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2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善
2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善
特集
2024年4月16日
2024年4月16日

2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善

今回から、診療・介護・障害福祉サービスの各報酬にかかる、個別の改定ポイントを取り上げます。前回の「全体像 ポイント解説」でも述べた課題への対応に向け、訪問看護ではどのような改定が行われたのでしょうか。まずは診療報酬での改定から取り上げます。 >>トリプル改定 全体像 ポイント解説についてはこちら 2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)の全体像 ポイント解説 医療・介護・障害福祉の各分野が直面する(1)高齢化に伴うニーズの多様化、(2)賃金水準向上と人手不足、(3)現場業務の効率化を図るためのDXという3つの課題。この課題に総合的に対応したのが、訪問看護管理療養費における「24時間対応体制加算」の見直しです。同加算を再編して評価を手厚くし、さらに「看護業務の負担軽減の取組」を評価した高単位の区分を設けました。 「24時間対応体制加算」は報酬を引き上げ2区分に 本改定では、24時間対応体制への評価は以下のように2区分に見直されました。 イは「24時間対応体制における看護業務の負担軽減の取組を行っている場合」、ロは「それ以外の場合」です。イの業務負担軽減の取り組みは以下の6項目です。そのうち、a・bのいずれかを含む2項目以上を満たしている必要があります。 看護業務の負担軽減の取り組み(届出基準通知)a.夜間対応した翌日の勤務間隔が確保されているb.夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)までc.夜間対応後の暦日の休日が確保されているd.夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫がなされているe.ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減がなされているf.電話等による連絡・相談を担当する者への支援体制が確保されている 連絡・相談対応のための担当者配置に特例 24時間対応では、利用者・家族からの相談対応や連絡の体制確保に向けた担当者の配置が必要です。ここでも、事業所の保健師や看護師(以下、看護師等)の「業務負担の軽減」から、サービス提供体制が確保されていれば、看護師等以外の職員を担当としても差し支えない特例が設けられました。 ただし、以下の6つの条件をすべて満たすことが必要です。 ●看護師等以外の担当者が利用者・家族からの連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されていること●緊急の訪問看護の必要性の判断を、保健師や看護師が速やかに行える連絡体制および緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていること●事業所の管理者は、看護師等以外の担当者の勤務体制および勤務状況を明らかにすること●看護師等以外の担当者は、電話等により連絡・相談を受けた際に保健師や看護師へ報告すること。報告を受けた保健師や看護師は、その報告内容等を訪問看護記録書に記録すること●上記4項目について、利用者・家族に説明し、同意を得ること●事業者は、看護師等以外の担当者に関して地方厚生(支)局長に届け出ること(様式あり) 訪問看護の処遇改善に「訪問看護ベースアップ評価料」 24時間対応体制などを機能させる上で、先のような「特例」もさることながら、やはり保健師・看護師の確保が欠かせません。そのためには処遇改善が何より重要です。 訪問看護の処遇改善において、カギとなるのは毎月決まって支払われる賃金を引き上げること、つまりベースアップです。これについては改定前から「看護職員処遇改善評価料」が設けられていましたが、訪問看護の職員は対象とはなっていませんでした。 そこで、訪問看護職員にも手厚いベースアップが図れるような加算「訪問看護ベースアップ評価料」が設けられたのです。 ベースとなる加算Ⅰに上乗せとなる加算Ⅱ 訪問看護ベースアップ評価料は、2段階で構成されます。基本はⅠで、給与総額の1.2%増が目指されます。ただし、小規模ゆえにⅠだけでは1.2%増が達成できない場合に、Ⅱが上乗せされます。 処遇改善の対象は、訪問看護に従事する職員(リハビリ職や看護補助者含む)で、事務作業専属の職員は含まれません。ただし、看護補助者が訪問看護に従事する職員の補助として事務作業を行うケースは対象となります。また、訪問看護に従事する職員の賃金が2023年度との比較で一定以上引き上げられた場合には、事務作業専属の職員の賃金改善にあてることができます。 職員の賃金改善にかかる計画作成などが要件 Ⅰ・Ⅱに共通する算定要件は以下のとおりです。 算定要件(Ⅰ・Ⅱともに共通の要件を抜粋)1.2024年度・2025年度の職員の賃金改善にかかる計画を作成していること2.2024年度・2025年度に、対象職員の賃金(役員報酬を除く)の改善(定期昇給を除く)を実施すること。ただし、2024年度分を翌年の賃金改善のために繰越す場合は、この限りではない3.2については、基本給または毎月決まって支払われる手当の引上げにより改善を図ることを原則とすること4.1の計画にもとづく賃金の改善状況を、定期的に地方厚生局長に報告すること Ⅱについては、Ⅰにおいて算定される金額の見込み額が、対象者の給与総額の1.2%未満であることが必要です。介護保険での訪問看護も行っている場合は、対象者の給与総額について「医療保険の利用者の割合」を乗じた上で計算しなければなりません。 区分Ⅱはさらに18区分に細分化 具体的な金額は、以下のようになります。 Ⅱは1~18、つまり18区分あります。これは算定回数の見込みから、以下の計算式で導き出した数字により区分されます。 ※「対象職員の給与総額」は、直近12ヵ月での1月あたりの平均数値※加算Ⅱの算定回数の見込みは、訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合)の算定回数を用いて計算する。直近3ヵ月での1月あたりの平均の数値を用いる 上記で導き出した「X」について、適用例は以下のようになります。 ここまでの計算が手間という場合は、厚生労働省が「訪問看護ベースアップ評価料計算支援ツール」を示しているので活用してください。 ▼ベースアップ評価料計算支援ツール(訪問看護) https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12400000%2F001219494.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK 人員不足の時代に向けた管理者「兼務」の緩和 処遇改善が進んでも、労働力人口そのものの減少下では、人員確保のハードルは上がり続けます。特に複数の事業所を設ける法人では、それぞれに管理者を配置することが難しくなることもあります。 そこで、訪問看護の管理者要件が一部緩和されました。管理者は「専従・常勤」であることが原則ですが、訪問看護ステーションの管理業務に支障がない場合に、同じ敷地や隣接の敷地内に限らず、ほかの事業所・施設の管理者や従事者を兼務できるようになりました。 なお、改定後の緩和条件として「管理業務に支障がない状態」が明確化されています。それは、ほかの事業所・施設で兼務する時間帯でも、 管理者を務める事業所において利用者へのサービス提供の場面等で生じる事象を適時適切に把握できること職員・業務への「一元的な管理および指揮命令」に支障が生じないこと です。 次回は、医療DXに関する見直しなどを取り上げます。 ※本記事は、2024年4月3日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001224801.pdf2024/4/3閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf 2024/4/3閲覧

2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)ポイント解説
2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)ポイント解説
特集
2024年4月9日
2024年4月9日

2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)の全体像 ポイント解説

2024年度のトリプル改定に向け、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬の3分野の具体的項目が出揃いました。今回から、訪問看護が特に押さえておきたい3分野の改定内容を解説します。改定項目も多い中、まずは全体像を把握し、頭の中を整理しましょう。 医療・介護・障害福祉の各分野は、さまざまな課題に直面しています。その課題は大きくは3つに分けられます。 課題1 高齢化に伴うニーズの多様化 1つめは、高齢化に伴う中長期的な課題です。いわゆる団塊世代が全員75歳以上を迎える2025年が間近に迫り、医療・介護の複合ニーズも急速に高まります。この傾向は、2025年以降さらに顕著になるでしょう。障害福祉の分野も、障害当事者の高齢化でやはり医療・介護の複合ニーズが高まります。 そうした中では、医療・介護・障害福祉の切れ目のない連携とともに、例えば訪問看護では、容態急変時等の緊急対応や在宅での看取りなど、多様な場面での備えを強化しなければなりません。 課題2 賃金水準向上と人手不足 2つめは、「課題1」に対応するためにも解決しなければならない直近の課題。具体的には、近年の急速な物価高騰を受け、全産業での賃金水準も上がっていることです。 こうした状況下では、医療・介護・障害福祉分野も手をこまねいてはいられません。物価高騰によって事業運営が厳しくなれば、そこで働く看護師をはじめとした従事者の賃金も上がりにくくなります。そうなれば、他産業との競合で従事者不足が加速する恐れもあります。 これを解決するには、3分野における現場の支え手の処遇改善とともに、働きやすい職場環境の構築が必要です。 課題3 現場業務の効率化を図るためのDX 3つめの課題は、事業運営や職場環境の改善を視野に入れた場合に不可欠な業務の効率化です。この場合の業務効率化とは、現場従事者の業務負担を減らしつつ、患者・利用者へのサービスの質の維持・向上を実現することを指します。 この業務効率化に向けて求められているのが、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)、いわゆるデジタル改革です。例えば、デジタル化された医療・介護情報の利活用やICTを使った多職種連携などが挙げられます。これらは、「課題1」「課題2」を同時に解決していくカギとなります。 3つの課題はそれぞれに関連しあっている 多様なニーズへの対応強化を図りつつ、事業運営や従事者の処遇改善を進める。そのために「業務効率化」を検討していく。という具合に、3つの課題への対処を同時に進めていくことが、2024年度トリプル改定全般を通じた主要テーマです。 1つの加算内でも「3つの課題」への対応が 訪問看護を例に挙げましょう。訪問看護では、利用者ニーズに応じた24時間対応体制の確保が大きな課題です。これを診療報酬上で評価したものに「24時間対応体制加算」があります。 この加算について今改定で単位数が引き上げられました。これにより、課題1への対処を強化しています。と同時に、24時間対応にかかる看護師の業務負担の軽減への対策を講じた場合に、さらに単位の引き上げを実施。これで、課題2にも対処したことになります。 加えて、その業務負担軽減策では、ICT、AI、IoT等の活用も要件に定められました。これは3つめの課題への対処にあたります。1つの加算の見直しでも、3つの課題への同時対処を目指したことが分かります。 課題対応に向け、報酬はどこまで引き上げられた? 3つの課題解決を同時に進めていくには、当然ながらその原資を確保するために、一定の報酬引き上げが必要です。今改定では、3分野ともにプラスの改定率となりました(薬価を除く)。 まず、診療報酬の改定率は+0.88%。この中には、看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種(勤務医や勤務歯科医師などを除く)について、2024・2025年度に賃金のベースアップを図るための特例的な対応としての+0.61%も含まれます。 介護報酬の改定率は+1.59%と、診療報酬を上回りました。このうち、介護職員の処遇改善分は+0.98%で、これは6月に施行される新処遇改善加算の加算率の引き上げ分です。 さらに、障害福祉サービスの報酬改定率は+1.12%。こちらの改定率アップも診療報酬を上回っています。 プラス改定が患者・利用者にもたらす影響 このように、3分野ともプラス改定となったことで、事業運営には一定の追い風となります。しかも現場従事者の処遇改善に特に力を入れたことで、人員不足への対処も図られています。 一方、プラス改定となることで、国民の社会保険料や患者・利用者の一時負担も増加する懸念があります。その負担増の納得を得るには、設定された報酬がニーズへの対応やその手間に見合っているかを精査し、「適正化」を図る必要があります。 ニーズ対応やその手間を精査した適正化も 例えば、訪問看護では「緊急時のニーズ対応」について、診療報酬で「緊急訪問看護加算」が算定されます。これが頻回となる場合、本当に緊急時の訪問なのかが問われます。そこで、月あたり15日目以降の単位が引き下げとなりました。 また、診療報酬上の訪問看護療養費について、同一建物居住者の割合に応じて単位を引き下げた区分が設けられました。これは、同じ算定対象でかかる手間に応じた適正化を図ったわけです。 こうした大きな改定の括りを頭に入れることで、今改定で国が何を求めているかを理解しやすくなります。その上で、次回から3分野にわたる改定項目を個別に見ていくことにしましょう。 ※本記事は、2024年3月26日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001180683.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「個別改定項目について」https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220377.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001213182.pdf2024/3/26閲覧

【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?
【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?
特集
2024年3月12日
2024年3月12日

【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?

2024年度は診療・介護・障害福祉の報酬・基準のトリプル改定。訪問看護は3分野にまたがることが多いだけに、早期にポイントを押さえ、対処にのぞむ必要があります。本記事では、診療報酬の改定から「訪問看護師の処遇改善」にかかるポイントに触れるとともに、介護報酬や障害福祉サービスの報酬の改定についても取り上げます。 >>2024年度【診療報酬改定】超速報はこちら【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定で訪問看護はどうなる? 看護師等の賃金アップを図る新たな評価料 診療報酬改定に関する速報記事では、将来的な労働力人口の減少をにらんだ、人材確保・働き方改革についての改定項目を取り上げました。一方で、人材確保に向けては看護師および准看護師、保健師、助産師(以下、看護師等)の処遇改善も欠かせません。 もともと看護師等の処遇改善については、毎月決まって支払われる賃金の引き上げ(ベースアップ)を図ることを目的とした「看護職員処遇改善評価料」が設けられています。ただし、これはコロナ禍での看護師等の賃金引上げを目的に誕生したもので、訪問看護ステーションを含め、対象とならない医療機関もあります。 そこで、より多くの医療機関で働く看護師等のベースアップを実現するため、新たな報酬上の評価が設けられました。それが、「ベースアップ評価料」です。訪問看護も含まれます。 「24時間対応」の新評価が介護報酬でも 次に、介護報酬での訪問看護にかかる改定項目で目立つのは、今改定を含め、診療報酬側との整合性を図ったことです。 例えば、診療報酬改定項目では、「24時間対応体制加算」において「看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制」を評価する新区分が誕生しました。この「24時間対応体制加算」に該当する介護報酬側の項目といえば、「緊急時訪問看護加算」です。ここに、やはり「看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制」を評価した新区分(月600点)が設けられました。 また、診療報酬の24時間対応の連絡相談については、一定要件を満たせば、訪問看護ステーションの看護師・保健師以外でも対応可能となりました。同様の項目が介護報酬側でも定められています。 看取り期の加算も診療報酬と整合性を 診療報酬ですでに定められている項目と整合性をとった改定もあります。それが「看取り期」の利用者への訪問看護の評価です。 介護報酬での看取り期の対応といえば、「ターミナルケア加算」があります。利用者の死亡日および死亡前14日以内に2日(末期がんなどの場合1日)ターミナルケアを実施することが要件です。この評価が「死亡月に2000単位⇒2500単位」に引き上げられました。 診療報酬での同様の評価項目には、「訪問看護ターミナルケア療養費」があります。この給付額が25,000円なので、介護報酬側の単位はこの数字と揃えたことになります(介護報酬の算定を1点=10円とした場合、金額は揃うことになります)。 遠隔死亡診断補助加算が、介護報酬にも誕生 看取り期では、訪問した看護師が利用者の死亡に立ち会うケースも想定されます。その際、利用者が離島等に在住の場合、医師の訪問による死亡診断が難しいこともあります。 そうしたケースで、訪問した看護師が情報通信機器を使って主治医による死亡診断を補助した場合、介護報酬上で、先の「ターミナルケア加算」に上乗せされる形で「遠隔死亡診断補助加算(1回150単位)」が算定できることになりました。 同じ加算が、診療報酬でも2022年度に誕生しています(1回1,500円)。ここでも、介護・診療報酬の整合性が図られたことになります。 介護報酬でも専門性の高い療養管理を評価 2022年度に設けられた診療報酬上の評価と同じものが、2024年度の介護報酬改定でも誕生──こうしたケースはほかにもあります。 それが「専門管理加算」です。診療報酬では1月に1回2,500円、介護報酬では1月に250単位となります。 これは、緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門・人工膀胱ケアにかかる研修を受けた看護師、あるいは特定行為研修を修了した看護師が計画的な管理(悪性腫瘍の鎮痛・化学療法を行なっている利用者や真皮を越える褥瘡の状態にある利用者などが対象)を行った具合に算定できるものです。 在宅での重度療養ニーズが高まる中、介護報酬が診療報酬のしくみを追いかけるという傾向を象徴した改定といえます。 退院時共同指導加算、実態に合わせた要件に その他、介護報酬上での改定で注目したいのが、利用者の退院・退所に向けた流れの中での訪問看護への評価です。 まず、利用者の入院時(医療機関のほか介護老人保健施設や介護医療院含む)からの対応を評価したもの。そこで訪問看護師等が主治医等と共同し、利用者に対して在宅での療養上の指導を行った場合に、その後の初回訪問で「退院時共同指導加算」が算定できます。 この退院時の共同指導について、「文書で」という要件上の制約が削除されました。これは、入院中の指導にかかわらず、利用者が訪問看護での実地指導に頼るケースが見られる点を受けた改定です。 「退院当日の訪問」を初回加算で上乗せ評価 この「退院時共同指導料」を算定していない場合、退院・退所後の最初の訪問では、介護報酬上で「初回加算」が算定されます。 この「初回加算」について、利⽤者が退院した「その⽇」の訪問を評価する区分が誕⽣しました。既存区分(改定後はⅡ)はその⽉に1回300単位のままですが、「当⽇訪問」を⾏った場合の新区分(Ⅰ)は350単位に引き上げられます。 ちなみに、2021年度改定では「退院・退所の当⽇にも⼀定の管理が必要な利⽤者について初回加算が算定できる」とされました。ただし、特別な管理が必要でなくても、退院当⽇での本⼈や家族の困りごとは多様であることが分かっています。そうした実態から、積極的に「当⽇訪問」を評価したことになります。 理学療法士等による訪問はさらに減算 もう1つ、訪問看護で気になるのは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士(以下、理学療法士等)による訪問の評価でしょう。 2021年度改定では、訪問看護の機能集中の観点から理学療法士等による訪問の基本報酬がさらに引き下げられ、「通所リハビリだけでは屋内でのADL自立が困難」なケースに限定されました。 今改定では、理学療法士等による訪問が、看護師による訪問の回数を上回っている場合(緊急時訪問看護加算等を算定していない場合は同数でも)などで、さらに8単位の減算が行われます。 障害福祉の改定で訪問看護への影響は? 最後に障害福祉サービスに関する改定ですが、訪問看護が障害福祉サービスの報酬を直接受けるしくみはありません。ただし、障害者に対して医療保険での訪問看護を提供している場合、障害福祉サービスとの連携機会があるという点で注意したい項目があります。 それが、医療・保育・教育機関等連携加算です。同加算は、計画相談支援・障害児相談支援において、利用者の入退院時といったサービスの利用状況が大きく変化する際に、医療機関等との連携のもとで支援を行うことを評価した加算です。 この加算で、障害福祉サービス機関からの求めに応じて情報を提供する連携機関の中に「訪問看護」が明記されました。障害者に対して医療保険での訪問看護を提供している事業者としては、注意しておきたいポイントです。 ※本記事は、2024年2月27日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集: 株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf2024/2/27閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001205321.pdf2024/2/27閲覧

【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定
【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定
特集
2024年2月27日
2024年2月27日

【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定で訪問看護はどうなる?

2024年度は診療・介護・障害福祉の報酬・基準のトリプル改定。訪問看護は3分野にまたがることが多いだけに、早期にポイントを押さえ、対処にのぞむ必要があります。本記事では、診療報酬上の訪問看護に関係する改定の速報を取り上げます。 診療報酬改定率は+0.88%、施行は6月から 2024年度の診療報酬全体の改定率は、医療・看護従事者の処遇改善といった課題への対応の必要性を受け、+0.88%(薬価等は薬価+材料価格で▲1.00%)と、前回2022年度改定の+0.43%を上回りました。この+0.88%のうち、看護職員や病院薬剤師などの処遇改善については2024・2025年度のベースアップのための特例的な対応分として+0.61%が含まれています。 もう1つ、今回の診療報酬改定全般で注意したいのは、改定時期です。医療DXの推進にともない、医療機関や薬局、システムベンダに集中する改定時の業務負荷を軽減するため、これまで4月だった改定時期が6月へと2ヵ月ずれ込むことになりました。 この6月という改定時期については、介護報酬上でも訪問看護をはじめとした医療系サービスに適用されているので注意しましょう。 人材確保・働き方改革の推進が重点課題に 今回の診療報酬改定の重要テーマの1つは、将来的な労働力人口の減少もにらんだ人材確保・働き方改革等の推進です。 訪問看護では、診療報酬上で24時間対応体制の確保が評価されていますが、従事者にとっては大きな負担が生じがちです。そこで、24時間対応体制加算において「24時間対応体制における看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制が整備されていること」を評価する新区分が誕生します。具体的な体制整備として、「夜間対応した翌日の勤務間隔の確保」や「ICT、AI、IoT等の活用による業務負担の軽減」などの対応が求められます。 24時間対応にかかる連絡相談については、一定要件を満たせば、訪問看護ステーションの看護師・保健師以外でも対応可能になりました。 複数のステーション管理者の兼務が可能に 人員確保が困難な状況下では、訪問看護の質を落とさずに管理者の兼務を可能にできるかというテーマも浮上しています。 訪問看護の管理者は、現行では「同時に他の指定訪問看護ステーション等を管理することは認められない」が原則です。例外規定はありますが、管理者の責務の点であいまいさが残ります。 そこで、適切な兼務が可能になるよう、管理者にかかる規定が見直されました。具体的には、上記の「原則不可」の規定を削除した上で、例外規定について以下のように改めています。 (1)同一の指定訪問看護事業者によって設置された他の事業所、施設に従事すること(現行の「同一敷地内」という規定は削除)(2)上記(1)に従事の際も、本体事業所の利用者のサービス提供の場面で生じる事象を適時・適切に把握できること (3)職員および業務に関して、一元的な管理・指揮命令に支障が生じないこと など 訪問看護でも「医療DX情報」の活用を評価 2つめの大きなテーマが医療DXの推進です。この医療DXを進める上で重視されるのが、オンライン資格確認等システムや電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスの活用です。 訪問看護においても、これらの情報を取得・活用することで質の高い看護サービスを提供した場合の報酬上の評価が誕生しました。それが「訪問看護医療DX情報活用加算」です。要件としては、電子資格確認を行なう体制を整えた上で、その情報の取得・活用によって訪問看護を提供する旨を、事業所内やウェブサイト上に掲示することが求められます。 なお、医療DXの一環として、2024年6月より訪問看護レセプトのオンライン請求がスタートします。この改革を踏まえ、訪問看護指示書等では、原則として主たる傷病名において「傷病名コード」を記載することになりました。 利用者にとって分かりやすい看護提供を 前項で「ウェブサイト上の掲示」という規定が登場しましたが、今改定では、訪問看護を提供する際の「重要事項」についても、原則としてウェブサイト上の掲示が求められます。 これは国のデジタル原則にもとづいた施策で、利用者が事業所の情報を適時適切に閲覧できることにより、分かりやすい医療・看護を実現する環境を整備する目的もあります。ちなみに、介護サービス基準でも同様の規定が設けられています。 この「分かりやすい医療・看護の実現」というテーマに沿った改定に、医療機関・訪問看護ステーションにおける明細書の無料発行の義務化があります。ただし、すでに発行が義務化されている領収証で、個別項目ごとの金額等の記載が求められていることから、現在の領収証を「領収証兼明細書」とします(一定の経過措置あり)。 訪問看護の機能強化に向け評価の厳格化も 3つめの大きなテーマが、訪問看護の機能強化です。この場合の機能強化というのは、多様化する利用者や地域ニーズに対し、質の高い効果的なケアが適切に提供できているかを評価することです。 対象となったのは、訪問看護基本療養費に上乗せされる「訪問看護管理療養費」です。訪問看護管理療養費については、安全な提供体制が整備されていることが要件ですが、ここに新たな指標にもとづいた区分けが行われました。 例えば、同一建物居住者の割合や、厚労省が示す特掲診療科の施設基準別表(第7・8)に掲げる利用者への訪問看護の実績が問われます。要件が厳しくなっている点に注意が必要でしょう。 利用者ニーズに応じた評価のあり方へ その他、「評価が厳しくなった」という点では、緊急訪問看護加算でも月あたりの提供日数に応じた報酬の区分けが行われました。 一方で、利用者のニーズに応じて、集中的な資源投入への評価も見られます。例えば、医療ニーズの高い利用者の退院支援という点では、訪問看護管理療養費にかかる退院支援指導加算において、退院支援指導の長時間訪問の算定方法が拡大されました。具体的には、複数回の訪問の合計時間も評価対象となります。 また、訪問看護基本療養費の乳幼児加算において、超重症児(準超重症児を含む)や、やはり特掲診療科の施設基準別表(第7・8)に掲げるケースでの評価が引き上げられています。 訪問看護外だが、注目したい在宅療養の項目 訪問看護に直接かかわる項目ではありませんが、在宅療養に関連するということで、在宅療養指導料の見直しにも注目しましょう。在宅療養を進める上で必要となる患者への指導を評価した報酬で、訪問看護にとってその指導内容は押さえるべきポイントです。 注目したいのは、この在宅療養指導料の対象に、退院直後の慢性心不全の患者が加わったことです。訪問看護としても、慢性心不全の利用者へのサービス提供は特に高度な配慮が必要です。医師の指示書において、今改定を機に慢性心不全の患者に関する詳細な指示が加わる可能性を頭に入れておきましょう。 ※本記事は、2024年2月13日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「令和6年度診療報酬改定の改定率等について」https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001180683.pdf2024/2/13閲覧〇厚生労働省(2024).「個別改定項目(その3)について」https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001206366.pdf2024/2/13閲覧

訪問看護の「医療DX」対応 総点検~2024年度診療報酬改定前に
訪問看護の「医療DX」対応 総点検~2024年度診療報酬改定前に
特集
2023年10月31日
2023年10月31日

訪問看護の「医療DX」対応 総点検~2024年度診療報酬改定・介護報酬改定前に~

今回は、2024年度のトリプル改定(診療報酬改定、介護報酬改定、障害福祉サービス等報酬の同時改定)に向けた準備として、すでに導入が決定・実施されている「医療DX」のしくみについて取り上げます。新たなシステム導入が必要なケースもあるため、早期の準備が求められます。 医療DX(ディーエックス)とは 今回取り上げる改定事項の前提として、改革の大枠となる「医療DX」について簡単に説明しておきましょう。DXとは、「Digital Transformation*(デジタルトランスフォーメーション)」の略称で、デジタル技術によって社会や生活のしくみを変えることです。これを医療に適用する「医療DX」とは、保健、医療、介護などで発生するデータをデジタル化し、クラウド活用によって現場の業務効率化や医療の質の向上に向けた情報の利活用を進めていくというビジョンです。 *「Transformation」の「Trans」は「X」に省略され「X-formation」と表記されることもある。そのため「Digital Transformation」の略称は「DX」と表記される。 対応の義務化や稼働予定のシステムについて この医療DXに向け、2024年度の実施が決まっているのが、以下の2項目です。 (1)訪問看護レセプト(医療保険分)のオンライン請求の義務化(2024年5月から)(2)利用者情報のオンライン資格確認の開始(2024年4月から) また、すでにスタートしているしくみとして、以下があげられます。 (3)介護保険事業所の指定申請等にかかる電子申請・届出システム(2022年11月から順次実施)(4)介護保険におけるケアプランデータ連携システムの稼働(2023年4月から) いずれもオンライン対応のための端末やソフトが必要になるという点で、事業所としてシステム整備が必要です。中でも(1)は義務化が迫っており、事業所の対応は急務。そこで、まずはこの「オンライン請求の義務化」について取り上げます。 義務化される医科レセプトのオンライン請求 「医科レセプトのオンライン請求」は、2023年4月から原則義務化されていますが、訪問看護については義務化が先延ばしとなり、先に述べたように2024年5月(2024年4月診療分)から実施されます。ただし、介護保険分については、すでに2018年4月からオンライン請求が原則義務化(一定の要件を満たす場合には届出によって紙請求は可能)されています。 すでに介護保険分のオンライン請求を行っていれば、システム整備の土台はできていると思われますが、もう一度確認しましょう。 まずオンライン請求のシステム整備に必要なものは以下のとおりです。 【1】レセプト作成用の端末・ソフト【2】オンライン請求用の端末とネットワーク回線【3】電子証明書 導入に向けての作業としては、セキュリティ対策の実施、運用に向けたフロー・ルールの確認などが必要です。なお、【1】~【3】の準備の後は、システムベンダ(レセプトコンピュータシステム、医事会計システムの開発・導入事業者)が対応します。ベンダには、以下の「技術解説書」を示してください。 厚生労働省保険局「訪問看護レセプト(医療保険請求分)のオンライン請求開始に係るシステムベンダ向け技術解説書技術解説書案(最新)」(令和5年10月)https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/file/spec/R04_insurance_claims_v1.7_231026.pdf 事業者側の準備で戸惑いがちなのは、【2】のネットワーク回線でしょう。これについては、介護保険請求の場合と異なるので注意してください。ネットワーク回線への接続には、「IP-VAN接続(閉域の環境を確保して接続する方法)」か「IPsec+IKEサービスの利用」が必要です。いずれも、高いセキュリティが確保できる方法です。基本的には、どのインターネットサービス・プロバイダでも接続可能ですが、念のため以下の接続可能事業者一覧を参照してください。 社会保険診療報酬支払基金「オンライン請求及びオンライン資格確認等システム接続可能回線・事業者一覧表」(2023年5月1日現在) https://www.ssk.or.jp/seikyushiharai/online/online_04.files/claimsys35.pdf オンライン資格確認への対応も同時に 医療レセプトのオンライン請求と同時期(2024年4月)にスタートするのが、「オンライン資格確認」です。これは、利用者の保険資格の情報や薬剤情報等をオンラインで確認できるしくみ。審査支払機関のシステムに接続することで、その場で利用者の保険資格が確認でき、資格過誤によるレセプトの返戻が減り、業務負担の軽減が図れます。 オンライン資格確認は、保険医療機関・薬局等は2023年4月から原則義務化(やむを得ない事情がある場合の経過措置あり)となりました。ただし、訪問看護は対象外で、2024年4月からのスタートも「活用の義務化」ではなく、あくまで「利用可能」になるというものです。 とはいえ、訪問看護でも「オンライン請求」と「オンライン資格確認」をセットで考えておきたい事情があります。 例えば、「オンライン請求」と「オンライン資格確認」は端末の兼用が可能です。また、端末をオンライン資格確認用として、あるいはオンライン請求とオンライン資格確認を同時に開始できるよう準備した場合に、前者で「端末の導入費用」、後者で「ネットワーク回線の敷設費用」などの補助に向けた調整が国で進められています。 オンライン請求の準備で、導入・設置に向けたコスト負担をどうするか悩んでいる場合、オンライン資格確認への対応も同時に進めることで、補助金による費用捻出が可能になるかもしれません。 ▼訪問看護レセプトの電子化に関する最新情報は下記サイトをご参照ください。厚生労働省Webサイト「訪問看護レセプト(医療保険請求分)の電子化」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190624_00002.html(2023/9/15閲覧) 介護関連の届出・申請のオンライン化 次に、すでにスタートしているしくみへの対応です。 まずは、「介護保険事業所の指定申請等にかかる電子申請・届出システム」です。これは、介護サービスの指定や加算にかかる申請届出について、介護サービス情報公表制度の機能拡張により、オンライン上で行うことができるしくみです。 2022年11月から自治体ごとに順次スタートしていて、厚労省による2023年5月12日時点の調査では「2023年度の上半期までの実施意向」を示した都道府県および市町村は126にのぼります1)。現行で事業所に電子申請等が義務づけられてはいませんが、国としては活用を強く推奨しています。 まずは、各種届出先となる自治体がシステムに対応しているかどうかを各自治体HPで確認しましょう。その上で、電子申請・届出の手順としては、介護サービス情報公表制度にログインし、メニュー選択を行った上で申請届出内容を入力します。 システムの画面イメージは以下のとおりです。厚生労働省「別添2_1 本システムの画面イメージ(事業者側)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000908038.pdf その他Q&Aを含む総合資料は、以下のサイトを参照してください。 ▼厚生労働省「介護事業所の指定申請等のウェブ入力・電子申請の導入、文書標準化」https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-shinsei.html(2023/9/15閲覧) ケアプランデータ連携システムはすでに稼動 介護保険の訪問看護を提供する事業所として注目したいのが、2023年4月から運用がスタートしている、「ケアプランデータ連携システム」です。これは、居宅介護支援事業所のケアマネジャーが作成する居宅サービス計画書(以下、ケアプラン)を、居宅サービス事業所(訪問看護事業所や訪問介護事業所、通所介護事業所など)とデジタルデータ(CSVファイル等)によってクラウド上で共有するしくみです。 これにより、ケアプラン1・2票の共有が図りやすくなるだけでなく、ケアプラン6・7票の提供票データをそのまま各事業所の介護ソフトに取り込むことが可能になります。居宅介護支援事業所にとっては、提供票の「実績」の転記が不要となるため、例えば転記ミスによる報酬請求の返戻を防ぐことができます。 同システムの詳細については、以下を参照してください。国民健康保険中央会「ケアプランデータ連携システムについて」(令和4年10月 Ver.2)https://www.kokuho.or.jp/system/care/careplan/lib/221125_5113_setumei.pdf ※本記事は、2023年9月15時点の情報をもとに記載しています。 執筆: 田中 元(介護福祉ジャーナリスト)編集協力: 株式会社照林社 【参考】1)厚生労働省「電子申請・届出システム 利用開始時期意向調査回答状況等について」(2023年5月12日時点)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001099529.pdf (2023/9/15閲覧)

訪問看護の「完全義務化」総点検/2024年度診療報酬改定・介護報酬改定前に
訪問看護の「完全義務化」総点検/2024年度診療報酬改定・介護報酬改定前に
特集
2023年10月17日
2023年10月17日

訪問看護の「完全義務化」総点検~2024年度診療報酬改定・介護報酬改定前に~

2024年度には、医療・介護・障害福祉の3分野で診療報酬改定、介護報酬改定、障害福祉サービス等報酬の改定という「トリプル改定」が行われます。すべての分野がフィールドとなる訪問看護ステーションにとって、今回の改定による現場対応は山積みでしょう。 現時点での準備として心得たいのは、経過措置を経て法令上での完全義務化が迫っている実務や、すでに実施が決まっている・始まっている改革などへの対応です。今回は、前者の「完全義務化」の内容を確認し、準備が万全かどうかをチェックします。 2024年4月からの3つの「完全義務化」 訪問看護に関係する完全義務化は、大きく3つに分けられます。第一に「業務継続計画(BCP)の策定等」、第二に「感染症の発生およびまん延の防止」、第三に「高齢者および障害者の虐待防止」に関するそれぞれの取り組みです。 第一、第二、および第三のうちの介護保険上の規定については、2024年3月末までは努力義務にとどまる経過措置が設けられています(※)。経過措置が終了する2024年4月からは完全義務化となり、未対応の場合は行政処分の対象となる可能性もあります。 ※障害福祉分野の経過措置は2022年3月末で終了したため要注意 業務継続計画(BCP)の策定等の3つの規定 第一の「業務継続計画(BCP)の策定等」について、具体的には以下の取り組みが求められます。 (1)各事業所で感染症や非常災害の発生時を想定したBCPを策定すること(2)(1)を全従事者に周知すること(3)(1)の計画に沿った研修・訓練を実施すること 原則は各事業所で(1)~(3)の対応を行いますが、小規模事業所などの場合、他事業所と連携しながらの実施も差し支えありません。 (1)のBCPには、感染症や自然災害等が発生した場合でもサービスの提供を中断させないため、あるいは、非常時の体制で早期の業務再開を図るための準備に向けた項目を定めます。 例えば、自然災害の発生を想定した体制整備(指示命令系統や職員の参集基準などの明確化)に加え、災害発生時のライフラインが停止した場合の対策(電気・ガスなどでも使える代替品の準備、各種データのバックアップ方法など)の記載が必要です。 その上で、ハザードマップなどをもとに、事業所周辺の危険箇所や避難経路を確認して、災害発生時の職員の安全確保のための行動計画や利用者の安否確認の方法なども定めておきます。 その他の項目については、厚労省の業務継続ガイドライン(新型コロナウイルス感染症編および自然災害編)を参照してください。 ●新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドラインhttps://www.mhlw.go.jp/content/001073001.pdf ●自然災害発生時の業務継続ガイドラインhttps://www.mhlw.go.jp/content/000749543.pdf BCPを策定したら、その周知も含めた研修を定期的に実施します。訪問看護の場合は年1回(入所系の介護施設では年2回)のペースに加え、従事者の新規採用時に別途行うことが推奨されています。実施した研修については、その内容の記録を残すことが求められます。 研修に加え、実際に感染症や自然災害が発生したことを想定した訓練(シミュレーション)も必要です。こちらも実施は年1回以上。訓練内容としては、非常時における役割分担の確認や、感染症および災害発生時のケアの演習等が想定されます。 なお、ここまで述べたBCP策定や研修、訓練の実施は、感染症と自然災害で別々に実施することが理想ですが、厚労省の告示によれば「一体的な実施」を妨げるものではないとしています。 感染症の発生およびまん延防止の3つの規定 第二の「感染症の発生およびまん延の防止」については、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として、介護・障害福祉分野の2021年度の運営基準の改定で、以下の3つが義務化されました。 (1)    感染対策を検討するための委員会の開催(2)    感染症対策のための指針の整備(3)    指針にもとづいた研修・訓練の実施 なお、こちらもBCP策定等と同様、他事業所との連携で行っても構いません。 (1)は、おおむね6ヵ月に1回以上の定期開催に加え、感染症が流行する時期を考慮した随時の開催が求められます。その際に、委員会の構成メンバーの責任および役割分担を明らかにすることが必要です。メンバーの中では、感染症対策を専任で担当する者(感染症対策担当者)を決めておかなければなりません。ちなみに、他の会議体で感染症対策について話し合う機会を設けている場合は、その会議体と一体的に設置・運営しても構いません。 (2)は、平常時の対応と感染症発生時の対応を規定します。平常時の対応は、事業所内の衛生管理やサービス提供時の標準的な予防策などを記したもの。感染症発生時の対応は、発生状況の把握や感染拡大の防止、行政等への報告、医療機関・保健所等との連携にかかる方法を記します。 (3)の研修および訓練(感染症発生を想定したシミュレーション)は、BCPと同じく、それぞれ年1回以上行うことが必要です。厚労省の介護現場における感染対策の手引き(最新版は2021年3月版)を参照しつつ、(1)の委員会で専門家のアドバイスを得ながらプログラムを立案したいものです。 高齢者・障害者への虐待防止に向けた5規定 第三の「高齢者および障害者への虐待防止」は、サービス利用者の尊厳の保持や人格の尊重の観点から、虐待(ネグレクト含む/以下同)の未然防止や早期発見、迅速かつ適切な対応を進める上で必要な対応を示したものです。ここでは、2021年度の介護保険の基準改定で定められた「利用者の虐待防止」に沿って説明します。 虐待防止のために、以下の項目が義務化されます。 (1)委員会の開催(2)指針の整備(3)従事者への研修(4)専任の担当者の配置(5)(1)~(4)の措置事項の運営規程への記載 (1)は、虐待の発生の防止や早期発見に加え、虐待が発生した場合の再発を着実に防ぐことを目的とした委員会です。管理職を含む幅広い職種で構成し、定期の開催が必要です。なお、この委員会についても、他の事業所と連携して行ったり、虐待防止のテーマを含む他の会議体と一体的に行ったりしても構いません。 (2)は、(1)の委員会での話し合いをもとに策定します。同指針には、事業所としての虐待防止にかかる基本的な考え方のほか、虐待が発生した場合の対応方法や相談・報告体制にかかる事項も含まれます。 (3)は、(1)で策定した研修プログラムに沿って実施します。頻度は年1回以上の定期開催のほか、やはり新規採用時の随時の開催も必要です。ここでも、研修内容を記録に残すことが求められます。 (4)は、具体的には、(1)の委員会の責任者と同一の従事者が務めることが望ましいとされています。 なお、すでに「完全義務化」が施行されている障害福祉分野では、(1)と(3)~(5)が介護保険の規定と同様です。(2)についても、もともと障害福祉分野では倫理綱領や行動指針の策定が必須となっているので、そこに含まれると考えていいでしょう。 【コラム】「安全運転管理者によるアルコールチェック義務化」の動向2022年4月より、訪問時に使用する白ナンバーの営業車5台以上、または定員11人以上の車両を1台以上保有している事業所には、安全運転管理者の選任が義務づけられました。また、同管理者が行う業務に、運転者の酒気帯びの有無の確認とともに、その確認内容の記録と保存も義務化されています。 この酒気帯びの有無の確認について、暫定的に目視等での確認でOKとした上で、2022年10月からアルコール検知器を用いることの義務化が予定されていたため、動向が気になっていた方も多いでしょう。 これについては、アルコール検知器の供給状況の問題から、義務化はいったん無期限で延期に。その後、警察庁のアルコール検知器協議会が安定した検知器の生産・供給が可能になったと確認し、改めて「2023年12月」から検知器を用いることが義務化されました。参考:警察庁「道路交通法に基づく自動車の使用者に対する是正措置命令等の基準について(通達)」丁交企発第202号(令和5年8月15日発出)https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kouki/20230815zeseisochi.pdf ※本記事は、2023年9月15日時点の情報をもとに記載しています。 執筆: 田中 元(介護福祉ジャーナリスト)編集協力: 株式会社照林社

自転車の交通ルール
自転車の交通ルール
特集
2023年9月26日
2023年9月26日

訪問看護師が知っておきたい自転車の交通ルールは?道路交通法改正も解説

自転車も自動車やバイクと同じく死亡事故につながるリスクのある乗り物です。訪問看護師は自転車で移動することも多いため、ルールを改めて確認しておきましょう。本記事では、自転車の交通ルールや事故を起こしてしまったらどう行動すべきか、高額賠償事例などについて詳しく解説します。 自転車事故の件数は増加傾向にある 警視庁によると、2022年の自転車事故の件数は69,985件で、前年より291件増加しました。全交通事故に占める自転車事故の割合は、2016年以降増加傾向にあります。自転車は、訪問先へ行くときだけではなく、日常生活でスーパーやコンビニへの移動手段として利用する方も多いでしょう。使用頻度が高くなればなるほど事故のリスクが高まるため、普段から自転車を利用している方は、より一層の注意が必要です。 訪問看護師が交通事故を起こすとどうなる? 自転車事故を起こしてしまったときは、以下のような行動をとりましょう。 負傷者がいる場合は必要な救護を行う(場合によっては相手と相談の上119番に通報する)※交通の妨げになることによる二次的交通事故が起きないよう、道路上の安全を確保しながら対応負傷者がいる場合には警察に連絡する(負傷者がいない場合、警察を呼ぶかどうかは、相手と相談して決定する。なお、相手が何らか補償を求める意思を示す場合や相手と連絡先を交換するような場合は、必ず警察に連絡する)臨場した警察官に対して事故の状況や自身の名前、住所、連絡先等を伝える(相手との連絡先の交換は必ず警察を介して行う)損害保険に加入している場合は、必要に応じて保険会社に連絡する※業務中の場合には労働災害(労災)で処理することもあり得るので、その場合は職場において必要な手続をとる また、訪問看護師の場合、交通事故によって訪問ができなくなり、訪問先の利用者が医療を受けられなくなるトラブルも起こります。場合によっては急を要し、代わりの人員をすぐに向かわせなくてはいけないケースもあるでしょう。初期の事故対応を終えたら、所属先の訪問看護ステーションや利用者にも連絡をしましょう。 知っておきたい自転車事故による高額賠償事例 自転車事故は自動車事故と比べて、死亡や重度障害につながりにくいと思われがちですが、実際には自転車の被害者が死亡したり、重度障害が発生するという事故は起きています。このような場合に自転車側の運転者が任意保険に加入していないと、高額な損害金を全て自己負担しなければならなくなり、経済的に致命的なことにもなりかねません。もしも、訪問看護の業務で自転車を使用する場合には、必ず任意保険に加入するようにしましょう。 実際にあった自転車事故による高額賠償事例を3つ紹介します。 年月/裁判所    事故の内容結果損害賠償額   大阪地裁2007年4月     自転車が信号機のない三叉路の交差点を左折し、対向した70歳男性が運転する自転車と衝突70歳男性が植物状態となり1年4ヵ月後に死亡3,400万円東京地裁2007年4月成人男性が昼間、信号無視かつ高速で交差点に進入し、青信号で横断歩道を横断中の55歳女性と衝突女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡5,438万円神戸地裁2009年3月自転車が、信号のない交差点を徒歩で横断中の54歳女性と衝突女性は顔の骨や歯を折る重傷1,239万円出典:兵庫県「自転車事故による高額賠償事例」 自転車事故を防ぐために知っておきたいルール 自転車事故を防ぐためには、交通ルールを守る必要があります。飲酒は論外としても、数多くの細かなルールが存在します。今回は、つい見落としてしまいがちなルールをピックアップして紹介します。なお、自転車は道路交通法では車両扱いなので、違法行為があれば罰則の適用はあり得ます。現状では自転車の刑事的な取締は事実上ほとんどされていませんが、今後どうなるかはわかりませんし、刑事責任が生じなくても、民事責任を問われる可能性もあるため、道路交通法を守った運転が大切です。 自転車は車道の左側を走る 自転車は、車道の左側を走りましょう。道路交通法では、自転車は軽車両の扱いです。そのため、歩道と車道がある場所では、車道の左側を走る必要があります。歩道を通行できるのは、「自転車通行可」や「普通自転車通行指定部分」などの表示がある場合です。ただし、歩道の中でも車道寄りを徐行し、歩行者の通行を妨げる場合は一時停止しなければなりません(道路交通法17条、17条の2、18条等)。 道路標識と信号を守る 当然のことではありますが、信号機のある交差点では信号が青になってから安全を確認し、横断しましょう。自転車は車ではないという理由で信号を守る意識が薄くなりがちです。また、一時停止の標識がある交差点では必ず一時停止をしてください。一時停止をしなければ事故にあうリスクが高い場所に標識がついているため、信号を守るのと同じぐらい意識しましょう。 夜間はライトを点ける 進行方向の障害物や人を早期に見つけるためだけではなく、相手がこちらを認識しやすくするためにも夜間はライトを点ける必要があります。また、薄暗くなってきた夕方も必ずライトを点けましょう。 イヤホンやスマートフォンは使用しない 自転車の運転中にイヤホンで音楽を聴いたり、スマートフォンを使用したりしてはいけません。たとえ訪問看護関連の連絡があったとしても、必ず自転車を止めてから対応しましょう。イヤホンを使用すると音で周りの状況を把握できず、スマートフォンを使用していると周りが見えなくなります。 ヘルメットを着用する 2022年4月27日に公布された「道路交通法の一部を改正する法律」により、全年齢の自転車利用者に対し、ヘルメットの着用の努力義務が課されました。施行日は2023年4月1日です。 自転車の運転者が死亡する事故は頭部損傷によるものが多く、ヘルメットの着用は運転者が死亡する事故のリスク減少につながると考えられています。実際に、ヘルメットを着用していない場合の死亡率は、着用している場合の約2.1倍です。これは相手を怪我させないためにではなくて、自身の身を守るためのものとして、積極的に検討するべきです。また、事業者が業務で従業員に自転車を使用させる場合には、従業員に対する安全配慮義務の一環としてヘルメットの着用を指示するべきでしょう。 自転車事故を防ぐための対策 自転車事故は不注意だけではなく、整備不良によっても起きる可能性があります。自転車事故を防ぐために、次のように対策しましょう。 毎回点検する 自転車の整備不良が原因の事故を防ぐために、乗る前に以下のポイントを毎回点検しましょう。 ブレーキの前輪と後輪の両方に問題がないかタイヤに空気が十分に入っているかタイヤにすり減りやひび割れがないかハンドルの変形やガタつきがないかサドルの高さは自分に合っているかライトは点灯するか反射材が割れていないかベルは鳴るか 時間に余裕を持って行動する 自転車で移動するときは、時間に余裕を持つことも大切です。慌てると、いつもできていたことができなくなり事故につながります。また、法令遵守の意識も薄れやすいため、信号や一時停止標識の無視も発生しやすくなるでしょう。 自転車事故は、想像以上に死亡や重度障害につながるリスクがあります。訪問看護ステーションが加入している保険について確認しておくのはもちろん、交通ルールを守って運転することが大切です。また、日々の点検や時間に余裕を持った行動など、事故のリスクを抑えるための対策を日々徹底しましょう。 執筆・編集:加藤 良大監修:梅澤 康二弁護士弁護士法人プラム綜合法律事務所アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。【 経歴 】2006年10月:司法試験合格2007年03月:東京大学法学部 卒業2008年09月:最高裁判所司法研修所 修了2008年09月:アンダーソン・毛利・友常法律事務所 入所2014年08月:プラム綜合法律事務所 設立 【参考】〇兵庫県「自転車事故による高額賠償事例」https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk15/documents/kougakubaisyo.pdf2023/6/8閲覧〇警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html2023/6/8閲覧〇警視庁「頭部の保護が重要です~自転車用ヘルメットと頭部保護帽~」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/toubuhogo.html2023/9/4閲覧〇内閣府「自転車の安全利用の促進について」https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/bicycle/bicycle_r04.html2023/6/8閲覧

訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説
訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説
特集
2023年9月19日
2023年9月19日

訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説

訪問看護で適用される保険は、医療保険と介護保険です。医療保険は、病気やけがをしたときにかかる治療費の一部をカバーしてくれる保険で、介護保険は介護の費用負担を軽減してくれる保険です。 訪問看護の場合、利用者さんの年齢や状態などによって適用される保険が変わってきます。改めて医療保険と介護保険との違いや、それぞれの保険が適用される際の条件を確認しましょう。 医療保険と介護保険の適用条件 医療保険と介護保険の適用条件の違いをまとめると、以下のようになります。 それぞれ、もう少し詳しく見ていきましょう。 医療保険の場合 医療保険では、以下の年齢や条件で区分を設けています。 40歳未満(0~39歳)の方40歳以上~65歳未満で16特定疾病(※1)以外の方40歳以上~65歳未満で介護保険第2号被保険者(※2)ではない方65歳以上で要支援・要介護の認定を受けていない方 ※1 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」※2 介護保険第2号被保険者…40歳以上65歳未満の健保組合、全国健康保険協会、市町村国保などの医療保険加入者 医師によって訪問看護の必要があると判断された40歳未満の方や、16特定疾病以外の40歳以上65歳未満の方、要支援・要介護の認定を受けていない65歳以上の方が、基本的に医療保険の適用となります。ただし、要支援・要介護の認定を受けていても、「厚生労働大臣が定める疾患等」(19の疾病と1つの状態)に該当する場合は、医療保険の適用です。また、特別訪問看護指示書が出た場合も医療保険を利用できます。 介護保険の場合 介護保険の年齢区分も、医療保険と同様に40歳以上65歳未満、65歳以上となっていますが、介護保険の適用条件は次のとおりです。 40歳以上~65歳未満の第2号被保険者で16特定疾病の方65歳以上の第1号被保険者で要支援・要介護認定を受けている方(第1号被保険者) 原則として、医療保険と介護保険を併用することはできません。厚生労働大臣が定める「厚生労働大臣が定める疾患等」に当てはまる場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は医療保険になります。 訪問看護で医療保険が優先されるケースは? 先述したように、厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態に当てはまった場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は医療保険が優先されます。仮に要支援や要介護の認定を受けている場合でも、医療保険が優先になるため注意しましょう。 「厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態」 末期の悪性腫瘍多発性硬化症重症筋無力症スモン筋萎縮性側索硬化症脊髄小脳変性症ハンチントン病進行性筋ジストロフィー症パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ三以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る。))多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症及びシャイ・ドレーガー症候群)プリオン病亜急性硬化性全脳炎ライソゾーム病副腎白質ジストロフィー脊髄性筋萎縮症球脊髄性筋萎縮症慢性炎症性脱髄性多発神経炎後天性免疫不全症候群頸髄損傷人工呼吸器を使用している状態 医療保険と介護保険の利用条件と保険料 利用条件の違い 医療保険と介護保険では、以下のとおり利用条件の違いがあります。 ■医療保険と介護保険の利用条件の違い  医療保険介護保険支給限度額上限なし上限あり利用回数週3回まで制限なし利用時間1回30~90分20分未満、30分未満、30分以上60分未満、60分以上90分未満の中から選べる 大きな違いは、「月の支給限度額」の有無でしょう。医療保険には限度額が設定されていませんが、利用し放題にならないよう、次の条件で利用する決まりになっています。 医師に必要性を認められれば、1日1回30~90分、週3回まで利用可能厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態に該当した場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は、1日2~3回、かつ週4日以上利用可能 介護保険で訪問看護を利用する場合は、利用回数に制限はありません。ただし、支給限度額に上限があるため、限度額の範囲内で収まるように訪問看護を利用する必要があるのです。訪問看護以外にも介護保険を使ったサービスを利用するケースが多いため、結果的に訪問看護の利用は週1~2回に抑えられることが多いでしょう。 保険料の算出方法の違い また、保険料の算出方法も異なります。 医療保険の場合、以下の合計により報酬単位を算出します。1単位当たりの料金は、全国一律で10円です。 訪問看護基本療養費(週当たりの訪問日数に応じて変動)訪問看護管理療養費(月の初日と2日目以降で金額が異なる)各種加算(緊急訪問看護加算、難病等複数回訪問看護加算、長時間訪問加算 など) 介護保険の場合、介護度や訪問時間、各種加算(退院時共同指導加算、夜間・早朝加算、サービス提供体制強化加算など)により報酬単位数を算出します。1単位当たりの料金は、地域区分によって変動します。 訪問に入るまでの流れの違い 医療保険の場合、主治医や近くの訪問看護ステーションに相談し、必要性が認められれば訪問看護の利用が可能です。しかし、介護保険の場合はまず要介護の認定を受ける必要があるため、要介護認定の申請をしなければなりません。すでに要介護の認定を受けている場合は、担当のケアマネジャーに相談します。 その後は、医療保険・介護保険のどちらも主治医から訪問看護指示書により指示を受けます。医療保険の場合は、訪問看護ステーションやかかりつけ医などに相談するケースが多く、介護保険の場合は担当のケアマネジャーがコーディネートするケースが多いです。 * * * 訪問看護の利用において、医療保険と介護保険のどちらが適用されるかは、利用者さんの状況によって異なります。改めてそれぞれの基本的な適用条件を確認しましょう。 また、利用者さんの病状や状況、年齢は変化するため、変化に応じて保険の見直しが必要になります。質問されることもあるので、きちんと理解しておくことが大切です。 執筆:柿野 俊弥監修:川島 峻監修者プロフィール:医師、医学博士。横浜市立大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業。虎の門病院、東大病院心臓呼吸器外科などで勤務ののち、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital留学。帰国後、新宿アイランド内科クリニック院長として幅広い世代に対して内科疾患、予防医療を中心に診療している。呼吸器専門医、胸部外科専門医会員、呼吸器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医。編集:株式会社パンタグラフ 【参考】○厚生労働省「訪問看護のしくみ」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000123638.pdf(2023/6/20閲覧)〇公益財団法人 日本訪問看護財団「厚生労働大臣が定める疾病等について」https://www.jvnf.or.jp/shippei100420.pdf(2023/6/20閲覧)

訪問看護計画書の書き方
訪問看護計画書の書き方
特集
2023年8月22日
2023年8月22日

訪問看護計画書の書き方は? 記入例や注意点も紹介

新卒訪問看護師の方や、病棟から訪問看護へ転職した方は、訪問看護計画書の書き方で悩むケースが多いでしょう。本記事では、これから訪問看護に従事する方に向けて、訪問看護計画書の書き方について解説します。記入例や注意点も解説しているので、ぜひ参考にしてください。 訪問看護計画書とは 訪問看護計画書とは、訪問看護サービスを提供するにあたり、療養上の目標や具体的なサービス内容を利用者ごとに記載する書類です。訪問看護指示書の交付による主治医の指示を受けた上での作成が必要になります。訪問看護計画書の作成は「利用者の健康状態の評価」「ケアプランの立案と目標設定」「コミュニケ-ションと連携の促進」の3つが主な目的で、利用者に質の高い訪問看護サービスを提供するために作成します。 作成後は、利用者やご家族・支援者に内容の説明を行い、同意を得なければなりません。また、すでにケアマネジャーや利用者などが居宅サービス計画書を作成している場合、その計画内容に沿った作成が必要です。ちなみに居宅サービス計画書は、基本的にケアマネジャーが作成しますが、まれに利用者やご家族が作成することもあります。しかし、手続きや事業所との連携および調整まで行う必要があるため、一般的には利用者やご家族にとっては難易度が高いです。 訪問看護計画書の書き方 訪問看護計画書を書く際のポイントは、以下のとおりです。 主語は看護師側ではなく利用者側にする目標は利用者主体で記載する挙がった問題には優先順位をつける(いのちや生活に影響するものは優先順位が高い)優先順位を付けるために「#(ナンバー)」の記号で#1、#2とナンバリングするコピー&ペースト(同じ文章の使いまわし)はなるべくしないようにする義務として医師への定期的な提出が必要であり、ケアマネジャー・連携している訪問看護ステーションや医療機関にも提出する場合があるため、分かりやすく丁寧に記載する これらの基本的なポイントを押さえた上で、各項目の記入例と詳細内容を見ていきましょう。 訪問看護計画書 記入例 訪問看護計画書は、標準とする様式に準ずる必要があり、厚生労働省によって以下の7つの項目を記載するよう定められています。順にみていきましょう。 (1)利用者の基本情報 利用者の氏名や生年月日、要介護認定の状況、住所を記載します。電子カルテを使用している訪問看護ステーションでは登録したIDを入れることで自動的に入力されます。 (2)看護・リハビリテーションの目標 訪問看護計画書では、主治医の指示、利用者の希望、利用者の状態を考慮し、看護・リハビリテーションの目標を設定します。ケアプラン(居宅サービス計画書)や訪問看護指示書の内容を参考にしながら、利用者がどのような生活を送りたいのかを理解し、目標を具体的に立てることが大切です。 (3)年月日/問題点・解決策/評価 訪問看護計画書では、計画を作成した日付や修正した日付を記載します。毎月、計画書の見直しをしている場合は、見直しで修正を行った日付を記載してください。問題点・解決策の項目では、目標とリンクした内容を記載します。具体的な問題点やそれに対する解決策、必要な看護や支援、ケアの内容を具体的に記載します。また、評価の項目では、実際に提供したサービスの評価や問題の改善状況、引き続き計画を実施するかどうかの判断を記載する必要があります。 (4)衛生材料等が必要な処置の有無 脱脂綿やガーゼ、絆創膏など、衛生材料が必要な処置の有無では、はじめに「有」または「無」のどちらか該当する方に丸をつけます。必要な処置がある場合は、処置の内容、衛生材料の種類、サイズ、必要量などを具体的に記載しましょう。「無」の場合は記載する必要はありません。 訪問看護で使用する衛生材料の具体例としては、次のものがあります。 使い捨て手袋:感染予防や処置時の衛生を保つために使用注射器・注射針:採血や薬の注射などに使用カテーテル:膀胱留置カテーテルや胃ろうカテーテルなど、体液の排出や栄養剤の投与に使用絆創膏:創傷部位の保護に使用テープ:包帯の固定に使用ガーゼや脱脂綿:傷口や皮膚の保護に使用消毒薬:処置前の手指消毒や器具の消毒に使用生理食塩水:創傷や口腔内の洗浄に使用尿バッグ(ウロバッグ)やドレーンバッグ:体液の管理に使用 使用する衛生材料はすべて記載しましょう。 (5)備考 備考には、各項目に書ききれない留意事項や特記事項を記載します。利用者やご家族からの情報や注意事項、連絡事項などを必要に応じて追記し、訪問看護師同士や関係者間で情報共有を円滑に行えるようにします。 また、すでに老人保健法及び健康保険法等の指定訪問看護を実施している場合、備考欄に要介護認定の状況を記載しましょう。 (6)作成者名 計画書を作成した人の氏名を記載します。訪問看護計画書は、訪問看護に携わる医療従事者が同じ目標に向かってケアプランを共有し、作成しています。そのため、訪問看護師以外にも、リハビリ職や保健師なども記載した場合は、全員の氏名を明記し、計画の責任者を明確にすることが必要です。 (7)年月日/事業所名/管理者氏名 最後に、計画書を作成した日付、事業所名、管理者の氏名を記載します。こちらも責任の所在を明確にするために必ず記載しましょう。加えて、管理者の捺印が必要になるので、主治医に提出する前には押してもらっておきます。 訪問看護計画書を作成する際のQ&A 訪問看護計画書を作成する際に疑問点として挙げられやすい内容についても、Q&A形式で解説します。 誤った内容を記載してしまったらどうなる? 前提として、訪問看護計画書は必要に応じて情報開示を求められることもあるため、偽りのない内容を記載するべきです。しかし、誤って記載してしまうこともあるでしょう。その際は、気付いた時点ですぐに該当箇所を修正する必要があります。修正前の内容、修正した箇所、修正した日時が分かるようにして、改ざんの疑いや誤解を防ぐことが大切です。もし、看護記録の改ざんを行った場合、刑法により「証拠隠滅」「文章偽造」の罪に問われ、処罰の対象となる可能性があります。 どれくらい保管しないといけないの? 訪問看護計画書は、訪問看護終了日から2年間の保存が必要だと法的に定められています。保管期間中は、いつでも復元できる状態にしておく必要があります。保管の方法として、訪問看護計画書は、電子媒体と紙媒体のどちらでも問題ありません。紙媒体で作成した訪問看護計画書を、電子媒体に保存しておくことも可能です。 どれくらい具体的に書くべき? 具体性の程度に関しては、明確に定められていません。しかし、どのような目標に対して、どのようなサービスを行ってきたかを第三者が見ても分かるよう、曖昧な表現を避け、具体的な情報を記載することが大切です。 例えば、衛生材料等が必要な処置の有無の項目では、処置の内容や衛生材料について具体的に記入し、次の1ヵ月に必要な量を明記しましょう。ただ、訪問看護計画書は、利用者やご家族の方も見る書類です。専門用語の多用や問題点、評価などの書き方には配慮が必要になります。 訪問看護計画書はいつ作成する? 訪問看護計画書に提出期限はありません。しかし、適切な指定訪問看護を提供するためには、定期的に提出する必要があります。 一般的には、毎月提出するところが多いです。例えば、月末に報告書・計画書を作成して、利用者やご家族の同意を得た後、翌初月に主治医へ提出します。そして、翌月の頭には、次の計画書を作成するといった流れになります。事業所によって、訪問看護計画書の提出時期は異なるため確認しておくとよいでしょう。また、利用者の状態に変化があった際や訪問看護指示書に変更があった場合は、修正するか別途作成が必要です。 訪問看護計画書を修正するタイミングとしては、次のような場合です。 保険が切り替わったとき区分の変更があったとき主治医からの指示が変更されたとき利用者の状態が変化したとき居宅サービス計画書が変更されたとき 提供する訪問看護サービスと訪問看護計画書の記載内容に相違がないよう作成しましょう。 初回訪問後の計画書作成は初回加算できる? 一定の条件に該当した場合、初回加算することができます。条件については、次のとおりです。 同月内に複数訪問看護事業所がそれぞれ新規に訪問看護計画書を作成した場合訪問看護を2ヵ月以上休止し、再開した場合要支援の状態で介護予防訪問看護を実施した後、要介護状態になり、訪問看護へ移行する場合(逆に訪問看護から介護予防訪問看護に移行する場合や継続の場合も同様)初回もしくは初回訪問看護を行った日の属する月に指定訪問看護を行った場合(暦月で1月のみ) 介護保険の訪問看護において、退院共同指導加算を算定する場合は、初回加算の算定はできません。また、医療保険による訪問看護の利用から介護保険の利用に変更した場合でも算定はできないので、注意が必要です。 訪問看護計画書は利用者の意向に沿って作成 訪問看護計画書は、利用者により質の高い訪問看護サービスを提供するために作成します。医療従事者の考えだけで計画書を作成するのではなく、あくまで利用者主体で作成することが大切です。利用者が満足できるケアの提供を念頭に置いた上で、本記事でご紹介した書き方や記入例、注意点を参考にして訪問看護計画書を記載していきましょう。 執筆:柿野 俊弥監修:川島 峻監修者プロフィール:医師、医学博士。横浜市立大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業。虎の門病院、東大病院心臓呼吸器外科などで勤務ののち、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital留学。帰国後、新宿アイランド内科クリニック院長として幅広い世代に対して内科疾患、予防医療を中心に診療している。呼吸器専門医、胸部外科専門医会員、呼吸器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医。編集:株式会社パンタグラフ 【参考】○厚生労働省「訪問看護計画書及び訪問看護報告書等の取扱いについて」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4396&dataType=1&pageNo=1(2023/6/15閲覧)○公益社団法人 日本看護協会「看護記録に関する指針」https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/guideline/nursing_record.pdf(2023/6/15閲覧)○厚生労働省「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa0500&dataType=0&pageNo=1(2023/6/15閲覧)○厚生労働省「訪問看護計画書等の記載要領等について」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000613544.pdf(2023/6/15閲覧)○一般社団法人 大阪府訪問看護ステーション協会「訪問看護記録の管理方法について」https://daihoukan.or.jp/記録に関する事項/(2023/6/15閲覧)○社団法人 全国訪問看護事業協会「訪問看護に係る看護消耗品、看護用器具等に関する現状調査」https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/H11-2-1.pdf(2023/6/15閲覧)

運営指導(実地指導)体験談
運営指導(実地指導)体験談
特集
2023年5月23日
2023年5月23日

運営指導(実地指導)体験談 大切なのは日々の業務を基本に忠実に行うこと

「運営指導で準備することは何?」「当日はどんなふうに進行するの?」運営指導に関してこんな疑問を抱いている管理者は多いのではないでしょうか。今回は、大阪市住吉区にある医療法人ハートフリーやすらぎの訪問看護ステーション管理者の田端さんに、2022年に受けたばかりという運営指導の体験談を教えていただきました。事前準備のノウハウはもちろん、運営指導を受けて再認識したことなど、盛りだくさんの内容でお届けします。 約2週間前に運営指導の実施通知が届く 介護事業を行っていれば、いつかは必ずやってくる運営指導。わかってはいるものの、いざ実施通知が届くとびっくりするものです。 通知には、「介護保険サービスの質の確保および保険給付の適正化を図ることを目的に、実地指導を実施します」の文言とともに、実施日時や当日訪問予定の大阪市福祉局の担当職員2名の名前に加え、膨大な数の準備書類が記載されていました。 当事業所で実施通知を受け取ったのは、実施日の約2週間前。介護給付費に関する書類も準備しなければなりません。これは大変なことになったぞと思い、急いで準備に取り掛かりました。 書類は独自リストを活用し効率よく準備 運営指導では、介護サービスの実施状況と運営体制の構築について必要書類に基づき確認されます。必要な書類や確認内容はサービス種別によって変わってきます。具体的には、「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」の別添資料「確認項目及び確認文書」にまとめられているので、ぜひご覧になってみてください。 今回、準備書類で苦労したのは、サービス提供実施記録や居宅サービス計画書、サービス担当者会議の記録など、サービスに関する書類です。当事業所には約300名の利用者さんがいらっしゃいます。管理者だけでは手に負える数ではないため、主任やスタッフにも協力してもらい、事業所全体で準備を進めました。 運営指導の実施時間は3時間。その時間で全利用者さんの書類が確認されるわけではありませんが、どの書類が選ばれるかは当日にならないとわかりません。どの利用者さんのどの書類が選ばれても問題ないように、全員分のすべての書類をそろえておく必要があります。 スタッフには、確認の抜けや漏れがないように、必要な書類とそれぞれのチェックポイントをまとめたリストを配布しました。例えば、「訪問看護計画書」のチェックポイントは以下のとおりです。 訪問看護計画書 ・利用者さんの氏名、生年月日、要介護度、住所等の基本情報が記入できているか。・目標に、利用者さん、ご家族の希望を取り入れているか。・主治医の指示と相違がないか。・ケアマネジャーが作成するケアプラン(居宅サービス計画書)と相違がないか。・「利用者の状態に変化があった時」、「指示書に変更点があった場合」、「ケアプランに変更があった場合」は、必ず利用者さん、ご家族に説明し、サインをもらっているか。・変更がなくても、最低6ヵ月に1回のタイミングで、利用者さんに説明し、サインをもらっているか。・「衛生材料等が必要な処置の有無」「処置の内容」「衛生材料等」「必要量」の欄について⇒衛生材料等が必要になる処置の有無について○を付けているか。また、衛生材料等が必要になる処置がある場合、「処置の内容」と「衛生材料等」について具体的に記入し、「必要量」については1ヵ月間に必要となる量を記入しているか。・「訪問予定の職種」の欄について、訪問予定の職種とその訪問日について、利用者さんに分かるように記載しているか。・内容がずっと一緒のコピーになっていないか。状態の変化やプラン変更の記載ができているか。・複数名訪問加算を算定している利用者さんの場合、計画書にその理由が記載できているか。・目標の達成状況が記録されているか、その状況に基づき計画を変更修正しているか。 この内容に沿って、受け持ちの利用者さんのカルテを確認してもらいました。 特に注意したのは、介護保険証の有効期間と、サービス担当者会議の記録、居宅サービス計画書、看護計画書がきちんと連動しているかということです。オリジナルの連動チェック表を作成し、各書類を横断的に確認できるようにしました。 報酬請求状況は必ず確認されます! 介護サービスの実施状況と運営体制の確認以外にも、運営指導には大切な目的があります。それは、報酬請求状況の確認です。特に各種加算に関してきちんと算定要件を満たし、適正に介護報酬の請求が行われているかどうかが重点的に確認されます。 そこで、請求状況についても当事業所で算定している加算をリスト化し、それぞれの算定基準から必要な項目を整理しました。このリストに沿って、スタッフに利用者さんのカルテを見直してもらい、準備を進めました。例えば、「ターミナルケア加算」では以下の項目を洗い出してまとめました。 ターミナルケア加算 ・主治医との連携のもと、ターミナルケアに係る計画、支援体制について利用者さん、ご家族に説明を行い、同意を得てターミナルケアを行っているか。・24時間連絡が取れる体制を確保・整備しているか。・ターミナルケアの提供について、利用者さんの身体状況の変化等、必要な事項が適切に記録されているか。・療養や死別に関する利用者さん、ご家族の精神的な状態やその変化、それに対するケアの記録があるか。・利用者さん、ご家族の意向に基づく、アセスメントや対応の記録があるか。 運営指導では請求書を見てカルテを選定 当日は事前通知どおり2名の担当職員が訪問されました。こちらは管理者の私と事務員の2名で対応しました。 簡単な挨拶の後、最初に「請求書を見せてください」と言われました。請求書の確認後、数名の利用者さんの名前がピックアップされ、カルテを見せてほしいと依頼されました。その後、事前に準備した書類とカルテの確認に入られました。 書類確認中はずっと立ち会うわけではなく、通常業務をしていても問題はありませんでしたが、たまに「この書類はどこにありますか?」と聞かれ、対応しました。なお、書類は、一覧表の順番通りに並べ、一覧表と同じ番号を記載した付箋を貼っておきました。担当職員から「〇〇の書類を見せてください」と急に言われても、さっと取り出せたので、これはやってよかった工夫のひとつです。 「口頭指導」を受けました 運営指導の指導方法には、文書指導、口頭指導、助言の3つがあります。今回、当事業所が受けたのは、口頭指導でした。口頭指導は、法令や通知等で規定された事項に違反しているものの、その程度が軽微な場合、または文書指導を行わなくても改善が見込まれる場合に行われます。改善報告が必要なレベルの重大な違反がなくて、本当に安心しました。口頭指導で、いくつか指摘された中から、みなさんの事業所でも参考になりそうなものを紹介します。 運営規定と重要事項説明書との整合性 運営規定と重要事項説明書との記載内容は、同じである必要があります。当事業所では、夏季休暇について運営規程では「8月14日、15日」、重要事項説明書では「盆休み」と記載していたため、この記載を合わせるように指摘を受けました。 勤務表の管理 職種(訪問看護師/理学療法士/作業療法士等)や勤務形態(常勤/非常勤)がわかるように項目を追加し、管理するように指摘を受けました。 加算の算定要件の詳細を再確認 当事業所では、サービス提供体制強化加算を取得しています。この加算では、職員の一定の勤続年数や研修計画に基づく研修の開催、利用者さんに関する留意事項の伝達や技術指導を目的とした会議を実施するといったことが主な算定要件です。 要件はクリアしているものの、スタッフごとに研修を計画し目標がわかるようにしておくことや、職種や勤務形態を問わず、すべてのスタッフが研修を受けられるように計画するよう指摘を受けました。 日々の業務管理こそ運営指導対策の王道 必要書類の準備から当日の指摘事項を振り返ってみて、あらためて感じたのは「基本に忠実に」日々の業務を遂行することの大切さです。法令や条例、規則等を遵守しながら、利用者さんへのサービスの質を確保し、日々着実に仕事をすること、これに勝る運営指導対策はないと思います。 利用者さんの介護保険証の有効期間を確認する、利用者さんの状態が変わったら必ずサービス担当者会議を行って記録を残す、看護計画を更新したら利用者さんにきちんと説明し同意を得てサインをもらう、等々。これらはどれも当たり前のことです。 ただし、どんな仕事でも必ずイレギュラーが発生します。例えば、利用者さんのサインがもらえなかったときにどうするか。重要なのは、そのままで済ませない、イレギュラーのままで終わらせないことです。運営指導の通知が届いてから準備していては、必ず何かが抜けてしまいます。常日頃から、スタッフ一人ひとりが各書類の目的を理解し、きちんと整備できる意識の醸成、しくみづくりが不可欠と感じました。 最後にもう1点、事業所の郵便受けは毎日必ず見るようにしてください。実施通知は郵送で届きます。しかも、いつ届くかわかりません。ポストを確認する習慣がなく、実施当日に通知に気づいた…という笑えない話を聞いたことがあります。みなさん、ぜひご注意ください。 執筆:田端 支普医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション 管理者●プロフィール1997年看護学校卒業後、総合病院に8年間勤務。小児科・産婦人科病棟を含む混合病棟を経て、2006年訪問看護ステーション ハートフリーやすらぎに入職。2020年より現職。2012年訪問看護認定看護師資格取得。2019年特定行為研修終了。2021年在宅ケア認定看護師へ移行手続き終了。

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