インタビュー

規模が拡大してどうなった? 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会

訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会

8期目を迎えた福岡県の訪問看護ステーション、レスピケアナース(管理者:山田真理子氏)。2022年12月現在、看護師20名、リハビリスタッフ10名、事務4名という大所帯ですが、設立当初のメンバーは数名のみ。建物の一角、「台所」からのスタートでした。

そんなレスピケアナースの初期時代を知る「台所メンバー」が集まっての座談会。前編では、立ち上げ当時のことや規模が拡大していく過程を振り返っていただきました。後半の今回は、規模が拡大したことによる変化や、今後の展望などについてお話しいただいた内容をお伝えします。

>>前編はこちら
設立当時を振り返る 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
>>レスピケアナース管理者 山田真理子氏 インタビュー記事はこちら
規模拡大への想いと理念浸透の秘訣【利用者も看護師も幸せにする経営】

神﨑 喜代子さん(看護師)
神﨑 喜代子さん
立ち上げメンバー。管理者山田さんとは学生時代からの付き合い。看護師歴18年、訪問看護歴は7年目。レスピケアナース入職前は、大規模病院の心臓外科や消化器内科などで、終末期の患者に向き合う看護を経験。長崎県の総合診療クリニックにて、主任の経験も。

堀川 佐和子さん(事務)
堀川 佐和子さん
立ち上げメンバー。山田さんとは福岡病院の地域連携室にて出会う。レスピケアナースの前身となる訪問看護ステーションからの参加。平行して病院の連携室にも勤めていたが、2015年に退職し、レスピケアナース立ち上げに携わることとなった。
 
亀谷 涼子さん(看護師)
亀谷 涼子さん
レスピケアナース稼働から4ヵ月後に入社。訪問看護歴は15年程度。前職中、さらなるやりがいを求めて転職活動をしていたところ、Facebookで情報発信している山田さんを知る。ともに働きたいとの希望を伝え、レスピケアナースに転職した。
 
大久保 奈央子さん(看護師)
大久保 奈央子さん
2016年に登録看護師として入職、現在は楽らく療養通所「プルーンベリーハウス」の準社員。小児科外来で看護師をした後、一時専業主婦に。長子の小学校入学を機に知人から山田さんを紹介され、訪問看護の世界に入る。 

※文中敬称略


幅広い利用者の受け入れ&広がっていく連携

─これまでを振り返って、嬉しかったことや心に残っていることなどを教えてください。

大久保: 私はやっぱり、利用者さんとの思い出が心に残っています。特に覚えているのは、18トリソミーのお子さんが歩けるようになったことですね。そこまでの成長や歩みも思い出して、ご家族と一緒になって喜びました。もちろん、病院で勤めていたころにも似た経験はあったのですが、訪問看護だと長くご一緒できるぶん、さらにご家族と一歩踏み込んだ関係になれるように思います。

亀谷: わかります。訪問看護は幅広い年齢層の利用者さんと関われるから、その年代ごとに異なる感動がありますよね。お子さんの場合はやはり成長がダイナミックで、それをそばで見ていられるのはとてもワクワクします。

亀谷 涼子さん

規模が拡大していくにつれ、より幅広い利用者さんを受け入れられるようになりますし、リハビリ職との連携も増えました。チームで情報共有して、利用者さんによりよい看護を提供できると、やっぱりうれしいですね。

─規模が大きくなると、それだけスタッフ間のコミュニケーションが難しくなってくる側面もあるのでは?

堀川: そう感じた時期もありますね。事業所の体制が整う前に辞めてしまったスタッフが何人かいて、コミュニケーション不足が原因だったかもしれないと思うことはあります。私からすれば「山田さんにストレートに伝えればなんでも解決する」職場なんですが、やはり自分の意見をうまく外に出せない人というのはどうしてもいる。タイミングもあるのでしょうが、なんとかなった可能性が捨てきれないだけに、残念な気持ちはあります。

いまはそのときよりもスタッフが増えていますが、利用者さんのことはもちろん、プライベートのことも含めてよくコミュニケーションがとれていると思います。ここまでよい組織になってきたことに対して、喜びややりがいも感じています。

堀川 佐和子さん

神﨑: そうそう。堀川さんは、一般的に想像する事務の範囲を超えて、利用者さんの情報をしっかり提供してくれて、ありがたいんですよね。利用者さんのことをしっかり把握していて、それこそどのようにご家族と過ごしているのかとか、利用者さん個人の「背景」まで把握している。

亀谷: 私もそう思います。堀川さん、利用者さんについてすごく詳しいので、最初のころ私は堀川さんが看護師資格を持つ方だと思い込んでいたんですよ(笑)。それくらい、的確な情報を伝えてくださると思います。

神﨑: やっぱり、レスピケアナースとして目指すところがはっきりしているからだと思うんですよね。それは亀谷さんも大久保さんも同じで、共通した強い思いがあるから、しっかり連携できるんじゃないかな。

「いつでも相談できる」という安心

─規模が大きくなって、改めて感じたメリットを教えてください。

亀谷: まず、休みが取りやすくなりましたね。スタッフが多いので、気兼ねなく休日を取得できる。ほかのメンバーも、自分のライフスタイルに合わせて、柔軟な働き方ができていると思います。ありがたいことですよね。そういったことも含め、全体的にゆとりができたと言えます。

堀川: 山田さんと神﨑さんが日替わりで相談担当をやってくださるのも助かります。なにかあったらすぐ相談する、というシステムが整えられているんです。これもスタッフの層が厚いからこそできることではないかと。

─「相談担当」と言うのは、訪問時に何かあった際の相談を受け付けているのでしょうか?

神﨑: いえいえ! もちろん訪問時の相談もありますが、内容はそれこそなんでも、「全部」です。当日のスタッフの体調不良や、「事故に遭った」などのトラブルも。今後自分はどう働いていけばいいのか、といった就業問題もありますね。件数で言うと、1日40件くらい、かな。

一同: えー!!??

座談会風景

─みなさんも相談件数まではご存じなかったんですね(笑)

神﨑: 相談担当の日は、ずっとイヤホンを付けて電話していますね。例えば、「これから緊急訪問がある」というスタッフがいる場合、やはりそのスタッフは少し緊張しているんです。だから、少しでもその緊張がほぐれればいいな、と思いながら話します。まずは誰からコールがあったかを私に知らせてもらう。スタッフが利用者さんのところに到着したら、再び電話。実際に利用者さんの状態を確認してもらい、私からどう対応するかを提案するわけです。医師とコンタクトを取ったときにも電話をもらい、診療が完了したらまた連絡をもらう。そんな感じでやりとりをするので、夜通し電話は鳴っています。

─とても大変なことだと思いますが、それだけ「相談を受ける」ことを大事にされているのですね。

神﨑: そうですね。やはり「レスピケアらしい看護」をしてほしい。その想いにブレが生じるのはイヤだから、客観的には大変に見えるかもしれませんが、相談してもらっていいんです。規模が大きくなるのはいいことですが、あくまでもレスピケアらしく、大きくならないと意味がない。少なくとも私はそう思っているので。

なかには「相談したいというより、話をしたいだけなんだな」っていう内容のときもありますが、それはそれでいいんじゃないかな。窓口をちゃんと開けておくことが大事ではないでしょうか。

子どもの夢の選択肢に「訪問看護師」を

─レスピケアナースは順調に規模を拡大されていますが、今後の目指している姿について教えてください。

神﨑: まず、訪問看護業界そのものに課題があるのは明白です。これを変えていくような働きかけをしたいですね。もちろん、うちの事務所だけが変わればいいという話ではありません。

訪問看護業界全体の人手不足が何年も続いている状況なので、高い技術を持つ人だけでなく、「さまざまなレベルの人がこの業界で働ける」というシステムの構築が必要なのではないかと思います。敷居を低くして、幅広い方が訪問看護業界の仕事に携わっていけるような社会にすることが理想です。利用者と看護師の数のバランスが取れ、訪問看護が特別なものでなく、地域社会に必要なもの、当然あるもの、という位置付けが確立されていくといいですよね。

それから、職場内での教育を継続していきたいとも考えています。立ち上げ当時からしばらくは毎日大変だったのですが、少ない人数でマンツーマンで教え合い、経験できたこと、学べたことがある。さらに規模が大きくなっても、そういった教育が維持できるような体制を整えていきたいですね。

時間があれば、その教育を地域に広げたい。中学校などに行って、子どもたちに訪問看護とはどういうものか、見せてあげたいんです。そういう職業があるんだ、こういう感じなんだ、というのを伝えたいですね。いつの日か、子どもたちから「将来の夢は訪問看護師」という言葉が出てくる世の中になるといいなと、思います。

─ありがとうございました!

執筆: 倉持鎮子
取材: NsPace編集部

※本記事は、2023年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。

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