
訪問看護師のためのリハビリ知識 実践ノウハウ編【セミナーレポート後編】
2024年2月3日に開催した、NsPace(ナースペース)オンラインセミナー「訪問看護師向けのリハビリセミナー ~実践的な知識を身につけよう!~」。京都大学大学院の教授で医学博士の青山朋樹先生を講師に迎え、訪問看護の現場で活きるリハビリテーションの知識を教えてもらいました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、訪問看護で実践できる具体的なリハビリテーション(以下、リハビリ)と、訪問看護師自身の負担軽減にもつながるボディメカニクスのポイントについてご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護師のためのリハビリ知識 基礎&環境調整編【セミナーレポート前編】 【講師】青山 朋樹先生医学博士/京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 先端理学療法学講座 教授整形外科医として長らく病院で臨床経験を積んだ後、2009年から京都大学大学院で学生の指導、研究にあたる。専門は再生医学、リハビリテーション医学。近年はリハビリテーションのDX化に取り組んでいる。 円背の方におすすめのストレッチ 特に高齢者の方に多く見られる円背は、股関節や膝関節の屈曲にもつながり、「お年寄りっぽい姿勢」の原因になります。改善のためには、背中だけではなく、股関節や膝関節も一緒に伸ばすストレッチがおすすめです。 円背のある高齢者の方は体のバランスが不安定なので、こちらの左の画像のように、まず壁にしっかりと手をついてもらってください。そして可能な範囲でつま先立ちになり、3秒かけて背中を伸ばします。その後、同じく3秒かけてかかとを戻しましょう。 続いて、右の画像のようなストレッチも行います。先ほどと同じように壁に手をついたら、足を前後にずらし、背中と太もも、膝の裏を左右10秒ずつ伸ばします。 このストレッチを行うと、背中が丸まっているせいで硬くなっていた胸筋が伸びて、とても気持ちがよいはずです。訪問看護師のみなさんも、日々の処置で前かがみの姿勢をとることが多いと思いますので、ぜひ利用者さんと一緒にストレッチをやってみてください。 なお、このストレッチは、腰椎圧迫骨折後の方でも骨が固まっていれば実践可能です。転倒にはくれぐれも注意しながら行ってください。また、骨はすでに完治しているにもかかわらずストレッチができない場合は、ぜひ理学療法士や作業療法士に意見を聞いてもらえたらと思います。 呼吸困難感がある方向けのトレーニング 呼吸困難感は、PaO2低下やPaCO2上昇による化学受容器への刺激や肺や胸郭の広がりが悪い場合に生じます。 一方、慢性呼吸不全の利用者さんは、呼吸不全、困難になることへの恐怖心が強いことがほとんどです。そのため、「リハビリのためにどんどん動きましょう」と提案しても承諾してもらえないケースが多いと思います。「動くことで苦しくなるんじゃないか」と警戒してしまうんですね。 そんな利用者さんには、運動強度があまり高くないストレッチを提案してみてください。まずは無理のない範囲から始めて、自信をもってもらうのがよいと思います。 上の写真は、胸郭周辺を柔らかく動かせるようにするストレッチです。これらを継続することで、だんだんと胸郭を大きく広げられるようになり、胸郭が動かないことによって生じる呼吸困難感の解消につながります。写真のストレッチすべてを行う必要はないので、利用者さんの様子や意向を確認しながら、できそうなものをピックアップしてチャレンジしてください。また、先ほどご紹介した円背の方向けのストレッチも有効です。 ストレッチを習慣化してどんどん自信がわいてきたら、長距離を歩いたり、少し速度を上げて歩いたりといった「持久力を強化するトレーニング」へ徐々に移行してもらえたらと思います。 認知・運動機能の同時刺激トレーニング フレイル予防のためにも、ぜひ取り入れていただきたい運動。しかし運動習慣がなく、体を動かすことに抵抗がある方は少なくありません。 そんな利用者さんにトレーニングをすすめるときに重要なのは、「体を動かさないと寝たきりになってしまうよ」といった恐怖訴求をしないこと、そして「運動」や「筋トレ」といった言葉を使わないことです。ゲームのような感覚で楽しめるトレーニングを用意し、「気づいたら体を動かしていた」という状況をつくることが望ましいでしょう。 具体的には、認知機能と運動機能の両方を同時に刺激できるトレーニングがおすすめです。例えば、イスに座ってできるだけ早く足踏みをしながら、5秒間でお題に答えてもらいます。お題は「【あ】から始まる言葉」や「日本の県庁所在地」など、一人ひとりに合わせて難易度を調整してください。このようなトレーニングのメニューは、ほかにもたくさんあります。 チャンネル名:京都市左京区地域介護予防推進センター「おうちでもアタマとカラダを同時に刺激! ~ステッププラス シート編~」 YouTubeに動画をアップしているので、ぜひ「ステッププラス」と検索してご参照ください。 看護師のボディメカニクスについて 看護師のみなさんにとっては、自身の体の負担を軽減し腰痛や膝痛を予防する、もしくは大きな体格の利用者さんを介助するためのボディメカニクスも気になるポイントではないでしょうか。 ボディメカニクスの細かな手法については各種文献をご覧いただければと思いますが、重要なポイントは、体の軸をつくって下半身を安定させることです。しっかりと足を開き、膝を曲げ、腰を落とす。そして、脇をきちんと締める。これを徹底すると、自然と体の軸が安定します。 この軸がブレると、バランスが不安定になり、特定の筋肉に負荷をかけすぎてしまいます。さらに、不安定な状態で介助を行うと、利用者の方が恐怖心を抱き、体に余計な力を入れてしまいます。そうすると、介助する側の負担もより大きくなるため注意が必要です。 * * * 訪問看護師のみなさんとリハビリ職が連携したり、看護の中でストレッチやトレーニングに取り組んでもらったりすれば、訪問リハビリの可能性はもっと広がると考えています。かつては「ADLをこれ以上低下させないこと」が目標になっていましたが、これからの時代は、むしろ身体機能を回復するために訪問リハビリが行われるようになるのではないでしょうか。利用者さんのより健やかな生活を目指して、訪問看護師のみなさんも、ぜひリハビリに対するアンテナを高く張ってもらえたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア