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訪問看護師が知っておきたい自転車の交通ルールは?道路交通法改正も解説

自転車の交通ルール

自転車も自動車やバイクと同じく死亡事故につながるリスクのある乗り物です。訪問看護師は自転車で移動することも多いため、ルールを改めて確認しておきましょう。本記事では、自転車の交通ルールや事故を起こしてしまったらどう行動すべきか、高額賠償事例などについて詳しく解説します。

自転車事故の件数は増加傾向にある

警視庁によると、2022年の自転車事故の件数は69,985件で、前年より291件増加しました。全交通事故に占める自転車事故の割合は、2016年以降増加傾向にあります。自転車は、訪問先へ行くときだけではなく、日常生活でスーパーやコンビニへの移動手段として利用する方も多いでしょう。使用頻度が高くなればなるほど事故のリスクが高まるため、普段から自転車を利用している方は、より一層の注意が必要です。

訪問看護師が交通事故を起こすとどうなる?

自転車事故を起こしてしまったときは、以下のような行動をとりましょう。

  • 負傷者がいる場合は必要な救護を行う(場合によっては相手と相談の上119番に通報する)
    ※交通の妨げになることによる二次的交通事故が起きないよう、道路上の安全を確保しながら対応
  • 負傷者がいる場合には警察に連絡する(負傷者がいない場合、警察を呼ぶかどうかは、相手と相談して決定する。なお、相手が何らか補償を求める意思を示す場合や相手と連絡先を交換するような場合は、必ず警察に連絡する)
  • 臨場した警察官に対して事故の状況や自身の名前、住所、連絡先等を伝える(相手との連絡先の交換は必ず警察を介して行う)
  • 損害保険に加入している場合は、必要に応じて保険会社に連絡する
    ※業務中の場合には労働災害(労災)で処理することもあり得るので、その場合は職場において必要な手続をとる

また、訪問看護師の場合、交通事故によって訪問ができなくなり、訪問先の利用者が医療を受けられなくなるトラブルも起こります。場合によっては急を要し、代わりの人員をすぐに向かわせなくてはいけないケースもあるでしょう。初期の事故対応を終えたら、所属先の訪問看護ステーションや利用者にも連絡をしましょう。

知っておきたい自転車事故による高額賠償事例

自転車事故は自動車事故と比べて、死亡や重度障害につながりにくいと思われがちですが、実際には自転車の被害者が死亡したり、重度障害が発生するという事故は起きています。このような場合に自転車側の運転者が任意保険に加入していないと、高額な損害金を全て自己負担しなければならなくなり、経済的に致命的なことにもなりかねません。もしも、訪問看護の業務で自転車を使用する場合には、必ず任意保険に加入するようにしましょう。

実際にあった自転車事故による高額賠償事例を3つ紹介します。

年月/裁判所    事故の内容結果損害賠償額   
大阪地裁
2007年4月     
自転車が信号機のない三叉路の交差点を左折し、対向した70歳男性が運転する自転車と衝突70歳男性が植物状態となり1年4ヵ月後に死亡3,400万円
東京地裁
2007年4月
成人男性が昼間、信号無視かつ高速で交差点に進入し、青信号で横断歩道を横断中の55歳女性と衝突女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡5,438万円
神戸地裁
2009年3月
自転車が、信号のない交差点を徒歩で横断中の54歳女性と衝突女性は顔の骨や歯を折る重傷1,239万円
出典:兵庫県「自転車事故による高額賠償事例

自転車事故を防ぐために知っておきたいルール

自転車事故を防ぐためには、交通ルールを守る必要があります。飲酒は論外としても、数多くの細かなルールが存在します。今回は、つい見落としてしまいがちなルールをピックアップして紹介します。なお、自転車は道路交通法では車両扱いなので、違法行為があれば罰則の適用はあり得ます。現状では自転車の刑事的な取締は事実上ほとんどされていませんが、今後どうなるかはわかりませんし、刑事責任が生じなくても、民事責任を問われる可能性もあるため、道路交通法を守った運転が大切です。

自転車は車道の左側を走る

自転車は、車道の左側を走りましょう。道路交通法では、自転車は軽車両の扱いです。そのため、歩道と車道がある場所では、車道の左側を走る必要があります。歩道を通行できるのは、「自転車通行可」や「普通自転車通行指定部分」などの表示がある場合です。ただし、歩道の中でも車道寄りを徐行し、歩行者の通行を妨げる場合は一時停止しなければなりません(道路交通法17条、17条の2、18条等)。

道路標識と信号を守る

当然のことではありますが、信号機のある交差点では信号が青になってから安全を確認し、横断しましょう。自転車は車ではないという理由で信号を守る意識が薄くなりがちです。また、一時停止の標識がある交差点では必ず一時停止をしてください。一時停止をしなければ事故にあうリスクが高い場所に標識がついているため、信号を守るのと同じぐらい意識しましょう。

夜間はライトを点ける

進行方向の障害物や人を早期に見つけるためだけではなく、相手がこちらを認識しやすくするためにも夜間はライトを点ける必要があります。また、薄暗くなってきた夕方も必ずライトを点けましょう。

イヤホンやスマートフォンは使用しない

自転車の運転中にイヤホンで音楽を聴いたり、スマートフォンを使用したりしてはいけません。たとえ訪問看護関連の連絡があったとしても、必ず自転車を止めてから対応しましょう。イヤホンを使用すると音で周りの状況を把握できず、スマートフォンを使用していると周りが見えなくなります。

ヘルメットを着用する

2022年4月27日に公布された「道路交通法の一部を改正する法律」により、全年齢の自転車利用者に対し、ヘルメットの着用の努力義務が課されました。施行日は2023年4月1日です。

自転車の運転者が死亡する事故は頭部損傷によるものが多く、ヘルメットの着用は運転者が死亡する事故のリスク減少につながると考えられています。実際に、ヘルメットを着用していない場合の死亡率は、着用している場合の約2.1倍です。これは相手を怪我させないためにではなくて、自身の身を守るためのものとして、積極的に検討するべきです。また、事業者が業務で従業員に自転車を使用させる場合には、従業員に対する安全配慮義務の一環としてヘルメットの着用を指示するべきでしょう。

自転車事故を防ぐための対策

自転車事故は不注意だけではなく、整備不良によっても起きる可能性があります。自転車事故を防ぐために、次のように対策しましょう。

毎回点検する

自転車の整備不良が原因の事故を防ぐために、乗る前に以下のポイントを毎回点検しましょう。

  • ブレーキの前輪と後輪の両方に問題がないか
  • タイヤに空気が十分に入っているか
  • タイヤにすり減りやひび割れがないか
  • ハンドルの変形やガタつきがないか
  • サドルの高さは自分に合っているか
  • ライトは点灯するか
  • 反射材が割れていないか
  • ベルは鳴るか

時間に余裕を持って行動する

自転車で移動するときは、時間に余裕を持つことも大切です。慌てると、いつもできていたことができなくなり事故につながります。また、法令遵守の意識も薄れやすいため、信号や一時停止標識の無視も発生しやすくなるでしょう。

自転車事故は、想像以上に死亡や重度障害につながるリスクがあります。訪問看護ステーションが加入している保険について確認しておくのはもちろん、交通ルールを守って運転することが大切です。また、日々の点検や時間に余裕を持った行動など、事故のリスクを抑えるための対策を日々徹底しましょう。

執筆・編集:加藤 良大
監修:梅澤 康二
弁護士
弁護士法人プラム綜合法律事務所

梅澤 康二
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。
企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
【 経歴 】
2006年10月:司法試験合格
2007年03月:東京大学法学部 卒業
2008年09月:最高裁判所司法研修所 修了
2008年09月:アンダーソン・毛利・友常法律事務所 入所
2014年08月:プラム綜合法律事務所 設立

【参考】
〇兵庫県「自転車事故による高額賠償事例」
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk15/documents/kougakubaisyo.pdf
2023/6/8閲覧
〇警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html
2023/6/8閲覧
〇警視庁「頭部の保護が重要です~自転車用ヘルメットと頭部保護帽~」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/toubuhogo.html
2023/9/4閲覧
〇内閣府「自転車の安全利用の促進について」
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/bicycle/bicycle_r04.html
2023/6/8閲覧

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