インタビュー

訪問看護師がつなぐDCTの未来/分散型臨床試験(治験)

今回は訪問看護師の新しい仕事の領域としてDCTの可能性について考えてみましょう。

黑川友哉
千葉大学医学部附属病院 臨床試験部 助教
千葉大学医学部附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科
(独)医薬品医療機器総合機構 専門委員

訪問看護師がつなぐDCTという未来

今回は、訪問看護における在宅治験業務の可能性を、①DCTの精度向上への期待 ②治験業務との親和性 ③患者メリットの実現 ④治験促進の貢献 ── の、四つの観点から考えます。さらに、治験をめぐる誤解を取り上げた後、「新しい医療づくり」に言及します。

①DCTの精度向上への期待

新しい「くすり」の承認を得るための治験には、何よりも精度(信頼性)が求められます。DCT(Decentralized Clinical Trial)は、非病院依存型治験であるため、精度をいかに確保するかが重要な課題といえます。

たとえば、来院せずに自宅などでバイタル(体温、血圧、脈拍、血中酸素飽和度など)を測定することが必要になってきますが、被験者自身が機器を使うよりも、医療の専門職である訪問看護師が機器を使うことで、格段に精度が上がります。私たちのような、大学で治験をマネジメントする立場(ARO;Academic Research Organization)からみれば、どれだけ心強いことでしょう。

②治験業務との親和性

訪問看護は医師の指示に基づき、指示書どおりに提供されることが重要と聞きました。実は、治験もプロトコールどおりに行うことがきわめて重要であり、訪問看護業務との親和性が非常に高いと感じています。

治験業務のすべてに、標準業務手順書(SOP;Standard Operating Procedures)があり、SOPを遵守することが治験の鉄則です。そうして集められたデータだからこそ信頼でき、「くすり」の承認へとつながっていきます。

③患者メリットの実現

従来型の治験は、来院が必須でした。逆にいえば、来院できない方は被験者の対象とはなりませんでした。訪問看護の患者さんでいえば、認知症の症状が重い方やALSなどの神経難病の方は、治験の対象となるハードルは非常に高いものでした。

治験は、アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs:いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)の延長線上に位置します。認知症やALSには同様のニーズがあります。

訪問看護の患者さんたちが治験に参加できれば、「命を救う」という、患者さんにとって最大のメリットを実現することになるかもしれません。

④治験促進への貢献

DCTは、自宅などに居ながら治験に参加できる画期的な方法です。しかし、被験者に名乗りを上げるには、やはり身近な医療専門職のサポートが必要です。訪問看護師さんは、まさにその最有力候補です。

また、従来型の治験は、来院が前提であったため、来院可能なエリアに住む人しか被験者となり得ませんでした。DCTでは遠く離れた医療機関どうしが連携することで、試験に参加できる被験者の居住エリアを全国レベルまで拡大することもできます。訪問看護は、全国津々浦々でサービスを提供しているわけであり、その意味でも、訪問看護師さんがDCTの普及、および治験促進の鍵になるのではないかと強く思っています。

治験をめぐる誤解

日本において、「治験」および「臨床試験」という言葉には、負のイメージがあります。極端ないいかたをすれば、「治験は危険な実験」とのイメージを抱く人もいるようです。

しかし、それは大きな誤解です。DCTでは被験者の安全性が確保されるよう、近隣の医療機関との連携体制を構築したうえで行われます。

また、治験は第Ⅰ相~第Ⅲ相試験の三つのステップがあり、まずは人の体で耐えられるのか、安全なのかという比較的小規模な検討から始まり、徐々に有効性の証明のための大規模な試験へと進んでいきます。臨床試験で何よりも重要なのは、被験者の安全と権利の確保なのです。

DCTでは、医療機関への受診頻度が減る可能性があるといっても、この、安全と権利を守るための体制確保が揺らぐことがないように準備が行われます。

「新しい医療づくり」

訪問看護師が治験に参加するメリットは、「新しい医療づくり」に貢献できることだと考えます。AROに所属する私たちも、まさに、そのことに意義と使命を感じ、治験普及のための支援を行ってきました。

DCTが普及すれば、「病院が遠いから」「歩くのが困難だから」と諦めていた患者さんも、治験に参加するチャンスが生まれます。訪問看護師のサポートがあれば、患者さんは大いに安心して治験のメリットを享受することができます。

アンメット・メディカル・ニーズに応えるために、治験を担う仲間になってほしいのです。どうぞご一緒に、新しい医療を切り開いていきましょう。

記事編集:株式会社メディカ出版

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