インタビュー

通いの場で、多面的なケア

ビュートゾルフ柏では、地域支援事業として実施する通いの場「ご近所カフェみんなのたまり場」の運営を通して、「訪問看護だけではできないこと」に気づいたそうです。
今後、訪問看護ステーションとして地域の中でどんな役割を担いたいと思っているのでしょうか。

手が届かない部分にリーチする「通いの場」


―どうして、通いの場の運営を始めようと思ったのでしょうか。
吉江:継続性を重んじるプライマリ・ケア、あるいはアドバンス・ケア・プランニングを考えたとき、要介護状態ではない住民と地域で出会える工夫をしておくことはメリットがあると思っています。
実際、看護に幅が出るようになったのは確かです。
ある高齢女性の例を紹介します。
彼女は足にしびれや痛みがあり、要介護状態で訪問看護を使っていました。病気や障害を根本から解決することはできず、我々看護師がすごく役に立っているかというと、対症的な範囲にとどまっていたと思います。
その彼女があるきっかけから、得意とする布草履づくりを私たちの通いの場で披露し、他のボランティアに教え、そして売るようになったんです。
すると要介護状態ではあるけど、人の役に立つというか、何かを作って社会に貢献するということで、彼女はもちろん、他のボランティアもとても喜んでくれました
売り上げの一部は、少しではありますが本人の収入と、通いの場の運営費になり、彼女自身もボランティアのひとりになる。通いの場で、ご近所の方との交流もできる。訪問看護だけだとできない、社会的処方の資源としての、通いの場の価値を感じる経験でした。
また、通いの場は住民が誰でも自由に集まる場所です。
利用者さんの友達が来ていることもありますし、誰の子どもと誰の子どもが小学校の同級生だとか、地域住民の方の色々な関係性が見えてきます。
また私たちがそういった情報を多面的にとることができると、今まで保健師さんがやってきた地域の健康を守るという役割を、訪問看護と通いの場によって一部担えるのではないかと思います。
―通いの場をつくった当初はどのように人を集められたんですか?
吉江:
まずは、通いの場の運営に協力してくれるボランティアのコアになるような人を探しました。
私が柏市で長年育っていたら知り合いも多くいたかもしれませんが、実際は大学の仕事で柏市に住むようになっただけなので、その地域を長年知っている人を経由してネットワークを拡げていくことが有効だと考えました。
東京大学の仕事で交流があった柏市役所OBの方に相談したところ、「この地域ならこの人がいい」と民生委員経験者の方を紹介してもらいました。地域のお節介おばちゃんのような方です。
上述した柏市役所OBの方は30年以上柏市民と向き合ってきた方ですから、期待した通り、二つ返事で適切な方を紹介してくれました。
もし、これから通いの場などの住民との接点を設けたいと考えている訪問看護師の方がいらしたら、その地域で長年働いている保健師さん、民生委員さんなどとよくやり取りをして進めていくとスムーズなのではないかと思います。

「住まい」と「子育て支援」


―最後に、ビュートゾルフ柏が今後、どういうことをやっていきたいか教えてください。
吉江:
「住まい」と「子育て支援」です。
「住まい」については、家族の負担が大きくて入所・入院しましたという人はやはり一定数経験しており、課題意識があります。
ただ、サ高住や有料老人ホームというイメージではなく、さまざまな特性をもった世帯が一定数集まって、お互いがゆるいつながりの中で助けあうようなイメージの住まいを作ってみたいですね。
「子育て支援」については、私が柏市の生活支援コーディネーターの活動している中で、高齢世帯以上に、子育て世帯が困っているという調査結果を見たことがきっかけです。
石川県小松市の「ややのいえ」のような、訪問看護と助産院を組み合わせたステーションができないかな、と思っています。

一般社団法人Neighborhood Care 代表理事 / 東京大学高齢社会総合研究機構
客員研究員 / ビュートゾルフ柏代表 / 看護師・保健師
吉江悟

東京大学に入学後、看護学コースに進学し、看護師の資格を取得。大学卒業後は、大学院の修士課程と博士課程に進学。並行して保健センターや虎の門病院に勤務。大学院卒業後は、東大の研究員や病院での非常勤講師と並行して、在宅医療のプロジェクトに関わるようになる。2015年に、研究として関わっていたビュートゾルフを日本でも展開するプロジェクトとして、ビュートゾルフ柏を立ち上げ、代表に就任。現在も、看護師として現場に関わりながら、研究員としてさまざまなプロジェクトに参加し、臨床と研究の両立を大切にしている。   

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