NPPV療法 Q&A/治療継続のポイント、治療中の観察、トラブル対応
在宅NPPV(非侵襲的陽圧換気)療法を行う患者さんは、病院で学んだNPPVを生活に取り入れようと一生懸命です。しかし、NPPVを行う夜間に医療従事者は不在のため、さまざまな不都合や困難に遭遇したときに対応できず、アドヒアランスが低下することが少なくありません。患者さんが在宅でアドヒアランスを維持し、効果的にNPPVを継続していくために必要な看護をQ&A形式でお伝えします。 Q1 患者さんが在宅NPPV療法を継続するために、医療者にはどのような支援が求められますか? A 患者さんとのパートナーシップの構築と、自己効力感を高め、アドヒアランスの維持・向上につながる支援が求められます患者さんが在宅NPPV療法を継続するためには、アドヒアランスの維持とセルフマネジメント能力が不可欠です。医療者は、患者さんにとってNPPVを生活に取り入れることがいかに大きな課題であるかを理解する必要があります。その上で、パートナーシップを構築させながら、心から応援する思いでアドヒアランス、セルフマネジメント能力を高める支援をしていくことが重要です。 パートナーシップの構築 患者さんのNPPVへの思いや不都合などの体験を傾聴・共感します。また、効果的なNPPVを実施できるように共に考え、問題に迅速に対応する姿勢で伴走します。 自己効力感を高め、アドヒアランスの維持・向上への支援 患者さんにNPPVがどういった治療法であるかをわかりやすく説明しましょう。例えば、「NPPVはマスクを通して空気を送り、呼吸を楽にする画期的な素晴らしい器械です」と息を楽にする器械であることを強調します。 さらに、患者さん個々におけるNPPVの必要性、期待される効果とその機序を説明しましょう。例えば、料理が好きなCOPD患者さんには、胸鎖乳突筋に触れながら「働きすぎて疲れているこの筋肉を休めながら、二酸化炭素を減らすことができる唯一の器械です。息切れが軽くなって好きな料理を作っている方がおられます。あなたも作ることができますよ」と望む生活と結び付けてほかの患者さんのことを伝えます。そうすることによって、患者さんはNPPVをポジティブに捉えられるとともに自己効力感が向上します(代理的経験)。 また、短時間でもNPPVを継続したり、リークが少なかったりといったできていることを称賛し、頑張りを称えましょう(成功体験、言語的説得)。頭痛や頭重感などの自覚症状の軽減があれば、それはNPPVの効果であると伝えて症状の軽減を実感してもらいます(情動的状態)。こうしたかかわりの中で患者さんの自己効力感が向上し、アドヒアランスおよびセルフマネジメント能力の維持・向上につながるだけでなく、患者さんとのパートナーシップが強化されます。 Q2 NPPV患者さんの観察の視点とアセスメントのポイントは何ですか? A 患者さんの訴えを丁寧に聴き取り、治療履歴データやログデータといった客観的情報を活用し、患者さんの呼吸状態を把握することが大切です 患者さんの訴え(主観的情報)を聴き取る 夜間のNPPV実施中の患者さんを観察できない訪問看護師にとって、患者さんの主観的情報は、増悪徴候の早期発見だけでなく、NPPVが効果的にできているか、至適設定であるかを評価するために重要です1)。 息切れの増強、SpO2の低下、頭重感・眠気などの高二酸化炭素血症の症状、NPPVの継続時間や同調性、リークの状況、マスクの不快感、中途覚醒の有無などを丁寧に聴き取りましょう。安静時にSpO2が普段より低く、息切れが強い場合は、CO2が上昇していることもあります。安易に酸素流量を上げるのではなく、NPPVを施行し医師に連絡しましょう。 機器との同調性について患者さんはどのように違和感があるのか表現できないことがあります。そのため「息を吸っているのに入らないのか?」「息を吐きたいのに空気が入ってくることがあるのか?」など具体的に尋ねます(表1)。また、患者さんに「あなたの主観的情報が至適設定につながる」という重要性を説明することで、治療への積極的な参画意識が芽生えてくるようになります。 表1 主観的情報から考えられる原因と対処方法 文献2)を参考に作成 客観的情報から呼吸状態を把握 夜間に問題となる気道閉塞や無呼吸、リーク状況は、機器の治療履歴データを見るとよいでしょう(図1)。 図1 治療履歴データの例 画像提供:帝人ファーマ株式会社 患者さんはリーク量でNPPVが効果的にできているかを判断することが多くあります。そのため、治療履歴データを提示しながら、患者さんとともに評価し、リークが少ない時は称え、ともに喜び、リークが多い時は、観察ができていることを称えた上で対策をともに考えます。これは自己効力感・自己コントロール感・パートナーシップの向上につながり、NPPVを在宅で継続するための大きな力となります3)。 また、可能であれば、医師に気になる状況を伝え、データマネジメントツール(ログデータ)の活用を依頼するのもよいでしょう(図2)。ログデータは、見えないNPPV実施状況を詳細に可視化するため、患者さんの呼吸状態を把握するのに有効です。 その他の客観的情報については表2に示します。 図2 ログデータの例 表2 客観的情報の観察項目 Q3 NPPV実施中によく起こるトラブルは何ですか? また、具体的な対処方法を教えてください A 皮膚トラブルの頻度が高く、医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)の予防が欠かせません。トラブルの予防と早期対応はNPPVの継続にとって必須です NPPVの合併症を表3に示します。ご覧のように皮膚に関連する合併症が多く発生していることが分かります。 表3 NPPVの合併症 文献4)を参考に作成 医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)の予防と対処方法とは 皮膚トラブルの頻度は高く、アドヒアランスの低下につながるため、トラブルの予防と早期対処が重要です(表4)。マスクによる圧迫は、医療関連機器圧迫創傷(medical device related pressure ulcer:MDRPU)の危険因子といわれています。 予防における必須事項は、適切なマスクサイズとヘッドギアを用いて、マスクフィッティングの基本を遵守すること、ゆるくかつリークが少ないフィッティングです。 発赤ができたときは、マスクフィッティングの状況をチェックするとともに、発赤の原因を探り、マスクの種類、サイズ、固定方法を検討します。鼻根部の発赤の場合、マスクのタイプをOTM(Over-the-Nose)からUTM(Under-the-Nose)に変更するのもよいでしょう。 創傷に至ってしまった場合は、ハイドロコロイドやポリウレタンフォームなどの創傷被覆材を使用します。陽圧が高い場合は、やむを得ずストラップをややきつめに締めることがあります。鼻根部などに発赤を認めたら皮膚保護材や専用パッドなどで保護しましょう(図3)。 表4 在宅NPPV実施中に起こる皮膚トラブルとその対処方法 文献5)を参考に作成 図3 専用パッドの例 画像提供:レスメド株式会社鼻梁にパッドを乗せ、マスクを装着する。取り外しや再利用が可能 Q4 リークが出現したらどうすればよいですか? A リークはさまざまな原因によって出現します。原因を丁寧に探り、ベルトやアームを微調整したり、マスクのサイズ変更を検討したりするなど、個別に対処する必要があります リーク出現時は、すぐにヘッドギアを締めるのではなく、リークの原因を探り対処します。マスク鼻根部のシリコンにしわがなく膨らんだ状態になっているか、マスクの位置が適切かなど、基本通りにマスクフィッティングができているか確認し調整します。MDRPU予防として、先に皮膚保護材を使用する必要はありません。 リークが出現する場所によっても対応が異なります。リークの種類と対処方法の具体例を示します。また、リーク対策の工夫例も図4で紹介します。ぜひ参考にしてください。 マスク上部からのリーク:眼球の乾燥をきたすため、リークを消失させることが大切です。ヘッドギアやアームで調整します。痩せや義歯除去による頬側のリーク:頬の肉をタオルやガーゼなどでマスク側に寄せて隙間を無くします。開口リーク:チンストラップや口元にテープを貼り、マスクがずれるほど大きく開口しないようにしてもらいます。チンストラップはずれやすいため、ストラップに縫製するとよいでしょう。気道閉塞がある場合:枕を低くする、あるいは側臥位を可能な範囲でとっていただきます。マスクの劣化:マスクのシリコン部が劣化することで、クッション性が失われます。また、ストラップの劣化によりゆるみが生じます。患者さんの体型の変化:頬が痩せることでマスクサイズが合わなくなるとリークが生じます。適宜マスクやヘッドギアが患者さんに合っているか確認し、必要に応じてサイズや種類の変更も検討します。マスクのずれ:頭頂部にベルトがないマスクの場合、ヘッドギアにもう1本ベルトを追加し、ずれないように調整します。 図4 リーク対策の工夫例 陽圧換気に伴う合併症にも注意 口渇や高い陽圧に伴う呑気による腹部膨満などの合併症が生じることがあります。口渇は不快だけでなく去痰困難に影響するため、加湿を強めたり、飲水、含嗽を促したりします。人工唾液は乾燥や違和感を生じることがあるため慎重に検討します。腹部膨満感の影響として、腹部不快や嘔吐、食欲低下をきたすため、IPAPを下げる設定変更やガスを排出しやすくする薬の相談、便秘をしないように排便のコントロールを行います。 Q5 アラームが患者さんやご家族の不安を高めてしまうことも。在宅でのアラーム設定はどうすればよいですか? A 在宅でのアラーム設定は必要最低限とし、訪問時に治療履歴でアラーム履歴を確認しましょう アラームにはさまざまなものがありますが、在宅では、表5に示したアラームを最低限設定しておくのがよいでしょう。さらに減らすことも可能ですが、アラームの状況を医師に報告して変更していただきましょう。 表5 主なアラームの原因と対処方法 文献6)を参考に作成※NIP ネーザルは、レスメド株式会社の商標登録です。 監修・執筆:竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長慢性疾患看護専門看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長編集:株式会社照林社 【参考文献】1)竹川幸恵.「慢性期NPPVの継続看護」.みんなの呼吸器 Respica 2019:夏季増刊;205-210.2)竹川幸恵.「慢性期導入患者のモニタリングポイント」.呼吸器ケア 2014:冬季増刊;181.3)竹川幸恵ほか.「呼吸器看護専門外来における在宅NPPV患者に対する機器モニタリング活用の有用性」.日呼吸ケアリハ会誌 2015:25(3);482-487.4)Mehta S,Hill NS. Noninvasive ventilation.AM J Respir Crit Care Med 2001; 163:540-577.5)藤原美紀.「急性期NPPVのケア(ストレス緩和)」.みんなの呼吸器Respica 2023:20(6);40-47.6)小山昌利.「在宅用機器のアラーム対応と設定」.みんなの呼吸器Respica 2019:夏季増刊号;193-198.