訪問看護師になった理由&訪問看護の魅力【特別トークセッション 後編】
2023年3月24日(金)に、銀座 伊東屋 HandShake Lounge(東京都中央区)にて開催した「みんなの訪問看護アワード2023」表彰式。ファシリテーターに東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師の長嶺由衣子さんを迎え、受賞者の皆さんとの特別トークセッションが開催されました。ここでは、トークセッションの内容をピックアップしてご紹介。後編の今回は、訪問看護師になったきっかけや、訪問看護の魅力についてディスカッションされた内容をお伝えします。 >>前編はこちらみんなの訪問看護アワード 投稿のきっかけは?【特別トークセッション 前編】 【ファシリテーター】長嶺 由衣子(ながみね ゆいこ)さん東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師 【登壇者】村田 実稔(むらた みのる)さんウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都)「みんなの訪問看護アワード2023」入賞投稿エピソード「ちょっと早めの金婚式」 長尾 弥生(ながお やよい)さん白川訪問看護ステーションこだま(岐阜県)「みんなの訪問看護アワード2023」入賞投稿エピソード「104歳の日常」 梁井 史子(やない ふみこ) さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう「みんなの訪問看護アワード2023」入賞投稿エピソード「そうだ、訪看がある」 >>エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】>>表彰式の模様はこちらみんなの訪問看護アワード2023 表彰式イベントレポート【3月24日開催】 ※以下、本文中敬称略※本記事は、2023年3月時点の情報をもとに構成しています。 訪問看護師になったきっかけは? 長嶺: 受賞者の皆さんに、少しエピソードから離れた質問もしていきたいと思います。まずは長尾さん、どうして訪問看護師になろうと思われたのでしょうか。 長尾: 私は何をやっても仕事が長続きしなくて(笑)。デイサービスやヘルパー、特養(特別養護老人ホーム)や老健(介護老人保健施設)勤務なども経験しましたが、一番しっくりきたのが訪問看護だったんです。今まで一番長く勤めた職場で5年半、短いと半年で辞めていました。訪問看護はもう10年続いていますから、一対一で利用者さんとゆっくり向き合える仕事が、性に合っていたのだと思います。 長嶺: 同じステーションの他の方の勤務年数はいかがですか? 長尾: 今の勤め先は、勤務年数が長い人が多いですね。人間的に素敵なスタッフが多く、利用者さんも楽しい方が多いというのも、継続しやすい理由だと思います。 長嶺: 村田さんはいかがでしょうか。 村田: 私は、実習で訪問看護が一番楽しいと感じたからですね。他の職場で働いても、最終的には、訪問看護に行きたいと思いました。特に訪問看護の実習で印象に残っているのが、ALSの患者さんが、人工呼吸器をつけるかつけないかを検討していた場面です。訪問看護師さんが、「その後のご家族の負担やご本人の要望もふまえて検討したほうがよい」と利用者さんやそのご家族に寄り添っていました。利用者さんの「生活」優先であることや、利用者さんのやりたいことを叶えようという視点を持つ訪問看護が、魅力的だと思いました。 長嶺: 村田さんは、看護師4年目だそうですが、同期で訪問看護師さんをやっている方はどれくらいいますか? 村田: 少ないと思います。一般的に、若い看護師が訪問看護をするのは難易度が高いと思われているので。同年代の訪問看護師は、ステーションに1~2人ぐらいですね。今はe-learningで学べる教材も充実しているので、私としては若手も訪問看護で活躍してほしいですし、若手の流入で訪問看護業界がもっと盛り上がるといいなと思っています。 「そうだ、私を待っている人がいる」 長嶺: 梁井さんは、訪問看護師になってどれぐらいですか。 梁井: 8年目になります。それ以前は10年ほど室蘭の総合病院で働いていたのですが、母親も高齢になり、このまま総合病院で働くべきなのかどうか、迷っていました。そんなとき、親友のケアマネジャーが、「訪問看護がいいんじゃないか」「あなたを待っている人が、きっと必ずどこかにいる」と言ってくれたんです。私は、信頼している友人の言葉に弱くて(笑)。「そうだ、私を待っている人がいる!」と思って、訪問看護師になりました。 長嶺: エピソードのタイトルにも「そうだ」と入っていましたが、「そうだ」がキーワードなんですね(笑)。 では、訪問看護のやりがいや魅力について、3人に伺いたいと思います。長尾さんはいかがでしょう。 長尾: やはり、利用者さんに最期まで寄り添えることにやりがいを感じています。寄り添うためには利用者さんの日常生活に入り、価値観を受け入れることが大事で、その時間があるからこそ、その方らしい最期をサポートすることにつながっていくのではないかと思っています。この仕事を長く続けてきて、私はそういう点がしっくりきました。 長嶺: 一人ひとりの日常を見つめること大事にされているんですね。村田さんはいかがですか? 村田: 私も長尾さんと似ています。利用者さんのお家に伺い、日常に寄り添えることが訪問看護の一番の魅力だと思います。また、例えば薬剤についても、病棟と異なり利用者さんの意向に沿って内服していただくケースもありますし、病院看護とは違ったケアがあるんだなと勉強になります。 長嶺: なるほど。梁井さんはいかがでしょう。 梁井: 私もお二方の考え方と似ていますが、病院ではどうしても治療が優先ですから、誤解を恐れずに言うと患者さんに我慢してもらわないといけないことがあります。でも、訪問看護師の目標は、「利用者さんが希望されていることをどう叶えるか」だと思うんです。 また、急性期時代は意見の相違で医師と喧嘩してしまったこともありましたが、訪問看護では自分主体で仕事ができる場面が多く、その点もこの仕事の魅力だと思います。 長嶺: 治す、治さないだけではない、訪問看護の楽しさや醍醐味がありますよね。こんなに面白くてやりがいのある仕事なのに、看護師全体のなかでは訪問看護師は約5%程度しかいません。どうすれば、訪問看護師の魅力が伝わると思いますか? 長尾: 難しいですね。在宅を理解されていない病棟の看護師さんも多いと思うんです。病院の看護師さんに向かって、魅力を伝えていくのがいいと思いますが。 村田: 若手の友人に訪問看護やろうよと誘うと、「人のお宅で看護することに抵抗がある」と言われてしまいます。「まずは、病院で経験を積みたい」といった声もあります。私自身は、訪問が楽しいですし、利用者さんやそのご家族に、孫や友人だと思っていただけるような寄り添い方をしたいと思っています。気負い過ぎずに訪問看護にチャレンジしてくれる若手が増えたらいいなと思います。 梁井: 学生さんが、訪問看護に実習で来る場合がありますが、「このステーションでの働き方を見て、訪問看護をやろうと思いました」という方もいらっしゃいましたね。そんな実習で来た学生さんに、「あなたを待っている人がいる」と言うのがいいのではないかなと思いました。 一同: (笑) 長嶺: 「あなたを待っている人がいる」は、殺し文句ですね(笑)。フロアにいらっしゃる方で、何かご意見はありますか? 「まずは病棟で5年」が若手の訪問看護への壁 佐藤理恵さん(受賞者): 神奈川県の藤沢訪問看護ステーションで訪問看護師をしています、佐藤と申します。私も若手に訪問看護に入ってもらいたいと思っています。人気のある俳優の方が美容師役で主演ドラマをやると、美容業界が盛り上がる、検事役で着ていたダウンジャケットが売れるなどの現象があります。ですから、訪問看護師を主役にしたドラマをしてほしいと思いますね。さわやかな女優さんに主人公を演じていただいて。 長嶺: ありがとうございます。確かに最近は、救命救急医や薬剤師といった医療従事者の職業にフィーチャーしているドラマもありますね! 他の方は、いかがですか? 広田奈都美さん(漫画家/看護師): 私は静岡県の訪問看護ステーションで管理者をしています。色々なところで講演をさせていただき、看護学生さんたちに「訪問看護師になりましょう」と呼びかけるのですが、看護学校の先生が「病棟で5年間は勤務しないと無理なんですよ」と止めることがあるんです。そこをまず、「大丈夫なんですよ」というふうに啓蒙していけるといいなと思います。 長嶺: なるほど。さまざまなご意見をありがとうございます。では、皆さんに今後の抱負を伺いたいと思います。 長尾: 白川町では65歳以上の高齢者の割合が46%を超え、2045年には70%になるという試算が出ています。でも、訪問看護ステーションの母体である白川病院 院長が在宅医療に対して理解があるので、心強いです。町全体として人と人の距離感が近く、助け合いや情報共有も盛んです。今日聞けた貴重なお話も参考にしながら、がんばっていきたいと思います。 村田: 今回こうした機会をいただいて、もっと若手の方が「訪問看護をやりたい」と思える話ができればよかったなと思っています。来年も入賞を狙いたいと思います。 梁井: 私の抱負は、1日でも長く生きて、1日でも長く訪問看護師をすることです。 長嶺: 皆さん、本日は本当に有意義なお話を、ありがとうございました。 執筆: 高島 三幸 編集: NsPace編集部 【参考】〇厚生労働省.「令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(2023年5月11日)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/20/dl/gaikyo.pdf 〇岐阜県.「統計からみた白川町の現状」(2023年6月19日)https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/343330.pdf 〇国立社会保障・人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/t-page.asp