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足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】
足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年12月23日
2025年12月23日

足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「足のミカタ2~足浴&爪切りをもっと詳しく~」(2025年9月19日開催)では、2024年開催の「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」に続き、倉敷市立市民病院 形成外科 医長の小山先生を講師に招聘。足病のミカタ(見方)をはじめ、爪切りの方法など日常的なフットケアから治療の考え方まで、実践的な内容について詳しく解説いただきました。 セミナーレポート後編では、主に爪白癬についてまとめました。検査や治療の重要性や、実際の症例などをご紹介します。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら足のミカタ 2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】>>小山先生の過去セミナーレポート記事はこちら【足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~】シリーズ記事一覧 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 爪白癬の治療の必要性 爪白癬は、爪の中に白癬菌が多数存在するため、爪を切るたびに粉がパラパラと舞い上がります。その白癬菌を含む粉が、日常生活の中で足趾の間に付着することで、新たな白癬を引き起こすことがあります。同居者に感染が広がるケースも珍しくなく、体や顔にまで白癬が拡大して重症化する場合もあります。 また、爪が変形することによって、靴が履けなくなる、爪が切れなくなる、ひどい場合は分厚くなった爪が皮膚に食い込んでしまう(陥入爪)といったトラブルが起こることも。さらに、二次感染によって指が腫れたり膿んだりすると、歩行障害を招くおそれもあります。最近の研究では、爪白癬の影響で転倒リスクが高まることも指摘されています。 このように、爪白癬は見た目の問題にとどまらず、生活の質や安全にも影響を及ぼすため、適切な治療が推奨されます。 爪白癬の検査と治療 爪白癬にはかゆみや痛みといった症状がないこともあり、「年齢のせいだろう」と深刻に考えていない利用者さんは多くいらっしゃいます。しかし、可能性を否定できない場合はまず「爪白癬ではないか」と疑って検査をすることが重要です。 検査の方法としては、爪のかけらを特殊な薬で溶かし、それを顕微鏡で観察して白癬菌の有無を確認する「直接鏡検」というやり方が古くから行われています。しかし、最近になって抗原検査もできるようになりました。インフルエンザやコロナの抗原検査と同じ原理で、切った爪を溶かしてカートリッジに滴下し、反応があれば陽性です。往診でも特殊な機械を使わずに検査ができるので、重宝しています。 爪白癬の症例 ここからは、症例を通して爪白癬の治療の実際を見ていきましょう。2つのケースをご紹介します。 症例1「爪根部の緑膿菌感染」 「爪の根本が緑になり、触るとぷよぷよしていて、痛みもある」と来院された患者さん。爪白癬を起こし、指先から楔状(くさびじょう)に爪甲の裏へと感染が進んで、白癬菌が爪を食べた部分に水分が溜まっていたと思われます。 そこから緑膿菌や皮膚の常在菌が感染を起こし、根本部分に膿の袋ができて、痛みが生じていたのです。 治療としては、処置を行う指に局所麻酔を使用した上で、駆血。そして、慎重に後爪郭の皮膚を切開し、膿を排出していきます。すると、爪の根元が爪母から離れて隙間ができていました。切開部分は、一時的に開放創として処置・管理します。 その後、創面は上皮化傾向で薄い皮膚が確認され、新しい爪が生えてくる兆候が見られました。 しかし、このままでは白癬菌によって再び膿んでしまう可能性が高いので、まずは軟膏での治療を試みます。ただ、やはり軟膏では爪白癬は治りきらなかったため、爪外用液に変更。それから4ヵ月後には、白癬に感染した爪を端まで追い出せました。 症例2「爪外用液の副作用による皮膚炎」 爪白癬の塗り薬の副作用で皮膚炎が起きてしまった患者さん。爪の甲に薬を塗っていましたが、爪郭に小さい水疱が無数にでき、皮膚には浮腫が見られ、びらんを起こしている箇所もありました。 さらに足趾の間にも小さい水疱が形成され、薬を塗っていない部位にも皮疹が見られており、自家感作性皮膚炎を起こしてしまいました。 写真で振り返ってみると、塗り薬を使用する前から傷があったことが明らかに。そこに爪外用液という強い薬を塗ったことで、副作用が発生したと考えられます。 爪外用液の使用は直ちに中止し、ステロイド薬の服用・外用薬に切り替えると、皮膚の状態は改善しました。 なお、爪白癬を塗り薬で治療する場合は、爪切りをしたり、爪に穴を空けたりして、白癬菌がいる箇所にダイレクトに外用液が届くようにすると効きやすくなります。ただし、過剰に切ってしまうと爪の成長に支障が出る場合もあるので、様子を見ながら慎重に行う必要があります。治療が進んだ際は、爪甲の生え方に問題がないかも確認していきます。 在宅でのフットケアの考え方 在宅の現場では、さまざまな状況にある利用者さんを支えていることと思います。その中には、人生の最終局面を迎えている方もいらっしゃるでしょう。どんな治療目標を立てるにしても、私たち専門職は「ケアが継続される体制」を諦めてはいけないと考えています。 病院、在宅、施設を問わずみんなで力を合わせ、利用者さんの多様な状況や願いに寄り添い、治癒や現状維持に努める。そして、利用者さんが苦痛によって人権、命の質を損なう事態を防ぐ。それが、私が臨床でいつも大切にしていることです。 * * * 今回のセミナーでは、変形爪・白癬といった足病が、歩行障害や全身にかかわる病変につながる可能性について触れてきました。裏を返せば、足のケアをすることで利用者さんの全身の健康、生活を守れるかもしれないということです。 訪問看護師のみなさんには改めて足のミカタ(見方)を意識し、そこからどんな行動を起こすべきかを考えていただけたらと思います。そして、「利用者さんのミカタ(味方)になる」という姿勢でケアに臨んでほしいと考えています。今回の内容が、日々のケアの一助となれば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇日本フットケア・足病医学会(編):重症化予防のための足病診療ガイドライン,2022.〇東 禹彦(著):爪 基礎から臨床まで 改訂第2版,金原出版,2016.

経営と現場の信頼が支える“安心して働ける場所”~あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻 亀谷さん・野口さん・安田さんにインタビュー~
経営と現場の信頼が支える“安心して働ける場所”~あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻 亀谷さん・野口さん・安田さんにインタビュー~
インタビュー
2025年12月23日
2025年12月23日

経営と現場の信頼が支える“安心して働ける場所”~あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻 亀谷さん・野口さん・安田さんにインタビュー~

埼玉県さいたま市岩槻区にある「あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻」。運営法人である株式会社アスポスの代表取締役・亀谷雄志さん、取締役・野口多由美さん、所長・安田隆明さんが三位一体となって築くこのステーションでは、「明日(未来)をサポートする力となり、明るく幸せな時間をお届けする」という理念のもと、地域に根ざした訪問看護が提供されています。 【※本記事はNsPace Career が事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Career が担当しました。】 不動産業と両立しながら訪問看護へ――異業種からの挑戦 「私、不動産業の仕事をしているんです」 そう語るのは、株式会社アスポス代表取締役の亀谷雄志さん。不動産会社の社長を続けながら、新たに訪問看護ステーションの立ち上げに挑んだ背景には、偶然と挑戦が重なった経緯がありました。 「コロナ禍で社会が大きく揺れるなか、何か新しいことに挑戦したいという気持ちが芽生えました。そのとき、社員の奥さんが看護師で、『訪問看護という世界がある』と教えてくれたんです」 看護や医療に関する経験は一切なかったものの、不動産業で培った経営の視点を活かしながら、亀谷さんと取締役の野口多由美さんは、自分たちの手で事業を立ち上げようと決意。フランチャイズという選択肢も検討したものの、最終的には自ら制度や支援策を学びながら、ゼロからの自走に踏み出しました。 「開業支援や会計ソフト、管理ツールなど、使えるものは全て活用しました。医療知識がないからこそ、仕組みを整えることで、土台を固めていったんです」(亀谷さん) このように、不動産業とは全く異なる分野への新規参入という大胆なスタートながら、着実な学びと実行力によって、ステーションは少しずつ形になっていきました。 あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻を立ち上げた亀谷さん(写真右)と野口さん(写真左) スタッフの声が届く、風通しの良い運営体制 「一番大変だったのは、やっぱり人材の採用ですね」 そう振り返るのは、取締役の野口さん。医療業界未経験というハンデの中で、看護師という専門職をどう迎え入れるか。初期からの大きな課題だったと語ります。 「SNSでの発信や、人材会社との連携、社員紹介……あらゆる手段を駆使して採用活動を続けてきました。ありがたいことに、少しずつ人とのつながりの中から良いご縁が生まれてきています」(野口さん) その中で、もう一人のキーパーソンとなるのが、現在所長を務める安田隆明さん。彼が参画したことで、現場と経営の間にしなやかな橋がかかり、組織全体の風通しが一段と良くなったといいます。 「管理者としての彼の存在が本当に大きい。スタッフの声を的確に拾い上げ、僕たち経営陣とも密にコミュニケーションを取ってくれる。だから意思決定も早いし、現場の声を柔軟に反映できる体制ができていると思います」(亀谷さん) 現場と経営が尊重し合いながら運営されるこの関係性こそ、アスポスの大きな強みとなっています。 そしてもう一つ、このステーションが大切にしているのが「関係性の見える運営体制」だ。管理者の安田さんはこう語る。 「うちは経営者と現場の距離がとても近いんです。現場の看護師から『こうしたい』という声があれば、すぐに私が聞いて、必要に応じて亀谷社長や野口さんに相談します。意思決定が早く、スタッフが“聞いてもらえている”と実感できる職場だと思います」 実際、記事に登場いただいた3名のやりとりからも、その関係性の温かさと信頼の深さがひしひしと伝わってきました。職種や立場を超えて、互いを尊重し合いながら同じ方向を目指すこのチームワークこそ、最大の魅力ではないでしょうか。 現場で働き続けたい想いと、安田さんの看護観 「現場で働き続けたいという気持ちが強かったんです」 そう語るのは、安田隆明さん。彼は看護専門学校を卒業後、春日部市立医療センターに勤務。手術室、救急外来、消化器科、循環器科など、さまざまな診療科を経験したのち、感染管理認定看護師として病院の感染対策を担う立場に。 「コロナ禍では、コロナ病棟の立ち上げや院内感染管理を任され、地域や病院を守る立場として奮闘していました。でも、管理職としてキャリアを積むよりも、もっと現場で、利用者さんに直接関わる仕事を続けたいと思ったんです」 その想いに共鳴したのが、亀谷さん。「一緒にやらないか」と声をかけ、仲間に迎え入れました。 「訪問看護では、ご利用者さんとそのご家族をまるごと捉えて支援する必要があります。でも、それって看護師自身が“心と体に余裕”を持っていないとできないと思うんです」 だからこそ、訪問件数の調整や急な休みの配慮など、“スタッフの余裕”を最優先にする運営を心がけていると語ります。 優しい笑顔で利用者さんからの電話に対応する安田さん 安心して働ける環境づくりの工夫 あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻では、スタッフ一人ひとりの特性や希望に応じた柔軟な働き方を実現しています。 「共感が得意なスタッフもいれば、指導力のあるスタッフもいる。どちらが正解ではなく、その人に合った利用者さんをマッチングすることで、お互いに無理なく、より良いケアができると考えています」(安田さん) また、訪問体制はチーム制。担当制のように見えても、基本的には「全員で利用者を見る」体制をとっているそうです。 「朝礼・夕礼の時間には、記録を読むだけでは伝わらない“声”での情報共有を重視しています。オンコール中も、困ったらすぐに僕に連絡できる体制を整えています」(安田さん) さらに、教育方針にも特徴があります。 「一番吸収できるのは、“学びたい”と思ったその瞬間。その時に勉強できるよう、件数を減らしたり、研修を支援したりと柔軟に対応しています」(安田さん) 制度面でも、働きやすさを支える仕組みが整っています。タブレット・社用車・携帯電話は原則一人1台。冷蔵庫やウォーターサーバーなど、細かい配慮も行き届いています。 「『あの人は休んでもいいけど、私はダメ』なんてことは絶対にあってはならない。それぞれの事情に配慮し、お互い様の精神でやっています」(野口さん) 次なる挑戦へ――地域に根ざす2拠点目への想い 2025年9月、株式会社アスポスは2拠点目として「東大宮店(さいたま市見沼区)」を開設予定です。 「新しいエリアでは、まだ訪問看護の文化が根付いていないかもしれない。だからこそ、啓蒙的な活動や、地域行事への参加、ボランティアなどを通じて、地域に顔を出していきたいと考えています」(亀谷さん) この拡大にあたり、安田さんは現場の安全性を担保するための「仕組みづくり」にも力を入れたいと話します。 「今やっている取り組みをマニュアル化することで、スタッフが安心して動ける土台を作りたい。店舗が増えても、“アスポスらしいケア”が続けられるようにしたいんです」(安田さん) 新たな挑戦の先にあるのは、“変わらない想い”。 「人数が増えても、働きやすい環境は絶対に変えたくないんです。もっと良くなる可能性もある。だから常に模索して、スタッフと一緒に育てていけたらと思っています」(野口さん) インタビュアーより 亀谷さん・野口さん・安田さん、3名の関係性はとにかく温かく、まるで家族のようでした。経営と現場が互いを尊重し合い、目線を揃えて取り組んでいるからこそ、アスポスの訪問看護には“人に優しい”空気が流れているのだと感じました。 働く人が心と体に余裕を持てる職場は、きっと利用者さんにもそのやさしさが伝わるはず。そんな「看護師にとっての理想の環境」がここにあると思いました。 事業所概要 ステーション名:あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻  運営法人名:株式会社アスポス  開設日:2021年1月1日  所在地:埼玉県さいたま市岩槻区本町3-20-15 亀谷大工町ビル2階  アクセス:東武アーバンパークライン「岩槻駅」より徒歩7分(約600m)  Webサイト:https://aspos-hokan-iwatsuki.com/ 理念:「明日(未来)をサポートする力となり、明るく幸せな時間をお届けする」  サービス対象:乳児から高齢者まで全年齢層対応 特徴:  実務経験豊富なスタッフによる同行・ICT支給による学習支援  駅近で通勤利便性が高く、地域密着型  スタッフの笑顔とライフスタイルを大切にした柔軟な職場文化 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/15760 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

足のミカタ2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】
足のミカタ2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年12月16日
2025年12月16日

足のミカタ2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】

2025年9月19日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「足のミカタ2~足浴&爪切りをもっと詳しく~」を開催しました。2024年に実施した「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」の続編として、今回も倉敷市立市民病院 形成外科 医長の小山先生が登壇。要望の多かった爪切りについても詳しく教えてくださいました。 今回はそんなセミナーの様子を、前後編に分けてレポート。前編では、爪切りの基本や変形爪への対処法についてご紹介します。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 爪切りの基本〜観察と道具の準備〜 75歳以上の一人暮らしの高齢者に「日常生活の中で困ること」を聞くと、「爪切り」と答える方が多くいらっしゃいます。そのため訪問看護師のみなさんにも、ぜひ爪切りの基本を押さえていただきたいと考えています。 爪の正常な状態への理解と血流評価 爪切りを始める前に、まず爪の正常な状態について理解し、血流評価を行うことが大切です。利用者さんの爪を観察する際は、正常な爪と比較しながら「どこに問題があるか」「どんな処置が必要か」を考えます。 血流評価は必ずしも病院で行う必要はなく、CRT(キャピラリー・リフィリング・タイム/ Capillary Refilling Time)や足背動脈の触知など、訪問先で実施できる方法があります。血の巡りが悪い足には、新しい傷を作らないよう注意してください。 万が一出血しても、血流が保たれていれば自然に止血しますし、傷も治ります。しかし、血流障害がある場合には、わずかな傷でも状態が急激に悪化し、感染や壊死などのトラブルにつながるおそれがあります。 血流評価の具体的な方法や爪の構造・爪切りの基本などの解説は、過去セミナー記事をご参照ください。>>血流評価の具体的な方法はこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】>>爪の基礎知識・爪切りの基本についてはこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】 【ミニ解説】~在宅での足浴の考え方(血流の状態に応じた対応)~ 爪切りの前に血流評価をするのと同様に、足浴を行う際も血流状態の把握が大切です。足浴は、患者さんの血流状態によって大きく方針が変わるため、以下の表のように分けると実務で迷いが少なくなります。ぜひ参考にしてみてください。 道具を用意する 爪切りをする際は、次の道具を準備します。変形爪のケアも、基本的にはこれらの道具で行います。 PPE(マスク、ゴーグル、手袋、エプロン) 敷物(新聞、ゴミ袋など):切った爪の飛散防止のため。シーツやゴミ袋でも代用可 爪切り 爪用ゾンデ(2種類) ピンセット ぬれタオル:爪切りした後の足を拭くために利用 ゾンデは、爪の垢を除去する道具で、爪甲と側爪郭、終爪郭(爪先側の爪床周囲の皮膚)を区別するのに使用します。私はヘラ状のものと、先が細くなっていてカーブしたものの2種類を用意しています。 爪切りは、のこぎり状のギザギザ刃で、爪をしっかり捉え滑りにくく、安定して切れるものがおすすめです。このタイプの爪切りは、ハンドル側の可動部を前方に移動させると(左下写真:赤丸部分)、テコの原理で力が増幅され、少ない力でも、しっかり爪を切ることが可能です。 変形爪の症例〜観察と処置〜 当院の外来には、爪切りで困っている方が数多くいらっしゃいます。多くの場合は変形爪で、肥厚していたり、縦横方向に巻いていたり、爪が指に食い込んでいたり……。本来は前に伸びるはずの爪が反り返って上に伸びてくる反り爪の方もいらっしゃいます。 今回はその中から、私が爪切りをしてきた変形爪の症例を2つご紹介します。「足のミカタ(見方)」の参考になればと思います。 症例1「上に突出した肥厚爪」 「爪切りができない」といって来院された患者さん。患者さんは「爪をはがすんでしょう?」と不安なご様子でした。 爪を観察してみると、上から見たときは「爪が大きい」と感じる程度ですが、横から見ると上に突出していました。 爪の下に角質が厚く積み重なり、爪甲が浮いた状態でした。「車のボンネットが開いたように」という表現がわかりやすいかもしれません。 さまざまな方向から観察しながら、重なった層を一枚ずつはがすように爪を切っていきました。 症例2「反り返って皮膚に食い込んでいる爪」 90代の女性の患者さんで、数日前から足が痛いとのことで来院されました。 爪を観察すると、すぐに指のつけ根が腫れていることに気づきます。さらにさまざまな方向から観察すると、爪甲が反り返って、爪先が後爪郭付近の皮膚に食い込んでいることがわかりました。 そこで、慎重に爪切りを行いました。なお、麻酔は使用していません。 爪切り後4日ほど経つと、皮膚に開いていた傷は自然と治癒しました。 高齢者に起こりやすい巻き爪、陥入爪 高齢者の爪トラブルとして多いのが、巻き爪です。爪甲は、圧がかからない状態では、縦にも横にも湾曲する性質をもっています。それが、歩行の際に地面からの圧を受け止めることで正常な形を保っているのです。 しかし、あまり歩かなくなったり、指先が浮くような「爪に圧がかからない歩き方」が常態化したりすると、爪は本来の曲がる性質を発揮して巻き爪になっていきます。 なお、陥入爪(巻いた爪が皮膚に食い込み、痛みを伴う状態)の基本的な治療は、足趾(とくに母趾)にしっかりと圧がかかるように踏み込むことです。ただし、外反母趾やADLの低下などで歩くことが難しく、かつ痛みや傷が見られるケースでは、病院の受診を検討してください。 >>関連記事巻き爪が起こる原因について足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】 高齢者の爪トラブルへの対応と実践 上述したように、高齢になると爪が厚くなる、変形するといったトラブルが起こりやすく、爪の状態に合わせた爪切りを行うことが大切です。ここでは、実例を交えながら代表的な変形爪に対する具体的な爪切りの方法やポイントをご紹介します。 巻き爪 爪の状態を確認するまずは爪の状態をよく観察し、どのように爪を切るかイメージします。巻き爪のように湾曲している爪を切るときは、小さく挟んで慎重に切ります。爪のカーブに沿うように、少しずつ少しずつ切り進めていくとよいでしょう。爪切りを爪の湾曲に沿わせることで、痛みを抑えながら安全に処置ができます。 爪切りを当てる角度を調整する爪切りをする際は、爪がたわまないように、爪の丸みに合わせて爪切りの角度を変えながら少しずつ回転させて切っていきます。このとき、無理な力を加えると痛みにつながるため、爪のカーブに合わせて爪切りを「回していく」ように動かすのがポイントです。 ゾンデで爪下の角質を除去する適宜ゾンデを使って、爪甲と終爪郭部の間にたまった角質をやさしく取り除きます。この工程で「どの部分を切るべきか」「どこまで切っても問題ないか」をしっかり確認しておきます。 爪を整える(長さの調整)角質を除去し、切る部分を確認したら、最後に爪の長さを整えます。これで、痛みを起こさず自然な形に整えることができます。 挟み爪 挟み爪と呼ばれる状態では、爪甲が強く湾曲し、終爪郭部の皮膚を巻き込んでしまうことがあります。 状態を確認しゾンデで爪の境目を整える(巻き込みの程度を把握)爪の状態を確認しながら、どの程度皮膚が巻き込まれているかを見極めます。ゾンデを使って爪甲と爪郭の境目を丁寧に探ります。このとき、境目にたまった角質をやさしく取り除きながら、どこまでが角質でどこからが爪なのかを確認します。角質を除去することで、爪の切るべきラインが明確になります。 爪甲側をカットする境界が確認できたら、爪甲側(浮いている部分)を慎重にカットしていきます。皮膚(=お家の壁)を傷つけず、爪甲(=屋根)だけを剥がすように意識すると、力加減のイメージがつかみやすいでしょう。角質の部分は少しずつハサミで切り進めます。切っていくと、赤や黒の斑点が見えることがありますが、これは角質内出血や爪・角質が皮膚に刺さったことで染み出した血の跡である場合が多いです。最終的に、上記の手順で確認しながら、爪は安全な長さまで整えて終了します。 肥厚爪 肥厚爪では、爪甲がU字状に強く湾曲していることがあります。挟み爪同様にU字の中央部分には皮膚が持ち上がって入り込んでいる場合があるため、単純に爪の長さを切ろうとすると、誤って皮膚を切ってしまう危険があるため注意します。 爪の状態を確認するまずは、皮膚の盛り上がりに注意しながら爪と皮膚の境界をしっかり確認します。 外側の爪から慎重にカットする 爪が皮膚を巻き込んでいるため、外側の爪から順に、剥離するようなイメージで切り進めます。無理に引っ張らず、少しずつ「浮いている部分」だけを処置するようにします。 終爪郭部との隙間を確認しながら整える処置が進むと、浮き上がっていた指先の皮膚(終爪郭部)が見えてくる段階に入ります。このとき、爪と皮膚の間のわずかな隙間を確認しながら、爪の先端を慎重にカットしていきます。焦らず、爪と皮膚を分ける意識を持つのがポイントです。 牡蠣殻のような爪 牡蠣殻のような爪とは、爪が層をなして重なり合っている状態を指します。 状態を確認する(層状に重なった爪)爪の状態をよく観察し、どのように切るかイメージします。 層と層の間に爪切りを入れる爪の先端から、層(レイヤー)の隙間に爪切りの刃先をそっと差し込みます。このとき、層を削ぐように切り進めるのがポイントです。パチンと切ると、層がふっと浮き上がり、爪の一部がはがれるように取れます。 浮いた層を剥がすように除去する層が浮いたら、雲母(うんも)を剥がすように優しく取り除きます。写真のように、爪の層と層の間に刃を入れて順番に処置していくと、重なった爪が自然にポロッと取れていきます。 陥入爪の処置「フェノール法」 私が病院で行う陥入爪の手術、「フェノール法」についてもご説明します。 まず、処置を行う指に局所麻酔を施し、知覚を遮断します。そして、血流を一時的に止めるため指をゴムで駆血し、皮膚に巻き込んでいる爪を根元まで切除。その後、切除した部分の爪母をフェノールという薬で焼灼し、爪の再生を防ぎます。最後にエタノールで中和、洗浄したら、手術は終了です。 フェノール法で治療を行うと、「の」の字に近い重度の巻き爪でも、爪が食い込まないようになります。 次回は、爪白癬の検査や治療の重要性、実際の症例について解説します。>>後編はこちら足のミカタ 2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】>>小山先生の過去セミナーレポート記事はこちら【足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~】シリーズ記事一覧 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚生労働省老人保健健康増進等事業.みずほ情報総研株式会社:一人暮らし高齢者・高齢者世帯の生活課題とその支援方策にかんする調査研究事業報告書(平成24年3月)〇日本フットケア・足病医学会(編):重症化予防のための足病診療ガイドライン,2022.〇東 禹彦(著):爪 基礎から臨床まで 改訂第2版,金原出版,2016.

ALS患者に必要なリハビリテーション【四肢編:拘縮予防が最大のポイント】
ALS患者に必要なリハビリテーション【四肢編:拘縮予防が最大のポイント】
コラム
2025年12月16日
2025年12月16日

ALS患者に必要なリハビリテーション【四肢編:拘縮予防が最大のポイント】

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。ALSは筋肉そのものの病気ではないため、過度な筋力トレーニング(以下、筋トレ)は逆効果になることもあります。では、どのようなリハビリテーション(以下、リハビリ)が適切なのでしょうか。今回は、病気の進行に応じた適切なリハビリや、四肢の拘縮を防ぐ工夫について、梶浦先生ご自身の実践を交えて解説していただきます。 ALS患者にとってのリハビリとは これまでのコラムでも書いてきましたが、ALSは運動ニューロンが障害されることで、脳からの命令が筋肉に伝わらず、結果的に筋肉が動かせなくなっていく病気です。 筋肉自体の病気ではありません。 そのため、リハビリのポイントは、 適度に筋肉や関節を動かしていくことで、残存する運動機能をできる限り温存し、筋肉や関節が硬くなるのを予防していくこと につきます。 過度な筋トレは逆効果 徐々に筋肉が細くなり、筋力が落ちていくため、筋トレがよいリハビリだと思われる方もしばしばいらっしゃいます。しかし、過度な筋トレは以下の理由により、ALS患者には逆効果となってしまいます。 (1)ALSでは運動ニューロンが徐々に壊れていき、正常に機能している筋肉も少なくなっていくため残された筋肉を無理に使いすぎると、その筋肉やそれを支配する神経に過剰な負荷がかかり、症状の進行を早める可能性があります。   (2)ALS患者は筋肉の再生能力が健常者より低下しており、筋トレによるダメージからの回復が不十分になるため過度な筋トレによってダメージを受けた筋肉が修復されないまま疲労が蓄積され、結果的に筋力が低下してしまうことがあります。 体が動かせるうちにできるリハビリ まだ体が動かせるうちは「今できる日常動作を無理のない範囲で、できる限り継続していく」というのが、適切なリハビリです。 例えば、まだ歩ける方は、歩くこと自体がよいリハビリになります。過度な負荷をかけずに、歩くことをできる限り継続してください。ただし、転倒するようになってきたり、足元がおぼつかないと感じるようになったときには、無理せず主治医に相談してください。 ベッド上の生活でできる四肢のリハビリ 私のように、四肢体幹が動かせなくなり、人工呼吸器を装着して、主にベッド上での生活がメインになってからは、四肢と体幹(呼吸筋)の2つに分けてリハビリを考えるとよいでしょう。今回はそのうちの、「四肢のリハビリ」について書いていきたいと思います。 筋力が落ちて、自分の力では四肢体幹が動かせなくなると、体は自然と筋肉の緊張がゆるみ、安静に保つための基本的な姿勢をとるようになります(図1)。 図1 安静を保つ姿勢のイメージ この姿勢が楽だからといって、長時間同じ姿勢でいると、徐々に関節や筋肉がその状態で硬くなってしまいます。この現象を「拘縮」と呼びます。 拘縮が引き起こす問題 拘縮を起こしてしまうと、次のような理由から、日常生活の中でさまざまな弊害が出てきてしまいます。 血流が悪くなる 関節痛や筋肉痛の原因になる 関節の可動域が制限される(例えば、着衣や車椅子への移乗などの動作が難しくなる) ベッド上での生活がメインになっている段階では、自分の力で筋肉や関節を動かすことが難しいため、以下のいずれかが必要です。  他者に動かしてもらう 自分でもできる拘縮を予防する工夫を取り入れる 他者に体を動かしてもらう場合 ALS患者さんによって、硬くなる部位は異なります。 上位運動ニューロンが優位に障害されている部位:緊張性麻痺(筋緊張が亢進) 下位運動ニューロンが優位に障害されている部位:弛緩性麻痺(筋緊張が低下) リハビリスタッフさんや看護師さんは、これを前提に、個々の症状に合った可動域訓練をはじめとしたリハビリテーションを行うようしてください。 ただ、一般的に「硬くなりやすい動き」もあります。例えば、 手指の関節を屈曲・伸展する動き(こぶしを握ったり、開いたりする動き) 前腕を回外する動き(前腕を前に出し、手のひらを上に向ける動き。ちなみに、手のひらを下に向ける動きは回内です) アキレス腱を伸ばす動き などが多いです。そのことを意識しながら、可動域訓練をするとよいでしょう。 私が実践している拘縮の予防方法 拘縮を予防していく上で最も重要なのは、「頻度」です。いくらリハビリスタッフや看護師さんたちに体を動かしてもらったとしても、時間は限られています。そこで、ポイントとなるのが、「拘縮を予防する動きをできるだけ日常生活の姿勢の中に取り入れること」です。ここからは、私が行っている拘縮予防の工夫をご紹介します。 尖足(せんそく)拘縮の予防 尖足拘縮とは、足関節が足底のほうへ屈曲し、つま先が下を向いた位置で固まってしまうことをいいます(図2)。これはALS患者によく見られる代表的な拘縮の1つなので、早期から予防していくことを強くおすすめします。 図2 尖足拘縮とは 足関節が足底のほうへ屈曲し、つま先が下を向いた位置で固まってしまう状態。 私はサポート器具を自作し、尖足拘縮を予防しています。今回はその作り方をご紹介します。 ベッドのフットボード側の長さを測り、その長さに収まるように、木の板をカットする(板のカットはホームセンターで行ってもらえます) 木の板の上に発泡スチロール製のブロックをボンドで貼り付ける(発泡スチロールのブロックはホームセンターで購入可)・図3のようにゴムバンドを板とブロックに巻き付けるとさらに強度が上がる図3 ゴムバンドで固定した板とブロック 2をベッドの足元に置いて、図4のように足首が垂直になるようにする 図4 ベッドの足元に置いた板とブロック 作り方は以上です。足が届かない場合は、板の後ろにクッションを入れて厚みを調整してみてください。足を伸ばしている間は、なるべくこの姿勢を維持することで尖足を予防することができます。 前腕の回内拘縮の予防 まずは、図5のようにベッド上で上腕・前腕をなるべく外側にひねり、手のひらを上に向けます(回外肢位をとる)。 図5 回外肢位 このとき、クッションのように軽い重りとなるものを手のひらに乗せて、回外肢位を保持します(図6)。 図6 回外肢位を保持する工夫 余力があれば、かかとをお尻につけるように膝を曲げ、膝をクッションにもたれさせます。そうすることで、回外肢位に負荷をかけつつ、アキレス腱の伸展も同時に行え、尖足予防にもなるため一石二鳥です。 私はベッドの上にいる時は、ほとんどこの2つの姿勢で過ごしています。ぜひ参考にしてみて下さい。 実際のポジショニングの様子は、動画でもご覧いただけます。▼enjoy ALS (YouTubeチャンネル)https://www.youtube.com/@S.Kaji_SND ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。※チャンネル内の「ALS_自分でできる四肢の拘縮予防」の動画をご参照ください。  注意点:必ず専門家と相談を!今回ご紹介した拘縮予防の方法は、個人の拘縮の部位や症状によります。必ず、主治医やリハビリスタッフの同意のもとで行ってください。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

訪問が不安でも、大丈夫。寄り添う管理者と一緒に成長できる場所~訪問看護ステーションスイッチオン三田 坂倉さんにインタビュー~
訪問が不安でも、大丈夫。寄り添う管理者と一緒に成長できる場所~訪問看護ステーションスイッチオン三田 坂倉さんにインタビュー~
インタビュー
2025年12月16日
2025年12月16日

訪問が不安でも、大丈夫。寄り添う管理者と一緒に成長できる場所~訪問看護ステーションスイッチオン三田 坂倉さんにインタビュー~

「不安でも、大丈夫」。病院勤務から訪問看護へ転身し、訪問看護ステーションスイッチオン三田の立ち上げ期から管理者として成長してきた坂倉さん。利用者・家族・スタッフに寄り添いながら築いてきた信頼とチームワーク、その歩みを丁寧にたどります。訪問看護を始めたい方の背中をそっと押す一篇です。 【※本記事はNsPace Careerが事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 「訪問看護って、すごい」──1日の研修で見えた衝撃 看護師として長年、病院で働いてきた坂倉ちあきさん。整形外科や産婦人科、泌尿器、呼吸器といった幅広い診療科を経験し、地域包括支援センターでの勤務も経て、2017年に訪問看護の世界へと足を踏み入れました。 そのきっかけは、勤務していた病院での「1日の訪問看護研修」でした。 「病院と訪問の違いに、衝撃を受けたんです。病院って、何でも揃ってるじゃないですか。吸引機、ガーゼ……当たり前にあるものが、在宅にはない。そのなかで“どう工夫して、快適な生活を支えるか”っていう発想に、すごく惹かれたんです」 その体験から「いつか訪問看護に行きたい」という思いを抱き、数年後、その想いを形にしました。 「困ってることがあったら言える雰囲気」を作ることを大切にしている管理者の坂倉さん 廊下のすみにあった事業所、少人数で始めた日々 2021年、訪問看護ステーションスイッチオン三田の開設。坂倉さんは、いわば“創業メンバー”として、その立ち上げを見守る立場にありました。 「最初は本当に少人数。場所も、マンションの一角の、廊下の端っこみたいな場所からスタートしたんです。こじんまりと、“ここでやっていくんだな”って思いながら」 そこから数年、スタッフも利用者も少しずつ増え、マンション内の別の部屋へ、さらに広いスペースへと事業所は拡張していきました。 立ち上げ当初から関わる中で、坂倉さんが2022年に管理者となったことは、スタッフたちにとっても自然な流れだったのかもしれません。 「管理者になった時は、正直“何もわからない”という状態でした。でも、部長にいろいろ教わりながら、利用者さんやスタッフにも教えてもらいながら……。今でも“勉強しなきゃな”って思う毎日です」 その言葉には、決して奢らず、常に謙虚な学びの姿勢が滲んでいました。 利用者と家族に学ぶ、“人生の先生”としての在宅 訪問看護の現場では、利用者さんと向き合うだけでなく、その家族の姿に学ぶことが多いと坂倉さんは話します。 「ご家族がね、本当に一生懸命なんです。自分の時間を削ってでも、目の前の利用者さんを大事にしようとしている。その姿に、こっちが教えられることがたくさんあるんですよね」 “人生観を教えてもらっているような気がする”──そんな言葉を使って、坂倉さんは語ります。そして、ときにはこう声をかけることも。 「そこまで頑張らなくても大丈夫ですよ、って。無理しないでいいよって、伝えるようにしてるんです」 在宅ケアの現場では、支援制度の存在を知らず、ひとりで抱え込んでしまうご家族も少なくありません。だからこそ、使える制度や選択肢を伝える役割が訪問看護師にはあります。 「“こういう支援もありますよ”とお伝えすると、“そんなのあるんですか!”って驚かれることも多くて。ケアマネさんと一緒に、“どうしたらご本人もご家族も少しでも楽になるか”を考えるようにしています」 多職種連携にも、坂倉さんらしさがにじみます。 「うちは自社の居宅介護支援事業所もありますし、他社の居宅介護支援事業所のケアマネージャーさんからご紹介いただくことも多いんです。できるだけこまめに報告するようにしています。“言わないより、言った方がいい”って思ってるので」 ちょっとした変化も電話や訪問で共有する。それを続けることで、信頼関係が自然と築かれてきたのだそうです。 「“みんな、顔が穏やかですね”って言っていただくこともあるんです。顔を見ていただければ、安心してもらえるのかなって」 言葉だけではなく、表情や態度。そういった“顔を合わせるコミュニケーション”も、地域で信頼を得る上では大切にされていました。 不安に寄り添い、背中を押す「そっと聴く」リーダーシップ 「訪問看護って、一人で行くじゃないですか。だから、どんなに経験を積んだ人でも、やっぱり不安ってあると思うんですよね。私も、不安なこと、いまでもありますよ」 そう笑って語る坂倉さん。その言葉は、訪問看護に不安を抱くすべての人にとって、どれほど救いになるでしょうか。 「“不安だよね”って、まずはその気持ちに寄り添いたいんです。それから、“じゃあどうする?”をみんなで考えたい」 その姿勢は、教育の場面でも貫かれています。 「ラダー制で、その人の目標に合わせた支援をしています。でも、“独り立ち”のタイミングは、不安がなくなってから。そこまでは、私や経験のあるスタッフがしっかり同行します」 同行期間に明確なリミットを設けず、「大丈夫」と納得できるまで見守る。坂倉さんのそのやさしさは、同時に強さでもあります。 「一人で判断するのは、やっぱり怖い。でも、だからこそ、“みんなで話そう”“相談しよう”という文化を大事にしてるんです」 「困ってることがあったら言える雰囲気」を作ることが、何よりも大切なのだといいます。 「管理者って、前に出て“こうして”って指示するイメージがあるかもしれません。でも私は、みんなの考えを“引き出す”ことを大事にしたいんです」 「聞くこと」「信じること」「一緒に悩むこと」。坂倉さんのリーダーシップは、“そっと寄り添う力”に満ちていました。 和やかな雰囲気の訪問看護ステーションスイッチオン三田のみなさん 看護師・セラピストが支え合う職場で目指すもの 訪問看護ステーションスイッチオン三田には、看護師だけでなく、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が在籍しています。 「うちの強みは、看護もリハも全部揃っているところ。看護師じゃなくても見られるし、リハビリスタッフだけじゃなくても気づける。利用者さんを“チームで支える”っていう考え方が根づいているんです」 情報共有の場も、堅苦しいものではありません。 「事務所の中では、いつも誰かが“あの方どうだった?こういう変化あったよ”って話してます。会議じゃなくても、自然とカンファレンスみたいになってるんですよ」 まるで井戸端会議のように、和やかに飛び交う利用者さんの話題。その一方で、記録を打つときは皆真剣。メリハリを大切にしながら、チームの温かさが息づいています。 そんな職場で、坂倉さんが描く未来とは──。 「看護師でもリハでも、どっちからでも“助けてもらえる”ステーション。そう思ってもらえるように、もっと信頼される場所にしていきたいです」 そしてそのためには、スタッフの充実が欠かせない、とも。 「スタッフが増えれば、地域をもっと支えられるし、オンコール体制も整っていく。みんなでワイワイ、でもしっかり支え合える職場。そんなチームで、地域の“困った”に応えていけたらいいなって思っています」 「スイッチオン三田には、レストランがあり職員は500円で定食を食べることができます。美味しいご飯を安く食べられる、それは頑張った自分へのご褒美になるし、日々働く活力になります。ぜひ見学に来た時はレストランで食事も摂ってもらえたらと思います」 インタビュアーより 「私でも不安なこと、ありますよ」。そう語った坂倉さんのまなざしには、優しさと同時に、深い共感のまなざしがありました。訪問看護のやりがいを知っているからこそ、不安や悩みに寄り添える。そして、スタッフや利用者、家族への“尊敬の念”がにじむその言葉に、坂倉さんがいるからこの職場は温かいのだと感じました。ひとりで悩まず、みんなで考える。それがスイッチオン三田のスタイルです。 事業所概要(訪問看護ステーションスイッチオン三田) 事業所名:訪問看護ステーションスイッチオン三田 管理者:坂倉ちあきさん 所在地:兵庫県三田市南が丘2-6-12(神戸電鉄「横山駅」徒歩3分) 開設:2021年6月 提供サービス:訪問看護、訪問リハビリテーション 特徴: 高齢者マンション内で居宅・デイと連携 若手スタッフ中心 社内研修(月1回) 研修費補助あり 理念:住み慣れた家からその人らしくお出かけできるように 待遇:直行直帰・マイカー通勤可/ユニフォーム・社用車貸与/昼食費補助 求人:常勤看護師(オンコール対応可能な方)募集中 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/16498 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

【PSP難病看護事例】「食べたい」を叶える 支援者の不安に向き合う多職種連携
【PSP難病看護事例】「食べたい」を叶える 支援者の不安に向き合う多職種連携
特集
2025年12月9日
2025年12月9日

【PSP難病看護事例】「食べたい」を叶える 支援者の不安に向き合う多職種連携

今回は進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)をテーマに、摂食支援の取り組みについて紹介します。本人の「食べたい」という思いに対して支援を計画するなかで、スタッフが抱える「怖さ」や「不安」が明らかになりました。こうした不安が少しでも軽減し、各スタッフが自分の専門性と役割を再確認しながら、本人の願いに応える支援を行う、そんな多職種連携をめざした取り組みについてお伝えします。 進行性核上性麻痺(PSP)とは PSPは、比較的高齢者に発症する神経変性疾患であり、固縮や無動を特徴としたパーキンソン症状を呈します。疾患の進行に伴い、嚥下障害や構音障害、認知機能障害などの多岐にわたる症状が出現するため、支援が必要な生活課題がたくさん生じます。訪問看護で出会う頃(進行期以降)には、療養者や家族、支援にかかわる多職種スタッフ(以下、スタッフ)はさまざまな困りごとや課題に直面していることが多いです。こうした状況では、難病看護の専門的な視点からの状況判断やケアの提供に基づいた、チームでの協働が重要となるでしょう。 事例紹介:Mさん(70代、男性) Mさんは定年退職まで数々の調理場で勤務し、料理をつくることも食べることもとにかく大好きな方です。 定年退職から数年後に、歩きにくさと食べにくさが出現し、パーキンソン病の疑いで外来で治療を受けていました。2年後、体動困難と誤嚥性肺炎で入院し、その際にPSPと確定診断され、退院を機に訪問看護や訪問介護などのサービスを導入して自宅へ戻りました。その後、誤嚥性肺炎で再入院し、重度の嚥下障害のため胃瘻を造設して退院しましたが、疾患の進行に伴う生活課題の増加から有料老人ホームへ入居しました。 経口摂取の制限があるなか、毎日「コーヒーやあんこを食べたい、少しでもよいから」と涙ながらに話していました。ADL(activities of daily living:日常生活動作)の全般において、見守りから介助が必要な状況でした。それでも「動きたい」「食べたい」という思いが強く、息が苦しくとも歩行器を使って歩いたり、1人でコーヒーを飲んではむせ込んだりすることを繰り返していました。  【Mさんの思い】自分が誤嚥性肺炎肺炎になるとは思わなかった。コーヒーや好きなものを食べたい気持ちは今もある。体調がよいときは外の空気を吸いたい。口から食べられなくなったら生きている意味がない。最期まで好きなものを食べて死にたいよ。 【家族の思い】本人の思うように過ごしてほしい。 「何が不安なのか」が分からない すべての訪問看護師が難病看護や摂食嚥下ケアに携わってきているわけではなく、「PSPに出会うのは初めて」「PSPのことがよく分からない」という方も多いでしょう。慣れないときには、何が分からなくて不安なのか、何が怖いのかも漠然としているものです。 そのため、私は、「コーヒーなどの水分を摂る時によくむせていますね。むせにくい姿勢や食形態があるのかも。どんな姿勢の時にむせることが多いと感じますか?」「口の中がとてもキレイですね。皆さんの口腔ケアのおかげです。どんな工夫をしながらやっていますか?」というように、日々のかかわりやケアの場面に絡めて、スタッフの思いを引き出すよう心がけました。すると、スタッフから以下の相談や報告が寄せられるようになったのです。 【相談内容】・摂食支援時の姿勢やこれまでの介助のしかただとむせてしまう・覚醒が悪い時間帯や苦手な姿勢があるため、どのように対応したらよいか【報告内容】・Mさんが食べたいもの、好きなもの・呼吸状態や痰の性状・量・摂食介助後の状況 上記の相談や報告があった際、次のように説明をしました。「PSPはむせずに誤嚥をする不顕性誤嚥のほうが心配なので、むせることは悪いことではないんですよ。Mさんの場合、むせた後に鼻汁が増えたり、喉からゴロゴロと音が聴こえたりすることがあります。むせた後に声を出してもらって、湿性嗄声になっていないか、鼻汁の増加がないかを確認してみましょう」こうしたやりとりを通じて、Mさんの思いを実現するためのチーム体制の基盤ができあがっていくのを実感しました。 管理者・指導者は、吸引や姿勢の調整、緊急時の連絡基準を定め、いつでも対応できるような環境を整えることが大切です。そうすることで、チームの信頼関係の構築にもつながるでしょう。 スタッフの専門性に基づき役割を明確に Mさんのケースでは、「食べたい」思いに寄り添いたい気持ちが、スタッフから痛いほど伝わってきましたが、施設としてのルールや、スタッフ間の思いのすれ違いが障壁となっているようでした。これだけのスタッフが揃っているなら、それぞれの立場からMさんを支援できるような環境づくりが必要と考えました。 食べる支援のための準備として、各スタッフの役割を以下のとおり明確にしました。 ヘルパー:介護プランに応じた支援、本人が希望したときのコーヒーの摂取介助施設看護師:1日3回の経管栄養注入、排便管理、口腔ケア、吸引処置言語聴覚士:週1回の嚥下機能および食形態・姿勢の評価、摂食介助の指導理学療法士:身体機能の評価、摂取介助時の姿勢の評価や指導難病看護師:多職種スタッフへの疾患に関する教育・指導、週1回の専門的な視点からの全身状態のアセスメント・評価、摂食支援方法の検討、訪問診療の医師・看護師・ケアマネジャーへの報告訪問看護師:全身状態の観察・アセスメント、摂食支援の実施・評価、Mさんの思いの表出への支援、施設スタッフからの情報収集・困りごとの共有、ケアマネジャーとのサービス調整 これらの役割を明確にした上で、ケアマネジャーや施設スタッフと相談し、サービスの予定を組み立てました(図1)。 図1 Mさんの週間サービスの予定表 【訪問看護の内容】● 月曜日〜金曜日(平日):1日2回の訪問 ・1回目の訪問:全身状態のアセスメント・評価、状況に応じた摂食支援と口腔ケア ・2回目の訪問:全身状態の評価と状態に応じた離床支援● 土曜日と日曜日:1日1回の訪問 ・平日の1回目の訪問内容と同様 訪問看護では、Mさんの意向に沿って、昼食時の摂食支援を中心としたプランとし、平日は摂食支援後の評価や離床支援のために複数回訪問を計画。複数回訪問にすることで、施設スタッフやヘルパーとコミュニケーションを取る機会が増え、タイムリーな報告や相談、ケアの実施や評価がしやすくなりました。 スタッフ全員が「チームの一員」でいられること、「1人ではない」と思える環境を整えることが大切です。 実際の摂食支援の内容 Mさんが食べたいものを軸に、表1に示した内容を基準に食べ物を探しました。 表1 Mさんの食品リスト (1) 安価で近くのスーパーで購入できるもの(2) 現在の嚥下機能に適したもの(3) 介助しやすいもの例)● 黒みつ、はちみつ、さまざまな味のジャムやソース● お湯で溶かすおしるこ(とろみをつける)● お湯でつくれるとろみつきのコーヒー● ゼリー、プリン、ヨーグルト、水ようかん 言語聴覚士や理学療法士と相談し、以下の手順で摂食介助の実施方法を周知しました。実際には写真つきの資料を作成しています。 ● 右側臥位(姿勢の写真を添付)して、舌に塗り込む。またはティースプーン半分の量を口に入れる● 食事前後に吸引と口腔ケアを行う● とろみのつけ方:100mLに対して、とろみスティックを1本(3g)使用 Mさんの嚥下状態や金銭的な問題などを総合的に判断した結果、食品には限りがある状況でしたが、最期を迎える直前までMさんは食べることを継続できました。Mさんの思いを実現するために、あきらめずに寄り添った多職種連携の成果であると考えています。Mさんの食べているときのにこやかな表情は、これからも忘れることはないでしょう。 難病の療養支援における多職種連携と環境づくり 私自身がMさんの事例をとおして、感じたことは以下のとおりです。 多職種スタッフが難病の療養支援を経験していない場合、何をどうすればよいか分からず、不安を感じることがあるため、難病を理解している相談役が必要になること。 多職種スタッフに対して、疾患の特徴と経過をふまえた看護判断を分かりやすく伝える必要があること。 スタッフがそれぞれの専門性や役割に専念できる環境を整えることが、療養者やスタッフにとっての安心材料となり、療養者の希望を叶えることにつながること。 訪問看護師だけではできることにも限りがあります。多職種スタッフをつなぎながら、支援を分担することが重要です。また、それぞれのスタッフがもつ専門性や価値観に合わせて、指導方法や伝え方を変えるといった工夫が求められます。さらに、療養者が実現したい思いに対し、多職種スタッフや訪問看護師が担える範囲かどうかを判断する必要があります。その上で、状況に応じて支援内容を見直すことが必要です。  本事例は、本人の承諾を得た上で掲載しています。個人が特定されないよう、必要な情報を匿名化し、適切に調整を行っています。本内容は教育・研究を目的としており、特定の診療や治療を推奨するものではありません。   執筆:出町 玲株式会社ケアサークル ほーむおんナースステーション、日本難病看護学会認定・難病看護師急性期病院の脳神経内科病棟で経験を積み、日本難病看護学会認定難病看護師を取得。その後、現訪問看護ステーションに勤務し、難病看護にかかわる教育や研修企画等を行いながら日々難病を抱える利用者さんや家族のところへ訪問をしている。編集:株式会社照林社

腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際
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特集
2025年12月2日
2025年12月2日

腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際

腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は患者さんの自宅で行う治療のため、医療者の直接介入が限られ、合併症やトラブルへの対応が本人や支援者の判断に委ねられることが少なくありません。そのため、訪問看護師が定期的に介入し、問題を早期に把握・対応することがPD療法の安定継続においてきわめて重要です。今回は、PDの代表的なトラブルと訪問時に実施できることを解説します。 腹膜透析(PD)における代表的なトラブル PDの代表的なトラブルには、腹膜炎、カテーテル関連感染、注液・排液の異常、体液量の異常、操作エラー・コンプライアンス低下が挙げられます。順に解説していきます。 PD腹膜炎(PD peritonitis) PD療法離脱の主要原因で、さらに生命予後にも影響しうる最も重大な合併症の1つです。排液混濁が典型的な所見で、腹痛、発熱、悪心・嘔吐を伴うこともあります。 診断には排液の細胞数と細菌培養など病院での検査が必要であり、在宅と病院の速やかな連携が早期の治療開始につながります。原因は手技不良による細菌感染やカテーテル関連感染(出口部感染・皮下トンネル感染)からの波及、腸管由来の内因性感染があり、感染経路によって病原微生物も異なり迅速かつ正確な診断が重要です。表1に腹膜炎の診断基準を示します。 表1 腹膜炎の診断基準 項目内容診断のポイント排液混濁米のとぎ汁状に排液が白濁することが特徴。腹膜炎が強い場合、血性排液となることもある迅速な診断のために、すぐに排液白血球数と好中球割合、培養検査を行う排液白血球数排液検査で白血球数100/μL以上、かつ好中球50%以上を占める新鮮な排液を用い、採取後迅速に検査を行う排液培養検査排液のグラム染色や培養検査で細菌や真菌を検出するグラム染色で迅速診断、培養検査で確定診断を行い、薬剤感受性検査も実施する腹痛や圧痛腹痛を伴うこともあるが、軽微あるいは無症状のことも多い自覚症状の頻度は低く、ほかの基準と総合的に腹膜炎を診断する カテーテル関連感染(出口部感染、皮下トンネル感染) 出口部感染は、出口部の発赤、腫脹、膿性浸出液、圧痛、発熱などを認める場合に強く疑われます。特に膿性浸出液が持続したり、皮下トンネルに波及している場合には、腹膜炎のリスクが上昇します。出口部の評価として「CAPD出口部スコア」があります(表2)。 表2 CAPD出口部スコア 項目0点1点2点腫脹なし<0.5cm 出口部のみ>0.5cm and/or トンネル部痂皮なし<0.5cm>0.5cm発赤なし<0.5cm>0.5cm疼痛なし軽度重度排膿なし漿液性膿性 4点以上を出口部感染と判断するCAPD:Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis、連続携行式腹膜透析文献1を参考に作成 注液・排液の異常 排液が困難であったり、注液時に抵抗感がある場合、カテーテル位置異常や腸管癒着、フィブリン閉塞などが原因として考えられます。注液・排液不良があるとPD療法が継続できないため、速やかな対応が必要になります。便秘もカテーテル位置異常や排液不良の原因となるため、日々の便通管理も重要です。 体液量の異常 体重増加、浮腫、血圧上昇は体液過剰の最初の兆候で、進行すると胸水貯留や呼吸困難をきたし、緊急対応が必要となる危険があります。反対に除水過剰による脱水、それによる低血圧、倦怠感も見逃してはなりません。 操作エラー・コンプライアンス低下 キャップの閉め忘れや不足のチューブ破損を含めた無菌的操作の手技エラーは腹膜炎を引き起こします。また、日々のPD療法が計画通り遵守されない場合は、十分な溶質除去ができず、電解質異常が悪化する恐れがあります。 訪問時における看護師の対応 感染兆候を認めたら速やかに医師に連絡 訪問時に排液の色調・透明度を確認します。混濁がある場合は腹膜炎の可能性があるため、患者さんの腹部症状や体温などの観察と合わせ、速やかに主治医への連絡が必要です。出口部や皮下トンネル部は視診・触診により発赤、腫脹、圧痛や浸出液の有無を確認します。特に膿性浸出液は感染症の重要な所見です。主治医に早期に相談して培養検体の採取を行います。 注液・排液状態を確認し原因に応じ対処 排液不良(出が悪い)はカテーテル位置異常の可能性があるため、体位変換(座位→側臥位での排液)や、軽い腹部マッサージ、深呼吸などを行い、排液状態の変化を確認します。排液不良が持続する場合は速やかに主治医に相談してください。 注液に抵抗がある場合は、カテーテルがフィブリンで閉塞している可能性があります。透析バッグを加圧し透析液の圧入で改善する場合もありますが、改善しない際は、同じく主治医へ報告してください。 便秘が排液不良の原因となることもあり、排便状況の聴取も大切です。 バイタルサイン・体重・浮腫を評価 体重とその変化、血圧・脈拍・SpO₂の測定、下肢浮腫の有無で体液バランスの異常を推察できます。体重増加や浮腫の悪化があれば、除水量や食事内容などから原因を推測して指導を行ったり、透析条件の見直しの必要性について主治医と相談したりすることもあります。 手技の観察、必要に応じて再指導 患者さんの実際の手技(注液・排液操作)を観察し、無菌的操作が遵守されているか、接続・切断操作が正しいかを確認します。問題があれば、その場で指導を行い、必要に応じて主治医や病院看護師に教育用の資料を提供してもらい、再指導計画について相談をしてください。 精神的サポートで治療継続を支援訪問時に日常生活の不安や抑うつ傾向を訴える患者さんもいます。傾聴と共感を基本とした関わりが重要です。治療継続のモチベーションを維持するため、小さな成功体験の共有やPD療法の意義の再確認も効果的と考えています。 訪問看護の意義と今後の展望 PD患者さんの在宅療養の質を維持・向上させる上で、訪問看護の果たす役割は極めて大きくなっています。単なる観察だけでなく、「異常の予兆の察知」「緊急時の初動対応」「治療継続の支援」という多面的機能が求められています。 近年ではICTを活用した遠隔支援やAIを活用した意思決定支援ツールも登場し、訪問看護師の在宅での判断支援を強化する環境も整いつつあります。 今後は、訪問看護師がPDの専門性を高め、PDチームの主要メンバーとして積極的に治療管理に参画する体制の構築が不可欠です。その結果、病院内外での多職種連携が強化され、患者さん一人ひとりに合わせた柔軟な個別支援の提供が可能となり、PD療法の継続性と安全性が高まっていくものと考えます。 * * * PD療法の支援に活用できる「訪問看護師用チェックリスト」をご用意しました。各チェック項目に基づいて、評価や対応内容を記録できるようになっています。また、本記事でご紹介した「腹膜炎の診断基準」や「CAPD出口部スコア」もあわせてご確認いただけますので、日々のケアにぜひお役立てください。>>訪問看護師用チェックリスト ~在宅腹膜透析の安定継続のために~  執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。編集:株式会社照林社 【参考文献】○Schaefer F,Klaus G,Müller-Wiefel DE,et al:Intermittent versus continuous intraperitoneal glycopeptide/ceftazidime treatment in children with peritoneal dialysis-associated peritonitis. The Mid-European Pediatric Peritoneal Dialysis Study Group(MEPPS).J Am Soc Nephrol 1999;10(1):136-145.○日本透析医学会学術委員会腹膜透析ガイドライン改訂ワーキンググループ 編:腹膜透析ガイドライン2019.医学図書出版,東京,2019.

忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】
忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年12月2日
2025年12月2日

忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護師の仕事は、人との出会いの連続です。「みんなの訪問看護アワード2023」に寄せられた投稿から、そうした出会いの中で、今でも忘れることができない利用者さんやご家族に関わるエピソードを4つご紹介します。 「ラブレターと、家で叶った2人の外出」 健やかなる時も病めるときも…。夫婦になる際の誓いの言葉を、最後まで行動で示す夫婦愛に感動するエピソードです。 仲良し夫婦の妻が入院。お見舞いに制限ある中、夫は「あなたが家にいなくて寂しい。元気になって帰ってきてください」と手紙を送る。入院中に胃ろう造設。手技が定着しないまま退院。訪問看護とリハが関わる。訪問看護師の指導で夫は胃ろうの手技をマスター。リハでの離床・移乗練習も行い、車いすで近所の公園に外出。2人で桜を見て満面の笑顔。妻はその後しばらくしてご逝去されたが、夫は最期をともに過ごせて安堵した表情がとても印象的でした。 2023年2月投稿 「最期の直前に電話してくださって眠るように旅立たれたAさん」 最期まで自分の生き方を全うした利用者さんが印象に残るエピソードです。 奥様が他界されてからは、独居のAさん。心不全で在宅酸素療法、尿道留置カテーテルを挿入している90代の方。今まで緊急訪問や救急搬送での入退院がたびたびありました。独居生活も厳しくその都度話し合いを重ねてきましたが主治医にはどうか自宅で看取ってくださいと懇願しておられました。Aさんは亡くなる当日の朝ご飯も食べ、ヘルパーさんに調子悪いので昼来て欲しいと言われました。午後看護師につらいので来てほしいと電話があり30分後に駆けつけました。携帯電話を握りしめまるで眠っておられるように安らかな最期でした。私たちの心配をよそに、きれいに安らかに旅立たれたAさん。最期まで希望を持って生き抜いたAさん。言葉で言い表せないことを教えていただきました。 2022年12月投稿 「白いごはんが食べたい」 大切な思い出は疾患を凌駕する原動力にもなると思い知らされるエピソードです。 アルツハイマー型認知症、脳梗塞後の80代女性で、娘さんと仲の良い方だった。こちらの言っていることは理解できていたが、自ら主体的に動くことはなく文字通りされるがままの様子だった。入院先の病院では食べる力はあるものの、食べることをやめていたのか食事がまったく進まなかったようである。娘さんから女性は畑仕事が好きだったこと、仕事に向かう旦那さんには両手に収まらない程の大きなオニギリを作って仕事に送り出していたことを聞き、自宅でゆっくり関われば食べる力を取り戻すと信じ、娘さんと一緒に食事を口元に運び続けた。訪問を続けたある日。「白いごはんが食べたい」と、その女性ははっきりと口にした。そのうちに表情が戻り、箸を使って食事を食べるようになった。あの日、驚き娘さんと顔を見合わせ、手を叩いて喜んだことは今でも忘れられない。 2023年2月投稿 「2人の時間を今も内緒にしていること。」 前向きに笑顔で疾患に立ち向かうことを約束した二人だからこそ、儚くも代えがたい大切な時間をつくれたのかもしれませんね。 訪問看護1年目(26歳)、初めての癌末期自宅での看取りでした。(70代女性)先輩と2人で同行訪問して、利用者様からいただいた初めての言葉は「あなたもっと笑いなさい。こっちはこういう状況でただでさえ暗くなるのに余計暗くなるわ」と。訪問が初めてな上、利用者様に言われた言葉は重く訪問する度に私自身気まずい想いでした。その後は訪問にも慣れ、プライベートな話を沢山し笑い合いました。(私の恋愛や仕事、利用者様の若い時の話等)ある時は、利用者様の旦那様に関しての愚痴や感謝していること。ある時は当時流行っていた加工アプリで一緒に写真を撮ったり、マニキュアを塗ったりと病院では考えられない看護をしていたと当時は思いました。最期が近くなってお酒好きということもあり、ご本人様希望で、往診医、先輩、利用者様家族皆でお酒を飲みながら晩酌をしました。それから2週間程で息を引き取りました。あれから数年経ちましたが今でも1番印象に残っている利用者様で、たまに写真を見返し嫌なことがあった時は当時を思い出し活力をいただいています。 2023年2月投稿 いつまでも心の中に生きる姿 「人生で印象的だった場面を思い出してください」。そう言われて思い出すことができる出来事はどのくらいあるでしょう。訪問看護師は、人の感情が大きく揺れ動く場面に遭遇する機会が多い仕事。ぜひ、一つひとつの出会いを大事にしていきたいものですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子  2026年1月23日(金)17時まで「第4回 みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!↓

高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2025年11月25日
2025年11月25日

高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

高額療養費制度は、医療費が高額になり、患者さんの経済的負担が大きくなる状況を防ぐための重要な制度ですが、内容が複雑で分かりにくい点があります。今回は、同制度の基本的な知識や訪問看護におけるレセプト処理に関する注意点について解説します。 ※本記事は、2025年4月時点の情報をもとに構成しています。 高額療養費制度とは 高額療養費制度は、患者さんが支払う医療費が一定の限度額を超えた場合に、その超過分を保険者が負担してくれる制度です(図1)。本来の自己負担額に対し、高額療養費として払い戻しを受けられるため、患者さんの負担が際限なく増えないしくみになっています。金銭的な理由で治療を中断することがないようにするのが高額療養費制度なのです。 訪問看護の場合、訪問回数が多くなれば、当然患者さんの自己負担は増えます。ターミナル期であれば毎日訪問することもあるため、訪問看護療養費(医療保険)の請求額が数十万円を超えてしまうケースもあります。患者さんの自己負担額が3割であってもかなり重い負担といえます。このような状況で、高額療養費制度がどのように患者さんを支援するのかを理解しておくことが重要です。 図1 高額療養費制度のしくみと自己負担上限額の考え方例)70歳以上、年収約370~770万円の場合(3割負担)  高額療養費制度と年齢区分 高額療養費制度は、年齢や所得に応じて負担限度額が異なります。年齢区分別に制度内容を説明します。 70歳未満の場合(表1) 70歳未満の患者さんの場合、自己負担額は所得区分(ア~オ)に応じて異なります。例えば、所得区分「ア」の場合、自己負担限度額は252,600円で、その後は医療費の1%が負担されます。具体的には、所得区分ごとに上限額が設定されており、表1に示すように、自己負担額が段階的に減少します。 なお、表内の「多数該当」については後ほど説明します。 表1 70歳未満の上限額 *1 標準報酬月額とは被保険者が受け取る給与の総支給額のこと*2 報酬月額とは一定の幅で1から50等級が区分されている。報酬月額の票により保険料が定められている。 70歳以上75歳未満の場合(表2) 70歳以上75歳未満の患者さんは、現役並み所得者(現役並みⅠ・Ⅱ・Ⅲ、一般所得、低所得)や一般所得者、低所得者で区分が分かれます。例えば、一般所得者の自己負担限度額は18,000円で、低所得者は8,000円です。 表2 70歳以上75歳未満の上限額 75歳以上の場合(表3) 75歳以上の患者さんは、基本的に70歳以上75歳未満の場合と同じですが、「一般所得」がⅠとⅡに分かれます。一般所得Ⅰは1割負担、Ⅱが2割負担です。 表3 75歳以上の上限額 高額療養費は月単位で負担軽減 高額療養費は月単位で自己負担額が軽減されます。また、さらに負担を軽減する「多数該当」と「世帯合算」というしくみがあります。 多数該当:12ヵ月の間に3回以上高額療養費の支給があった場合、4回目以降の自己負担額がさらに下がる制度。 世帯合算:同じ医療保険に加入している家族が、同じ月にそれぞれの自己負担額が21,000円以上の場合、自己負担額が下がる制度。 訪問看護におけるレセプト処理の注意点 訪問看護ステーションで「高額療養費」と聞いて思い浮かぶのは、レセプト(請求)についてではないでしょうか。レセプトの「特記事項」欄や「負担金額」欄の記載ミスが原因で、レセプトが返戻となってしまうことがあります。訪問看護ステーションで導入しているシステムによっては、これらの欄を手動で入力しなければならないため、返戻となるケースが少なくないかもしれません。 高額療養費に関わるレセプトの記載では、特記事項欄に記載が必要な場合に何を記載しなければならないのかを押さえておきましょう。 高額療養費については「限度額適用認定証」を提示され、高額療養費が現物支給された場合に、「特記事項欄に対象となる区分を記載すること」と覚えておいてください。特記事項欄には、この記事の表1~3に示した「26区ア~30区オ」のいずれかを入力します。ただし、75歳以上のみ「一般Ⅰ」と「一般Ⅱ」が「41区カ」と「42区キ」になります。 また、70歳以上75歳未満、75歳以上の「30区オ(低所得者)」の場合は、「備考」欄に「低所得Ⅰ」または「低所得Ⅱ」の記載が必要です。 高額療養費制度のこれから 2025年に高額療養費の負担上限額の引き上げが国会で議論されましたが、いったん見送りとなりました。国民医療費の増加が社会保障費の大きな負担となっている現状において、患者さんの自己負担の増加が受診の抑制につながる可能性があるとの指摘もあります。今後も高額療養費制度については議論が重ねられると思いますので、制度変更について注視していく必要があります。   執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある編集:株式会社照林社 【参考文献】○厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から).https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf2025/4/17閲覧

信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】
信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年11月25日
2025年11月25日

信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護は利用者さんやそのご家族、医療・介護従事者などたくさんの方々と関わり合いがあるため、多様な人間関係や人間模様が存在します。「みんなの訪問看護アワード2023」から、訪問看護の絆にまつわるエピソードを5つご紹介したいと思います。 「これからもよろしく」 互いに訪問看護に携わるご夫婦の、夫から妻へのメッセージ。夫婦で支え合う二人の絆を強く感じるエピソードです。 私の妻は、私が代表を務める訪問看護ステーションの管理者です。向上心の高い彼女は一昨年、「私は訪問看護認定看護師の勉強がしたい」と言い出しました。うちは福岡ですが、私は「どうせ勉強するならば東京に行って学びなさい」と、つい言ってしまいました。彼女は勇んで聖路加国際大学で学びました。彼女が東京に滞在しながらの実習期間中は大変でした。毎日の生活はもとより、小4息子の遠足のお弁当作りや誕生日の食事の準備の時は台所でうなってしまいました。しかし本当に大変なのは彼女の方で、事例レポートや発表プレゼン作成など、質が高く内容の濃い勉強に自問自答し、時には目を潤ませながら一生懸命に取り組んでいる姿は「すごい」の一言でした。正直お互い苦しかったけれど、リモートで東京と結んで息子の誕生日のお祝いが出来たことは家族の癒しになった良い思い出です。妻へ、「認定看護師試験合格おめでとう。これからも一緒に頑張ろう。」 2023年1月投稿 「Hさんについて」 所作一つから愛情が溢れ出ているのが伝わり、利用者さんとその息子さんの親子の絆の強さが垣間見えるエピソードです。 Hさんは看多機開設当時から利用されていた方で、物知りでお話上手。「何事も感謝、感謝ですよ」が口癖の方。重い病気が見つかり、息子さんが仕事を辞めご自宅で介護することになった。一時期ショートステイされていた時に面会に来られても、どこかぎこちなく他人行儀に見え、介護経験のない息子さんが最後まで続けられるのだろうかとスタッフ皆が案じていた。ある日の夕方の訪問。その日は心無い利用者の言動に心が沈み、「利用者に寄り添うとは、看護とは、介護とは。」自問自答していた。お部屋に入るとHさんが静かに微笑まれていた。排尿介助の場面で「お母さん僕の肩につかまって」と息子さん。Hさんは細く痩せた腕を息子さんの肩に回した。息子さんはしっかり大地のように優しく、Hさんを抱きかかえていた。訪問を終え外に出る。街灯の灯が眩しい。何か元気をもらった気がした。親子の絆。信頼と愛情。その後、息子さんは立派にご自宅でHさんを看取られた。 2023年1月投稿 「看護を超えた、心のつながり」 職業人としては、利用者さんには公平で適切な距離感を保つことが必要である一方、感情や気持ちはそう割り切れない、人間らしさを感じるエピソードです。 脳腫瘍のIさんの訪問看護を開始して、1年半が経ちました。シャワー浴を実施していましたが、徐々にADLは低下していき、訪問看護で実施することが難しくなっていきました。自分たちよりも大きな男性の移乗や更衣を全介助で行うのは正直大変でしたが、元気な奥様と息を合わせて行うシャワー浴はわたしにとってはとても楽しみな時間でした。訪問中に、これまでのお二人のお話や、ちょっとした世間話などをすることも楽しみに訪問をしていました。しかし、ある時、シャワー浴がいよいよ安全に実施できないということで、訪問入浴導入が決定しました。訪問看護は状態観察で30分訪問を実施することになりました。何度目かの30分訪問を実施した時、奥様が話しました。「訪問が30分になってしまい、みんなが、急いで帰ってしまう様子が寂しい、これまで通り60分の訪問というわけにはいかないだろうか」と。それを聞いた時、看護を提供する者として、正解かは分かりませんが、私も、同じ気持ちですと、心の中で伝えました。看護は、誰しもに公平でなければならないと思います。ですが、看護師も人間です。こんな風に、心が繋がることもあるんだなぁと、実感した瞬間でした。 2023年2月投稿 「絶対に守る!」 新型コロナウイルスの蔓延により、本来必要であった看護や介護の手が届けることができない状況下でのリアルなエピソードです。夫婦の絆だけではなく、訪問看護師への強い信頼があったからこそ為し得た看護です。 新型コロナウイルスが蔓延したため、とても気を付けていましたが、介護者である奥様が感染してしまいました。本人でなくても介護者が陽性の場合、ヘルパーさん、訪問入浴、デイケア、ショートステイも断られました。神経難病で寝たきり、気管支瘻で吸引も必要、経管栄養、尿留置カテーテル、浣腸も毎日必要でした。ご主人の介護をどうしよう…と、奥様が泣かれました。訪問看護で毎日訪問することにしました。防護服を着て、最後の時間に訪問し、保清と排便処置を主に、ケア時の注意、立ち位置から消毒、換気まで細かく指導し、奥様と「絶対移さない!」を合言葉に頑張りました。症状はなくても奥様が心配で精神的に参ってしまわれ、1日ごとに抗原検査しました。奥様の発熱から最終10日目も陰性で万歳しました。「奥様凄いことです」。褒めて差し上げると、ご本人様は、強ばった身体で一生懸命頷いて笑顔を作って、ポロポロと涙を流されました。一番緊張して、奥様の体調も心配されてたんだと気付かされ感動しました。 2023年1月投稿 「事務さんの仕事はご利用者様への支援に繋がっている。」 勤めていると当たり前になりがちかも知れませんが、同じ職場のスタッフ同士でも信頼や絆があってこそ、良いサービスを届けることができるのだと気付くメッセージです。 いつも事業所でさまざまな業務をこなしてくれる事務さん。事務さんが請求業務を行ってくれるから、会社が成り立ちます。事務さんが医療機関へ訪問看護指示書を手配してくれるから私たちはご利用者様へサービスを届けることができます。事務さんが労務的な手続きを行ってくれるから、私たちは健康保険証で医療機関を受診できたり、保育園の入園申請が行えます。私たちが安心してご利用者様へケアを届けることができるのは、事務さんのバックアップがあるからです。事務さんがいるからご利用者様は安心してケアを受けることができ、ご自宅で過ごすことができています。事務さんの仕事はご利用者様へのケアに繋がっています。事務さん本当にありがとう。 2023年2月投稿 医療や介護のベースには思いやりを 家族間、スタッフ間、訪問看護師と利用者間とさまざまな間柄でのエピソードでしたが、苦労がある中でもお互いの絆を感じるものでした。相手への思いやりを持っているから築けた絆なのでしょう。医療や介護も常に人が関わる仕事。信頼や絆を築いていくためにも、日頃の接遇やコミュニケーションなどに配慮するとともに、相手への気遣いや思いやりを忘れないようにしていきたいものですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子  2026年1月23日(金)17時まで「第4回 みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!↓

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