訪問看護ステーションを開業するには?具体的な事業計画の立て方

事業計画が必要なのはわかっていても、具体的な準備となると、なかなか手が動かないものです。前編「訪問看護ステーションの開設に必要な事業計画とは?」では、事業計画の意義や、選ばれる事業所づくりの考え方をお伝えしました。
今回は、人員体制の考え方から収支計画の立て方まで、事業計画を実際に立てる具体的なステップを解説していきます。
目次
開業に必要な人員体制を考える

「どんな利用者を支えたいか」「どのエリアで活動するか」が見えてきたら、次に考えるのが人員体制です。
訪問看護ステーションを開業するには、法令で定められた人員基準を満たす必要があり、常勤換算で看護職員2.5名以上の配置が必要です。
ただし、看護職員2.5名体制は開業の最低基準です。1人が退職や休職になると、人員基準を割り込むリスクがあります。安定した運営を続けるためには、まず3〜5名体制を目指すとよいでしょう。
開業時の人員構成を考える際は、次の3つを整理しておきましょう。
- 常勤・非常勤の人数: 常勤採用だけでなく、非常勤採用も合わせて必要数を考えましょう。
- オンコールの体制:24時間365日の緊急対応の有無と、緊急対応をする場合はオンコールをどのように分担するかを考えましょう。
- リハビリ職(PT・OT・ST)の採用: 多様なニーズに応えていくために、いつごろからリハビリ職を採用するかを検討しましょう。
人員構成は収支にも直結します。どのタイミングでどのような人を採用するかまで含めて設計することが重要です。
また、「どんな利用者を支えたいか」「どんな地域に貢献したいか」などビジョンが明確であるほど、必要な人員構成も見えてきます。
持続可能な収支計画を立てる

人員体制が決まったら、次に取り組むべきは収支計画——いわゆる「お金の計画」です。「数字は苦手」という方も多いかもしれませんが、ここを後回しにしたまま開業すると、理念はあっても事業が続かない状況になりかねません。
収支計画を立てる際は、
- 収益モデルに合わせたKPI管理を行う
- 固定費を上げすぎない
- 資金繰りを考えた計画を立てる
の3つのポイントを押さえておきましょう。
収益モデルに合わせたKPI管理を行う
訪問看護の収益は、主に介護保険・医療保険からの報酬で成り立っています。
たとえば、訪問看護(1時間程度)は、1回あたり約8,000〜10,000円前後です。適応となる保険や利用者の状態、事業所の体制によって単価が変動します。仮に利用者20名に月8回(週2回x4週)訪問すると、月の売上はおよそ128〜160万円規模になります。
訪問看護では、訪問を行うプロセスが報酬で評価されるため、看護師を配置するだけでは売上にならず、訪問件数の管理が重要となります。企業や地域による差もありますが、給与や法定福利、社用車、携帯電話やタブレット端末、その他スタッフ雇用に必要な毎月の経費を考えると、1名あたり月に50万円程度かかります。
しっかりと、各スタッフが自らに抱える経費以上の売上を上げないと、事業所全体として赤字が続き存続できなくなってしまいます。スタッフごとの訪問稼働率を重要指標として管理することが重要です。
固定費を上げすぎない
訪問看護の支出は、人件費やスタッフ雇用にかかる経費、賃料など、そのほとんどが毎月固定でかかる経費です。これらの経費は、売上が予想通りに伸びないことや、一時的に下がることがあっても、下げることができないという特徴があります。
「スタッフを多く採用したい」「人材が集まらないから」と地域の相場以上に給与を高くしたり、事務所にお金をかけたりすると、開業時から固定費が高くなってしまいます。そうすると、赤字の金額と期間が増加し、資金不足に陥る可能性があるため注意が必要です。
資金繰りを考えた計画を立てる
開業後、利用者への訪問を行うと売上があがりますが、その売上はサービス提供後すぐに入金されるわけではありません。月末に実績を締めレセプト提出後、支払い基金から入金されるまで約2ヶ月のタイムラグがあります。また、特に開業初期のうちはレセプトの間違いなどにより返戻が生じることもあります。予定より入金が遅れる可能性も視野に入れておきましょう。
さらに、訪問看護事業所の立ち上げが増えている昨今は、開業初月は利用者の依頼がない(売上0円)というケースも少なくありません。そのため、利用者数の増加も厳しめに見積もり、緩徐に伸びていく計画を立てておくことが重要です。
開業に必要な資金を準備する
収支計画が見えてきたら、次は「開業までにいくら必要か」を整理しましょう。
開業時には、次のような費用がかかります。
- 採用費
- 人件費
- 事務所の敷金・礼金
- 内装・備品
- 医療機器
- 訪問看護システム(電子カルテ)
- 車両費
合計の目安は500万円前後とされています。(※開業規模や地域によって異なります)
ただし、開業時の費用だけでなく、開業後しばらくの資金も準備しておく必要があります。
先述したように、訪問看護の報酬は実際に入金されるまで2ヶ月ほどかかるしくみです。開業直後は売上がゼロの状態ですが、人件費・家賃・光熱費などの固定費は毎月発生します。
運転資金として6ヶ月分の固定費を手元に確保しておくのが安心で、金額にすると600〜1,000万円程度になります。
初期費用と運転資金を合わせると、1,200〜1,500万円程度が現実的なラインです。
大きな金額に見えますが、自己資金だけで全額用意する必要はありません。資金の調達方法には、主に次の3つがあります。
▼主な資金の調達方法
| 調達方法 | 特徴 | ポイント |
| 自己資金 | 返済不要で自由に使える手元資金 事業の安定性・信用力のベースになる | 総資金の2〜3割が目安 多いほど融資審査で有利 |
| 日本政策金融公庫の創業融資 | 開業実績がなくても申し込みやすい 金利も比較的低い | 事業計画書の内容が審査の核 |
| 助成金・補助金 | 自治体によっては開業支援の補助あり | 条件・申請期限あり、早めのリサーチが必要 あくまで、補助的な位置付け |
融資を受ける場合は、毎月の返済額を収支計画に組み込んでおく必要があります。借りられたからOKではなく、「返しながら事業を続けられるか」を必ず確認しておきましょう。
まとめ:事業計画は「作って終わり」ではない
事業計画は、開業のために一度だけ作るものではありません。事業を動かし続けるためのベースになります。
看護の現場に置き換えると、ケアプランに近いイメージです。利用者の状態変化に合わせてケアプランを見直すように、事業計画も現実に合わせて更新していくものと考えておきましょう。現場が忙しくなると、計画を見返す機会が減りがちです。月1回の収支確認、半年に1回の計画見直しを習慣にすると、問題の早期発見につながります。
最初から完璧な事業計画である必要はありません。「何人のスタッフが必要か」「収支はどうなるか」「資金はどう調達するか」——まずはこの3つを書き出すことから始めてみてください。その積み重ねが、開業への道筋をつくっていくでしょう。
| 執筆:広瀬 よしの(看護師ライター) 編集者:米沢 まさこ(看護師ライター) 監修:小瀬 文彰(看護師・保健師・経営学修士) 株式会社UPDATE代表取締役 ![]() 2013年慶應義塾大学看護医療学部卒。 ケアプロ訪問看護ステーション東京にて、新卒訪問看護師としてキャリアをスタート。訪問看護の現場・マネジメント経験の後、薬局・訪問看護を運営するスタートアップ企業にて最高執行責任者として40拠点・年商65億規模の経営に携わり、上場企業へのグループインを実現。 現在は株式会社UPDATEの代表として、訪問看護のマネジメントコーチ(経営・組織づくり支援)や組織マネジメント講座を通し、「想いある医療者に、マネジメントの力を」届ける事業を展開中。 その他、業界団体の研修会登壇や調査研究支援(シンクタンク事業)も実施中。 |
