新しい試みばかりするから、みんな大変だったと思います(笑)。ただ、電子カルテはこれからの看護の世界に必ず必要だと思いましたし、利用すればいいケアに繋がると確信していました。そのことを説明しました。 介護保険制度ができて、本当に幅広い対応を求められるようになった一方で、訪問看護の人材は全国的に不足しています。この状況を解決しようとするなら、属人的なやり方では確実に限界がくるんです。アナログでは属人的になりがちで、問題の共有もしにくくなります。一人でケアすることが多い訪問看護は、そもそも属人的になりがちなサービスですから、チーム制やICT化を行うことで、スムーズな情報共有を行っていく必要があると思います。 ─コロナ禍で情報共有アプリを活用されたというお話がありましたが、改めてメリットや課題、気を付けるべきポイントを教えてください。 多職種連携用のものも含めて複数のツールを使っていますので、それぞれの導入理由や使い方をスタッフに明示した上で使用を開始しました。また、情報共有アプリにも複数あるので、選定する際には自分たちのポリシーや希望する使い方にマッチするものを選んでいます。いつでもどこでも見ることができるので、効率的なコミュニケーションや情報共有に役立っています。 ただ、「どこでも見られる」のは良し悪しですね。休みの日でも情報共有アプリをチェックしてしまうスタッフがいて、オンオフの切り替えができない様子が見受けられた際は、「休みのときは見ないで」と改めて指示しました。 あとは、情報の取捨選択が課題ですね。仕事に限らず現代は情報にあふれているので、自ら取捨選択する情報リテラシーが非常に重要です。本当は、私としては基本的に情報をスタッフみんなにオープンにしたかったのですが、人数や案件が多いこともあって「情報を探せない」「通知を追いきれない」といった声が出たので、情報共有アプリ内のプロジェクトごとに参加メンバーを設定する対応をとりました。 看護師は情報の取り扱いを得意とする人がまだまだ少なく、兵庫県の訪問看護ステーション協議会の会員でも個人のメールよりFAXのほうが使いやすい、という声が多いです。ステーションを超えた情報共有を行っていくためにも、もっと訪問看護ステーションのICT化が進んでいくといいなと思います。 ―ありがとうございました。次回は、大規模組織の人材マネジメントについて伺います。 >>次回の記事はこちら大規模事業所の人材マネジメント~次世代に繫ぐために~ ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

在宅ハイフローセラピー Q&A
在宅ハイフローセラピー Q&A
特集
2024年6月25日
2024年6月25日

在宅ハイフローセラピー Q&A/装着のコツ、トラブル対応、アドヒアランス支援

在宅において患者が「高流量鼻カニュラ酸素療法」(high flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)を継続していくためには、不快感やトラブルへの早期対応とアドヒアランスを維持するための支援が必要不可欠です。そこで、今回は、装着時のコツや不快・トラブル時の対応、アドヒアランスを支えるための精神的支援のポイントをご紹介します。 Q1 訪問看護で初めて在宅HFNCの患者さんを担当することに。使用方法や装着のコツや注意点は何ですか? A 基本的な機器操作の流れと適切な鼻カニュラの装着方法を押さえることが大切です 在宅HFNCを快適かつ安全に使用するためには、加温加湿器を事前に温めることや鼻カニュラを締めすぎないように装着することなど、使用上の注意点・コツがあります。すなわち、基本的な機器操作の流れと適切な鼻カニュラの装着方法を押さえることが装着のコツをつかむことにつながります。在宅HFNC装着の流れを表1に示します。 表1 在宅HFNC装着の流れ 図1 加湿チャンバーの取り外しと取り付け時のポイント 例:Fisher&Paykel Healthcare社製 myAIRVO™ 2フィンガーガードを押し下げながら加湿チャンバーの取り外しと取り付けを行う必要がある。また、取り付け時はカチッとはまるまで加湿チャンバーをしっかりと押し込む。 図2 鼻カニュラのサイズと適切なフィッティング 図3 取り外しツールの活用 例:Fisher&Paykel Healthcare社製 myAIRVO™ 2チャンバードームとベースプレートの間の溝に取り外しツールの先端を差し込んでひねると、比較的容易にチャンバーを分解できる。 Q2 患者さんがHFNC施行時に不快感を訴えます。どう対応すればよいですか? A 不快感の原因には加温・加湿によるもの、高流量に伴うもの、鼻カニュラによるものなどさざまあります。不快感は治療の継続に大きく影響するため、原因ごとに適切な対応が必要です 在宅HFNCが通常の在宅酸素療法と異なる点は、「加温・加湿」した「高い流量(風)」を「少し重めの専用鼻カニュラ」で投与する点です。そのため、通常の在宅酸素療法で感じることのない以下のような不快感が出現することがあります。 加温・加湿による熱さ・水滴の不快感高流量に伴う不快や圧迫感鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブル鼻カニュラが容易にずれることへのわずらわしさや不安 など このような不快感は継続に大きく影響するため早期に対処する必要があります。それぞれの不快感に対する対応を以下に示します。 加温・加湿による熱さ・結露の不快感への対応 熱さや発汗に対する対応 室温や寝具、衣服の調整をする冷却材でクーリングする(頭、首、顔周囲など)設定温度を下げる(下限34℃)。ただし、温度を下げたい場合は医師へ相談する 結露に対する対応 HFNC機器の回路の作動保証は室温18~28℃。室温の設定が適切かを確認し、逸脱している場合は、室温設定を調整するように説明する。冬季で暖房を切って就寝し、室温が非常に低くなっていたり、夏季で冷房の送気が回路に直接あたっていたりすると回路に結露が発生する可能性がある回路に結露が溜まっていたら加湿チャンバーに結露を戻す(鼻腔へ水滴が入ると不快なため) 高流量に伴う不快や圧迫感への対応 強い風が呼吸を助けてくれること、また強い風による不快は慣れることを伝え、励ましながら、苦手意識を緩和する働きかけを行う不快が強く継続が困難な場合は流量を下げる(高流量に伴う苦痛が強いことを医師へ連絡する)乾燥の不快を訴える場合は鼻用保湿スプレーを使用する 鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブルへの対応 ヘッドストラップを締めすぎないように適切なフィッティングを行う(図2) 顔の皮膚の状態を良好に保つ(保湿が重要)・洗顔を行い、皮脂や汚れを落とす・化粧水やクリームなど肌に合ったものを塗り、肌の乾燥を防ぐ皮膚トラブル時は皮膚保護剤を使用する。特に皮膚トラブルの好発部位に注意する(図4)訪問時に、鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブルがないかを確認し、上記対策を早期にとる 図4 皮膚トラブルの好発部位 鼻カニュラが容易にずれることへのわずらわしさや不安への対応 適切に鼻カニュラを装着できているかを確認する(図2)チューブクリップが衣服やベッドカバーなどに適切に取り付けられているか、寝る環境、姿勢などに問題がないかを確認し、ずれない対策を患者とともに検討するチューブクリップが硬いために上手く装着できない場合は「洗濯ばさみ」を紐で回路に取り付ける方法が有効である(図5) 図5 チューブクリップが使用できない場合の工夫 洗濯ばさみを紐で回路に取り付ける Q3 HFNCにあまり積極的でない患者さんがいます。どのようにアプローチすればよいですか? A 患者さん自身が治療法を理解・納得した上で治療に参加できるよう、アドヒアランスの支援に取り組んでみましょう アドヒアランスとは「医療者が提案する治療方針等の決定に患者が積極的に参加し、その決定に従って治療を受けること」1)を意味します。つまり、アドヒアランスは医療者の指示にただ従うのではなく、患者さん自身が治療法を理解・納得した上で、積極的に治療に参加することです。また、在宅HFNCを患者さんが継続していくためにはこのアドヒアランスの維持・向上が不可欠です。アドヒアランスを支える支援として、ここでは3つポイントを解説します。 在宅HFNCに対する受け止め方を知り、支援する まず、患者さんが在宅HFNCをどのように受け止めているのか(理解や受け入れ状況、思いなど)を丁寧に尋ね、思いや感情に共感することが大切です。 医療者の説明不足や患者さんの理解不足などがあると、患者さんが在宅HFNCを継続する必要性を見いだせず、アドヒアランスが低下してしまうことがあります。このような場合には、患者さんの自覚症状や病態を踏まえながらどのような効果を期待して導入しているのかを補足説明します。 在宅HFNCは、呼吸困難や去痰困難、頭痛・頭重感などの症状緩和、PaCO2の低下、増悪回数の低下、運動耐用能・QOLの改善などの効果を期待して導入します。これらの効果を患者さんが納得・理解できる表現で説明を行い、在宅HFNCを「自分に必要なもの」と捉えることができるように支援していくことが大切です。 在宅HFNCの効果に対する自覚を高める 在宅HFNCを使用する患者さんにおいて、症状の緩和感とデバイスの使いやすさの両方が、治療アドヒアランスの強力な動機付けである2)といわれています。つまり、患者さんが在宅HFNCをスムーズに使えて、効果を実感していることがアドヒアランスを維持するためには重要であると言い換えることができます。 しかし、在宅HFNCはNPPVほどの換気補助効果は期待できず、患者さんが効果を実感していないケースも多くあります。よって、その場合は、看護師が患者さんの気づいていない効果を見つけ出し、それを言語化して伝え、効果が出ていることを実感してもらうように支援します。在宅HFNCの効果を図6に示します。わずかでも効果が認められたら「それが効果である」と強調して伝えていくことで患者のアドヒアランスを高めていきましょう。 図6 在宅HFNCの効果 ● 呼吸困難の軽減(「以前より息が楽になった」、「パニックになることが減った」)● 努力呼吸の軽減(頸部の呼吸補助筋の緊張が軽減)● SpO2の改善● 呼吸数の減少● 脈拍数の減少● 去痰困難の改善(「痰が柔らかくなった」)● 起床時の頭痛や頭重感の軽減● 増悪回数の減少● 睡眠の改善(「以前よりも眠れるようになった」)● 元気の回復(「以前より元気になった」「力が少し余っている」)● 日常生活の活動性の向上(「外出が増えた」、「食事量が増えた」、「会話が増えた」、「できなくなっていたことができるようになった」) など 直面している障害を共有し、ともに対策を立てる 日常生活の中で困っていることや不安なことはないか、どのような障害に直面しているのかなどを丁寧に尋ねることが大切です。そのかかわりの中で、患者さんが必要としている知識を提供しつつ、よい方法を患者さん自らが選択し、実施していけるように支援します。 Q4 在宅ならではのHFNC管理の注意点は何ですか? A HFNCは室内の温度や湿度の影響を受けやすい機器です。室内環境を整え、未然にトラブルを防ぎましょう 在宅HFNCで使用する機器は、室内の空気を取り込み加温・加湿するため、室内の温度や湿度の影響を受けやすくなっています。退院後、室内環境の影響で起こり得るトラブルとしては、冬季の室温が低下した際の結露トラブルや水切れのトラブルなどが挙げられます。それ以外にも、鼻カニュラのずれや皮膚トラブル・痛み、回路・鼻カニュラの破損やカビなどがあります。 このようなトラブルを避けるためには、機器を使用する自宅環境、加湿水の減り具合、アラーム内容、起こっているトラブルなどを詳細に確認し、安全・安楽に使用が継続できるように患者さんと調整することが大切です。図7に在宅における確認項目を示します。 図7 在宅における確認項目   執筆:鬼塚 真紀子地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 主任慢性呼吸器疾患看護認定看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長編集:株式会社照林社 【引用文献】1)World Health Organization(WHO).Adherence to Long-Term Therapies: Evidence for Action. Ann Saudi Med 2004;24(3):221-222.2)Storgaard LH,Weinreich UM,Birgitte Schantz Laursen BS.COPD Patients’Experience of Long-Term Domestic Oxygen-Enriched Nasal HighFlow Treatment:A Qualitative Study.COPD 2020;17(2):177. 【参考文献】〇鬼塚真紀子.「在宅ハイフローセラピー導入時のケア」.みんなの呼吸器 Respica 2023;21(6):115-120.〇今戸美奈子,北 英夫,鳳山絢乃,他.「ハイフローセラピーの装着感及びスキントラブルの実態」.日呼吸ケアリハ会誌 2018;27(2):163- 167.〇今戸美奈子.「在宅ハイフローセラピーの患者支援・退院支援・観光整備のサポートと継続看護」.みんなの呼吸器 Respica 2023;21(6):121-128.〇門脇徹.「在宅ハイフローセラピーセッティングのポイント」.みんなの呼吸器Respica 2023;21(6):106-111.〇富井啓介,門脇 徹,北島尚昌,他.「在宅ハイフローセラピーの現状」.日呼吸ケアリハ会誌 2019;28(2):291-297.

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