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訪問看護サービスの規模拡大や株式上場を目指す方へ

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。vol.3では、代表取締役社長である大河原さんから、訪問看護ステーション事業の拡大を目指す方や、株式上場を志している方に向けたメッセージをお伝えします。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報▶ 上場前後でのライフスタイルの変化▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ ▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報 ――上場に向けて、意識的に吸収した知識や情報はありますか? P/L(Profit and Loss Statement)など会計管理や、最新の法令について情報収集しました。方法としては、周りの経営者に話を聞いたり、日本看護協会、財団の研修に参加したり。必要に迫られる前に、自分で早めに情報を集めるのが大事だと思います。 ――上場後の主な業務と、アクセスしている情報について教えてください。 上場前から変わらず、業務の中心は役職者への教育や新規出店の計画です。また、利用者様にも看護師にも訪問看護のことをもっと知ってもらいたいと考え、IRにも注力するようになりました。 意識的に見る機会が増えたのは、他業種や他社のマーケティング手法。移動中には、街中の広告や、新規開店した店舗の業態、逆に閉店した店舗の業態などを観察しています。そして、自分たちの会社だけを潤わせるのではなく、訪問看護の業界全体を大きくしていきたいという想いから、さまざまな企業の方と対話する機会を設けています。デイサービスや訪問介護を始めた会社に当社の取り組みをお伝えしたり、飲食のフランチャイズ展開をしている会社やコンサルティング会社の方と意見交換を行ったりしています。どの業界も会社の構造などの基本は同じだと感じていて、経営者として参考になります。 ▶ 上場前後でのライフスタイルの変化 ――株式上場したことで、ライフスタイルに変化はありましたか? ライフスタイルについては正直、まったく変化がありません(笑)。月曜日から土曜日の午前中まで目いっぱい仕事をして、土曜日の午後から日曜日はプライベートの時間を確保しています。毎週月曜日は、「自分がしなければならない仕事」と「誰かに任せられる仕事」を振り分けることから始まります。上場にあたり組織図や業務分掌規程などの整理を行い、自分が担う仕事が明確になったため、今のほうが時間はあるかもしれません。 ――プライベートはどんなふうに過ごしていますか? 「今、世の中が求めているもの」に対して敏感でいるために、プライベートでは視野を広げる時間をつくることを意識しています。部下の好きなことにも興味をもつようにしていて、Aという漫画が好きだと聞けばそれを読んでみる、Bというアーティストが好きだと聞けばその展覧会に行ってみる、という具合です。共通言語をつくり一緒に楽しみながら距離を近づけられたらいいなと思っています。 ▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形 ――訪問看護の、将来的な理想の形について教えてください。 現在の訪問看護は利用者様が看護師を指名する、あるいは少し気に入らないと交代させるといったことが許されてしまう世界。私も看護師なのでわかるのですが、利用者様に「あなたに来てほしい」と言われると嫌な気はしません。しかし指名方式だと看護師の精神的な負担が重くなるだけでなく、訪問時間を守れなかったり、利用者様の健康面の判断に思い込みが生じてしまったりというリスクもあります。さらにコロナ禍において、より個人に依存することのデメリットが明確になりました。看護師が感染症にかかり、利用者様との調整に追われたステーションもあったのではないでしょうか。これらのリスクを回避するためには、複数の看護師による多様な視点で利用者様を看ることが必要です。当社が大事にしているのは、ひとりで完璧な看護を目指すのではなく、チームとしてまずは全員が70~80点の看護を目指し、徐々に100点に近づけていく意識。訪問看護のチーム制はマネジメントの効率化とともに、利用者様やご家族様の理想を叶えることにつながると考えています。 ――チーム制にすることで、訪問看護師の働き方も変わっていくでしょうか? 訪問看護は、看護師の「利用者様に寄り添いたい」という気持ちを実現できる仕事です。しかし一方で、オンコールやご指名制に不安を感じ訪問看護業界への転職を躊躇したり、早期退職につながったりする方も少なくありません。そうならないように、仕事の日は仕事、休みの日は休みと、きっちりメリハリをつけて働くことが理想だと考えています。 また心身への負荷を減らすため、看護師同士お互いを承認し合い、成長できる環境も大事。優秀な看護師ほど「ひとりで120点の看護」を目指してしまい、1度の失敗でドロップアウトしてしまうケースも多く見てきました。信頼し合えるチームでは、休みやすく、相談もしやすく、そして一緒に働く仲間の意見が気づきになって成長できます。 オンオフのメリハリをつけて笑顔で働ける環境は、時代にも合っていますし、今後、訪問看護師の理想の働き方となっていくと考えています。 ▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ ――訪問看護サービスの規模拡大や上場を志す方にメッセージをお願いします。 私は病院でリーダーや訪問看護管理者を経験しました。その中で、自分を犠牲にして働いたことが多かったですし、そういう先輩や同志を多く見てきました。当時はそれが正しいと思っていましたが、今は継続性という観点から、チームとして動くことが大事だと考えています。組織の規模拡大は間違いなく、チームがないと成り立ちません。 チームで動ける組織にする第一歩は、ご自分や部下の目指す姿・解決したいことなどをしっかりと話し合うことです。部下の目標や理想の姿をしっかり聞き、自分がどうなりたいか、どうしていきたいかを伝える必要があります。もしコミュニケーションが難しいと感じているなら、コーチングを受けてみることをおすすめします。 私自身、起業後3年間は休みなく働いてきましたが、今は時間に余裕が生まれました。組織が育ち、仕事の委任や業務分掌規程などの整理ができたからです。事業規模の拡大や株式上場を目指す人は、自分だけで抱えることのないよう、周りの人との相互理解を深めていってください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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vol.2 上場企業として成長するためのマネジメントと戦略

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。vol.2では、代表取締役社長である大河原さんに、上場企業として重視している組織マネジメントや、今後を見据えての戦略についてお話をうかがいました。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 採用と社員教育▶ 組織をマネジメントする上で重視していること▶ 現在感じている自社の課題と今後の戦略▶ 地方出店への展望 ▶ 採用と社員教育 ――社員の採用や教育において重視していることを教えてください。 「当社の社員を増やす」だけでなく「訪問看護師を増やす」ため、訪問看護未経験者の採用も積極的に行っています。また、病院や他の訪問看護ステーションでは、先輩看護師がマンツーマンで指導を行う「プリセプター制度」を採用しているところが多いですが、当社の教育の基本は「チューター制度」。年齢の近い先輩(チューター)が新人に伴走するスタイルで「一緒に考え、成長していく」ことを目指しています。未経験者でも半年から一年で育成可能なプログラムを構築しているので、早ければ3ヶ月ほどで一人で利用者様の元を訪問できるようになります。拠点によっては、チューターに教えてもらっていた新人が、すぐに他の人のチューター側にまわるケースもあります。 ――チューターに対してはどのような教育を行っていますか? 各拠点にいる役職者がしっかりとサポートする体制をつくっています。チューターに繰り返し伝えているのは「上から教えるのではなく一緒に考える」ことの重要性です。訪問看護はいつも一つの正解があるような仕事ではありません。指導する側、される側が一つの正解を求めてしまうと、現実とのギャップが生じます。 「指摘し合うのではなく認め合う」というチューター制度の基本姿勢は、職員の退職率が下がった一つの要因だと感じています。 ▶ 組織をマネジメントする上で重視していること ――円滑な組織運営のために意識していることはありますか? 組織マネジメントの要は、各拠点の役職者です。当社では1拠点に3名の役職者を置き、その育成に力を入れています。週1回「リーダー研修」を行い、役職者としての考え方や姿勢はもちろん、PLを含めた経営上の数字の読み方や労務管理などの知識、コーチングやリーダーシップなどについてレクチャーしています。さらに、研修を受けたリーダーには、各拠点にいる他のリーダーに、学んだことをアウトプットしてもらうようにして、知識の定着を促しています。 また、訪問看護サービスの要となるのはいうまでもなくひとりひとりの看護師です。専門職は成長や変化を望む人が多いので、役職者が看護師に対して年3回の面談を行い、各自の目標管理を徹底しています。面談を通じて目標管理や到達へのフィードバックを行えるよう、役職者への「面談スキル」研修も行っています。 ▶ 現在感じている自社の課題と今後の戦略 ――現在、組織経営で感じている課題はありますか? 拠点が18に増えたことで、会社としての考え方がすみずみまで浸透しきっていないと感じています。各拠点のトップである所長に100の情報を伝えたとしても、所長から副所長へ伝達する時点で伝わるのが80%くらい。さらにその部下へとなると、60%程度しか情報が伝っていないことも少なくありません。 ――そうした状況を改善するための戦略について教えてください。 たとえば所長から副所長への情報共有後、副所長から所長へ毎回感想をアウトプットしてもらうようにしています。その逆も同様です。2年前からスタートし、少しずつ手応えを感じるようになりました。 今後は社内の情報について今よりも取り扱いルールを緩和し、もっと多くの社員がアクセスできるようにしていきたいと考えています。現在、情報は私や幹部が各拠点の所長に伝える構造になっていますが、さらに拠点数を増やす場合は、幹部と所長とを結ぶ「エリアマネージャー」のような役職をつくって、そこから各エリアに向けて情報を伝達できるようなしくみを構築したいですね。 そして、ここまで展開してきて実感するのは、役職者教育が成功すれば、あとは自然と上手く回っていくということです。病院経営はトップダウンで「上の言うことが絶対」というところも多いですが、訪問看護サービスの経営には、新しいやり方が必要だと考え、常に模索をしています。 ▶ 地方出店への展望 ――御社は地方にも展開されていますが、今後も増やしていく予定ですか? 今後は、ドミナント戦略でまずは神奈川、埼玉、千葉といった関東エリアでの出店を考えています。関西は兵庫や高知に拠点があるので、そこを足がかりにできればと思っています。一方、地縁のない地域への出店は急いでいません。というのも、知らない土地での役職者選定と教育には課題が多いからです。まず難しいのは、優秀な看護師が必ずしも優秀な管理者になるとは限らないという点。優秀な方は部下にも自分と同じ水準を求めてしまう傾向があるのですが、当社は個々人が100点を目指すのではなく、チーム制で全体として70点から80点を確実に提供するサービスを目指しています。そういう考え方をしっかりと役職者に浸透させることが重要だと考えているため、まずはドミナント戦略での地方出店を検討しています。 ――人口減が問題となっている地域への出店について考えを聞かせてください。 人口が少ない地域は実際に利用者様が伸びないので、拠点を増やしづらいのは事実です。しかし、県庁所在地などある程度の規模のある地域であれば、1〜2ヶ所は出店できるのではと考えています。 ただ、人口が少ない地域では「利用者様数が伸びない」と同時に、「看護師の確保が難しい」ことも課題になりがちです。看護師の数が少ないと必然的にオンコール対応の頻度が高くなり、その負担が問題となります。当社ではオンコールの当番を週1回未満となるようにしています。そうするためには各拠点に看護師が最低8人は必要です。地方出店の重要なポイントは、利用者様の確保よりもまずは看護師の数を確保して、組織としてしっかりとした体制をつくれるかどうかです。当社は、そこをおさえた上で、今後の地方出店を考えていきたいと思っています。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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vol.1 訪問看護サービスが株式上場するメリット/デメリット

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。その代表取締役社長である大河原さんに、上場を決めた理由やそのメリット・デメリット、訪問看護業界の課題などについてうかがいました。全3回でお届けします。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 株式上場を考えたきっかけ▶ 上場することのメリット/デメリット▶ 上場企業として求められる内部管理▶ 訪問看護業界が抱える課題と会社としての取り組み ▶ 株式上場を考えたきっかけ ――まず、なぜ株式上場を目指そうと思われたのでしょうか? 理由は二つあります。まず一つは自社を含め、「訪問看護サービスを提供する会社の信用性」を上げたいと考えたためです。きっかけは、当社で働いていた社員が住宅ローンの審査に落ちたこと。勤務先が病院であれば問題ないはずの条件での審査落ちでした。さらに、採用活動を進めるなかで「訪問看護という仕事はよくわからないから不安だと、親に就職を反対された」という理由で内定辞退を受けることが重なりました。この経験から、働く人や家族が安心できる会社になるためには、病院のようなしっかりとした経営環境を整える必要があると感じ、その手段として株式上場を検討するようになりましたね。 二つめの理由は、訪問看護サービスを広く社会に知ってもらうためです。訪問看護師の人数、利用者様への情報伝達、いずれも不十分だと感じています。それを打破するためになにができるかと考えたとき、株式上場はどちらの問題に対しても解決の一助になると感じました。 ▶ 上場することのメリット/デメリット ――自社のメリットはもちろん、訪問看護業界全体へのメリットを見据えた上場なのですね。 そのとおりです。2025年までに15万人の訪問看護師が必要だと言われていますが、現在、訪問看護師の数は約9万人。看護師資格を持っている人は約150万人いるはずにもかかわらず、訪問看護師の数はその10%にも満たない状況です。当社が上場することで社会に訪問看護師の存在を知ってもらい、さらに、安心して働ける仕事であることが認知されれば、訪問看護師の人数を増やすことにもつながると考えています。 また、事業を進めるなかで利用者様から「もっと早く訪問看護を知っていれば良かった」という声をよく耳にします。業界への信用性や認知度が上がることは、潜在的な利用者様にとってもメリットとなるはずです。 ――上場することで想定されたデメリットはありますか? 上場企業として求められる内部管理のレベルは高く、それをキープするためにはコストがかかります。働きやすい環境づくりにコストをかけるよりも、個人への利益還元を優先してほしいと考える社員にとっては、デメリットだととらえられているかもしれません。また、IRなどを通じて経営状況をはじめとした多くの内部情報を開示することになるため、「他社から真似されるリスクがある」という声は社内で上がっていました。この点について私自身は、業界が栄える=当社も伸びるという考えです。多くのステーション様と一緒に業界全体を伸ばしていきたいですね。 ▶ 上場企業として求められる内部管理 ――上場に際して、会社の就業規定は変更しましたか? ケガや病気のときなどに、休業補償を利用して安心して休めるよう変更しました。また、残業を事前申請制にするなど、勤怠管理を徹底することで労働環境が向上するように改定しました。事務作業のバックオフィス体制も整備して、働きやすい環境づくりを進めています。 ――社員の方からはどのような反応がありましたか? ポジティブな反応ばかりではなく、ネガティブな反応もありましたね。新しくルールをつくると、雇用される側は窮屈に感じたり、よく思わなかったりする人もいます。とくに理解してもらうのが難しかったのが、残業の事前申請。勤務管理を適切に行うことは上場する上で必要ですし、社員の健康管理の面からも重要ですが、現場では「残業はいくらでも好きなだけやっていい」という感覚が根強い。現在でも浸透しきっているとは言い難い状況ですが、各拠点の残業を「見える化」することで社員の意識が少しずつ変わってきている手応えがあります。 ▶ 訪問看護業界が抱える課題と会社としての取り組み ――業界全体に対して感じている課題と、それに対する御社の解決策を教えてください。 訪問看護業界に根付いている古い文化の一つに「紙文化」があります。業務の連絡にFAXを利用しているケースも多く見られますが、現代において最善とは言い難い。当社ではメールやWEBシステムの整備などのIT化を進め、事務作業や電話対応も本社で一括化することで経営の効率化を図っています。勤怠管理も、もちろんWEBで行っています。 また、訪問看護サービスでは「広範囲エリア対応」が当たり前になっていますが、長時間の自動車運転による事故や看護師の疲労など、さまざまなリスクが生じます。当社ではステーションごとに担当エリアを明確に定めることで看護師の心身の健康を守り、利用者様数が増えてもきちんとケアできる体制を構築しています。 ――利用者を増やすために、どのような営業活動を行っていますか? あえて営業部門などはおかず、看護師と地域連携機関との関係性を構築することで利用者様を増やしています。具体的には、「ホウレンソウ(報告、連絡、相談)」の徹底です。もちろん、どの訪問看護ステーションでも、ホウレンソウは意識をされていると思います。ただ、多くの場合、リスクの高い利用者様や問題が発生したときにしか連絡をしていないのではないでしょうか。当社は、とくに大きな変化がなくても「今日も変わりなく元気です」という日々の連絡を徹底しています。たとえ問題がなくても、毎日連絡をするということはご家族の不安を解消するためにとても大切。また、医師やケアマネジャーなど連携している他社の方から見ても、わざわざ確認しなくても、日々の状態がいつも把握できていることで、安心して仕事ができます。 ご家族や地域連携機関との信頼関係をしっかり築けば、自ずと依頼が来ます。看護師が当たり前のことをきちんとやることで利用者様を獲得する、というのが当社の営業活動です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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希少がんの治験にいつか訪問看護師の力が

全国から被験者を募る希少がんでの治験では、訪問看護に期待できるものとしてプレスクリーニング時のオンライン診療の場などが考えられます。今回は、がんの治験に関する訪問看護の親和性を四つの観点から考えます。 砂川優聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 はじめに 今回は、がんの治験に関する訪問看護の親和性を、①がん治験の重要性と困難性 ②治験業務に求められるもの ③訪問看護が関与するオンライン診療のイメージ ④がん患者へのメリット ── の四つの観点から考えます。さらに、DCT(Decentralized Clinical Trial)普及の壁と訪問看護への期待に言及します。 ①がん治験の重要性と困難性 がん治験の対象になるのは、主に進行がんで、余命が告げられた患者さんも少なくありません。訪問看護に従事する皆さんは、そのような患者さん・利用者さんを対象にして、ケアを提供されているのだと思います。 がん治療において、治験そのものが治療となります。従来の薬では症状の改善が見込めない患者さんが対象であり、治験への参加が患者さんの生きる望みとなる場合だってあるのです。 ただ、希少な遺伝子異常を有するがんの場合、治験の対象となる患者さんを見つけるためには、100人検査して1人いるかというレベルで遺伝子異常を探し出す作業を必要とします。 こうした作業を、医療機関への来院に依存する従来型の治験で実施した場合、症例の集積がきわめて困難です。全国的に広く治験の対象となる患者さんを見つける必要性からもDCTは有効であり、さらに、DCTが普及すれば、在宅にいる患者さんに、プレスクリーニング、スクリーニング、そして、治験を実施できる可能性が生まれます。 ②治験業務に求められるもの 治験業務には、決められたプロトコールがあります。高い精度の実施および報告水準が求められ、誰が行っても同じ結果になることが必須です。 看護師という資格のうえに、研修等で治験に必要なスキルを積み上げれば、治験が求める水準の診療補助行為を実施することができるはずです。 こうしたことから、DCTの普及の条件の一つに、治験に対応できる訪問看護師さんの登場があると考えます。 ③訪問看護が関与するDCTのイメージ 治験参加中の患者さんには、採血、採尿、バイタル測定などの検査および観察を実施し、体調の変化や病状の回復具合を調べます。そのようなデータ収集を担うのが訪問看護師さんだとイメージしています。 また、オンライン診療で医師が診察をする際に、患者さんの横に訪問看護師さんが寄り添い、バイタル測定や五感をフル動員して観察を行い、医師に報告するといったDCTへの関与のしかたもイメージできます。 訪問看護師さんがいることで、在宅治験の精度が上がるのだと思います。 ④がん患者へのメリット 自宅などに居ながら治験に参加するにあたって、プレスクリーニングやスクリーニングを含め、患者さんの最も近くにいる訪問看護師さんたちのサポートがあれば、患者さん自身も安心して治験に臨めます。つまり、訪問看護師さんたちがいることで、患者さんが全国のどこに住んでいても治験といった治療を享受できる可能性が生まれます。 たとえば、「治験を実施している医療機関が近くにない」「医療機関が遠くてとても通えない」などと治験を諦めていた患者さん。または、「自分の疾患が治験の対象になるかもしれないという情報すら知らなかった」といった患者さんに、DCTの普及と訪問看護師さんたちの存在は、大きなチャンスを贈ることができるのかもしれません。 DCT普及の壁と訪問看護への期待 日本におけるDCTへの取り組みは、始まったばかりです。オンライン診療の信頼性をどのように確保するか、治験に参加している患者さんの状態を正確に把握するためにはどうするか、得られたデータが治験の水準を満たすのか、拠点病院の設定基準はどのように定めるのか、治験業務を担ってくれる医師・CRC(治験コーディネーター)・看護師の連携はどのように行うのかなど、DCTのレギュレーションを確立するために、乗り越えなければならない壁の高さは決して低くはありません。コスト面に関してのさらなる検討も必要でしょう。 DCTは、そうした高い壁を乗り越えるだけのメリットを、医療側にも患者さん側にももたらすものだと確信しています。 DCTには、デジタルデバイスを含めたICTの発展も欠かせません。しかし、それだけでDCTの質を上げることはできません。臨床の現場にはすぐれた専門職が必要です。患者さんに直接触れ合うことができる訪問看護師さんの存在は、治験の質、日本の医療の質を高めてくれる可能性に満ちています。 記事編集:株式会社メディカ出版

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希少がんの在宅治験の可能性

治験の最前線では、遺伝子解析による希少がんの臨床試験がさかんに実施されています。しかし該当するのは100人に1人以下ということも。ここでは、訪問看護師による希少がんの在宅治験業務の可能性を考えていきます。 砂川優聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 治験はがん治療の有力な選択肢 訪問看護師の在宅治験業務への参加は、DCT(Decentralized Clinical Trial:分散型臨床試験)の普及における鍵の一つとなるかもしれません。DCTが待ち望まれる理由を、私の専門領域であるがん治療の臨床視点で押さえるところから、話を始めたいと思います。 がんが生まれる主な原因は、遺伝子の異常だとされています。そこで、がん薬物治療の主流は、患者さんのがん組織にどのような異常が起こっているのかを調べ(遺伝子解析)、特定の遺伝子異常に対する薬を投与するという方向に向かっています。その薬は治験において投与されています。言い換えれば、現在は、治験そのものが、がんの治療の有力な選択肢となっています。 がん治験の現状 治験は、保険承認を得るための臨床試験です。がん治療における従来型の治験は、薬の効果がまだよくわからない段階で行うものでしたが、現在では、ある程度治療効果が予測できる薬を投与する治験が増えています。 その意味からも、患者さんにとって治療の選択肢として、治験への期待が高まっています。 ところが、日本の場合、がんの治験は首都圏や近畿圏の医療機関に集中しているのが現状です。それ以外の地域に住んでいる患者さんは、遠くまで出向かなければ治験が受けられないという、高いハードルがあります。 がん患者に恩恵をもたらすDCT DCTは、自宅などに居ながら治験に参加できる画期的な方法です。DCTが普及することによって、患者さんが全国どこにいても治験に参加できるというメリットが生まれます。がん患者さんにとってDCTは、治験による治療のチャンスを広げてくれる待望のしくみだといえます。 薬の開発への好影響 薬の開発面に視点を移せば、特に希少がんの場合、治験の対象となる患者さんが見つけにくいという現状があります。患者さんが見つからなければ治験ができず、結果として薬の開発が進みません。DCTの普及により、患者さん発見のアンテナを全国的に広げることができると、薬の開発の速度と精度が上がります。 治験の手続き面でのメリット 近年、治験の手続きがますます複雑化しています。DCTになれば、手続きの全プロセスが電子化され、たとえば、最初に入手した患者情報をそのまま転送できるので、手続きの煩雑さを大きく軽減することができます。 希少がんの治験 私が勤務する聖マリアンナ医科大学では、希少な遺伝子異常を有する固形がんを対象とした治験を行っています。 薬の標的となる遺伝子異常が全固形がんの1%に満たないものもあり、一般的な治験の手法では、症例の集積がきわめて困難です。 一般的な治験の手法とは、すなわち、治験の対象となるかもしれない患者さんに、治験を実施している医療機関に出向いてもらい、がんの遺伝子検査について説明し、同意を得た後に、腫瘍組織の遺伝子解析を行うという手順を必要とします。ところが前述したように治験対象となる合致率は少なく、多くの患者さんが無駄足となってしまいます。 オンライン診療を利用した治験のプレスクリーニング 聖マリアンナ医科大学病院腫瘍内科では、治験の対象となる遺伝子異常がある患者さんを探し出すプレスクリーニングに、オンライン診療を利用する取り組みを行っています。 これにより、候補被験者の紹介を全国レベルまで広げることができ、さらに、患者さんがわざわざお越しにならなくても、治験対象としての適格性があるか否かを判断できるようになりました。 2022年3月時点で10人の患者さんにオンライン診療による治験のプレスクリーニングを実施しました。希少な遺伝子異常であるためまだ異常を認める患者さんが見つかっておらず、治験に移行した患者さんはいませんが、希少がん治験の可能性を実感しています。 DCTの可能性 DCTが運用できれば、現在はプレスクリーニングにとどまっているオンライン診療を、治験の全工程に拡大することができます。その実現には、レギュレーションの整備、治験の質の担保、対費用効果など解決しなければならない壁がいくつかありますが、治験のDCT化は世界的な傾向でもあり、日本においてもDCTの普及に大きな期待が寄せられています。 ――後半へ続く。 記事編集:株式会社メディカ出版

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訪問看護師がつなぐDCTの未来/分散型臨床試験(治験)

今回は訪問看護師の新しい仕事の領域としてDCTの可能性について考えてみましょう。 黑川友哉千葉大学医学部附属病院 臨床試験部 助教千葉大学医学部附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科(独)医薬品医療機器総合機構 専門委員 訪問看護師がつなぐDCTという未来 今回は、訪問看護における在宅治験業務の可能性を、①DCTの精度向上への期待 ②治験業務との親和性 ③患者メリットの実現 ④治験促進の貢献 ── の、四つの観点から考えます。さらに、治験をめぐる誤解を取り上げた後、「新しい医療づくり」に言及します。 ①DCTの精度向上への期待 新しい「くすり」の承認を得るための治験には、何よりも精度(信頼性)が求められます。DCT(Decentralized Clinical Trial)は、非病院依存型治験であるため、精度をいかに確保するかが重要な課題といえます。 たとえば、来院せずに自宅などでバイタル(体温、血圧、脈拍、血中酸素飽和度など)を測定することが必要になってきますが、被験者自身が機器を使うよりも、医療の専門職である訪問看護師が機器を使うことで、格段に精度が上がります。私たちのような、大学で治験をマネジメントする立場(ARO;Academic Research Organization)からみれば、どれだけ心強いことでしょう。 ②治験業務との親和性 訪問看護は医師の指示に基づき、指示書どおりに提供されることが重要と聞きました。実は、治験もプロトコールどおりに行うことがきわめて重要であり、訪問看護業務との親和性が非常に高いと感じています。 治験業務のすべてに、標準業務手順書(SOP;Standard Operating Procedures)があり、SOPを遵守することが治験の鉄則です。そうして集められたデータだからこそ信頼でき、「くすり」の承認へとつながっていきます。 ③患者メリットの実現 従来型の治験は、来院が必須でした。逆にいえば、来院できない方は被験者の対象とはなりませんでした。訪問看護の患者さんでいえば、認知症の症状が重い方やALSなどの神経難病の方は、治験の対象となるハードルは非常に高いものでした。 治験は、アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs:いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)の延長線上に位置します。認知症やALSには同様のニーズがあります。 訪問看護の患者さんたちが治験に参加できれば、「命を救う」という、患者さんにとって最大のメリットを実現することになるかもしれません。 ④治験促進への貢献 DCTは、自宅などに居ながら治験に参加できる画期的な方法です。しかし、被験者に名乗りを上げるには、やはり身近な医療専門職のサポートが必要です。訪問看護師さんは、まさにその最有力候補です。 また、従来型の治験は、来院が前提であったため、来院可能なエリアに住む人しか被験者となり得ませんでした。DCTでは遠く離れた医療機関どうしが連携することで、試験に参加できる被験者の居住エリアを全国レベルまで拡大することもできます。訪問看護は、全国津々浦々でサービスを提供しているわけであり、その意味でも、訪問看護師さんがDCTの普及、および治験促進の鍵になるのではないかと強く思っています。 治験をめぐる誤解 日本において、「治験」および「臨床試験」という言葉には、負のイメージがあります。極端ないいかたをすれば、「治験は危険な実験」とのイメージを抱く人もいるようです。 しかし、それは大きな誤解です。DCTでは被験者の安全性が確保されるよう、近隣の医療機関との連携体制を構築したうえで行われます。 また、治験は第Ⅰ相~第Ⅲ相試験の三つのステップがあり、まずは人の体で耐えられるのか、安全なのかという比較的小規模な検討から始まり、徐々に有効性の証明のための大規模な試験へと進んでいきます。臨床試験で何よりも重要なのは、被験者の安全と権利の確保なのです。 DCTでは、医療機関への受診頻度が減る可能性があるといっても、この、安全と権利を守るための体制確保が揺らぐことがないように準備が行われます。 「新しい医療づくり」 訪問看護師が治験に参加するメリットは、「新しい医療づくり」に貢献できることだと考えます。AROに所属する私たちも、まさに、そのことに意義と使命を感じ、治験普及のための支援を行ってきました。 DCTが普及すれば、「病院が遠いから」「歩くのが困難だから」と諦めていた患者さんも、治験に参加するチャンスが生まれます。訪問看護師のサポートがあれば、患者さんは大いに安心して治験のメリットを享受することができます。 アンメット・メディカル・ニーズに応えるために、治験を担う仲間になってほしいのです。どうぞご一緒に、新しい医療を切り開いていきましょう。 記事編集:株式会社メディカ出版

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DCTを知っていますか/分散型臨床試験(治験)

本稿では、訪問看護における在宅治験業務の可能性を考えていきます。その前提として、治験の全体像を整理しておきましょう。 黑川友哉千葉大学医学部附属病院 臨床試験部 助教千葉大学医学部附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科(独)医薬品医療機器総合機構 専門委員 非病院依存型治験 訪問看護が一翼を担う可能性のある治験は、来院(Visit)に依存した従来型治験ではなく、DCT(Decentralized Clinical Trial)と呼ばれる治験のスタイルです。 DCTは、一般に「分散型治験(分散型臨床試験)」と呼ばれていますが、私は「非病院依存型治験」とも表現しています。 従来型治験で来院して行っていた投薬・診察・検査・評価・観察などを、来院に依存することなく行います。 それを可能にするのが、流通インフラ(治験薬の配達やスピッツの開発・回収)、オンライン診療、ITツール、訪問看護などです。これらの活用より、自宅や介護施設などから治験に参加することができます。 日本における現状 DCTは、新しい医療を切りひらく可能性がある画期的な治験の方法ですが、日本において、DCT普及のハードルはかなり高いのが実感です。理由を三つ挙げてみます。 DCTが広がらない理由(課題)①認知不足 自宅などに居ながら治験に参加する方法があることを、被験者(患者)、医師、コメディカルが知らない。 DCTが広がらない理由(課題)②ノウハウ不足 従来の来院型と同じクオリティを、オンラインのデバイスを使った場合にも保つノウハウが蓄積されていない。たとえば、オンラインでの説明や同意を行うために必要な準備や、注意点、規制上の落とし穴はないのか、というように、多くの医療従事者にとって未知の領域が大きい。 DCTが広がらない理由(課題)③規制内容の未整理 治験に関する関連法規や厚生労働省の通知などが、DCTにどのように適用されるかといった規制内容が整理されていない。 こうした理由から、日本ではDCTの普及が遅れています。特に「③規制内容の未整理」は、治験の実施に必須であるプロトコールの策定に支障をきたすなど、普及へのハードルとなっています。しかし、普及への課題をしっかりとみきわめながら事例を蓄積することで、解決策がみえてきます。 たとえば、一つひとつの事例のなかで、規制当局との議論を繰り返すことにより、DCTの実施側も当局側も論点整理ができてきます。その結果、DCTの考えかたを盛り込んだ治験の計画書が作りやすくなります。 今後の展望と期待 現状としてはいくつかのハードルはあるものの、DCTの将来性は、大きな期待と可能性に満ちています。それは、DCTがもたらすメリットが多岐にわたることによります。以下に四つのメリットを例示します。 メリット1:高齢社会に対応 高齢化が加速するなか、時代に対応した「くすり」の開発は急務であり、自宅や介護施設においても治験への参加が可能になるDCTは、時代に適合した治験スタイルだといえます。 メリット2:リクルートメント効率の向上 リクルートメントとは、被験者を募集し治験に組み入れるまでの活動のことです。被験者の来院回数を軽減できるDCTは、自宅に居ながら最先端の治療に触れられる機会となり「これなら参加してもいい」という被験者を増やし、リクルートメント効率の向上が期待できます。 メリット3:治験コストの低下 日本は諸外国に比べ、リクルートメント効率が悪いことが知られています。それが要因となって一つひとつの治験にかかる費用が増しており、海外の製薬企業は、日本よりも安く治験が行える国での開発を進めるようになっています。 DCTは、リクルートメント効率の向上を含めた治験コストの低下が期待でき、治験の日本への回帰が見込まれます。多くの治験が日本で行われるということは、海外で使える医薬品が日本国内では使えないという「ドラッグラグ」の解消に、必要不可欠なのです。 メリット4:観察の精度が上がる ウェアラブルデバイスの開発が進み、日常生活における健康面のデータを取得できるようになっています。生活場面での治験を主軸とするDCTは、きめ細かいデータ収集が可能であり、観察の精度が上がる可能性を秘めています。結果として、承認申請においても、医薬品や医療機器の有効性を後押ししてくれるようなデータが得やすくなると思われます。 上述のメリット4は、私の専門の耳鼻咽喉科領域の治験でも期待されています。 耳鼻咽喉科は、聴覚、嗅覚、味覚といった感覚に関する疾患も対象とします。これらの症状は日々または日動変動が顕著で、来院時の診察だけで症状の推移を把握することは、ほぼ不可能です。つまり、従来型の治験では、「くすり」の開発は難しく、日常生活の場面で継続的なデータを収集しやすいDCTに期待が高まります。 このようにDCTには、従来型の治験を超える可能性に満ち、日本の医療開発を支えるうえで、非常に重要なテーマになると確信しています。 後編では、DCTにおける訪問看護師の役割についてお伝えします。 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー

どうすればいい? 利用者さんからの拒否

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールド。今回は、訪問看護のサービス利用に強い拒否感がある利用者への対応などについて、引き続き精神看護専門看護師の中村創さんに話をうかがいました。(以下敬称略) お話中村創 株式会社N・フィールド 精神看護専門看護師 サービス受け入れ拒否の背景 [中村]介護サービスなどでもしばしばみられるように、精神科訪問看護でも、周囲が必要と考えても利用者さんがサービス受け入れを拒否するケースがあります。 具体的な背景には、医療者への不信感が強い、たとえば、特にコロナ禍といった状況では、利用者さん自身が悪いウイルスを持っていると思い込み「来てほしくない」との連絡があるケースや、本人は訪問看護を不要と思っており、理由を尋ねると「『退院をしたければ訪問看護を受けること』と主治医に言われたから」というケースなどがあります。 初回訪問がとても大切 [中村]「拒否があるから、何もしない」ということはありません。外来受診ができているか、電気メーターはいつもと変わらずに回っているかといった「生存確認」など、最低限からでも、できる支援を模索します。 「自分自身にウイルスがある」と思って「来てほしくない」と言う人は、それだけ不安が強い状態だということです。電話でご様子を確認しながら、訪問できるタイミングを計ります。訪問できたら、少し受け入れるキャパシティが広がってきたのだなと、アセスメント項目として、みさせていただくわけです。 このように、サービス利用に強い拒否感のある利用者さんへの対応においては、初回訪問がとても大切だと思っています。 「来てほしくない」と思われているのに、最初から看護師の専門性を前面に出してしまうと、訪問拒否につながることもあります。心がけているのは、ご本人にとって不快ではない時間を作っていくことです。 役割意識で利用者を『尋問』していないか [中村]「安心」「快適」という感覚は、利用者さんの主観によるものです。それをこちらが、「私が来たから安心でしょう」と押しつけてはダメですよね。最初に「私はあなたの敵ではないし、危険な存在でもないですよ」と、いかにして認識してもらうかが、何よりも大切です。 私たちは、気をつけていてもつい、訪問看護師としての専門性を発揮しよう、役割を遂行しようと力が入りすぎて、利用者さんの「安心」や「快適」を引き下げてしまうことがあります。 「薬を飲めていますか」「朝起きられていますか」と言うことは、利用者さんからすると尋問です。そうした医療者視点からのアプローチでは、利用者さんは疲れてしまいます。そうではなく、その人の生活にこちらがいかに乗っていけるか。それが、「安心」「快適」を感じていただける最低ラインの専門性であり、スキルだと考えています。 看護は対人関係のプロセスそのもの [中村]そもそも、訪問看護師は利用者に対して「訪問したからには専門職として何かしなくてはいけない」と考えがちではないかと私は考えています。 そうした意識を、実は利用者さんのほうが鋭く感じ取り、プレッシャーを受けていることもあります。 そうならないよう私が心がけているのは、「まず顔見知りになる」です。私は看護理論のなかで「看護は対人関係のプロセス」1)という言葉をとても大切にしています。 見知らぬ看護師である私の訪問を受け入れた利用者さんは、最初、とても緊張しています。それが、氷が溶けるように少しずつ心を開いていってくれる。その感覚を味わうことが、看護師にとっての醍醐味だと思っています。そして、心の氷が溶けるような体験は、利用者さんにとっては、対人関係上のトレーニングでもあるのです。 知的障害や発達障害のある人は、他者とのコミュニケーションに強い苦手意識を持っていることもあります。うまくコミュニケーションをとれなかった体験の累積で、自己肯定感がどんどん低下していることが多いのです。しかし、訪問看護師を受け入れたことで、「あれ? 私、今、人がいても大丈夫だ」と気づく。この体験がとても大切なのです。 何もしないでそっとそばにいる [中村]精神科看護には、「ただそばにいること」の意味を示した「シュヴィング的接近」というかかわりかたがあります。これは、何か月も病室で毛布にくるまり、他者とのかかわりを一切持とうとしなかった少女のベッドサイドに、看護師が毎日同じ時刻、静かに30分間座ることで起きた変化を、看護師のシュヴィングが伝えたことに由来します。 数日後、少女は毛布から顔を出して看護師を見ますが、看護師は変わらず静かに座り続けます。それに安心した少女は、起き上がって看護師をじっと見て、翌日には少女のほうから話しかけてきた、というのです。 傷ついてきた人には、まず何も働きかけずに、そっとそばにいる。これが基本ではないかと思うのです。相手に、「そばにいてもいい」と受け入れられはじめる、少しずつ関係ができる。そしてようやく、その人の抱える生きづらさを軽減する方策を考えるお手伝いができるようになります。 専門職にとって「何もしないでそばにいる」というのはとても難しい。しかし、とても大切なことだと思っています。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇Travelbee,J.『人間対人間の看護』長谷川浩ほか訳.医学書院,1974.

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