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最期・お看取りエピソード【つたえたい訪問看護の話】
最期・お看取りエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年6月5日
2026年6月5日

最期・お看取りエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol. 8

人生の最期をどこで、どのように過ごしたいか。その願いは一人ひとり異なります。訪問看護師は、ご本人やご家族の思いに寄り添いながら、その人らしい最期の時間を支えています。今回は、「みんなの訪問看護アワード2024」に寄せられたエピソードの中から、看取りの現場で生まれた心温まる物語をご紹介します。 「焼酎お湯割りとろみ付き」 人生の最期が近づく中で、「大好きな焼酎をもう一度飲みたい」という願いを叶えた福さん。訪問看護だからこそ実現できた、ご本人らしい最期のひとときを描いたエピソードです。 90代の福さん。長らくベッド上で生活をしていましたが、誤嚥性肺炎を繰り返し徐々に食欲も低下してきました。「食べたいものを食べさせてあげたい」というご家族の希望もあり、ご本人に聞いてみると、「焼酎が飲みたい」と弱々しくもはっきりと答えました。ご家族はそれを聞いて微笑みました。「おじいちゃん、焼酎が大好きだったんですよ」と。早速、主治医とも相談のうえ、大好きだった焼酎のお湯割にとろみをつけて福さんのもとへ。眠っている時間が増えてきていた中で、焼酎の匂いを嗅ぐとにっこり笑って「焼酎だ」と答えてくれました。ほとんど食事がとれなくなっていましたが、その焼酎を一口飲んで「おいしい」と笑顔で答えてくれました。それから間もなくして福さんは亡くなりました。私が最期に福さんの笑顔を見たのはこの時です。訪問看護だからこそ叶えられた、ご本人とご家族の願いでした。天国でも、ゆっくりと焼酎を味わってくださいね。 2024年1月投稿 「花嫁の看取り」 「いつかウエディングドレスを着てみたかった」。そんな妻の願いを、最期の時間の中で叶えた夫婦の物語。人生の締めくくりに寄り添う訪問看護の温かさが伝わるエピソードです。 看護の現場には、言葉で表しきれない感銘深い体験が数多くある。大腸がん・肝転移の47歳女性のケース。予後は厳しいと引き継がれ、自宅へ退院された。夫婦には子どもはおらず、親戚とも疎遠だった。妻は病状が急速に悪化し、翌朝に息を引き取った。一晩中苦しむ妻を看続けた夫は「退院は間違いだったのか」と吐露。「家に帰れば延命できるかもしれない、と勝手な期待があった」と苦悩の言葉。2人で夢見て建てた家でずっと仲良く人生を歩んでいきたかったろうに。妻との別れが近づく時間を、夫はどのような思いで過ごしていたのだろう。私たちは妻を見送る夫の心情に涙した。「夫婦になって20年、妻はウエディング姿に憧れていた」と話を聞き「花嫁姿にして差し上げませんか」と提案、夫は涙ぐみながら頷いた。早速、ウエディングドレスの調達に奔走し、ベールをかぶり、ブーケを持ち純白ドレスに身を包んだ妻。その姿を、蝶ネクタイ姿の夫が静かに見つめていた。その後「お墓探しは、生前に妻と新居を探していたころと同じなんです」とお墓購入の近況報告をいただいた。 2024年1月投稿 「大切な人への最後のメッセージ」 素直に伝えられなかった娘への感謝の気持ち。訪問看護師が思いをつなぎ、親子が心を通わせることができた最期の日々を描いたエピソードです。 子宮がん末期、余命あとわずかとなった60代の女性。「まだ死にたくはなかったけど、死を受け入れる覚悟はできている。すべての準備は完璧です」と話されていた。ただ、娘さんとの間にわだかまりがあり、素直になれずにいた。私が訪問すると「あの子には、今まで私の身の回りのことを何から何までやってもらって、本当に感謝しています。」といって涙を流していた。その言葉を娘さんに直接伝えることができず、「あの子には、話さなくても全部分かっていると思います。」ともいっていた。後日、私が娘さんとお会いした時に、そのメッセージを娘さんに伝えたところ、娘さんも涙を流して「母がそんなことを話していたんですか…。」と驚いていた。娘さんからのメールや、会いに来てくれることを、お母様がとても喜んでいたことも伝えた。その一週間後、家族に見守られ、娘さんに手を握られながら、穏やかに旅立たれた。最期の時に、互いに思いが通じ合った親子の姿が印象的だった。 2024年1月投稿 「社長として。旦那として。」 人生の最終段階にあっても、会社を支える社長として、そして愛する妻の夫として生き続けたAさん。最期までその人らしく過ごす姿に触れた訪問看護師のエピソードです。 施設内訪問看護に就職して初めて受け持ったAさん。仕事一筋で、責任感が強く、何事も自分でやり遂げる方でした。一代で会社を興し、ご家族で経営されています。直腸がんが全身に転移し、長年治療を続けてきましたが、全身状態も悪くなり入居となりました。入居時は努力呼吸がみられ、返答も難しい状態。しかし、時折体を起こしてコーラを希望されるなど、起き上がる様子もみられました。入居8日目の夕方「車椅子に乗りたい」「フロアを回りたい」「プリンを食べたい」とはっきりした口調で話されました。笑い話をしたと思ったら「まじめな話をします」と筆談し、「会社が心配だ。妻と話したい」と訴え、自分の携帯で奥様の声を聞いていました。その時初めて、患者さんではなく「社長」としての姿を見た気がしました。次の日の午前、Aさんは亡くなりました。入居から9日でした。最期に社長として、そして夫として過ごす時間を持つことができたAさん。その大切な時間に立ち会わせていただけたことは、私にとっても忘れられない経験となりました。 2024年1月投稿 「やっぱり家にいたい」―あなただから言えた本音 「本当は家で最期まで過ごしたい」。誰にも言えなかった本音を引き出したのは、信頼関係を築いてきた訪問看護師でした。利用者さんの願いに寄り添い続けた看護の力を感じるエピソードです。 常勤の訪問看護師になりたてのAさんは、今日もがん末期のBさんに振り回されていた。「訪問に行ったらいないんです。天気が良いから外出していたそうで、『今から来て』って言うんですよ」「今日は、お弁当を買ってきてほしいって言うんですよ」ほかにもさまざまな出来事があった。デイサービスで介護職員にため口をきかれたって、Bさんが怒っていた時も、Aさんは丁寧に話を聞いていた。Bさんは、お茶を飲みながら、若いころの話や日々の出来事を語ってくださった。ある時、Bさんは胸水が溜まって受診することに。連携を学ぶために受診へ同行すると、Bさんは入院を拒否した。帰宅後、Bさんはぽつりとこう話した。「本当は家で最期までいたい。だって、父親が建ててくれた家だから」Aさんは、親戚との関係調整にも奔走し、Bさんがかわいがっていた甥に遺言を託す機会もつくった。急な状況だったが、日ごろから連携しているクリニックの医師にも協力を依頼した。Aさんは、Bさんの願いを叶え、ご自宅で最期を迎えられるよう支援することができた。その1年後、Bさんの親族から「自分も最期は家で暮らしたい」と希望された。それは、AさんがとことんBさんに向き合った結果だったのかもしれません。今では、その人らしさを大切にできる訪問看護師へと成長しました。Aさんのような訪問看護師に憧れ、この仕事を目指す人が増えてくれたら嬉しいな。 2024年1月投稿 人生の最期に何を大切にしたいかは、人それぞれです。訪問看護は、その人や家族の思いに寄り添いながら、限られた時間の中で「その人らしさ」を支える仕事です。今回ご紹介したエピソードからも、一人ひとりの願いに向き合う訪問看護の価値と、看取りの時間の尊さが伝わってきました。 編集: NsPace編集部

表彰式イベントレポート
表彰式イベントレポート
特集
2026年6月2日
2026年6月2日

第4回 みんなの訪問看護アワード表彰式イベントレポート【3月8日開催】

2026年3月8日(日)、東京駅近くのイベントホール「My Shokudo Hall & Kitchen」(東京都千代田区)にて、「第4回 みんなの訪問看護アワード」の表彰式を開催しました。 本アワードでは、応募されたエピソードを所属や氏名をすべて伏せた匿名形式を採用。厳正な審査を経て、計25のエピソードが受賞作品として選出されました。 当日は、受賞者の皆さまに加え、特別審査員の先生方や協賛企業の皆さまにもご参加いただき、表彰のほか特別トークセッションや懇親会を実施。胸を打つエピソードや学びの多いトークが続き、会場は終始、共感とあたたかな拍手に包まれました。当日の様子や参加者の皆さまの声を、写真とともにご紹介します。 受賞者の皆さまへのトロフィー・記念品授与 まずは受賞者の皆さまへの表彰が行われました。受賞者お一人おひとりが登壇し、トロフィーと記念品を受け取るとともに、投稿のきっかけや受賞の喜びなどを語りました。 受賞者お一人おひとりを表彰 贈呈されたトロフィー  全受賞エピソード つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2026】 つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2026】 受賞者の皆さまのコメントをピックアップしてご紹介します。 鈴木 開哉さん入賞ウィル訪問看護ステーションよこはま北山田(神奈川県)「訪問看護でしていることは外からは見えにくく、その価値が十分に評価されにくい面もあると感じています。だからこそ、自分たちのケアの意味や訪問看護の魅力を改めて発信したいと思い、応募しました。このような賞をいただき、大変嬉しく思っています」 坂口 葵さん入賞カンナ訪問看護ステーション(千葉県)「大変なこともありますが、訪問看護は毎日がとても楽しく、気づくと仕事のことばかり考えてしまうほど夢中になっています。これからは若手の方にもその楽しさを伝え、訪問看護の輪を広げていきたいです」 大賞に輝いたのは、OUR訪問看護ステーション(宮崎県)の中田 富久さんが投稿したエピソード「わたしらしさを、ともにつくる」です。血友病とHIVを抱え、幼少期から病院中心の生活だった利用者さんが、訪問看護を通して「自分らしい人生」を広げていくエピソードを投稿してくださいました。 大賞を受賞した中田さんのコメントを一部ご紹介します。 「私たちのステーションで初めて担当した利用者さんで、思い入れがあったことから、この事例を選びました。彼は社会とのつながりが薄く、当初はどのようにコミュニケーションをとればよいのか、私自身も試行錯誤しました。しかし、一つひとつのケアの必要性や意味、本当の願いを叶えるためのプロセスを根気よくお伝えする中で、少しずつ心が通うようになったと感じています。今も彼との関わりは続いています。この受賞を励みに、今後も一人ひとりの利用者さんと向き合っていきたいです」 中田さんのエピソードについて、特別審査員の高砂 裕子さんは次のように語りました。 「人生の『最期』に寄り添うエピソードも心に残りましたが、本エピソードは人生の『再スタート』に火を灯した点が印象的で、大賞とさせていただきました。全国訪問看護事業協会では、HIV感染者の方の在宅支援にも取り組んでいます。高齢化などで通院が難しくなった方が訪問看護を利用されるケースも増えており、このエピソードにあるように、どんな背景の方であっても、その方らしい暮らしを支える訪問看護の役割の大きさを改めて実感しました」 受賞エピソードをテーマにしたトークセッション 表彰後は、特別審査員の長嶺 由衣子さんと受賞者3名による特別トークセッションが行われました。3名のエピソードは、日本のグローバル化や超高齢化、施設内訪問看護など、多様な現場を映し出す内容で、訪問看護の本質や今後の展開を考える貴重な機会となりました。 エピソードの背景やその時の思いも語られ、会場も聞き入るトークセッションに 海外の方への訪問看護を経験した小川 祥子さんは、利用者さんとご家族が抱える不安や孤独に寄り添い、多職種と連携しながら信仰や言語の違いに配慮しながら看護に当たった様子を紹介。看護だけでなく「日本で安心して暮らせる居場所づくり」を重視したと語った点が印象的でした。施設内訪問看護で、8歳のお子さんを持つお母様のホスピスケアに携わった高橋 さゆりさんは、ご家族とともにお母様を支えつつ、施設全体でお子さんの成長も見守り、ご家族それぞれが自分らしく過ごせるよう支援したプロセスを語りました。お母様が旅立たれてからも、たくましく成長するお子さんの様子も語られ、会場はあたたかい拍手で包まれました。 寝たきりのご主人を認知症の奥様が支えるエピソードを投稿した米原 拓也さんは、「課題を解決するだけが看護のゴールではない」と実感したと語りました。多職種や地域と連携しながら利用者さんやご家族の「生きる力」を支えたプロセスを紹介し、訪問看護の本質や多様な支援のあり方を伝えました。 参加者の皆さまからは度々拍手があがり、また、受賞者の一人である八箇 多恵さんからは、富山市の取り組みも紹介されました。富山市では認知症等により見守りが必要な方へQRコード付きの見守りシールを配付する取り組みを実施しているとのこと。 訪問看護の多様な現場や想い、ご家族に寄り添う姿、多職種・地域での支援の重要性などが共有され、参加者にとって学びの多いトークセッションとなりました。 お祝いの声があふれ、笑顔に包まれた懇親会 式典終了後に懇親会を開催。大賞のエピソードは漫画化特典がありますが、懇親会の冒頭では、看護師で漫画家の広田 奈都美さんからもコメントをいただきました。 「訪問看護は、利用者さんの生きる力を支え、本当の願いを叶えるために、その方に合った関わり方や支援を考え、形にしていく仕事です。今日のエピソードでは、そのプロセスが具体的に語られましたよね。皆さんの経験は、全国のステーションの方々に多様なアプローチの仕方や考え方があることを知ってもらうきっかけになるはずです。今日の受賞式だけでなく、ぜひ日々の交流の中でもこうしたエピソードを語り合い、訪問看護の可能性をさらに広げてほしいと思います」 懇親会では、受賞者や特別審査員、協賛企業の皆さまが、このイベントの意義や訪問看護の今後の役割について語り合う様子が見られました。1日の訪問件数の調整やスタッフ間の教育・連携の工夫などを話題にするテーブルも。あちこちで熱心な意見交換が行われ、いつまでもお話が途切れない様子が印象的でした。 審査員の先生方のコメント 最後に、「みんなの訪問看護アワード」や表彰式について、特別審査員の先生や参加者の皆さまにうかがった感想をご紹介します。 高砂 裕子さん(一般社団法人全国訪問看護事業協会 副会長)こうして受賞者の皆さまが集まれたことを、大変嬉しく思います。訪問看護は「正解のない仕事」だからこそ、悩みや葛藤も多いと思います。でも、だからこそ利用者さんやご家族の人生に寄り添う、忘れがたい瞬間も生まれるのだと改めて感じました。訪問看護では、多職種との連携も含め、「みんなで考えること」がとても大切です。ぜひこれからも、ステーション内外問わず、多くの方とご自身の体験を語り合っていただけたらと思います。 高橋 洋子さん(公益財団法人日本訪問看護財団 事業部部長)受賞者には若手の方も多く、40〜50代が中心といわれる訪問看護師の世界に新しい風が育っていることを嬉しく、頼もしく感じました。利用者さんの最期に寄り添うだけでなく、生きる力や希望を支える看護の大切さも改めて実感しました。看護師は病気だけを見る仕事と思われがちですが、こうしたアワードを通して、より多くの方に訪問看護師の多様な関わり方を知ってもらえたらと期待しています。 山本 則子さん(東京大学大学院医学系研究科 教授)数々のエピソードを拝読し、訪問看護は本当にクリエイティブな仕事だと改めて感じました。「本当の願い」という言葉が何度か出てきましたが、利用者さんの本当の願いに応えるためにあらゆる工夫を尽くすところが、この仕事の素晴らしいところだと思います。一方で、独居の方や老老介護の方が増えるなど、社会の変化に合わせて、医療保険や介護保険といった制度自体も変わっていくことが求められているのではないかと感じました。 長嶺 由衣子さん(東京科学大学 公衆衛生学分野 非常勤講師)受賞者の方々のエピソードから感じたのは、利用者さんやご家族を中心に置きながら、自分たちがどう変わるかを常に考えているという共通の価値観です。この柔軟性こそ、訪問看護の本質ではないでしょうか。また、受賞に至らなかった方も、エピソードを書いて送った行為自体を大切にしてほしいです。何が大事だったかを振り返り、自分の看護を客観視する時間を持つことは、必ず今後の成長につながると思います。 「第4回 みんなの訪問看護アワード」表彰式にご参加いただいた皆さまの集合写真 表彰式にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。大賞エピソードの漫画も公開していますので、ぜひご覧ください。 取材・執筆:高橋 佳代子編集:NsPace編集部

特集
2026年6月2日
2026年6月2日

腹膜透析患者の在宅移行を支える地域連携――訪問看護師が知っておきたい「仙台モデル」の実践

腹膜透析(PD)患者さんの在宅移行を支えるとき、「この地域では誰と連携すればいいのか」「多職種とどうつながればよいのか」と悩む訪問看護師さんも多いのではないでしょうか。 今回はJMS帝人ホームメディカルケア株式会社のご協力のもと、宮城県仙台市で構築された先進的な地域連携の取り組みをご紹介します。「仙台モデル」が示す病院・在宅医・看多機の連携の形は、チームで在宅PDを支えるヒントが詰まっています。 ※本記事は2026年6月に公開されたものです。法令や制度、関連ガイドラインは変更される場合がありますので、最新情報をご確認ください。 ※本記事はJMS帝人ホームメディカルケア株式会社が制作したパンフレットを転載しています。 地域で支える腹膜透析(PD) 宮城県仙台市では、東北医科薬科大学病院 腎臓・高血圧内科を中心に、在宅医と看護小規模多機能型居宅介護(以下、看多機)施設が連携して、地域で腹膜透析(以下、PD)患者さんを支える「仙台モデル」を構築しています。 いかにして病院・診療所・介護施設の連携(病診介護連携)が構築されたのか、そして実際にどのように運用されているのか。東北医科薬科大学病院副院長の森 建文(もり たけふみ)先生と、セントケア看護小規模仙台中野 所長の川村 一美(かわむら ひとみ)氏にお話をうかがいました。 導入病院における在宅PD推進の取り組み 腎不全の療法選択 森: 当院では腎不全患者さんの療法選択について、「これからどのように生きたいのか」を中心にして検討を始めます。透析が必要になった患者さんの多くは高齢者ですから、どこで誰と暮らしたいのか、どのようなことが生きがいなのか、人生の最後をどのように過ごしたいのかを聞き取って、なるべく実現できるような療法を選択します。 院内で医師や看護師、ソーシャルワーカーや心理療法士もチームに入って、患者さんの要望を聞き取ることもあります。血液透析(以下、HD)のほうが有利であればHDを勧めますが、地域によってはHD施設への送迎がむずかしい場合もあります。また、血液透析困難症の方もいます。PDであれば体にやさしくできることがわかっているので、PDで透析プランを立てることがおのずと増えてきました。 PDをどこで行うのか 森: とはいえ高齢者が自身でPDをすべて完結するのはむずかしく、少し手伝う必要があります。家族が手伝うにしても、負担がかかりすぎては長続きしません。地域の社会資源を利用すれば、訪問看護師、看多機、在宅医と連携しているサービス付き高齢者住宅など、いろいろなシナリオを描くことができます。自宅をベースにして家族がPDを手伝う場合に受けられるサービス、施設に入所してPDを受ける場合など、いくつかの選択肢を提示できます。 病院で療法の説明を受けただけでは理解が追いつかないので、自宅で繰り返し視聴できるように療法の説明動画をWeb上にアップしています。家族といっしょに視聴して、本音で話し合うことも大切です。また、一度決めたとしても、変更は可能です。看多機を試したあとに施設に入ることもあれば、施設に入った方が自宅に帰ることもあります。その間に体の状態も変わってくるので、療法選択はずっと続いているとも言えます。 介護施設の新しい施設がオープンすると、スタッフが足を運んでPD患者さんの退院後の受け入れを依頼することもあります。連携する看多機では、PDの手技指導や術後管理を含めた出口部管理なども行います。PD患者さんを受け入れた看多機では、看取りまで経験すると、この医療が患者さんにとって有益であることをスタッフが理解して、やりがいを感じられるようです。訪問看護師も最初はPDの手技に不慣れでしたが、しだいに手応えを感じてもっと受け入れたいと声が上がるようになってきました。 在宅療法のメリット 森:たとえば認知症の症状が重い方は、病院では長く入院できないことがあります。長く入院していると認知症はさらに重くなり、体が動かなくなり、寝たきりになるリスクが高まります。病院では病気の治療はしますが、その間に高齢者は体の機能が落ちてしまい、しだいに半寝たきりになって、誤嚥性肺炎などで最期を迎えることさえあります。このような場合、できるだけタイムラグなく自宅に帰れる状況をつくったほうが、有利となるケースが少なくありません。不思議なことに、病院にいるときよりも自宅や施設で過ごすほうが、高齢者の体の動きはよくなります。病院では専門のリハビリ担当者がついて、生活動作を保つ訓練をしているのですが、それよりも退院して自宅や施設にいるほうが、高齢者は元気になっていきます。普段の生活リハビリの重要性がうかがい知れます。 患者さんを支える在宅医療 在宅医との連携 森: 治療方針が決まって、治療を継続する在宅医や看多機などのサポート態勢が整うと、在宅療法が始まります。在宅療法に入るときは病院のスタッフが訪問して、在宅医に引き継ぎます。在宅医の先生方は腎臓内科が専門とは限らないので、常に連絡が取れる態勢を整えています。 昨今の在宅医療は多くの薬剤を取り寄せて使用できるうえ、酸素吸入や超音波診断装置など在宅用の機材も増えてきています。病院内でしか行えなかった処置のなかには、在宅で可能になったものもあります。また、終末期の緩和医療は、薬剤の使い方や患者さんの生活状況の把握など、在宅医の先生方のほうが病院医よりもはるかに長けていることもあります。 診療報酬においては、在宅医がPDの管理料を算定した場合、これまでは病院側は算定できませんでした。2026年の診療報酬改定では病院側でも少し算定できる流れになっているので、病診の連携強化につながりそうです。 病診看多機連携と情報共有ツール 森: 私たちのPD地域連携では、病院と在宅医、看多機は常に専用の連絡アプリや電話で連絡を取り合っています。病院内ではこうしたツールの使用が許可されないので、主治医が直接病棟に行って指示を出す必要があります。看多機にはある程度予測されることは事前に打ち合わせがしてあり、急変したときにはオンライン連絡ツールや電話を駆使してタイムラグなく対応しています。施設であれば、連携している在宅医にデジタル連絡手段や電話で連絡して、管理してもらうことも可能です。 2026年4月からは、老人介護施設との連携を強化していきます。特別養護老人ホームとショートステイ、ケアハウスの3形態を運営している施設と近隣のクリニックと提携して、PDに限らず効率よく患者さんをサポートできるシステムの構築を目指しています。 在宅医療への思い 森: 市民公開講座で「みなさんどこで最期を迎えたいですか」と聞くと、たいていは自宅と答えます。ところが8割の方は、病院で亡くなっているのが現状です。われわれの調査によると、事前にしっかりと療法選択をして緩和医療を中心とした在宅医を積極的に手配していた群は、8割が自宅か家族が通える施設で最期を迎えていました。これに対して、普通に病院の外来に通っていた群は、8割が病院で亡くなっていました。つまり、事前にどれだけ準備するかが重要なのです。 これらのことを踏まえて、高齢の患者さんには「病院に長くいないで、早く帰りなさい」と伝えることがあります。家族は心配して「もう少し入院させてください」と言いますが、「長く入院すると患者さんが動けなくなります。早く帰ったほうが元気になります」と説明します。実際に、退院すると元気になる高齢者がたくさんいます。 退院をサポートする看護小規模多機能型居宅介護(看多機) 看護小規模多機能型居宅介護サービスの特徴 川村: 看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は2014年に開始された比較的新しい事業で、訪問介護、訪問看護、通い(デイサービス)、泊まり(ショートステイ)の4つのサービスを一体的に提供できる施設です。介護保険で運営されており、要介護1〜5の認定を受けた方が対象となります(要支援は対象外)。住み慣れた地域で、必要なサービスを一体的に提供できる点が特徴で、病院と自宅の中間的な役割を担います。介護報酬は包括報酬(定額制)のため、要介護1の方でも毎日訪問サービスを受けることが可能です。利用者の状態に応じた柔軟なサービス提供ができる点が、看多機の大きな特徴です。 PD地域連携を始めた経緯 川村: 当施設は2017年に開設しました。オープン前に地域のケアマネジャーや病院の連携室の方を招いて施設の内覧会を開いたところ、東北医科薬科大学病院の連携室の方から「PD患者さんの退院後の受け入れ先がない」と聞きました。私たちセントケアの基準では、人工呼吸器以外の医療行為であれば受け入れられます。看護師の在駐時間は7時〜19時で、それ以外の時間帯はオンコール態勢のため、定期的な医療行為が時間内に行えるのであれば対応は可能です。開設時の看護師にPD経験者はいませんでしたが、地域にニーズがあれば対応したいと受け入れを決めて、病院と勉強会を重ねて準備しました。2017年10月からPD患者さんの受け入れを開始して、以来常に4〜5名の登録者がいます。2026年2月までに、のべ18名のPD患者さんを受け入れています。 PD患者さんの在宅移行支援 川村: 東北医科薬科大学病院からの紹介患者さんがほとんどです。退院が決まると病院でカンファレンスが開かれて、病院側は主治医、病棟看護師、退院支援看護師、在宅医側は看護師、窓口担当者、看多機からはケアマネジャーと看護師が出席して情報共有します。患者さんや家族は、介護と看護を複合的に提供する看多機のサービスがよくわからない方が多いので、まずは見学に来てもらって退院後の不安を聞き取ります。 看多機の基本は自立支援なので、患者さんがPDの手技をどこまでできるか、家族はどこまでサポートできるか、不安に思うのは何か、全方向から見て、退院直後にどこで過ごすかを調整します。家族がPDに不安を抱えている場合は、患者さんが看多機に泊まって、家族には通ってもらって手技を伝えます。あるいは患者さんが自宅に帰って、毎日看多機に通ってPDの手技を覚えることもあります。病院には「手技は2〜3回教えてもらえれば十分で、100点ではなくてもセントケアへ送ってください」と伝えてあります。在宅になれば、長期的な視点で私たちがサポートします。トライ&エラーを繰り返しながら、高齢でも徐々にPDができるようになる方もいます。 在宅PDのメリット 川村: 病院で病衣を着てベッドで横になっている時と、自宅に帰って私服で看多機に通う時とでは、同一人物とは思えないほど様子が違う方がいます。血液データだけを見ると驚くほど悪い数値なのに、在宅PDを受けて生き生きと過ごす方が少なくありません。それは「在宅の力」、家で過ごすことによる力です。 在宅PD実践の現場から 在宅PDを実践している患者さんや家族の声 川村: 新型コロナウイルス感染症の流行下では、病院に入院した患者さんとの面会が制限され、手技の指導も制限がありました。家族に会えないのはさみしいという理由で在宅PDを選択する方が増えて、家族に手技を指導して、そのままずっとサポートして看取りまでしたケースもありました。パンデミックを契機に、在宅医療のあり方はずいぶん変化した印象があります。高齢夫婦の事例では、94歳の男性で毎日看多機に通ってPDを行い、手技もしっかりしている方がいました。週2回は自宅PDを体重スケールでできるようになりましたが、奥さんの不安が強いようすでした。「奥さんの仕事は、ご主人の具合が悪くなったときに看多機に電話をかけるだけですよ」という声掛けで、なんとか受け入れてくれました。患者さんや家族で完璧に手技ができなくても、私たちがフォローします。家族のレスパイト(一時的な休息・介護負担の軽減)も私たちの重要な役目です。 森: PDは身体への負担が比較的少ない療法です。寝たきりに近く、経口摂取が困難な患者さんでも、最低限のPDのみで生命維持が可能な方が多くいます。なかには全身状態が改善し、食事摂取が可能となって趣味に取り組めるようになった方や、家族と釣りに出かけられるようになった方もいます。眠るように最期を迎える方が多く、家族が気づかないうちに「息を引き取っていました」という連絡も少なくありません。 在宅医療・在宅介護には、患者さんと家族双方に大きな満足感をもたらす力があります。介護をやりきったという納得感が共有されることで、看取りの場面でも家族が穏やかに見送ることができます。本人が満足して最期を迎えられたと周囲が実感できることは、在宅医療の大きな意義です。自宅ベースでPDを続けるうえでは、看多機は最強のサポーターです。セントケアは全国の拠点でPDを受け入れるそうなので、今後は在宅PDの全国的な広がりを期待したいと思います。 まとめ 仙台モデルは、病院・在宅医・看多機が緊密に連携することで、高齢PDの患者さんが「住み慣れた地域で最期まで生きる」選択肢を広げた先進的な取り組みです。 訪問看護師や在宅医療に関わるみなさんにとって、看多機との連携がPD患者さんの在宅生活を支える力になることを、森先生と川村氏の言葉が示しています。 在宅医療の現場では、医療・介護・家族がつながることで「在宅の力」が生まれます。PDという医療行為を在宅で続けるためのチームケアのモデルとして、この仙台モデルが全国各地へと広がることを願っています。 「事前にどれだけ準備するかが重要」という森先生の言葉は、訪問看護師の皆さんにとっても同じではないでしょうか。PD患者さんが在宅で安心して生活を続けるために、地域のチームとつながることの意味を、仙台モデルが示してくれています。 「在宅×透析シリーズ」では、腹膜透析の基礎知識からトラブル対応、セルフケア指導まで、現場に役立つ情報を発信しています。ぜひ合わせてご覧ください。 森 建文(もり たけふみ)東北医科薬科大学病院 副病院長・腎臓内分泌内科 科長/東北医科薬科大学 内科学第三(腎臓内分泌内科)教授、医学博士。日本腎臓学会腎臓専門医・指導医、日本透析医学会透析専門医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本高血圧学会高血圧専門医・指導医川村 一美(かわむら ひとみ)セントケア看護小規模仙台中野 所長

心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月29日
2026年5月29日

心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol07

訪問看護の現場には、利用者さんやご家族との心の交流から生まれる温かいエピソードがたくさんあります。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、心がほっこりと温まるエピソードをご紹介します。 「アリンコ最中」 精神科の訪問看護で、利用者さんの気持ちを受け取った心温まるエピソード。 精神科の訪問看護をしています。利用者さんは病気の影響で、自分自身や部屋を衛生的に保つことが難しく、部屋にコバエが飛んでいたり、お話している間をゴキブリが横切ったりすることもあります。そんな中、高齢の利用者さんが「これ食べて」と出してくれたのは、有名な和菓子店のあんこたっぷりで人気の最中でした。嬉しいけれどテーブルに直置きしていたよね。ん?なんかあんこの様子がおかしいぞ?と思ったら、あんこに群がるアリの大群でした。「お気持ちだけいただきます」と言っても「大丈夫やって。今食べて」と断れません。置いておいて利用者さんが食べても困るので、「いただいて帰って、後でゆっくりいただきますね」と言うと、嬉しそうにティッシュで包んだアリンコ最中をくれました。きっと私が喜ぶと思ってくださったのだなと、その顔を見た時に思いました。お家を出てカバンの中から最中を取り出すと、アリもわんさか出てきて泣きそうになりましたが、この利用者さんとは今も関係は良好です。 2023年12月投稿 「心の棘」 訪問看護では時に、看護師がつらい気持ちになるような「棘」を感じる場面がある。看護師が、スタッフと一緒に心の棘を抜いていくエピソード。 「さっさと帰れ」「もう来んでええ」「死ね」看護師は、たくさんの傷つく言葉を受け取ることがある。病気だからしかたがないと頭では分かっていても、心に深く刺さった棘を抜くのは中々大変である。認知症を発症し、以前は暴力的でもあったと聞くOさんは、身体的な暴力は減少したが、言葉での暴力は健在であった。そのことで何件も訪問看護ステーションを変更されており、「今日はどんな酷いことを言われるのだろう…」と自転車の足取りがどんどん重たくなる自分がいた。このままでは看護師もOさんもダメになってしまう。訪問後にスタッフとカンファレンスを行い、Oさんの笑顔を見るために嫌な部分ではなく良い部分に注目し、スタッフ全員がOさんを大切に思えるように、情報共有することにした。するとOさんから「ありがとう」と言葉をかけられるようになった。心に深く刺さった棘は完全に抜かれて、私は今日も「何回笑顔が見られるかな?」と足取り軽く自転車を漕いでいる。 2023年12月投稿 「想い」 疎遠になっていたがん患者さんの娘さんに、民生委員の方が根気強く手紙を送り続けたことで、最期のときに家族が再会を果たせたエピソード。 「人間味のある看護師さんたちに看てもらえて幸せだったよ」最期の言葉の代弁者は民生委員のHさんだった。Iさんは独居生活。がんと余命宣告を受け、自宅で最期を迎えることを望んでいた。娘さんとも疎遠で、時を埋めるかのようにHさんが娘さんへ手紙を送り続けていた。落ち着いていた日々は束の間。吐血し、一刻を争う状況となりHさんから娘さんへ連絡をした。「父がどこに住んでいるか分からないけれど。でも東京から向かいます」と。私たちは「今から来てくれるよ、頑張りますよ」と声をかけ続けた。私が血を綺麗に拭き取っていると、Hさんが「すごい仕事ですね。私は元教師で、早くに父を亡くしたから地域の役に立ちたくて、Iさんをずっとみてきたの」と話していた。願いが叶った。娘さんが数十年間分のアルバム集を片手に、涙ながら目を閉じたIさんに語りかけていた。アルバムの最終ページに安らかに最期を迎えられた。病気がちな父を想い、娘さんは訪問看護師になったそう。面影ある洋服を探し、娘さんが着せてくださった。“微笑んでいるみたいだね”と皆感じていた。Hさんのように人に尽くしてくださる存在が偉大だった。主治医より「この一年の中で一番良い看取りでした。ありがとう」と。 2024年1月投稿 利用者さんやご家族との信頼関係から生まれる温かい瞬間は、訪問看護師にとってかけがえのない宝物です。これからも一人ひとりの人生に寄り添い、心通う看護を届けていきたいですね。 編集: NsPace編集部

心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月29日
2026年5月29日

心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol06

訪問看護の現場には、利用者さんやご家族との心の交流から生まれるエピソードがたくさんあります。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿された作品の中から、心がほっと温まるエピソードをご紹介します。 「夫婦の絆」 がん末期のご主人が、亡くなる前日に奥さんを抱きしめ、「ありがとう」の想いを伝えた夫婦の物語。 夫婦二人暮らしのお宅で、がん末期のご主人への訪問看護に携わった。奥さんはクリーニング屋を営みながら介護をしていた。ご主人は気管カニューレを挿入しており、奥さんとうまくコミュニケーションを取ることができなかった。それでも奥さんは仕事の傍ら、なんとか気持ちを通わせようと声をかけ続けていた。しかし、ご主人は自分の想いをうまく伝えられないもどかしさからイライラし、奥さんをつっぱねるようになっていた。その後、ご主人が亡くなりグリーフ訪問をした時に奥さんからこのようなお話があった。「亡くなる前の日に、お父さんが私をぎゅーっと抱きしめてくれた。『ありがとう』って言われた気がしたんだよ」と涙目で話してくれた。私は「良かったね、お母さんの想いは、ちゃんとお父さんに届いてたんですね」と声がけし、一緒に泣いた。 2024年1月投稿 「もう一人のあたたかい家族」 「家族とは何か」を問いかけながら、訪問看護師として利用者さんに寄り添いたいという想いを綴ったエピソード。 家族って何でしょうか。血の繋がり?それとも同居している人?家族の形とは?「家族」と聞いて私が思い出すのは、産み育ててくれた両親、そして兄弟。海外で我が子のように愛してくれた恩師や兄弟のように接してくれた友人。彼らに共通することは、信頼や愛情、そして相手を深く想う気持ちを持って接してくれたことです。遠く離れていても、いつも心のどこかにいる存在。家族とは形にとらわれるものではなく、人と人の純粋な関係性なのだと私は思います。そんな家族にたくさん支えてもらいました。訪問看護師として、私の家族が私に与えてくれたものを、関わる人々へ返していける人間になりたいです。この想いを大切にして、利用者様はもちろん、在宅医療に関わる方々やスタッフの「もう一人のあたたかい家族」となれるよう毎日全力で自転車を漕ぎます!いつか一人前の訪問看護師になれる日を夢にみて。 2024年1月投稿 「みんなに贈る体調管理表」 前立腺がんの終末期だったMさんが、体調管理表に残した「ありがとう」の言葉が、家族と看護師の心を支えたエピソード。 Mさんは前立腺がんの末期であった。几帳面な方で体調管理表を自ら作成されていた。妻は介護に悩み、涙を見せることもあった。ある時、発熱と肺炎症状があり入院されていたが、数日経ち、妻から「もう時間がない、家で過ごさせてあげたい」という電話を受けた。訪問看護が介入し、一時外出が実現した。モルヒネ皮下注射を受けながらも、笑顔のMさんに私は「おかえりなさい!」と声をかけた。そこにはいつもの日常があった。家族と一緒にテレビを観たり、ソファーに座ったり、特別なことをしているわけではなく、Mさんを包み込むような当たり前の幸せがあった。夕方、病院へ帰る介護タクシーを見送った。それは翌朝のことだった。「さっき息を引き取ったよ。家に連れて帰るね」と、妻から連絡があったのは。「見て…」と妻から見せてもらった体調管理表には『私の人生みんなのおかげで楽しかった。ありがとう』と、少し震えたMさんの文字。私は涙があふれた。この言葉が、家族だけでなく、私たち看護師の心も救ってくれた。 2024年1月投稿 「願いを叶えた、思い出の志賀島ドライブ」 腎臓がんの終末期を迎えたKさんが、「もう一度志賀島に行きたい」という願いを叶えた、思い出のドライブのエピソード。 私が印象深く覚えているのは、腎臓がんの終末期を患っていた50代のKさんです。Kさんは、がんにより歩くことも難しい状態でしたが、毎回意欲的にリハビリに取り組まれていました。しかし、病状は無情にも進行していきました。精神的にも落ち込み、生きる希望を見失いかけていたある日「もう一度、志賀島に行きたいです。」と相談されました。そこは、病前に奥様とドライブをした思い出の場所です。早速、自家用車を福祉車両へ変更し、車椅子から助手席への移乗練習を何度も繰り返しました。介助に不慣れな奥様には移乗介助の方法も指導しました。そして昨年、念願だった志賀島へ行くことができました。Kさんは「諦めないで良かったです。ありがとう。」と笑顔で言われました。その後、Kさんは亡くなられましたが、私たちに最期まで諦めない姿を見せてくださいました。終末期のリハビリを通じて、利用者様やご家族様の思いに寄り添うことができ、私自身貴重な経験となりました。 2023年12月投稿 利用者さんやご家族との信頼関係から生まれる温かい瞬間は、訪問看護師にとってかけがえのない宝物です。これからも一人ひとりの人生に寄り添い、心通う看護を届けていきたいですね。 編集: NsPace編集部

漫画「わたしらしさを、ともにつくる」
漫画「わたしらしさを、ともにつくる」
特集
2026年5月26日
2026年5月26日

大賞エピソード漫画化!「わたしらしさを、ともにつくる」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第4回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。大賞を受賞したのは、OUR訪問看護ステーション(宮崎県)の中田 富久さんの投稿エピソード、「わたしらしさを、ともにつくる」です。 今回は、大賞エピソードを『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』著者の広田奈都美先生に、全11ページの漫画にしていただきました。ぜひご覧ください! >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2026】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2026】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 中田 富久(なかだ とみひさ) さんOUR訪問看護ステーション(宮崎県)正直に申し上げると、嬉しさと同時に、どこか身の引き締まる思いがあります。 私たちの仕事は、誰かの病や困難と向き合うことから始まります。 訪問看護は、病を抱えながらも「その人らしく生きる」ための一つの選択肢です。 医療を届けることが目的ではなく、その人の生活を支えることが本質だと考えています。今回の受賞をきっかけに、訪問看護という仕事を一人でも多くの方に知っていただき、必要とする方のもとにこの選択肢が届くことを願っています。 >>「第4回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月22日
2026年5月22日

心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol05

訪問看護の現場には、利用者さんやご家族との心の交流から生まれるエピソードがたくさんあります。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿された作品の中から、心がほっと温まるエピソードをご紹介します。 「お別れは、突然に。」 認知症による混乱がありながらも、最期まで夫のために尽くし続けた妻。突然の別れを通して、夫婦の深い絆を感じたエピソード。 妻と二人暮らしのA氏。身の回りのことはすべて妻が行っていた。A氏の状態観察のため、週に1回訪問。しかし、訪問するたびに妻の認知機能低下が目立つようになっていった。妻は、認知症による混乱がありながらも、必死にA氏のために尽くしていた。ある日の朝、妻はベッドに横になったまま息をしていなかった。突然、妻を喪ったA氏。時々笑顔を見せるが、どこか寂しげな表情が印象的だった。認知症で困惑する妻の姿ばかり見ていたが、遺影の着物姿はとても素敵だった。訪問後の帰り道、さまざまなことが蘇る。「母ちゃんには感謝してる」と、妻のいないところで照れながら話すA氏。最期まで、自分のことより夫を優先して支え続けた妻の姿。二人暮らしが一人暮らしとなり、その現状を目の当たりにした私にも心にぽっかりと穴が空き、涙がこぼれてきた。誰かが先に逝けば、残される人がいる。当たり前と思っていた日常が幸せだったことに、後から気付くのは寂しい。1日1日を大切に生きようと改めて感じた。 2024年1月投稿 「大往生という言葉の重み」 「ありがとう」と言葉を残し、家族に見守られて旅立った100歳の利用者さん。“大往生”という言葉の重みを改めて感じたエピソード。 100歳代の女性。息子さんと二人暮らしでした。「息子がよくしてくれるから何も困ってない」そう言って、可愛らしい笑顔で話してくださいました。最期は「ありがとう」と言葉を残し、息子さんと娘さんに見守られて旅立たれました。周囲の方は口々に「大往生だった」と話されていました。しかし後日、クリニックナースから「息子さんが来訪された時“大往生だと言われてもね…”と寂しそうでした」と聞きました。そうだ…。どんなに高齢で穏やかな最期であっても、残された家族にとっては簡単には「大往生」とは思えない。日々をともにしてきた家族を失う寂しさや欠乏感は、「大往生」という言葉だけでは片づけられないのだと思いました。また、90代女性の利用者さん。長年一人暮らしでしたが、ベッド上生活になり娘さんが同居されていました。最期が近づいていたある日、娘さんが「上品で優しい母。料理も裁縫も日曜大工もなんでもできるすごい母でした」と話してくださいました。その言葉を聞きながら、ご本人はよい表情で小さく頷かれていました。その2時間後に旅立たれました。娘さん涙ぐみながらも、「大往生、100点満点です」と話されました。私は「大往生でしたね」と返させていただきました。言葉の大切さを改めて感じました。 2024年1月投稿 「かあちゃん」 「かあちゃん」と呼んでくれた98歳の男性。大トロのお刺身をうれしそうに頬張る笑顔が、今も心に残るエピソード。 98歳の男性。膀胱癌の終末期で、入所時から私の担当だった。認知症もあり、病気の影響か頻尿が続いていた。余命1ヵ月程度と説明され、その間に何ができるか考えていた。入所時から、私のことを「かあちゃん」と呼び、私は呼ばれることにやや抵抗を感じていた。何かにつけ「かあちゃん痛いよ~」「かあちゃん服脱がせてくれ」「かあちゃん…」と。ある日、「かあちゃん、美味しい刺身で一杯やりたいなぁ~」と話された。その一言を聞き、私は買い物に出かけ、大トロのお刺身を用意して夕食時に提供した。嬉しそうな笑顔で「これは美味い」と、日本酒と一緒にうれしそうに食べてくださり、こちらまで嬉しくなる日だった。夏祭りで歌う姿や、家族面会の時の笑顔。たくさんの笑顔を残してくれた。一方で、最期の日は終末期せん妄による苦しそうな表情があったと聞き、最期は辛い思いをさせてしまったのではないかと、今も考える。「とうちゃん、かあちゃんは優しかったですか。とうちゃんが満足する母ちゃんでしたか」 2024年1月投稿 「伝えたかったありがとう」 家族の助言には耳を貸さなかったAさんが、少しずつ訪問看護師を受け入れてくれるようになった。そして最期に残されていたのは、「ありがとう」と書かれた1枚の裏紙だったエピソード。 老夫婦で過ごされていたAさん。近くには娘様もお住まいで、いつもご夫婦の様子を見に来られていました。腸閉塞を何度も繰り返していましたが、Aさんは奥様や娘様の助言には耳を貸さず、「俺の体は俺が1番知っている。」と話されていました。困り果てた娘様からSOSがあり、ケアマネジャーを通して訪問の依頼がありました。初めは私たちスタッフにも拒否的でしたが、何度か訪問させていただくうちに、徐々にAさんは受け入れてくれるようになりました。排泄の状況をうかがっても、以前は「なんでそんなこと教えなきゃいけない?」と話されていました。しかし、ある日から大量の裏紙の束を持ってきて「そうだ、3日出てないんだ。腹も張ってるし、浣腸お願いできるかな。」と。しかしご家族様には変わらず、助言を受け入れてもらえず、奥様や娘様は「もう家でみるのが大変で…。夜中に何度も“看護師さんを呼んで”と言われて…。」と疲弊されてました。ある日、突然の嘔吐で緊急訪問となりました。そのまま救急搬送され入院し、帰らぬ人となりました。その後、ご自宅を訪ねると奥様がAさんの大量のメモ紙を持ってきて「片付けをしていたら、1枚だけ出てきたの。」と、そこには「ありがとう」と大きく書かれた1枚の裏紙でした。ご家族も私たちも、それを見て号泣しました。 2024年1月投稿 「告白」 「山田さんとは心が通じ合っている気がする」98歳のおばあちゃまとの5年間のかかわりの中で、忘れられない“告白”を受け取ったエピソード。 昔はイングリッド・バーグマン似だった98歳のおばあちゃま。乳がんのケアで関わることとなった。訪問看護師として処置に伺うアトリエには、鮮やかな花の油絵が、友人や家族の写真とともに飾られていた。夕方になると、ご飯を目当てにちゅんちゅん(雀たち)が集まってくる。ご家族はご本人らしい最期を望まれていたが、医療の選択肢が増えた今、告知しないほうが難しかった。何度となくスタッフ間で議論したが、当人は「みんないい人ばかりね」と微笑み、病状については深くは知らされていなかった。つかず離れずがモットーのこの仕事なのに、がんが進行したある日、「山田さんとは心が通じ合っている気がする」 と、見つめられ、戸惑った。「ありがとう。私も」と返した。最期にトイレは自分で行かれ、寝込まれたのはわずか二日間だった。凛とした美しい表情は、まるで眠っているようだった。四十九日過ぎに手を合わせ、遺族と喪失感や疲れを共有した。「じつは告白されたんですよ」そんな話をしながら、娘さんと一緒に泣いて、笑った。一年後、自転車で前を通った。「両想いやね」と伝えたかった。寂しいと、私もちゃんと伝えればよかった。やっと今、自分の心に向き合えている。 2024年1月投稿 利用者さんやご家族との日々の関わりの中には、言葉では言い尽くせない大切な時間があります。一人ひとりの人生に寄り添う訪問看護だからこそ出会える瞬間を、これからも大切にしていきたいですね。 編集: NsPace編集部

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月22日
2026年5月22日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol3

訪問看護の現場では、疾患・障害などがある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードをご紹介します。 「かぶってない」 精神疾患と知的障害を抱える利用者さんと信頼関係を築き、安定した療養生活をサポートできたエピソード。 精神疾患と知的障害、糖尿病を患う彼女の自宅に4人の看護師が交代で訪問している。内服管理、血糖値確認、生活リズムの確立、対人関係の援助などで訪問している。彼女の希望は“話をしたい”。病院の受診以外で人と交流する機会もない彼女にとって、私たちの訪問は唯一の楽しみである。自分からは話さず、私たちが話をしても返ってくる言葉は単語のみ。沈黙の時間が続くが、彼女はあまり気にならない様子。そんな沈黙を破り、彼女は突然言葉を発した。彼女の訪問時の様子は、看護師同士で情報共有していたが、突然「かぶってない」と言われた看護師は頭をフルに回転させて考えた。彼女の目線の先には、袋がかぶってない陰部洗浄用のボトルがあった。精神科勤務の経験のない私たちは、彼女のケアを手探りの状態で続けているが、この1年間入院することなく自宅で生活する事ができた。 2024年1月投稿 「看護の心~お孫さんからの学び~」 癌末期のAさんを献身的に介護するお孫さんから、看護の心は資格ではなく相手を慮る気持ちだと学んだエピソード。 Aさんはがん末期で、奥さんと息子さん家族と住んでいます。Aさんは入院中に転院の話に納得されず、在宅療養を希望し訪問看護が開始となりました。高齢の奥さんに代わり、お孫さんが献身的に介護を担っていました。徐々に経口摂取もままならず、点滴の可否を決定する時期となりました。奥さんと息子さんは「これ以上辛い思いはさせたくない。自然な形がいい」と点滴は希望されませんでしたが、お孫さんは「まだ生きる可能性があるのに自分たちが諦めてしまっていいのか」と涙ながらに訴え、話し合いの結果、点滴を実施することとなりました。せん妄でお孫さんに暴力を振るうこともありましたが「明日はじいじはいないかもしれないという思いで介護をしている」と話し常に寄り添っていました。最後は3人のお孫さんとお嫁さんが交替で介護にあたり、みんなに囲まれて旅立たれました。看護の心というのは、資格の有無ではなく”どれだけ相手を慮ることができるのか“ということをお孫さんから学びました 2024年1月投稿 「ひ孫に会いたい!」 韓国人の利用者さんが、うろ覚えの韓国語で通訳を受けながら無事に帰国し、ひ孫に会えた笑顔の写真が送られてきたエピソード。 私には幼少期を韓国で過ごしたという、バックグラウンドがあります。近年、外国籍の利用者さんも増えてきており、私は韓国人の利用者さんを担当することになりました。ご本人は40年前に来日しており日本語は上手ですが、韓国に住んでいる娘さん夫婦は日本語を話せず、初めての介護でした。そして「これから生まれるひ孫に会いたい、会わせたいから韓国に帰りたい」と希望がありました。うろ覚えの韓国語と携帯の翻訳機能を使いヘルパーさんやケアマネさん、訪問診療時の通訳をしていました。なかなかうまく通訳できず苦労しましたが、帰国に向けて準備の手伝いをする中で、「同じ言葉で話せる人がいるだけでも安心です」とおっしゃっていただきました。体調が落ち着き、娘さんも介護できるようになったので無事に帰国しました。帰国前、お互いに「サランヘヨー」とハグをしお別れ。そして、ひ孫に会えて笑顔いっぱいの写真が送られてきました。 2023年12月投稿 「あなたが来てくれるだけで」 新人作業療法士が、「あなたが顔出してくれるだけで元気がでる」と利用者さんに言われて涙したエピソード。 私は臨床2年目、訪問看護師としては1年目のひよっこ作業療法士です。利用者さんは透析をしており、透析後は疲労感が強いため積極的にリハビリを行うのが難しい様子でした。ご本人も頑張りたいのに体が動かない、私も何かできると良いのだけど難しい。何もできないのにこのまま訪問を続けて良いものか悩んで、思わずご本人に「何もできなくてごめんね」と言ってしまいました。ところが「何バカなこと言っているの!あなたが顔を出してくれるだけで元気がでるんだから!」と言われ、ハッとしたと同時に涙がでました。リハビリらしいリハビリはできていませんが、私を必要としてくれている人がいる。少しでもその人の生活の一部になっていることを忘れずに、そしてこれからもそう思ってもらえるように頑張っていこうと思いました。 2023年12月投稿 「母にしてあげたかったこと」 母を膵臓癌で亡くした看護師が、訪問看護の研修で感動し、母にしてあげたかった看護を利用者さんに届けようと決意したエピソード。 私が病棟勤務で毎日忙しくしていたころ、母に膵臓癌が見つかった。すでに末期の状態で、みるみる体調が悪くなり3ヶ月で旅立った。実家は県外で頻繁に会いに行くこともできず、看護師なのに私は母に何もしてあげられなかったと後悔する毎日。何のために看護師をしているのか分からなくなり、17年勤めた病院を数ヶ月後退職した。気力もなく過ごしていた時、看護協会から訪問看護に関する研修案内メールが届いた。なぜか心が動いて“行ってみたい”と思った。その研修は数日間あり、その中の半日は指定されたステーションで同行研修をする。学生時代の実習気分で懐かしい感じもあり、ドキドキしながら同行させてもらった。そこで出会った看護師さんの、利用者さんに対する温かさと丁寧さにとても感動し、管理者さんからの「あなた訪問看護師向きだと思いますよ」の一言に“ここで働きたい!”と直感で思い、すぐにスタッフ募集しているか調べて採用してもらうことができた。終末期の利用者さんも多く、母と重なる部分もあるが、母にしてあげたかった看護をここで精一杯頑張っていこうと思う。 2023年12月投稿 利用者さんの前向きな姿勢や人生の歩みは、関わる訪問看護師だけではなく読者にまで元気や力を与えてくれます。あらためて、訪問看護師と利用者さんの関係は共鳴するのだと考えさせられます。 編集: NsPace編集部

腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは
腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは
特集
2026年5月19日
2026年5月19日

腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回のテーマは「腎不全」。その中でも末期腎不全(ESKD)に対する在宅での保存的腎臓療法(CKM)について、東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所の岡田絵里先生に、進行に伴う苦痛症状とその対応、患者さんのQOL向上のために検討すべきことを解説いただきます。 はじめに わが国では、慢性腎臓病(CKD)を有する患者数は約2,000万人(成人の約5人に1人)1)とされ、75歳以上の高齢者における有病率は34.6%(約3人に1人)に上ると推算されます2)。また、ESKDに対して血液透析を中心とした腎代替療法が行われてきましたが、透析導入患者の平均年齢は今や約71歳3)を超え、重度の心不全や認知症など、体外循環がハイリスクとなるケースも少なくありません。 超高齢社会における腎不全治療の在り方が問われており、近年は腎代替療法を選択せず、ESKDに伴う症状緩和を主軸とするCKMを選択する症例も増加しています。本稿では在宅療養下でCKMを選択された腎不全患者さんを対象とした緩和ケアについて概説します。 腎不全とは 疾患の概要 腎不全とは、腎臓の機能が低下し、老廃物や余分な水分、電解質の排泄や調整ができなくなる状態です。高齢腎不全の多くの症例では、糖尿病・高血圧・加齢などを背景に緩徐に腎機能の低下が進行し、ESKDに至ります。このようなケースでは亡くなる1~2ヵ月前まで身体機能が比較的保たれ、末期がんのような病の軌跡をたどることが特徴です。 一方で、腎不全の原疾患や他臓器の併存症によって、腎機能の急性増悪を繰り返しながら段階的に腎機能が低下していく症例もあり、過去の腎機能の推移から今後の経過を個別に予測する必要があります。 進行の特徴と終末期の変化 病期の進行とともに、浮腫、倦怠感、食欲不振、呼吸困難、皮膚のかゆみ、意識障害などが段階的に現れます。糸球体濾過量(eGFR)が10mL/分/1.73m2未満となり終末期が近づくと、尿量の著しい減少、傾眠傾向の増加、せん妄、けいれん、昏睡といった尿毒症による症状もみられます4)。特にCKMを選択される場合は、終末期に向けて症状のコントロールがより重要になってきます。 ESKDに伴う主な苦痛症状とその対応 米国で腎緩和ケアサービスを受けていたESKD患者335 名における5大症状は、呼吸困難(63.7%)、倦怠感(51.8%)、浮腫(48.2%)、疼痛(44.2%)、食欲不振(38.1%)5)であったと報告されています。そのほかの苦痛症状も含め、観察ポイントとケア・対応を表1にまとめました。 表1 ESKDに伴う主な苦痛症状と観察ポイントおよびケア・対応 苦痛症状観察ポイントケア・対応呼吸困難・浮腫・体液過剰   ・血圧・体重・SpO2・塩分制限・在宅酸素療法・ベッドのギャッジアップ・顔に冷風を当てる・利尿薬の増量・薬物治療:オピオイド※、抗不安薬(オピオイド無効時)倦怠感・高度の貧血や心不全の有無・薬剤性(抗ヒスタミン薬、オピオイド※、睡眠薬など)・抑うつ・貧血の是正(薬物治療:腎性貧血治療薬〔ESA やHIF-PH 阻害薬など〕)・原因薬剤の減量・中止:抗ヒスタミン薬、オピオイド※、睡眠薬などによる倦怠感の可能性を検討・抑うつがある場合は抗うつ薬を検討疼痛・NRS(数値的評価スケール)・痛みの性質・増悪寛解要因・神経障害性疼痛の場合:薬物治療(プレガバリン、ガバペンチンなど)・侵害受容性疼痛の場合:薬物治療(アセトアミノフェン、トラマドール、オピオイド※など)食思不振・悪心・嘔吐・食事量・体重・排便管理・食事の少量頻回摂取・薬物治療:制吐薬、六君子湯など・リン吸着薬やカリウム吸着薬などの減量・中止の検討・難治性の場合:薬物治療(オランザピン)せん妄・意識障害・意識レベル・症状の変動・羽ばたき振戦の有無・介入可能な原因検索(電解質異常や感染症、便秘や尿閉など)・せん妄に対する環境調整(日中の覚醒を促す、眼鏡や補聴器の適正使用など)・活動性せん妄に対する薬物治療:抗精神病薬(クエチアピン〔糖尿病患者では禁忌〕、ペロスピロンなど)・臨死期における尿毒症による意識障害は苦痛がなければ介入を行わないことも多い皮膚掻痒・掻把痕・皮膚乾燥の確認・スキンケア、保湿、天然繊維の肌着の使用・薬物治療:抗ヒスタミン薬、ナルフラフィン(抗ヒスタミン薬が効きにくい場合。保存期CKD では適応外)むずむず脚症候群・日内変動の確認・鉄欠乏の有無・薬剤性(抗精神病薬や抗うつ薬など)・カフェインやアルコール摂取を控える・鉄分の補充・薬物治療:プレガバリン、プラミペキソールなど便秘・便の性状・薬剤性(リン吸着薬、カリウム吸着薬など)・原因薬剤の減量・変更:リン吸着薬、カリウム吸着薬・薬物治療:上皮機能変容薬(ルビプロストン、エロビキシバット)、浸透圧性下剤(ポリエチレングリコール)など⇒腎機能低下患者では酸化マグネシウムを避ける(高マグネシウム血症への注意が必要) ※腎不全におけるオピオイドの使用モルヒネは、有害な代謝産物(モルヒネ-3-グルクロニド〔M3G〕)が蓄積し、せん妄やミオクローヌスなどを起こしやすくなるため、eGFR30mL/分以下の場合、使用は原則禁忌とされています。オキシコドン、ヒドロモルフォン、トラマドールは、減量して慎重に投与します。ブプレノルフィンやフェンタニルは腎不全でも比較的安全に使用可能ですが、いずれも内服薬がない点に留意する必要があります。非がん進行性疾患の呼吸苦に対するオピオイドの使用は知見に乏しく、現状はエビデンスが担保されていませんが、一定の効果が得られることもあり、使用を検討します。 患者さんのQOL向上のためにできること ポリファーマシー対策 腎不全患者さんは、高血圧や糖尿病、脂質異常症、心疾患などの多疾患並存を抱える場合、内服薬が多くなる傾向にあります。ある研究によると、CKDステージG4(腎機能が高度に低下した状態)およびG5(ESKDの状態)では、6剤以上のポリファーマシー状態にある患者さんの割合が、それぞれ84%、74%であったと報告されています6)。 CKMを選択される患者さんにおいては、長期的な生命予後よりも、QOLや短期予後をより重視した処方設計が望ましい場合もあります。例えば、便秘になりやすい症例や服薬アドヒアランスに懸念がある症例においては、血清リンのコントロール目標は緩くし、リン吸着薬の減量・中止を検討してもよいかもしれません。高カリウム血症を呈する症例では、アシドーシスに対する炭酸水素ナトリウムを使用することで、カリウム吸着薬による便秘を避けられる可能性があります。 個々の症例に応じて処方を見直し、患者さんの治療負担の低減を図ることができるとよいでしょう。 食事制限は患者さんのQOLを重視 CKDの食事療法に関しては、一般的にタンパク・リン・カリウムなど、多くの制限が提示されます。しかし、高齢CKD患者さんではそもそも食事摂取量が低下し、サルコペニアの合併例も多いことから、栄養指導にも留意が必要です。 『CKD診療ガイド2024』(日本腎臓病学会編)では、サルコペニアを合併したCKDでのタンパク制限の緩和についても言及されています7)。食事はQOLに直結する人生の愉しみでもあり、高齢CKM症例における食事制限に関しても、主治医と相談の上で適宜緩和を検討すべきでしょう。 アップデートしておきたい知識 腎不全の緩和ケアに対する関心の高まりから、令和 8 年度診療報酬改定において緩和ケア病棟の対象疾患として新たに腎不全が加わり、また腎臓病対策推進の一環として緩和ケア提供体制の整備を含めた診療加算が新設されました8)。 在宅で受けることができる透析治療として、腹膜透析(PD)への関心も高まっています。血液透析と比較し、通院負担や体外循環による心血管系の負担が少ないことがメリットである一方、高齢患者さんでは自身での管理が難しいケースも少なくありません。訪問看護師によるサポートで在宅PDを導入・継続するassisted PDの広がりが期待されます。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)ESKD:end-stage kidney disease(末期腎不全)CKM:conservative kidney management(保存的腎臓療法)QOL:quality of life(生活の質)CKD:chronic kidney disease(慢性腎臓病)eGFR:estimated glomerular filtration rate(推算糸球体濾過量(値))SpO2:saturation of percutaneous oxygen(経皮的動脈血酸素飽和度)ESA:erythropoiesis stimulating agent(赤血球造血刺激因子製剤)HIF-PH:hypoxia-inducible factor-prolyl hydroxylase(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)NRS:numerical rating scale(数値的評価スケール)PD:peritoneal dialysis(腹膜透析) 執筆:岡田 絵里東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所 筑波大学医学類卒業後、腎臓専門医・透析専門医・総合内科専門医を取得。在宅医として高齢者腎不全診療にアプローチしていきたいと考えています。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本腎臓学会編:CKD診療ガイド 2024.東京医学社,東京,2024:ⅳ.2)Kobayashi A,Hirano K,Okuda T, et al.:Estimating the prevalence of chronic kidney disease in the older population using health screening data in Japan.Clin Exp Nephrol 2025;29(3):276-282.3)正木崇生,花房規男,阿部雅紀,他:わが国の慢性透析療法の現況.日本透析医学会雑誌 2024;57(12):543-620.4)鈴木利彦監修,坂井正弘編:腎不全の緩和ケア.東京,南山堂,2025:47.5)Kwok AO,Yuen SK,Yong DS,et al.:The Symptoms Prevalence, Medical Interventions, and Health Care Service Needs for Patients With End-Stage Renal Disease in a Renal Palliative Care Program.Am J Hosp Palliat Care 2016;33(10):952-958.6)坂本愛,浦田元樹,岩川真也,他:慢性腎臓病を有する高齢者のポリファーマシーにおける有害事象の潜在的リスク因子に関する検討.日本腎臓病薬物療法学会誌 2018;7(1):13-23.7)日本腎臓学会編:成人CKD患者への栄養管理.CKD診療ガイド 2024,東京医学社,東京,2024:55-58.8)厚生労働省:令和8年度診療報酬改定について 【医科全体版】 令和8年3月6日版.2026:379.2026/4/27閲覧

梅雨バテ 訪問看護師向けケアガイド
梅雨バテ 訪問看護師向けケアガイド
特集
2026年5月19日
2026年5月19日

梅雨バテと隠れ脱水を見逃さないために|1,030人調査×内科医監修の訪問看護師向けケアガイド

梅雨の時期に体調不良を感じる人は約4割——。株式会社リーフェホールディングスが2026年3月に1,030人を対象に実施した調査で、そんな実態が明らかになりました。さらに2026年は3月の寒暖差が例年より大きく、自律神経がすでに消耗した状態で梅雨を迎えるため、例年以上に症状が深刻化しやすいと考えられます。支援が必要な訪問看護の利用者さんにとって、梅雨バテは脱水・転倒・既往症悪化への入口になり得る見逃せない症状です。本記事では内科医の立場から、現場で今すぐ使えるアセスメント・ケアの知識を解説します。 梅雨バテとは——夏バテとの違いを理解する 梅雨バテとは、梅雨の時期に特有の環境変化(気圧の低下・高湿度・日照不足)が複合的に重なることで自律神経が乱れ、心身にさまざまな不調をきたす状態の総称です。「夏バテ」と混同されることが多いですが、発症のメカニズムは異なります。 梅雨バテ夏バテ主な時期6月〜7月上旬7月〜8月主な原因気圧変動・高湿度・日照不足高温・高湿度・冷房による体温調節の乱れ中心症状だるさ・頭痛・メンタル不調・睡眠障害食欲不振・疲労感・体力消耗特徴自律神経の乱れが主体体力・栄養の消耗が主体 この違いが訪問看護の現場で重要なのは、「気温がまだ高くないから大丈夫」という先入観が、梅雨バテや隠れ脱水の見落としにつながりやすいからです。また、気圧変化に伴う不調は「気象病」「天気痛」とも呼ばれ、日本生気象学会の研究によると天気の変化で体調不良を訴える人は全体の約7割にのぼるとされています。 潜在的な患者数は国内に1,000万人以上と推計されており、梅雨バテはその代表的な症状です。訪問看護の利用者さんだけでなく、訪問看護師のみなさん自身にも影響が出やすい時期であることを覚えておいてください。 梅雨バテの症状【1,030人調査データ】 株式会社リーフェホールディングスが2026年3月に実施した「春の不調に関する実態調査」(n=1,030人)では、6月に不調を感じた402人に対して具体的な症状を尋ねました(複数回答可)。上位5位の結果は以下の通りです。 順位割合 割合1位 だるさ 73.1%2位 頭痛・眩暈 60.4%3位 肩こり・腰痛 45.5%4位 無気力 39.1%5位 眠りが浅い 35.6% (株式会社リーフェホールディングス「春の不調に関する実態調査」2026年3月・n=1,030人) 注目したいのは、「だるさ」「頭痛」といった身体症状に加え、「無気力(39.1%)」という精神面の不調が4位に入っている点です。 訪問看護の現場でこうした変化に気づいたとき、それは「異変を察知するきっかけ」になります。ただし、反応の鈍さや意識の変化は脳血管障害・重度脱水・低ナトリウム血症など重大な疾患でも現れるため、まずバイタル測定と意識レベルの確認を行い、重篤な原因を除外することが先決です。そのうえで環境的な背景(梅雨・気圧変化)と照らし合わせ、梅雨バテの関与を考えてください。 支援が必要な利用者さんにとって、梅雨バテの症状は日常生活に直結します。だるさや無気力が続けば活動量が落ち、廃用症候群につながる可能性があります。頭痛や眩暈があれば立ちくらみから転倒につながることもありますし、食欲不振が重なると服薬が不規則になり既往症に影響が出ることも考えられます。「なんとなく元気がない」というサインを早めにキャッチして関わることが、在宅生活の安定を支える第一歩です。 梅雨バテが日常生活に与える影響【調査データ】 同調査で4〜6月に不調を経験した980人に「不調時に本来の自分の何%で動けているか」を尋ねたところ、78.9%が「80%未満」と回答しました。 パフォーマンス割合80〜100%(ほぼ変わらない)21.1%50〜79%(ミスが増える・動きが遅い)57.0%20〜49%(最低限のことしかできない)18.1%0〜19%(休みたい・何も手につかない)3.8% (株式会社リーフェホールディングス「春の不調に関する実態調査」2026年3月・n=1,030人) 不調を感じた人の約6割が「ミスが増える・動きが遅い」状態にあります。訪問看護の利用者さんの場合、このパフォーマンス低下は服薬管理のミス・転倒リスクの上昇・水分摂取量の低下として現れやすく、より深刻な事態に発展するリスクがあります。 また見落としがちですが、介護をしているご家族も同様の影響を受けている可能性があります。ケアの質が全体的に落ちやすい時期として認識しておくことが大切です。最悪の場合、うっかり服薬管理のミスにつながることもゼロではありません。「家族の介護力も季節によって変わる」という視点を持ちながら、訪問時に服薬カレンダーの確認や一包化の提案をさりげなく行うことが、利用者さんとご家族の両方を支えることになります。 梅雨バテの3つの原因——医学的メカニズム (1)気圧の低下による自律神経の乱れ 梅雨は低気圧が長期間持続します。耳の奥にある「内耳」は気圧を感知する精密なセンサーとして機能しており、気圧が低下すると前庭神経が過剰に反応し、自律神経のバランスが崩れます。自律神経には「交感神経(活動モード)」と「副交感神経(休息モード)」の2系統があり、低気圧が続くと副交感神経が優位になりやすく、体が常に「休息モード」に傾きます。これがだるさ・眠気・意欲低下の本質的な原因です。 また、低気圧の影響でヒスタミンという炎症・発痛物質の産生が増えることが知られており、頭痛・肩こりの増悪につながります。 (2)高湿度による体温調節機能の低下と「隠れ脱水」 梅雨時期は湿度が80〜90%に達することもあります。高湿度環境では汗が蒸発しにくく、体内に熱がこもった状態(うつ熱)が続きます。これがだるさや倦怠感の主な原因のひとつです。 さらに見落とされがちなのが「隠れ脱水」のリスクです。「梅雨はまだ涼しいから水を飲まなくていい」という認識のまま、気づかないうちに水分不足が進行するケースが多くあります。高齢者は口渇感が鈍化していることが多く、自覚なく脱水が進むリスクが特に高い点に注意が必要です。 (3)日照不足によるセロトニン・メラトニン分泌の乱れ 太陽光を浴びることで分泌されるセロトニン(幸福ホルモン)は、気分の安定や意欲の維持に不可欠な神経伝達物質です。梅雨の時期は晴天が少なくなることでセロトニンの分泌が低下し、気分の落ち込み・無気力感・不安といった精神症状が現れやすくなります。 またセロトニンは睡眠ホルモン「メラトニン」の前駆体でもあるため、睡眠の質の低下や日中の眠気にも直結します。 訪問看護師が押さえておきたいポイント 梅雨バテは自己申告されにくい症状です。特に高齢の利用者さんは「年のせい」「大げさにしたくない」と思い、体調変化を積極的--に伝えないことが多くあります。以下のチェックリストを訪問時のアセスメントにそのままご活用ください。なお、チェックリストの使用はバイタルサインと意識レベルに大きな変化がないことを確認したうえで行ってください。 【梅雨バテチェックポイント】 表情・言動の変化 いつもより口数が少ない・反応が遅い 「なんとなくだるい」「ぼーっとする」という訴えがある 何もしたくない、外に出たくないという意欲の低下がある ぼんやりしている・会話が噛み合わない 隠れ脱水のサイン 口腔内・口唇の乾燥がある 皮膚をつまんで戻りが遅い 尿の色が濃い・回数が少ない 腋窩に発汗がない(体温調節機能低下の危険なサイン) 血圧低下・脈拍増加がある 生活環境の確認 室温28℃以上・湿度60%以上になっていないか エアコンを使っていない・使い慣れていないか 水分補給がアルコールやコーヒー中心になっていないか 食事量や睡眠に変化が出ていないか 服薬が正しく行われているか 【特に注意が必要な利用者さん】 高齢(口渇感の鈍化により自覚なく脱水が進みやすい)  心疾患・腎疾患・糖尿病などの基礎疾患がある  利尿薬・降圧薬・抗コリン薬など脱水リスクを高める薬剤を服用中  日中独居、またはほぼ動かない生活をしている  エアコンを使わない、または使い慣れていない 1つでも該当する項目がある場合は、梅雨バテの可能性を念頭に置いた観察と早めのケア介入を検討してください。 最新研究に基づく梅雨バテの対策 (1)内耳ケア——耳まわりのマッサージ 内耳は気圧変化を感知するセンサーとして機能しており、血流を改善することで自律神経の過剰反応を抑える効果が期待できます。道具は不要で座ったままできるため、利用者さんへそのまま指導しやすいケアです。訪問時に一緒に実施してみるのもよいでしょう。 やり方(1回約1〜2分) 両手の親指と人差し指で耳全体を軽くつまみ、上・下・横に5秒ずつゆっくり引っ張る 耳全体を後ろ方向にゆっくり5回まわす 耳を折り畳むように前に倒し、5秒キープする 手のひらで耳全体を覆い、後ろ方向に円を描くように5回まわす 雨の日の朝や、体調変化を感じたタイミングで行うのが効果的です。 (2)腹式呼吸——迷走神経を刺激して副交感神経を整える 深くゆっくりとした腹式呼吸は横隔膜を動かし、迷走神経を介して副交感神経を直接活性化します。 座位・臥位どちらでも実践できるため、在宅でのケアに取り入れやすい方法です。 手順:鼻から4秒吸ってお腹を膨らませ、口から8秒かけて吐く。5〜10回を目安に、起床時・就寝前に習慣化する。 (3)適切な水分補給と経口補水ドリンク 水分摂取量は1日の目安として1.5〜2リットルで、時間を決めてこまめに摂ることが大切です(腎疾患・心不全のある方は担当医の指示量を優先してください)。水や麦茶が適していますが、身体がだるい場合には水と電解質を同時に補給できる経口補水液が特に有効です。以下のレシピで自宅でも簡単に作ることができます。 橋本医師考案:手作り経口補水ドリンクレシピ(コップ1杯・約200ml分) 材料分量水200mlレモン汁大さじ1リンゴ酢小さじ1オリゴ糖大さじ1はちみつ大さじ1+小さじ1塩ひとつまみ コップに水を注ぎ、すべての材料を加えてよくかき混ぜるだけで完成です。ビワ・パイン・キウイ・梅・桃・ミントなど旬のフルーツを加えるとさらに飲みやすくなります。なお、アルコールやコーヒー・緑茶には利尿作用があるため、水分補給の代わりとして摂取すると脱水が進む可能性があります。飲み物の「量」だけでなく「中身」も確認することが重要です。 [注意事項]・塩分・糖分の制限がある利用者さんへの提供は、事前に担当医または管理栄養士へご相談ください。・作り置きは雑菌繁殖のリスクがあるため、作ったその日のうちに飲み切るようにしてください。 (4)栄養バランスのとれた食事 梅雨バテの症状を和らげるためには、自律神経のサポートに関わる以下の栄養素を意識した食事が効果的です。 栄養素 期待できる効果 主な食材ビタミンB群 疲労回復・自律神経のサポート 豚肉・玄米・納豆・バナナビタミンC 抗酸化作用・免疫力の向上 レモン・キウイ・ピーマンマグネシウム 自律神経の安定 豆腐・ひじき・アーモンドタンパク質 免疫力の維持・疲労回復 鶏肉・魚・大豆製品発酵食品 腸内環境を整え自律神経に好影響 ヨーグルト・納豆・キムチ 食事の準備が難しい利用者さんには、品数の多い定食や宅配食の活用もご提案ください。腸内環境と自律神経には密接な関係があることが近年の研究で示されており、発酵食品の積極的な摂取は梅雨バテ対策としても注目されています。 (5)生活リズムの維持と室内環境の整備 自律神経の乱れを防ぐためには、規則正しい生活リズムを保つことが基本です。毎朝同じ時間に起床し、雨天でも室内の電気をつけて明るい環境を作ることで、体内時計のリセットを促せます。また37〜38℃のぬるめの入浴は副交感神経を適度に活性化させ、睡眠の質向上にも効果的です。 室内環境については、高齢の利用者さんが「暑くないからエアコンは不要」と判断して室温・湿度が上がり続けているケースが多く見られます。訪問時に室温28℃以下・湿度60%以下を目安に環境を確認し、必要であればエアコンの適切な使用を促してください。 利用者さん・ご家族への現場での活用ポイント 訪問看護の現場では「気持ちの問題だと思っていた」「梅雨だから仕方ない」という声が多く聞かれます。まず「気圧変化による医学的な症状であること」を伝えることが、利用者さんの安心感と行動変容の第一歩になります。現場では次の3点を優先して確認・指導するのが実践的です。 水分補給の中身を確認する:量だけでなく、アルコール・コーヒー中心になっていないかをさりげなく聞く。「1時間に1回コップ半分」を目安として伝えると習慣化しやすい。 室内環境を目で確認する:エアコンの使用状況・室温・湿度を訪問のたびにチェックする。「電気代より命が大事」と丁寧に伝えることが高齢の利用者さんには特に有効。 介護家族にも声をかける:ご家族自身も梅雨バテの影響を受けているケースが多い。「一緒にケアしましょう」というスタンスが介護の持続性にもつながる。 こんな症状は受診を——梅雨バテと他疾患の見極め 「梅雨バテかもしれない」と思っても、他の疾患が隠れているケースがあります。以下の症状が続く場合や、梅雨バテ対策をとっても改善しない場合は、早めに受診を促してください。 症状・所見 疑われる疾患 受診先だるさ・むくみ・寒がり・体重増加が続く 甲状腺機能低下症 内科著明な倦怠感・動悸・顔色不良 鉄欠乏性貧血 内科市販薬が効かない持続的な頭痛・吐き気片頭痛・高血圧・脳血管疾患 内科・神経内科強いめまい・耳鳴り・難聴 メニエール病・突発性難聴 耳鼻咽喉科気分の落ち込み・無気力が2週間以上続く うつ病・適応障害 心療内科・精神科 訪問看護師として大切なのは、「梅雨バテかもしれないが、梅雨バテではないかもしれない」という視点を常に持つことです。症状が想定より強い・長引く・急激に悪化する際は、積極的に担当医師へ報告・相談してください。 まとめ 梅雨バテは「気のせい」でも「年のせい」でもなく、医学的な根拠をもつ体調不良です。適切なケアで症状を大きく和らげることができます。訪問看護の現場で「なんとなく元気がない」利用者さんに気づいたとき、本記事のアセスメントの視点とケアの知識がその一助になれば幸いです。また、皆さん自身の体調管理にもお役立ていただければ幸いです。 【調査概要】調査名:春の不調に関する実態調査実施者:株式会社リーフェホールディングス調査対象:全国の男女有効回答数:1,030人調査方法:インターネット調査 執筆:橋本 将吉現役内科医。『西新宿セルフライフ内科クリニック 』院長。2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念のもと、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。将来の医師を育てる医学生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営や、自らが『ドクターハッシー(内科医 橋本将吉)』というYouTubeで健康教育を行う。2022年9月に、健康や医学を医師から学ぶ事のできるサービス『ヘルスケアアカデミー』をリリース。ヘルスケアアカデミー事業の一環として企業や学校などでセミナーを開催している。また、2023年11月には現役の医師目線で日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、乳酸菌飲料「乳酸菌V28」や睡眠グッズ「お疲れさまくら」などの商品を展開している。「めざましテレビ」「ホンマでっか!TV」「櫻井・有吉THE夜会」など多数のテレビ番組の出演、「世界一受けたい授業」「林修の今、知りたいでしょ!」など、人気番組の医療監修を手掛け、著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/医学生道場:https://igakuseidojo.com/ヘルスケアアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/

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