2026年10月27日
児童精神科訪問看護で子どものVisionを描く|家族と考える支援目標
児童精神科訪問看護では、子どもや家族とどのように支援の目標を描いていけばよいのでしょうか。目の前の困りごとだけでなく、その子らしい未来を見据えて考える「Vision」と、そこから支援を組み立てる実践についてお伝えします。
「何を改善するか」から始めない
ショートケーキ訪問看護ステーションは、東京都豊島区、板橋区、北区を中心に、発達障害や不登校などの子どもと家族を対象とした児童精神科訪問看護を提供しています。
訪問看護開始前の面談では、家族から「学校に行けるようになってほしい」「言葉を増やしてほしい」「不器用さを改善してほしい」など、さまざまな相談をいただきます。
もちろん、どれも大切な願いです。しかし私たちは、その困りごとをそのまま訪問看護の目標にするのではなく、「なぜ、それができるようになってほしいのだろう?」というWhyを家族と一緒に考えることを大切にしています。
そのため、面談の最初から「困っていることは何ですか?」と尋ねるのではなく、「お子さんの生活の中で、もう少しこうなってほしいな、応援したいなと思っていることはありますか?」といった聞き方をすることがあります。
困りごとだけに焦点を当てて尋ねると、どうしても子どもの「できていないこと」や「問題」に話題が集まりやすくなります。そこで、お子さんのこれからを前向きに考えながら相談できるよう、質問の仕方を工夫しています。
例えば「不登校なので学校に行ってほしい」という相談でも、話を聞いていくと、「家族以外の人との交流を増やしたい」「安心できる居場所を持ってほしい」という願いが隠れていることがあります。
そう考えると、学校へ行くことだけが方法ではありません。訪問看護師との交流、外出、放課後等デイサービスやフリースクールなど、目的を実現するための選択肢は広がります。
大切なのは、What(何をするか)やHow(どうするか)の前に、Why(なぜそれをするのか)を家族と共有することです。
「この子の良いところは何ですか?」
ある学齢期の子どもの支援を始めた際、保護者からは、家庭でのトラブルや約束を守れないことなど、さまざまな困りごとが語られました。
そこで私は、「この子の良いところや得意なところは何ですか?」と尋ねました。
返ってきたのは、「え、この子に良いところなんてあるんですかね。問題だらけですよ」という言葉でした。その言葉からは、保護者が日々の対応に苦慮している様子がうかがえました。
そこで一緒に生活を振り返っていくと、「物がどこにあるかをすぐに見つけられる」「欲しいものがあると、いろいろな方法を考えて試すことができる」といった姿が出てきました。
見方を変えれば、「よく観察して覚える力がある」「目的に向かって試行錯誤できる」という強みとも捉えられます。
家族から困りごとが多く語られる背景には、それだけ日々の生活で困難に直面してきたことがあると考えています。だからこそ、支援者が困りごととは違う角度から子どもを見る機会をつくることが大切だと感じています。 Kingら(1997)は、家族中心性の評価尺度「Measure of Processes of Care(MPOC)」を用いた検討を報告しています。この尺度では、専門職と家族のパートナーシップや、家族を尊重し支持する関わりなどが評価領域に含まれています。また、Lawら(2003)は、家族中心的なサービスに対する保護者の認識や満足度に関連する要因を検討しました。その結果、保護者がより家族中心的なサービスであると認識することが、サービスへの満足度と強く関連していたと報告しています。
Howがいつの間にかゴールになっていないか
その後、保護者から「塾で落ち着いて授業を受けられず、退塾の話が出ている」という相談がありました。
そこで、本人と一緒に気持ちを整理するために、ノートを活用して気持ちや考えを見える化していきました。
子どもによっては、自分の気持ちを言葉にしたり、自分自身を客観的に振り返ったりすることが難しい場合があります。発達特性が関係することもありますが、年齢や発達段階を考えれば自然なことでもあります。そこで看護の場面では、ノートに書いたり図にしたりしながら、本人が自分の気持ちや考えを整理し、それを周囲に伝えやすくすることがあります。
「今頑張りたいことは何?ノートに書いてみて」と伝えると、子どもがノートに大きく「サッカーを頑張りたい」と書いてくれました。そこから、「今はどんなことに取り組んでいるの?」「どんな技ができるようになりたい?」など、子どもが力を入れていることについて聞いていきました。聞いていく中で、ノートには『勉強』とも書かれていました。
本人に「勉強したくて塾に通っているの?」と尋ねると、「サッカーの強い学校に行きたい。そのためには受験するしかないと言われた」と話してくれました。
ここで一度、ノートを見ながら目的を整理しました。
本人と話をするなかで見えてきたのは、「塾へ通うこと」や「受験すること」そのものではなく、その先にある「サッカーをもっと頑張りたい」という思いでした。
そこで、「サッカーを頑張る方法は受験だけなのかな。今いるチームで強くなっていく方法もあるかもしれないね」と本人に伝え、考えを整理をしました。その後、子どもと一緒に作ったノートを見ながら、家族も交えて選択肢を整理していきました。そうした話し合いを重ねるなかで、本人と家族は今後の過ごし方をあらためて考え、納得したうえで塾を辞めることを選択しました。
Costaら(2017)は、日常生活上の困難を抱える5~10歳の子ども38名と保護者、教師を対象に目標設定を検討しました。子どもの回答からは、自己効力感や参加が、健康やウェルビーイングにとって重要であることが示されました。また、子ども・保護者・教師では設定する目標に違いがみられました。
こうした結果からも、支援者や家族が考える「必要なこと」だけではなく、子ども自身が何を大切にしているのかを確認しながら目標を考えることが重要だといえるでしょう。
Visionが見えると、支援の選択肢が増える
本人の「サッカーを頑張りたい」というVisionが見えてくると、日常生活の見え方も変わりました。
生活を整理すると、家族とのトラブルなどは、本人が何もすることがない時間に起こりやすい傾向がありました。一方、サッカースクールには継続して通うことができています。
そこで、「家族が困っている行動をどう減らすか」だけではなく、「本人が好きなことに取り組み、力を発揮できる時間をどう増やすか」という視点から、サッカーに取り組む機会を増やすことも家族に提案しました。
子どものVisionが見えることで、支援は「できないことを直す」だけではなく、「持っている力をどこで生かすか」へと広がっていきます。
家族と一緒に「この子の未来」を描く
家族支援というと、保護者の悩みを聞いたり、子どもへの対応方法を伝えたりすることがイメージされるかもしれません。
しかし、それだけではないと私は考えています。
「この子はどんな子で、どんなことが好きですか?」「この子がどんな人生を歩んだら、この子らしいと思いますか?」
こうした問いを家族と一緒に考え、本人の思いにも耳を傾けながら、その子のVisionを描いていく。そして、その未来から逆算して、「では訪問看護では何をしよう」「家庭では何をしてみよう」と支援を組み立てていく。
「何をできるようにするか」の前に、「何のために支援するのか」を家族と共有する。
それが、私たちが大切にしている家族支援です。
「この子の何を直したいですか?」ではなく、「この子がどんな人生を歩んだら、この子らしいと思いますか?」
私は、そんな問いから始まる児童精神科訪問看護を、これからも実践していきたいと考えています。
※本稿の事例は、日々の複数の実践をもとに、個人が特定されないよう内容を再構成しています。
執筆:齋藤 透ケアプロ株式会社ショートケーキ訪問看護ステーション リーダー日本赤十字看護大学大学院 地域看護学領域 専門看護師コース修了 児童精神・発達支援・不登校支援を中心に活動。「学校に行かせること」だけをゴールにせず、家庭という生活の場から、親子関係や安心感、人とのつながりを支えることを大切にしている。ゲームや好きな話題を通した関係形成、親子間の感情整理、学校連携などを得意としている。
【参考文献】
1) King GA, Rosenbaum PL, King SM. Evaluating family-centred service using a measure of parents' perceptions. Child Care Health Dev. 1997;23(1):47-62.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9023031/2026/10/13閲覧
2) Law M, Hanna S, King G, et al. Factors affecting family-centred service delivery for children with disabilities. Child Care Health Dev. 2003;29(5):357-366.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12904243/2026/10/13閲覧
3) Costa UM, Brauchle G, Kennedy-Behr A. Collaborative goal setting with and for children as part of therapeutic intervention. Disabil Rehabil. 2017;39(16):1589-1600.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27385635/2026/10/13閲覧