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第1回 訪問看護ステーションの「働き方改革」/[その4]適切な労務管理にもつながる、雇用・労働分野の助成金活用のすすめ

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC
厚生労働省が提供する助成金には、個人のキャリアアップを支援する「教育訓練給付」や、出産後の育児休業中に受け取れる「育児休業給付」などの個人が受け取ることのできる給付があります。その一方で、事業主が受け取ることのできる給付(助成金)があります。雇用の維持・促進、事業運営に役立つものが数多くありますので、どのような助成金があるのか確認し、上手に活用していきましょう。
●ここがポイント!
・厚生労働省の雇用関係助成金を上手に活用しましょう!
・さまざまな要件があるので、よく理解して取り組むことが大切。
・厚生労働省以外の助成金や奨励金についても普段から情報収集しておきましょう!

雇用関係助成金にはどのようなものがあるの?

厚生労働省が提供する助成金だけでも何十種類もあり、例えば以下のような取り組みに対して助成金が準備されています。
・有期雇用労働者等(契約社員・パート・派遣社員等)の処遇改善
・仕事と家庭の両立支援など
・新型コロナウイルスに関する取り組み
・労働者の雇用維持(休業・訓練・出向)
・離職者に対する再就職支援
・中途採用・UIJターン
・起業
・新たな労働者の雇入れ
・トライアル雇用(一定期間の試行的雇入れ)
・障害者の職場定着支援
・雇用環境の整備
・外国人労働者の職場定着
・職業能力の向上(職業訓練の実施) など
厚生労働省のウェブサイト「雇用関係助成金検索ツール」にアクセスし、取り組み内容や対象者から探してみるとよいでしょう。
よく活用されている助成金をご紹介します。
・雇用調整助成金
休業や教育訓練、出向を通じて労働者の雇用を維持した場合に支給される助成金
・キャリアアップ助成金
有期雇用労働者等を正規雇用等へ転換または直接雇用した場合に支給される助成金
(上記は“正社員化コース”の助成金です。他にも、“賃金規程等改定コース”や“諸手当制度等共通化コース”、“選択的適用拡大導入時処遇改善コース”などさまざまなコースがあります。)
・両立支援助成金
男性労働者が育児休業を取得しやすい職場環境整備を行ったり、育休復帰支援プランを作成し、円滑な育児休業取得を支援したり、仕事と介護の両立支援に関する取り組みを行い、実際に制度の利用者がでた場合に支給される助成金
なお、雇用関係助成金は、毎年、改正や廃止が行われるとともに、助成金ごとに要件や内容が変わります。予算の枠が決まっている助成金もありますので、もし活用を検討するのであれば、年度初めの4月中旬から5月に公開される「雇用関係助成金の案内」のパンフレットで最新の情報を確認するとよいでしょう。パンフレットは、厚生労働省のウェブあサイトからダウンロードすることができます。
 ▼厚生労働省 「事業主の方のための雇用関係助成金」(助成金全体のパンフレット)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
雇用関係助成金の相談窓口は、事業書を管轄するハローワークです。先ほどご紹介した「雇用関係助成金の案内」の紙のパンフレットもこちらで入手することができます。
また、助成金の申請のお手伝いをしてくれる専門家は「社会保険労務士」です。

公的助成金の活用のメリットは何? デメリットはあるの?

ここまで説明してきた助成金。厚生労働省が管轄する雇用関係助成金のような公的助成金を活用するメリットとは何でしょうか。
公的助成金活用のメリット
・返済不要
 金融機関の融資とは異なり、返済不要なお金です。
・用途が自由
 受け取った助成金は雑収入扱いとなり、またステーションの自由に使えます。
・労務管理体制が整備される
 申請時に[その3]でご紹介した法定帳簿や、雇用契約書、就業規則などの提出が求められる場合が多くあります。普段からしっかりと整備しておく必要があり、結果的に適正な労務管理ができるようになります。
・労務管理が整備されていると対外的にもアピールできる
 助成金を受けられるような適切な労務管理を行っていると外部に認められ、公的融資を受けやすくなることもあります。
一方、公的助成金のデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
公的助成金活用のデメリット
・要件が厳しく、手間がかかる
 さまざまな要件があり、その要件に沿った対応をしなければ受給することができません。不正受給防止を目的として受給要件が厳しくなってきたり、パンフレットを読んでも文言などが難しく何をすればよいのかわかりにくい、書類を整えるのが面倒だという声もよく聞かれます。
また、申請できる期間が決まっているため、期限より遅れると受給できません。
・制度を導入すると、簡単には廃止ができない
 新しい制度導入をすることで受給できる助成金もありますが、新しい制度は一度導入すると、廃止したくても簡単にはできません。
・受給できるまでに時間がかかる場合がある
 審査などに時間がかかり、申請から助成金受給まで半年以上かかる場合もあります。
・審査に協力する必要がある
 公的なお金を使うため、申請した内容で適切に取り組みが実施されているか、実地審査が行われる場合があります。申請後も、適切な労務管理や書類管理を継続しましょう。
もし、不正受給(偽りそのほかの不正行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受けた場合、または受けようとした場合)が判明したら、助成金を返還するだけでなく、事業主の名称や代表者名、事業所の名称・所在地・事業概要、支給決定取消日・不正受給額、不正の内容が公表されます。
特に悪質な不正受給の場合は、捜査機関に対して刑事告訴などを行うこともあります。助成金を活用したいと考えるのであれば、その助成金の支給要件をよく理解し、場合によっては社会保険労務士などの手を借りながら、取り組むことをおすすめします。

厚生労働省の雇用関係助成金以外にも助成金はある?

各自治体でも、労働や雇用に関する経済的支援制度が提供されています。ぜひ訪問看護ステーションのある都道府県や市区町村の支援策を探してみてください。
あらかじめさまざまな支援策があるということを知っておくと、被災時などの有事の際の事業運営に備えることができます。

○ひとくちメモ○新型コロナウイルス感染症に伴う支援をチェックしよう!

内閣府のウェブサイトに、新型コロナウイルス感染症対策に伴う各種支援がまとめられています。先ほどご紹介した厚生労働省の雇用関係助成金検索の検索サイトと合わせて、ぜひチェックしてみましょう。
▼内閣官房「新型コロナウイルス感染症に伴う各種支援のご案内」
https://corona.go.jp/action/
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加藤明子 加藤看護師社労士事務所代表
看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント
看護師として医療機関に在籍中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。
▼加藤看護師社労士事務所
https://www.kato-nsr.com/
編集協力:株式会社照林社

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