疾患知識に関する記事

終末期における輸液による栄養療法 基本的な考え方と家族への関わり
終末期における輸液による栄養療法 基本的な考え方と家族への関わり
特集
2026年10月20日
2026年10月20日

終末期における輸液による栄養療法 基本的な考え方と家族への関わり

終末期の利用者さんに対して、水分や栄養を補給する目的で輸液療法が行われることがあります。しかし、その必要性や効果は、利用者さんの状態によってさまざまです。今回は、輸液による栄養療法について、終末期における基本的な考え方やご家族の思いに寄り添った対応について解説します。 栄養療法の基本的な考え方 食事は、単に必要な栄養を補う手段ではなく、生きる喜びや安心感をもたらす重要な要素であり、人とのコミュニケーションの場でもあります。そのため、生活の質(QOL)を維持・向上させる上で欠かせない役割を担っています。 しかし人はいずれ老いて、また病気によって栄養障害をきたすようになります。栄養状態の悪化は、筋肉量や体力の低下を招き、日常生活動作(ADL)の低下を引き起こします。これにより褥瘡、転倒・骨折、多臓器障害などのリスクが高まります。 終末期においては、利用者さんの原疾患の種類や病状進行のスピードを適切に見極め、それに基づいた個別の栄養管理が求められます。経口摂取が可能であれば、それが最優先です。しかし、病態によっては経口摂取が困難になる場合も多く、先を見据えた適切な栄養投与ルートの確保が不可欠です。これは、必要な薬剤を確実に投与できるルートを確保するという点でも重要な意味をもちます。 利用者さんやご家族に病状や治療の選択肢を十分に説明し、本人にとって最も負担が少なく、QOLを維持できる栄養管理方法を一緒に考える姿勢が求められます。 血管ルートの選択とタイミング 予後が1~2週間と短くなると、末梢血管の確保が困難になるケースが多く、利用者さんに苦痛を与えてしまうことがあります。そのため、ADLが良好な時期にPICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)、CVポート、胃瘻の造設などについてあらかじめ検討し、必要な処置を早期に実施することが望まれます。 以下は、進行によって特定の合併症が予測される疾患の例です。これらの進行を見越して、適切なタイミングで介入を行うことが、利用者さんのQOLの維持や在宅療養の継続支援につながります。 ●食道がん食道の完全閉塞が予想される場合は、胃内視鏡検査が可能なうちに胃瘻の造設を提案する。●肺がん反回神経麻痺により嗄声をきたし、誤嚥性肺炎のリスクが増大する。早めの胃瘻造設か、中心静脈栄養の導入を提案する。●腹膜播種腸閉塞の進行により嘔吐が出現する可能性がある。早めの中心静脈栄養の導入を提案する。 誤嚥性肺炎は、抗菌薬の投与や吸引・口腔ケアなど多くのケアを要し、利用者さん・ご家族・訪問看護師など関わる人たちすべての負担となります。可能であれば早期に中心静脈カテーテルを挿入し、在宅中心静脈栄養(HPN)を導入しましょう。 ただし、初回訪問時にすでに予後が数日程度と見込まれる場合は、HPNや経腸栄養などの積極的な栄養療法は控えます。代わりに、利用者さんの活動量に応じた必要最小限のエネルギー量を末梢静脈輸液製剤で補い、過度な水分負荷を避けることが重要です。その上で、症状緩和を目的とした薬剤(オピオイドやステロイドなど)の持続皮下注射を優先する対応が適切と考えます。 経口摂取をめぐるご家族の思い・看護の役割 「食べられなくなること=死」と直感的に捉え、何とか食べさせたいと願うご家族は少なくありません。また「死んでもいいから食べたい」と訴える利用者さんも多く、「食べられなくなったら点滴をしてもらわないといけない」と認識している人もいます。 訪問看護師の皆さんには、主治医の判断を踏まえて、まず経口摂取が可能かどうかを正確に評価し、経口摂取が可能であれば以下のような支援や助言を行っていただきたいです。 ミキサー食やとろみ食など形状を調整した食事の提案 味や香り、温度、盛り付けなどの工夫 ST(言語聴覚士)による嚥下訓練の実施 歯科衛生士や看護師による口腔ケア・リハビリテーションの実施 一方、経口摂取が困難な場合は、末梢静脈栄養(点滴)を行うか、あるいは自然な経過として受け止め見守るか、本人とご家族の価値観に寄り添いながら、丁寧に話し合いを重ねていくことが大切です。 栄養療法に関するガイドラインの要点 利用者さんやご家族と栄養療法の方針について話し合う際には、医学的な知識が欠かせません。そのため、関連するガイドラインでどのように述べられているのかを、あらかじめ確認しておくことが大切です。以下に、代表的なガイドラインで示されている要点を紹介します。 「がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編」(日本栄養治療学会)腸管が機能している場合は、経口摂取または胃瘻を選択する。使用困難な場合は静脈栄養を選択する。 「静脈経腸栄養ガイドライン 第3版」(日本静脈経腸栄養学会(現:日本臨床栄養代謝学会))栄養状態の低下はがん患者のQOLを低下させ、生命予後を悪化させる。また定期的に栄養アセスメントを行い、栄養不良に陥る前に栄養管理を開始することが推奨されている。 「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」(日本緩和医療学会)QOL向上のエビデンスが乏しいため、消化管狭窄・閉塞の有無にかかわらず、高カロリー輸液は基本的に推奨されない。 在宅療養においては、日常生活を継続していくために、ADLを長く保つことが重要です。そのためにはがん終末期においても労作に応じた栄養が必要と考えています。予後が数日となった段階での積極的栄養療法は控えるべきですが、それまでの経過における必要エネルギー量の投与は、ADLやQOLを保つために重要です。 ご家族に対して必要となるサポート 食事摂取量が日ごとに減っていく過程を見守るご家族は、強い不安や葛藤を抱えています。在宅における終末期の栄養選択に正解はありませんが、医学的根拠に基づく説明を丁寧に行い、今後の方針について早い段階から対話を重ねることが、ご家族の納得感および心のケアにつながります。 「点滴ひとつしてもらえなかった」「点滴をいっぱい入れたことで身体がムクムクになってしまい、本人の姿とはかけ離れてしまった」「医師から食事を中止するように言われていたのに食べさせてしまい、肺炎になって苦しんで亡くなってしまった」……こういった後悔が残らないよう、希望と現実をつなぐ「架け橋」になる姿勢を大切にしましょう。 執筆:杉本 由佳すぎもと在宅医療クリニック 院長1995年名古屋市千種区にすぎもと在宅医療クリニック開業。在宅栄養管理、緩和医療が専門分野。 所属学会日本在宅医療連合学会(専門医・指導医・評議員・特任理事)日本緩和医療学会(認定研修施設 認定医)日本栄養治療学会(認定医) その他、活動実績● 日本在宅医療連合学会「がん疾患の在宅医療人材育成講座」執筆● 原著論文「在宅静脈栄養における脂肪乳剤の使用状況と問題点 」Medical Nutritionist of PEN Leaders Vol.2 No.1 2018 に掲載 編集:株式会社照林社 【参考文献】○日本栄養治療学会編:がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編.金原出版,東京,2024.○日本静脈経腸栄養学会編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.照林社,東京,2013. ○日本緩和医療学会:終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版.金原出版,東京,2013.

ターミナルケアとは?在宅での支援内容
ターミナルケアとは?在宅での支援内容
コラム
2026年10月20日
2026年10月20日

ターミナルケアとは?在宅での支援内容

ターミナルケアとは、病気の治癒が難しく、人生の最終段階にある方に対して、身体的・精神的な苦痛をやわらげ、その人らしい時間を過ごせるように支えるケアです。終末期ケアとも呼ばれます。 ターミナルケアでは、痛みや息苦しさなどの症状緩和だけでなく、本人の希望、家族の不安、療養場所の選択、看取りに向けた準備なども大切になります。この記事では、ターミナルケアの意味、緩和ケアとの違い、在宅で受けられる支援、訪問看護での観察ポイントを解説します。 ターミナルケアとは 2009年に全日本病院協会が発表したガイドラインでは、「終末期」とは、医師が客観的な情報を基に治療により病気の回復が期待できないと判断すること、患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師などの関係者が納得すること、患者・家族・医師・看護師などの関係者が死を予測し対応を考えること、これら3つの条件を満たす場合をいうとしています。 終末期に行われるターミナルケアは、人生の最終段階にある方に対して、苦痛をやわらげながら生活の質を保つためのケアです。病気を治すことだけを目的にするのではなく、本人が何を大切にしたいか、どこで過ごしたいか、どのような医療やケアを望むかを確認しながら支援します。また、本人・家族などの精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うことが必要です。 人生の最終段階における医療やケアでは、本人が医療・ケアチームと十分に話し合い、自分の意思に基づいて方針を決めることが重要とされています。本人の意思が確認できない場合でも、家族などと話し合いながら、本人にとって最善と考えられる方針を検討します。 ターミナルケアの対象は、がんだけではありません。心不全、呼吸器疾患、神経難病、認知症、老衰など、さまざまな病気や状態が含まれます。大切なのは、病名だけで判断するのではなく、本人の状態や希望、生活背景に合わせて支援することです。 緩和ケアとの違い ターミナルケアと似た言葉に、緩和ケアがあります。緩和ケアは、病気による身体や心のつらさをやわらげるケアです。終末期だけに行うものではなく、病気と診断された早い段階から受けることができます。 一方、ターミナルケアは、人生の最終段階にある方を支えるケアとして使われることが多い言葉です。医療の開始・中止・変更、痛みや息苦しさへの対応に加え、残された時間をどう過ごすか、家族とどのように関わるか、どこで最期を迎えたいかといった内容も含まれます。 どちらも、本人と家族の苦痛をやわらげ、その人らしい生活を支えるという点では共通しています。現場では、ターミナルケアと緩和ケアを切り離して考えるのではなく、必要な支援を組み合わせることが大切です。 在宅ターミナルケアで受けられる支援 在宅ターミナルケアでは、自宅や施設など、本人が過ごしたい場所で療養を続けられるように支援します。訪問診療、訪問看護、訪問介護、訪問薬剤管理、福祉用具、介護サービスなどを組み合わせて体制を整えます。 在宅で受けられる支援には、以下があります。 痛みや息苦しさへの対応 吐き気、便秘、倦怠感などの症状緩和 服薬管理 点滴や酸素療法などの医療処置 食事や水分摂取の相談 口腔ケア 排泄ケア 褥瘡予防や皮膚ケア 入浴や清拭の支援 家族への介助方法の説明 急変時や看取り時の連絡体制づくり 本人や家族の心理的支援 ターミナルケアでは、「何かをすること」だけが支援ではありません。静かにそばにいること、本人の言葉を聞くこと、家族が不安を話せる場をつくることも大切なケアです。 訪問看護の役割 在宅でのターミナルケアでは、訪問看護が重要な役割を担います。訪問看護師は、本人の症状や生活状況を確認し、医師やケアマネジャー、介護職、薬剤師などと連携しながら療養生活を支えます。 訪問看護で行う支援には、以下があります。 バイタルサインの確認 痛みや息苦しさの観察 薬の効果や副作用の確認 医師の指示の下での医療処置の実施 皮膚や褥瘡の予防・ケア 食事や水分摂取の確認 排泄状況の確認 意識状態の変化の確認 家族への介助方法の説明 急変時の対応相談 看取りに向けた支援 本人の状態が変化しやすい時期には、訪問回数や連絡体制を見直すことがあります。夜間や休日に不安が強い場合は、緊急時の連絡先、どのようなときに連絡するか、救急搬送を希望するかなどを、あらかじめ確認しておくことが大切です。 本人の意思を確認する ターミナルケアで大切なのは、本人の意思をできる限り確認することです。病状が進むにつれて、認知機能の低下などにより、本人が思いを言葉にしにくくなることがあります。そのため、意思を示せるうちだけでなく、日々の関わりの中で専門職が機会をとらえ、本人の意向を繰り返し確認していくことが大切です。 どのような治療を受けたいか、どこで過ごしたいか、誰にそばにいてほしいか、何を大切にしたいかは、人によって異なります。 本人の希望は、一度決めたら変えられないものではありません。体調や気持ち、家族の状況によって変わることがあります。そのため、医療やケアの方針は、本人、家族、医療・ケアチームで繰り返し話し合うことが大切です。 話し合っておきたい内容には、以下があります。 どこで療養したいか どのような治療を望むか 延命治療についてどう考えるか 苦痛が強いときの対応 急変時に救急搬送を希望するか 誰に意思決定を支えてほしいか 家族に伝えておきたいこと 最期の時間をどのように過ごしたいか このような話し合いは、本人や家族にとって負担になることもあります。無理に一度で決めようとせず、体調や気持ちに配慮しながら進めることが大切です。 家族への支援 ターミナルケアでは、本人だけでなく家族への支援も欠かせません。家族は、介護や見守り、医療判断への不安、仕事や生活との両立、看取りへの心配など、さまざまな負担を抱えることがあります。 家族支援では、以下のような内容を確認します。 介護を担う人は誰か 夜間の見守りができるか 家族の休息時間があるか 不安を相談できる相手がいるか 医療処置や薬の管理に不安がないか 急変時の対応を理解しているか 看取りについて話し合えているか 在宅療養を支える家族には、休息の機会も必要です。短期入院や介護サービスを利用して、家族の身体的・精神的な負担を軽減する選択肢もあります。 家族が「もっとできたのではないか」と自分を責めることもあります。医療・介護職は、家族の頑張りを認め、不安や迷いを受け止めながら支えることが大切です。 ターミナルケアでは、家族の言動に戸惑いや違和感を覚えることもあるかもしれません。そのようなときは、「対応が難しい家族」と捉えるのではなく、つらい状況の中で気持ちが揺れ動き、支えを必要としている存在として理解してみましょう。家族の思いに目を向けることで、医療・介護職も中立的な立場で関われるようになるでしょう。 在宅での観察ポイント 終末期は、病状や体力が少しずつ変化していくことがあります。訪問看護や介護の現場では、症状の変化と本人の苦痛を丁寧に観察します。 確認したいポイントは、以下のとおりです。 痛みの有無と強さ 息苦しさの有無 表情や反応 意識状態 食事量や水分摂取量 尿量 便秘や下痢の有無 吐き気や嘔吐の有無 眠れているか 皮膚の状態 褥瘡の有無 口腔内の乾燥 むくみ 家族の疲労や不安 記録する場合は、以下のように具体的に書くと共有しやすくなります。 「本日、食事摂取は数口程度。水分は少量ずつ摂取可能。痛みの訴えは少ないが、体位変換時に顔をしかめる様子あり。呼吸苦の訴えなし。家族より夜間の不安について相談あり。」 「午前中から傾眠傾向。呼びかけには開眼するが発語少ない。尿量は前日より減少。口腔内乾燥あり。家族へ状態変化を説明し、主治医へ報告。」 このように、本人の症状だけでなく、家族の不安や介護負担も記録しておくと、チームで支援しやすくなります。 費用や利用できる制度 ターミナルケアにかかる費用は、利用するサービスや事業所の加算状況、保険の種類、自己負担割合、医療処置の内容、訪問回数などによって異なります。自宅での療養では、医療保険や介護保険を使って、訪問診療、訪問看護、訪問介護、福祉用具などを利用することがあります。 介護保険を使う場合は、要介護認定やケアプランが関係します。医療保険で訪問看護を利用する場合もあります。どちらを使うかは、病名や状態、医師の指示、制度上の扱いによって変わるため、ケアマネジャー、訪問看護ステーション、医療機関へ確認しましょう。 費用面の不安がある場合は、早めに相談することが大切です。医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどに相談すると、利用できる制度やサービスを整理しやすくなります。 まとめ ターミナルケアとは、人生の最終段階にある方が、できるだけ苦痛を少なく、その人らしく過ごせるように支えるケアです。痛みや息苦しさなどの症状緩和だけでなく、本人の意思決定、家族支援、療養場所の選択、看取りに向けた準備も含まれます。本人や家族の思いを繰り返し聞きながら、その人らしい最期を迎えられるよう、医療やケアを進めていくことが大切です。 そのために、訪問診療、訪問看護、訪問介護、薬剤師、ケアマネジャーなど、多職種が連携して支援し、必要なサービスを整えることが大切です。 訪問看護や介護の現場では、痛み、息苦しさ、食事量、水分摂取量、意識状態、皮膚の状態、家族の疲労や不安を継続して観察します。本人と家族が安心して過ごせるよう、早めに話し合い、チームで支える体制をつくりましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 厚生労働省:「人生会議とは?」https://www.mhlw.go.jp/acp-jinseikaigi/about/2026/10/8閲覧 厚生労働省:「人生会議してみませんか」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html2026/10/8閲覧 厚生労働省:「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf2026/10/8閲覧 国立がん研究センター がん情報サービス:「緩和ケア」https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/relaxation/index.html2026/10/8閲覧 国立がん研究センター がん情報サービス:「緩和ケア病棟」https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/kanwa_care_hosp.html2026/10/8閲覧 厚生労働省:「在宅医療の推進について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061944.html2026/10/8閲覧 全日本病院協会:「終末期医療に関するガイドライン ~よりよい終末期を迎えるために~」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/dl/s1224-14f.pdf2026/10/8閲覧 厚生労働省:「人生の最終段階における医療・介護(参考資料)」https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001104699.pdf2026/10/8閲覧 蓮見 歩,中山 美由紀,井上 敦子:「がん終末期の意思決定で生じる家族内葛藤に対する家族支援専門看護師の実践―急性期病院からの移行に焦点をあてて―」.家族看護学研究,27(1),51-62,2021.https://jarfn.or.jp/newsletter/doc/kikanshi/27-1/27-1_6.pdf2026/10/8閲覧

マイコプラズマ肺炎とは?症状と治療
マイコプラズマ肺炎とは?症状と治療
コラム
2026年10月20日
2026年10月20日

マイコプラズマ肺炎とは?症状と治療

マイコプラズマ肺炎とは、「肺炎マイコプラズマ」という細菌によって起こる呼吸器感染症です。発熱、だるさ、頭痛、のどの痛みなどから始まり、乾いた咳が長引くことがあります。 子どもや若い世代に多いとされていますが、大人がかかることもあります。症状が軽い場合もある一方で、肺炎に進行したり、咳が数週間続いたりすることもあります。この記事では、マイコプラズマ肺炎の症状、原因、感染経路、治療、受診の目安、ご自宅で見ておきたいポイントを解説します。 マイコプラズマ肺炎とは マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマに感染することで起こる肺炎です。感染した人、特に小児の多くは気管支炎などの軽い症状で済むことがありますが、一部では肺炎となり、重症化する場合もあります。厚生労働省によると、潜伏期間は比較的長く、感染してから発症するまで2〜3週間程度とされています。 マイコプラズマ肺炎は、一般的な肺炎と比べて症状が軽く、歩ける程度の体調で経過することもあります。そのため「軽い風邪が長引いている」と思われることがあります。ただし、咳が長く続く、発熱が続く、息苦しさや呼吸時に異常な音がある場合は注意が必要です。 主な症状 マイコプラズマ肺炎の症状は、かぜ症状に似て始まることがあります。最初は発熱、頭痛、倦怠感、のどの痛みなどがみられ、その後、咳が目立つようになることがあります。 主な症状には、以下があります。 発熱 頭痛 倦怠感 のどの痛み 乾いた咳 痰が少ない咳 息苦しさ 特徴的なのは、咳が長引きやすいことです。発熱が落ち着いたあとも、乾いた咳が3〜4週間続く場合があります。また、厚生労働省によると、5〜10%未満の方で、中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎などの合併症を伴う例も報告されています。 また、CDCによると5歳未満の幼い子どもたちは、下痢、くしゃみ、嘔吐など異なる症状を示すことがあるとしています。 風邪との違い マイコプラズマ肺炎は、初期には風邪と見分けにくいことがあります。ただし、次のような場合は、単なる風邪ではなくマイコプラズマ肺炎などの可能性も考えます。 咳が1週間以上続いている 乾いた咳が強い 発熱が長引く 家族や学校、職場で流行している 咳で眠れない 息苦しさがある 風邪症状だけで病名を判断することはできません。咳や発熱が長引く場合は、診察や検査が必要になることがあります。 感染経路とうつる期間 マイコプラズマ肺炎は、主に飛沫感染や接触感染によって広がります。咳やくしゃみのしぶきを吸い込んだり、病原体がついた手で口や鼻を触れたりすることで感染することがあります。感染拡大には、家族、学校、職場など、近い距離で過ごす環境が関係します。 潜伏期間が2〜3週間程度と長いため、いつ感染したか分かりにくいことがあります。また、症状が軽い人から広がる場合もあります。家庭内で咳が続く人がいる場合は、手洗い、咳エチケット、換気を意識しましょう。 治療の基本 マイコプラズマ肺炎の治療では、症状や検査結果、全身状態に応じて抗菌薬が使われることがあります。軽い感染では自然に回復する場合もありますが、肺炎と診断された場合は抗菌薬による治療が行われることがあります。 肺炎マイコプラズマは、ほかの一般的な細菌と性質が異なり、ペニシリン系などの抗菌薬が効かないという特徴があります。このため、どの薬を使うかは医師が判断します。自己判断で以前の薬を使ったり、途中で服用をやめたりせず、医師の指示に従いましょう。 咳がつらい場合でも、市販薬だけで長く様子を見るのは避けたほうがよい場合があります。発熱や咳が続く、息苦しさがある、食事や水分が取れない場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 何科を受診する? マイコプラズマ肺炎が疑われる場合は、内科、呼吸器内科、小児科などで相談できます。子どもの場合は小児科、大人の場合は内科や呼吸器内科が選択肢になります。 受診を考えたい症状は、以下のとおりです。 発熱が続いている 咳が長引いている 咳で眠れない 息苦しさがある 胸の痛みがある 食事や水分が取れない ぐったりしている 呼吸が速い SpO₂(血中酸素飽和度)が普段より低い 高齢者や基礎疾患のある方に症状がある 喘息や慢性呼吸器疾患がある方では、咳や息苦しさが悪化することがあります。普段の呼吸状態と違う場合は、早めに相談しましょう。 ご自宅で見ておきたいポイント ご自宅で過ごしている方に咳や発熱が続くときは、咳や発熱だけでなく、呼吸の様子や食事・水分がとれているかもあわせて見ておくことが大切です。訪問看護や介護の現場でも、同じ点を確認します。特に高齢者や基礎疾患のある方では、症状の訴えがはっきりしないことがあります。 確認したいポイントは、以下のとおりです。 発熱がいつからあるか 咳の強さ 咳の続いている期間 痰の有無 息苦しさの有無 呼吸数(1分間の呼吸の回数) SpO₂(パルスオキシメーターで測れる場合) 胸の痛みの有無 食事量 水分摂取量 睡眠への影響 家族や周囲の流行状況 薬を指示どおり飲めているか 普段の状態との違い 受診や相談のときに伝えやすいよう、以下のようにメモしておくと役立ちます。 「5日前から熱と咳があります。今朝の体温は37.5℃くらいです。乾いた咳が続き、夜は咳で眠りにくそうです。SpO₂は95%でした。食事はいつもの半分ほどです。家族にも咳が出ている人がいます。」 「熱は下がってきましたが、咳が2週間続いています。話しているときに咳き込みます。息苦しさは本人からは出ていませんが、階段を上ると息が切れるようです。受診について主治医に相談する予定です。」 このように、症状の経過と普段との差を伝えることで、医師や看護師が状態を判断しやすくなります。 家庭でできる予防 マイコプラズマ肺炎を完全に防ぐことは難しいですが、基本的な感染対策で広がりを抑えることができます。特に、咳がある人がいる家庭や施設では、手洗い、咳エチケット、換気を続けることが大切です。 予防のポイントは、以下のとおりです。 石けんと流水で手を洗う 咳やくしゃみをするときは口と鼻を覆う マスクを適切に使う タオルの共有を避ける 室内を換気する 体調不良時は無理に登校・出勤しない 咳が続いている間は、周囲へ広げない配慮も必要です。子どもの登園・登校や大人の出勤については、症状、全身状態、医師の指示、施設や学校のルールに沿って判断しましょう。 まとめ マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマによって起こる呼吸器感染症です。発熱、頭痛、倦怠感、のどの痛みなどから始まり、乾いた咳が長く続くことがあります。 風邪と似た症状で始まるため、初期には見分けにくいことがあります。咳が長引く、発熱が続く、息苦しさがある、胸の痛みがある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 ご自宅では、咳の強さや続いている期間、発熱、息苦しさ、SpO₂(測れる場合)、食事・水分の量、睡眠への影響を見ておくことが大切です。手洗い、咳エチケット、換気を行い、家庭や施設内で感染を広げないようにしましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 厚生労働省:「マイコプラズマ肺炎」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mycoplasma.html2026/10/8閲覧 厚生労働省:「マイコプラズマ肺炎」.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-38.html2026/10/8閲覧 CDC:「About Mycoplasma pneumoniae Infection」.https://www.cdc.gov/mycoplasma/about/index.html2026/10/8閲覧 CDC:「Clinical Care of Mycoplasma pneumoniae Infection」.https://www.cdc.gov/mycoplasma/hcp/clinical-care/index.html2026/10/8閲覧 CDC:「Causes and How It Spreads」.https://www.cdc.gov/mycoplasma/causes/index.html2026/10/8閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「IASR 45(1), 2024【特集】マイコプラズマ肺炎 2023年現在」.https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/pathogens/vol45/527/527t.html2026/10/8閲覧 日本呼吸器学会:「マイコプラズマ感染症(マイコプラズマ肺炎)急増にあたり、その対策について」.https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/statement/20241022134500.html2026/10/8閲覧 日本呼吸器学会:「G-01 胸膜炎」.https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/g/g-01.html2026/10/8閲覧

チアノーゼとは?観察のポイントと緊急性の判断
チアノーゼとは?観察のポイントと緊急性の判断
コラム
2026年10月13日
2026年10月13日

チアノーゼとは?観察のポイントと緊急性の判断

チアノーゼとは、皮膚や口唇、爪床などが青紫色に見える状態です。血液の酸素化が低下している場合や、末梢の血流が悪くなっている場合にみられることがあります。 訪問時に利用者さんの口唇や手指が「いつもより青い」と感じた場合は、チアノーゼがみられる部位に加えて、呼吸状態、SpO₂、脈拍、血圧、意識状態、普段との違いなどを総合的に確認することが重要です。 この記事では、チアノーゼの原因や中心性・末梢性の違いを整理したうえで、訪問時の観察ポイント、緊急性を判断する際の考え方、主治医へ報告する内容について解説します。 チアノーゼとは チアノーゼとは、皮膚や粘膜が青色から青紫色、灰色がかった色に見える状態です。日本小児循環器学会雑誌の総説「チアノーゼについて」では、毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度が5g/dL以上になると出現するとされています。血液の酸素化が低下している場合などにみられ、口唇、舌、爪床、手足などで気づかれます。まれに、メトヘモグロビン血症などの異常ヘモグロビン血症が原因となることもあります。 血液は、酸素を多く含んでいると鮮やかな赤色に近く見えます。一方、酸素が少なくなると暗い赤色に近くなり、皮膚や粘膜を通して青紫色に見えることがあります。 ただし、皮膚の色だけで酸素状態を正確に判断することはできません。一酸化炭素中毒や高度の貧血では、低酸素血症があってもチアノーゼがみられないことがあります。照明、皮膚の色、体温、末梢の血流、貧血の有無などによって見え方が変わるため、呼吸状態や意識状態、SpO₂などもあわせて確認することが大切です。 チアノーゼの主な所見とあわせてみられる症状 チアノーゼでは、皮膚や粘膜が青色から青紫色に見えます。特に、口唇、口腔粘膜、指先、爪床などは色調の変化に気づきやすい部位です。 訪問時には、次のような色調変化がないか確認します。 口唇が青紫色に見える 舌や口腔粘膜が青紫色に見える 指先や爪床が青紫色に見える 手足の末端が青白い、または青紫色に見える 呼吸器や循環器の状態が悪化している場合には、チアノーゼとともに呼吸困難や頻呼吸、頻脈、意識状態の変化などがみられることがあります。 そのため、訪問時にチアノーゼを認めた場合は、次のような変化もあわせて確認します。 息苦しさがある 呼吸が速い、または普段と呼吸のしかたが異なる 会話時に息切れがある 脈拍が普段より速い SpO₂が普段より低下している 意識レベルが低下している 胸痛などの症状を伴っている 特に、口唇や舌、口腔粘膜に急な色調変化がみられ、強い呼吸困難や意識状態の変化などを伴う場合は、緊急性が高い可能性があります。チアノーゼの有無だけで判断せず、SpO₂、呼吸数、脈拍、血圧、意識状態、普段との違いなどを総合的に確認し、利用者さんの状態に応じて主治医への連絡や救急要請を検討します。 中心性チアノーゼと末梢性チアノーゼ チアノーゼは、大きく「中心性チアノーゼ」と「末梢性チアノーゼ」に分けて考えることがあります。 中心性チアノーゼ 中心性チアノーゼは、動脈血の酸素化が低下することで生じ、口唇や舌、口腔粘膜などに青紫色の変化がみられます。 呼吸機能の低下や右左シャントを伴う心疾患などが原因となることがあり、肺炎、喘息発作、慢性閉塞性肺疾患の増悪、先天性心疾患などでみられる場合があります。 末梢性チアノーゼ 末梢性チアノーゼは、手足の先や爪床など、体の末端が青紫色に見える状態です。典型的な末梢性チアノーゼでは、動脈血酸素飽和度の低下を伴わず、寒さや末梢血管の収縮、心拍出量の低下による末梢循環血流量の減少、血液粘稠度(ねんちゅうど)の上昇などで、末梢の血流が滞ることによって起こります。 寒さが影響している場合は、温めることで改善することがあります。ただし、心不全やショックなど全身の循環が低下している場合にも末梢性チアノーゼはみられます。息苦しさが強い、意識状態が悪い、急に口唇や舌が青紫色になった場合などは、救急要請を含めて速やかな対応を検討します。 チアノーゼの原因 チアノーゼの原因は、肺で酸素を取り込む力の低下、心臓が血液を全身へ送る力の低下、末梢の血流低下など、さまざまです。 主な原因には、以下のようなものがあります。 呼吸器に関連するもの:重症肺炎、重症喘息、気道異物など 心・循環に関連するもの:心不全、右左シャントを伴う心疾患、ショックなど 末梢循環に関連するもの:寒冷曝露、レイノー現象、動脈閉塞など 血液に関連するもの:メトヘモグロビン血症など 在宅療養中の利用者さんでは、呼吸器疾患や心疾患などが背景にある場合があります。チアノーゼが急に出現した場合は、背景疾患の推測だけにとらわれず、気道・呼吸・循環に急変がないかを優先して確認します。 乳幼児や高齢者の注意点 乳幼児では、寒冷によって手足の末端が一時的に青紫色に見えることがあります。一方、口唇や舌、体幹まで青紫色に見える場合は中心性チアノーゼの可能性があるため、呼吸状態やSpO₂、全身状態を確認し、速やかに医師へ相談します。 高齢者では、基礎疾患や認知機能の影響などにより、呼吸困難などの典型的な症状が目立たないことがあります。特に肺炎などの感染症では、食欲低下や活動性の低下、意識・反応の変化など、非特異的な症状がみられることがあります。 訪問看護では、「いつもの色と違う」「いつもより呼吸が浅い」「会話中に息切れする」など、普段との違いを見逃さないことが大切です。 訪問看護での観察ポイント 訪問時にチアノーゼを疑う色調変化を認めた場合は、チアノーゼの有無だけでなく、全身状態をあわせて観察します。 ① 色調と出現部位 口唇・舌・口腔粘膜 手指・足趾・爪床 色調変化が始まった時期 普段との違い 持続しているか、変化しているか ② 呼吸 呼吸数 呼吸の深さ・パターン 息苦しさ 会話時の息切れ 咳・痰 SpO₂ ③ 循環 脈拍 血圧 手足の冷感 胸痛・動悸など 浮腫など ④ 全身状態 意識状態 体温 食事・水分摂取量 ADLや普段との違い ⑤ 治療状況 酸素療法の有無 酸素機器・チューブの状態 医師からの指示内容 SpO₂を測る場合は、手指の冷え、マニキュア、体動、末梢循環の低下などで正確に測れないことがあります。値だけで判断せず、呼吸状態や顔色、意識状態もあわせて確認しましょう。 記録する場合は、以下のように具体的に書くと共有しやすくなります。 「訪問時、口唇に軽度の青紫色あり。SpO₂ 90〜92%で推移。呼吸数24回/分。会話時に息切れあり。発熱なし。普段はSpO₂ 95%前後。」 「両手指にチアノーゼ様の色調あり。手指冷感あり。口唇色は普段と大きな変化なし。温罨法後、手指色は改善傾向。SpO₂ 96%。」 このように、色の変化とその部位、呼吸状態、SpO₂、普段との差をセットで記録することが大切です。 緊急性のアセスメントと対応 チアノーゼを認めたときは、色調だけではなく、気道・呼吸・循環・意識状態を確認し、緊急性をアセスメントします。 特に注意したいのは、次のような状態です。 急に口唇や舌が青紫色になった 息苦しさがある 呼吸が速い、または浅い 発熱がある SpO₂が普段より低い 意識状態が変化している 呼びかけへの反応が弱い 胸痛を伴っている 強い動悸がある 顔色が悪い 乳幼児で哺乳が悪い 酸素投与中でも状態が改善しない これらの所見がある場合は、利用者さんの状態に応じて主治医への連絡や救急要請など、速やかな対応を検討します。 一方、寒さで手足の先だけが青紫色になり、温めると改善する場合もあります。ただし、繰り返す場合や、痛み、しびれ、皮膚の変色が続く場合は、血流の問題が隠れていることもあるため、医師へ相談しましょう。 医師へ報告するときの内容 チアノーゼがある場合は、色の変化だけでなく、呼吸や循環の状態を整理して報告します。 報告時には、以下の内容をまとめます。 いつからチアノーゼがあるか どの部位が青紫色に見えるか 口唇や舌の色の変化 SpO₂の値と普段の値 呼吸数 脈拍 血圧 体温 意識状態 息苦しさの有無 胸痛の有無 咳や痰の状態 酸素療法の有無 体位変換や安静による改善の有無 既往歴 服薬状況 報告例としては、以下のように整理できます。 「本日10時ごろから口唇にチアノーゼを認めています。SpO₂は90〜92%で、普段は96〜98%です。呼吸数28回/分、脈拍110回/分、会話時の息切れと痰の増加があります。体温37.8℃です。現在安静を保ち観察しています。受診・酸素投与などについて指示をお願いします。」 このように、普段の値との差、呼吸状態、全身状態を具体的に伝えることで、医師が緊急性を判断しやすくなります。 日常管理で確認しておきたいこと チアノーゼは病名ではなく、呼吸・循環などの状態変化に伴ってみられる徴候です。 日常ケアでは、以下を確認しておきます。 普段のSpO₂ 普段の呼吸数 在宅酸素療法(HOT)の設定・医師の指示 急変時の連絡先 どの状態で主治医へ連絡するか どの状態で救急要請するか 呼吸器疾患や心疾患がある利用者さんでは、SpO₂だけでなく、呼吸状態、浮腫、体重変化、痰の量、発熱、活動性などの変化も継続して確認します。 「普段の状態」を把握しておくことで、訪問時の小さな変化にも気づきやすくなります。 まとめ 皮膚や口唇、爪床が青紫色に見えるときは、血液の酸素化低下や末梢の血流低下などが背景にあることがあります。 手足の先だけが青紫色で、温めると改善する場合もありますが、口唇や舌が青紫色になる、息苦しさがある、SpO₂が低い、意識がぼんやりしている場合は注意が必要です。 訪問看護では、チアノーゼの有無だけでなく、呼吸数、SpO₂、脈拍、血圧、意識状態、普段との差をあわせて観察します。利用者さんの状態に応じて、主治医への連絡や救急要請を含めた速やかな対応を検討しましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 MSDマニュアル家庭版:「チアノーゼ」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/07-%E8%82%BA%E3%81%A8%E6%B0%97%E9%81%93%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%82%BA%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AE%E7%97%87%E7%8A%B6/%E3%83%81%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%BC,2026/10/5閲覧 MedlinePlus:「Blue discoloration of the skin」.https://medlineplus.gov/ency/article/003215.htm,2026/10/5閲覧 MedlinePlus:「Recognizing medical emergencies」.https://medlineplus.gov/ency/article/001927.htm,2026/10/5閲覧 MSDマニュアル家庭版:「肢端チアノーゼ」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%82%A2%E7%AB%AF%E3%83%81%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%BC,2026/10/5閲覧 日本小児循環器学会:「チアノーゼについて」(立野滋,日小循誌 2015;31(3):95-101).https://jpccs.jp/10.9794/jspccs.31.95/data/index.html2026/10/5閲覧 Pahal P, Goyal A:「Cyanosis」.StatPearls.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK559167/2026/10/5閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「肺症状を有する患者の評価」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/pulmonary-disorders/approach-to-the-pulmonary-patient/evaluation-of-the-patient-with-pulmonary-issues2026/10/5閲覧 U.S. Food and Drug Administration:「Pulse Oximeters」.https://www.fda.gov/medical-devices/products-and-medical-procedures/pulse-oximeters2026/10/5閲覧 Resuscitation Council UK:「The ABCDE Approach」.https://www.resus.org.uk/library/abcde-approach2026/10/5閲覧 MedlinePlus:「Hypoplastic left heart 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おむつかぶれとは?原因・ケアと成人・高齢者の注意点
おむつかぶれとは?原因・ケアと成人・高齢者の注意点
コラム
2026年10月6日
2026年10月6日

おむつかぶれとは?原因・ケアと成人・高齢者の注意点

おむつかぶれとは、乳幼児だけでなく、紙おむつや尿取りパッドを使用する成人・高齢者にもみられる皮膚障害です。発赤や疼痛、掻痒感などがみられ、進行するとびらんを伴うこともあります。 成人・高齢者では、尿失禁や便失禁に関連する失禁関連皮膚炎(IAD)としてみられる場合があり、褥瘡や感染症などとの鑑別も重要です。この記事では、おむつかぶれの症状や原因、IADの特徴、在宅で行うスキンケア、観察・報告のポイントについて解説します。 おむつかぶれとは おむつかぶれは、おむつが接触する部位に生じる皮膚炎・皮疹を広く指す言葉です。なかでも、尿や便への曝露、過剰な湿潤、摩擦などが関与する刺激性接触皮膚炎が一般的です。一方、おむつ接触部位には、皮膚カンジダ症などの感染症や、そのほかの皮膚疾患が生じることもあります。 乳幼児では、臀部、陰部周囲、鼠径部などにみられます。成人・高齢者では、尿や便への曝露によって生じる皮膚炎は、失禁関連皮膚炎(IAD:Incontinence-Associated Dermatitis)として評価することが重要です。 おむつかぶれの症状 おむつかぶれでは、おむつや尿取りパッドが接触する部位に発赤や皮疹がみられ、掻痒感や疼痛、ひりつきを伴うことがあります。 皮膚障害が進行すると、びらんや表皮剥離、滲出液がみられることもあります。成人のIADでは、重症度によって水疱・大疱、丘疹、膿疱などを伴うこともあります。 主な症状には、以下があります。 発赤・色調変化  皮疹  掻痒感  疼痛・灼熱感・ひりつき  びらん・表皮剥離  滲出液 水疱・膿疱 疼痛や掻痒感を十分に訴えられない利用者さんでは、表情の変化、体動時や清拭時の反応、ケアへの拒否などもあわせて観察することが重要です。 おむつかぶれの原因 おむつかぶれやIADでは、尿や便への曝露に、過剰な湿潤や摩擦などが加わることで皮膚のバリア機能が障害され、炎症が生じます。 皮膚が湿潤した状態が続くと角層が浸軟し、摩擦や排泄物による刺激を受けやすくなります。 発症・悪化につながりやすい要因には、以下があります。 尿や便が皮膚に接触する時間が長い 排泄後のケアやおむつ交換が遅れる 下痢や軟便が続いている 便失禁・尿失禁がある おむつや尿取りパッドのサイズ・吸収量が排泄状況に合っていない 発汗などにより皮膚の湿潤が持続している 清拭や洗浄時に強くこすっている 過度な洗浄や刺激性の高い洗浄剤を使用している 移動や体位変換などに伴う摩擦・ずれがある また、高齢、低栄養、皮膚の乾燥、活動性の低下、基礎疾患などは、皮膚の脆弱性やIADの発症リスクに関係する場合があります。 通常のケアを行っても改善しない場合や、特徴的な皮疹がみられる場合は、感染症やそのほかの皮膚疾患も考慮します。 成人・高齢者の失禁関連皮膚炎(IAD) 成人・高齢者では、尿や便への曝露によって生じる失禁関連皮膚炎(IAD)が問題となることがあります。乳幼児のおむつ皮膚炎と共通するケアもありますが、皮膚状態や使用する失禁ケア用品に応じた対応が必要です。皮膚が弱くなっている方では、軽い摩擦でも発赤やびらんにつながることがあります。 高齢者では、加齢に伴って皮膚が脆弱になっている場合があり、清拭や体位変換時の摩擦にも注意が必要です。 また、IADと褥瘡は病態が異なりますが、同一部位または近接した部位に併存することがあります。在宅療養中の利用者さんでは、排泄物への曝露状況だけでなく、骨突出部との位置関係、圧迫・ずれの有無、皮膚の色調、硬さ、熱感、疼痛、経時的変化なども確認します。 おむつかぶれ・IADのケア おむつかぶれやIADのケアでは、尿や便への曝露をできるだけ減らし、摩擦を抑えながら皮膚を洗浄・保護することが基本です。 ケアの流れは、以下のように整理できます。 排泄物をやさしく除去する 摩擦を避けて洗浄する 皮膚に残った水分をやさしく除去する 皮膚状態に応じて皮膚保護剤を使用する 排泄量や体型に合ったおむつ・尿取りパッドを使用する 清拭時は皮膚を強くこすらず、失禁ケア用の低刺激性洗浄剤などを用いてやさしく洗浄します。過度な洗浄や強くこするような清拭は皮膚バリアを障害する可能性があるため避けます。 洗浄後はタオルなどで押さえるように水分を除去します。 皮膚保護剤は、尿や便による刺激から皮膚を保護する目的で使用します。ワセリン系製剤や亜鉛華製剤などがありますが、製剤によって閉塞性、除去のしやすさ、皮膚観察への影響、失禁ケア用品との適合性が異なります。製品の用法や皮膚状態を確認し、適量を使用します。乾燥がみられる場合は、皮膚の状態を評価したうえで保湿を検討します。 主治医への報告・受診を検討する所見 おむつかぶれやIADは、排泄物への曝露を減らし、適切なスキンケアを行うことで改善する場合があります。一方、皮膚障害が悪化している場合や、感染症、褥瘡、そのほかの皮膚疾患が疑われる場合は、主治医への報告・相談が必要です。 以下のような所見がみられる場合は、報告・受診を検討します。 適切なケアを行っても改善傾向がみられない、または悪化している 発赤やびらんの範囲が拡大している 表皮剥離や滲出液が増加している 水疱・大疱や膿疱がみられる 膿性分泌物や出血がみられる 疼痛が強い、または増強している 発熱や食欲低下など全身状態の変化がみられる 骨突出部を中心に暗赤色・紫色などの変色がみられる 同じ部位の皮膚障害を繰り返している また、骨突出部に持続する暗赤色・紫色の変色や水疱などがみられる場合は、褥瘡や深部損傷褥瘡(DTI)との鑑別が必要になることがあります。排泄物への曝露状況だけでなく、発生部位、圧迫・ずれの有無、皮膚の色調や硬さ、熱感、疼痛、経時的変化などを確認します。IADと褥瘡の鑑別が難しい場合は、主治医へ報告・相談します。 在宅での観察ポイント 訪問看護では、皮膚所見だけでなく、排泄状況、圧迫・ずれ、スキンケア方法、使用している失禁ケア用品などをあわせて評価します。前回訪問時からの経時的変化も確認し、悪化の有無を把握することが重要です。 主な観察ポイントは、以下のとおりです。 皮膚所見 発生部位、範囲、左右差、境界 発赤・色調変化、びらん、表皮剥離、水疱、膿疱の有無  滲出液、膿性分泌物、出血の有無  熱感、腫脹、硬さ、疼痛、灼熱感、掻痒感 褥瘡との鑑別に関する所見 骨突出部との位置関係 圧迫・ずれが生じる状況 暗赤色・紫色などの変色や、その経時的変化 排泄・失禁の状況 排尿・排便回数、便性状、下痢の有無 尿失禁・便失禁の頻度 おむつ・尿取りパッドの種類、サイズ、交換頻度 ケア・全身状態 洗浄方法、使用している洗浄剤 皮膚保護剤の種類、使用量、使用頻度 発熱、食欲低下など全身状態の変化 記録では、「皮膚所見」「排泄状況」「ケア内容」「前回からの変化」をセットで残すと、主治医や多職種と情報共有しやすくなります。 記録例: 「臀裂周囲から両臀部にかけて境界不明瞭な発赤あり。びらん・滲出液なし。便失禁2回/日。清拭時に疼痛訴えあり。洗浄後、皮膚保護剤を使用。前回訪問時と比較し発赤範囲に著変なし。」 「仙骨部の骨突出部周囲に限局した暗赤色の変色あり。圧迫・ずれの関与も否定できず、IADと褥瘡の鑑別を要すると判断。皮膚所見および排泄状況を主治医へ報告。」 予防のポイント おむつかぶれやIADの予防では、尿や便への曝露時間をできるだけ短くし、過剰な湿潤や摩擦を減らしながら皮膚のバリア機能を保つことが重要です。 便失禁後はできるだけ速やかに排泄物を除去する 排泄量や吸収量に応じておむつ・尿取りパッドを交換する 清拭・洗浄時は皮膚を強くこすらない 過度な洗浄や刺激性の高い洗浄剤を避ける 洗浄後は摩擦を避けて水分を除去する 皮膚状態に応じて皮膚保護剤を使用する 体型や排泄量に合った失禁ケア用品を選択する 尿取りパッドの不必要な重ね使いを避ける 下痢や便失禁が増えた場合は皮膚観察の頻度を見直す 発赤やびらんなどの変化を早期に把握する 予防では「汚れをしっかり落とす」ことよりも、排泄物をやさしく除去し、皮膚への摩擦を最小限にすることを意識します。 まとめ おむつかぶれは、おむつが接触する部位に生じる皮膚炎・皮疹を広く指し、代表的な病型に刺激性接触皮膚炎があります。成人・高齢者では、尿や便への曝露によって生じる失禁関連皮膚炎(IAD)にも注意が必要です。 ケアでは、尿や便への曝露を減らし、摩擦を避けながら洗浄し、皮膚状態に応じて皮膚保護剤を使用します。 訪問看護では、皮膚所見だけでなく、排泄状況、使用している失禁ケア用品、圧迫・ずれの有無、前回からの経時的変化をあわせて評価することが重要です。皮膚障害が拡大・悪化している場合、感染症や褥瘡との鑑別が難しい場合などは、主治医への報告・相談を検討します。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 ● 日本大腸肛門病学会編:「便失禁診療ガイドライン2024年版(改訂第2版)」.南江堂,2024.https://www.coloproctology.gr.jp/uploads/files/journal/benshikkin_guideline2024.pdf2026/9/29閲覧 ● Graham T, Beeckman D, Kottner J, et al.:Skin cleansers and leave-on product interventions for preventing incontinence-associated dermatitis in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2025;7(7):CD011627. doi:10.1002/14651858.CD011627.pub3.https://www.cochrane.org/evidence/CD011627_what-are-best-methods-preventing-skin-irritation-caused-prolonged-contact-urine-or-stool-adults2026/9/29閲覧 ● 日本皮膚科学会・日本医真菌学会合同皮膚真菌症診療ガイドライン策定委員会:「皮膚真菌症診療ガイドライン2025」.日本皮膚科学会,2025.https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/2013/08/19e2ae577a696f81acf51fdcc0173e2c.pdf2026/9/29閲覧 ● 一般社団法人日本褥瘡学会編:「改定DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント」.照林社,2020.https://jspu.org/medical/books/docs/design-r2020_doc.pdf2026/9/29閲覧 ● Fölster-Holst R.:Differential diagnoses of diaper dermatitis. Pediatr Dermatol. 2018;35 Suppl 1:S10-S18. doi:10.1111/pde.13484.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29596730/2026/9/29閲覧 ● Cohen B.:Differential Diagnosis of Diaper Dermatitis. Clin Pediatr (Phila). 2017;56(5 Suppl):16S-22S. doi:10.1177/0009922817706982.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28420251/2026/9/29閲覧

【9月29日up】蜂窩織炎とは?訪問看護で押さえたい症状・観察ポイントと対応
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コラム
2026年9月29日
2026年9月29日

蜂窩織炎とは?訪問看護で押さえたい症状・観察ポイントと対応

蜂窩織炎とは、皮下脂肪組織に細菌が入り込んで起こる感染症です。足や顔、腕などに発赤、腫脹、熱感、疼痛が現れることが多く、発熱や悪寒を伴う場合もあります。 「虫刺されだと思っていた」「少し腫れているだけだと思った」といった皮膚の変化から、蜂窩織炎が疑われるケースに出会うことがあります。特に糖尿病や浮腫がある方、免疫機能が低下している方では注意が必要です。 この記事では、蜂窩織炎の基礎知識を押さえながら、訪問時に確認したい症状、医師への報告、療養中の観察、再発予防のポイントを解説します。 蜂窩織炎とは?原因菌と起こる部位 蜂窩織炎は、皮下脂肪組織へ侵入した細菌による感染症です。国立長寿医療研究センターは、レンサ球菌やブドウ球菌が創傷や足白癬の部位から侵入して起こると説明しています。 NHSによると、蜂窩織炎は下肢に起こることが多いものの、体のどの部分にも生じる可能性があります。発赤や腫脹に加えて、疼痛や熱感を伴うことがあります。 蜂窩織炎そのものは、人から人へうつる病気ではないとされています。ただし、皮膚の創傷は細菌の侵入口となるため、訪問時には患部だけでなく、周囲の皮膚状態や清潔保持の状況も確認します。 蜂窩織炎の主な症状と発赤の特徴 蜂窩織炎では、皮膚の一部に発赤や腫脹が現れ、患部は熱感や疼痛を伴うことがあります。 主な症状は以下のとおりです。 発赤・腫脹 熱感 疼痛・圧痛 発熱・悪寒・倦怠感 リンパ節の腫脹 水疱や膿などの皮膚症状 蜂窩織炎の発赤は、境界がはっきりしないことがあり、また最初は小さな発赤でも、時間とともに広がる場合があります。そのため訪問看護では、発赤の範囲がどう変化しているかを見ることが重要です。 蜂窩織炎の原因とリスクが高い人 蜂窩織炎は、細菌が皮膚のバリアを越えて侵入することで起こります。明らかな傷が見つからない場合もありますが、訪問時には感染の侵入口となり得る皮膚トラブルがないかを確認します。 感染のきっかけとなりやすいものには、外傷、潰瘍、真菌感染症、その他既存の皮膚疾患による皮膚バリアの障害などとされています。 また、リンパ浮腫などの浮腫、糖尿病、免疫機能の低下などがある利用者さんでは注意が必要です。 下肢に症状がある場合は、患部だけでなく足趾間を含めて足部を観察し、足白癬や創傷、皮膚の亀裂などがないか確認します。特に糖尿病性神経障害がある利用者さんでは、感覚低下によって外傷や皮膚トラブルの発見が遅れることがあるため、痛みの訴えがない場合も注意が必要です。 蜂窩織炎を疑うときの受診の目安 蜂窩織炎を疑う皮膚症状を認めた場合は、局所症状と全身状態を確認し、必要に応じて主治医へ報告して受診の要否を相談します。特に、次のような変化がある場合は、速やかな報告や受診調整を検討します。 発赤や腫脹が短時間で広がっている 強い疼痛がある 発熱や悪寒など全身症状がある 水疱や膿がみられる 顔や目の周囲に症状がある 腫脹や疼痛で歩行が難しい 糖尿病や免疫機能の低下があり、皮膚症状がみられる 活動性低下、食事・水分摂取量低下など、普段と異なる全身状態の変化がある 「蜂窩織炎かどうか」だけに目を向けるのではなく、症状がどの程度の速さで変化しているのか、全身状態に影響しているのかを捉えることが大切です。 蜂窩織炎の治療と療養中の注意点 蜂窩織炎の治療では、原因となる細菌に対して抗菌薬が使われます。MSDマニュアル家庭版によると、症状が軽い場合は内服薬で治療することがありますが、症状が強い場合や全身状態が悪い場合は、入院や点滴治療が必要になることもあるとされています。      在宅療養中は、処方された抗菌薬が指示どおり内服できているかを確認します。高齢者や服薬管理が難しい利用者さんでは、「薬が処方されている」ことと「実際に服用できている」ことを分けて確認することが重要です。 また、患部が下肢の場合は、可能な範囲で安静にし、患肢挙上が行われることがあります。訪問看護では、医師の指示や利用者さんの状態を踏まえ、在宅で安静や患肢挙上を実施できているかを確認します。あわせて、疼痛や腫脹によって歩行や日常生活への影響も観察します。 蜂窩織炎と間違えやすい病気 発赤、腫脹、熱感があるからといって、必ずしも蜂窩織炎とは限りません。 接触皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、湿疹、丹毒などでも類似した皮膚症状がみられます。また、片側の下肢が急に腫れて疼痛がある場合には、深部静脈血栓症なども鑑別に挙がります。 訪問看護では、診断につながる情報を整理して医師へ共有することが重要です。 「いつから始まったか」「どこからどこまで症状があるか」「どのくらいの速さで変化しているか」に加えて、発熱、疼痛、創傷の有無、既往歴、服薬状況、浮腫、歩行状態などを確認します。 普段から浮腫がある利用者さんであれば、「いつものむくみと何が違うのか」という視点も重要です。 訪問看護での観察・記録ポイント 蜂窩織炎が疑われる場合や治療中の場合は、一時点の状態だけでなく、経時的な変化を追える記録を意識します。 観察したいポイントは、以下のとおりです。 発赤の部位・範囲・広がり 腫脹・熱感 疼痛・圧痛の部位と程度 水疱・膿・創傷・足白癬など皮膚の状態 体温・悪寒・倦怠感などの全身状態 食事量や水分摂取量 歩行やADLへの影響 浮腫の程度と普段との違い 抗菌薬の内服状況 治療開始後の症状の変化 糖尿病がある方では、血糖管理の状況に加えて、足部の皮膚状態も確認します。 発赤の広がりを経時的に確認するため、医師や看護師の判断で発赤の外側をペンでマーキングすることがあります。写真で経過を記録する場合は、事業所のルールに従い、利用目的を説明したうえで、利用者さんの同意を得るなど、個人情報の取り扱いに十分配慮します。 記録では、「発赤あり」だけで終わらせず、部位、範囲、経時的変化、随伴症状まで具体的に記載すると、多職種と共有しやすくなります。 たとえば、次のように記録します。 「右下腿前面に手のひら大の発赤あり。熱感・圧痛あり。昨日より発赤範囲が外側へ拡大。体温37.8℃。歩行時に疼痛あり。足趾間に白癬様の皮むけを認める。」 治療開始後であれば、 「左足背に発赤と腫脹あり。水疱なし。発熱なし。抗菌薬内服2日目。発赤範囲は昨日より縮小傾向。疼痛は軽減している。」 など、治療前後の変化がわかるように記載します。 医師へ報告するときの内容 医師へ報告する際は、前項で観察した情報を「現在の状態」「経時的な変化」「全身状態」「治療状況」に整理すると伝わりやすくなります。特に、前回訪問時から何が変わったのかを明確にします。     報告例としては、以下のように整理できます。 「昨日から右下腿に発赤あり。本日、発赤範囲が足首から膝下まで拡大。熱感と圧痛あり。体温38.2℃、悪寒の訴えあり。歩行時の疼痛が強く、普段より移動が困難。糖尿病あり。蜂窩織炎を疑う所見があり、症状が拡大しているため、受診について相談したいです。」 「蜂窩織炎です」と診断的に伝えるのではなく、観察した事実と経過を具体的に伝えたうえで、何について相談したいのかを明確にすることがポイントです。 再発を防ぐためのケア 蜂窩織炎は再発することがあります。症状が改善したあとも、細菌の侵入口となる皮膚トラブルや、再発につながる背景を確認していきます。 日々の訪問では、皮膚の清潔保持と保湿、小さな創傷やかき壊しの有無、足白癬、皮膚のひび割れ、浮腫、靴ずれなどを確認します。 特に下肢の蜂窩織炎を繰り返す利用者さんでは、足白癬や皮膚の亀裂など、感染の侵入口となり得る皮膚トラブルがないか継続して確認します。 また、セルフケアが可能な利用者さんには、「赤みが広がる」「熱を持つ」「痛みが強くなる」「発熱する」といった変化があれば早めに訪問看護師や医療機関へ連絡するよう説明します。 本人だけで皮膚の観察が難しい場合には、家族や介護職とも観察ポイントを共有しておくと、訪問日以外の変化を捉えやすくなります。 まとめ 蜂窩織炎は、発赤、腫脹、熱感、疼痛などの局所症状に加え、発熱や悪寒などの全身症状を伴うことがある細菌感染症です。 訪問看護では、蜂窩織炎かどうかを診断することではなく、「普段と何が違うのか」「どのくらいの速さで変化しているのか」「全身状態に影響しているのか」を捉えることが重要です。局所の皮膚所見だけでなく、全身状態やADL、治療後の変化も経時的に観察します。 異常を認めた際には、観察した事実と経過を具体的に医師へ共有し、必要な受診や治療につなげます。また、症状が改善したあとも、足白癬や創傷、皮膚の乾燥、浮腫などを継続して観察し、再発予防につなげることも訪問看護師の重要な役割です。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 国立長寿医療研究センター:「蜂窩織炎(ほうかしきえん)って何?」https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/45.html2026/9/14閲覧 MSDマニュアル家庭版:「蜂窩織炎」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/17-皮膚の病気/皮膚細菌感染症/蜂窩織炎2026/9/14閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「蜂窩織炎」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/14-皮膚疾患/皮膚細菌感染症/蜂窩織炎2026/9/14閲覧 NHS:「Cellulitis」https://www.nhs.uk/conditions/cellulitis2026/9/14閲覧 日本糖尿病学会 編著:「糖尿病診療ガイドライン2024」第11章 糖尿病性足病変https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/11_1.pdf2026/9/14閲覧 日本皮膚科学会:「皮脂欠乏症診療の手引き2021」https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/131_2255.pdf2026/9/14閲覧 個人情報保護委員会・厚生労働省:「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/2026/9/14閲覧

流行性角結膜炎(はやり目)とは?症状・原因・予防・治療法を解説
流行性角結膜炎(はやり目)とは?症状・原因・予防・治療法を解説
特集
2026年9月29日
2026年9月29日

流行性角結膜炎(はやり目)とは?症状・原因・予防・治療法を解説

流行性角結膜炎(はやり目)は感染力が強い結膜炎で、医療・介護の現場では特に注意が必要な疾患です。訪問看護の現場では、利用者さんやご家族の間で感染が広がることを防ぐため、早期発見と適切な対応が求められます。 本記事では、流行性角結膜炎の症状や原因、予防策、治療法について解説します。利用者さんのアセスメントやケアに役立ててください。 流行性角結膜炎とは 流行性角結膜炎(Epidemic keratoconjunctivitis:EKC)は、感染力の強い結膜炎の一種で、「はやり目」とも呼ばれます。発症までの潜伏期間は8~14日と比較的長く、突然症状が現れることが特徴です。 主な症状は、まぶたの腫れ(眼瞼浮腫)や涙が多く出る(流涙)などで、強い充血を伴います。通常、片目から始まることが多いですが、感染力が非常に強いため、短期間で両目に広がることがよくあります。 特徴的な症状は、耳の前にあるリンパ節(耳前リンパ節)の腫れです。ほかの種類の結膜炎ではあまりみられないため、診断の際の手がかりとなります。また、角膜にも炎症が及び、透明度が低下して混濁が生じることがあります。数年間続くこともあり、視力に影響を与える可能性があるため、早期の対処が重要です。 流行性角結膜炎の原因 流行性角結膜炎の原因は、アデノウイルスの感染です。アデノウイルスは非常に多くの種類があり、51の血清型と52~67型の遺伝的型が確認されています。 その中でも、流行性角結膜炎の発症に関与するのは下記のとおりです。 D種:8型、19型、37型、53型、54型、56型 B群:3型、7型、11型 E群:4型 特にD種の8型、19型、37型、53型、54型および56型が流行性角結膜炎の原因になると考えられています。 流行性角結膜炎の予防方法 流行性角結膜炎は、主に接触感染で、涙や目やに(眼脂)が付着したタオルやティッシュペーパー、洗面器、枕カバーなどを介して感染します。 感染を防ぐには手洗いを徹底することが基本です。特に、目をこすったり、目薬をさしたりした後は、石鹸を使って丁寧に手を洗い、清潔なタオルやペーパータオルで拭きましょう。また、使用したティッシュペーパーや目薬をさした後のゴミは、ウイルスの拡散を防ぐために、密閉できるビニール袋に入れて廃棄します。涙や目やにが付着しやすい枕カバーやタオルはこまめに洗濯しましょう。 ドアノブやパソコンのキーボード、眼鏡、机、椅子など、手が頻繁に触れる場所は、ウイルスが付着しやすいため、塩素系漂白剤でこまめに消毒することが望ましいでしょう。 流行性角結膜炎にかかりやすい年齢 流行性角結膜炎は、幅広い年齢層で発症する感染症ですが、特に1~5歳の小児に多くみられます。小児がかかりやすい理由として、免疫機能が十分に発達していない、日常的に手で目をこすりやすい、集団生活の中で感染しやすい環境にあるなどが挙げられます。 また、流行性角結膜炎は大人にもみられる疾患です。家族内や職場での感染が多く、医療従事者や介護職員、教育関係者など、多くの人と接する機会がある職種の方は、特に注意が必要です。 流行性角結膜炎の治療法 現在(2025年時点)、アデノウイルスに効果がある抗ウイルス薬は存在しません。流行性角結膜炎は、発症から2週間ほどでウイルスに対する抗体が体内で作られ、自然に回復していくため、治療の目的は炎症を抑えながら症状を和らげることです。 炎症を抑えるために、抗炎症成分を含む点眼薬を使用します。また、角膜に炎症や混濁が生じている場合はステロイドの点眼薬を使用します。細菌感染も伴っている可能性がある場合には、抗菌剤の点眼薬を併用することがあります。 流行性角結膜炎で医療機関を受診する目安 流行性角結膜炎は感染力が非常に強いため、症状が現れた際には早めに医療機関を受診しましょう。また、流行性角結膜炎は、感染症法における第3種感染症に分類されており、医師から「感染の恐れがない」と認められるまで登校や出勤を控えなければなりません。 流行性角結膜炎と似た病気 流行性角結膜炎と症状がよく似た病気はいくつか存在し、鑑別が必要です。流行性角結膜炎と混同されやすい代表的な病気として、プール熱と急性出血性結膜炎があります。 プール熱 プール熱は正しくは咽頭結膜熱といい、アデノウイルス(主に3型、そのほか2型,4型、7型など)の感染によって引き起こされる疾患です。 潜伏期間は5~7日程度で、発熱、のどの痛みや腫れ、目の充血や目やにの増加などの症状が現れます。流行性角結膜炎と同じく、リンパ節の腫れがみられる場合があります。そのほか、腹痛や下痢などの消化器症状を伴うこともあるなど、流行性角結膜炎と症状が少し異なります。通常、症状は1~2週間ほどで自然に治まりますが、まれに肺炎を合併し、重症化するケースも報告されています。 >>関連記事プール熱の症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの? 急性出血性結膜炎 急性出血性結膜炎は、エンテロウイルス70(EV70)やコクサッキーウイルスA24変異株(CA24v)によって引き起こされる結膜炎です。 突然の強い目の痛みや異物感、光がまぶしく感じるなどの症状から始まります。その後、結膜の充血が現れ、特に結膜下出血が顕著にみられます。また、まぶたの腫れや目やに、結膜の濾胞形成、角膜表層のびまん性混濁といった症状も伴うことがあります。 さらに、全身症状として頭痛や発熱、呼吸器症状がみられることがあり、単なる目の病気ではなく、全身に影響を及ぼす可能性もあるため注意が必要です。 * * * 流行性角結膜炎は、アデノウイルスによる強い感染力を持つ疾患で、適切な感染対策を講じることが重要です。特に訪問看護の現場では、利用者さんだけでなくそのご家族やスタッフ間での感染拡大を防ぐため、標準予防策の徹底が求められます。利用者さんの状態を的確に見極め、医療機関につなげるとともに、日頃からの衛生管理と適切な対応を心がけましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:内野 美樹ケイシン五反田アイクリニック院長・慶應義塾医学部眼科学特任講師2001 年山梨医科大学卒業、慶應義塾大学医学部眼科学教室入局2012 年慶應医学博士号取得、ハーバード大学医学部スケベンス眼研究所留学2015 年ハーバード大学公衆衛生大学院にて修士号取得2016 年慶應義塾大学医学部特任講師、2020 年ケイシン五反田アイクリニック院長現在は公衆衛生学の視点より予防医学に重点を置いたアイケアグッズを多く監修しており、数多くのメディアで活躍中である。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「流行性角結膜炎」(2014年04月01日)https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/epidemic-keratoconjunctivitis/index.html2025/9/14閲覧〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「急性出血性結膜炎」(2012年7月)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ka/ahc/010/ahc-intro.html2025/9/14閲覧

初回訪問から始まる臨死期の意思決定支援 訪問看護師の役割とは
初回訪問から始まる臨死期の意思決定支援 訪問看護師の役割とは
特集
2026年9月15日
2026年9月15日

初回訪問から始まる臨死期の意思決定支援 訪問看護師の役割とは

在宅医療の第一線で活躍されている、すぎもと在宅医療クリニックの杉本由佳先生に解説していただき、臨死期における訪問看護師の役割を深く掘り下げていきます。今回は、信頼関係構築の起点となる初回訪問での状態把握のポイント、そして利用者さん・ご家族の意思決定支援に求められる実践的なかかわりについてお届けします。 「自宅で最期まで」を支えるために すべての人はいつか死を迎えます。その場所は病院、自宅、施設、ホスピスなどさまざまです。近年では、在宅医や訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど多職種や社会資源を活用することで、自宅で最期を迎えることも可能になってきました。 しかし一方で、在宅療養には課題も多くあります。独居や老々介護、認知症の増加に加え、経済的困窮者の増加により、在宅療養が困難になるケースも少なくありません。 これらの課題を克服し、自宅で利用者さんを最期まで支えるためには、各職種の密な連携が不可欠です。また、それぞれのメンバーに、病態を正しく判断する能力と対応力、そして継続的なスキルアップが求められます。特に訪問看護師には多くの役割が期待されているといえるでしょう。 その役割を具体的に考える上で、まず注目したいのが初回訪問です。訪問看護師の皆さんに意識していただきたい視点とかかわりについて解説していきます。 初回訪問は状態把握と信頼関係構築の起点 病院からの事前情報を基に訪問する場合や、在宅医・利用者さん本人からの直接依頼で訪問する場合などがあります。いずれにおいても、初回訪問時は「初めまして」と挨拶をし、利用者さんとの最初の会話に注意を払いましょう。 この初対面の印象は重要です。「予想より元気そうな様子」「かなり厳しい状況かもしれない」といった直感的な判断材料となります。まずは意識状態、表情、体形、栄養状態、脱水の有無、浮腫・黄疸・貧血の兆候、皮膚の衛生状態、呼吸状態などの確認を行い、利用者さんの状態を大まかに把握しましょう。その後、腹水・胸水・腫瘤の触知、バイタルサインの測定、排尿・排便などの確認を通じて、病状をより詳しく推測していきます。(図1) 図1 初回訪問時に確認すること これらの項目を確認し、利用者さんの状態を慎重に見きわめる。 そして、どのような治療やケアを施しても生命的に厳しい状況なのか、あるいは痛み・呼吸困難・栄養状態などに対応することで改善の可能性があるのかを慎重かつ敏速に判断する必要があります。また、病院からの情報よりも病状が悪化しているのかも見きわめます。 特に病状が急速に悪化していると感じた場合は、初回訪問時に十分な時間をかけて本人やご家族と密にコミュニケーションを取り、信頼関係を速やかに構築し、意思決定支援を行うことが重要です。 意思決定支援をするために 1)本人やご家族の病状認識の確認 特に厳しい状況にある利用者さんの場合、初回訪問時には在宅医と訪問看護師が同席することが望ましいです。病院で病気の進行や予後についてどの程度説明がされているかを確認し、同時に利用者さん本人やご家族がそれをどのように受け止めているかを推測します。 例えば、家族やご本人が以下のようにおっしゃる場面にしばしば遭遇します。「先生は『まだまだ大丈夫』と言っていたけれど、食事量が減ってきていて、元気がなくなってきているので心配だ」「先生は『厳しい状態で、週単位です』と言われたけれど、私はどこも悪くなく健康そのものだと感じている」 医師の診断と利用者さんやご家族の認識にズレがある場合、または病院と在宅の医師の見立てに相違がある場合には、速やかに調整を行わないと、自宅での治療に遅れが生じてしまうことがあります。さらに、理解や心の準備が不完全であった場合には、「なぜこんなに急に亡くなってしまったのか?」と死亡後のご家族の喪失感が深まってしまう可能性もあります。 正確な情報を共有し、利用者さんとご家族の気持ちを尊重しながら、適切な意思決定を支援することが大切です。 2)性格や家庭環境を把握 以下の要素を確認し、現在の状況に応じて安全に行える治療・ケアを選択して提案します。 ・ 独居の有無、ご家族間の関係性(親密度・距離感)・ 本人および介護者(キーパーソン)の認知機能や体力レベル・嗜好や衛生環境(生活環境、介護スペース、ライフラインなど)・食生活、経済状況(医療・介護保険の負担割合など) 利用者さんの理解力が低い場合や病識がない、または否認している場合や認知症の独居などでは在宅療養が困難となることがあります。そのようなケースでは、経済状況や医療依存度に見合った施設の検討も必要です。 3)病状の説明、理解の確認 在宅医の説明を念頭に置きながら、利用者さんの環境や能力、体調を考慮し、理解しやすいように分かりやすく説明をしましょう。落ち着いた雰囲気で、ゆっくりと伝えることが重要です。 例えば、「もともとは〇〇癌ですが、現在は肺への転移が主な症状の悪化要因となっています。さらに、肝臓にも腫瘍がありますが、これによる痛みは今後もほとんどないと思われます」といった説明です。 在宅医の説明が利用者さんやご家族に十分に伝わっていないと判断した場合は、訪問看護師がより分かりやすい言葉で補足説明を行うとよいでしょう。理解の確認は何度か繰り返し行い、不明な点を気軽に質問できる環境を整えることが大切です。 4)予後予測に基づく症状や対応・治療方法の説明 病状の変化を理解した上で、自宅で可能な治療・ケアを提案しましょう。治療方針を決めるのは在宅医になりますが、利用者さん・ご家族の思いや、看護師の意見も重要です。在宅医に対し、看護師の気持ちや意見をしっかり伝え、議論できるような信頼関係を築くことが理想です。 予測される症状に対して、環境に見合った、適切な対応を伝えることで本人やご家族の不安を軽くすることができます。以下に、症状別・利用者さんへの安心につながる説明の例をご紹介します。ただし、「大丈夫です。治ります」といった過度な期待を持たせる表現は避けるべきでしょう。 表1 症状別・利用者さんへの安心につながる説明の例 痛みの管理「痛みが出た場合は、適切な痛み止めを使用するので安心してください。近年は改良された薬が多数開発されており、利用者さんに合ったものを選びやすくなっています」 呼吸困難への対応「呼吸が苦しくなった際は、自宅でも酸素を吸うことができます。必要になった場合、すぐに手配できるので心配ありません」 栄養補助「食事が口から摂れなくなる前に、高カロリーの点滴を行うことで、体の負担を軽減できます。また、口から摂取が可能であれば、今はいろいろな病状に対応した補助食品がたくさんあるので、経口補助食品のサンプルをお持ちします。少量でも栄養価が高く、おいしく摂取できます」 浮腫・腫れの対応「むくみや腫れが出た場合は、ステロイドを使用すると症状が軽減することがあります。例えば、顔にできた赤みの強いニキビがステロイド軟膏で改善されるのと同じような効果が期待できます。先生に相談してみましょう」 5)ご家族の受け入れ、心の準備を促すかかわり 病状が進行すると、治療を行っても近い将来に死を迎えることは避けられません。QOL(生活の質)やADL(日常生活動作)をできる限り維持することは可能ですが、永遠の命を保証することはできません。 そのため、死が近づいた際の話をする場合には、自宅での生活を意識した伝え方が望ましいでしょう。例を以下に示します。 「せっかく自宅で療養しているのだから、痛みをなくし、やりたいことをできる限り支援します」「多少不自由な点があるかもしれませんが、楽しく快適に過ごせるようお手伝いします」「ギリギリまで自力でトイレに行けるよう福祉用具も駆使しながら支援します」 利用者さんが「今日は一日楽だった」と思える時間を作るために、「私たち医療者が全力で支える」という姿勢が重要です。ていねいな言い回し以上に、気持ちを込めた言葉や態度こそが利用者さんにとって必要なものであるといえます。 しかし、病状の進行や介護の負担により、「家で最期まで過ごす」と決意していた利用者さんやご家族の気持ちが揺れることもあります。病状の変化やご家族の表情に曇りが見えたときには、必ず声をかけ、心の負担を和らげながら治療・ケアの方針を随時見直していくことが大切です。そして、「必ず家で看取らないといけないわけではないですよ。納得できる形を一緒に考えていきましょう」と、柔軟な選択肢があることを伝えることも必要です。 利用者さんとご家族が愛情に満ちた濃密な時間を過ごせるよう支援し、利用者さんとご家族、そして医療者との間に信頼関係を築けるようにすることが何より大切です。どこで誰とどのように生活し、最期を迎えたいのかを何度も話し合い、調整を重ねる過程こそが大切な思い出となるでしょう。 執筆:杉本 由佳すぎもと在宅医療クリニック 院長 1995年名古屋市千種区にすぎもと在宅医療クリニック開業。在宅栄養管理、緩和医療が専門分野。 所属学会日本在宅医療連合学会(専門医・指導医・評議員・特任理事)日本緩和医療学会(認定研修施設 認定医)日本栄養治療学会(認定医) その他、活動実績● 日本在宅医療連合学会「がん疾患の在宅医療人材育成講座」執筆● 原著論文「在宅静脈栄養における脂肪乳剤の使用状況と問題点 」Medical Nutritionist of PEN Leaders Vol.2 No.1 2018 に掲載 編集:株式会社照林社

膀胱炎とは?症状・原因・治し方と受診の目安を解説
膀胱炎とは?症状・原因・治し方と受診の目安を解説
コラム
2026年9月15日
2026年9月15日

膀胱炎とは?症状・原因・治し方と受診の目安を解説

膀胱炎とは、膀胱に炎症が起こる状態です。細菌感染によるものが代表的ですが、感染以外の原因で起こる場合もあります。排尿時の痛み、頻尿、残尿感、下腹部の違和感、血尿などの症状がみられることがあります。 特に女性は尿道が短く、細菌が膀胱に入りやすいため、膀胱炎になりやすいとされています。細菌性膀胱炎では、感染が腎臓まで広がって腎盂腎炎を起こすことがあるため、症状が続く場合などは注意が必要です。この記事では、膀胱炎の症状や原因、治療、受診の目安について解説するとともに、訪問看護など在宅ケアの現場で確認したい観察ポイントを紹介します。 膀胱炎とはどんな病気?種類と特徴 膀胱炎とは、尿をためる臓器である膀胱に炎症が起こる状態です。細菌感染によって起こるものが多く、尿道から入った細菌が膀胱内で増えることで発症します。細菌性膀胱炎は尿路感染症のひとつで、尿道、膀胱、腎臓など、尿の通り道に起こる感染症の中でも、膀胱に炎症が起きたものを指します。 膀胱炎には、細菌感染によって起こるもののほか、間質性膀胱炎や、薬剤・放射線治療などに関連して起こる非感染性の膀胱炎もあります。この記事では、在宅の現場でよくみられる細菌感染による膀胱炎(細菌性膀胱炎)を中心に解説します。 日本泌尿器科学会によると、女性の膀胱炎では排尿時の痛み、頻尿、残尿感などが出ることがあり、適切な抗菌薬による治療で数日以内に症状が改善することがあると説明しています。 膀胱炎の主な症状と気づき方 膀胱炎の症状は、排尿に関する違和感として現れることが多いです。代表的な症状には、以下があります。 排尿時の痛みや、しみるような感覚 頻尿 残尿感 尿意切迫感 下腹部の違和感 下腹部痛 尿の混濁 血尿 膀胱炎では、排尿の終わりに痛みを感じることがあります。また、尿を出したばかりなのにまだ残っているように感じる「残尿感」が出ることもあります。残尿感は、実際に尿が残っている場合だけでなく、膀胱や尿道の炎症による知覚異常で起こることもあります。 膀胱炎の原因とかかりやすい人 膀胱炎の主な原因は、細菌感染です。多くの場合、腸内にいる細菌などが尿道口から入り、膀胱内で増えることで炎症を起こします。 膀胱炎が起こりやすくなる要因には、以下があります。 水分摂取量が少ない 尿を我慢することが多い 免疫機能が低下している 性交渉の機会がある 陰部を清潔に保ちにくい 閉経後である 糖尿病がある 尿道カテーテルを使用している 排尿障害がある 尿路結石や前立腺肥大などの泌尿器疾患がある 女性は男性より尿道が短く、尿道口と肛門の距離も近いため、細菌が膀胱に入りやすい構造です。急性膀胱炎は女性に多く、頻尿、排尿時の痛み、血尿などがみられることがあります。 ただし、すべての排尿トラブルが膀胱炎とは限りません。性感染症、尿路結石、過活動膀胱、腟炎、前立腺の病気などでも、排尿時の痛みや頻尿がみられることがあります。 症状が続く場合は、自己判断で様子を見続けず、医療機関への相談を検討することが大切です。在宅療養中の利用者さんにこうした症状がみられる場合は、症状の経過や全身状態も確認し、必要に応じて主治医へ相談します。 膀胱炎は何科を受診する? 膀胱炎が疑われる場合は、泌尿器科で相談できます。女性の場合は、婦人科や内科で相談できることもあります。排尿時の痛み、頻尿、血尿、下腹部痛などがある場合は、医療機関への受診を検討します。在宅療養中の利用者さんの場合は、症状の程度や経過、発熱などの全身症状も確認し、必要に応じて主治医へ相談します。 受診時には、尿検査を行うことが一般的です。尿検査では、白血球や細菌、血尿の有無などを確認し、症状などとあわせて診断します。必要に応じて尿培養検査が行われることもあります。 採尿方法などについて受診先から指示がある場合は、それに従います。症状が強い場合は無理に排尿を我慢する必要はありません。 膀胱炎の治療と抗菌薬 細菌性膀胱炎では、医師の判断により抗菌薬が使われることが一般的です。一方、細菌感染以外が原因の膀胱炎では、原因に応じて治療が異なります。 抗菌薬が処方されている場合は、症状が軽くなっても自己判断で中止せず、医師の指示どおりに服用することが大切です。訪問時には、利用者さんが処方どおりに服用できているか、服薬後の症状や体調に変化がないかも確認します。 処方どおり服用していても症状が改善しない、再発を繰り返す、発熱や背中の痛みがある場合は、再度相談が必要です。 治療中は脱水を避けるため、適切な水分摂取を促すことも大切です。ただし、心不全や腎機能低下などで水分制限がある利用者さんの場合は、自己判断で水分量を増やさず、必要に応じて主治医に確認します。 早めに受診したい症状 急性細菌性膀胱炎は、適切な治療によって比較的短期間で改善することが多い病気です。一方で、症状によっては腎盂腎炎など、より上部の尿路感染症が疑われることがあります。 以下の症状がみられる場合や、次の状態にあてはまる場合は、早めの医療機関への相談が必要になることがあります。訪問看護では、膀胱炎の症状だけでなく、発熱や腰背部痛、食事・水分摂取量、意識状態などもあわせて確認します。 発熱がある 寒気や悪寒がある 背中や腰の痛みがある 吐き気や嘔吐がある 血尿が濃くなっている 尿が出にくい 強い下腹部痛がある 排尿時痛や頻尿などの症状が続く、または悪化している 膀胱炎を繰り返している 妊娠中である 高齢者で、いつもと様子が違う 糖尿病や免疫低下がある 尿道カテーテルを使用している 腎臓まで感染が広がると、背中やわき腹の痛み、高熱、悪寒、吐き気、嘔吐などがみられることがあります。 高齢者では典型的な尿路症状がはっきりしないこともあります。ただし、急な意識変化や普段と異なる様子は、脱水、薬剤の影響、尿路感染症以外の感染症などでも起こります。尿路感染症と決めつけず、バイタルサインや全身状態なども含めて評価し、必要に応じて主治医へ相談します。 在宅での観察ポイント 訪問看護では、利用者さん本人からの訴えだけでなく、普段の排尿状態との違いや、発熱・食事量・水分摂取量などの全身状態をあわせて確認することが大切です。 観察したいポイントは、以下のとおりです。 排尿回数 排尿時痛の有無 残尿感の有無 尿の色 尿の混濁 血尿の有無と程度 下腹部痛の有無 発熱の有無 腰や背中の痛み 水分摂取量 尿量 食事量 意識状態 尿道カテーテルの有無 服薬状況 記録する場合は、以下のように具体的に書くと共有しやすくなります。 「昨日20時ごろから排尿時痛あり。排尿回数は日中10回程度。残尿感あり。尿にやや混濁あり。発熱なし。水分摂取は普段より少なめ。」 「本日7時ごろから頻尿と血尿あり。下腹部痛あり。体温37.8℃。腰背部痛なし。食事摂取は半量。排尿症状と微熱がみられるため、主治医へ報告。」 このように、「いつから」「どの症状が」「どの程度あるか」を整理すると、主治医や多職種に状態を伝えやすくなります。 膀胱炎を予防するには 膀胱炎の予防では、水分摂取や排尿習慣など、日常生活上の工夫が勧められることがあります。訪問看護では、利用者さんの生活状況や既往歴、水分制限の有無などを確認しながら、次のような点について無理なく取り入れられる方法を一緒に考えます。 水分不足にならないようにする 尿を長時間我慢しない 排便後は前から後ろへ拭く 陰部を必要以上に洗いすぎない 性交渉後は排尿を長時間我慢しない 「清潔にしなければ」と考えて、強く洗いすぎたり、洗浄剤を使いすぎたりすると、皮膚や粘膜のバリア機能に影響することがあります。必要以上に洗いすぎず、やさしく清潔を保つことが大切です。 在宅療養中の方では、水分制限、排尿障害、カテーテル管理、便秘、活動量の低下などが膀胱炎のリスクに関わることがあります。利用者さんの状態に合わせて、無理のない予防策を考えましょう。 まとめ 膀胱炎では、排尿時痛や頻尿、残尿感、血尿などの症状がみられます。訪問看護では、こうした排尿症状に加えて、発熱、腰背部痛、食事・水分摂取量、意識状態など、普段との違いを確認することが大切です。 特に、発熱や悪寒、腰背部痛、吐き気などがみられる場合は、腎盂腎炎なども念頭に置き、必要に応じて速やかに主治医へ相談します。また、利用者さんが抗菌薬を処方されている場合は、服薬状況や症状の変化も確認しましょう。 利用者さんの訴えだけでなく、日頃の状態との変化を具体的に捉え、適切な受診や主治医への報告につなげることが、在宅での重要なポイントです。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 日本泌尿器科学会:「尿が残っている感じがある ~残尿感~」https://www.urol.or.jp/public/symptom/07.html2026/9/11閲覧 日本泌尿器科学会:「排尿痛がある、排尿時に痛い」https://www.urol.or.jp/public/symptom/21.html2026年9月11日閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「細菌性尿路感染症」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/03-泌尿器疾患/尿路感染症-uti/細菌性尿路感染症2026年9月11日閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「間質性膀胱炎」. https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/03-泌尿器疾患/排尿障害/間質性膀胱炎2026年9月11日閲覧 European Association of Urology(EAU)「EAU Guidelines on Urological Infections」https://uroweb.org/guidelines/urological-infections2026年9月11日閲覧 Payne H, Adamson A, Bahl A, et al.:Chemical- and radiation-induced haemorrhagic cystitis: current treatments and challenges. BJU International.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4155867/2026年9月11日閲覧

夏インフルエンザとは?症状・見分け方と訪問看護での観察ポイント
夏インフルエンザとは?症状・見分け方と訪問看護での観察ポイント
コラム
2026年9月8日
2026年9月8日

夏インフルエンザとは?症状・見分け方と訪問看護での観察ポイント

夏インフルエンザとは、夏にインフルエンザウイルスへ感染し、発熱、咳、のどの痛み、倦怠感などがみられる状態を指して使われる言葉です。正式な病名として「夏インフルエンザ」があるわけではなく、夏に発症するインフルエンザを分かりやすく表した呼び方です。 インフルエンザは冬に流行するイメージが強いですが、夏でも感染することがあります。夏風邪や熱中症、新型コロナウイルス感染症などと症状が似ていることもあるため、体調の変化を具体的に観察することが大切です。この記事では、夏インフルエンザの症状、原因、見分け方、受診の目安、在宅での観察ポイントを解説します。 夏インフルエンザとは 夏インフルエンザとは、夏に発症するインフルエンザのことです。厚生労働省によると、日本では例年12月〜3月がインフルエンザの流行シーズンですが、ウイルスは世界中で流行しており、地域によっては年間を通して感染がみられることがあります。温帯地域では冬に流行しやすく、熱帯地域では年間を通じて発生することがあります。 夏にインフルエンザがみられる背景の一つに、南半球での流行があります。東京都健康安全研究センターによると、日本を含む北半球が夏の季節のとき、南半球は冬にあたり、インフルエンザが流行する季節を迎えています。 「夏だからインフルエンザではない」とは言い切れません。高熱、強い倦怠感、関節痛、咳などがある場合は、季節に関係なくインフルエンザを含む急性呼吸器感染症を考える必要があります。 夏インフルエンザの症状 夏インフルエンザの症状は、冬にみられるインフルエンザと大きく変わりません。突然の発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、関節痛、倦怠感に加え、咳、のどの痛み、鼻水などの呼吸器症状がみられることがあります。 主な症状には、以下があります。 発熱 悪寒 頭痛 関節痛 筋肉痛 強い倦怠感 咳 のどの痛み 鼻水 なお、悪心・嘔気や下痢などの消化器症状は、成人でみられることもありますが、特に小児で多いとされています。 多くの場合、症状は3〜7日で軽快に向かいますが、特に高齢者や慢性肺疾患の方では、咳やだるさが2週間以上続くこともあります。また、高齢者では発熱がはっきりしないことや、意識・行動の変化、食欲低下といった典型的でない形で現れることもあります。合併症として肺炎などが起こる場合もあるため、高齢者、乳幼児、妊婦、基礎疾患のある方は特に注意が必要です。 夏風邪や熱中症との違い 夏インフルエンザは、夏風邪や熱中症と症状が似ていることがあります。発熱、だるさ、頭痛などは共通してみられるため、症状だけで見分けるのは難しい場合があります。 夏風邪では、のどの痛み、咳、鼻水、下痢、口の中の水疱、発疹などがみられることがあります。一方、インフルエンザでは、急な高熱、強い倦怠感、関節痛、筋肉痛が目立つことがあります。 熱中症では、暑い環境にいた後に、めまい、頭痛、吐き気、筋肉のけいれん、体温上昇、意識の変化などが起こることがあります。咳やのどの痛みがある場合は、感染症の可能性もあわせて考えます。 ただし、家庭や訪問看護の現場で病名を断定することはできません。発熱の経過、呼吸器症状、周囲の流行状況、水分摂取量、尿量、意識状態をあわせて確認し、必要に応じて医療機関へ相談しましょう。 うつる期間と感染対策 インフルエンザは、咳やくしゃみのしぶき、ウイルスがついた手を介して広がることがあります。厚生労働省によると、発症前日から発症後3〜7日間は鼻やのどからウイルスを排出するといわれています。発症前後から周囲へ感染を広げる可能性があるため、症状があるときは無理に出勤や登校をしないことが大切です。感染対策では、以下を意識します。 手洗いを行う 咳エチケットを守る 不織布製マスクを適切に使う 室内を換気する タオルの共有を避ける 体調不良時は人との接触を控える 十分な休養を取る 咳や痰などの症状がある場合は、周囲への感染を防ぐため、マスクの着用を含む咳エチケットが重要です。また、手のひらで咳やくしゃみを受け止めたときは、すぐに手を洗いましょう。 治療の基本と抗ウイルス薬 インフルエンザの治療では、症状や重症化リスクに応じて抗インフルエンザ薬が使われることがあります。発症から48時間以内に服用を開始すると、発熱期間は通常1〜2日短縮されるとされ、重い合併症を防ぐことにつながる場合もあります。 一方で、軽症で重症化リスクが低い場合は、安静、水分補給、解熱鎮痛薬などによる対症療法で経過をみることもあります。自己判断で以前に処方された薬を使ったり、薬を途中で中止したりせず、医師や薬剤師の指示に従いましょう。 発熱時は汗で水分が失われやすく、夏は暑さによる脱水も重なりやすい時期です。水分が取れているか、尿量が減っていないかを確認します。心不全や腎機能低下などで水分制限がある方は、自己判断で水分量を増やさず、医師や看護師に確認しましょう。 何科を受診する?受診の目安 夏インフルエンザが疑われる場合は、内科、小児科、呼吸器内科などで相談できます。かかりつけの病院があれば、主治医に相談すると日頃の状況と合わせて診察してもらうことができます。受診前には、発熱や咳があることを医療機関へ伝え、受診方法を確認すると安心です。以下のような場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 高熱が続く 呼吸が苦しい 咳が止まらない 胸の痛みがある 水分が取れない 尿量が少ない ぐったりしている 意識がぼんやりしている けいれんがある 乳幼児、高齢者、妊婦、基礎疾患のある方に症状がある 厚生労働省も、高熱が続く、呼吸が苦しい、意識状態がおかしいなど具合が悪い場合は、早めに医療機関を受診するよう呼びかけています。 訪問看護での観察ポイント 訪問看護や介護の現場では、発熱の有無だけでなく、呼吸状態や脱水のサイン、普段との違いを確認します。 観察したいポイントは、以下のとおりです。 発熱の有無と出現時期 最高体温 咳や痰の有無 のどの痛みの有無 息苦しさの有無 呼吸数 SpO2 食事量 水分摂取量 尿量や尿の回数 倦怠感の程度 意識状態 周囲の感染症の流行状況 服薬状況 基礎疾患の有無 記録する場合は、以下のように具体的に書くと共有しやすくなります。「昨日18時ごろから発熱あり。最高体温38.9℃。咳とのどの痛みあり。水分は少量ずつ摂取可能。尿は朝から1回。家族にインフルエンザ陽性者あり。」「発熱2日目。体温39.0℃。倦怠感が強く、食事摂取は数口程度。SpO2 94%。呼吸苦の訴えはないが、普段より声掛けに対して反応が遅い。主治医へ報告。」このように、「いつから」「どの症状が」「普段と比べてどう違うか」を整理すると、医師に状態を伝えやすくなります。 訪問看護でできる予防のポイント 夏インフルエンザの予防でも、基本は冬のインフルエンザ対策と同じです。手洗い、咳エチケット、換気、十分な休養、栄養摂取、人混みを避けることなどが有効と考えられています。 予防のポイントは、以下のとおりです。 外出後や食事前に手を洗う 咳やくしゃみがあるときは口と鼻を覆う 室内をこまめに換気する 睡眠不足を避ける 体調不良時は無理をしない 人混みでは感染対策を意識する 流行状況に応じてワクチン接種を検討する ワクチンは、発症を完全に防ぐものではありませんが、重症化予防につながることがあります。特に高齢者や基礎疾患のある方は、接種時期や対象について、かかりつけ医に相談するとよいでしょう。 まとめ 夏インフルエンザは正式な病名ではなく、夏に発症するインフルエンザを指す言い方です。インフルエンザの流行の中心は冬ですが、季節を問わず感染することがあります。主な症状は、発熱、悪寒、頭痛、関節痛、筋肉痛、強い倦怠感、咳、のどの痛みなどです。ほかの夏の体調不良と区別しにくいため、症状だけで判断せず、経過や周囲の流行状況もあわせて確認しましょう。訪問看護では、発熱、呼吸状態、SpO2、水分摂取量、尿量、意識状態、普段との違いを観察することが大切です。高熱が続く、息苦しい、水分が取れない、ぐったりしている、意識がはっきりしない場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】● WHO:「Influenza (seasonal)」.https://www.who.int/health-topics/influenza-seasonal,2026/9/7閲覧 ● 厚生労働省:「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2025.html,2026/9/7閲覧 ● 厚生労働省:「令和6年度インフルエンザQ&A」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2024.html,2026/9/7閲覧 ● 厚生労働省:「インフルエンザ(総合ページ)」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/index.html,2026/9/7閲覧 ● CDC:「Clinical Signs and Symptoms of Influenza」.https://www.cdc.gov/flu/hcp/clinical-signs/index.html,2026/9/7閲覧 ● CDC:「Treatment of Flu」.https://www.cdc.gov/flu/treatment/index.html,2026/9/7閲覧 ● CDC:「Preventing Seasonal Flu」.https://www.cdc.gov/flu/prevention/index.html,2026/9/7閲覧 ● 東京都健康安全研究センター:「世界でのインフルエンザの発生状況」.https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_virus/influenza_world/,2026/9/7閲覧● 東京都多摩小平保健所:「【医療機関・学校・社会福祉施設等の皆様へ】平常時対策について」.https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shisetsu/jigyosyo/hokenjyo/tamakodaira/kansen/heijojitaisaku,2026/9/7閲覧● 厚生労働省:「夏の感染症対策」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kansentaisaku_summer.html,2026/9/7閲覧● 厚生労働省:「職場でおこる熱中症」.https://neccyusho.mhlw.go.jp/heatstroke/,2026/9/7閲覧

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