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南海トラフ地震発生時の対応とは?災害への備えと応急処置を解説

南海トラフ地震発生時の対応とは?災害への備えと応急処置を解説

訪問看護師として日々利用者さんの健康を支える中で、南海トラフ巨大地震のような大規模災害が発生した際には、適切な対応が求められます。地震の影響で交通機関が麻痺し、ライフラインが途絶える状況下では、訪問先での対応や移動中のトラブルにも備えておく必要があります。

本記事では、南海トラフ巨大地震発生時における災害看護の対応について、防災対策や応急処置の方法を解説します。

南海トラフ巨大地震とは

南海トラフ巨大地震は、駿河湾から日向灘沖を震源域として起きるとされている地震です。過去に100~150年の間隔で大地震が発生しており、甚大な被害をもたらすことが想定されています。

南海トラフ巨大地震がもたらす影響範囲

政府の中央防災会議が公表した被害想定によると、最大クラスの南海トラフ地震が発生した場合、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7の揺れが発生する可能性があります。隣接する周辺地域では広範囲にわたって震度6弱から6強の強い揺れが生じると考えられています。

さらに、関東から九州にかけての太平洋沿岸では10メートルを超える津波が発生し、沿岸地域に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されています。

避難方法のノウハウ

災害発生時に備えて、避難方法のノウハウを習得しておきましょう。

火災発生時の避難方法:煙と炎から命を守る

火災の初期段階から大量の煙が発生し、数分以内に室内を充満することがあるため、ためらわずに避難を開始することが必要です。外出先や宿泊施設では、事前に避難経路を確認し、非常口の位置を把握し、万が一の際にも落ち着いて行動できるよう備えておきましょう。

また、酸素濃縮装置等を使用している利用者さんがいる場合、装置の2m以内に火気を置かないようにし、日頃から火の取扱いに十分注意しておくことが重要です。災害時には電力供給が停止し、酸素濃縮装置を使用できなくなる可能性があるため、十分な容量のバッテリーや酸素ボンベを備えておきましょう。

津波発生時の避難方法:素早く高台へ避難する

津波は、短時間で沿岸部に到達します。津波から命を守るためには、迷わずにすぐに高台や津波避難ビルなどの安全な場所へ移動することが最も重要です。

地震発生時に強い揺れを感じた場合や、長時間にわたる揺れが続いた場合は、ただちに津波の発生を想定し、避難行動を開始する必要があります。

高齢者の避難方法

高齢者が安全に避難するために、避難行動要支援者名簿や個別避難行動および福祉避難所について行政に確認しておきましょう。

自宅には、食料や水、懐中電灯、救急セットといった基本的な防災用品に加え、高齢者向けの必需品も用意しておきます。たとえば、嚥下機能が低下している方のためにお粥やとろみ剤を準備し、排泄に不安のある方にはおむつや尿取りパッドを多めに備えておきましょう。また、持病がある場合は、常備薬とお薬手帳をすぐに持ち出せるようにしておきます。

車椅子を使用している方や寝たきりの方は、シーツや毛布を活用した搬送方法を習得しておくと役立ちます。まず毛布やシーツで全身を包み、頭部を安定させた上で、両肩を少し浮かせるようにして頭側から引っ張ります。この際、床面の凹凸や障害物に注意しながら、安全に移動できるよう慎重に進めることが大切です。

自宅の災害対策のポイント

地震や火災などの危険から命を守るためには、事前の対策が不可欠です。下記のように対策しましょう。

カテゴリ対策内容詳細
耐震対策建物の耐震診断自宅の耐震性能を専門家に診断してもらい、必要に応じて耐震補強を行う。
家具・家電の固定本棚や食器棚、テレビなどをL字金具や耐震マットで固定し、転倒・落下を防ぐ。
ブロック塀や屋根の点検ひび割れや老朽化がないか確認し、必要なら補強工事を実施する。
火災対策火災警報器・消火器の設置各部屋に住宅用火災警報器を設置し、消火器の設置と定期点検を行う。
プロパンガスの固定ガスボンベが倒れないよう、鎖や固定具でしっかり固定する。
感震ブレーカーの導入地震時に自動で電気を遮断し、火災の発生を防ぐ。
避難計画家の中の安全な場所の確認家族で話し合い、地震や火災時に安全を確保できる場所を決める。
避難経路の確保家から避難所までの経路を確認し、障害物がないか定期的にチェックする。
連絡方法と集合場所の決定災害時に連絡が取れない場合の集合場所や連絡手段を事前に決めておく。
非常用品の準備飲料水・食料の備蓄最低3日分(できれば1週間分)の水・食料を準備する。
緊急時の必需品懐中電灯、携帯ラジオ、予備の電池、カセットコンロなどを用意する。
高齢者・乳幼児向けの備えお薬手帳、常備薬、おむつ、粉ミルクなど、個々のニーズに応じた備蓄を行う。
防災意識の向上防災訓練への参加地域の防災訓練に参加し、避難手順や消火方法を学ぶ。
近隣住民との連携近所の人と防災に関する情報を共有し、助け合いの体制を整える。
災害時の知識の習得家族全員で防災に関する知識を学び、実践できるようにする。

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震災時に医療機関や訪問看護の現場はどうなった?事例から知る必要な備え

南海トラフ地震ガイドラインについて

南海トラフ地震に備えるための指針として、内閣府が策定した「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」があります。

地方自治体や指定公共機関だけでなく、病院や劇場、百貨店、宿泊施設など多くの人が利用する施設、また石油・火薬・高圧ガスを扱う事業所などの管理者が参考にできるように設計されています。それぞれの施設に適した防災対応を計画し、いざというときに円滑に実行できるように備えることが重要です。

参考:内閣府「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた 防災対応検討ガイドライン 【第1版】」

南海トラフ地震に備えた医療分野の動き

南海トラフ地震に備え、医療分野では多方面での準備が進められています。

広域災害・救急医療体制(DMAT)

DMATは、災害急性期に活動できる機動性を持ち、専門的な訓練を受けた医療チームです。医師、看護師、業務調整員(医療職や事務職員)がチームを構成し、大規模災害や多くの傷病者が発生した事故の現場で、発災から48時間以内の急性期に活動することを目的としています。

災害拠点病院と地域医療連携の強化

災害時の医療提供を強化するためには、地域全体で連携し、迅速かつ的確な対応を行うことが重要です。その中心的な役割を担うのが、災害拠点病院です。災害拠点病院は、被災地域における医療の中核として機能し、負傷者の受け入れや治療を行うだけでなく、地域の医療機関と連携しながら、医療提供体制を維持するための支援を行います。

災害発生時には、多くの負傷者が一度に発生するため、災害拠点病院単独での対応には限界があります。そのため、地域の一般病院や診療所ともネットワークを構築し、役割を分担しながら医療を提供できる体制を整えておくことが求められます。

利用者情報や対応についてまとめておく

訪問看護においてBCPの策定が義務付けられていますが、災害時に適切に対応できるよう、利用者さんに関する情報を整理し、必要な対応を事前に準備しておくことが求められます。

利用者さんの緊急連絡先リストを作成し、家族や主治医、ケアマネジャー、かかりつけの医療機関など、災害時に連絡を取るべき相手を整理しておきます。電子データだけでなく、紙媒体でも管理し、停電や通信障害が発生した場合にも活用できるようにしましょう。

訪問看護師が単独で情報収集や安否確認を行うのではなく、地域のサービス事業者や自治体と協力しながら、迅速な対応ができる体制を作っておくことで、混乱を避け、利用者さんの安全を確保することにつながります。

避難が必要な場合に備えて、利用者さんごとに適切な避難場所を確認し、本人やご家族と共有しておくことも重要です。避難場所が遠い場合や、体調の問題で移動が難しい利用者に関しては、早めに代替案を検討し、地域の支援機関と協力しながら適切な避難支援を行えるように準備しておく必要があります。

訪問看護師の訪問先、移動中怪我をした人の応急処置の方法

訪問看護師は、利用者の自宅を訪問する際に、移動中や訪問先で怪我をした人に遭遇することがあります。こうした場面では、迅速かつ適切な応急処置を行い、症状の悪化を防ぐことが重要です。応急処置の方法について詳しく見ていきましょう。

出血時の応急処置

出血は、適切な止血によって重症化を防ぐことができます。成人の体には、体重のおよそ7~8%にあたる約4~5リットルの血液が流れています。例えば、体重50kgの人の血液量は約4リットルです。全血液量のうち30%(約1.2リットル)以上を短時間で失うと、生命に危険が及ぶ可能性があります。止血方法には、直接圧迫止血法と止血帯止血法があります。

直接圧迫止血法は、出血部位に清潔なガーゼやハンカチを当て、手でしっかりと圧迫することで出血を止める方法です。可能であれば傷口より心臓に近い部分を軽く押さえながら止血を行います。

止血帯止血法は、大量出血がある場合や直接圧迫止血法で効果が見られない場合に行います。腕や足などの出血部位の上部に布や専用の止血帯を巻き、適度に締めて血流を制限します。ただし、長時間の圧迫は神経や血管に損傷を与える可能性があることに注意が必要です。

骨折や捻挫への対応

骨折や捻挫は、転倒や事故によって発生することが多く、訪問先や移動中にも十分に起こり得る怪我です。

打撲の場合は、患部を氷や冷水で冷やし、炎症を抑えることが基本です。

捻挫では、無理に動かさず、患部を冷やして安静に保つことが大切です。伸縮性のある包帯で軽く圧迫し、枕やタオルを使って患部を少し高くすることで腫れを抑えることができます。

骨折が疑われる場合は、むやみに動かさず、可能な限り患部を固定することが重要です。骨折した部分の周囲を布やタオルで覆い、ダンボールや板などを添えて固定するとよいでしょう。腕の場合は三角巾やスカーフを使って吊るし、下肢の場合はまっすぐ伸ばした状態で安静に保ちます。

***

南海トラフ巨大地震のような大規模災害は、いつ発生してもおかしくありません。適切な避難計画や防災対策を立てることはもちろん、応急処置のスキルを磨き、利用者さんの命を守るための知識を身につけておくことが重要です。日頃から災害時の対応を意識し、訓練や情報共有を行いながら、いざというときに備えていきましょう。

編集・執筆:加藤 良大
監修:寺西 貞昭
監修:寺西 貞昭
【所属団体・職】
・NPO 法人高齢者住まいる研究会 理事長
(事務局住所:愛知県一宮市木曽川町黒田字山 72 番地)
・老人総合福祉施設グリーンヒルみふね デイサービス職員
災害支援マネージャー
(施設住所:熊本県上益城郡御船町辺田見840-9)
【経歴】
・介護現場での業務を続けながら高齢者施設・障がい者施設・保育施設等における BCP 策定等に関する支援を目的として平成25年1月に NPO 法人高齢者住まいる研究会を設立し現在の活動に続く。
・介護施設が大地震に襲われるという状況を想定した災害想定ゲーム「KIZUKI」を開発する。
・上記「KIZUKI」ゲームと平成 28 年熊本地震被災施設の事例をあいちなごや強靭化共創センター「要配慮者利用施設防災講習会」「要配慮者利用施設 BCP 講習会」等にて講演
あいち・なごや強靱化共創センター (gensai.nagoya-u.ac.jp/kyoso/
(研修等の実施状況は NPO 法人高齢者住まいる研究会のホームページ福祉防災ドットコム (fukushibosai.com)を参照)
【保有資格】
・介護福祉士、防災士、防災士アドバイザー
・介護支援専門員

令和元年 愛知から熊本へ移住。

【参考】
〇気象庁「南海トラフ地震について」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/nteq/index.html
2026/4/1閲覧
〇内閣府.防災情報ページ みんなで減災「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/yoshiensha.html
2026/4/1閲覧
〇東京都防災ホームページ「災害が起きる前に(自宅編)」
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/bousai/1000027/1000286.html
2026/4/1閲覧
〇国立健康危機管理研究機構 危機管理・運営局DMAT事務局「DMATとは」
http://www.dmat.jp/dmat/dmat.html
2026/4/1閲覧
〇総務省消防庁「救助」
https://www.fdma.go.jp/relocation/e-college/cat65/cat65/cat46/6-9.html
2026/4/1閲覧

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