セミナーレポートに関する記事

エンゼルケア応用編 ~お顔の状態別ケア~【セミナーレポート前編】
エンゼルケア応用編 ~お顔の状態別ケア~【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年6月17日
2025年6月17日

エンゼルケア応用編 ~お顔の状態別ケア~【セミナーレポート前編】

2025年3月14日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「エンゼルケア 応用編 ~状態別対応とコミュニケーション~」を開催しました。講師を務めてくださったのは、「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さん。顔や身体の状態に応じた対応のノウハウや、エンゼルケアの重要なポイントであるご家族とのコミュニケーションのコツなどを教えていただきました。 セミナーレポート前編では、状態別「お顔のケア方法」についてご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001年には、看護師としての経験をいかして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 お顔の状態別ケア「黄疸が出ている」 お身体に黄疸が出ている場合、「ビリルビン色素の酸化亢進」などが主な原因となって皮膚がくすむように変色します。その変化は一様に表れるわけではなく、眉毛やひげ、毛髪の生え際などに顕著に見られます。 こうした変化については、あらかじめご家族へご説明しておくことが大切です。説明文書の中に「黄疸によって肌色が変化する可能性がある」ことを明記しておくとよいでしょう。口頭での説明も可能ですが、タイミングを逃したり、十分に伝わらなかったりする場合もあるため、文書での案内もあわせて行うことをおすすめします。また、ご家族から後になって「肌色が変化している」とご連絡をいただいた場合は、黄疸による自然な変化であることやカバー方法について丁寧に説明してください。 肌色はいつ、どれくらい変化する? 黄疸による肌色の変化は、死後1日ほど経過してから強く表れることが多く、一般的には薄緑がかった色から濃いグレーになっていきます。 臨終時:黄色死後 24 時間から 36 時間ほど:淡緑色死後 36 時間から 48 時間ほど:淡緑灰色 しかし、変化には個人差が大きく、厳密に変化の度合いを予測するのは難しいのが実情です。先々のくすみに備えてカバーしようとするとファンデーションが厚塗りになり、自然さが失われてしまいがちなため、メイクを施す時点の肌の状態に合わせて仕上げてください。 その後の肌色の変化が気になった場合には、ファンデーションでカバーしていただいてよいことを、ご家族に口頭で伝えるか文書に記述しておくことをおすすめします。 黄疸カバーメイクの方法 黄疸をメイクでカバーする際のポイントは、「黄色」を使うこと。できればクレンジングマッサージをした後に保湿とベースメイクを済ませ、黄色のクリームファンデーションや下地をなじませましょう。その上で、赤みを加えたファンデーションで失われた血色を補い、さらに肌色のリキッドもしくはクリームファンデーションを重ねます。耳や首の皮膚の色も変化するので、露出している部分の塗り忘れのないように意識してください。 お顔の状態別ケア「まぶたが閉じない」 まぶたが閉じていない状態でお亡くなりになった方へのケアには、クレンジングマッサージがおすすめです。マッサージを行うことで、お顔が徐々に柔らかくなり、まぶたが自然と閉じることがあります。 それでもうまく閉じない場合は「二重まぶたをつくる化粧品の糊」を使用することがあります。やり直しが可能で、時間経過によってまぶたやその周囲がひきつれたという報告もありません。上下のまぶたの縁に糊を薄くつけ、その部分を手で扇いで少し乾かしてから合わせると、自然に閉じることができます。 ケアをするまでの乾燥対策も忘れずに 眼球表面が外気に触れると、乾燥が進み、色調変化を起こすリスクがあります。閉じる対応までの間、眼球の表面に綿棒でオリーブオイルなどの油分を塗布しておきましょう。もしくは、外気が触れないようにガーゼでカバーします。 その際、ご家族に「目は乾燥しやすいのでカバーします。後ほどまぶたを閉じるケアをしますね」と説明することも忘れないでください。 お顔の状態別ケア「お口が開いている」 お口が開いている場合は、まず、枕を少し高くし、筒状に丸めたタオルを顎の下に挟んで口を閉じましょう。それでもうまく閉じない時は、ご本人が使用されていた入れ歯を装着するとうまくいく可能性があります。ただし、中には「入れ歯を装着しても、顎は固定できるものの口元が閉じない」というケースも。この場合、口内の入れ歯が接する部分に「入れ歯安定剤」を薄く塗布してから口を閉じることで解消できることもあります。 なお、口腔内の変形をはじめとしたトラブルによってご本人の入れ歯を装着できない場合は、エンゼルメイク専用の入れ歯を使う選択肢もあります。 口を閉じるケアは必須ではない ご家族によっては「無理に口を閉じなくてよい」と希望されることもあるので、よく相談しながら対応を検討してください。ただし、口が開いたままだと口腔内が乾燥するため、口腔ケアの仕上げに油分を塗布しておくことをおすすめします。 お顔の状態別ケア「痩せている」 頬がこける、眼窩がくぼむなど、顔が痩せた状態で亡くなる方も少なくありません。この場合の対応について、研究会では「含み綿は行わない」ことを基本方針としています。理由は、自然な見た目にするのが非常に難しいためです。 頬やまぶたに含み綿をすると凸凹ができるケースが多く、「その人らしさ」が失われてしまうことも。また、こめかみには含み綿を入れることができないため、頬やまぶたにだけ行うと、不自然なバランスになるリスクもあります。そのため、含み綿を施す時間をほかのケアに充てたほうがよいというのが私たちの見解です。 どうしても痩せた印象を和らげたい場合には、1段明るめのファンデーションを使って気になる部分をやさしくカバーする方法もあります(イラスト「緑色」斜線部分)。 また、ご希望があれば、葬儀関係者やエンバーマーの技術によってお顔全体を自然にふっくらと整えることが可能な場合もあります。こうした対応についてご家族から要望があった際には、葬儀社へ相談するよう案内してください。 含み綿を希望するご家族は多くない エンゼルメイクは、その場にいらっしゃる近しいご家族のために行うもの。そして多くの場合、そのご家族は痩せる経過や痩せた状態のお顔をそばで見てきており、その姿を受け入れている面があるからか、臨終後すぐにお顔をふっくらさせてほしいと希望されるケースはあまり聞きません。ご家族の想いに寄り添うエンゼルケアを目指すのであれば、クレンジングマッサージやシャンプーなど、ほかのケアを一つひとつ丁寧に行うことが、より大切ではないかと考えています。 次回は、お看取り前やエンゼルケア時のご家族とのコミュニケーションの工夫、Q&Aセッションの内容などをまとめます。 >>後編はこちら(※近日公開)エンゼルケア応用編 ~ご家族対応と Q&A~【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

渡辺式家族アセスメント 関係性検討と援助の方向性【セミナーレポート後編】
渡辺式家族アセスメント 関係性検討と援助の方向性【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年5月20日
2025年5月20日

渡辺式家族アセスメント 関係性検討と援助の方向性【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「家族看護~渡辺式家族アセスメント/支援モデル 導入編~」(2025年2月21日開催)のテーマは、家族看護に活用したい「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」(以下、渡辺式)。開発者の渡辺裕子さんをお招きし、その活用方法を詳しく教えていただきました。セミナーレポート後編では、渡辺式全5ステップのうち3〜5と、検討にあたって意識したいポイントをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら家族看護 「渡辺式」とは? 場面と登場人物の整理【セミナーレポート前編】>>関連記事「家族看護」シリーズ一覧 【講師】渡辺 裕子さんNPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長/「渡辺式」家族看護研究会 副代表千葉大学大学院 看護研究科を修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。患者とその家族、職場の人間関係に悩む看護職を長年サポートしている。 ステップ3:対象者と援助者の関係性を検討する 対象者と援助者の関係性を検討します。本事例では、以下のような悪循環が生まれていることが見えてきました。 長女と母親長女は母親に対して苛立ちをぶつけ、甘える。しかし、母親に受け流されるため、さらにぶつける。母親は余計にしんどくなってまた受け流す。長女と訪問看護師長女は訪問看護師の前で両親を怒鳴ることで、不満を訴えている。訪問看護師は対処法がわからず、訴えを聞き流す。長女はますます強く訴える。母親と訪問看護師訪問看護師は母親を心配して気遣うが、母親は取り繕い、ますます気になる。 ステップ4:力関係と両者の心の距離感を検討する ステップ4では、ステップ3で整理した関係性をさらに細かく見ていきます。具体的には、「パワーバランス」の検討、相手との間に本来必要なパートナーシップを構築できているかを考えましょう。なお、「本来必要なパートナーシップ」とは、以下の条件を満たすものです。 パートナーシップの条件1. 利用者さんとご家族、援助者が対等である2. お互いの専門性を尊重し、相手に足りないものを交換し合う(訪問看護師は看護の、ご本人やご家族は「利用者さんの人生」の専門家)3. 望ましい心理的距離を保てている4. 目標を常に共有する5. 援助者はできる限りのサポートを提供し、利用者さんやご家族に力を発揮してもらい、協働する 本事例では、長女の訴えのパワーが適正範囲(ベースライン)を超えています。一方の訪問看護師は「あまり関わりたくない」という思いもあり、パワーが低い状態です。 また心理的距離についても、長女はバウンダリー(心の境界線)を超えて訪問看護師のほうに近寄っており、訪問看護師はやや逃げ腰です。 ステップ5:アセスメントをもとに、支援方策を考える ステップ5では、ここまでのアセスメントをもとに、「5つの柱」を意識しながら支援方策を立てます。 援助の方向性5つの柱1. 悪循環を是正する2. パワーバランスや心理的距離の乱れを是正する3. 背景の中で変えられるものにアプローチする4. ストレングスに働きかける5. 課題を共有し、今後の方向性を話し合う 「悪循環の是正」の観点では、聞き流される度に長女の訴えがエスカレートする状況を変えなければなりません。 「パワーバランスや心理的距離の乱れを是正する」という観点では、長女のパワーを下げて訪問看護師のパワーを上げること。つまり適正なバウンダリーを守り、よい距離感をキープすることを目指す必要があるでしょう。 「背景の中で変えられるものにアプローチする」では、ステップ2で整理した背景から、すぐに変えられそうな要素に焦点を当ててアプローチします。ポイントは、チームで取り組むこと。チームで考えれば「声のかけ方がわからない」という悩みは早期に解決できるかもしれません。また、「家族の問題にどこまで関わるべきかわからない」という悩みについても、組織としての判断を検討すると、自身の後ろに支えがあることを実感でき、訪問看護師のパワーの向上につながるはずです。 「ストレングスに働きかける」のは、家族看護において必須。問題ばかりを見ず、どの家族にもある強みに目を向けましょう。 最後の「課題を共有し、今後の方向性を話し合う」では、Aさんの介護をどうしていきたいかを、対象人物みんなで改めて考える必要があります。 具体的な支援方法の案 上記をふまえると、以下のような支援方法が考えられます。 支援方法1長女の背景に焦点を当てて気持ちを想像し、更年期障害の可能性も検討しながら、訴えを受け止める。長女の困りごとを一緒に考える姿勢をもつ。[理由/目的]・悪循環が是正され、心理的距離も少しずつ変化するはず。・長女への理解が深まることで、「援助者を困らせる人」ではなく「困っている人」なのだというリフレーミングが起こる。支援方法2カンファレンスで情報を共有の上、介入の必要性の有無を検討し、チームとして意思決定する。[理由/目的]・訪問看護師のパワーが上がる。支援方法3対象人物の訪問看護師には同行訪問の機会を設け、同僚の対応を見られるようにする。また、長女にかける言葉はチームで検討する。[理由/目的]・訪問看護師の背景に働きかける。支援方法4訪問スケジュールに余裕をもたせる。[理由/目的]・「中途半端な関わりになることへの不安」の解消を目指す。支援方法5長女、母親、訪問看護師で介護の体制について再度話し合う。[理由/目的]・母親にも長女にも過剰な負担がかからない体制をつくる。 このように、分析結果をひとつの仮説として捉え、支援方策を考え実施します。その後、その結果を評価し、さらなるアセスメントを繰り返すことで、支援の質を向上させていきます。 シート作成のポイント 人間関係見える化シート(R)の目的は、完璧に埋めることではなく、支援の糸口を探すことにあります。具体的な支援方法をなかなか見出せない事例もあるかと思いますが、理解が深まるだけでも、援助者の関わり方や対応が変わることもあるでしょう。 なお、このシートは、「誰が悪いか」を決めるものではありません。対象人物の言動の理由や根拠を認め、悪循環を見つけることで、現状を正しく理解しましょう。それができれば、中立性を保持できます。 * * * 渡辺式家族アセスメント/支援モデルは、利用者さん・ご家族への支援を構造的に捉え直す手がかりとなります。家族看護に悩んだ際は、ぜひ渡辺式を使い、現状を俯瞰した上で具体的な方策を考えてみてください。また、人間関係見える化シート(R)を職場内で共有し、共通の視点や枠組み、言葉で語り合える仲間を増やすのも重要なポイントです。本稿が、利用者さんやご家族との関わりにおける課題の整理や問題解決を考える上で少しでもお役に立てれば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

家族看護 「渡辺式」とは? 場面と登場人物の整理【セミナーレポート前編】
家族看護 「渡辺式」とは? 場面と登場人物の整理【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年5月13日
2025年5月13日

家族看護 「渡辺式」とは? 場面と登場人物の整理【セミナーレポート前編】

2025年2月21日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「家族看護~渡辺式家族アセスメント/支援モデル 導入編~」を開催。家族看護に役立つ「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」(以下「渡辺式」)について、開発者である渡辺裕子さんが、具体的な事例を挙げながら教えてくださいました。セミナーレポート前編では、渡辺式の基礎知識と、全5ステップのうち1~2をまとめます。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】渡辺 裕子さんNPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長/「渡辺式」家族看護研究会 副代表千葉大学大学院 看護研究科を修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。患者とその家族、職場の人間関係に悩む看護職を長年サポートしている。 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは 渡辺式は、訪問看護師をはじめとした援助者が利用者さんとそのご家族との関わりに悩んだ際に、「ことの全容」を明らかにし、援助の方向性を導き出すための思考過程です。 渡辺式の3つの特徴 援助に行き詰まりを感じた場面や時期を特定した分析ツールある程度の期間支援を継続している中で、悩みや気持ちのモヤモヤが発生した際に有効な「渡辺式シート」。局面を特定して理解を深める。 援助者自身をも分析対象とする悩みは相手と援助者との関係の中で起こるため、援助者自身の思いや行動も分析対象とする。 個々の理解から関係性へと視点を拡げるツール複数の人を対象としている。分析対象人物を個々に掘り下げた先に、人間関係が見えてくる。 「渡辺式シート」とは 渡辺式家族アセスメント/支援モデルでは、支援を考えるときの思考の流れを整理できるように、「渡辺式シート」※というツールがあります。このシートは、次の3つのパートで構成されています。※NPO法人 日本家族関係・人間関係サポート協会のウェブサイトより「渡辺式シート」のダウンロードが可能です。 ● I:事例情報シート● II:人間関係見える化シート(R)● III:支援方策・実施・評価シート なかでも「Ⅱ:人間関係見える化シート(R)」は、ご家族の関係性を整理しながら、どこに支援の手がかりがあるかを見つけていくのに役立ちます。複雑な背景があるケースでも、整理して考えられるようになります。援助者が利用者さんやご家族に日頃から寄り添い、理解を深めても、自身を含めた人間関係の全容把握は難しいもの。このシートを使って全体を俯瞰していきます。 なお、人間関係見える化シート(R)は、チームメンバーで思考過程を共有する際に使うことを想定してつくりました。事例検討会やカンファレンスでぜひご活用ください。 >>関連記事家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】家族看護 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは【総論 後編】 事例紹介「Aさん(80代前半/男性)の家族看護」 人間関係見える化シート(R)の内容は、以下の5ステップに分かれています。Aさんの家族看護事例1)を使って説明していきましょう。 Aさん(80代前半の男性)主病名・既往歴脳梗塞(7年前に発症)、肺気腫生活歴30代後半から飲食店を経営。脳梗塞の発症をきっかけに、70代半ばで店を引退。日常生活自立度要介護4。胃ろうを造設しており、車いす生活。排泄はおむつを使用。自発語は出にくいが意思疎通は可能。Aさんの家族妻:70代。明るく社交的な性格。介護の実働を担う。長女:50代。Aさんの店を長年手伝い、経営の管理を担当。結婚歴はなし。介護に関する諸手続きや対外的な対応、サービスの決定を担う。肩の痛みを訴えている。長男:別居。年に数回帰省するのみで、介護にはノータッチ。 対応に困難をきたしたできごと 本事例における訪問看護師の困りごとは、長女の言動です。AさんのADLが低下して介護量が増加したことに伴い、訪問看護師の前で両親に罵声を浴びせるようになりました。 長女から母親へ「ややこしいことを私に押しつけて、お母さんは自分勝手! こんな人生になると思わなかった」と、体の不調や自分が思うように生きられないのは「家の犠牲」になったせいだと主張。長女からAさんへ「親を介護する娘は早死にするんだって。私はお父さんより先に逝くかもしれない」と発言。 訪問看護師はこうした言動が目に余ると感じながらも、声の大きな長女に苦手意識があり、圧倒されていました。また、訪問時間が限られていることもあり、中途半端に関わって火に油を注ぐことにならないかと懸念もしています。 本事例でどのように渡辺式を活用するか、具体的に見ていきましょう。 ステップ1:検討場面の明確化 基本的には事例提供者ファーストで判断するので、訪問した看護師の希望に沿って、今回は「長女が母親を怒鳴る場面」とします。 次に「対象人物(誰に焦点を当てるか)」を整理。この場面では訪問看護師と長女、母親になるので、以下のようにシートに記入します。 ステップ2:対象者と援助者の言い分を明らかにする 「困りごと」「対処」「背景」の3つを整理しましょう。人の行動の裏には必ず理由があるため、対象人物の皮膚の内側に入ったような気持ちで考えてください。 長女困りごと自分でもコントロールできない苛立ち対処両親に暴言を吐いて気持ちをぶつける背景 ・人生に対する不満足感 ・やりがいの喪失 ・将来への不安 ・兄弟間で感じる理不尽 ・Aさんの現状への悲しみと苛立ち ・両親への甘え ・ストレス発散の機会がない ・更年期のホルモンの乱れ 母親困りごと娘から怒鳴られ、暴言を吐かれる対処聞こえないふりをして無言を貫く背景 ・言い返さないほうがよいという経験からの判断 ・長女の勢いに圧倒され、対応方法がわからない ・介護の疲れ ・ことを荒立てたくない気持ち ・自分さえ我慢すればよいという判断 ・長女に負担をかけていることへの親としての負い目 訪問看護師困りごと訪問中に長女が両親に暴言を吐く対処ケアに集中して聞こえないふりをする背景 ・長女への苦手意識 ・どう声をかけるべきかわからない ・長女の苛立ちを受け止める自信がない ・中途半端な関わりになることへの不安 ・家族の問題にどこまで関わるべきかわからない ・できれば面倒なことに関わりたくない気持ち こうして推察すると、対象人物の言動の意味や物語を理解しやすくなります。上記は仮説ですが、それが支援の第一歩になるのです。 次回は、前編に引き続き、渡辺式全5ステップのうちステップ3〜5を取り上げます。援助者と利用者さん・ご家族との関係性や、それぞれの力関係・心理的距離について具体的に検討しながら、支援を進める上で意識したいポイントを解説します。 >>後編はこちら渡辺式家族アセスメント 関係性の整理と援助の方向性【セミナーレポート後編】>>関連記事「家族看護」シリーズ一覧 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用】(1)渡辺 裕子監修(著),中村 順子,本田 彰子ほか(編)「家族看護を基盤とした地域・在宅看護論 第6版」東京,日本看護協会出版会,2022,P110-119,

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年4月22日
2025年4月22日

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】

2025年1月23日に実施したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」。聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生をお招きし、新任訪問看護師の戸惑いをテーマに講演いただきました。セミナーレポート後編では、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みなどをまとめます。 ※60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護業界全体の育成の課題 業界全体の教育における課題には、以下のようなものがあります。 即戦力人材の減少 訪問看護が急拡大したのは、介護保険制度が始まり、ステーションが増えた2000年からです。当時は、再就職を考えている、もしくはブランクがある病院出身の看護師を即戦力として採用するのが一般的でした。しかし、病院の機能分化が進み、入院期間も短くなるにつれて、「生活を支援する」という視点で即戦力となれる看護師は、ほとんど見かけなくなっています。 育成体制が追い付いていない 人手も資金も時間も限られているステーションでは、育成体制を十分に整えることが難しいといわれています。 「病院や病棟の色」がついた看護師の増加 訪問看護に求められるのは「看護師基礎教育で学んだ内容」であり、特別に学ぶことはほとんどありません。しかし、例えば急性期医療の経験があると、安全や感染の知識に偏って重きを置いてしまうケースも。その結果、訪問看護の現場でギャップに苦しみます。 事業所の育成力 もちろん個人差がありますが、ベテラン訪問看護師はノウハウや思考の言語化が苦手な傾向があり、新任者にうまく伝わらないケースが多いです。 こうした訪問看護業界の現状をふまえ、新任者には「自分が先輩も新人もお互いに学べる職場を作る」という意識をもってもらえるとありがたいです。また、「訪問看護」と一口にいっても、事業所ごとに性質は異なります。新任者にとっては、入職したステーションの性質とやりたいことが合わないと、つらさの一因になるでしょう。訪問看護ステーションの内実がわかりづらい点も業界の課題であり改善が必要ですが、新任者の方は、就活中も入職後も時間をかけて慎重に見極めてください。 東京ひかりナースステーションの取り組み 訪問看護師の育成では、知識・技能・態度が重要です。そこで、東京ひかりナースステーションでは、以下の取り組みを実践しています。 知識の支援 レベル別の知識テスト(基本知識、特定の利用者さんを担当する際に必要な知識など)を実施。正解を伝えるだけでなく、足りない知識の勉強方法も解説します。 技術の支援 爪切りや巻き爪のケア、胼胝と鶏眼の処理、スキンテアの対処法など「病院では頻度が低いけれど訪問看護ではよく実践する技術」をリスト化し、演習を行います。演習は訪問予定に応じて都度実施し、「忘れてしまった」ということがないようにします。 態度や姿勢の支援 態度や姿勢を支えるのは、「考え方や行動の指針」です。正解はないので、各ステーションで「何を大切に看護するか」を考えてください。 なお、当ステーションでは毎週2時間のミーティングを行い、お互いのケースについて相談し合います。全員が自分ごととして考え、行動レベルのプランを協力して構築。態度や姿勢を言葉で伝えるのは難しいですが、実例を挙げて対話し、「自分たちが大切にしたいこと」を共通認識にしていくと、自ずと行動指針ができてきます。 普遍的な訪問看護の行動指針 ステーションごとに指針を確立し、共有することが重要とお話ししましたが、一方で「訪問看護の普遍的な考え方、行動指針」もあると思います。 利用者さんが暮らすこと、生きることを支援する 「生きる」は「命がある」だけを指すのではなく、生きがいや役割をもつことも含みます。1秒でも長く生きられるように支援するだけでは、十分とはいえないでしょう。また、暮らしに焦点を当てるからこそ、短期目標に加えて超長期目標を立てることも特徴です。数年先の暮らしを想像しながら看護を展開します。 セルフケアの維持・向上を目指す 訪問看護師の多くは、自分ではなく「利用者さん」を主語にしてケアを語ります。例えば「(私が)患者を立たせる」とはいわずに「(支援したら)患者が立った」と表現するのは、利用者さんの能動的・自律的な行動を支援したいと考えているからでしょう。 利用者さんごとに正常・異常を判断する 訪問看護師のアセスメントの基準は、「前回訪問時の利用者さんの様子や個々人にとっての正常」です。病院では驚かれる数値でも、訪問看護師は利用者さんの軌跡をふまえて評価します。 利用者さんを含めたチームでアプローチする 訪問看護師は、利用者さんの目標に向かってチームでアプローチします。ポイントは、「チーム」に利用者さんやご家族も含まれること。ご本人やご家族が行動しないと目標を達成できませんし、彼らが最も真剣に目標と向き合っていることをわかっているからこその考え方です。 また、訪問看護師だけでは何もできないことを理解し、多職種やフォーマル、インフォーマルを含めたチームでの協働を目指します。そして、そのために必要な合意や情報共有を大切にしています。 * * * 訪問看護は地域医療において重要な役割を担い、その支え手である看護師の育成と意識づけは欠かせません。より良い看護を提供できる環境を整えるためには、皆で成長できる環境を目指すことが大切です。新任者の皆さまも、より良い職場を作るために積極的にアプローチしていく姿勢で臨んでいただけたら幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
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2025年4月15日
2025年4月15日

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】

2025年1月23日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」を開催。新任訪問看護師の戸惑いをテーマに、聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生にお話を伺いました。セミナーレポート前編では、新任者の悩みと、それらを解消するサポート方法を紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護入職者の一般的な戸惑い・困難感 訪問看護師が感じる戸惑いや困難感に関して、いくつかの研究をもとに、以下のように分類しました。 ■個人の課題(仕事がうまくできない情けない思い)・知識や技術の不足・単独訪問の判断の難しさと責任・時間内にケアが終わらない など■場やシステムの課題、職場全体で取り組むべき問題・勤務体制(24時間対応、休みのとりにくさ)・(薬剤を含む)医療データが少ない、かつ入手が困難・他職種連携(これまで関わったことがない職種との連携) など■訪問看護特有ではない問題・職場内の人間関係・家庭との両立 など文献1)-3)の結果を集約 私が問いたいのは、「これらの問題は本当に『問題』なのか」ということです。例えば、ベテラン訪問看護師の多くは「介護保険制度や医療保険制度の理解は追い追いで良い」と話します。 また、単独訪問の判断の難しさと責任については、考え方を変える必要があるでしょう。訪問看護では、「患者の管理」を行うのではなく「ケアの管理」をします。患者管理をしようとすると、判断することや責任を負うことがつらくなってしまうでしょう。具体例として、訪問看護師が「この利用者さんは次回の訪問まで転倒しない」と判断することはできませんよね。「転ばせない」ことを主軸に患者管理をしようとすると、訪問の後も不安感が募ってしまうのです。それよりもちゃんと動けるケア、転んだらどのように起き上がるのかを考えるほうが良いです。 さらに、時間内にケアが終わらないのも新任者なら当たり前のことであり、問題ありません。技術は経験を重ねることで向上します。まずはそのことを上司や同僚に相談しましょう。 誤解されがちな「現場での判断のあり方」 「訪問看護師は一人で現場に行き、判断する」と考えている方もいますが、これは誤りです。テクノロジーの発達により、現場で個人が判断する時代は終わりました。例えば、利用者さんの体に新しい傷があれば、共有アプリに写真をアップロードし、先輩やドクターにその場で処置方法を確認できます。 また、私は訪問看護の最大の強みは、利用者さんと一緒に判断できることだと考えています。「私は看護師としてこのように判断しましたが、いつもどのように対処していますか?私はこの対応が良いと思いますが。」と利用者さんにぜひ尋ねてみてください。本来、医療やケアの選択は、利用者さんご自身が最も強い決定権をもつものです。 ただし、自分で判断するのが難しい利用者さんには噛み砕いて伝えたり、過去の記録に基づいて検討したりすることは必要です。 先輩看護師のフォローについて ここからは、主に新任者本人ではなく、サポートする先輩看護師に向けてお話しします。新任訪問看護師が一人で訪問するようになった際、「電話があるから大丈夫」「カメラがあるから大丈夫」ではなく、適切なフォローをすることが大切です。 例えば、よく言われる「何かあったら言ってね」という言葉は、一見親切そうで、実はとても不親切。新任者はその「何か」を判断できないからこそ困っているのです。 「どう?何か気になることはある?」「特に問題がなくても、訪問終わる前に連絡してね」といった積極的な声かけが大切です。新任者が自信を持って判断できるようになるまで、少ししつこいくらいに寄り添う(やりすぎかどうかは本人に聞いてくださいね)ことが、本当の支援につながります。 アンラーニングについて 訪問看護の新任者の葛藤を理解するためには、「アンラーニング」への理解も不可欠です。アンラーニングとは、既存の知識や価値観を捨て、新たに学び直すことを指します。 新任者は、前の職場の価値観を新しい職場で少なからず捨てるものがあります。捨てて新しい価値観を受け入れる過程では、苦しさを感じ、その気持ちを怒りとして表すことがあります。「このやり方は間違いだ」「前の職場ではこうしていた」と主張したり、悶々としたりといった具合です。受け入れる側には、その苦しみを理解するとともに、現在の職場の価値観を言葉にすることが求められます。サポーティブに関わることを意識しましょう。 なお、こうした苦しみは、キャリアを積んだ方でも感じます。なぜなら、看護理論家のパトリシア・ベナーさんもおっしゃっている通り、「経験がない部門に移れば、誰もが初心者になる」から。そして、初心者は行動指針やルールが分からず、状況に応じた行動ができないので、職場のローカルルールや大事にしていることを伝えてくださいね。 実践の原則を学ぶポイントは「経験の質」 初心者の成長に必要なのは、時間ではなく「経験の質」です。 経験学習のコツ経験すれば理解するのではなく、その経験にどんな意味があったのか、なぜそうなったのかを振り返り次に活かす。その振り返りは、なぜそうなったのかが分かるベテラン先輩が支援すべし! 「経験による学習」をうまくできない方は多く、周りが支援をしないと「ただ経験しただけ」になってしまいます。ベテラン先輩が「振り返り」の部分を支援しましょう。私が顧問を務めるステーションでは、クラウド上で「振り返りノート」をやりとりします。新任者の記録に先輩がフィードバックする形式です。 フィードバックのコツ 入職したてはすべての事象が新鮮で、情報を「そのまま」受け止めがち。そこで私は、振り返りノートで「起きた行為の意味」を説明します。また、「印象的だった」「勉強になった」という記述があれば、「具体的に何が印象的で、何を学んだか」を繰り返し聞きます。 特に注意すべきは「印象的」という言葉で、これは予想と違うことを意味します。先輩の仕事に「感動したケース」もあれば、「教科書と違って違和感を持ったケース」もあるでしょう。そこを明確にしないと、アンラーニングにおける葛藤や、誤った価値観の構築を招きます。 また、教訓が身についてくると、さまざまなケースで使いたくなるもの。その際は、どんなケースで教訓を適用できるかといった留意点をフィードバックします。 次回は、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みについてお話しいただきます。 >>後編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用文献】1)森 陽子ら著.「新たに訪問看護分野に就労した看護師が訪問看護への移行期に経験した困難とその関連要因」日本看護管理学会誌,2016,20(2),p104-1142)平尾 由美子ら著.「病棟業務から訪問看護業務に移行した直後に看護師が感じる戸惑い・困難,8(1)」千葉県立保健医療大学紀要,2017,p169-176.3)柴田 滋子ら著.「訪問看護師が抱く困難感」日本農村医学会雑誌,2018,66(5),p.567-572 【参考文献】〇P.ベナーら著.早野ZITO真佐子訳.「ベナー ナースを育てる」医学書院,2011〇松尾 睦.『職場が生きる人が育つ 「経験学習」入門』ダイヤモンド社,2011

訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護 実践~【セミナーレポート後編】
訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護 実践~【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年3月25日
2025年3月25日

訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護実践~【セミナーレポート後編】

2024年12月13日のNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~」では、NPPVを中心とした在宅での呼吸療法の基礎知識や、実践のポイントをご紹介しました。登壇してくださったのは、「楽らくサポートセンター レスピケアナース」の山田真理子さんと津田梓さんです。セミナーレポート後編では、在宅での呼吸ケアの実践にあたって意識すべき点や、トラブルへの具体的な対処法などをまとめます。 ※90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】 【講師】山田 真理子さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」管理者/呼吸ケア指導士。内分泌内科と血液内科の混合病棟、呼吸器内科病棟で勤務した後、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で訪問看護ステーションの管理者を経て、2015年に「楽らくサポートセンター レスピケアナース」を設立。津田 梓さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」訪問看護師。小児から高齢者まで、幅広い年代の利用者さんに人工呼吸器・在宅酸素などを用いたケアを提供。コーディネーションも担当する。 マスク呼吸療法の実践ポイント NPPV(非侵襲的陽圧換気)をはじめとした在宅でのマスク呼吸療法を実践する際のポイントは、大きく2つあります。 【ポイント1】使用時間の確認 間歇的に使用されることが多いので、使用時間を把握する必要があります。利用者さんの申告だけに頼らず、実際の使用状況を確認するとよいでしょう。 具体的には、「トレンドデータ」「モニタリングデータ」で、夜間の使用状況、リークやタイダルボリューム、換気量を把握するのがベスト。確認できない機種の場合は、訪問時に積算時間から使用時間を算出しましょう。なお、データを解析できる機種も多いので、業者に相談するのもおすすめです。 評価に応じて対応の検討を マスク呼吸療法は夜間の睡眠時に行うことが推奨されていますが、日中の使用でも有効な場合があるとされています。血液ガス分析や連続パルスオキシメーターなどを確認の上、呼吸状態を評価し、治療コンプライアンス不良であっても柔軟に対応することが大切です。 声かけがエンパワメントにつながる データを確認する際、使用状況を共有しながら「しっかり使えていますね」、「今日は使用時間が少ない(多い)ですね、何かありました?」といった声かけをすることで、利用者さんの安心感や治療継続へのエンパワメントにつながります。 【ポイント2】マスクフィッティング フィッティングはケアにおける最重要ポイント。締めすぎず、ふんわりとつけましょう。多くのマスクは二重構造で、送気すると外側が膨らみ、顔にフィットします。このタイプのマスクを使用する際は、外側の柔らかいクッションにしわができないよう、また内側の硬いクッションがあたらないようにします。 具体的には、ヘッドギアや額アームを調整しましょう。マスクの種類やサイズ選びにも気をつけてください。 リークの確認は使用する体位で 機器を使用する体位でリークを確認しましょう。主に臥位で使用する機器なので、装着確認も臥位で行うのが基本です。座位で確認するとマスクの重みでリークが生じやすく、結果的にフィッティングがきつくなりがちです。 実際の使用状況を想定しながら装着状態を確認し、適切にフィットしているか繰り返し確認します。また、利用者さんにも正しい装着方法を丁寧に説明することが大切です。 マスク呼吸療法のトラブル 上記のグラフからは、マスク呼吸療法におけるトラブル発生率が使用時間に大きく左右されていないことが分かります。例えば、3時間使用する場合と12時間使用する場合を比較しても、いずれも発生率は約3割です。このことから、トラブルの多くは使用時間の長さではなく、マスクのフィッティングに起因していると考えられます。 スキントラブルの原因と対応 スキントラブルの主な原因は「マスクの締めすぎ」。リークや回路はずれのアラームが鳴る、リークで目が乾燥するといったことがなければ、多少のアラームは気にせず、快適性を重視して問題ありません。 びらんや水疱ができた際は、褥瘡と同様の処置を行います。予防として好発部位を皮膚保護剤でカバーするのもおすすめです。当事業所の利用者さんも、体重が20㎏台で小柄な顔の小さい方が多いので、ゆるくフィッティングしても皮膚が赤くなりがち。そのため、皮膚保護剤をよく利用します。その上で、先にご紹介したフィッティングのコツを意識してください。 マスク以外のトラブルと対策 マスク以外のトラブルは、以下の4つが多く見られます。 1. 送気が冷たい前もって加温加湿器を稼働させたり、就寝中も暖房を使ったりしましょう。2. 口渇加温加湿器の種類の変更や、温度の調整を行いましょう。枕元に水を置くのもおすすめです。3. 排気が体にあたって寒いチューブを回転させて排気があたらないようにしたり、マフラーで首元を温めたりしてください。4. チューブ内の結露結露が加湿器チャンバー内に落ちるよう、加温加湿器の位置を調整する(ベッドより低い位置に設置する)、加湿器側のチューブを垂直に釣るなど工夫するとよいでしょう。なお、汎用性のある人工呼吸器の場合は、温度調整ができる回路に変える方法もあります。 訪問看護におけるセルフマネジメント 利用者さんと長く関わるケースが多い当事業所では、「利用者さんのセルフマネジメント」を大切にしています。セルフマネジメントを成功させるためには、利用者さんと医療者が長きにわたってパートナーシップを結び、病気や障害と付き合っていく姿勢が重要。これは、小児にも共通する考え方です。 利用者さんの中には「介護はいらない」と訪問看護を拒否する方もいますが、「対等なパートナーシップを結びませんか?」と説明すると、うまくいく例が多いです。現場では、「知識を教える」ではなく「必要な情報を提供する」と考え、共に生活や人生の質の向上を目指しています。 * * * 在宅での呼吸ケアをするにあたっては、専門的な知識と継続的なサポートが欠かせません。また、利用者さんの生活に深く関わり、その方の生活や人生の質に影響を与えるからこそ、訪問看護師には慎重な対応と長期的な視点が求められます。日々の変化を見逃さず、利用者さん一人ひとりに合わせた支援を行うことが、より安全で安心な在宅療養へとつながります。本セミナーでお伝えした内容が、皆さんの呼吸ケアに少しでもお役に立てれば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】
訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年3月18日
2025年3月18日

訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】

2024年12月13日に実施したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~」。呼吸ケアが必要な利用者さんを多く抱える訪問看護ステーション「楽らくサポートセンター レスピケアナース」の山田真理子さん、津田梓さんを講師にお迎えし、NPPVを中心とした在宅での呼吸療法の基礎知識、実践のポイントなどを教えていただきました。セミナーレポート前編では、呼吸療法の種類と特徴、利用者像などの基礎知識をまとめます。 ※90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】山田 真理子さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」管理者/呼吸ケア指導士。内分泌内科と血液内科の混合病棟、呼吸器内科病棟で勤務した後、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で訪問看護ステーションの管理者を経て、2015年に「楽らくサポートセンター レスピケアナース」を設立。津田 梓さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」訪問看護師。小児から高齢者まで、幅広い年代の利用者さんに人工呼吸器・在宅酸素などを用いたケアを提供。コーディネーションも担当する。 在宅で行う呼吸療法 在宅で行う呼吸療法には、HOT(在宅酸素療法)、TPPV(気管切開下陽圧換気)、主にマスクを使用するNPPV(非侵襲的陽圧換気)、ハイフローセラピー(HFNC)、CPAP(持続陽圧呼吸療法)などがあります。その中でも今回は、NPPVを中心にご紹介します。 NPPV(非侵襲的陽圧換気)とは NPPVは、マスクを介して非侵襲的に陽圧換気を行う人工呼吸療法です。拘束性胸部疾患(肺結核後遺症、脊椎後側弯症など)やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、神経筋疾患などの慢性呼吸不全の方に適用が検討されます。気管切開が不要で、食事や嚥下、会話の機能を保持できることが大きなメリットです。 <NPPVの特徴>・簡便で早期に導入可能・汎用性のある人工呼吸器が選択されるケースが多い(小児や神経難病では、気管切開とマスクの両方で使用可能な機器が選択されることが多い)・慢性呼吸不全の方には、従圧式の「NPPV専用機」が使われることが多い・CPAPやHFNC専用機は、介護保険が適用される。医療保険では週3日の制限がつく 人工呼吸器の基本 人工呼吸器は、圧を規定する「従圧式」と、量を規定する「従量式」に分かれます。マスクではほとんどのケースにおいて従圧式になります。気管切開をしている場合はどちらの可能性もありますが、従量式になるケースが多いです。 小児の在宅NPPV 小児の在宅NPPVでは、「CPAPモード」と「NHFモード」が多く使われます。 CPAPモードは、呼吸障害がある早産の新生児に対し、侵襲的換気の置き換えとして長らく推奨されている方法です。「負担の少ないマスクで対応したい」と導入されるケースが多く見られます。ただし、近年はまずNHFモードを実践し、うまくいかない場合にCPAPモードに切り替える例が多いです。また、在宅では睡眠時に間歇的に使用されることが多いでしょう。 <CPAPモードのメリット>・機能的残気量を維持することで肺が拡張し酸素化の改善に役立つ・呼気終末の肺容量が高まることで、呼気筋の負担が軽減、呼吸仕事量を減少させる・機械的な換気の必要性を軽減できる(挿管や侵襲的喚気をせずに過ごせる) マスクより装着しやすい鼻カニューラを介して高流量の混合ガス(酸素と空気)を送るNHFモードは、CPAPの置き換えとして推奨されています。当事業所に新規でこられる人工呼吸器が必要な小児の方は、ほとんどがNHFモードを使用されています。また、NHFモードは、移動や入浴時を除いて連続的に使用されるケースが多いです。 <NHFモードのメリット>・死腔量を軽減できる・ダイナミック気道陽圧で、呼吸仕事量を減少させる・鼻カニューラのためCPAPマスクより快適性が高い そのほかの在宅呼吸療法 人工呼吸器ではなく専用機を使用する「在宅ハイフローセラピー」や「CPAP」といった在宅呼吸療法もあります。 在宅ハイフローセラピー(HFNC)※ HFNCとは、専用の鼻カニューラを介して、加温・加湿した高流量の酸素や空気、または酸素と空気の混合ガスを投与する呼吸管理法の1つです。ただし、2025年時点で保険適用となるのはCOPDの方のみです。 <HFNC の特徴>・解剖学的死腔のウォッシュアウトができ、PaCO2を低下させる・飲食や会話ができ、快適性が高い・気道の粘液線毛クリアランスの維持が可能・PEEP効果と終末期肺容量の増加が期待できる・FiO2を安定して供給できる ※「ハイフローセラピー」(High Flow Therapy:HFT)とは診療報酬の算定要件として用いられる名称を指します。一方、「HFNC」については一般的に以下のように使い分けられています。・器具の名称:「高流量鼻カニューラ」(High Flow Nasal Cannula:HFNC)・治療法の名称:「高流量鼻カニューラ酸素療法」(High Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy:HFNC)現場では「HFNC」という略称が器具・治療法の両方に使われるため、文脈に応じて適切に使い分ける必要があります。 在宅CPAP(持続陽圧呼吸療法) 睡眠時無呼吸症候群または慢性心不全の方を対象にした在宅呼吸療法です。 C107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料 上記は診療報酬の情報を抜粋したものですが、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料1にはASV(adaptive servo ventilation)療法 、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料2はCPAP療法が該当します。 >>関連記事CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応 在宅マスク呼吸療法の利用者像 在宅マスク呼吸療法の利用者さんの主な特徴は以下の通りです。 高齢 呼吸器疾患で在宅マスク呼吸療法を利用する方の多くは高齢者。介護認定を受けている方、認知症を患っている方も多くいます。 日中のADLは自立している 在宅マスク呼吸療法は夜間のみ使用しており、日中のADLは自立している方もいます。ただし、見た目の介護度は低くても急性増悪や急変のリスクがあるため、早期の異常発見に努めることや予防的介入が重要です。※神経筋疾患を患っている場合は、在宅マスク呼吸療法の使用時間が長く、ADLも低下しています。 在宅医療の機器管理 在宅医療機器は、「利用者と家族」「医療機関」「機器業者」の3者で管理し、訪問看護は「利用者さんと家族による管理」を個別指導する役割を担います。必ずしも「在宅医療機器を使う=訪問看護が入る」わけではありませんが、在宅での呼吸ケアにおいて訪問看護が重要な役割を担っているのは確かです。 次回は、在宅での呼吸ケアの実践にあたって意識すべき点や、トラブルへの具体的な対処法について解説します。 >>後編はこちら訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護実践~【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア【参考】〇厚生労働省:「医科診療報酬点数表に関する事項」. 2024

ストーマトラブル対処法 装具選択とケーススタディ【セミナーレポート後編】
ストーマトラブル対処法 装具選択とケーススタディ【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年2月25日
2025年2月25日

ストーマトラブル対処法 装具選択とケーススタディ【セミナーレポート後編】

2024年11月8日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「事例で解説!ストーマトラブル対処法」。講師は、ながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師の原慎吾さんです。豊富な経験をふまえ、ストーマトラブルの解消につながるアセスメントや装具選択について、具体的に紹介してくださいました。セミナーレポート後編では、装具の選び方や、実際の事例検討の様子をまとめます。 ※75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちらストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、起業。病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開するほか、ストーマアクセサリーの開発も手がける。2021年には訪問看護ステーションも開業。 装具とアクセサリーの選択 装具の変更を検討するにあたっては、以下の4つのポイントを押さえておきましょう。 ポイント1:皮膚保護剤の組成 面板選びでは、皮膚保護剤の素材を考慮する必要があります。細かく理解するのは大変なので、長期用、中期用、短期用といった使用期間に着目するのがおすすめです。 >>関連記事皮膚保護剤(面板)の組成については以下をご参照ください。【セミナーレポート】後編:装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応- ポイント2:面板の形状 装具には、柔らかくて皮膚への影響が少ない平面装具と、硬いプラスチックや皮膚保護剤で作られた凸面装具とがあります。 硬い腹壁には平面装具(および柔らかい皮膚保護剤)を、柔らかい腹壁には凸面装具(および硬めの皮膚保護剤)を選択するとよいといわれています。硬い腹壁に硬い凸面装具を貼ると、互いに押し合うことで剥がれやすくなったり、お腹の皮膚に圧力がかかり、皮膚損傷の原因となったりすることがあります。逆にしわの多い腹壁に柔らかい平面装具を使うと、その腹壁のしわで伸びたり縮んだりして、漏れの原因になるため注意しましょう。 腹壁の状態は、お腹に対して指の向きを並行にして押し当てて確認します。沈む指が1本以下なら硬い、1本以上2本未満なら普通、それ以上は柔らかいと判断します。 なお、凸面装具の形状には、メーカーごとに違いがあります。また、同じように「柔らかい凸面」と表現されていても、プラスチックの柔らかさは会社によって異なるもの。そのほか、コンベックスの有無、コンベックスの高さにも差があります。各メーカーの特徴を把握すると選択しやすくなるので、ぜひ利用者さんの装具を触って研究してみてください。 ポイント3:コスト 凸面装具よりも平面装具のほうが単価は安く、1枚300円台から購入できるため、コストを考えれば平面装具で管理できるストーマが理想的です。 ただ、最も重要なのは「漏れないこと」なので、単価にとらわれすぎないようにしてください。実際に、私の印象では、ストーマ保有者の8割以上は凸面装具を使っています。 ポイント4:アクセサリーの選択と使用 装具に加えて選択されるアクセサリーとしては、粉状皮膚保護剤や、粘土のような用手成形の皮膚保護剤が代表的です。在宅の場合、ストーマを保有する利用者さんの皮膚トラブルにはよく粉状皮膚保護剤を使うので、1本は用意することをおすすめします。くぼみやしわの補整に使う用手成形は、アレルギーがなければ、どのメーカーのものを使ってもOKです。 ストーマ傍ヘルニアへの対応 ストーマの周囲の皮膚が膨隆する「ストーマ傍ヘルニア」は、術後時間が経ってから発生する慢性合併症です。座位や立位をとって重力がかかると腸管が脱出し、臥位になると戻ります。腹壁が動くため、面板を貼るのが難しく、剥がれやすくもなります。 このケースでは、突き出た部分と反発したり皮膚を傷つけたりする可能性があるため、硬い凸面装具は使えません。同じく深い凸面装具も、押し合ってしまうのでNGです。平面装具や柔らかい凸面装具、浅い凸面装具は、実際に試してみないとわかりませんが、漏れのリスクが高まります。 そこで活用してほしいのが、ストーマ用ベルト。10,000円ほどかかりますが、腹壁の動きを抑え、安定させてくれます。臥位になる就寝中は外し、活動時のみ着ければOKです。 嵌頓(かんとん)には注意を ストーマ傍ヘルニアには、臥位でも腸管の突き出しが戻らない「嵌頓」という状態もあります。臥位になると腹壁が平らになる場合は心配ありませんが、嵌頓が見られた際には医師に相談してください。 ストーマ皮膚トラブル・ケーススタディ 最後に、実際の事例における対応を見ていきましょう。 ストーマ近接部にびらんがある場合 面板をストーマより1、2mm大きめにカットして貼ると、びらん、浸出液が出る部分に重なるため密着しません。そこに排泄物が入り込み、びらんが悪化します。 対処方法としては、粉状皮膚保護剤を使用します。散布すると、浸出液を吸ってゼリー状になり、びらん表面に膜を作って皮膚を保護してくれます。 ただし、粉状皮膚保護剤の効果は長くもちません。とくにびらんがひどい場合は、粉状皮膚保護剤を使いながら装具の交換を連日行い、排泄物が皮膚を溶かす時間をなるべく減らします。すると、10日ほどで状態が改善するので、そこから装具の変更やアクセサリーの追加を検討しましょう。 ストーマの最大径と基部径の差が大きい場合 ストーマの頭(最大径)が大きく首(基部径)が小さい「マッシュルーム型」になるケースでは、面板を頭のサイズに合わせてカットするとストーマ周囲の皮膚の露出が大きくなり、ただれてしまいます。 この場合は、面板の穴を首のサイズに合わせ、放射状に切り込みを入れましょう。そうすれば、皮膚の露出を抑えられます。 * * * ストーマを造設すると、精神面でも身体面でも大きなハンディキャップを背負うことになります。その上トラブルが生じれば、利用者さんにとっての負担はより大きくなるでしょう。このことを心に留めながら、トラブルの早期改善や予防に努めていただければ幸いです。 本セミナーでお伝えした内容が、皆さんのケアに少しでも役立ち、利用者さんの状態や身体の変化に寄り添う継続的な支援につながることを願っています。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】
ストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】
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2025年2月18日
2025年2月18日

ストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】

NsPace(ナースペース)では、2024年11月8日にオンラインセミナー「事例で解説!ストーマトラブル対処法」を開催しました。講師にお迎えしたのは、ながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師の原慎吾さんです。アセスメント方法や装具、アクセサリーの選び方など、トラブル解消のノウハウを教えていただきました。セミナーレポート前編では、アセスメントに必要な知識をまとめます。 ※75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、起業。病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開するほか、ストーマアクセサリーの開発も手がける。2021年には訪問看護ステーションも開業。 ストーマトラブルのアセスメントの重要性 ストーマ装具装着により皮膚トラブルが起きたとき、まずはしっかりアセスメント行い、原因を明らかにすることが重要です。そうしないと、トラブルが再発してしまいます。ストーマ装具装着に関連する皮膚トラブルの主な原因は、以下の4つです。 <皮膚トラブルが起こる4つの原因>原因1:皮膚保護剤によるアレルギー(医学的要因)原因2:細菌や真菌による感染(生理的要因)原因3:排泄物付着によるもの(科学的刺激)原因4:装具の脱着による刺激(物理的刺激) 「原因4」については、面板を無理に剥がすようなケースで起こり得るため、粘着剥離剤を使用したり、面板を丁寧に剥がしたりすることでリスクを軽減できます。ほかの3つについては、それぞれの特徴や対処方法を詳しく見ていきましょう。 原因1:皮膚保護剤によるアレルギー(医学的要因) アレルギーが起きた場合は、今使っているものと似た形状の「他社製の装具」に変更します。同じメーカーだと面板の素材が共通する場合が多いためです。 その上で、アレルギー反応が起きている部分には、ステロイド(ミディアム以下のクラス)を使います。ポイントは、油脂性軟膏ではなくローションタイプの外用剤を選択すること。油脂性軟膏を塗ると、面板が粘着しなくなってしまいます。 2週間ほどステロイドを使っても改善が見られなければ、真菌感染を疑って皮膚科を受診してください。なお、ステロイドより先に抗真菌薬を使ってはいけないことに注意しましょう。抗真菌薬を使うと「肌表面の真菌」がいなくなり、顕微鏡検査や培養で真菌の有無を鑑別することが困難になります。 原因2:細菌や真菌による感染(生理的要因) 皮膚保護剤によるアレルギーが「ストーマ粘膜から全周的に赤くなる(面板を貼っている箇所以外はきれい)」のに対し、細菌や真菌による感染の場合、面板の外を含めて赤い斑点が連続せずに広がります。 この場合は、抗真菌薬(できれば軟膏ではなくローションタイプ)を使います。装具を変更する必要はありません。 なお、医師から「現状の装具の交換頻度よりも高い頻度で抗真菌薬を塗って」と指示されるケースもあります。その場合、皮膚トラブルが解消されるまでは、装具の交換頻度を上げなければならず、粘着力が強い長期交換用の装具を使用すると剥離刺激によって皮膚に大きな負担がかかります。薬剤を塗る期間中は、長期交換用の装具の使用は避けてください。 原因3:排泄物付着によるもの(科学的刺激) 排泄物の刺激で皮膚トラブルが起きた場合は、同じ装具を使用していても改善されないので、他社の装具への変更やアクセサリーの追加によって対処します。 患部の特徴としては、ストーマ粘膜から連続して発赤、びらんが見られます。何らかの原因で、ここに排泄物が触れていると考えられるでしょう。 排泄物の漏れやもぐりこみの原因をアセスメントしつつ、皮膚の改善を図ると、10日間ほどで上の写真のような状態になるはずです。その後、装具の変更を検討してください。発赤やびらんがあり、浸出液が出る状態では、装具をうまく装着できません。 なお、皮膚の改善にあたっては、安易に薬剤を使ってはいけません。肛門周囲によく使われるアズノール軟膏、亜鉛華軟膏などを使うと、皮膚を保護する面板をうまく貼れなくなります。 漏れ・もぐりこみの原因を探る 科学的刺激への対処では、漏れやもぐりこみの原因を探る必要があるとご紹介しました。具体的には、以下のような原因が考えられます。 装具と腹壁の不適合 装具が腹壁の状態に合っていないケースです。ストーマ造設時から長年にわたって同じ装具を使っている方は多くいらっしゃいますが、体型や皮膚の状態は加齢に伴って変化するため、装具の見直しが必要です。 装着時の不適切な手技 軟膏を塗る、洗浄後の濡れた皮膚に面板を貼る、面板を貼ってすぐに体を動かすなどの不適切な手技もトラブルの原因です。 面板には「初期の密着力が弱い」という特徴があります。装着してからしばらくすると体温や汗によって皮膚保護剤が溶けて皮膚のしわに入り込み、12~24時間かけて完全に密着します。そのため、貼った直後に動くと隙間ができて剥がれてしまう可能性があります。貼ってから5〜10分は体を動かさず、面板を温めるように上から手を置くのがベストです。 装具の限界を超えた装着 「もったいない」という考えから、装具を適切なタイミングで交換しないケースもよく見られます。中には「漏れるまで貼っている」という方も。利用者さんの状況を確認し、適切な使用期間で装具交換ができるように導いてください。 なお「漏れのリスク」は、剥がした面板の裏面をチェックするとわかります。 漏れない装具は、裏面のふやけた部分が「きれいな正円」を描いていますが、漏れやすい装具では円がいびつな形になる傾向があります。便の潜り込み具合や膨潤・溶解の程度などは漏れの原因を探る手がかりになるため、面板の裏側を確認する習慣をつけることをおすすめします。 次回は装具やアクセサリーの選び方、ストーマ傍ヘルニアへの対応やストーマトラブルの症例について解説します。 >>後編はこちらストーマトラブル対処法 装具選択とケーススタディ【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【2月4日up】足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】
【2月4日up】足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】
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2025年2月4日
2025年2月4日

足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】

2024年10月25日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」。在宅でのフットケアにも尽力している倉敷市立市民病院 形成外科医長 小山晃子先生に、訪問看護で役立つ足病変の知識やケアのノウハウを解説いただきました。セミナーレポート後編では、具体的なフットケアの方法を紹介します。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 圧迫による鶏眼や胼胝を防ぐフットケア 鶏眼(魚の目)や胼胝(タコ)は、潰瘍につながる恐れがあるため、フットケアでの予防が大切です。鶏眼や胼胝は、皮膚に角質が「くさび」のように突き刺さってできており、踏み続けると皮膚が破れる可能性があります。なお、鶏眼や胼胝にできた黒い点は、赤血球の色によるもの。すでに出血しているので、早急な対応が必要です。 具体的には、専門外来に相談し、適切なフットウェア・履物を選びましょう。着用して実際に歩き、鶏眼や胼胝がある箇所に圧がかかっていないことを確認してください。 足病変がある利用者さんの中には神経障害がある方も多く、潰瘍に気づかないケースもあります。ぜひみなさんの目と手で、圧迫もケアしてください。 【ケアのための知識】爪の構造 爪切りを含むフットケアをするにあたっては、爪の構造理解や名称を押さえておくことも大切です。 爪母(そうぼ) 爪をつくる「工場」のような組織で、断面図で見ると爪の根っこにあります。爪母でつくられた爪が、「爪床」と呼ばれるベルトコンベアのような皮下組織によって前に送り出され、次に説明する「爪甲」ができあがります。つまり、根本に近い部分は最近できた爪で、爪先の爪は1〜1年半前に生まれた爪です。 爪甲(そうこう) 爪の甲。爪周辺の皮膚の中にも埋まっており、ケアする際は「見えない部分にも爪甲がある」ことをイメージする必要があります。 爪郭(そうかく) 爪の縁の皮膚。両横を「側爪郭(そくそうかく)」、根本を「後爪郭(こうそうかく)」といいます。治療で使われる言葉なので、知っておいてください。 【ケアのための知識】爪の役割と変形の原因 爪は歩行を支える役割を担っています。歩く際に地面から受ける圧力を爪甲が受け止めることで、正常に歩行できるのです。 しかし、「歩かなくなる(爪に圧がかからなくなる)」と、爪甲は次第に縦にも横にも湾曲。あまり歩けなくなった方の爪が曲がるのはこのためです。 また、爪先を踏みしめて歩けていない場合も、爪に力が加わらず、同じように湾曲します。その場合、足の母趾裏にタコができるのが特徴です(左下写真参照)。 このように爪が湾曲し、「巻き爪」「陥入爪」になってしまうと、爪が非常に切りにくくなります。指先を踏んで歩く、もしくは同様の圧がかかるような運動を行うなどして、日頃から予防に努めましょう。 ただし、湾曲の程度が深刻な場合(右下図参照)は圧をかけると爪がホチキスの針を畳むように食い込んでしまうので、可能な範囲で爪切りをしつつ、病院に相談してください。そのほか、 外反母趾がある 立ち上がることができない 痛みや傷がある といった場合も、病院の受診が必要になります。 正しい爪の切り方 爪を切る際は、上の写真の姿勢で行ってください。使用する爪切りは、力が伝わりやすいバネつきのもの、爪をしっかりとキャッチする「のこぎり刃」のものがおすすめです。 爪を切る際は、あらかじめ目安となる線を引き、少しずつ小分けにして切り進め、線のところまで切りましょう。上の写真の場合、20回ほど刃を当てて切るイメージです。 湾曲した爪も、ご紹介した爪切りで少しずつ切ると、写真のように整えられます。また、湾曲に爪切りを沿わせるようにすると、痛みを抑えられます。 在宅における取り組み 在宅でのフットケアに長く取り組む中で、すべてのケースで「足病の完全な解消」を目指すのは難しく、「現状維持」を選ばざるを得ない利用者さんもいらっしゃると感じています。ただ、治療の目標に関係なく、ケアを続けることは必要です。 今後は、すべての方に継続的にケアを提供できる体制づくり、例えば「病院と在宅・施設との連携強化」が重要になると考えています。その一歩として、本セミナーでお伝えした内容が、みなさんの日頃の看護に少しでも役に立ち、「利用者さんの味方」として良質なケアを実践するヒントになれば幸いです。 * * * 足病ケアの質を向上するためには、病院や診療所と在宅医療を提供する方々がしっかりと連携し、チーム医療を実現することが欠かせないと感じています。訪問看護師さんの中には、今フットケアについて悩んでいる方も多いでしょう。そんなときは、ぜひ病院に相談してください。近年、スマートフォンやタブレットを利用することで、時間や場所に依存せず情報を共有できるようになりました。特に「見方」を共有する上で、画像の共有は大変重要です。在宅の患者さんと医師との間をつなぐ訪問看護師さんの、強力な「味方」を活用くださいね。 これからの時代、足病の利用者さんを助けるには、訪問看護師さんの存在が絶対に必要です。よりよい未来に向けて、みなさんと連携していければと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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