2026年9月1日
「飛行機で地元へ帰りたい」を叶えるには? 多くの制限の中で安全を組み立てる民間救急の力
「北海道や九州にいる家族の元へ移りたい」「離島の自宅へ帰りたい」。そんな遠方への長距離搬送において、大きな選択肢となるのが「飛行機」です。 移動時間を劇的に短縮できる一方で、機内へのストレッチャー搬入や医療機器の持ち込みには、航空会社や空港との極めて緻密な事前調整が求められます。最終回となる今回は、数ある搬送の中でも最も難易度が高いとされる「飛行機搬送」の舞台裏に迫ります。
執筆:藤 健二郎(とう けんじろう)社会人経験を経て看護師となり、済生会福岡総合病院の救命救急センターで勤務。重症患者の看護に従事した後、大学院で看護師のストレスに関する研究を行い、急性・重症患者看護専門看護師を取得。現在は東京女子医科大学病院CCUでの臨床と並行し、ケアプロ株式会社 交通医療事業部長として、重症患者搬送や外出支援など「医療×移動」の分野で事業を展開している。■ケアプロ株式会社「ドコケア」:https://dococare.com/transport民間救急とは?緊急性の低い患者の搬送を行う民間サービスのこと。多くは、消防庁の認可を受けて「患者等搬送事業(一般乗用旅客自動車運送業)」を行っている。
遠方への搬送では、飛行機が必要になることがある
長距離搬送では、車両や新幹線だけでなく、”飛行機”を利用するケースもあります。
たとえば、北海道や九州、離島など、車両や新幹線では移動時間が長くなりすぎる場合、患者様の身体的負担を考慮して、飛行機搬送を選択することがあります。
一方で、飛行機搬送は、通常の航空券を予約して乗るだけでは成立しません。ストレッチャーで搭乗する場合、機内の座席を複数席使用する必要があります。
また、酸素、吸引器、SpO₂モニターなどの医療機器を持ち込む場合は、事前に航空会社へ機器の種類や型式を申請し、使用可否を確認する必要があります。
弊社の事例ですが、東京から北海道への搬送において、気管切開があり、酸素投与と頻回な吸引が必要な患者様に対して、飛行機搬送を選択しました。新幹線や車両では移動時間が10時間を超えることや、乗り換えの際の人員確保・リスク管理が難しいと判断したためです。
飛行機搬送では、診断書・機器申請・空港手続きが必要になる
飛行機搬送で重要になるのは、航空会社との事前調整です。まず、希望する便に空きがあるかを確認します。そのうえで、ストレッチャー対応が可能か、必要な座席数を確保できるかを確認します。
ストレッチャー搬送では、患者様が横になった状態で搭乗するため、通常より多くの座席を使用します。そのため、便に空席があっても、必要な座席数をまとめて確保できなければ搬送は成立しません。
また、航空会社指定の診断書や同意書が必要になることがあります。医師に診断書の作成を依頼し、予約番号や使用予定の医療機器情報を病院側と共有するなど、連携を同時に進めます。
持ち込む医療機器についても、人工呼吸器、吸引器、SpO₂モニターなどの型式を確認し、航空会社へ事前に申請します。
なお、バッテリーの扱いや機内電源の使用可否なども確認が必要ですが、基本的には、搬送車両のように自由に電源を使えるわけではないため、機内で何ができて、何ができないかを事前に把握しておくことが欠かせません。
さらに、ストレッチャーの患者様を搭乗させる場合、空港の制限区域に車両で入ることがあります。
その際には、車両の車検証やドライバーの免許証情報を事前に提出し、空港側の確認を受ける必要があります。 空港に到着してから考えるのではなく、病院、航空会社、空港、搬送チームが事前に情報を共有し、当日の流れを組み立てておくことが重要です。
多くの制限の中で、安全な搬送を組み立てる
飛行機搬送では、病院から空港、空港内、機内、到着空港、搬送先まで、複数の場面を切れ目なくつなぐ必要があります。
病院を出発する時間、空港到着時間、手荷物検査、制限区域への入場、機体近くでの移乗、機内への搭乗、到着後の介護タクシーとの合流。そのすべてが、航空会社や空港の運用時間に合わせて進みます。
ストレッチャー搬送では、出発予定時刻のかなり前から空港での手続きが始まります。医療機器の確認、手荷物検査、車両やドライバーの確認、制限区域内での移動など、通常の搭乗とは異なる工程が多くあります。
また、機内では使える医療機器や酸素に制限があります。地上の搬送車両のように、必要な機器を自由に積み込めるわけではありません。
だからこそ、飛行機搬送では、患者様の状態だけでなく、航空会社のルール、空港内の動線、機内で使用できる医療機器、酸素の条件、到着後の搬送体制まで確認し、その制限の中で安全な搬送計画を立てる必要があります。
飛行機搬送は、単に遠くへ早く移動するための手段ではありません。限られた条件の中で、医療的な安全を守りながら、患者様とご家族の希望する場所へつなぐための搬送です。
私たちはこれからも、遠方への転院や帰郷を希望される患者様とご家族に対し、医療と移動をつなぐ選択肢を丁寧に提供していきます。