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ALSの4大陰性徴候を活用して日常生活を豊かにしよう!
ALSの4大陰性徴候を活用して日常生活を豊かにしよう!
コラム
2025年10月14日
2025年10月14日

ALSの4大陰性徴候を活用して日常生活を豊かにしよう!

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、ALSの重要なポイントである「4大陰性徴候」について取り上げます。症状が進行する中でも最後まで残る機能に注目し、それを日常生活でどのように活用していくかについて、実際に取り組まれている先生の工夫や実践例とともに解説していただきます。 4大陰性徴候とは何か ALSは全⾝の筋⾁が徐々に動かせなくなっていく病気です。教科書やインターネットなどでALSについて調べてみても、この「全⾝の筋⾁が徐々に動かせなくなっていく」というメインの症状に焦点が当てられており、「ALSに出にくい症状」にはあまり触れられていません。しかし、ALS当事者にとっては、こうした出にくい症状を理解し、将来を⾒据えて⽇常⽣活にうまく取り⼊れていくことがとても⼤切なのです! ALSには、出にくい症状が4つほどあり、これを「4大陰性徴候」といいます。このコラムの2回目(>>「分かりやすい! ALSの病態と症状」)でもお伝えしましたが、非常に重要なポイントですので、ここであらためて紹介します。 (1)目は最後まで動かせる! 手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。 (2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。 (3)感覚障害が起こりにくい! 見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。 (4)「褥瘡」、いわゆる「床ずれ」ができにくい! 徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 今回は、4大陰性徴候のうち(1)~(3)について、日常生活でどう活用しているか、私の実践を交えながら紹介していきます。 最後まで動く目を早めに活用しよう 「目は最後まで動かせること」が4⼤陰性徴候の中でも⼀番重要な症状になってきます。 コミュニケーションを取るとき、声が出せるうちは、がんばって声で会話をするでしょう。⼿が動かせるうちは、タブレットやパソコンの操作も、がんばって⼿を使って⾏うでしょう。しかし、それらもいずれできなくなっていきます……。 ここでとても⼤事なポイントは、「完全にできなくなる前に、目を使った⽅法も取り⼊れて、併⽤しながらやっていったほうがいい!!」ということです。完全にできなくなってからでは、絶望感と虚無感に襲われ、そこから目を使った⽅法に切り替えるのが難しくなります。 目を使った⽅法は「アナログな⽅法」と「デジタルな⽅法」の2つに分けて考えることができ、どちらも⽇常⽣活の中でとても重要な役割を果たします。それぞれの方法について説明していきたいと思います。 アナログな方法:⽂字盤を使って会話しよう! 声が出せなくなったら、いずれ「⽂字盤」を使った会話⽅法に切り替えていく必要があります。⽂字盤については第1弾コラムの10回目(>>「⽂字盤を使わない⽂字盤!?〜エアーフリック式⽂字盤〜」)に詳しく書いていますのでご参照ください。ここからは上記のコラムを読んでいただいたことを前提として書いていきます。●エアーフリック式文字盤私が使っているエアーフリック式⽂字盤について、「ALS当事者は文字の配置を覚えられるのですが、介助者が覚えて使いこなすのが⼤変です」との声を何件かいただきました。そこで、文字盤を使っていく上でのポイントを紹介します。また、実際に私が会話している解説動画を作りましたのでこちらも参考にしてください。 ▼ALS_エアーフリック式文字盤https://youtu.be/-qwhvTesF4I?si=CwubuZ04OB6rcylV ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。 動画について:分かりやすいように目の動きをスローモーションにして編集しています。実際にはもっと速く動きます。(「さくらクリニック練馬」が動画編集に協力してくれました) ALS当事者は、毎⽇繰り返し使っていきますし、⾃分のQOLを上げることにもつながるため、わりと皆さん文字盤を覚えられます。⼤事なポイントは、「介助者は無理して⽂字盤を覚える必要はありません!」ということです。 図1は実際の私の部屋を撮影した写真です。私の後ろの壁には、介助者⽤の⽂字盤が常に貼ってありますので、介助者は文字の配置を覚えていなくても、それを⾒ながら読み取ることができます。 図1 介助用文字盤の配置 さらに余裕が出てきたら、各行の頭文字が並ぶ9マスの位置だけでも覚えることで、会話のスピードが格段に上がります。ぜひチャレンジしてみてください。参考までに、私の介助者の中には、右の列を「あたま(頭)」、左の列を「さはら(サハラ砂漠)」と覚えている⼈も多くいます。 デジタルな方法:目の動きでタブレットを操作しよう! ⼿を使ってタブレットやパソコンなどが操作できなくなったら、⼀番スムーズに動かせる目の動きを活⽤することが多くあります。 視線⼊⼒を使った⽅法については、第1弾コラムの13回目(>>「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢②コミュニケーションツール~」)をご覧ください。 ここからは、上記のコラムを読んでいただいていることを前提に書いていきます。なお、そのコラムを執筆したのは2022年ですが、それ以降、画期的な出来事が起こりました! なんと、2024年に視線⼊⼒を使った操作が「iPad Pro」に標準機能として搭載されたのです!!▼Apple、視線トラッキング、ミュージックの触覚、ボーカルショートカットなどの新しいアクセシビリティ機能を発表(プレスリリース 2024年5月15日)https://www.apple.com/jp/newsroom/2024/05/apple-announces-new-accessibility-features-including-eye-tracking ほとんどの⽅はピンとこないと思いますが、これまでALS患者やその関係者は、「なんとか視線を使ってタブレットやパソコンを動かせないか」と試⾏錯誤を繰り返してきました。そして、パソコンについては外部装置を接続することで操作を可能にしてきましたが、純正の機械ではないため、機能を最⼤限に活⽤するには難しい面がありました。 そのような中、Appleが⾝体障害者のために、「iPad Pro」に視線⼊⼒装置を標準搭載してくれたことで、その機能を⼗分に活⽤できるようになりました。これによりタブレットも視線の動きで操作できるようになり、利便性が大きく向上し、⾝体障害者の社会的活動の可能性が広がりました。 一番⾃由に動かせる目を活⽤することは、最初の「とっかかり」としてはスムーズかと思います。ただし、目は⽂字盤をはじめさまざまなことに使いますので、酷使するとどうしても疲労が溜まりやすくなります。 また、いくら「目は最後まで動かせる」といっても、私のように10年⽣きていると、徐々に目も動かしづらくなってくることもあります。(もちろん10年経っても変わらず目を⾃由に動かせる⽅もいらっしゃいますので、ALS当事者の⽅は必要以上に不安にならないでください。) このような理由からも、目を使った⽅法以外にもタブレットを操作できる手段を知っておいてほしいと思います。 ちなみに私は、疲労を分散させるために、用途に応じて操作方法を使い分けていました。例えば、⼤学で講義をする時は、目を使ってパソコンを操作し資料を作成し、医師として診療を⾏う時には、歯の噛む⼒を使って空圧センサーを押し、タブレットを操作していました(空圧センサーについても第1弾コラムの13回目に詳しく書いています)。 私は現在、目が⾃由に動かしにくくなってきたため、空圧センサーのみを使用しています。以下にセンサーに接続するセンサーチューブの作り方と、吸引カテーテル(口腔内の唾液を低圧持続吸引してくれるカテーテル)との連結方法をまとめたのでご覧ください。>>センサーチューブの作成方法と吸引カテーテルとの連結方法はこちらから ※リンク先は「さくらクリニック練馬」のWebサイト(外部サイト)となります。 この⽅法は、口周りに障害物が何もないことが前提となるため、NPPV※を装着している方には使用できません。一方、気管切開をしている⽅で、わずかでも噛む⼒が残っている⽅にとっては、⼝腔内の唾液を吸引しながらタブレットを操作できる、とてもよい⽅法だと思います。ぜひ参考にしてみてください。 ※NPPV:非侵襲的陽圧換気。気管切開を行わないで、マスクを着用するだけの人工呼吸器。 ちなみに、私がNPPVをやめて気管切開を決断した理由の1つには、目と⻭以外に⾃由に動かせる場所がなくなり、早くこの⽅法を試してみたかったということもあります。 実際に私が⻭の動きでiPadを操作している動画も載せておきます。よく⾒ないと分からないですが、2mmくらい⻭が動かせれば操作できます。 ▼ALS_空圧スイッチを使ったiPadの操作方法https://youtu.be/EgM5bV9HIxs?si=BErItzSlxNqOKwfV ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。 この動画の撮影と編集は、私の息⼦が⼿伝ってくれました。息⼦よ、いつもありがとう!! 衣類を工夫し尿器で排泄:がまんできる力を活かす 四肢や体幹が動かせなくなると、「ベッド上でおむつで排泄しないといけない」と思っている⼈も多いかもしれませんが、ALSでは膀胱直腸障害は起こりにくいため、排泄をがまんすることができます(もちろん⼀般論であり、個⼈差があります)。⼯夫次第ではポータブルトイレや尿器を使って排泄できます。 ポータブルトイレでの排泄⽅法は、第1弾コラムの 18回目(>>「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~下肢(2)ベッド上生活~」)に詳しく書いてますので、ご参照ください。 尿器を使用したベッド上での排尿の工夫として、これは男性の場合に限りますが、ズボンの前面を切り、スナップボタンを取り付けることで、ズボンを脱がずに陰茎を出して尿器をセットする方法があります。 ちなみに私は、尿器をセットしやすくするために下着は履かず、加工したズボンを直接履き、毎⽇⼊浴後に着替えています(⼊浴⽅法についても、18回目のコラムをご参照ください)。 実際に加⼯した私のズボンは図2をご覧ください。図2 加工したズボン(男性用) 「感じる力」を大切に:感覚が残ることを活かす ⾒たり聴いたり、味覚を感じたり……五感をフルに活⽤して、⽇々の⽣活をより豊かにしていきましょう! 上述した⽅法でタブレットを⾃分で操作できるようになれば、世界は格段に広がります。自分の好きなタイミングで読書をしたり、ドラマや映画を観たり、好きな⾳楽を聴いたりすることができます。 また、気管切開をして⼈⼯呼吸器を装着していても、誤嚥防⽌術さえ行っていれば、⼯夫次第で⽐較的⻑い期間、飲⾷を楽しむこともできます(もちろん個⼈差はあります)。誤嚥防止術の詳細については第1弾コラムの16回目(>>「「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!」)を参照してください。 * * * このように「できなくなっていくこと」ではなく、「何が最後までできるのか」に焦点を当ててALSという病気と向き合ってみると、⾒えてくる世界がまったく違ってきます。ALSという病気は、⼈間の可能性についてあらためて考えさせられる病気だなぁと、つくづく思う次第です。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

“人が人を呼ぶ職場”ができるまで~訪問看護ステーション憩の挑戦と温もり~統括所長 中田さんにインタビュー~
“人が人を呼ぶ職場”ができるまで~訪問看護ステーション憩の挑戦と温もり~統括所長 中田さんにインタビュー~
インタビュー
2025年10月14日
2025年10月14日

“人が人を呼ぶ職場”ができるまで~訪問看護ステーション憩の挑戦と温もり~統括所長 中田さんにインタビュー~

【PR】この記事はNsPace Careerナビ編集部が取材・編集しています。 看護師への転身と「在宅」との原体験 「実は私、もともとは普通のOLだったんです」。穏やかな笑顔をたたえながら語ってくださったのは、訪問看護ステーション憩 統括所長の中田明子さんです。彼女が看護師を志したのは、社会人として数年働いた後のことでした。 「バブルの時代だったこともあり、OL生活もそれなりに楽しかったんです。でも、どこかで“このままでいいのかな”っていう気持ちがずっとあって。小さい頃から人を支える仕事に憧れがあったので、思い切って看護学校に進学しました」。 中田さんの言葉からは、迷いの中にあった確かな意志がにじみ出ていました。 そんな中田さんにとって、大きな転機となったのが看護学校の実習で訪れた「在宅の現場」でした。「保健師さんに同行して、療養中の方のお宅を訪問する実習があったんです。それがすごく印象的で。“あ、私は将来こういう場所で働きたい”って、看護師になる前から思っていました」。 その決意を胸に、まずは病院で経験を積むこと13年。急性期の現場で多様な症例と向き合いながらも、彼女の心の中には常に「在宅」の原風景が残っていました。 「早く訪問看護に行きたい」と漏らした彼女に、先輩は「まだ早い」と答えたそうです。それでも中田さんは歩みを止めず、2013年、満を持して訪問看護の世界に飛び込まれました。 訪問看護のやりがいと苦悩、その先にある確信 訪問看護ステーション憩に入職してからの中田さんは、まさに現場の最前線に立ち続けてこられました。 「うちは終末期や難病の方が多いステーションなんです。だから、すごく大変な場面もたくさんありました」。 例えば、最期まで自宅で過ごしたいと願う利用者さまと、その思いに不安を抱くご家族。両者の気持ちの間で、看護師としてどのように関わればよいのか――。 「正直、簡単なことではありません。でも、その“橋渡し”ができたとき、ご本人もご家族も“おうちで過ごせてよかった”って言ってくださるんです。その言葉をいただける瞬間が、私たちにとってのご褒美なんです」。 瓦礫の中で暮らす認知症の高齢者に寄り添い、ケアマネジャーやヘルパーと一緒に環境整備から支援する――。訪問看護の現場では、「看護師の仕事」の枠を超えた支援が日々行われています。 「誰かにとって“その人らしく生きられる環境”を一緒に作っていく。その面白さと尊さが、この仕事にはあると思っています」。 「うちの強みは働きやすさです」とお話される中田さん 「人を支える」チームの力と憩の多職種連携 訪問看護というと「一人で訪問して一人で判断する」イメージがあるかもしれません。しかし、訪問看護ステーション憩のスタイルは違います。中田さんはこう話します。「うちは本当にチームでやってるんです」。 憩には看護師だけでなく、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのセラピストも多数在籍。多職種で構成されたスタッフが連携して、一人の利用者さまを支えています。 「ITツールで情報共有はしていますが、それだけじゃ足りないんです。だから月1回の定例カンファレンスに加えて、普段の雑談の中でも自然にカンファレンスみたいな会話が生まれる。顔を合わせるって、やっぱり大事なんですよね」。 事務所移転後、看護とリハが同じ空間で働くようになったことも、連携の密度を高めた要因のひとつです。中田さんは「雑談の中から、ケアのヒントが生まれることもある」と話します。 さらに、外部との連携も視野に入れています。ケアマネジャー向けの勉強会開催を通じて、顔の見える関係づくりを目指しているそうです。 スタッフが語る「働きやすさ」の秘密 訪問看護ステーション憩では、「働きやすさ」が自然と根づいていると言います。中田さんは、その理由をこう話してくださいました。 「子育て中のスタッフも多いので、“お互い様”の精神がすごく強いんです。誰かの子どもが熱を出したら、みんなでサポートしようっていう雰囲気があって。だから休みも取りやすいし、気持ちよく働ける環境なんです」。 育児や介護といったライフイベントへの理解も深く、「男性スタッフが育児休暇を取ることも珍しくない」とのこと。「“奥さんが休めないので今日は僕が”って自然に言える雰囲気があるんです」と語る中田さん。ジェンダーにとらわれず、誰もが無理せず働ける環境は、まさに現代型の働き方といえるでしょう。 実際、スタッフ同士が紹介し合って入職するケースが多く、「人が人を呼ぶ職場」という言葉がぴったり当てはまります。「うちの強みは“働きやすさ”です!」とSNSに投稿していたスタッフの一言に、中田さんは心から嬉しかったと話してくれました。 また、働き方の柔軟性も魅力のひとつです。車は法人所有のリース車を使用し、自家用車の持ち出しは必要ありません。さらに、エリアによっては直行直帰も可能となっており、訪問後は自宅に戻って記録するなど、効率的な働き方が浸透しています。 「“無理をしないで続けられる”ことが、一番大切だと思っています。家庭も仕事も、どちらも大事にしてほしい。そんなふうに思っています」。 この考え方こそが、多くのスタッフにとっての安心感になっているのかもしれません。 訪問看護ステーション憩のスタッフさん。とても温かい雰囲気です。 利用者の“自分らしさ”に寄り添う看護とは 中田さんが訪問看護を通して大切にしているのは、「その人が“その人らしく”生きられる環境を支えること」です。 「たとえ認知症が進行していても、ご本人の中に“家で暮らしたい”という気持ちがあるなら、できるだけその思いを尊重したいと思うんです。『一人じゃ無理だから施設に』ではなく、どうしたら家で過ごせるかを、みんなで考える。そんなスタンスを大切にしています」。 そのために、看護師が一方的に“こうするべき”と決めるのではなく、リハビリスタッフやケアマネジャー、ヘルパーと一緒に、利用者とご家族の「これからの暮らし」を描いていく。その姿勢が、訪問看護ステーション憩の看護には根づいています。 「たとえば、最期まで家で過ごしたいと願う方に対して、ご家族が“本当に自宅で看取れるの?”と不安を抱かれることもあります。そんなときこそ、私たちがそっと寄り添って、“大丈夫、一緒にやっていきましょう”と声をかける。それだけで、ふっと表情が和らぐんですよ」。 その言葉の端々に、相手の立場に立って物事を考える中田さんらしさがにじんでいました。 地域と未来へ――広がる憩のビジョン 訪問看護ステーション憩は現在、宝塚市内を中心にサービスを提供していますが、近年は少しずつ活動エリアを広げています。山手の地域にはサテライト拠点も開設し、伊丹市、西宮市や三田市にも対応を始めています。 「“憩の看護”を、もっと多くの地域に届けていきたいという思いがあるんです。そのためには、やっぱり人材が必要になります」。 採用においても“まずは見学だけでも”という敷居の低さを大切にしています。「興味がある方には、“見学や同行訪問だけでも”とお伝えしています。いきなり面接じゃなくて、まずは一緒に現場を感じてもらうのが一番ですから」。 訪問看護ステーション憩の未来には、“仲間とともに育つ文化”がしっかりと根づいています。 中田さんは、これから訪問看護の道を歩もうとする人たちに向けて、こう語ってくれました。 「最初は誰でも不安です。でも、うちは必ず先輩スタッフとの同行訪問を重ねながら、一歩ずつ慣れていただきます。いきなり一人にすることは絶対にありません。本人の希望と成長に合わせて、じっくりと見守ります」。 オンコールに関しても、「慣れるまでは二人体制でフォローしています」と中田さん。負担にならないよう、タイミングもその人ごとのペースに合わせて調整されているそうです。 教育支援の一環として、イーラーニングや外部研修費の補助制度も整えています。「学びたい」と手を挙げたスタッフには、レポート提出を条件に法人が費用を負担するという形です。 「楽しく、でもしっかりと。学び続ける文化がある職場は、やっぱり強いんです」。 中田さんの言葉に込められたその姿勢が、これからの訪問看護ステーション憩をより温かく、より確かな存在へと育てていくのだと感じました。 中田さんが見据える“これから”は、決してステーションの拡大だけにとどまりません。 「医療職って、ちょっと敷居が高いと思われがちなんですよね。“何か言われそう…”とか、“怖そう…”とか。だからこそ、“私はゴールデンレトリーバーです”ってよく思っているんです(笑)」。 相手の緊張を和らげ、構えずに関われる存在でありたい――。そんな思いは、地域に向けたアウトリーチ活動にも表れています。 地域への貢献と人材育成――その両輪を回すために、中田さんたちは新たな取り組みも始めています。たとえば、ケアマネジャー向けの事例検討会や勉強会を開催し、医療と介護の垣根を越えた連携づくりに力を入れています。 インタビュアーより 「私はゴールデンレトリーバーを目指してるんです」と笑う中田さんの話には、終始あたたかさと謙虚さが溢れていました。そしてそれは、ご本人だけでなく、訪問看護ステーション憩という組織そのもののあり方にも深く反映されているように感じました。 働くスタッフが、「この場所でなら頑張れる」と心から思えること。利用者さまやご家族が、「この人たちになら任せられる」と安心できること。そして、地域の関係者が「一緒にやっていきたい」と自然に思えること。 そのすべてが揃ったとき、“人が人を呼ぶ職場”が生まれるのだと、訪問看護ステーション憩のインタビューを通して改めて実感しました。 事業所概要 事業所名: 訪問看護ステーション 憩 所在地: 兵庫県宝塚市寿町9-5 アクセス: JR中山寺駅 徒歩10分/阪急売布神社駅 徒歩15分 開設: 2006年 職員数: 看護師12名、リハビリスタッフ11名、事務2名(2022年時点) 特徴: 終末期・難病対応/多職種連携/教育支援あり/直行直帰OK Web: https://nisitanikai.jp/ 見学対応: 随時受付中(面接前でもOK) 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/16501 NsPaceCareer 記事提供:NsPace Careerナビ編集部 NsPace Careerナビでは、今回の記事のほかにも多数の事業所情報や役立つコンテンツを掲載しています。ご興味のある方はぜひこちらもご覧ください。サイト: https://ns-pace-career.com/media/

11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介
11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介
特集
2025年10月7日
2025年10月7日

11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介

2025年11月29日(土)、30日(日)に開催される予定の「第15回日本在宅看護学会学術集会」。ウインクあいち(愛知県/JR名古屋駅より徒歩5分)で開催され、オンデマンド配信も行われます。テーマは、「社会インフラとしての在宅看護~在宅看護は、社会を変えられるのか?~」。今回は、学術集会長の藤野 泰平氏に見どころをご紹介いただきます。 執筆:藤野 泰平第15回日本在宅看護学会学術集会 学術集会長名古屋市立大学看護学部卒業後、聖路加国際病院に入職。訪問診療クリニック、訪問看護ステーションの勤務を経て、2014年11月に株式会社デザインケア・みんなのかかりつけ訪問看護ステーションを設立。日本看護管理学会 看護の適正評価に関する検討委員会副委員長、一般社団法人日本男性看護師会 共同代表、オマハシステムジャパン理事、東京大学、慶應義塾大学非常勤講師などを歴任。 【社会インフラ】というテーマに込めた思い 今や、訪問看護がないと家に帰ることができない人も多いと思います。それは、田舎でもそうでしょうか?  令和に入ってからの調査によると、訪問看護ステーションのない市区町村は全国で約25%1)あります。こうした地域では家に帰れず、病気になると家族や友人と離れ離れの生活を余儀なくされる人が多くいます。読者の中にも、「家に帰りたかった」という家族の思いを叶えられず、悲しい思いをした人もいらっしゃるのではないでしょうか。 私の故郷の景色 瀬戸内海の島で生まれた私もその一人です。日本中どこに住んでいても、電気・ガス・水道が整備されているのと同じように、必要なケアが当たり前に受けられる社会には、訪問看護が欠かせないと考えています。だからこそ、学術集会のテーマにもあるように、私は訪問看護を「社会インフラ」と表現しています。 また、孤独死が年間約2万人いる2)ことから、都市部であっても、ケアにつながる人は恵まれているのかもしれません。 今回目指していた2025年を迎え、これから2040年に向けて、日本中どこにいても必要なケアを受けられること、そしてどんな疾患や家族構成、どんな環境であっても、「住みたい場所で、住みたい人と、幸せに生きる」ことを支える訪問看護の価値を、市民の方に提供したいと考えています。そのために何ができるのかということを、参加者の皆さんと各セッションを通じて考えていけるような会にしたいと思っています。 日本在宅看護学会 理事長の山田雅子先生と 少子高齢化の中でも、人がいきいき、力を発揮できる環境を創る 少子高齢化が進む中で、少ない人数で多くの人を支えることになります。そのため、一人の医療職が、環境に左右されずに持っている力を発揮できることや、さらに力を高めることが重要となると思います。 シンポジウムの中でも、以下の3つはまさにそのような、人が力を発揮し成長できる環境やしくみづくりにフォーカスを当てたものになります。 ・シンポジウム1「在宅ケアの未来を創る(担う)実践者をどう育てるかー多様化する現場と学びの接続を考えるー」日本における在宅看護の「いま」と「これから」を見据え、現場で活躍する看護師、大学等の教育者等と、現場の実践と教育・育成の接続について多角的に検討する予定です。・シンポジウム4「訪問先でのカスハラにどう向き合うか~スタッフを守るための対策を考える~」多くの学会等でご講演をされている、武ユカリ先生と、実践者、管理者、弁護士の先生に、カスハラの対応方法について具体的な挑戦を話していただきます。・シンポジウム7「人が辞めずに、いきいき育つ! 心理的安全性の高い組織の創り方」『25の事例から学ぶ 看護のための心理的安全性』(弘文堂)を執筆された、秋山美紀先生にも登壇いただき、看護職が幸せに働けるように、「心理的安全性・ウェルビーイング・ポジティブ心理学」を中心に据えた看護管理、看護実践の提案を行ってもらいます。 ケアをする我々も人であるため、環境によって、パフォーマンスの程度は変わってしまいます。チームで助け合える、言いたいことを言える心理的安全が高い組織を目指し、力が発揮できる環境を創ることが、少子高齢化が進む日本の未来を考える上で必要不可欠だと考えています。 想像力を発揮し、今苦しんでいる人と、未来をイメージすること 我々は、世の中のすべてを見ているわけではなく、「選択的注意(Selective Attention)」といって、興味があることなどに目がいきやすいといわれています。 人によっては、知らないこともあると思います。例えば、訪問看護がない地域で処置が必要な人がどう暮らしているか、災害になった地域での1日はどのように流れているのか、災害を経験した人と経験してない人の想像力の違い、直接ケアを提供しない職種の人が社会課題をどう考えているか、在宅看護CNS(Certified Nurse Specialist:専門看護師)が政治家になる覚悟などです。 知らなければ想像できないこれらの情報は、「選択的注意」の観点から、頭に入りにくいこともあるでしょう。ただ、未来を創る当事者である我々にとって、想像することはとても大切なこと。だからこそ、そういった思いを持つ演者の先生からお話をうかがい、我々の視野を広げ、想像力を共に育てていきたいと思っています。 各セッションでは、訪問看護の質向上、災害時の備え、人口減少社会での看護の役割、技術革新と多職種連携など、未来を形づくるために欠かせない幅広いテーマも取り上げます。いくつかのシンポジウムをご紹介しましょう。 ・シンポジウム2「訪問看護の質向上に向けた評価指標の標準化のための研究:長寿科学政策研究事業からの報告」研究者の皆さんが質を上げるアプローチについてどう考え、日々努力をしているかを知ってほしいと思っています。・シンポジウム3「南海トラフ地震・複合災害に備える愛知・東海:BCP進化・名古屋モデル・仲間づくりで築く在宅ケアのレジリエンス」南海トラフ地震がいつ起きてもおかしくないと考えられています。災害経験者も含めて、どういうことを準備し、行っていけばいいかを、机上でBCPを作成するだけではなくて、より自分ごとになるようなコンテンツを用意しています。・シンポジウム5「”減る”社会でも、看護でつなぐー支え合う持続可能なケアとは」人口減少と超高齢化が進行し、在宅ケアの前提条件が大きく変わっていく中で、家族の介護力の低下、独居高齢者の増加、医療・介護分野における人材不足といったさまざまな課題があります。看護職は単なる医療提供者の枠を超え、「人と人」「人と地域」「人とテクノロジー」をつなぐ存在として、新たな役割について考えます。・シンポジウム6「今起きている技術革新から紐解く、「自分らしく生きる」を実現するための連携」利用者様に寄り添い声を聴いてきた看護師だからこそ、「今ここ」の支援に応える多職種連携と、「これから」の暮らしを創る連携の両面が重要です。メディア、企業、大学、政治などの人々とも手を取り合うことで、目の前の利用者様のニーズにこたえるだけでなく、誰もが「自分らしく生きられる社会」という未来を共に創っていくことを考えていきたいと思っています。 そのほか、未来を創造するために、臨床倫理の観点や、CNSかつ政治家の立場の方の思いを、講演を通じて知っていただくことで、参加者の皆さんの想像力を一層高める機会になるはずです。 想像力を高めることは、ケアを十分に受けることができない地域の人々の状況を理解することにもつながります。未来を創る当事者の一人として、より一層アクションを起こしていけるのではないかと思っています。 「学会」というツールとは。 学会に参加したことがないという人もいらっしゃるかもしれません。私の思いとしては、20代30代の学会に参加したことがない人も参加していただきたいと思っています。なぜなら、今20代の看護師さんは、2040年に35歳から45歳くらいになり、未来の日本を支え、課題を解決する中心的な人となっていると思うからです。私も20歳くらいから学会に参加をしていて、視野を広げさせてもらい、成長させてもらいました。だからこそ、今の自分があると思っています。学びを加速するという意味で、あまり学会に参加したことがない、若手にもぜひ参加してほしいと思います。 学術集会の企画委員会の皆さんと。少しでも良い学術集会にすべく、絶賛検討中です! また学会は、実践の発表や対話を通じて、価値観やスタンスを磨く絶好の場でもあります。若手だけではなく、病棟の看護師も含めて、在宅看護に関わる全ての方に、参加していただき、未来を創る当事者として、大いに語り合い、学び合いたいと思っております。ぜひ名古屋にお越しいただけると嬉しいです!よろしくお願いします。 2025年11月29日(土)、30日(日)開催の「第15回日本在宅看護学会学術集会」にご参加希望の方は、学術集会ウェブサイトよりご登録ください。また、学術集会の1日目終了後には、懇親会も開催されます。ぜひあわせてご参加ください。・学術集会への登録はこちら 第15回日本在宅看護学会学術集会 ウェブサイト・11/29・30開催「第15回日本在宅看護学会学術集会」に協賛!懇親会も開催 編集:NsPace編集部 【参考】1)一般社団法人 全国訪問看護事業協会「アクションプラン 2025 評価チーム」「訪問看護アクションプラン2025の最終評価(案)」(令和4年11月)https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/evalulation.pdf2025/10/2閲覧2)内閣府.「孤立死者数の推計方法等について ~「警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者」をもとに~「孤独死・孤立死」WG取りまとめ」https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/wg/r6/pdf/houkokusyo.pdf2025/10/2閲覧

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
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2025年10月7日
2025年10月7日

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」(2025年6月20日開催)では、医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生を講師にお迎えし、訪問看護業界のハラスメントの実態や、講じるべき対策について教えていただきました。セミナーレポート後編では、具体的なカスハラ対策についてご紹介します。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国 Canisius 大学で MBA 取得。看護 DX や医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラ対策は組織の責務 訪問看護現場におけるカスハラに対しては、訪問看護ステーションや経営者が対策を講じる必要があります。 2020年6月には、厚生労働省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して、雇用管理上講ずべき措置等についての指針」で、事業主が職場全体で対策を進めるべきという告示を出しました。 また、労働安全衛生法の第69条には「労働者の健康の保守増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければいけない」と定められており、労働契約法でも「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な考慮をする」という安全配慮義務が規定されています。事業所の規模を問わず、暴力・ハラスメント対策は、事業主や管理者の義務なのです。 事業所で講じるべきカスハラ対策 適切なカスハラ対応ができる体制・しくみ作りのため、まず必要なのは「カスハラをカスハラとして認識する」こと。現時点では「嫌な気持ちになったら報告する」という当たり前の行動ができていないことを理解し、「これってハラスメントなのでは?」という段階で声を上げられるしくみ作りを目指してください。そのために、まず事業所内で暴力・ハラスメントの定義を理解しておく必要があります。(暴力・ハラスメントの定義については前編「訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度」参照) 上記をふまえ、以下のような体制・しくみを構築しておけば、発生後の対応で難しいとされる「速やかな指示」もできるはずです。 適切に警察に連絡できる体制 暴力をふるう、襲いかかる、凶器を持ち出すといった、暴行・傷害につながる事案は、警察に相談しなければなりません。いざというときに躊躇しないために、事前に警察へご挨拶に伺っておく、関係機関との協力体制を確認しておくのがおすすめです。また、警察に連絡する基準を明確にし、一人ひとりが認識することも必要でしょう。警察への相談窓口「#9110」では、緊急性のないトラブルや不安にも対応してくれます。 利用者さんとの関係の悪化を心配して通報を控えていると、カスハラは止まらず、悪循環を招きます。その利用者さんを担当する事業所が変わった場合、被害者はさらに増えるでしょう。訪問看護業界からの人材流出という問題にもつながるので、通報する勇気をもってください。 なお、こうしたしくみ作りは、利用者さんと訪問看護師がよい関係を築き、質の高い看護を提供していくためのものです。その想いと対策の内容を利用者さんやスタッフに伝え、みんなで理想的な関係を作っていくことが重要です。 被害者の心情に配慮した対応 ハラスメントが発生した際、スタッフへの最初の指示は「逃げて」です。スタッフが身の安全を確保できたら、客観的に問いかけて被害状況を記録していきます。 当たり前ですが、悪いのはハラスメントをした人間です。すべてのハラスメントは、被害者の尊厳や自尊心を傷つけるもの。被害者にはしっかりと「あなたは何も悪くない」と伝えてください。 そして被害者となったスタッフには、心理的ケアが必要です。状況に応じた受診方法を定めた上で事務所全体に共有し、それに則ってサポートしましょう。なお、被害状況によっては労災に該当することもあるため、医師に診断を受けるのは重要です。 また、継続的にケアを続けるのもポイント。時間が経ってから精神的な後遺症が表れることもあるので、管理職を中心に事業所全体でケアをしてください。専門家によるカウンセリングが受けられるしくみを用意しておくのもおすすめです。 さらに、被害を受けたスタッフが十分な休息をとれるよう、早退や休暇の取得ができる体制も必要です。なお、休むことで収入が減るという状況だと、カスハラは隠蔽する方向にイニシアティブが働きます。体制づくりの際にご注意ください。 二次被害になりやすい言い方の例と改善方法 ハラスメントへの対応時に意識したいのが、二次被害の防止です。「なぜすぐに相談しなかった?」「なぜ利用者を怒らせた?」といった「Why don’t you~?」型の言葉で原因追及をするのは、傷つけや行動否定といった二次被害につながるため、あくまで状況の整理に徹しましょう。気をつけなければならない点を洗い出すまでで終わりにしてください。 また「飲んで忘れよう」「遊んで気晴らしをしよう」といった逃避行動をすすめるのも二次被害につながります。事実から目をそらさず、問題を丁寧に取り扱っていきましょう。 感受性を高める実践的対策 カスハラ対策には、スタッフ一人ひとりの「暴力・ハラスメントへの感受性」を高めることも重要です。ポスターを貼って理解を促す、勉強会や研修を行うなどして、感受性を高めてください。ポイントは、定期的に行うこと。これまでのキャリアの中で培われた価値観は根強く、ハラスメントの定義を誤って認識していると簡単には正せないので、継続的なアプローチが必要です。 それから、「相談」をしやすいしくみ作りも求められます。相談ができるようになると連絡、やがては報告もできるようになっていくので、まずは嫌な思いをしたときに気持ちを話す習慣をつけられるようにしてください。 また、通報ツールや防犯グッズをスタッフに配布するのも効果的。カスハラが起こったときに録音や警備会社への連絡ができる商品があります。カスタマーハラスメント防止対策推進事業の奨励金や、地域医療介護総合確保基金の補助などの支援策もあるので、ぜひ活用してください。 * * * 看護師の笑顔は利用者さんの笑顔を、利用者さんの笑顔は家族の笑顔を、家族の笑顔は地域の笑顔を生むと私は考えています。看護師の笑顔を守ることは、たくさんの人々を笑顔にする第一歩。ぜひ一緒に看護師の笑顔を作っていきましょう。 【講師・坪田 康佑さんよりコメント】2025年9月30日、私が理事を務める二団体が、東京都産業労働局より「カスタマーハラスメント対策団体」として認証されました。今後は東京都の予算を活用し、相談窓口の設置や啓発活動を進めてまいります。専用サイトなども準備中ですので、何かありましたらお気軽にご連絡ください。・一般社団法人日本男性看護師會 代表理事 https://nursemen.net/・一般社団法人訪問看護支援協会 理事 https://kango.or.jp/ 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和 2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/9/4 閲覧〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第 14 回学術集会(2024 年 11 月 17 日),配布資料.〇三木 明子 監修・著:訪問看護・介護事業所必携! 暴力・ハラスメントの予防と対応,メディカ出版,2019〇日経ヘルスケア著・編:患者トラブル解決マニュアル,日経BP出版センター,2009

訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】
訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年9月30日
2025年9月30日

訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】

2025年6月20日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」を開催。医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生に、訪問看護における暴力・ハラスメントの実態や対策について伺いました。セミナーレポート前編では、カスハラの基礎知識や、現場が抱える課題などをまとめます。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国Canisius大学でMBA取得。看護DXや医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラの定義と分類 訪問看護現場でのカスハラについて考えるにあたり、最初に「暴力、ハラスメントの定義」を明確にしておきましょう。 【身体的暴力】身体的な力を使って危害を及ぼす行為。実際に触れていなくても、拳を上げた時点で身体的暴力に該当します。 例叩かれる、つねられる、爪で引っかかれる、ものを投げられる、唾を吐かれる、背後から蹴られる 【精神的暴力】個人の尊厳や価値を言葉によって傷つけたり、貶めたりする行為。 例強い口調や大きな声で文句をいわれる、人格を否定される、理不尽なクレームで長時間拘束される 【セクハラ】性的な誘いや嫌がらせ、好意的態度の過度な要求など。 例体に触れられる、卑猥なことをいわれる、(訪問看護師の)身体的な特徴を話題にする、(利用者さん自身の)陰部を触るように要求される 新潟県はハラスメントを「暴言型」「暴力型」「時間拘束型」「リピート型」「SNS/インターネット上での誹謗中傷型」などの9つに分類し、対策を定めた「ペイシェントハラスメント対策指針」を発表しました。「ペイシェントハラスメント」と明記された行政文書は、これが初めてです。都道府県を越えて活用できる内容なので、ぜひ参考にしてください。 ハラスメントの定義に「原因」は含まれない カスハラが起こったとき、管理職が被害を受けたスタッフ側のサービスや態度、または利用者さんの病気に原因を探してしまうケースはよく見られます。しかし、ハラスメントの定義に原因は含まれません。原因に関係なく、「ハラスメントがあった」のであれば、その事実を否定してはいけません。再発防止に向けた検討を行いましょう。 訪問看護現場におけるカスハラの実態 2019年に行われた全国訪問看護事業協会の調査では、訪問看護師の45%が「身体的暴力」を、53%が「精神的暴力」を、利用者さんやその家族から受けたことがあると答えています。また、セクハラを受けた方の割合も48%に上りました。 さらに、2020年に福岡県の訪問看護ステーションを対象に実施された実態調査では、訪問看護師の約40%が、利用者さんやその家族などから暴力を受けた経験があることが明らかに。しかも、そのうちの半数は「1年以内」に暴力を受けています。現場でのカスハラは、「過去」ではなく「今」起こっているのです。 訪問看護業界では早急に対策を講じ、スタッフを守っていかなければなりません。 「声を上げられない」現場の空気 多くの訪問看護師がカスハラを受けているにも関わらず、被害の声が上がりにくいという現状もあります。その一因となっているのが、以下のような被害者の心理的背景です。 被害者の心理的背景・痛みはあったが、ケガには至らなかった・私のかかわり方が悪かったのかもしれない・管理者に説明するのは気が進まない・ことを大きくしたくない・利用者さんのために我慢しよう・認知症の方だから仕方がない こうした自責思考や「利用者さんのためを思っての選択」が、訪問看護現場のカスハラをなかったことにしてきました。しかし、起こった事案はきちんと共有し、対策を考えていかなければなりません。また、管理者は「声が上がらない=問題は起きていない」と捉えず、背景を考慮して「声を上げられる環境づくり」に取り組む必要があります。 訪問看護のハラスメント相談率は、訪問介護よりも低い 相談の意志という観点では、訪問看護のほうが訪問介護よりもハラスメントに関する相談率が低いことが厚生労働省の調査でわかっています。ハラスメントについて「些細な内容でも相談した」と回答した人の割合は、訪問看護は40%を下回りました。「ハラスメントを受けた際に、内容によっては相談した」という回答を含めてやっと80%を超える状況で、ハラスメントを受けても相談しなかった人が約20%もいます。 相談しない理由は、「利用者やその家族に病気、障害があるから」との回答が約半数を占めました。続いて「自分自身でうまく対応できていたから」が約34%、「問題が大きくなると面倒だから」が約16%となっています。 「利用者さんは病気だから」と考えない 「精神疾患がある方のほうがカスハラを起こしがち」と考える方は少なくありませんが、精神科とそれ以外の訪問看護での暴力発生率を比べると、精神科以外のほうが多いことがわかっています。精神疾患だから、認知症だからと考えず、カスハラへの感受性を高め、きちんと対策を講じなければなりません。 国や警察の取り組み カスハラに対する国の取り組みとして、厚生労働省は2021年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表しています。 また2022年6月には、警視庁から各都道府県警に対して医療機関との連携を推進するよう促す通知が出されました。これを受けて警察では、医療機関や医師会からの通報・相談は関係部門で連携し、必要に応じて助言・対応・検挙などを行う体制の整備が進められました。さらに2024年2月には体制強化を明記した再通知が出されており、医療従事者の安全を守るため、的確かつ確実な対応に努める構えです。 ここで重要なのが「警察に電話する」ことが即「逮捕」につながるわけではないことです。生活安全部門も関わりながら、指導や助言などの対策をしてくれます。必要なときは躊躇せずに相談してください。 次回は事業所で講じるべき具体的なカスハラ対策や被害者の心のケア、二次被害の予防などについて解説いただきます。 >>後編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇滋賀県・公益社団法人滋賀県看護協会: 訪問看護・訪問介護事業所における暴力・ハラスメント対策マニュアル.令和元年度滋賀県委託事業 訪問看護師・訪問介護職員安全確保・離職防止対策事業. 2020.〇新潟県 病院局業務課:新潟県病院局 ペイシェントハラスメント対策指針,令和6年5月https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/life/677384_2027172_misc.pdf2025/9/4 閲覧〇全国訪問看護事業協会:訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告,2019〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第14回学術集会(2024年11月17日),配布資料.〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/7/31閲覧〇厚生労働省.:介護現場におけるハラスメントに関する調査研究(2019年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947359.pdf2025/9/4 閲覧〇厚生労働省:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル,2022https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf2025/9/4 閲覧〇警察庁:医療機関等との連携によるストーカー事案等の適切な対応について(令和6年1月22日付 警察庁丙企発第3号).https://www.npa.go.jp/laws/notification/2024iryoukikanrenkei.pdf2025/9/4 閲覧

その人らしさを支えたい~楽しく働ける職場環境づくり~わかちな訪問看護ステーション 佐藤さんにインタビュー
その人らしさを支えたい~楽しく働ける職場環境づくり~わかちな訪問看護ステーション 佐藤さんにインタビュー
インタビュー
2025年9月30日
2025年9月30日

その人らしさを支えたい~楽しく働ける職場環境づくり~わかちな訪問看護ステーション 佐藤さんにインタビュー

【PR】この記事はNsPace Careerナビ編集部が取材・編集しています。 介護の現場で長く従事されていた佐藤様。現在はわかちな訪問看護ステーションの管理者として、利用者さまへのサポートだけでなく、スタッフの皆さまが楽しく働ける環境づくりにも注力されています。 そんな佐藤様が訪問看護師の道に進むきっかけはどのようなものだったのでしょうか。これまでの経緯や今後のビジョンについてうかがいました。 介護福祉士から看護師へ。原点は利用者への想い 佐藤様:もともとは介護福祉士としてグループホームやホームヘルパーの仕事をしていました。介護の仕事が楽しくて、働いているうちに、利用者さんに対して「もっと何かしてあげられることを増やしたい」「医療面や生活面を支えたい」という強い想いをもつようになったのです。それが訪問看護師を目指した原点ですね。 看護師資格を取得するための勉強は大変でしたよ。 ですが、介護福祉士として働いてきた経験を、今度は看護師として利用者さんに還元するんだと自分を奮い立たせて頑張りました。 無事に看護師資格を取得してからは、1年ほど病棟で経験を積みました。病棟で働いているときも、生活面で患者さんを支えていきたいという想いはずっとありましたね。 ですから、病棟を1年経験してから、訪問看護の道へ進むことを決めました。 病院では内科病棟に勤務していたので、在宅の現場で活きる知識やスキルは身についていました。痰の吸引や経管栄養のスキル、フィジカルアセスメントなど……自宅に退院する患者さまへの支援も含め、病棟での経験は、今でも活きています。 曾田様:当ステーションの前任の管理者が退職したとき、当時スタッフとして働いていた佐藤さんに「管理者をやってみないか」と声をかけました。 佐藤さんより経験の長い看護師もいますが、佐藤さんの利用者さんへ関わる姿勢や看護が好きだという素敵な姿が、みんなに伝わっているんですよ。 だから「佐藤さんに頑張ってもらいたい、応援したい」という気持ちがスタッフみんなにあるんです。みんなの想いに佐藤さんも応えてくれ、管理者として頑張ってくれています。 佐藤様:私は看護師の経験が少ないので、訪問看護ステーションの管理者にならないかと声をかけられたときは正直できる気はしませんでした。 実際、管理者になったときは本当に苦労して、自分の知識や技術不足で壁にぶつかることがたくさんありました。手探り状態で始まった管理者業務でしたが、スタッフの皆さんの支えと、関わる利用者さんからもらったパワーでさまざまなことを乗り越え、今に至ります。 曾田さんが言ってくれたように、スタッフの皆さんが応援してくれていたのを知ったので、利用者さんのためはもちろん、一緒に働くスタッフの人たちのために頑張ろうという気持ちになりましたね。本当に感謝しています。 訪問看護の醍醐味や「わかちな訪問看護ステーション」の特徴をお話しいただいた佐藤さん 多職種の連携が職場の強み 佐藤様:当ステーションには看護師だけでなくリハビリスタッフも在籍し、ひとりの利用者さんに対して多職種で意見を交わしたり相談したりしながら、方向性を決めていく体制が整っています。 たとえば、だんだん状態が悪くなり寝たきりになった利用者さん。最初は看護のみの介入でしたが、状態に合わせてリハビリも訪問するようになったんですね。その利用者さんには、ベッド近くの自分のテーブルまで行き、ステーキを食べたいという希望がありました。 看護師とリハビリスタッフが協力しながら、利用者さんの目標に向けて進んでいく……そういった連携はステーション内でたくさんできますね。 「訪問看護は大変」というイメージをお持ちの方もいると思いますが、それは利用者さんの自宅に訪問して看護師ひとりで判断しなくてはならない場面を考えてのことがあると思います。 当ステーションでは入社後のフォロー体制が整っており、困ったことや不安なことがあればすぐに相談できますよ。ひとりでの訪問に自信がもてるまでは、先輩スタッフと一緒に訪問できるように調整しています。 医療の知識以外でも、自分の趣味や好きなことなどで利用者さんと話すきっかけになることもあり、医療従事者としてだけでなくひとりの人間として利用者さんと関われるので、とても楽しいと思います。訪問看護に興味のある方は、ぜひ当ステーションに来ていただけたらうれしいです。 地域との交流も大切に 佐藤様:現在は、当ステーションの利用者さんだけでなく、地域の方々との交流を深めることにも注力しています。たとえば、他事業所に声をかけていただいた勉強会や研修に参加したり、地域のお祭りに参加したりしていますよ。 最近では、訪問診療クリニックの先生主催の夏祭りに参加させていただきました。そこでカホンという打楽器を演奏したのです。 地域の住民の方々や関係事業者の方々と顔を合わせられ、とても素敵な機会をいただきました。これからも地域のイベントには積極的に参加したいと思っています。 利用者さんのしたいことを叶えるため、スタッフ同士情報共有も大切にしています。 「その人らしさ」をサポートする存在を目指して 佐藤様:今後は、利用者さんの「〇〇がしたい」という希望をどんどん引き出して、積極的にサポートしていきたいです。それには利用者さんとの信頼関係づくりも大切ですね。 先ほどの「ステーキをテーブルで食べたい利用者さん」を例にしていえば「ステーキをテーブルで食べる」ということは普段の生活では当たり前にできることですよね。 看護師や医療者としてだけでなく、医療的な処置以外のところで「本来なら当たり前にできることだけど難しいこと」を利用者さんからの言葉から拾って、積極的に実行できたらいいなと思っています。 利用者さんの希望を叶えるには、もちろん企画や準備は大変だと思います。ですが、利用者さんが普段の生活のなかで楽しめることを実現したいのです。今後は、当ステーションでできることを発信したり、利用者さんの声を積極的に拾っていきたいと思っています。 曾田様:過去にはディズニーランドが好きな利用者さんのご希望を実現し、一緒にディズニーランドに行ったことがあるんです。普通に行くのが難しい状況のなかで「どうやったら実現できるか」を考えるのを当ステーションでは大事にしています。 できないことを挙げるとたくさんありますが、実現する方法を探したり、ディズニーランドに問い合わせたりして、スタッフ全員で取り組みました。 結果的に、佐藤さんが同行し、ディズニーランドに利用者さんをお連れすることができました。そういった経験があるので「当たり前の日常の中で、利用者さんができなかったことを実現すること」だけでなく「一度やってみたかったこと」や晴れの日などイベントの希望を叶えられたら嬉しいですね。 インタビュアーより 自宅で過ごす利用者様を支えたいという熱い想いから看護師資格を取得された佐藤様。利用者様を支えることが何より楽しいと話される姿が印象的でした。職場全体の雰囲気が温かく、スタッフの皆さんがひとつになって利用者様を支えていくという姿勢がとても素敵なステーション様です。訪問看護に興味をお持ちの方は、ぜひお問合せください! 事業所概要 わかちな訪問看護ステーション(東京都八王子市) 住所:東京都八王子市浜衛2-3-9エスポワール203 運営方針・理念:利用者の心身状態に応じた適切な訪問看護のサービスを、24時間体制で提供します。訪問看護のサービス実施にあたり、サービス従事者の確保・教育・指導に努め、利用者個々の主体性を尊重して、地域の保健医療・福祉など関係機関との連携により、総合的な訪問看護のサービス提供に努めます。 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

第7回 日本在宅医療連合学会大会の舞台裏と2040年に向けての展望【学会レポート】
第7回 日本在宅医療連合学会大会の舞台裏と2040年に向けての展望【学会レポート】
特集
2025年9月16日
2025年9月16日

第7回 日本在宅医療連合学会大会の舞台裏と2040年に向けての展望【学会レポート】

第7回日本在宅医療連合学会大会は、2025年6月14日(土)・15日(日)に出島メッセ長崎にて開催されました。テーマは、「在宅医療の未来を語ろう。~2025年問題に向き合い、2040年に備える~ 長崎から全国へ」です。本記事では、石垣 泰則氏(日本在宅医療連合学会 前代表理事)のインタビューと、学会大会のプログラムのレポートをお届けします。 ※本記事は、2025年6月時点の情報をもとに制作しています。 石垣 泰則氏インタビュー 2025年6月に開催された第7回日本在宅医療連合学会大会では、医師、看護師、リハビリ職、介護士、ケアマネジャー、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー(MSW)など、数多くの職種の方々が参加していました。行政や企業などとも連携した多様な各地域の事例が共有され、ハラスメントにまつわる問題やICT利活用をはじめ、対応を急ぐべきテーマについても活発な議論が行われていました。 ここでは、前代表理事(~2025年6月12日)である石垣 泰則氏に、学会大会の舞台裏や、訪問看護の皆さまに知っていただきたいポイントなどを伺いました。 石垣 泰則氏日本在宅医療連合学会 理事(前 代表理事)/医療法人社団悠輝会 コーラルクリニック 院長 ―在宅医療連合学会大会のプログラム選定や準備はどのようにされているのでしょうか。 多職種連携や災害対応、教育・人材育成などは重要性が高いため、毎年継続的にプログラムに組み込むようにしています。一方、大会長が独自に選定するテーマもあり、今年は「2025年問題・2040年問題」がそれにあたります。運営は大会長や運営委員会に一任されていますが、過去の大会長も委員として参加し、経験・ノウハウを共有しています。会場の確保なども含めて、準備期間は通常4~5年です。 在宅医療連合学会は、医師が中心だった「日本在宅医学会」と、病院医師と在宅多職種が中心だった「日本在宅医療学会」がその名のとおり連合してできた学会で、学会大会にも幅広い職種の方々にご参加いただいています。運営委員会にも若手からベテランまで、在宅医療の分野で活躍する多職種の方々が集まっており、皆さんに有意義な時間を過ごしてもらうべく、丁寧にテーマを検討してくださっています。 ―今回の大会ではサブテーマの中に「長崎から全国へ」という言葉が入っていますが、訪問看護師の方々に特に知ってほしい取り組みなどはありますか? 長崎は在宅医療先進地域で、「長崎在宅Dr.ネット」や「あじさいネット」といった多職種連携のしくみが整っています。病院と診療所、医師同士の連携もしっかりしており、訪問看護師にとっても、非常に働きやすい環境といえるでしょう。こうした長崎の事例を多くの方々に知っていただき、各地域で連携を進める際のヒントにしていただきたいです。 ―訪問看護師さんたちへのメッセージをお願いします。 訪問看護は在宅医療の大きな推進力です。ぜひ、皆さんも日本在宅医療連合学会に参加いただき、声を大にしてアピールしてください。2026年は、札幌市(北海道)で第8回大会が開催されます。大会長の大友 宣先生がユニークな企画を数多く計画しており、SNSでも随時情報を発信していく予定ですので、ぜひご覧になってください。オンデマンド配信もありますが、ぜひ現地に集ってface-to-faceで話し合い、学び合いましょう。 また、日本在宅医療連合学会では、今年度に在宅医療における特定研修終了看護師の活用ガイドの作成を委託されています。我々も、訪問看護師の皆さんが一層活躍できるよう、尽力していきます。 第7回日本在宅医療連合学会大会 ピックアップ紹介 シンポジウム「医療依存度の高い患者様、これで安心して引き受けられます」 座長 中田 隆文氏(マリオス小林内科クリニック)座長 中山 優季氏(公益財団法人東京都医学総合研究所難病ケア看護ユニット) 在宅医療において、医療的ケア児や神経難病患者等、医療依存度の高い患者さんへの対応が求められるケースが増えており、特に在宅呼吸管理・ケアは呼吸器疾患以外の対象者の増加や機器の多様化が進み、受け入れに悩む場面が多いでしょう。本シンポジウムでは、患者さんの「やりたいこと」「したい暮らし」を実現するための支援のヒントが数多く提供されました。 どこにいても気道クリアランス法が実施でき、安全に呼吸ケアが行える環境づくりや、神経難病患者さん自身が主体的に生活を継続していくための支援のポイント、多機能型療養通所介護における支援の現状、栄養指導や舌トレーニングによる生活改善事例等が共有されました。 また、特に小児をサポートする制度・サービスは少ない現状があります。例えば、多機能型の療養通所介護を運営するにあたっては、「療養通所介護」「生活介護」「児童発達支援」「放課後等デイ」という4つの手続き・処理が必要になっているとのこと。こうした現場の実情を踏まえ、制度のアップデートの必要についても活発にディスカッションされました。 シンポジウム「長崎市の地域包括ケアシステムと多職種連携 20年の総括と検証」 座長 藤井 卓氏(藤井外科医院) 長崎在宅Dr.ネット 代表の藤井 卓氏 在宅医療先進地域である長崎の取り組みについて、これまでの約20年の歴史を振り返り検証するシンポジウム。長崎では、地域包括ケアシステムの構築に向けて、以下のような新しい取り組みを次々と行ってきました。 長崎の取り組み(一部)・長崎在宅Dr.ネット導入・あじさいネット導入長崎県内の総合病院の診療情報を、他の医療機関で活用できるしくみ・P-ネット(長崎薬剤師在宅医療研究会)導入訪問薬剤管理指導等にグループとして対応するしくみ。在宅診療所等からP-ネットの窓口に依頼すると、薬局・薬剤師が割り振られる・OPTIM(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)への参加 これらの取り組みを推進してきた医療者たちは、在宅医療自体がまだ一般的ではなかった頃から、まるで学校の部活動のように日々仕事後に集まり、「みんなと一緒ならできる」「失敗したらまた考えればいい」という思いを持って議論を重ねてきたとのこと。 「困っている人がいるならなんとかしたい」「医療者側の都合で病院から自宅に戻れない人を出したくない」と、一人ひとりの患者さん・利用者さんに真摯に熱く向き合ってきた事例も複数紹介されました。シンポジウム内では、多職種が集まって勉強会をしている様子や飲食している姿なども写真で投影され、施設や職種の垣根を越えて、顔の見える関係性を維持しつづけてきたことがうかがえました。 シンポジウム「この町で暮らし、最期まで、自分らしく活き、逝くことは、叶えられてますか?」 ~先駆者たちが語る、目指したいこと~ 座長 白髭 豊氏(白髭内科医院)座長 安中 正和氏(安中外科・脳神経外科医院) 過去に毎年シンポジウムが開催されていた「30年後の医療の姿を考える会」(会長 秋山 正子氏)。この会にゆかりのある方々からこれまでの取り組みの紹介が共有されるとともに、2040年に向けての展望がディスカッションされました。 随時事例を交えながら、秋山 正子氏の暮らしの保健室やお看取り支援の取り組み、市原 美穗氏のホームホスピスの運営や全国ホームホスピス協会の取り組み、宇都宮 宏子氏の在宅ケア移行支援の取り組みなどが共有されました。また、座長の安中氏からは、ZEVIOUS研究(在宅医療のアウトカムと質を「見える化」するための研究)の背景にもある在宅医療現場の質に対する課題感なども提示されました。 「最期まで自分らしく生きる」ことを支えるために、利用者・患者さんご本人に寄り添い、その人の人生や思いを聴くことの重要性。そして、在宅医療を提供する施設が増えて選択肢が多様になっているからこそ、ご本人の望む暮らしをサポートするためには地域のネットワークを構築して、ひとつのチームとして利用者・患者さんを支えていくことが必要であるというメッセージが語られました。 シンポジウム「あなたの地域が被災した時、助けに行きます ~助けて欲しい診療所あつまれ~」 座長 市橋 亮一氏(医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック 名駅)座長 佐々木 淳氏(医療法人社団悠翔会) 座長・HoMAT発起人の一人である市橋氏 本シンポジウムでは、災害時における医療福祉支援の新たな形としての「間接支援」や「広域BCP(事業継続計画)」のあり方について、能登半島地震での実体験などをもとに議論が行われました。 座長の市橋氏や佐々木氏は、被災地の災害関連死を阻止するための支援をするDC-CATの活動などと並行して、「外部支援者が日常業務を肩代わり」する間接支援の体制づくりを推進しています。市橋氏いわく「これまでの災害支援は、短期間の自発的支援が中心。業務の重複や混乱が発生しやすかった」とのこと。 「HoMAT」:https://homat.net/ HoMATは広域でのネットワーク連携により、災害時に被災の影響を受けていない地域が支援できる体制づくりを目指している。HoMAT派遣医療者は、災害対応に出向く医療者の地元の通常支援を代診する。上記ウェブサイトから登録可能 間接支援の取り組みは、2024年の能登半島地震の際にすでに実践されています。被災地に出向いた医療従事者の地元での診療を代行する体制は、災害特有の業務に集中できるため、持続可能で再現性が高く、有効であることが確認されています。 一方で、診療体制・デバイス・電子カルテ等が異なることによる戸惑いや支援者の体力的負担やストレス管理の難しさ、受援側の内部調整が必要だという課題も浮き彫りになったとのこと。実際に能登半島地震の支援に行った医師や、支援に行った医師の地元の診療を代わりに行った医師から、「受援力」の大切さや、平時からの関係性構築・双方向的人材交流の重要性等が共有されました。 交流集会「全国の看多機メンバー・興味のある方、みんな集まれ!」 座長 山崎 佳子氏(千葉県看多機連絡協議会) 左)千葉県看多機連絡協議会 会長 福田 裕子氏  右)山崎 佳子氏 本交流会では、千葉県における看多機(看護小規模多機能型居宅介護)の現状やメリット・デメリット、「千葉県看多機連絡協議会」設立の経緯、取り組み内容等が共有されるとともに、参加者がグループに分かれて、看多機における実践例や困りごと、悩みごと、疑問点等を語り合う場がもたれました。 看多機は、主治医との連携のもと、医療処置も含めた多様なサービス(訪問看護、訪問介護、通い、泊まり)を24時間365日提供する点が特徴的。医療依存度が高い方、体調が不安定な障害を抱えている方などが、住み慣れた自宅で生活しながらケアを受けることができる介護保険サービスです。看多機がスタートしたのは2012年のことですが、いまだ看多機が設立されていない市町村も多く、普及に向けて課題があります。 会場には、看多機経営者や看多機運営に興味がある人たち等が集まっており、「運営・経営がうまくいっている看多機の特徴は?」「〇〇のような患者さんは受け入れ可能なのか」「包括料金のため『使いたい放題』にならないか」「介護職にどこまで業務を任せられるのか」といった話題で活発にディスカッションされていました。 関連記事:・ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポートhttps://www.ns-pace.com/article/category/feature/multi-functional-care-event おなかの保健室 運営:よかケアネット(長崎くらしに寄り添うネットワーク) 長崎の「よかケアネット」(代表:下屋敷 元子氏)は、人生の終末期にある方やその人を支える方たちのサポートを行うボランティア団体。高齢者の方のお話を聞いて本にまとめる「聞き書きボランティア」や排泄ケアの啓発活動(POOマスター長崎)などをしています。 本学会大会の一角には、よかケアネットを中心に「おなかの保健室」を開室しており、気軽に立ち寄り、お腹のことを相談できる場所がありました。便育ハンドブック「KAIUN BENIKU HANDBOOK」(うんこ文化センター おまかせうんチッチ発行)などをもとに排泄に関する啓蒙活動を行っているほか、男性の尿漏れを防ぐための最新機器や健康的な排泄を促すサプリメントの情報なども得ることができました。 編集部メンバーも、「おまかせうんチッチ」代表でPOOマスター養成カリキュラムを考案した榊原 千秋氏による排泄ケアを贅沢にも体験。セルフケアについてのアドバイスもいただいた。 * * * 在宅医療連合学会大会では、在宅医療にまつわるさまざまなテーマで活発な議論が行われ、各地域・各分野の先進的な取り組みが紹介されていました。現場の知見や多職種連携の工夫に触れる機会となり、在宅医療の未来を考える上で多くの示唆が得られる貴重な場です。第8回大会(北海道札幌市)にも注目していきましょう。 取材・編集・執筆:NsPace編集部

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年9月10日
2025年9月10日

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」後編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、ホープ賞を受賞した梶本 聡美さん(訪問看護ステーションかすたねっと/大阪府)の投稿エピソード「いつものアップルパイ」をもとにした漫画をお届けします。  「いつものアップルパイ」前回までのあらすじ作業療法士の梶本さんが、在宅リハビリの仕事を始めて早々に担当した佐藤さん。片麻痺や失語症があり、旦那さんは一生懸命介護に向き合っていました。しかし、ご本人は「希望を持ってもどうせ叶わない」と思っているようで、どうサポートしていけばよいか事業所内で相談。管理者の米島さんも訪問時の「いままでできたことができなくなっている」という佐藤さんの言葉を振り返ります。そして、佐藤さんがもともと料理が得意で、アップルパイづくりにも自信を持っていたことが突破口になるのではと考え…。>>前編はこちら受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】 「いつものアップルパイ」後編   漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者:梶本 聡美(かじもと さとみ)さん訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府)この度はホープ賞に選んでいただき、ありがとうございました。訪問看護を始めてまだ日も浅く、迷ったり悩んだりする日々ではありますが、職員の皆さんはいつも私の話に耳を傾け、一緒に悩み、考えてくれます。また、漫画では私を主人公として描いていただきましたが、今回のアップルパイづくりも、スタッフ一丸となってみんなで対応していました。皆さんに改めて感謝の気持ちを伝えたいです。今回のエピソードの関わりは私にとってとても貴重な経験となりました。その後、Tさん(漫画内「佐藤さん」(仮名))はお亡くなりになりましたが、葬儀の際にご主人がアップルパイを作った時の写真を飾ってくださいました。ご夫婦にとって楽しいひと時を過ごすお手伝いが少しでもできたのかなと感じています。訪問看護やリハビリは医療処置や運動だけでなく、こうした関わりを大切に行っているということを漫画化を通して知っていただく機会になれば嬉しいです。 [no_toc]

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年9月9日
2025年9月9日

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、ホープ賞を受賞した梶本 聡美さん(訪問看護ステーションかすたねっと/大阪府)の投稿エピソード「いつものアップルパイ」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちら・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「いつものアップルパイ」前編 >>後編はこちら受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」後編【つたえたい訪問看護の話】   漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者:梶本 聡美(かじもと さとみ)さん訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府) [no_toc]

細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー
細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー
インタビュー
2025年9月9日
2025年9月9日

細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー

【PR】この記事はNsPace Careerナビ編集部が取材・編集しています。 アルト訪問看護ステーションは、開設から20年近くにわたり地域に深く根差し、利用者様一人ひとりに寄り添う質の高い看護を提供しています。管理者を務める小島様は、このステーションで19年にわたり、訪問看護師としてその歴史を支えてきました。そんな小島様に、アルト訪問看護ステーションの魅力や訪問看護師としてのやりがい、そして今後の展望についてうかがいました。 訪問看護との出会いは「ご縁」 看護学校を卒業後に系列の病院で3年間、急性期の内科や循環器科の病棟に勤め、結婚をきっかけに一度退職しました。28歳頃に、また病棟で2年半ほどパート勤務をしましたね。妊娠・出産を経て、子どもが小さいうちはパートとして診療所に勤めました。そこで3年ほど働き、子どもが小学校に上がるタイミングで一度看護師の仕事をお休みしたんです。 そして38歳のとき、当ステーションにご縁をいただきました。実は身内が当ステーションのグループ系列のサービスを受けていて。その関係で、会社の担当者の方から「働いてみない?」と声をかけられたんです。そのご縁がきっかけで、今に至るまで19年間、このステーションでお世話になっています。 アルト訪問看護ステーションの強み:グループ連携と多職種協働 当ステーションの一番の強みは、グループ全体での密な連携にあります。グループ内では住宅型有料老人ホームや認知症のグループホームも運営しており、在宅でのケアが難しくなった利用者さんも、グループ内の施設で継続してサポートできるんです。利用者さんの状況に合った環境で生活できるようサポートできるのは、私たちにとっても大きな喜びですね。 また、同じグループ内にデイサービスもあるので、利用されている方も多く、グループ全体で利用者さんに関われるので、連携がとてもスムーズなんですよ。利用者さんのちょっとした変化…… たとえば身体に小さな傷を見つけたときには、すぐにデイサービスのスタッフと連絡を取り合い、悪化予防に努めることができます。このような迅速で丁寧な連携は、利用者さんにとって大きな安心につながっているのではないでしょうか。 さらに、ケアマネジャーも同じ建物内にいることがほとんどなので、ひとつのグループ内ですべてのサポートが提供できますし、医療面では系列クリニックとの連携も密に取れています。 このように、多職種と細やかに連携できる環境があるからこそ、利用者さんに質の高い看護を提供できているんです。外部の事業所からの介入がない分、まるで身内のように個別性に応じたサポートができる、そんな環境が整っていると感じています。 働きやすい環境と温かいチームワーク 私が長く働き続けられるのは「働きやすさ」に配慮された環境があるからだと思います。たとえば、有給休暇はほぼ完全に消化できる体制が整っていますし、子育て世代へのサポートも手厚いんですよ。 グループ内に保育園があるので、子どものいるスタッフも安心して働けます。実際に、現在も子育て中のスタッフが数名おり、産休からの復帰実績もあります。お互いに子育てへの理解が深く、子どもの急な発熱や体調不良などにも融通の利く環境が整っているのは、本当に助かるところですね。 当ステーションのチームワークも自慢です。利用者さんの訪問は受け持ち制ではなく、ケアの方針はみんなで相談しながら決めています。訪問業務や勤務形態の都合上、全員がそろってカンファレンスをおこなう時間を取るのは難しいのですが、スタッフ2~3人でも積極的に話し合い、その内容を、全員が見て共有できるように工夫しています。 そうすることで、ステーション内での意見の統一が図れますし、スタッフ一人ひとりの意見を反映したケアを確立できるんです。 オンコール体制についても、今はおもに私が担当していますが、新しく入ってくれた常勤スタッフが慣れてきたら、ひとりに負担が偏らないよう分担していく予定です。現時点で在籍しているスタッフは、半数が訪問看護未経験者でした。当ステーションでは、未経験の方でも働きやすいように、手厚いフォローがありますので安心してもらえると思います。 病院での経験がある方も多いので、そのときにはオリエンテーションを通して、訪問看護の基本や、病院との違いを丁寧に伝えています。あとは日々の訪問を通して、実践的な教育とフィードバックを大切にしているので、しっかりと訪問看護の現場を学んでいける環境です。 これまで、人手が少ない時期が多く、正直大変なこともありました。しかし、利用者さんに対して責任を持って看護を提供している以上、新しいスタッフが入るまでみんなで協力し、なんとか乗り越えてきました。 最も大変だったのは、やはりコロナ禍の時期です。当時は、2〜3週間休みがない状況が続きました……人数が少ないなかで感染症対策にも気を配りながらの仕事は、本当にしんどかったです。でもこの経験を通して、スタッフ間の絆は一層強まったと感じています。みんな優しくて協力的なので、居心地がいいんですよ。長く勤めたいと思える職場だと感じていますし、気遣いなく働ける環境です。 「アルト訪問看護ステーション」の仕事風景 密な連携が訪問看護のやりがいにつながる 訪問看護師のやりがい、魅力は本当に尽きません。当ステーションはクリニックが母体で、診療所と連携しているので、医療的ケアが必要な方、たとえば在宅酸素療法をおこなっている方や、がんのターミナルケア、重症度の高い利用者さんも担当します。看取りのケアや、がん、さまざまな疾患、高齢によって少しずつ状態が悪化していく方々への看護を通して、常に多くの学びがあります。 現在は精神疾患の利用者さんはほとんどいませんが、高齢でさまざまな疾患を抱えた方が多いため、きめ細やかな看護を提供できるのが特徴です。在宅ならではの、利用者さん一人ひとりに時間をかけてじっくりと寄り添うことができるのは、この仕事の醍醐味だと思っています。自分が「こうしていきたい」と思う看護ができる、これは本当に大きなやりがいにつながっていますね。利用者さんが安心して最期まで過ごせる環境をサポートできるよう、施設やご家族、先生方と密に連携を取りながら支援できるよう心がけています。 地域を支えていくために。連携を活かして利用者の願いを叶える 現状は小規模なステーションですが、今後、スタッフが充実すれば、利用者さんからの新規の介入依頼も積極的に受け入れていきたいと考えています。とくに、ターミナルケアの対象者や医療保険を利用される方々への支援を拡大していきたいですね。今は、人手不足で母体のクリニックからの依頼でさえ断らざるを得ないこともあるんです。 利用者さんの生活を地域で支えていくためには、なによりも「人」が必要です。私たちは、利用者さんのためにグループ内で密に連携することを得意としています。この連携を活かし、今後も利用者さんやご家族の「このまま家で過ごしたい」という願いを支え続けたいと思っています。利用者さんやご家族はもちろん、多職種と連携・協力できる訪問看護を提供したいと考えている方に、ぜひ来ていただきたいです。 インタビュアーより 看護師だけでなく、介護士やケアマネジャーとの細やかな連携で利用者さまに質の高い看護を提供されているアルト訪問看護ステーション様。ステーション内のコミュニケーションも活発で、相談しやすく働きやすい職場環境が整っています。「利用者様のために」という想いをスタッフ全員が持ち、同じ方向に進んでいける…そんなチームワークのある素敵なステーション様です。 事業所概要 アルト訪問看護ステーション(大阪府大阪市) 住所:大阪府大阪市西成区南津守1丁目5-24運営方針・理念: 自宅で療養されている利用者様を、主治医や多職種と連携を行いながらサポートします。 利用者様が安心して快適な療養が送れるよう、病状や状態に応じた適切な看護サービスを提供します。 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

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