インタビュー

大学関係機関のメリットを生かし、 経営を超え、地域のために訪問看護を広く支援したい

看護学科のある大学直営の訪問看護ステーションを立ち上げた棚橋さつきさん。今回は、学びの場としての研修と、報酬請求などあらゆる業務をだれもができるようになることの重要性について語っていただきました。

研修機会の提供とスタッフ育成のために

2015年に開設した高崎健康福祉大学立の訪問看護ステーションでは、地域貢献のため、研修機会の提供に積極的に取り組んでいます。研修内容は、褥瘡、ストーマ、排泄ケア、難病、リハビリテーションなど多岐にわたります。現場で本当に困っていることを解決できるよう、専門的かつ実践的な研修にすることを心がけています。また、個人でも参加しやすいよう、参加費は1人2000円程度としています。
当初、研修の内容企画は、私と管理者が中心になって考えていました。しかし、私自身が息切れしてきたことや内容が偏る傾向も見えてきたことから、色々な分野を強みとするスタッフに考えてもらうことにしました。自分自身がどういう研修を受けたいか。講師は誰に頼むか。どういう形式で行うか。参加者は何人にするか。そうしたことを考え、計画を出してもらうことにしたのです。
私や管理者が立てた研修をただ手伝うのと、自分で企画運営するのとでは、経験から得られるものはまったく違います。地域包括ケアを考えたとき、訪問看護師として研修の企画運営をしていくのも必要な能力だと考えました。
任せてみると、それぞれの関心によって異なる内容の研修を提案してきます。私が考えるよりバラエティに富んだ内容になり、スタッフに任せて良かったと感じています。
スタッフに任せるということでは、月1回、管理者が行っていた診療報酬請求の際の書類の入力も、常勤スタッフに交代で担当してもらうことにしました。医療保険における利用者の疾患情報の入力です。
自分の担当以外の利用者も含め、その月1カ月の状態の変化などについて記録を読み込み、コンパクトにまとめて入力する。これが、スタッフにとっていいトレーニングになると考えたからです。こうした作業が診療報酬請求上、必要であると知っておいてほしいという気持ちもありました。
訪問看護に長く携わっていても、ステーションの運営や事務作業、労務管理などについて学ぶ機会はなかなかありません。当ステーションで長く勤めてくれているスタッフには、いずれ独立したとき、管理者になっても困らないようにしたい。そう考えて、このほか時間外勤務の計算なども、交代で任せるようにしています。

研修で変わる退院支援看護師の意識

地域貢献としては、このほか、訪問看護ステーションの立ち上げ支援や、退院支援についての勉強会「退院支援を考える会」(事務局は在宅看護領域)も行っています。
ステーションの立ち上げ支援は、当初、一つのパッケージをイメージしていました。ところが始めてみると、受講希望者のニーズは実に多種多様。「開設のための提出資料がわからない」「記録をどう整備すればいいかがわからない」など、一人ひとり違うのです。今はその人に合わせてオーダーメイドで対応しています。
申し込みは毎年3~4件ですが、受講後、管理者になった人が相談に訪れることもあります。こうした支援によって、県内の訪問看護ステーションの立ち上げには、かなり貢献できたと考えています。
「退院支援を考える会」は、もともとは当大学の学内事業として始めました。もう10年になりますが、定期的に研修会を開催しています。今は研修の一部を当ステーションで担当していますが、場所やパソコンの機材などは、大学の教室などを無償で借りて実施しています。大学関係機関で実施するメリットですね。
「退院支援教育研修」では、病院の退院支援担当のソ-シャルワーカーや訪問看護師が講義を行い、その後実習へ行き、最後に事例検討を行います。対象は病院の退院支援看護師で、25人が定員ですが、毎回、参加希望者が多く、すぐ定員になります。
この研修会で、退院支援のすべてを伝えることができるわけではありません。しかし、参加者は看護師ですから、現場を見ればどのような支援が必要か、ある程度イメージはできます。「車いすの練習を一生懸命やっていたが、こんな広い廊下なんて在宅にはない」など、実習のあと、参加者はさまざまな気づきを口にします。たとえ小さな気づきであっても、発想はそこから変わっていきます。そうすると、退院していく患者さんへの声かけも違ってくると思うのです。この研修では、そんな“訪問看護の入口”の部分の意識変革だけでもできればと考えています。
昨年からの新型コロナウイルス感染症のまん延で、在宅では感染についての知識が圧倒的に不足していることを痛感しました。当大学では2022年4月から、感染管理認定看護師課程を開設し教育研修に取り組む予定です。それを前に、今年は感染管理認定看護師に、1年間だけ当ステーションに来てもらい、在宅での感染対策のマニュアル作成を進めています。それをたたき台にして多くのステーションに対して発信し、活用してもらいたい。大学立の訪問看護ステーションとして、経営を超え、今後も訪問看護を広く支援する活動に取り組んでいきたいと考えています。
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棚橋さつき
高崎健康福祉大学 保健医療学部 在宅看護学 教授・
高崎健康福祉大学訪問看護ステーション統括マネジャー
記事編集:株式会社メディカ出版

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