特集

Spo2(サチュレーション)が低いが「苦しくない」と答える患者への確認ポイント5つ

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第5回は、SpO2が平常時は95%あるのに、90%になっている患者さん。呼吸困難感を尋ねると本人は「苦しくない」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか?

事例

ベッド上で全介助の82歳男性。
バイタルサイン測定時にSpO2が90%でした。ふだんは95%ぐらいあり、呼吸困難感について尋ねたのですが、「苦しくない」と言っています。
あなたはどう考えますか?

アセスメントの方向性

SpO2が90%であり、低酸素状態が疑われます。高齢者では呼吸困難の自覚が乏しいことがあるので、客観的データを十分に収集する必要があります。低酸素状態は、▷肺や呼吸の問題 ▷循環の問題 ── が考えられます。

一方、全身的な低酸素状態ではないのに、測定部位の循環障害でSpO2値が低く出る場合があるので、まずは正しく測定できているかの確認から始めましょう。

ここに注目!

●SpO2値でみると、低酸素状態であり、呼吸障害や全身の循環不全が考えられるのでは?
●症状がほとんどないことから、末梢のみの循環障害か?


主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと)

・低酸素に伴う症状(呼吸困難、胸が苦しい感じ、頭痛、頭が重い感じ、ぼーっとする感じ、目の見えにくさ、声の出にくさ、言葉の出ない感じ、不安感、焦燥感、傾眠傾向、など)
・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、喘鳴、など)
・生活への影響(食欲・食事摂取量の低下、活動量・活気の減少)

客観的情報の収集

SpO2測定部位の末梢循環

SpO2が低く出たときの測定部位の指先について、冷感、皮膚の色、圧迫されていないかを確認します。

SpO2を簡便に測定することができるパルスオキシメーターのしくみは、手または足の指にプローブを装着することで、血液の色を検知し、酸素と結びついたヘモグロビンがどの程度存在するかを計算します。循環障害のない(皮膚色の変化のない)指で測定しなければ、正しい値が出ないことがあります。

SpO2が低く出た測定部位が一時的な循環不全だった可能性があれば、加温やマッサージ後に、もう一度測定します。また、ほかの手指、足指で測定してみて値が回復するようなら、全身的な低酸素状態ではないと確認できます。

チアノーゼと冷汗

全身性のチアノーゼ、じっとりとした冷たい汗をかいている場合は、全身の循環障害(ショック状態)が強く疑われます。速やかな対応が必要です。

呼吸数・胸郭拡張の確認

もし低酸素状態であれば、頻呼吸となり、浅速呼吸や努力呼吸になっていることがあります。

平均的な呼吸数は12~20回/分です。必ず呼吸数を確認し、報告しましょう。

胸郭の視診・触診で、呼吸運動が十分に行われているかを確認します。ただし、COPDなど閉塞性の肺疾患のある人は、もともと胸郭が動きにくいので、胸鎖乳突筋や腹筋などの呼吸補助筋の緊張が高まっていないかをチェックすることが役立ちます。

肺音の聴取

努力呼吸のときには呼吸音は増大します。大きく聞こえているからといって、酸素を十分に取り込めているわけではないので注意してください。呼吸音の消失や減弱、代償性の増強、肺胞音が聞かれるべき部位で気管支呼吸音のような強い音が聞かれる気管支呼吸音化をチェックします。

副雑音は正常では聞かれない音です。副雑音があるようなら、肺胞や気管支に何らかの異常があると判断できます。

脈拍・血圧測定

呼吸機能が原因の低酸素の場合、末梢へ酸素供給を行うために脈拍が速くなり、血圧は高くなります。低酸素状態が悪化すると血圧は低下します。

報告のポイント

・正しく測定したSpO2の値とその経過
・バイタルサイン
・呼吸形態や肺音聴取の結果から、呼吸器障害の推測
・全身の循環障害の徴候

執筆 
角濱春美(かどはま・はるみ)
 
青森県立保健大学
健康科学部看護学科
健康科学研究科対人ケアマネジメント領域
教授
 
記事編集:株式会社メディカ出版

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