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低温やけど(低温熱傷)とは?初期症状や対処法について解説
低温やけど(低温熱傷)とは?初期症状や対処法について解説
特集
2024年12月3日
2024年12月3日

低温やけど(低温熱傷)とは?初期症状や対処法について解説

コンロの火やパネルヒーターのほかにも、さまざまな原因でやけど(熱傷)を負う可能性があります。冬に高齢者がよく使う湯たんぽをはじめ、ホットカーペットやカイロでも低温やけどを負うことがあります。低温やけどは通常のやけどと同じく命に関わることもあるため、基礎知識を確認しておくことが大切です。 本記事では、低温やけどの特徴や初期症状、対処法などについて詳しく解説します。利用者さんに質問されたときだけではなく、冬の低温やけどの注意喚起として訪問看護師からアドバイスする際にも役立ててください。 低温やけどとは 低温やけどは、40~50℃程度のものに長時間皮膚が触れることで生じるやけどです。心地よいと感じている温度でも発生してしまう可能性があるため注意が必要です。 また、50℃程度でも3分の圧迫によって低温やけどが生じる可能性があります。このように、単に温度と時間だけで低温やけどが起きるリスクを判断することは困難です。低温やけどの原因となりやすい湯たんぽやホットカーペットなどの使用に注意しましょう。 低温やけどの原因・メカニズム 皮膚が熱を受けてから、少しずつ深部へと熱が達して細胞の損傷が起こります。皮膚の損傷が深部になるにつれて痛みを感じにくくなるため、気づいたときには重症になるケースも少なくありません。湯たんぽやホットカーペットでやけどをする可能性があることを知らない人は、赤みや多少のひりひりとした痛みがあっても放置してしまいがちです。在宅療養されている方の中には自分で症状を訴えることができない方もいるため、全身の皮膚の状態を観察することが大切です。 特に以下に該当する場合は低温やけどのリスクが高いため注意が必要です。 皮膚が脆弱な高齢者や皮膚が薄い小児寝返りができない乳児知覚や運動機能に障害がある方糖尿病や動脈硬化によって手足の血行障害がある方意識レベルや認知機能が低下している方 低温やけどの初期症状や見た目 低温やけどの症状は、赤みやひりひりとした痛みです。1日程度放置すると、水疱(みずぶくれ)が生じることもあります。受傷当初にやけどの深さを見極めるのは困難なため、皮膚に赤みや違和感が生じた段階で、なるべく早く医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。 低温やけどに対する正しい対処法・注意点 低温やけどが起きた場合は、応急処置をした上で医療機関を受診しましょう。 低温やけどの可能性がある場合、すぐに患部を流水で20分程度冷やします。熱が皮膚の深部に与えるダメージをなるべく早く抑えることが重要です。冷やすことで痛みも緩和されます。なお、保冷剤は冷たすぎるため、凍傷や水疱が破れるリスクを踏まえ、使用しないことが大切です。 また、衣類が被っているところに低温やけどが起きた場合は、無理に衣類を脱がずにそのまま流水で冷やしましょう。無理に衣類を脱ぐと皮膚が引っ張られて剥がれる恐れがあります。水疱がある場合は、なるべく手指で触れないようにして、破かないよう注意が必要です。 手指のやけどの場合、後から腫れてくることを想定し、あらかじめ指輪は外しておく必要があります。腫れると指輪を外すときに患部に触れて、痛みや炎症が増すことが懸念されます。 低温やけどは皮膚の深部まで損傷がおよぶⅢ度熱傷*と分類されるケースが多いとされています。数週間後に皮膚の変色や知覚鈍麻、黒色壊死を引き起こすこともあるため、小範囲の場合でも早急に医療機関への受診が必要となります。水疱が生じるⅡ度熱傷では、市販薬によって改善することもありますが、細菌感染を伴うと色素沈着やケロイド状の傷が残る可能性があるため、こちらも医師の診察を受けることが大切です。 一方、赤みや痛みのみが生じるⅠ度熱傷では、必ずしも医療機関を受診すべきとはいえませんが、やけどの状態を正確に判断することは難しいため、なるべく受診した方がよいでしょう。特に、顔や手、関節などに起きたやけどは、範囲が小さかったとしても治療を受ける必要性が高いとされています。 *やけどの深度は、熱による損傷が皮膚のどの深さまで達しているかで分類されます。「Ⅰ度熱傷」とは表皮のみの熱傷、「Ⅱ度熱傷」とは真皮までの熱傷、「Ⅲ度熱傷」とは皮下組織まで損傷がおよんだ熱傷のことです。 低温やけどの原因となりやすい環境・機器 低温やけどの原因となりやすい環境と使用機器について理解しておくことで、トラブル防止につながります。それぞれ、低温やけどになりやすい理由とあわせて詳しく見ていきましょう。 湯たんぽ 国民生活センターに、湯たんぽによる低温やけどの相談が寄せられています。金属製の湯たんぽをタオルで三重に巻いて足の下に置き、そのまま就寝したところ、くるぶしに痛みが起きてやけどに気づいたそうです。 湯たんぽは種類を問わず、低温やけどになるリスクがあります。タオルで包んでいたとしても、心地よいと感じる程度の温度で低温やけどになるため、あくまでも布団の中を暖めるために使用し、就寝時はとりだすと安心です。使い方や注意事項については、各メーカーの取扱説明書も確認しましょう。 カイロ 国民生活センターに、腰にカイロを貼って電気毛布を使用して就寝したところ、翌朝にカイロを貼っていた箇所に皮膚の深いところにまでおよぶやけどが起きていたとの相談が寄せられています。貼るタイプのカイロと電気毛布を組み合わせると、貼ったところが熱くなりすぎるため注意が必要です。 ホットカーペット ホットカーペットの上で寝ると、皮膚が触れているところに低温やけどが起きる恐れがあります。 消費者庁によると、薄手の服を1枚着た子どもをホットカーペットの上で寝かせていたところ、3時間程度が経ったころに背中が赤くなったとの相談が寄せられたとのことです。これは子どものケースですが、大人、高齢者でも同じようにやけどをする可能性があります。 * * * 低温やけどは、一般的なやけどよりも軽症なイメージを持つ方もいますが、損傷が深く専門的治療が必要となる場合があります。違いは、やけどを負うまでにかかる時間です。そのため、コンロの火やパネルヒーターなどだけではなく、湯たんぽやホットカーペットなどの使用にも十分に注意しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:吉岡 容子医療法人容紘会高梨医院 院長東京医科大学医学部医学科を卒業後、麻酔科学講座入局。麻酔科退局後、明治通りクリニック皮膚科・美容皮膚科勤務。院長を務め、平成24年より医療法人容紘会高梨医院皮膚科・ 美容皮膚科を開設。院長として勤務しています。 【参考】〇国民生活センター「重症になることも 湯たんぽによる低温やけどに注意」https://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_mailmag/mj-shinsen328.html2024/11/19閲覧〇国民生活センター「低温やけどにご用心 見た目より重症の場合も」https://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_mailmag/mj-shinsen241.html2024/11/19閲覧〇消費者庁「Vol.476 電気カーペットや湯たんぽによる低温やけどに注意!」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20191107/2024/11/19閲覧〇日本形成外科学会「やけど(熱傷)」https://jsprs.or.jp/general/disease/kega_kizuato/yakedo/yakedo.html2024/11/19閲覧

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新型コロナウイルスとインフルエンザ、症状・潜伏期間・対応を比較
新型コロナウイルスとインフルエンザ、症状・潜伏期間・対応を比較
特集
2024年10月1日
2024年10月1日

新型コロナウイルスとインフルエンザ、同時検査は可能? 症状・潜伏期間・対応を比較

2024年夏は、新型コロナウイルス感染症の第11波が到来し、感染者数が急増しました。冬に向けては、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行が懸念されています。 本記事では、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時検査のほか、症状や潜伏期間、対応策などについて解説します。訪問看護の利用者さんやご家族に質問された際に回答できるようにしておくためにも、確認しておきましょう。 コロナ・インフルエンザ・一般的な風邪の違い 新型コロナウイルス感染症とインフルエンザ、一般的な風邪には、症状や潜伏期間、検査の推奨期間、対応方法などに違いがあります。それぞれ見ていきましょう。 潜伏期間・感染力 潜伏期間(病原体に感染してから症状が現れるまでの期間)と感染力の違いは、以下のとおりです。 病名潜伏期間(一般/最大)感染力のある期間感染力が最も強い期間 新型コロナウイルス1~14日間(平均3日~5日程度)   発症後7~10日発症2日前~3日     インフルエンザ     1~3日間程度発症1日前~発症後5日   発症1日前~3日後風邪2~4日(原因によって異なる)   発症1日前~7日(原因によって異なる)発症直後~2日後 新型コロナウイルスは、潜伏期間が最長2週間程度と比較的長いのが特徴です。ウイルスを体内に保有しながら症状が現れない期間が長いため、感染者は知らないうちに多くの人にウイルスを広めてしまう危険性があります。一方、インフルエンザの潜伏期間は1~3日程度で、風邪と比べても早く症状が発現します。 症状 症状の違いも見ていきましょう。 病名主な症状新型コロナウイルス発熱、咳や痰、咽頭痛、鼻汁、呼吸困難感、倦怠感、味覚・嗅覚障害、頭痛、筋肉痛、消化器症状 などインフルエンザ     発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、咳、咽頭痛 など風邪くしゃみ、鼻汁、咽頭痛、微熱、発熱、咳、倦怠感 など コロナウイルス感染症では、咽頭痛や鼻汁などの上気道症状に加え、インフルエンザと類似した症状(発熱・倦怠感・関節痛など)を生じることが多いとされています。また頻度は減少しているものの、味覚・嗅覚障害を伴うこともあります。インフルエンザは関節痛、筋肉痛などを伴う全身症状が強く現れるのが特徴的。風邪は軽い咳や鼻水、微熱が中心であり、比較的軽症です。 二峰性発熱に注意 二峰性発熱とは、高熱が一度下がった後に再び発熱する現象を指し、特にインフルエンザや風邪、デング熱、麻疹などの感染症で見られることが多いです。この現象は通常、ウイルス感染による体の反応として現れますが、原因は完全には解明されていません。二峰性発熱は時に重症の合併症を引き起こすことがあり、肺炎や脳症などのリスクもあります。子どもに異常な行動やけいれんが見られた場合、速やかに医師の診察を受けるか、必要に応じて救急車を呼ぶことが重要です。 検査の推奨期間 新型コロナウイルス感染症は、発症から2日目~9日以内に行うことが通常です。 インフルエンザの場合は、検査で陽性が出る期間は発症後1~5日頃です。24時間以内は陽性が出づらい傾向があります。ただし抗インフルエンザウイルス薬が処方された場合、発症から48時間以内の服用が推奨されています。そのため、症状が出始めてから24時間~48時間以内に医療機関を受診し、インフルエンザ検査を受けることが望ましいでしょう。 風邪は、通常は検査を行いませんが、溶連菌感染症やインフルエンザなど検査可能な疾患の疑いがある場合には検査の実施を検討します。 コロナとインフルエンザの同時検査の信憑性は? コロナウイルスとインフルエンザの同時検査は可能ですが、その精度についてはまだ完全に明らかになっていません。特にインフルエンザでは、発熱後すぐに検査すると、偽陰性になる可能性があるため、24時間以上経過してからの検査が推奨されます。検査には、「研究用」と書かれたものは使わず、国が承認した体外診断用医薬品や第1類医薬品を使用することが重要です。   対応と薬 対応方法と薬の違いについては以下のとおりです。 病名対応薬(一般名)新型コロナウイルス自宅療養、酸素吸入、重症者は入院レムデシビル、カシリビマブ/イムデビマブ(抗体カクテル療法)、バリシチニブインフルエンザ       安静、解熱剤の使用、水分補給、必要に応じて入院  抗インフルエンザウイルス薬(オセルタミビルリン酸塩・ザナミビル水和物・ペラミビル水和物注射薬・バロキサビル マルボキシル など)風邪安静、解熱剤の使用、十分な休養アセトアミノフェン、イブプロフェンなど、症状に応じた薬(細菌感染の可能性が高い場合には抗菌薬) なお、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症にかかった子どもが出席停止期間を経過して登校する際、再受診や検査は通常必要ありませんし、治癒証明書や陰性証明書の提出も求められません。しかし、症状が続く場合や医師から再受診の指示があった場合は、指示に従うことが重要です。 治療開始から3~4日経過しても解熱しない場合や、風邪の場合で4~5日以上発熱が続く場合は、再受診を検討してください。なお、むやみに再受診すると感染拡大や体力消耗による悪化を招く恐れがあるため、再受診の目安を事前にかかりつけ医に確認しておくことが大切です。 大人の場合は、症状が改善すれば通常の生活に戻れますが、必要に応じて再受診を考慮してください。 2024~2025年冬の特徴 2024~2025年シーズンは、以下がワクチン製造株として選定されました。 新型コロナウイルスJN.1系統及びその下位系統に対応した株インフルエンザ A型株・A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238)(H1N1)・A/カリフォルニア/122/2022(SAN-022)(H3N2) B型株 ・B/プーケット/3073/2013(山形系統)・B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)(ビクトリア系統) 一般的に、冬は気温の低下と空気の乾燥により、インフルエンザをはじめとした呼吸器系ウイルス感染症が流行しやすくなります。このため、マスクの着用や手洗い・手指消毒、室内の換気、ワクチン接種などの基本的な感染対策が重要です。インフルエンザと新型コロナウイルスの同時感染の可能性もゼロではありません。適切な予防策を講じましょう。 *** 冬季は、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行が懸念されており、発熱患者の増加に伴い診療所や検査機関が逼迫する可能性があります。そのため、事前に各自で準備を整え、感染予防に努めることが大切です。今回、解説した内容をご自身の体調管理、利用者さんのアセスメントなどにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「2024/25シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について」(2024年9月20日)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/flu/flu/vaccine2024/2024/9/20閲覧〇厚生労働省.「新型コロナウイルス・季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00003.html2024/9/20閲覧〇国⽴感染症研究所「COVID-19の抗原・抗体検査について」(2020年12月22日)https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/2_suzuki.pdf2024/9/20閲覧〇厚生労働省.「新型コロナウイルス最前線」『第12回新型コロナウイルス感染症の治療について』.広報誌『厚生労働』.2021年10月号 ,(株)日本医療企画,(2021年10月)https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202110_00003.html2024/9/20閲覧〇厚生労働省「令和5年度インフルエンザQ&A」(令和5年10月13日版)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2023.html2024/9/20閲覧

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指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2025年3月25日
2025年3月25日

指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

指定難病の医療費助成制度においては、患者さん自身が「自己負担上限額管理票」を使って毎月の自己負担額を管理しています。そのため、月初からのレセプト処理が終わると、患者さんの自己負担上限額管理票を確認した上で、訪問看護の利用料金を請求しなければならないことがあります。自己負担上限額管理票からもらう金額が毎月バラバラになるため、患者さんや家族から説明をしてほしいと言われることもあります。今回は、指定難病と医療費助成制度について解説します。 ※本記事は、2025年2月時点の情報をもとに構成しています。 指定難病とは 難病および指定難病は「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)により、次のように定義されています。 難病とは発病の機構が明らかでなく、治療法が確立されていない希少な疾病で、長期にわたり療養を必要とするもの指定難病とは上記のうち、患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%)に達しておらず、客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が確立している疾病 2024年4月現在、指定難病に該当する疾患は341あります1)。 なお、難病法は、難病の克服をめざすこと、難病患者さんが社会参加の機会を確保できること、地域社会において尊厳を保ちながら他の人々と共生できることを基本理念としています。 指定難病の医療費助成制度のしくみ 指定難病に対する医療費助成制度は、難病法の第5条で、その対象や助成額などが規定されています。 医療費助成の対象 指定難病は、個々の疾病ごとに診断基準と重症度分類が設定されています。その基準に基づき、指定難病と診断され、以下に該当する場合、難病法による医療助成の対象になります。 重症度分類で病状が一定程度以上 軽症高額該当(重症度分類を満たさない軽症者でも、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が3ヵ月以上ある場合2)) 医療費助成を受けるには申請が必要 指定難病の医療費助成を受けるには、医療受給者証が必要です。医療受給者証は、都道府県や指定都市の窓口(住所地を管轄する保健福祉事務所や保健所など)に申請を行い、審査の結果、認定されると交付されます。 交付された医療受給者証を、指定医療機関(病院、診療所、薬局、訪問看護ステーションなど)に持参し提示することで、医療費の助成を受けられます。なお、認定審査には時間がかかるため、申請日から医療受給者証が交付されるまでの間に指定医療機関でかかった医療費は、払戻し請求ができます。 医療費助成の開始時期と有効期間 医療費助成の開始時期は、前倒しすることも可能です。さかのぼりの期間は、原則として申請日から1ヵ月です。また、医療費助成の支給認定には有効期間があり、原則1年。治療の継続が必要な場合には更新の申請が必要です。 医療費助成における自己負担上限額 指定難病の医療費助成には、自己負担の上限額が設定されています。医療費が高額になった場合でも、この上限額を超えて支払うことはありません。自己負担上限額は、表1に示したとおり、患者さんの所得や治療の状況に応じて設定されています。 例えば、医療サービスを多く受けて医療費が高額になり、自己負担額が50,000円になった場合でも、「低所得Ⅰ」の患者さんは2,500円、「上位所得」の患者さんは30,000円が支払いの上限額となります。 自己負担割合は3割負担から2割負担に 医療保険や介護保険の負担割合が3割の場合、助成を受けている医療費は2割に軽減されます。ただし、年齢・年収等の条件によりすでに医療保険の負担割合が2割や1割に軽減されている場合は、それ以上負担割合が減ることはありません。介護保険も同様です。 表1 医療費助成における自己負担上限額(月額) (単位:円) ※「高額かつ長期」とは、月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上ある者(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円を超える月が年間6回以上)。 文献2)より引用 自己負担上限額管理票の記載方法 指定難病患者さんは、公費負担者番号が54番から始まる医療受給者証を持っており、この医療受給者証を持つ患者さんの自己負担額は、毎月「自己負担上限額管理票」で管理する必要があります。レセプト処理後、指定難病の医療費助成を受けている患者さんについては、自己負担上限額管理票をもとに自己負担分を請求します。 この自己負担額に入院・入院外(外来)の区別はありません。複数の指定医療機関で負担した自己負担額をすべて合算し、患者さんが自己負担額の上限を超えて支払うことがないように毎月管理しているのです。 患者さんは受診した指定医療機関で、管理票に医療費総額や自己負担額、自己負担の累積額(月額)などを記入してもらいます。指定医療機関では累積額を確認し、自己負担上限額に達していなければ本人に請求し、達した場合は上限額を超える分をすべて公費請求するという流れです。 自己負担上限額管理票の各記載項目と記載方法については図1で説明します。 図1 自己負担上限額管理表の記載項目(例) ※自己負担上限管理票は都道府県ごとに様式が異なります。ここでは、東京都保健医療局が作成した資料に掲載されている管理票の様式を例に解説します。東京都保健医療:特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用).https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r3kisai 1患者さんの自己負担上限月額が記載されています。この例では10,000円が上限額です。2自己負担額を徴収した日付を記載します。3自己負担額を徴収した指定医療機関名を記載します。4医療費・介護サービス費の総額を記載します。54の自己負担額を記載します。2割負担の患者さんであれば、総額の2割の金額を記載します。6自己負担の累積額を記載します。その月支払った合計額です。7自己負担の累計額は、A病院の自己負担額2,000円とB薬局の4,000円を合計した6,000円になります。8D訪問看護ステーションが医療費50,000円を請求しました。本来、50,000円×2割負担で、自己負担額は10,000円ですが、患者さんはすでにC診療所までで合計7,600円を負担しています。そのため、この日は上限額との差額分2,400円のみを患者さんに請求します。上限額を超える分は、すべて公費請求します。9上限月額(10,000円)に達したため、同月内のそれ以降の医療費は患者さんに請求せず、斜線を引きます。10上限月額(10,000円)に達したときの指定医療機関が記載します。 訪問看護師としてサポートできること 指定難病の医療費助成制度は、患者さんやご家族の経済的な負担を軽減する大切なしくみですが、自己負担上限額管理票の管理が必要となり、手間がかかることが課題です。今後、マイナンバーカードをはじめとしたICTを活用することで、管理の簡素化が期待されます。それまでは訪問看護師として、しっかりと制度を理解し、患者さんとご家族が適切に管理できるようサポートすることが大切です。 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある 編集:株式会社照林社 【引用文献】1) 厚生労働省:指定難病.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000084783.html2025/2/21閲覧2) 難病情報センター:指定難病患者への医療費助成制度のご案内.https://www.nanbyou.or.jp/entry/54602025/2/21閲覧

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特集
2022年5月31日
2022年5月31日

「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第11回は、ふだんは朝に排尿があるのに、昨夜から今朝まで排尿がない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 おむつを使用して排泄している90歳男性。ふだんは朝に排尿があるにもかかわらず、昨日の夜から、朝までおむつに排尿がみられません。 あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 尿が出ていない場合は、①尿の生成量が少なく、膀胱に尿がほとんど貯留していない(乏尿・無尿) ②尿の生成ができていて膀胱に貯留していても排出できない(尿閉) ── が考えられます。 ①乏尿では、▷脱水や嘔吐、発熱、心臓のポンプ能力の低下などで腎血流量が減少して尿の生成ができない ▷腎機能そのものに障害がある ▷尿路結石や腫瘍の浸潤により尿管が閉塞し、膀胱に尿がたまらない状態 ── などが考えられます。 ②尿閉は、膀胱よりも下位の障害、神経因性膀胱や前立腺肥大、尿道狭窄により起こるものです。患者さんの苦痛が大きく、放置しておくと尿貯留が上行性に広がり、水腎症や腎盂腎炎などを引き起こす恐れがあります。 乏尿(無尿)と尿閉では対処方法がまったく違いますので、これらが区別できるような情報を収集し、報告しましょう。 ここに注目! ●乏尿(無尿)により排尿がないのではないか?●尿閉により排尿がないのではないか? 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。最終排尿からの時間で換算すると、単純計算では8時間以上間隔が空くと要注意です。 ただし、ホルモンや血流量の関係で、日中は排尿間隔が長く、夜間には短くなるので、いつもの排尿時刻や回数と比較してください。 腎機能が保たれているのに尿量が少ない場合は、尿が濃くなります。最終排尿の色や臭気、いつもとの違いを確認してください。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 体温測定 高体温になると、不感蒸泄の増加で脱水状態となり、乏尿をきたす可能性があります。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 尿閉のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など)・尿閉の原因(前立腺肥大、尿線が細い、残尿がある、脳血管疾患や脊髄疾患等、神経因性膀胱となる要因、など) 尿閉のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 最終排尿時刻を確認し、どれくらいの時間出ていないのか、排泄できずに貯留している尿量を見積もります。また、ふだんの排尿時に、尿線が細い、排尿に時間がかかる、出きらない感覚がなかったかを確認します。 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、血圧や脈拍が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症の患者さんの場合には、苦痛の有無をバイタルサインから推測してください。 膀胱内の尿貯留の確認 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉などで貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 腎臓の叩打診 背部の肋骨の下縁くらいに手を置き、その手の上を叩きます。両側行います。 尿路結石や尿路の狭窄では、叩打診をした場合に響くような痛みを感じることがあります。 カテーテルを挿入しての尿排出の確認 医師の指示を得て行いましょう。カテーテルを挿入する経路に狭窄や閉塞がある可能性があるので、なるべく細いカテーテルを用いること、違和感があった場合は速やかに挿入をやめて、医師に相談することが必要です。 報告のポイント ・最終排尿時刻と尿の性状、本人の訴え・乏尿または、尿閉の可能性があると判断したアセスメント結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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麻疹・風疹の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説
麻疹・風疹の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説
特集
2024年1月9日
2024年1月9日

麻疹(はしか)・風疹(三日はしか)の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説

感染力の強い感染症として知られている麻疹・風疹(麻しん・風しん)。浮腫状の皮疹や目の充血などを合併している場合は麻疹、広範囲にわたる発疹やリンパの腫れなどを合併している場合は風疹の可能性があります。麻疹・風疹の予防接種は子どものころに行うケースが多いですが、年齢によっては大人も再び接種したほうがよいでしょう。特に妊婦が感染した場合は、胎児に影響を及ぼす可能性があるため要注意です。訪問看護の利用者さんはもちろん、自身・ご家族の健康管理のためにも、麻疹・風疹について確認しておきましょう。 この記事では、麻疹・風疹の症状や原因、合併症や大人の予防接種などについて詳しく解説します。 麻疹とは 麻疹(はしか/ましん)は、麻疹ウイルスの感染によって急性の全身症状が現れる感染症です。症状や原因、感染経路、発生状況について詳しく見ていきましょう。 症状 麻疹ウイルスに感染すると、潜伏期10~12日を経て発症し、発熱や鼻水、咳などの上気道炎症状、結膜炎症状が現れて次第に増強します。発熱は2〜3日続き、その後に39℃以上の高熱とともに特有の発疹が耳後部、頚部などに現れ、顔面や体幹部および四肢末端にまで広がります。最初に出現する発疹は鮮紅色扁平ですが、皮膚面より膨隆し、後に不整形の斑状丘疹状皮疹となります。起こり得る合併症は肺炎や中耳炎、脳炎などで、中でも脳炎は1,000人に1人の割合で発症します。そのほか、10万人に1人程度の割合で、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という中枢神経疾患を発症することがあります。 原因 麻疹の原因は、麻疹ウイルスの感染です。2023年9月時点において、日本国内由来の麻疹ウイルスは認められておらず、海外由来のウイルスによる感染事例のみ見られています。 感染経路 麻疹ウイルスは、空気感染・飛沫感染・接触感染によって、人から人へ感染します。感染力は非常に強く、免疫を持たない人が感染した場合の発症率はほぼ100%です。なお、一度感染し発症すると、免疫が一生続くとされています。 発生状況 麻疹は、2007~2008年にかけて10~20代を中心に流行しましたが、2008年から5年間、中学1年生(12~13歳)および高校3年生(17~18歳)に相当する年代に2回目の予防接種を受ける機会を設けた結果、2009年以降の患者数は大きく減少しました。 2015年3月27日には、日本が麻疹を排除できていることを世界保健機関西太平洋地域事務局が認定しています。 風疹とは 風疹(ふうしん)は、風疹ウイルスの感染によって引き起こされる急性の発疹性感染症です。症状や原因、感染経路、発生状況について詳しく見ていきましょう。 症状 風疹ウイルスに感染すると、約2〜3週間の潜伏期間の後に発熱や広範囲にわたる発疹、リンパ節腫脹(耳介後部、後頭部、頚部)などが現れます。起こり得る合併症は脳炎、血小板減少性紫斑病などで、その頻度は2,000人〜5,000人に1人程度です。 原因 風疹の原因は、風疹ウイルスの感染です。厚生労働省は2017年12月に「風しんに関する特定感染症予防指針」を一部改正し、翌年2018年1月に施行。風疹の感染者が一例でも発生した際は、調査を迅速に実施することに努めるとともに、ウイルス遺伝子検査によって診断することとしました。 感染経路 風疹ウイルスの感染経路は、飛沫感染です。発疹が現れる前後約1週間は感染リスクがあり、風疹への免疫を持たない集団において、1人の風疹患者から5〜7人にうつす強い感染を有する1)とされています。 発生状況 1990年代前半までは、約5年周期で大規模な流行が発生していました。その後、幼児が予防接種の対象になった関係で一時的に流行が落ち着いたものの、2002年から局地的に流行。その後、予防接種の勧奨や疫学調査の強化などの対策によって流行が抑制されたものの、2014年から2017年にかけて多数の発生報告が見られています。このように、局地的な流行が度々見られることから、最新情報を随時チェックして対策することが重要です。 大人が麻疹・風疹にかかるとどうなる? 大人が麻疹・風疹にかかると、子どもと比べて発熱や発疹が長く続くほか、ひどい関節痛が起きることが多いとされています。 麻疹・風疹に妊婦がかかるとどうなる? 麻疹・風疹に妊婦がかかることには、次のような問題があります。 先天性風疹症候群のリスクが高まる 風疹の免疫が不十分な妊婦が妊娠20週頃までに風疹ウイルスに感染すると、胎児は白内障や網膜症、難聴、心疾患などの先天性異常を引き起こす先天性風疹症候群に罹患する恐れがあります。 麻疹は重症化リスクが高い 麻疹は妊娠中に感染しても胎児に先天奇形が生じる確率が低いものの、妊婦自身の重症化や流産・早産のリスク増加などが懸念されます。 風疹・麻疹のワクチン 風疹麻疹混合ワクチンを1歳になったら1回、小学校就学前の1年間にもう1回打ちます。ワクチンに期待できる効果や再接種について詳しく見ていきましょう。 ワクチンに期待できる効果 厚生労働省によれば、風疹麻疹混合ワクチンの予防接種を受けることにより、95%ほどの人がウイルスに対する免疫を獲得できるといわれています。1回目の接種で免疫を得られなかった場合でも、2回目を接種することで多くの人が免疫を獲得できます。 抗体検査を受けて必要であれば再接種する 接種から数年後には免疫が低下することがあるため、その後も免疫を維持するために追加のワクチン接種を受けることが大切です。特に、妊娠の予定がある方は、重症化リスクや胎児の先天性風疹症候群などの観点からなるべく受けることが望ましいでしょう。 1962~1978年生まれの男性は要注意 1962(昭和37)年~1978(昭和53)年生まれの男性は、子どものころに風疹の予防接種を受けていない可能性が高いでしょう。感染を広げるリスクを抑えるためにも、早めに予防接種を受けることが重要です。 * * * 風疹・麻疹は、長期にわたる発熱や発疹のほか、重篤な合併症が懸念されるため、免疫が低下していると考えられる場合は早めに予防接種を受けることが大切です。今回、解説した内容を自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【引用】1)厚生労働省.「風しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html(2023/12/21閲覧) 【参考】〇厚生労働省.「麻しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省.「風しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html(2023/9/25閲覧)〇政府インターネットテレビ「昭和37~53年度生まれの男性の方へ ~生まれてくる赤ちゃんを守る“風しん対策”」(2019/12/3)https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg19934.html(2023/9/25閲覧)

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特集
2022年5月2日
2022年5月2日

退院前カンファレンスってどんなことするの?

退院前カンファレンスに参加されたことがありますか?参加したことがある人は気づいているかもしれませんが、退院前カンファレンスは、それぞれの医療機関や対象患者様、参加する構成メンバーによって内容が様々です。 そのため、スタンダードな退院前カンファレンスはどんなものなのか、感覚が掴みづらいという人も多いのではないでしょうか。 退院前カンファレンスを開催する目的や大まかな進行内容は基本的には同じです。ここでは退院前カンファレンスの基本的な概要にご説明します。 ポイントを掴んで、退院前カンファレンスで有益な情報を得ることができるようにしましょう。 退院前カンファレンスの目的とは? 退院前カンファレンスは、退院予定の患者様で、自宅での療養に在宅サービスを利用する必要のある場合に開催します。カンファレンスを開催する目的として、2つ挙げることができます。 一つ目は、入院医療機関が持っている患者様の情報を、直接在宅サービスの担当者へ情報提供することです。自宅にて訪問看護などの在宅サービスを利用する際に必要な情報について、直接顔を合わせて情報交換することができます。顔の見える連携が取れると、退院後にわからないことがあった場合でも、直接問い合わせがしやすくなります。 2つ目の目的としては、患者様、家族への安心感の提供です。事前に病院に来て、医療機関から訪問看護の担当者を紹介することで、患者様、家族が安心するということがあります。会ったことがない人に自宅で初めて会うというのは誰でも抵抗感があることです。 また、スタッフ同士が連携している様子を患者様、家族に見てもらうことにより、しっかりと情報交換ができて連携ができているのだと実感してもらえます。それが患者様、家族と在宅サービス担当者との信頼関係の構築と在宅療養への安心感に繋がります。 誰が参加するの?主催は? ほとんどの場合、退院前カンファレンスを主催するのは、入院している医療機関の医療ソーシャルワーカーです。医療ソーシャルワーカーが院内の関係職種や在宅サービスの担当者へ連絡し、カンファレンスの日程調整をします。 院内の関係職種については、対象となる患者様を担当している医師、病棟看護師、リハビリスタッフ、薬剤師、栄養士、地域連携関係部署の退院調整看護師、医療ソーシャルワーカーといったメンバーです。 在宅サービスからのメンバーとしては、在宅医、訪問看護師、ケアマネージャー、調剤薬局の薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、訪問リハビリスタッフ、訪問ヘルパーなどです。必要に応じて、利用するデイケアやデイサービスの担当者や福祉用具業者、医療機器業者なども参加することもあります。 また、患者様、家族がカンファレンスに参加してもらい、希望や意見を聞いたり、医療機関側と在宅サービス関係者の連携の様子を見てもらったりします。 退院までの間に、これだけの人数を集めてカンファレンスをするには、日程調整が難しい場合もあり、すべてのメンバーが集められないこともあります。その時には、記録を作成し、患者様、家族に了解を取った上で、記録を各担当者へ送り情報共有を図ります。 退院前カンファレンスの内容は? 退院前カンファレンスの内容は、病気や治療、症状のコントロールに関すること、病棟での看護状況、リハビリの内容、処方内容や服薬の仕方、社会保障制度の活用状況、利用予定の在宅サービスの内容等について、情報共有とディスカッションをします。 入院中の管理を在宅でそのまま行うわけではありませんので、入院中に在宅に合わせた管理に移行するために打ち合わせをします。 また、患者様、家族の希望や意見、心配事などについても話をしてもらい、カンファレンスで検討します。 進行は、患者様、家族の話を聞きながら進めることもあれば、職種ごとに一通り基本情報のプレゼンを先に行うなど、患者様、家族のキャラクターやその場の雰囲気で司会進行する人が判断するでしょう。それぞれの担当者が情報をまとめた資料等を配布することもあります。 退院前カンファレンスでの収益計算 退院前カンファレンスに参加することは、担当する患者様が退院する前に多くの情報を得ることができますのでとても有益なことです。 しかし、参加するとなったら、医療機関まで赴く手間と時間とお金がかかりますよね。訪問の時間を削ってスタッフをカンファレンスに派遣するわけですから、在宅サービス事業者にとっては、退院前カンファレンスに参加して収益が出るのかは気になるところだと思います。 訪問看護ステーションの看護師が退院前カンファレンスに参加した場合には、退院時共同指導加算を算定することができます。 ただ、退院前カンファレンスに参加するメンバーや患者様の状態、複数の訪問看護ステーションの参加などの条件によっては算定できない場合もあります。算定要件には細かな規定があるため、算定する際は確認が必要です。 おわりに ここでは、退院前カンファレンスに関する基本的な概要についてご紹介しました。 在宅サービスを利用する退院予定の患者様の全てを対象に退院前カンファレンスを実施できれば良いのですが、急な退院決定により実施できなかったり、医療スタッフへの過剰な業務負担により開催が難しかったりし、全ての患者様に退院前カンファレンスを提供することができていないのが現状です。 しかし、退院前カンファレンスができないケースであっても、医療機関側と在宅サービス担当者が電話や文書による密な連携を図り、在宅療養を開始する患者様、家族の安心、安全のために努力する必要があります。退院前カンファレンスは情報共有の一つの方法です。上手に活用して、在宅療養サポートの充実につなげたいですね。 記事提供:株式会社3Sunny(スリーサニー)

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寒冷蕁麻疹(寒暖差アレルギー)とは?症状・原因・治療法・予防法を解説
寒冷蕁麻疹(寒暖差アレルギー)とは?症状・原因・治療法・予防法を解説
特集
2024年12月17日
2024年12月17日

寒冷蕁麻疹(寒暖差アレルギー)とは?症状・原因・治療法・予防法を解説

寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)は、冷たい風や空気、冷水などの寒冷刺激によって皮膚に発赤やかゆみを伴う膨疹(ぼうしん)が生じる症状です。「寒暖差アレルギー」とも呼ばれ、冬場に多いイメージがありますが、季節を問わず冷えによって発症することがあります。 本記事では、寒冷蕁麻疹の症状や原因、治療法、日常生活でできる予防法について解説します。寒冷蕁麻疹を発見した際のアセスメントにお役立てください。 寒冷蕁麻疹とは 寒冷蕁麻疹は、皮膚に冷たい刺激が加わることで発症するアレルギー反応の一種です。通常の蕁麻疹と同様に、皮膚内の肥満細胞からヒスタミンが放出されることで、かゆみや炎症、膨疹が引き起こされます。膨疹とは一過性の真皮の浮腫で、皮膚の一部が突然、境界明瞭に赤く盛り上がった状態を指します。子どもから高齢者まで年齢を問わずに発症し、好発年齢はありません。 寒冷蕁麻疹の症状 寒冷蕁麻疹の主な症状は、冷たい刺激が加わった直後から数十分以内に皮膚に現れるかゆみや発赤です。数時間で自然に軽減することが多いものの、症状の現れるタイミングや強さには個人差があります。 寒冷蕁麻疹は、次の2つに分類されます。 局所性寒冷蕁麻疹 局所性寒冷蕁麻疹は、冷たいものが触れたところに円形や地図状の膨疹が現れ、通常はかゆみと発赤を伴います。ただし、かゆみがなく発赤が目立つものや、反対に発赤がなくかゆみだけが生じるもの、痛みを伴うものもあります。 全身性寒冷蕁麻疹 全身性寒冷蕁麻疹は、全身が冷えることで小豆大ほどの発赤とかゆみを伴う膨疹が腕や脚、背中、腹部、首まわりなどを中心に全身に現れます。 膨疹の外見は、運動や入浴後に発症するコリン性蕁麻疹と似ているため、見分けがつきにくい場合もあります。 寒冷蕁麻疹の原因 局所性寒冷蕁麻疹は、冷水や冷風などが触れた部位にのみ現れます。一方、全身性寒冷蕁麻疹は、エアコンの効いた部屋に入る、冷たい外気に触れる、運動後や入浴後に体が冷えるなど、全身の急激な冷えがきっかけで発症します。暖かい場所から寒い場所へ移動するような急な温度変化によって症状が現れることがよくあります。 どちらのタイプも、寒冷刺激を受けると皮膚の肥満細胞からヒスタミンが大量に放出され、それがかゆみや膨疹を引き起こす点に違いはありません。ヒスタミンの分泌メカニズムについては未だ解明されていませんが、アレルギー反応や免疫系の異常が関与していると考えられています。なお、全身性寒冷蕁麻疹の中には、遺伝的な要因によるものも報告されています。 寒冷蕁麻疹の予防策 寒冷蕁麻疹は、次のように予防しましょう。 温める 寒冷蕁麻疹は、温めることで症状が緩和される場合が多いため、冷やさない工夫が重要です。症状が出やすい部分は重ね着をして、暖かい部屋で全身を温めましょう。冷たい空気や風に長時間さらされないよう、外出時も防寒対策を徹底することが大切です。 掻きむしりによる悪化を防ぐ 強いかゆみを感じると掻きむしってしまいがちですが、それによって症状が広がったり、蕁麻疹が悪化したりするため注意が必要です。抗ヒスタミン作用のある市販の塗り薬や内服薬を利用することで症状が和らぐことがあります。また、潤いを保つために保湿剤を使用することで肌のバリア機能が高まり、蕁麻疹が出にくくなります。そのため、皮膚を日常的にケアすることも大切です。 ただし、かゆみが強く再発を繰り返す、症状がなかなか治まらない場合は、自己判断せず早めに皮膚科を受診しましょう。 冷えを避けるための日常の工夫 寒冷蕁麻疹を予防するためには、日常生活での冷え対策が重要です。寒暖差が原因となるため、気温の低い場所に行く際はしっかりと防寒対策を行いましょう。冬場だけでなく夏場も注意が必要です。たとえば、プールや入浴のあとにエアコンが効いた部屋に行くと、体が急激に冷えて寒冷蕁麻疹の原因となることがあります。 また、冷たい飲み物や食べ物は体を冷やすため、少量ずつ摂取し、体が冷えすぎないようにしましょう。足もとの冷えも寒冷蕁麻疹を悪化させる要因です。足もとが冷えやすい方は、厚手の靴下やスリッパなどを履きましょう。 寒冷蕁麻疹の治療法 寒冷蕁麻疹の治療では、原因となる寒冷刺激を避けることが基本です。症状が軽い場合でも、再発を防ぐために冷えを避けた生活を心がけることが重要です。症状が出た場合には、抗ヒスタミン薬を内服することで、かゆみや発赤を緩和できます。 皮膚科では、発症時の状況を詳しく問診し、必要に応じて寒冷負荷試験や血液検査を行い、寒冷蕁麻疹かどうかを診断します。また、息苦しさやむくみといった重篤な症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。 抗ヒスタミン薬を継続的に内服し、症状をコントロールする場合もあります。寒冷蕁麻疹は内科的な病気が関与していることもあるため、長期化する場合や改善が見られない場合には医師に相談し、適切な診断・治療を受けることが大切です。 * * * 寒冷蕁麻疹は、訪問看護の現場でも利用者さんが症状を訴えることがあるかもしれません。家庭環境や症状が現れたタイミングなどを聞き取りして、適切な対策方法を伝えましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:吉岡 容子医療法人容紘会 高梨医院 院長東京医科大学医学部医学科を卒業後、麻酔科学講座入局。麻酔科退局後、明治通りクリニック皮膚科・美容皮膚科勤務。院長を務め、平成24年より医療法人容紘会高梨医院皮膚科・ 美容皮膚科を開設。院長として勤務しています。

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ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
特集
2025年4月22日
2025年4月22日

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?

ヒトメタニューモウイルス感染症は、乳幼児や高齢者を中心に発症しやすい呼吸器感染症の1つです。症状はRSウイルス感染症とよく似ており、発熱や鼻水、咳が現れるほか、重症化すると呼吸困難を引き起こすこともあります。 本記事では、ヒトメタニューモウイルス感染症の症状や原因、RSウイルスとの違い、感染経路や治療法について解説します。訪問看護の利用者さんが風邪のような症状を訴えた際のアセスメントに役立ててください。 ヒトメタニューモウイルス感染症とは ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)感染症は、特に乳幼児に多くみられる呼吸器感染症です。健康な成人や児童では、軽い風邪症状のみで経過することが多く、無症状のまま終わる場合もあります。しかし、乳幼児や高齢者、心肺疾患や神経筋疾患などの基礎疾患がある方、免疫不全状態の患者では重症化する危険があるため、RSウイルス感染症と並び、注意が必要な病気の1つとされています。 RSウイルス感染症は感染症法に基づく届出対象疾患であり、発生状況の把握が行われていますが、ヒトメタニューモウイルス感染症は届出対象ではないため、正確な流行状況を追跡できません。 ヒトメタニューモウイルス感染症の症状 ヒトメタニューモウイルス感染症は、感染後3~5日以内に鼻水や発熱が見られることが一般的です。軽症の場合は、発熱や咳嗽、鼻汁、咽頭痛、倦怠感など風邪に似た症状が現れますが、重症化すると、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難感が生じ、肺炎、細気管支炎へ進行することがあります。 初めて感染する小児では咳や喘鳴が生じることもあります。特に、生後6ヵ月未満の乳児の場合、初期症状として一時的に呼吸が止まる無呼吸発作が起こることがあります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の原因 ヒトメタニューモウイルス感染症は、ヒトメタニューモウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症です。このウイルスは2001年にvan den Hoogen(オランダ)らによって小児の気道分泌物から初めて分離されました。その後の研究で、ヒトメタニューモウイルスは世界中に広く分布し、呼吸器感染症の主要な原因の1つであることが明らかになりました。 ヒトメタニューモウイルス感染症と他の感染症の違い ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと同じニューモウイルス科に属しているため、症状や感染の広がり方がよく似ています。鼻水や発熱といった軽度の症状から、咳や喘鳴、呼吸困難といった重症化したケースまで幅広い症状を引き起こします。 >>関連記事RSウイルス感染症の症状・原因・治療法は?子どもも大人も注意 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路は、飛沫感染と接触感染です。感染した人が咳やくしゃみをした際に放出されたウイルスを吸い込むことで感染が成立します。 また、ウイルスが付着した手指や物を介して口や鼻、目の粘膜に触れることでも感染が広がります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の好発年齢 生後6ヵ月から2歳頃までの子どもが最も感染しやすく、初めての感染となるケースが多いため、免疫が十分に備わっておらず重症化しやすい傾向があります。また、多くの場合、5歳~10歳までに感染するとされています。一回の感染では再感染を防ぐための十分な終生免疫が得られず、再感染を繰り返します。 ヒトメタニューモウイルス感染時の登園・登校・通勤について ヒトメタニューモウイルス感染症は乳幼児や高齢者の感染のリスクが高く、無理に登園・登校・通勤すると感染拡大につながる可能性があります。感染拡大を防ぎながら日常生活へ復帰するための基準や注意点について解説します。 登園・登校の基準 ヒトメタニューモウイルス感染症は、第三種感染症・その他の感染症に該当し、校長が学校医の意見を参考に出席停止の判断を行うことができます。 保育園や幼稚園、小学校では、解熱後24時間以上が経過し、全身状態が良好であれば登園・登校が可能とされることが多いですが、咳や鼻水といった症状が強く、周囲に感染を広げる可能性が高い場合は、さらに数日間の経過観察を求められることもあります。 職場・通勤時の注意点 体調が優れない場合や発熱が続いている場合は無理に出勤せず、自宅での療養が推奨されます。通勤時にはマスクを着用し、手洗いや咳エチケットを徹底することで、周囲への感染拡大を防ぐことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症の治療・対応法 ヒトメタニューモウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在せず、対症療法が中心です。発熱がある場合は解熱剤を使用し、咳や痰がひどい場合は鎮咳薬や去痰薬を用います。十分な水分補給と休養をとりながら、体力の回復を促すことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症で医療機関を受診する目安 医療機関を受診する目安は、高熱が続く、息苦しさを感じる、喘鳴がひどくなっているときなどです。特に乳幼児では、無呼吸発作やぐったりしている様子が見られた場合、速やかな受診が必要です。また、基礎疾患のある方や高齢者は重症化しやすいため、症状が悪化する前に医療機関に相談しましょう。 * * * 訪問看護の現場では、感染の初期症状を見逃さず、適切な対策を講じることが重要です。呼吸の変化や発熱などに注意を払いながら、必要に応じて医療機関の受診を促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「COVID-19流行下の小児基幹病院における当院に入院した重症ヒトメタニューモウイルス感染症の状況」(2022年8月30日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/respiratory/1744-idsc.html?start=62025/4/15閲覧〇島根県感染症情報センター「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」(2018年4月)https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/hMPV/index.htm2025/4/15閲覧

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私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
コラム
2025年4月30日
2025年4月30日

私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です

「enjoy!ALS」の第2弾が始まりました!今回のシリーズでは、梶浦智嗣先生に寄せられた在宅療養に関する疑問や悩みをもとに、さまざまな疾患の方にも役立つ実践的な情報をお届けします。 再開!「enjoy!ALS 2」 皆さん、こんにちは。私は2021~2023年までの2年間、こちらで「enjoy!ALS」のタイトルでコラムの連載をしておりました。 ありがたいことに、連載が終了してからもたくさんの反響をいただきました。訪問看護師さんや訪問リハビリスタッフさん、在宅療養中のALS当事者の方やその介護士の方々から、「今このような状況なのですが、この場合どうすればよいでしょうか?」との質問が多く寄せられ、実際に家に来ていただいて説明したこともありました。質問の中には工夫次第で解決できるものも多くあり、似たような質問も少なくありませんでした。 いただいたご質問の一部をご紹介します。 【訪問看護師さん】・侵襲の少ない気管吸引や鼻・口吸引のコツ・安全な人工呼吸器のホースの固定方法 など【訪問リハビリスタッフさん】・体や胸郭(肺)の拘縮予防に関するリハビリテーションの工夫【ALS当事者】・安楽な体位(仰臥位や座位、側臥位)のとり方・身の回りに置く必要がある物品(人工呼吸器や吸引器、吸引カテーテルなど)の配置方法・最新のコミュニケーションツール(コミュニケーション方法全般)・ALSの最新の治療について など 実際の在宅療養の現場では、居住スペースの広さや環境は整っているか、ケアに必要な物品が充実しているか、介助者の人数は足りているか、当事者がどこまで積極的なケアの介入を望んでいるかなど、家庭ごとに状況が異なります。そのため、個々に合ったケアプランを立てていく必要があり、なかなか皆さんに共通して当てはまるよいケア方法を見つけていくのは難しいのが現状です。 ただ、そんな中でも皆さんが困っていることには似ているところも多くありました。そこで、ALSに限らず、在宅療養を必要としている、さまざまな疾患の皆さんにも応用できる内容を「enjoy!ALS 2」として、連載していく運びとなりました。 連載終了後の私の経過と現在の状況 はじめに、前回の連載が終了してからの2年間の私の経過と現在の状況を説明させていただきたいと思います。 体調面での大きな変化はなし すでに4年前くらいから全身の運動機能はほぼ全廃しておりましたので、ほとんど変わっていません。唯一自分の意思で動かせるわずかな嚥下機能と噛む力も、さほど変わらず残っていますので、工夫をした飲食方法(>>「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!参照)や歯を使ったタブレット端末の操作(今後の連載で詳しく書きます)は現在もできています。 呼吸機能は、毎日の呼吸リハビリテーション(こちらも今後の連載で詳しく書きます)のおかげで、気管切開を行い侵襲的人工呼吸器(TPPV)を着けた4年前と比べても全然変わっていません。(むしろ、呼吸器の設定は変えていないのに、座位での一回換気量は上がっているので、よくなってるともいえます!) ただ、まぶたを上げる力の低下(眼瞼下垂)と目を動かす力の低下は徐々に進んできています……。 仕事面では新しく始めたことも 約2年前より、訪問診療を行っている「さくらクリニック」の中野の本院と練馬の分院で皮膚科医として働くようになりました。私のように在宅療養を必要とする患者さんたちの主治医と情報を共有して連携しながら、皮膚病変の診療を行っています。 このような体で、どのように患者さんたちの診療しているのか、皆さん、想像できないと思います。参考までに、下記に実際のカルテの一部を載せておきます(図1)。 図1 実際のカルテ(一部) ODT:occlusive dressing technique ※カルテの掲載に関しては、本人・家族、関係者の了承を得ています。 その他、コラムの執筆を行ったり、医師向けのサイトで全科横断コンサルトドクターとしても活動しています。 * * * 以上のように、私の経過を書かせていただきましたが、客観的に見て、私のALSの進行スピードは特別速くもなく、遅くもなく、標準的な範囲だと思います。 たとえALSを発症して10年も経ち、運動機能がほぼ全廃し、声も出せず、人工呼吸器を装着していても、適切なリハビリテーションと、日々の生活の工夫次第で、今までとはまったく違う形で自分らしい充実した人生を見つけていけると私は信じています! ALSを知ってほしい:私の経験から伝えたいこと 今はまだ、日々の診療もコラムの執筆もすべて、歯のわずかな噛む力でタブレット端末を操作して行えています。しかし、ALSは進行性の病気であり、正直に言って、私もあとどのくらいの期間文字を打てるかは分かりません。 それでも、文字が打てるうちに、たとえALSと診断されたとしても「生きたい」と願う人が生きる希望を持てる世の中をつくりたいと考えています。私の10年間にわたる闘病生活の経験と医師としての知識を生かして、後に続く同じ病気の方々の生活が少しでも豊かになるよう、ALS当事者や支援者の皆さんにとって参考になる情報を具体的に、分かりやすく書いていこうと思っています。 そのためには、まず、ALS当事者や支援者の皆さんが、少しでもよいのでALSという病気・病態について理解していただくことが大切と感じています。どんなことができなくなり、何が最後までできるのかを、私なりに説明してから、冒頭でご紹介した皆さんからの質問に答えていく形でコラムを書いていきたいと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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特集
2022年3月29日
2022年3月29日

[3]身体の死後変化はエンゼルケアの必須知識!

死後のご遺体の変化に驚かれるご家族が少なくありません。ご家族にきちんと説明できるためにも、死後の身体変化に関する情報をしっかりと押さえておきましょう。また、どういった変化が生じるのか把握しておくことで、変化を最小限に抑える対処が可能ですし、さまざまな身体変化に遭遇しても冷静に対応することができます。 亡くなった高齢女性Aさんのご家族から困惑した声音で、担当だった看護師に電話がありました。 「おばあちゃんの口のまわりに灰色の輪がくっきりと浮き出てきたんです。不吉なことなんじゃないかって言う人もいて・・・・・・。一体、何なんでしょう、これ」 Aさんは黄疸が出ていたために、その死後変化として皮膚に変色が起こったのです。黄疸をもたらしているビリルビン色素の酸化亢進などによって時間とともに変色が起こります。毛根部が変色の生じやすい部位で、髪の生え際や眉、ひげ(あるいは口まわり、女性も口周囲にうぶ毛があるため)などに注意が必要です。 Aさんのご家族はそれを知らなかったため驚かれたのですね。看護師は異常事態ではないことを伝え、対処法などを次のように説明し安心していただきます。 「黄疸が出ていた方は、お口のまわりがくすんで輪のように見えることもあります。自然な変化ですから、ご心配はいりません。気になるようでしたら、その部分をファンデーションでカバーしていただいて問題ありません」 そして、必要に応じてファンデーションを使用したカバー方法なども説明します。 望ましいのは、黄疸のある肌は時間の経過とともに皮膚に変色が生じると思われることを、あらかじめエンゼルケアのときに説明できることです。さらに、最も望ましいのは、そのことを含めて死後変化のことなどが書いてある文書をお渡しすることです。文書については、連載の最終回でふれる予定ですので参考になさってください。 身体の死後変化の知識を得ておくことは、エンゼルケアを行ううえで必須です。亡くなった人のそれまでの身体の状態を把握している看護師は、例えば前出の黄疸の出ている方のように、変化についてのさまざまな配慮・対応が可能なためです。 知っておきたい身体の死後変化の特徴 では、ここで「身体の主な死後変化」を図1に示します。 図1 身体の主な死後変化 ( )内は、変化が始まる目安の時間を示す。変化の強度や速度には個人差がある。各項目の詳細については以下を参照。筋の硬直(死後硬直)(1時間~)筋弛緩後、下顎(1~3時間)、全身(3~6時間)へと硬直が進む。循環停止により酸素供給が停止することなどによる。死後半日から1日の間に硬直のピークを迎え、その後、解けはじめる。死の直前まで筋肉を使用していたり(急死)、高齢ではない場合などは硬直が強く表れる。体表面の乾燥(3時間~)循環停止によって内部から体表面への水分補給がなくなり、自力で保湿できなくなり乾燥する。特に外気にふれている頭部(その中でも口唇)は乾燥が急激に進む。表皮が失われている箇所や開放性の創部も乾燥しやすい。また、乾燥とともに皮膚の脆弱化も進む。水分量の多い乳児・小児は、成人よりも乾燥傾向が強い。顔の扁平化(直後~)重力の影響による。蒼白化(30分~)重力の影響を受け、比重の重い赤血球が沈下することで、皮膚の血色が失われる。全身の上面に生じるが、露出している顔面が特に目立つ。顔のうっ血(3時間~)急性の心疾患で亡くなった方に生じることが多い。腐敗(6時間~)恒常性の消失で細菌バランスが崩壊し、細菌群(中温菌)が異常繁殖することによって生じる。腹腔内からはじまり胸腔内、そして全身に広がる。身体の状態(水分が多い、栄養が多い、温かいなど)によって腐敗の進行度が変わる。体温低下(直後~)恒常性の消失で、気温の影響をまともに受ける。上下肢の末端部や外気にふれる顔面などから低下する。体幹部は下がりにくい。止血しづらくなる血液の凝固因子が大量に消費されることなどから、止血しづらい状態になる。黄疸の方の皮膚色の変化(24時間~)黄疸をもたらしている色素の酸化亢進などによって生じる。黄色→淡緑色→淡緑灰色に変化する。 さまざまな変化を図1で把握するとともに、全体的な変化の特徴として次の4点も押さえておくとよいでしょう。各タイミングでの判断に役立ちます。 ①死後の身体は「不可逆的に変化する」 図1に示した変化をはじめとして、死後変化のすべては不可逆的に進行します。つまり、変化する一方で、元の状態に戻ることはありません。生きているときのように、維持しよう、回復しようと身体は機能しません。 例えば、口唇は粘膜のため特に乾燥しやすい部分です。時間とともに乾燥が進み、表面が茶褐色に変色してしまったり、口唇全体の厚みが減ってしまったりし、それらが元の状態に戻ることはありません。ですから、早い段階で油分を塗布するなど、乾燥防止を行う必要があるのです。 ちなみに、葬儀社の方から看護師に対して「とにかく唇だけでも早めに油分を付けておいてほしい」と言われることがあります。葬儀社の方が担当する段には、すでに口唇の乾燥が極まってしまっていることがあるからのようです。 エンゼルメイクを含むエンゼルケアの時点で何をしておくべきなのかを判断し、実施することがポイントになってきます。 ②死後の身体変化は「予測しきれない面がある」 どんな死後変化がどの程度、どんな速さで起こるのか、エンゼルケアの時点ではその後を予測しきれない面があります。その大きな理由として、次の2点が挙げられます。 ・個体差を厳密には予測できない死後の身体変化は、死に至ったときの身体状態により個体差があります。例えば、体内の水分量が多く、さらに亡くなるまで高熱が続いていた場合は腐敗が早く強く出るかもしれないというようにおよその予想はできますが、厳密な予想はできません。 ・管理状況に左右されるご遺体は、身体の状態を一定に保つ機能は働いていないので、気温、湿度など身体を取り巻く環境の影響をまともに受けます。皆さんの手が離れた後、例えば暑い日などに適切な冷却がなされなければ急激に腐敗が進み、体液が漏れ出たりします。 身体の変化に困惑したご家族から問い合わせや相談の連絡があったなら、まず「お身体はいろいろな変化が出るのが自然のことです。異常事態ではないので心配はいりませんよ」と応対し、具体的な対応方法を説明するとよいでしょう。 ③死後の身体は「傷みやすい」 死後の身体変化が生じているイメージをつかんでほしいと思い、あえて「傷む」という表現を使います。 例えはあまりよくありませんが、釣ってきた魚を暖かい日に冷却もせず、ラップもかけずにテーブルの上に放置してしまうと、魚は急激に傷んでいきますね。人の身体も何もしなければ同じように傷んでいきます。 冷却や乾燥防止対策を行い、なるべく変化を抑えますが、抑えきれないケースも少なくありません。ただ現在は、亡くなった人との対面時には、衣類や花などでカバーされて目にふれないような配慮がされており、私たちは「傷む」という自然現象を忘れがちです。このことを含んでおいて、必要なときに「ご遺体は傷みやすいですよ」とご家族に説明します。 ④死後の身体は「重力の影響を受ける」 図1に示した「蒼白化」や「顔の扁平化」は重力に抗えなくなった結果、起こる変化です。他にも、身体の後面に開放性の創部(褥瘡など)がある場合は滲出液が漏れ出やすいので、あらかじめ対応をしておくといった判断ができます。 また、図1に示したように血液は止血しづらい状態になるため、鼻出血などがあると長く出続けることがあります。その場合は枕の高さを変えたり顔の向きを変えるなどし、重力の働く方向を変えることで、体外への出血量を減らせることがあります。 ご家族がご遺体を「起立させてほしい」と希望した例では、担当の看護師は便漏れなどがないように、重力の影響を考えながら希望に応じたとのことでした。 ワンポイントメモ臭気の話死後の早い段階で、気になる臭いが発生しやすい場所は、口腔内と瞼内です。 下顎が、早ければ死後1時間程度で硬くなるため、臭気防止のために口腔内だけは早めにケアを行います。マウスケア用のスポンジやガーゼなどで汚れを拭ったり、可能であれば歯磨きもします。瞼内のケアでは、眼脂に注意します。眼脂などの分泌物からも臭気発生の恐れがあるため、綿棒で拭うなど可能な範囲で除去しておきます。 腐敗による臭気もその後発生します。エンゼルケアの段階で行う臭気対策は、第4回で解説する冷却が有効です。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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