特集

訪問看護活動に生かす疾患の知識「花粉症」

今や国民病とも言える花粉症。訪問先の患者さんや、訪問する看護師にも花粉症の方は多いのではないでしょうか。ここでは、花粉症のメカニズムや治療法について説明します。

はじめに

日本では、花粉症といえば、スギの花粉による花粉症が代表的ですが、アメリカではブタクサの花粉症、ヨーロッパではイネ科の花粉症が有名です。

日本の花粉症は2~4月はじめまでがスギ花粉症が多く、ブタクサ花粉症は秋、イネ科花粉症は5~6月に多いです。これ以外に3~5月にヒノキ花粉症も発症します。

スギ花粉症は日本全体では4人に1人が発症しており、とくに東京都では3.5人に1人が症状を訴えており、いわば国民病ともいえます。

花粉症の歴史と現状

花粉症の約7割がスギ花粉症と言われています。その理由は、日本の国土を占めるスギ林の面積が大きく、全国の森林の18%、国土の12%を占めているため、スギの花粉の飛散量が多いからだと考えられています。

花粉症はアレルギー反応のひとつです。アレルギー反応を起こす物質をアレルゲン物質といいます。スギとヒノキのアレルゲン物質は構造的に似ている点があり、人によってはスギ花粉症とともにヒノキ花粉症に悩まされる人もおり、2月から5月の長期間にわたって症状が続く人も多くみられます。

スギ花粉症の患者は増加の一途をたどっています。その主な理由は、スギ花粉の飛散が多くなっていることですが、それ以外にアルミサッシの窓枠や気密性の高い住宅環境なども原因の一つとされています。

さらに日本人の生活環境や日常生活の清潔化によって、人体のアレルゲンへの抵抗力が低下してきたことも誘因だと言われています。大気汚染と関係のある微粒子がスギ花粉に付着し、スギ花粉症をさらに増悪させる修飾因子(アジュバント効果といいます)になっている研究報告があります。

アレルギー性鼻炎のメカニズム

スギ花粉の大きさは30μm程度ですが、花粉症を発症させる主な原因物質は、スギ花粉の中にあるタンパク質でできた小さなアレルゲン物質で、Cryj1(クリジェーワン)とCryj2(クリジェーツー)の2種類です。Cryj1は主にスギ花粉の表面に付いているオービクルという微粒子で、Cryj2は花粉の内部にあるデンプン粒子の中にあります。

これらが花粉症を引き起こすメカニズムですが、以下の反応で引き起こされます(図1)

まず、スギ花粉の抗原(Cryj1、Cryj2)が鼻の粘膜内に入ると、異物を認識する細胞(マクロファージ)と出合い、マクロファージが得たスギ花粉に対する情報をリンパ球のT細胞へ送ります。さらに、T細胞は花粉抗原の情報を同じリンパ球のB細胞へ送り、花粉にぴったりと合う「抗体」(スギ花粉特異的IgE抗体といいます)が作られます。これが「感作」というアレルギー反応の第一段階です。

スギ花粉症の症状を起こす患者には、スギ花粉特異的IgE抗体がアレルギー反応を引き起こす細胞(肥満細胞、マスト細胞ともいいます)に付いています。このIgE抗体が抗原となっているCryj1、Cryj2とくっつくと肥満細胞が活動を始めて、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質を放出し、くしゃみ、鼻汁過多、鼻閉などのアレルギーの症状が引き起こされるのです。

つまり花粉症は花粉による過剰な抗原抗体反応です。目のかゆみも、皮膚のかゆみも同じ花粉による過剰な抗原抗体反応です。この花粉による抗原抗体反応が繰り返されると、鼻の粘膜の中には好酸球という細胞が多くなってきます。この好酸球が上皮細胞を傷つけて炎症をさらに増悪させることが知られています。

都市部の花粉喘息

最近、都市部でスギ花粉を原因とする花粉喘息が報告されてきています。花粉の大きさは喘息を起こすには大きすぎるため、喘息発作は起こさないと言われてきました。

ところが、都市部ではアレルゲン物質が1μm以下で飛散していることがわかってきました。喘息はこのような微小粒子で発症します。スギ花粉の微細化は降雨や高湿度で花粉の表面がふやけて弾け、中のアレルゲンも飛散します。スギ花粉は山間部より都市部で微粒子化が起こることも知られています。

その原因は諸説がありますが、工業地帯や自動車などの大気汚染物質が降雨に溶け込むと、塩基性を高め、花粉粒子が高湿度や降雨により表面のアレルゲン物質(Cryj1)もはがれやすくなり、さらに水分を吸収、膨潤して破裂することで花粉内部のアレルゲン物質(Cryj2)が大気中へ放出されることなどが考えられています。

治療法

1.対症療法

対症療法としては、抗ヒスタミン薬(第一世代、第二世代)、抗ロイコトリエン薬、化学伝達物質遊離抑制薬などの抗アレルギー薬の内服薬や点鼻薬、点眼薬、そして局所ステロイド薬の点鼻薬、点眼薬が組み合わせられます。

くしゃみ、鼻汁が主体の鼻症状の場合は、抗ヒスタミン薬(第一世代、第二世代)や化学伝達物質遊離抑制薬が、鼻づまりが症状の主体である場合には抗ロイコトリエン薬や局所ステロイド薬がよい適応となります。

最近の局所ステロイド薬は、体内への移行性が極めて少なく安全性が高いです。鼻づまりが強い場合には点鼻用血管収縮薬や、時に経口ステロイド薬が使用されます。ステロイド薬の注射はアレルギーの専門施設ではその副作用の問題からほとんど行われていません。

また、ステロイド点眼を行う場合には眼圧の上昇に注意が必要です。花粉が飛び始める1週間前から治療を開始する「初期療法」が有効であることが証明されています。新型コロナウイルスのオミクロン株の症状と花粉症の症状はよく似ており、さらにくしゃみや鼻汁過多は感染を広げる可能性があるため、花粉症の症状のある人は早めに治療をした方がよいでしょう。

2.舌下免疫療法

舌下免疫療法(図2)は最近注目されている根本的治療です。方法は極めて簡単で、スギ花粉舌下錠(シダキュア®)を最初の1週間は1回1錠(主成分として2,000JAU)を1日1回、舌下に1分間保持した後、飲み込みます。その後5分間は、うがいや飲食をせず、服用2週目以降は、5,000JAUの錠剤を1日1回服用します。必ず指示された服用方法に従ってください。

舌下服用後は2時間、激しい運動や熱いお風呂に入れないことなどや、初回の服用開始時期は花粉の飛んでいない6月から12月などの細かな制約があります。さらに最低でも2~3年以上の服用が必要です。2~3年以上の治療効果は、2割弱の人で症状がなくなり、症状が軽減する有効例は6割弱という研究報告が出ています。舌下免疫療法は専門の講習会を受講して資格を得た医師のみが処方ができます。舌下免疫療法の相談施設は以下のURLで調べてください。

鳥居薬品株式会社『トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ』 
https://www.torii-alg.jp/slit/

ポイント

①花粉の飛散開始1週間前より抗アレルギー薬を内服し始めます(初期療法)。
②対症療法の基本は、抗アレルギー薬の内服と局所ステロイド性点鼻薬の使用です。
③抗アレルギー薬の内服で眠気の出る薬剤があるため、運転や作業は注意が必要です。
④室内に花粉を持ち込まないように、部屋に入る前にウエットティッシュを用いて衣服に付いた花粉を払いましょう。
⑤マスクやメガネや空気清浄機の使用で、花粉の接触を避けることも大切です。

執筆
石井正則(いしい・まさのり)
JCHO東京新宿メディカルセンター 耳鼻咽喉科 診療部長

 
記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
1)大久保公裕監修.『花粉症:的確な花粉症の治療のために(第2版)』平成22年度厚生労働科学研究補助金 免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業 公益財団法人日本アレルギー協会事業.2015.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf(2022年2月閲覧)

この記事を閲覧した方にオススメ

× 会員登録する(無料) ログインはこちら