
足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】
2024年10月25日、NsPace(ナースペース)オンラインセミナー「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」を開催しました。講師にお迎えしたのは、在宅でのフットケアにも尽力されている小山晃子先生。訪問看護師が知っておきたい足病変とそのアセスメント、ケアの知識を、たくさんの症例とともに教えていただきました。セミナーレポートの前編では、足病変のアセスメントに必要な知識をまとめます。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 訪問看護師さんに伝えたい足の「ミカタ」 本セミナーでは、フットケアをするにあたり「何を見て、どう考えて、どう行動したらよいか」、つまり足の「ミカタ(見方)」をお伝えします。あえてカタカナ表記にしているのは、「味方」の意味も込めているからです。みなさんには「利用者さんの味方になる」という姿勢でケアをしてほしいと考えています。 また、多職種との連携において重要なのは、言葉や考え方の統一。そして、利用者さんを中心に据えた共通の未来像を描くことです。在宅と病院の連携においても、同じ「ミカタ」で物事を捉え、同じ言葉で情報を伝え合うことで、共に利用者さんを支えてもらえたらと思います。 足病の定義と捉え方のポイント 最初に、「足病のミカタ」をご紹介しましょう。「重症化予防のための足病診療ガイドライン」では、足病を以下の7つに分けて定義しています。 糖尿病性足病変 → 血流・感染・圧迫 末梢動脈疾患(PAD) → 血流 慢性静脈不全症 → 血流・感染 慢性腎不全に伴う足病変 → 血流・感染 下肢リンパ浮腫 → 血流・感染 膠原病による足病変 → 血流 神経性疾患による足病変 → 圧迫 一見難しく感じるかもしれませんが、矢印右側の「血流」「感染」「圧迫」という3つの切り口で考えると、それぞれの問題や必要な対応を捉えやすくなるはず。私はこの3つの切り口を、「足病の3つのミカタ」と呼んでいます。 足を洗う前に必ず確認すべき「血流」 「足病の3つのミカタ」のうち、特に訪問看護師の方々に注目してほしいのが「血流」です。 ここでひとつ質問があります。みなさんはフットケアにあたり、利用者さんの足を洗いますか? 洗いませんか? その回答をふまえて、以下のケースをご覧ください。 [ケース1]糖尿病を患い、神経障害があるために足の状態が悪いことに気づいていない利用者さん。足を洗うと、皮膚が破れていた箇所に新しい皮膚が形成され、6週間後には傷が治りました。創傷処置もしましたが、足を清潔に保つことで治癒が促進されています。 [ケース2]糖尿病で足の一部が黒くなっている利用者さん。足を洗ったところ、感染が一気に進み、足の広範囲が壊死してしまいました。 ケース2で状態が悪化した理由は、「血流障害があり、傷を伴う足」だったためです。こうした状態の足を漫然と洗ってはいけません。 特に糖尿病性の足潰瘍は、血流障害の有無で治療方針が大きく変わります。血流障害がある冷たい足を洗浄し、垢やはがれかけた皮膚を除去する、つまり一種のデブリードマンをすると、状態が急速に悪化することがあるのです。 そのため、「洗うと悪くなる足」が存在することを念頭におき、足を洗うかどうか判断をしてください。よかれと思って洗った結果、利用者さんの足が壊死したら、利用者さんが大変な苦痛を強いられるだけでなく、ケアを提供するみなさんも心に大きなダメージを負ってしまうはず。後悔のないよう、覚えておいてほしいポイントです。 血流のアセスメント 末梢動脈疾患や下肢閉塞性動脈硬化症などにおける血流の状態を評価するスケールに、「Fontain分類」「Rutherford分類」があります。いずれも数字が大きいほど血流が悪いという評価です。間欠性跛行(歩いていると足が重く、もしくは痛くなって止まってしまい、少し休むとまた歩けるようになる状態。)の程度から動脈の詰まりを判断します。 ただし、歩いてもらわなければ評価できないため、あまり歩かない方の場合は間欠性跛行の進行に気づけません。無症状からいきなり足の痛みを訴えたり、壊疽が始まったりして、慌てて病院に駆け込む事態になりかねません。 在宅で実践してほしい「CRT検査」 そのほかにも血行の検査は数多くありますが、おすすめは「CRT(キャピラリィ・リフィリング・タイム/ Capillary Refilling Time)」です。道具を使わず、検査者の手だけで簡単に実践でき、動脈を探す手間もありません。 ご自身の手の親指と人差し指の先端を、ものをつまむような形で力を込めて5秒間合わせてください。指を開く時、指先に注目です。白くなっていた指先が、2秒以内に元の色に戻るかと思います。これが、血流が正常であるサインです。CRTでは、同じ要領で利用者さんの足の指先を検査者の指でぎゅっと押さえ、皮膚の色の変化を観察します。色が戻るのに3秒以上かかる場合は、血流障害の可能性を考え、病院への相談を検討してください。 形成外科医の傷の見方「神戸分類」 ここからは、「形成外医の足のミカタ」をさらに詳しくご紹介します。私たちは、血流と感染の状態を考慮しつつ、糖尿病性足潰瘍の「神戸分類」に照らし合わせて検討していきます。「神戸分類」とは、「知覚障害」「血流障害」「足の変形」という3つの「足病変の基礎因子」に注目して足の状態を4タイプに分け、治療を考えていくしくみです。 タイプⅠ知覚の障害や足の変形があり、足裏にタコができているような状態タイプⅡ血流障害があり、傷ができている状態タイプⅢ感染が見られる状態タイプⅣ血流障害と感染が合併している最重症の状態 タイプⅠの足の変形にはフットウェアの活用を、タイプⅢには感染した組織を除去するデブリードマンを選択します。一方で血行障害があるタイプⅡ、Ⅳは、第一に血行再建しなければなりません。血のめぐりが悪いまま、腐った組織を足浴で洗い流したり、デブリードマンをしたりすると、状態はかえって悪くなります。 次回は鶏眼や胼胝の予防や爪の構造や役割、爪の切り方などフットケア実践における必要な知識について解説します。>>後編はこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇日本フットケア・足病医学会 (編).『重症化予防のための足病診療ガイドライン』南江堂,2022年