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溶連菌感染症の原因・症状・対処法
溶連菌感染症の原因・症状・対処法
特集
2024年4月16日
2024年4月16日

溶連菌感染症の原因・症状・対処法。大人の感染や気づかず放置した場合は?

溶連菌感染症は、子どもがかかるイメージが強いかもしれませんが、大人もかかる可能性があります。また、溶連菌といえば、ニュースやドキュメンタリー番組でしばしば聞く「人食いバクテリア」が気になる方も多いのではないでしょうか。この記事では、溶連菌感染症の症状や原因から大人の感染、治療法、ワクチンなどについて解説します。 溶連菌感染症とは 溶連菌(溶血性連鎖球菌)感染症とは、主にA群溶血性レンサ球菌の感染によって引き起こされる感染症です。菌が侵入した部位や組織に応じてさまざまな症状が現れます。「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型溶血性レンサ球菌感染症への進展も懸念されるため、放置せずに医療機関を受診することが大切です。 溶連菌感染症の症状 溶連菌感染症は、2~5日の潜伏期間を経て発熱や全身倦怠感、咽頭痛、軟口蓋の小点状出血、いちご舌、嘔吐などの症状が現れます。また、溶連菌の発赤毒素という酵素によって、咽頭痛と発熱、皮膚症状として皮疹が現れる場合があります。この状態はかつて「猩紅熱(しょうこうねつ)」と呼ばれていました。なお、皮膚症状をきたす溶連菌感染症は夏に、咽頭に症状が現れるものは冬に流行する傾向があります。 溶連菌感染症の原因 溶連菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌が飛沫感染か接触感染することでかかります。家庭だけではなく、学校や会社などで集団感染が起きる場合もあります。 溶連菌感染症にかかりやすい年齢は?大人もかかる? 溶連菌感染症は年齢を問わず罹患する可能性がありますが、学童期の子どもに多くみられます。また、3歳以下や大人は感染しても典型的な症状が現れず、軽症で済む傾向があります。 溶連菌感染症の治療法 溶連菌感染症の治療には、ペニシリン系抗生物質の内服薬を使用します。ただし、薬剤に対するアレルギーがある場合は、第1世代のセフェム系抗生物質やマクロライド系抗生物質のエリスロマイシンの使用も可能です。最低でも10日は内服を続ける必要があります。それでも細菌を除去できていないと思われる場合には、追加で別の抗生物質を使用します。 なお、溶連菌感染症は学校保健安全法で「第三種学校伝染病」に指定されており、治療開始から 24 時間が経過し、全身状態が良ければ登校・登園が可能です。会社についても同様の扱いで出社できます。ただし、溶連菌感染症は重症化のリスクもあるため無理は禁物です。 溶連菌感染症に有効なワクチンはない 溶連菌感染症の予防や症状の軽減に有効なワクチンは、製造されていません(2024年2月現在)。そのため、感染予防と発症時の適切な対処がより重要といえます。また、溶連菌に感染しても終生免疫ができるわけではないため、生涯で複数回かかる可能性があります。周りに溶連菌感染症の人がいる場合は、うつる可能性を踏まえて対応することが大切です。 溶連菌感染症を放置するとどうなる? 溶連菌感染症は、抗生物質による治療を行わなくても自然に治癒する場合があります。しかし、重症化する可能性があるため、症状が現れたら放置せずに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。溶連菌感染症の重症化に関して、警戒すべきは「人食いバクテリア」とも呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。 人食いバクテリアとは 人食いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)の場合、皮膚や粘膜から通常は無菌の肺や筋肉、脂肪組織や血液に溶血性レンサ球菌が侵入し、発症します。手足の壊死や多臓器不全、肺炎などにより死亡することもある疾患です。発熱や食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、全身倦怠感、低血圧、筋肉痛などから始まり、循環器や呼吸器などさまざまな臓器の機能が低下します。 通常、発症から24時間以内に多臓器不全が起きるという、急速に病状が進展する疾患です。国立感染症研究所によると1)、A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発症数は2023年に340例(死亡97例)です。そのうち、20歳未満は約4%、20~49歳が約24%、50~69歳が35%、70歳以上が約37%で、大人のほうがかかりやすい疾患といえます。少しでも症状が現れた場合はすぐに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。 * * * 溶連菌感染症は、発熱や咽頭痛、皮膚症状などを伴う感染症です。猩紅熱や人食いバクテリアへと進展するかどうかは発症時にはわかりません。訪問先で利用者さんやその家族に溶連菌感染症を疑う症状がみられた際は、医療機関を受診するよう促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長  医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【引用】1)国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html2024/2/6閲覧 【参考】〇NIID国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html2024/2/6閲覧〇国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html2024/2/6閲覧〇厚生労働省「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html2024/2/6閲覧

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小児感染症 手足口病
小児感染症 手足口病
特集
2023年8月1日
2023年8月1日

手足口病の症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

手や足、口腔内などに発疹が現れた場合、手足口病が疑われます。手足口病は、子どもの病気のイメージが強いものの大人も罹患する場合があります。しかも、子どもと比べて症状が強く現れる傾向があるため、抵抗力が低い高齢者と関わることが多い訪問看護師は特に注意が必要です。本記事では、手足口病の症状や原因、治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 手足口病とは 手足口病(HFMD:hand, foot and mouth disease)は、口腔粘膜や手足などに水疱性の発疹が現れる感染症です。日本では1967年頃に存在が明らかになりました。必ずしも発熱するとは限らないことから感染に気づかずに周囲の子どもと接触し、感染を拡げてしまうケースもあります。 手足口病の症状 手足口病は、3~5日の潜伏期間を経て口腔粘膜や手のひら、足底、足背といった四肢の末端部分に2~3mm程度の水疱が現れます。ただし、肘や膝、臀部などに現れる場合もあるなど個人差があります。口腔粘膜は時間が経つと小さな潰瘍が形成されることもあるため、必要に応じて観察することが大切です。 発熱は1/3程度に見られますが、38℃以下の軽度であることがほとんどです。症状が改善するまでにかかる期間は3~7日程度で、水疱はかさぶたが形成されません。主症状は重篤なものではないものの、まれに髄膜炎や脳炎、小脳失調症などの合併症を引き起こすことがあるため注意が必要です。また、治療後1~2ヵ月頃に手足の爪が剥がれる爪変形・爪甲脱落症が起きる場合があることが報告されています。 手足口病が流行する時期 例年、4歳頃までの子どもを中心に夏季に流行します。また、半数を2歳以下の子どもが占めますが、学童期の子どもの間で流行することもあります。なお、手足口病は5類感染症定点把握疾患に定められた病気です。 手足口病の原因 手足口病は、主にコクサッキーウイルスA6・A16やエンテロウイルス71による感染で発症しますが、まれにコクサッキーウイルスA10が原因となります。主に咽頭からウイルスが排出され、飛沫感染でうつります。また、水疱内容物による接触感染にも注意が必要です。そのほか、症状が消失してから2~4週間も便にウイルスが排出されるため、子どものトイレやおむつ換えの後は必ず手洗いや消毒を行いましょう。 手足口病を引き起こすウイルスは複数あるため、一度罹患しても再び手足口病に罹患する可能性があります。 手足口病の検査方法・診断 医療機関では、水疱の性状と分布をはじめとする臨床症状のみで診断されることが一般的です。また、季節や流行状況なども診断材料の1つになります。確定診断には、咽頭拭い液や水疱内容物、便などの検体を用いたウイルス分離かウイルス検出が必要です。 手足口病の治療法 手足口病の原因となるウイルスに有効な抗ウイルス薬は存在しません。また、ウイルスには抗生剤の投与も効果がありません。発熱や水疱のほかに治療が必要な症状が現れることは少ないため、対症療法すら不要な場合もあります。まれに発疹にかゆみを伴うため、必要に応じて抗ヒスタミンの外用薬を使用します。なお、通常は炎症を抑えることを目的に副腎皮質ステロイド外用薬を使用することはありません。 口腔粘膜に生じた水疱に対しても、柔らかくて薄味の食べ物が推奨されている程度であり、特別な治療法がなく、基本的には経過観察します。食欲不振がある場合は脱水が懸念されるため、水分を少量ずつ頻回に与える必要があります。 元気がない、吐き気や頭痛、高熱、発熱の2日以上の持続などの症状がある場合は髄膜炎や脳炎への進展が懸念されるため、早急に医療機関を受診することが重要です。 手足口病は大人がかかったらどうなる? 大人が手足口病に罹患した場合、子どもと比べて発疹の痛みが強く現れる傾向があります。足裏にひどく現れた場合は、痛みで歩けなくなることも懸念されます。そのほか、インフルエンザの発症前のような全身倦怠感や関節痛、筋肉痛、悪寒などが現れることもあります。 手足口病の予防法 手足口病は、症状が消失してからも長期間にわたりウイルスが便から排出される場合があります。また、無症状でウイルスを排出するケースもあるため、流行期に患者との接触を避けるだけでは感染を完全に防ぐことは困難です。 一般的な感染対策として、外出先から帰ってきたときの手洗いやうがい、排泄物の適切な処理などを徹底しましょう。 * * * 手足口病は、口腔粘膜や手足などに水疱が現れる病気です。発熱するケースは約1/3と少ないものの、脳炎や髄膜炎に進展する可能性が否定できないため、発熱に伴って頭痛、嘔吐、意識の混濁、ひきつけなどの症状が現れていないか注意深く観察する必要があります。なお、大人が感染すると子どもの場合と比べて重い症状が現れやすいため注意が必要です。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「手足口病とは」(2014年10月17日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.html2023/6/26閲覧〇厚生労働省「手足口病に関するQ&A(2013年8月)」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/hfmd.html2023/6/26閲覧

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特集
2022年3月1日
2022年3月1日

Spo2(サチュレーション)が低いが「苦しくない」と答える患者への確認ポイント5つ

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第5回は、SpO2が平常時は95%あるのに、90%になっている患者さん。呼吸困難感を尋ねると本人は「苦しくない」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 ベッド上で全介助の82歳男性。バイタルサイン測定時にSpO2が90%でした。ふだんは95%ぐらいあり、呼吸困難感について尋ねたのですが、「苦しくない」と言っています。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 SpO2が90%であり、低酸素状態が疑われます。高齢者では呼吸困難の自覚が乏しいことがあるので、客観的データを十分に収集する必要があります。低酸素状態は、▷肺や呼吸の問題 ▷循環の問題 ── が考えられます。 一方、全身的な低酸素状態ではないのに、測定部位の循環障害でSpO2値が低く出る場合があるので、まずは正しく測定できているかの確認から始めましょう。 ここに注目! ●SpO2値でみると、低酸素状態であり、呼吸障害や全身の循環不全が考えられるのでは?●症状がほとんどないことから、末梢のみの循環障害か? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・低酸素に伴う症状(呼吸困難、胸が苦しい感じ、頭痛、頭が重い感じ、ぼーっとする感じ、目の見えにくさ、声の出にくさ、言葉の出ない感じ、不安感、焦燥感、傾眠傾向、など)・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、喘鳴、など)・生活への影響(食欲・食事摂取量の低下、活動量・活気の減少) 客観的情報の収集 SpO2測定部位の末梢循環 SpO2が低く出たときの測定部位の指先について、冷感、皮膚の色、圧迫されていないかを確認します。 SpO2を簡便に測定することができるパルスオキシメーターのしくみは、手または足の指にプローブを装着することで、血液の色を検知し、酸素と結びついたヘモグロビンがどの程度存在するかを計算します。循環障害のない(皮膚色の変化のない)指で測定しなければ、正しい値が出ないことがあります。 SpO2が低く出た測定部位が一時的な循環不全だった可能性があれば、加温やマッサージ後に、もう一度測定します。また、ほかの手指、足指で測定してみて値が回復するようなら、全身的な低酸素状態ではないと確認できます。 チアノーゼと冷汗 全身性のチアノーゼ、じっとりとした冷たい汗をかいている場合は、全身の循環障害(ショック状態)が強く疑われます。速やかな対応が必要です。 呼吸数・胸郭拡張の確認 もし低酸素状態であれば、頻呼吸となり、浅速呼吸や努力呼吸になっていることがあります。 平均的な呼吸数は12~20回/分です。必ず呼吸数を確認し、報告しましょう。 胸郭の視診・触診で、呼吸運動が十分に行われているかを確認します。ただし、COPDなど閉塞性の肺疾患のある人は、もともと胸郭が動きにくいので、胸鎖乳突筋や腹筋などの呼吸補助筋の緊張が高まっていないかをチェックすることが役立ちます。 肺音の聴取 努力呼吸のときには呼吸音は増大します。大きく聞こえているからといって、酸素を十分に取り込めているわけではないので注意してください。呼吸音の消失や減弱、代償性の増強、肺胞音が聞かれるべき部位で気管支呼吸音のような強い音が聞かれる気管支呼吸音化をチェックします。 副雑音は正常では聞かれない音です。副雑音があるようなら、肺胞や気管支に何らかの異常があると判断できます。 脈拍・血圧測定 呼吸機能が原因の低酸素の場合、末梢へ酸素供給を行うために脈拍が速くなり、血圧は高くなります。低酸素状態が悪化すると血圧は低下します。 報告のポイント ・正しく測定したSpO2の値とその経過・バイタルサイン・呼吸形態や肺音聴取の結果から、呼吸器障害の推測・全身の循環障害の徴候 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説
訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説
特集
2023年9月19日
2023年9月19日

訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説

訪問看護で適用される保険は、医療保険と介護保険です。医療保険は、病気やけがをしたときにかかる治療費の一部をカバーしてくれる保険で、介護保険は介護の費用負担を軽減してくれる保険です。 訪問看護の場合、利用者さんの年齢や状態などによって適用される保険が変わってきます。改めて医療保険と介護保険との違いや、それぞれの保険が適用される際の条件を確認しましょう。 医療保険と介護保険の適用条件 医療保険と介護保険の適用条件の違いをまとめると、以下のようになります。 それぞれ、もう少し詳しく見ていきましょう。 医療保険の場合 医療保険では、以下の年齢や条件で区分を設けています。 40歳未満(0~39歳)の方40歳以上~65歳未満で16特定疾病(※1)以外の方40歳以上~65歳未満で介護保険第2号被保険者(※2)ではない方65歳以上で要支援・要介護の認定を受けていない方 ※1 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」※2 介護保険第2号被保険者…40歳以上65歳未満の健保組合、全国健康保険協会、市町村国保などの医療保険加入者 医師によって訪問看護の必要があると判断された40歳未満の方や、16特定疾病以外の40歳以上65歳未満の方、要支援・要介護の認定を受けていない65歳以上の方が、基本的に医療保険の適用となります。ただし、要支援・要介護の認定を受けていても、「厚生労働大臣が定める疾患等」(19の疾病と1つの状態)に該当する場合は、医療保険の適用です。また、特別訪問看護指示書が出た場合も医療保険を利用できます。 介護保険の場合 介護保険の年齢区分も、医療保険と同様に40歳以上65歳未満、65歳以上となっていますが、介護保険の適用条件は次のとおりです。 40歳以上~65歳未満の第2号被保険者で16特定疾病の方65歳以上の第1号被保険者で要支援・要介護認定を受けている方(第1号被保険者) 原則として、医療保険と介護保険を併用することはできません。厚生労働大臣が定める「厚生労働大臣が定める疾患等」に当てはまる場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は医療保険になります。 訪問看護で医療保険が優先されるケースは? 先述したように、厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態に当てはまった場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は医療保険が優先されます。仮に要支援や要介護の認定を受けている場合でも、医療保険が優先になるため注意しましょう。 「厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態」 末期の悪性腫瘍多発性硬化症重症筋無力症スモン筋萎縮性側索硬化症脊髄小脳変性症ハンチントン病進行性筋ジストロフィー症パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ三以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る。))多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症及びシャイ・ドレーガー症候群)プリオン病亜急性硬化性全脳炎ライソゾーム病副腎白質ジストロフィー脊髄性筋萎縮症球脊髄性筋萎縮症慢性炎症性脱髄性多発神経炎後天性免疫不全症候群頸髄損傷人工呼吸器を使用している状態 医療保険と介護保険の利用条件と保険料 利用条件の違い 医療保険と介護保険では、以下のとおり利用条件の違いがあります。 ■医療保険と介護保険の利用条件の違い  医療保険介護保険支給限度額上限なし上限あり利用回数週3回まで制限なし利用時間1回30~90分20分未満、30分未満、30分以上60分未満、60分以上90分未満の中から選べる 大きな違いは、「月の支給限度額」の有無でしょう。医療保険には限度額が設定されていませんが、利用し放題にならないよう、次の条件で利用する決まりになっています。 医師に必要性を認められれば、1日1回30~90分、週3回まで利用可能厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態に該当した場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は、1日2~3回、かつ週4日以上利用可能 介護保険で訪問看護を利用する場合は、利用回数に制限はありません。ただし、支給限度額に上限があるため、限度額の範囲内で収まるように訪問看護を利用する必要があるのです。訪問看護以外にも介護保険を使ったサービスを利用するケースが多いため、結果的に訪問看護の利用は週1~2回に抑えられることが多いでしょう。 保険料の算出方法の違い また、保険料の算出方法も異なります。 医療保険の場合、以下の合計により報酬単位を算出します。1単位当たりの料金は、全国一律で10円です。 訪問看護基本療養費(週当たりの訪問日数に応じて変動)訪問看護管理療養費(月の初日と2日目以降で金額が異なる)各種加算(緊急訪問看護加算、難病等複数回訪問看護加算、長時間訪問加算 など) 介護保険の場合、介護度や訪問時間、各種加算(退院時共同指導加算、夜間・早朝加算、サービス提供体制強化加算など)により報酬単位数を算出します。1単位当たりの料金は、地域区分によって変動します。 訪問に入るまでの流れの違い 医療保険の場合、主治医や近くの訪問看護ステーションに相談し、必要性が認められれば訪問看護の利用が可能です。しかし、介護保険の場合はまず要介護の認定を受ける必要があるため、要介護認定の申請をしなければなりません。すでに要介護の認定を受けている場合は、担当のケアマネジャーに相談します。 その後は、医療保険・介護保険のどちらも主治医から訪問看護指示書により指示を受けます。医療保険の場合は、訪問看護ステーションやかかりつけ医などに相談するケースが多く、介護保険の場合は担当のケアマネジャーがコーディネートするケースが多いです。 * * * 訪問看護の利用において、医療保険と介護保険のどちらが適用されるかは、利用者さんの状況によって異なります。改めてそれぞれの基本的な適用条件を確認しましょう。 また、利用者さんの病状や状況、年齢は変化するため、変化に応じて保険の見直しが必要になります。質問されることもあるので、きちんと理解しておくことが大切です。 執筆:柿野 俊弥監修:川島 峻監修者プロフィール:医師、医学博士。横浜市立大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業。虎の門病院、東大病院心臓呼吸器外科などで勤務ののち、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital留学。帰国後、新宿アイランド内科クリニック院長として幅広い世代に対して内科疾患、予防医療を中心に診療している。呼吸器専門医、胸部外科専門医会員、呼吸器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医。編集:株式会社パンタグラフ 【参考】○厚生労働省「訪問看護のしくみ」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000123638.pdf(2023/6/20閲覧)〇公益財団法人 日本訪問看護財団「厚生労働大臣が定める疾病等について」https://www.jvnf.or.jp/shippei100420.pdf(2023/6/20閲覧)

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特集
2022年5月31日
2022年5月31日

「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第11回は、ふだんは朝に排尿があるのに、昨夜から今朝まで排尿がない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 おむつを使用して排泄している90歳男性。ふだんは朝に排尿があるにもかかわらず、昨日の夜から、朝までおむつに排尿がみられません。 あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 尿が出ていない場合は、①尿の生成量が少なく、膀胱に尿がほとんど貯留していない(乏尿・無尿) ②尿の生成ができていて膀胱に貯留していても排出できない(尿閉) ── が考えられます。 ①乏尿では、▷脱水や嘔吐、発熱、心臓のポンプ能力の低下などで腎血流量が減少して尿の生成ができない ▷腎機能そのものに障害がある ▷尿路結石や腫瘍の浸潤により尿管が閉塞し、膀胱に尿がたまらない状態 ── などが考えられます。 ②尿閉は、膀胱よりも下位の障害、神経因性膀胱や前立腺肥大、尿道狭窄により起こるものです。患者さんの苦痛が大きく、放置しておくと尿貯留が上行性に広がり、水腎症や腎盂腎炎などを引き起こす恐れがあります。 乏尿(無尿)と尿閉では対処方法がまったく違いますので、これらが区別できるような情報を収集し、報告しましょう。 ここに注目! ●乏尿(無尿)により排尿がないのではないか?●尿閉により排尿がないのではないか? 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。最終排尿からの時間で換算すると、単純計算では8時間以上間隔が空くと要注意です。 ただし、ホルモンや血流量の関係で、日中は排尿間隔が長く、夜間には短くなるので、いつもの排尿時刻や回数と比較してください。 腎機能が保たれているのに尿量が少ない場合は、尿が濃くなります。最終排尿の色や臭気、いつもとの違いを確認してください。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 体温測定 高体温になると、不感蒸泄の増加で脱水状態となり、乏尿をきたす可能性があります。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 尿閉のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など)・尿閉の原因(前立腺肥大、尿線が細い、残尿がある、脳血管疾患や脊髄疾患等、神経因性膀胱となる要因、など) 尿閉のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 最終排尿時刻を確認し、どれくらいの時間出ていないのか、排泄できずに貯留している尿量を見積もります。また、ふだんの排尿時に、尿線が細い、排尿に時間がかかる、出きらない感覚がなかったかを確認します。 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、血圧や脈拍が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症の患者さんの場合には、苦痛の有無をバイタルサインから推測してください。 膀胱内の尿貯留の確認 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉などで貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 腎臓の叩打診 背部の肋骨の下縁くらいに手を置き、その手の上を叩きます。両側行います。 尿路結石や尿路の狭窄では、叩打診をした場合に響くような痛みを感じることがあります。 カテーテルを挿入しての尿排出の確認 医師の指示を得て行いましょう。カテーテルを挿入する経路に狭窄や閉塞がある可能性があるので、なるべく細いカテーテルを用いること、違和感があった場合は速やかに挿入をやめて、医師に相談することが必要です。 報告のポイント ・最終排尿時刻と尿の性状、本人の訴え・乏尿または、尿閉の可能性があると判断したアセスメント結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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血行障害 対策&予防
血行障害 対策&予防
特集
2023年10月17日
2023年10月17日

血行障害とは?血行不良や血流障害との違いから症状・原因・対処法まで解説

身体の冷えや不規則な生活などによって血液が流れにくくなります。その結果、肩こりや関節痛、冷え、むくみなどの不調が起こるほか、心筋梗塞や脳梗塞といった生命に関わる病気のリスクが高まります。 本記事では、血行障害がどのような状態を指すのかを解説するとともに、血行不良や血流障害との違い、症状、原因、対処法などについて詳しくご紹介します。 訪問看護における利用者さんのアセスメントはもちろん、ご自身の体調管理にもお役立てください。 血行障害・血行不良・血流障害の違い 血行障害と血行不良、血流障害は、しばしば同じ状態を指す言葉として扱われています。 血行と血流の定義は以下のとおりです。 血行……身体に血が巡ること血流……血液が血管を流れること つまり、血行障害と血行不良は、身体に血液が正常に巡ることができなくなっている状態です。血流障害は、血管内に血液がうまく流れない状態を指します。 血流障害が起きている状態では身体に血液がうまく巡らなくなるため、血行障害・血行不良・血流障害はほぼ同じ意味といえるでしょう。 本記事では、血行障害と血行不良、血流障害は同じものとして扱い、症状や起こりえる病気、対処法などについて解説します。 血行障害の症状 血行障害が起きると身体にさまざまな不調が現れます。 肩こり・関節痛 血行障害が起きている状態では、筋肉が負荷を受けたときに発生する疲労物質が特定の部位に溜まり、炎症や筋肉の緊張を引き起こします。その結果、重い頭を支える首や肩、身体の軸となる腰などを中心に、全身に痛みやこりなどが現れます。 冷え 血液は、体温調節に関与しています。血行障害があると、心臓から遠く離れた手足に血液が十分に届かなくなり、冷えが起こります。手足のような末梢部は血管が細いため、ただでさえ血流が滞りやすい部位です。また、全身が冷えると頭痛やめまい、下腹部の痛みなどが現れるほか、感染症にかかりやすくなります。 むくみ 血行障害によって下半身の血液の流れが滞ると、血液中の水分が血管の外ににじみ出ることでむくみが生じます。足が大きくむくむことで靴のサイズが合わなくなったり、靴ずれが起きたりします。 血行障害の原因 血行障害は複数の要因が重なって生じます。それぞれの要因について詳しく見ていきましょう。 運動不足 軽いむくみや少し冷える程度の症状は、運動不足の方によく見られます。運動不足の方は筋肉量が少ないため、筋肉が収縮するときに血液を押し上げる「筋ポンプ作用」が弱くなります。その結果、全身への血流が不足して、むくみや冷えなどの症状が現れます。 不規則な食生活 食事の回数が少なく、1回でカロリーを過剰に摂取する食生活は肥満につながります。肥満になると、血行が悪くなる糖尿病や脂質異常症、高血圧症などのリスクが高まります。また、これらの病気は動脈硬化を促すため、不規則な食生活は血行障害の要因といえるでしょう。 身体の冷え 身体が冷えると末梢部まで血液が届きにくくなります。その結果、冷えやむくみといった血行障害による症状が現れます。 動脈硬化 動脈硬化とは、動脈の血管の弾力性が失われて硬くなることです。動脈硬化にはいくつかの種類がありますが、一般的に動脈硬化といえば、血管壁にお粥のような粥腫(アテローム)が作られる「粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)」を指します。粥状動脈硬化が起きると、血管の内腔が狭くなることで血行障害が生じます。 血行障害によって起こりえる病気 血行障害が起きると、次のような病気・症状が生じるリスクが高まります。 閉塞性動脈硬化症 閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化によって血管の内腔が狭くなったり詰まったりすることで血行障害が起きる疾患です。手足の冷えやしびれなどが現れ、進行すると筋肉に痛みが生じます。血行障害がさらに進行すると歩行中に足が痛くなり、歩けなくなることもあります。 狭心症 心臓への血行が悪くなると、心臓に酸素や栄養が十分に供給されなくなります。こうして起きる疾患を虚血性心疾患といい、狭心症や心筋梗塞などが挙げられます。 狭心症は、動脈硬化や血栓などによって心臓の血管が細くなり、血行障害が生じることで心臓への血流が不足した状態です。胸の痛みに加え、左腕、左肩、顎などの圧迫感が生じます。 心筋梗塞 心筋梗塞は、冠動脈が詰まることで心臓への血液の流入が極端に少なくなるか、まったくなくなってしまい、心臓の筋肉が壊死する疾患です。胸の痛みや冷や汗、吐き気、嘔吐、呼吸困難などが生じます。 脳梗塞 脳梗塞は、内頚動脈や椎骨動脈などの血管が詰まったり狭くなったりして、脳に十分な血液が供給されなくなる疾患です。身体の片側の麻痺や失語、意識障害などが現れます。 潰瘍・壊死 血行障害によって、酸素や栄養が細胞に供給されなくなると、その部分に潰瘍や壊死が生じる恐れがあります。例えば、糖尿病患者が血糖コントロールが不良な場合、下肢への血行障害が生じて潰瘍や壊死が起こります。 血行障害の対処法 単なる運動不足や身体を冷やすことで起きている血行障害であれば、生活習慣の改善や身体を冷やさないことで対処できるかもしれません。しかし、動脈硬化による血行障害が生じている場合は医療機関で治療が必要です。血行障害の症状が現れている場合は、まずは医療機関を受診しましょう。 血行障害の対処法は原因や状況で大きく異なります。医療機関での治療法と日常における対応方法についてご紹介します。 薬物療法 動脈硬化が起きている場合は、血管拡張薬や抗凝固、抗血小板薬などを使用することがあります。使用する薬は、患者の状態や動脈硬化の程度などで異なります。 生活習慣の改善 肩こりや冷え、むくみなどが起きている場合は、規則正しい睡眠習慣や食生活、適度な運動、ストレスケアなどから始めましょう。動脈硬化が起きている場合も、生活習慣の改善を医師に指導されます。 身体を冷やさない 身体が冷えると血流が滞りやすくなるため、エアコンや衣類などで適温を保つようにしましょう。ただし、エアコンの過剰な使用は自律神経のバランスが崩れることで疲労や肩こり、むくみなどを悪化させる恐れがあります。 * * * 血行障害は、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞といった生命に関わる病気のリスクが高まるため、少しでも気になったら医師に相談しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07384.html2023/7/17閲覧〇一般社団法人日本ペインクリニック学会「血行障害性疼痛」https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_kekkou.html2023/7/17閲覧

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フットケア・爪切りのお悩み解決/基礎知識編
フットケア・爪切りのお悩み解決/基礎知識編
特集 会員限定
2024年4月23日
2024年4月23日

フットケア・爪切りのお悩み解決/基礎知識編【セミナーレポート前編】

2024年1月19日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア~爪切りのお悩み解決!~」を開催しました。講師を務めてくださったのは、これまで4,000人を超える方にフットケアを提供してきた、「爪切りパチパチwako」代表の三浦和子さん。訪問看護の経験もある三浦さんに、フットケアの重要性や、在宅の現場でも実践できるテクニックを伺いました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、フットケアの意義や目的、爪切りのやり方をまとめています。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】三浦 和子さん看護師/日本在宅フットケア普及協会 副理事長/爪切りパチパチwako 代表看護師として病院に勤務し、外来と訪問看護の両方を経験。同時にメディカルフットケアについて学び資格を取得。病院在籍中、延べ4,000名を超える患者さんに対し、爪切りを中心としたフットケアを実践。2023年に独立し、「爪切りパチパチwako」を設立。メディカルフットケア技術・ペディグラス巻き爪補正技術を活かし、病院や施設、在宅で足病予防のためのフットケアに取り組んでいる。 フットケアの利点と目的 フットケアは、足病変の改善や予防、転倒予防などに有効な身体ケアのひとつです。 私はこれまでに4,000名を超える方々の足をケアしてきましたが、ケアの後は多くの方が次のようなポジティブな変化を実感しています。 【フットケア後に寄せられた声の一例】・巻き爪が痛まなくなった、化膿しなくなった・靴下を脱いでも安心して眠れるようになった・足が軽くなった・つまずかなくなった・膝や腰が楽になった・外出が楽しくなり、気持ちが前向きになった 足の健康は体の健康であり、フットケアはQOLの向上や健康寿命の延伸、医療費の削減にも貢献できると考えています。フットケアとは、いつまでも歩き続けられるように足をねぎらうことなのです。 フットケアの基本 足の裏の皮膚には、毛根とセットの皮脂腺がなく、乾燥しやすいという特徴があります。さらに、高齢になると皮膚は脆弱になり、爪の乾燥傾向も顕著に。その上、靴や靴下を履くことで高温多湿の環境におかれ、菌も繁殖しやすくなります。また、靴や靴下が長時間密着することによって、足の裏にたくさんの汗をかくこともあるでしょう。その汗を靴下が吸うと、冷えや多湿による皮膚の浸軟にもつながります。 フットケアで最も大切なことは、まず足を毎日見ること。足の皮膚、爪の状態をこまめに確認し、保湿・保清を行い、環境を整える必要があります。 爪切りのポイント 爪は、指の先にかかる負担のバランスをとったり、体重を支えたり、転倒しそうになったときにはストッパーになったりと、いろいろな役割を担っています。そのため、フットケアの中でも爪切りはとくに重要だといえるでしょう。ここからは、爪切りのポイントをいくつかご紹介します。 なお、爪切りのやり方は必ずしもひとつの正解があるわけではなく、流派によってアプローチ方法が異なることも。今回ご紹介する方法はあくまで私が実践している一例として参考にしていただき、利用者さんお一人おひとりの爪に合った方法を検討してもらえたらと思います。 一度に全体を切る&三角切りはNG 爪は湾曲しているため、一度に全体を切ろうとすると負担がかかり、ひびが入ったり縦に割れたりしやすくなります。 それから、両端から中央に向けて斜めに爪切りを入れ、上から見ると爪の先端が「三角」になるように切る(三角切り)のもNGです。爪は3層構造になっており、そのうち表面(背爪)と皮膚に接する層(腹爪)は縦方向に繊維が走っています。さらに、爪は両端が内側に巻く習性もあるため、三角切りを続けていると、どんどん巻き爪になってしまいます。また、先端がとがっていると、体重をかけたときに皮膚が傷つく可能性もあるでしょう。 爪を切る際は、一度に全体を切ったり三角切りをしたりせず、指の湾曲に合わせて切ってください。 爪切り後&爪の状態に応じてヤスリをかける 爪を切った後は、必ずヤスリをかけて断面をなめらかにしてください。ヤスリのかけ方としては、両端から中央に向かい、力を入れずに「一方かけ(往復させずに同じ方向にかける)」をします。 また、爪の端が割れたり欠けたりしている場合、斜めに切って段差をなくそうとすると巻き爪の原因になります。そういうときは無理に切らず、ヤスリをかけてなめらかにし、切れる状態まで爪が伸びるのを待ってください。 事前準備と指の持ち方で痛みや事故を防ぐ 爪切りをする際は、必ず事前に角質を取り除き、爪と皮膚をしっかり分けてから切りましょう。これにより、誤って皮膚を傷つけてしまう事故を防げます。 ただし、注意していただきたいのが指の持ち方です。爪切りをする際、上の図のように指先の肉を下側へ引っ張る方が多く見られます。爪と皮膚を離そうとする気持ちはよくわかりますが、爪床と爪が離れると痛みが生じてしまいます。そこで私たちは、第1関節から指先に向かって皮膚を持ち上げ、指の皮膚を押すようにして持ちます。爪切りの際には、安定性・安全性の面からも利用者さんの指を正しく持つことが大切です。 変形爪の爪切り方法 続いて、変形が見られる爪の切り方をいくつかご紹介します。 肥厚した爪 肥厚した爪はとても硬いものですが、水を吸いやすい性質があり、水分を多く含むと柔らかくなります。そのため、入浴時や靴の中が蒸れている際は、ぐらついたり抜爪したりする可能性が高まるのです。そこに体重をかけると、爪内や爪周囲の皮膚を傷つけて出血する危険性もあります。 肥厚した爪にはまずヤスリをかけ、根本から爪先まで表面を平らにしてください。なお、肥厚した爪の表面をつまんでニッパーや爪切りで切る方もよく見られますが、その切り方だとさらに厚く成長してしまいます。また、肥厚した爪内に皮膚が盛り上がっている可能性があるため出血のリスクも。必ずヤスリで削りましょう。 かぶり爪、鬼爪 上記の写真のような「かぶり爪」や両端が角のように伸びた「鬼爪」のケアでは、まず足浴で爪を柔らかくし、ゾンデで角質を除去するところから始めてください。すると、爪と皮膚の間に少しすき間ができるので、そこから少しずつ時間をかけて切りましょう。無理に爪を持ち上げると痛みが出るため、切る前の準備を丁寧に行うのがポイントです。処置が難しい場合はフットケア外来や専門の医療機関の受診をご検討ください。 >>後編はこちらフットケア・爪切りのお悩み解決/ケーススタディ編【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナ
特集
2023年7月18日
2023年7月18日

ヘルパンギーナの症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

ヘルパンギーナは主に子どもが罹患する感染症ですが、大人も罹患する可能性があります。重症化しやすいとの報告もあるため、子どものみの病気と考えずに対応方法について確認しておくことが大切です。本記事では、ヘルパンギーナの特徴や症状、原因から治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 ヘルパンギーナとは ヘルパンギーナは、エンテロウイルスに感染することで発熱とともに水疱性の発疹が口腔粘膜に生じる病気です。乳幼児を中心に夏季に流行する「夏かぜ」の一種とされています。 ヘルパンギーナの症状 ヘルパンギーナの潜伏期間は2~4日です。突然の発熱に続き咽頭痛が生じ、咽頭粘膜に強い赤みが現れます。その後、主に軟口蓋から口蓋弓にかけて、赤くなった皮膚に囲まれる形で小水疱が現れます。小水疱の大きさは通常1~2mm程度ですが、5mm程度の大きいものが現れる場合もあります。 発熱に熱性けいれんを伴うほか、咽頭痛による食欲不振や哺乳障害が問題となる場合があるため、対症療法で症状をなるべく和らげることが重要です。まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎などを合併することがあるため、38~40度の発熱や頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、胸の痛み、関節痛、筋肉痛などの症状に注意しましょう。 ヘルパンギーナが流行する時期 ヘルパンギーナは5月頃から増え始め、7月頃にピークを迎えます。8月頃から減り始め、9〜10月にはほぼ見られなくなります。このように季節性があるものの、ほかの時期にまったく見られなくなるわけではありません。 また、日本では西から東へと拡がっていく傾向があります。患者の90%以上は5歳以下で、最も多いのは1歳、そして2歳、3歳、4歳と続きます。 0歳と5歳の罹患数はほぼ同じです。ヘルパンギーナは5類感染症定点把握疾患であるものの、学校において予防すべき伝染病としては規定されていません。 そのため、一律で学校長の判断によって出席停止とするものではなく、対応については学校ごとに異なります。欠席者が多い、流行の規模が大きい、合併症を伴うケースが見られることで保護者の間で大きな不安が生じている場合、学校医との相談の上で出席停止の扱いとすることがあります。 ヘルパンギーナの原因 ヘルパンギーナは、エンテロウイルスによる感染症です。エンテロウイルスはピコルナウイルス科に属するRNAウイルスの総称で、以下のようなウイルスが該当します。 ・ポリオウイルス・コクサッキーウイルスA群(CA)・コクサッキーウイルスB群(CB)・エコーウイルス・エンテロウイルス(68~71型) ヘルパンギーナの主な原因となるウイルスはコクサッキーウイルスA群(CA)ですが、コクサッキーウイルスB群(CB)やエコーウイルスが引き起こす場合もあります。 急性期にはウイルスの排出量が多く、感染力も強いとされています。ただし、エンテロウイルスは症状が消失してからも2〜4週間は便からウイルスが排出される場合があるため、回復後もしばらくは油断できません。 ヘルパンギーナの検査方法・診断 ヘルパンギーナの確定診断には、口腔内の拭い液や水疱の内容物を含むもの、便などによるウイルス分離またはウイルス抗原の検出が必要です。 ただし、実際の医療の現場では臨床症状のみで診断することがほとんどです。 ヘルパンギーナの治療法 エンテロウイルスそのものに効果がある抗ウイルス薬は存在しないため、対症療法が主な治療法です。発熱や頭痛には解熱鎮痛作用がある内服薬を使用する場合があります。 脱水が生じている場合は必要に応じて輸液を行います。咽頭痛によって飲食を敬遠する場合があるため、脱水を防ぐために薄味で柔らかく口当たりがよいものを与えます。 ヘルパンギーナは大人がかかったらどうなる? ヘルパンギーナは、大人が罹患すると子どもと同じく光熱や口腔粘膜の小水疱などの症状が現れます。ただし、子どもと比べて症状が強く、高熱や非常に強い咽頭痛のほか、筋肉痛や頭痛、関節痛が現れる場合があります。 また、症状が現れている期間が長く、重症化しやすい点も特徴です。 ヘルパンギーナの予防法 ヘルパンギーナの予防法は、ほかの感染症と同じです。主な感染経路は、飛沫感染・接触感染・経口感染です。流行時には手洗いうがいをより入念に行いましょう。また、ヘルパンギーナの感染者との密接な接触をなるべく避けることも大切です。 ウイルスは長期間にわたり便から排出されるため、子どもがトイレで排泄できる場合は、手洗いや手指消毒を必ず行うように指導し、おむつを使用している場合は交換後に手洗いと手指消毒を徹底します。 流行時にはおもちゃの貸し借りも避けたほうがよいでしょう。エンテロウイルス対策として、ものを洗浄・消毒する場合は、念入りな洗浄と清拭でウイルスを物理的に除去した上で、0.02%に希釈した次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。 * * * ヘルパンギーナは、突然の発熱・口腔粘膜の小水疱などを主症状とする感染症です。主に罹患するのは5歳以下の子どもですが、大人がかかる場合もあります。大人は子どもと比べて症状が強く、重症化しやすい傾向があるなど、より一層の注意が必要です。抵抗力が低い高齢者の訪問看護を行っている看護師は、今回解説したヘルパンギーナの症状や治療法、予防法などについて十分に確認しておきましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「ヘルパンギーナとは」(2014年07月23日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/515-herpangina.html2023/6/26閲覧〇一般社団法人日本循環器学会「2023 年改訂版心筋炎の診断・治療に関するガイドライン」p,21(2023年3月17日更新)https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_nagai.pdf2023/6/26閲覧〇NIID国立感染症研究所「無菌性髄膜炎とは」(2014年05月16日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/520-viral-megingitis.html2023/6/26閲覧

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コラム
2021年8月31日
2021年8月31日

私はALSを発症して6年になる40歳の医師です

enjoy! ALS 『enjoy! ALS』では、ALS患者として在宅療養をしながら、現在も診療を行っている現役の医師が、ALSに関するpositiveな情報をお届けします。 まず簡単に自己紹介を 私はALSという病気を発症して6年になる40歳の医師です。もともと、大学病院で皮膚科医として勤務しながら、医学部と看護学部で皮膚科の講義を行なったり、『毛包幹細胞』について研究したりしていました。2015年に研究のため、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学したのですが、同年の7月にALSを発症して帰国してきました。帰国後は、さまざまな検査や治療をしながら、同僚のサポートのもと大学病院で医師として診療を続けていました。徐々に手が動かなくなっていったため、カルテは音声入力で記録。歩けなくなったため、電動車いすで通勤……など工夫をしていましたが、発声が困難になってしまったため、2019年の3月に退職しました。 その後は自宅で、皮膚科医として遠隔診療をしながら、現在に至るまで在宅加療を続けています。診療の対象は、離島など皮膚科医のいない地域の患者さんや、私のように在宅療養しており皮膚科医の診察を受けられない患者さんで、iPadで画像や問診票を見て診療する形です。 このたび、お世話になっている訪問看護師さんから、「NsPaceでコラムを書いてみないか?」というお話をいただきました。すぐに「やります」と答えました。自分で言うのもなんですが、私は医師で、若年発症のALSという、かなりまれな患者です。発症してから国内外問わずさまざまな論文を読んでALSに関する知識を深めてきましたし、工夫をこらして快適な生活環境を作ってきました。 その中で強く感じたのは、「世の中にはALSに関してnegativeな情報が多すぎる!!」ということ。 あふれるnegativeな情報 ALSと診断された患者やその家族、それにかかわる看護師や介護士が、まずインターネットなどでALSを調べると、 “ALSは進行性の神経難病で、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていき、治療法はなく、発症してからの平均余命は2〜5年” そんな乾いた文字だけが針のように突き刺さってきます。それは、今までのALS患者の症状や経過をただ統計学的にまとめて、羅列しただけ。 そういう私も約20年前、医学部生だったころに神経内科の授業でそう習いました。なんてつらくて、無慈悲な病気なんだと思い、絶対になりたくない病気ランキングワースト3には必ず入っていました。その当時はまさか自分がなるなんて思ってもおらず、ただ他人ごとのように授業を聞いていたものです。 つらい・残酷なだけの病気なのか しかし、そんな文字からは、現場の生の声は、入ってこないのです! 確かにALSは今でも治療法はありませんが、私が医学部生の時代とは違い、病態はわかってきています。運動ニューロンの中にTDP-43という異常なタンパク質が蓄積して、それが細胞死を引き起こしているということです。なんでTDP-43が蓄積するのか? どうすればそれを除去できるのか? それがわかれば根本的な治療につながってくるのですが、そこはまだ時間はかかりそうです。 しかし、ALS患者を取り巻く環境は劇的に進歩してきています!特にコミュニケーションツールの発展は目覚ましいものがあります。私は2021年2月に気管切開+声門閉鎖手術をしたため、声は出せず、目と口、足が少し動くくらいです。でもそれだけ動けば、できることが山ほどあります。歯のわずかな動きでiPadを操作して、皮膚科医として月100〜300人の患者さんを診察しているし、YouTubeやNetflixなども見ることができます。また、iPadに赤外線リモコンを記憶させて、テレビをはじめ、エアコンや扇風機など、さまざまな家電を操作することができます。目の動きだけで文字盤など何も使わずに会話することができるし(後々紹介します!)、目の動きだけでパソコンを操作して、大学で講義をする時のPowerPointスライドを作っています。ほかにもできることはたくさんあるし、やりたいこともたくさんあって、毎日時間が足りません。 ALSと前向きに向き合っていく人たちへ 私は日々充実して本当に楽しく過ごしています。 多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!ALSと前向きに向き合っていく、患者とその家族、周りの医療スタッフに、ただただpositiveで有益な情報を伝えたくて、このコラムのタイトルをつけました。『enjoy! ALS』 **コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

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特集 会員限定
2022年1月6日
2022年1月6日

【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア -原因とアセスメントについて-

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。 セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、浮腫の基本についてご紹介します。 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 浮腫のメカニズム 血液は、心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓と循環します。浮腫との関連を考えるうえで鍵となるのが「毛細血管」。動脈側の毛細血管から出た水分は「間質液(組織間液)」として酸素や栄養を細胞に運び、二酸化炭素や老廃物を受け取って静脈側の毛細血管へと再吸収されます。1日あたりの「間質液(組織間液)」量は約20L。そのうち約80~90%(16~18L)は「毛細血管」に再吸収され、残り約10~20%(2~4L)は「毛細リンパ管」に吸収されリンパ液になります。 この「毛細リンパ管」は心臓の拍動の力を受けておらず、周囲の筋肉や呼吸、腸の動きや血管の拍動などの力を借りて動いています。血液は循環するのに対して、リンパ系の流れは一方向。毛細リンパ管は皮膚のすぐ下から始まっていて、毛細リンパ管→集合リンパ管→リンパ本幹→左右の鎖骨下静脈と内頸静脈の合流地点(静脈角)へと運ばれるのです。 浮腫は「間質液(組織間液)がなんらかの原因によって、異常に増加・貯留した状態」になることで起こります。 浮腫の種類とその原因 どのようなメカニズムによって起こるのか次第で、浮腫は5つに分けられます。それぞれの浮腫とかかわりが深い疾患などについてみていきます。 毛細血管内圧上昇による浮腫 毛細血管内圧が上昇する原因として、以下の疾患との関連が考えられます。 DVTや静脈瘤などの静脈弁機能不全心不全腎不全 また、特定の薬を飲むことや加齢によっても血管内圧は上昇し、浮腫の原因になります。具体的には以下です。 薬剤性浮腫高齢者の下肢下垂による下腿浮腫 など 膠質浸透圧低下による浮腫 タンパク質によって起こる浮腫です。タンパク質には水を吸収する働きがありますが、アルブミン濃度が低下すると水を引き込む力が弱くなり、間質に浮腫が出やすくなります。 肝硬変肝不全ネフローゼ症候群 などとの関連が考えられ、栄養失調によっても膠質浸透圧低下が起こります。 血管透過性亢進による浮腫 体内で炎症が起きることによって、プロスタグランジンなどの炎症性物質が合成されて起こりやすくなるのが透過性の亢進です。具体的には以下のような原因が考えられます。 炎症アレルギー火傷 など リンパ管機能障害による浮腫 リンパの流れが悪くなることで起こる浮腫。その原因としては以下のようなケースが考えられます。 リンパ節郭清術後悪性腫瘍リンパ節転移悪性リンパ腫甲状腺機能低下症 組織圧低下による浮腫 皮膚の弾力が落ちることによって組織圧が低下します。その結果、皮膚の薄いところ(顔面、眼瞼、足背、外陰部など)に浮腫が生じやすくなります。高齢者に起こりやすい傾向です。 浮腫のアセスメント 在宅医療における浮腫ケアでは、利用者の方にとっての優先順位を考えると同時に、利用者本人のニーズにあわせたアプローチが必要です。その前提として、利用者・利用者家族との十分なコミュニケーションにより、浮腫の理解とニーズを評価する必要があります。 ここでは、アセスメントにおいて注目すべき点をご説明します。 既往歴の確認 悪化原因となる基礎疾患を理解するために有効です。悪性腫瘍の場合は、まずリンパ浮腫を疑います。 ✓ 心臓、腎臓、肝臓、内分泌(甲状腺)疾患✓ 悪性腫瘍  手術の有無、化学療法・放射線治療を行っているかについて確認します。✓ 内服薬、アレルギー  薬剤性の浮腫の可能性を探ります。 全身状態の観察 輸液がある場合は尿量に対して過剰輸液がないか、また、炎症の疑いがないかなどについて確認します。浮腫の圧迫療法を想定している場合は、知覚神経障害がないかどうかの事前確認も重要です。 ✓ 水分出納  尿量変化がある場合は、腎疾患を疑います。✓ 発熱、発汗、疼痛  炎症を疑います。✓ 知覚、神経障害の有無  浮腫の圧迫療法を想定し、神経への湿潤について事前に確認します。✓ 体重増加  脂肪細胞が増加すると浮腫の原因になるため、肥満の方の場合減量を指導することもあります。✓ 食欲不振、下痢、嘔吐  タンパク質の損失や、カリウム、ビタミンB₁不足を疑います。✓ 動悸、呼吸困難、起座呼吸  心疾患がないかどうかを確認します。✓ 運動機能  筋肉の衰えによってポンプ機能が落ちていないかどうかを確認します。 浮腫が起こりやすい生活をしていないか ✓ 長時間の下腿下垂がないか✓ 運動不足になっていないか という点について確認します。高齢者の場合は介護状況についても確認します。 浮腫の状態 ✓ 浮腫範囲  全身or局所、顔・四肢・体幹・生殖器への出現の有無、抹消or中枢、という視点から確認します。✓ 出現はいつからなのか✓ 出現の速さは急激か緩徐か  静脈系の場合は急激に起こるケースが多いです。✓ 持続性、一過性、日内変動の有無  心不全の場合は夕方に浮腫がひどくなる場合があります。 皮膚の状態 浮腫のケアが行えない状態ではないか? という点について事前に確認を行います。 ✓ 蜂窩織炎(色調、熱感)、創傷の有無(褥瘡、潰瘍)、リンパ小疱、リンパ漏など✓ 圧痕テスト、皮膚の硬さ(シュテンマサイン、肥厚テスト) 環境の確認 ✓ 患者、家族の浮腫への理解度とケアの希望✓ 家族協力の有無 サイズ測定 増大と減少をみるために測定していきます。 臨床検査 ✓ 血液検査  D-ダイマー、CRP、白血球数、貧血、アルブミンを確認します。✓ 静脈ドップラースキャン✓ 腹部超音波  肝転移や腹水の有無を確認します。✓ CTスキャン  下大、上大静脈の近位部に血栓が起こっていないかどうかを確認します。 次回は「在宅看護で行う浮腫ケアの基本」についてお伝えします。>>【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア-在宅看護で行う浮腫ケアの基本- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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