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訪問看護認定看護師 活動記/東海北陸ブロック
訪問看護認定看護師 活動記/東海北陸ブロック
コラム
2023年11月21日
2023年11月21日

介護職員養成&通学支援【訪問看護認定看護師 活動記/東海北陸ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 東海北陸ブロック、松下 容子さんの活動記です。介護職員向けの喀痰吸引等研修や、三重県で2023年度より導入されている医療的ケア児の通学支援の取り組みなどをご紹介いただきます。 執筆:松下 容子看護学校を卒業後、総合病院に勤務し、2000年から訪問看護に従事。2011年 訪問看護認定看護師資格取得2012年 四日市社会保険病院 訪問看護ステーション管理者(現:四日市羽津医療センター)2021年~現在 みんなのかかりつけ訪問看護ステーション四日市 管理者 全国で1番の会員数を誇る東海北陸ブロック 私は、日本訪問看護認定看護師協議会の理事に就任して4年目になります。担当業務は総務で、主に総会・同時開催研修会と交流集会の計画、開催等に関わっています。研修会の講師や内容については、会員の皆様からのアンケート調査に基づき、皆様のご希望を反映できるよう、心がけています。 例えば、2023年6月の総会後の同時開催研修会は以下のような内容で実施しました。 第1講「認定更新申請の情報提供」5年目の訪問看護の認定更新を済まされた会員からの情報提供第2講「法律制度を活用したコミュニケーション向上術」看護師であり、社労士事務所代表の方によるご講演 次に、私が所属している東海北陸ブロックの活動状況を紹介します。当ブロックは静岡、愛知、岐阜、三重、福井、富山、石川の7県から構成され、会員数は101名となりました(2023年10月時点)。協議会全体での会議とは別に、ブロック内で年に2回の研修会と交流会、年に数回の役員会を開催しています。役員は、ブロック長をはじめ各地区代表の10名で構成されており、研修会をはじめとした企画・運営を取り仕切っています。9月末には、今年度最初の研修会として、「在宅ケアにおける倫理」をテーマに開催しました。 喀痰吸引等研修講師として10年目 個別で行っている講師活動についてもご紹介します。私はこれまでの10年間、毎年喀痰吸引等研修の講師を務めています。喀痰吸引等研修とは、「たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)」と「経管栄養(胃ろう、経鼻経管栄養)」を行える介護職員等を養成するための研修です。また、この介護職員を現地で指導するための指導者研修(看護師)もあり、いずれも研修内容は講義と演習で構成されています。そのほか、これまでに介護職員数名の実地研修の指導者としても関わらせていただきました。 喀痰吸引等研修会演習風景 今後もこの活動を通して介護職員の喀痰吸引等に関する手技の維持・拡大と喀痰吸引等提供の質確保に努め、介護職員を含めた多職種による協働体制の構築に尽力していきたいと思います。 県初、医ケア児の通学支援開始 医療的ケア児への支援活動についてもご紹介します。四日市市には特別支援学校があり、多くの医療的ケア(人工呼吸器や喀痰吸引、胃ろう管理等)を必要とする児童が通学をしています。しかし、ほとんどの児童はスクールバスへの乗車が困難な状況です。スクールバスに乗れない児童は家族送迎を余儀なくされ、家族の負担は非常に大きいものとなっています。例えば、母親による往復の送迎に1時間程度かかる場合、母親の仕事の時間が削られているケースはもちろん、就業を諦めざるを得ないケースもたびたび見かけられます。 三重県では、そんな家族の負担を軽減すべく、2023年度に「三重県医療的ケア児通学支援事業」が試行され、現在、当ステーションでは週に2回、朝の通学支援に協力させていただいています。業務内容は、指定された福祉タクシーに同乗し、運転手さんと協力して安全に児童を特別支援学校まで送り届けることです。道中、車内での児童の状態観察と喀痰吸引の必要があれば実施し、学校到着後に担任教員に母親からの伝達事項や車内での状態を引き継ぐという流れになっています。 まだ開始したばかりの事業であり、実際、受け入れのできる訪問看護ステーションも、まだまだ少ないのが現状です。障害があっても健常な児童と変わらず、平等に学習機会が確保され、必要な支援のもと、児童の成長、発達と家族へのサポートがますます促進されるよう、今後も微力ながら関わっていきたいと考えています。そして、誰もが豊かに暮らせる地域に発展することを心から願っています。 * * * この記事をお読みいただいている訪問看護師の皆様にも、ぜひ安心・安全の提供と、自分らしい生活・ありたい姿の実現を見据えながら、療養者様やご家族に寄り添っていただけたら幸いです。 ※本記事は、2023年10月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

認定看護師活動記 南関東
認定看護師活動記 南関東
コラム
2023年10月10日
2023年10月10日

「看護を語る」ことを大切に【訪問看護認定看護師 活動記/南関東ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 南関東ブロック、伊藤 みほ子さんの活動記です。南関東ブロックの活動内容や訪問看護総合支援センターの開設、「在宅看取り語りの場」の取り組みなどをご紹介いただきます。 執筆:伊藤 みほ子介護支援専門員/訪問看護認定看護師/認定看護管理者。看護学校卒業後、赤十字病院にて病棟、外来、訪問看護ステーションで勤務。現在は長野県看護協会 常務理事 地域支援部 訪問看護総合支援センター担当。 「看取りを考える会」を年4回開催 私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会 南関東ブロックは、神奈川、山梨、長野の3県の訪問看護認定看護師協議会 会員による活動を行っています。 協議会の活動が始まった10年前は、ブロック長を中心とした年1回の交流会(研修会)を開催していました。現在は活動の幅が広がり、ブロック長、各県代表とブロック理事によるブロック会議で交流会や研修会などを企画し、開催しています。南関東ブロックの会員数は30名弱と少人数ですが、オンラインの会議や交流会により、情報共有が有意義にできています。 例えば、2022年度に全ブロックで開催した「在宅看取りを実践できる訪問看護師の育成事業」は、ブロック会員の協力により有意義な研修となりました。この事業に参加した南関東ブロックの会員から、「ブロックの活動として在宅看取りについて検討する場を継続していきたい」という意見があり、2023年度は「看取りを考える会」を年4回開催する計画となりました。 それぞれ多忙なため、ブロック活動の参加者が少人数になることもありますが、しっかり継続できています。訪問看護認定看護師同士が「看護を語る場」として、実践を語り、互いに学べる場は貴重であり、各々がその意義を感じているためと考えています。 訪問看護提供体制の強化とさらなる推進 私が長野県看護協会の常任理事として行っている活動についてもご紹介します。特に注力しているのは、長野県全域の訪問看護提供体制の強化と推進で、2023年4月には「訪問看護総合支援センター(以下「支援センター」)」を看護協会の中に開設しました。2021年に日本看護協会の支援センター試行事業に参加して以降、今回の開設に向けて準備をしてきました。支援センターには、私を含めた訪問看護認定看護師2名を配置し、訪問看護の課題に取り組んでいます。 支援センターの役割は、「経営支援」、「人材確保」、「訪問看護の質向上」の3つです。具体的には、以下のようなことを行っています。 【1】訪問看護支援事業(長野県受託事業) 訪問看護事業所運営基盤整備:コンサルテーション訪問看護制度等の電話相談事業所訪問による看護技術等のシミュレーションによる演習や講義等訪問看護事業所の新規開設支援潜在看護師、プラチナナース等の就業および転職支援新卒訪問看護師採用に向けた取り組み訪問看護に関する調査・実態把握教育・研修の企画、実施 【2】地域住民への訪問看護周知と活用推進としての在宅看取りに関する取り組み 【3】長野県訪問看護ステーション連絡協議会との連携(事務局) 支援センター開設以降、新規訪問看護事業所開設の相談や制度についてなど、問い合わせが増えています。認定教育課程で学んだ知識を活かして対応できることにやりがいを感じています。 また、「在宅看取り」については、日本訪問看護財団の助成を受け、県内の訪問看護認定看護師たちと研究に取り組んでいます。日本訪問看護認定看護師協議会のネットワークがこうした活動の連携に活かされており、研修の講師として活躍いただける場も提供できています。 訪問看護師による「在宅看取り語りの場」 前述した支援センターの事業のうち、「【2】在宅看取りの取り組み」として、訪問看護師による「在宅看取り語りの場」という活動も行っています。 訪問看護師に在宅看取りの様子を語ってもらい、地域の一般参加者の方々にも今の思い(介護していること、今までに経験した家族の看取りのことなど)を語っていただくことで、自分の思いに気づき、表出することができます。また、地域の方々に在宅医療や看護について知っていただくきっかけにもなります。 私は以前から、訪問看護の終末期ケアの実践から学べることは大変多いと考えていました。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を進めていく上でも、終末期や在宅看取りに関する具体的なイメージを持っていただくことは大切です。 訪問看護師の「技」といっていいスキルのうち一つにコミュニケーション能力があり、認定看護師に限らず、多くの訪問看護師が終末期ケア、在宅看取りを実践しながらコミュニケーション能力を磨いていると思います。そうした強みや経験を活かして、在宅で最期まで暮らせることの幸せを地域の方々に伝える取り組みができれば、と考えています。 「在宅看取り語りの場」の様子 * * * 私は、今までも「看護を語る」ことを実践し、意義を感じてきました。これからも、「看護を語る」ことから学ぶ機会をつくっていきたいと考えています。 ※本記事は、2023年9月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

認定看護師活動記 北海道
認定看護師活動記 北海道
コラム
2023年9月19日
2023年9月19日

病院や看護学校での啓蒙活動【訪問看護認定看護師 活動記/北海道ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師・在宅ケア認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 北海道ブロックに所属する、田川 章江さんの活動記です。病院や看護学校での講演活動もされている田川さんに、北海道ブロックの活動内容や、退院指導・生活指導にまつわる看看連携、看護学生に訪問看護の魅力を伝える活動などをご紹介いただきます。 執筆:田川 章江訪問看護認定看護師/日本訪問看護認定看護師協議会 理事(2021年~地域貢献活動担当理事)。看護学校卒業後、総合病院で勤務。現在は、社会医療法人 孝仁会 訪問看護ステーションはまなす(北海道釧路市)でスタッフとして勤務。「現場の職人」でいたいという想いが強く、スタッフ歴を更新中 広ーい北海道でアットホームに活動中です まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の「北海道ブロック」についてご紹介しましょう。北海道ブロックは、札幌、函館、帯広、釧路、紋別、稚内にメンバーがいます。面積は広いのですが人数は少なめで、8名で活動中です(2023年8月現在)。私は頼りない北海道ブロック理事なのですが、皆様のお力を借りながら、コンサルテーション担当として研修会の企画を行っています。 新型コロナウイルスの感染拡大前は、主に私たち協議会のメンバーが北海道の各地で地域の看護師向けに研修会を開催していました。特にテーマとして多かったのは、訪問時の緊急事態が起こった際の対応についてです。その後、コロナ禍でオンライン化が進んだこともあり、最近はZoomを利用してメンバー間でハラスメントの事例検討会を行ったり、外部の講師の方をお呼びして研修会を開催したりと、活動の幅を広げています。和気あいあいとした雰囲気で、話し出すと止まらず、あっという間に時間が過ぎることも多々あります。 広大な北海道では移動にも時間がかかり、なかなか対面で集まる調整難易度が高いのですが、オンライン化が進んだことによって、参加しやすくなりました。ただ、各地域で集まって、勉強会後においしいものを食べることもメンバーの楽しみの一つ。完全にオンライン化するのではなく、対面での研修会の企画も継続していきたいと考えています。 病院での講義~訪問看護からみた退院指導 私の個別の活動についても、一部ご紹介したいと思います。先日は、釧路市内の病院で開催された糖尿病に関する検討会で、看護師向けの講義をさせていただきました。 私が所属している訪問看護ステーションの利用者さんで、その病院に通院している方の話を絡めながら、 実際の生活の場で、どのように服薬やインスリン注射をしているか薬物療法を継続することの難しさ在宅での食事について などをお話しさせていただきました。 病棟看護師が患者さんに「服薬や生活指導について理解してもらった」と思っていても、退院後の在宅の場では継続が難しいことは多々あります。経済的な問題や介護力の問題で、わかっていてもできないこともあります。在宅での現状を踏まえ、病院での退院指導や生活指導を検討していただきたいことを伝えました。 訪問看護師の立場から、病院からは見えない「生活の場の利用者さん」の姿を伝えることは、非常に有意義だと思っています。また、情報を伝えるだけにとどまらず、地域の病棟看護師と訪問看護師との「顔の見える関係」づくりにもつながっていきます。 未来の看護師さんに訪問看護の魅力を伝える 看護学校で、戴帽式を済ませた学生さんへ講義する機会をいただいたこともあります。看護学生さんたちにとっては、訪問看護は仕事内容がイメージしづらいので、積極的に訪問看護の魅力を伝えていくことが大切だと思っています。 当日は、訪問看護の事例を含めた訪問看護師についての説明や、私が訪問看護師として働く中で大切にしていることなどをお話ししました。 当時の講演内容をもとに著者作成 学生さんたちからは、「自宅での看取りをイメージできた」「着実にやっていくことが大切と分かった」といった感想をいただきました。この看護学校の生徒さんたちは、私が所属する「訪問看護ステーションはまなす」に実習に来ていただいています。「いつか訪問看護師として働いてみたい」と思っていただけるように、実習の場も含めて、今後も訪問看護の魅力を伝えていきたいと思います。 * * * 在宅でも病棟でも、看護師として働く中で色々なストレスがかかり、疲弊しがちな方は多いと思います。今後も私が認定看護師としてお伝えできることをしっかり伝え、一緒によりよい案や対応を考えていきたいと思います。 ※本記事は、2023年8月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

認定看護師活動記 近畿
認定看護師活動記 近畿
コラム
2023年8月22日
2023年8月22日

地域と病院をつなげる取り組み【訪問看護認定看護師 活動記/近畿ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 近畿ブロック、雨森 千恵美さんの活動記です。近畿ブロックの活動内容や、フィードバックカンファレンスの導入をはじめとした看看連携の取り組み、地域で訪問看護の存在感を高める取り組みなどをご紹介いただきます。 執筆:雨森 千恵美訪問看護ステーション ゆげ(滋賀県) 管理者。看護学校卒業後、医科大学付属病院に勤務、代謝・内分泌内科病棟での臨床経験を活かし、糖尿病療養指導士の資格を取得する。結婚出産後は、夜勤のない職場に復帰するため訪問看護ステーションに再就職。在宅看護の魅力にとりつかれ2012年に独立。訪問看護を深く学ぶため訪問看護認定看護師の資格を取得した。2018、2019年には協議会の近畿ブロック長に就任。「近畿ブロックの規約」の作成を行い、その後も「在宅看取りの育成研修事業」を企画。実行力や統率力を評価されている。 現在は、訪問看護のパイオニアとして後任の指導と、地域と病院がつながるしくみ作り(フィードバックカンファレンスの定着)や認定看護師の活躍の場作り、災害時支援チームの一員としての活躍の場をますます広げている。 会員相互の交流を図りネットワークを構築 まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の、近畿ブロックの活動についてご紹介します。 近畿ブロックでは、毎年訪問看護認定看護師としての日頃の実践報告を6府県の代表者が発表する日を設けています。認定看護師として自身の活動を振り返り、今後に活かす貴重な機会です。また、実践報告と同時に「経営について」や「災害といのち」などの関心の高いテーマの基調講演を行っており、学びつつ交流もできる、非常に充実した1日になるため、会員の満足度も高くなっています。これらの活動に参加していると、訪問看護認定看護師として同じ志を持った熱い仲間と交流することができるため、企画すること自体が非常に楽しいです。 フィードバックカンファレンスで看看連携 私が行っている、地域での活動についてもお伝えします。私が住んでいる滋賀県では、全世代型地域包括ケアシステムの充実のために、圏域別に地域看護ネット会議を開催しています。過去には、地域課題として「退院後の振り返りができていない」ことが取り上げられ、まずは「病院と在宅との看看連携強化が必要」との意見も出ました。 そこで私は、訪問看護認定看護師実践報告会で聴いた「フィードバックカンファレンス」の手法が、看護職同士がつながるしくみとして効果的ではないかと提案しました。フィードバックカンファレンスとは、フィードバックが必要だと感じたケースについて、病院側・地域側のどちらからでも依頼できる、というしくみです。例えば病院側が訪問看護ステーションにフィードバックカンファレンスを依頼することにより、退院時の支援や調整が適切であったか、振り返ることができます。 2019年から始め、今年で5年目。コロナ禍で一時はオンライン形式の開催に変更し、調整が難航する時期もありましたが、2023年7月時点までで16例の実績をつくることができました。 実際に開催してみると、フィードバックカンファレンスは、相互理解や信頼関係の構築に役立つのはもちろんのこと、認定看護師の指導を受ける機会になる、看護師以外の専門職とつながる機会になる、そして本人・家族の思いを共有できる場になる、といったメリットがあることがわかりました。今後は、よりフィードバックカンファレンスが全国に普及するよう願っています。 地域での訪問看護の存在価値を高める そのほかにも、地域の中で訪問看護の存在価値を高めるための活動を行っています。 病院看護では医療職同士のつながりのみとなってしまうケースも多くありますが、地域ではさまざまな専門職が協働しています。医療と介護と看護が一体となって、療養者の日常生活の支援から看取りまで実践していきます。多職種との連絡・調整・協働は、訪問看護の最も得意とする分野であり、必要不可欠。人的ネットワークを広げて信頼関係を構築しておくことは、困難なケースでの交渉・円滑な支援につながるでしょう。 最近は、高齢一人暮らしの利用者が増えています。癌ターミナルや認知症になっても、最期まで家で過ごすためにどうしたら良いか。地域の特性を活かして行政と一体となり、地域住民も巻き込んでいく必要があります。本人・家族はもちろん、支援者のすべてが穏やかでいられる方法を模索するのも、やりがいがあって楽しいものです。 また、医療的ケア児をとおして学校関係者とつながったり、育児相談事業を行って、地域の母親たちとつながったりする活動も行っています。新たなつながりを構築することにもやりがいを感じています。新型コロナウイルス感染症によって自宅療養者が急増したときは、保健所の負担を少しでも減らしたいと、電話による健康観察や自宅訪問事業も受託しました。多いときは1ヵ月で2,000件を超える対応を行いました。今後も、さまざまな場面で訪問看護の力を発揮し、地域での存在価値を高めていきたいと考えています。 * * * 訪問看護の魅力は何でしょうか?道中は四季を感じながら利用者宅に向かうと「待ってました」の笑顔に迎えられ、時には想像以上の力を発揮され隠されたパワーに驚かされます。日常生活を一緒に過ごし、喜びと悲しみを共有し、人として成長させていただきます。訪問看護をはじめて25年。在宅医療をこよなく愛し、日々やりがいを持って看護を行っています。訪問看護を目指す方が増え、一緒に訪問看護の素晴らしさを共有できる日を待ち望んでいます。 ※本記事は、2023年7月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

エンジョイALS
エンジョイALS
コラム
2023年7月25日
2023年7月25日

enjoy!ALS最終回〜人生を味わいつくそう〜

ALSを発症して8年、42歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ちょうど2年の区切りを迎え、今まで読んでくださった皆さまへ感謝を込めて、最終回をお届けします。 ALS患者に必要な「情報」を届けたい 「enjoy!ALS」というタイトルで毎月連載を書いてきて、24回目の今回でちょうど2年が経ちました。「コラムを書いてくれないか?」というお話をいただいた当初は連載回数や内容など何も決まっていませんでしたが、書いていくうちに、この連載を書くことで救えるALS患者さんがいるのではないか。だとしたら、これも医師としての立派な仕事ではないだろうか。そう思うようになっていきました。 特にALSという病気は、診断されてから初期の段階でのハードルがとても高いのです。 ALS患者さんの多くは、まだ体が比較的自由に動かせる病気の初期の段階で「将来的には手も足も動かなくなり、声も出せず、呼吸もできなくなり人工呼吸器を装着しないと生きることができない」。そんな絶望的な情報がいっぺんに入ってきます。それをいきなり受け入れて処理することなんて、とうていできるはずがありません。多くの方はそこで絶望感に打ちひしがれ、症状の進行に対処する方法がわからず、対応が後手後手にまわってしまいます。 しかし、私はALSを発症して8年の経験のなかで、この病気をうまく乗り越えていくには、できるだけ先手先手をとることが最も重要なのだと実感しました。 もちろん簡単にできることではないですが……。そのためには多くの有益な「情報」と、自分を支えてくれる家族やヘルパーさん、医師や看護師やリハビリテーションスタッフなどの「支援者」の存在が不可欠です。 この「情報」の部分を、私の連載で少しでもカバーしたいと思いました。私がALSを発症したときに「こんな情報が欲しかった!」というものを、私なりにまとめて、ALS患者さんやその家族、関係者の皆さまに少しでもお役に立てるものをお届けしたい。そして、ALSと診断されたからといって人生を諦める必要はない。考えかたと工夫しだいで十分楽しく生活できることを伝えたい。そういう思いで、熟慮を重ねて書いてきました。 2年間というちょうどよい区切りで、私の伝えたいことがまとまって書けたので、今回で最終回にしたいと思います。決して体調が悪くなったり、文字が打てなくなったから終わりにするわけではありません。 深い谷底からでも、見上げれば光が見える ALSを発症してから始めた皮膚科遠隔診療は今でも毎日続けており、気がつけば今まで遠隔診療してきた患者さんが10,000人を超えました! 体調は良いです。technologyを武器に、まだまだこれからも医師として働きつづけていきます! 以前、私の主治医の佐藤先生が、この連載の第1回目を読んで、自身のクリニックのブログで紹介してくださいました。 その最後に Enjoy!ALS。その先にあるのはRejoice!(祝福せよ)、=運命を受け入れた上で人生を味わい楽しみなさい、という力強い応援歌ではないだろうか。 梶浦さんの文章を読んで、つくづくそう感じた次第です。 という言葉をいただきました。ありがたい限りです。 人生が常に順調な人などいません。良い時もあれば、悪い時もあります。「人生山あり谷あり」といいますが、このALSという病気では深い谷が待ち構えています。深い谷底に落ちたら、周りは真っ暗かもしれません。しかし上を見れば必ず光が見えます。私は、ALSにかぎらずどんなにつらい病気でも必ず希望はあると思っています。 この病気は確かに、つらいことも大変なことも多いです。しかし、そんななかでも病気を少しずつ受け入れて、前向きに生きていれば楽しいこともたくさんあります。 たとえどんな病気であろうとも、その人の価値や尊厳を奪うことはできない! 全部ひっくるめて、一度きりの自分の人生なのだから、思う存分味わいつくそう! Enjoy ALS!! 最後に…… この連載を始めるにあたり、ありのままの自分を写真で載せるか、イラストにするか、迷いました。 この連載は、ALSと診断されてまだそれを受容できていない患者さんや、その家族、関係者の方々に、勇気や希望を送りたいという思いで書きはじめました。私は、まだALSと診断されて間もない、病気を受容できていないころは、人工呼吸器を付けて寝たきりになっている患者さんの写真を見るだけで、将来の自分の姿と重ね合わせてつらくなってしまうため、なるべく見ないようにしていました。なのでこの連載では、どんな人にも安心して読んでいただけるように、人工呼吸器をつけている私を、明るく、イケメン風(作者特権です!笑)にイラストで描いてもらうことにしました。 しかし、病気の経過とともに変わっていく、ありのままの自分の姿を経時的に示すことも、ALSという病気を理解する上で大切な情報の一つであることも事実です。 なので、もし機会があれば今後、自分の経過や、お役立ち情報を、写真を加えながら詳しくまとめて、本にして書いていこうかとも思っていますが、今は違う記事でも書きながらちょっと休憩しようかなぁ……。 今まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました! そして温かいメールをくださった方々に、たいへん励まされました! 皆さまが幸せになれますように!! コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣編集:株式会社メディカ出版

認定看護師活動記
認定看護師活動記
コラム
2023年7月25日
2023年7月25日

看多機(かんたき)を通じて広げる「輪」 【訪問看護認定看護師 活動記/北関東ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師・在宅ケア認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 北関東ブロックに所属する、山崎 佳子さんの活動記をご紹介します。 看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機)の管理者としても活躍する山崎さんに、北関東ブロックの活動や、看多機の管理者としての活動などをご紹介いただきます。 執筆:山崎 佳子在宅ケア認定看護師株式会社やさしい手 看多機かえりえ南佐津間 管理者福岡県出身。看護学校卒業後、総合病院・医療器メーカー・CRC等に従事。2005年より訪問看護に携わる2007年 介護支援専門員資格取得2017年 訪問看護認定看護師教育課程修了2018年9月 「看多機かえりえ河原塚」管理者となる2020年度~2021年度 松戸市小多機看多機連絡協議会会長、松戸市介護保険運営協議会委員2022年 特定行為研修 在宅ケアパッケージ修了2023年5月 新規オープンの「看多機かえりえ南佐津間」管理者となる 訪問看護認定看護師 北関東ブロックの活動 まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の「北関東ブロック」についてご紹介します。北関東ブロックは、千葉・群馬・栃木・新潟・茨城の5県の会員で構成しており、会員数は2023年7月時点で40名弱。半数以上は千葉の会員、群馬・新潟・栃木は5名前後、茨城は1名のみです。2022年度の活動としては、前期に事例検討会、後期に地域向け研修会を実施しました。 人数構成上、どうしても例年、活動が千葉県中心になってしまうので、年1回行っている地域向け研修会を、各県の持ち回りで行うことにしています。2022年は、5名の群馬県の会員を中心に、他県の実行委員を加えた10名で研修会の企画を進めていきました。会費をいただいての研修なので、失礼があってはならないと色々なことを想定して準備を進め、Zoomでの会議のほか、LINEを使って話し合いをもち、時には夜遅くまで意見交換をすることもありました。その結果11月の研修会は46名の参加をいただき、スムーズに開催をすることができました。 実際には、北関東ブロック内で一度も対面でお会いしていないメンバーもたくさんいますが、ブロック全体で力を合わせて開催できたと感じました。2023年度もこの取り組みを継続しており、新潟県のメンバーが中心になって新しい実行委員も加わり研修の準備を進めているところです。 看多機の管理者として多職種連携に取り組む では、ブロック活動以外に、私が普段どのような活動をしているかについてもご紹介します。私は、約5年前に社内異動で訪問看護ステーションの管理者から看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機かえりえ河原塚)の管理者になりました。当時、「看多機」という名称は知っていましたが、実際にどんなことをやっているのかはまったくといっていいほど理解していない状態。私は、この異動をきっかけに多職種連携に正面から取り組むことになったのです。 看護職と介護職の違い 赴任して、まず私に立ちはだかった壁は、「看護師と同じように伝えても、介護職には伝わらない」ということです。しかし、ある時、介護職の一人が「介護は、『寄り添いなさい』『受け入れなさい』って教育されるのですよ」と言ったのです。その言葉を聞き、看護職は問題解決思考になりやすく、いつも利用者さんが抱える問題点を探しているように思い、その違いにはっとしました。なるほど…。視点が違うのだから、理解や思いにも違いが生じるのは当たり前だ、と改めて気づいたのです。 互いに伝えることが大切 そして、介護職が看護師に遠慮して、自分たちの思いや考えを言いそびれている場面をよく見かけたので、介護職がそれらを言語化し、発信できるようになることが必要と感じました。介護職は生活援助を通して看護師より利用者さんのそばにいる時間が長いので、ありのままの利用者像を知っていることが多いと感じます。「看護師には言えないんだけど…」というような、利用者さんの本音を聞く機会もあるようです。介護職が持っている情報はとても大切で重要なものだということを自覚して、とにかく自信を持ってその情報を発信してほしい、と伝え続けています。 また、一番身近な介護職が利用者さんの変化に気づくことができれば、病状の変化にもいち早く対応できると思います。それを実現するためには、疾病の知識、観察点、予後予測などを看護師がしっかり学んで理解し、常日頃から介護職に丁寧に伝達していくことが、必要と考えます。介護職にわかってもらえるためにはどうしたらよいか…。看護師には、特に伝える力を養ってほしいと考えています。 看多機では、看護師と介護職が同じ空間で同じ利用者さんを、それぞれの専門性をもってみることができます。互いの情報を持ち寄れば、より快適な療養生活を送るには何が必要か、見えてきます。それをもとに重度の方にも安心して過ごしていただけるための支援を考え、実践していけるのではないかと感じています。 今後も、定期的に利用者さんについて話し合う機会を持ち、お互いの専門性を認め合い、意見を遠慮なく言い合える雰囲気づくりを心掛けていきたいと考えています。 松戸市の小多機・看多機連絡協議会の活動 地域での活動についてもご紹介しましょう。私が赴任した看多機かえりえ河原塚は、千葉県の松戸市というところにあります。松戸市の人口は50万人弱ですが、そこに小多機・看多機が9つずつあり、計18事業所が「小多機・看多機連絡協議会」に参加しています。 主に小多機・看多機の普及活動や、市、医師会、介護連(他の介護事業所が集まった協議会)などとの連携、自己研鑽のための研修などの活動をおこなっています。私は看多機の管理者になって2年目に、前会長の退職をきっかけに協議会の会長に就任することになりました。会長として介護保険運営協議会、基幹の地域ケア会議、医師会在宅ケア委員会等へ参加して、地域の医療や介護の事業のしくみを学べたのはとても有意義な経験でした。定例会は2ヵ月に1度開催して、さまざまな意見を話し合います。そこで出た意見を行政(松戸市)に伝え、ルール変更や統一の対応をしていただいたこともありました。 こうした活動を通じて、同業者との横のつながりは、仕事をしていく上での大きな心の支えになることも実感しました。「競合他社」ではありますが、管理者の悩みは一緒であることが多いもの。話をしていると互いに気持ちをわかりあえることが心地よく、「明日も頑張ろう」という力が湧いてくるのを感じました。 2023年7月 千葉県看多機協議会を立ち上げ その後、私は松戸市の隣の鎌ヶ谷市の看多機(看多機かえりえ南佐津間)への異動が決まったため、2年で会長を辞任しました。 鎌ヶ谷市では1件目の看多機なので、今まで協議会の仲間や市とコミュニケーションをとりながら過ごしてきた私は心細さを感じ、同じ県内で看多機を立ち上げておいでの福田裕子先生(株式会社まちナース まちのナースステーション八千代統括所長)にお願いして、2023年の7月に千葉県看多機協議会の立ち上げをすることになりました。 看多機かえりえ南佐津間 立ち上げ準備のために千葉県内の看多機を調べ、連絡を取ってみて気づいたのは、自治体に看多機が1ヵ所しかないところもまだまだ多いということ。そして、管理者の皆様が、「同業者と話をしたい」と思っているということです。 千葉県看多機協議会は、横の繋がりを強化することで、それぞれの事業所が安心していきいきと運営できるよう活動していきたいという思いで設立されます。看多機はできてまだ10年。本当にこれでよかったのか、もっと良い使い方はないのか、現場では毎日試行錯誤しながら実践に取り組んでいます。協議会の活動を通して、地域の頼れる社会資源として成長していきたいと考えています。 * * * 私は、在宅に携わった看護師がみんな、「この仕事をしてよかった」と思ってもらいたいと考えて、日本訪問看護認定看護師協議会の活動に参加してきました。今後は対象を広げ、在宅に関わるすべての職種に「よかった」と思ってもらうことを目指して、活動していきたいと思っています。 ※本記事は、2023年7月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

エンジョイALS
エンジョイALS
コラム
2023年6月27日
2023年6月27日

ALS患者の皆さん、自分らしく生きよう!

ALSを発症して8年、42歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、困難と向き合い、乗り越えていくための、梶浦さん自身の考えかたを紹介します。 ALS患者が「自分らしく生きる」とは ALS患者が自分らしく生きていく。それは、趣味や、生きがいを見つけながら、少しずつ今の自分の状態を受け入れていき、最終的には「これが今の自分!」と胸を張って(開き直って!?)生きることではないでしょうか。 言うのは簡単ですが、誰でも簡単にできることではありません。この連載第11回(「難病患者の病気を受容するプロセス 〜希望を持つことの大切さ〜」参照)で書いたように、「受容」に至る過程で、多くの苦悩や挫折を乗り越えないといけません。 今回は、この困難を乗り越えるための、私自身の考えかたを書こうと思います。 困難を乗り越えていくために! 「遠い未来のことは考えすぎない!」「将来どうなるかではなく、今何ができるかを考える!」 これは、これまで私がたびたび書いてきたことですが、病気を乗り越えていくために最も大切ではないかと思います。ALSという病気は、進行に個人差があります。なかには発症してから10年以上経っても、症状があまり進まない人もいます。なので、絶望的な未来を想像しすぎても落ち込んでしまうだけで、良いことはありません。 大事なのは、今の自分の症状と向き合いながら、少し先の未来を想像して、対策をしていく、その積み重ねです。 たとえば、「指先の動きが悪くなってきて普通の箸が使いにくくなったら、介護用の箸(※)を使うようにしよう」。そして「今後もっと指先の動きが悪くなって、介護用の箸も使えなくなることも想定できる。おかずを、小鉢に分けるのではなく、食べやすいワンプレートにしよう。介護用のスプーンも用意しておこう」など、そのつど工夫と対策を繰り返していくことです。 はじめから遠くにある大きな山(困難)をひとりで登ろうとしても、とうてい無理です。必ず挫折してしまいます。 近くにある小さな山を、仲間たち(家族、ヘルパーさん、医療スタッフさんなど)と協力して一つずつ登っていく。振り返ってみたら、もうこんなに登ってきたのかと思えるような登りかたが理想的なのだと思います。 医師の多くは、大きな山の存在は教えてくれますが、山の登りかたを教えてはくれません。それもそのはずです。山の大きさや登りかたは人それぞれ違いますし、当事者でないとなかなかわからないことが、とても多いのです。なので、医師であり患者でもある私が発信しなくてはならない。そう思って、意気込んで今までいろいろ書いてきました。 ※連載第12回「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢①〜」の「指先の筋力が低下しても使える箸」参照 人工呼吸器を着けて外に出かけよう! 多くのALS患者さんは、病気の進行とともに、あまり外に出なくなります。歩けなくなるといった物理的な障害もありますが、気持ちの面で前向きになれないといった精神的な要因もあると思います。 私の場合は、歩けなくなっても電動車いすを操作できる間は、積極的にいろいろな所に出かけていました。しかし、腕もまったく動かなくなって、電動車いすを操作できなくなり、人工呼吸器を装着するようになってからは、あまり外に出なくなりました。人手が必要だったり、用意に時間がかかったりと物理的な障害もありましたが、「人工呼吸器を着けている自分を世間の人は好奇な目で見てくるのではないか」……そんなふうに考えてしまい、なかなか外に出る気分になれませんでした。 そんななかで、息子の幼稚園最後の運動会がありました。妻と息子には来てほしいと言われていましたが、「変な目で見られたら嫌だなぁ」「息子が私のせいでイジメられたりしないか?」など、いろいろと考えてしまい、なかなか行く勇気が出ませんでした。しかし、この機会に行かなかったら外に出るきっかけを失ってしまうと思い、ドキドキしながら運動会に行きました。いざ行ってみたら、周りの人たちは私のことなど気にもしません。皆さん他人の私なんかより自分の子どもの活躍に夢中です。そのときに、世間から特別な目で見られると思っていた私は自意識過剰だったんだなぁと気づかされました。 そして、息子が「わーい、パパ来てくれたんだ」と、満面の笑顔で私のところに走って来てくれたことが、何よりも嬉しかったです。息子は私がつらいときに救ってくれる存在であることをつくづく感じました。 「世間の人は私のことなど気にしていない。私が勝手に世間の人から特別扱いされていると思い込んでいただけなんだ」 そう思えるようになってからは、積極的に外に出るようになり、今でも公園に行ったり、電車やタクシーに乗って遠出したりと、毎週外出しています。(私のわがままを快く聞いてくださるヘルパーの皆さま、いつも本当にありがとうございます!) たまに外に出て、日光を浴びて、風を感じながら、暑さや寒さを通して季節を体感する。以前は当たり前だったそんな行為が、気分をリフレッシュさせ、日々の生活にメリハリをつけて豊かにしてくれますし、体調管理にもつながってきます。 なので、体が動かなくなっても、人工呼吸器を着けていても、周りの人を巻き込んで外に出かけよう!! 発信しよう! ALSは徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく難病中の難病です。有病率は10万人あたり7~11人程度1)と推計されており、非常にまれな疾患です。今のところ治療法もなく、それぞれの症状に合わせて対症療法や生活の工夫を凝らしていくしかありません。ただ、症状や療養環境などの個人差も大きいことから、すべての患者さんに当てはまるような工夫はなかなかないのが現実です。 神経難病のケアを専門とされている先生がたが、いろいろな工夫を発信してくださっていますが、ALSはかなり特殊な病気です。意識はハッキリとしており、やりたいことや訴えたいことは明確にあるのにもかかわらず、体が動かせず、声も出せないので、うまく伝えられない。ただのジレンマとも違うこの独特な感覚は、当事者にしかわかりえない感覚であり、だからこそ当事者にしか思いつかない発想や、当事者にしか語れない経験談があるはずです。 なので、ALS患者自身がそれぞれの工夫や経験を発信して、それをつないでいくことが、ALS患者の未来を豊かにしていく方法なのだと思います。 それが可能なのは10万人のうち、たった7~11人しかいないのです! ALS患者が自らのことを発信する。その行為自体にとても価値があり、それが誰かのためになる。そう思えれば、自分自身の生きがいにもつながっていきます。 自分の病気の経過を日記のようにブログに書くのもおすすめです。ちょっとした生活の工夫、介護者にされて嬉しかったこと、反対に嫌だったこと、など、内容は何でもよいのだと思います。今は誰でもSNSで発信できる時代です。一人でも多くの人が経験談を発信して、それを参考にして一人でも多くの人の生活が豊かになれたらいいなぁと思います。 コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣 編集:株式会社メディカ出版 【参考・引用】1)「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」作成委員会編.筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013.東京,南江堂,2013,2.

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コラム
2023年5月30日
2023年5月30日

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~その他のお役立ち情報~

ALSを発症して8年、42歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介する「実用編」の第6弾。ALSはもちろん、ほかの疾患や障がいをもつ人たちの生活にも参考にしてください。 はじめに 「実用編」では、ALSの初発症状の頻度に合わせて、上肢、下肢、のど、の順でお役立ち情報をまとめてきました。今回は、これまでの分類には当てはまらなかったもので、私の在宅療養生活で必須になっているお役立ち情報を紹介したいと思います。特に今回はALS患者さんに限らず、さまざまな疾患の人に応用できるかと思います。 LINEを使った、日々の申し送りノート ALS患者さんのように、ヘルパーさんによる長時間の介護を必要として在宅療養を行なっている患者さんの多くは、毎日の体調や日々のケア内容の変更点などを写真のような申し送りノートに記載し、ヘルパーさん・看護師さんたちの間で情報を共有していきます。 私も、在宅療養を始めて間もないころにノートでの申し送りをすすめられて、使っていました。しかし使っていくうちに、人に見せてもらわないとノートを見られない、伝えたいことを自分で書き込めない、ノートが増えてくると過去に書いた大事な内容を読み返そうとしてもなかなか探し出せない。などなど、さまざまな問題点が出てきました。 そこで、とても便利だったのが、タブレットにLINEをインストールし、申し送りノートをペーパーレス化する方法です。 まずは、ヘルパーさん・看護師さん・リハビリテーションスタッフさんたち専用のタブレットを用意します。用意したタブレットにLINEのアカウントを作り、「◯◯家在宅療養ノート」といった名前で、自分や家族とのLINEグループを作ります。そのLINEグループ内に日々のケア内容を記載していきます。 この方法ですと、自分専用のタブレットでも記録を確認しながら、ヘルパーさん・看護師さん・リハスタッフさんたちに伝えたいことを自分で書き込めます。また家族が、外出中にもケアの状況を確認できます。 そして何よりも便利なのが、写真や動画を共有できることです。たとえば、看護師さんが「こんなところに気をつけてケアをしてください」とヘルパーさんたちに伝えたいときや、ケア内容を変更したときなど、写真や動画を使って説明すると、とても伝わりやすくなります。 写真や動画は閲覧期限があり、そのままだと期限が過ぎると見られなくなってしまいます。なので、写真や動画で残しておきたい重要な情報は、「ノート」機能を使い、ここに保存しています(LINE画面の右上にある、ハンバーガーメニュー(≡)から「ノート」をタップすると作成できます)。検索機能もあるため、過去の情報も簡単に取り出すことができます。 指伝話プラス 声が出しにくくなってから、便利なのが、「指伝話プラス」というアプリです。ふだんよく使う文章をアプリ内にあらかじめ保存しておき、保存した文章をタップすることで、アプリが人工音声で読み上げてくれます。「おーい◯◯さん」「頭の位置を直してください」「腕を置き直してください」などのよく使う言葉を入れておくことで、ワンタッチで伝えることができます。 短文だけではなく、長文を保存することもできます。私は声が出せなくなってから、このアプリの人工音声だけを使って大学で90分の講義をしたこともあります。 「指伝話プラス」の無料お試し版として、「指伝話ちょっと」もあり、まずはこちらを試してみてもよいかもしれません。 気管内の痰を低圧持続吸引できる専用機器1) 気管切開をして人工呼吸器を装着している患者さんは、自分の力では痰が出せませんので、適宜、気管内の痰の吸引が必要です。特に、本連載の第16回(「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!を参照)でも書きましたが、誤嚥防止術をしていない患者さんだとカフの脇から漏れて気管内に垂れ込んでくる唾液も吸引しないといけないので、吸引回数が多くなります。吸引回数が多いと、患者・介護者ともに負担が大きくなってしまいます。 そこでとても便利なのが、気管内の痰を24時間自動で持続的に低圧で吸引してくれる「アモレSU1」という機械です。 アモレSU1は、ALSをはじめとした人工呼吸器が必要な患者さんの気管吸引による負担を減らすために開発されたものです。私もこれを導入してからは気管吸引の回数も減り、かなりQOLが上がりました。 使用するには、「コーケンダブルサクションカニューレ」という専用のカニューレが必要です。これは、通常のカニューレにアモレSU1用の吸引チューブと吸引口がついているもので、カフ下部の痰を持続的に吸引してくれます。 残念ながら、アモレSU1はまだ保険適用ではなく、自費での購入orレンタルになってしまいますが、検討する価値のあるとても良い機械だと思います。 薄型冷却枕 クールエアマット 連載第18回(ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(2)ベッド上生活~を参照)の「送風ファン付きマットレス」でも書きましたが、症状の進行したALS患者さんは、自分の力では体勢を変えることが難しく、頭や背中などずっと何かに接している場所に熱がこもってしまいます。私は特に後頭部に熱がこもりやすいのですが、通常の冷却枕では分厚すぎたり硬かったりで、なかなか合いません。 そこで役に立っているのが、100円ショップのキャンドゥで販売されている「クールエアマット」という薄型冷却枕です。 これは薄くて柔らかいので、とても使い勝手が良いです。頭の下に入れたりはもちろん、夏場に車いすで外出する際に背中の下に入れたりと、いろいろな場面で使え、おすすめです。 編集部注キャンドゥ「クールエアマット」は季節商品であり、通年販売はされていません。 コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣記事協力:LINE株式会社有限会社オフィス結アジアトクソー技研株式会社株式会社キャンドゥ 編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)松田千春ほか.低定量持続吸引可能な「自動吸引システム」の看護支援の手引き:低定量持続吸引システムの導入から評価まで― 2015 ―.東京都医学総合研究所,2015.

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コラム
2023年4月25日
2023年4月25日

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~のど~

ALSを発症して8年、42歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は実用編の第5弾。梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介します。ALSはもちろん、他の疾患等の方たちの生活にも参考にしてください。 のどの症状 ALSの初発症状として、上肢・下肢の次に多いのがのど・・の症状(球麻痺といって、延髄の運動神経核が障害されることにより、舌や咽頭や喉頭の筋肉が動かしにくくなっていく症状)です。 のど・・は、咽頭と喉頭の二つに大きく分けられます。 食べ物は口から入って、中咽頭、下咽頭を通り、食道、胃へと送られていきます。空気は口と鼻から入って、中咽頭、喉頭を通り、気管、肺へと送られていきます。健康な人では、食べ物が誤って気管に入ってむせ込むことがないようにしながら、気道(空気の通り道)を確保して、呼吸と発声を同時にできるように、のどの筋肉は絶妙なバランスをとりながら動いています。 しかし、のどの筋力が低下してしまうと、この三角関係のバランスが崩れてしまいます。 発声機能の低下 声が出せなくなっていくのは、非常につらいことです。腕が動かなくなることよりも、足が動かなくなることよりも、声が出せなくなることが、私には何よりつらいものでした。体が動かなくなっても声が出せれば、自分の意思や要望を周りの人に伝えることができます。しかし声が出せなくなってしまったら、伝えたいことが伝えられず、自分ひとりの世界に閉じ込められてしまう可能性があります。 なので、声が出せなくなる前に、ALSの患者さんは文字盤を使ったコミュニケーションを練習してください。文字盤にもいろいろ種類がありますので、自分の使いやすいものを選ぶのがおすすめです。詳しくは連載第10回(文字盤を使わない文字盤!? 〜エアーフリック式文字盤〜)をご参考ください。 また、ALSの症状が進むにつれて、声は出せるものの、鼻から息が漏れて音が抜けすぎるためにうまく発音できなくなることが、しばしばあります。これは開鼻声という症状で、軟口蓋の挙上がうまくできず、鼻咽腔が閉鎖できないことが原因です。そんなときは、鼻をつまんだり、クリップで鼻を挟んだりする(シンクロナイズドスイミングのイメージです)とうまく発音できることがあります。試してみてください。 声を残そう! そして、声が出せなくなる前に自分の声で人工音声を作っておくことを強くおすすめします。 声とは、「自分らしさ」を表現するためのとても大切な要素です。私はALSを発症して3年目ごろから徐々に声の出しづらさを自覚し、5年目ごろには、ほとんど声が出せなくなっていました。当時まだ幼稚園児だった息子に、父親の声を覚えていてほしい。いつまでも父親の声で話し掛けてあげたい。強くそう思っていました。 そんな思いでたどり着いたのが、都立神経病院の作業療法士の本間武蔵先生でした。本間先生は「マイボイス」というソフトウエアを開発し、ALS患者が声を失う前に声を残す活動をされています。気管切開する前に声を録音しておくことで、「マイボイス」を使って、その人の声で文章を読み上げることができます。声の問題以外にも、個々の生活環境に合った道具や工夫を、とても親身になって一緒に考えてくださいました。 「マイボイス」はパソコンにハーティーラダーという、文字を入力できるフリーソフトをインストールして簡単に使用することができます。ただ、「マイボイス」はパソコン専用のソフトで、タブレットでは使えません。ふだんタブレットを使っている私は「コエステーション」という無料のアプリを主に使っています。このアプリは自宅で簡単に声を録音することができて、かなり流暢に自分の声を再現することができます。声が出せるうちに、録音しておくことを強くおすすめします。私は息子や妻の誕生日や結婚記念日などの行事の時は、自分の気持ちを自分の声で伝えるようにしています。 嚥下機能の低下 嚥下機能が低下してきたら、一般的には食事の形態もできるかぎりペースト状にしたりトロミをつけたりするほうが嚥下はしやすくなります。また、嚥下をするときは、誤嚥を予防するために顎を引いたほうがよいです。頸部を後屈した姿勢で嚥下しようとすると誤嚥しやすくなるので、注意が必要です。 気管切開+誤嚥防止術を行なった場合は、工夫しだいで長い期間食事を楽しむことができます。詳しくは連載第16回( 気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!)をご参照ください。 呼吸機能の低下 呼吸機能の低下は、厳密にはのど・・の筋肉の低下よりも、肺を取り囲む骨と筋肉によってつくられる「胸郭」と横隔膜の筋力の低下による症状ですが、のどの機能とも密接にかかわっていますので、今回取り上げたいと思います。 LICトレーナー ALS患者さんは、病気の進行に伴い呼吸筋(呼吸をするのに必要な筋肉)の筋力も低下します。息を吸う力が弱くなっていくと、自分の力では深呼吸できず、徐々に胸郭や肺が硬くなってしまいます。そこで、その症状の予防・改善にとても有効なのが、LIC(lung insufflation capacity:肺強制吸気量)トレーナーという機器です。 LICトレーナーにアンビューバックを接続して、用手的に(手を用いて)肺へ強制的に空気を入れることで、一定時間深呼吸した状態をつくることができます。これによって胸郭や肺の柔軟性を保ち、拘縮を予防します。柔軟性を保つことで肺のコンプライアンスと予備能力を向上させて、無気肺や肺炎など呼吸器系合併症のリスクを減らすことにもなります。何よりも、深呼吸できる感覚が純粋に気持ちいいです。 カフアシスト カフアシストは文字どおり、カフ(cough:咳)をアシスト(assist:補助)する機械です。ALS患者さんは、呼吸機能の低下に伴い、自分の力で咳をして痰を出すことが難しくなります。カフアシストは、強制的に肺に空気を送り込み、送り込んだ空気を強制的に吸引します。つまり人工的に咳をしている状態を作り出します。排痰ケアにとても有効です。 通常は、「送気と吸引」を1セットとして数セット実施し、痰を出していきます。カフアシストでも胸郭や肺の伸展運動はできるため、胸郭や肺の拘縮を予防する効果もあります。 カフアシストはあくまでも痰を出すことを第一の目的とする機械であり、LICトレーナーとは違って深呼吸した状態を一定時間保つことはできません。LICトレーナーとカフアシストを用途別にうまく使い分けていけたらベストかと思います。ただ、今のところLICトレーナーは自費での購入になりますので、カフアシストで代用していくという選択肢もあるかと思います。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣【記事協力】本間武蔵(都立神経病院)ハーティーラダー・サポーターコエステ株式会社編集:株式会社メディカ出版

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コラム
2023年3月28日
2023年3月28日

医師からみたできる看護師、患者からみたできる看護師

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。患者の立場になってみて改めて気づいた視点での、「自分が看護してもらいたい看護師さん」。ある看護師さんとのエピソードを紹介します。 患者の立場になってから変化した考え 医師として患者さんをみる側であった私は、ALSを発症してからは、患者として医師にみられる側になりました。ALSと確定診断されるまで、ALSをはじめとした神経難病を専門としているさまざまな先生方に診察してもらいました。 淡々と診断して治療を始めていく先生もいれば、とても親身になって、私のつらさや悩みに寄り添って、一筋の希望を残しながら「心が通った診療」をしてくださる先生もいらっしゃいました。 私はその先生を頼って東京から徳島大学病院まで行き、入院しました。その先生は今でもときどき、徳島から東京の私の家まで様子を見に来てくださいます。 たとえ同じ診断名と治療法であっても、医師の姿勢によって、患者はこんなにも気持ちが楽になるんだと、患者になってみて改めて気がつきました。 私は大学病院で働いていたとき、どれくらいの患者さんに「心が通った診療」ができていたのであろうか。今あのころに戻れたら、ひと回りもふた回りも、良い医師になれるような気がします。患者の立場になってみて、改めて医師とはどうあるべきか考えさせられました。 視点が変わると、見えてくるものも変わるのだなぁと思い、今回は「医師からみたできる看護師、患者からみたできる看護師」をテーマに書きたいと思います。 医師時代の私からみた「できる看護師」 医師としてバリバリ働いていたころに感じていた「できる看護師(一緒に働きやすい看護師)」とは、しっかりと周りの状況がみえており、フットワークの軽い看護師でした。 私のいた大学病院の皮膚科外来はかなり規模が大きく、皮膚科だけで診察室10室と処置室にベッドが2つあり、最大で12人の医師が同時に診察や処置や手術を行ないます。それを3~4人の看護師さんでサポートしてくれていました。 できる看護師さんはどの医師がどんな患者さんを診察しているかを常に把握しており、迅速にサポートしてくれます。たとえば、やけどの患者さんを診察していたら、医師が何も言わなくても処置カートを用意し、ガーゼや包帯や軟膏などの処置物品をすぐ使えるようにして、そばで待機しています。そんな看護師さんと一緒に仕事をすると、「この看護師さんできる!」と思ったものです。 患者になってから思う「できる看護師」 患者になってから感じた「できる看護師(こんな看護師さんに看護をしてもらいたいと思える人)」とは、危機管理能力がある、看護技術や知識レベルが高い、……などなどありますが、何といっても「優しくて思いやりのある、心のこもった看護」をしてくださる方だと私は思います。 私は2019年(ALSを発症して4年)に胃瘻をつくるために入院しました。2週間弱の短い入院でしたが、そのときに担当してもらった看護師さんの優しさを今でもはっきりと覚えています。 当時の私は、手足はあまり動かせませんでしたが、まだ自力で呼吸ができて、食事も会話もできる状態でした。その看護師さんは、いつも笑顔で病室に来て、何か困っていることはないか、つらいことはないか、と聞いてくれました。 私は「何とかなるさ!」をモットーに前向きに生きてきましたが、そのころはまだ完全には自分の病気を受け入れられてはいませんでした。徐々に進行する症状を目の当たりにして、ときどき無性につらくなり泣きたくなることがありました。しかし、家にはまだ幼稚園児の息子がいます。私を懸命に支えてくれる妻がいます。私が泣いたり弱音を吐いたりしたら家族に心配をかけてしまう、たとえ体が動かなくなっても私が家族の精神的な柱でいなくてはならない、という思いから、泣きたくなることを我慢する時もありました。 そんななかで胃瘻の手術は無事終わり、退院が近づいてきたある日の夜です。勤務時間は過ぎて夜勤への申し送りも終わったはずのその看護師さんが、病室に来て、困っていることはないか、つらいことはないか、と聞いてくれました。退院間近の安堵感と相まり、その言葉が胸の中にスッと入ってきて、気がついたら涙が溢れ、それまでのつらかったことを吐露しながら泣いていました。その看護師さんも私の話を聞きながら一緒に泣いてくれて、ため込んでいたつらさから解放された気がしました。 理解してもらえるかではなく、理解しようとしてくれる姿勢が嬉しい よく医療教育の現場では、「患者の立場になって考える」という言葉を耳にしますが、ALSになって、体も動かせず声も出せないこの感覚を、健康な人が理解するのは無理だと思いました。ただ、患者の状態を理解しようと努力することはできます。つらさを想像して寄り添うことはできます。患者はそんな看護師さんの態度を敏感に感じ取るものです。 患者にとっては、看護師さんの経験年数や学歴などは関係ありません。患者の思いを汲み取って、共感し、寄り添い、「心の通った看護」をしてくださる看護師さんに出会えることが何よりも喜びなのです。そんな看護師さんが増えてくれたら嬉しいなぁと思います。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣編集:株式会社メディカ出版

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