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特集
2022年3月1日
2022年3月1日

Spo2(サチュレーション)が低いが「苦しくない」と答える患者への確認ポイント5つ

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第5回は、SpO2が平常時は95%あるのに、90%になっている患者さん。呼吸困難感を尋ねると本人は「苦しくない」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 ベッド上で全介助の82歳男性。バイタルサイン測定時にSpO2が90%でした。ふだんは95%ぐらいあり、呼吸困難感について尋ねたのですが、「苦しくない」と言っています。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 SpO2が90%であり、低酸素状態が疑われます。高齢者では呼吸困難の自覚が乏しいことがあるので、客観的データを十分に収集する必要があります。低酸素状態は、▷肺や呼吸の問題 ▷循環の問題 ── が考えられます。 一方、全身的な低酸素状態ではないのに、測定部位の循環障害でSpO2値が低く出る場合があるので、まずは正しく測定できているかの確認から始めましょう。 ここに注目! ●SpO2値でみると、低酸素状態であり、呼吸障害や全身の循環不全が考えられるのでは?●症状がほとんどないことから、末梢のみの循環障害か? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・低酸素に伴う症状(呼吸困難、胸が苦しい感じ、頭痛、頭が重い感じ、ぼーっとする感じ、目の見えにくさ、声の出にくさ、言葉の出ない感じ、不安感、焦燥感、傾眠傾向、など)・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、喘鳴、など)・生活への影響(食欲・食事摂取量の低下、活動量・活気の減少) 客観的情報の収集 SpO2測定部位の末梢循環 SpO2が低く出たときの測定部位の指先について、冷感、皮膚の色、圧迫されていないかを確認します。 SpO2を簡便に測定することができるパルスオキシメーターのしくみは、手または足の指にプローブを装着することで、血液の色を検知し、酸素と結びついたヘモグロビンがどの程度存在するかを計算します。循環障害のない(皮膚色の変化のない)指で測定しなければ、正しい値が出ないことがあります。 SpO2が低く出た測定部位が一時的な循環不全だった可能性があれば、加温やマッサージ後に、もう一度測定します。また、ほかの手指、足指で測定してみて値が回復するようなら、全身的な低酸素状態ではないと確認できます。 チアノーゼと冷汗 全身性のチアノーゼ、じっとりとした冷たい汗をかいている場合は、全身の循環障害(ショック状態)が強く疑われます。速やかな対応が必要です。 呼吸数・胸郭拡張の確認 もし低酸素状態であれば、頻呼吸となり、浅速呼吸や努力呼吸になっていることがあります。 平均的な呼吸数は12~20回/分です。必ず呼吸数を確認し、報告しましょう。 胸郭の視診・触診で、呼吸運動が十分に行われているかを確認します。ただし、COPDなど閉塞性の肺疾患のある人は、もともと胸郭が動きにくいので、胸鎖乳突筋や腹筋などの呼吸補助筋の緊張が高まっていないかをチェックすることが役立ちます。 肺音の聴取 努力呼吸のときには呼吸音は増大します。大きく聞こえているからといって、酸素を十分に取り込めているわけではないので注意してください。呼吸音の消失や減弱、代償性の増強、肺胞音が聞かれるべき部位で気管支呼吸音のような強い音が聞かれる気管支呼吸音化をチェックします。 副雑音は正常では聞かれない音です。副雑音があるようなら、肺胞や気管支に何らかの異常があると判断できます。 脈拍・血圧測定 呼吸機能が原因の低酸素の場合、末梢へ酸素供給を行うために脈拍が速くなり、血圧は高くなります。低酸素状態が悪化すると血圧は低下します。 報告のポイント ・正しく測定したSpO2の値とその経過・バイタルサイン・呼吸形態や肺音聴取の結果から、呼吸器障害の推測・全身の循環障害の徴候 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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脱水症は何日で治る?症状や対処法から熱中症との違いまで解説
脱水症は何日で治る?症状や対処法から熱中症との違いまで解説
特集
2025年7月15日
2025年7月15日

脱水症は何日で治る?症状や対処法から熱中症との違いまで解説

脱水症は、体内の水分と電解質が不足することで引き起こされる症状です。本記事では、脱水症の症状や原因、熱中症との違い、適切な対処法について解説します。脱水症について正しく理解し、早期発見・予防の意識を高め、自信を持ってアセスメントおよび対処ができるようになりましょう。 脱水症とは 脱水症とは、体内の水分とナトリウム(Na)やカリウム(K)などの電解質のバランスが崩れ、必要な体液が不足した状態を指します。私たちは日常的に汗や尿、呼吸を通じて水分を失っていますが、水分補給が十分でなかったり、発熱や下痢などで急激に体内の水分が失われたりすると脱水が進行します。 脱水症の症状 脱水症になると、血液の循環が滞り、血圧が低下します。また、全身への栄養供給が十分に行われず、老廃物の排出機能も低下してしまいます。主な症状は、口の渇きや倦怠感、食欲減退などです。また、筋肉や骨に必要な電解質が不足すると、足がつったり、しびれを感じたりすることもあります。 また、脱水症の症状の重さは、体内の水分がどの程度失われたかによって異なります。 軽度(体重減少率1~2%)の脱水:喉の渇きを強く感じるようになり、尿の回数や量が減少します。また、発熱や軽い下痢、嘔吐など、消化器官や全身に症状が現れる場合もあります。 中等度(体重減少率3~9%)の脱水:倦怠感が強まり、めまいや頭痛が現れます。血圧や臓器の血流が低下するなど、全身に影響が生じます。 重度(体重減少率10%以上)の脱水:生命に関わる危険な状態です。心臓や腎臓の機能が低下し、血流が著しく減少することでショック状態に陥る可能性があります。意識がもうろうとしたり、極端な低血圧により臓器不全を引き起こしたりすることもあり、迅速な対応が必要です。最悪の場合、死に至ることもあるため、重度の脱水に至る前に対処しましょう。 脱水症の原因 身体から水分が失われる主な要因は以下のとおりです。 原因説明朝食を抜く睡眠中に呼気や発汗で水分が失われているため、朝食を抜くと補水の機会を逃し、脱水のリスクが高まる寝すぎ長時間にわたって水分補給をしない状態が続くことで、体内の水分が不足し、脱水を招く可能性がある。就寝中も汗をかいているため、睡眠時間が長くなるほど脱水傾向が強まる点にも注意が必要ストレス緊張が続くと交感神経が活発になり、心拍数や体温が上昇することで水分消費が増え、脱水状態になりやすい高温の室内環境風通しが悪く、エアコンを使わない室内では発汗が促され、水分不足になりやすい二日酔いアルコールの利尿作用により体液が過剰に排出されるため、翌朝に脱水症状を引き起こしやすい発熱体温上昇により発汗が増え、水分が失われることで脱水のリスクが高まる下痢や嘔吐感染症や食あたり、体調不良などによる下痢や嘔吐で、体内の水分や電解質が急速に失われる食べ過ぎ消化のために胃腸へ血液が集中することで全身の血流が低下し、体温調整が乱れ、脱水を引き起こすことがある 脱水症と熱中症の違い 脱水症が進行すると、体温調節が難しくなり、熱中症に移行するリスクが高まります。脱水症と熱中症は混同されやすいですが、熱中症は、高温環境の中で体温調節機能が適切に働かなくなることで発生する症状の総称です。体内の水分・電解質のバランスが崩れ、体温が異常に上昇することで、めまいや吐き気、強い倦怠感が生じることがあります。重症例では、けいれんや意識障害を伴い、適切な処置が行われなければ生命に危険を及ぼす可能性があります。そのため、早期発見と迅速な対応が不可欠です。 脱水の種類 脱水は、原因や体液の失われ方によって「高張性脱水」「等張性脱水」「低張性脱水」の3つのタイプに分けられます。それぞれの特徴と主な原因は次のとおりです。 高張性脱水 高張性脱水は、血液中のナトリウム濃度が高くなり、細胞内から細胞外へ水分が移動し、細胞内液が減少した状態のことをいいます。大量に汗をかいたにもかかわらず十分な水分補給ができていない場合に発生しやすく、循環血液量は保たれますが、強い喉の渇きを感じるのが特徴です。 また、脳血管障害や脳腫瘍、頭部外傷などによって口渇中枢の機能障害がある場合、自覚しないまま脱水が進行することがあるため、特に注意が必要です。 等張性脱水 等張性脱水は、水分と電解質がほぼ同じ割合で失われる血漿浸透圧の変化を伴わない脱水で、下痢や嘔吐、出血、重度の熱傷などによって急激に体液が減少する際に起こります。 血圧低下やショック状態に陥る危険があり、適切な補水と電解質の補充が必要です。特に、大量の下痢や出血が続く場合には、医療機関での早急な対応が求められます。 低張性脱水 低張性脱水は、水分・ナトリウムをはじめとした電解質が減少したにもかかわらず、水分のみが補給され、血液中のナトリウム濃度が低下することで生じます。浸透圧によって、細胞外液から細胞内へ水分が移動し、血液を含む細胞外液量の減少を伴うことが特徴です。その結果、循環血液量の減少や循環不全を起こしやすく、特に血圧低下や意識障害を伴う場合には迅速な対応が求められます。 大量に汗をかいた際に、水分補給を水やお茶だけで行い、塩分を適切に補充しないと、この脱水が引き起こされます。また、頻回の嘔吐や下痢、副腎機能の低下、不適切な輸液管理なども誘因となるため、病態に応じた適切な補液が必要です。 脱水症は何日で治る? 脱水症状が改善するまでの期間は、その程度や原因によって異なります。一般的に、軽度の脱水であれば、水分を適切に補給し、安静にすることで数時間から1日程度で回復するといわれています。 しかし、強い倦怠感や頭痛、めまいを伴う場合は、回復により長い時間が必要でしょう。また、重度の脱水症になると体液バランスが大きく崩れており、医療機関での点滴治療が必要で、回復までに数日かかることもあります。 脱水の検査 脱水の診断は、問診や身体診察で得た情報をもとに行います。皮膚の乾燥や口の渇き、血圧の低下、脈拍の増加などの症状が見られる場合、脱水の可能性が高いと判断されます。また、既往歴や服用している薬の種類も、判断材料の1つです。 脱水の程度を詳しく調べるために、血液検査を行うこともあります。血液中のナトリウムやカリウムなどの電解質の濃度を測定することで、どのタイプの脱水が進行しているのかを確認できます。 脱水の対処法 脱水の症状が見られた場合、まずは適切な水分補給を行うことが重要です。水だけではなく、電解質を含む飲み物を摂取することで、体内の水分バランスを素早く整えることができます。 脱水によってめまいやふらつきが生じた場合は、すぐに安静にし、無理に動かないようにしましょう。症状が軽ければ、休息を取りながらゆっくりと水分補給を行うことで改善されます。しかし、症状が長引いたり、意識がもうろうとしたりする場合は、すぐに医療機関へ連絡し、適切な治療を受ける必要があります。 脱水のフィジカルアセスメント 脱水のフィジカルアセスメントでは、体重減少率や皮膚の冷感、口腔粘膜の乾燥度、呼吸や脈拍の変化などを指標として、脱水の重症度を評価します。 上述したように健康時からの体重減少率が3%未満であれば軽度、3~9%であれば中等度、10%以上になると重度です。 皮膚の冷感や毛細血管再充満時間の遅延は、中等度以上の脱水では四肢が冷たく感じられることが多いでしょう。重度では「かなり冷たい」と表現されるほど血流が低下し、末梢の血液供給が著しく減少していることがわかります。 呼吸や脈拍の変化も脱水の進行に伴い明確に現れます。軽度ではほぼ正常ですが、中等度になると呼吸がやや速くなり、脈拍も増加します。重度の脱水では呼吸が荒くなり、深く速い呼吸になることが多く、脈も速くなり触れにくくなるため、ショック状態へ進行する危険があります。 さらに、意識レベルの変化も見逃せないポイントです。軽度では「いつもと違う」と感じる程度の変化ですが、中等度では意識が混乱し、もうろうとすることがあります。重度になるとぐったりして反応が鈍くなり、昏睡状態に陥ることもあるため、直ちに医療機関での対応が必要です。 * * * 軽度の脱水であれば自宅での対策が可能ですが、倦怠感や意識の混濁などの重い症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。本記事で解説した内容を利用者さんとそのご家族のアセスメントに役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。

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血行障害 対策&予防
血行障害 対策&予防
特集
2023年10月17日
2023年10月17日

血行障害とは?血行不良や血流障害との違いから症状・原因・対処法まで解説

身体の冷えや不規則な生活などによって血液が流れにくくなります。その結果、肩こりや関節痛、冷え、むくみなどの不調が起こるほか、心筋梗塞や脳梗塞といった生命に関わる病気のリスクが高まります。 本記事では、血行障害がどのような状態を指すのかを解説するとともに、血行不良や血流障害との違い、症状、原因、対処法などについて詳しくご紹介します。 訪問看護における利用者さんのアセスメントはもちろん、ご自身の体調管理にもお役立てください。 血行障害・血行不良・血流障害の違い 血行障害と血行不良、血流障害は、しばしば同じ状態を指す言葉として扱われています。 血行と血流の定義は以下のとおりです。 血行……身体に血が巡ること血流……血液が血管を流れること つまり、血行障害と血行不良は、身体に血液が正常に巡ることができなくなっている状態です。血流障害は、血管内に血液がうまく流れない状態を指します。 血流障害が起きている状態では身体に血液がうまく巡らなくなるため、血行障害・血行不良・血流障害はほぼ同じ意味といえるでしょう。 本記事では、血行障害と血行不良、血流障害は同じものとして扱い、症状や起こりえる病気、対処法などについて解説します。 血行障害の症状 血行障害が起きると身体にさまざまな不調が現れます。 肩こり・関節痛 血行障害が起きている状態では、筋肉が負荷を受けたときに発生する疲労物質が特定の部位に溜まり、炎症や筋肉の緊張を引き起こします。その結果、重い頭を支える首や肩、身体の軸となる腰などを中心に、全身に痛みやこりなどが現れます。 冷え 血液は、体温調節に関与しています。血行障害があると、心臓から遠く離れた手足に血液が十分に届かなくなり、冷えが起こります。手足のような末梢部は血管が細いため、ただでさえ血流が滞りやすい部位です。また、全身が冷えると頭痛やめまい、下腹部の痛みなどが現れるほか、感染症にかかりやすくなります。 むくみ 血行障害によって下半身の血液の流れが滞ると、血液中の水分が血管の外ににじみ出ることでむくみが生じます。足が大きくむくむことで靴のサイズが合わなくなったり、靴ずれが起きたりします。 血行障害の原因 血行障害は複数の要因が重なって生じます。それぞれの要因について詳しく見ていきましょう。 運動不足 軽いむくみや少し冷える程度の症状は、運動不足の方によく見られます。運動不足の方は筋肉量が少ないため、筋肉が収縮するときに血液を押し上げる「筋ポンプ作用」が弱くなります。その結果、全身への血流が不足して、むくみや冷えなどの症状が現れます。 不規則な食生活 食事の回数が少なく、1回でカロリーを過剰に摂取する食生活は肥満につながります。肥満になると、血行が悪くなる糖尿病や脂質異常症、高血圧症などのリスクが高まります。また、これらの病気は動脈硬化を促すため、不規則な食生活は血行障害の要因といえるでしょう。 身体の冷え 身体が冷えると末梢部まで血液が届きにくくなります。その結果、冷えやむくみといった血行障害による症状が現れます。 動脈硬化 動脈硬化とは、動脈の血管の弾力性が失われて硬くなることです。動脈硬化にはいくつかの種類がありますが、一般的に動脈硬化といえば、血管壁にお粥のような粥腫(アテローム)が作られる「粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)」を指します。粥状動脈硬化が起きると、血管の内腔が狭くなることで血行障害が生じます。 血行障害によって起こりえる病気 血行障害が起きると、次のような病気・症状が生じるリスクが高まります。 閉塞性動脈硬化症 閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化によって血管の内腔が狭くなったり詰まったりすることで血行障害が起きる疾患です。手足の冷えやしびれなどが現れ、進行すると筋肉に痛みが生じます。血行障害がさらに進行すると歩行中に足が痛くなり、歩けなくなることもあります。 狭心症 心臓への血行が悪くなると、心臓に酸素や栄養が十分に供給されなくなります。こうして起きる疾患を虚血性心疾患といい、狭心症や心筋梗塞などが挙げられます。 狭心症は、動脈硬化や血栓などによって心臓の血管が細くなり、血行障害が生じることで心臓への血流が不足した状態です。胸の痛みに加え、左腕、左肩、顎などの圧迫感が生じます。 心筋梗塞 心筋梗塞は、冠動脈が詰まることで心臓への血液の流入が極端に少なくなるか、まったくなくなってしまい、心臓の筋肉が壊死する疾患です。胸の痛みや冷や汗、吐き気、嘔吐、呼吸困難などが生じます。 脳梗塞 脳梗塞は、内頚動脈や椎骨動脈などの血管が詰まったり狭くなったりして、脳に十分な血液が供給されなくなる疾患です。身体の片側の麻痺や失語、意識障害などが現れます。 潰瘍・壊死 血行障害によって、酸素や栄養が細胞に供給されなくなると、その部分に潰瘍や壊死が生じる恐れがあります。例えば、糖尿病患者が血糖コントロールが不良な場合、下肢への血行障害が生じて潰瘍や壊死が起こります。 血行障害の対処法 単なる運動不足や身体を冷やすことで起きている血行障害であれば、生活習慣の改善や身体を冷やさないことで対処できるかもしれません。しかし、動脈硬化による血行障害が生じている場合は医療機関で治療が必要です。血行障害の症状が現れている場合は、まずは医療機関を受診しましょう。 血行障害の対処法は原因や状況で大きく異なります。医療機関での治療法と日常における対応方法についてご紹介します。 薬物療法 動脈硬化が起きている場合は、血管拡張薬や抗凝固、抗血小板薬などを使用することがあります。使用する薬は、患者の状態や動脈硬化の程度などで異なります。 生活習慣の改善 肩こりや冷え、むくみなどが起きている場合は、規則正しい睡眠習慣や食生活、適度な運動、ストレスケアなどから始めましょう。動脈硬化が起きている場合も、生活習慣の改善を医師に指導されます。 身体を冷やさない 身体が冷えると血流が滞りやすくなるため、エアコンや衣類などで適温を保つようにしましょう。ただし、エアコンの過剰な使用は自律神経のバランスが崩れることで疲労や肩こり、むくみなどを悪化させる恐れがあります。 * * * 血行障害は、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞といった生命に関わる病気のリスクが高まるため、少しでも気になったら医師に相談しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07384.html2023/7/17閲覧〇一般社団法人日本ペインクリニック学会「血行障害性疼痛」https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_kekkou.html2023/7/17閲覧

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溶連菌感染症の原因・症状・対処法
溶連菌感染症の原因・症状・対処法
特集
2024年4月16日
2024年4月16日

溶連菌感染症の原因・症状・対処法。大人の感染や気づかず放置した場合は?

溶連菌感染症は、子どもがかかるイメージが強いかもしれませんが、大人もかかる可能性があります。また、溶連菌といえば、ニュースやドキュメンタリー番組でしばしば聞く「人食いバクテリア」が気になる方も多いのではないでしょうか。この記事では、溶連菌感染症の症状や原因から大人の感染、治療法、ワクチンなどについて解説します。 溶連菌感染症とは 溶連菌(溶血性連鎖球菌)感染症とは、主にA群溶血性レンサ球菌の感染によって引き起こされる感染症です。菌が侵入した部位や組織に応じてさまざまな症状が現れます。「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型溶血性レンサ球菌感染症への進展も懸念されるため、放置せずに医療機関を受診することが大切です。 溶連菌感染症の症状 溶連菌感染症は、2~5日の潜伏期間を経て発熱や全身倦怠感、咽頭痛、軟口蓋の小点状出血、いちご舌、嘔吐などの症状が現れます。また、溶連菌の発赤毒素という酵素によって、咽頭痛と発熱、皮膚症状として皮疹が現れる場合があります。この状態はかつて「猩紅熱(しょうこうねつ)」と呼ばれていました。なお、皮膚症状をきたす溶連菌感染症は夏に、咽頭に症状が現れるものは冬に流行する傾向があります。 溶連菌感染症の原因 溶連菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌が飛沫感染か接触感染することでかかります。家庭だけではなく、学校や会社などで集団感染が起きる場合もあります。 溶連菌感染症にかかりやすい年齢は?大人もかかる? 溶連菌感染症は年齢を問わず罹患する可能性がありますが、学童期の子どもに多くみられます。また、3歳以下や大人は感染しても典型的な症状が現れず、軽症で済む傾向があります。 溶連菌感染症の治療法 溶連菌感染症の治療には、ペニシリン系抗生物質の内服薬を使用します。ただし、薬剤に対するアレルギーがある場合は、第1世代のセフェム系抗生物質やマクロライド系抗生物質のエリスロマイシンの使用も可能です。最低でも10日は内服を続ける必要があります。それでも細菌を除去できていないと思われる場合には、追加で別の抗生物質を使用します。 なお、溶連菌感染症は学校保健安全法で「第三種学校伝染病」に指定されており、治療開始から 24 時間が経過し、全身状態が良ければ登校・登園が可能です。会社についても同様の扱いで出社できます。ただし、溶連菌感染症は重症化のリスクもあるため無理は禁物です。 溶連菌感染症に有効なワクチンはない 溶連菌感染症の予防や症状の軽減に有効なワクチンは、製造されていません(2024年2月現在)。そのため、感染予防と発症時の適切な対処がより重要といえます。また、溶連菌に感染しても終生免疫ができるわけではないため、生涯で複数回かかる可能性があります。周りに溶連菌感染症の人がいる場合は、うつる可能性を踏まえて対応することが大切です。 溶連菌感染症を放置するとどうなる? 溶連菌感染症は、抗生物質による治療を行わなくても自然に治癒する場合があります。しかし、重症化する可能性があるため、症状が現れたら放置せずに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。溶連菌感染症の重症化に関して、警戒すべきは「人食いバクテリア」とも呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。 人食いバクテリアとは 人食いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)の場合、皮膚や粘膜から通常は無菌の肺や筋肉、脂肪組織や血液に溶血性レンサ球菌が侵入し、発症します。手足の壊死や多臓器不全、肺炎などにより死亡することもある疾患です。発熱や食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、全身倦怠感、低血圧、筋肉痛などから始まり、循環器や呼吸器などさまざまな臓器の機能が低下します。 通常、発症から24時間以内に多臓器不全が起きるという、急速に病状が進展する疾患です。国立感染症研究所によると1)、A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発症数は2023年に340例(死亡97例)です。そのうち、20歳未満は約4%、20~49歳が約24%、50~69歳が35%、70歳以上が約37%で、大人のほうがかかりやすい疾患といえます。少しでも症状が現れた場合はすぐに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。 * * * 溶連菌感染症は、発熱や咽頭痛、皮膚症状などを伴う感染症です。猩紅熱や人食いバクテリアへと進展するかどうかは発症時にはわかりません。訪問先で利用者さんやその家族に溶連菌感染症を疑う症状がみられた際は、医療機関を受診するよう促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長  医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【引用】1)国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html2024/2/6閲覧 【参考】〇NIID国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html2024/2/6閲覧〇国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html2024/2/6閲覧〇厚生労働省「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html2024/2/6閲覧

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ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
特集
2025年4月22日
2025年4月22日

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?

ヒトメタニューモウイルス感染症は、乳幼児や高齢者を中心に発症しやすい呼吸器感染症の1つです。症状はRSウイルス感染症とよく似ており、発熱や鼻水、咳が現れるほか、重症化すると呼吸困難を引き起こすこともあります。 本記事では、ヒトメタニューモウイルス感染症の症状や原因、RSウイルスとの違い、感染経路や治療法について解説します。訪問看護の利用者さんが風邪のような症状を訴えた際のアセスメントに役立ててください。 ヒトメタニューモウイルス感染症とは ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)感染症は、特に乳幼児に多くみられる呼吸器感染症です。健康な成人や児童では、軽い風邪症状のみで経過することが多く、無症状のまま終わる場合もあります。しかし、乳幼児や高齢者、心肺疾患や神経筋疾患などの基礎疾患がある方、免疫不全状態の患者では重症化する危険があるため、RSウイルス感染症と並び、注意が必要な病気の1つとされています。 RSウイルス感染症は感染症法に基づく届出対象疾患であり、発生状況の把握が行われていますが、ヒトメタニューモウイルス感染症は届出対象ではないため、正確な流行状況を追跡できません。 ヒトメタニューモウイルス感染症の症状 ヒトメタニューモウイルス感染症は、感染後3~5日以内に鼻水や発熱が見られることが一般的です。軽症の場合は、発熱や咳嗽、鼻汁、咽頭痛、倦怠感など風邪に似た症状が現れますが、重症化すると、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難感が生じ、肺炎、細気管支炎へ進行することがあります。 初めて感染する小児では咳や喘鳴が生じることもあります。特に、生後6ヵ月未満の乳児の場合、初期症状として一時的に呼吸が止まる無呼吸発作が起こることがあります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の原因 ヒトメタニューモウイルス感染症は、ヒトメタニューモウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症です。このウイルスは2001年にvan den Hoogen(オランダ)らによって小児の気道分泌物から初めて分離されました。その後の研究で、ヒトメタニューモウイルスは世界中に広く分布し、呼吸器感染症の主要な原因の1つであることが明らかになりました。 ヒトメタニューモウイルス感染症と他の感染症の違い ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと同じニューモウイルス科に属しているため、症状や感染の広がり方がよく似ています。鼻水や発熱といった軽度の症状から、咳や喘鳴、呼吸困難といった重症化したケースまで幅広い症状を引き起こします。 >>関連記事RSウイルス感染症の症状・原因・治療法は?子どもも大人も注意 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路は、飛沫感染と接触感染です。感染した人が咳やくしゃみをした際に放出されたウイルスを吸い込むことで感染が成立します。 また、ウイルスが付着した手指や物を介して口や鼻、目の粘膜に触れることでも感染が広がります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の好発年齢 生後6ヵ月から2歳頃までの子どもが最も感染しやすく、初めての感染となるケースが多いため、免疫が十分に備わっておらず重症化しやすい傾向があります。また、多くの場合、5歳~10歳までに感染するとされています。一回の感染では再感染を防ぐための十分な終生免疫が得られず、再感染を繰り返します。 ヒトメタニューモウイルス感染時の登園・登校・通勤について ヒトメタニューモウイルス感染症は乳幼児や高齢者の感染のリスクが高く、無理に登園・登校・通勤すると感染拡大につながる可能性があります。感染拡大を防ぎながら日常生活へ復帰するための基準や注意点について解説します。 登園・登校の基準 ヒトメタニューモウイルス感染症は、第三種感染症・その他の感染症に該当し、校長が学校医の意見を参考に出席停止の判断を行うことができます。 保育園や幼稚園、小学校では、解熱後24時間以上が経過し、全身状態が良好であれば登園・登校が可能とされることが多いですが、咳や鼻水といった症状が強く、周囲に感染を広げる可能性が高い場合は、さらに数日間の経過観察を求められることもあります。 職場・通勤時の注意点 体調が優れない場合や発熱が続いている場合は無理に出勤せず、自宅での療養が推奨されます。通勤時にはマスクを着用し、手洗いや咳エチケットを徹底することで、周囲への感染拡大を防ぐことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症の治療・対応法 ヒトメタニューモウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在せず、対症療法が中心です。発熱がある場合は解熱剤を使用し、咳や痰がひどい場合は鎮咳薬や去痰薬を用います。十分な水分補給と休養をとりながら、体力の回復を促すことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症で医療機関を受診する目安 医療機関を受診する目安は、高熱が続く、息苦しさを感じる、喘鳴がひどくなっているときなどです。特に乳幼児では、無呼吸発作やぐったりしている様子が見られた場合、速やかな受診が必要です。また、基礎疾患のある方や高齢者は重症化しやすいため、症状が悪化する前に医療機関に相談しましょう。 * * * 訪問看護の現場では、感染の初期症状を見逃さず、適切な対策を講じることが重要です。呼吸の変化や発熱などに注意を払いながら、必要に応じて医療機関の受診を促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「COVID-19流行下の小児基幹病院における当院に入院した重症ヒトメタニューモウイルス感染症の状況」(2022年8月30日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/respiratory/1744-idsc.html?start=62025/4/15閲覧〇島根県感染症情報センター「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」(2018年4月)https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/hMPV/index.htm2025/4/15閲覧

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特集
2021年7月13日
2021年7月13日

公費54の請求方法

前回、難病患者が利用できるいくつかの制度について、概要をご紹介しました。今回は、そのうち難病法に基づく助成制度(公費54)での注意点や請求上のポイントをお伝えします。 ※本記事は2021年7月に公開されたものです。法令や制度、関連ガイドラインは変更される場合がありますので、最新情報をご確認ください。 概要 「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)にもとづく、医療費負担軽減の制度です。法別番号から、「公費54(ご・よん)」と呼ばれます。 助成内容 認定を受けた指定難病に対する医療費(訪問看護費、薬剤費を含む)が対象です。月の自己負担が一定額を超えると、その月の月末まで、自己負担分は公費で支払われます。 対象 指定難病のある患者が公費54を利用するには、①難病指定医による指定難病の診断を受ける②診断書と必要書類を都道府県に提出し、申請する③都道府県による審査が行われ、認定がおりると医療受給者証が発行されるといった流れの手続きが必要です。指定医療機関で特定医療(認定を受けた指定難病に起因する傷病への医療)を提供された際に、医療受給者証を提示し、医療費助成を受けることができます。 受給者証の確認 医療受給者証はこのようなものです。 ※実際の様式は自治体により異なります 通常のレセプトと同様、公費への請求も、正しい医療受給者証情報でなければ、実施したケアの医療費が支払われないことになります。被保険者証類とあわせて、確認のタイミングと確認方法を事業所で統一し、確認漏れがないようにしましょう。 (1) 有効期間医療受給者証の有効期間外に提供した医療は、公費の対象とはなりません。期限は1年で、更新するには新たに診断書作成が必要なので、難病指定医または協力難病指定医(更新の診断書のみ作成可能)の診断を受け、更新の申請をする必要があります。なお現在は、新型コロナウイルス感染症拡大防止対応として、有効期限延長の特別措置がとられています。有効期間終了が令和2年3月1日~令和3年2月28日と記載の医療受給者証は、原則1年間有効期限を延長して取り扱うことができます。(※1)(2)自己負担上限額自己負担上限額に達するまでは、自己負担分(主保険の負担割合に応じて1割または2割)を患者に請求します。(3)指定難病名指定難病の病名を確認します。公費への請求時に、提供したケアが起因する傷病に対するものであることを確認します。(4)指定医療機関名自治体によっては、特定医療を提供するには、この欄に医療機関名の記載が必要な場合があります。(5)適用区分、公費負担者番号、受給者番号、氏名、住所被保険者証と同様に、レセプト記載と合致していなければ、医療費の支払いが保留されレセプトが返ってきます。カルテなどと一致しているかを1字ずつ突き合わせて確認します。 ・文字の突き合わせのコツすでにカルテなどに入力されている文字情報があると、人の目ではどうしても思い込みがあり、相違を見過ごしてしまう可能性があります。意味を読むことをせず、記号だと思って1字ずつ見ていくことで、見落としリスクが低くなります。文字の並びを逆から見て確認する方法もあります。たとえば「1234567」なら、後ろから1字ずつ、1文字目の「7」と「7」は合っているか、「6」と「6」は合っているか、……と確認します。2人以上で確認できる場合は、1人目は頭から「1234567」、2人目は後ろから「7654321」と確認します。このように、見る人を2人にするだけではなく、チェック方式を変えて2回チェックすることが、本来のダブルチェックです。 請求 医療保険の場合を例に説明します。公費54は介護保険での訪問看護も対象であり、介護レセプトでも考えかたは同様です。 ● 主保険が国保・後期高齢者医療なら国保連合へ、社保なら支払基金へ請求します。レセプトは公費併用レセプトになります。● 公費負担者番号・受給者番号の欄に、医療受給者証に記載の番号が記載されていることを確認します。● 主保険と54の併用の場合、「2併」を選択します。他にも公費がある場合は「3併」になります。● 特記事項欄に、適用区分を記載します。● 主保険へ請求する分は通常と同様に記載し、公費へ請求分を、右列の「公費分金額」へ記載します。● 特定医療※とそれ以外の医療が1枚のレセプトで混在するなど、公費適用有無の区別が必要な場合は、公費適用の項目に下線を引きます(レセプト記載内容から公費適用有無が明らかなら省略しても構いません)。 ※特定医療(認定された指定難病に対して、指定医療機関が提供する医療)以外にかかった医療費は、助成の対象となりません 。通常と同様に、負担割合に応じた自己負担と、主保険への請求になります。 市町村の助成との併用 難病を対象にした自治体独自の助成も数多くあり、次のようなタイプに分けられます。 (1)対象拡大【例】国の指定難病以外に、自治体が独自に定めた疾病に対し、自治体による助成が行われる(2)助成額の拡大【例】国の制度により発生する自己負担分を、一部自治体が補助し、患者自己負担をさらに軽減する 自治体独自の助成が利用できる場合は、対象や助成範囲を理解しておきましょう。 請求の際に重要なことは、国の公費が利用できる場合は、自治体の公費は国公費の後に使うことです。 たとえば、公費54と自治体の公費を併用する場合は、主保険→公費54→自治体の公費の順で請求します。 例 ①    主保険…1割負担②    公費54…自己負担額1万円③    自治体の公費…1回の自己負担額上限が500円の3つを併用する場合を考えてみましょう。  4月1日に訪問し、かかった費用が7000円だったとします。4月1日分の請求は、(1)主保険への請求 この患者は1割負担なので、9割の6300円を主保険に請求します。 (2)公費54への請求 公費54の対象になるのは主保険負担分を差し引いた700円ですが、今月はまだ患者自己負担額が上限1万円に達していません。ですから、公費54への請求はありません。 (3)自治体公費への請求 自治体公費には、1回の自己負担500円を超えた額を請求します。4月1日分は、500円との差額200円を自治体公費に請求し、患者には500円支払ってもらいます。 上記は1回の支払いの場合の考えかたですが、実際は、訪問看護では月まとめ請求が多いと思います。 月まとめ請求での考えかたについては、次回の記事でお伝えします。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医院。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】※1 厚生労働省 令和2年4月30日事務連絡「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公費負担医療等の取扱いについて」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000626936.pdf ・難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)・厚生労働省 保医発0327第1号 令和2年3月27日「「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について」・厚生労働省健康局難病対策課 令和元年6月「特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用)」

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食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法
食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法
特集
2024年10月8日
2024年10月8日

食物アレルギーがおさまる時間、症状、対処法は?子どもと大人の違いも解説

食物アレルギーの症状は、軽度から重度までさまざま。花粉症の人が発症しやすい食物アレルギーもあります。本記事では、食物アレルギーの症状や治療法、子どもと大人の違い、アレルギー発症時の対処法、おさまるまでの時間などついて解説します。訪問看護の利用者さんやそのご家族、あるいはご自身の健康管理に役立てるために、食物アレルギーの知識を身につけましょう。 食物アレルギーとは 食物アレルギーとは、免疫システムが特定の食物を誤って有害物質と認識し、それに対して過剰に反応することで発症する疾患です。その多くはIgE抗体が関与しており、食物を摂取した後に、皮膚のかゆみや蕁麻疹、呼吸困難などの症状が現れます。症状が現れるタイミングの多くは、アレルゲンを摂取してから数分~数時間以内ですが、半日ほど経過後に現れる場合もあります。 食物アレルギーにはいくつかの種類があります。最も一般的なのは、甲殻類やそば、ナッツ類などによる「通常の食物アレルギー」です。そのほか、果物や野菜などによって引き起こされる「口腔アレルギー症候群(OAS)」や、ラテックスアレルギーの方が果物を摂取することで起こる「ラテックス・フルーツ症候群」、特定の食物を摂取した後、運動すると起こる「食物依存性運動誘発性アナフィラキシー」があります。それぞれ見ていきましょう。 即時型食物アレルギー 即時型食物アレルギーは、甲殻類、そば、ナッツ類、卵、小麦などが原因となり、発症します。 症状:皮膚の発赤、蕁麻疹、皮疹、咳、喘鳴、腹痛、嘔吐など発症までの時間:食物を摂取してから2時間以内(多くは30分以内)おさまる時間:数日好発年齢:0~1歳(ただし全年齢発症の可能性あり) 複数の箇所に比較的強い症状が現れた状態である「アナフィラキシー」になると、アナフィラキシーショック(症状が進行して血圧が低下し、気道狭窄、呼吸困難、低酸素血症、意識障害を生じた状態)へと進行し、生命に危険が及ぶおそれがあります。 口腔アレルギー症候群(OAS) 口腔アレルギー症候群(OAS)は、特定の果物や野菜を食べた際に発症します。花粉症と密接に関連しており、特定の花粉にアレルギーを持つ人が、似た抗原構造を持つ果物や野菜を食べた際にアレルギー反応を起こします。たとえば、シラカバによる花粉症の人はリンゴやモモ、カモガヤによる花粉症の人はメロンやスイカに反応することがあります。これは、含まれる抗原が似ているために起こる「交差反応」と呼ばれる現象によるものです。 症状:口の中や喉のかゆみ・腫れ・違和感発症までの時間:食物を摂取してから数分以内おさまる時間:30分~1時間程度好発年齢:幼児~成人 ラテックス・フルーツ症候群 ラテックス・フルーツ症候群は、ラテックスアレルギー(※)を持つ人が、特定の果物に含まれる抗原に反応することで発症します。特にバナナ、アボカド、キウイ、栗などの果物は発症リスクが高く、重症化する可能性があります。これは、ラテックスとこれらの果物に含まれる抗原が似ているためと考えられており、摂取する際は注意が必要です。 ※ラテックスアレルギーとは、ゴム手袋や風船などのラテックス製品が皮膚に接触することで発症するアレルギー反応です。 症状:口腔内の違和感やしびれ、顔面浮腫、呼吸困難感、動悸、かゆみを伴う全身性の蕁麻疹など発症までの時間:食物を摂取してから15分程度おさまる時間:体調などにより個人差あり好発年齢:特になし 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA) 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)は、小麦や甲殻類、果物など特定の食物を摂取した後に運動することで症状が出現し、ショック状態にいたることもあります。 FDEIAは激しい運動だけでなく、散歩程度の軽い運動でも発症することがあります。さらに、疲労、寝不足、風邪、ストレス、月経前症状、気象条件、アスピリンや非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)の服用なども症状を誘発する要因となり得ます。通常の小麦アレルギーとは異なる成分が原因となっており、一般のアレルギー検査では検出できません。そのため、自分がFDEIAに該当するかどうかを確認するためには、専門的な検査が必要です。 症状:蕁麻疹、呼吸困難、気分不快、意識消失発症までの時間:摂取した後2時間以内に運動すると発症するケースが多いおさまる時間:重篤化しなければ1日程度好発年齢:10代~20代 大人と子どもの食物アレルギーの違い 食物アレルギーは子どもと大人で異なる特徴を持っています。その違いについても見ていきましょう。 治る可能性 大人の場合、一度食物アレルギーを発症すると寛解することは困難で、原因となる食品を完全に避ける以外の方法はほぼないとされています。 一方、子どもの食物アレルギーは、成長するにつれて消化管のバリア機能が発達し、アレルゲンに対する耐性がつくことで寛解するケースがほとんどです。たとえば、幼少期に卵アレルギーがあっても、成長するにつれて加熱した卵を食べられるようになり、最終的には生卵を食べてもアレルギー反応が現れなくなります。 自然に耐性を獲得するのが難しい場合、医師の指導のもとで少量のアレルゲンを徐々に摂取して体を慣らしていく「経口免疫療法(経口減感作療法)」という治療法があります。ただし、この治療は副反応が起こりやすく、まれにアナフィラキシーをはじめとした重篤な症状を引き起こす可能性があり、安全性に十分な配慮が求められます。一部の症例には治療効果はありますがエビデンスレベルは低いため、食物アレルギーの一般診療としては推奨されていません。 アレルギー出現時の対処方法 アレルギー反応が出た場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。特に、アナフィラキシーショックが発生した場合は、アドレナリン自己注射薬をすぐに使用、救急車を要請し、医療機関での治療を受ける必要があります。 アレルギー反応が軽度の場合、症状は数時間以内におさまることが通常です。一方、アナフィラキシーショックのような重篤な反応では数日間にわたり症状が続き、入院治療が必要な場合もあります。 アレルギーの予防と対策 食物アレルギーを防ぐために、次のポイントを押さえましょう。 食品成分表を十分に確認する 食物アレルギーを予防するためには、食品成分表をしっかりと確認することが重要です。特に加工食品には、思わぬアレルゲンが含まれていることがあるため、注意が必要です。たとえば、チョコレートやクッキーには、小麦、卵、乳製品、ナッツが含まれている場合があります。また、ソースやドレッシングには、大豆や小麦が含まれていることが多いため、小麦や大豆にアレルギーがある方は注意しましょう。 体調の悪いときは避ける 体調が悪いときは、アレルゲンを含む食品を避けることが賢明です。加熱すればアレルギー反応が出ない方も、体調不良のときは避けましょう。たとえば、加熱した卵であれば問題ない程度の卵アレルギーでも、体調不良のときは加熱した卵でも症状が出る可能性があります。 果物アレルギーに関しては、症状が出るときと出ないときがあるため、ひとまず気にせずに食べて、症状が現れたら対処すればよいという考え方の人も少なくありません。そのような方が体調不良のときに果物を食べる場合は、アレルギー反応が現れる可能性を少しでも抑えるために、アレルギーを起こす可能性のあるタンパク質を加熱処理して食べるとよいでしょう。 また、花粉症自体の治療により、食物アレルギーの症状が改善することもあるため、医師に相談してみてください。 食物負荷テストを受ける 食物負荷テストは、アレルギーの有無を確認するための方法で、医療機関や家庭で行うことができます。医療機関で行う場合は、専門医の監督下で少量のアレルゲンを摂取し、反応を観察します。家庭で行う場合は、医師の指導を受けた上で、慎重に進めることが重要です。 災害時に備えておく 災害時には、食物アレルギーを持つ人が避難所で困ることが多いため、事前の準備が必要です。非常用袋や防災セットには、アレルギー対応食品やアドレナリン自己注射薬、抗ヒスタミン薬を備えておきましょう。また、学校や宿泊先などにも、アレルギーについて事前に伝えておくことが大切です。 注意したいのが、炊き出しに使用している食物を確認することです。しかし、炊き出しは大量調理のため、多少のアレルゲンの混入は避けられないものと考える必要があります。 *** 食物アレルギーは、子どもから大人まで誰にでも見られる疾患です。アレルギー反応が出た場合の対応や日常生活における予防策をしっかりと理解し、常に注意を払うことが大切です。今回解説した内容を自身や訪問看護の利用者さん、そのご家族などの健康管理に役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:村田 朗医療法人財団日睡会 理事長御茶ノ水呼吸ケアクリニック 院長日本医科大学内科学講座(呼吸器・感染・腫瘍部門)非常勤講師。日本医科大学、 同大学院卒業。資格・学会:医学博士、日本内科学会認定内科医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本睡眠学会会員、肺音(呼吸音)研究会世話人、東京呼吸ケア研究会幹事、American Thoracic Society 会員、European Respiratory Society 会員、International Lung Sounds Association 会員、NPO法人日本呼吸器障害者情報センター顧問、東京都三宅村呼吸器専門診療委託医、日本医師会認定産業医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)、千代田区公害健康被害診療報酬審査委員。 【参考】〇厚生労働省.「4食物アレルギー」https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf2024/9/20閲覧〇日本小児アレルギー学会「食物アレルギーのこどもへの対応」(2017年11月)https://www.jspaci.jp/assets/documents/saigai_pamphlet_2021.pdf2024/9/20閲覧

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分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
コラム
2025年6月24日
2025年6月24日

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、医師がどのようにALSと診断するのか、梶浦先生のご経験も交えながら解説していただきます。 ALSの診断には2つの重要なポイントがある 重要なポイント、それは次のとおりです。順番に説明していきます。(1) ALSは除外診断である(2) 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が体の広範囲で障害されていることを証明できる ALSは除外診断である 例えば、インフルエンザはウイルスを特定することで診断され、がんは画像検査や生検(腫瘍細胞の一部を採取して行う検査)によって診断を確定できます。しかし、ALSには特異的マーカーや決定的な検査所見がありません。そのため、ALSと同じように運動ニューロンが障害される疾患を一つひとつ除外し、どれにも当てはまらない場合に初めてALSと診断されます。これを「除外診断」といいます。 ALS以外の疾患を除外するために、以下のような検査が行われます。・神経伝導検査・筋電図検査・血液検査・髄液検査・MRI検査(脳、脊髄) など 運動ニューロン障害の広がりを証明する 前回のコラム(>>分かりやすい! ALSの病態と症状)でお伝えしたように、上位運動ニューロンは主に「ブレーキ」の役割を、下位運動ニューロンは主に「アクセル」の役割を担っています。これらが体の広範囲で障害されていることを証明していきます。 ■上位運動ニューロン障害の検査方法 「ブレーキ」が障害されるため、「アクセル」の制御ができない状態です。代表的な症状として、以下の現象がみられます。 腱反射亢進:アキレス腱や膝、肘などの腱を医療用のハンマーで軽く叩くと筋肉が過剰に動く。 クローヌス:アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、筋肉の動きを止めることができず、「ガクガク」と一定のリズムで動き続ける。 医師はこれらの症状の有無や範囲を診察し、上位運動ニューロンの障害を確認します。 下位運動ニューロン障害の検査方法 「アクセル」が障害されるため、以下のような変化が起こります。 筋力低下と筋委縮:筋肉が動かせず、筋肉が細くなり、筋力が落ちていく。 筋力が低下している部位を客観的に把握するため、筋力を数値化していきます。具体的には、握力の測定や、筋力を徒手的に評価する「徒手筋力検査」(manual muscle testing:MMT)が行われます。MMTは主要な部位の筋力を判定し、0~5点の6段階で判定します。参考までに表1に実際の点数の付け方を示します。 表1 徒手筋力検査(MMT) 点数 機能段階 5 強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 4 抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 3 抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる 2 重力を除去すれば、運動域全体にわたって動かせる 1 筋の収縮がわずかに確認されるだけで、関節運動は起こらない 0 筋の収縮はまったくみられない 線維束性収縮:体のさまざまな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に「ピクピク」と細かく動く症状。 前回のコラムで紹介したとおり、線維束性収縮も下位運動ニューロン障害の存在を証明する大切な所見です。線維束性収縮は自覚でき、強く症状が出ているときは他人からも目視できますが、わずかな症状でも客観的に確認できる「針筋電図検査」を実施します。 針筋電図検査は、細い針電極を体のさまざまな部位の筋肉に刺し、筋肉のわずかな「ピクピク」を電気的な活動として捉えることで、まだ筋力低下が起こっていない早期の段階でも異常を発見できます。ただし、線維束性収縮は常にみられるわけではなく、同じ場所に起こるとも限りません。針を刺した場所とタイミングで「ピクピク」が出ていなければ、確実な診断が難しい場合もあり、そこにもどかしさを感じています。 なお、最も多いALSの症状の進行パターンは、まず左右どちらかの手や足の遠位部の筋力が低下していき、徐々に体の中心に近い部分や反対側の筋力が低下していき、全身に広がっていきます。 発症初期は、まだ筋力の低下は限局した部位にしかみられないため、この段階で診断するのはとても難しいです。 私の診断までの経過 発症と初めての受診 2015年、当時34歳の私は、アメリカのカリフォルニア大学(UCSD)に研究のために留学していました。同年の7月に、右手の指先の筋力低下と、利き腕である右腕が左腕よりも細いことに気がつきました。8月にUCSDの神経内科を受診すると、「ALSの可能性が高いので精査が必要です」と言われ、10月に帰国しました。 診断への長い道のり 帰国後、すぐに総合病院の神経内科を受診し、MRIや筋電図検査などで精査したところ、「まだ右腕だけに症状は限局しているものの、ほかの疾患は考えにくいので、おそらくALSだろう」と言われました。「もしかしたらALSではないのでは?」という私の淡い期待は崩れ去り、絶望と恐怖で一晩中泣いていました……。 しかし、その後、診断は二転三転したのです。 2015年11月 今後の治療法を相談していくために神経内科専門の病院を紹介され受診しました。そこで、担当の医師に「ALSと確定するのはまだ早いので、運動ニューロン病を専門としている大学病院の神経内科にセカンドオピニオンに行かないか」と提案されました。わらにもすがる思いだった私は、すぐに行くことを決めました。 同年12月 あらためて精査するために、紹介された大学病院に2週間入院することになりました。そこではMRIや筋電図検査に加えて髄液検査やエコー検査など、さまざまな検査をしました。 すべての検査結果が出て、教授回診のときに診断が告げられることになりました。尋常ではない緊張感で座って待っていた私のもとに、教授を筆頭に医局の医師たち、研修医、医学部の実習生たちなど10人以上がやってきました。そして、少しの沈黙の後に、教授が私の肩をポンポンと軽く叩き「よかったね、ALSじゃないよ」と言ってくれました。 その瞬間、私はあまりのうれしさと安堵感で、緊張の糸が切れ、その場で泣き崩れました。「先生、僕はまだ生きられるんですね!」と言って、人目もはばからず、大勢の前で泣きじゃくりました。そのときの診断名は「多巣性運動ニューロパチー」というものでした。 翌年(2016年)1月 診断名もついたことですし、私は神奈川県にある自分の所属する大学病院で仕事を再開しながら、治療をしていくことにしました。検査結果や紹介状を持参して、自分の所属する大学病院の神経内科を受診すると、「この診断は違うのではないか」と言われ、再度精査することになりました……。 感情が揺さぶられ過ぎて、まるでジェットコースターに乗っている感じで、精神的にどんどん削られていき疲弊していきました。結局そこでも筋電図検査をはじめさまざまな検査を行い、今度は「平山病」という診断になりました。平山病は手術をすれば症状の改善が見込めるため、手術をする予定になりました。 同年4月 手術の予定日が決まっていましたが、手術の直前に舌に線維束性収縮がみられたため、ALSと確定診断され、手術は急遽中止になりました。そのときの私は「自分はALSじゃないのか?」とうすうす気がついていたため、ショックという感情よりは、やっと診断が確定したことに対する安堵感のほうが強かったことを覚えています。 診断の難しさと私が伝えたいこと 私を担当してくださった神経内科専門医の皆さんは、本当に親身になって一所懸命に検査をしてくれました。それでも、そのつど診断名が変わり、確定診断に9ヵ月かかりました。そのくらい、発症初期の段階でALSを診断するのは難しいのです。 私と同じように、なかなか確定診断にいたらず、「つらくて不安な期間」を過ごしている方も少なからずいらっしゃると思い、今回は診断方法とともに私の経験談も書きました。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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分かりやすい! ALSの病態と症状
分かりやすい! ALSの病態と症状
コラム
2025年5月27日
2025年5月27日

分かりやすい! ALSの病態と症状

ALSを発症して10年、現役医師でもある梶浦先生が、ALSとはどういった病気なのか、分かりやすく解説します。 ALSへの理解がケアやリハに活かされる 「分かりやすい」と自分へのハードルを上げてから書き始めた今回のコラムですが、これには私なりの思いがあります。 これから書いていく具体的な日常生活の工夫やリハビリテーションの工夫を理解して取り入れていただくには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは「どんな病気で、なぜこんな症状が起こるのか」を簡単にでも知っておいていただきたいです。そのほうが、なぜこの工夫をするとよいのか、納得しながら実践できますので、より身につきやすいかと思います。 難しいことを難しく書くのは簡単です。ですが、私なりにできる限り簡単に説明しようと、自分を戒めるために今回このようなタイトルにしました。 ALS当事者の方が理解しづらい場合には、支援者である介護士や看護師、リハビリテーションスタッフの皆さんにはこれから説明することをぜひ参考にしていただき、利用者さんにお伝えいただければと思います。 ALS理解の鍵は運動神経のしくみを知ること 人体においての神経系は、機能的に大きく分けると運動神経と感覚神経、自律神経の3つに分類されます(表1)。 表1 人体の3つの神経系 運動神経体を動かす筋肉につながり、脳からの命令を筋肉に伝える神経感覚神経痛い、痒い、冷たい、熱い、何かに触れているなど、さまざまな感覚を脳に伝える神経自律神経体温、心拍、血圧、排尿、排便など、生きていく上で必要な機能を自然にコントロールしてくれる神経 ALSは、この中の筋肉を動かす運動神経だけが選択的に障害され、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の神経疾患です。 この運動神経のしくみを理解することがALSの病態を理解する上で、一番大切になってきます。 例えば、脳で「手を動かしたい」と考えるとします。すると、脳の中の運動神経細胞(上位運動ニューロン)からその命令が神経線維を伝わり、脳幹あるいは脊髄で次の神経細胞(下位運動ニューロン)に命令を伝えます。そして、この命令は下位運動ニューロンの神経線維を伝わり、手の筋肉に到達して手を動かします。 ALSで障害される場所は、脳から下りてくる上位運動ニューロンと、命令の乗り換えの場所(前角細胞)から始まる下位運動ニューロンの両方です。両方が障害されると、結果的に筋肉を動かすことができなくなってしまいます。 注)「運動ニューロン」という言葉が分かりにくい方は、運動ニューロンとは脳からの命令を筋肉に伝える「導線」のようなものだとイメージしてください 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働き では、実際上位運動ニューロンと下位運動ニューロンはそれぞれどんな働きをしているのでしょうか? 例えば、皆さんがペンで文字を書くときの繊細な動きをする場合と、りんごをわしづかみにするときの大胆な動きをする場合とでは、力の入れ方を無意識のうちに使い分けていると思います。 これは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが、お互いにバランスを取り合って、自然な動きになるように力の配分をコントロールしているためです。具体的には、脳からの命令を受けた下位運動ニューロン(下位運動ニューロンは筋肉に直接つながっています)が主に「アクセル」の役割を果たし、筋肉を動かします。一方、上位運動ニューロンは「ブレーキ」として機能し、下位運動ニューロンの「アクセル」の力加減を調整して、力が暴走しないようにしているのです。(図1を参照) 図1 運動神経のしくみ ALSの主な症状 ALSの初期症状は、上肢に現れることが比較的多いですが、患者さんによっては下肢や喉から症状が現れることもあります。進行すると徐々に自分の意思で身体を動かすことが難しくなり、ペンや箸が握れなくなったり、歩行が困難になっていきます。 口や喉が動かなくなると、話す、食べるといった行為が困難になり、誤嚥する可能性も高くなります。さらに進行すると、自身で呼吸することができなくなり、生きていくためには人工呼吸器が必要となります。また、ALSでは筋肉を動かす運動神経のみが選択的に障害されるため、感覚は残ります。また、意識ははっきりしており、精神的な働きは障害されないことも大きな特徴です(例外もありますが)。 次に上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働きをもとに、ALSに特徴的な症状を紹介します。 筋肉が「ガクガク」と痙攣して治まらない! アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、「ガクガク」と一定のリズムでその筋肉が動き続けることがあります。これは「クローヌス」と呼ばれる症状で、上位運動ニューロンが障害されることで起こります。つまり、「ブレーキ」が壊れることで、「アクセル」の制御ができなくなっている状態です。 筋肉が勝手にピクピクと動く! 体のいろいろな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に勝手にピクピクと細かく動くことがあります。これは「線維束性収縮」と呼ばれる症状で、下位運動ニューロンが障害されることで起こります。例えるなら、正常なら10本の下位運動ニューロンで動かしていた筋肉を、1本の下位運動ニューロンで動かさなくてはいけないという状態です。1本のニューロンにかかる負担が過度に大きくなり、がんばり過ぎることで勝手に動いてしまっている状態です(図2)。 この症状が起きている部分は、「アクセル」が壊れてきている場所なので、徐々に筋肉が細くなり、動かせなくなっていきます。 図2 下位運動ニューロンの正常な状態と障害された状態(線維束性収縮) ALSの4大陰性徴候とは ALSは全身の筋肉が動かせなくなっていく病気ですが、出にくい症状というものが4つほどあり、4大陰性徴候といいます。 (1)目は最後まで動かせる!手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。(2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。(3)感覚障害が起こりにくい!これは最初のほうでも書きましたが、見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。(4)「褥瘡」、いわゆる“床ずれ”ができにくい!徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 * * * これまでの症状を読まれた方の多くは、「感覚は残るのに動けないなんてつらすぎる……」と思われるかもしれません。ですが、このALSに出にくい症状を前向きに捉えて、うまく日常生活の工夫に取り入れていくことが、困難な状況の中でも、日々の生活をできる限り豊かにしていく方法なのだと思います!! なので、今後このコラムでALSの4大陰性徴候を活用して快適に生活する具体的な方法を書いていこうと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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特集
2022年5月31日
2022年5月31日

「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第11回は、ふだんは朝に排尿があるのに、昨夜から今朝まで排尿がない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 おむつを使用して排泄している90歳男性。ふだんは朝に排尿があるにもかかわらず、昨日の夜から、朝までおむつに排尿がみられません。 あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 尿が出ていない場合は、①尿の生成量が少なく、膀胱に尿がほとんど貯留していない(乏尿・無尿) ②尿の生成ができていて膀胱に貯留していても排出できない(尿閉) ── が考えられます。 ①乏尿では、▷脱水や嘔吐、発熱、心臓のポンプ能力の低下などで腎血流量が減少して尿の生成ができない ▷腎機能そのものに障害がある ▷尿路結石や腫瘍の浸潤により尿管が閉塞し、膀胱に尿がたまらない状態 ── などが考えられます。 ②尿閉は、膀胱よりも下位の障害、神経因性膀胱や前立腺肥大、尿道狭窄により起こるものです。患者さんの苦痛が大きく、放置しておくと尿貯留が上行性に広がり、水腎症や腎盂腎炎などを引き起こす恐れがあります。 乏尿(無尿)と尿閉では対処方法がまったく違いますので、これらが区別できるような情報を収集し、報告しましょう。 ここに注目! ●乏尿(無尿)により排尿がないのではないか?●尿閉により排尿がないのではないか? 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。最終排尿からの時間で換算すると、単純計算では8時間以上間隔が空くと要注意です。 ただし、ホルモンや血流量の関係で、日中は排尿間隔が長く、夜間には短くなるので、いつもの排尿時刻や回数と比較してください。 腎機能が保たれているのに尿量が少ない場合は、尿が濃くなります。最終排尿の色や臭気、いつもとの違いを確認してください。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 体温測定 高体温になると、不感蒸泄の増加で脱水状態となり、乏尿をきたす可能性があります。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 尿閉のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など)・尿閉の原因(前立腺肥大、尿線が細い、残尿がある、脳血管疾患や脊髄疾患等、神経因性膀胱となる要因、など) 尿閉のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 最終排尿時刻を確認し、どれくらいの時間出ていないのか、排泄できずに貯留している尿量を見積もります。また、ふだんの排尿時に、尿線が細い、排尿に時間がかかる、出きらない感覚がなかったかを確認します。 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、血圧や脈拍が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症の患者さんの場合には、苦痛の有無をバイタルサインから推測してください。 膀胱内の尿貯留の確認 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉などで貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 腎臓の叩打診 背部の肋骨の下縁くらいに手を置き、その手の上を叩きます。両側行います。 尿路結石や尿路の狭窄では、叩打診をした場合に響くような痛みを感じることがあります。 カテーテルを挿入しての尿排出の確認 医師の指示を得て行いましょう。カテーテルを挿入する経路に狭窄や閉塞がある可能性があるので、なるべく細いカテーテルを用いること、違和感があった場合は速やかに挿入をやめて、医師に相談することが必要です。 報告のポイント ・最終排尿時刻と尿の性状、本人の訴え・乏尿または、尿閉の可能性があると判断したアセスメント結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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