インタビュー

訪問看護サービスの規模拡大や株式上場を目指す方へ

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。vol.3では、代表取締役社長である大河原さんから、訪問看護ステーション事業の拡大を目指す方や、株式上場を志している方に向けたメッセージをお伝えします。

Profile/
リカバリーインターナショナル株式会社
代表取締役社長/看護師
大河原峻

看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。

目次
▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報
▶ 上場前後でのライフスタイルの変化
▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形
▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ


▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報

――上場に向けて、意識的に吸収した知識や情報はありますか?

P/L(Profit and Loss Statement)など会計管理や、最新の法令について情報収集しました。方法としては、周りの経営者に話を聞いたり、日本看護協会、財団の研修に参加したり。必要に迫られる前に、自分で早めに情報を集めるのが大事だと思います。

――上場後の主な業務と、アクセスしている情報について教えてください。

上場前から変わらず、業務の中心は役職者への教育や新規出店の計画です。また、利用者様にも看護師にも訪問看護のことをもっと知ってもらいたいと考え、IRにも注力するようになりました。

意識的に見る機会が増えたのは、他業種や他社のマーケティング手法。移動中には、街中の広告や、新規開店した店舗の業態、逆に閉店した店舗の業態などを観察しています。
そして、自分たちの会社だけを潤わせるのではなく、訪問看護の業界全体を大きくしていきたいという想いから、さまざまな企業の方と対話する機会を設けています。デイサービスや訪問介護を始めた会社に当社の取り組みをお伝えしたり、飲食のフランチャイズ展開をしている会社やコンサルティング会社の方と意見交換を行ったりしています。
どの業界も会社の構造などの基本は同じだと感じていて、経営者として参考になります。

▶ 上場前後でのライフスタイルの変化

――株式上場したことで、ライフスタイルに変化はありましたか?

ライフスタイルについては正直、まったく変化がありません(笑)。月曜日から土曜日の午前中まで目いっぱい仕事をして、土曜日の午後から日曜日はプライベートの時間を確保しています。
毎週月曜日は、「自分がしなければならない仕事」と「誰かに任せられる仕事」を振り分けることから始まります。上場にあたり組織図や業務分掌規程などの整理を行い、自分が担う仕事が明確になったため、今のほうが時間はあるかもしれません。

――プライベートはどんなふうに過ごしていますか?

「今、世の中が求めているもの」に対して敏感でいるために、プライベートでは視野を広げる時間をつくることを意識しています。部下の好きなことにも興味をもつようにしていて、Aという漫画が好きだと聞けばそれを読んでみる、Bというアーティストが好きだと聞けばその展覧会に行ってみる、という具合です。共通言語をつくり一緒に楽しみながら距離を近づけられたらいいなと思っています。

▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形

――訪問看護の、将来的な理想の形について教えてください。

現在の訪問看護は利用者様が看護師を指名する、あるいは少し気に入らないと交代させるといったことが許されてしまう世界。私も看護師なのでわかるのですが、利用者様に「あなたに来てほしい」と言われると嫌な気はしません。しかし指名方式だと看護師の精神的な負担が重くなるだけでなく、訪問時間を守れなかったり、利用者様の健康面の判断に思い込みが生じてしまったりというリスクもあります。さらにコロナ禍において、より個人に依存することのデメリットが明確になりました。看護師が感染症にかかり、利用者様との調整に追われたステーションもあったのではないでしょうか。
これらのリスクを回避するためには、複数の看護師による多様な視点で利用者様を看ることが必要です。当社が大事にしているのは、ひとりで完璧な看護を目指すのではなく、チームとしてまずは全員が70~80点の看護を目指し、徐々に100点に近づけていく意識。訪問看護のチーム制はマネジメントの効率化とともに、利用者様やご家族様の理想を叶えることにつながると考えています。

――チーム制にすることで、訪問看護師の働き方も変わっていくでしょうか?

訪問看護は、看護師の「利用者様に寄り添いたい」という気持ちを実現できる仕事です。しかし一方で、オンコールやご指名制に不安を感じ訪問看護業界への転職を躊躇したり、早期退職につながったりする方も少なくありません。そうならないように、仕事の日は仕事、休みの日は休みと、きっちりメリハリをつけて働くことが理想だと考えています。

また心身への負荷を減らすため、看護師同士お互いを承認し合い、成長できる環境も大事。優秀な看護師ほど「ひとりで120点の看護」を目指してしまい、1度の失敗でドロップアウトしてしまうケースも多く見てきました。信頼し合えるチームでは、休みやすく、相談もしやすく、そして一緒に働く仲間の意見が気づきになって成長できます。

オンオフのメリハリをつけて笑顔で働ける環境は、時代にも合っていますし、今後、訪問看護師の理想の働き方となっていくと考えています。

▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ

――訪問看護サービスの規模拡大や上場を志す方にメッセージをお願いします。

私は病院でリーダーや訪問看護管理者を経験しました。その中で、自分を犠牲にして働いたことが多かったですし、そういう先輩や同志を多く見てきました。当時はそれが正しいと思っていましたが、今は継続性という観点から、チームとして動くことが大事だと考えています。組織の規模拡大は間違いなく、チームがないと成り立ちません。

チームで動ける組織にする第一歩は、ご自分や部下の目指す姿・解決したいことなどをしっかりと話し合うことです。部下の目標や理想の姿をしっかり聞き、自分がどうなりたいか、どうしていきたいかを伝える必要があります。もしコミュニケーションが難しいと感じているなら、コーチングを受けてみることをおすすめします。

私自身、起業後3年間は休みなく働いてきましたが、今は時間に余裕が生まれました。組織が育ち、仕事の委任や業務分掌規程などの整理ができたからです。事業規模の拡大や株式上場を目指す人は、自分だけで抱えることのないよう、周りの人との相互理解を深めていってください。

記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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