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初回訪問から始まる臨死期の意思決定支援 訪問看護師の役割とは
初回訪問から始まる臨死期の意思決定支援 訪問看護師の役割とは
特集
2026年9月15日
2026年9月15日

初回訪問から始まる臨死期の意思決定支援 訪問看護師の役割とは

在宅医療の第一線で活躍されている、すぎもと在宅医療クリニックの杉本由佳先生に解説していただき、臨死期における訪問看護師の役割を深く掘り下げていきます。今回は、信頼関係構築の起点となる初回訪問での状態把握のポイント、そして利用者さん・ご家族の意思決定支援に求められる実践的なかかわりについてお届けします。 「自宅で最期まで」を支えるために すべての人はいつか死を迎えます。その場所は病院、自宅、施設、ホスピスなどさまざまです。近年では、在宅医や訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど多職種や社会資源を活用することで、自宅で最期を迎えることも可能になってきました。 しかし一方で、在宅療養には課題も多くあります。独居や老々介護、認知症の増加に加え、経済的困窮者の増加により、在宅療養が困難になるケースも少なくありません。 これらの課題を克服し、自宅で利用者さんを最期まで支えるためには、各職種の密な連携が不可欠です。また、それぞれのメンバーに、病態を正しく判断する能力と対応力、そして継続的なスキルアップが求められます。特に訪問看護師には多くの役割が期待されているといえるでしょう。 その役割を具体的に考える上で、まず注目したいのが初回訪問です。訪問看護師の皆さんに意識していただきたい視点とかかわりについて解説していきます。 初回訪問は状態把握と信頼関係構築の起点 病院からの事前情報を基に訪問する場合や、在宅医・利用者さん本人からの直接依頼で訪問する場合などがあります。いずれにおいても、初回訪問時は「初めまして」と挨拶をし、利用者さんとの最初の会話に注意を払いましょう。 この初対面の印象は重要です。「予想より元気そうな様子」「かなり厳しい状況かもしれない」といった直感的な判断材料となります。まずは意識状態、表情、体形、栄養状態、脱水の有無、浮腫・黄疸・貧血の兆候、皮膚の衛生状態、呼吸状態などの確認を行い、利用者さんの状態を大まかに把握しましょう。その後、腹水・胸水・腫瘤の触知、バイタルサインの測定、排尿・排便などの確認を通じて、病状をより詳しく推測していきます。(図1) 図1 初回訪問時に確認すること これらの項目を確認し、利用者さんの状態を慎重に見きわめる。 そして、どのような治療やケアを施しても生命的に厳しい状況なのか、あるいは痛み・呼吸困難・栄養状態などに対応することで改善の可能性があるのかを慎重かつ敏速に判断する必要があります。また、病院からの情報よりも病状が悪化しているのかも見きわめます。 特に病状が急速に悪化していると感じた場合は、初回訪問時に十分な時間をかけて本人やご家族と密にコミュニケーションを取り、信頼関係を速やかに構築し、意思決定支援を行うことが重要です。 意思決定支援をするために 1)本人やご家族の病状認識の確認 特に厳しい状況にある利用者さんの場合、初回訪問時には在宅医と訪問看護師が同席することが望ましいです。病院で病気の進行や予後についてどの程度説明がされているかを確認し、同時に利用者さん本人やご家族がそれをどのように受け止めているかを推測します。 例えば、家族やご本人が以下のようにおっしゃる場面にしばしば遭遇します。「先生は『まだまだ大丈夫』と言っていたけれど、食事量が減ってきていて、元気がなくなってきているので心配だ」「先生は『厳しい状態で、週単位です』と言われたけれど、私はどこも悪くなく健康そのものだと感じている」 医師の診断と利用者さんやご家族の認識にズレがある場合、または病院と在宅の医師の見立てに相違がある場合には、速やかに調整を行わないと、自宅での治療に遅れが生じてしまうことがあります。さらに、理解や心の準備が不完全であった場合には、「なぜこんなに急に亡くなってしまったのか?」と死亡後のご家族の喪失感が深まってしまう可能性もあります。 正確な情報を共有し、利用者さんとご家族の気持ちを尊重しながら、適切な意思決定を支援することが大切です。 2)性格や家庭環境を把握 以下の要素を確認し、現在の状況に応じて安全に行える治療・ケアを選択して提案します。 ・ 独居の有無、ご家族間の関係性(親密度・距離感)・ 本人および介護者(キーパーソン)の認知機能や体力レベル・嗜好や衛生環境(生活環境、介護スペース、ライフラインなど)・食生活、経済状況(医療・介護保険の負担割合など) 利用者さんの理解力が低い場合や病識がない、または否認している場合や認知症の独居などでは在宅療養が困難となることがあります。そのようなケースでは、経済状況や医療依存度に見合った施設の検討も必要です。 3)病状の説明、理解の確認 在宅医の説明を念頭に置きながら、利用者さんの環境や能力、体調を考慮し、理解しやすいように分かりやすく説明をしましょう。落ち着いた雰囲気で、ゆっくりと伝えることが重要です。 例えば、「もともとは〇〇癌ですが、現在は肺への転移が主な症状の悪化要因となっています。さらに、肝臓にも腫瘍がありますが、これによる痛みは今後もほとんどないと思われます」といった説明です。 在宅医の説明が利用者さんやご家族に十分に伝わっていないと判断した場合は、訪問看護師がより分かりやすい言葉で補足説明を行うとよいでしょう。理解の確認は何度か繰り返し行い、不明な点を気軽に質問できる環境を整えることが大切です。 4)予後予測に基づく症状や対応・治療方法の説明 病状の変化を理解した上で、自宅で可能な治療・ケアを提案しましょう。治療方針を決めるのは在宅医になりますが、利用者さん・ご家族の思いや、看護師の意見も重要です。在宅医に対し、看護師の気持ちや意見をしっかり伝え、議論できるような信頼関係を築くことが理想です。 予測される症状に対して、環境に見合った、適切な対応を伝えることで本人やご家族の不安を軽くすることができます。以下に、症状別・利用者さんへの安心につながる説明の例をご紹介します。ただし、「大丈夫です。治ります」といった過度な期待を持たせる表現は避けるべきでしょう。 表1 症状別・利用者さんへの安心につながる説明の例 痛みの管理「痛みが出た場合は、適切な痛み止めを使用するので安心してください。近年は改良された薬が多数開発されており、利用者さんに合ったものを選びやすくなっています」 呼吸困難への対応「呼吸が苦しくなった際は、自宅でも酸素を吸うことができます。必要になった場合、すぐに手配できるので心配ありません」 栄養補助「食事が口から摂れなくなる前に、高カロリーの点滴を行うことで、体の負担を軽減できます。また、口から摂取が可能であれば、今はいろいろな病状に対応した補助食品がたくさんあるので、経口補助食品のサンプルをお持ちします。少量でも栄養価が高く、おいしく摂取できます」 浮腫・腫れの対応「むくみや腫れが出た場合は、ステロイドを使用すると症状が軽減することがあります。例えば、顔にできた赤みの強いニキビがステロイド軟膏で改善されるのと同じような効果が期待できます。先生に相談してみましょう」 5)ご家族の受け入れ、心の準備を促すかかわり 病状が進行すると、治療を行っても近い将来に死を迎えることは避けられません。QOL(生活の質)やADL(日常生活動作)をできる限り維持することは可能ですが、永遠の命を保証することはできません。 そのため、死が近づいた際の話をする場合には、自宅での生活を意識した伝え方が望ましいでしょう。例を以下に示します。 「せっかく自宅で療養しているのだから、痛みをなくし、やりたいことをできる限り支援します」「多少不自由な点があるかもしれませんが、楽しく快適に過ごせるようお手伝いします」「ギリギリまで自力でトイレに行けるよう福祉用具も駆使しながら支援します」 利用者さんが「今日は一日楽だった」と思える時間を作るために、「私たち医療者が全力で支える」という姿勢が重要です。ていねいな言い回し以上に、気持ちを込めた言葉や態度こそが利用者さんにとって必要なものであるといえます。 しかし、病状の進行や介護の負担により、「家で最期まで過ごす」と決意していた利用者さんやご家族の気持ちが揺れることもあります。病状の変化やご家族の表情に曇りが見えたときには、必ず声をかけ、心の負担を和らげながら治療・ケアの方針を随時見直していくことが大切です。そして、「必ず家で看取らないといけないわけではないですよ。納得できる形を一緒に考えていきましょう」と、柔軟な選択肢があることを伝えることも必要です。 利用者さんとご家族が愛情に満ちた濃密な時間を過ごせるよう支援し、利用者さんとご家族、そして医療者との間に信頼関係を築けるようにすることが何より大切です。どこで誰とどのように生活し、最期を迎えたいのかを何度も話し合い、調整を重ねる過程こそが大切な思い出となるでしょう。 執筆:杉本 由佳すぎもと在宅医療クリニック 院長 1995年名古屋市千種区にすぎもと在宅医療クリニック開業。在宅栄養管理、緩和医療が専門分野。 所属学会日本在宅医療連合学会(専門医・指導医・評議員・特任理事)日本緩和医療学会(認定研修施設 認定医)日本栄養治療学会(認定医) その他、活動実績● 日本在宅医療連合学会「がん疾患の在宅医療人材育成講座」執筆● 原著論文「在宅静脈栄養における脂肪乳剤の使用状況と問題点 」Medical Nutritionist of PEN Leaders Vol.2 No.1 2018 に掲載 編集:株式会社照林社

膀胱炎とは?症状・原因・治し方と受診の目安を解説
膀胱炎とは?症状・原因・治し方と受診の目安を解説
コラム
2026年9月15日
2026年9月15日

膀胱炎とは?症状・原因・治し方と受診の目安を解説

膀胱炎とは、膀胱に炎症が起こる状態です。細菌感染によるものが代表的ですが、感染以外の原因で起こる場合もあります。排尿時の痛み、頻尿、残尿感、下腹部の違和感、血尿などの症状がみられることがあります。 特に女性は尿道が短く、細菌が膀胱に入りやすいため、膀胱炎になりやすいとされています。細菌性膀胱炎では、感染が腎臓まで広がって腎盂腎炎を起こすことがあるため、症状が続く場合などは注意が必要です。この記事では、膀胱炎の症状や原因、治療、受診の目安について解説するとともに、訪問看護など在宅ケアの現場で確認したい観察ポイントを紹介します。 膀胱炎とはどんな病気?種類と特徴 膀胱炎とは、尿をためる臓器である膀胱に炎症が起こる状態です。細菌感染によって起こるものが多く、尿道から入った細菌が膀胱内で増えることで発症します。細菌性膀胱炎は尿路感染症のひとつで、尿道、膀胱、腎臓など、尿の通り道に起こる感染症の中でも、膀胱に炎症が起きたものを指します。 膀胱炎には、細菌感染によって起こるもののほか、間質性膀胱炎や、薬剤・放射線治療などに関連して起こる非感染性の膀胱炎もあります。この記事では、在宅の現場でよくみられる細菌感染による膀胱炎(細菌性膀胱炎)を中心に解説します。 日本泌尿器科学会によると、女性の膀胱炎では排尿時の痛み、頻尿、残尿感などが出ることがあり、適切な抗菌薬による治療で数日以内に症状が改善することがあると説明しています。 膀胱炎の主な症状と気づき方 膀胱炎の症状は、排尿に関する違和感として現れることが多いです。代表的な症状には、以下があります。 排尿時の痛みや、しみるような感覚 頻尿 残尿感 尿意切迫感 下腹部の違和感 下腹部痛 尿の混濁 血尿 膀胱炎では、排尿の終わりに痛みを感じることがあります。また、尿を出したばかりなのにまだ残っているように感じる「残尿感」が出ることもあります。残尿感は、実際に尿が残っている場合だけでなく、膀胱や尿道の炎症による知覚異常で起こることもあります。 膀胱炎の原因とかかりやすい人 膀胱炎の主な原因は、細菌感染です。多くの場合、腸内にいる細菌などが尿道口から入り、膀胱内で増えることで炎症を起こします。 膀胱炎が起こりやすくなる要因には、以下があります。 水分摂取量が少ない 尿を我慢することが多い 免疫機能が低下している 性交渉の機会がある 陰部を清潔に保ちにくい 閉経後である 糖尿病がある 尿道カテーテルを使用している 排尿障害がある 尿路結石や前立腺肥大などの泌尿器疾患がある 女性は男性より尿道が短く、尿道口と肛門の距離も近いため、細菌が膀胱に入りやすい構造です。急性膀胱炎は女性に多く、頻尿、排尿時の痛み、血尿などがみられることがあります。 ただし、すべての排尿トラブルが膀胱炎とは限りません。性感染症、尿路結石、過活動膀胱、腟炎、前立腺の病気などでも、排尿時の痛みや頻尿がみられることがあります。 症状が続く場合は、自己判断で様子を見続けず、医療機関への相談を検討することが大切です。在宅療養中の利用者さんにこうした症状がみられる場合は、症状の経過や全身状態も確認し、必要に応じて主治医へ相談します。 膀胱炎は何科を受診する? 膀胱炎が疑われる場合は、泌尿器科で相談できます。女性の場合は、婦人科や内科で相談できることもあります。排尿時の痛み、頻尿、血尿、下腹部痛などがある場合は、医療機関への受診を検討します。在宅療養中の利用者さんの場合は、症状の程度や経過、発熱などの全身症状も確認し、必要に応じて主治医へ相談します。 受診時には、尿検査を行うことが一般的です。尿検査では、白血球や細菌、血尿の有無などを確認し、症状などとあわせて診断します。必要に応じて尿培養検査が行われることもあります。 採尿方法などについて受診先から指示がある場合は、それに従います。症状が強い場合は無理に排尿を我慢する必要はありません。 膀胱炎の治療と抗菌薬 細菌性膀胱炎では、医師の判断により抗菌薬が使われることが一般的です。一方、細菌感染以外が原因の膀胱炎では、原因に応じて治療が異なります。 抗菌薬が処方されている場合は、症状が軽くなっても自己判断で中止せず、医師の指示どおりに服用することが大切です。訪問時には、利用者さんが処方どおりに服用できているか、服薬後の症状や体調に変化がないかも確認します。 処方どおり服用していても症状が改善しない、再発を繰り返す、発熱や背中の痛みがある場合は、再度相談が必要です。 治療中は脱水を避けるため、適切な水分摂取を促すことも大切です。ただし、心不全や腎機能低下などで水分制限がある利用者さんの場合は、自己判断で水分量を増やさず、必要に応じて主治医に確認します。 早めに受診したい症状 急性細菌性膀胱炎は、適切な治療によって比較的短期間で改善することが多い病気です。一方で、症状によっては腎盂腎炎など、より上部の尿路感染症が疑われることがあります。 以下の症状がみられる場合や、次の状態にあてはまる場合は、早めの医療機関への相談が必要になることがあります。訪問看護では、膀胱炎の症状だけでなく、発熱や腰背部痛、食事・水分摂取量、意識状態などもあわせて確認します。 発熱がある 寒気や悪寒がある 背中や腰の痛みがある 吐き気や嘔吐がある 血尿が濃くなっている 尿が出にくい 強い下腹部痛がある 排尿時痛や頻尿などの症状が続く、または悪化している 膀胱炎を繰り返している 妊娠中である 高齢者で、いつもと様子が違う 糖尿病や免疫低下がある 尿道カテーテルを使用している 腎臓まで感染が広がると、背中やわき腹の痛み、高熱、悪寒、吐き気、嘔吐などがみられることがあります。 高齢者では典型的な尿路症状がはっきりしないこともあります。ただし、急な意識変化や普段と異なる様子は、脱水、薬剤の影響、尿路感染症以外の感染症などでも起こります。尿路感染症と決めつけず、バイタルサインや全身状態なども含めて評価し、必要に応じて主治医へ相談します。 在宅での観察ポイント 訪問看護では、利用者さん本人からの訴えだけでなく、普段の排尿状態との違いや、発熱・食事量・水分摂取量などの全身状態をあわせて確認することが大切です。 観察したいポイントは、以下のとおりです。 排尿回数 排尿時痛の有無 残尿感の有無 尿の色 尿の混濁 血尿の有無と程度 下腹部痛の有無 発熱の有無 腰や背中の痛み 水分摂取量 尿量 食事量 意識状態 尿道カテーテルの有無 服薬状況 記録する場合は、以下のように具体的に書くと共有しやすくなります。 「昨日20時ごろから排尿時痛あり。排尿回数は日中10回程度。残尿感あり。尿にやや混濁あり。発熱なし。水分摂取は普段より少なめ。」 「本日7時ごろから頻尿と血尿あり。下腹部痛あり。体温37.8℃。腰背部痛なし。食事摂取は半量。排尿症状と微熱がみられるため、主治医へ報告。」 このように、「いつから」「どの症状が」「どの程度あるか」を整理すると、主治医や多職種に状態を伝えやすくなります。 膀胱炎を予防するには 膀胱炎の予防では、水分摂取や排尿習慣など、日常生活上の工夫が勧められることがあります。訪問看護では、利用者さんの生活状況や既往歴、水分制限の有無などを確認しながら、次のような点について無理なく取り入れられる方法を一緒に考えます。 水分不足にならないようにする 尿を長時間我慢しない 排便後は前から後ろへ拭く 陰部を必要以上に洗いすぎない 性交渉後は排尿を長時間我慢しない 「清潔にしなければ」と考えて、強く洗いすぎたり、洗浄剤を使いすぎたりすると、皮膚や粘膜のバリア機能に影響することがあります。必要以上に洗いすぎず、やさしく清潔を保つことが大切です。 在宅療養中の方では、水分制限、排尿障害、カテーテル管理、便秘、活動量の低下などが膀胱炎のリスクに関わることがあります。利用者さんの状態に合わせて、無理のない予防策を考えましょう。 まとめ 膀胱炎では、排尿時痛や頻尿、残尿感、血尿などの症状がみられます。訪問看護では、こうした排尿症状に加えて、発熱、腰背部痛、食事・水分摂取量、意識状態など、普段との違いを確認することが大切です。 特に、発熱や悪寒、腰背部痛、吐き気などがみられる場合は、腎盂腎炎なども念頭に置き、必要に応じて速やかに主治医へ相談します。また、利用者さんが抗菌薬を処方されている場合は、服薬状況や症状の変化も確認しましょう。 利用者さんの訴えだけでなく、日頃の状態との変化を具体的に捉え、適切な受診や主治医への報告につなげることが、在宅での重要なポイントです。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 日本泌尿器科学会:「尿が残っている感じがある ~残尿感~」https://www.urol.or.jp/public/symptom/07.html2026/9/11閲覧 日本泌尿器科学会:「排尿痛がある、排尿時に痛い」https://www.urol.or.jp/public/symptom/21.html2026年9月11日閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「細菌性尿路感染症」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/03-泌尿器疾患/尿路感染症-uti/細菌性尿路感染症2026年9月11日閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「間質性膀胱炎」. https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/03-泌尿器疾患/排尿障害/間質性膀胱炎2026年9月11日閲覧 European Association of Urology(EAU)「EAU Guidelines on Urological Infections」https://uroweb.org/guidelines/urological-infections2026年9月11日閲覧 Payne H, Adamson A, Bahl A, et al.:Chemical- and radiation-induced haemorrhagic cystitis: current treatments and challenges. BJU International.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4155867/2026年9月11日閲覧

耳が痛い原因は?緊急対応が必要なケースと様子を見てもいいケースを解説
耳が痛い原因は?緊急対応が必要なケースと様子を見てもいいケースを解説
特集
2026年9月8日
2026年9月8日

耳が痛い原因は?緊急対応が必要なケースと様子を見てもいいケースを解説

耳の痛みは、子どもから高齢者まで幅広い世代に見られることがあり、その原因もさまざまです。耳そのものに異常がある場合もあれば、顎や鼻、喉の炎症が関係していることもあります。本記事では、耳の痛みを引き起こす病気や、緊急対応が必要なケースについて解説します。利用者さんが耳の痛みを訴えられた際のアセスメントに活用してください。 耳の痛みを引き起こす「耳の病気」 まずは、耳が原因で痛みを引き起こしている場合についてみていきましょう。 中耳炎 中耳炎には大きく分けて「急性中耳炎」「滲出性中耳炎」「慢性中耳炎」「真珠腫性中耳炎」の4種類があり、その中でも急性中耳炎は強い痛みを伴うことが特徴です。急性中耳炎は、風邪や上気道感染症の後に発症することが多く、鼻詰まりや鼻水、喉の痛み、咳などの症状に続いて耳の痛みが現れます。進行すると中耳に膿が溜まり、圧力によって鼓膜が膨張して痛みが増します。 外耳炎 外耳炎は、耳の穴から鼓膜までの通路である外耳道に炎症が起こる疾患です。外耳道の皮膚は非常に薄く、刺激に対して敏感なため、何らかの要因で傷ついたり、過度な刺激を受けたりすると、細菌が繁殖し炎症を引き起こすことがあります。初期症状は、軽いかゆみや違和感です。炎症が進行すると、耳の痛みが生じ、耳を引っ張ったり、口を開閉したりするだけで痛みが増すことがあります。 鼓膜炎 鼓膜炎は、外耳と中耳の間に位置する鼓膜に炎症が生じる疾患で、急性と慢性に分類されます。片側の耳に発症することが多く、両耳に同時に発生することは稀です。 急性鼓膜炎は、鼓膜の表面に黄色い水疱が現れます。激しい痛みが生じることが多く、耳鳴りや耳の閉塞感を伴うこともあります。一方、慢性鼓膜炎は、外耳道の繰り返される炎症や感染が原因となり、長期的に持続する疾患です。鼓膜の表面に肉芽やびらん(ただれ)が形成されますが、痛みはそれほど強くはありません。 耳の痛みを引き起こす「耳以外の病気」 耳の痛みが、耳以外の病気によって引き起こされる場合があります。代表的な疾患は次のとおりです。 顎関節症 顎関節症は、顎の関節やその周囲の筋肉に異常が生じることで、口の開閉時に痛みを感じたり、スムーズに口を開けられなくなったりする疾患です。顎関節症の中でも、II型に分類されるタイプは関節の靭帯に異常が起こります。顎関節は耳のすぐ近くに位置しているため、顎関節痛を耳の痛みと感じる場合があります。 副鼻腔炎 副鼻腔炎は、鼻の奥にある副鼻腔という空洞に炎症が生じる疾患です。鼻は耳管とつながっているため、耳の痛みや違和感など、耳の症状を併発することがあります。 急性副鼻腔炎では、鼻づまりや粘り気のある黄色・緑色の鼻水、頭痛、顔面痛(頬や目の奥、鼻周囲の痛み)・顔面腫脹、発熱などが主な特徴です。慢性副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎が完治せずに慢性化してしまったもので、鼻づまりが長引き、嗅覚の低下が見られることがあります。 歯のトラブル(虫歯・親知らずなど) 虫歯や親知らずの炎症が進行すると、歯茎が腫れ、周囲の組織にまで炎症が広がることで、神経を通じて耳の痛みを感じることがあります。これは、歯やあご、舌の下などとつながる神経が耳にも分布しているためです。 扁桃周囲膿瘍 扁桃炎が悪化すると、扁桃の周囲に膿がたまり、「扁桃周囲膿瘍」を引き起こすことがあります。のどの痛みが非常に強くなり、唾を飲み込む際にも激痛を伴います。そして、耳にまで痛みが広がることもあります。 ラムゼイ・ハント症候群 ラムゼイ・ハント症候群は、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で発症する疾患です。顔面神経麻痺に加え、耳の周囲や口の中に痛みを伴う発疹が現れることが特徴です。 医療機関を受診した方がよいケース 耳の痛みは、軽い違和感から強い痛みまでさまざまです。痛みの程度や持続時間によっては、すぐに医療機関を受診した方がよいケースも。医療機関を受診した方がよいケースは次のとおりです。 強い痛みがある 強い痛みがある場合は、急性中耳炎の可能性があります。子どもの場合、頻繁に耳を触ったり泣いたりしている場合は強い痛みが起きていることもあり、早めの受診が必要です。 耳の中から出血がある 耳の中から出血がある場合は、外耳炎が悪化している可能性があります。進行すると強い痛みが生じるため、早めの受診が必要です。 顔面麻痺を伴う場合 耳の痛みに顔面麻痺を伴う場合は、ラムゼイ・ハント症候群の可能性があります。放置すると後遺症が残るリスクが高まるため、顔の動きに違和感を覚えたらすぐに診察を受けることが重要です。 高熱が続く場合 急性中耳炎や扁桃周囲膿瘍などの感染症は高熱を伴うことが多く、長引く場合は合併症を防ぐためにも受診が必要です。特に小さな子どもや高齢者は重症化しやすい点に注意が必要です。 耳の痛みで様子を見てもよいケース 耳の痛みが軽度で、短時間で自然におさまる場合は、必ずしも受診する必要はありません。気圧の変化や耳垢の詰まりが原因であれば、数時間以内に症状が軽減することが多いとされています。 ただし、痛みが繰り返し起こる、または徐々に強くなる場合は、慢性的な炎症や病気が隠れている可能性があるため、早めの受診を検討しましょう。 * * * 耳の痛みは、軽度のものから重篤な疾患のサインであるものまでさまざまです。適切な判断を行うために、耳の痛みに関する正しい知識を持つことが重要です。今回、解説した内容を利用者さんのアセスメントにぜひお役立てください。 編集・執筆:加藤 良大監修:瀬尾 達(せお わたる)医療法人瀬尾記念会瀬尾クリニック理事長。耳鼻咽喉科専門医。クリニックでの診療の他、京都大学医学部講師や大阪歯科大学講師を兼任。祖父から代々の耳鼻科医の家系。兄は、聖マリアンナ医科大学耳鼻科教授。テレビやマスコミ出演多数。 【参考】〇日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「口腔・咽頭の病気」(2026年9月7日)https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=222026/9/7閲覧

多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解
多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解
特集
2026年8月18日
2026年8月18日

多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回は、「多疾患併存(multimorbidity、マルチモビディティ)」を取り上げます。東京ふれあい医療生活協同組合 ふれあいファミリークリニックの角允博先生に、多疾患併存に対する緩和ケアにおいて必要とされる支援について解説いただきます。 はじめに 多疾患併存とは、一般的に2つ以上の慢性疾患が1人の患者に並存している状態と定義されます1)。またQOLの低下、死亡率、ポリファーマシー、転倒、入院などのリスク増加との関連が示されており、国際的にも喫緊の課題に挙げられています2)。 本稿では、多疾患併存に対する緩和ケアの意義と課題を、「なぜ」「いつ」「どのように」の3つの観点から検討します。 なぜ多疾患併存の緩和ケアが求められるのか WHOの緩和ケアの定義は「緩和ケアは生命を脅かす病に直面する患者と家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に発見・評価し対応することで苦痛を予防・緩和するアプローチ」とされています 3)。 日本ではこれまで緩和ケアはがん中心に発展してきましたが、この定義に照らせば対象はすべての重篤疾患であり、がん以外の慢性疾患にも対応する体制整備が急務とされています。また、これまでは単一疾患に対する緩和ケアが主体でしたが、現在のわが国の超高齢者の多くは認知症や心不全、COPD、脊柱管狭窄症など複数の慢性疾患・障害の連鎖の中で終末期を迎えています。こうした患者群では疾患間の相互作用や医療的介入の複雑化により、身体的・心理社会的苦痛が重層化しています。したがって、疾患単位の管理を超えた緩和ケアが今、求められているのです。 多疾患併存の緩和ケアをいつ提供するのか 多疾患併存の軌跡は一見予測不可能なため、終末期を特定することがしばしば困難です。多疾患併存の中でも、慢性的で治癒不可能な性質を反映している「Advanced multimorbidity」 (高度な多疾患併存)という概念がありますが、近年のレビューでは緩和ケアを必要とする多疾患併存症の患者をどのように認識し、どの時期に緩和ケアを提供することが望ましいかは明らかではありません4)。 「サプライズクエスチョン」による特定方法 終末期を迎え、緩和ケアを必要とする可能性のある患者を特定するための方法の1つに、「サプライズクエスチョン」というシンプルな質問法があります。これは、「患者が12ヵ月以内に亡くなっても驚きませんか?」と医師や看護師が自問し「驚かない」と回答することで緩和ケア対象者を同定する方法です。 サプライズクエスチョンを検討したメタアナリシスでは、「驚かない」と回答した場合のその後の死亡率を感度として0.69、「驚く」と回答した場合のその後の死亡率を特異度として0.69であり、中等度の精度を示しました。ただし、セッティング、追跡期間、回答者により、ばらつきがみられました5)。 「治療負担」という考え方 また、多疾患併存への緩和ケアの開始は、治療負担の概念から考えることもできます。Mayらは、慢性疾患患者や長期医療を受ける人々にとって、病気そのもの(症状、制約、合併症など)から生じる負担(burden of illness)に加えて、医療制度・治療プロセス・自己管理から生じる「治療負担」(burden of treatment)という別の重みがあると論じ、注意喚起をしています6)。 これらの負担に対応する能力はcapabilityと呼ばれ、負担とのバランスが崩れると個々の患者の医療成果が悪化するだけでなく、介護者の負担が増大し、さらに医療サービスの需要とコストが増加する可能性が指摘されています7)。これをふまえ、多疾患併存の各疾患の医療制度・治療プロセス・自己管理が患者や介護者の生活にどのような影響を及ぼしているかを把握し、医療者と生活者である患者の間で調整を行うことが重要です。 この調整は、今まで疾患治癒を目的としていた医療的介入を縮小し、症状緩和や患者家族の生活を配慮したケアにシフトするアプローチです。医療従事者が多疾患併存への治療介入自体が患者にとって生活負担になっていると感じる時こそ、緩和ケアの契機になると考えられます。 多疾患併存に対してどういった緩和ケアを行うか 多疾患併存にどのような緩和ケアを行うかは明らかになっていない点が多いですが、多疾患併存に対する緩和ケアのニーズをまとめた先行文献8)、9)を参考に、どういった緩和ケアが必要かを考察します。 (1)身体的苦痛 多疾患併存の身体的苦痛では、痛みと移動の困難が最も多いといわれています8)。日常臨床でも心不全、腎不全などの内部疾患に伴う疼痛、変形性膝関節症や脊柱管狭窄症などの整形疾患、帯状疱疹後神経痛など多様な痛みを訴える患者に遭遇します。さらに認知機能障害を合併した場合、疼痛の評価は困難となることも多くあります。 症状は疾患間で相互作用を及ぼし、一連の疾患をそれぞれ個別に治療し、他疾患を考慮に入れないことは非効率的で、潜在的に有害であることを考慮する必要があります10)。 移動の困難については、介護保険サービスによるリハビリテーションや福祉用具を活用してサポートしているのが現状ですが、「移動が困難であること」それ自体が患者の「苦痛」であることを認識しておく必要があります。これらの身体的苦痛は、後述する心理社会的・スピリチュアルな苦痛と混在し、その表現型として疼痛を訴える場合もあり、解釈には注意を要します。 (2)心理社会的苦痛 Nicholsonらの研究によると、多疾患併存の患者とその介護者は、身体的なニーズには十分に対応されていると考えていた一方で、心理社会的およびスピリチュアルなニーズへのサポートが不足していると認識していました。 心理面では「不幸」「孤独」「不安」「抑うつ」、社会面では「社会的なつながりの維持」「個性とアイデンティティの維持」「介護者への信頼」「家族のサポート」がテーマとして抽出されました8)。心理面は社会面とも密接に関係し、患者本人だけでなく、対応する家族や介護者への教育的サポートも必要であると示されています。 社会的なつながりの維持については、患者と介護者の双方において指摘されています。患者自身も機能の低下によって社会と断絶されることは容易に想像されますが、介護者もまたフルタイムの介護を提供することで、社会的接触が減少し、友人、隣人、地域社会からの孤立感を訴えます。 実臨床において、介護者が患者に信頼され、家族がサポートできる体制をとれているケースがすべてではありません。その結果、患者家族は施設入所を選びますが、介護施設で問題になるのが多数の入居者の中で個性とアイデンティティを維持することです8)。こういった社会的苦痛に現行の介護保険制度の枠組みだけで対応していくことは困難であり、介護施設を含め、介護を社会にひらいていく上での新たな取り組みも必要であると考えられます。 (3)スピリチュアルペイン さらに、Nicholsonらによる研究では、多疾患併存のスピリチュアルに対するニーズは、「意味と目的」「悲しみと喪失」「宗教性および宗教的嗜好」「現在をよく生きること」の4つのテーマに分類されています8)。がん患者において、時間存在である人間は、過去から将来をつなぐ時間の中で現在を生きていますが、罹患し将来がみえなくなることで現在の生に意味や存在が成立しなくなるといわれています11)。この時間存在の概念は、「意味と目的」や「現在をよく生きること」といったニーズに関連します。 多疾患併存の高齢者は、長期にわたる臨床経過の中で、こうした実存的な課題に直面しているのです。時にそれはスピリチュアルペインほど強くない訴えで、身体的・心理社会的苦痛と混在して表出されるため、これを識別・認識するのがしばしば困難になります。 臨床では、「もう生きていてもしょうがない」「早く迎えが来ないかな」「迷惑ばかりかけている」といった言葉を耳にすることも少なくありません。ここではそれをメッセージとして受け取り、言語化し、それを相手に返していく作業が大切です。元来、スピリチュアルペインの概念はがん領域で問題になることが多くありましたが、訪問看護を含めた在宅医療従事者はこの問題に今後、普遍的に取り組む必要があると考えます。 まとめ 本稿では、多疾患併存に対する緩和ケアの必要性、導入時期、提供方法について検討しました。多疾患併存の緩和ケアは、緩和ケア領域のみならず在宅医療やプライマリケアの現場でも喫緊の課題です。今後、臨床実践と研究の両面から、患者の多層的な苦痛を的確に理解し支える枠組みの構築が期待されます。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)QOL:quality of life(生活の質)WHO:world health organization(世界保健機関)COPD:chronic obstructive pulmonary disease(慢性閉塞性肺疾患) 執筆:角 允博東京ふれあい医療生活協同組合 ふれあいファミリークリニック 東京都足立区小台宮城で家庭医・在宅医として外来、在宅を通じプライマリケアに従事。多疾患併存における臨床的複雑性と意思決定にチームで取り組んでいる。 編集:株式会社照林社 【参考文献】 1)Valderas JM,Starfield B,Salisbury C,et al.:Defining comorbidity:implications for understanding health and health services.Ann Fam Med 2009;7(4):357-363.2)Multimorbidity:clinical assessment and management.NICE guideline,2016.https://www.nice.org.uk/guidance/ng562026/8/10閲覧3)日本ホスピス緩和ケア協会:WHO(世界保健機関)の緩和ケアの定義(2002年)https://www.hpcj.org/info/history.html2026/8/10閲覧4)Bowers SP,Black P,McCheyne L,et al.:Descriptions of advanced multimorbidity:A scoping review with content analysis.J Multimorb Comorb 2025;15:26335565251326309.5)Gupta A,Burgess R,Drozd M,et al.:The Surprise Question and clinician-predicted prognosis:systematic review and meta-analysis.BMJ Support Palliat Care 2024;15(1):12-35.6)May CR,Eton DT,Boehmer K,et al.:Rethinking the patient:using Burden of Treatment Theory to understand the changing dynamics of illness.BMC Health Serv Res 2014;14:281.7)May C,Montori VM,Mair FS:We need minimally disruptive medicine.BMJ 2009;339:b2803.8)Nicholson CJ,Combes S,Mold F,et al.:Addressing inequity in palliative care provision for older people living with multimorbidity.Perspectives of community-dwelling older people on their palliative care needs:A scoping review.Palliat Med 2023;37(4):475-497.9)Llop-Medina L,Fu Y,Garcés-Ferrer,et al.:Palliative Care in Older People with Multimorbidities:A Scoping Review on the Palliative Care Needs of Patients,Carers,and Health Professionals.Int J Environ Res Public Health 2022;19(6):3195.10)Hourican C,Peeters G,Melis R,et al.:Understanding multimorbidity requires sign-disease networks and higher-order interactions,a perspective.Front Syst Biol 2023;3:1155599.11)村田久行:終末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケア.日ペインクリニック会誌 2011;18(1):1–8.

食中毒症状とは?観察と受診の目安
食中毒症状とは?観察と受診の目安
コラム
2026年8月18日
2026年8月18日

食中毒症状とは?観察と受診の目安

食中毒では、下痢、腹痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状がみられます。原因となる細菌やウイルス、寄生虫、自然毒などによって、症状の出方や発症までの時間は異なります。訪問看護や在宅ケアの現場では、「何を食べたか」だけでなく、「いつから症状が出たか」「水分が取れているか」「尿量が減っていないか」などを確認することが大切です。この記事では、食中毒でみられる主な症状、注意したいサイン、在宅での観察ポイントを解説します。 食中毒とは 食中毒とは、細菌やウイルス、有害な物質などが含まれた食品を食べることで、腹痛や下痢、嘔吐などの症状が起こる状態です。厚生労働省では、食中毒の原因として、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、リステリア、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、ノロウイルス、アニサキス、毒キノコ、有毒植物などを挙げています。 食中毒は夏に多いイメージがありますが、原因によって流行しやすい時期は異なります。たとえば、細菌性食中毒は気温や湿度が高い時期に増えやすく、ノロウイルスによる食中毒は冬に多くみられます。ただ、季節だけで判断せず、症状や食事内容、周囲の流行状況をあわせて確認することが大切です。 食中毒でみられる主な症状 食中毒の症状は、原因によって異なりますが、よくみられる症状には以下があります。 下痢 腹痛 吐き気 嘔吐 発熱 倦怠感 頭痛 悪寒 脱水症状 胃痛や腹部けいれん 重症の食中毒では、血便、3日以上続く下痢、高熱、頻回の嘔吐、脱水症状がみられることがあります。 高齢者や小児、妊婦、基礎疾患のある方、免疫機能が低下している方では、症状が重くなることがあります。特に在宅療養中の利用者さんでは、普段の体調や食事量、内服薬の影響も含めて観察することが重要です。 症状が出るまでの時間 食中毒は、食べてすぐに症状が出るものもあれば、数日後に症状が出るものもあります。発症までの時間は、原因を考えるうえで手がかりになります。厚生労働省が発表している、発症までの目安は次の通りです。 原因の例発症までの目安主な症状黄色ブドウ球菌30分〜6時間程度吐き気、嘔吐セレウス菌 嘔吐型30分〜6時間程度吐き気、嘔吐ウエルシュ菌6〜18時間程度腹部膨満、腹痛、下痢ノロウイルス24〜48時間程度吐き気、嘔吐、下痢、腹痛カンピロバクター2〜7日程度下痢、腹痛、発熱、嘔吐、吐き気腸管出血性大腸菌3〜8日程度腹痛、下痢、血便 ただし、同じものを食べても、全員が同じ症状になるとは限りません。年齢、体調、食べた量、基礎疾患などによって症状の強さは変わります。 注意したい症状 食中毒が疑われる場合でも、症状が軽く、水分が取れていて、尿が出ている場合は、主治医へ報告したうえで、点滴など特別な処置はせず様子を見ることがあります。一方で、以下のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 3日以上続く下痢 嘔吐が続き、水分が取れない 血便がある 強い腹痛がある 高熱がある 尿量が明らかに少ない 口の中が乾いている 立ち上がるとふらつく ぐったりしている 意識がぼんやりしている 乳幼児、高齢者、妊婦、基礎疾患のある方に症状がある 特に、乳幼児や高齢者などにおいて、血便や強い腹痛がある場合は注意が必要です。腸管出血性大腸菌では、溶血性尿毒症症候群 や脳症などの重症合併症を発症する場合があります。 脱水症状に注意する 食中毒で特に注意したいのが脱水症状です。下痢や嘔吐が続くと、水分だけでなく電解質も失われます。高齢者では、のどの渇きを感じにくいことがあり、気づかないうちに脱水が進むことがあります。在宅では、以下のような変化を確認します。 尿量が少ない 尿の色が濃い 口唇や舌が乾いている 皮膚や口腔内が乾燥している 立ちくらみがある 脈が速い 血圧がいつもより低い ぼんやりしている 食事や水分が取れていない 嘔吐がある場合は、一度に多く飲むと吐き気が強くなることがあります。少量ずつ、こまめに水分を摂れるか確認します。経口補水液を使う場合は、基礎疾患や水分制限の有無にも注意し、必要に応じて医師や看護師に確認しましょう。 在宅での観察ポイント 訪問看護や介護の現場では、症状だけでなく、発症前後の食事内容や生活状況を確認します。食中毒は原因の特定が難しいこともありますが、以下の情報を整理しておくと、医師や保健所への相談時に役立ちます。 症状が始まった日時 主な症状 下痢や嘔吐の回数 便の性状 血便の有無 体温 腹痛の部位と強さ 水分摂取量 食事摂取量 尿量と尿の回数 食べたもの 同じものを食べた人の症状 服薬状況 基礎疾患 普段の状態との違い たとえば、以下のように記録すると共有しやすくなります。 「昨日夕食後から吐き気あり。本日朝までに嘔吐3回、水様便4回。体温37.8度。水分は少量ずつ摂取できているが、尿は朝から1回のみ。昨日、家族と同じ刺身を摂取。家族1名にも下痢あり。」 このように、「いつから」「何回」「何を食べたか」「水分と尿量はどうか」をまとめると、状態の変化が伝わりやすくなります。 感染を広げないための対応 食中毒の原因によっては、家庭内や施設内で感染が広がることがあります。特にノロウイルスは、ふん便や吐ぶつから人の手などを介して二次感染することがあります。厚生労働省は、ノロウイルスの感染経路として、感染者のふん便や吐ぶつからの二次感染、食品取扱者を介した食品汚染、加熱不十分な二枚貝、消毒不十分な水などを挙げています。感染拡大を防ぐためには、手洗い、吐ぶつやふん便の適切な処理、調理器具の洗浄、食品の十分な加熱が大切です。厚生労働省は、ノロウイルス対策として、調理器具や食器、ふきんなどを洗剤で洗い、熱湯85度以上で1分以上加熱する方法などを紹介しています。在宅では、トイレやドアノブなど、手が触れやすい場所の清掃も重要です。介助者が処理を行う場合は、手袋やマスクを使用し、処理後は石けんと流水で手を洗います。 食中毒を予防する基本 食中毒予防の基本は、菌やウイルスを「つけない」「増やさない」「やっつける」ことです。政府広報オンラインでも、家庭での食中毒予防として、食品の購入、保存、下準備、調理、食事、残った食品の取り扱いなど、各場面で注意することを紹介しています。具体的には、以下のような対策があります。 調理前や食事前に手を洗う 生肉や魚を扱った調理器具を使い回さない 食品を室温に長時間置かない 冷蔵・冷凍が必要な食品は早めに冷蔵庫・冷凍庫に保存する 肉や魚は中心部まで十分に加熱する 残った食品は早めに冷やし、十分に再加熱して食べる 消費期限を確認する 体調不良時は調理を控える 訪問看護では、利用者さんや家族の調理環境、冷蔵庫の管理、食事の保存方法なども確認できる範囲で見ておくとよいでしょう。 まとめ 食中毒では、下痢、腹痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状がみられます。原因によって、食後すぐに症状が出る場合もあれば、数日後に発症する場合もあります。在宅ケアでは、症状だけでなく、発症した時間、食べたもの、下痢や嘔吐の回数、水分摂取量、尿量、普段との違いを確認することが大切です。血便、強い腹痛、高熱、水分が取れない、尿量が少ない、ぐったりしているなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。食中毒は、予防と早期対応が重要です。日ごろから手洗い、食品の適切な保存、十分な加熱を意識し、症状が出たときには脱水や重症化のサインを見逃さないようにしましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】● 厚生労働省:「食中毒」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html,2026/8/10閲覧● 厚生労働省:「感染性胃腸炎(特にノロウイルス)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/norovirus.html,2026/8/10閲覧● 厚生労働省:「食事にひそむキケン~おいしく安全に食べるヒント」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202406_003.html,2026/8/10閲覧● 政府広報オンライン:「食中毒予防の原則と6つのポイント」https://www.gov-online.go.jp/article/20110602/entry-8196.html,2026/8/10閲覧● CDC:「Food Poisoning Symptoms」https://www.cdc.gov/food-safety/signs-symptoms/index.html,2026/8/10閲覧

血管内脱水とは?在宅での観察ポイント
血管内脱水とは?在宅での観察ポイント
コラム
2026年8月4日
2026年8月4日

血管内脱水とは?在宅での観察ポイント

血管内脱水とは、血管の中を流れる水分が不足し、循環血液量が低下している状態を指します。一般的な「脱水」は体全体の水分不足として捉えられますが、血管内脱水では、血管内の水分が少なくなることで、血圧低下や頻脈、尿量減少、意識状態の変化などがみられることがあります。訪問看護や在宅ケアの現場では、利用者さんの口渇や皮膚の乾燥だけでなく、血圧、脈拍、尿量、むくみ、意識状態などをあわせて観察することが大切です。この記事では、血管内脱水の基本的な考え方、起こりやすい原因、在宅で確認したいポイントを解説します。 血管内脱水とは 血管内脱水とは、血管内の水分が不足している状態です。体内の水分は、主に細胞内、細胞と細胞の間にある間質、血管内に分かれて存在しています。血管内の水分が不足すると、全身に血液を十分に送ることが難しくなります。その結果、血圧が下がる、脈が速くなる、尿量が減る、手足が冷たくなるなどの変化が起こることがあります。MSDマニュアルでは、体液量減少が中等度になると起立時の頻脈や低血圧がみられることがあり、重度では頻呼吸、頻脈、低血圧、混乱、毛細血管再充満時間の延長などのショック徴候が起こりうるとされています。ただし、血管内脱水は見た目だけでは判断しにくいことがあります。たとえば、体にむくみがあっても、血管内の水分が不足している場合があります。そのため、「むくんでいるから脱水ではない」と決めつけず、全身状態を総合的に確認することが大切です。 一般的な脱水との違い 一般的に脱水というと、水分摂取不足、発汗、下痢、嘔吐などによって、体内の水分が不足している状態を指します。一方で、血管内脱水は、特に血管内を流れる水分量の不足に注目した考え方です。在宅ケアでは、専門的な分類を厳密に判断するよりも、循環が保たれているかを観察することが重要です。血圧低下、頻脈、尿量減少、立ちくらみ、意識のぼんやり感などがある場合は、血管内の水分不足が関係している可能性があります。 血管内脱水が起こる原因 血管内脱水は、水分や電解質の喪失、血管内から間質への水分移動、出血などによって起こることがあります。代表的な原因には、以下があります。 下痢 嘔吐 発熱や発汗 水分摂取量の低下 利尿薬の使用 出血 感染症 炎症による血管透過性の亢進 低栄養や低アルブミン血症 熱傷 心不全や腎機能低下などの基礎疾患 感染症やDICなどで血管内皮が障害されると、血管内の水分が間質に流出し、体は浮腫状態でも血管内は脱水になることがあります。 細胞外液を補う目的で、等張電解質輸液が血管内や組織間に水分・電解質を補給する輸液として使われることがあります。大塚製薬工場の解説では、等張電解質輸液は細胞外に分布して細胞外液量を増やすため、細胞外液補充液とも呼ばれるとされています。 細胞外液補充液等に反応しない患者、低アルブミン血症があるなど特定の状況下では、アルブミン製剤が使用される可能性もあります。 在宅でみられやすいサイン 血管内脱水では、循環血液量が不足することで、さまざまなサインが現れます。訪問看護や介護の現場では、以下のような変化に注意します。 立ち上がったときにふらつく 血圧がいつもより低い 脈が速い 尿量が少ない 尿の色が濃い 口の中が乾いている 皮膚や舌が乾燥している 手足が冷たい 倦怠感が強い ぼんやりしている 反応が鈍い 食事や水分がとれていない 特に、呼吸困難や呼吸促迫、過度の発汗、意識レベルの低下、低血圧、体温の低下、チアノーゼがみられる場合は、ショック状態を示す重篤な症状の可能性があるため、早急に医師へ報告する必要があります。 ただし、高齢者では症状がはっきり出にくいことがあります。普段より元気がない、食事量が落ちている、反応が遅い、尿量が少ないなど、小さな変化を見逃さないことが大切です。 むくみがあっても注意が必要 血管内脱水で特に注意したいのは、むくみがある場合です。一般的には、むくみがあると「水分が多い状態」と考えがちです。しかし、間質に水分がたまっていても、血管内の水分が不足している場合があります。 たとえば、低栄養や低アルブミン血症、炎症、感染症などでは、血管内に水分を保ちにくくなり、間質に水分が移動しやすくなります。その結果、足や手はむくんでいるのに、血管内の水分は不足していることがあります。 日本腎臓学会誌の解説でも、浮腫は間質に水分が貯留して腫れている状態であり、必ずしも体全体の水分量増加と同じではないと説明されています。 在宅では、むくみの有無だけで判断せず、血圧、脈拍、尿量、体重変化、呼吸状態、食事・水分摂取量などをあわせて観察します。 観察するときのポイント 血管内脱水が疑われる場合は、以下の項目を確認します。 バイタルサイン 血圧、脈拍、体温、呼吸数、SpO2を確認します。特に、普段より血圧が低い、脈が速い、呼吸が速い、発熱がある場合は注意が必要です。頻脈は低容量状態で循環を保つための代償反応としてみられることがあります。 尿量と尿の色 尿量が減っている、尿の色が濃い、排尿回数が少ない場合は、体内の水分不足を示すサインのひとつです。特に、普段と比べて明らかに尿量が少ない場合は、早めに医師や看護師へ報告します。 皮膚・口腔内の状態 口唇や舌の乾燥、皮膚の乾燥、皮膚の張りの低下などを確認します。ただし、高齢者では皮膚の張りがもともと低下していることもあるため、これだけで判断しないようにします。 意識状態 ぼんやりしている、会話がかみ合わない、呼びかけへの反応が鈍いなどの変化がないか確認します。体液量の減少が重くなると混乱などがみられる場合があります。 食事・水分摂取量 食事量や水分摂取量が減っていないかを確認します。暑い日、発熱時、下痢や嘔吐があるときは、普段と同じ量の水分でも不足することがあります。 医師へ報告するときの内容 血管内脱水が疑われる場合は、観察した内容を整理して報告します。一時点の情報だけで伝えるのではなく、経過と普段との差をあわせて伝えると、状態が共有しやすくなります。 報告時には、以下の内容をまとめます。 いつから変化があるか 食事量、水分摂取量 尿量、尿の色、排尿回数 血圧、脈拍、体温、呼吸数、SpO2 立ちくらみやふらつきの有無 下痢、嘔吐、発熱、発汗の有無 むくみの有無 体重の変化 意識状態の変化 服薬状況 利尿薬の使用有無 基礎疾患 普段の状態との違い たとえば、以下のように記録します。 「昨日から食事量が半分程度。水分摂取は約500mL。尿量少なく、尿色濃い。訪問時、血圧92/58mmHg、脈拍104回/分。立ち上がり時にふらつきあり。発熱なし。普段より反応がやや遅い。」 このように書くと、血管内脱水が疑われる状況を具体的に伝えやすくなります。 早めの相談が必要な状態 以下のような場合は、早めに医師や救急へ相談します。 意識がぼんやりしている 呼びかけへの反応が悪い 血圧が大きく低下している 脈が速く、状態が改善しない 尿がほとんど出ていない 強いふらつきがある 発熱、下痢、嘔吐が続いている 手足が冷たく、顔色が悪い 息苦しさがある 出血が疑われる むくみが強いのに尿量が少ない 重度の体液量減少では、頻呼吸、頻脈、低血圧、混乱、毛細血管再充満時間の延長などのショック徴候が現れ、ショックにつながる可能性があります。 在宅では、状態の変化を見つけた時点で早めに相談することが、重症化を防ぐために重要です。 まとめ 血管内脱水とは、血管内の水分が不足し、循環血液量が低下している状態です。水分不足だけでなく、感染症、炎症、出血、利尿薬の使用、低栄養、むくみを伴う病態などでも起こることがあります。 訪問看護や在宅ケアでは、口渇や皮膚の乾燥だけでなく、血圧、脈拍、尿量、意識状態、むくみ、食事・水分摂取量をあわせて観察することが大切です。特に、むくみがある場合でも血管内脱水が隠れていることがあるため、見た目だけで判断しないようにしましょう。 利用者さんの普段の状態を知り、小さな変化を具体的に記録することが、早期発見と適切な対応につながります。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】●NsPace:「血管内脱水」https://www.ns-pace.com/glossary/volume-depletion/,2026/7/30閲覧●MSDマニュアル プロフェッショナル版:「体液量減少」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-内分泌疾患と代謝性疾患/水代謝/体液量減少,2026/7/30閲覧●Cleveland Clinic:「Hypovolemia」.https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22963-hypovolemia,2026/7/30閲覧●日本輸血・細胞治療学会:「科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用ガイドライン(改訂第3版)」https://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/uploads/2024/07/070030406.pdf,2026/7/30閲覧●StatPearls:「Fluid Management」.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK532305/,2026/7/30閲覧●日本腎臓学会:「浮腫と脱水,濃縮と希釈の考え方」(佐々木成,日腎会誌 2008;50(2):97-99).https://jsn.or.jp/journal/document/50_2/097-099.pdf,2026/7/30閲覧●大塚製薬工場:「水・電解質輸液」.https://www.otsukakj.jp/healthcare/iv/electrolytes/,2026/7/30閲覧

認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応
認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応
特集
2026年7月14日
2026年7月14日

認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回のテーマは認知症です。東京ふれあい医療生活協同組合 オレンジほっとクリニック 東京都地域連携型認知症疾患医療センター長の平原佐斗司先生に、認知症の緩和ケアにおける課題の中から、スピリチュアルペインへの対応、BPSDのとらえ方、末期認知症の苦痛への支援などを中心に、その考え方や実践のあり方について解説いただきます。 認知症の緩和ケアにおける課題 認知症の緩和ケアアプローチとは、「単に身体的苦痛をとる治療やケアにとどまらず、認知症の行動・心理症状(BPSD)、合併する疾患、および健康問題に対する適切な治療を含む、認知症のすべての治療とケアを意味する」1)と定義されています。ここでいう緩和ケアアプローチとは、緩和ケアに特化していない環境で、日常のケアの中に、緩和ケアの手法や手順を統合するための方法を指します。つまり、在宅で認知症ケアに関わるあらゆる専門職が身に着けておくべき考え方や手法であるといえるでしょう。 わが国における認知症に対する緩和ケアの課題は、以下に示すとおり多岐にわたります。 摂食嚥下障害など食にまつわる課題 末期の肺炎の苦痛に対する緩和ケア 終末期の褥瘡 疼痛など重度から末期の身体的苦痛への対応 合併症・併存症の急性期の痛みや呼吸苦などの苦痛 BPSDとして表出される身体的心理的苦悩への対応 心不全、骨折などの併存疾患のマネジメントと全身管理 うつ、不安、不眠、孤独などの精神的な苦痛への対応 認知症の人がもつスピリチュアルペイン(実存的苦痛)への対応 独居、経済的困窮、セルフネグレクトなど社会的な苦痛への対応 身体拘束を含む医療行為に伴う苦痛への対応や治療負担(treatable burden)への配慮 認知症の人の苦痛の評価法の確立 認知症の告知に伴う苦痛への配慮 本人本位のACP(アドバンスケアプランニング)推進 認知症の人の家族ケア 遺族の悲嘆ケア 経済社会的状況によるケアの格差 など さらに、認知症の緩和ケアのニーズは、2016年から2060年の間に世界で4倍近く、先進国でも3倍以上に増加し、特に日本などの東アジア地域で急増する2)といわれています。このため、ニーズの急増に対応していくことも今後の緩和ケアにおける最大の課題と考えられています。 スピリチュアルペインへの対応 認知症の人の言葉や行動の裏には、その人の心の痛みや苦悩があると理解されるようになり、認知症の人のスピリチュアルペインが注目されています。診断後早期のスピリチュアルペインを和らげることは、緩和ケアの観点からも重要です。 認知症の人は、認知機能の低下による日常生活の失敗から、自尊感情や自己効力感の低下、アイデンティティ(自分が自分らしくあること)の喪失を経験しており、「自己の存在の意味の消滅から生じる苦痛(スピリチュアルペイン)」を感じているのです。 認知症の人のスピリチュアルペインへのアプローチはまだ確立されたものはありませんが、生活障害に対するタイミングのよい支援、その人の視点に立った理解と共感に満ちたコミュニケーション、peer support(同じ立場の方々との交流)などが大切になります。 BPSDを緩和ケアの視点でとらえる BPSDは「本人が現実の世界に適応しようと、もがき苦しんでいる徴候ととらえるべき」と考えられるようになってきています。また、BPSDを認めた認知症の人の3分の2に疼痛が認められ、そのうちのほぼ半数が中等度から重度の疼痛を経験しており、BPSDは認知症の人の病態の変化や苦痛を表すサインであることも少なくありません。 つまり、BPSDの出現や増悪には病態の変化や苦痛の存在、薬物の影響などが要因となっていることが多いため、まずは病態や苦痛のアセスメントが優先されます。BPSDイコール精神科、抗精神病薬という短絡的な対応は厳に慎むべきです。 ご本人のストレスの原因となっている環境を調整するなど非薬物療法を優先させること、その上で薬物療法が必要な場合も、可能な限り安全性の高い薬剤を優先させるといった工夫が必要です。 急性期入院に伴う緩和ケアの視点 認知症の人は、感染症や骨折などの急性疾患を発症しやすく、しばしば入院治療が必要となります。身体合併症を有した認知症の人が急性期病院に入院した場合、疾患に伴う苦痛に加えて、検査や治療に伴う多様な苦痛を経験します。 認知症を有する人は、入院時に2.3~4.7倍せん妄を起こしやすいとされています3)。そして、せん妄発症者の死亡リスクは1.95倍、施設入所リスクは2.4倍で、入院中にせん妄を発症した人の認知症発症リスクは12.52倍に及ぶといいます4)。 また、一般病院に入院した認知症の人、あるいはその疑いがある人の44.5%が何らかの身体拘束を受けています5)。身体拘束は廃用や転倒などの合併症や併存症を生み、認知症の人のADLやQOLを低下させます。 このような入院の害(入院関連機能障害)を考え、急性期においては、まず不要な入院を避け、可能であれば暮らしの場で治療を継続できるようにすることが必要です。仮に急性期に入院治療を行う場合も、身体拘束最小化に取り組んでいる医療機関、治療よりもケアの質がよい医療機関を選択することが大切になります。 末期認知症の人の苦痛評価 アルツハイマー型認知症(AD)の人の疼痛の感受性に関するメタアナリシスなどから、認知症の人も強い苦痛を感じている6)ことが明らかになっています。つまり、重度認知症の人は、痛みを表現することが困難となっているだけであり、決して苦痛を感じなくなっているわけではありません。しかし実際には、進行した認知症の人の苦痛は、しばしば見過ごされたり、過小評価されているために、適切な治療やケア、あるいは緩和ケアに結びつきにくい現状があります。 苦痛の表現が困難な末期認知症の人の苦痛に気付くためには、苦痛の客観的評価法の活用が必要であり、海外では多くの客観的評価法が開発されています。 わが国で客観的評価法を利用するためには、言語妥当性が検証された日本語版が開発されていること、項目数が数個程度等日常臨床で用いやすいことが条件になります。これらの条件を満たす客観的評価としては以下があります。 【痛みの客観的評価】 日本語版PAINAD アビー痛みスケール日本語版 など 【呼吸困難の客観的評価】 RDOS modRDOS-4(図1) 図1 日本語版 modRDOS-4と観察項目 Wong RX,Shirlynn H,Koh YS,et al.:Exploration and Development of a Simpler Respiratory Distress Observation Scale (modRDOS-4) as a Dyspnea Screening Tool:A Prospective Bedside Study.Palliat Med Rep 2021;2(1):9-14.平原佐斗司,鈴木みずえ,金盛琢也,他:言語妥当性が担保された日本語版 modRDOS-4 の開発~在宅ケアや施設で使用できる呼吸困難の客観的評価尺度~.日在宅医療連会誌 2023;4(4):9-15. さらに、われわれは、在宅や施設、病院などで多職種で用いることができる苦痛評価プロトコールを開発しました(図2)。このようなプロトコールを用いることで、認知症ケアにかかわる全専門職が認知症の人の苦痛に早期に気付くことを狙っています。図2 重度~末期認知症の人の苦痛評価プロトコール(改定案) 末期認知症の緩和ケア:食支援、呼吸困難への対応 末期認知症では、食思不振と嚥下障害、肺炎からくる呼吸困難や咳嗽・喀痰などの呼吸器症状、疼痛、長期臥床に伴う褥瘡などの苦痛の緩和が必要になります。 末期の嚥下障害に対してはComfort feeding only(CFO)の考え方に基づく食支援を行います。CFOは認知症末期の経口摂取の在り方として提唱された考え方と実践法であり、食支援の目的を「栄養補給」とするのではなく、「本人の楽しみ」「Comfort(快適さ)」とする考えに立っています。つまり、食べることの目的は、あくまで「食べることが本人にとって快適かどうか」です。不快でないかぎり食支援を継続しますが、不快であればただちに中止し、ほかの心地よいケア(声かけやタッチセラピー、手浴・足浴、音楽、アロマ、こまめな口腔ケアなど)を行います。 末期認知症の緩和ケアのもう一つの課題は、肺炎による呼吸困難です。末期認知症の人の最大3人に2人が、肺炎を合併して死亡していると考えられています。そして、肺炎を合併して死亡した人は、食べられなくなり自然に亡くなった人に比べ、呼吸困難や不快感などの苦痛がはるかに大きい7)ことが報告されています。 末期の肺炎の苦痛緩和に対して輸液や抗菌薬をいつまで継続すべきかについては、エビデンスが不足しているため、個別の状況に基づき判断せざるを得ません。判断が困難な場合、時間を定めて治療を行い、その治療が患者さんの穏やかさに貢献したか否かを判断する方法(Time limited trial:TLT)を試みます。 また、末期認知症の人の肺炎合併時にみられる呼吸困難に対するオピオイドの有効性を示す、質の高い研究は認められませんが、国内外の指針・ガイドラインではオピオイド投与が推奨されています8)。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)略語:フルスペル(日本語)BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia(行動心理症状)ACP:advance care planning(今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス)ADL:activities of daily living(日常生活動作)QOL:quality of life(生活の質)AD:alzheimer's disease(アルツハイマー型認知症)PAINAD:pain assessment in advanced dimentia(ペインアド)RDOS:respiratory distress observation scale(呼吸困難の客観的評価)COF:comfort feeding only(認知症末期の経口摂取の在り方として提唱された考え方と実践法。食の支援の目的を栄養補給とするのではなく、本人の楽しみ、Comfort(快適さ)とする考え)TLT:time limited trial(時間を定めて治療を行い、その治療が患者の穏やかさに貢献したか否かを判断する方法) 執筆:平原 佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センターオレンジほっとクリニック 東京都地域連携型認知症疾患医療センター長1987年に島根大学医学部卒。現在、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター長ならびに、同オレンジほっとクリニック 地域連携型認知症疾患医療センター長として在宅医療、認知症診療に従事。専門は、在宅医療、非がん疾患の緩和ケアで、研修・研究センターでは在宅医療専門医・指導医として、多くの在宅専門医の育成を行う。学会活動では、日本在宅医療連合学会 代表理事、日本認知症の人の緩和ケア学会 理事長、日本エンドオブライフケア学会 副理事長を務めている。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)van der Steen JT, Radbruch L, Hertogh CM, et al.:White paper defining optimal palliative care in older people with dementia: a Delphi study and recommendations from the European Association for Palliative Care.Palliat Med 2014;28(3):197-209.2)Sleeman KE,de Brito M,Etkind S,et al.:The escalating global burden of serious health-related suffering: projections to 2060 by world regions, age groups, and health conditions.Lancet Glob Health 2019;7(7):e883-e892.3)Inouye SK,Westendorp RG,Saczynski JS:Delirium in elderly people.Lancet 2014;383(9920):911-922.4)Witlox J,Eurelings LS,de Jonghe JF,et al.:Delirium in elderly patients and the risk of postdischarge mortality,institutionalization,and dementia:a meta-analysis.JAMA 2010;304(4):443-451.5)中西三春:一般急性期病院における認知症ケア.老年看 2018;23(2):44–48.6)Stubbs B,Thompson T,Solmi M,et al.:Is pain sensitivity altered in people with Alzheimer's disease? A systematic review and meta-analysis of experimental pain research.Exp Gerontol 2016;82:30-38.7)van der Steen JT,Mehr DR,Kruse RL,et al.:Predictors of mortality for lower respiratory infections in nursing home residents with dementia were validated transnationally.J Clin Epidemiol 2006;59(9):970-979.8)国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター:在宅における末期認知症の肺炎の診療と緩和ケアの指針.https://www.ncgg.go.jp/hospital/news/documents/01zaitaku.pdf2026/2/18閲覧

肝不全の緩和ケアがよく分かる 病態・症状対応・意思決定支援
肝不全の緩和ケアがよく分かる 病態・症状対応・意思決定支援
特集
2026年6月30日
2026年6月30日

肝不全の緩和ケアがよく分かる 病態・症状対応・意思決定支援

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるために、訪問看護師が知っておきたい知識・視点を整理します。今回のテーマは「肝不全」。黄疸や肝性脳症など肝不全特有の症状とその観察項目・対応方法、在宅での意思決定支援における訪問看護師の役割について、梶原診療所の谷田貝 昂先生に分かりやすく解説していただきます。 肝不全とは~病態と終末期のとらえ方~ 肝不全とは、種々の肝疾患により高度の肝機能低下が起こり、黄疸・皮膚掻痒症、肝性脳症、腹水、出血傾向など多彩な臨床症状が生じる状態です1)。肝不全の代表的な原因疾患は肝硬変であり、その背景にはウイルス性肝炎(B型肝炎・C型肝炎)、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患などがあります。 肝硬変は、長期にわたり無症状で経過する代償期を経て、非代償期に移行すると腹水や肝性脳症、食道静脈瘤出血、肝癌などの合併症を呈し、QOLが急激に低下します。 肝硬変の予後を予測する上では「Child-Pugh(チャイルド・ピュー)スコア」と「MELDスコア」が代表的な指標です。Child-Pughスコアは代償期、非代償期の予後予測に優れ(表1、2)、MELDスコアは非代償期の予後予測の精度が高いとされています2)(表3)。特に、MELDスコアが30を超えると3ヵ月以内の死亡率は50%に達するという報告もあり3)、緩和ケアの導入が求められる時期に入ります。 表1  Child-Pugh スコア 判定基準1点2点3点アルブミン(g/dL)3.5超2.8以上3.5以下2.8未満ビリルビン(mg/dL)2.0未満2.0以上3.0以下3.0超腹水なし軽度 コントロール可能中等度以上 コントロール困難肝性脳症(度)なし1~23~4プロトロンビン時間(秒、延長)(%)4未満(70超)4以下6以上(40以上70以下)6超(40未満) 5~6点:Child-Pugh 分類A、7~9点:Child-Pugh 分類B、10~15点:Child-Pugh 分類C文献4)より引用 表2 Child-Pugh スコアと⽣存率 12ヵ⽉24ヵ⽉Child-Pugh 分類 A95%90%Child-Pugh 分類 B80%70%Child-Pugh 分類 C45%38%⽂献5) を参考に作成 表3  MELDスコアと3ヵ月後の患者死亡率 MELD スコア3ヵ月後の患者死亡率<91.9%10~196.0%20~2919.6%30~3952.6%40<71.3%文献6)を参考に作成 MELDスコアはインターネットなどで計算可能。▼MDCalc :MELD(UNOS/OPTN).https://www.mdcalc.com/calc/2693/meld-score-original-pre-2016-model-end-stage-liver-disease QOLを脅かす主要症状とケア・治療の基本 肝不全の患者は、苦痛につながる複数の症状を同時に抱えることが多く、QOLを著しく損ないます。肝不全特有の症状とケア・治療については以下のとおりです。 黄疸・皮膚掻痒症 肝不全による黄疸の症状に皮膚掻痒症があり、皮疹を認めないにもかかわらず、全身性にかゆみが生じます。強いかゆみは日常生活の活動性や睡眠を妨げることがあるため、ケアとして保湿や冷却などを適切に行うことが大切です。抗ヒスタミン薬は皮膚掻痒症に適応がある薬剤ですが、慢性肝疾患患者の症状改善には不十分であったという報告もあり、大規模な臨床試験は報告されていません3)。既存治療が奏功しない皮膚掻痒症に対してはナルフラフィンの投与が検討されます3)。 肝性脳症 アンモニアに代表される中毒物質の代謝・排除障害により発生する精神神経症状です。精神状態の変化や羽ばたき振戦、意識障害などの症状を認めます。便秘や脱水、タンパク質の過剰摂取、感染、消化管出血、鎮静剤の過剰投与などが誘因となるため、排便コントロールや食事・水分の管理などが大切です。家族が最初に異常に気がつくこともあり、訴えに耳を傾けることも重要です。薬物治療は、肝不全用成分栄養剤、合成二糖類(ラクツロース)、難吸収性抗菌薬(リファキシミン)、カルニチン製剤(レボカルニチン)などの投与を行います。 腹水・浮腫 低アルブミン血症や門脈圧亢進などの機序により、腹部膨満感、食欲低下、呼吸困難感などが見られ、会話や歩行といった日常動作にも支障をきたします。これらの自覚症状や体重・腹囲を指標として、塩分制限と利尿薬の調整を行うことが治療の基本です。難治例には、定期的な腹水穿刺・排液が行われることもあります。また、腹水がある患者が発熱した際には、腹腔内の細菌感染である特発性細菌性腹膜炎の可能性も考慮し、抗菌薬による治療を行います。 消化管出血 食道胃静脈瘤や門脈圧亢進症性胃症、消化性潰瘍を有する患者では、出血すると急変する可能性があります。黒色便で発見されることもあるため、便の色や血圧低下、頻脈などを日々チェックします。数ヵ月以上の予後が見込まれる場合には、緊急内視鏡治療によって延命できる可能性があるため、緊急時の体制を整えておくことが重要です。 疼痛 肝不全の患者では、肝がんの合併による疼痛や、腹水による圧迫感が生じることがあります。鎮痛薬はアセトアミノフェンが第一選択です7)。NSAIDsは腎障害や血液凝固障害により消化管出血の原因となる可能性があるため、投与は慎重になるべきです。また、オピオイド系鎮痛薬のほとんどは肝臓で代謝を受けるため、肝不全の患者に対しては投与量や投与間隔を調整して使用する必要があります7)。 訪問看護でできる観察項目と対応の例 訪問看護師は患者の変化を観察し、多職種や家族と連携して病状の悪化を防ぐ上で重要な役割を担います。以下に主要な観察項目と対応の例を示します。 (1)黄疸、皮膚の状態と掻痒感の訴え 【観察項目】皮膚や眼球の黄染、乾燥、引っかき傷、夜間の不眠の訴えなど。【対応】保湿剤や軟膏の使用状況を確認します。引っかいてしまう場合には、爪を切ったり、衣服を工夫したりする(ウールや化学繊維を避ける)とよいでしょう。改善しない場合にはナルフラフィンなどの薬剤調整について医師と相談します。 (2)意識状態と認知機能の変化(肝性脳症の兆候) 【観察項目】会話の受け答えが遅い、言動のつじつまが合わない、昼夜逆転、羽ばたき振戦(手を伸ばして開いた状態で震える)など。【対応】家族に「普段と違う受け答えがないか」尋ねることが早期発見に役立ちます。食事は低タンパク食(0.5~0.7g/kg/日)を検討します。排便回数を確認(軟便で1日2回以上が目安)し、便秘がある場合は医師に報告してラクツロース製剤を中心とした便秘症治療薬の薬剤調整を提案します8)。 (3)腹部の膨満感(腹水貯留)や浮腫の程度 【観察項目】体重・腹囲の増加、下腿~足背のむくみ、歩行が不安定など。【対応】塩分制限(5~7g/日以下)、飲水制限を行います3)。また、体重や腹囲などを参考に医師に利尿薬の調整を相談します。腹水による症状が強い場合には、腹水穿刺も考慮されます。必要に応じて、苦しくないように体位の調整(ファーラー位やセミファーラー位など)を家族に提案することも有用です。下肢の浮腫に対しては弾性ストッキングの装着や足浴、リンパマッサージなどを行います。 (4) 排便・排尿の状況の確認 【観察項目】便の色・性状・回数、排尿回数・尿量。【対応】1日1~2回以上の排便が保てているかを確認し、便秘があれば早めに調整します。黒色便を認める場合には、消化管出血を考えて迅速に医師に報告してください。腹水貯留時には排尿回数と尿量に注意します。 上記の観察項目については、患者・家族にも繰り返し伝え、自己管理を促すことも訪問看護師の重要な役割です。また、精神的・心理的な不安感が強い患者には、傾聴を行い、安心感を提供します。さらに、家族の不安や介護負担にも目を向け、家族の「つらさ」に共感を示す声かけを意識しつつ、介護保険サービスの利用状況を確認し、ケアマネジャーとの連携も欠かせません。 在宅での意思決定支援 肝不全となり多彩な症状を認めるようになると、増悪・寛解を繰り返しながら慢性・進行性の経過をたどります。経過中に肝性脳症を認めて意思疎通が困難となることや、消化管出血などにより急変する可能性もあり、予測困難な経過をたどることが少なくありません。そのため、早期からアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を開始し、患者本人の意思を尊重した療養方針を明確にすることが重要です。 ACPでは、「どこで過ごしたいか」「どのような医療を望むか」「延命治療は希望するか」などを話し合い、多職種で共有することで、本人の価値観・人生観を尊重したケア・介護体制を構築します。 訪問看護師は日々の関わりの中で患者の本音を聞き取り、医師や家族に伝える橋渡し役となります。最期の時間を穏やかに過ごせるよう、ACPの継続的な見直しも含めて支援していきます。 * * * 肝不全の緩和ケアでは、黄疸・皮膚掻痒症、肝性脳症、腹水、出血傾向など、特有の症状が多く現れるため、それぞれの対応をあらかじめ考えて、家族と情報共有することが重要です。特に肝性脳症による意識障害や、消化管出血による急変に備えて、早期からのACPによる意思決定支援が欠かせません。 在宅療養の場では、訪問看護師が生活支援、多職種との連携、心理的サポート、症状緩和、意思決定支援までを担うことになり、その役割は非常に大きくなります。肝不全の患者が「自分らしく生きる」ことを支えるためには、訪問看護師の専門的かつ継続的な関与が必要不可欠です。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)QOL:quality of life(生活の質)MELD:mayo end stage liver disease(末期肝疾患重症度モデル)NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs(非ステロイド性抗炎症薬)ACP:advance care planning(アドバンス・ケア・プランニング) 執筆:谷田貝 昂東京ふれあい医療生協 梶原診療所 医師/医療法人社団 雄昂会 やたがいクリニック 副院長 獨協医科大学卒業後、順天堂大学医学部附属順天堂医院 消化器内科に入局。その後、東京ふれあい医療生協 梶原診療所にて訪問診療に従事。現在は、やたがいクリニック副院長として外来診療・内視鏡診療を行う一方、梶原診療所での訪問診療、ならびに東京都認知症疾患医療センター オレンジほっとクリニックにおいて外来診療を担当している。   編集:株式会社照林社 【引用文献】1)池田健次:ウイルス性肝硬変に対する抗ウイルス療法.日消誌 2010;107:8-13.2)松尾 裕一郎,坂井 正弘:肝不全・腎不全.medicina 2018;55(11):1806-1810.3)日本消化器病学会:肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版).南江堂,東京,2020.4)肝炎情報センター:肝硬変の程度の分類.https://www.kanen.jihs.go.jp/sick/kinds/kankouhen.html2026/1/23閲覧5)D'Amico G,Garcia-Tsao G,Pagliaro L:Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis:a systematic review of 118 studies.J Hepatol 2006;44(1):217-231.6)Wiesner R,Edwards E,Freeman R,et al:Model for end-stage liver disease (MELD) and allocation of donor livers.Gastroenterology 2003;124(1):91-96.7)内藤隆文:肝障害を合併する患者の薬物療法マネジメント 疼痛×肝障害.薬局 2020;71(13):3673-3677. 8)吉崎秀夫:肝不全. 日本エンドオブライフケア学会監修,平原佐斗司, 荻野美恵子編:エンドオブライフケア ,南山堂,東京,2022:282-287.

人工呼吸器装着後の安楽な姿勢とベッド周りの環境整備:当事者の知恵と工夫
人工呼吸器装着後の安楽な姿勢とベッド周りの環境整備:当事者の知恵と工夫
コラム
2026年6月9日
2026年6月9日

人工呼吸器装着後の安楽な姿勢とベッド周りの環境整備:当事者の知恵と工夫

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。最終回となる今回は、梶浦先生が受けてこられた質問の中で最も多かった人工呼吸器装着後の安楽な姿勢を保つ方法と、ベッド周りの環境整備のコツについてたっぷりご紹介いただきます。 本記事は、医療従事者の指導・管理のもとで行われている在宅医療の一例を紹介するものです。掲載されている医療機器の配置や使用方法を、一般の方が医療者の指示なく参考・模倣することは安全上のリスクがあります。在宅での医療機器管理については、必ず主治医や訪問看護師等の医療従事者にご相談ください。 はじめに ALS当事者や関係者の⽅々から最も多く寄せられた質問が、今回のタイトルです。 気管切開して⼈⼯呼吸器を付ける前のALS当事者にとって、装着後の⽣活がどのように変わるのかを想像することは難しいものです。人工呼吸器をつけても安楽に過ごせるのか。どのような環境整備が必要なのか。こうした情報は、人工呼吸器をつけて生きていくか否かの決断に大きく関わるにもかかわらず、調べてもなかなか出てきません。 私自身、これから⾃分がどうなっていくのかよく分からないながらも、死にたくない⼀⼼で、気管切開と人工呼吸器装着を決断しました。だからこそ、その後の生活で一番考えながら、改良を重ねてきたのもこのテーマだったのです。 ALSという病気は、症状も進行スピードも人によって違います。また、在宅療養環境(⽀援体制や⾃宅のスペースなど)もそれぞれの家庭で大きく異なります。⼀概に「こうしたほうがよい」とは⾔えず、教科書的に一括りにして扱うことが難しいのが実情です。 それゆえに、ALS当事者や関係者たちが、在宅での療養生活で実際に取り入れている知恵や工夫を持ち寄り、それを発信し、「いいな」と思った部分を⾃分の⽣活の中に取り⼊れていくしかないのだと思います。 そこで今回は、私が考えて、実践している⼯夫を紹介していきたいと思います。それぞれの状況に応じて参考にしていただければ幸いです。 安楽な姿勢の基本原則:接触面積を広くとる ⼈⼯呼吸器をつける前のALS患者を含む、重度の四肢体幹障害者に共通して重要なのは、 体と、⾞椅⼦・ベッドとの接触面積を広くとり、浮いている部分をできるだけなくす ということに尽きます。 これにより体圧が1ヵ所にかかり過ぎるのを防ぎ、分散することができ、身体への負担を最⼩限に抑えることができます。 座位での姿勢の工夫(図1) ⾞椅⼦に座るときやベッドの背もたれを起こしたときには、以下を意識します。 腰の部分が浮かないように、できるだけ深く座る 枕と⾸の間に隙間ができないよう、タオルや薄いクッションを丸めて入れる 図1 ベッド上での座位姿勢の工夫 側臥位での姿勢の工夫 クッションを活用し接触面積を広くとりつつ、足の骨同士が重ならないように気をつけています(図2)。 図2 側臥位での姿勢の工夫 ちなみに、私は毎晩、側臥位で寝ています。その際、空圧センサーにつま先を接地しておくようにし、ほんのわずかな⼒でもセンサーを押して、人を呼べるようにしています。センサーを押したら「反対側の側臥位へ体位変換してほしい」という合図です。 人工呼吸器をつけることで大きく変わること 人工呼吸器をつけると、気管孔と⼈⼯呼吸器が回路(ホース)で常につながるようになります。このホースが動いてしまうと、それが刺激になり、むせてしまったり、気管孔周囲に⾁芽組織*を形成する原因になったりします。そのため、ホースはできるだけ動かないように固定しておく必要があります。私がおすすめする固定⽅法は、胸元とベッドの2点で固定することです(図3)。 *肉芽組織:傷の治癒過程や慢性炎症の際に形成される、新しい結合組織と⽑細⾎管のこと。出血を伴うこともある。 図3 ホースの固定方法 ホースを胸元とベッドの2点で固定し、ホースができるだけ動かないように工夫している ホースの動きにさえ注意していれば、⼈⼯呼吸器をつける前と安楽な姿勢はあまり変わりません。私は人工呼吸器を装着したことで、呼吸苦から解放され、大きな安堵を感じました。 ベッド周りの環境整備と物品管理の工夫 ベッド周囲の環境は、部屋の広さやレイアウトによって変わる部分が⼤きいのですが、ここでは私が試⾏錯誤の末にたどり着いた「理想的な形」を書いていこうと思います。参考にしてみてください。 ベッド周りには⼈が⼊れるスペースを確保する 部屋を広く使うためにベッドを壁につけている⽅も少なからずいらっしゃいます。しかし、これは介助者にとっては、とてもやりにくい配置になります。 例えば、先述した側臥位の体位変換を左右均等に行うには、介助者がベッドの左右から行う必要があります。可能であれば、人が1人⼊れるくらいのスペースをどちらにも確保しておくことをおすすめします。 ■介護用電動ベッドとモーター数ちなみに、介護⽤電動ベッドはモーター数によって性能が変わります(表1)。モーター数が多いほど性能がよく、ALS患者のように介護度が高い場合、3モーター以上のモデルが推奨されます。 なお、要介護度によりますが、介護⽤電動ベッドは介護保険を利用してレンタルができます。 表1 電動ベッドのモーター数と機能 モーター数     機能           1モーター   背上げ(または脚上げとの連動)基本的な動作2モーター背上げ+脚上げ標準的な介護に対応3モーター背上げ+脚上げ+高さ高度な介護に対応。ベッドの高さが変えられるため、介護者の負担が軽減される4モーター以上背上げ+脚上げ+高さ+αベッド自体の傾斜が変更できる機能、立ち上がりサポート機能、体位変換機能など、さまざまな機能があり、より個々の細かいニーズに対応。 ベッド周りの物品は「厳選」し「コンパクトに配置」する ⼈⼯呼吸器を使用すると、人工呼吸器はもちろん、吸引器や排痰補助装置など、ベッドの周りに置いておく機器が増えます。限られたスペースの中で効率的に動けるよう、動線を考えてコンパクトにまとめることが大切です。 ■私の機器配置の工夫ここでは私が実際に配置している機器の配置⽅法をご紹介します(図4)。私は必要なものをできるだけコンパクトに置きたいため、1つのワゴンに人工呼吸器、吸引器、排痰補助装置、持続吸引器を載せています。⼈⼯呼吸器の加湿器もワゴンの⽀柱に固定してます。 図4 私の機器配置の工夫(一例として) ■カテーテルの保管方法⼝腔内と⿐腔内の吸引に必要なカテーテルは、洗濯バサミの⽳に通し、ワゴンの取⼿に固定して吊り下げています。気管カニューレ内を吸引するカテーテルは、特に清潔な状態を保つ必要があるため、壁から吊るして、⼈の⼿や身体などが触れない場所に保管しています。 在宅療養環境での一般的なカテーテルの保管⽅法としては、以下の2つが⽤いられることが多いです。私の場合、「(2)乾燥させて保管する方法」を採⽤しています。 (1)清潔な容器で保管する方法清潔な蓋つきの保存容器、または未開封の専⽤パック・滅菌袋に入れて保管する⽅法です。容器を再利用する場合は、十分に洗浄・乾燥させてから使用します。(2)乾燥させて保管する方法(私が採用している方法)風通しのよい場所で自然乾燥させて保管する方法です。カテーテルは水分が残ると細菌が繁殖しやすいため、しっかり乾燥させます。 病院では、基本的に吸引カテーテルを1回使⽤したら捨てるのが原則かと思いますが、在宅医療の現場では、使用できる吸引カテーテルの数が限られています。数日使用してから交換するケースが⼀般的なため、私はこのような方法で管理しています。 ■吸引カテーテルの色分け吸引カテーテルは太さによってコネクターの⾊が違います。私は、緑色の14Frを口腔内用、白色の12Frを気管カニューレ内用、黒色の10Frを鼻腔内用として使用しています。原則「鼻用は黒」など、吸引する部位ごとに色を分けておくと、家族が使うときにも間違えなくてよいかと思います。 ■通水ボトルの管理方法カテーテルを使⽤した後は、カテーテルの内腔に水道水を通して洗浄する必要があります。この時に使う水も、私はペットボトルに入れて、フックを取り付け、ワゴンに吊り下げています。気管吸引用カテーテルを通水する水は清潔な状態を維持しないといけないため、常にペットボトルの蓋を締め、⼝腔用・⿐腔⽤のペットボトルと間違えないようにしています。また、ペットボトルの⽔が半分以下になったら中⾝を破棄し、新しい⽔に交換します。ペットボトル自体は、週1回、新しいものに交換しています。 カテーテルや通⽔ボトルの管理⽅法は、家庭ごとに異なります。ここで紹介した方法は、1つの例として参考にしてください。 「enjoy!ALS 2」最終回の最後に― ALSと診断された⼈は、必ず⼀度は「死」を意識するでしょう。これまでずっと、⽣きることに前向きな情報だけを発信してきた私もそうでした。⼈は死を⾝近に感じたときに、改めて⾃分の⼈⽣について振り返るものです。 それが⼀瞬の出来事であれば「⾛⾺灯」と呼ばれるものなのかもしれません。⾃分の⼈⽣について振り返ったときに、⾃分は⼗分⽣きたのか? ⾃分の⼈⽣は満⾜なものだったのか? という問いについて考えさせられることになります。 当時35歳の私は、医師としてのキャリアも順調で、愛する家族もでき、⼈⽣には「希望」しかありませんでした。それが突然、⾃分はALSという病気であり、あと数年で死ぬかもしれないという予測不能な無慈悲な現実に直⾯しました。そのとき、⾃分の希望に満ちた未来は「絶望」という⾔葉に置き換わりました。絶望の中から⼀筋の希望を探し出し、前向きに⽣きていくことは、⾔葉ではとうてい表現できないほど、とてもつらく⼤変なことでした……。 私は「⼈の役に⽴ちたい」という強い思いから医師になり、医師の仕事が⾃分の⽣きがいでした。私の中の⼀筋の希望は「死ぬまで医師として、誰かの役に⽴てるように⽣き続けていこう」という決意でした。そんな⾃分の希望を守っていくために、さまざまな⼯夫を凝らしながら、もがき続けました。対⾯診療ができなくなったら遠隔診療に切り替え、⼿でカルテが書けなくなったら、⻭でカルテを書いてきたのです。 これからもさまざまな困難に直⾯すると思いますが、そのつど⼯夫を凝らしながら、もがき続けていきたいと思っています。そして、精⼀杯⽣きて、⼈⽣の最後にただ愛する妻と息⼦に「パパがんばってたね! かっこよかったね!」と⾔ってもらえたら、きっと⾃分の⼈⽣はとても有意義で素晴らしいものだったと思えることでしょう。そんな⽣き⽅をしたいものです。 コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

特集
2026年6月2日
2026年6月2日

腹膜透析患者の在宅移行を支える地域連携――訪問看護師が知っておきたい「仙台モデル」の実践

腹膜透析(PD)患者さんの在宅移行を支えるとき、「この地域では誰と連携すればいいのか」「多職種とどうつながればよいのか」と悩む訪問看護師さんも多いのではないでしょうか。 今回はJMS帝人ホームメディカルケア株式会社のご協力のもと、宮城県仙台市で構築された先進的な地域連携の取り組みをご紹介します。「仙台モデル」が示す病院・在宅医・看多機の連携の形は、チームで在宅PDを支えるヒントが詰まっています。 ※本記事は2026年6月に公開されたものです。法令や制度、関連ガイドラインは変更される場合がありますので、最新情報をご確認ください。 ※本記事はJMS帝人ホームメディカルケア株式会社が制作したパンフレットを転載しています。 地域で支える腹膜透析(PD) 宮城県仙台市では、東北医科薬科大学病院 腎臓・高血圧内科を中心に、在宅医と看護小規模多機能型居宅介護(以下、看多機)施設が連携して、地域で腹膜透析(以下、PD)患者さんを支える「仙台モデル」を構築しています。 いかにして病院・診療所・介護施設の連携(病診介護連携)が構築されたのか、そして実際にどのように運用されているのか。東北医科薬科大学病院副院長の森 建文(もり たけふみ)先生と、セントケア看護小規模仙台中野 所長の川村 一美(かわむら ひとみ)氏にお話をうかがいました。 導入病院における在宅PD推進の取り組み 腎不全の療法選択 森: 当院では腎不全患者さんの療法選択について、「これからどのように生きたいのか」を中心にして検討を始めます。透析が必要になった患者さんの多くは高齢者ですから、どこで誰と暮らしたいのか、どのようなことが生きがいなのか、人生の最後をどのように過ごしたいのかを聞き取って、なるべく実現できるような療法を選択します。 院内で医師や看護師、ソーシャルワーカーや心理療法士もチームに入って、患者さんの要望を聞き取ることもあります。血液透析(以下、HD)のほうが有利であればHDを勧めますが、地域によってはHD施設への送迎がむずかしい場合もあります。また、血液透析困難症の方もいます。PDであれば体にやさしくできることがわかっているので、PDで透析プランを立てることがおのずと増えてきました。 PDをどこで行うのか 森: とはいえ高齢者が自身でPDをすべて完結するのはむずかしく、少し手伝う必要があります。家族が手伝うにしても、負担がかかりすぎては長続きしません。地域の社会資源を利用すれば、訪問看護師、看多機、在宅医と連携しているサービス付き高齢者住宅など、いろいろなシナリオを描くことができます。自宅をベースにして家族がPDを手伝う場合に受けられるサービス、施設に入所してPDを受ける場合など、いくつかの選択肢を提示できます。 病院で療法の説明を受けただけでは理解が追いつかないので、自宅で繰り返し視聴できるように療法の説明動画をWeb上にアップしています。家族といっしょに視聴して、本音で話し合うことも大切です。また、一度決めたとしても、変更は可能です。看多機を試したあとに施設に入ることもあれば、施設に入った方が自宅に帰ることもあります。その間に体の状態も変わってくるので、療法選択はずっと続いているとも言えます。 介護施設の新しい施設がオープンすると、スタッフが足を運んでPD患者さんの退院後の受け入れを依頼することもあります。連携する看多機では、PDの手技指導や術後管理を含めた出口部管理なども行います。PD患者さんを受け入れた看多機では、看取りまで経験すると、この医療が患者さんにとって有益であることをスタッフが理解して、やりがいを感じられるようです。訪問看護師も最初はPDの手技に不慣れでしたが、しだいに手応えを感じてもっと受け入れたいと声が上がるようになってきました。 在宅療法のメリット 森:たとえば認知症の症状が重い方は、病院では長く入院できないことがあります。長く入院していると認知症はさらに重くなり、体が動かなくなり、寝たきりになるリスクが高まります。病院では病気の治療はしますが、その間に高齢者は体の機能が落ちてしまい、しだいに半寝たきりになって、誤嚥性肺炎などで最期を迎えることさえあります。このような場合、できるだけタイムラグなく自宅に帰れる状況をつくったほうが、有利となるケースが少なくありません。不思議なことに、病院にいるときよりも自宅や施設で過ごすほうが、高齢者の体の動きはよくなります。病院では専門のリハビリ担当者がついて、生活動作を保つ訓練をしているのですが、それよりも退院して自宅や施設にいるほうが、高齢者は元気になっていきます。普段の生活リハビリの重要性がうかがい知れます。 患者さんを支える在宅医療 在宅医との連携 森: 治療方針が決まって、治療を継続する在宅医や看多機などのサポート態勢が整うと、在宅療法が始まります。在宅療法に入るときは病院のスタッフが訪問して、在宅医に引き継ぎます。在宅医の先生方は腎臓内科が専門とは限らないので、常に連絡が取れる態勢を整えています。 昨今の在宅医療は多くの薬剤を取り寄せて使用できるうえ、酸素吸入や超音波診断装置など在宅用の機材も増えてきています。病院内でしか行えなかった処置のなかには、在宅で可能になったものもあります。また、終末期の緩和医療は、薬剤の使い方や患者さんの生活状況の把握など、在宅医の先生方のほうが病院医よりもはるかに長けていることもあります。 診療報酬においては、在宅医がPDの管理料を算定した場合、これまでは病院側は算定できませんでした。2026年の診療報酬改定では病院側でも少し算定できる流れになっているので、病診の連携強化につながりそうです。 病診看多機連携と情報共有ツール 森: 私たちのPD地域連携では、病院と在宅医、看多機は常に専用の連絡アプリや電話で連絡を取り合っています。病院内ではこうしたツールの使用が許可されないので、主治医が直接病棟に行って指示を出す必要があります。看多機にはある程度予測されることは事前に打ち合わせがしてあり、急変したときにはオンライン連絡ツールや電話を駆使してタイムラグなく対応しています。施設であれば、連携している在宅医にデジタル連絡手段や電話で連絡して、管理してもらうことも可能です。 2026年4月からは、老人介護施設との連携を強化していきます。特別養護老人ホームとショートステイ、ケアハウスの3形態を運営している施設と近隣のクリニックと提携して、PDに限らず効率よく患者さんをサポートできるシステムの構築を目指しています。 在宅医療への思い 森: 市民公開講座で「みなさんどこで最期を迎えたいですか」と聞くと、たいていは自宅と答えます。ところが8割の方は、病院で亡くなっているのが現状です。われわれの調査によると、事前にしっかりと療法選択をして緩和医療を中心とした在宅医を積極的に手配していた群は、8割が自宅か家族が通える施設で最期を迎えていました。これに対して、普通に病院の外来に通っていた群は、8割が病院で亡くなっていました。つまり、事前にどれだけ準備するかが重要なのです。 これらのことを踏まえて、高齢の患者さんには「病院に長くいないで、早く帰りなさい」と伝えることがあります。家族は心配して「もう少し入院させてください」と言いますが、「長く入院すると患者さんが動けなくなります。早く帰ったほうが元気になります」と説明します。実際に、退院すると元気になる高齢者がたくさんいます。 退院をサポートする看護小規模多機能型居宅介護(看多機) 看護小規模多機能型居宅介護サービスの特徴 川村: 看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は2014年に開始された比較的新しい事業で、訪問介護、訪問看護、通い(デイサービス)、泊まり(ショートステイ)の4つのサービスを一体的に提供できる施設です。介護保険で運営されており、要介護1〜5の認定を受けた方が対象となります(要支援は対象外)。住み慣れた地域で、必要なサービスを一体的に提供できる点が特徴で、病院と自宅の中間的な役割を担います。介護報酬は包括報酬(定額制)のため、要介護1の方でも毎日訪問サービスを受けることが可能です。利用者の状態に応じた柔軟なサービス提供ができる点が、看多機の大きな特徴です。 PD地域連携を始めた経緯 川村: 当施設は2017年に開設しました。オープン前に地域のケアマネジャーや病院の連携室の方を招いて施設の内覧会を開いたところ、東北医科薬科大学病院の連携室の方から「PD患者さんの退院後の受け入れ先がない」と聞きました。私たちセントケアの基準では、人工呼吸器以外の医療行為であれば受け入れられます。看護師の在駐時間は7時〜19時で、それ以外の時間帯はオンコール態勢のため、定期的な医療行為が時間内に行えるのであれば対応は可能です。開設時の看護師にPD経験者はいませんでしたが、地域にニーズがあれば対応したいと受け入れを決めて、病院と勉強会を重ねて準備しました。2017年10月からPD患者さんの受け入れを開始して、以来常に4〜5名の登録者がいます。2026年2月までに、のべ18名のPD患者さんを受け入れています。 PD患者さんの在宅移行支援 川村: 東北医科薬科大学病院からの紹介患者さんがほとんどです。退院が決まると病院でカンファレンスが開かれて、病院側は主治医、病棟看護師、退院支援看護師、在宅医側は看護師、窓口担当者、看多機からはケアマネジャーと看護師が出席して情報共有します。患者さんや家族は、介護と看護を複合的に提供する看多機のサービスがよくわからない方が多いので、まずは見学に来てもらって退院後の不安を聞き取ります。 看多機の基本は自立支援なので、患者さんがPDの手技をどこまでできるか、家族はどこまでサポートできるか、不安に思うのは何か、全方向から見て、退院直後にどこで過ごすかを調整します。家族がPDに不安を抱えている場合は、患者さんが看多機に泊まって、家族には通ってもらって手技を伝えます。あるいは患者さんが自宅に帰って、毎日看多機に通ってPDの手技を覚えることもあります。病院には「手技は2〜3回教えてもらえれば十分で、100点ではなくてもセントケアへ送ってください」と伝えてあります。在宅になれば、長期的な視点で私たちがサポートします。トライ&エラーを繰り返しながら、高齢でも徐々にPDができるようになる方もいます。 在宅PDのメリット 川村: 病院で病衣を着てベッドで横になっている時と、自宅に帰って私服で看多機に通う時とでは、同一人物とは思えないほど様子が違う方がいます。血液データだけを見ると驚くほど悪い数値なのに、在宅PDを受けて生き生きと過ごす方が少なくありません。それは「在宅の力」、家で過ごすことによる力です。 在宅PD実践の現場から 在宅PDを実践している患者さんや家族の声 川村: 新型コロナウイルス感染症の流行下では、病院に入院した患者さんとの面会が制限され、手技の指導も制限がありました。家族に会えないのはさみしいという理由で在宅PDを選択する方が増えて、家族に手技を指導して、そのままずっとサポートして看取りまでしたケースもありました。パンデミックを契機に、在宅医療のあり方はずいぶん変化した印象があります。高齢夫婦の事例では、94歳の男性で毎日看多機に通ってPDを行い、手技もしっかりしている方がいました。週2回は自宅PDを体重スケールでできるようになりましたが、奥さんの不安が強いようすでした。「奥さんの仕事は、ご主人の具合が悪くなったときに看多機に電話をかけるだけですよ」という声掛けで、なんとか受け入れてくれました。患者さんや家族で完璧に手技ができなくても、私たちがフォローします。家族のレスパイト(一時的な休息・介護負担の軽減)も私たちの重要な役目です。 森: PDは身体への負担が比較的少ない療法です。寝たきりに近く、経口摂取が困難な患者さんでも、最低限のPDのみで生命維持が可能な方が多くいます。なかには全身状態が改善し、食事摂取が可能となって趣味に取り組めるようになった方や、家族と釣りに出かけられるようになった方もいます。眠るように最期を迎える方が多く、家族が気づかないうちに「息を引き取っていました」という連絡も少なくありません。 在宅医療・在宅介護には、患者さんと家族双方に大きな満足感をもたらす力があります。介護をやりきったという納得感が共有されることで、看取りの場面でも家族が穏やかに見送ることができます。本人が満足して最期を迎えられたと周囲が実感できることは、在宅医療の大きな意義です。自宅ベースでPDを続けるうえでは、看多機は最強のサポーターです。セントケアは全国の拠点でPDを受け入れるそうなので、今後は在宅PDの全国的な広がりを期待したいと思います。 まとめ 仙台モデルは、病院・在宅医・看多機が緊密に連携することで、高齢PDの患者さんが「住み慣れた地域で最期まで生きる」選択肢を広げた先進的な取り組みです。 訪問看護師や在宅医療に関わるみなさんにとって、看多機との連携がPD患者さんの在宅生活を支える力になることを、森先生と川村氏の言葉が示しています。 在宅医療の現場では、医療・介護・家族がつながることで「在宅の力」が生まれます。PDという医療行為を在宅で続けるためのチームケアのモデルとして、この仙台モデルが全国各地へと広がることを願っています。 「事前にどれだけ準備するかが重要」という森先生の言葉は、訪問看護師の皆さんにとっても同じではないでしょうか。PD患者さんが在宅で安心して生活を続けるために、地域のチームとつながることの意味を、仙台モデルが示してくれています。 「在宅×透析シリーズ」では、腹膜透析の基礎知識からトラブル対応、セルフケア指導まで、現場に役立つ情報を発信しています。ぜひ合わせてご覧ください。 森 建文(もり たけふみ)東北医科薬科大学病院 副病院長・腎臓内分泌内科 科長/東北医科薬科大学 内科学第三(腎臓内分泌内科)教授、医学博士。日本腎臓学会腎臓専門医・指導医、日本透析医学会透析専門医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本高血圧学会高血圧専門医・指導医川村 一美(かわむら ひとみ)セントケア看護小規模仙台中野 所長

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