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胃瘻でも餃子が食べたい! 慢性期の摂食嚥下リハビリテーション③

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、食事時の姿勢調整などで経口へ導いた事例です。

急性期・回復期・慢性期で嚥下障害は変化する

急性期では、重篤な嚥下反射遅延や誤嚥といった咽頭期(連載第3回を参照)の嚥下障害が発症し、経管栄養管理下に置かれることが、しばしばあります。回復期・慢性期になると体調が回復しますが、食べこぼす、噛みづらいなど、準備期(連載第3回を参照)の障害に変化するケースがあります。

急性期から回復期~慢性期へと、各々のステージで嚥下の再評価が必要です。その結果から、5期モデルのどこに障害があるのか、個々の回復の変化に応じて、適切な対応が可能になります。

事例

Hさん、69歳女性・要介護5。施設入所。脳梗塞発症後の左側片麻痺あり、歩行不能。

残存歯数が15本、重度歯周病と上下部分義歯不安定があることから、入所施設のケアマネジャーからの依頼で訪問となりました。

簡易検査はほぼ正常で、準備期の改善と姿勢の調整で、直接訓練が可能と判断しました。

初診時の嚥下評価

RSST注13回/30秒
ODK注2パ3.2回/秒、タ2.8回/秒、カ2.0回/秒
改訂水飲みテスト注34点 頸部聴診音清明
頬の膨らまし左右 十分にできる
うがい問題なくできる

間接訓練

準備期の主役は、歯や義歯です。「餅つき」に例えれば、歯はうす・・きね・・です。

ときどき手水をつけた手で餅を返すことで、おいしい餅(食塊)になります。手水は唾液に相応し、返す手である舌や唇、頬の筋肉をうまく動かす間接訓練が、準備期にはとても大切です。

Hさんの間接訓練は順調に進み、早速、ベッド上の段階的摂食訓練を開始しました。

直接訓練

ファーラー位で右側を下にした側臥位に姿勢を調整しながら、「学会分類2021」の「0j」を試しました。1か月ほどで、「2-2」まで可能になりました。

ところがここで、義歯の装着が困難になるという問題が発生しました。

Hさんは、喫煙の影響から、歯周病(重度の骨吸収)がありました。義歯の内面調整後も、粉末やゼリータイプの義歯安定剤を使用しなければ咀嚼できない状況でした。さらに、装着時の鉤歯の動揺もあり、ときおり、義歯の装着を拒否することもありました。

そこで、食前に口腔ケアと間接訓練をすませ、義歯安定剤を貼付した義歯を装着するという条件を満たした場合にのみ食べる訓練(直接訓練)をしましょうと提案し、すぐに承諾していただきました。

姿勢を調整する

Hさんは左側に麻痺があるので、体幹は自然に左へと傾斜します。重力の影響で水分などが麻痺側の左に流れて、ムセや誤嚥を発生させます。

まず、車いすにカットテーブルを装着しました。

患側の左側が下がってしまうことを防ぐために、患側の左手をカットテーブル上にのせます。さらに、背中にクッションを入れて患側の左側を高く、健側の右側を低く、勾配をつける姿勢に調整しました。これがうまくいき、ムセが軽減しました。

水分にはとろみ調整剤で交互嚥下法(連載第3回を参照)を取り入れ、UDF区分「舌でつぶせる」の、ソフト食が可能になりました。

餃子の自食をきっかけに

その後看護師から、Hさんが、餃子を食べたがっていることを聞きました。

早速、市販の餃子を一口大にカットして提供しました。タレにはとろみを付け、まとめてかけます。おいしそうに自食され、これをきっかけに、一気に食上げが進みました。

介入から2年近く経過した現在は、姿勢調整することなく、UDF区分「容易にかめる」を自食されています。

食事介助に摂食嚥下リハを応用する

認知症の方などの食行動には、さまざまなパターンがあります。

ある人は、はがき一枚分の空間認識しかできない視野狭窄がありました。別の人は、口に食べ物が入れば咀嚼できるのに、認知症のために、食事に手をつけようとしませんでした。

このような場合、食事介助時に摂食嚥下リハビリテーションを応用すると、食支援につながる可能性があります。

認知症等の食行動に対応するためには、
➀食に集中できる環境
②おかずを目の前に多く置かない
③患者の右側から介助する(右側嚥下法注4
──などの基本と、
④食欲の低下には、食前に手のマッサージと口腔ケア
⑤口が閉じにくい方は、口唇閉鎖訓練注5、「パ」の発声、口を閉じたり開けたりする口唇のストレッチ
──も有効です。

認知症の食支援例

症状          対応法(例)
食べ物に興味を示さない声掛け/食べ物の匂い/触感や味覚刺激を入れる/おにぎり
早食い、かきこみ食べ一皿ずつ出す、小さいスプーン
時間がかかるなるべく30~40分で切り上げる/間食で補う
口の中に溜め込む食前に棒つき飴などで味覚刺激を入れる
ムセ、嗄声姿勢調整/食前に氷なめ/口唇閉鎖訓練

次回は、口腔粘膜疾患や衛生面での口腔ケアについてお話しします。

注1 RSST(反復唾液嚥下テスト):65歳以上では、3回/30秒で正常
注2 ODK(オーラルディアドコキネシス):1秒間に「パ」「タ」「カ」をそれぞれ何回発音できるかをカウントする
注3 改訂水飲みテスト:3mLの冷水を飲み、呼吸や嚥下の状態を評価する。4点以上でほぼ正常
注4 右側嚥下法:食道は人体の左側で胃へつながっており、体が左側を向くと、食道入口部が閉まってしまう。この場合、30度ほど右側を向くと食道が開きやすくなり、物を飲み込みやすくなる
注5 口唇閉鎖訓練の一例


執筆
山田あつみ
(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)
 
記事編集:株式会社メディカ出版

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