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指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2025年3月25日
2025年3月25日

指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

指定難病の医療費助成制度においては、患者さん自身が「自己負担上限額管理票」を使って毎月の自己負担額を管理しています。そのため、月初からのレセプト処理が終わると、患者さんの自己負担上限額管理票を確認した上で、訪問看護の利用料金を請求しなければならないことがあります。自己負担上限額管理票からもらう金額が毎月バラバラになるため、患者さんや家族から説明をしてほしいと言われることもあります。今回は、指定難病と医療費助成制度について解説します。 ※本記事は、2025年2月時点の情報をもとに構成しています。 指定難病とは 難病および指定難病は「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)により、次のように定義されています。 難病とは発病の機構が明らかでなく、治療法が確立されていない希少な疾病で、長期にわたり療養を必要とするもの指定難病とは上記のうち、患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%)に達しておらず、客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が確立している疾病 2024年4月現在、指定難病に該当する疾患は341あります1)。 なお、難病法は、難病の克服をめざすこと、難病患者さんが社会参加の機会を確保できること、地域社会において尊厳を保ちながら他の人々と共生できることを基本理念としています。 指定難病の医療費助成制度のしくみ 指定難病に対する医療費助成制度は、難病法の第5条で、その対象や助成額などが規定されています。 医療費助成の対象 指定難病は、個々の疾病ごとに診断基準と重症度分類が設定されています。その基準に基づき、指定難病と診断され、以下に該当する場合、難病法による医療助成の対象になります。 重症度分類で病状が一定程度以上 軽症高額該当(重症度分類を満たさない軽症者でも、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が3ヵ月以上ある場合2)) 医療費助成を受けるには申請が必要 指定難病の医療費助成を受けるには、医療受給者証が必要です。医療受給者証は、都道府県や指定都市の窓口(住所地を管轄する保健福祉事務所や保健所など)に申請を行い、審査の結果、認定されると交付されます。 交付された医療受給者証を、指定医療機関(病院、診療所、薬局、訪問看護ステーションなど)に持参し提示することで、医療費の助成を受けられます。なお、認定審査には時間がかかるため、申請日から医療受給者証が交付されるまでの間に指定医療機関でかかった医療費は、払戻し請求ができます。 医療費助成の開始時期と有効期間 医療費助成の開始時期は、前倒しすることも可能です。さかのぼりの期間は、原則として申請日から1ヵ月です。また、医療費助成の支給認定には有効期間があり、原則1年。治療の継続が必要な場合には更新の申請が必要です。 医療費助成における自己負担上限額 指定難病の医療費助成には、自己負担の上限額が設定されています。医療費が高額になった場合でも、この上限額を超えて支払うことはありません。自己負担上限額は、表1に示したとおり、患者さんの所得や治療の状況に応じて設定されています。 例えば、医療サービスを多く受けて医療費が高額になり、自己負担額が50,000円になった場合でも、「低所得Ⅰ」の患者さんは2,500円、「上位所得」の患者さんは30,000円が支払いの上限額となります。 自己負担割合は3割負担から2割負担に 医療保険や介護保険の負担割合が3割の場合、助成を受けている医療費は2割に軽減されます。ただし、年齢・年収等の条件によりすでに医療保険の負担割合が2割や1割に軽減されている場合は、それ以上負担割合が減ることはありません。介護保険も同様です。 表1 医療費助成における自己負担上限額(月額) (単位:円) ※「高額かつ長期」とは、月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上ある者(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円を超える月が年間6回以上)。 文献2)より引用 自己負担上限額管理票の記載方法 指定難病患者さんは、公費負担者番号が54番から始まる医療受給者証を持っており、この医療受給者証を持つ患者さんの自己負担額は、毎月「自己負担上限額管理票」で管理する必要があります。レセプト処理後、指定難病の医療費助成を受けている患者さんについては、自己負担上限額管理票をもとに自己負担分を請求します。 この自己負担額に入院・入院外(外来)の区別はありません。複数の指定医療機関で負担した自己負担額をすべて合算し、患者さんが自己負担額の上限を超えて支払うことがないように毎月管理しているのです。 患者さんは受診した指定医療機関で、管理票に医療費総額や自己負担額、自己負担の累積額(月額)などを記入してもらいます。指定医療機関では累積額を確認し、自己負担上限額に達していなければ本人に請求し、達した場合は上限額を超える分をすべて公費請求するという流れです。 自己負担上限額管理票の各記載項目と記載方法については図1で説明します。 図1 自己負担上限額管理表の記載項目(例) ※自己負担上限管理票は都道府県ごとに様式が異なります。ここでは、東京都保健医療局が作成した資料に掲載されている管理票の様式を例に解説します。東京都保健医療:特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用).https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r3kisai 1患者さんの自己負担上限月額が記載されています。この例では10,000円が上限額です。2自己負担額を徴収した日付を記載します。3自己負担額を徴収した指定医療機関名を記載します。4医療費・介護サービス費の総額を記載します。54の自己負担額を記載します。2割負担の患者さんであれば、総額の2割の金額を記載します。6自己負担の累積額を記載します。その月支払った合計額です。7自己負担の累計額は、A病院の自己負担額2,000円とB薬局の4,000円を合計した6,000円になります。8D訪問看護ステーションが医療費50,000円を請求しました。本来、50,000円×2割負担で、自己負担額は10,000円ですが、患者さんはすでにC診療所までで合計7,600円を負担しています。そのため、この日は上限額との差額分2,400円のみを患者さんに請求します。上限額を超える分は、すべて公費請求します。9上限月額(10,000円)に達したため、同月内のそれ以降の医療費は患者さんに請求せず、斜線を引きます。10上限月額(10,000円)に達したときの指定医療機関が記載します。 訪問看護師としてサポートできること 指定難病の医療費助成制度は、患者さんやご家族の経済的な負担を軽減する大切なしくみですが、自己負担上限額管理票の管理が必要となり、手間がかかることが課題です。今後、マイナンバーカードをはじめとしたICTを活用することで、管理の簡素化が期待されます。それまでは訪問看護師として、しっかりと制度を理解し、患者さんとご家族が適切に管理できるようサポートすることが大切です。 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある 編集:株式会社照林社 【引用文献】1) 厚生労働省:指定難病.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000084783.html2025/2/21閲覧2) 難病情報センター:指定難病患者への医療費助成制度のご案内.https://www.nanbyou.or.jp/entry/54602025/2/21閲覧

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咳が止まらない原因とは?長引く咳の種類・対処法・病気の可能性を解説
咳が止まらない原因とは?長引く咳の種類・対処法・病気の可能性を解説
特集
2024年11月26日
2024年11月26日

咳が止まらない原因とは?長引く咳の種類・対処法・病気の可能性を解説

「咳がなかなか止まらない」「咳で夜も眠れない」など、長引く咳に悩む人は少なくありません。咳が続くと睡眠不足になったり仕事や育児などに支障をきたしたりと、日常生活にも影響を及ぼします。原因に応じて適切に対処することで、つらい咳を緩和したり症状を抑えたりすることができるかもしれません。 本記事では、咳の原因や対処法について解説します。訪問看護の利用者さんやご家族のアセスメントに役立てるために、ぜひ最後までご覧ください。 咳の分類や種類 咳は医学用語で「咳嗽(がいそう)」と言いますが、空気の通り道である気道内に貯留した分泌物や異物を気道の外に排除する生体防御反応のことを指します。咳は呼吸器の異常だけではなく、ほかの病気の症状として現れることもあります。ここでは咳の分類や種類について解説します。 持続期間による咳の分類 咳の持続期間による分類では、3週間未満を急性咳嗽、3週間以上8週間未満を遷延性咳嗽、8週以上持続する咳を慢性咳嗽といいます。急性咳嗽や遷延性咳嗽の原因は感冒症状を含む上気道炎や咳だけが残る感染後咳嗽が多くを占めますが、持続期間が長くなるにつれてその割合は低下します。慢性咳嗽では、咳喘息、胃食道逆流症(GERD)、慢性気管支炎、アトピー咳嗽など感染症以外の疾患が主な原因です。 咳の種類:乾性咳嗽と湿性咳嗽 ■乾性咳嗽痰がからまない、あるいは少量の痰がからむ乾いた咳のことを「乾性咳嗽」や「空咳(からせき)」と呼びます。乾いた咳は下記のような原因で発生します。 風邪やウイルス感染        初期症状として乾いた咳が多くみられ、進行すると痰がからむ場合も。咳喘息呼吸困難感を伴わず、呼吸機能はほぼ正常なことが特徴。季節の変わり目や梅雨時、寒い時期、運動している時などに咳が誘発されることが多い。夜間や早朝に悪化しやすく、咳の持続期間は8週間以上。アレルギー性疾患花粉やハウスダストなどによるアレルギー症状として、乾いた咳が出ること。GERD(胃食道逆流症)胃酸が逆流して気管に刺激を与え、乾いた咳を引き起こすことも。 ■湿性咳嗽痰のからむ咳は、「湿性咳嗽」と呼ばれ、喉や気管支に溜まった痰を排出するために起こります。咳をすることで痰のからみが取れると喉がスッキリすることも。痰の色や量は、原因となる病気によって異なります。 肺炎感染によって肺に炎症が生じ、黄色や緑色の膿のような痰が出ることも。  気管支拡張症気管支が異常に拡張し、膿性の痰が多量に出ることが特徴。COPD(慢性閉塞性肺疾患)  特に喫煙者に多く、慢性的に痰がからむ咳がみられる。   自分でできる止まらない咳の緩和・対処法 咳は、適切に対処することで緩和できる場合があります。特に高齢者は咳のしすぎが原因で肋骨が折れるリスクもあり、適切な対処がより一層重要です。夜に咳の症状が悪化して眠れない場合の対処法も知っておきましょう。 禁酒・禁煙 タバコの煙は気道の粘膜を刺激し、咳を引き起こす原因となるほか、痰の分泌量を増加させます。禁煙することで、気道の炎症が抑えられて咳が軽減するでしょう。また、アルコールは体を脱水状態にし、喉の粘膜を乾燥させるため、咳を悪化させることがあります。禁酒を心掛けることで喉の乾燥を防ぎ、咳の頻度を減らす効果が期待できます。 市販薬の使用 市販薬の鎮咳薬や去痰剤などを使用することで、咳の症状を緩和できる可能性があります。乾いた咳には鎮咳薬、痰がからむ咳には去痰薬が推奨されます。 たとえば、乾いた咳が止まらない場合には「デキストロメトルファン」などを含む鎮咳薬が有効です。一方、痰がからむ咳には「グアイフェネシン」などを含む去痰薬が有効です。使用する際は、用法・用量を守り、自己判断での長期使用は避け、早めの受診を検討しましょう。 こまめな水分補給 こまめな水分補給は、咳の緩和に効果的です。特に咳が出る時は喉の粘膜が乾燥しがちで、さらなる咳を引き起こすことがあります。水分をしっかり補給することで、喉の潤いが保たれます。 腹式呼吸を心掛ける 咳で呼吸が苦しくなる場合、腹式呼吸を取り入れることで、呼吸が楽になり、咳の頻度を減らせる場合があります。腹式呼吸は、横隔膜を使って深く呼吸する方法で、胸式呼吸よりもリラックス効果が高く、肺に負担をかけずに酸素を取り込むことができます。 腹式呼吸の方法は下記のとおりです。 背筋を伸ばすまず、姿勢を整え、背筋をまっすぐに伸ばします。座っている場合でも立っている場合でも、体の軸を意識してリラックスしましょう。鼻からゆっくり息を吸う鼻からゆっくりと深く息を吸い込みます。この時、おへその下にある丹田(おへその下5㎝ほどの位置)に空気を溜めるようにイメージして、お腹を自然に膨らませます。 口からゆっくり息を吐く次に、口からゆっくりと息を吐き出します。お腹をへこませながら、体の中の悪いものをすべて吐き出すイメージで行います。吸った時の倍くらいの時間をかけるのがポイントです。 回数とペース最初は1日5回ほどから始め、慣れてきたら10〜20回を目安に続けます。その日の体調に合わせて無理なく行い、リラックスしながら楽しむことが大切です。 湿度と温度を最適にする 咳が出やすい夜は、寝室の環境を適切に調整することも重要です。室内の湿度が低いと気道が乾燥し、咳が悪化する原因となります。また、室温が低すぎると体が冷え、免疫力が低下して症状が悪化することもあります。エアコンや加湿器を使用して、温度を18〜28℃、湿度は40〜70%を維持しましょう。 のど飴・はちみつをなめる のど飴やはちみつをなめることで、咳や喉の痛みが和らぐ場合があります。また、はちみつは天然の保湿成分によって喉を潤すだけでなく、抗菌作用もあるため、風邪や咳による喉の不快感を軽減するのに役立ちます。 ただし、はちみつにはボツリヌス菌が含まれていることから、1歳未満の赤ちゃんが摂取すると乳児ボツリヌス症にかかるおそれがあります。1歳になるまでは与えてはいけません。 止まらない咳の原因とは? 咳が続く場合、呼吸器や消化器などの他の問題が潜んでいる可能性があるため、長期間続く場合は医師の診察を受けることが重要です。ここでは、止まらない咳の原因について解説します。 感染後咳嗽(かぜ症候群後咳嗽) 感染後咳嗽は、風邪をひいた後に残る咳のことで、感染後数週間から数ヵ月間にわたり咳が続きます。これは、喉や気道の粘膜がまだ回復しきれていないために起こります。通常は乾いた咳が特徴で、体がウイルスに感染した影響が続いていることが原因です。 咳喘息・気管支喘息 咳喘息は、咳のみが主症状であり、喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難がないタイプの喘息です。気管支が過敏になり、気温の変化やほこり、運動の影響などによって引き起こされます。気管支喘息は、咳に加えて呼吸困難や喘鳴がみられ、夜間や早朝に悪化する傾向があります。 >>関連記事咳喘息の症状チェックリスト 百日咳・気管支炎との鑑別や治療・対策 鼻炎・副鼻腔炎 アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が原因で、鼻水が喉の後ろに垂れ込んで咳を引き起こす「後鼻漏(こうびろう)」が発生します。この状態では、痰のからんだような咳が続くことがあります。 肺炎 細菌やウイルスによって肺に炎症が起きた状態で、咳とともに痰、発熱、倦怠感がみられることがあります。黄色や緑色の痰が出ることもあります。 肺がん 咳が長期間続く場合や、血痰が出る場合は肺がんの可能性も考えられます。初期症状は風邪の咳と似ていることが多いため、注意が必要です。 結核 結核は細菌感染による呼吸器系の病気で、特に長引く咳や、夜間の発汗、体重減少が特徴です。痰や血痰がみられることもあります。 逆流性食道炎 逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流し、喉や気道を刺激して咳を引き起こすことがあります。特に横になると症状が悪化することが多く、食後や寝る前に咳が出やすくなります。 慢性閉塞性肺疾患(COPD) COPDは喫煙などが原因で気道が狭くなり、慢性的な咳や息切れが続く病気です。痰がからむ咳が特徴で、特に朝方に強く出ることがあります。 アトピー咳嗽 アトピー体質の人にみられるアレルギー性の咳で、喘鳴や息切れはなく、長期間にわたって乾いた咳が続きます。アレルギー反応が原因となるため、抗ヒスタミン薬やステロイドが有効とされています。 咳が止まらない時の病院に行く目安 咳が続くと、風邪の延長かもしれないと様子をみることが多いですが、特定の症状がみられる場合には、早めに病院を受診することが重要です。咳が長引く背後には、深刻な病気が潜んでいる可能性もあるため、次のような状態があれば、速やかに医師の診察を受けましょう。 受診すべき状態 (1)咳・痰が2週間以上続く咳や痰が2週間以上続く場合、単なる風邪ではなく、気管支炎、咳喘息、肺炎、または結核や肺がんなどの深刻な病気が原因の可能性があります。通常の風邪は1~2週間で改善することが多いため、それ以上続く場合は注意が必要です。 (2)咳が徐々に悪化する咳がだんだんと強くなったり、頻度が増したりする場合、気道や肺に炎症が広がっている可能性があります。特に、気管支炎や気管支喘息、さらには肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、呼吸器系の疾患が進行している可能性があります。 (3)体重減少や食欲不振を伴う咳に加えて体重減少や食欲不振がみられる場合、全身的な疾患が進行している可能性があります。結核や肺がん、慢性の感染症、さらには逆流性食道炎などの消化器系の病気が原因となっていることも考えられます。 病院に行くべき症状 下記の症状は、重大な病気や身体の異常のサインの可能性があるため、早めに医療機関を受診することが大切です。 (1)血痰が出る血痰は、肺や気道に問題がある可能性を示します。肺炎、結核、肺がんなどの深刻な病気が原因となることがあります。 (2)息切れや呼吸困難呼吸困難は、心臓や肺に異常があるサインです。心不全、肺塞栓症、喘息、肺炎など命にかかわる病気の可能性があるため、速やかに診察を受けることが重要です。 (3)胸痛胸痛は心臓や肺、筋骨格系などの症状の場合があります。特に心筋梗塞や狭心症などは突然死にもつながるため、胸の痛みが続く場合や痛みが強い場合はすぐに受診しましょう。 (4)発熱が続く発熱が続く場合、体内で炎症が起きている可能性があります。インフルエンザや肺炎などの感染症だけでなく、がんや免疫系の病気の症状の場合もあるため、発熱が続くのであれば医療機関を受診しましょう。 (5)夜間に悪化する夜間に症状が強くなる場合、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器系の疾患が疑われます。特に夜間の発作は、睡眠中の呼吸機能の低下や心臓・肺の負担が増すことで、命にかかわる可能性があるため、早めに医師の診察を受ける必要があります。 (6)喘鳴が聞こえる喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)は、気道が狭くなっていることを示します。気道の炎症やアレルギー、喘息などが原因で起こることが多く、重篤化すると呼吸困難に陥る可能性があるため、早めの受診が必要です。 (7)全身の倦怠感全身の倦怠感は、さまざまな病気の前兆であることがあります。感染症、貧血、慢性疲労症候群、甲状腺機能低下症、がんなどが原因となることがあり、長引く場合は検査が必要です。 監修 白濱医師より   咳の原因がこれほど多岐にわたることに驚かれた方もいるかもしれません。数日の経過観察で治まらない咳には、さまざまな原因が隠れている可能性があります。咳の種類や持続期間によって、考えられる病気が異なり、適切な対処法も変わってきます。一人で悩まずに、近くの医師に気軽に相談をしてみてください。   編集・執筆:加藤 良大監修:白濱 龍太郎プロフィール筑波大学医学群医学類卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士) KKR東京共済病院呼吸器科、東京医科歯科大学附属病院呼吸器内科にて病棟指導医等を歴任、併せて都立豊島病院呼吸器内科、JAとりで総合医療センター呼吸器内科、JA北信総合病院呼吸器内科、中野総合病院呼吸器内科等で非常勤勤務を行う。それらの経験を生かし、2013年に、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニックを設立。日本オリンピック委員会医科学強化スタッフ、TOKYO2020選手用医師、慶應義塾大学先端科学技術研究センター特任准教授、ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員などを兼歴任。現在、医療法人RESM理事長、順天堂大学医学部客員准教授、福井大学医学部客員准教授、武蔵野学院大学客員教授等を併任する。   【参考】〇新実 彰男.「第113 回日本内科学会講演会 結実する内科学の挑戦~今,そしてこれから~」『慢性咳嗽の病態,鑑別診断と治療―咳喘息を中心に―』日本内科学会雑誌.105巻9号.1565-1577〇日本呼吸器学会「気管支拡張症」https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-01.html2024/11/19閲覧〇日本医師会「腹式呼吸のやり方」https://www.med.or.jp/komichi/holiday/sports_02_pop.html2024/11/19閲覧〇厚生労働省「鎮咳去痰薬」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/01/s0117-9d20.html2024/11/19閲覧〇厚生労働省「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html2024/11/19閲覧

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特集
2022年5月31日
2022年5月31日

「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第11回は、ふだんは朝に排尿があるのに、昨夜から今朝まで排尿がない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 おむつを使用して排泄している90歳男性。ふだんは朝に排尿があるにもかかわらず、昨日の夜から、朝までおむつに排尿がみられません。 あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 尿が出ていない場合は、①尿の生成量が少なく、膀胱に尿がほとんど貯留していない(乏尿・無尿) ②尿の生成ができていて膀胱に貯留していても排出できない(尿閉) ── が考えられます。 ①乏尿では、▷脱水や嘔吐、発熱、心臓のポンプ能力の低下などで腎血流量が減少して尿の生成ができない ▷腎機能そのものに障害がある ▷尿路結石や腫瘍の浸潤により尿管が閉塞し、膀胱に尿がたまらない状態 ── などが考えられます。 ②尿閉は、膀胱よりも下位の障害、神経因性膀胱や前立腺肥大、尿道狭窄により起こるものです。患者さんの苦痛が大きく、放置しておくと尿貯留が上行性に広がり、水腎症や腎盂腎炎などを引き起こす恐れがあります。 乏尿(無尿)と尿閉では対処方法がまったく違いますので、これらが区別できるような情報を収集し、報告しましょう。 ここに注目! ●乏尿(無尿)により排尿がないのではないか?●尿閉により排尿がないのではないか? 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。最終排尿からの時間で換算すると、単純計算では8時間以上間隔が空くと要注意です。 ただし、ホルモンや血流量の関係で、日中は排尿間隔が長く、夜間には短くなるので、いつもの排尿時刻や回数と比較してください。 腎機能が保たれているのに尿量が少ない場合は、尿が濃くなります。最終排尿の色や臭気、いつもとの違いを確認してください。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 体温測定 高体温になると、不感蒸泄の増加で脱水状態となり、乏尿をきたす可能性があります。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 尿閉のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など)・尿閉の原因(前立腺肥大、尿線が細い、残尿がある、脳血管疾患や脊髄疾患等、神経因性膀胱となる要因、など) 尿閉のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 最終排尿時刻を確認し、どれくらいの時間出ていないのか、排泄できずに貯留している尿量を見積もります。また、ふだんの排尿時に、尿線が細い、排尿に時間がかかる、出きらない感覚がなかったかを確認します。 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、血圧や脈拍が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症の患者さんの場合には、苦痛の有無をバイタルサインから推測してください。 膀胱内の尿貯留の確認 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉などで貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 腎臓の叩打診 背部の肋骨の下縁くらいに手を置き、その手の上を叩きます。両側行います。 尿路結石や尿路の狭窄では、叩打診をした場合に響くような痛みを感じることがあります。 カテーテルを挿入しての尿排出の確認 医師の指示を得て行いましょう。カテーテルを挿入する経路に狭窄や閉塞がある可能性があるので、なるべく細いカテーテルを用いること、違和感があった場合は速やかに挿入をやめて、医師に相談することが必要です。 報告のポイント ・最終排尿時刻と尿の性状、本人の訴え・乏尿または、尿閉の可能性があると判断したアセスメント結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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コラム
2021年11月30日
2021年11月30日

ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ALSについてインターネット上の情報が示すのは絶望的な情報。でも、アップデートされた正しい情報が示すのは、「ALSはともに生きていく病気だ!」 検索上位は絶望を誘う情報ばかり ALSと診断された患者や家族は、診断を受けたら、インターネットを使ってALSのことを調べるでしょう。 「ALS」と入力したら、検索の上位に出てくるのは「症状」や「寿命」などのワード。 ALSとはどんな病気か、まだほとんど知らない状態で入ってくるのが、平均寿命が2年〜5年という衝撃的な情報です。多くの人が、そこで、「自分はあと数年しか生きられないのか」と理解し、絶望するのです。 恥ずかしながら、医師である私も、そう理解しました。 発症当時34歳だった私は何の持病もなく、健康そのものでした。それなのに、40歳まで生きられないのか……。そう思い、愕然としました。愕然としすぎて、どこか他人事のようで現実感がなかったくらいですが、ただ漠然とした恐怖と不安に押しつぶされていました。 多くのALS患者さんも、同じような感情を抱くのだと思います。 『呼吸筋麻痺は終末期』は本当か インターネット上の多くの情報は、呼吸筋麻痺を「ALSの終末期」ととらえています。 確かに、ALS患者さんの多くは、気管切開による侵襲的人工呼吸療法(TPPV)をして生きていく道を選びません。実際、TPPVの導入割合は、日本で約 20〜30%と推計されています。 (余談ですが、欧米では数%から10%強そこそこなので、これでも日本は世界からみたら飛びぬけて TPPV が多い国ととらえられています。1)) なぜこんなにも、TPPVで生きていく人が少ないのでしょうか? それは多くの人が、ほとんど体が動かせず、治療法もないこの病気に希望が見いだせないからでしょう。 在宅環境のめまぐるしい進歩を味方に 確かに治療法はまだありません。しかしTPPVで在宅療養していく生活環境は、目まぐるしく進歩しています。特にtechnologyの進歩はすごい! 医学の進歩をはるかに凌駕しています。 ここ数年で、体の一部分が動かせさえすれば、iPhoneやiPadを操作できるようになりました。私も、最初のころは手の指で、手が難しくなってきて次は足の指で、その次は歯で、操作しています。私は今でも、これで、医師として仕事もするし、メールやLINEもするし、さまざまな動画コンテンツだって見ることができるし、本や漫画も読めるし、ゲームだってできる。ちなみに私はドラクエをしています(笑)。 たぶんこれからも、technologyはどんどん進歩していくし、それに伴ってALSの在宅療養環境もどんどん改善していくでしょう。 これだけでも、大きな希望です! 『呼吸筋麻痺は維持期』という考えかた だから私は、「呼吸筋麻痺はALSの終末期」ではなく、「呼吸筋麻痺はALSの維持期」と考えます! 実際、「胃瘻造設をして栄養管理を行いながらTPPVをしているALS患者の生存期間中央値は20年」というデータも都立神経病院から出ています2)。ALSの好発年齢が50〜70歳であることを考えると、十分に天寿も全うできる数字です。 これからは「ALSは死ぬ病気ではなく、ともに生きていく病気」になっていくでしょう。 ALSは20年だって生きられる病気だ 私もALS患者です、「ともに生きていく」ことが大変なのはよくわかります。私の考えを押しつけるつもりもまったくありません。TPPVを選ばないことも、立派な選択肢の一つだと思います。 ただ同じALS患者として、医師として、ALS患者さんには、正しい、アップデートされた情報をもって、TPPVをするかTPPVをしないかを選択してほしいと切に思います。私の記事がその一端を担えれば幸いです。 もう一度言います。 「ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!」 「気管切開して、TPPVをした場合、ALSは20年だって生きられる可能性のある病気だ!」 ** コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)荻野美恵子.『日本におけるALS終末期』臨床神経.48,2008,973-5.2)木村英紀.『長期TPPV下における問題点とその対策について』難病と在宅ケア.27(2),2021,60-3.

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特集
2021年7月13日
2021年7月13日

公費54の請求方法

前回、難病患者が利用できるいくつかの制度について、概要をご紹介しました。今回は、そのうち難病法に基づく助成制度(公費54)での注意点や請求上のポイントをお伝えします。 概要 「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)にもとづく、医療費負担軽減の制度です。法別番号から、「公費54(ご・よん)」と呼ばれます。 助成内容 認定を受けた指定難病に対する医療費(訪問看護費、薬剤費を含む)が対象です。月の自己負担が一定額を超えると、その月の月末まで、自己負担分は公費で支払われます。 対象 指定難病のある患者が公費54を利用するには、①難病指定医による指定難病の診断を受ける②診断書と必要書類を都道府県に提出し、申請する③都道府県による審査が行われ、認定がおりると医療受給者証が発行されるといった流れの手続きが必要です。指定医療機関で特定医療(認定を受けた指定難病に起因する傷病への医療)を提供された際に、医療受給者証を提示し、医療費助成を受けることができます。 受給者証の確認 医療受給者証はこのようなものです。 ※実際の様式は自治体により異なります 通常のレセプトと同様、公費への請求も、正しい医療受給者証情報でなければ、実施したケアの医療費が支払われないことになります。被保険者証類とあわせて、確認のタイミングと確認方法を事業所で統一し、確認漏れがないようにしましょう。 (1) 有効期間医療受給者証の有効期間外に提供した医療は、公費の対象とはなりません。期限は1年で、更新するには新たに診断書作成が必要なので、難病指定医または協力難病指定医(更新の診断書のみ作成可能)の診断を受け、更新の申請をする必要があります。なお現在は、新型コロナウイルス感染症拡大防止対応として、有効期限延長の特別措置がとられています。有効期間終了が令和2年3月1日~令和3年2月28日と記載の医療受給者証は、原則1年間有効期限を延長して取り扱うことができます。(※1)(2)自己負担上限額自己負担上限額に達するまでは、自己負担分(主保険の負担割合に応じて1割または2割)を患者に請求します。(3)指定難病名指定難病の病名を確認します。公費への請求時に、提供したケアが起因する傷病に対するものであることを確認します。(4)指定医療機関名自治体によっては、特定医療を提供するには、この欄に医療機関名の記載が必要な場合があります。(5)適用区分、公費負担者番号、受給者番号、氏名、住所被保険者証と同様に、レセプト記載と合致していなければ、医療費の支払いが保留されレセプトが返ってきます。カルテなどと一致しているかを1字ずつ突き合わせて確認します。 ・文字の突き合わせのコツすでにカルテなどに入力されている文字情報があると、人の目ではどうしても思い込みがあり、相違を見過ごしてしまう可能性があります。意味を読むことをせず、記号だと思って1字ずつ見ていくことで、見落としリスクが低くなります。文字の並びを逆から見て確認する方法もあります。たとえば「1234567」なら、後ろから1字ずつ、1文字目の「7」と「7」は合っているか、「6」と「6」は合っているか、……と確認します。2人以上で確認できる場合は、1人目は頭から「1234567」、2人目は後ろから「7654321」と確認します。このように、見る人を2人にするだけではなく、チェック方式を変えて2回チェックすることが、本来のダブルチェックです。 請求 医療保険の場合を例に説明します。公費54は介護保険での訪問看護も対象であり、介護レセプトでも考えかたは同様です。 ● 主保険が国保・後期高齢者医療なら国保連合へ、社保なら支払基金へ請求します。レセプトは公費併用レセプトになります。● 公費負担者番号・受給者番号の欄に、医療受給者証に記載の番号が記載されていることを確認します。● 主保険と54の併用の場合、「2併」を選択します。他にも公費がある場合は「3併」になります。● 特記事項欄に、適用区分を記載します。● 主保険へ請求する分は通常と同様に記載し、公費へ請求分を、右列の「公費分金額」へ記載します。● 特定医療※とそれ以外の医療が1枚のレセプトで混在するなど、公費適用有無の区別が必要な場合は、公費適用の項目に下線を引きます(レセプト記載内容から公費適用有無が明らかなら省略しても構いません)。 ※特定医療(認定された指定難病に対して、指定医療機関が提供する医療)以外にかかった医療費は、助成の対象となりません 。通常と同様に、負担割合に応じた自己負担と、主保険への請求になります。 市町村の助成との併用 難病を対象にした自治体独自の助成も数多くあり、次のようなタイプに分けられます。 (1)対象拡大【例】国の指定難病以外に、自治体が独自に定めた疾病に対し、自治体による助成が行われる(2)助成額の拡大【例】国の制度により発生する自己負担分を、一部自治体が補助し、患者自己負担をさらに軽減する 自治体独自の助成が利用できる場合は、対象や助成範囲を理解しておきましょう。 請求の際に重要なことは、国の公費が利用できる場合は、自治体の公費は国公費の後に使うことです。 たとえば、公費54と自治体の公費を併用する場合は、主保険→公費54→自治体の公費の順で請求します。 例 ①    主保険…1割負担②    公費54…自己負担額1万円③    自治体の公費…1回の自己負担額上限が500円の3つを併用する場合を考えてみましょう。  4月1日に訪問し、かかった費用が7000円だったとします。4月1日分の請求は、(1)主保険への請求 この患者は1割負担なので、9割の6300円を主保険に請求します。 (2)公費54への請求 公費54の対象になるのは主保険負担分を差し引いた700円ですが、今月はまだ患者自己負担額が上限1万円に達していません。ですから、公費54への請求はありません。 (3)自治体公費への請求 自治体公費には、1回の自己負担500円を超えた額を請求します。4月1日分は、500円との差額200円を自治体公費に請求し、患者には500円支払ってもらいます。 上記は1回の支払いの場合の考えかたですが、実際は、訪問看護では月まとめ請求が多いと思います。 月まとめ請求での考えかたについては、次回の記事でお伝えします。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医院。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】※1 厚生労働省 令和2年4月30日事務連絡「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公費負担医療等の取扱いについて」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000626936.pdf ・難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)・厚生労働省 保医発0327第1号 令和2年3月27日「「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について」・厚生労働省健康局難病対策課 令和元年6月「特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用)」

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インフルエンザQ&A
インフルエンザQ&A
特集
2023年12月12日
2023年12月12日

インフルエンザQ&A | 家族の外出は?消毒は?卵アレルギーでもワクチンOK?

インフルエンザは毎年ほぼ必ず流行するため、利用者さんからさまざまな質問を受ける方が多いのではないでしょうか。そこで本記事では、インフルエンザの症状や感染のリスク、ワクチンなど、よくある質問に回答します。訪問看護師さん自身の健康管理や利用者さんからの質問対応にぜひ役立ててください。 インフルエンザの基本 インフルエンザはインフルエンザウイルスによる気道感染症で、世界各地で冬季に流行し、特に高齢者や乳児は重症化しやすい傾向があります。日本では11月下旬から12月上旬に始まり、翌年の1~3月にピークを迎えます。 感染から1~3日の潜伏期間の後、高熱や全身症状(頭痛、倦怠感、筋肉痛・関節痛など)が現れ、咽頭痛・鼻汁・咳嗽などの上気道炎症状がみられます。1週間程度で軽快しますが、高齢者や基礎疾患を持つ人は合併症のリスクが高いため、より一層の注意が必要です。 インフルエンザの症状・原因・予防接種等については、こちらの記事もご参照ください。>>インフルエンザの症状・出席停止期間・2023~2024年冬の流行予測 インフルエンザQ&A ここからは、インフルエンザのよくある質問(利用者さんにも聞かれがちな質問)に回答します。 Q:家族がインフルエンザになったけれど外出していい? 家族にインフルエンザの患者がいても、自身の外出は制限されません。しかし、すでにインフルエンザに感染しており潜伏期間中の可能性があるため、人混みや繁華街への外出は避けた方がよいでしょう。また、体調が少しでも悪い場合は学校や職場などへは行かない方がよいと考えられます。どうしても外出する際は不織布製マスクの着用を検討し、感染を拡大させないよう心がけましょう。 Q:インフルエンザの感染防止には身の回りをどうやって消毒すればいいの? インフルエンザウイルスの感染防止には、アルコール消毒が有効です。 ドアノブや照明器具のスイッチ、手すりなど、ご家族が頻繁に触れる機会が多い部分は、アルコール消毒液を含んだウェットティッシュでこまめに拭くことで感染リスクを減らすことができます。食器や衣類は、通常どおりの洗濯や洗浄で問題ありません。 また、外から帰宅された際は、玄関にて手指のアルコール消毒を行います。その後、洗面所で石けんやハンドソープを使用した手洗いをすることで、家庭内にインフルエンザウイルスが持ち込まれにくくなり、感染防止効果を高めることができます。 Q:インフルエンザのワクチンはいつ頃に打てばいいの? インフルエンザの流行時期は12月~翌年4月頃で、1月末~3月上旬にピークを迎えます。ワクチンの効果が十分に現れるまでには4~8週間程度かかるため、12月中旬までには接種しておきたいところです。ただし、たとえ12月中旬を過ぎてワクチンを打ったとしても、ワクチンの効果が減弱することはありません。ワクチン接種より1〜2週で抗体が作られ始め、1ヵ月後に抗体量はピークとなります。その後、徐々に抗体量は減っていきますが、大体5ヵ月はワクチンの効果が持続します。 ワクチンを接種することで、感染拡大や重症化を防ぐことができますので、ご家族に小さなお子様や高齢者がおられる場合や、お子様や高齢者と関わるお仕事をされている場合は、12月中旬を過ぎても接種したほうがよいでしょう。 なお、インフルエンザワクチンは、13歳未満が2回接種(1~4週間間隔)、13歳以上は1回接種が原則ですが、受験生の場合はこの限りではありません。ワクチンの効果は、接種後2週間〜5ヵ月は持続するといわれていますが、1ヵ月をピークに徐々に効果が弱まるため、試験時期によっては、11月と1月など2回接種しておく方がよい場合もあります。迷った場合は、主治医に相談するのがよいでしょう。 Q:今年すでにインフルエンザにかかったけれど、ワクチンは打った方がいい? インフルエンザにはA型やB型など複数の株が存在し、A型にかかっても年内にB型にかかる可能性があります。そのため、今年すでにインフルエンザにかかったとしても、ワクチンの接種が有効です。 Q:ワクチンで卵アレルギー反応が出るってほんと? インフルエンザワクチンには極微量の卵蛋白が含まれているため、卵アレルギーの方は接種要注意者とされています。しかし、米国では卵アレルギーの人が卵を含むワクチン接種を受けてもアレルギー反応が出るリスクが低いと判断されており、卵アレルギーの既往があっても、ワクチン接種が推奨されています。また、現在の日本の予防接種においては技術の進歩もめざましく、インフルエンザワクチン接種によるアレルギー反応はほぼないと考えられているため、ワクチン接種を推奨する医師が多いでしょう。 Q:ワクチンっていくらかかるの?何科で打つべきなの? インフルエンザワクチンの接種は健康保険の適用外です。全額自己負担となり、費用は医療機関によって異なります。ただし、65歳以上の人は予防接種法に基づく定期接種の対象者のため、費用の一部のみ公費負担です。詳しくは、お住まいの自治体に確認しましょう。また、インフルエンザワクチンは、内科以外でも接種可能ですが、接種時や接種後の副反応のことを考えると内科で接種することが望ましいでしょう。 Q:インフルエンザの予防接種は毎年打たないといけないの? 流行するインフルエンザの株は毎年異なり、流行する見込みの株に対応したワクチンを接種します。また、インフルエンザワクチンの効果の持続期間は約2週間から5ヵ月程度とされているため、毎年接種することが大切です。 Q:インフルエンザのワクチンは妊娠中・授乳中でも接種できる? インフルエンザワクチンは「不活性型」であり、胎児への悪影響がないとされています。妊娠中のどの時期でも安全に接種できます。妊娠初期の接種が流産や先天異常を引き起こすという報告はなく、授乳中でもワクチン成分が赤ちゃんに影響を与えることはありません。 Q:インフルエンザのワクチンを打てば絶対に感染しないの? ワクチンを接種しても必ずしも感染を防げるわけではありません。ワクチンを接種することで、感染しても症状が軽く済みやすくなる上に、重症化や合併症の発症リスクが低減します。 Q:無症状の人が周りの人に感染させることはあるの? 無症状の人が感染源になるかどうかについては、明確な結論が出ていません。無症状の感染者も呼気中にウイルスを排出する可能性があるものの、感染を引き起こすほどの量であるかどうかは不明です。 * * * 今回は、インフルエンザのよくある質問に回答しました。インフルエンザは風邪と比べて症状が重く、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。ワクチン接種や感染対策などを理解し、予防の意識を持って行動することが大切です。また、流行時期には利用者さんの感染や質問が増える可能性が高いので、対応できるように備えておきましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇国立感染症研究所「インフルエンザとは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/219-about-flu.html2023/11/20閲覧〇厚生労働省「インフルエンザQ&A」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html2023/11/20閲覧〇厚生労働省「妊娠中の人や授乳中の人へ」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/ninpu_1217_2.pdf2023/11/20閲覧

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起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法
起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法
特集
2024年1月23日
2024年1月23日

起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法。親ができることは?

起立性調節障害(OD)は、立ちくらみのほか、疲れやすい、長時間立っていられない、時間を守れないといった症状があります。学校の欠席や遅刻が増え、一見すると子どもが不真面目になったように見えることも。保護者の中には「母親のせい」「父親のせい」などと自分を責めてしまう方も少なくありません。これは、体の調節機能に異常が起きているために生じるトラブルのため、保護者の関わり方とは無関係です。 本記事では、起立性調節障害の特徴や症状、原因、治療法、対応方法などについて詳しく解説します。自身の子どもが起立性調節障害ではないか不安な方や、訪問看護の利用者さんからの相談に対応できるようにしておきたい方は、ぜひ参考にしてください。 起立性調節障害の原因・症状 起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)は、自律神経機能不全の一種。症状は以下のとおりです。 ・立ちくらみ・寝起きが悪い・倦怠感・動悸・頭痛・顔面蒼白・食欲不振・失神など 思春期に現れやすく、かつては一時的な生理的変化で年齢とともに改善すると考えられていました。 現在は、自律神経の循環調節機能がうまく働かなくなり、血圧を維持することができなくなっていることが原因だと考えられています。自律神経の機能低下の原因は解明されていませんが、思春期のホルモンバランスの変化や、学校生活のストレス、遺伝的要素などが関係しているといわれています。 起立性調節障害で遅刻や不登校につながることも 起立性調節障害は、その症状により朝起きることが難しくなったり、勉強に集中できなくなったりします。そのため、遅刻や不登校につながる可能性があります。重症例では社会復帰に2~3年以上かかることもあるでしょう。 起立性調節障害のタイプについて 起立性調節障害は、主に以下の4つに分類できます。 起立直後性低血圧(INOH)タイプ起立性調節障害の中でも、最も多いタイプです。起立直後に血圧が低下し、立ちくらみ、倦怠感、頻脈等の症状があります。回復時間が25秒以上、もしくは20秒以上で起立直後の平均血圧値が60%以上の場合に該当します。体位性頻脈症候群(POTS)タイプ起立後の心拍数の増加、息切れ・動悸、胸痛、頭痛、立ちくらみにより立位保持が困難となります(起立不耐症)。起立時の心拍数が115回/分以上か、起立中の平均心拍増加が35回/分以上の場合に診断されます。若い女性に好発し、食後・暑さ・生理・アルコールなどによって悪化することがあります。神経調節性失神(NMS)タイプ血管迷走神経性失神タイプともいわれます。起立中の急激な血圧低下により失神に至ります。遷延性起立性低血圧タイプ起立直後には血圧が低下しませんが、 起立を数分以上続けていると徐々に血圧が低下して失神に至ります。 倦怠感や動悸、頭痛などの症状の現れ方にも個人差があるため、まずは症状の種類や現れるタイミングなどの確認が必要です。 起立性調節障害が見つかるきっかけ 起立性調節障害の症状である立ちくらみや失神が見られたり、倦怠感や動悸が続いたりして、医療機関を受診することで診断に至るケースがあります。子どもの場合、症状をうまく伝えられず、学校や保護者が単なる怠けと思い込み、受診が遅れることも考えられます。 起立性調節障害の治療法 起立性調節障害は、非薬物療法で治療していくことが多いでしょう。ただし、中等症以上では薬物療法も併用されます。症状の改善にはまず日常生活の工夫が必要です。 立ち上がるときは頭を下げてゆっくりと立つ立っている状態で動かない時間は1~2分を限度とする立っている状態では足をクロスさせる1日1.5~2リットルの水分を摂取する塩分を多めに摂る(1日10g程度を目安とする)毎日30分程度の歩行で筋力の低下を防ぐ眠くないからといって夜更かしをしない過度なストレスを避ける 起立性調節障害の子どもに親ができること まずは子どもの気持ちに寄り添う姿勢が大切です。子どもの場合、保護者に「学校へ行きなさい」「怠けていないで勉強をしなさい」などと言われることが大きなストレスとなり、治療の妨げになる可能性があります。午後からなら学校へ行ける、週4日なら行ける、といった場合には柔軟に対応し、子どもが可能な範囲で学校生活を無理なく続けられるように環境を整えましょう。 起立性調節障害の治療では、水分や塩分の摂取、起き上がり方などの工夫が必要です。これらは親がサポートできることです。また、怠けているのではなく体の調節障害によって症状が起きていることを理解し、決して責めることなくサポートしましょう。 また、不登校・引きこもりに発展した場合、親は焦るかもしれませんが、過度なストレスは改善を遅らせる要因です。軽症のうちに対応する、遅刻が多くても責めずにサポートを続けるといったことを心がけましょう。家庭内で抱え込まず、気づいた段階で医療機関を頼ることも大切です。 起立性調整障害は大人もなる?違いは? 起立性調節障害の好発年齢は10歳から16歳で、思春期の二次性徴が現れるころに発症しやすいです。しかし、ストレス過多の生活を続けることで自律神経のバランスが崩れ、大人なってから起立性調節障害を発症するケースもあります。 大人の起立性調節障害の症状は、子どもの場合と基本的には同じで、朝時間通りに起きれず会社に行きにくい、午前中は集中力がなくミスが多くなる、立ちあがろうとすると眩暈や動悸がするなどです。また、パーキンソン病や認知症などの神経疾患の一症状として起立性調節障害が現れる場合もあります。 * * * 起立性調節障害は、立ちくらみや失神、倦怠感、頭痛などの症状によって朝起きるのが難しい、時間を守れない、集中できないなどの問題が起きることがあります。ストレスが悪化要因となるため、周りの人は本人にとって少しでも快適に過ごせるようにサポートすることが大切です。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇一般社団法人日本小児心身医学会「(1)起立性調節障害(OD)」https://www.jisinsin.jp/general/detail/detail_01/2023/11/20閲覧〇加古川医師会「起立性調節障害」https://www.kakogawa.hyogo.med.or.jp/memo/item28702023/11/20閲覧

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特集
2022年2月15日
2022年2月15日

5日前インフルエンザにかかり、ずっと排便がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第4回は、インフルエンザにかかってからずっと排便がない患者さん。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか? 事例 5日前からインフルエンザにかかり、昨日から熱が下がってきた80歳女性。 ふだんは2日に1回の頻度で排便があるのですが、ここ5日間は排便がなく、何らかの対処が必要かどうか看護師は考えています。 便の頻度や便の性状は、▷食事の摂取量 ▷水分出納 ▷交感神経と副交感神経のバランスが乱れたことによる腸蠕動運動の変調 ── など、さまざまな要因で変化します。排便のケアを考えるにあたっては、便がどの程度、どこに貯留しているかをアセスメントする必要があります。 たとえば、下行結腸に便が貯留していないのに浣腸をしても排便は起こりません。腹部のアセスメントを十分に行ってからケアを考え、苦痛が最小限になるような排便ケアを考えていきましょう。 ここに注目! ●排便の頻度からみると、便秘状態と考えられる。●インフルエンザ罹患の影響で、食事や水分の摂取、腸蠕動に変調があった後であり、便の貯留はどの程度かをアセスメントし、ケアを考える必要がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・便秘の経過(ふだんの排便の頻度と性状、最終排便からの日数、最終排便の量・性状、排便困難、ふだんの下剤や浣腸の使用、など)・便秘の症状(腹部膨満感とこれに伴う苦痛、腹痛、腹部不快感、排ガス、便意、悪心、など)・便秘の要因について(食事摂取量、食事内容〈繊維質の量、ヨーグルトなどの乳酸菌食品の摂取〉、水分摂取量、水分出納、など) 客観的情報の収集 便の性状と回数 これまでの排便、最終排便の状況について、記録を参照し、量と硬さを確認して現在の便の貯留量を推測します。ふだんから排便量が少ない場合は、食事摂取ができていなければ、もっと便の量が減る可能性があります。 腹部の視診・触診 視診で腹部全体の膨満があれば、便やガスの貯留が疑われます。皮下脂肪が少ない場合は、便の貯留部位が膨隆して視診できる場合があります。恥骨結合直上から左側腹部にかけてよく視診します。 触診は、恥骨結合の上から左下腹部を少し深め(3cmくらい)の位置で、手を動かして感触を探りながら行います。 普通便が貯留している腸は、鉛筆ほどの太さで柔らかく触れます。大量に貯留している場合は、より太く、範囲が広くなります。また、兎糞便化している場合は、コロコロと小さく硬く触れます。 腹部の打診 打診では、ガスが貯留している場合は鼓音となり、音の性質もポンポンと高い音になります。固形の便が貯留している場合は、その部分が濁音となります。左下腹部を重点的に打診して、どの程度、便が貯留しているかを見積もります。 腹部打診音とその評価 鼓音 (ポンポンと高く響く軽い音)ガスの貯留であり、腸の存在部位では正常音。高い鼓音は、高度なガス貯留を示す濁音 (ドンドンと響かない短い音)水分が多い状態、充満した膀胱、肝臓、便、腫瘍 腸音 右の下腹部で腸音を1分間聴取します。腸の蠕動が低下している場合は、腸音は低く、頻度が少なくなります。 ストレスなどにより腸の運動を支配している自律神経のバランスが乱れると、下痢と便秘を繰り返す痙攣性の便秘となることがあります。精神的ストレスが大きいときに起こることが多い便秘の種類です。この場合は、腸蠕動が亢進していることも考えられます。 報告のポイント ・最終排便からの日数と腹部膨満感や嘔吐、食欲不振の症状の有無・腸蠕動と排ガスの有無による腸管麻痺の可能性・腹部膨満、打診・視診による便の貯留の位置や量の推定 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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分かりやすい! ALSの病態と症状
分かりやすい! ALSの病態と症状
コラム
2025年5月27日
2025年5月27日

分かりやすい! ALSの病態と症状

ALSを発症して10年、現役医師でもある梶浦先生が、ALSとはどういった病気なのか、分かりやすく解説します。 ALSへの理解がケアやリハに活かされる 「分かりやすい」と自分へのハードルを上げてから書き始めた今回のコラムですが、これには私なりの思いがあります。 これから書いていく具体的な日常生活の工夫やリハビリテーションの工夫を理解して取り入れていただくには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは「どんな病気で、なぜこんな症状が起こるのか」を簡単にでも知っておいていただきたいです。そのほうが、なぜこの工夫をするとよいのか、納得しながら実践できますので、より身につきやすいかと思います。 難しいことを難しく書くのは簡単です。ですが、私なりにできる限り簡単に説明しようと、自分を戒めるために今回このようなタイトルにしました。 ALS当事者の方が理解しづらい場合には、支援者である介護士や看護師、リハビリテーションスタッフの皆さんにはこれから説明することをぜひ参考にしていただき、利用者さんにお伝えいただければと思います。 ALS理解の鍵は運動神経のしくみを知ること 人体においての神経系は、機能的に大きく分けると運動神経と感覚神経、自律神経の3つに分類されます(表1)。 表1 人体の3つの神経系 運動神経体を動かす筋肉につながり、脳からの命令を筋肉に伝える神経感覚神経痛い、痒い、冷たい、熱い、何かに触れているなど、さまざまな感覚を脳に伝える神経自律神経体温、心拍、血圧、排尿、排便など、生きていく上で必要な機能を自然にコントロールしてくれる神経 ALSは、この中の筋肉を動かす運動神経だけが選択的に障害され、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の神経疾患です。 この運動神経のしくみを理解することがALSの病態を理解する上で、一番大切になってきます。 例えば、脳で「手を動かしたい」と考えるとします。すると、脳の中の運動神経細胞(上位運動ニューロン)からその命令が神経線維を伝わり、脳幹あるいは脊髄で次の神経細胞(下位運動ニューロン)に命令を伝えます。そして、この命令は下位運動ニューロンの神経線維を伝わり、手の筋肉に到達して手を動かします。 ALSで障害される場所は、脳から下りてくる上位運動ニューロンと、命令の乗り換えの場所(前角細胞)から始まる下位運動ニューロンの両方です。両方が障害されると、結果的に筋肉を動かすことができなくなってしまいます。 注)「運動ニューロン」という言葉が分かりにくい方は、運動ニューロンとは脳からの命令を筋肉に伝える「導線」のようなものだとイメージしてください 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働き では、実際上位運動ニューロンと下位運動ニューロンはそれぞれどんな働きをしているのでしょうか? 例えば、皆さんがペンで文字を書くときの繊細な動きをする場合と、りんごをわしづかみにするときの大胆な動きをする場合とでは、力の入れ方を無意識のうちに使い分けていると思います。 これは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが、お互いにバランスを取り合って、自然な動きになるように力の配分をコントロールしているためです。具体的には、脳からの命令を受けた下位運動ニューロン(下位運動ニューロンは筋肉に直接つながっています)が主に「アクセル」の役割を果たし、筋肉を動かします。一方、上位運動ニューロンは「ブレーキ」として機能し、下位運動ニューロンの「アクセル」の力加減を調整して、力が暴走しないようにしているのです。(図1を参照) 図1 運動神経のしくみ ALSの主な症状 ALSの初期症状は、上肢に現れることが比較的多いですが、患者さんによっては下肢や喉から症状が現れることもあります。進行すると徐々に自分の意思で身体を動かすことが難しくなり、ペンや箸が握れなくなったり、歩行が困難になっていきます。 口や喉が動かなくなると、話す、食べるといった行為が困難になり、誤嚥する可能性も高くなります。さらに進行すると、自身で呼吸することができなくなり、生きていくためには人工呼吸器が必要となります。また、ALSでは筋肉を動かす運動神経のみが選択的に障害されるため、感覚は残ります。また、意識ははっきりしており、精神的な働きは障害されないことも大きな特徴です(例外もありますが)。 次に上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働きをもとに、ALSに特徴的な症状を紹介します。 筋肉が「ガクガク」と痙攣して治まらない! アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、「ガクガク」と一定のリズムでその筋肉が動き続けることがあります。これは「クローヌス」と呼ばれる症状で、上位運動ニューロンが障害されることで起こります。つまり、「ブレーキ」が壊れることで、「アクセル」の制御ができなくなっている状態です。 筋肉が勝手にピクピクと動く! 体のいろいろな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に勝手にピクピクと細かく動くことがあります。これは「線維束性収縮」と呼ばれる症状で、下位運動ニューロンが障害されることで起こります。例えるなら、正常なら10本の下位運動ニューロンで動かしていた筋肉を、1本の下位運動ニューロンで動かさなくてはいけないという状態です。1本のニューロンにかかる負担が過度に大きくなり、がんばり過ぎることで勝手に動いてしまっている状態です(図2)。 この症状が起きている部分は、「アクセル」が壊れてきている場所なので、徐々に筋肉が細くなり、動かせなくなっていきます。 図2 下位運動ニューロンの正常な状態と障害された状態(線維束性収縮) ALSの4大陰性徴候とは ALSは全身の筋肉が動かせなくなっていく病気ですが、出にくい症状というものが4つほどあり、4大陰性徴候といいます。 (1)目は最後まで動かせる!手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。(2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。(3)感覚障害が起こりにくい!これは最初のほうでも書きましたが、見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。(4)「褥瘡」、いわゆる“床ずれ”ができにくい!徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 * * * これまでの症状を読まれた方の多くは、「感覚は残るのに動けないなんてつらすぎる……」と思われるかもしれません。ですが、このALSに出にくい症状を前向きに捉えて、うまく日常生活の工夫に取り入れていくことが、困難な状況の中でも、日々の生活をできる限り豊かにしていく方法なのだと思います!! なので、今後このコラムでALSの4大陰性徴候を活用して快適に生活する具体的な方法を書いていこうと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
コラム
2025年6月24日
2025年6月24日

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、医師がどのようにALSと診断するのか、梶浦先生のご経験も交えながら解説していただきます。 ALSの診断には2つの重要なポイントがある 重要なポイント、それは次のとおりです。順番に説明していきます。(1) ALSは除外診断である(2) 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が体の広範囲で障害されていることを証明できる ALSは除外診断である 例えば、インフルエンザはウイルスを特定することで診断され、がんは画像検査や生検(腫瘍細胞の一部を採取して行う検査)によって診断を確定できます。しかし、ALSには特異的マーカーや決定的な検査所見がありません。そのため、ALSと同じように運動ニューロンが障害される疾患を一つひとつ除外し、どれにも当てはまらない場合に初めてALSと診断されます。これを「除外診断」といいます。 ALS以外の疾患を除外するために、以下のような検査が行われます。・神経伝導検査・筋電図検査・血液検査・髄液検査・MRI検査(脳、脊髄) など 運動ニューロン障害の広がりを証明する 前回のコラム(>>分かりやすい! ALSの病態と症状)でお伝えしたように、上位運動ニューロンは主に「ブレーキ」の役割を、下位運動ニューロンは主に「アクセル」の役割を担っています。これらが体の広範囲で障害されていることを証明していきます。 ■上位運動ニューロン障害の検査方法 「ブレーキ」が障害されるため、「アクセル」の制御ができない状態です。代表的な症状として、以下の現象がみられます。 腱反射亢進:アキレス腱や膝、肘などの腱を医療用のハンマーで軽く叩くと筋肉が過剰に動く。 クローヌス:アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、筋肉の動きを止めることができず、「ガクガク」と一定のリズムで動き続ける。 医師はこれらの症状の有無や範囲を診察し、上位運動ニューロンの障害を確認します。 下位運動ニューロン障害の検査方法 「アクセル」が障害されるため、以下のような変化が起こります。 筋力低下と筋委縮:筋肉が動かせず、筋肉が細くなり、筋力が落ちていく。 筋力が低下している部位を客観的に把握するため、筋力を数値化していきます。具体的には、握力の測定や、筋力を徒手的に評価する「徒手筋力検査」(manual muscle testing:MMT)が行われます。MMTは主要な部位の筋力を判定し、0~5点の6段階で判定します。参考までに表1に実際の点数の付け方を示します。 表1 徒手筋力検査(MMT) 点数 機能段階 5 強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 4 抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 3 抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる 2 重力を除去すれば、運動域全体にわたって動かせる 1 筋の収縮がわずかに確認されるだけで、関節運動は起こらない 0 筋の収縮はまったくみられない 線維束性収縮:体のさまざまな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に「ピクピク」と細かく動く症状。 前回のコラムで紹介したとおり、線維束性収縮も下位運動ニューロン障害の存在を証明する大切な所見です。線維束性収縮は自覚でき、強く症状が出ているときは他人からも目視できますが、わずかな症状でも客観的に確認できる「針筋電図検査」を実施します。 針筋電図検査は、細い針電極を体のさまざまな部位の筋肉に刺し、筋肉のわずかな「ピクピク」を電気的な活動として捉えることで、まだ筋力低下が起こっていない早期の段階でも異常を発見できます。ただし、線維束性収縮は常にみられるわけではなく、同じ場所に起こるとも限りません。針を刺した場所とタイミングで「ピクピク」が出ていなければ、確実な診断が難しい場合もあり、そこにもどかしさを感じています。 なお、最も多いALSの症状の進行パターンは、まず左右どちらかの手や足の遠位部の筋力が低下していき、徐々に体の中心に近い部分や反対側の筋力が低下していき、全身に広がっていきます。 発症初期は、まだ筋力の低下は限局した部位にしかみられないため、この段階で診断するのはとても難しいです。 私の診断までの経過 発症と初めての受診 2015年、当時34歳の私は、アメリカのカリフォルニア大学(UCSD)に研究のために留学していました。同年の7月に、右手の指先の筋力低下と、利き腕である右腕が左腕よりも細いことに気がつきました。8月にUCSDの神経内科を受診すると、「ALSの可能性が高いので精査が必要です」と言われ、10月に帰国しました。 診断への長い道のり 帰国後、すぐに総合病院の神経内科を受診し、MRIや筋電図検査などで精査したところ、「まだ右腕だけに症状は限局しているものの、ほかの疾患は考えにくいので、おそらくALSだろう」と言われました。「もしかしたらALSではないのでは?」という私の淡い期待は崩れ去り、絶望と恐怖で一晩中泣いていました……。 しかし、その後、診断は二転三転したのです。 2015年11月 今後の治療法を相談していくために神経内科専門の病院を紹介され受診しました。そこで、担当の医師に「ALSと確定するのはまだ早いので、運動ニューロン病を専門としている大学病院の神経内科にセカンドオピニオンに行かないか」と提案されました。わらにもすがる思いだった私は、すぐに行くことを決めました。 同年12月 あらためて精査するために、紹介された大学病院に2週間入院することになりました。そこではMRIや筋電図検査に加えて髄液検査やエコー検査など、さまざまな検査をしました。 すべての検査結果が出て、教授回診のときに診断が告げられることになりました。尋常ではない緊張感で座って待っていた私のもとに、教授を筆頭に医局の医師たち、研修医、医学部の実習生たちなど10人以上がやってきました。そして、少しの沈黙の後に、教授が私の肩をポンポンと軽く叩き「よかったね、ALSじゃないよ」と言ってくれました。 その瞬間、私はあまりのうれしさと安堵感で、緊張の糸が切れ、その場で泣き崩れました。「先生、僕はまだ生きられるんですね!」と言って、人目もはばからず、大勢の前で泣きじゃくりました。そのときの診断名は「多巣性運動ニューロパチー」というものでした。 翌年(2016年)1月 診断名もついたことですし、私は神奈川県にある自分の所属する大学病院で仕事を再開しながら、治療をしていくことにしました。検査結果や紹介状を持参して、自分の所属する大学病院の神経内科を受診すると、「この診断は違うのではないか」と言われ、再度精査することになりました……。 感情が揺さぶられ過ぎて、まるでジェットコースターに乗っている感じで、精神的にどんどん削られていき疲弊していきました。結局そこでも筋電図検査をはじめさまざまな検査を行い、今度は「平山病」という診断になりました。平山病は手術をすれば症状の改善が見込めるため、手術をする予定になりました。 同年4月 手術の予定日が決まっていましたが、手術の直前に舌に線維束性収縮がみられたため、ALSと確定診断され、手術は急遽中止になりました。そのときの私は「自分はALSじゃないのか?」とうすうす気がついていたため、ショックという感情よりは、やっと診断が確定したことに対する安堵感のほうが強かったことを覚えています。 診断の難しさと私が伝えたいこと 私を担当してくださった神経内科専門医の皆さんは、本当に親身になって一所懸命に検査をしてくれました。それでも、そのつど診断名が変わり、確定診断に9ヵ月かかりました。そのくらい、発症初期の段階でALSを診断するのは難しいのです。 私と同じように、なかなか確定診断にいたらず、「つらくて不安な期間」を過ごしている方も少なからずいらっしゃると思い、今回は診断方法とともに私の経験談も書きました。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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