咳喘息の症状チェックリスト 百日咳・気管支炎との鑑別や治療・対策
咳が長引く症状に悩まされることはありませんか? もし、息苦しさや喘鳴がないのに咳だけがしつこく続く場合、咳喘息の可能性があり、早期の診断と適切な治療が重要です。 この記事では、咳喘息の特徴や症状、その他の疾患との鑑別方法、治療について解説します。自身の健康管理や訪問看護先の利用者さんのアセスメントなどに活かすために、咳喘息について確認しておきましょう。 咳喘息とは 咳喘息は、気道が過敏になり、長期間にわたって咳だけが続く状態を指します。喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難を伴わず、呼吸機能はほぼ正常なことが特徴です。咳喘息は「喘息の前段階」ともいわれ、適切な治療が行われないと約30%の患者が典型的な喘息に移行するリスクがあります。 季節の変わり目や梅雨時、台風シーズンに発症しやすく、冷気や空気の乾燥、ハウスダスト、花粉などが引き金となります。特に秋から冬にかけての寒冷な時期に悪化することが多いため、この時期に咳が長引く場合は咳喘息の可能性も。 咳喘息の症状・チェック リスト 下記の症状に当てはまる場合、咳喘息の可能性があります。 咳の持続期間が8週間以上である喘鳴や呼吸困難の症状がない夜間や早朝に咳が悪化する季節の変わり目や特定の季節に咳が出やすい気道過敏性の増強を感じる咳が長引くが、ほかの症状はみられない気管支拡張薬で咳が軽減する冷気にあたったとき、乾燥しているとき、運動しているときなどに咳が出やすい喀痰がほとんど出ない「コンコン」「ケンケン」等の乾いた咳(乾性咳嗽)である 喘息とその他疾患との鑑別 咳喘息は他の呼吸器疾患と症状が似ているため、鑑別が重要です。各疾患の特徴と鑑別のポイントは下記のとおりです。 疾患名主な特徴鑑別のポイント百日咳上気道感染症状出現後、吸気性笛声(ヒューという笛のような音)を伴う特有の短く乾いた連続性・痙攣性の咳発作(痙咳発作)がみられるのが特徴 鑑別には検査診断が必要。 病原体検査(菌培養、血清学的検査、遺伝子検査)にて確定診断胃食道逆流症(GERD) 胃酸が逆流することで気道やのどを刺激し、咳を引き起こす 胸やけ、呑酸など食道症状を伴う。会話・食事中・体動などのタイミング、また夕方~夜にかけて、横になると咳が悪化しやすく、夜間の咳は少ない。 プロトンポンプ阻害薬(PPI)や消化管機能改善薬で症状が改善副鼻腔気管支症候群副鼻腔炎と気管支炎が同時に発症し、痰を伴う湿った咳が特徴気管支拡張所見や膿性痰の有無が鑑別のポイント。マクロライド系抗菌薬や去痰薬による治療が有効慢性気管支炎喫煙が主な原因で、痰が絡む咳が特徴長期の喫煙歴、労作時の呼吸困難感があり。呼吸機能検査にて閉塞性障害の有無を確認し鑑別 アトピー性咳嗽季節性の症状で、のどの掻痒感やイガイガ感がある。喘鳴や呼吸困難感の伴わない乾いた咳が続く 気管支拡張薬が効かないことが鑑別のポイント。 アトピー素因あり(アレルギー疾患の既往、末梢血好酸球増加、特異的IgE抗体陽性など)。 ヒスタミンH1受容体拮抗薬やステロイド薬が有効 咳喘息の治療 咳が2~3週間以上続く場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。8週間以上咳が続いている場合は、咳喘息の可能性が高く、専門医の診断が必要です。 治療は主に吸入ステロイド薬(ICS)と気管支拡張薬が用いられます。吸入ステロイド薬は気道の炎症を抑え、咳症状を軽減することで、咳喘息の進行や喘息への移行を予防しますが、難治性の場合、長期的な治療の継続が必要になります。吸入ステロイド薬を中心とした治療により症状が改善すれば薬剤の減量が可能ですが、治療を中止すると再燃するリスクが高くなるため、慎重な対応が求められます。 妊娠中の咳喘息 妊娠中は悪阻(つわり)の影響で胃酸の逆流が生じ、それが咳喘息を悪化させることがあります。この場合、胃薬が有効な場合もありますが、妊娠中は薬の使用に制限があるため、医師と相談の上、最適な治療法を選択することが重要です。 訪問看護中の対策 咳喘息の方が訪問看護を行う際は、訪問先のタバコの煙やハウスダスト、ペットの毛などが気道を刺激して症状を悪化させる可能性があります。 訪問時にはまず、部屋の換気を徹底することが大切です。特にタバコを吸う家庭や、ホコリが溜まりやすい環境では、新鮮な空気を取り入れることで症状緩和につながる可能性があります。換気は感染症予防にも効果的なため、訪問先の利用者さんからも理解を得やすいでしょう。 また、マスクを着用することで、ハウスダストやタバコの煙の吸引を防ぎ、気道の保護につながります。特に冬場や花粉の多い季節には、マスク着用を心がけましょう。 *** 咳喘息は長引く咳が特徴で、特に夜間や早朝に悪化しやすい疾患です。自然に治ることはなく、放置すると、典型的な喘息に移行するリスクがあるため、早期の診断と適切な治療が不可欠。主に吸入ステロイド薬(ICS)と気管支拡張薬を用いた長期間の継続的な治療を行うことになります。訪問先の環境によっては症状が悪化する可能性もあるため、必要な対策を取りましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:村田 朗医療法人財団日睡会 理事長御茶ノ水呼吸ケアクリニック 院長日本医科大学内科学講座(呼吸器・感染・腫瘍部門)非常勤講師。日本医科大学、 同大学院卒業。資格・学会:医学博士、日本内科学会認定内科医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本睡眠学会会員、肺音(呼吸音)研究会世話人、東京呼吸ケア研究会幹事、American Thoracic Society 会員、European Respiratory Society 会員、International Lung Sounds Association 会員、NPO法人日本呼吸器障害者情報センター顧問、東京都三宅村呼吸器専門診療委託医、日本医師会認定産業医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)、千代田区公害健康被害診療報酬審査委員。 【参考】〇新実 彰男.「第 113 回日本内科学会講演会 結実する内科学の挑戦~今,そしてこれから~」『慢性咳嗽の病態,鑑別診断と治療』日本内科学会雑誌.105巻9号.(2018年4月15日)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/9/105_1565/_pdf2024/10/21閲覧〇斎藤 純平.「咳喘息」.日内会誌 109:2116~2123,2020https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2116/_pdf2024/10/21閲覧