「看多機」を訪れた看護師たちが語ったこと——見学プログラム参加者報告会レポート

「訪問看護や病棟での関わりは、点でしかなかった」
「その人がどのように生きたいのかを一緒に考えながら、暮らしのそばにいたい」
「誰かやってくれないかと思っていた。誰もやらないなら、私がやろうと決めました」
2026年9月27日、一般社団法人Nurse for Nurseが主催する「看多機」見学プログラム(公益財団法人テルモ生命科学振興財団2025年度医療貢献活動助成事業)の参加者報告会がオンラインで開催されました。
今回の報告者は、9月11日・12日に2つの看護小規模多機能型居宅介護(以下、看多機)を訪れた5名の看護職です。訪問看護、大学病院、急性期医療、行政、クリニックなど、歩んできた道は異なります。しかし、90分の報告会では「今いる場所だけでは届かない支援がある」という思いが、5名の言葉に何度も表れていました。
実際に看多機を訪れたことで、参加者の思いはどう変わったのでしょうか。5名の報告から見えてきたのは、看多機というサービスのしくみだけではなく「暮らしを支える看護」の姿でした。
目次
「点」だった支援が「線」につながる
参加者が訪れたのは、千葉県八千代市の「まちのナースステーション八千代」と、東京都日野市の「ラピオンナーシングホーム」の2施設です。報告会で何度も聞かれたのが「点」と「線」という言葉でした。
「訪問看護や病棟での関わりは点でしかなかった。看多機では、1つの事業所がその人の生活を継続してみていける」
看多機では「通い」「泊まり」「訪問看護」「訪問介護」を一体的に提供します。参加者が現場で感じたのは、同じ事業所が関わり続けることで、利用者さんの生活を途切れさせずにみられる良さでした。
病院や訪問看護など、異なる場所で患者さんや利用者さんに関わってきた参加者にとって、看多機での支援は「点だった支援が線につながる」体験として映ったようです。

看多機で見えたのは、「暮らしを看る」ということ
参加者の印象に残っていたのが、利用者さんの過ごし方です。
看多機では、決められたプログラムに全員が合わせるのではなく、一人ひとりが自分のペースで過ごしていました。
「利用者さんが自分で過ごし方を選んでいました。何かをさせられるのではなく、自分のペースで過ごしていた」
自分らしく過ごせる環境が、在宅生活の継続にもつながると感じた参加者もいました。
また、日々の何気ない関わりの積み重ねが「毎日のモニタリング」として機能しており、病気や症状だけではなく、食事や活動、表情、家族との関係など、暮らしそのものを見守っています。必要なときには「通い」「泊まり」「訪問看護」「訪問介護」を組み合わせながら、利用者さんの生活に合わせて支援の形を変えていきます。
スタッフや利用者さんの表情、施設に流れる空気などから、制度やサービスの説明だけではわからない看多機の実際の姿を感じ取っていました。

異なる5人が描いた「次の一歩」
5名が見学後に描いた「次の一歩」はさまざまです。看多機の立ち上げを具体的に考える人がいる一方、現在の仕事に学びを持ち帰る人、看多機でのケアを自らの看護やキャリアと重ね合わせて考える人もいました。
「現在の勤務地は故郷ではないものの、自分にとって大切な街になりました。ここで、いつでも『大丈夫』と思える場所を作りたい」
「そこにいてもらうだけで価値がある、無力じゃないと思える場所にしたい」
看多機の立ち上げを考える参加者からは、地域で実現したい場の姿が語られました。
一方、見学で得た学びを、現在の仕事や自らの看護に持ち帰るという参加者もいました。
「退院調整では、医療的な安定だけでなく、その人の生活が成り立つかという視点が重要だと学んだ」
「医療者の正しさだけで導くのではなく、その人がどのように生きたいのかを一緒に考えながら、暮らしのそばにいたい。私は人生の伴走者のような看護師になりたい」
看多機を開設することだけが、当見学プログラムの「次の一歩」ではありません。5名はそれぞれの場所で、自分なりの次の一歩、キャリアを描いていました。

「看多機」は単独では経営的に成り立たないのか
報告会には、見学を受け入れてくださった福田 裕子さん(まちのナースステーション八千代統括所長)と柴田 三奈子さん(株式会社ラピオン代表取締役)のほか、聖路加国際大学大学院教授の山田 雅子先生にもご参加いただきました。
山田先生からは「看多機は単独では経営的に成り立たないのでしょうか?」という本質的な質問をいただき、参加者を交えてディスカッションが行われました。
看多機の設立を考えている参加者からは、「資金計画を立てたときに、いきなり看多機を建てる高額の借金をする必要がある(個人ではローンが組めない)。『訪問看護としての稼ぎが安定してますよ』っていう証明が社会的にされないと、ローンが難しいことが分かったので、単独ではできないんだろうなと今は思っている」という設立の際のハードルが語られました。
柴田さんからは「単独で成り立つか成り立たないかというと、成り立つとは思う。初期投資がクリアさえできれば、日々の運営っていうのは全然やっていけると思う」というお言葉がありました。
そして、訪問看護ステーション設立3年後に看多機を立ち上げられた福田さんからは、地域のニーズを聞きながら、出会った人が一人でも幸せになれるようなサービスを考えた末、新たな建物の建設に至った、という経緯が紹介されました。
それぞれの場所で「暮らしを支える看護」へ
5名が本見学プログラムから持ち帰ったものは、一人ひとり異なります。地域に新たな場をつくる人もいれば、今いる場所で実践を変える人、自らの看護やキャリアを考える人もいます。今回の見学プログラムは「看多機を知る」だけでなく、それぞれの場所で実践や次の一歩を考える機会となりました。
看護の現場では、制度上の制約や地域の受け入れ体制など、さまざまな事情によって、必要な支援が届かないことがあります。山田先生は、課題に気づき、必要な支援を形にしてきた柴田さんや福田さん、そして新たな一歩を踏み出そうとする参加者の姿に「そこを埋めようとする看護師って、本当にすごいパワーを持っている」と語りました。そして、現場で生活を支える看護職の声と制度をつくる側がつながることにも期待を寄せ、看護師が持つ力を発揮できるような出会いを、これからもNurse for Nurseに紡いでほしいと締めくくりました。
看護職の新たな挑戦につながる出会いが生まれたことも、今回のプログラムの成果のひとつでした。
※本事業は2023年度に続き「公益財団法人テルモ生命科学振興財団2025年度医療貢献活動助成」を受け実施しています。

| 執筆:押川 映子(おしかわ えいこ)/Nurse for Nurse会員・看護師・ライター 2001年看護師免許取得。大学病院・総合病院・訪問看護ステーションなど複数の医療現場を経験。個人病院では看護師長・看護部長として組織運営や人材マネジメントに従事。現在はマインヘルスケア株式会社にて医療機関の採用・定着支援を行いながら、訪問診療所でも看護師として勤務。2023年「ナースまつり」初回開催より実行委員として参加し、2024年より副大会長を務める。看護職のキャリアや医療現場のリアルを伝えるライターとしても活動している。 |