特集

胃瘻患者さんの家族から「口から食べられませんか?」と相談された場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第3回は、胃瘻造設の患者さんで、ご家族から「元気になってきたから、もう口から食べられるのではないでしょうか?」と相談されました。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか?

事例

85歳男性で、入院前にはADLが自立していました。肺炎で入院し嚥下の状態が不安定だったため、胃瘻を作り経管栄養となりました。肺炎が完治したため自宅に戻りました。現在は座位が安定して取れるようになり、短距離の歩行もできるようになりました。家族から、「元気になってきたので、もう口から食べられるのではないでしょうか?」と相談されました。

全身状態の改善に伴い、嚥下機能が改善した可能性のある患者さんです。
食事開始は医師の指示によりますが、経口摂取の可能性がどれだけあるのかをアセスメントし、報告することで言語聴覚士(ST)や医師の判断を促すことができます。呼吸状態を確認し、問題がないようなら嚥下に関するアセスメントを行ない、他職種と結果を共有し、ケアプランを考えましょう。

ここに注目!

●筋力が戻れば経口摂取の再開が可能ではないか?
●嚥下の機能改善についてアセスメントする必要がある。


主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと)

▪ 食事摂取の意欲、空腹感はあるか
▪ 呼吸器症状(痰の量、咳嗽・むせの有無、痰の喀出ができるか、など)

客観的情報の収集

今回の事例は、神経麻痺の可能性は低いと考えられますが、念のために口腔と嚥下の状態をアセスメントします。

口唇を閉じることができるか

「パ」の音を発音してもらって確認します。口唇を閉じないと、正しく「パ」を発声することができません。

または、頬を膨らませてもらい、息漏れがないかを観察することでも確認できます。

口蓋垂の偏位

「あー」と声を出してもらい、口蓋垂の偏位がないかを確認します。舌咽神経・迷走神経に麻痺がある場合、健側に偏位します。

舌の偏位

舌の動きが悪くなると、食塊を奥に運ぶことができませんので、舌の動きを確認します。
舌を前にいっぱいに出してもらい、偏位がないか、上下左右に動かしてもらい、スムーズに動くかを確認します。

舌の動きは舌下神経がつかさどっています。麻痺がある場合は、麻痺側に偏位し、動きも鈍くなります。

これらの症状がすべてみられなければ、経口摂取できる可能性が高まります。

歯の状態

歯牙の状態、入れ歯が合うかどうかを確認します。しばらく経口摂取していなかったため、入れ歯が合わなくなっている可能性があります。

舌の表面

舌の表面を視診し、清潔に保たれているか確認します。舌苔があったり、凹凸がなくてつるりとしていたりすると、味覚を感じにくくなり、食欲不振につながります。せっかく食事を始めても、味わう楽しみが得られません。

嚥下のアセスメント

唾液を飲み込んでもらい、喉頭隆起の動きがスムーズか、むせがないかを確認します。麻痺がある場合は、麻痺側の運動が遅れるので、うねるような動きがみられます。

嚥下の評価テストには、空嚥下を30秒以内に3回以上できるかを確認する反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test;RSST)や、水を飲みこませてむせや呼吸の状態を確認する水飲みテスト(modified water swallow test;MWST)などがあります。医師に相談して許可が得られれば行なってみましょう。

報告のポイント

▪患者・家族ともに経口摂取の意欲があること
▪呼吸の状態
▪嚥下にかかわる神経障害の有無、嚥下評価テストの結果

執筆 
角濱春美(かどはま・はるみ)
 
青森県立保健大学
健康科学部看護学科
健康科学研究科対人ケアマネジメント領域
教授
 
記事編集:株式会社メディカ出版

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