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言葉による返事がない(運動性失語)

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第3回は、話し掛けてもうなずくだけで、言葉を発してくれない患者さんの行動の理由を考えます。

事例背景

80歳代男性。
認知症の診断を受けている。半年前くらいから、動作が鈍くなり話もしなくなってきた。あいさつするとうなずくが、話し掛けても発語はない。問い掛けにも、「あー」という声だけ。すべての日常生活行為で、声を掛けても反応がないし、話もしてもらえない。

なぜ患者さんは発語がないのか?

失語とは

認知症の症状のうち、記憶障害、見当識障害、失認、失行、失語、判断力・実行機能の低下などは、中核症状と呼ばれます。これらは、脳障害そのものが引き起こす症状です。

この患者さんは、この中核症状が引き起こす「失語」の状態と考えられます。

失語では、「言葉を話すこと」だけでなく、▷言葉を聞いて理解すること ▷文字を理解すること ▷文字を書くこと ▷復唱すること ── などすべての言語機能が、程度の差こそありますが、同時に障害されます。

失語症の種類

脳の左前頭葉には言語に関するブローカ野とウェルニッケ野があり、その障害部位により症状が異なります。

失語症の種類

運動性失語
(ブローカ野/運動領域の近くの障害)
構音(発声)は保たれているが、喋ることが困難で、まとまった意味を流暢に表出することができない
感覚性失語
(ウェルニッケ野聴覚領域の近くの障害)
相手の言う言葉は音として聞こえるが、意味が全く理解できない

この患者さんの場合、話し掛けてもほとんど言葉による返答がないことから、運動性失語があると考えられます。

運動性失語の患者さんは、自分の思いや、食事や排泄など日常的な欲求も、他者にうまく伝えることができません。自分の状況を他者に伝えることができなければ、支援を受けることも困難です。単に言葉を失うだけではなく、他者との関係性をも失って、孤独になっていくと予測できます。

患者さんをどう理解する?

看護師には、「患者さんの思いを知りたい」気持ちを持つことと、コミュニケーションの工夫が必要になります。

「患者さんの思いを知りたい」気持ちと患者さんの体調の把握

患者さんの状態は日によって異なり、意思疎通がとれる日とまったくとれない日があります。意思疎通を体調のバロメーターとし、患者さんに活動をすすめたり、休息を促したりしていきましょう。

コミュニケーションの工夫

・患者さんの名前を呼び、覚醒を促し、看護師側に注意が向くようにする。
・顔を見て、目線を合わせて話をする。
・自分の存在を知らせ、ゆったりと患者さんを尊重した態度で接する。
・一つの文で伝えるのは一つの内容だけにし、平易な言葉を選択する。
・「はい」「いいえ」で意思表示ができる会話文も取り入れる。患者さんのペースで話してもらい、看護師は言葉を補っていく。
・予測される本人の欲求を絵などで見せる(食事、飲水、排泄など)。
・タッチングなど、非言語的コミュニケーションを活用し、安心感を与える。
・会話に集中できる環境を作り、会話する機会を多く持ち発話を促していく。

話し掛けても返答がない患者さんの場合、患者さんが何も感じていないかのように思えてしまい、看護師が話し掛けることも、発語がある人に比べて少なくなりがちです。上のような工夫を取り入れて、積極的にかかわっていきましょう。

こんな対応はDo not!

× 医療者・看護者側のペースで物事を進める
× テレビがついたままなど、騒然とした環境下で話をする
× 一度にたくさんの事柄を話す
× 命令的な表現、相手を見下した言葉を使用する
× 子どもに対するような言い回しで話し掛ける
× 無理に言い聞かせようと、患者さんの言い分や行動を否定する

執筆
茨城県立つくば看護専門学校
佐藤圭子
 
監修
堀内ふき(ほりうち・ふき)
佐久大学 学長
 
記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
〇松田実.『症候学から見た認知症疾患の鑑別診断』最新医学.68(4),2013,761-6.

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