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非がん性呼吸器疾患の緩和ケアがよく分かる 予後・在宅リハビリ・呼吸困難対応
非がん性呼吸器疾患の緩和ケアがよく分かる 予後・在宅リハビリ・呼吸困難対応
特集
2026年4月21日
2026年4月21日

非がん性呼吸器疾患の緩和ケアがよく分かる 予後・在宅リハビリ・呼吸困難対応

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回は、慢性的に呼吸機能を低下させる非がん性呼吸器疾患(NMRD)を取り上げます。東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センターの平原佐斗司先生に、各疾患の予後や在宅でのリハビリ・呼吸困難への対応について詳しく解説いただきます。 非がん性呼吸器疾患(NMRD)の緩和ケアの基本 非がん性呼吸器疾患(NMRD)は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺疾患(ILDs)、気管支拡張症(BE)、非結核性抗酸菌症(NTM)など、呼吸器の慢性疾患を総称する言葉として提唱されています。 私どもの診療所では、新規に在宅医療が導入される人のおよそ1割が、NMRDを主病名とする方々です。 NMRDの緩和ケアの特徴は、標準的な治療(薬物治療)と運動療法やコンディショニング(後述)などの呼吸リハビリテーションの継続が症状緩和にとっても重要であるということです。呼吸困難を改善し、QOLを高めるためには、標準的治療、呼吸リハビリテーション、緩和ケアをNMRDの病の軌跡の中で一体的・統合的に提供することが大切になります。 つまり、病状が進行し末期となってからも、治療や呼吸リハビリテーションをアレンジしながら継続し、これらによって改善しない呼吸困難などの苦痛がある場合には、オピオイドなどの緩和ケア的な手技を上乗せしていきます。 各疾患の病の軌跡と予後 NMRDは、急性増悪と寛解を繰り返しながら、徐々に全体的な機能が低下し、最期は比較的急速に悪化し、死に至るという軌跡をたどることが多いとされています。 慢性閉塞性肺疾患(COPD) COPD患者の予後は病期の進行とともに悪化します。特に「%1秒量」*が50%を下回ると増悪の頻度が増し、併存症による死亡も増加します。呼吸機能以外の予後不良因子には、やせ、栄養障害、ADL(歩行距離)の低下、自覚的呼吸困難感、合併症・併存症、最近の急性増悪や入院回数などがあります。 * %1秒量:年齢や性別、身長などから予測される本来あるべき予測1秒量に対しての、実測1秒量(努力性肺活量のうち、最初の1秒間で吐き出された空気量)の割合 また、長期喫煙歴のある高齢者に発症することが多いため、併存症の合併が多く、COPD患者の約4分の3は併存症や合併症によって死亡しています。代表的な併存症・合併症には、喘息、肺線維症、肺がん、肺炎、気胸などの肺合併症に加え、栄養障害や骨格筋機能障害、心血管疾患、骨粗しょう症などが知られています1)。 急性増悪で入院した患者の死亡率は4.6%で、1年以内の再入院は45%、1年以内の死亡は20.2%と報告されています2)。また、長期在宅酸素療法登録患者の5年生存率は40%と報告されています1),3)。 COPDの代表的な予後予測指標は2004年に開発されたBODEインデックスです。これは、前述の予後不良因子(body mass index〔BMI〕、気流閉塞度〔obstruction〕、呼吸困難〔dyspnea〕、運動能力〔exercise capacity〕)を点数化したもので、数年単位の予後予測スコアとしては有効4)です。 間質性肺疾患(ILDs) ILDsはNMRDの中でCOPDに次いで多い疾患で、その多くは原因不明の特発性間質性肺炎(IIP)です。IIPの中でも特発性肺線維症(IPF)が50~60%を占めます。IPFにおける診断時からの生存期間中央値は35ヵ月であり、極めて予後不良の疾患として知られています。 IPFの死亡原因の4分の3は、原疾患やその増悪です。慢性安定期から投与された抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)は、IPFの予後を改善することも報告されています。IPFの軌跡は、緩徐に進行する群、長期に安定する群、急速に進行していく群など多様であり、予後予測は極めて困難な疾患群です。また、在宅酸素療法(HOT)導入からの平均生存期間は約18ヵ月で5)、HOT導入後のIPF患者に対しては、EOL期と認識して対応する必要があります。 予後予測スコアとして、GAPスコア6)が開発されていますが、肺拡張能力試験(DLCO)を含むため、専門医のいる病院でなければ評価が困難という欠点があります。 気管支拡張症(BE) BEでは慢性の膿性痰や時に血痰を伴う咳、繰り返す気道感染に伴う呼吸困難、発熱、倦怠感などが苦痛となります。BEの多くは小児期に発症し、青年期に一時期改善がみられた後、中高年期に症状が悪化し、呼吸機能が低下してから医療機関を受診することが多く、約10%が呼吸不全に陥ると推定されています。 BEの18%がNTMを原因とし、両疾患は相互に関連しています。治療は、気道クリアランスを中心とした呼吸リハビリテーションが重要で、薬物治療ではマクロライド療法が有効です。予後についての大規模な研究はなく、フォローアップ中央値18年の死亡率が20.4%、13年では死亡率29.7%という海外の報告があります7),8)。高齢、呼吸機能の低下、高PaCO2、緑膿菌感染などは予後不良因子と考えられています。 非結核性抗酸菌症(NTM) NTMは近年増加しているNMRDです。特に基礎疾患のない中年以降の女性に発症しやすいMAC症が最も多く、顕著に増加しています。MAC症の死亡率は、追跡期間4.3年で16.6%、5年で28%というわが国の報告があります9),10)。 在宅における呼吸リハビリテーションの要点 呼吸リハビリテーションは、「病気や外傷によって呼吸器に障害が生じた患者さんに対して、可能な限り機能を回復し、あるいは維持することによって、症状を改善し、患者さん自身が自立した日常や社会生活を送れるように継続的に支援する医療」と定義されています11)。 呼吸リハビリテーションのプログラムの構成要素には主に以下のものが含まれます。 吸入療法を含めた薬物療法 ワクチン接種 酸素療法 人工呼吸療法 禁煙・ニコチン置換療法 コンディショニング(肺理学療法、リラクゼーション、呼吸法、胸郭可動域訓練、排痰訓練など) 全身持久力トレーニング ADLトレーニング 呼吸筋トレーニング 栄養療法 教育:教育的アプローチ、心理的サポート 社会参加(日常活動、就労、旅行支援など) これらの要素の中でも、運動療法の実施が重要であり、運動療法を行う前提として(1)基本的治療(吸入療法を含めた薬物療法、場合によってはHOTやNPPV(非侵襲的陽圧換気)などの人工呼吸療法)によって病状を安定させること、(2)教育・心理的アプローチを行い、(3)適正な栄養管理(高カロリー、高タンパク食)の実施が必要になります。 在宅医療における呼吸リハビリテーションにおいては、在宅主治医が個別の呼吸リハビリテ―ションのプログラムをつくり、訪問看護師や理学療法士などのリハビリ専門職が協力して実施していきます。呼吸法や肺理学療法、呼吸ストレッチ体操を行った後、中等度の息切れを感じる程度、あるいは最大心拍の60~80%を目安にして、下肢を中心とした運動療法を行うことがポイントです。在宅患者は、フィットネスレベルが極めて低い重症者が多いため、低強度負荷の運動から開始し、徐々に負荷を高めていく方法が推奨されます。 最初に集中的に6~8週間の導入プログラムを行い、その後、運動療法を継続するようにします。呼吸リハビリテーションの効果は中断後6ヵ月後も残存するといわれており、導入後は週1回の歩行トレーニングでも効果の維持が期待できます。また、春や秋などの気候のよい時期に集中的に運動療法を行い、真夏や冬には負荷の少ない簡単な運動で維持するという戦略をとるようにするとよいでしょう。 NMRD終末期の呼吸困難と緩和ケア 前述したようにCOPDを代表とするNMRDの終末期は、非がん疾患の中でも呼吸困難などの苦痛が大きい疾患群です。NMRD患者にとっては呼吸困難が最大の苦痛であり、その頻度と持続時間は末期の肺がんの苦痛をも凌ぐといわれています。 終末期の呼吸困難に対しては、それまで行ってきた標準的な薬物治療や呼吸リハビリテーション(酸素療法、肺理学療法、呼吸筋マッサージなど)をできる限り継続することが重要です。しかし、それでも改善しない強い呼吸困難には、積極的なモルヒネの使用が推奨されます。 モルヒネの使用 NMRD終末期のモルヒネ投与の基本は以下のとおりです。 ・頓用使用:1回2.5mg(2~3mg)・徐放剤内服:1日10mgから開始 通常は頓用使用から始め、使用回数が増えてきたら徐放剤に変更していくようにするとよいでしょう。しかし、わが国においては、がんで使用される徐放剤は非がん疾患の保険適応がなく、またモルヒネ徐放剤の1日最小量は20mgであるため、非がん疾患の呼吸困難に対してはモルヒネ徐放剤を使用しにくい状況にあります。そのため、実際には以下のような方法で定期投与を行うことがあります。 ・塩酸モルヒネ粉末:2.5mgを6時間ごと(1日4回)・モルヒネ硫酸塩細粒(2%):1回0.25gを12時間ごと(保険適応外) 重症COPDに対しては、30mgまでのモルヒネの使用は、入院率および死亡率を上げないことが分かっており、効果と副作用を確認しながら、内服30mg相当までは1.3~1.5倍ずつ引き上げていくとよいでしょう。 ●モルヒネ以外のオピオイドオキシコドンやフェンタニール、ヒドロモルフォンなどモルヒネ以外のオピオイドについては、NMRDを含めた非がん疾患の呼吸困難への有効性に関して、ランダム化試験といった質の高いエビデンスはありません。何らかの理由でモルヒネが使用できない場合、特に腎不全や心腎症候群を伴う心不全などでは、オキシコドンなどを選択することがあります(保険適応外)。 ●経口投与が困難な場合嚥下障害が強くなったり、臨死期となり経口摂取が困難となった場合は、持続皮下注射(CSI)に切り替えます。通常モルヒネの場合、内服量の2分の1で調整します。例えば、CSIでモルヒネ投与を開始する場合は、塩酸モルヒネ注1%を時間0.25mg(1日量6mg)を基本とし、年齢や腎機能などで調整するようにします。 ●不安の強い場合モルヒネによって呼吸困難が緩和せず、とりわけ不安が強いケースには、個別にベンゾジアゾピンの使用が検討されます。ただし、呼吸抑制を起こしやすく、死亡率を高める可能性があるため注意を要します。 HOT HOTでは、SpO2が 90%以上を維持できる酸素投与を行います。高濃度の酸素吸入が必要な場合は、酸素供給デバイスにはカニュレではなく、リザーバー付カニュレ、さらにリザーバー付マスク、あるいはオキシマスクなどを用います。リザーバー付マスクには、容量600mLのリザーバーが付属しています。リザーバーに貯まった酸素を一度に吸入するため、高濃度の酸素吸入が可能です。リザーバーマスクは二酸化炭素の貯留を防ぐため、6L/分以上の酸素流量で使用します。 NPPV NPPVは、COPDや拘束性換気障害、神経筋疾患などの慢性期管理や、COPDの急性期管理で広く用いられています。終末期での緩和ケアのエビデンスは乏しいですが、内因性PEEPが高い末期COPDなど、症例を選んで実施すると呼吸困難の緩和につながることがあります。 体位と環境の工夫 ケアにおいては、まず安楽な体位(ファーラー位など)をとることが重要です。臨死期になると寝返りやわずかな動きでも酸素飽和度が低下し、呼吸苦が出現するため、最も安楽な体位を工夫します。室内の十分な換気、顔面のクーリングや送風、音楽やリラクセーション、喀痰管理なども有効です。 疾患別の対応 ●IPF呼吸困難に対する最近のシステマティックレビューでは、エビデンスレベルは弱いものの、COPDと同様に酸素療法やモルヒネ、呼吸リハビリテーションの有効性など12)が示されています。 ●BEやNTM最期まで喀痰の分泌が問題となることが多く、吸入や肺理学療法などを駆使し、十分な気道のクリアランスを確保することが求められます。在宅では、非専門家でも実施できる体位ドレナージの指導が大切です。痰の喀出が多い場合や痰による無気肺などがある場合は呼吸理学療法を行います。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)NMRD:non malignant respiratory disease(非がん性呼吸器疾患)COPD:chronic obstructive pulmonary disease(慢性閉塞性肺疾患)ILDs:interstitial lung disease(間質性肺疾患)BE:bronchiectasis(気管支拡張症)NTM:non-tuberculous mycobacteria(非結核性抗酸菌症)IIP:idiopathic interstitial pneumonia(特発性間質性肺炎)IPF:idiopathic pulmonary fibrosis(特発性肺線維症)HOT:home oxygen therapy(在宅酸素療法)DLCO:diffusing capacity of the lungs for carbon monoxide(肺拡張能力試験)NPPV:non-invasive positive pressure ventilation(非侵襲的陽圧換気療法)CSI:continuous subcutaneous injection(持続皮下注射) 執筆:平原 佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター1987年に島根大学医学部卒。現在、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター長ならびに、同オレンジほっとクリニック 地域連携型認知症疾患医療センター長として在宅医療、認知症診療に従事。専門は、在宅医療、非がん疾患の緩和ケアで、研修・研究センターでは在宅医療専門医・指導医として、多くの在宅専門医の育成を行う。学会活動では、日本在宅医療連合学会 代表理事、日本認知症の人の緩和ケア学会 理事長、日本エンドオブライフケア学会 副理事長を務めている。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Miyamoto K,Aida A,Nishimura M,et al:Gender effect on prognosis of patients receiving long-term home oxygen therapy. The Respiratory Failure Research Group in Japan.Am J Respir Crit Care Med  1995;152(3):972-976.2)茂木孝,山田浩一,木田厚瑞:慢性閉塞性肺疾患の急性増悪による入院医療費とこれに関与する因子の検討.日呼吸会誌 2006;44(11):787-794.3)Aida A,Miyamoto K,Nishimura M,et al:Prognostic value of hypercapnia in patients with chronic respiratory failure during long-term oxygen therapy.Am J Respir Crit Care Med 1998;158(1):188-193.4)Celli BR,Cote CG,Marin JM,et al:The body-mass index, airflow obstruction, dyspnea, and exercise capacity index in chronic obstructive pulmonary disease.N Engl J Med 2004;350(10):1005-1012.5)Kataoka K,Oda K,Takizawa H,et al:Multi-institutional prospective cohort study of prognostic factors in patients with idiopathic pulmonary fibrosis receiving long-term oxygen therapy.European Respiratory Journal 2019;54(63):PA1723.6)Ley B,Ryerson CJ,Vittinghoff E,et al:A multidimensional index and staging system for idiopathic pulmonary fibrosis.Ann Intern Med 2012;156(10):684-691.7)Goeminne PC,Nawrot TS,Ruttens D,et al:Mortality in non-cystic fibrosis bronchiectasis: a prospective cohort analysis.Respir Med 2014;108(2):287-296.8)Loebinger MR,Wells AU,Hansell DM,et al:Mortality in bronchiectasis: a long-term study assessing the factors influencing survival.Eur Respir J 2009;34(4):843-849.9)Gochi M,Takayanagi N,Kanauchi T,et al:Retrospective study of the predictors of mortality and radiographic deterioration in 782 patients with nodular/bronchiectatic Mycobacterium avium complex lung disease.BMJ Open 2015;5(8):e008058.10)Ito Y,Hirai T,Maekawa K,et al:Predictors of 5-year mortality in pulmonary Mycobacterium avium-intracellulare complex disease.Int J Tuberc Lung Dis 2012;16(3):408-414.11)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会:呼吸リハビリテーションとは.https://www.jsrcr.jp/citizen/rehabilitation.html2026/4/16閲覧12)Ryerson CJ,Donesky D,Pantilat SZ,et al:Dyspnea in idiopathic pulmonary fibrosis: a systematic review.J Pain Symptom Manage 2012;43(4):771-782.

心不全の緩和ケアがよく分かる 症状・治療・在宅支援のポイント
心不全の緩和ケアがよく分かる 症状・治療・在宅支援のポイント
特集
2026年3月24日
2026年3月24日

心不全の緩和ケアがよく分かる 症状・治療・在宅支援のポイント

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるために、訪問看護師が知っておきたい知識・視点を整理します。今回のテーマは「心不全」。息切れや浮腫、倦怠感など心不全特有の症状とその観察ポイント、薬物治療やアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を含む在宅での支援について、東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所の藤田真奈先生に分かりやすく解説していただきます。 心不全とは 心不全診療のガイドラインでは、次のように定義されています1)。 心臓の構造・機能的な異常により、うっ血や心内圧上昇、およびあるいは心拍出量低下や組織低灌流をきたし、呼吸困難、浮腫、倦怠感などの症状や運動耐容能低下を呈する症候群 また、2017年10月31日には、日本心不全学会と日本循環器学会が、国民向けの定義として以下のように合同で記者発表しました2)。 心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気 心不全の分類として代表的なのが、左室の収縮機能(EF:駆出率)によるものです。 ●HFrEF:EFが低下した心不全●HFpEF:EFが保たれた心不全●HFmrEF:EFが軽度低下した心不全●HFimpEF:EFが改善した心不全※特に重要な分類を太字にしています。 最近増えている高齢者の心不全では、HFpEFが多いことが特徴です。 心不全の主な症状 心不全では主に「肺うっ血」「体うっ血」「低心拍出・組織低灌流」の3つが原因となり、さまざまな症状が現れます。それぞれの原因によって、次のような症状がみられます。 ●肺うっ血息切れや呼吸苦など●体うっ血下肢を中心とした全身の浮腫、腹部膨満感、食欲低下など●低心拍出・組織低灌流疲れやすさ、倦怠感、めまい、失神、認知機能の低下、せん妄など 心不全末期ではこれらの症状が重なり、不安や不眠が加わることで、より多様な症状となって患者さんを苦しめます(表1)。実際、末期には6~7種類の症状を有するという報告もあります3)。 表1 終末期における身体および精神症状 症状がん(%)心不全(%)倦怠感23~10042~82痛み30~9414~78悪心・嘔吐2~782~48呼吸困難16~7718~88不眠3~6736~48せん妄・認知機能障害2~6815~48抑うつ4~806~59不安3~742~49文献4)を参考に作成 なお、こうしたさまざまな症状が起こる末期であっても、心不全の場合、症状緩和と並行して病態の改善をめざした治療もできる限り継続します(治療の詳細については後述します)。 症状の分類にはNYHA心機能分類(表2)があります。訪問看護が必要な患者さんはNYHAⅢ度以上の方が多いですが、苦しみの程度や日常生活にどのような影響が出ているかは個々で異なります。そのため、実際の生活状況を見ながら、丁寧に評価することが重要です。 表2 NYHA心機能分類 NYHA Ⅰ   通常の心不全に起因する身体活動の制限はない。NYHA Ⅱ安静時には快適であるが、日常的な身体活動で心不全に起因する症状(呼吸困難、疲労、ふらつき)がわずかにみられる。NYHA Ⅲ安静時には快適であるが、日常的な身体活動以下で心不全の症状がみられる。NYHA Ⅳ 安静時にも心不全の症状がみられる。文献5)を参考に作成 心不全の進行の特徴 心不全は、急性増悪と治療による部分的な回復を繰り返しながら、徐々に進行していきます。急性増悪時にそのまま死に至ることもありますし、また致死的不整脈で突然死する可能性もあり、がんと比較すると予後の予測が困難です。 心不全患者の観察ポイント:変化に注目 バイタルサインは必須の確認指標ですが、「体重」も重要です。一般的に1週間で2kg以上の増加があると、生理的な体重増加を超えている可能性があります。その場合には、食事量の変化や息切れの有無を確認します。また、呼吸の様子(起座呼吸の有無、呼吸補助筋の利用の有無など)を観察しながら、慎重に身体所見をとりましょう。観察ポイントは以下のとおりです。 不整脈の有無 下腿浮腫の程度 頸静脈(特に内頸静脈)の怒張 肝腫大の有無 四肢冷汗の有無 聴診における湿性ラ音や過剰心音(Ⅲ音・Ⅳ音)、心雑音の有無 など 大切なのは「いつもと違う所見か」「安定時と比較して、新たに出現もしくは増悪している所見なのか」という視点です。なお、長期の低心拍出により悪液質や筋量減少をきたし、体重減少を生じる場合もあります。体重の増加だけでなく、減少にも注意が必要です。 心不全の治療 心不全の治療は、病態改善のための積極的治療と、症状緩和のための治療を並行して行っていきます(図1)。ここでは主に薬物治療について述べます。 図1 心不全の緩和ケアモデル 【参考】がんの緩和ケアモデル 文献6)を参考に作成 心不全の場合、緩和ケアと並行して、病態の改善をめざした積極的治療もできる限り継続される。 病態改善を目的とした薬物治療 代表的な薬には以下のようなものが用いられます。 ACE阻害薬:エナラプリル、カプトプリル、イミダプリル アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB):ロサルタン、カンデサルタン、アジルサルタン アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI):サクビトリルバルサルタン ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA):スピロノラクトン、エプレレノン β遮断薬:カルベジロール、ビソプロロール SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン こうした薬を、患者さんの病状や病態、血圧や心拍数、血液検査結果などを見ながら調整していきます。また、病態改善薬は心不全末期でも継続することが原則ですが、血圧低下や心拍数低下が患者さんの苦痛につながる場合は、減量や中止を検討することもあります。 症状緩和を目的とした薬物治療 代表的な薬剤は利尿薬です。【主な薬剤】 ループ利尿薬(フロセミド、アゾセミド、トラセミドなど) 【上記薬剤で効果が不十分な場合に併用される薬剤】 サイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジドなど) バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン) また、前述したMRAやSGLT2阻害薬にも利尿作用があります。 利尿薬は浮腫や胸腹水の軽減に有効ですが、漫然とした使用は脱水や腎機能低下、電解質異常、血圧低下にもつながるため、避けるべきです。 その他にも状況に応じて以下の薬剤を使用します。 低心拍出、組織低灌流による症状:経口強心薬(ピモベンダン、ドカルパミンなど) 治療抵抗性の呼吸苦:少量のオピオイド(心不全で使用可能なオピオイドとしてコデインリン酸塩、塩酸モルヒネがあります) 不安症状や不眠症状:抗不安薬や睡眠薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬やメラトニン受容体作動薬等が望ましいです) さまざまな治療やケアでも耐え難い苦痛が残存する場合は、多職種で検討し、患者さんやご家族と十分に話し合った上で、鎮静薬の使用も検討します。 薬物治療以外の治療・ケア 薬物だけでなく、以下のような介入も有効かつ重要です。 心臓リハビリテーション 非侵襲的陽圧換気療法(NPPV) 在宅酸素療法(HOT) 心負荷が軽減される食生活や生活環境の調整 高齢者の心不全へのアプローチ 最近、急増している高齢者の心不全では、認知症や悪性疾患、骨折後のADL低下、独居、フレイルなど、心臓以外にもさまざまな疾患や問題を多く合併していることも特徴です。これらは心不全の治療・管理だけでは解決しないことも忘れてはいけません。 訪問看護師が大切にすべき視点と役割 患者さんの在宅生活を捉える視点 訪問看護師は、患者さんの在宅生活を見ることで、心不全が患者さんの生活にどれくらい影響しているのか、日々の生活で何に困っているかを直接見て把握することができます。そして、それを在宅チームに還元し、改善策をチームで話し合うことができます。訪問看護師の適切な観察と評価は、患者さんのQOLの改善に直結します。 ●食事や内服状況の評価例えば、高血圧が続いている心不全の方の食生活が塩分過多になっていることに気付いた場合、栄養指導や配食弁当の導入で改善が期待できます。また、服薬管理ができていないことが分かった場合には、訪問薬剤指導の導入や薬の一包化、服薬回数の調整(1日1回への整理)などで改善するかもしれません。 ●住環境の評価階段昇降やトイレの様子、手すりやベッドの有無など、在宅生活における患者さんの心負荷の程度を評価します。その情報をもとに改善策を、医師やリハビリ、介護スタッフと共有し、話し合うことで、心不全患者さんの在宅生活は確実に向上します。 ●アドバンス・ケア・プランニング(ACP)への取り組み心不全は予後予測が難しい疾患です。だからこそ、日々の生活の中で患者さんの意思や価値観を理解し、終末期も含め、将来どのような医療・ケアを受けたいのか、人生の最期の時間をどうやって過ごしたいのかを、患者さんの気持ちに寄り添いながら、ともに考えていきます。医師やほかのチームメンバーと情報共有・協力しながら意思決定支援を行っていくことも重要です。 訪問看護師が築く信頼と安心 もちろん医療者であっても、患者さんの私生活や個々の事情に自由に踏みこんでよいわけではありません。少しずつ信頼関係を築きながら患者さんの気持ちを理解し、生活を改善するために必要な情報を得ていくことが重要です。 大切なのは、患者さんの病状や状況を理解し、患者さんに寄り添い、安心してもらうことです。心不全の薬や治療にはさまざまなものがありますが、状態をよく分かっている訪問看護師が、患者さんの話を傾聴したり、背中をさすったりするだけで、苦痛や症状が緩和されることはよくあります。看護師の寄り添いとケアには、大きな力があると感じています。 まとめ 日本の心不全患者数は、2030年には約130万人に達するといわれています7)。入院ベッドの不足やコロナ禍を経て、在宅で療養する心不全患者さんも増加の一途をたどっています。 そのような中、訪問看護師の存在は極めて重要です。訪問看護師が中心的な役割を担い、医師や理学療法士、ヘルパー、ケアマネジャー、薬剤師、栄養士などと協力し、多職種連携による「在宅ハートチーム」をつくることが求められています。訪問看護師がハブとなって情報共有と多職種との協力を続けながら、患者さんに寄り添い、患者さんやご家族が安心して在宅療養生活を送れるように応援・サポートします。こうした支援の輪を広げていくことは、多くの心不全患者さんを救うことになるでしょう。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)ACP:advance care planning(アドバンス・ケア・プランニング)EF:ejection fraction(駆出率)HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction(EFが低下した心不全)HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction(EFが保たれた心不全)HFmrEF:heart failure with mid-range ejection fraction(EFが軽度低下した心不全)HFimpEF:heart failure with improved ejection fraction(EFが改善した心不全)NYHA:New York Heart Association(ニューヨーク心臓協会)ACE:angiotensin converting enzyme(アンジオテンシン変換酵素)ARB:angiotensin II receptor blocker(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)ARNI:angiotensin receptor neprilysin inhibitor(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)MRA:mineralocorticoid receptor antagonist(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)SGLT2:sodium glucose cotransporter 2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)NPPV:noninvasive positive pressure ventilation(非侵襲的陽圧換気療法)HOT:home oxygen therapy(在宅酸素療法)ADL:activities of daily living(日常生活動作)QOL:quality of life(生活の質) 執筆:藤田 真奈東京ふれあい医療生活協同組合 オレンジほっとクリニックふれあいファミリークリニック、梶原診療所高知大学医学部を卒業後、自治医大病院で初期研修を行う。一般内科・循環器内科の修練を積んだ後、在宅医療の世界へ。独居や認知症を合併した高齢心不全の方たちが一人でも多く心地よい在宅生活を送れるよう、日々患者さんと向き合っている。資格:循環器内科専門医・在宅医療専門医・総合内科専門医・認知症サポート医 編集:株式会社照林社 【文献】1)日本循環器学会,日本心不全学会,日本心臓病学会,他:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.日本循環器学会.2025:19.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf2025/10/23閲覧2)日本循環器学会,日本心不全学会:『心不全の定義』について.https://www.j-circ.or.jp/five_year/teigi_qa.pdf2025/10/23閲覧3)Nordgren L,Sörensen S:Symptoms experienced in the last six months of life in patients with end-stage heart failure.Eur J Cardiovasc Nurs 2003;2(3):213-217.4)Moens K,Higginson IJ,Harding R:Are there differences in the prevalence of palliative care-related problems in people living with advanced cancer and eight non-cancer conditions? A systematic review.J Pain Symptom Manage 2014;48(4):660-677.5)Heidenreich PA,Bozkurt B,Aguilar D,et al:2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines.Circulation 2022;145(18):e895-e1032.6)Gibbs JS, McCoy AS, Gibbs LM, et al. Living with and dying from heart failure:the role of palliative care. Heart 2002;88(Suppl 2):ii36-ii39. 7)Okura Y,Ramadan MM,Ohno Y,et al:Impending epidemic: future projection of heart failure in Japan to the year 2055.Circ J 2008;72(3):489-491.

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2026年3月17日
2026年3月17日

腹膜透析におけるトラブル対応とセルフケア指導の実践事例集

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として症例写真等を掲載しているため、NsPace会員様(医療関係者)限定で公開しています。 腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は、患者さん自身やご家族に一定の自己管理能力が求められるため、トラブル対応やセルフケア支援において訪問看護師の果たす役割は非常に大きいといえるでしょう。今回は、当院で実際にかかわった事例をもとに、訪問看護の視点から実践的な対応や指導の工夫を紹介します。※本記事で使用している写真の掲載についてはご本人・ご家族、関係者の了承を得ています。 はじめに PD治療で頻度の多いトラブルは、連続携行式腹膜透析(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)関連の腹膜炎(CAPD腹膜炎)、出口部感染とトンネル感染、体液管理不良で、これらはPD離脱の主要な原因でもあります。安定したPD治療の継続には、在宅でのトラブル予防や異常の早期発見・重症化予防のための、セルフケアの向上を目的とした声かけや観察が重要となります。 事例1:出口部感染を繰り返す中年男性への支援 50代男性。糖尿病性腎症によりPDを導入。独居生活。透析方法は連続携行式腹膜透析(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)を選択、同時に訪問看護の利用が開始された。 CAPD導入後、出口部感染を繰り返したため出口部変更術が行われた症例です。退院後1週間目の訪問看護では出口部の状態は良好でしたが(図1)、2週間目の訪問時に出口部周囲の発赤と浸出液が確認されました(図2)。訪問看護師が、連携アプリ上で画像付きで病院へ報告したことで、早期に治療方針を再検討することができました。 図1 退院後1週間目の出口部 術後の発赤や血餅の付着があるが、腫脹は軽度で浸出液もなかった。 図 2 退院後2週間目の出口部 出⼝部周囲に発⾚と腫脹の悪化および膿性浸出液が認められ、出⼝部感染が強く疑われる。 訪問看護師による観察・共有が早期治療介入に直結 当院では、「出口部スコア」(図3)を訪問看護ステーションと共有し、現場での感染評価に活用しています。「腫脹」「痂皮」「発赤」「疼痛」「排膿」の5項目を、それぞれ0~2点で評価し、合計点数が4点以上を「出口部感染」として医師に報告するしくみです。また、感染の疑いがある場合には、速やかに画像付きで情報を共有できるようにしています。 図3 訪問看護ステーションと共有している「出口部スコア」 執筆者の所属病院と訪問看護ステーションが共有しているスコア表。スコア表は、文献1)をもとに作成。 今回のケースでは、訪問看護師が出口部の状態から4点以上と評価し、迅速に病院へ報告。病院では、訪問看護師に培養検体の採取・搬送を依頼し、エンピリック治療(病原体が確定する前に抗菌薬治療を開始すること)を早期に開始できました。治療経過も引き続き画像データとともに共有しています。訪問看護師の適切な観察と病院との連携で、患者さんが頻回に通院することなく、診断および治療を完了できたケースです。 また、出口部感染の再発を予防するため、出口部ケアやカテーテルの固定方法を統一化することも大切です。腹膜透析認定指導看護師が作成したマニュアル(図4)を訪問看護師と共有し、発赤・腫脹や痂皮、疼痛、浸出液(特に膿性浸出液)に注意して患者さんのセルフケア指導を行っていただくようにしています。 図4 訪問看護ステーションと共有している「出口部ケアの手順」 執筆者の所属病院と訪問看護ステーションが共有しているマニュアル。マニュアルは腹膜透析認定指導看護師が作成。 事例2:体重・水分管理が不安定な高齢男性への支援 80代男性。軽度の認知機能低下あり。高齢の妻と2人暮らし。近隣に長男が居住。CAPDを実施中で、訪問看護の利用もあり。 食事摂取量が不安定で、体重・血圧のコントロールに難渋していた症例です。体重減少時には血圧低下やふらつき、体重増加時には血圧上昇や浮腫を認めていました。外来ごとに薬剤の変更や透析液の調整を行っていたものの、いずれも残ることがあり、服薬やCAPD実施の不安定性が危惧されていました。 治療状況の把握と症状観察、家族への支援も 病院でも在宅での治療状況を正確に把握するため、訪問看護師が残薬や透析液の使用状況を確認することで、治療のアドヒアランスが明確になりました。さらに、体重と血圧、浮腫の状態を定期的に観察し、必要に応じて連携アプリを通じて病院と情報を共有したことで、外来受診を待たずにCAPDの処方変更(高張液の使用回数の調整)が可能になりました。 また、訪問看護師が長男に観察ポイントを説明し、訪問がない日も体重や血圧を継続的に測定できるように支援しました。 このケースでは、訪問看護師が家族とともに在宅での観察を行い、病院と迅速に状況を共有することで、処方の即時調整や服薬管理の改善につながりました。その結果、体重や血圧の変動幅を小さく抑えられたケースです。 事例3:画像による情報共有で不要な緊急受診を回避 70代男性。自動腹膜透析(Automated Peritoneal Dialysis:APD)を実施中。 排液の混濁がみられたものの、訪問看護師の対応で食餌性乳び腹水と判断でき、不要な緊急受診を回避できた症例です。あるとき、患者さんから「ボトルの排液が白濁している」と訪問看護師に連絡が入りました。急いで駆けつけると、図5のように排液は確かに白色に混濁している状態でした。 図5 白濁した排液 訪問看護師が患者さんの問診を行ったところ、前日に餃子と豚骨ラーメンを食べていたことが判明。触診でも腹部に圧痛や違和感はなく、発熱も認めませんでした。 訪問看護師は得られた情報と排液の画像を病院に共有しました。病院では排液混濁の程度と自覚症状に乖離があることから乳び腹水の可能性も考慮し、訪問看護師に尿試験紙での排液検査を依頼。検査したところ、白血球反応は陰性でした。そのため、腹膜炎の可能性は低く、次回排液まで経過観察としました。 排液が混濁すると腹膜炎を強く疑いますが、薬剤性(カルシウム拮抗薬)や食餌性(脂質の多い食事後の乳び腹水)でも同様の所見がみられます。細菌性腹膜炎の場合、腹水中に白血球が遊走するため、尿試験紙で白血球反応が陽性になることが多くあります。 的確な症状評価と情報共有 訪問看護師が問診・身体診察を行い、連携アプリを通じて病院に画像付きで報告したことで、病院側も「在宅での経過観察で問題ない」と判断でき、不要な緊急受診を回避できました。実際に次回の排液は透明であり(図6)、細菌性肺炎ではなく、食餌性の乳び腹水であることが分かり、患者さんやご家族の安心につながったケースです。 図6 状態が改善された排液 おわりに PDの離脱原因として、体液の過剰と腹膜炎が大多数を占めると報告されています2)が、いずれの病態も早期に対応することで離脱の回避が大いに期待できます。 また、PDにおいては、患者さん・ご家族は大きな不安を抱えながら在宅で治療を継続しています。わずかな体調の変化にも敏感に反応し、ときに不要な緊急受診をされ、心身の負担になってしまうことも経験します。 訪問看護師の皆さんは、患者さんの生活にもっとも近いところで支援する立場として、医学的知識と生活支援力の両方を発揮することが求められます。患者さん一人ひとりに合わせた支援が、PDの安定的な継続とQOLの向上につながると考えています。 執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長 2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長 前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Szeto CC,Li PKT,Johnson DW,et al:ISPD Catheter-Related Infection Recommendations:2017 Update.Perit Dial Int 2017;37(2):141-154.2)Kawaguchi Y,Ishizaki T,Imada A,et al:Searching for the reasons for drop-out from peritoneal dialysis: a nationwide survey in Japan.Perit Dial Int 2003;Suppl 2:S175-S177.

ALS患者に必要なリハビリテーション【呼吸筋編:柔軟性を維持し合併症予防】
ALS患者に必要なリハビリテーション【呼吸筋編:柔軟性を維持し合併症予防】
コラム 会員限定
2026年3月10日
2026年3月10日

ALS患者に必要なリハビリテーション【呼吸筋編:柔軟性を維持し合併症予防】

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療機器の画像を掲載しているため、NsPace会員様(医療関係者)限定で公開しています。 ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。ALSでは、進行とともに呼吸筋の機能が徐々に低下していきます。そのため、呼吸機能をなるべく長く保てるようリハビリテーション(以下、リハビリ)がとても重要です。今回は、呼吸のしくみを踏まえた上で、梶浦先生が実践するリハビリの方法についてご紹介いただきます。 ※推奨されるリハビリの方法は、個人の症状によって異なります。必ず、主治医や担当のリハビリスタッフ同意のもとで実施してください。安全のため、自己判断で行うのは避けましょう。 はじめに 前回のコラム(「ALS患者に必要なリハビリテーション【四肢編:拘縮予防が最大のポイント】」参照)では、四肢のリハビリ⽅法をご紹介しました。今回は体幹、特に呼吸筋のリハビリを取り上げます。 ALSは、全⾝のさまざまな筋⼒が低下していく進⾏性の疾患です。呼吸を司る呼吸筋も例外ではありません。呼吸筋も筋⼒が低下して使わなくなっていくと柔軟性が失われ、肺の予備能⼒が低下し、無気肺(肺の⼀部に空気が⼊っていない状態)や肺炎などのリスクが高まります。 このため、肺や呼吸筋の柔軟性を保つリハビリがとても大切です。リハビリの方法を理解するためには、まず⼈がどのように呼吸をしているのか、そのしくみについて説明していきます。 呼吸のしくみ ⾃分の⼒で肺⾃体を膨らませて空気を取り込んでいると思われている⽅もいらっしゃるかもしれませんが、実際にはそうではありません。肺そのものには膨らむ機能はなく、胸郭と横隔膜を広げることで胸腔内(胸郭と横隔膜に囲まれた肺を収納しているスペース)を陰圧にし、間接的に空気を肺に取り込むことで呼吸が行われています。 胸腔内の容積を広げる⽅法は、⼤きく分けて2つあります。 ●胸式呼吸外肋間筋を収縮させ、肋骨を引き上げて胸郭を前後左右に広げる⽅法●腹式呼吸横隔膜を収縮させて、胸腔内を下方向に広げる⽅法 通常の呼吸ではどちらか⼀⽅ではなく、外肋間筋と横隔膜、両⽅の働きによって呼吸運動が⾏われています(図1)。 図1 呼吸のしくみ リハビリに適した体勢 横隔膜の下には、肝臓や胃、腸などの内臓があります。⽴位や座位であれば、重⼒によって内臓が下がるため、横隔膜が広がるスペースができます。しかし、ALSの症状が進⾏すると、⼈⼯呼吸器を装着し、仰臥位(仰向け)の姿勢で過ごすことが多くなります。 ⼈⼯呼吸器を使用している状態では、呼吸はほぼ⼀定の間隔と換気量に設定されるため、深呼吸ができません。また、内臓が重力で下がらないため、横隔膜を使った腹式呼吸もしづらくなります。これらの理由から、仰臥位では胸式呼吸が中心となります。 そうすると、下肺野まで空気が十分に届かず、痰の貯留や無気肺の原因になってしまいます。可能であれば、できるだけ座位に近い姿勢になるようベッドを起こすか、⾞椅⼦に移乗した状態で、横隔膜と下肺野がしっかり広がる体勢を整えてからリハビリを始めてください。 肺・胸郭の柔軟性を保つためのリハビリ 用手的呼吸介助手技 ⽤⼿的呼吸介助⼿技 (breathing assist)は胸郭の弾性を利⽤し、胸郭の⽣理的運動に一致する方向に圧迫する⼿技です。 具体的には、介助者の手掌から指先までを胸郭の形状にぴったりと合わせる様に密着させて、呼気時に胸郭を斜め下方向に圧迫することで、胸式呼吸のリハビリが行えます。これにより、胸郭の柔軟性をある程度維持できます。圧迫する方向は、仰臥位と座位で変わりません(図2)。 図2 用手的呼吸介助手技(呼気時) 注意!:用手的呼吸介助手技は、骨粗鬆症といった骨折リスクのある基礎疾患をお持ちの⽅は控えたほうがよいです。必ず主治医の同意を得て⾏うようにしてください。 呼吸リハビリ機器を用いたリハビリ より効率的に胸式呼吸と腹式呼吸のリハビリを⾏うために、呼吸リハビリ機器である「LICトレーナー(R)」(図3/以下、登録商標マーク(R)を省略し表記)を使用する方法があります1)。 LICとは、「lung insufflation capacity」の略で、「肺強制吸気量」を意味します。LICトレーナーにアンビューバッグを接続し、用手的に肺に空気を入れることで、強制的に深呼吸した状態をつくり、この状態を一定時間保つことができます。これにより胸郭と横隔膜の両方を広げられるため、これまで外部からのアプローチが困難であった腹式呼吸のリハビリも可能になりました。 なお、LICトレーナーの概要は、前回のコラム#21「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~のど~」でご紹介していますので、ぜひそちらをご参照ください。今回は、LICトレーナーを使って、実際にどういった方法でリハビリを行っているのかをご紹介したいと思います。 図3 LICトレーナー LICトレーナーは主治医の許可を得て、理学療法⼠の指導のもと、⾃宅での使⽤が可能です。継続的に使⽤することで、肺の柔軟性維持や咳嗽⼒の向上が期待できます。 ●導入開始時期のめやす「⾃分の⼒では深呼吸ができない」と感じた時期から、気管切開して⼈⼯呼吸器を装着してからでも、いつでも開始可能ですので、主治医と相談してみてください。私は、呼吸のリハビリを開始するのに遅すぎることはないと思っています。 ●具体的なリハビリの⽅法 導入時・20cmH2Oから開始する・気道内圧20cmH2Oまで加圧し、5~10秒程度息止めをし排気した後、適宜インターバルを入れる(用手換気〔バギング〕回数:500mL×4~5回程度)・これを5回繰り返して1セットとし、1日3~6セット行う・肺活量が測定可能な段階の方は、⾃⼒での肺活量との差を1,000mL以上に維持できるとよい 上記のリハビリに慣れてきたら、主治医と相談しながら、少しずつ気道内圧を上げていきます。 深吸気換気量が物⾜りなくなったら……・気道内圧30~40cm H2O まで加圧し、5~10秒程度息止めをし排気した後、適宜インターバルを入れる(バギング回数:500mL×6~8回程度)・これを5回繰り返して1セットとし、1日3~6セット行う さらに慣れてきたら、主治医と相談の上、息止めの時間を適宜調整します。 私の場合、気道内圧40cmH2Oで30秒おきに胸郭を圧迫し、上肺野の容積を減らし、下肺野に空気がたくさん⼊るように横隔膜をしっかりと広げています。そして、LICトレーナーでのリハビリが終わったら、⽤⼿的呼吸介助⼿技で胸郭のリハビリを⾏う、これを毎⽇3セット実施しています。 実際のLICトレーナーを使用する様子は、動画でもご覧いただけます。▼enjoy ALS (YouTubeチャンネル)https://www.youtube.com/@S.Kaji_SND ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。※チャンネル内の「ALS_LICトレーナー導入編」「ALS_LICトレーナー応用編」の動画をご参照ください。※動画の撮影では「なごみ訪問看護ステーション」に協力いただきました。 LICトレーナー使用時の注意点:LICトレーナーは肺に圧をかけて⾏うリハビリのため、練習および導入は、肺実質に以下のような問題がある場合は実施しないでください2)。・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・肺気腫・ブラ(肺の内部に異常な量の気泡が形成された状態)・気胸の既往また、2025年8月現在、LICトレーナーは保険適⽤外で、導⼊には約5万円程度の費⽤がかかります。経済的な負担が大きい場合は、医療保険を使って⼈⼯呼吸器と一緒にレンタルできる「カフアシスト」を代替手段として選択する方法もあります。 コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Yorimoto K,Ariake Y,Saotome T,et al:Lung Insufflation Capacity with a New Device in Amyotrophic Lateral Sclerosis:Measurement of the Lung Volume Recruitment in Respiratory Therapy.Prog Rehabil Med 2020;5.https://doi.org/10.2490/prm.202000112025/10/23閲覧2)「LIC トレーナー」添付文書https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/202126_11B3X10044000001_A_01_022025/10/23閲覧

非がん疾患の緩和ケアがよく分かる 予後予測・症状緩和・がんとの違い
非がん疾患の緩和ケアがよく分かる 予後予測・症状緩和・がんとの違い
特集
2026年2月17日
2026年2月17日

非がん疾患の緩和ケアがよく分かる 予後予測・症状緩和・がんとの違い

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回は、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センターの平原佐斗司先生に、非がん疾患における緩和ケアの現状、予後予測、苦痛に対する評価法やアプローチの特徴について分かりやすく解説いただきます。 非がん疾患における緩和ケアの現状 緩和ケアは、がんから非がん疾患を含むあらゆる疾患へ、小児から高齢者まで対象が広がっています。そして、緩和ケア病棟だけでなく、在宅・地域を中心として急性期病院や施設など、あらゆるセッティングで提供される、より基本的で包括的なケアへと広がりをみせています。 欧米では、1990年代に非がん疾患患者の終末期に緩和ケアの光が当たっていないことが明らかになり、今世紀に入ってからは非がん疾患の緩和ケアがそれぞれの国の方法で推進されてきました。一方、わが国においては、2010年頃からようやく注目されるようになり、最近になり各領域で非がん疾患の緩和ケアに関する実践・教育・研究で進展がみられるようになってきています。 わが国における緩和ケアの対象 わが国の在宅医療において非がん疾患の緩和ケアの対象として多い疾患は、主に後期高齢者にみられ、以下のとおりです。 臓器不全(非がん性呼吸器疾患〔NMRD〕、心不全、末期腎不全、肝不全) 認知症や脳卒中後遺症 パーキンソン病やパーキンソン関連疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病 頻度は少ないですが、以下のような対象もあります。 重症の医療的ケア児 トラジション(成人した障害児者) など また、世界に目を向けてみると、アフリカや開発途上国ではHIVや感染症なども緩和ケアの対象となっています。 わが国の非がん疾患の緩和ケアには、がんの緩和ケアとは異なるいくつかの特徴があります。 緩和ケアの対象となる非がん疾患患者の多くは後期高齢者であること 病の軌跡に影響する因子が多様で複雑であるため、がんに比べて予後の予測が困難であること 自律が損なわれたり、同意能力が疑われたりする高齢者や認知症の人が少なくないため、意思決定において困難を伴う場合が少なくないこと 「病の軌跡」とは Lynnらは終末期の疾患軌道を、「がん等のモデル」、「心肺疾患などの臓器不全モデル」、「認知症・老衰モデル」の3つに分類しました(図1)1)。 図1 疾患群別軌道モデル 文献1)より筆者訳 がんの軌道の最大の特徴は、最期の1、2ヵ月で急速に全般的機能が低下することです。臓器不全、特に心不全や非がん性呼吸器疾患などは急性増悪を繰り返し、最後の急性増悪で比較的急な経過で死亡に至ります。認知症・老衰群では、緩やかにスロープを降りるように機能が低下し、やがて死に至ります。高齢者では、この認知症・老衰群が半数近くを占めるといわれています。 このような病の軌跡の違いを反映して、ADL依存となるリスクは、がんで一般の人の約1.5倍、臓器不全群で約3倍、認知症・老衰群では8倍と報告されています。 さて、このような病の軌跡はあくまでも基本であって、疾患や年齢によって異なる特徴があります。例えば、高齢がん患者の場合は、約半数が数ヵ月前より徐々に機能が低下することが分かっています。また、臓器不全群でも透析しない選択(保存的腎臓療法:CKM)をした末期腎不全患者(ESKD)の病の軌跡は、末期がんと類似しており、最後の1、2ヵ月で急速に機能が低下することが明らかになりました。 がんと非がん疾患、予後予測における違い がんの予後予測が比較的可能な理由 病の軌跡の特性は、予後予測の困難さに影響しています。がんは、原発巣や癌種が違っても、症状や臨床経過において一定の共通性・法則性が認められます。そして、その共通性・法則性は、終末期になるほど顕在化するという特徴があります。 これは、がんの基本病態が「自律増殖」と「浸潤・転移」であることに起因します。進行したがんは侵害受容器や神経に浸潤するため、比較的早期から疼痛が出現し、疼痛は増強しながら長期に持続します。そして、原発巣や転移臓器でのがんの増殖により呼吸不全、麻痺、肝不全といった臓器の機能不全を引き起こします。最期には異常な内分泌・代謝状態(悪液質)を来たし、だるさや食思不振、痩せなど、すべてのがんに共通した全身症状が現れます。 このようながんの特性に着目すれば、ある程度の信頼性のある予後予測ツールの開発が可能となるのです。 非がん疾患における予後予測の難しさ 一方、非がん疾患にはもともとの疾患の軌道に共通性がなく、以下に示すように多種多様です。 脳卒中のように突然発症するもの 腎不全や肝不全のように潜在的に進行するもの 心疾患や呼吸器疾患のように急性増悪を繰り返すもの アルツハイマー型認知症のように緩やかに機能が低下するもの ALSのように比較的早く呼吸や嚥下機能が低下し、生命の危機が訪れるもの このように、非がん疾患では、疾患や個人によって機能が低下する部位や臓器、進行の仕方やスピードがさまざまであることに加え、標準治療の実施の有無や本人の治療選択など、病態以外の因子が病の軌跡に大きく影響します。その結果、非がん疾患では月単位、週単位の予後予測は困難で、信頼性の高い予後予測ツールは開発できていません。 また、緩和ケアの対象となる非がん疾患患者の多くは後期高齢者であり、ほとんどがmultimorbidity(多疾患併存状態)であるため、予後に関係する疾患が複数あり、経過の中で主病名が入れ替わることも珍しくはありません。multimorbidityの高齢者のエンドオブライフ(EOL)期では、疾患ごとの予後予測指標はあてにならないことが多いのです。 そのため近年では、正確な予後予測を求めるのではなく、緩和ケアが必要と考えられる対象者を疾患にかかわらず、適切なタイミングで同定することに主眼が置かれるようになってきました。この目的のために、「GSF-PIG」や「SPICT」のようなさまざまなツールが開発されています。 苦痛の客観的評価法の有用性 非がん疾患では、緩和すべき苦痛ががんとは異なる場合があります。がんでは疼痛が最大の課題であるのに対して、多くの非がん疾患では「呼吸困難」や「摂食・嚥下障害」が最大の課題と考えられています。 高齢で認知症を合併することが多い非がん疾患患者の苦痛の評価においては、がんで用いられる「NRS」(痛みのスケール)といった主観的評価法や、「IPOS」などの複雑な総合評価は、実用的ではないことが少なくありません。 認知症高齢者など、自ら苦痛をはっきり訴えられない非がん疾患患者に対しては、苦痛の客観的評価法が有用です。欧米ではこうした評価法が実際の臨床現場で広く用いられていますが、わが国においてはその普及は十分でありません。 痛みの客観的評価法 海外では、痛みの客観的評価法として30以上のスケールが開発されていますが、日常使いができる程度の項目数(数項目程度)であり、日本語版が開発されているものとなると、以下のものに絞られます。 日本語版PAINAD アビー痛みスケール日本語版 呼吸困難の客観的評価法 呼吸困難の客観的評価法は、痛みの客観的評価法ほど多くは開発されていません。その中でゴールドスタンダードとされるのは8項目からなる「RDOS」で、日本語版も開発されています。近年、RDOSよりも簡便な呼吸困難の客観的評価法としてmodRDOS-4が開発され、筆者がその日本語版である「日本語版modRDOS-4」を開発しています。 このような、客観的評価法を積極的に使用することで、高齢者や認知症の人の苦痛に早期に気付くことが可能となります。 症状緩和に対する薬剤的アプローチの特徴 症状緩和の考え方や方法については、がんと非がん疾患では共通点もありますが、異なる点も多くあります。 非がん疾患、とりわけ心不全などの臓器不全群では、症状緩和のためにも標準的な疾患の治療とケアを最期まで継続することが重要になります。 オピオイドの使用について 症状緩和のための薬剤的アプローチにおいても、がんと非がんにはさまざまな違いがあります。例えば疼痛に対するオピオイド使用量は、がんでは痛みに応じて上限なく増量していくわけですが、非がん疾患の投与量はモルヒネ換算で最大60mg、多くても90mgまでとします。また、がんの場合と異なり、ケミカルコーピング防止の観点から疼痛に対するレスキューの使用は推奨されません。 一方、非がん疾患の呼吸困難に対するオピオイドの使用は、基本的には疾患に対する治療を最大限行っても緩和されない場合に考慮され、多くはモルヒネ換算1日10mgまでの少量で呼吸困難緩和の効果が期待できます。 緩和ケアの対象となるESKDではモルヒネの投与は、透析をしていない場合はほぼ禁忌と考えられます。腎機能の影響が少ないオキシコドンや、影響がほとんどないブプレノルフィン、フェンタニルが選択されます。心不全に腎不全を合併した状態(心腎症候群)や、肝不全に腎不全を合併した状態(肝腎症候群)などでも同様に、基本的にモルヒネ以外の薬剤の選択が必要になります。 そのほかの薬剤的アプローチについて オピオイド以外の鎮痛薬では、腎不全や心不全ではNSAIDsは基本的に避けるべきで、アセトアミノフェンの使用が推奨されます。 末期がんでは終末期の食思不振やだるさに対してステロイドを使用する場合がありますが、心不全などの非がん疾患ではステロイドは水分貯留に働く可能性があるため、基本的には使用しません。 非がん疾患の緩和ケアの今後 非がん疾患の苦痛に対する薬剤的アプローチは、緩和ケアのごく一部です。非がん疾患の中でも心不全、NMRD、ESKDなどの臓器不全群では緩和のための薬剤選択は比較的重要です。しかし、認知症や神経難病などの緩和ケアにおいては、日々の看護やケア、リハビリテーションの質そのものが、そのまま緩和ケアの質につながると考えます。 非がん疾患の緩和ケアはこの数年、研究面では一定の進歩がありました。しかし、がんと比べて全体的に教育・実践のレベルや制度においてはまだまだ課題があるといえるでしょう。 これから始まるこのシリーズでは、主要な非がん疾患の緩和ケアについて学んでいければと思います。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)NMRD:non-malignant respiratory disease(非がん性呼吸器疾患)ALS:amyotrophic lateral sclerosis(筋萎縮性側索硬化症)HIV:human immunodeficiency virus(ヒト免疫不全ウィルス)ADL:activities of daily living(日常生活動作)CKM:conservative kidney management(保存的腎臓療法)ESKD:end stage kidney disease(末期腎不全患者)EOL:end of life(エンドオブライフ)GSF-PIG:GSF-prognostic indicator guidanceSPICT:supportive and palliative care indicator toolNRS:numerical rating scale(数値的評価スケール)IPOS:integrated palliative care outcome scalePAINAD:pain assessment in advanced dementia scaleRDOS:respiratory distress observation scaleNSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs(非ステロイド性抗炎症薬) 執筆:平原 佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター 1987年に島根大学医学部卒。現在、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター長ならびに、同オレンジほっとクリニック 地域連携型認知症疾患医療センター長として在宅医療、認知症診療に従事。専門は、在宅医療、非がん疾患の緩和ケアで、研修・研究センターでは在宅医療専門医・指導医として、多くの在宅専門医の育成を行う。学会活動では、日本在宅医療連合学会 代表理事、日本認知症の人の緩和ケア学会 理事長、日本エンドオブライフケア学会 副理事長を務めている。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1) Lynn J:Perspectives on care at the close of life. Serving patients who may die soon and their families.The role of hospice and other services.JAMA 2001;285(7):925-932.

患者視点で取り組む腹膜透析患者の生活支援とセルフケア指導の実際
患者視点で取り組む腹膜透析患者の生活支援とセルフケア指導の実際
特集
2026年2月3日
2026年2月3日

患者視点で取り組む腹膜透析患者の生活支援とセルフケア指導の実際

高齢化の進行とともに、在宅医療の重要性が増すなかで、腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は、患者さんの生活の質(QOL)を維持しながら続けられる腎代替療法として改めて注目されています。しかし、安定した治療には、本人やご家族の理解、セルフケア能力に加え、医療者による継続的な支援が不可欠です。本稿では、PD療法を受ける患者さんの生活支援とセルフケア指導について、訪問看護師と基幹病院の連携を軸に、当事者の視点を重視した支援のあり方を考察します。 腹膜透析(PD)患者の生活管理における支援 PD患者の生活管理は、「医療」と「日常生活」が密接に結びついている点に特徴があります。透析液の交換や出口部の管理、手技の清潔保持など、日常的に行う行為が直接的に治療の質にかかわります。 ここで重要なのは、患者さんの日常生活を理解した上での指導と支援です。たとえば、視力や手指の巧緻性に問題を抱える患者さんには、PDを行う部屋の明るさや手指の清潔保持の工夫が必要です。また、家庭内の空間や生活動線を観察し、最適な透析スペースの確保や感染リスクの軽減策を提案することも訪問看護師に求められる、かつ訪問看護師にしかできない役割です。 さらに、高齢PD患者さんでは、生活全体の「フレイル予防」や「転倒予防」も重要です。適度な運動の指導や食事内容のチェック、服薬状況の確認など、PD療法の枠を超えた包括的な生活支援が、生活の安定化、ひいてはPD治療の安定化につながります。訪問看護師がこれらのニーズに気づき、地域の医療資源や介護サービスとの連携を調整することが、患者さんの生活を守る要となります。 セルフケア指導と家族教育の工夫 PDのセルフケアには一定の技術と衛生管理が必要ですが、それ以上に大切なのは、患者さんとご家族がその意味を理解し、必要性に納得して実践できることです。手技の必要性を十分理解できていないと、技術的には可能でも、その段階をスキップし、治療に問題を起こし合併症につながる、といったことにもなりかねません。 基幹病院では、導入時の入院中に十分な教育が行われますが、退院後の継続的なフォローやフィードバックも同様に重要です。ここで訪問看護師が果たす役割は大きく、以下のような支援が効果的と考えます。 ●視覚的・体感的な指導文字や口頭で伝わりにくい部分は、実際の動作を一緒に行いながら確認し、分かりやすく指導します。使用する物品の配置や動線もともに確認することで、生活に即した工夫ができます。 ●「できること」に着目する支援できないことばかりに目を向けるのではなく、できることを評価し、徐々に自己管理の幅を広げていきます。こうしたかかわりが、患者さんの自信とモチベーションの維持につながります。 ●家族との対話を重視家族が過剰な負担感を持たずに関われるよう、役割分担や休息の確保を意識した支援を行います。特に高齢の配偶者が介護を担うケースでは、無理のない協力体制を築くことが継続の鍵となります。これは、患者さんの生活に身近な訪問看護師の「現場の眼」があってこそ実現する支援の一つです。 * * * PDを継続するなかで、不安や疑問が生じることは避けられません。そうしたときに「すぐ相談できる人がいる」という安心感が、患者さんやご家族のセルフケア力を下支えします。訪問看護師はその 「つなぎ役」として、基幹病院との情報共有や、タイムリーな報告・相談を担うことが求められます。そして、この支援体制の確立と維持は、PD療法の継続において不可欠です。 このような連携をより円滑に行うための手段として、近年では、医療情報をリアルタイムに共有できる情報通信技術(ICT)を活用したアプリケーションの導入が進んでいます。画像や動画を用いた情報のやり取りや、双方向性のコミュニケーションによって、基幹病院との効率的な連携が可能となっています。 基幹病院との連携で支える「生活に根差したPD」 PD療法は、「治療」ではありますが、「暮らしのなかで営まれる医療」であるともいえます。そのため、患者さんの生活に密着した視点と、医学的・専門的な視点とのバランスが求められます。 基幹病院は治療の安全性や技術的指導において中心的役割を担い、訪問看護師は先述したとおり、「その人らしい生活」を維持するための「現場の眼」として、PD治療において不可欠の存在です。 例えば出口部の感染が疑われた際には、単に処置を行うだけでなく、生活習慣や清潔行動の背景を踏まえた改善策を患者さんに提案しましょう。また、基幹病院には、感染の事実を報告するだけでなく、必要に応じて情報を共有し合うなど、双方向の支援体制を築いていくことが理想です。 この点については、ICTツールを活用することで、訪問看護の内容を写真つきで共有したり、病院からの指示をリアルタイムで確認できたりする体制が整いつつあります。病院-訪問看護-患者・家族が一体となってPD治療を支えられるようになってきたといえるでしょう。 おわりに 腹膜透析は、患者さん自身がご家族や訪問看護師、基幹病院の協力のもと、なるべく透析前に近い生活を取り戻すための治療であり、「在宅医療の未来」を象徴するものともいえます。患者さんの視点に立ち、セルフケアと生活支援の両輪で支えることが、PD療法の安定継続と患者さんの満足度につながります。 訪問看護師の温かいまなざしと専門性、そして基幹病院との協働が、「腎代替療法の一治療形態」としてではなく「暮らしを支える生活の一部としての腹膜透析」を実現する鍵となるでしょう。   執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。編集:株式会社照林社

足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】
足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年12月23日
2025年12月23日

足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例写真等を掲載しています。また、損傷を伴う皮膚画像を含みますので、あらかじめご了承ください。 NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「足のミカタ2~足浴&爪切りをもっと詳しく~」(2025年9月19日開催)では、2024年開催の「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」に続き、倉敷市立市民病院 形成外科 医長の小山先生を講師に招聘。足病のミカタ(見方)をはじめ、爪切りの方法など日常的なフットケアから治療の考え方まで、実践的な内容について詳しく解説いただきました。 セミナーレポート後編では、主に爪白癬についてまとめました。検査や治療の重要性や、実際の症例などをご紹介します。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら足のミカタ 2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】>>小山先生の過去セミナーレポート記事はこちら【足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~】シリーズ記事一覧 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 爪白癬の治療の必要性 爪白癬は、爪の中に白癬菌が多数存在するため、爪を切るたびに粉がパラパラと舞い上がります。その白癬菌を含む粉が、日常生活の中で足趾の間に付着することで、新たな白癬を引き起こすことがあります。同居者に感染が広がるケースも珍しくなく、体や顔にまで白癬が拡大して重症化する場合もあります。 また、爪が変形することによって、靴が履けなくなる、爪が切れなくなる、ひどい場合は分厚くなった爪が皮膚に食い込んでしまう(陥入爪)といったトラブルが起こることも。さらに、二次感染によって指が腫れたり膿んだりすると、歩行障害を招くおそれもあります。最近の研究では、爪白癬の影響で転倒リスクが高まることも指摘されています。 このように、爪白癬は見た目の問題にとどまらず、生活の質や安全にも影響を及ぼすため、適切な治療が推奨されます。 爪白癬の検査と治療 爪白癬にはかゆみや痛みといった症状がないこともあり、「年齢のせいだろう」と深刻に考えていない利用者さんは多くいらっしゃいます。しかし、可能性を否定できない場合はまず「爪白癬ではないか」と疑って検査をすることが重要です。 検査の方法としては、爪のかけらを特殊な薬で溶かし、それを顕微鏡で観察して白癬菌の有無を確認する「直接鏡検」というやり方が古くから行われています。しかし、最近になって抗原検査もできるようになりました。インフルエンザやコロナの抗原検査と同じ原理で、切った爪を溶かしてカートリッジに滴下し、反応があれば陽性です。往診でも特殊な機械を使わずに検査ができるので、重宝しています。 爪白癬の症例 ここからは、症例を通して爪白癬の治療の実際を見ていきましょう。2つのケースをご紹介します。 症例1「爪根部の緑膿菌感染」 「爪の根本が緑になり、触るとぷよぷよしていて、痛みもある」と来院された患者さん。爪白癬を起こし、指先から楔状(くさびじょう)に爪甲の裏へと感染が進んで、白癬菌が爪を食べた部分に水分が溜まっていたと思われます。 そこから緑膿菌や皮膚の常在菌が感染を起こし、根本部分に膿の袋ができて、痛みが生じていたのです。 治療としては、処置を行う指に局所麻酔を使用した上で、駆血。そして、慎重に後爪郭の皮膚を切開し、膿を排出していきます。すると、爪の根元が爪母から離れて隙間ができていました。切開部分は、一時的に開放創として処置・管理します。 その後、創面は上皮化傾向で薄い皮膚が確認され、新しい爪が生えてくる兆候が見られました。 しかし、このままでは白癬菌によって再び膿んでしまう可能性が高いので、まずは軟膏での治療を試みます。ただ、やはり軟膏では爪白癬は治りきらなかったため、爪外用液に変更。それから4ヵ月後には、白癬に感染した爪を端まで追い出せました。 症例2「爪外用液の副作用による皮膚炎」 爪白癬の塗り薬の副作用で皮膚炎が起きてしまった患者さん。爪の甲に薬を塗っていましたが、爪郭に小さい水疱が無数にでき、皮膚には浮腫が見られ、びらんを起こしている箇所もありました。 さらに足趾の間にも小さい水疱が形成され、薬を塗っていない部位にも皮疹が見られており、自家感作性皮膚炎を起こしてしまいました。 写真で振り返ってみると、塗り薬を使用する前から傷があったことが明らかに。そこに爪外用液という強い薬を塗ったことで、副作用が発生したと考えられます。 爪外用液の使用は直ちに中止し、ステロイド薬の服用・外用薬に切り替えると、皮膚の状態は改善しました。 なお、爪白癬を塗り薬で治療する場合は、爪切りをしたり、爪に穴を空けたりして、白癬菌がいる箇所にダイレクトに外用液が届くようにすると効きやすくなります。ただし、過剰に切ってしまうと爪の成長に支障が出る場合もあるので、様子を見ながら慎重に行う必要があります。治療が進んだ際は、爪甲の生え方に問題がないかも確認していきます。 在宅でのフットケアの考え方 在宅の現場では、さまざまな状況にある利用者さんを支えていることと思います。その中には、人生の最終局面を迎えている方もいらっしゃるでしょう。どんな治療目標を立てるにしても、私たち専門職は「ケアが継続される体制」を諦めてはいけないと考えています。 病院、在宅、施設を問わずみんなで力を合わせ、利用者さんの多様な状況や願いに寄り添い、治癒や現状維持に努める。そして、利用者さんが苦痛によって人権、命の質を損なう事態を防ぐ。それが、私が臨床でいつも大切にしていることです。 * * * 今回のセミナーでは、変形爪・白癬といった足病が、歩行障害や全身にかかわる病変につながる可能性について触れてきました。裏を返せば、足のケアをすることで利用者さんの全身の健康、生活を守れるかもしれないということです。 訪問看護師のみなさんには改めて足のミカタ(見方)を意識し、そこからどんな行動を起こすべきかを考えていただけたらと思います。そして、「利用者さんのミカタ(味方)になる」という姿勢でケアに臨んでほしいと考えています。今回の内容が、日々のケアの一助となれば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇日本フットケア・足病医学会(編):重症化予防のための足病診療ガイドライン,2022.〇東 禹彦(著):爪 基礎から臨床まで 改訂第2版,金原出版,2016.

足のミカタ2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】
足のミカタ2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年12月16日
2025年12月16日

足のミカタ2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例写真等を掲載しています。また、損傷を伴う皮膚画像を含みますので、あらかじめご了承ください。 2025年9月19日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「足のミカタ2~足浴&爪切りをもっと詳しく~」を開催しました。2024年に実施した「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」の続編として、今回も倉敷市立市民病院 形成外科 医長の小山先生が登壇。要望の多かった爪切りについても詳しく教えてくださいました。 今回はそんなセミナーの様子を、前後編に分けてレポート。前編では、爪切りの基本や変形爪への対処法についてご紹介します。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 爪切りの基本〜観察と道具の準備〜 75歳以上の一人暮らしの高齢者に「日常生活の中で困ること」を聞くと、「爪切り」と答える方が多くいらっしゃいます。そのため訪問看護師のみなさんにも、ぜひ爪切りの基本を押さえていただきたいと考えています。 爪の正常な状態への理解と血流評価 爪切りを始める前に、まず爪の正常な状態について理解し、血流評価を行うことが大切です。利用者さんの爪を観察する際は、正常な爪と比較しながら「どこに問題があるか」「どんな処置が必要か」を考えます。 血流評価は必ずしも病院で行う必要はなく、CRT(キャピラリー・リフィリング・タイム/ Capillary Refilling Time)や足背動脈の触知など、訪問先で実施できる方法があります。血の巡りが悪い足には、新しい傷を作らないよう注意してください。 万が一出血しても、血流が保たれていれば自然に止血しますし、傷も治ります。しかし、血流障害がある場合には、わずかな傷でも状態が急激に悪化し、感染や壊死などのトラブルにつながるおそれがあります。 血流評価の具体的な方法や爪の構造・爪切りの基本などの解説は、過去セミナー記事をご参照ください。>>血流評価の具体的な方法はこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】>>爪の基礎知識・爪切りの基本についてはこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】 【ミニ解説】~在宅での足浴の考え方(血流の状態に応じた対応)~ 爪切りの前に血流評価をするのと同様に、足浴を行う際も血流状態の把握が大切です。足浴は、患者さんの血流状態によって大きく方針が変わるため、以下の表のように分けると実務で迷いが少なくなります。ぜひ参考にしてみてください。 道具を用意する 爪切りをする際は、次の道具を準備します。変形爪のケアも、基本的にはこれらの道具で行います。 PPE(マスク、ゴーグル、手袋、エプロン) 敷物(新聞、ゴミ袋など):切った爪の飛散防止のため。シーツやゴミ袋でも代用可 爪切り 爪用ゾンデ(2種類) ピンセット ぬれタオル:爪切りした後の足を拭くために利用 ゾンデは、爪の垢を除去する道具で、爪甲と側爪郭、終爪郭(爪先側の爪床周囲の皮膚)を区別するのに使用します。私はヘラ状のものと、先が細くなっていてカーブしたものの2種類を用意しています。 爪切りは、のこぎり状のギザギザ刃で、爪をしっかり捉え滑りにくく、安定して切れるものがおすすめです。このタイプの爪切りは、ハンドル側の可動部を前方に移動させると(左下写真:赤丸部分)、テコの原理で力が増幅され、少ない力でも、しっかり爪を切ることが可能です。 変形爪の症例〜観察と処置〜 当院の外来には、爪切りで困っている方が数多くいらっしゃいます。多くの場合は変形爪で、肥厚していたり、縦横方向に巻いていたり、爪が指に食い込んでいたり……。本来は前に伸びるはずの爪が反り返って上に伸びてくる反り爪の方もいらっしゃいます。 今回はその中から、私が爪切りをしてきた変形爪の症例を2つご紹介します。「足のミカタ(見方)」の参考になればと思います。 症例1「上に突出した肥厚爪」 「爪切りができない」といって来院された患者さん。患者さんは「爪をはがすんでしょう?」と不安なご様子でした。 爪を観察してみると、上から見たときは「爪が大きい」と感じる程度ですが、横から見ると上に突出していました。 爪の下に角質が厚く積み重なり、爪甲が浮いた状態でした。「車のボンネットが開いたように」という表現がわかりやすいかもしれません。 さまざまな方向から観察しながら、重なった層を一枚ずつはがすように爪を切っていきました。 症例2「反り返って皮膚に食い込んでいる爪」 90代の女性の患者さんで、数日前から足が痛いとのことで来院されました。 爪を観察すると、すぐに指のつけ根が腫れていることに気づきます。さらにさまざまな方向から観察すると、爪甲が反り返って、爪先が後爪郭付近の皮膚に食い込んでいることがわかりました。 そこで、慎重に爪切りを行いました。なお、麻酔は使用していません。 爪切り後4日ほど経つと、皮膚に開いていた傷は自然と治癒しました。 高齢者に起こりやすい巻き爪、陥入爪 高齢者の爪トラブルとして多いのが、巻き爪です。爪甲は、圧がかからない状態では、縦にも横にも湾曲する性質をもっています。それが、歩行の際に地面からの圧を受け止めることで正常な形を保っているのです。 しかし、あまり歩かなくなったり、指先が浮くような「爪に圧がかからない歩き方」が常態化したりすると、爪は本来の曲がる性質を発揮して巻き爪になっていきます。 なお、陥入爪(巻いた爪が皮膚に食い込み、痛みを伴う状態)の基本的な治療は、足趾(とくに母趾)にしっかりと圧がかかるように踏み込むことです。ただし、外反母趾やADLの低下などで歩くことが難しく、かつ痛みや傷が見られるケースでは、病院の受診を検討してください。 >>関連記事巻き爪が起こる原因について足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】 高齢者の爪トラブルへの対応と実践 上述したように、高齢になると爪が厚くなる、変形するといったトラブルが起こりやすく、爪の状態に合わせた爪切りを行うことが大切です。ここでは、実例を交えながら代表的な変形爪に対する具体的な爪切りの方法やポイントをご紹介します。 巻き爪 爪の状態を確認するまずは爪の状態をよく観察し、どのように爪を切るかイメージします。巻き爪のように湾曲している爪を切るときは、小さく挟んで慎重に切ります。爪のカーブに沿うように、少しずつ少しずつ切り進めていくとよいでしょう。爪切りを爪の湾曲に沿わせることで、痛みを抑えながら安全に処置ができます。 爪切りを当てる角度を調整する爪切りをする際は、爪がたわまないように、爪の丸みに合わせて爪切りの角度を変えながら少しずつ回転させて切っていきます。このとき、無理な力を加えると痛みにつながるため、爪のカーブに合わせて爪切りを「回していく」ように動かすのがポイントです。 ゾンデで爪下の角質を除去する適宜ゾンデを使って、爪甲と終爪郭部の間にたまった角質をやさしく取り除きます。この工程で「どの部分を切るべきか」「どこまで切っても問題ないか」をしっかり確認しておきます。 爪を整える(長さの調整)角質を除去し、切る部分を確認したら、最後に爪の長さを整えます。これで、痛みを起こさず自然な形に整えることができます。 挟み爪 挟み爪と呼ばれる状態では、爪甲が強く湾曲し、終爪郭部の皮膚を巻き込んでしまうことがあります。 状態を確認しゾンデで爪の境目を整える(巻き込みの程度を把握)爪の状態を確認しながら、どの程度皮膚が巻き込まれているかを見極めます。ゾンデを使って爪甲と爪郭の境目を丁寧に探ります。このとき、境目にたまった角質をやさしく取り除きながら、どこまでが角質でどこからが爪なのかを確認します。角質を除去することで、爪の切るべきラインが明確になります。 爪甲側をカットする境界が確認できたら、爪甲側(浮いている部分)を慎重にカットしていきます。皮膚(=お家の壁)を傷つけず、爪甲(=屋根)だけを剥がすように意識すると、力加減のイメージがつかみやすいでしょう。角質の部分は少しずつハサミで切り進めます。切っていくと、赤や黒の斑点が見えることがありますが、これは角質内出血や爪・角質が皮膚に刺さったことで染み出した血の跡である場合が多いです。最終的に、上記の手順で確認しながら、爪は安全な長さまで整えて終了します。 肥厚爪 肥厚爪では、爪甲がU字状に強く湾曲していることがあります。挟み爪同様にU字の中央部分には皮膚が持ち上がって入り込んでいる場合があるため、単純に爪の長さを切ろうとすると、誤って皮膚を切ってしまう危険があるため注意します。 爪の状態を確認するまずは、皮膚の盛り上がりに注意しながら爪と皮膚の境界をしっかり確認します。 外側の爪から慎重にカットする 爪が皮膚を巻き込んでいるため、外側の爪から順に、剥離するようなイメージで切り進めます。無理に引っ張らず、少しずつ「浮いている部分」だけを処置するようにします。 終爪郭部との隙間を確認しながら整える処置が進むと、浮き上がっていた指先の皮膚(終爪郭部)が見えてくる段階に入ります。このとき、爪と皮膚の間のわずかな隙間を確認しながら、爪の先端を慎重にカットしていきます。焦らず、爪と皮膚を分ける意識を持つのがポイントです。 牡蠣殻のような爪 牡蠣殻のような爪とは、爪が層をなして重なり合っている状態を指します。 状態を確認する(層状に重なった爪)爪の状態をよく観察し、どのように切るかイメージします。 層と層の間に爪切りを入れる爪の先端から、層(レイヤー)の隙間に爪切りの刃先をそっと差し込みます。このとき、層を削ぐように切り進めるのがポイントです。パチンと切ると、層がふっと浮き上がり、爪の一部がはがれるように取れます。 浮いた層を剥がすように除去する層が浮いたら、雲母(うんも)を剥がすように優しく取り除きます。写真のように、爪の層と層の間に刃を入れて順番に処置していくと、重なった爪が自然にポロッと取れていきます。 陥入爪の処置「フェノール法」 私が病院で行う陥入爪の手術、「フェノール法」についてもご説明します。 まず、処置を行う指に局所麻酔を施し、知覚を遮断します。そして、血流を一時的に止めるため指をゴムで駆血し、皮膚に巻き込んでいる爪を根元まで切除。その後、切除した部分の爪母をフェノールという薬で焼灼し、爪の再生を防ぎます。最後にエタノールで中和、洗浄したら、手術は終了です。 フェノール法で治療を行うと、「の」の字に近い重度の巻き爪でも、爪が食い込まないようになります。 次回は、爪白癬の検査や治療の重要性、実際の症例について解説します。>>後編はこちら足のミカタ 2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】>>小山先生の過去セミナーレポート記事はこちら【足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~】シリーズ記事一覧 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚生労働省老人保健健康増進等事業.みずほ情報総研株式会社:一人暮らし高齢者・高齢者世帯の生活課題とその支援方策にかんする調査研究事業報告書(平成24年3月)〇日本フットケア・足病医学会(編):重症化予防のための足病診療ガイドライン,2022.〇東 禹彦(著):爪 基礎から臨床まで 改訂第2版,金原出版,2016.

ALS患者に必要なリハビリテーション【四肢編:拘縮予防が最大のポイント】
ALS患者に必要なリハビリテーション【四肢編:拘縮予防が最大のポイント】
コラム
2025年12月16日
2025年12月16日

ALS患者に必要なリハビリテーション【四肢編:拘縮予防が最大のポイント】

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。ALSは筋肉そのものの病気ではないため、過度な筋力トレーニング(以下、筋トレ)は逆効果になることもあります。では、どのようなリハビリテーション(以下、リハビリ)が適切なのでしょうか。今回は、病気の進行に応じた適切なリハビリや、四肢の拘縮を防ぐ工夫について、梶浦先生ご自身の実践を交えて解説していただきます。 ALS患者にとってのリハビリとは これまでのコラムでも書いてきましたが、ALSは運動ニューロンが障害されることで、脳からの命令が筋肉に伝わらず、結果的に筋肉が動かせなくなっていく病気です。 筋肉自体の病気ではありません。 そのため、リハビリのポイントは、 適度に筋肉や関節を動かしていくことで、残存する運動機能をできる限り温存し、筋肉や関節が硬くなるのを予防していくこと につきます。 過度な筋トレは逆効果 徐々に筋肉が細くなり、筋力が落ちていくため、筋トレがよいリハビリだと思われる方もしばしばいらっしゃいます。しかし、過度な筋トレは以下の理由により、ALS患者には逆効果となってしまいます。 (1)ALSでは運動ニューロンが徐々に壊れていき、正常に機能している筋肉も少なくなっていくため残された筋肉を無理に使いすぎると、その筋肉やそれを支配する神経に過剰な負荷がかかり、症状の進行を早める可能性があります。   (2)ALS患者は筋肉の再生能力が健常者より低下しており、筋トレによるダメージからの回復が不十分になるため過度な筋トレによってダメージを受けた筋肉が修復されないまま疲労が蓄積され、結果的に筋力が低下してしまうことがあります。 体が動かせるうちにできるリハビリ まだ体が動かせるうちは「今できる日常動作を無理のない範囲で、できる限り継続していく」というのが、適切なリハビリです。 例えば、まだ歩ける方は、歩くこと自体がよいリハビリになります。過度な負荷をかけずに、歩くことをできる限り継続してください。ただし、転倒するようになってきたり、足元がおぼつかないと感じるようになったときには、無理せず主治医に相談してください。 ベッド上の生活でできる四肢のリハビリ 私のように、四肢体幹が動かせなくなり、人工呼吸器を装着して、主にベッド上での生活がメインになってからは、四肢と体幹(呼吸筋)の2つに分けてリハビリを考えるとよいでしょう。今回はそのうちの、「四肢のリハビリ」について書いていきたいと思います。 筋力が落ちて、自分の力では四肢体幹が動かせなくなると、体は自然と筋肉の緊張がゆるみ、安静に保つための基本的な姿勢をとるようになります(図1)。 図1 安静を保つ姿勢のイメージ この姿勢が楽だからといって、長時間同じ姿勢でいると、徐々に関節や筋肉がその状態で硬くなってしまいます。この現象を「拘縮」と呼びます。 拘縮が引き起こす問題 拘縮を起こしてしまうと、次のような理由から、日常生活の中でさまざまな弊害が出てきてしまいます。 血流が悪くなる 関節痛や筋肉痛の原因になる 関節の可動域が制限される(例えば、着衣や車椅子への移乗などの動作が難しくなる) ベッド上での生活がメインになっている段階では、自分の力で筋肉や関節を動かすことが難しいため、以下のいずれかが必要です。  他者に動かしてもらう 自分でもできる拘縮を予防する工夫を取り入れる 他者に体を動かしてもらう場合 ALS患者さんによって、硬くなる部位は異なります。 上位運動ニューロンが優位に障害されている部位:緊張性麻痺(筋緊張が亢進) 下位運動ニューロンが優位に障害されている部位:弛緩性麻痺(筋緊張が低下) リハビリスタッフさんや看護師さんは、これを前提に、個々の症状に合った可動域訓練をはじめとしたリハビリテーションを行うようしてください。 ただ、一般的に「硬くなりやすい動き」もあります。例えば、 手指の関節を屈曲・伸展する動き(こぶしを握ったり、開いたりする動き) 前腕を回外する動き(前腕を前に出し、手のひらを上に向ける動き。ちなみに、手のひらを下に向ける動きは回内です) アキレス腱を伸ばす動き などが多いです。そのことを意識しながら、可動域訓練をするとよいでしょう。 私が実践している拘縮の予防方法 拘縮を予防していく上で最も重要なのは、「頻度」です。いくらリハビリスタッフや看護師さんたちに体を動かしてもらったとしても、時間は限られています。そこで、ポイントとなるのが、「拘縮を予防する動きをできるだけ日常生活の姿勢の中に取り入れること」です。ここからは、私が行っている拘縮予防の工夫をご紹介します。 尖足(せんそく)拘縮の予防 尖足拘縮とは、足関節が足底のほうへ屈曲し、つま先が下を向いた位置で固まってしまうことをいいます(図2)。これはALS患者によく見られる代表的な拘縮の1つなので、早期から予防していくことを強くおすすめします。 図2 尖足拘縮とは 足関節が足底のほうへ屈曲し、つま先が下を向いた位置で固まってしまう状態。 私はサポート器具を自作し、尖足拘縮を予防しています。今回はその作り方をご紹介します。 ベッドのフットボード側の長さを測り、その長さに収まるように、木の板をカットする(板のカットはホームセンターで行ってもらえます) 木の板の上に発泡スチロール製のブロックをボンドで貼り付ける(発泡スチロールのブロックはホームセンターで購入可)・図3のようにゴムバンドを板とブロックに巻き付けるとさらに強度が上がる図3 ゴムバンドで固定した板とブロック 2をベッドの足元に置いて、図4のように足首が垂直になるようにする 図4 ベッドの足元に置いた板とブロック 作り方は以上です。足が届かない場合は、板の後ろにクッションを入れて厚みを調整してみてください。足を伸ばしている間は、なるべくこの姿勢を維持することで尖足を予防することができます。 前腕の回内拘縮の予防 まずは、図5のようにベッド上で上腕・前腕をなるべく外側にひねり、手のひらを上に向けます(回外肢位をとる)。 図5 回外肢位 このとき、クッションのように軽い重りとなるものを手のひらに乗せて、回外肢位を保持します(図6)。 図6 回外肢位を保持する工夫 余力があれば、かかとをお尻につけるように膝を曲げ、膝をクッションにもたれさせます。そうすることで、回外肢位に負荷をかけつつ、アキレス腱の伸展も同時に行え、尖足予防にもなるため一石二鳥です。 私はベッドの上にいる時は、ほとんどこの2つの姿勢で過ごしています。ぜひ参考にしてみて下さい。 実際のポジショニングの様子は、動画でもご覧いただけます。▼enjoy ALS (YouTubeチャンネル)https://www.youtube.com/@S.Kaji_SND ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。※チャンネル内の「ALS_自分でできる四肢の拘縮予防」の動画をご参照ください。  注意点:必ず専門家と相談を!今回ご紹介した拘縮予防の方法は、個人の拘縮の部位や症状によります。必ず、主治医やリハビリスタッフの同意のもとで行ってください。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際
腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際
特集
2025年12月2日
2025年12月2日

腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際

腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は患者さんの自宅で行う治療のため、医療者の直接介入が限られ、合併症やトラブルへの対応が本人や支援者の判断に委ねられることが少なくありません。そのため、訪問看護師が定期的に介入し、問題を早期に把握・対応することがPD療法の安定継続においてきわめて重要です。今回は、PDの代表的なトラブルと訪問時に実施できることを解説します。 腹膜透析(PD)における代表的なトラブル PDの代表的なトラブルには、腹膜炎、カテーテル関連感染、注液・排液の異常、体液量の異常、操作エラー・コンプライアンス低下が挙げられます。順に解説していきます。 PD腹膜炎(PD peritonitis) PD療法離脱の主要原因で、さらに生命予後にも影響しうる最も重大な合併症の1つです。排液混濁が典型的な所見で、腹痛、発熱、悪心・嘔吐を伴うこともあります。 診断には排液の細胞数と細菌培養など病院での検査が必要であり、在宅と病院の速やかな連携が早期の治療開始につながります。原因は手技不良による細菌感染やカテーテル関連感染(出口部感染・皮下トンネル感染)からの波及、腸管由来の内因性感染があり、感染経路によって病原微生物も異なり迅速かつ正確な診断が重要です。表1に腹膜炎の診断基準を示します。 表1 腹膜炎の診断基準 項目内容診断のポイント排液混濁米のとぎ汁状に排液が白濁することが特徴。腹膜炎が強い場合、血性排液となることもある迅速な診断のために、すぐに排液白血球数と好中球割合、培養検査を行う排液白血球数排液検査で白血球数100/μL以上、かつ好中球50%以上を占める新鮮な排液を用い、採取後迅速に検査を行う排液培養検査排液のグラム染色や培養検査で細菌や真菌を検出するグラム染色で迅速診断、培養検査で確定診断を行い、薬剤感受性検査も実施する腹痛や圧痛腹痛を伴うこともあるが、軽微あるいは無症状のことも多い自覚症状の頻度は低く、ほかの基準と総合的に腹膜炎を診断する カテーテル関連感染(出口部感染、皮下トンネル感染) 出口部感染は、出口部の発赤、腫脹、膿性浸出液、圧痛、発熱などを認める場合に強く疑われます。特に膿性浸出液が持続したり、皮下トンネルに波及している場合には、腹膜炎のリスクが上昇します。出口部の評価として「CAPD出口部スコア」があります(表2)。 表2 CAPD出口部スコア 項目0点1点2点腫脹なし<0.5cm 出口部のみ>0.5cm and/or トンネル部痂皮なし<0.5cm>0.5cm発赤なし<0.5cm>0.5cm疼痛なし軽度重度排膿なし漿液性膿性 4点以上を出口部感染と判断するCAPD:Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis、連続携行式腹膜透析文献1を参考に作成 注液・排液の異常 排液が困難であったり、注液時に抵抗感がある場合、カテーテル位置異常や腸管癒着、フィブリン閉塞などが原因として考えられます。注液・排液不良があるとPD療法が継続できないため、速やかな対応が必要になります。便秘もカテーテル位置異常や排液不良の原因となるため、日々の便通管理も重要です。 体液量の異常 体重増加、浮腫、血圧上昇は体液過剰の最初の兆候で、進行すると胸水貯留や呼吸困難をきたし、緊急対応が必要となる危険があります。反対に除水過剰による脱水、それによる低血圧、倦怠感も見逃してはなりません。 操作エラー・コンプライアンス低下 キャップの閉め忘れや不足のチューブ破損を含めた無菌的操作の手技エラーは腹膜炎を引き起こします。また、日々のPD療法が計画通り遵守されない場合は、十分な溶質除去ができず、電解質異常が悪化する恐れがあります。 訪問時における看護師の対応 感染兆候を認めたら速やかに医師に連絡 訪問時に排液の色調・透明度を確認します。混濁がある場合は腹膜炎の可能性があるため、患者さんの腹部症状や体温などの観察と合わせ、速やかに主治医への連絡が必要です。出口部や皮下トンネル部は視診・触診により発赤、腫脹、圧痛や浸出液の有無を確認します。特に膿性浸出液は感染症の重要な所見です。主治医に早期に相談して培養検体の採取を行います。 注液・排液状態を確認し原因に応じ対処 排液不良(出が悪い)はカテーテル位置異常の可能性があるため、体位変換(座位→側臥位での排液)や、軽い腹部マッサージ、深呼吸などを行い、排液状態の変化を確認します。排液不良が持続する場合は速やかに主治医に相談してください。 注液に抵抗がある場合は、カテーテルがフィブリンで閉塞している可能性があります。透析バッグを加圧し透析液の圧入で改善する場合もありますが、改善しない際は、同じく主治医へ報告してください。 便秘が排液不良の原因となることもあり、排便状況の聴取も大切です。 バイタルサイン・体重・浮腫を評価 体重とその変化、血圧・脈拍・SpO₂の測定、下肢浮腫の有無で体液バランスの異常を推察できます。体重増加や浮腫の悪化があれば、除水量や食事内容などから原因を推測して指導を行ったり、透析条件の見直しの必要性について主治医と相談したりすることもあります。 手技の観察、必要に応じて再指導 患者さんの実際の手技(注液・排液操作)を観察し、無菌的操作が遵守されているか、接続・切断操作が正しいかを確認します。問題があれば、その場で指導を行い、必要に応じて主治医や病院看護師に教育用の資料を提供してもらい、再指導計画について相談をしてください。 精神的サポートで治療継続を支援訪問時に日常生活の不安や抑うつ傾向を訴える患者さんもいます。傾聴と共感を基本とした関わりが重要です。治療継続のモチベーションを維持するため、小さな成功体験の共有やPD療法の意義の再確認も効果的と考えています。 訪問看護の意義と今後の展望 PD患者さんの在宅療養の質を維持・向上させる上で、訪問看護の果たす役割は極めて大きくなっています。単なる観察だけでなく、「異常の予兆の察知」「緊急時の初動対応」「治療継続の支援」という多面的機能が求められています。 近年ではICTを活用した遠隔支援やAIを活用した意思決定支援ツールも登場し、訪問看護師の在宅での判断支援を強化する環境も整いつつあります。 今後は、訪問看護師がPDの専門性を高め、PDチームの主要メンバーとして積極的に治療管理に参画する体制の構築が不可欠です。その結果、病院内外での多職種連携が強化され、患者さん一人ひとりに合わせた柔軟な個別支援の提供が可能となり、PD療法の継続性と安全性が高まっていくものと考えます。 * * * PD療法の支援に活用できる「訪問看護師用チェックリスト」をご用意しました。各チェック項目に基づいて、評価や対応内容を記録できるようになっています。また、本記事でご紹介した「腹膜炎の診断基準」や「CAPD出口部スコア」もあわせてご確認いただけますので、日々のケアにぜひお役立てください。>>訪問看護師用チェックリスト ~在宅腹膜透析の安定継続のために~  執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。編集:株式会社照林社 【参考文献】○Schaefer F,Klaus G,Müller-Wiefel DE,et al:Intermittent versus continuous intraperitoneal glycopeptide/ceftazidime treatment in children with peritoneal dialysis-associated peritonitis. The Mid-European Pediatric Peritoneal Dialysis Study Group(MEPPS).J Am Soc Nephrol 1999;10(1):136-145.○日本透析医学会学術委員会腹膜透析ガイドライン改訂ワーキンググループ 編:腹膜透析ガイドライン2019.医学図書出版,東京,2019.

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