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[1]実習の受け入れ、こんなこと『疑問』に思っていませんか?

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、訪問看護実習に関してよく寄せられる疑問を取り上げてお答えしましょう。

訪問看護の魅力を実習の場で伝えてほしい

近隣の看護学校から、看護実習を受け入れていただけないかと打診される訪問看護ステーションの管理者の方は多いのではないでしょうか。

看護教育では2022年のカリキュラム改正によって地域・在宅看護論が1年時から組み込まれ、地域連携の視点が教育開始時から必須になりました。

訪問看護ステーションは、地域・在宅看護実習の主な場であり、期待される役割はますます大きくなっています。とはいえ、日ごろから少ないスタッフで業務をこなしているステーションも多いため、なかなか受け入れに積極的になれないのではないかと思います。でも、在宅看護に興味のある学生や卒業後すぐに訪問看護師になりたいと考える学生も増えてきています。私は、大学の看護学科で地域・在宅看護学を教えています。訪問看護実習の受け入れをお願いする立場から、みなさんの現場で訪問看護の魅力を学生たちに伝えていただきたいと思います。

訪問看護実習への疑問、お答えします!

訪問看護ステーションの管理者の方々は学生の受け入れに関心はあるものの、事業所内のマンパワーの問題や場所が狭いといった環境面のご心配から、受け入れに一歩踏み切れないと思われることが多いようです。

確かにいろいろなご心配があるかと思いますが、正確な情報提供や少しの工夫で解決できることもあります。今回は、これまで管理者の方からお聞きしてきた疑問を取り上げて紹介していきます。少しでも訪問看護実習の受け入れについて知っていただき、意外と大変じゃないかも…と思っていたければ幸いです。

実習は1度受け入れたら、ずっと受け入れないといけないの?

みなさん1度受け入れたら次の年は断れないんじゃないかと心配されることが多いようですが、答えは「ノー」です。

スタッフの人数や利用者さんの状況などから、受け入れが難しい年もあると思います。学生を送り出す側としては、毎年、受け入れのお願いをさせていただきますが、難しい状況のときは遠慮なく仰ってください。そして、また受け入れ態勢が整った段階でお声がけいただけければと思います。

学生に専用で使ってもらえるロッカーや部屋がないけれど受け入れても大丈夫?

スペースの問題はご心配が大きいようで、このご質問を非常によく受けます。ですが、専用のロッカーや控え室がなくても問題ありません。

例えばロッカーがない場合、実習中の服装をあらかじめ指定していただくと、着替える必要がないのでロッカーはなくても問題ありません。白衣などの指定がなければ、学生は自宅からスニーカー、ポロシャツ、チノパンツ、冬はこれにカーディガンを加えた服装で、直接実習先に伺うことが多いです。

また、ステーション内で休憩する際は、差し支えなければ、スタッフの方が使用されているスペースを共有させていただけると助かります。スタッフの方と同じフロアにいることで、電話対応や関係者間の打ち合わせなど、事務所の日常業務を見学することができ、貴重な機会になると思っています。

実習に来てくれた学生に最初に伝えなければいけないことは? 

まずは、利用者さんのお宅に伺うときの基本的なマナーについて共有をお願いします。もちろん、学校でも接遇・マナーに関する教育を行っていますが、訪問看護ならではのポイントがあるかと思います。

例えば、訪問したら靴はそろえて下座に置く、上着はたたんで身近に持っておく、利用者さんのお宅にあるものに触れるときはどうするのか、などです。訪問時に普段から注意していらっしゃることを、同行訪問前のオリエンテーションのときに伝えていただければ幸いです。

学生の中には、多職種と開催する会議に出席させていただけるケースもあるようです。その際は、会議出席時のマナーを知るチャンスなので、会議の目的・参加者・参加者の職種・日時と場所を把握する、携帯電話の電源を切る、メモをとるときは指導者の許可を得てから…といったようなことを伝えてあげてください。

個人情報の取り扱いが心配! 電子カルテの取り扱いで注意することは?

実習では、利用者さんを理解するため、実際に電子カルテの診療記録を閲覧させていただくことがあります。電子カルテは、すべての利用者さんの情報が電子保存されており、権限次第ではコピーも可能ですので、個人情報保護の観点から取り扱いには十分な注意が必要です。

学校でも実習前に個人情報の取り扱いおよびプライバシーポリシーに関する教育を行っていますが、訪問看護ステーション独自の規則も策定いただけるようお願いいたします。例えば、次のようなセキュリティ管理を徹底してもらえるとよいかと思います。

・実習クールごとに学生専用のIDとパスワードを設定する。
・電子カルテシステム上から使用権限を設定し、学生は担当患者の診療記録に限って閲覧のみ可能にする(入力・更新・転送不可にする)。
・実習開始前に電子カルテのメンテナンス業者に確認を行う。

同行訪問の前は何をどこまで学生に伝えればよい?

同行訪問についてあれこれ説明していたら、ずっと話をしていたという実習指導担当者のご相談を受けたことがあります。少しでもよりよい実習にしたいとの思いからあれもこれも伝えなくては、と思ってくださるようです。

学生には、まずは利用者さんを知り、疾病や看護技術について復習し、実習での学びを深めてほしいと考えています。学生自身が情報を整理し、準備しておくことも必要ですので、同行訪問の前は訪問時に行うケアと、利用者さんの「身体状況」「環境・生活」「家族・介護の状況」「心理状況」の4点について事前にカルテを閲覧し、整理しておくように伝えてください(表1)。

また、学生は訪問先に伺うことに対してとても緊張しています。移動時間を利用して、訪問先での注意点、利用者さんやケア技術についてお話していただけると学生の緊張もほぐれてくるように思います。

表1 利用者さんの状況を整理するための4つのポイント

カルテから情報収集し、利用者さんの状況を4つのポイントに沿って整理します。もし学生が利用さんの情報をうまく説明できないようでしたら、この4点について順に学生に質問を投げかけてみてください。



執筆 王 麗華
大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授

 
●プロフィール
1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。
 
記事編集:株式会社照林社

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