アクセスランキング

1
特集
2022年3月1日
2022年3月1日

Spo2(サチュレーション)が低いが「苦しくない」と答える患者への確認ポイント5つ

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第5回は、SpO2が平常時は95%あるのに、90%になっている患者さん。呼吸困難感を尋ねると本人は「苦しくない」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 ベッド上で全介助の82歳男性。バイタルサイン測定時にSpO2が90%でした。ふだんは95%ぐらいあり、呼吸困難感について尋ねたのですが、「苦しくない」と言っています。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 SpO2が90%であり、低酸素状態が疑われます。高齢者では呼吸困難の自覚が乏しいことがあるので、客観的データを十分に収集する必要があります。低酸素状態は、▷肺や呼吸の問題 ▷循環の問題 ── が考えられます。 一方、全身的な低酸素状態ではないのに、測定部位の循環障害でSpO2値が低く出る場合があるので、まずは正しく測定できているかの確認から始めましょう。 ここに注目! ●SpO2値でみると、低酸素状態であり、呼吸障害や全身の循環不全が考えられるのでは?●症状がほとんどないことから、末梢のみの循環障害か? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・低酸素に伴う症状(呼吸困難、胸が苦しい感じ、頭痛、頭が重い感じ、ぼーっとする感じ、目の見えにくさ、声の出にくさ、言葉の出ない感じ、不安感、焦燥感、傾眠傾向、など)・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、喘鳴、など)・生活への影響(食欲・食事摂取量の低下、活動量・活気の減少) 客観的情報の収集 SpO2測定部位の末梢循環 SpO2が低く出たときの測定部位の指先について、冷感、皮膚の色、圧迫されていないかを確認します。 SpO2を簡便に測定することができるパルスオキシメーターのしくみは、手または足の指にプローブを装着することで、血液の色を検知し、酸素と結びついたヘモグロビンがどの程度存在するかを計算します。循環障害のない(皮膚色の変化のない)指で測定しなければ、正しい値が出ないことがあります。 SpO2が低く出た測定部位が一時的な循環不全だった可能性があれば、加温やマッサージ後に、もう一度測定します。また、ほかの手指、足指で測定してみて値が回復するようなら、全身的な低酸素状態ではないと確認できます。 チアノーゼと冷汗 全身性のチアノーゼ、じっとりとした冷たい汗をかいている場合は、全身の循環障害(ショック状態)が強く疑われます。速やかな対応が必要です。 呼吸数・胸郭拡張の確認 もし低酸素状態であれば、頻呼吸となり、浅速呼吸や努力呼吸になっていることがあります。 平均的な呼吸数は12~20回/分です。必ず呼吸数を確認し、報告しましょう。 胸郭の視診・触診で、呼吸運動が十分に行われているかを確認します。ただし、COPDなど閉塞性の肺疾患のある人は、もともと胸郭が動きにくいので、胸鎖乳突筋や腹筋などの呼吸補助筋の緊張が高まっていないかをチェックすることが役立ちます。 肺音の聴取 努力呼吸のときには呼吸音は増大します。大きく聞こえているからといって、酸素を十分に取り込めているわけではないので注意してください。呼吸音の消失や減弱、代償性の増強、肺胞音が聞かれるべき部位で気管支呼吸音のような強い音が聞かれる気管支呼吸音化をチェックします。 副雑音は正常では聞かれない音です。副雑音があるようなら、肺胞や気管支に何らかの異常があると判断できます。 脈拍・血圧測定 呼吸機能が原因の低酸素の場合、末梢へ酸素供給を行うために脈拍が速くなり、血圧は高くなります。低酸素状態が悪化すると血圧は低下します。 報告のポイント ・正しく測定したSpO2の値とその経過・バイタルサイン・呼吸形態や肺音聴取の結果から、呼吸器障害の推測・全身の循環障害の徴候 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

2
インフルエンザ症状&予防
インフルエンザ症状&予防
特集
2023年9月5日
2023年9月5日

インフルエンザの症状・出席停止期間・2023~2024年冬の流行予測

インフルエンザは毎年異なる型が流行する上に、流行時期が変動する場合もあります。訪問看護師は感染症に対する抵抗力が低い高齢者や小児と関わるケースも多く、毎年インフルエンザの状況や予測などはチェックしておきたいところです。 本記事では、インフルエンザの症状や原因、出席停止期間、2023~2024年の流行予測などについて詳しく解説します。 インフルエンザとは そもそもインフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルスの感染によって発症する気道感染症です。インフルエンザが周期的に流行することから、16世紀のイタリアの占星家が星や寒気の影響(influence)と考えたことが語源とされています。 インフルエンザの症状 インフルエンザウイルスに感染後、1~3日間程度の潜伏期間を経て、次の症状が現れます。 ・38℃以上の高熱・頭痛・全身倦怠感・筋肉痛・関節痛 上記の症状は突然現れることが特徴です。これらに続いて咳や鼻汁などの症状が現れ、個人差はありますが1週間程度で軽快します。ただし、循環器や呼吸器、腎臓の慢性疾患を持つ方、免疫機能が低下している方、糖尿病をはじめとする代謝疾患を持つ方は二次的な細菌感染症のリスクが高いとされています。 また、小児の場合は発熱による熱性痙攣、中耳炎、気管支喘息を伴うことがあります。 インフルエンザの原因 インフルエンザの原因は、A型・B型・C型のいずれかのインフルエンザウイルスの感染です。毎年、大規模な流行の原因となるのはA型とB型で、それぞれ複数の型に分類されています。 2023年時点において近年流行しているのは、以下の4種類です。 ・A(H1N1)亜型・A(H3N2)亜型(香港型)・B型(山形系統)・B型(ビクトリア系統) 流行するインフルエンザウイルスの型や系統は、年度や国、地域などで異なります。 季節性と新型の違い インフルエンザは、「季節性」と「新型」の大きく2つに分類できます。 一度ウイルスや細菌に感染すると免疫機能によって再感染のリスクは低下しますが、季節性インフルエンザはA型のインフルエンザウイルスの抗原性が毎年わずかに変化するため、再感染の可能性が通常のウイルスと比べて高いとされています。 また、新型インフルエンザは、季節性のものとは抗原性が大きく異なるインフルエンザウイルスによるものです。過去に感染しておらず免疫を獲得していないため、多くの方が感染します。 インフルエンザが流行する時期 季節性インフルエンザには流行性がありますが、新型インフルエンザにはありません。季節性インフルエンザは例年12月〜3月にかけて流行します。なお、2020年以降は新型コロナウイルスの流行やそれに伴う公衆衛生に関する意識の高まりの影響で、インフルエンザの流行時期や罹患者数に大きな変化がみられます。 2023~2024年におけるインフルエンザの特徴 2023年春には、例年とは異なる季節外れのインフルエンザが流行しました。そのため、冬から2024年にかけても、例年とは異なる時期に流行する可能性があります。流行が予測されているインフルエンザの型については、厚生労働省が毎年認定するワクチン製造株が参考になります。以下の4株がワクチン製造株として認定されました。 ・A(H1N1)亜型・A(H3N2)亜型(香港型)・B型(山形系統)・B型(ビクトリア系統) 実際に流行する型と異なるケースもありますが、現状では近年流行した型と同様と予測されています。 インフルエンザの出席停止期間 学校保健安全法施行規則第19条第2項に基づき、インフルエンザを発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日を経過するまでは、出席停止となります。なお、幼児の場合は、解熱後3日までは出席できません。 企業については明確な規定がありませんが、従業員が安全で健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」に基づき、独自にルールを定めている場合があります。一例では、学校保健安全法で定められた出席停止期間と同じ基準を定めています。 インフルエンザの検査方法・診断 インフルエンザの症状が現れている場合、医療機関では迅速診断キットを用いて検査することが一般的です。鼻腔の奥の粘膜を綿棒で採取し、迅速診断キットに検体を垂らし、30分程度で結果が出ます。 鼻をかんで鼻汁を採取する方法もありますが、綿棒を使った方法と比べて採取できるウイルス量が少ないとの報告があります。 インフルエンザの治療法 インフルエンザの治療には、抗インフルエンザ薬を使用します。症状が現れてからの時間や病状によって効果が異なり、全患者に必須な治療ではありません。発症から48時間以内に抗インフルエンザ薬を服用すると、発熱の持続期間が1〜2日程度短くなります。48時間以上経過してから服用しても、十分な効果は期待できません。 また、必要に応じてインフルエンザに伴う発熱や咳、淡、倦怠感などを和らげる薬を使用します。 インフルエンザに伴う異常行動について 以前は抗インフルエンザ薬が原因で異常行動が起きることが強く疑われていました。しかし、抗インフルエンザ薬の服用の有無、種類に関係なく異常行動が起きていることから、関係性は不明とされています。 <異常行動の例>・ 突然、部屋から出ようとする・ 窓を開けて飛び降りようとする・ 話しかけても反応がない・ 泣きながら部屋の中を動き回る・ 理解できない発言をする 異常行動による事故を防ぐために、発熱から2日間は次のような転落防止策を講じることが重要です。 ・玄関と窓をすべて施錠する(なるべく補助鍵を使用する)・窓がなくベランダに面していない部屋で療養させる・1階で療養させる 中でも就学以降の小児・未成年者の男性に起きることが多いと報告されていますが、年齢や性別に関係なく対策を講じることが大切です。 インフルエンザのワクチン インフルエンザのワクチンは13歳以上で年に1回接種が原則です。添付文書には年に1回または2回と記載されていますが、研究によりインフルエンザワクチン0.5mLの1回接種で2回接種と同程度にまで抗体価が上昇したことから、1回接種となっています。ただし、医師の判断で2回接種を行う場合もあります。 13歳未満の場合は、年に2回接種が原則です。1回目の接種後、2~4週間間隔をあけて2回目を接種します。ワクチン接種から効果が現れるまでの期間には個人差がありますが、通常は約2週間かかります。効果の持続期間は約5ヵ月とされています。 1回接種の場合、11月下旬~12月初旬に接種すると流行前にインフルエンザ予防効果を得やすいでしょう。2回接種の場合は、1回目を10月下旬~11月初旬に、2回目を11月下旬から12月初旬に接種することが推奨されます。受験を控えている場合は、早めの接種を検討しましょう。 ワクチンの副反応は接種した部位の赤みや腫れ、痛みなどで、通常は2~3日で消失します。そのほか、発熱や頭痛、倦怠感、悪寒などもみられることがあります。 まれにみられるのはアレルギー反応による赤み、かゆみ、蕁麻疹などです。重篤な副作用として以下が報告されていますが、因果関係は明らかではありません。 ・ギランバレー症候群・急性脳症・急性散在性脳脊髄炎・痙攣・肝機能障害・喘息発作・紫斑 インフルエンザの予防法 インフルエンザの予防法は、一般的な感染症と同じです。 ・帰宅時の手洗いうがい・栄養バランスのとれた食事・十分な睡眠・こまめな換気・適切な湿度 また、インフルエンザが流行している時期は、繁華街への外出は控えましょう。 * * * インフルエンザは、毎年流行しているものの2020年以降には流行時期に変化が生じています。また、その年度によって流行する型が異なるため、最新情報を随時チェックしておくことが大切です。今回、解説した内容を参考に、インフルエンザに適切に対処しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】 〇NIID 国立感染症研究所「インフルエンザとは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/219-about-flu.html2023/6/25閲覧〇厚生労働省「インフルエンザQ&A」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html2023/6/25閲覧〇厚生労働省「令和4年度インフルエンザQ&A(令和4年10月14日版)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2022.html2023/6/25閲覧〇東京都感染症情報センター「2023~2024年シーズンインフルエンザHAワクチン製造株(2023年4月28日)」https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/flu/flu/vaccine2023/2023/6/25閲覧〇熊本県「今冬のインフルエンザ総合対策に取り組みましょう(2020年8月1日)」https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/30/153141.html2023/6/25閲覧〇静岡県「『インフルエンザの出席停止期間』の考え方」https://www.city.shizuoka.lg.jp/000834248.pdf2023/6/25閲覧〇厚生労働省「抗インフルエンザウイルス薬の安全性について(2017年12月)」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000189771.pdf2023/6/25閲覧〇厚生労働省「新型インフルエンザ予防接種後の症状について」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_04.html2023/6/25閲覧

3
特集
2022年5月31日
2022年5月31日

「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第11回は、ふだんは朝に排尿があるのに、昨夜から今朝まで排尿がない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 おむつを使用して排泄している90歳男性。ふだんは朝に排尿があるにもかかわらず、昨日の夜から、朝までおむつに排尿がみられません。 あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 尿が出ていない場合は、①尿の生成量が少なく、膀胱に尿がほとんど貯留していない(乏尿・無尿) ②尿の生成ができていて膀胱に貯留していても排出できない(尿閉) ── が考えられます。 ①乏尿では、▷脱水や嘔吐、発熱、心臓のポンプ能力の低下などで腎血流量が減少して尿の生成ができない ▷腎機能そのものに障害がある ▷尿路結石や腫瘍の浸潤により尿管が閉塞し、膀胱に尿がたまらない状態 ── などが考えられます。 ②尿閉は、膀胱よりも下位の障害、神経因性膀胱や前立腺肥大、尿道狭窄により起こるものです。患者さんの苦痛が大きく、放置しておくと尿貯留が上行性に広がり、水腎症や腎盂腎炎などを引き起こす恐れがあります。 乏尿(無尿)と尿閉では対処方法がまったく違いますので、これらが区別できるような情報を収集し、報告しましょう。 ここに注目! ●乏尿(無尿)により排尿がないのではないか?●尿閉により排尿がないのではないか? 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。最終排尿からの時間で換算すると、単純計算では8時間以上間隔が空くと要注意です。 ただし、ホルモンや血流量の関係で、日中は排尿間隔が長く、夜間には短くなるので、いつもの排尿時刻や回数と比較してください。 腎機能が保たれているのに尿量が少ない場合は、尿が濃くなります。最終排尿の色や臭気、いつもとの違いを確認してください。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 体温測定 高体温になると、不感蒸泄の増加で脱水状態となり、乏尿をきたす可能性があります。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 尿閉のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など)・尿閉の原因(前立腺肥大、尿線が細い、残尿がある、脳血管疾患や脊髄疾患等、神経因性膀胱となる要因、など) 尿閉のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 最終排尿時刻を確認し、どれくらいの時間出ていないのか、排泄できずに貯留している尿量を見積もります。また、ふだんの排尿時に、尿線が細い、排尿に時間がかかる、出きらない感覚がなかったかを確認します。 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、血圧や脈拍が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症の患者さんの場合には、苦痛の有無をバイタルサインから推測してください。 膀胱内の尿貯留の確認 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉などで貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 腎臓の叩打診 背部の肋骨の下縁くらいに手を置き、その手の上を叩きます。両側行います。 尿路結石や尿路の狭窄では、叩打診をした場合に響くような痛みを感じることがあります。 カテーテルを挿入しての尿排出の確認 医師の指示を得て行いましょう。カテーテルを挿入する経路に狭窄や閉塞がある可能性があるので、なるべく細いカテーテルを用いること、違和感があった場合は速やかに挿入をやめて、医師に相談することが必要です。 報告のポイント ・最終排尿時刻と尿の性状、本人の訴え・乏尿または、尿閉の可能性があると判断したアセスメント結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

4
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナ
特集
2023年7月18日
2023年7月18日

ヘルパンギーナの症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

ヘルパンギーナは主に子どもが罹患する感染症ですが、大人も罹患する可能性があります。重症化しやすいとの報告もあるため、子どものみの病気と考えずに対応方法について確認しておくことが大切です。本記事では、ヘルパンギーナの特徴や症状、原因から治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 ヘルパンギーナとは ヘルパンギーナは、エンテロウイルスに感染することで発熱とともに水疱性の発疹が口腔粘膜に生じる病気です。乳幼児を中心に夏季に流行する「夏かぜ」の一種とされています。 ヘルパンギーナの症状 ヘルパンギーナの潜伏期間は2~4日です。突然の発熱に続き咽頭痛が生じ、咽頭粘膜に強い赤みが現れます。その後、主に軟口蓋から口蓋弓にかけて、赤くなった皮膚に囲まれる形で小水疱が現れます。小水疱の大きさは通常1~2mm程度ですが、5mm程度の大きいものが現れる場合もあります。 発熱に熱性けいれんを伴うほか、咽頭痛による食欲不振や哺乳障害が問題となる場合があるため、対症療法で症状をなるべく和らげることが重要です。まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎などを合併することがあるため、38~40度の発熱や頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、胸の痛み、関節痛、筋肉痛などの症状に注意しましょう。 ヘルパンギーナが流行する時期 ヘルパンギーナは5月頃から増え始め、7月頃にピークを迎えます。8月頃から減り始め、9〜10月にはほぼ見られなくなります。このように季節性があるものの、ほかの時期にまったく見られなくなるわけではありません。 また、日本では西から東へと拡がっていく傾向があります。患者の90%以上は5歳以下で、最も多いのは1歳、そして2歳、3歳、4歳と続きます。 0歳と5歳の罹患数はほぼ同じです。ヘルパンギーナは5類感染症定点把握疾患であるものの、学校において予防すべき伝染病としては規定されていません。 そのため、一律で学校長の判断によって出席停止とするものではなく、対応については学校ごとに異なります。欠席者が多い、流行の規模が大きい、合併症を伴うケースが見られることで保護者の間で大きな不安が生じている場合、学校医との相談の上で出席停止の扱いとすることがあります。 ヘルパンギーナの原因 ヘルパンギーナは、エンテロウイルスによる感染症です。エンテロウイルスはピコルナウイルス科に属するRNAウイルスの総称で、以下のようなウイルスが該当します。 ・ポリオウイルス・コクサッキーウイルスA群(CA)・コクサッキーウイルスB群(CB)・エコーウイルス・エンテロウイルス(68~71型) ヘルパンギーナの主な原因となるウイルスはコクサッキーウイルスA群(CA)ですが、コクサッキーウイルスB群(CB)やエコーウイルスが引き起こす場合もあります。 急性期にはウイルスの排出量が多く、感染力も強いとされています。ただし、エンテロウイルスは症状が消失してからも2〜4週間は便からウイルスが排出される場合があるため、回復後もしばらくは油断できません。 ヘルパンギーナの検査方法・診断 ヘルパンギーナの確定診断には、口腔内の拭い液や水疱の内容物を含むもの、便などによるウイルス分離またはウイルス抗原の検出が必要です。 ただし、実際の医療の現場では臨床症状のみで診断することがほとんどです。 ヘルパンギーナの治療法 エンテロウイルスそのものに効果がある抗ウイルス薬は存在しないため、対症療法が主な治療法です。発熱や頭痛には解熱鎮痛作用がある内服薬を使用する場合があります。 脱水が生じている場合は必要に応じて輸液を行います。咽頭痛によって飲食を敬遠する場合があるため、脱水を防ぐために薄味で柔らかく口当たりがよいものを与えます。 ヘルパンギーナは大人がかかったらどうなる? ヘルパンギーナは、大人が罹患すると子どもと同じく光熱や口腔粘膜の小水疱などの症状が現れます。ただし、子どもと比べて症状が強く、高熱や非常に強い咽頭痛のほか、筋肉痛や頭痛、関節痛が現れる場合があります。 また、症状が現れている期間が長く、重症化しやすい点も特徴です。 ヘルパンギーナの予防法 ヘルパンギーナの予防法は、ほかの感染症と同じです。主な感染経路は、飛沫感染・接触感染・経口感染です。流行時には手洗いうがいをより入念に行いましょう。また、ヘルパンギーナの感染者との密接な接触をなるべく避けることも大切です。 ウイルスは長期間にわたり便から排出されるため、子どもがトイレで排泄できる場合は、手洗いや手指消毒を必ず行うように指導し、おむつを使用している場合は交換後に手洗いと手指消毒を徹底します。 流行時にはおもちゃの貸し借りも避けたほうがよいでしょう。エンテロウイルス対策として、ものを洗浄・消毒する場合は、念入りな洗浄と清拭でウイルスを物理的に除去した上で、0.02%に希釈した次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。 * * * ヘルパンギーナは、突然の発熱・口腔粘膜の小水疱などを主症状とする感染症です。主に罹患するのは5歳以下の子どもですが、大人がかかる場合もあります。大人は子どもと比べて症状が強く、重症化しやすい傾向があるなど、より一層の注意が必要です。抵抗力が低い高齢者の訪問看護を行っている看護師は、今回解説したヘルパンギーナの症状や治療法、予防法などについて十分に確認しておきましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「ヘルパンギーナとは」(2014年07月23日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/515-herpangina.html2023/6/26閲覧〇一般社団法人日本循環器学会「2023 年改訂版心筋炎の診断・治療に関するガイドライン」p,21(2023年3月17日更新)https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_nagai.pdf2023/6/26閲覧〇NIID国立感染症研究所「無菌性髄膜炎とは」(2014年05月16日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/520-viral-megingitis.html2023/6/26閲覧

5
訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月9日
2023年5月9日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、「DESIGN-R2020」(※1)に基づく評価の方法や、注意すべき褥瘡の特徴とケア方法などをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。  「DESIGN-R2020」の評価方法 「DESIGN-R2020」は、病院でも訪問看護の現場でも使用されている、褥瘡状態の評価スケールです。 ▼DESIGN-R2020(一般社団法人日本褥瘡学会)http://www.jspu.org/jpn/member/pdf/design-r2020.pdf 最初は、深さ(Depth)・滲出液(Exudate)・大きさ(Size)・炎症と感染(Inflammation/Infection)・肉芽組織(Granulation)・壊死組織(Necrotic tissue)・ポケット(Pocket)の頭文字をとった「DESIGN」という評価スケールからスタートしました。その後、評価をつけるという意味のレーティング(Rating)の頭文字をとって「DESIGN-R」に進化し、2020年には現在の「DESIGN-R2020」になっています。 「DESIGN-R2020」は、褥瘡の状態を0〜66点で採点する方式で、合計点数が大きいほど重症度が高くなります。また、各項目の文字での評価では、大文字は重症、小文字は軽症という決まりです。 ちなみに、褥瘡を黒色期・黄色期・赤色期・白色期という創面の色で分類(色調分類)する考え方もありますが、これを「DESIGN-R2020」に照らし合わせると上記のようになります。 合計点数を下げていく、そして小文字にしていくことが、「DESIGN-R2020」における基本の考え方です。具体的には壊死組織を除去し、肉芽を増殖させて、創を小さくするという流れで創部の治癒を促していきます。 「DESIGN-R2020」の変更点 「DESIGN-R2020」では、「深さ」と「炎症・感染」の項目がそれぞれ以下のように変更されました。 深部損傷褥瘡(DTI)の追加 深さの項目に、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」が追加されました。表記は「DDTI」とし、ハイフンをつけてE(滲出液)以降の評点を続けます。(表記例)DDTI-E6s6I3G5N3P6:29点 こちらは、「DESIGN-R2020」の評価(d1~DU)と「NPIAP分類(深達度分類)」をまとめた資料です。「DESIGN-R2020」における「DDTI」は、NPIAP分類では「DTI(SDTI)疑い」にあたります。 では、DTI疑いとは具体的にどのような状態なのでしょうか。DTIは、皮下組織よりも深いところの組織の損傷が疑われる急性期褥瘡のことを指します。深さの項目では、真皮までの損傷なのか、皮下組織より深い損傷なのかを評価しますが、DTIは見ただけでは損傷があるかどうかの判断が困難です。短期間で悪化する褥瘡として注意しておきましょう。 上記のスライドはDTIの例を2つ挙げたもので、左のケースは5日間で、右のケースは10日間で状態が悪化しています。 臨界的定着(3C)の追加 炎症・感染の項目には、大文字のIのところに「臨界的定着疑い(3C)」という基準が追加されました。 3C(臨界的定着疑い)の褥瘡の特徴としては、滲出液が多く、創面がぬめっています。過剰な滲出液の影響により創周囲は浸軟し、肉芽はあるけれど、ぶよぶよとしていて非常に脆弱です。数週間や数ヵ月、何年経っても改善しないという例もあります。 臨界的定着疑いのある褥瘡の感染リスク 臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)の疑いがある褥瘡は、炎症兆候が見られなくても創面には細菌が付着しており、実は感染を起こす一歩手前の危険な状態。一刻も早く改善に向けた対応が必要です。 臨界的定着疑いのある創面は、滲出液が多くなります。過剰な滲出液により創周囲が浸軟すると、褥瘡はさらに治癒が遅延します。また、慢性的な圧迫や摩擦、ずれが加わると、周囲の皮膚が肥厚していきます。そして、創部の辺縁部が内側に巻き込んでしまい、いよいよ治りにくい状態になってしまいます。 創面に存在するバイオフィルム バイオフィルムとは微生物が固着して形成されるコミュニティで、白血球や消毒に対するバリアをつくって、傷を治りにくくします。健常者は細菌に対する抵抗力がありますが、全身状態が低下していたり、低栄養であったりして抵抗力が落ちている利用者さんの場合は、臨界的定着になりやすく、難治性創傷につながるのです。難治性創傷の6〜9割には、このバイオフィルムが存在するといわれています。 感染を起こしている褥瘡のコントロール 感染を起こしている褥瘡は、適切な治療が行われないと、敗血症を引き起こし、死に至る可能性があります。そのため、できるだけ早く感染を抑えることが重要です。 上のスライドの左の傷をご覧ください。このように感染を起こし、また壊死組織で覆われている傷では、皮下組織が傷んで創周囲にポケットを形成している可能性もあります。以下は局所ケアのポイントです。 ・抗菌作用のある薬を使って局所ケアを行う。・創面の密閉をせず、マイクロクライメット(※2)の管理を行う。・圧迫、摩擦、ずれを回避できる超低圧保持のエアマットを使用し、頭側挙上を行っている場合はその時間をきちんと管理をして、体圧分散・除圧を徹底する。・創部は、微温湯(水道水や生理食塩水)で十分な圧力をかけて洗浄する。・創周囲は、皮膚洗浄剤を用いて洗浄し、皮膚に付着した細菌を減少させる。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。※2 マイクロクライメット:皮膚局所の温度・湿度 >>後編に続く写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

6
特集 会員限定
2022年1月6日
2022年1月6日

【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア -原因とアセスメントについて-

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、浮腫の基本についてご紹介します。 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 【目次】1.浮腫のメカニズム2.浮腫の種類とその原因3.浮腫のアセスメント --> 浮腫のメカニズム 血液は、心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓と循環します。浮腫との関連を考えるうえで鍵となるのが「毛細血管」。動脈側の毛細血管から出た水分は「間質液(組織間液)」として酸素や栄養を細胞に運び、二酸化炭素や老廃物を受け取って静脈側の毛細血管へと再吸収されます。1日あたりの「間質液(組織間液)」量は約20L。そのうち約80~90%(16~18L)は「毛細血管」に再吸収され、残り約10~20%(2~4L)は「毛細リンパ管」に吸収されリンパ液になります。この「毛細リンパ管」は心臓の拍動の力を受けておらず、周囲の筋肉や呼吸、腸の動きや血管の拍動などの力を借りて動いています。血液は循環するのに対して、リンパ系の流れは一方向。毛細リンパ管は皮膚のすぐ下から始まっていて、毛細リンパ管→集合リンパ管→リンパ本幹→左右の鎖骨下静脈と内頸静脈の合流地点(静脈角)へと運ばれるのです。 浮腫は「間質液(組織間液)がなんらかの原因によって、異常に増加・貯留した状態」になることで起こります。 浮腫の種類とその原因 どのようなメカニズムによって起こるのか次第で、浮腫は5つに分けられます。それぞれの浮腫とかかわりが深い疾患などについてみていきます。 毛細血管内圧上昇による浮腫 毛細血管内圧が上昇する原因として、以下の疾患との関連が考えられます。・DVTや静脈瘤などの静脈弁機能不全・心不全・腎不全また、特定の薬を飲むことや加齢によっても血管内圧は上昇し、浮腫の原因になります。具体的には以下です。・薬剤性浮腫・高齢者の下肢下垂による下腿浮腫など 膠質浸透圧低下による浮腫 タンパク質によって起こる浮腫です。タンパク質には水を吸収する働きがありますが、アルブミン濃度が低下すると水を引き込む力が弱くなり、間質に浮腫が出やすくなります。・肝硬変・肝不全・ネフローゼ症候群などとの関連が考えられ、・栄養失調によっても膠質浸透圧低下が起こります。 血管透過性亢進による浮腫 体内で炎症が起きることによって、プロスタグランジンなどの炎症性物質が合成されて起こりやすくなるのが透過性の亢進です。原因として考えられるのは、・炎症・アレルギー・火傷などです。 リンパ管機能障害による浮腫 リンパの流れが悪くなることで起こる浮腫。その原因としては以下のようなケースが考えられます。・リンパ節郭清術後・悪性腫瘍リンパ節転移・悪性リンパ腫・甲状腺機能低下症 組織圧低下による浮腫 皮膚の弾力が落ちることによって組織圧が低下します。その結果、皮膚の薄いところ(顔面、眼瞼、足背、外陰部など)に浮腫が生じやすくなります。高齢者に起こりやすい傾向です。 浮腫のアセスメント 在宅医療における浮腫ケアでは、利用者の方にとっての優先順位を考えると同時に、利用者本人のニーズにあわせたアプローチが必要です。その前提として、利用者・利用者家族との十分なコミュニケーションにより、浮腫の理解とニーズを評価する必要があります。 ここでは、アセスメントにおいて注目すべき点をご説明します。 既往歴の確認 悪化原因となる基礎疾患を理解するために有効です。悪性腫瘍の場合は、まずリンパ浮腫を疑います。 ✓ 心臓、腎臓、肝臓、内分泌(甲状腺)疾患✓ 悪性腫瘍  手術の有無、化学療法・放射線治療を行っているかについて確認します。✓ 内服薬、アレルギー  薬剤性の浮腫の可能性を探ります。 全身状態の観察 輸液がある場合は尿量に対して過剰輸液がないか、また、炎症の疑いがないかなどについて確認します。浮腫の圧迫療法を想定している場合は、知覚神経障害がないかどうかの事前確認も重要です。 ✓ 水分出納  尿量変化がある場合は、腎疾患を疑います。✓ 発熱、発汗、疼痛  炎症を疑います。✓ 知覚、神経障害の有無  浮腫の圧迫療法を想定し、神経への湿潤について事前に確認します。✓ 体重増加  脂肪細胞が増加すると浮腫の原因になるため、肥満の方の場合減量を指導することもあります。✓ 食欲不振、下痢、嘔吐  タンパク質の損失や、カリウム、ビタミンB₁不足を疑います。✓ 動悸、呼吸困難、起座呼吸  心疾患がないかどうかを確認します。✓ 運動機能  筋肉の衰えによってポンプ機能が落ちていないかどうかを確認します。 浮腫が起こりやすい生活をしていないか ✓ 長時間の下腿下垂がないか✓ 運動不足になっていないか という点について確認します。高齢者の場合は介護状況についても確認します。 浮腫の状態 ✓ 浮腫範囲  全身or局所、顔・四肢・体幹・生殖器への出現の有無、抹消or中枢、という視点から確認します。✓ 出現はいつからなのか✓ 出現の速さは急激か緩徐か  静脈系の場合は急激に起こるケースが多いです。✓ 持続性、一過性、日内変動の有無  心不全の場合は夕方に浮腫がひどくなる場合があります。 皮膚の状態 浮腫のケアが行えない状態ではないか? という点について事前に確認を行います。 ✓ 蜂窩織炎(色調、熱感)、創傷の有無(褥瘡、潰瘍)、リンパ小疱、リンパ漏など✓ 圧痕テスト、皮膚の硬さ(シュテンマサイン、肥厚テスト) 環境の確認 ✓ 患者、家族の浮腫への理解度とケアの希望✓ 家族協力の有無 サイズ測定 増大と減少をみるために測定していきます。 臨床検査 ✓ 血液検査  D-ダイマー、CRP、白血球数、貧血、アルブミンを確認します。✓ 静脈ドップラースキャン✓ 腹部超音波  肝転移や腹水の有無を確認します。✓ CTスキャン  下大、上大静脈の近位部に血栓が起こっていないかどうかを確認します。 次回は「在宅看護で行う浮腫ケアの基本」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

7
小児感染症 プール熱
小児感染症 プール熱
特集
2023年7月25日
2023年7月25日

プール熱の症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

プール熱は、夏季を中心に小児に罹患しやすい感染症です。大人も感染する可能性がある上に感染力が強いことから、短期間で家族全員が罹患するケースも少なくありません。本記事では、プール熱の症状や原因、治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 プール熱とは プール熱は咽頭結膜熱ともいい、アデノウイルスの感染によって発熱や喉の痛みのほか、結膜炎などの症状が現れる病気です。プールでの感染者との接触やタオルの共用によって感染する場合があることから、プール熱と呼ばれています。 プール熱の症状 プール熱の症状は次のとおりです。 ・急激な発熱・頭痛・食欲不振・全身倦怠感・咽頭痛・結膜の充血・目やに・眼痛 目の症状は左右どちらかから始まり、その後にもう一方にも現れることが一般的です。中でも下眼瞼結膜に炎症が強く生じ、上眼瞼結膜の炎症はそれほど強くない傾向があります。潜伏期間は5~7日とされており、潜伏期間中でも感染力を持ちます。 重傷化のリスクは特に高いわけではありませんが、生後14日以内の新生児が感染した場合は全身性感染に進行するリスクが高いとの報告があります。 プール熱が流行する時期 例年、6月頃から感染者数が増加し始め、7~8月にピークに達します。6~8月はプールで子ども同士が接触する機会が多いことも、感染者の増加に関係していると考えられます。 ただし、原因となるアデノウイルスに季節性はないため、ほかの時期でも感染する可能性があります。プール熱に罹患した場合は、その時期に関係なく、発熱や咽頭炎、結膜炎といった主要な症状が消失してから2日間は出席停止になります。 プール熱の原因 プール熱の原因となるアデノウイルスにはさまざまな型があり、中でも2型と3型がプール熱を発症しやすいとされています。ほかには、1型や4型、7型、14型などがあり、中でも7型は肺炎を引き起こすことで重症化しやすい点に注意が必要です。 感染経路は、飛沫感染や接触感染などで、感染力が非常に強いことから周囲の人が短期間でプール熱に罹患する場合もあります。また、症状が消失してからも喉からは1~2週間程度、排泄物からは1ヵ月程度はアデノウイルスが排出されるとの報告もあるため、出席停止期間が終了した後に他人に感染させることもあるでしょう。 また、アデノウイルスには複数の型があるため、一度罹患したことがある場合でも別の型に感染する可能性があります。 プール熱の検査方法・診断 プール熱の確定診断には、鼻汁や唾液、糞便、拭い液などを用いてウイルス抗原の検出もしくはウイルス分離を行う必要があります。検体は、綿棒で喉やまぶたの裏を擦って採取します。検査キットにかけてから結果が出るまでにかかる時間は15分程度のため、即日でプール熱の罹患の有無を確認できます。 ただし、検査のタイミングや検体のウイルス量が少ない場合は、結果が陰性になる場合があることに注意が必要です。なお、血液を採取してアデノウイルスの抗原検査を行うことでも確定診断できます。 プール熱の治療法 プール熱はウイルス感染症であり、有効な抗ウイルス薬は現時点では存在しません。合併症を防ぐことを目的に抗生剤を使用することがあります。また、咽頭部や結膜の炎症を抑えるために、抗炎症成分が含まれた点眼薬などを使用します。 そのほか、高熱に対しては解熱剤、咽頭痛には抗炎症薬など、対症療法が中心となります。 プール熱は、高熱や喉の痛み、腫れによって食事をとることが難しくなる場合があるため、脱水症状に注意が必要です。また、なるべく喉を刺激しないように、柔らかいものを食べるとよいでしょう。 プール熱は大人がかかったらどうなる? 大人がプール熱に罹患した場合、小児ほど強い症状は通常現れません。そのため、小児ほどの影響が懸念されないとして、対応する医療機関が多いでしょう。ただし、症状が強く現れなくても感染力は強いため、他人にうつさないための対策は必要です。 プール熱の予防法 プール熱の予防法は、一般的な感染対策と同じです。流水と石けんによる手洗い、外出先から帰宅してきたときのうがいを欠かさないようにしましょう。また、感染者との密接な接触をなるべく避けるほか、タオルの共用をしないことが大切です。プールからあがった後は、シャワーを浴びてうがいをします。 * * * プール熱は主に小児が罹患する病気ですが、大人も罹患する可能性があります。感染力が高いため、疑わしい症状があるときは周りの人との接触を避け、医療機関を受診して適切な治療を受けることが重要です。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「咽頭結膜熱について」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/01.html2023/6/25日閲覧〇NIID国立感染症研究所「咽頭結膜熱とは(2014年4月1日)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html2023/6/25閲覧

8
コラム
2021年8月31日
2021年8月31日

私はALSを発症して6年になる40歳の医師です

enjoy! ALS 『enjoy! ALS』では、ALS患者として在宅療養をしながら、現在も診療を行っている現役の医師が、ALSに関するpositiveな情報をお届けします。 まず簡単に自己紹介を 私はALSという病気を発症して6年になる40歳の医師です。もともと、大学病院で皮膚科医として勤務しながら、医学部と看護学部で皮膚科の講義を行なったり、『毛包幹細胞』について研究したりしていました。2015年に研究のため、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学したのですが、同年の7月にALSを発症して帰国してきました。帰国後は、さまざまな検査や治療をしながら、同僚のサポートのもと大学病院で医師として診療を続けていました。徐々に手が動かなくなっていったため、カルテは音声入力で記録。歩けなくなったため、電動車いすで通勤……など工夫をしていましたが、発声が困難になってしまったため、2019年の3月に退職しました。 その後は自宅で、皮膚科医として遠隔診療をしながら、現在に至るまで在宅加療を続けています。診療の対象は、離島など皮膚科医のいない地域の患者さんや、私のように在宅療養しており皮膚科医の診察を受けられない患者さんで、iPadで画像や問診票を見て診療する形です。 このたび、お世話になっている訪問看護師さんから、「NsPaceでコラムを書いてみないか?」というお話をいただきました。すぐに「やります」と答えました。自分で言うのもなんですが、私は医師で、若年発症のALSという、かなりまれな患者です。発症してから国内外問わずさまざまな論文を読んでALSに関する知識を深めてきましたし、工夫をこらして快適な生活環境を作ってきました。 その中で強く感じたのは、「世の中にはALSに関してnegativeな情報が多すぎる!!」ということ。 あふれるnegativeな情報 ALSと診断された患者やその家族、それにかかわる看護師や介護士が、まずインターネットなどでALSを調べると、 “ALSは進行性の神経難病で、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていき、治療法はなく、発症してからの平均余命は2〜5年” そんな乾いた文字だけが針のように突き刺さってきます。それは、今までのALS患者の症状や経過をただ統計学的にまとめて、羅列しただけ。 そういう私も約20年前、医学部生だったころに神経内科の授業でそう習いました。なんてつらくて、無慈悲な病気なんだと思い、絶対になりたくない病気ランキングワースト3には必ず入っていました。その当時はまさか自分がなるなんて思ってもおらず、ただ他人ごとのように授業を聞いていたものです。 つらい・残酷なだけの病気なのか しかし、そんな文字からは、現場の生の声は、入ってこないのです! 確かにALSは今でも治療法はありませんが、私が医学部生の時代とは違い、病態はわかってきています。運動ニューロンの中にTDP-43という異常なタンパク質が蓄積して、それが細胞死を引き起こしているということです。なんでTDP-43が蓄積するのか? どうすればそれを除去できるのか? それがわかれば根本的な治療につながってくるのですが、そこはまだ時間はかかりそうです。 しかし、ALS患者を取り巻く環境は劇的に進歩してきています!特にコミュニケーションツールの発展は目覚ましいものがあります。私は2021年2月に気管切開+声門閉鎖手術をしたため、声は出せず、目と口、足が少し動くくらいです。でもそれだけ動けば、できることが山ほどあります。歯のわずかな動きでiPadを操作して、皮膚科医として月100〜300人の患者さんを診察しているし、YouTubeやNetflixなども見ることができます。また、iPadに赤外線リモコンを記憶させて、テレビをはじめ、エアコンや扇風機など、さまざまな家電を操作することができます。目の動きだけで文字盤など何も使わずに会話することができるし(後々紹介します!)、目の動きだけでパソコンを操作して、大学で講義をする時のPowerPointスライドを作っています。ほかにもできることはたくさんあるし、やりたいこともたくさんあって、毎日時間が足りません。 ALSと前向きに向き合っていく人たちへ 私は日々充実して本当に楽しく過ごしています。 多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!ALSと前向きに向き合っていく、患者とその家族、周りの医療スタッフに、ただただpositiveで有益な情報を伝えたくて、このコラムのタイトルをつけました。『enjoy! ALS』 **コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

9
特集 会員限定
2022年8月16日
2022年8月16日

【セミナーレポート】vol.1 フットケア アセスメント ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、訪問看護師の方に向けて「フットケア・爪のケアのポイント」をご紹介しました。講師は、皮膚科医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。第1回の本記事では、高山先生にお話いただいた「高齢者のフットケア アセスメント」についてまとめます。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ フットケアの重要性 ・足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病▶ 足や爪のトラブルの原因 ・白癬 ・皮膚の老化 ・筋力や関節可動域の低下▶ フットケアに期待される効果 ・足浴の効果は絶大▶ 爪切り難民を救うために必要なこと --> ▶ フットケアの重要性 日本は人生100年時代を迎え、超高齢社会に突入しました。そこで考えなければならないのが、介護を要する年数を短くする方法です。介護を要する年数とは、すなわち経済を圧迫する年数。私たち足育研究会は、国民にのしかかる負担をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいか、足元に着目してその解決策を模索しています。なぜなら、足や爪のトラブルは歩行に支障をきたすため。歩けなくなることは、介護が必要になるリスクに直結します。 足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病 足元のトラブルは生活習慣病であり、そのスタートは子ども時代にあります。私は日ごろから子どもたちの足を見ていますが、すでに足趾の変形が認められ、爪のトラブルが発症しているケースは少なくありません。これを放っておくと、加齢に伴い足趾の変形はさらに強まり、爪に不可逆的なトラブルが起こり、重症化します。そうして転倒しやすくなったり、痛みなどが生じて歩けなくなれば、フレイルや寝たきりになるリスクが高まったりもするでしょう。私たちは、この負のスパイラルをできるだけ早く断ち切るべく取り組んでいます。訪問看護師のみなさんにおかれましても、ぜひ足元のトラブルの成り立ちや患者さんが被る不利益を理解し、積極的にケアにあたっていただければと思います。 ▶ 足や爪のトラブルの原因 高齢者の足や爪のトラブルの代表的な原因としては、以下の3つが挙げられます。 白癬 非常に多くの高齢者が罹患している白癬は、爪を悪くする原因になります。爪は、爪母と呼ばれる皮膚に隠れた根元の部位でつくられ、爪床という『爪のベッド』に沿って前へと運ばれて、常に新しいものに置き換わる構造になっています。 そもそも、白癬というのは、足の白癬から始まります。①足の水虫(白癬)を放置してそれが爪に入ると②のような「くさび形」になるなどの変化が生じます。②の状態であれば、まだ爪の形を保ち、爪としての機能も果たせているケースが多いです。しかし、そのまま放置して重症化すると③のように変化して、爪の機能を果たせなくなるほどになります。糖尿病や下肢の末梢動脈疾患を抱えている方、もしくは透析を受けている方などのケースでは、④のような壊疽にもつながります。 皮膚の老化 高齢者の皮膚は、褥瘡をつくりやすい状態にあります。具体的な特徴は以下のようなものです。 【表皮】表皮細胞が減少し、免疫やターンオーバー、皮膚感覚が低下します。また、角層では皮脂の分泌が減り、天然保湿因子が枯渇して、強い乾燥が起こります。これによりバリア機能が低下したり、亀裂が生じたりして、アレルゲンや細菌などが皮膚内部に入りやすくなります。 【真皮】コラーゲンや弾力繊維が減少し、血管に変化が起きます。それが外力に対しての脆弱化を招き、創傷治癒力のさらなる低下、血管の閉塞をもたらします。 【脂肪組織】著明に萎縮します。とくに踵は筋肉がなく、脂肪組織だけで守っているため、ダメージを受けやすくなります。 筋力や関節可動域の低下 関節可動域が低下することで通常の歩行ができなくなり、皮膚や爪に過度な、もしくは不適切な負荷がかかって、指先を傷めたり爪が変形したりします。私たち足育研究会の調査では、巻き爪は足趾間力の低下がもたらしているというデータも得られました。 また、膝や股関節の可動域の低下、さらには筋力の低下によって座り方も変化します。大腿部をそろえて座ることができなくなり、足がパカッと開いてしまうのです。すると、踵の外側に強い圧力がかかり、褥瘡が現れやすくなります。 このように足や爪のトラブルの背景には、皮膚や関節、筋肉の変化など、さまざまな要因があります。これ以外にも、靴の問題なども深く関係してきます。こうした全身的な老化現象、生活習慣の果てにあるのが、高齢者の足の問題なのです。 先ほども少し触れたとおり、問題の発端は子ども時代にさかのぼります。柔らかい足で合わない靴を履いたり、運動量が不足したり。そして、足のケアが不足した状態も続き、やがては白癬や膝・腰の痛み、糖尿病、脳梗塞などの合併症が起きて、足元のトラブルにたどり着く……足や爪の状態は、その人の人生を色濃く反映しているといえます。 ▶ フットケアに期待される効果 そんな足や爪のトラブルを抱えた高齢者にぜひ行ってあげてほしいのが、フットケアです。肥厚した爪甲のケアは、フレイルやサルコペニアなどの予防につながることがわかっています。歩いても痛みがない状態、靴下などに引っかからない状態に爪を整えてあげることで、下肢機能の低下を改善できるからです。現場では、フットケア後に今まで運動できなかった方が歩き出したというケースはよく見られます。 また、爪白癬を患う要介護者に積極的にフットケアを行ったところ、実施期間中は介護度が上がらなかった、つまりADLを維持できたという研究結果もあります。歩ける期間をできるだけ長くするために、そして歩けない方も安全・安楽・衛生的に過ごすために、フットケアをやらない理由はありません。 足浴の効果は絶大 フットケアの中でぜひ行っていただきたいのが、足浴です。利用者さんに気持ちいいと感じてもらえることはもちろん、皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保って感染を予防できる、筋肉を温めながらマッサージすることで運動効果を得られるなど、さまざまな効果が期待できます。継続的に足浴を実施すると、足関節の背屈可動域が改善するというデータも出ているほどです。足は『感覚臓器』。足浴で触ってあげる、少し動かしてあげることで、正常な感覚を呼び戻してあげてください。 ▶ 爪切り難民を救うために必要なこと このように、高齢者へのフットケアは大変重要であるにもかかわらず、『爪切り難民』は少なくありません。とくに介護を受けておらず、病院にも通っていない方は、多くの場合適切な爪のケアを受けられずにいます。 近年、足育研究会では爪切り難民対策として薬局に専門家を派遣してフットケアを行う取り組みを全国で始めていますが、こちらは要介護予備軍の方々を対象としています。介護を受けている方は自宅や施設で爪切りができることが前提の取り組みです。訪問看護の現場や、高齢者施設などは、当然『患者さんの足を守る場所』であってほしいと考えています。 みなさんには、高齢者の足の衛生や機能を守るという意識をもって、ぜひできる範囲でフットケアに取り組んでいただければと思います。 次回は、「在宅でのフットケアの実際」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

10
コラム
2021年11月30日
2021年11月30日

ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ALSについてインターネット上の情報が示すのは絶望的な情報。でも、アップデートされた正しい情報が示すのは、「ALSはともに生きていく病気だ!」 検索上位は絶望を誘う情報ばかり ALSと診断された患者や家族は、診断を受けたら、インターネットを使ってALSのことを調べるでしょう。 「ALS」と入力したら、検索の上位に出てくるのは「症状」や「寿命」などのワード。 ALSとはどんな病気か、まだほとんど知らない状態で入ってくるのが、平均寿命が2年〜5年という衝撃的な情報です。多くの人が、そこで、「自分はあと数年しか生きられないのか」と理解し、絶望するのです。 恥ずかしながら、医師である私も、そう理解しました。 発症当時34歳だった私は何の持病もなく、健康そのものでした。それなのに、40歳まで生きられないのか……。そう思い、愕然としました。愕然としすぎて、どこか他人事のようで現実感がなかったくらいですが、ただ漠然とした恐怖と不安に押しつぶされていました。 多くのALS患者さんも、同じような感情を抱くのだと思います。 『呼吸筋麻痺は終末期』は本当か インターネット上の多くの情報は、呼吸筋麻痺を「ALSの終末期」ととらえています。 確かに、ALS患者さんの多くは、気管切開による侵襲的人工呼吸療法(TPPV)をして生きていく道を選びません。実際、TPPVの導入割合は、日本で約 20〜30%と推計されています。 (余談ですが、欧米では数%から10%強そこそこなので、これでも日本は世界からみたら飛びぬけて TPPV が多い国ととらえられています。1)) なぜこんなにも、TPPVで生きていく人が少ないのでしょうか? それは多くの人が、ほとんど体が動かせず、治療法もないこの病気に希望が見いだせないからでしょう。 在宅環境のめまぐるしい進歩を味方に 確かに治療法はまだありません。しかしTPPVで在宅療養していく生活環境は、目まぐるしく進歩しています。特にtechnologyの進歩はすごい! 医学の進歩をはるかに凌駕しています。 ここ数年で、体の一部分が動かせさえすれば、iPhoneやiPadを操作できるようになりました。私も、最初のころは手の指で、手が難しくなってきて次は足の指で、その次は歯で、操作しています。私は今でも、これで、医師として仕事もするし、メールやLINEもするし、さまざまな動画コンテンツだって見ることができるし、本や漫画も読めるし、ゲームだってできる。ちなみに私はドラクエをしています(笑)。 たぶんこれからも、technologyはどんどん進歩していくし、それに伴ってALSの在宅療養環境もどんどん改善していくでしょう。 これだけでも、大きな希望です! 『呼吸筋麻痺は維持期』という考えかた だから私は、「呼吸筋麻痺はALSの終末期」ではなく、「呼吸筋麻痺はALSの維持期」と考えます! 実際、「胃瘻造設をして栄養管理を行いながらTPPVをしているALS患者の生存期間中央値は20年」というデータも都立神経病院から出ています2)。ALSの好発年齢が50〜70歳であることを考えると、十分に天寿も全うできる数字です。 これからは「ALSは死ぬ病気ではなく、ともに生きていく病気」になっていくでしょう。 ALSは20年だって生きられる病気だ 私もALS患者です、「ともに生きていく」ことが大変なのはよくわかります。私の考えを押しつけるつもりもまったくありません。TPPVを選ばないことも、立派な選択肢の一つだと思います。 ただ同じALS患者として、医師として、ALS患者さんには、正しい、アップデートされた情報をもって、TPPVをするかTPPVをしないかを選択してほしいと切に思います。私の記事がその一端を担えれば幸いです。 もう一度言います。 「ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!」 「気管切開して、TPPVをした場合、ALSは20年だって生きられる可能性のある病気だ!」 ** コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)荻野美恵子.『日本におけるALS終末期』臨床神経.48,2008,973-5.2)木村英紀.『長期TPPV下における問題点とその対策について』難病と在宅ケア.27(2),2021,60-3.

× 会員登録する(無料) ログインはこちら