インタビュー

大学立の訪問看護ステーションとして看護学生、新卒看護師の教育・育成に取り組む

看護学を教える教授でありながら、自ら総括マネジャーを務める訪問看護ステーションを立ち上げた高崎健康福祉大学の棚橋さつきさん。若い実習生を積極的に受け入れ、経営・運営の安定化にも力を入れています。その奮闘ぶりをお聞きしました。

スタッフにも意味がある学生実習受け入れ

高崎健康福祉大学が地域医療、看護を強化することを目的に訪問看護ステーションを開設して、丸6年が過ぎました。公的機能を持つ教育・研究拠点とすることで、地域貢献が可能になると考えて設立した、独立型の訪問看護ステーションです。
当時、大学立のステーションはまだ珍しく、この新しい取り組みに共感した専門性の高い訪問看護師、病院師長経験者などが集まりました。ステーションはベテランのスタッフを中心に、看護実践、教育、研究を三本柱として、2015年4月に運営を開始しました。
訪問看護ステーションは、地域によってはがんや小児など、専門特化型で経営が成り立つところもあります。しかし、群馬県内ではそう多くはありません。どのような疾患にも対応できるスタッフが多ければ、それだけ早く収支を安定させることができます。スタッフの頑張りのおかげで、開設3年目には、当初の計画通り単年度での黒字化を達成しました。
教育の拠点として、開設2年目から大学の在宅看護実習を受け入れることも、当初から計画していました。そのため、実習先の確保も考慮し、開設後の1年間で利用者数を50人まで増やす必要があったのです。これも計画どおり、2年目から開始することができました。
以来、学生実習は、4~5人を1グループとして2週間ずつ、年間5~6グループを受け入れています。今は、新型コロナウイルスへの感染を恐れ、学生実習の受け入れは控えたいという利用者もいます。そのため、訪問件数は減らしていますが、実習生の受け入れ自体は感染予防に留意しながら継続しています。
学生実習を受け入れると、スタッフには負担がかかります。開設2年目に初めて学生実習を受け入れたとき、スタッフからは「学生は何もわかっていない」「何もできない」と訴える声が上がりました。そこで私は、スタッフに大学の在宅看護の講義や演習を見学に行かせました。
数回だけの見学でも、大学教育でできる範囲で精一杯教えていること、それでも学生には十分理解しきれないことがあることを理解してもらいました。学生や大学の教育を批判しても何も始まりません。学びの途上にある学生に、現場実習の中で理解を進めてもらうにはどうすればいいのか。スタッフも、徐々にそれを考えてくれるようになっていきました。学生実習の受け入れは、スタッフにとっても意味があると感じています。

新卒訪問看護師も年度末には月50件を訪問

在宅看護実習を経験し、当ステーションへの就職を選択した学生もいます。残念ながら、多くの訪問看護ステーションは、今も新卒採用には消極的です。当ステーションが新卒者の採用を計画したときも、大学側から、新卒者を採用して育成しながら運営していけるのかという指摘がありました。
確かに、新卒者は研修期間中、一人で訪問できず収益には貢献できません。しかし、当ステーションではしっかりとした研修プログラムの実施により、入職1年目の終わりころには、新卒者も月約50件の訪問を担当できるようになりました。もちろん、訪問先の選定は必要ですが、件数だけを見ればほかの看護師と同等です。新卒でも自分の給料分をきちんと稼ぎ、収益を上げてくれる存在となったのです。それと同時に大きな成果はスタッフの教育への意識が変わったことでした。教育することで自分たちに何が不足しているのか、どのような教育をしたらいいのかを考える良いきっかけとなりました。当ステーションとしても、開設3年目に新卒看護師を常勤で採用しながら、前述のとおり、単年度の黒字化を実現しました。
新卒看護師育成の研修プログラムは、外部の病院の新人研修プログラムの受講、緩和ケアや介護現場の見学、当大学の栄養、小児、社会福祉関連講義の受講などで構成しています。
研修プログラムは2年で終了し、その後はほかの看護師と同様の研修に移行します。4年間で2名の新卒看護師を育成したことで、研修プログラムを整備できれば、訪問看護ステーションでの新卒者受け入れに問題はないと感じています。そうした理解が、多くの訪問ステーションに広まり、新卒の訪問看護師が増えていくことを願っています。
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棚橋さつき
高崎健康福祉大学 保健医療学部 在宅看護学 教授・
高崎健康福祉大学訪問看護ステーション 統括マネジャー
記事編集:株式会社メディカ出版

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