インタビュー

オランダの在宅医療を変えた「ビュートゾルフ」とは

「ビュートゾルフ」は九州ほどの広さのオランダ国内で、10年で急成長した組織です。
約850チーム、1万人の看護師や介護士が活躍し、医療費・介護費抑制にもつながるしくみとはどんなものか。ビュートゾルフ柏代表の吉江さんにお話を伺いました。

「ビュートゾルフ」とは?

吉江:
「ビュートゾルフ」はオランダ語で、地域看護、ご近所ケアといった意味です。
ビュートゾルフが目指すのは、看護師が自分のやりたい看護を存分にした結果、利用者さんも喜んでくれるような、仕事のしかたや、チーム運営、組織モデルです。
この考え方を実現するため、ICTの積極的活用や、小規模なチーム運営、階層をなくしたフラットな構造化が進められました。
結果、ほかの組織より利用者1人あたりの医療費や介護費も安くあがることもわかり、看護師も利用者さんも国もうれしい「三方よし」のモデルとなりました。このビュートゾルフを日本に導入したのが、ビュートゾルフ柏です。

フラット型のチーム運営


―フラット型のチーム運営をされているとのことですが、どんなメリットを感じますか?
吉江:
私自身は形式的には訪問看護ステーションの管理者をしていますが、実質的にはほとんどの役割をチームメンバーで分担して手放してしまっています。
不謹慎かもしれませんが、とても気楽に運営ができています。管理業務が大変で自分が訪問する時間がとれないということもありません。
私も含め、看護師の中には管理業務が好きではないという方が多くいると思います。そういう方が管理者をやる必要がある場合、フラット型にチームを作るのは悪くない方法だと思います。
ただ、フラット型が良くて、ピラミッド型が悪いとは思っていません。例えば、今の事業所を5年ほど続けてみて、フラットな形が合いそうなメンバー、必ずしもそうではないメンバーがいるような体感があります。
難しいのは、個々の特性や好みはありつつも、チームとしてマネジメント方針をある程度決める必要がある点です。そういう場合は、チームミーティングでしっかり話し合って決めるのが大切だと思います。
―入職したばかりの看護師が意見を言うのは、難しそうに感じますが・・・
吉江:
私が法人代表で管理者でもあると、古くからのメンバーはフラットに接してくれますが、新しい人だとなかなか反論を述べるのが難しいということは、あります。
これに対しては、オランダのビュートゾルフで用いられているように、経営者とは異なる人にコーチの役割を与えて独立した存在として機能させるなどの方法が有効だと考えています。
―フラット式の組織は珍しいので、そういった体制に慣れない方もいるのではないでしょうか?
吉江:
ピラミッド型の運営で慣れていると、悩む人はいます。そういう方はベテランの方に多い気がします。逆にピラミッド型の組織での経験がない若い方などはわりと「そういうものだ」と思って働いてくれる気がします。
―給与面はどうされていますか?
吉江:
チーム運営の中で、一時的に誰かがある機能持つことはありますが、基本的にスタッフ全員がすべてのことに関わる可能性があるため、給与に差はつけていません
これは公表していることなので、採用時は基本的にみなさんに、そこは了承していただいています。

チーム運営で大切にしていること


―チーム運営で、吉江さんが大切にしているのはどんなことでしょうか?
吉江:
私がよく言うのは、「安易に決めごとを作ろうとせず、本当に基本的なルールだけ決めよう」ということです。看護師がやりがちなのが、問題が起こった時にすぐにマニュアルを作り、満足することです。しかしこれでは、作った人は内容を熟知しているけど、ほかの人はよく知らないということが起こります。
また、本来遊びがあるような領域でもマニュアルを作ってしまうことで、逆に思考停止に陥ってしまうこともあります。マニュアルが悪いわけではないですが、マニュアルを作ることが目的化してしまうことは、良くないと思っています。
何か困ったことがある場合は、何も指針がないと身動きも取れなくなってしまうので、本当に基本的なルールだけ決め、ある程度の臨機応変さを持つことを大切にしていますね。

一般社団法人Neighborhood Care 代表理事 / 東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員 / ビュートゾルフ柏代表 / 看護師・保健師
吉江悟

東京大学に入学後、看護学コースに進学し、看護師の資格を取得。大学卒業後は、大学院の修士課程と博士課程に進学。並行して保健センターや虎の門病院に勤務。大学院卒業後は、東大の研究員や病院での非常勤講師と並行して、在宅医療のプロジェクトに関わるようになる。2015年に、研究として関わっていたビュートゾルフを日本でも展開するプロジェクトとして、ビュートゾルフ柏を立ち上げ、代表に就任。現在も、看護師として現場に関わりながら、研究員としてさまざまなプロジェクトに参加し、臨床と研究の両立を大切にしている。

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