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インタビュー

信頼関係を築く本物のコミュニケーション

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」という)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。
テッセイの改革は、揺るぎないチームワークとボトムアップを引き出すしくみが、成功のポイントになっています。組織内のタテ・ヨコのコミュニケーションが円滑に行われることで、社員のやる気を高め、サービスの向上にもつながっています。第3回の対談では、訪問看護事業におけるコミュニケーションの課題についてお話いただきました。

報告・連絡以外のコミュニケーションの必要性

大河原:
訪問看護ステーションは本社と離れている所に点在しているため、各ステーションの従業員と頻繁に会うことができません。
当社は、訪問看護ステーションとしてはコミュニケ-ションを重視している方だと思います。管理者とは週に1回のウェブミーティングで情報を共有しており、現場からの意見は管理者を経由して集めるしくみになっています。そのため直接声を聞く機会として、地方の従業員とはウェブで面談をし、都内に関しては行けるところは私が回るようにしています。
しかし他のステーションの話を聞くと、現場のことは管理者に任せっきりで週に1回も話さないとか、話すときには経営側が一方的に話すという声も聞いています。経営側の現場のことはわからないというスタンスが、管理者の疎外感を生み、衝突してしまうのかもしれません。
私も外部から相談を受けることがあるのですが、経営側と中間管理職である管理者が意思疎通をうまく図るためには、どうすればよいでしょうか。
芳賀:
経営側と管理者がお互いあまり理解できていないから、衝突が起こるということですかね。
おそらく今は、経営側と現場の管理者のコミュニケーションは会議という形でやっていて、現場からの報告と経営側からのお知らせで終わっているのだと思います。これは他の業界でもあることですが、会議以外で、本当に言いたいことが言い合えるコミュニケーションの時間を作る必要があるのではないでしょうか。
話をするときには、一緒に考える、寄り添うという姿勢が大切です。管理者の課題に対して、どうしてそうなったのかを聞き、改善策について経営側も管理者と一緒に考える。解決策は他の管理者とも共有する。こうした過程を共有していくことが重要です。
大河原:
当社の会議では、経営側が一方的に話をするのではなく、管理者からの報告をしっかり聞くよう心がけてはいます。ただ、事業所ごとで抱えている問題や管理者の性格も違うため、経営側もそれぞれに合わせた柔軟な対応が求められるとは感じていました。
芳賀:
個別にどうしたらいいか考えるのは、今のリカバリーさんの規模だからできるのだと思います。もっと規模が大きくなると今の対応では難しくなるので、変えていかなければいけない。
例えばFCで展開している飲食業などは、エリアマネージャーがエリア内の店舗を頻繁に訪問して、店長さんたちの話を細かく聞くような方法を取っています。訪問看護ステーションはそこまで数は多くないと思いますが、経営との間に個別のヒアリングができるエリアの統括を置くとか、規模によって最適なやり方を考える必要はありますね。

【テッセイの改革】

テッセイでは現場の教育を専門に行うインストラクターを増員し、優秀なリーダーを育てていきました。現場の課題をよく知り、解決策をスタッフに実践でき、成功過程を一緒に喜べるリーダーの存在が、スタッフのやる気を引き出すことにつながっています。リーダーや会社側が「現場をいつも見ています」という姿勢を示すことが重要です。

ボトムアップを行うために管理者の意識改革を

大河原:
現在の訪問看護ステーションは、病院で働いていた看護師が管理職になることが多いです。訪問看護ステーションでは管理者が大きな権限を持っていますが、病院は完全なトップダウン体制で、上からの指示で仕事をすることが多いため、さまざまな判断を行った経験がありません。
ボトムアップを進めていくためにも、自律的に判断できる管理者を育てるヒントがあれば教えていただきたいと思います。
芳賀:
テッセイはトップダウンとボトムアップの両方がバランスよく機能することで改革を実現しました。
そのためにテッセイが大事にした基準の1つが『規律の中の自由』です。活動資金を与えるなど、自分たちで自由に決められる枠を与えることからスタートしたのですね。
訪問看護ステーションの場合は、予算的な自由と利用者さんへの対応の自由、2つの自由があると思います。例えば予算については、リカバリーさんではどうされていますか。
大河原:
当社では、事業所の予算についての判断は管理者に任せています。基本的には、「もう一人のあたたかい家族」という会社の理念に基づいて、事業所や利用者さんためになることに使うようにと伝えています。
ただ、管理者だけで決めるのが難しい場合は、本社が一緒に決めるような方法を取っています。
他のステーションでは、管理者に予算や権限をどこまで与えるか決まっていない所も多くあると思います。私は経営と現場の両方をやっているのでわかる所もあるのですが、現場が必要というものが経営的な目線で見ると必要ないということもあり、その価値観の違いが管理者の悩みや不満につながっているという話はよく聞きます。
芳賀:
予算の決定権を与えられた時、管理者には「利用者さんへの付加価値につながっているか」と「経営にどのような影響を及ぼすのか」の2つのバランスを考える意識が必要だと思います。事業所単位の収支のような狭い視点ではなく、会社の理念から考えたときにどうなのか、という視点ですね。
そのためには理念を理解してもらうと同時に、意識をもたせるしくみを作ることも必要です。
私が理事を務めている法人では、社会福祉法人・医療法人を含めた全グループで、医師や看護師などすべてのスタッフからコスト改善の提案を本社にあげてもらっています。そして良い提案は、全事業所で共有し、表彰もしています。もちろん、提案はサービスの質を下げることがないコスト改善です。
コスト改善は、必ずしも利用者さんの付加価値を下げることばかりではないと思います。例えば、ケアに使う物を利用者さんのお宅にある物で代用したら、付加価値は下がらずに利用者さんの経済的負担を軽減できたとか、そうしたケースもありました。
費用の適正化と利用者さんへの付加価値の両方を達成する、ということを自分たちで考え、提案する機会を与えることで、より意識も高まってくると思います。
大河原:
自分たちで考えさせることで、コストや経営的な意識が高まるということですね。
管理職に予算とそれに合わせた権限を与えることの重要性を改めて感じました。そして、理念という判断基準が明確になれば、どの管理者も迷うことが少なくなる。ここでも理念の必要性を実感しました。

【テッセイの改革】

テッセイでは、良いサービスを提供するためには、会社の明確な「トップダウン」とともに、現場スタッフからの「ボトムアップ」が同時に必要であると考えています。
各チームが1日1回以上、1分以上をルールにスタッフ同士気軽に話し合う「スモールミーティング」、改善したいテーマごとにチームを作って話し合う「みんなのプロジェクト」などを行い、現場から出た改善策や新しいアイディアを確実に実行しています。会社側が現場の課題や改善策を一番理解しているスタッフの提案を否定せず、実践させることで、スタッフから自然と意見が出てくる環境が整ったのです。
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名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授
芳賀 裕子
  【略歴】
慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。
Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師
大河原 峻
  【略歴】
看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。
  【参考書籍】
※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社

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