インタビュー

どうすればスタッフが幸せになる?訪問看護師のためのウェルビーイング推進

訪問看護師のためのウェルビーイング

訪問看護師が笑顔で幸せに働くためには、どうすればいいのか。多くの訪問看護ステーションが抱える課題でしょう。今回お話を伺ったのは、ソフィアメディ株式会社で「ウェルビーイング推進グループ」のマネジャーを担当する宮地麻美さん。管理者経験もある宮地さんに、「ウェルビーイング」とは何か、ウェルビーイング推進グループではどんな取り組みを行っているのか、などを伺いました。

ソフィアメディ株式会社
「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護や訪問リハビリテーションなど、在宅医療に特化したサービスを提供している

宮地 麻美さん/ウェルビーイング推進グループ マネジャー
1972年群馬県生まれ。看護師歴22年。精神薄弱児施設で4年働いた後、医療知識を求めて看護師の道へ。ナショナルセンターで15年勤務しつつ、看護教員資格を取得し、大学院へ進学。遷延性意識障害看護を学ぶ中で、口腔ケアの重要性を感じて摂食・嚥下障害看護認定看護師となり、急性期での看護を実践。2016年に回復期リハビリテーション病院に転職し、在宅看護の重要さを知る。2019年にソフィアメディへ転職後は訪問看護ステーション管理者として3年従事し、2022年2月より新設されたウェルビーイング推進グループのマネジャーを担当。

体制変更やコロナ禍でスタッフが疲弊

─まずは、宮地さんが訪問看護師になったきっかけをお教えください。

私は看護師になる以前、精神薄弱児施設に勤務していたのですが、気管内吸引をはじめとした医療的処置が必要な子や、多数の薬を飲んでいる子たちがいました。その子どもたちと関わるうちに医療の道に興味をもち、看護師を志すようになったんです。看護師になってからは、口腔ケアに興味を持ち、医学博士の紙屋克子先生や歯科医師の黒岩恭子先生のもとで学んだ後、摂食・嚥下障害看護認定看護師として病院で働いていました。

しかし、病院ではどうしても多数の患者さんをケアするために優先順位を考えて対応せざるを得ません。「もっと患者さん本位の看護をしたい」「在宅での看護をしたい」と思うようになったことが、訪問看護師になるきっかけですね。回復期リハビリテーション病院に転職して、在宅看護を目の当たりにしたということも大きいです。自分の身の回りに関するものも人間関係も、基本的には「家」が中心。家で治療・療養ができれば、より患者さんの心が満たされる看護ができるのではないかとも思いました。

―在宅看護に夢を持って、ソフィアメディに転職されたのですね。

はい。2019年に転職し、「ソフィアメディ訪問看護ステーション元住吉」の管理者を任されました。「地域のみなさんに安心してもらえるようなステーションにしたい」「スタッフにも利用者様にもケアマネジャーさんたちにも笑顔になってほしい」と、夢や希望でいっぱいでした。

しかし、2019年はちょうど診療報酬の改定があり、ソフィアメディでも在宅で中重度のお客様を受け入れられるよう体制を整えはじめた大転換期。土日・夜間の対応強化による忙しさにスタッフたちは疲弊し、漠然とした不安がステーション内に広がり、管理者としてふがいなさを感じていました。さらに、2020年には新型コロナウイルス感染症の波が訪れ、課題は山積み…。スタッフたちの笑顔が少なくなっていきました。

このときに私は、「絶対にステーションを笑顔いっぱいする!」と決心したんです。

ウェルビーイング=「健康で幸せな状態」

―管理者時代の経験が、現在の「ウェルビーイング推進」のお仕事につながっているのですね。では、そもそもウェルビーイングとは何なのか、定義から教えてください。

ウェルビーイング(Well-being)は、「ウェル」(良好な、健康な)と「ビーイング」(状態)をつなげた言葉で、「健康で幸せな状態」のことを指します。慶應義塾大学の前野隆司教授によれば、長続きしないお金や社会的地位などではなく、長続きする「社会的、身体的、精神的に良好な状態」がウェルビーイングです。日本は、社会的・身体的な部分については高水準だと言われていますが、「精神的」な部分が課題だと言われています。

―ウェルビーイングは、単純に「うれしい」「楽しい」という状態ではないのですね。

そうですね。前野教授は、幸せを高める因子として、以下の4つを挙げていらっしゃいます。例えば、強みを生かして主体的に動けている状態や、他者と比べず「自分は自分」と思える状態も、ウェルビーイングに含まれるんです。私は、この4つの因子を参考にしながら、ステーション内を笑顔でいっぱいにすべく、動いていきました。

■前野 隆司教授による幸せの4つの因子
・「ありがとう!」因子(つながりと感謝)
・「やってみよう!」因子(自己実現と成長)
・「ありのままに!」因子(独立と自分らしさ)
・「なんとかなる!」因子(前向きと楽観)

―具体的に、訪問看護ステーション元住吉でどのような取り組みを行ったのでしょうか

まずは、スタッフの心理を分析しました。訪問看護に携わる看護師・セラピストたちは、職種柄「自分がやらねば!」という責任感や正義感が強く、患者さんのために自分自身を犠牲にしたり、ミスをした際に過剰に自分を責めたりする傾向にあると思います。

スタッフの心理
ソフィアメディ 「スタッフの心理」セミナー資料より引用

こうした現状を踏まえて、「4つの因子」に当てはめて改善をしていきました。

幸せを高める4つの因子
ソフィアメディ 「幸せを高める4つの因子」セミナー資料より引用

例えば、以下のような行動です。

(1)「ありがとう!」因子(つながりと感謝)

・誰よりも早く大きな声で「おかえり」「いってらっしゃい」などの声をかける
・日々スタッフの命が一番大事であることを伝える
・マイナスな意見に対しても「改善のきっかけになった」と感謝する

(2)「やってみよう!」因子(自己実現と成長)

・「理想の看護」について、スタッフ一人ひとりにヒアリングする
・自分の意見を押し付けず、スタッフたちの意見に「いいね!」と伝える
・難しい案件も断らず、必要に応じて管理者である自分自身が訪問して看護方針を策定

(3)「ありのままに!」因子(独立と自分らしさ)

・会話を通じて、スタッフのコンディションを把握
・プライベートの事情や趣味も把握し、応援し合う
・「自分を犠牲にせず、自分が幸せになるやりかたを考えよう」と伝える

(4)「なんとかなる!」因子(前向きと楽観)

・インシデント報告に対して「ありがとう」「大変だったね」と感謝・ねぎらいの言葉をかける
・「寝坊しました!」とはっきり言えるくらい、相談しやすい雰囲気づくりをする
・困りごとの解決策は、一緒に考える

こうした動きをしていったことで、ステーション内の雰囲気が良くなり、年間で一人も離職者は出ませんでした。アンケートでのスタッフの従業員満足度(ES)も高くなりました。

「ありがとう」「いいね」が行き交う組織へ

─訪問看護ステーション元住吉での取り組みを経て、ソフィアメディ内でウェルビーイング推進グループを立ち上、取り組みを会社全体に広げているのですね。では、ウェルビーイング推進グループの立ち位置について教えてください。

はい。ウェルビーイング推進グループ設立の目的は、まさに全体の従業員満足度を高めていくことです。『「ありがとう」や「いいね」が行き交う組織にする』というヴィジョンを掲げて活動しています。4名という少数で活動しており、グループ内でなにか相談したいことがあれば、すぐに話し合っています。

─ウェルビーイング推進と、ワークライフバランス推進は異なるものでしょうか?

はい、そこは明確に異なります。「ワークライフバランス」という言葉は、「仕事とプライベートをしっかり切り分ける」といった意味合いが強いですよね。たしかに公私混同しないことは重要ですが、仕事をしているときの自分も、家に居るときの自分も、どちらも「自分」。切り分けることはできません。ウェルビーイングを推進する際は、その前提に立って考えています。

当たり前のことですが、家で嫌なことがあれば、仕事に気が乗りませんし、仕事でいいことがあれば、家でもずっといい気持ちでいられますよね。「仕事とプライベートは相互に影響し合うもの」「繋がっているもの」ということを意識して、両方大切にしていきたいというのがウェルビーイング推進グループの基本的な考え方です。仕事の時間は人生の多くを占めますので、楽しんでもらえるような環境・関係をつくりたいと思っています。

例えば、「今日は家族の具合が悪いから帰りたい」、「好きなアイドルのコンサートがあるから早帰りさせてほしい」。そんな一言が言いやすい環境がいいと思います。そういった発言が聞けると、「ご家族の調子がよくなくて大変なんだな」とか、「そんな趣味を持っているんだ」などと、スタッフたちの事情が見えてきますよね。事情がわかれば、互いに配慮し合えます。公私を完全に切り離すのでなく、どちらも「その人を形成するもの」として知り、自分のことも知ってもらう。そうすることで、円満な関係が生まれやすくなると思います。

―ありがとうございます。次回はウェルビーイング推進グループの業務の詳細や、スタッフの皆さんの反応についてお話しいただきます。

>>続きはこちら
具体的に何をすればいいの? 訪問看護師のためのウェルビーイング推進

※本記事は、2023年4月の取材時点の情報をもとに制作しています。

取材・執筆: 倉持 鎮子
編集: NsPace編集部

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