
ストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】
NsPace(ナースペース)では、2024年11月8日にオンラインセミナー「事例で解説!ストーマトラブル対処法」を開催しました。講師にお迎えしたのは、ながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師の原慎吾さんです。アセスメント方法や装具、アクセサリーの選び方など、トラブル解消のノウハウを教えていただきました。セミナーレポート前編では、アセスメントに必要な知識をまとめます。 ※75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、起業。病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開するほか、ストーマアクセサリーの開発も手がける。2021年には訪問看護ステーションも開業。 ストーマトラブルのアセスメントの重要性 ストーマ装具装着により皮膚トラブルが起きたとき、まずはしっかりアセスメント行い、原因を明らかにすることが重要です。そうしないと、トラブルが再発してしまいます。ストーマ装具装着に関連する皮膚トラブルの主な原因は、以下の4つです。 <皮膚トラブルが起こる4つの原因>原因1:皮膚保護剤によるアレルギー(医学的要因)原因2:細菌や真菌による感染(生理的要因)原因3:排泄物付着によるもの(科学的刺激)原因4:装具の脱着による刺激(物理的刺激) 「原因4」については、面板を無理に剥がすようなケースで起こり得るため、粘着剥離剤を使用したり、面板を丁寧に剥がしたりすることでリスクを軽減できます。ほかの3つについては、それぞれの特徴や対処方法を詳しく見ていきましょう。 原因1:皮膚保護剤によるアレルギー(医学的要因) アレルギーが起きた場合は、今使っているものと似た形状の「他社製の装具」に変更します。同じメーカーだと面板の素材が共通する場合が多いためです。 その上で、アレルギー反応が起きている部分には、ステロイド(ミディアム以下のクラス)を使います。ポイントは、油脂性軟膏ではなくローションタイプの外用剤を選択すること。油脂性軟膏を塗ると、面板が粘着しなくなってしまいます。 2週間ほどステロイドを使っても改善が見られなければ、真菌感染を疑って皮膚科を受診してください。なお、ステロイドより先に抗真菌薬を使ってはいけないことに注意しましょう。抗真菌薬を使うと「肌表面の真菌」がいなくなり、顕微鏡検査や培養で真菌の有無を鑑別することが困難になります。 原因2:細菌や真菌による感染(生理的要因) 皮膚保護剤によるアレルギーが「ストーマ粘膜から全周的に赤くなる(面板を貼っている箇所以外はきれい)」のに対し、細菌や真菌による感染の場合、面板の外を含めて赤い斑点が連続せずに広がります。 この場合は、抗真菌薬(できれば軟膏ではなくローションタイプ)を使います。装具を変更する必要はありません。 なお、医師から「現状の装具の交換頻度よりも高い頻度で抗真菌薬を塗って」と指示されるケースもあります。その場合、皮膚トラブルが解消されるまでは、装具の交換頻度を上げなければならず、粘着力が強い長期交換用の装具を使用すると剥離刺激によって皮膚に大きな負担がかかります。薬剤を塗る期間中は、長期交換用の装具の使用は避けてください。 原因3:排泄物付着によるもの(科学的刺激) 排泄物の刺激で皮膚トラブルが起きた場合は、同じ装具を使用していても改善されないので、他社の装具への変更やアクセサリーの追加によって対処します。 患部の特徴としては、ストーマ粘膜から連続して発赤、びらんが見られます。何らかの原因で、ここに排泄物が触れていると考えられるでしょう。 排泄物の漏れやもぐりこみの原因をアセスメントしつつ、皮膚の改善を図ると、10日間ほどで上の写真のような状態になるはずです。その後、装具の変更を検討してください。発赤やびらんがあり、浸出液が出る状態では、装具をうまく装着できません。 なお、皮膚の改善にあたっては、安易に薬剤を使ってはいけません。肛門周囲によく使われるアズノール軟膏、亜鉛華軟膏などを使うと、皮膚を保護する面板をうまく貼れなくなります。 漏れ・もぐりこみの原因を探る 科学的刺激への対処では、漏れやもぐりこみの原因を探る必要があるとご紹介しました。具体的には、以下のような原因が考えられます。 装具と腹壁の不適合 装具が腹壁の状態に合っていないケースです。ストーマ造設時から長年にわたって同じ装具を使っている方は多くいらっしゃいますが、体型や皮膚の状態は加齢に伴って変化するため、装具の見直しが必要です。 装着時の不適切な手技 軟膏を塗る、洗浄後の濡れた皮膚に面板を貼る、面板を貼ってすぐに体を動かすなどの不適切な手技もトラブルの原因です。 面板には「初期の密着力が弱い」という特徴があります。装着してからしばらくすると体温や汗によって皮膚保護剤が溶けて皮膚のしわに入り込み、12~24時間かけて完全に密着します。そのため、貼った直後に動くと隙間ができて剥がれてしまう可能性があります。貼ってから5〜10分は体を動かさず、面板を温めるように上から手を置くのがベストです。 装具の限界を超えた装着 「もったいない」という考えから、装具を適切なタイミングで交換しないケースもよく見られます。中には「漏れるまで貼っている」という方も。利用者さんの状況を確認し、適切な使用期間で装具交換ができるように導いてください。 なお「漏れのリスク」は、剥がした面板の裏面をチェックするとわかります。 漏れない装具は、裏面のふやけた部分が「きれいな正円」を描いていますが、漏れやすい装具では円がいびつな形になる傾向があります。便の潜り込み具合や膨潤・溶解の程度などは漏れの原因を探る手がかりになるため、面板の裏側を確認する習慣をつけることをおすすめします。 次回は装具やアクセサリーの選び方、ストーマ傍ヘルニアへの対応やストーマトラブルの症例について解説します。 >>後編はこちら(※近日公開)ストーマトラブル対処法 装具選択とケーススタディ【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア