記事一覧

訪問看護ステーションの開設に必要な事業計画とは?
訪問看護ステーションの開設に必要な事業計画とは?
コラム
2026年5月19日
2026年5月19日

訪問看護ステーションの開設に必要な事業計画とは?

訪問看護ステーションの運営は、ケアを提供するだけでは成り立ちません。スタッフの育成や地域との連携、安定した運営体制の構築など――。日々の業務の中で、管理者が考えるべきことは多岐にわたります。そのような状況で、現場の質を保ちながら訪問看護事業を継続していくためには、目の前の業務だけを見ていては不十分です。「誰にどんなサービスを提供していくか」という長期的な視点が欠かせません。そこで重要になるのが、ステーションを立ち上げる前に立案する「事業計画」です。 訪問看護で事業計画を立てる理由 訪問看護ステーションを開業する際、まず着手すべき事業計画。とはいえ、 「そもそも事業計画って何?」 「現場経験しかないけど、自分にできるかな?」という不安を感じている方は少なくないでしょう。 看護の分野は、経営や営業などの文脈では語られることが少なく、「ケアの質が高ければ成り立つ」というイメージを持たれやすいのも事実です。 しかし実際には、「どうやって事業として継続させていくか」を考えなければ、安定した運営は難しくなります。 そこで今回は、訪問看護ステーション立ち上げにおける事業計画とは何か、そしてなぜ必要なのかについて、わかりやすく解説していきます。 事業計画は事業を成立させるための「設計図」 事業計画とは、一言でいうと「事業をどうやって成り立たせるかを整理したもの」です。訪問看護に置き換えると、例えば次のような問いに答えていくことになります。 どんな利用者にケアを提供するのか ステーションの強みは何か どのエリアで開業するのか どうやって地域の方々に選んでもらうのか これらを整理せずに開業してしまうと、なんとなく運営している状態になりかねません。気がついたときには利用者が集まらず、経営が不安定になるリスクも出てきます。 逆に言えば、事業計画をしっかり立てておくことで、ステーションの運営理念が明確になり、経営判断の軸にもなっていくでしょう。 訪問看護の利用者は、自然に増えるわけではない 訪問看護は本来、必要な人に届けるものです。一般的な商売のように、広告や営業で売り込むようなものではありません。そのため、「いいケアをしていれば自然と利用者が増えるのでは?」と思われることもあります。 しかし実際には、地域の中で複数の訪問看護ステーションが存在しており、その中から選ばれる必要があります。つまり、「自分たちのステーションだからこそ発揮できる価値」を考えることが重要です。ここで必要になるのが、まず地域のニーズを知り、他のステーションの特徴を調べること。そしてこれらを踏まえ、どんな価値を発揮するステーションにしていくかを考えることです。 地域ごとの具体的なニーズを把握する 選ばれるステーションにしていくためには、地域のニーズを具体的に知っておく必要があります。エリアによって、訪問看護を利用したい方のニーズは大きく異なります。 独居の高齢者が多い 小児医療のニーズが高い すでに多くのステーションがある などの情報を把握していないと、「ニーズが少ない分野を選んで開業してしまう」「他のステーションが多すぎて選ばれない」といった状況にもなりかねません。 逆に、地域のニーズと自分たちの強みが一致すれば、無理に利用者を増やそうとしなくても選ばれやすいステーションになるでしょう。 そのため事業計画では、「どこで・誰に・何を提供するのか」をセットで考えることが重要です。 地域の中で選ばれる理由を把握する 数あるステーションの中から選ばれるためには、自分たちだからこそ発揮できる価値を考える必要があります。近隣のステーションの特徴を踏まえ、独自の「強み」を見出し、育てていきましょう。例えば、 難病の利用者へのケア体制がある 精神科看護に詳しい人材を確保できている 小児分野の看護・医療体制が整っている などの高い専門性があれば、これらを強みとして、他のステーションとは異なる価値を発揮できます。 このように「どんなサービスを、誰に、どのように提供するか」を、「自分たちだからこそ発揮できる価値」とセットで考えることが、選ばれる事業所づくりにつながるのです。 計画を実現可能にする3ステップ 事業計画は、ただ考えるだけでは机上の空論になってしまいます。実行できる形に落とし込むためには、次の3ステップで進めるとよいでしょう。 ステップ1.やるべきことを洗い出す 手続き・採用・営業準備など、必要なタスクを整理することで、抜け漏れを防げます。 ステップ2.タスクを分類分けする 大小さまざまなタスクを、大まかなジャンルごとに振り分けていきます。 ステップ3.期限から逆算してスケジュールを組む いつまでに開設するのか、そのために何をいつまでにやるのかを決めるフェーズです。月や週単位で何をやるかまで落とし込むことで、計画が現実的になります。また、計画通りに進まないことも考慮し、予備日を設けるようにしましょう。 まとめ:事業計画は、経営で迷わないための地図になる 事業計画は「どうやってこの事業を続けていくのか」を、言葉に落とし込んだものです。日々さまざまな判断を求められる訪問看護管理者にとって、方向性を示す地図があることで、経営の安定性は大きく変わっていくでしょう。 もし今あなたが立ち上げを考えているのであれば、「自分は、どんな訪問看護ステーションをつくりたいのか?」 「誰に、どんな価値を届けたいのか?」といった問いを言葉にすることが、事業計画の第一歩です。 次回のコラムでは、収益構造や人員体制などの視点で事業計画をどう立てるべきか、具体的に解説していきます。それでは、また次回のコラムでお会いしましょう。 執筆・編集者:米沢 まさこ(看護師ライター) 監修:小瀬 文彰(看護師・保健師・経営学修士)株式会社UPDATE代表取締役2013年慶應義塾大学看護医療学部卒。ケアプロ訪問看護ステーション東京にて、新卒訪問看護師としてキャリアをスタート。訪問看護の現場・マネジメント経験の後、薬局・訪問看護を運営するスタートアップ企業にて最高執行責任者として40拠点・年商65億規模の経営に携わり、上場企業へのグループインを実現。 現在は株式会社UPDATEの代表として、訪問看護のマネジメントコーチ(経営・組織づくり支援)や組織マネジメント講座を通し、「想いある医療者に、マネジメントの力を」届ける事業を展開中。その他、業界団体の研修会登壇や調査研究支援(シンクタンク事業)も実施中。

腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは
腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは
特集
2026年5月19日
2026年5月19日

腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回のテーマは「腎不全」。その中でも末期腎不全(ESKD)に対する在宅での保存的腎臓療法(CKM)について、東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所の岡田絵里先生に、進行に伴う苦痛症状とその対応、患者さんのQOL向上のために検討すべきことを解説いただきます。 はじめに わが国では、慢性腎臓病(CKD)を有する患者数は約2,000万人(成人の約5人に1人)1)とされ、75歳以上の高齢者における有病率は34.6%(約3人に1人)に上ると推算されます2)。また、ESKDに対して血液透析を中心とした腎代替療法が行われてきましたが、透析導入患者の平均年齢は今や約71歳3)を超え、重度の心不全や認知症など、体外循環がハイリスクとなるケースも少なくありません。 超高齢社会における腎不全治療の在り方が問われており、近年は腎代替療法を選択せず、ESKDに伴う症状緩和を主軸とするCKMを選択する症例も増加しています。本稿では在宅療養下でCKMを選択された腎不全患者さんを対象とした緩和ケアについて概説します。 腎不全とは 疾患の概要 腎不全とは、腎臓の機能が低下し、老廃物や余分な水分、電解質の排泄や調整ができなくなる状態です。高齢腎不全の多くの症例では、糖尿病・高血圧・加齢などを背景に緩徐に腎機能の低下が進行し、ESKDに至ります。このようなケースでは亡くなる1~2ヵ月前まで身体機能が比較的保たれ、末期がんのような病の軌跡をたどることが特徴です。 一方で、腎不全の原疾患や他臓器の併存症によって、腎機能の急性増悪を繰り返しながら段階的に腎機能が低下していく症例もあり、過去の腎機能の推移から今後の経過を個別に予測する必要があります。 進行の特徴と終末期の変化 病期の進行とともに、浮腫、倦怠感、食欲不振、呼吸困難、皮膚のかゆみ、意識障害などが段階的に現れます。糸球体濾過量(eGFR)が10mL/分/1.73m2未満となり終末期が近づくと、尿量の著しい減少、傾眠傾向の増加、せん妄、けいれん、昏睡といった尿毒症による症状もみられます4)。特にCKMを選択される場合は、終末期に向けて症状のコントロールがより重要になってきます。 ESKDに伴う主な苦痛症状とその対応 米国で腎緩和ケアサービスを受けていたESKD患者335 名における5大症状は、呼吸困難(63.7%)、倦怠感(51.8%)、浮腫(48.2%)、疼痛(44.2%)、食欲不振(38.1%)5)であったと報告されています。そのほかの苦痛症状も含め、観察ポイントとケア・対応を表1にまとめました。 表1 ESKDに伴う主な苦痛症状と観察ポイントおよびケア・対応 苦痛症状観察ポイントケア・対応呼吸困難・浮腫・体液過剰   ・血圧・体重・SpO2・塩分制限・在宅酸素療法・ベッドのギャッジアップ・顔に冷風を当てる・利尿薬の増量・薬物治療:オピオイド※、抗不安薬(オピオイド無効時)倦怠感・高度の貧血や心不全の有無・薬剤性(抗ヒスタミン薬、オピオイド※、睡眠薬など)・抑うつ・貧血の是正(薬物治療:腎性貧血治療薬〔ESA やHIF-PH 阻害薬など〕)・原因薬剤の減量・中止:抗ヒスタミン薬、オピオイド※、睡眠薬などによる倦怠感の可能性を検討・抑うつがある場合は抗うつ薬を検討疼痛・NRS(数値的評価スケール)・痛みの性質・増悪寛解要因・神経障害性疼痛の場合:薬物治療(プレガバリン、ガバペンチンなど)・侵害受容性疼痛の場合:薬物治療(アセトアミノフェン、トラマドール、オピオイド※など)食思不振・悪心・嘔吐・食事量・体重・排便管理・食事の少量頻回摂取・薬物治療:制吐薬、六君子湯など・リン吸着薬やカリウム吸着薬などの減量・中止の検討・難治性の場合:薬物治療(オランザピン)せん妄・意識障害・意識レベル・症状の変動・羽ばたき振戦の有無・介入可能な原因検索(電解質異常や感染症、便秘や尿閉など)・せん妄に対する環境調整(日中の覚醒を促す、眼鏡や補聴器の適正使用など)・活動性せん妄に対する薬物治療:抗精神病薬(クエチアピン〔糖尿病患者では禁忌〕、ペロスピロンなど)・臨死期における尿毒症による意識障害は苦痛がなければ介入を行わないことも多い皮膚掻痒・掻把痕・皮膚乾燥の確認・スキンケア、保湿、天然繊維の肌着の使用・薬物治療:抗ヒスタミン薬、ナルフラフィン(抗ヒスタミン薬が効きにくい場合。保存期CKD では適応外)むずむず脚症候群・日内変動の確認・鉄欠乏の有無・薬剤性(抗精神病薬や抗うつ薬など)・カフェインやアルコール摂取を控える・鉄分の補充・薬物治療:プレガバリン、プラミペキソールなど便秘・便の性状・薬剤性(リン吸着薬、カリウム吸着薬など)・原因薬剤の減量・変更:リン吸着薬、カリウム吸着薬・薬物治療:上皮機能変容薬(ルビプロストン、エロビキシバット)、浸透圧性下剤(ポリエチレングリコール)など⇒腎機能低下患者では酸化マグネシウムを避ける(高マグネシウム血症への注意が必要) ※腎不全におけるオピオイドの使用モルヒネは、有害な代謝産物(モルヒネ-3-グルクロニド〔M3G〕)が蓄積し、せん妄やミオクローヌスなどを起こしやすくなるため、eGFR30mL/分以下の場合、使用は原則禁忌とされています。オキシコドン、ヒドロモルフォン、トラマドールは、減量して慎重に投与します。ブプレノルフィンやフェンタニルは腎不全でも比較的安全に使用可能ですが、いずれも内服薬がない点に留意する必要があります。非がん進行性疾患の呼吸苦に対するオピオイドの使用は知見に乏しく、現状はエビデンスが担保されていませんが、一定の効果が得られることもあり、使用を検討します。 患者さんのQOL向上のためにできること ポリファーマシー対策 腎不全患者さんは、高血圧や糖尿病、脂質異常症、心疾患などの多疾患並存を抱える場合、内服薬が多くなる傾向にあります。ある研究によると、CKDステージG4(腎機能が高度に低下した状態)およびG5(ESKDの状態)では、6剤以上のポリファーマシー状態にある患者さんの割合が、それぞれ84%、74%であったと報告されています6)。 CKMを選択される患者さんにおいては、長期的な生命予後よりも、QOLや短期予後をより重視した処方設計が望ましい場合もあります。例えば、便秘になりやすい症例や服薬アドヒアランスに懸念がある症例においては、血清リンのコントロール目標は緩くし、リン吸着薬の減量・中止を検討してもよいかもしれません。高カリウム血症を呈する症例では、アシドーシスに対する炭酸水素ナトリウムを使用することで、カリウム吸着薬による便秘を避けられる可能性があります。 個々の症例に応じて処方を見直し、患者さんの治療負担の低減を図ることができるとよいでしょう。 食事制限は患者さんのQOLを重視 CKDの食事療法に関しては、一般的にタンパク・リン・カリウムなど、多くの制限が提示されます。しかし、高齢CKD患者さんではそもそも食事摂取量が低下し、サルコペニアの合併例も多いことから、栄養指導にも留意が必要です。 『CKD診療ガイド2024』(日本腎臓病学会編)では、サルコペニアを合併したCKDでのタンパク制限の緩和についても言及されています7)。食事はQOLに直結する人生の愉しみでもあり、高齢CKM症例における食事制限に関しても、主治医と相談の上で適宜緩和を検討すべきでしょう。 アップデートしておきたい知識 腎不全の緩和ケアに対する関心の高まりから、令和 8 年度診療報酬改定において緩和ケア病棟の対象疾患として新たに腎不全が加わり、また腎臓病対策推進の一環として緩和ケア提供体制の整備を含めた診療加算が新設されました8)。 在宅で受けることができる透析治療として、腹膜透析(PD)への関心も高まっています。血液透析と比較し、通院負担や体外循環による心血管系の負担が少ないことがメリットである一方、高齢患者さんでは自身での管理が難しいケースも少なくありません。訪問看護師によるサポートで在宅PDを導入・継続するassisted PDの広がりが期待されます。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)ESKD:end-stage kidney disease(末期腎不全)CKM:conservative kidney management(保存的腎臓療法)QOL:quality of life(生活の質)CKD:chronic kidney disease(慢性腎臓病)eGFR:estimated glomerular filtration rate(推算糸球体濾過量(値))SpO2:saturation of percutaneous oxygen(経皮的動脈血酸素飽和度)ESA:erythropoiesis stimulating agent(赤血球造血刺激因子製剤)HIF-PH:hypoxia-inducible factor-prolyl hydroxylase(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)NRS:numerical rating scale(数値的評価スケール)PD:peritoneal dialysis(腹膜透析) 執筆:岡田 絵里東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所 筑波大学医学類卒業後、腎臓専門医・透析専門医・総合内科専門医を取得。在宅医として高齢者腎不全診療にアプローチしていきたいと考えています。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本腎臓学会編:CKD診療ガイド 2024.東京医学社,東京,2024:ⅳ.2)Kobayashi A,Hirano K,Okuda T, et al.:Estimating the prevalence of chronic kidney disease in the older population using health screening data in Japan.Clin Exp Nephrol 2025;29(3):276-282.3)正木崇生,花房規男,阿部雅紀,他:わが国の慢性透析療法の現況.日本透析医学会雑誌 2024;57(12):543-620.4)鈴木利彦監修,坂井正弘編:腎不全の緩和ケア.東京,南山堂,2025:47.5)Kwok AO,Yuen SK,Yong DS,et al.:The Symptoms Prevalence, Medical Interventions, and Health Care Service Needs for Patients With End-Stage Renal Disease in a Renal Palliative Care Program.Am J Hosp Palliat Care 2016;33(10):952-958.6)坂本愛,浦田元樹,岩川真也,他:慢性腎臓病を有する高齢者のポリファーマシーにおける有害事象の潜在的リスク因子に関する検討.日本腎臓病薬物療法学会誌 2018;7(1):13-23.7)日本腎臓学会編:成人CKD患者への栄養管理.CKD診療ガイド 2024,東京医学社,東京,2024:55-58.8)厚生労働省:令和8年度診療報酬改定について 【医科全体版】 令和8年3月6日版.2026:379.2026/4/27閲覧

梅雨バテ 訪問看護師向けケアガイド
梅雨バテ 訪問看護師向けケアガイド
特集
2026年5月19日
2026年5月19日

梅雨バテと隠れ脱水を見逃さないために|1,030人調査×内科医監修の訪問看護師向けケアガイド

梅雨の時期に体調不良を感じる人は約4割——。株式会社リーフェホールディングスが2026年3月に1,030人を対象に実施した調査で、そんな実態が明らかになりました。さらに2026年は3月の寒暖差が例年より大きく、自律神経がすでに消耗した状態で梅雨を迎えるため、例年以上に症状が深刻化しやすいと考えられます。支援が必要な訪問看護の利用者さんにとって、梅雨バテは脱水・転倒・既往症悪化への入口になり得る見逃せない症状です。本記事では内科医の立場から、現場で今すぐ使えるアセスメント・ケアの知識を解説します。 梅雨バテとは——夏バテとの違いを理解する 梅雨バテとは、梅雨の時期に特有の環境変化(気圧の低下・高湿度・日照不足)が複合的に重なることで自律神経が乱れ、心身にさまざまな不調をきたす状態の総称です。「夏バテ」と混同されることが多いですが、発症のメカニズムは異なります。 梅雨バテ夏バテ主な時期6月〜7月上旬7月〜8月主な原因気圧変動・高湿度・日照不足高温・高湿度・冷房による体温調節の乱れ中心症状だるさ・頭痛・メンタル不調・睡眠障害食欲不振・疲労感・体力消耗特徴自律神経の乱れが主体体力・栄養の消耗が主体 この違いが訪問看護の現場で重要なのは、「気温がまだ高くないから大丈夫」という先入観が、梅雨バテや隠れ脱水の見落としにつながりやすいからです。また、気圧変化に伴う不調は「気象病」「天気痛」とも呼ばれ、日本生気象学会の研究によると天気の変化で体調不良を訴える人は全体の約7割にのぼるとされています。 潜在的な患者数は国内に1,000万人以上と推計されており、梅雨バテはその代表的な症状です。訪問看護の利用者さんだけでなく、訪問看護師のみなさん自身にも影響が出やすい時期であることを覚えておいてください。 梅雨バテの症状【1,030人調査データ】 株式会社リーフェホールディングスが2026年3月に実施した「春の不調に関する実態調査」(n=1,030人)では、6月に不調を感じた402人に対して具体的な症状を尋ねました(複数回答可)。上位5位の結果は以下の通りです。 順位割合 割合1位 だるさ 73.1%2位 頭痛・眩暈 60.4%3位 肩こり・腰痛 45.5%4位 無気力 39.1%5位 眠りが浅い 35.6% (株式会社リーフェホールディングス「春の不調に関する実態調査」2026年3月・n=1,030人) 注目したいのは、「だるさ」「頭痛」といった身体症状に加え、「無気力(39.1%)」という精神面の不調が4位に入っている点です。 訪問看護の現場でこうした変化に気づいたとき、それは「異変を察知するきっかけ」になります。ただし、反応の鈍さや意識の変化は脳血管障害・重度脱水・低ナトリウム血症など重大な疾患でも現れるため、まずバイタル測定と意識レベルの確認を行い、重篤な原因を除外することが先決です。そのうえで環境的な背景(梅雨・気圧変化)と照らし合わせ、梅雨バテの関与を考えてください。 支援が必要な利用者さんにとって、梅雨バテの症状は日常生活に直結します。だるさや無気力が続けば活動量が落ち、廃用症候群につながる可能性があります。頭痛や眩暈があれば立ちくらみから転倒につながることもありますし、食欲不振が重なると服薬が不規則になり既往症に影響が出ることも考えられます。「なんとなく元気がない」というサインを早めにキャッチして関わることが、在宅生活の安定を支える第一歩です。 梅雨バテが日常生活に与える影響【調査データ】 同調査で4〜6月に不調を経験した980人に「不調時に本来の自分の何%で動けているか」を尋ねたところ、78.9%が「80%未満」と回答しました。 パフォーマンス割合80〜100%(ほぼ変わらない)21.1%50〜79%(ミスが増える・動きが遅い)57.0%20〜49%(最低限のことしかできない)18.1%0〜19%(休みたい・何も手につかない)3.8% (株式会社リーフェホールディングス「春の不調に関する実態調査」2026年3月・n=1,030人) 不調を感じた人の約6割が「ミスが増える・動きが遅い」状態にあります。訪問看護の利用者さんの場合、このパフォーマンス低下は服薬管理のミス・転倒リスクの上昇・水分摂取量の低下として現れやすく、より深刻な事態に発展するリスクがあります。 また見落としがちですが、介護をしているご家族も同様の影響を受けている可能性があります。ケアの質が全体的に落ちやすい時期として認識しておくことが大切です。最悪の場合、うっかり服薬管理のミスにつながることもゼロではありません。「家族の介護力も季節によって変わる」という視点を持ちながら、訪問時に服薬カレンダーの確認や一包化の提案をさりげなく行うことが、利用者さんとご家族の両方を支えることになります。 梅雨バテの3つの原因——医学的メカニズム (1)気圧の低下による自律神経の乱れ 梅雨は低気圧が長期間持続します。耳の奥にある「内耳」は気圧を感知する精密なセンサーとして機能しており、気圧が低下すると前庭神経が過剰に反応し、自律神経のバランスが崩れます。自律神経には「交感神経(活動モード)」と「副交感神経(休息モード)」の2系統があり、低気圧が続くと副交感神経が優位になりやすく、体が常に「休息モード」に傾きます。これがだるさ・眠気・意欲低下の本質的な原因です。 また、低気圧の影響でヒスタミンという炎症・発痛物質の産生が増えることが知られており、頭痛・肩こりの増悪につながります。 (2)高湿度による体温調節機能の低下と「隠れ脱水」 梅雨時期は湿度が80〜90%に達することもあります。高湿度環境では汗が蒸発しにくく、体内に熱がこもった状態(うつ熱)が続きます。これがだるさや倦怠感の主な原因のひとつです。 さらに見落とされがちなのが「隠れ脱水」のリスクです。「梅雨はまだ涼しいから水を飲まなくていい」という認識のまま、気づかないうちに水分不足が進行するケースが多くあります。高齢者は口渇感が鈍化していることが多く、自覚なく脱水が進むリスクが特に高い点に注意が必要です。 (3)日照不足によるセロトニン・メラトニン分泌の乱れ 太陽光を浴びることで分泌されるセロトニン(幸福ホルモン)は、気分の安定や意欲の維持に不可欠な神経伝達物質です。梅雨の時期は晴天が少なくなることでセロトニンの分泌が低下し、気分の落ち込み・無気力感・不安といった精神症状が現れやすくなります。 またセロトニンは睡眠ホルモン「メラトニン」の前駆体でもあるため、睡眠の質の低下や日中の眠気にも直結します。 訪問看護師が押さえておきたいポイント 梅雨バテは自己申告されにくい症状です。特に高齢の利用者さんは「年のせい」「大げさにしたくない」と思い、体調変化を積極的--に伝えないことが多くあります。以下のチェックリストを訪問時のアセスメントにそのままご活用ください。なお、チェックリストの使用はバイタルサインと意識レベルに大きな変化がないことを確認したうえで行ってください。 【梅雨バテチェックポイント】 表情・言動の変化 いつもより口数が少ない・反応が遅い 「なんとなくだるい」「ぼーっとする」という訴えがある 何もしたくない、外に出たくないという意欲の低下がある ぼんやりしている・会話が噛み合わない 隠れ脱水のサイン 口腔内・口唇の乾燥がある 皮膚をつまんで戻りが遅い 尿の色が濃い・回数が少ない 腋窩に発汗がない(体温調節機能低下の危険なサイン) 血圧低下・脈拍増加がある 生活環境の確認 室温28℃以上・湿度60%以上になっていないか エアコンを使っていない・使い慣れていないか 水分補給がアルコールやコーヒー中心になっていないか 食事量や睡眠に変化が出ていないか 服薬が正しく行われているか 【特に注意が必要な利用者さん】 高齢(口渇感の鈍化により自覚なく脱水が進みやすい)  心疾患・腎疾患・糖尿病などの基礎疾患がある  利尿薬・降圧薬・抗コリン薬など脱水リスクを高める薬剤を服用中  日中独居、またはほぼ動かない生活をしている  エアコンを使わない、または使い慣れていない 1つでも該当する項目がある場合は、梅雨バテの可能性を念頭に置いた観察と早めのケア介入を検討してください。 最新研究に基づく梅雨バテの対策 (1)内耳ケア——耳まわりのマッサージ 内耳は気圧変化を感知するセンサーとして機能しており、血流を改善することで自律神経の過剰反応を抑える効果が期待できます。道具は不要で座ったままできるため、利用者さんへそのまま指導しやすいケアです。訪問時に一緒に実施してみるのもよいでしょう。 やり方(1回約1〜2分) 両手の親指と人差し指で耳全体を軽くつまみ、上・下・横に5秒ずつゆっくり引っ張る 耳全体を後ろ方向にゆっくり5回まわす 耳を折り畳むように前に倒し、5秒キープする 手のひらで耳全体を覆い、後ろ方向に円を描くように5回まわす 雨の日の朝や、体調変化を感じたタイミングで行うのが効果的です。 (2)腹式呼吸——迷走神経を刺激して副交感神経を整える 深くゆっくりとした腹式呼吸は横隔膜を動かし、迷走神経を介して副交感神経を直接活性化します。 座位・臥位どちらでも実践できるため、在宅でのケアに取り入れやすい方法です。 手順:鼻から4秒吸ってお腹を膨らませ、口から8秒かけて吐く。5〜10回を目安に、起床時・就寝前に習慣化する。 (3)適切な水分補給と経口補水ドリンク 水分摂取量は1日の目安として1.5〜2リットルで、時間を決めてこまめに摂ることが大切です(腎疾患・心不全のある方は担当医の指示量を優先してください)。水や麦茶が適していますが、身体がだるい場合には水と電解質を同時に補給できる経口補水液が特に有効です。以下のレシピで自宅でも簡単に作ることができます。 橋本医師考案:手作り経口補水ドリンクレシピ(コップ1杯・約200ml分) 材料分量水200mlレモン汁大さじ1リンゴ酢小さじ1オリゴ糖大さじ1はちみつ大さじ1+小さじ1塩ひとつまみ コップに水を注ぎ、すべての材料を加えてよくかき混ぜるだけで完成です。ビワ・パイン・キウイ・梅・桃・ミントなど旬のフルーツを加えるとさらに飲みやすくなります。なお、アルコールやコーヒー・緑茶には利尿作用があるため、水分補給の代わりとして摂取すると脱水が進む可能性があります。飲み物の「量」だけでなく「中身」も確認することが重要です。 [注意事項]・塩分・糖分の制限がある利用者さんへの提供は、事前に担当医または管理栄養士へご相談ください。・作り置きは雑菌繁殖のリスクがあるため、作ったその日のうちに飲み切るようにしてください。 (4)栄養バランスのとれた食事 梅雨バテの症状を和らげるためには、自律神経のサポートに関わる以下の栄養素を意識した食事が効果的です。 栄養素 期待できる効果 主な食材ビタミンB群 疲労回復・自律神経のサポート 豚肉・玄米・納豆・バナナビタミンC 抗酸化作用・免疫力の向上 レモン・キウイ・ピーマンマグネシウム 自律神経の安定 豆腐・ひじき・アーモンドタンパク質 免疫力の維持・疲労回復 鶏肉・魚・大豆製品発酵食品 腸内環境を整え自律神経に好影響 ヨーグルト・納豆・キムチ 食事の準備が難しい利用者さんには、品数の多い定食や宅配食の活用もご提案ください。腸内環境と自律神経には密接な関係があることが近年の研究で示されており、発酵食品の積極的な摂取は梅雨バテ対策としても注目されています。 (5)生活リズムの維持と室内環境の整備 自律神経の乱れを防ぐためには、規則正しい生活リズムを保つことが基本です。毎朝同じ時間に起床し、雨天でも室内の電気をつけて明るい環境を作ることで、体内時計のリセットを促せます。また37〜38℃のぬるめの入浴は副交感神経を適度に活性化させ、睡眠の質向上にも効果的です。 室内環境については、高齢の利用者さんが「暑くないからエアコンは不要」と判断して室温・湿度が上がり続けているケースが多く見られます。訪問時に室温28℃以下・湿度60%以下を目安に環境を確認し、必要であればエアコンの適切な使用を促してください。 利用者さん・ご家族への現場での活用ポイント 訪問看護の現場では「気持ちの問題だと思っていた」「梅雨だから仕方ない」という声が多く聞かれます。まず「気圧変化による医学的な症状であること」を伝えることが、利用者さんの安心感と行動変容の第一歩になります。現場では次の3点を優先して確認・指導するのが実践的です。 水分補給の中身を確認する:量だけでなく、アルコール・コーヒー中心になっていないかをさりげなく聞く。「1時間に1回コップ半分」を目安として伝えると習慣化しやすい。 室内環境を目で確認する:エアコンの使用状況・室温・湿度を訪問のたびにチェックする。「電気代より命が大事」と丁寧に伝えることが高齢の利用者さんには特に有効。 介護家族にも声をかける:ご家族自身も梅雨バテの影響を受けているケースが多い。「一緒にケアしましょう」というスタンスが介護の持続性にもつながる。 こんな症状は受診を——梅雨バテと他疾患の見極め 「梅雨バテかもしれない」と思っても、他の疾患が隠れているケースがあります。以下の症状が続く場合や、梅雨バテ対策をとっても改善しない場合は、早めに受診を促してください。 症状・所見 疑われる疾患 受診先だるさ・むくみ・寒がり・体重増加が続く 甲状腺機能低下症 内科著明な倦怠感・動悸・顔色不良 鉄欠乏性貧血 内科市販薬が効かない持続的な頭痛・吐き気片頭痛・高血圧・脳血管疾患 内科・神経内科強いめまい・耳鳴り・難聴 メニエール病・突発性難聴 耳鼻咽喉科気分の落ち込み・無気力が2週間以上続く うつ病・適応障害 心療内科・精神科 訪問看護師として大切なのは、「梅雨バテかもしれないが、梅雨バテではないかもしれない」という視点を常に持つことです。症状が想定より強い・長引く・急激に悪化する際は、積極的に担当医師へ報告・相談してください。 まとめ 梅雨バテは「気のせい」でも「年のせい」でもなく、医学的な根拠をもつ体調不良です。適切なケアで症状を大きく和らげることができます。訪問看護の現場で「なんとなく元気がない」利用者さんに気づいたとき、本記事のアセスメントの視点とケアの知識がその一助になれば幸いです。また、皆さん自身の体調管理にもお役立ていただければ幸いです。 【調査概要】調査名:春の不調に関する実態調査実施者:株式会社リーフェホールディングス調査対象:全国の男女有効回答数:1,030人調査方法:インターネット調査 執筆:橋本 将吉現役内科医。『西新宿セルフライフ内科クリニック 』院長。2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念のもと、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。将来の医師を育てる医学生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営や、自らが『ドクターハッシー(内科医 橋本将吉)』というYouTubeで健康教育を行う。2022年9月に、健康や医学を医師から学ぶ事のできるサービス『ヘルスケアアカデミー』をリリース。ヘルスケアアカデミー事業の一環として企業や学校などでセミナーを開催している。また、2023年11月には現役の医師目線で日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、乳酸菌飲料「乳酸菌V28」や睡眠グッズ「お疲れさまくら」などの商品を展開している。「めざましテレビ」「ホンマでっか!TV」「櫻井・有吉THE夜会」など多数のテレビ番組の出演、「世界一受けたい授業」「林修の今、知りたいでしょ!」など、人気番組の医療監修を手掛け、著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/医学生道場:https://igakuseidojo.com/ヘルスケアアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月15日
2026年5月15日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol04

訪問看護の現場では、疾患や障害などがある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードをご紹介します。 「大切なご家族に会いながらの長距離移動」 医療的なケアが必要な方にとって、長距離移動は大きな負担を伴います。今回ご紹介するのは、九州の病院から都内の施設へ移動された80代女性のエピソードです。看護師が付き添いながら移動を支え、ご家族の「安心して新しい生活を迎えてほしい」という思いをつないだ支援の記録です。 弊社は民間救急や移動支援の事業を行っている会社です。今回の事例のA様は80代の女性で、肝不全や心不全、認知症を患われており、九州のとある山間部の病院に入院中の方でした。ある日、長男様より、A様を都内の施設に移動したいが、看護師の付き添いをお願いしたいとのご依頼をいただきました。状況をお聞きすると、認知症がかなり進行しており、体力的にも弱ってきていたため、移動するなら早いタイミングが良いと考え、ご依頼されたとのことでした。移動に先立ち、入院中の病院との打ち合わせ、新幹線の手配、現地で対応する看護師との打ち合わせを行いました。当日、移動を開始しましたが、新幹線内で利用者様がせん妄を起こしたため、看護師が息子様にお電話をお繋ぎしました。その後、精神安定剤を内服されたところ落ち着かれました。途中、関西で1泊され、ご親戚にもお会いになることができました。施設到着後はお疲れの中、笑顔でご入所されました。 2023年12月投稿 「『あした』の使者」 落ち込みやすかった利用者さんが、ある日突然、驚くほど明るい笑顔を見せてくれました。その変化のきっかけは、散歩中に出会った“見知らぬ女性”の何気ない言葉。「“あした”を大切にしている」という言葉に込められた前向きな想いが、Oさんの心を少しずつ変えていきました。 下肢リンパ浮腫があり、落ち込みやすい性格のOさん。ある日訪問するとものすごく明るい笑顔にびっくり!思わず「何かあったんですか?」と聞くと、こんな話を聞かせてくれました。「外に散歩に出かけたら、近所で見かけないおばさんから急に声をかけられたの。その人も病気で辛い思いをたくさんしたと話していたけれど、とてもハツラツとしていて、『その元気の源は何ですか?』と聞くと『私は“あした”を意識しているんだ』って」「“あした”は頭文字になっていて『“あ”は歩く、“し”は喋る、“た”は食べる。毎日この“あした”を頑張ることがより良い“明日”に繋がるんだ』って話していたの」そう話したあと、「あれはきっと、落ち込んでいる私に神様が遣わせた使者だったのよ!」と真剣に話すOさんが忘れられません。そして今では私が“あしたの使者”となり、利用者さんに“あした”のお話をしています。もしかしたらOさんが出会った“あしたの使者”は未来の私だったのかもしれません。 2023年11月投稿 利用者さんの前向きな姿勢や人生の歩みは、関わる訪問看護師だけではなく読者にまで元気や力を与えてくれます。あらためて、訪問看護師と利用者さんの関係は共鳴するのだと考えさせられます。 編集: NsPace編集部

【5月12日UP】「かゆいところに手が届く」看護を目指して~ハウオリ訪問看護ステーション 亀田さんにインタビュー~
【5月12日UP】「かゆいところに手が届く」看護を目指して~ハウオリ訪問看護ステーション 亀田さんにインタビュー~
インタビュー
2026年5月12日
2026年5月12日

「かゆいところに手が届く」看護を目指して~ハウオリ訪問看護ステーション 亀田さんにインタビュー~

目黒区を拠点に「生活リハビリ」に力を入れるハウオリ訪問看護ステーション。今回は管理者の亀田さんに、訪問看護の魅力、働きやすさの工夫、そして地域に根ざした活動について伺いました。 【※本記事はNsPace Careerが事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 大学病院から訪問看護へ――再スタートのきっかけ ― 看護師としてのキャリアはどのように始まりましたか? 「大学病院では耳鼻科や頭頸部外科に勤務し、永久気管孔の手術など長時間のオペに立ち会うことも多くありました。その後は総合内科でも勤務し、大学病院ならではの高度な医療現場で幅広い症例を経験しました。結婚・出産を機に一度臨床から離れ、子育ての合間には近所のクリニックでパート勤務をしていました。本格的に復職したのは下の子が小学生になったタイミングです。」 ― 訪問看護との出会いは? 「自宅から近かったこともあり、こちらの訪問看護ステーションに就職しました。訪問看護は初めてでしたが、気づけばもう7〜8年になり、現在は管理者として日々の訪問業務だけでなくチーム全体の運営にも携わっています。」 「家庭と両立しやすい職場です」と穏やかに話される亀田さん 家庭と仕事を両立できる安心の訪問体制 ― 訪問看護を選んだ理由は何ですか? 「家庭や子どもに負担をかけず、無理なく働ける環境を探していました。以前のクリニック勤務では午後の診察が長引き、学校から帰ってくる子どもを見る時間が取れないこともあったため、訪問看護の働き方は自分に合っていると感じました。」 ― どのようなスケジュールで訪問していますか? 「午前は3件、午後は2〜3件の訪問を行い、12時半には午前分を終えます。午後は13時半から再開し、最終訪問は16〜17時で終了。訪問の間には必ず15分の移動時間を確保し、効率的なルートで回るため、17時には業務を終えて帰宅できます。 うちは、利用者さんへ特定の担当をつけず、複数の視点で看ています。特定の看護師に依存せず、誰が訪問しても同じケアができるため、スタッフも利用者さんも安心できるんです。」 新人への丁寧な育成とフォローアップ ― 新人教育はどのように行っていますか? 「まずは同行から始め、1回目は見学、2回目はバイタル測定や声かけ、3回目は一緒にケア、4回目にはだいぶ自信がつき、5回目あたりで独り立ちします。経験を重ねる中で自然と訪問の流れや対応が身についていきますね。」 ― 日常的なフォローはありますか? 「最初のうちは丁寧にやりすぎて訪問時間が押してしまうこともあります。訪問時間を守るため、情報収集やケアの配分を意識してもらうと『体内時計』が身についてくるんですよね。1〜2ヶ月で自然とリズムが整ってくるので安心してくださいね。新人さんが訪問から事務所に戻ったら、私に報告をしてもらって、一緒にアセスメントを整理する時間を持っています。また、事務所がワンフロアになってからは昼食中の会話から利用者さんの変化やケアのヒントが得られることも増えました。」 利用者さんからの連絡に優しく対応される亀田さん 地域とつながる活動と理念の継承 ― 地域との関わりについて教えてください。 「代表取締役は『地域の方に貢献したい』とハウオリ訪問看護ステーションを設立しました。目黒区の訪問看護連絡会で代表を務めた経験もあり、訪問看護と病院とのつながりを強化してきました。顔が見える関係があると退院支援や情報共有がスムーズになります。利用者さんも病院との繋がりに安心していただけます。」 ― 災害や緊急時の備えは? 「他事業所と『スタッフが動けない場合にお互いにカバーする』という相互支援の取り決めをしています。訓練や情報共有も行い、有事の際にもご利用者さんの安心につながる体制を整えていますね。」 ― 事業所名に込められた意味は? 「『ハウオリ』はハワイ語の“幸せ”と“時が来る”を組み合わせたもので、『幸せな時をご本人・ご家族と共に歩んでいきたい』という思いが込められています。その名のとおり、かゆいところに手が届くケアを目指しています。」 求職者へのメッセージ ― 訪問看護を始めたい方へメッセージをください 「一人で利用者さんのもとへ行くため、最初は不安だと思います。でも、必ず丁寧な同行研修から始まり、困ったときはすぐに相談できる環境があるので、経験の有無にかかわらず安心して働けます。子育て中の方や家庭と両立しながら働きたい方には、17時までの勤務は大きな魅力です。人との関わりを大切にできる方、そして高齢者と関わることが好きな方と一緒に働きたいですね。ぜひお待ちしています!」 インタビュアーより 亀田さんの穏やかで優しい語り口の中に、「地域の方に貢献する」という強い思いがありました。ハウオリ訪問看護ステーションは、訪問看護未経験でも安心して一歩を踏み出せる場所であり、家庭と仕事の両立を大切にしながら地域で看護を深めたい方にとって、心強い仲間が見つかる場所だと感じました。 事業所概要 事業所名:ハウオリ訪問看護ステーション所在地:東京都目黒区中央町2-30-11 学芸大KYハイツ302号室 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/14537 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

エンバーミングの今と役割―海外事例・コロナ禍の研究から
エンバーミングの今と役割―海外事例・コロナ禍の研究から
コラム
2026年5月12日
2026年5月12日

エンバーミングの今と役割―海外事例・コロナ禍の研究から

日本におけるエンバーミングの浸透状況や背景を整理しつつ、海外で広がる「セレブラント」の取り組みを通して、葬儀がもつ意味を考えます。さらにコロナ禍に、著者である橋爪 謙一郎氏が代表取締役を務める株式会社ジーエスアイが参画したエンバーミングに関する研究やマニュアル作成の取り組みも紹介。「どのような状況でもご遺族が大切な時間を持てるようにしたい」という揺るぎない思いが、すべての活動の根底にあります。 はじめに 米国カリフォルニア州のエンバーマーライセンスを取得し、現地で業務に従事する中で、エンバーミングの価値を実感しました。その経験を胸に、2001年に日本に帰国。日本でもいずれエンバーミングが重要な選択肢となることを期待し、日本人エンバーマーの育成やエンバーミングに関するさまざまな啓蒙活動に取り組んできました。 昨今、大切な人や自分自身の葬儀を検討する際に、宗教やこれまでのしきたりにとらわれず、「自分らしさ」やそれぞれの「死生観」をはじめとした価値観を反映させたいと考える人たちが増えています。しかし、個々人の思いや理想がそのまま実現されることはなかなか難しいのが現実です。 今回は「エンバーミング」が日本でどのくらい浸透しているのか、そしてその背景にある要因についてお伝えします。さらに、葬儀が多様化する中で、海外で広がる「セレブラント」の取り組みを参考に、日本において何を軸に「葬儀」を考えればよいかを「グリーフ(悲嘆)」の視点から考察していきたいと思います。 エンバーミングの普及を阻むもの 2024年時点で、日本全国でどのくらいエンバーミングが行われているのか、あらためて調べてみました。一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA)のまとめによると、およそ82,000件1)。同じ年の総死亡者数と照らし合わせると、その割合は約5%にすぎません。残念ながらまだまだ浸透しているとはいえない状況が見えてきます。 浸透度合いが、現状に留まる要因はいくつか考えられますが、ここでは、その中でも特に影響を与えている2点について解説します。 (1)エンバーミング施設とエンバーマーの不足 2025年4月1日現在、全国32の都道府県に90の専門施設が開設され、エンバーミングを提供しています。しかし、これらの施設は都市部に集中しており、エンバーミングを依頼したくてもできない地域があるのが現状です(図1)。 図1 エンバーミング施設のある都道府県 ピンク色:施設のある都道府県日本遺体衛生保全協会:日本への導入経緯.https://www.embalming.jp/embalming/medic/(2026/5/8閲覧)より許諾を得て転載 また、2025年現在、IFSAの認定エンバーマーは約300人になりますが、実際に稼働している人数はこれより少なくなっています。そして、1人が1日に処置できるエンバーミングの件数は、最大で3~4件ほどです(労働時間を8時間として計算)。年間に提供できるエンバーミングの件数を増やすには、エンバーミング施設の数や、認定師資格をもつエンバーマーの人数を増やすしか方法がないといえます。 エンバーマーの数を増やすには、教育機関の拡充も必要ですが、現在、エンバーマーを育成する教育機関は1校しかありません。学校を卒業後、認定試験を受けて、毎年20人前後のエンバーマーが認定されますが、実際の需要に追い付いていない状況です。 (2)価値が伝わらない―業界内の認知の壁 日本にエンバーミングが導入され、1988年に埼玉県内の葬儀社で初めて提供されてから、すでに37年以上が経過しています。しかし、エンバーミングを自社の商品として取り扱っていない葬儀社のスタッフの中には、エンバーミングがご遺族にもたらす価値について、正確な知識を有している人が多いとはいえません。 例えば、「日本では土葬をするわけではないから、エンバーミングは必要ない」あるいは「火葬までの数日間であれば、ドライアイスや保冷庫できれいな状態を保てる」といった考えから、ご遺族にエンバーミングを勧めない葬儀社もあります。 実際に、いくつかの葬儀社に問い合わせをしたものの「エンバーミングは不要」と説得されたり、「当社では対応できない」と断られ、インターネットで探し回った末に弊社にたどり着いたというケースがありました。「エンバーミングをお願いできる会社にやっと出会えた」とホッとされるご家族がまだまだいらっしゃいます。 実は、今回この原稿の執筆依頼をお受けしたのは、正しい情報や知識を必要としている人たちにお届けしたいと考えたからです。ご家族と接する専門職の皆さんがこの記事を読むことで、終末期医療や在宅医療を受けている患者さんのお身体の状態や、ご家族の心身の状態を把握した上で、エンバーミングについて適切に情報提供できるようになるかもしれない。そうすれば、大切な人を喪った後の気持ちを整理し、感情との折り合いをつけていく上で、欠かせない支援になると思うのです。 大切なのは、「エンバーミングが必要かどうか」だけで判断するのではなく、故人のお身体の状態やご家族の心身の状態を踏まえ、医療従事者と葬祭事業者が連携して最適な対応を考えていくことです。死別を経験されたご家族が少しずつ元気を取り戻していけるよう、その過程を支える社会的なしくみが求められているのではないかと感じています。 世界で活躍する「セレブラント」 皆さんは「セレブラント」という職業をご存知でしょうか? セレブラント(Celebrant)とは、故人やその家族の意思、信念、価値観、文化的な背景などを反映させてプランニングされた「世界に一つの儀式」を執り行う人材のことです2)。1973年にオーストラリアで誕生しました。 それまで結婚の儀式は教会のみで挙げるものとされていましたが、移民の増加や性の多様性などの社会的な変化の影響もあり、キリスト教に属していない人々の要望を受けて、政府が結婚式の司祭認可制度を設立しました。これにより、結婚の儀式は教会以外の場所でも行うことが可能になり、選択肢の幅が大きく広がったのです。 やがてこのムーブメントは結婚式だけにとどまらず、葬儀の場にも広がりました。セレブラントが宗教色にとらわれず、故人の生き方やご家族の思いを中心にセレモニーを設計・司会する専門職だったからかもしれません。セレブラントは、宗教だけでは解決できないことを解決し、思いを整理する役割を果たしてきました。ご遺族のグリーフに対して細やかな配慮ができる場づくりが評価され、オーストラリアでは大切な人を亡くした時に、セレブラントに葬儀を依頼する人が増えています。 セレブラントによって執り行われる葬儀の割合について、いくつかの国の統計を参考までに共有します(表1)。 表1 国別セレブラントによって執り行われる葬儀の割合3)-7) ニュージーランド  56%オーストラリア  60~70%アメリカ合衆国52%イギリス40% 日本における葬儀の現状とこれから 日本では葬儀が何のために執り行われるのかという目的を考えることなく、葬儀にかかるコスト面に焦点を当て、簡素化を選択する動きも増えてきたように思います。 確かに、終末期までそばに寄り添えたからこそ「葬儀は質素で構わない」と考える人もいるでしょう。しかし、葬儀の際に故人の「生き方」や「価値観」、「家族との思い出」を反映させた時間をつくり、心の中にしっかりと思い出を残せるような機会をつくることは、グリーフサポートの観点からも必要不可欠だと考えます。諸外国で広がる「セレブラント」の活躍を見ていると、日本においても今その必要性は増しているのではないかと強く感じます。 COVID-19禍における研究への取り組み 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックになった際、感染を広げないために葬儀にもガイドラインが設けられました。今振り返ってみると、そこまでしなくてもよかったのではないかと思えるほどの過度な感染対策の結果、顔を見ることもできないまま火葬となり、遺骨を受け取ることしかできなかったご遺族も少なくなかったはずです。 デルタ株が蔓延していた時期、感染対策を徹底しつつご家族が希望するお別れの場をつくるため、当社は千葉大学法医学教室や東京大学法医学教室とともにエンバーミング処置に関する研究に参加しました。検討した内容は(1)感染対策、(2)薬品の濃度、(3)処置の方法など、多岐にわたります。 さらに、この研究に先駆けて、日本医師会総合政策研究機構対新型コロナウイルス特別医療支援タスクフォース「新型コロナウイルス感染症 ご遺体の搬送・葬儀・火葬の実施マニュアル支援プロジェクト」に当初より参画し、海外での対策事例の調査やマニュアル執筆にも携わりました。それは、ご家族や葬儀の参列者はもちろん、エンバーマー、ご遺体を搬送する担当者、葬儀の担当者、火葬場職員など、関わるすべての人々が安全な状態で葬儀を執り行えるようにするためでした。 「さよならのない別れ」とエンバーミングの役割 ミネソタ大学名誉教授のポーリン・ボス博士は、COVID-19で家族を亡くした場合、それは「完全な喪失」ではなく「あいまいな喪失」になる可能性があると示唆しました。喪失そのものが不明瞭な状況であったため、喪失後に起こるグリーフの反応が複雑化したり、凍結したりすることが起こり得ると指摘したのです。 日本ではパンデミック初期から病院での面会制限や遺体への接触制限が広く導入され、「お見舞いにも行けない」「臨終に立ち会えない」「顔を見ることができない」「葬儀を行えないまま火葬される」といった事態が各地で起こりました。こうした状況下での喪失体験は、「本当に亡くなったのか」という思いが宙づりの状態になってしまいます。つまり、「心理的には存在しているが、身体的(物理的)には存在していない状態」に当たると考えられるため、いわば「さよならのない別れ」になってしまうことが危惧されました。 これらのことから、エンバーミングを活用し、感染対策を講じ安全を確保しながらも「死を現実として受けとめる場」を提供する必要性があると考え、当社は研究に協力しました。今後どのような状況においても、ご遺族に必要なお別れの場を提供できるよう研究に取り組み、情報提供に努めていくつもりです。 * * * 4回にわたり、この記事をお読みくださった方には、エンバーミングの「防腐」「殺菌」「修復」の3つの機能をどう活かすかで、意義のあるお別れができるようになることをご理解いただけたのであれば、うれしく思います。 執筆:橋爪 謙一郎株式会社ジーエスアイ 代表取締役一般社団法人グリーフサポート研究所 代表理事米国で葬祭科学とエンバーミング、グリーフサポートを学び、帰国後(有)ジーエスアイと(一社)研究所を設立。現在は東大大学院で脳科学的視点からグリーフの研究を行う。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本遺体衛生保全協会:エンバーミングの法的解釈.https://www.embalming.jp/embalming/interpretation/2026/5/8閲覧2)株式会社ジーエスアイ:セレブラントとは.https://www.griefsupport.co.jp/griefsupport/celebrant.html2026/5/8閲覧3)The Funeral Directors Association of New Zealand:2023 New Zealand Funeral Industry Trends Report.2023.https://funeraldirectors.co.nz/assets/2023-FINAL-NZ-Funeral-Industry-Trends-Report-v3.pdf2026/5/8閲覧4)McCrindle Research Pty. Ltd.:Australian Bureau of Statistics, The Australian Funeral Directors Association Funeral Industry Trends Report 2024. https://mccrindle.com.au/app/uploads/2018/04/Deaths-and-funerals-in-Australia_McCrindle.pdf2026/5/8閲覧5)National Funeral Directors Association:2024 Consumer Awareness and Preference Studyhttps://nfda.org/about-nfda/research-and-information2026/5/8閲覧6)Church of England Data Services team:The Church of England, Detailed Diocesan tables for Statistics for Mission 2023.https://www.churchofengland.org/sites/default/files/2024-12/statisticsformission2023.pdf2026/5/8閲覧7)Office for National Statistics (ONS):Statistical bulletin, Death registered in England and Wales 2023.https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/birthsdeathsandmarriages/deaths/bulletins/deathsregistrationsummarytables/20232026/5/8閲覧 【参考文献】○Pauline Boss:The Myth of Closure: Ambiguous Loss in a Time of Pandemic and Change.New York:W. W. Norton & Company;2021.○黒川雅代子,石井千賀子,中島聡美,他編著:あいまいな喪失と家族のレジリエンス 災害支援の新しいアプローチ:誠信書房,東京,2019.○ポーリン・ボス著,中島聡美,石井千賀子監訳:あいまいな喪失とトラウマからの回復 家族とコミュニティのレジリエンス.誠信書房,2015.

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月8日
2026年5月8日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol02

訪問看護の現場では、疾患・障害等がある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードをご紹介します。 「~最期まで残る"生きる力"を奪わないために~」 在宅で看取ったO様から、緩和ケアでも最期まで尊厳を大切にし生きる力を奪わないことの大切さを学んだエピソード。 在宅で看取ったO様。ご本人の体調に変動があり、ご家族の負担が大きくなっていました。ご家族は、できるだけ車いすでトイレに連れて行っていました。「看護師さんには迷惑をかけたくない」という思いがあり、はじめはうまく介入できませんでした。カンファレンスを繰り返し、ご主人の想いを傾聴して、愛犬レオくんの話や福祉用具の提案をしました。徐々に看護師の提案を受け入れ、夫婦での思い出話を伺うなど、ユマニチュードの実践もすることで、ご主人は心を開いてくれました。その結果、一緒にO様を支えることができる良い関係が築けました。ご主人の希望により、下肢からの点滴をおこなっていましたが、「怖くて離床ができなかった」と言われました。点滴の必要性や、部位の選択など検討するべきだったと思いました。緩和ケアの段階であっても、最期まで尊厳を大切にし、その人に残る「生きる力」を奪わないようにすることを、ご主人から教えてもらいました。 2024年1月投稿 「認知症があっても覚えていられること」 認知症でいろいろ忘れてしまうはっちゃんが、お誕生日のケーキという楽しみにしていた約束は、しっかり覚えていた心温まるエピソード。 認知症のはっちゃんを、近所に住む娘さんが食事を届けながら一生懸命お世話しています。でもはっちゃんは「おかずをレンジに入れたことを忘れちゃう。ご飯が何もないからカップラーメンを食べたの」と。娘さんは、いろいろなことを忘れてしまうはっちゃんに対し、苛立ちと責任感との狭間で葛藤しています。そんなはっちゃんのお誕生日に訪問看護で伺いました。玄関に入るやいなや「今日はおやつがあるの」とはっちゃん。娘さんからも「春山さん、誕生日なので一緒にケーキを食べてあげてください」とメモがありました。「じゃあお風呂に入ってから食べましょう!」と私が提案すると、いつもは拒否気味のはっちゃんが、テキパキと準備して入浴しました。そして、急ぎ足で冷蔵庫へ向かってケーキを取り出していました。覚えている!今日はお風呂前に話したことが、お風呂後にも繋がっている。楽しみにしている約束は覚えてくれているのかな。その作戦で、もっといろんなこと覚えていられるように伝え方を工夫してみるね。いつまでも、はっちゃんらしい無邪気な笑顔を見ていたいから。 2024年1月投稿 「今まで気が付かなくてごめんなさい。」 妻が冷たくなった理由は、実は一緒にケアに参加したかっただけだったと気づいた心温まるエピソード。 N様は妻と2人暮らし。訪問看護が始まったが、N様は他者を受け入れることに抵抗があり、サービスが軌道に乗るまでにかなり時間がかかった。「もう入院させてほしい」と強く希望され、主治医と何度か話し合うこともあった。それでも少しずつ看護師を受け入れてくれてようやく定期的に入浴する事ができ、軟膏処置も継続できるまでになった。妻も安心したのか、今までのようにたくさんお喋りすることがなくなり、口数が減って急に静かになった。最初は安心したからかなと思っていた。担当である私に対し娘と妻の態度が変わり、些細なことで急に怒り出して、協力的ではなくなっていった。何がいけないのか。どうして冷たくなったのか、考えてもわからない日々が続いた。妻に、軟膏処置を一緒にしませんかと提案した。小躍りするくらい喜んだ妻を見て初めて、本当はケアに一緒に参加したかったのだと気が付いた。それから妻の態度はもとに戻った。今まであなたの気持ちに気が付かなくてごめんなさい。 2024年1月投稿 「『俳人』Mさんの物語のワンシーン」 俳句を愛する肝臓癌末期のMさんが、家族に感謝を伝え、まるで物語のワンシーンのように旅立ったエピソード。 「道普請終らぬままの梅雨入りかな」句集に載ったと本を広げ、誇らしげに一句一句丁寧に解説してくださったMさん。肝臓癌末期で、希望通り最期を自宅で迎えられた時の60分の物語です。奥さんより「昨夜寝なくて大変だった」と電話を受け訪問。全身状態は悪化していましたが、会話はしっかりできました。「顔を拭いて」と言われ顔を拭き、「脇を拭いて」と脇を拭き、いつもの笑顔で「気持ち良かった。ありがとう」と。ご自分で水を飲み「末期の水や。そろそろ先生呼ばんとね」と。奥さんの手を握り「迷惑かけたね。ありがとう」と。すぐに別室の娘さんも呼び「ありがとう」と。長男さんへ電話が繋がった時には話せない状態でしたが、最後の力を振り絞るように「お!」と声を出され、静かに息を引き取られました。間もなく大好きだった先生が来られ、「僕もこんなふうに最期を迎えたいな」とお別れされました。ドラマのようなMさんらしい物語の一場面でした。 2024年1月投稿 「手のひらから伝わる温もり」 多発性骨髄腫で予後3ヵ月の88歳女性が、毎日手引き歩行を続け、笑顔を見せてくれた温もりが忘れられないエピソード。 「あ~よかった。来てくれた。待ってたよ」多発性骨髄腫で予後3か月の診断を受けたとは思えないほど、屈託のない皺くちゃな笑顔を見せたのは、御年88歳、米寿を迎えた女性Tさん。ここは住宅型ホスピスであり、Tさんも激しい癌性疼痛と血糖コントロール不良で、全身状態は決して良好とは言えない状態だった。しかし、往診医の的確な診療と薬剤調整により、疼痛と血糖コントロールは改善し、入居当初とは見違えるほど状態が回復した。体動による疼痛を避けるため、膀胱留置カテーテルは入っていたが、Tさんは「少しでも歩かないとね」と言い、毎日のように手引き介助で歩いていた。Tさんと私は同じ誕生日ということもあり、私を見ると冒頭のような声をかけてくれた。しかし、命尽きることに抗うことはできず、Tさんは娘様に見守られ天国へと旅立たれた。Tさんのことだから天国でも元気に歩いて、皺くちゃな笑顔を振りまいているのだろう。手引き歩行で感じたTさんの手の温もり、忘れないよ! 2024年1月投稿 利用者さんの前向きな姿勢や生き様は、関わる訪問看護師だけでなく読者にまで元気や力を与えてくれる、そんなエピソードばかりでした。訪問看護は医療者から一方向的にケアを提供するのではなく、双方的な関係性であることを改めて感じますね。 編集: NsPace編集部

特集
2026年5月8日
2026年5月8日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol01

訪問看護の現場では、疾患や障害などがある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードをご紹介します。 「私の恩師」 100歳の利用者さんが最期まで笑顔で過ごすことができた心温まるエピソード。 訪問看護師になりたての私は深呼吸をして玄関の扉を開けた。入浴介助をしたら「100歳の体を見てどうするんだ」と怒られた。突然、化粧を頼まれ「私が死んだ時に写真を仏壇の壁に並べて貼ってね。Hの生き様って筆で題名を書いておくから」と笑みをこぼした。数ヶ月後、心不全が悪化し救急搬送され救急外来の医師より「数時間で亡くなります」と説明を受けた。約40年入退院した病院でたくさんのスタッフに囲まれ「後、死ぬばかりだしもう来ないからお元気で」と笑顔で握手をしていた。自宅に戻ると安らかな表情に変わった。私は涙が止まらなかった。伝えたい気持ちで胸がいっぱいになり手を握り「みんな、いますからね」と。ただ“ありがとう”って言葉が“さようなら”をするようで言えなかった。ふと目を開けた。私を見て「ありがとう。あんたは私の神様みたいだった」と。4年間の看護任務を終えた。2週間後、主治医がそっと私にダンボールを差し出した。直筆で「ありがとう H」と書いてあった。主治医から「開業して35年も通ってくれた患者さんを大事にしてくれてありがとう」と。仏壇の壁にはたくさんのHさんの笑顔が飾られ、息子さんが宝物だと涙されていた。 2024年1月投稿 「1年に1回の書道の先生」 褥瘡治療のために訪問している80代の書道の先生。毎年子どもたちに書き初めを教える生きがいを持つ前向きなエピソード。 数年前から足の褥瘡のために介入している80代男性の利用者さん。独学で書道を学び、書道の先生をされていた方です。昨年はご本人の希望もあり、訪問看護ステーションのスタッフの地域包括支援センター、ケアマネジャーも参加しました。その後、利用者さんのところを訪問する際は、毎回書道教室での子どもたちの笑顔が忘れられないという話をされていました。今年は会場の関係で、男性宅にて数名の子どもに書き初め練習会を開催。見事2人の子どもが金賞を取りました。また来年も開催できることを子どもたちは楽しみにしています。 2024年1月投稿 「訪問看護の魅力」 新米訪問看護師がこだわりの強い利用者さんと、あうんの呼吸で関われるようになっていくエピソード。 私は、昨年の春から訪問看護の世界に飛び込みました。子どもを産んでからはクリニック勤めで、流れ作業のような、とにかく外来を早くまわすことに重きをおくような働きかたをしていました。もともと人と関わることが好きで、人との深いつながりを大切にしたい私は、1人の患者さんとじっくり向き合える訪問看護に魅力を感じていました。受け持ち看護師として、入浴介助をさせていただいた患者さん。とてもこだわりが強く、物の場所やお湯の温度から水圧まで、細かな好みがありました。また、スタッフが変わることにとても不安を感じており、私もとても不安でした。ですが、回数を重ね訪問をしていくうちに、お互いに慣れていき、あうんの呼吸で入浴介助ができるようになっていきました。大きな耳垢が取れた時には、「こんなことまでしてくれるのあんたぐらいや。先生みたい。とっておかんなんくらい立派な耳垢やね」と冗談まで言い合える仲になり、とても嬉しい気持ちになりました。「もういつ死んでもいいんや。でもあんたが風呂に来てくれる間は頑張るわ。」と新米訪問看護師の私にとっては涙が出るほど嬉しいお言葉を頂戴しました。これからも頑張る勇気をもらえ、とても感謝しています。 2024年1月投稿 「うなぎのタレ」 うなぎが大好きな90代女性が、最期まで大好きなうなぎのタレを味わい、笑顔で旅立ったエピソード。 昨年の春より週1回の訪問看護が始まった90代女性。パーキンソン病と肺炎を経て寝たきりになり、同居する息子の妻の強い希望で在宅介護となりました。食へのこだわりが強く、何よりうなぎが大好き。訪問当初は常食を介助で摂取していましたが、レスパイト入院と肺炎治療をしてからは禁食、点滴静脈内注射、皮下注射となり、それでもうなぎが食べたいと言うので息子の妻がうなぎのタレを口に含ませていました。息を引き取り、弔問に行くと、枕もとには鰻重が置かれており表情も笑顔で印象的でした。 2024年1月投稿 「忘れられない表情」 全身の疼痛がある中、大好きなカレーを食べたときの生気に満ちあふれた表情が忘れられないエピソード。 肺癌により緩和ケア目的介入させていただいていたH様。徐々にADLも低下し、ベッド上で過ごす中、離床を強く望まれていました。“どうすればその人らしく過ごせるのか”と、訪問看護ステーション内でカンファレンスを繰り返しながら、痛み止めの評価や、独居でいらっしゃるため安心感も持っていただけるよう、毎日複数回訪問していました。血液検査のデータも悪く、離床にはリスクが伴うため看護師としての葛藤をしながらご本人の希望をいちばんに考え、その日は車椅子への移乗をしました。そしてお好きだったカレーライスをご用意しました。食事量も減っていましたが、その日はカレーを黙々と召し上がり、「やっぱりこっちのほうが食べやすいよね。」と、H様は食後に一言お話くださいました。全身の疼痛もあり短時間の離床でしたが、普段は寡黙なH様のその時の生気に満ちあふれた何ともいえない表情が印象的でした。その後、ご自宅で最期を迎えられましたが、あの時の表情が忘れられず、今でも鮮明に覚えています。 2024年1月投稿 利用者さんの前向きな姿勢や人生の歩みは、関わる訪問看護師だけではなく読者にまで元気や力を与えてくれます。あらためて、訪問看護師と利用者さんの関係は共鳴するのだと考えさせられます。 編集: NsPace編集部

訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)
訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)
コラム
2026年4月28日
2026年4月28日

訪問看護師向け在宅看取り教育プログラムPENUT 研修風景&受講者の声/日本訪問看護財団 

在宅での看取りに関わる訪問看護師には、実践を支える専門的な知識や技術に加え、療養者やご家族との関わり方、多職種との連携など、幅広い力が求められます。そうした力を体系的に学べるのが、日本訪問看護財団による訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム「PENUT(ピーナット)」です。本記事では、訪問看護ステーションで行われたPENUT演習の様子や受講者の声を紹介するとともに、研究成果から見えてきた受講後の実践の変化についても解説します。 PENUTの研修風景 PENUTは、オンデマンド講義とライブ演習で構成されるプログラムです(詳細は前回の記事をご参照ください)。ライブ演習は、150名規模のオンライン研修から、数名で行う集合研修まで、目的に応じて多様な形式で実施されています。今回は、2026年1月にあすか山訪問看護ステーションで開催されたPENUT演習の様子をご紹介します。  開催場所:あすか山訪問看護ステーション(東京都北区) 開催日時:2026年1月17日(土) 9:30~15:00  東京都、埼玉県、千葉県の訪問看護ステーションより訪問看護師5名が参加しました。午前は「訪問看護計画の立案」、午後は「コミュニケーション技術の習得(ロールプレイ)」をテーマに演習が行われ、活発な意見交換が行われました。  研修後のアンケートでは、参加者全員が「在宅看取りができそう!在宅看取りをやってみよう!」という気持ちが「とても高まった」と回答しました。その理由としては、「在宅看取りや訪問看護における大切な考え方を学び、本質的な意見交換ができた」、「みなさんが悩む部分や関わり方の工夫を知れてよかった」などの声が寄せられました。少人数・対面だからこそ生まれる深い学びと、実践に直結する気づきが多く得られた様子がうかがえました。  PENUT受講者の声  PENUT受講者の声を紹介します。  寺師 千恵さん(株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと/2025年度PENUT修了)―PENUTを受講したきっかけや理由を教えてください。訪問看護に約1年前に復帰し、さまざまな研修を受講しながら学び直していたときに、PENUTの講師でもある上司から紹介されました。体系的な知識を順序立てて学べる点に魅力を感じ、受講を決めました。これまで多くのお看取りを経験させていただきましたが、必要な支援はご本人、ご家族、環境によって異なり、その都度悩んだり立ち止まったりする場面があります。だからこそ、勉強を続けていかなくてはいけないと思っています。―実際に受講されて、PENUTの講義で印象に残っていることはありますか。とても充実した内容だったので、印象に残っていることはたくさんあるのですが、例えば「在宅看取りにおける臨床推論」は非常に勉強になりました。現場でどのように考えを組み立て、実践につなげていくのか、これまでは自身の経験に頼る部分が大きかったのですが、体系的に知識として学べたことは大きかったです。痛みのアセスメントなどは実践でも活用しています。また、「ご家族への支援」や「グリーフケア」も印象に残っています。それぞれのご家庭がもつ文化的背景に配慮する大切さや、コミュニケーションや対話を通してその背景に気づく力の重要性を改めて実感しました。―演習はいかがでしたか。経験豊富な看護師さんが多く、さまざまな経験をもとに「看取り」というものを一緒に深く考えることができたと感じています。例えば、痛み止めを使うことに抵抗がある利用者さんに関する話題が印象的でした。私たちはどうしても「何とか痛み止めを使ってもらう方法はないか」という問題解決型の思考で考えがちです。しかし、その方にはどのアプローチもうまくいかなかったそうです。そこで一度立ち止まり、ご本人とご家族と一緒に考えていく姿勢に切り替えたといいます。そして丁寧に話を聞いていくなかで、ご本人は「薬以外で自分がリラックスして楽にいられる方法を探したい」と考えていたことが分かり、「入浴」という希望を引き出すことができたそうです。このように、「痛みをゼロにしなくてはいけない」という価値観から一度離れることで、新しい選択肢が生まれてくるという議論ができました。この議論は、私自身が大切にしている「枠組みや視点を捉え直す」という考え方と深くつながるもので、とても勉強になりました。―PENUTの受講を検討している方へ、メッセージをお願いします。講義はすべてオンラインで、受講期間内であればどこからでも繰り返し視聴できる点はおすすめポイントです。私は平日の帰宅後や土日の空いている時間に視聴しましたが、1日1時間でも確保できれば無理なく進められます。そして、何より魅力的なのが講師陣の豪華さです。第一線で活躍されている著名な先生方から学べる機会は、PENUTならではだと感じています。演習については、私は集合研修を受講しましたが、ロールプレイでは現場さながらリアルな体験ができ、学びが一層深まりました。 大倉 みのりさん(株式会社つむぐ風 つむぐ訪問看護ステーション/2022年度PENUT修了) ―PENUTを受講してから、看取りケアを実践されていますか。 ステーション全体では、年間20~30件のお看取りをしています。私自身は、PENUTを受講した当時は先輩の同行訪問でターミナルケアに携わる程度でしたが、この3年間で10件ほどのお看取りを担当させていただきました。 ―特に印象に残っているお看取りはありますか。 とても仲のよいご家族が協力しながらお看取りされた、非がんの利用者さんが印象に残っています。ご家族は、お小水の量が少なくなってきたり、むくみが増えたりといった体の変化についていけず、不安を抱えている様子でした。そこでスタッフ間で連携し、終末期の身体の変化をまとめたパンフレットを用いて一つひとつ説明したところ、ご家族は安心され、最期まで自宅でケアを続けることができました。PENUTで学んだ「死にゆく過程の身体的変化」の知識が役立った場面でした。 ―ほかにもPENUTの講義や演習で、実践にいかせていると感じることはありますか。 PENUTを受講した当時、利用者さんから「こんなに辛い症状が続くんだったら、もう死にたいわ」と言われた際に、どう受け止めてよいか分からず、言葉に詰まってしまう自分がいました。「在宅看取りに必要なコミュニケーション技術」の講義では、自分の中に生じる「心の壁(ブロッキング)」を自覚し、それを意識的に脇に置いて、相手に寄り添って気持ちを聴くことの大切さを学びました。今でも、利用者さんからマイナスな言葉が出たらどうしようと身構えてしまうことはありますが、自分の気持ちは一度脇に置き、まずは利用者さんの思いをありのままに受け止めることを意識して関わっています。 ―PENUTの受講を検討している方へ、メッセージをお願いします。 お看取りに対して不安を感じている方には、ぜひPENUTを受講していただけたらと思います。「こういうとき、どうしたらいいんだろう」と感じていたことが、PENUTではしっかり学べたという実感があり、受講してよかったと思っています。終末期には、機能が徐々に低下していくことでさまざまな症状が現れますが、そのしくみは何となく頭で理解していたものの、うまく言語化できていませんでした。PENUTで学んだことで、身体の変化をご本人やご家族に説明できるようになり、それが自分の自信にもつながりました。  研究成果からみるPENUT受講者の変化  次に、PENUTの有効性を検証した研究成果をご紹介します。  PENUTは終末期ケアに対する自信を向上させる  2021年度に実施したモデル事業では、PENUTを先に受講する介入群と、後から受講する対照群にランダムに割り付け、緩和ケアに関する医療者の自信・意欲尺度(訪問看護バージョン)を用いて、PENUTの有効性を検証しました。  介入群のみがPENUTを受講した時点で、介入群(62名)は対照群(59名)よりも「終末期ケア」および「医師とのコミュニケーション」に対する自信が向上し、「症状緩和」の困難感が減少しました。  PENUT受講者の実践の変化―「根拠ある説明」と「柔軟なケア」  同モデル事業参加者へのインタビュー調査では、PENUT受講により知識を習得できたことで、「亡くなるまでの身体的変化がイメージできるようになった」、「症状に対するアセスメントやアプローチ、ケアの幅が広がった」、「暮らしの中で柔軟なケアができることに気づかされた」といった変化が語られました。さらに、「病態変化や予後を予測し先手を打った対応がとれるようになった」、「療養者やご家族に根拠ある説明ができるようになった」など、実践面での成長も明らかとなりました。 研修情報・詳細はこちら さらに詳しい情報や研修開催情報については、PENUT専用ウェブサイトをご覧ください。 https://www.jvnf.or.jp/penut/  次回はPENUT指導者の声と今後の展望についてご紹介します。  執筆:濱谷 雅子(はまたに まさこ)/公益財団法人 日本訪問看護財団 事業部 博士(看護学)。早稲田大学スポーツ科学部を卒業後、修士課程から看護学の道へ。2020年度より現職。日本訪問看護財団が5年間にわたり実施した「訪問看護師向け在宅看取り教育プログラムの開発」事業では、主研究者として開発に携わる。訪問看護師の優れた実践をインタビュー調査などを通じて理論化し、その成果を広く社会へ発信する研究活動を行っている。 

利用者の心に寄り添い、通じ合う看護を~チームでつなぐ、その人らしい暮らし~ユアーズ訪問看護リハビリステーション三郷 片岡さんにインタビュー
利用者の心に寄り添い、通じ合う看護を~チームでつなぐ、その人らしい暮らし~ユアーズ訪問看護リハビリステーション三郷 片岡さんにインタビュー
インタビュー
2026年4月21日
2026年4月21日

利用者の心に寄り添い、通じ合う看護を~チームでつなぐ、その人らしい暮らし~ユアーズ訪問看護リハビリステーション三郷 片岡さんにインタビュー

病気だけを看るのではなく、利用者さんの「生きがい」にまで寄り添う訪問看護を実践するユアーズ訪問看護リハビリステーション三郷。管理者の片岡さんが語る、現場で感じた喜びと課題、そして地域に根ざした看護への想いに迫ります。 【※本記事はNsPace Careerが事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 訪問看護への転身のきっかけは、地域医療への憧れ 私が看護師を志した原点は、生まれ故郷の熊本県にあります。幼少期に、無医村で活躍する保健師の姿に憧れを抱き「いつか地域で働きたい」という大きな夢を持っていたんです。九州の看護大学で学び、看護師・保健師・養護教諭の免許を取得した後、総合病院の病棟で20年間勤務しました。病院での経験は貴重でしたが、20年という節目を迎えたとき「新しいことに挑戦したい」という思いが芽生えたんです。そのときに在宅医療に関心を持ったことが、キャリアの転機になりました。 当時、訪問看護に対しては「ひとりで訪問し、ひとりで判断する」というイメージがあり、正直なところ不安を感じていました。そのため、まずは在宅医療の現場を知るために、診療所の看護師として1年間勤務しました。在宅で医師の診療の介助を経験し、地域での医療の実際を肌で感じることができましたね。 しかし、訪問診療は治療がメインであり、利用者さんと深くコミュニケーションを取る機会が限られていると感じました。私が求めていたのは、治療だけでなく、利用者さんの『生活に寄り添う看護』でした。この経験を経て、より利用者さんの生活に深く関われる訪問看護へと転向することを決意したんです。 当ステーションに入職して5年になりますが、訪問看護師としての道を歩み始めてからのことを振り返ってみると、この仕事が私の看護観と深く結びついていることが実感できますね。 「ユアーズ訪問看護リハビリステーション三郷」の強みについてお話しされる片岡さん リハビリ職との強力な連携体制で、利用者の生活全体をサポート 当ステーションでは、現在、私を含め4名の訪問看護師が在籍しています。利用者さんの対応は担当制ですが、利用者さん一人ひとりの状況をチーム全体で把握し、看護の質を向上させるために、週に一度はナースカンファレンスを実施しています。このカンファレンスでは、症例検討はもちろんのこと、日々の業務で困っていることや相談したいこと、新しい疾患に関する勉強会なども積極的におこない、看護師全員で学びを深めていますよ。 ただ、日々の困りごとを、リアルタイムですべて共有するのは難しいのが現状です。そのため、スタッフ全員が毎日、朝の記録を確認するようにし、情報共有を補っています。 当ステーションの強みは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハビリスタッフが多く在籍していることです。非常勤を含めると看護師よりもリハビリスタッフの人数が多いため、地域では「リハビリといえばユアーズ」というイメージも定着しているようです。私が入職する前からリハビリスタッフが多数在籍しており、当事業所の特徴となっています。 私たちは、看護師とリハビリスタッフが常に密に連携を取り合い『病気だけをみるのではなく、生活全体をみる看護』を実践しています。病気に関する不安は看護師が、そして日常生活の動作や生活環境に関する不安はリハビリスタッフが、それぞれの専門性を活かしながら利用者さんをサポートすることで、生活の質の向上に貢献できると考えています。この連携体制があるからこそ、一時的なケアにとどまらず、利用者さんの継続的な生活を意識したサポートを提供できているんです。 柔軟な働き方と、教育体制の構築にも注力 当ステーションの利用者さんは、慢性疾患が中心で、医療依存度が低めの方が多いです。現時点では、小児科や精神科の対応はしていません。働き方も柔軟で、時短勤務や一時帰宅が可能なんですよ。私自身、2歳児を育てながら勤務しています。子育て世代のスタッフも多く、協力し合いながら働ける環境なので、ワークライフバランスを重視した働き方ができるのではないでしょうか。 また、訪問看護が初めての方やブランクのある方でも安心して働けるよう、教育サポートには力を入れています。看護技術に関しては、チェックリストを活用しており、未経験の手技があれば、必ず私を含むほかのスタッフが同行訪問でサポートする体制を整えています。そうすることで、さまざまな経験を持つ看護師が、それぞれの得意分野を活かしつつ、必要に応じて新しい技術を習得できるんです。 心に寄り添う看護とは。訪問看護の魅力とやりがい 訪問看護のやりがいは、なんといっても利用者さんの心に寄り添い、通じ合う瞬間です。病院では難しいような、利用者さんの『生きがい』や『希望』に深く関われることも、訪問看護ならではの魅力だと感じています。 たとえば、以前、終末期の利用者さんから「最後にタバコを吸いたい」という希望があったことがありました。病院では、病状の悪化を防ぐため、タバコや甘いものの制限が厳しいのが一般的です。一方で在宅では、その方の最期の願いを叶えることができる場合があります。 今回のケースでは、医師やご家族と十分に相談したうえで、私たちがそのお手伝いをさせていただきました。利用者さんはご自身でタバコを持つことも難しい状態でしたが、私が火をつけて寄り添いながら支えることで、その方の大切な最期の願いを叶えることができました。奥様も「好きなことをやらせてあげたい」というお気持ちでしたので、見守りながらサポートすることができたんです。病院ではなかなか許されないことですが、在宅だからこそ、利用者さんの最期の願いを叶えることができ、私たちも大きな喜びを感じました。 このように、時間に追われるのではなく、利用者さんの生活に合わせたケアができること、そして自分の看護観を大切にしながら、最大限に力を発揮できるフィールドであることも、訪問看護の大きな魅力ではないでしょうか。訪問看護は『待っていてくれる人がいる』仕事であり、利用者さんから頼りにされ、心を通わせる瞬間に、大きなやりがいを感じることができます。 「ユアーズ訪問看護リハビリステーション三郷」の事務所 見えないニーズを拾いたい。地域に根ざしたステーションを目指して 今後のビジョンとして、私は単なる訪問看護にとどまらず、地域にまだ存在する『困っているけれど声を上げられない人』を助けたいと考えています。訪問中に「知らない家の中にも助けを求めている人がいるのではないか」と感じることがあるんです。依頼を受けた方に看護を提供するだけでなく『地域の健康相談室』のような活動を展開し、潜在的なニーズを持つ方々を地域で支えていきたいと考えています。とくに、高齢化が進むUR団地など、地域が抱える課題にも積極的に介入していきたいです。 外部の多職種連携においては、とくにケアマネジャーとの関係性を重視しています。利用者さんにとってより良いケアを提供するためには、職種の垣根を越えた信頼関係が不可欠です。そのため、担当者会議にはできる限り出席するようにしており、全体の視点から利用者さんを見つめることを意識しています。 また、月に一度作成する報告書も、居宅介護事業所へ出向き、あえてケアマネジャーへ手渡しで届けるようにしています。これにより、報告書に記載された内容だけでなく、直接顔を合わせて情報交換する機会を作り『顔の見える関係』を築くことができるんです。職種の垣根を越えて気軽に相談し合える信頼関係を構築したいという考えをスタッフも理解してくれ、積極的に取り組んでくれています。直接会うことで、利用者さん以外の、地域の困りごとについても相談しやすくなり、より広範囲で地域の方々をサポートできると信じています。 インタビュアーより 訪問看護師として、利用者様やご家族だけでなく、地域全体を支えたいという熱い想いをお持ちの片岡様。多職種を尊重しながら、より良いケアを提供するために精力的に行動しておられる姿が印象的でした。「病気だけでなく、生活全体を支える看護」に携わりたいとお考えの方におすすめのステーション様です。興味をお持ちの方は、ぜひお問合せください! 事業所概要 ユアーズ訪問看護リハビリステーション三郷(埼玉県三郷市) 住所:埼玉県三郷市三郷1-30-10 運営方針・理念:ご利用者様とご家族様に寄り添い、心のケアを大切にしたコミュニケーションを第一に、安心して在宅療養を続けられるようサポートいたします。 また、スタッフが一人ひとりの利用者様にきちんと向き合い、やりがいを持って働ける環境づくりにも努めています。ご利用者様とご家族、そして働くスタッフの誰もが明るく自分らしく過ごせるよう、まごころを込めた看護・リハビリ・介護支援を提供してまいります。 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/14854 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部 NsPace Career

× 会員登録する(無料) ログインはこちら