
【在宅医が解説】「認知症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回のテーマは認知症。訪問看護師に求められる知識や注意点を、在宅医療の視点から解説します。 はじめに 日本における65歳以上の認知症有病率は、2045年には25%以上になると予測されています1)。何と4人に1人が認知症。私たち医療従事者は、認知症と上手に付き合ってゆく術を身に着けることが必須です。 ここでは、 ・「認知症じゃないか」と相談されたらどうするか?・ 認知症の鑑別・ 認知症を疑ったときにすべきこと・ 認知症を悪化させないために について順に解説します。 「認知症じゃないかしら?」と相談されたら 認知症とは「いったん正常に発達した記憶・思考などの知的機能が低下し、6ヵ月以上にわたって日常生活に支障をきたしている状態」とされます。 ご高齢の患者さんやご家族から「物忘れがひどくなってきた。ボケてきちゃったのかしら?」といったご相談を受けることは、みなさん多いのではないでしょうか。 判断のポイントは「日常生活への支障があるか否か」です。たとえば、物の名前がなかなか出てこないようなことは、ある程度の年齢になれば高頻度で起こります。正常な老化の範疇かもしれないし、これから症状が進んでいくかもしれません(いわゆるMCI)。認知症の初期の段階では、今後どうなるか予測するのはきわめて困難なのです。 したがって、日常生活に支障が出ていないようなら、「もう少し様子をみましょう」でいいです。もちろん、ご本人・ご家族がご心配されるなら、認知症専門外来の受診をおすすめするのもありです。 一方、外出したら家に帰れない、食事をしたことをすぐ忘れる、これまでできていた家事ができなくなるなど、日常生活に明らかに支障を生じている場合は、すぐに専門医につなぎましょう。 認知症の鑑別 多い順から、下記の4つを考えればいいでしょう。 注意するのは、必ずしも典型的な症状が出るわけではないこと、認知症以外の疾患の可能性もあることです。もともとの知的水準や気質、性格、生活環境などによる個人差も大きいでしょう。安易に結論を出さず、一人ひとりの患者さんと向き合っていくことが大事です。 認知症を疑ったときにすべきこと (1)認知症以外の可能性を見逃さない 本当に認知症なのか、他の病気が隠れていないか、という意識を常に持ってください。それが患者さんを救うことにつながります。鑑別すべき代表的な疾患を挙げます。 ■せん妄状態高齢者の場合、特にADLが低下している方や軽度でも認知症を発症している方は、入院中に高頻度でせん妄状態となります。短期間(目安として2週間以内)の入院なら、退院していつもの生活に戻れば、すぐ(筆者の経験では1週間以内に)治ります。 問題は、鎮静薬を投与され、入院が長期間になってしまった場合です。鎮静による意識レベル低下や活動性低下、副作用による運動障害等が相まって、寝たきり、ADL全介助、廃用性運動機能低下、四肢拘縮著明、という状態までなってしまうと、退院後に元のADLに戻すのは非常に難しくなります。 ご高齢の方を入院させる場合、できるだけ短い入院期間でお願いしましょう。場合によっては入院治療をあきらめる選択もあると思います。 ■うつ病うつ病は、わかりやすく言うと「脳と心のエネルギーの電池が切れそうな状態」。意欲が低下し気分が沈み、はたからみると無表情でぼーっと無為に過ごしているように見えます。精神活動全般が低下しますから、判断力、記憶力などにも支障が出ます。 うつ病は薬でコントロールできる病気なので、見逃してはいけません。 思いあたる節があれば、受診する際にしっかり情報提供してください。 ■内科的疾患これは見逃してはなりません。代表的なものを順に挙げます。 甲状腺機能低下症血液検査で診断でき、ホルモン補充療法をすれば劇的に症状が改善します。身体的な症状は、脱毛、皮膚の乾燥、徐脈、心不全症状、粘液水腫(non-pitting edema)等です。 ビタミンB12欠乏症普通の食事をしていればビタミンB12が欠乏することはまずありませんが、菜食主義者、萎縮性胃炎や胃切除後で消化管吸収障害がある方は、調べたほうがいいです。認知症以外に、巨赤芽球性貧血や亜急性脊髄連合変性症が合併する場合があります。前者は採血でわかり、後者は知覚障害と運動障害(深部感覚障害により失調様の歩行となる)が出ます。これもビタミンB12補充により劇的に改善します。 心不全、腎不全、電解質異常、消耗性疾患、悪性腫瘍による悪液質など当たり前のことですが、こうした疾患・異常を抱えていると頭も普段どおりに働きません。「ボケたんじゃないか?」と相談を受けたら、これらの可能性も考慮して丁寧に聴取してください。看護師の皆さんのアドバイスや情報提供で、隠れていた内科的疾患に医師が気づくかもしれないのです。 (2)治る可能性のある認知症を見逃さない ■慢性硬膜下血腫比較的軽微な頭部外傷(転倒して頭部を打撲した、といった程度の)の2週間~3ヵ月ほどの時期に発症するとされます。ケガを気にとめていない、忘れていることも多々あります。 血腫の部位や脳圧迫の程度により症状はさまざまです。 頭部CT検査で診断でき、血腫除去術で治療が可能ですので、早めに診断することが大事です。 ■正常圧水頭症髄液が増加し、脳室が拡大して脳実質が圧迫されることにより、神経障害が出ます。 正常圧水頭症も頭部CT検査で診断でき、シャント造設で症状改善します。 ■脳主幹動脈狭窄症脳梗塞に至っていなくても、広範な脳虚血により認知機能に影響が出る可能性があります。脳の虚血部位によって、症状は多様です。 認知症を悪化させないために 難聴や視覚障害などがあると、外部からの刺激が乏しくなりコミュニケーションにも支障が出るので、認知症が悪化しやすいです。「社会的孤立」も認知症を悪化させます。 「社会的孤立」については、現場の努力だけではなく、認知症と共生できるコミュニティづくりが必要です。私たち現場の医療者が「認知症でも生きていきやすい環境づくり」を考え、提唱していかなければなりませんね。 執筆:佐藤 志津子医療法人社団緑の森 理事長さくらクリニック練馬 院長編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)Nakahori,N.et al.Future projections of the prevalence of dementia in Japan:results from the Toyama Dementia Survey.BMC.geriatrics.21(1),2021,602.doi: 10.1186/s12877-021-02540-z.