多職種連携に関する記事

臨死期のケア変化への対応家族への支援
臨死期のケア変化への対応家族への支援
特集
2026年10月27日
2026年10月27日

亡くなる前の変化への対応と家族への支援【せん妄や呼吸・循環動態】

在宅医療の第一線で活躍されている、すぎもと在宅医療クリニックの杉本由佳先生に解説していただき、臨死期における訪問看護師の役割を深く掘り下げていきます。今回は、死期が迫り、せん妄や呼吸、循環動態の変化などが見られた利用者さんや、それを見守るご家族への対応について解説します。 亡くなる前の変化とその対応 病状が進行すると、利用者さん自身が「終わりの時」が近づいていることを肌で感じるようになります。亡くなる約1~2週間前(終末期)からせん妄が出現することが多く、ご家族の介護疲れも蓄積してきます。その後、亡くなる数日前には呼吸状態や循環動態の変化が現れ、その様子にご家族は強い不安を抱くことがあります。そのため、症状について、事前にご家族へ丁寧に詳しく説明しておくことが重要です。そして、ご家族の不安、寂しさ、悲しみ、これからのことなどを傾聴し、共感することが大切です。 せん妄への対応 終末期患者の約9割にせん妄が出現するとされ1)、これは特別なことではなく、ある意味「自然な現象」ともいえます。特に「もっと生きていたい」「まだ死にたくない」と強く願う方ほど、せん妄が激しく現れる傾向があります。死を望んでいないのに、身体が徐々に衰えていく感覚を体験することで、心と身体の乖離が生じ、せん妄が起こりやすくなるのです。 ここではせん妄について、予防と対策の基本、具体的な症状と対応の工夫について解説します。 せん妄の予防と対策の基本 激しいせん妄にならないよう、できるだけ穏やかに保つためには以下の取り組みが大切です。 訪問開始時から利用者さんの性格や人生観を丁寧にリサーチすること 病状について繰り返し説明することで、少しずつ恐怖を和らげていくこと 「常に在宅スタッフがそばにいる」という安心感を持ってもらうこと せん妄の具体的な症状 せん妄の症状は多様で、以下のような行動が見られることがあります。 ベッド柵を叩く、大声を出す、怒鳴る 「消防車を呼んで!」といった突飛な要求 「~さんが来ているからお茶を出して!」と幻視に対して指示する 手で何かを払いのけるような動作 小声で独り言を言い続ける これらは、死を受け入れようとしながらも、恐怖や葛藤が残っていることの表れです。家族には「せん妄はほとんどの人に起こる現象であり、特別なことではない」と説明し、「自分も同じ道を歩むのですよ」と伝えることで、理解と共感を促します。 夜間の対応と工夫 せん妄は特に静まり返った夜間に強く現れやすく、家族の疲労も重なりやすい時間帯です。暗く静まり返った部屋で目覚めた時、「死んでしまったのでは」と不安になることもあるため、以下のような工夫が有効です。 部屋を明るく保つ テレビやラジオをつけっぱなしにする(音楽よりも話し声が安心感を与える) 扇風機で風を送ることで感覚刺激を与える ベッドの高さを下げ、床に座布団や毛布を敷いて安全対策を講じる 家族は別室で休みながら、必要に応じて対応できるようにする せん妄の時間も「大切な時間」として 在宅移行後の期間が非常に短く、家族との時間も限られている場合には、せん妄の時間も「かけがえのない時間」として捉えるよう促すことがあります。 「明日になれば静かになるかもしれません。そうなると、逆に寂しく感じるかもしれません。今晩だけでも、少し付き合ってみませんか?」 このような声かけは、ご家族が利用者さんとの時間をより深く受け止めるきっかけになります。 呼吸状態や循環動態の変化への対応 死が近づくと、呼吸状態や循環動態に変化が現れます。前回の訪問時と比べて「今日はこう変わっています」と具体的に伝えることで、死が近づいてきていることを少しずつ実感していただけるようにしましょう。 例えば、以下のように具体的な症状を伝えることで、ご家族が心の準備をしやすくなります。 「病状が進行し、さまざまな治療を行っても症状のコントロールが難しくなってきました。ステロイドの効果も薄れ、血圧が低下し、尿量も減少しています。肝機能の悪化を示す特有の臭いも感じられます。あと数日かもしれません」 下顎呼吸、舌根沈下 亡くなる直前には、無呼吸の時間が長くなり、下顎呼吸(顎を上下させるような呼吸)に移行します。舌根沈下によっていびきが強くなり、「苦しそう」と感じるご家族もいます。その際は、側臥位にして背中側にクッションを置いて倒れてこないように支えることで、いびきが軽減されます。 血圧低下 血圧が低下してくると、鼠径部で大腿動脈の拍動を確認することで血圧の変化を把握しやすくなります。鼠径部で脈が触れなくなってきた場合は、血圧がかなり低下しており心停止が近い可能性があるため、事前にその兆候を説明しておきましょう。 発熱 亡くなる直前に、突然高熱を出すこともあります。クーリングや室温調整で対応しましょう。 在宅医や介護スタッフらとの連携 余命1~2日と考えられる場合には、在宅医から「間もなくです」とご家族に説明していただくようお願いします。 余命についてご本人に伝えるかどうかは、利用者さんの年齢、病気への理解度、ご本人やご家族の希望などを踏まえて判断します。予後が数日と見込まれる場合、必ずしもご本人に伝える必要はなく、むしろ最期を見届けるご家族にしっかりと状況を説明しておくことが大切です。 また、介護スタッフ、訪問入浴サービスのスタッフ、ケアマネジャーなど関係者にも事前に状況を共有しておきましょう。特に独居の利用者さんの場合、亡くなっているのをヘルパーさんが最初に発見することも多くあります。その際の対応については、あらかじめ以下のように伝えておくと安心です。 「驚かれるかもしれませんが、終末期ですので、もし亡くなっているのを見つけたら、落ち着いて訪問看護師や在宅医に連絡してください」 間もなく亡くなりそうな場面での家族への声かけ せん妄の時期を過ぎ、呼吸状態や循環動態が悪化していく中で、心身ともに疲れているにもかかわらず、懸命に見守り続けてくださっているご家族に、ねぎらいの気持ちを言葉でしっかりと伝えましょう。 息を引き取る瞬間を、片時も離れず見守るご家族もいらっしゃいます。近年では老々介護のケースも増え、長期間にわたる看病は介護者の体調を崩す原因にもなっています。利用者さんの意識がなくなってからは、常にそばにいる必要はありません。この時期は、これまでの闘病生活や元気だった頃の姿を思い返しながら、時々、静かに寝顔を見守る時間です。 意識がある時に希望を伝えられ、寂しがっている時には足をさすってもらい、好みの飲み物を飲ませてもらったり、おしゃべりに付き合ってもらったり……。ご家族が寄り添ってくださったことは、ご本人にとって幸せで、かけがえのない時間だったのだと思います。 目を閉じる瞬間を見届けることが重要なことではないのです。家族の温もりに包まれながら過ごす時間そのものが、利用者さんにとっての安らぎです。この頃には、主介護者以外のご家族も集まっていることが多く、家庭の音や団らんの声を聞きながら眠ることが、何よりの幸せです。 「家族に見守られながら自宅で旅立つことは、とても幸せなことです」と、心を込めてご家族にお伝えしましょう。 自宅で亡くなるということ 愛する人、大切な人を失うことは、残されるご家族にとって深い悲しみを伴う体験です。自宅で介護することにより、「人は死ぬ」という過程を肌で感じることができます。介護は大変だけれど、共に過ごした大切な経験を通じて、「大変だったけれど、やれることを一生懸命頑張った。寂しいけど後悔はない」と残されたご家族の前進につながっていきます。 またこの体験は、子や孫、若い世代に「死」というものを伝える機会にもなります。命の尊さ、家族の絆の深さを感じ、さらに次の世代につないでいくのです。「タオルを取ってきてもらう、コップに水を汲んできてもらう、体を支えてもらう」、そんな些細なお手伝いであっても、子や孫の心にしっかり刻まれることでしょう。 人は誰しも、年を重ね、病を患い、少しずつ衰えていきます。やがて日常の動作も誰かの手を借りなければならなくなり、そして静かに死を迎える時が訪れます。 一人の人間がこの一生を終える時、その姿がどんなに変わってしまっても、近くにいてくれる人がいるということは、きっとその人が本当に愛されていた証です。私自身も、いつか死を迎える時、誰かがそばにいてくれるような生き方をしていけたらと思います。 執筆:杉本 由佳すぎもと在宅医療クリニック 院長1995年名古屋市千種区にすぎもと在宅医療クリニック開業。在宅栄養管理、緩和医療が専門分野。 所属学会日本在宅医療連合学会(専門医・指導医・評議員・特任理事)日本緩和医療学会(認定研修施設 認定医)日本栄養治療学会(認定医) その他、活動実績● 日本在宅医療連合学会「がん疾患の在宅医療人材育成講座」執筆● 原著論文「在宅静脈栄養における脂肪乳剤の使用状況と問題点 」Medical Nutritionist of PEN Leaders Vol.2 No.1 2018 に掲載 編集:株式会社照林社 【引用文献】 1) Lawlor PG,Gagnon B,Mancini IL,et al.Occurrence, causes, and outcome of delirium in patients with advanced cancer: a prospective study.Arch Intern Med 2000;160(6):786-794.

児童精神科訪問看護で子どものVisionを描く|家族と考える支援目標
児童精神科訪問看護で子どものVisionを描く|家族と考える支援目標
コラム
2026年10月27日
2026年10月27日

児童精神科訪問看護で子どものVisionを描く|家族と考える支援目標

児童精神科訪問看護では、子どもや家族とどのように支援の目標を描いていけばよいのでしょうか。目の前の困りごとだけでなく、その子らしい未来を見据えて考える「Vision」と、そこから支援を組み立てる実践についてお伝えします。 「何を改善するか」から始めない ショートケーキ訪問看護ステーションは、東京都豊島区、板橋区、北区を中心に、発達障害や不登校などの子どもと家族を対象とした児童精神科訪問看護を提供しています。 訪問看護開始前の面談では、家族から「学校に行けるようになってほしい」「言葉を増やしてほしい」「不器用さを改善してほしい」など、さまざまな相談をいただきます。 もちろん、どれも大切な願いです。しかし私たちは、その困りごとをそのまま訪問看護の目標にするのではなく、「なぜ、それができるようになってほしいのだろう?」というWhyを家族と一緒に考えることを大切にしています。 そのため、面談の最初から「困っていることは何ですか?」と尋ねるのではなく、「お子さんの生活の中で、もう少しこうなってほしいな、応援したいなと思っていることはありますか?」といった聞き方をすることがあります。 困りごとだけに焦点を当てて尋ねると、どうしても子どもの「できていないこと」や「問題」に話題が集まりやすくなります。そこで、お子さんのこれからを前向きに考えながら相談できるよう、質問の仕方を工夫しています。 例えば「不登校なので学校に行ってほしい」という相談でも、話を聞いていくと、「家族以外の人との交流を増やしたい」「安心できる居場所を持ってほしい」という願いが隠れていることがあります。 そう考えると、学校へ行くことだけが方法ではありません。訪問看護師との交流、外出、放課後等デイサービスやフリースクールなど、目的を実現するための選択肢は広がります。 大切なのは、What(何をするか)やHow(どうするか)の前に、Why(なぜそれをするのか)を家族と共有することです。 「この子の良いところは何ですか?」 ある学齢期の子どもの支援を始めた際、保護者からは、家庭でのトラブルや約束を守れないことなど、さまざまな困りごとが語られました。 そこで私は、「この子の良いところや得意なところは何ですか?」と尋ねました。 返ってきたのは、「え、この子に良いところなんてあるんですかね。問題だらけですよ」という言葉でした。その言葉からは、保護者が日々の対応に苦慮している様子がうかがえました。 そこで一緒に生活を振り返っていくと、「物がどこにあるかをすぐに見つけられる」「欲しいものがあると、いろいろな方法を考えて試すことができる」といった姿が出てきました。 見方を変えれば、「よく観察して覚える力がある」「目的に向かって試行錯誤できる」という強みとも捉えられます。 家族から困りごとが多く語られる背景には、それだけ日々の生活で困難に直面してきたことがあると考えています。だからこそ、支援者が困りごととは違う角度から子どもを見る機会をつくることが大切だと感じています。 Kingら(1997)は、家族中心性の評価尺度「Measure of Processes of Care(MPOC)」を用いた検討を報告しています。この尺度では、専門職と家族のパートナーシップや、家族を尊重し支持する関わりなどが評価領域に含まれています。また、Lawら(2003)は、家族中心的なサービスに対する保護者の認識や満足度に関連する要因を検討しました。その結果、保護者がより家族中心的なサービスであると認識することが、サービスへの満足度と強く関連していたと報告しています。 Howがいつの間にかゴールになっていないか その後、保護者から「塾で落ち着いて授業を受けられず、退塾の話が出ている」という相談がありました。 そこで、本人と一緒に気持ちを整理するために、ノートを活用して気持ちや考えを見える化していきました。 子どもによっては、自分の気持ちを言葉にしたり、自分自身を客観的に振り返ったりすることが難しい場合があります。発達特性が関係することもありますが、年齢や発達段階を考えれば自然なことでもあります。そこで看護の場面では、ノートに書いたり図にしたりしながら、本人が自分の気持ちや考えを整理し、それを周囲に伝えやすくすることがあります。 「今頑張りたいことは何?ノートに書いてみて」と伝えると、子どもがノートに大きく「サッカーを頑張りたい」と書いてくれました。そこから、「今はどんなことに取り組んでいるの?」「どんな技ができるようになりたい?」など、子どもが力を入れていることについて聞いていきました。聞いていく中で、ノートには『勉強』とも書かれていました。 本人に「勉強したくて塾に通っているの?」と尋ねると、「サッカーの強い学校に行きたい。そのためには受験するしかないと言われた」と話してくれました。 ここで一度、ノートを見ながら目的を整理しました。 本人と話をするなかで見えてきたのは、「塾へ通うこと」や「受験すること」そのものではなく、その先にある「サッカーをもっと頑張りたい」という思いでした。 そこで、「サッカーを頑張る方法は受験だけなのかな。今いるチームで強くなっていく方法もあるかもしれないね」と本人に伝え、考えを整理をしました。その後、子どもと一緒に作ったノートを見ながら、家族も交えて選択肢を整理していきました。そうした話し合いを重ねるなかで、本人と家族は今後の過ごし方をあらためて考え、納得したうえで塾を辞めることを選択しました。 Costaら(2017)は、日常生活上の困難を抱える5~10歳の子ども38名と保護者、教師を対象に目標設定を検討しました。子どもの回答からは、自己効力感や参加が、健康やウェルビーイングにとって重要であることが示されました。また、子ども・保護者・教師では設定する目標に違いがみられました。 こうした結果からも、支援者や家族が考える「必要なこと」だけではなく、子ども自身が何を大切にしているのかを確認しながら目標を考えることが重要だといえるでしょう。 Visionが見えると、支援の選択肢が増える 本人の「サッカーを頑張りたい」というVisionが見えてくると、日常生活の見え方も変わりました。 生活を整理すると、家族とのトラブルなどは、本人が何もすることがない時間に起こりやすい傾向がありました。一方、サッカースクールには継続して通うことができています。 そこで、「家族が困っている行動をどう減らすか」だけではなく、「本人が好きなことに取り組み、力を発揮できる時間をどう増やすか」という視点から、サッカーに取り組む機会を増やすことも家族に提案しました。 子どものVisionが見えることで、支援は「できないことを直す」だけではなく、「持っている力をどこで生かすか」へと広がっていきます。 家族と一緒に「この子の未来」を描く 家族支援というと、保護者の悩みを聞いたり、子どもへの対応方法を伝えたりすることがイメージされるかもしれません。 しかし、それだけではないと私は考えています。 「この子はどんな子で、どんなことが好きですか?」「この子がどんな人生を歩んだら、この子らしいと思いますか?」 こうした問いを家族と一緒に考え、本人の思いにも耳を傾けながら、その子のVisionを描いていく。そして、その未来から逆算して、「では訪問看護では何をしよう」「家庭では何をしてみよう」と支援を組み立てていく。 「何をできるようにするか」の前に、「何のために支援するのか」を家族と共有する。 それが、私たちが大切にしている家族支援です。 「この子の何を直したいですか?」ではなく、「この子がどんな人生を歩んだら、この子らしいと思いますか?」 私は、そんな問いから始まる児童精神科訪問看護を、これからも実践していきたいと考えています。 ※本稿の事例は、日々の複数の実践をもとに、個人が特定されないよう内容を再構成しています。 執筆:齋藤 透ケアプロ株式会社ショートケーキ訪問看護ステーション リーダー日本赤十字看護大学大学院 地域看護学領域 専門看護師コース修了 児童精神・発達支援・不登校支援を中心に活動。「学校に行かせること」だけをゴールにせず、家庭という生活の場から、親子関係や安心感、人とのつながりを支えることを大切にしている。ゲームや好きな話題を通した関係形成、親子間の感情整理、学校連携などを得意としている。 【参考文献】 1) King GA, Rosenbaum PL, King SM. Evaluating family-centred service using a measure of parents' perceptions. Child Care Health Dev. 1997;23(1):47-62.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9023031/2026/10/13閲覧 2) Law M, Hanna S, King G, et al. Factors affecting family-centred service delivery for children with disabilities. Child Care Health Dev. 2003;29(5):357-366.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12904243/2026/10/13閲覧 3) Costa UM, Brauchle G, Kennedy-Behr A. Collaborative goal setting with and for children as part of therapeutic intervention. Disabil Rehabil. 2017;39(16):1589-1600.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27385635/2026/10/13閲覧

終末期における輸液による栄養療法 基本的な考え方と家族への関わり
終末期における輸液による栄養療法 基本的な考え方と家族への関わり
特集
2026年10月20日
2026年10月20日

終末期における輸液による栄養療法 基本的な考え方と家族への関わり

終末期の利用者さんに対して、水分や栄養を補給する目的で輸液療法が行われることがあります。しかし、その必要性や効果は、利用者さんの状態によってさまざまです。今回は、輸液による栄養療法について、終末期における基本的な考え方やご家族の思いに寄り添った対応について解説します。 栄養療法の基本的な考え方 食事は、単に必要な栄養を補う手段ではなく、生きる喜びや安心感をもたらす重要な要素であり、人とのコミュニケーションの場でもあります。そのため、生活の質(QOL)を維持・向上させる上で欠かせない役割を担っています。 しかし人はいずれ老いて、また病気によって栄養障害をきたすようになります。栄養状態の悪化は、筋肉量や体力の低下を招き、日常生活動作(ADL)の低下を引き起こします。これにより褥瘡、転倒・骨折、多臓器障害などのリスクが高まります。 終末期においては、利用者さんの原疾患の種類や病状進行のスピードを適切に見極め、それに基づいた個別の栄養管理が求められます。経口摂取が可能であれば、それが最優先です。しかし、病態によっては経口摂取が困難になる場合も多く、先を見据えた適切な栄養投与ルートの確保が不可欠です。これは、必要な薬剤を確実に投与できるルートを確保するという点でも重要な意味をもちます。 利用者さんやご家族に病状や治療の選択肢を十分に説明し、本人にとって最も負担が少なく、QOLを維持できる栄養管理方法を一緒に考える姿勢が求められます。 血管ルートの選択とタイミング 予後が1~2週間と短くなると、末梢血管の確保が困難になるケースが多く、利用者さんに苦痛を与えてしまうことがあります。そのため、ADLが良好な時期にPICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)、CVポート、胃瘻の造設などについてあらかじめ検討し、必要な処置を早期に実施することが望まれます。 以下は、進行によって特定の合併症が予測される疾患の例です。これらの進行を見越して、適切なタイミングで介入を行うことが、利用者さんのQOLの維持や在宅療養の継続支援につながります。 ●食道がん食道の完全閉塞が予想される場合は、胃内視鏡検査が可能なうちに胃瘻の造設を提案する。●肺がん反回神経麻痺により嗄声をきたし、誤嚥性肺炎のリスクが増大する。早めの胃瘻造設か、中心静脈栄養の導入を提案する。●腹膜播種腸閉塞の進行により嘔吐が出現する可能性がある。早めの中心静脈栄養の導入を提案する。 誤嚥性肺炎は、抗菌薬の投与や吸引・口腔ケアなど多くのケアを要し、利用者さん・ご家族・訪問看護師など関わる人たちすべての負担となります。可能であれば早期に中心静脈カテーテルを挿入し、在宅中心静脈栄養(HPN)を導入しましょう。 ただし、初回訪問時にすでに予後が数日程度と見込まれる場合は、HPNや経腸栄養などの積極的な栄養療法は控えます。代わりに、利用者さんの活動量に応じた必要最小限のエネルギー量を末梢静脈輸液製剤で補い、過度な水分負荷を避けることが重要です。その上で、症状緩和を目的とした薬剤(オピオイドやステロイドなど)の持続皮下注射を優先する対応が適切と考えます。 経口摂取をめぐるご家族の思い・看護の役割 「食べられなくなること=死」と直感的に捉え、何とか食べさせたいと願うご家族は少なくありません。また「死んでもいいから食べたい」と訴える利用者さんも多く、「食べられなくなったら点滴をしてもらわないといけない」と認識している人もいます。 訪問看護師の皆さんには、主治医の判断を踏まえて、まず経口摂取が可能かどうかを正確に評価し、経口摂取が可能であれば以下のような支援や助言を行っていただきたいです。 ミキサー食やとろみ食など形状を調整した食事の提案 味や香り、温度、盛り付けなどの工夫 ST(言語聴覚士)による嚥下訓練の実施 歯科衛生士や看護師による口腔ケア・リハビリテーションの実施 一方、経口摂取が困難な場合は、末梢静脈栄養(点滴)を行うか、あるいは自然な経過として受け止め見守るか、本人とご家族の価値観に寄り添いながら、丁寧に話し合いを重ねていくことが大切です。 栄養療法に関するガイドラインの要点 利用者さんやご家族と栄養療法の方針について話し合う際には、医学的な知識が欠かせません。そのため、関連するガイドラインでどのように述べられているのかを、あらかじめ確認しておくことが大切です。以下に、代表的なガイドラインで示されている要点を紹介します。 「がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編」(日本栄養治療学会)腸管が機能している場合は、経口摂取または胃瘻を選択する。使用困難な場合は静脈栄養を選択する。 「静脈経腸栄養ガイドライン 第3版」(日本静脈経腸栄養学会(現:日本臨床栄養代謝学会))栄養状態の低下はがん患者のQOLを低下させ、生命予後を悪化させる。また定期的に栄養アセスメントを行い、栄養不良に陥る前に栄養管理を開始することが推奨されている。 「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」(日本緩和医療学会)QOL向上のエビデンスが乏しいため、消化管狭窄・閉塞の有無にかかわらず、高カロリー輸液は基本的に推奨されない。 在宅療養においては、日常生活を継続していくために、ADLを長く保つことが重要です。そのためにはがん終末期においても労作に応じた栄養が必要と考えています。予後が数日となった段階での積極的栄養療法は控えるべきですが、それまでの経過における必要エネルギー量の投与は、ADLやQOLを保つために重要です。 ご家族に対して必要となるサポート 食事摂取量が日ごとに減っていく過程を見守るご家族は、強い不安や葛藤を抱えています。在宅における終末期の栄養選択に正解はありませんが、医学的根拠に基づく説明を丁寧に行い、今後の方針について早い段階から対話を重ねることが、ご家族の納得感および心のケアにつながります。 「点滴ひとつしてもらえなかった」「点滴をいっぱい入れたことで身体がムクムクになってしまい、本人の姿とはかけ離れてしまった」「医師から食事を中止するように言われていたのに食べさせてしまい、肺炎になって苦しんで亡くなってしまった」……こういった後悔が残らないよう、希望と現実をつなぐ「架け橋」になる姿勢を大切にしましょう。 執筆:杉本 由佳すぎもと在宅医療クリニック 院長1995年名古屋市千種区にすぎもと在宅医療クリニック開業。在宅栄養管理、緩和医療が専門分野。 所属学会日本在宅医療連合学会(専門医・指導医・評議員・特任理事)日本緩和医療学会(認定研修施設 認定医)日本栄養治療学会(認定医) その他、活動実績● 日本在宅医療連合学会「がん疾患の在宅医療人材育成講座」執筆● 原著論文「在宅静脈栄養における脂肪乳剤の使用状況と問題点 」Medical Nutritionist of PEN Leaders Vol.2 No.1 2018 に掲載 編集:株式会社照林社 【参考文献】○日本栄養治療学会編:がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編.金原出版,東京,2024.○日本静脈経腸栄養学会編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.照林社,東京,2013. ○日本緩和医療学会:終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版.金原出版,東京,2013.

顔が見える関係って大事!…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】
顔が見える関係って大事!…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】
特集
2026年10月20日
2026年10月20日

顔が見える関係って大事!…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

地域の多職種と「顔の見える関係」に 病院から訪問看護に来て驚いたことのひとつが、ごあいさつや営業活動にゃ。でも顔の見える関係ができると、地域のみなさんと一緒に利用者さんを支えられるにゃ! 病院から訪問看護に転職して戸惑うことのひとつが、ケアマネジャーさんやクリニックへのごあいさつなどの営業活動。名刺を持ち歩くようになるのも、病棟時代にはなかった変化ですよね。訪問看護師さんからは、「地域のケアマネジャーさんやヘルパー事業所の方、先生方から『いつもありがとうね』『頼りにしています』と声をかけていただくことが多い」「顔の見える関係が深まるにつれて新しいご依頼が増え、多職種で支え合いながら利用者さんをケアする流れができていく」といった声が聞かれました。地域の一員として信頼していただけることは、訪問看護ならではのやりがいのひとつです。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

家庭だからこそできる発達支援がある~生活をアセスメントすることから始まる児童精神科訪問看護~
家庭だからこそできる発達支援がある~生活をアセスメントすることから始まる児童精神科訪問看護~
コラム
2026年10月6日
2026年10月6日

家庭だからこそできる発達支援がある~生活をアセスメントすることから始まる児童精神科訪問看護~

「発達支援」と聞くと、特別な教材や訓練の場面を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし子どもの困りごとは、生活の中で起きています。児童精神科訪問看護の現場から、家庭をアセスメントし、環境を少し整えることで進める発達支援の実践をお伝えします。 生活そのものが発達支援の場になる 「発達支援」と聞くと、机に向かって課題に取り組む姿や、専門的な教材を使ってトレーニングを行う場面を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。 もちろん、そのような支援も子どもの発達を促す大切な方法の1つです。しかし、私たちショートケーキ訪問看護ステーションでは、「生活そのものが発達支援の場である」と考えています。 ショートケーキ訪問看護ステーションは、東京都豊島区、板橋区、北区を中心に、発達障害や不登校などにより、生きづらさを抱える子どもとその家族を対象とした児童精神科訪問看護を提供しています。 私たちは、子どもの生活の場である家庭を訪問し、医療だけでなく教育や福祉とも連携しながら支援を行っています。その中で強く感じるのは、子どもの困りごとは生活の中で起きており、その背景も生活の中にあるということです。 そのため、家庭でしか見えない情報を丁寧にアセスメントすることが、発達支援の第一歩だと考えています。 「切り替えができない」の正体を探る 保護者から「うちの子は切り替えができません」という相談を受けることがあります。 この言葉だけを聞くと、「切り替える練習をしましょう」と考えてしまいがちです。しかし、私たちはすぐに支援方法を考えるのではなく、まず「どんな場面で困っているのか」を一緒に整理することから始めます。 例えば、朝、学校へ行く準備が始められない、ゲームを終えられない、お風呂に入れない、お風呂から出られない、宿題を始められないなど、1日の生活を振り返りながら具体的な場面を確認していきます。 すると、「切り替えが苦手」という1つの困りごとの中にも、さまざまな状況があることが見えてきます。 さらに、「なぜその場面で切り替えられないのだろう」と考えていきます。 時間が分かりにくいのかもしれない。 次に何をするのか見通しが立っていないのかもしれない。 急に活動を終えることが苦手なのかもしれない。 時計が読みにくい環境なのかもしれない。 時間そのものの概念がまだ十分に育っていないのかもしれない。 このように生活を細かくアセスメントしていくことで、「切り替えができない」という困りごとは、子どもの努力不足ではなく、生活環境や発達特性が影響している可能性が見えてきます。 家庭だからこそできる環境調整 児童精神科訪問看護の強みは、生活の場を実際に見ることができる点にあります。 例えば、時間を意識して行動することが難しい子どもの場合、家庭環境を確認すると、子どもにとって時間を把握しにくい時計が設置されていたり、時計そのものが目に入りにくい場所にあったりすることがあります。 そのような場合には、子どもが時間を確認しやすい環境を整えることを保護者に提案します。デジタル時計を設置したり、タイマーを活用したりすることで、「あと何分」「今は何時」という時間の感覚を身につけやすくなります。 訪問時にはホワイトボードを使い、その日の予定や活動時間を書き出しています。 「今日は何をするのか」「あと何分で次の活動に移るのか」を一緒に確認しながら、「今は何時かな」と時計を見る習慣が身につくよう、繰り返し働きかけていきます 。 また、ホームプログラムとして毎日「起きた時間」と「寝た時間」を記録してもらうこともあります。 これは睡眠状況を把握するだけではなく、自分で時計を見て時間を意識する習慣を身につけることも目的の1つです。 このような支援は、特別な教材を使うわけではありません。 子どもの生活を丁寧に観察し、少しだけ環境を整えることで、「できた」という経験を生活の中で積み重ねていくことを大切にしています。 発達支援は生活の中にある 同じように、「忘れ物が多い」という相談に対しても、「もっと気を付けよう」と伝えるだけでは根本的な解決にはなりません。 持ち物を1か所にまとめる場所を作る。 持ち物リストを見える場所へ貼る。 翌日の準備を行う時間を決める。 このように環境を調整することで、子ども自身が準備しやすいしくみを作ることができます。 また、「体育が苦手」という子どもに対しても、単に「運動が嫌いなのだ」と捉えるのではなく、その背景に不器用さや模倣の難しさがある可能性も考えます。 そのような場合には、自宅で取り組める簡単な運動を一緒に行い、安心できる環境で成功体験を積み重ねることで、自信につなげていきます。 発達支援とは、子どもを変えることではありません。 子どもが力を発揮しやすい環境を整え、生活の中で成功体験を積み重ねていくことだと私たちは考えています。 家族も発達支援のパートナー 家庭で発達支援を行うことのもう1つの大きな特徴は、保護者も支援に参加できることです。 訪問の最後には、保護者とその日の様子を振り返り、家庭で困っていることや変化について話し合います。 「この声かけでうまくいきました」「タイマーを使ったら準備がスムーズでした」「ここは少し難しかったですね」 そんな小さな成功や課題を共有しながら、家庭でも無理なく続けられる方法を一緒に考えていきます。 子どもが訪問時の週に1時間だけ頑張るのではなく、生活の大半を過ごす家庭の環境が少しずつ変わることで、子どもの生活も変わっていきます。 だからこそ、保護者は支援を受ける存在であると同時に、子どもの成長を支える大切なパートナーでもあります。 おわりに 私たちが家庭で行っている発達支援は、特別なプログラムではありません。 生活を丁寧にアセスメントし、「なぜ困っているのだろう」と考えながら、その子どもに合った環境を一緒に整えていくことです。 家庭だからこそ見える困りごとがあり、家庭だからこそ実践できる支援があります。 発達支援とは、生活から切り離された特別な時間ではなく、毎日の暮らしの中で育まれていくものです。 これからも私たちは、子ども一人ひとりの生活に寄り添いながら、「その子らしく育つこと」を支える児童精神科訪問看護を実践していきたいと考えています。 ※本稿は日々の実践をもとに執筆していますが、事例は複数のケースをもとに再構成し、個人が特定されないよう十分に配慮しています。 執筆:齋藤 透ケアプロ株式会社ショートケーキ訪問看護ステーション リーダー日本赤十字看護大学大学院 地域看護学領域 専門看護師コース修了 児童精神・発達支援・不登校支援を中心に活動。「学校に行かせること」だけをゴールにせず、家庭という生活の場から、親子関係や安心感、人とのつながりを支えることを大切にしている。ゲームや好きな話題を通した関係形成、親子間の感情整理、学校連携などを得意としている。 編集:NsPace 編集部 【参考文献】〇こども家庭庁 「児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)」https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/7692b729-5944-45ee-bbd8-f0283126b7db/863f5ecf/20241101_policies_shougaijishien_shisaku_guideline_tebiki_02.pdf2026/8/26閲覧 「発達支援」と聞くと、特別な教材や訓練の場面を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし子どもの困りごとは、生活の中で起きています。児童精神科訪問看護の現場から、家庭をアセスメントし、環境を少し整えることで進める発達支援の実践をお伝えします。 生活そのものが発達支援の場になる 「発達支援」と聞くと、机に向かって課題に取り組む姿や、専門的な教材を使ってトレーニングを行う場面を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。 もちろん、そのような支援も子どもの発達を促す大切な方法の1つです。しかし、私たちショートケーキ訪問看護ステーションでは、「生活そのものが発達支援の場である」と考えています。 ショートケーキ訪問看護ステーションは、東京都豊島区、板橋区、北区を中心に、発達障害や不登校などにより、生きづらさを抱える子どもとその家族を対象とした児童精神科訪問看護を提供しています。 私たちは、子どもの生活の場である家庭を訪問し、医療だけでなく教育や福祉とも連携しながら支援を行っています。その中で強く感じるのは、子どもの困りごとは生活の中で起きており、その背景も生活の中にあるということです。 そのため、家庭でしか見えない情報を丁寧にアセスメントすることが、発達支援の第一歩だと考えています。 「切り替えができない」の正体を探る 保護者から「うちの子は切り替えができません」という相談を受けることがあります。 この言葉だけを聞くと、「切り替える練習をしましょう」と考えてしまいがちです。しかし、私たちはすぐに支援方法を考えるのではなく、まず「どんな場面で困っているのか」を一緒に整理することから始めます。 例えば、朝、学校へ行く準備が始められない、ゲームを終えられない、お風呂に入れない、お風呂から出られない、宿題を始められないなど、1日の生活を振り返りながら具体的な場面を確認していきます。 すると、「切り替えが苦手」という1つの困りごとの中にも、さまざまな状況があることが見えてきます。 さらに、「なぜその場面で切り替えられないのだろう」と考えていきます。 時間が分かりにくいのかもしれない。 次に何をするのか見通しが立っていないのかもしれない。 急に活動を終えることが苦手なのかもしれない。 時計が読みにくい環境なのかもしれない。 時間そのものの概念がまだ十分に育っていないのかもしれない。 このように生活を細かくアセスメントしていくことで、「切り替えができない」という困りごとは、子どもの努力不足ではなく、生活環境や発達特性が影響している可能性が見えてきます。 家庭だからこそできる環境調整 児童精神科訪問看護の強みは、生活の場を実際に見ることができる点にあります。 例えば、時間を意識して行動することが難しい子どもの場合、家庭環境を確認すると、子どもにとって時間を把握しにくい時計が設置されていたり、時計そのものが目に入りにくい場所にあったりすることがあります。 そのような場合には、子どもが時間を確認しやすい環境を整えることを保護者に提案します。デジタル時計を設置したり、タイマーを活用したりすることで、「あと何分」「今は何時」という時間の感覚を身につけやすくなります。 訪問時にはホワイトボードを使い、その日の予定や活動時間を書き出しています。 「今日は何をするのか」「あと何分で次の活動に移るのか」を一緒に確認しながら、「今は何時かな」と時計を見る習慣が身につくよう、繰り返し働きかけていきます 。 また、ホームプログラムとして毎日「起きた時間」と「寝た時間」を記録してもらうこともあります。 これは睡眠状況を把握するだけではなく、自分で時計を見て時間を意識する習慣を身につけることも目的の1つです。 このような支援は、特別な教材を使うわけではありません。 子どもの生活を丁寧に観察し、少しだけ環境を整えることで、「できた」という経験を生活の中で積み重ねていくことを大切にしています。 発達支援は生活の中にある 同じように、「忘れ物が多い」という相談に対しても、「もっと気を付けよう」と伝えるだけでは根本的な解決にはなりません。 持ち物を1か所にまとめる場所を作る。 持ち物リストを見える場所へ貼る。 翌日の準備を行う時間を決める。 このように環境を調整することで、子ども自身が準備しやすいしくみを作ることができます。 また、「体育が苦手」という子どもに対しても、単に「運動が嫌いなのだ」と捉えるのではなく、その背景に不器用さや模倣の難しさがある可能性も考えます。 そのような場合には、自宅で取り組める簡単な運動を一緒に行い、安心できる環境で成功体験を積み重ねることで、自信につなげていきます。 発達支援とは、子どもを変えることではありません。 子どもが力を発揮しやすい環境を整え、生活の中で成功体験を積み重ねていくことだと私たちは考えています。 家族も発達支援のパートナー 家庭で発達支援を行うことのもう1つの大きな特徴は、保護者も支援に参加できることです。 訪問の最後には、保護者とその日の様子を振り返り、家庭で困っていることや変化について話し合います。 「この声かけでうまくいきました」「タイマーを使ったら準備がスムーズでした」「ここは少し難しかったですね」 そんな小さな成功や課題を共有しながら、家庭でも無理なく続けられる方法を一緒に考えていきます。 子どもが訪問時の週に1時間だけ頑張るのではなく、生活の大半を過ごす家庭の環境が少しずつ変わることで、子どもの生活も変わっていきます。 だからこそ、保護者は支援を受ける存在であると同時に、子どもの成長を支える大切なパートナーでもあります。 おわりに 私たちが家庭で行っている発達支援は、特別なプログラムではありません。 生活を丁寧にアセスメントし、「なぜ困っているのだろう」と考えながら、その子どもに合った環境を一緒に整えていくことです。 家庭だからこそ見える困りごとがあり、家庭だからこそ実践できる支援があります。 発達支援とは、生活から切り離された特別な時間ではなく、毎日の暮らしの中で育まれていくものです。 これからも私たちは、子ども一人ひとりの生活に寄り添いながら、「その子らしく育つこと」を支える児童精神科訪問看護を実践していきたいと考えています。 ※本稿は日々の実践をもとに執筆していますが、事例は複数のケースをもとに再構成し、個人が特定されないよう十分に配慮しています。 執筆:齋藤 透ケアプロ株式会社ショートケーキ訪問看護ステーション リーダー日本赤十字看護大学大学院 地域看護学領域 専門看護師コース修了 児童精神・発達支援・不登校支援を中心に活動。「学校に行かせること」だけをゴールにせず、家庭という生活の場から、親子関係や安心感、人とのつながりを支えることを大切にしている。ゲームや好きな話題を通した関係形成、親子間の感情整理、学校連携などを得意としている。 編集:NsPace 編集部 【参考文献】〇こども家庭庁 「児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)」https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/7692b729-5944-45ee-bbd8-f0283126b7db/863f5ecf/20241101_policies_shougaijishien_shisaku_guideline_tebiki_02.pdf2026/10/1閲覧

「飛行機で地元へ帰りたい」を叶えるには? 多くの制限の中で安全を組み立てる民間救急の力
「飛行機で地元へ帰りたい」を叶えるには? 多くの制限の中で安全を組み立てる民間救急の力
コラム
2026年9月1日
2026年9月1日

「飛行機で地元へ帰りたい」を叶えるには? 多くの制限の中で安全を組み立てる民間救急の力

「北海道や九州にいる家族の元へ移りたい」「離島の自宅へ帰りたい」。そんな遠方への長距離搬送において、大きな選択肢となるのが「飛行機」です。 移動時間を劇的に短縮できる一方で、機内へのストレッチャー搬入や医療機器の持ち込みには、航空会社や空港との極めて緻密な事前調整が求められます。最終回となる今回は、数ある搬送の中でも最も難易度が高いとされる「飛行機搬送」の舞台裏に迫ります。 執筆:藤 健二郎(とう けんじろう)社会人経験を経て看護師となり、済生会福岡総合病院の救命救急センターで勤務。重症患者の看護に従事した後、大学院で看護師のストレスに関する研究を行い、急性・重症患者看護専門看護師を取得。現在は東京女子医科大学病院CCUでの臨床と並行し、ケアプロ株式会社 交通医療事業部長として、重症患者搬送や外出支援など「医療×移動」の分野で事業を展開している。■ケアプロ株式会社「ドコケア」:https://dococare.com/transport民間救急とは?緊急性の低い患者の搬送を行う民間サービスのこと。多くは、消防庁の認可を受けて「患者等搬送事業(一般乗用旅客自動車運送業)」を行っている。 遠方への搬送では、飛行機が必要になることがある 長距離搬送では、車両や新幹線だけでなく、”飛行機”を利用するケースもあります。 たとえば、北海道や九州、離島など、車両や新幹線では移動時間が長くなりすぎる場合、患者様の身体的負担を考慮して、飛行機搬送を選択することがあります。 一方で、飛行機搬送は、通常の航空券を予約して乗るだけでは成立しません。ストレッチャーで搭乗する場合、機内の座席を複数席使用する必要があります。 また、酸素、吸引器、SpO₂モニターなどの医療機器を持ち込む場合は、事前に航空会社へ機器の種類や型式を申請し、使用可否を確認する必要があります。 弊社の事例ですが、東京から北海道への搬送において、気管切開があり、酸素投与と頻回な吸引が必要な患者様に対して、飛行機搬送を選択しました。新幹線や車両では移動時間が10時間を超えることや、乗り換えの際の人員確保・リスク管理が難しいと判断したためです。 飛行機搬送では、診断書・機器申請・空港手続きが必要になる 飛行機搬送で重要になるのは、航空会社との事前調整です。まず、希望する便に空きがあるかを確認します。そのうえで、ストレッチャー対応が可能か、必要な座席数を確保できるかを確認します。 ストレッチャー搬送では、患者様が横になった状態で搭乗するため、通常より多くの座席を使用します。そのため、便に空席があっても、必要な座席数をまとめて確保できなければ搬送は成立しません。 また、航空会社指定の診断書や同意書が必要になることがあります。医師に診断書の作成を依頼し、予約番号や使用予定の医療機器情報を病院側と共有するなど、連携を同時に進めます。 持ち込む医療機器についても、人工呼吸器、吸引器、SpO₂モニターなどの型式を確認し、航空会社へ事前に申請します。 なお、バッテリーの扱いや機内電源の使用可否なども確認が必要ですが、基本的には、搬送車両のように自由に電源を使えるわけではないため、機内で何ができて、何ができないかを事前に把握しておくことが欠かせません。 さらに、ストレッチャーの患者様を搭乗させる場合、空港の制限区域に車両で入ることがあります。 その際には、車両の車検証やドライバーの免許証情報を事前に提出し、空港側の確認を受ける必要があります。 空港に到着してから考えるのではなく、病院、航空会社、空港、搬送チームが事前に情報を共有し、当日の流れを組み立てておくことが重要です。 多くの制限の中で、安全な搬送を組み立てる 飛行機搬送では、病院から空港、空港内、機内、到着空港、搬送先まで、複数の場面を切れ目なくつなぐ必要があります。 病院を出発する時間、空港到着時間、手荷物検査、制限区域への入場、機体近くでの移乗、機内への搭乗、到着後の介護タクシーとの合流。そのすべてが、航空会社や空港の運用時間に合わせて進みます。 ストレッチャー搬送では、出発予定時刻のかなり前から空港での手続きが始まります。医療機器の確認、手荷物検査、車両やドライバーの確認、制限区域内での移動など、通常の搭乗とは異なる工程が多くあります。 また、機内では使える医療機器や酸素に制限があります。地上の搬送車両のように、必要な機器を自由に積み込めるわけではありません。 だからこそ、飛行機搬送では、患者様の状態だけでなく、航空会社のルール、空港内の動線、機内で使用できる医療機器、酸素の条件、到着後の搬送体制まで確認し、その制限の中で安全な搬送計画を立てる必要があります。 飛行機搬送は、単に遠くへ早く移動するための手段ではありません。限られた条件の中で、医療的な安全を守りながら、患者様とご家族の希望する場所へつなぐための搬送です。 私たちはこれからも、遠方への転院や帰郷を希望される患者様とご家族に対し、医療と移動をつなぐ選択肢を丁寧に提供していきます。

緩和的鎮静とは?在宅での判断を支える「倫理の四要件」【学会レポート】
緩和的鎮静とは?在宅での判断を支える「倫理の四要件」【学会レポート】
特集
2026年9月1日
2026年9月1日

緩和的鎮静とは?在宅での判断を支える「倫理の四要件」【学会レポート】

終末期の利用者さんから「つらいときは眠らせてほしい」と言われたら——。在宅医療に携わる医療・介護職にとって、いつか向き合う可能性のある「緩和的鎮静」をテーマにしたワークショップが、第8回日本在宅医療連合学会大会(2026年7月4日・5日、札幌)で開催されました。緩和的鎮静とは何か、その判断を支える「倫理の四要件」とは。講義と多職種グループワークで構成された学びの濃い90分を、NsPace編集部がレポートします。 ※本記事は学会ワークショップの内容を編集部がレポートしたものです。実際の鎮静の判断は、関連学会の手引きを確認し、主治医を含む多職種チームで行ってください。 ワークショップ概要〜経験はあるのに、枠組みは知られていない ワークショップ冒頭で行われたリアルタイムアンケートでは、鎮静に携わった経験のある参加者が多数を占めた一方、判断の拠りどころとなる「持続的鎮静における倫理の四要件」については、知らないと答えた方が目立ちました。 多くの医療従事者が経験しているのに、判断の枠組みは十分に知られていない。このギャップこそが、緩和的鎮静の難しさを物語っています。ワークショップは前半が講義、後半が架空症例をもとにした多職種グループワークという構成で進みました。 緩和的鎮静とは〜「眠らせること」が目的ではない 講義ではまず、緩和的鎮静の定義が整理されました。現在の定義は「治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として、鎮静薬を投与すること」。ポイントは、意識を低下させること自体が目的ではない、という点です。 緩和的鎮静は大きく2つに分類されます。 間欠的鎮静:夜間など苦痛の強い時間帯に限って鎮静薬を使い、その後は中止する方法 持続的鎮静:鎮静薬を持続的に投与する方法。さらに次の2つに分かれます。 調節型鎮静:苦痛の強さに応じて少量から調節する方法。意識の低下はあくまで副産物で、「これくらいなら耐えられる」という状態を最小量で目指す 持続的深い鎮静:調節型では緩和が難しい、または難しいと予測される切迫した状況で、深い鎮静状態とする方法 原則として調節型鎮静が優先で、持続的深い鎮静はそれでも緩和できない場合の選択肢である、という整理が示されました。 なぜ倫理が問われるのか 鎮静、特に持続的深い鎮静がデリケートな問題となる理由も明確に示されました。鎮静により意思疎通や自己決定が難しくなること、そして、その行為自体が予後を短縮する可能性が否定しきれないことです。講義では、予後が短い(日の単位)と予測される場合には、持続的深い鎮静が予後を極端に縮めることはないと想定されているものの、厳密な断定は難しいという研究の現状も紹介されました。だからこそ、どんなに苦しそうに見えても、倫理的な論点をチームで議論し、丁寧に意思決定のプロセスを踏むことが欠かせないのです。 判断を支える「倫理の四要件」 講義の核心は、持続的鎮静の倫理性を支える4つの要件でした。 (1)相応性 さまざまな選択肢を検討したうえで、鎮静が「相対的に最善」と判断できること。検討の軸は「苦痛の強さ」「治療抵抗性の確実さ」「予測される予後」の3つです。ここで強調されたのは、苦痛の強さとは「強い苦痛」ではなく「耐え難い苦痛」かどうか、という点。周囲からどれほど苦しそうに見えても、本人が「耐えられる」というなら、それは耐え難い苦痛ではない。主観を尊重する視点が印象的でした。また、治療抵抗性とは「他の手段を尽くしたか」ということ。安易に鎮静に飛びつかない、といういましめでもあります。 (2)医療者の意図 鎮静の意図が「苦痛の緩和」であり、生命予後の短縮ではないことを、関わる医療者が理解していること。 (3)患者・家族の意思 本人に意思決定能力があれば本人の意思を確認し、難しい場合はこれまでの言葉や価値観から推定します。家族と話すときは「ご家族はどうしたいですか」ではなく「ご本人ならどう望まれるでしょうか」と、本人の意思を推定する形で対話すること。そして、決断の責任を家族だけに背負わせず、医療チームも一緒に背負うことが大切だと語られました。 (4)医療チームによる判断 一人で決めないこと。在宅医療では全員が集まることが難しい場面もありますが、実施可能な範囲で複数の視点から意見を求め、意思決定の過程を記録に残すことの重要性が強調されました。 グループワーク〜訪問看護師の「相談」から始まる事例 後半は、終末期の肺がんの利用者さん(架空症例)をもとにしたグループワークでした。「苦しい時間が続くなら眠らせてほしい」という本人のかねてからの言葉。「眠ると話せなくなるのでは」と揺れるご家族。そして、症状緩和を尽くしても苦痛が取りきれない状況で、訪問看護師から医師へ「持続的鎮静はどうでしょうか」と相談が上がる——という設定です。各テーブルでは、医師・看護師・薬剤師・ケアマネジャーなど多職種が「四要件はどの程度満たされているか」「鎮静の前にできることはないか」を議論しました。正解探しではなく、迷いや葛藤も大切な意見として扱うというグラウンドルールのもと、それぞれの職種の視点が交わる時間となりました。 「鎮静の前に、叶えたいことを話し合う」 質疑応答で心に残ったやりとりがあります。症例の利用者さんには「家の近くの海が見たい」という願いがありました。この願いにどう向き合うか、という問いに対して、登壇者からは「なぜ海に行きたいのか、その奥にある思いを掘りさげることが大事」という視点が示されました。海そのものが大切な人もいれば、大切な人との思い出こそが本質という人もいます。願いの背景を理解できれば、たとえ海に行けなくても、その人にとって意味のある関わりができるかもしれません。鎮静を検討する前に、本人の叶えたいことをチームで話し合う意義を、あらためて考えさせられる場面でした。 まとめ〜訪問看護師は利用者の意思決定に伴走する〜 在宅で利用者さんに継続的に寄り添う存在として、訪問看護師は重要な役割を担っています。 グループワークの事例でも、鎮静の検討は訪問看護師の気づきと相談から始まりました。 「眠らせてほしい」という言葉を受け止め、耐え難い苦痛かどうかを見きわめ、本人と家族の揺れる思いをチームにつなぐ。倫理の四要件は医師だけのものではなく、訪問看護師が意思決定のプロセスに参加するための共通言語でもある——そう感じたワークショップでした。 なお、鎮静に関する考え方は、日本緩和医療学会の「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き(2023年版)」にまとめられており、学会ウェブサイトからどなたでも閲覧できます。ぜひ一度目を通してみてください。 【参考文献】 第8回日本在宅医療連合学会大会運営事務局:「ワークショップ・交流集会・ハンズオンセミナー(事前予約)」.第8回日本在宅医療連合学会大会.https://www.aeplan.jp/jahcm2026/workshop/ 2026/8/27閲覧 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会:「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き(2023年版)」.日本緩和医療学会ウェブサイト.2023年6月20日発行.https://www.jspm.ne.jp/publication/guidelines/individual.html?entry_id=1391 2026/8/27閲覧

感染クラスター対応をゲームで疑似体験!「クラスター8」体験レポート
感染クラスター対応をゲームで疑似体験!「クラスター8」体験レポート
特集
2026年8月12日
2026年8月12日

感染クラスター対応をゲームで疑似体験!「クラスター8」体験レポート

「施設で新型感染症のクラスターが発生。しかも施設長は感染して不在——さあ、どうする?」。そんな緊迫の状況をカードゲームで疑似体験できるワークショップが、第8回日本在宅医療連合学会大会(2026年7月4日・5日、札幌)で開催されました。その名も「感染クラスター乗り切り体験ゲーム『クラスター8』」。実際にプレイヤーとして参加したNsPace編集部が、ゲームの様子と学びをレポートします。 「クラスター8」とは?現場の声から生まれた体験ゲーム クラスター8は、介護施設での感染クラスター発生時の対応を、チームで疑似体験するボードゲーム型の研修ツールです。開発の中心となったのは、コロナ禍で数多くの施設の感染対応を支援してきた医療・介護の実践者集団「一般社団法人KISA2隊(キサツ隊)」。「issue+design」との共同開発により、現場で見てきた工夫や失敗の教訓を集めて作られたといいます。 印象的だったのは、冒頭で語られた開発の動機です。クラスターの被害は感染者数だけでは語れません。感染対応を優先するあまり利用者さんのADL(日常生活動作)が低下してしまう、スタッフが疲弊して離職につながる、チームの人間関係が壊れてしまう——。そうした「二次被害」も含めて危機をどう乗り切るかを、安全な場で体験してもらいたい。ゲームにはそんな願いが込められています。 ゲームの舞台は「施設長不在の小規模施設」 ゲームの舞台は、利用者さん10名を職員6名で支える小規模な介護施設です。ある日、施設長が新型ウイルス感染症に感染して自宅隔離となり、残された職員だけでクラスター対応に立ち向かう——という設定で始まります。参加者は4人1組のチームとなり、それぞれ「医療職員」「介護職員」「ケアマネジャー」「感染対策委員」の役割を担当。感染発生からの8日間をターン制で進めていきます。ルールの骨格はシンプルです。 チーム共通の目標は「施設全体の感染者を一定数以下に抑える」こと 各自にはそれぞれ役割に応じた個人目標がある(職員の感染を防ぐ、利用者さんのADLを守る、職員の元気度を保つ…など) 毎ターン、20種類の「アクションカード」から実行する行動を最大3つまで選ぶ アクションには実行に必要な職員数があり、職員が感染すると打てる手がどんどん減っていく そして意地悪なことに、20種類のアクションの中には「実はあまり効果がないもの」も紛れ込んでいます。限られた人手で何を優先するか。チームの合意形成そのものが、このゲームの本体です。 体験して分かった「合意形成」の難しさ 編集部も1つのチームに入って参加しました。実際にやってみると、これが想像以上に悩ましいのです。 感染拡大を抑えたい医療職視点では、消毒やゾーニングを優先したい。一方で、利用者さんの生活を守る介護職視点では、隔離や制限ばかりだと個人目標のADLが守れない。職員の元気度を担当するメンバーからは「その前に職員が倒れます」と“待った”がかかる。それぞれの正義がぶつかる中で、3枚しか選べないカードをどれにするか——制限時間は刻一刻と減っていきます。 ゲームの結果は、チームの選択によって「グッドエンド」から「バッドエンド」まで複数のエンディングに分岐します。感染は抑えたのに利用者さんのADLが大きく低下し、職員の離職が始まってしまう、という苦いエンディングもあり、「感染者数さえ抑えればよいわけではない」という開発者のメッセージがここにも表れていました。 答え合わせで学ぶ、初動対応のポイント ゲーム後の解説パートでは、推奨される対応が具体的に示されました。詳細は割愛しますが、編集部が特に持ち帰りたいと感じたポイントを3つご紹介します。 (1)最初にやるべきは「指揮系統の明確化」 責任者が不在でも対応が止まらないよう、誰が判断し、誰に確認するのかをまず決める。指示待ちによる初動の遅れが、その後の展開を大きく左右します。 (2)ご家族への連絡は「有事の前」から 有事の連絡だけでは、ご家族の不安は募るばかり。平時から「何もないとき」にも連絡を取り、信頼関係を築いておくことで、緊急時の連絡も前向きに受け止めてもらえる、という指摘にはハッとさせられました。 (3)「よかれと思った対策」にも落とし穴がある 一見有効に思える対策でも、使い方や場面によっては逆効果になり得るものがあります。たとえば仕切りの設置が換気を妨げてしまうケースのように、「その対策は何のためか」を理解して選ぶことの大切さが強調されていました。 訪問看護ステーションでも「避難訓練」を 主催者が繰り返し語っていたのは、「これはあくまで疑似体験、いわば避難訓練です」ということ。本番はもっと過酷で、時間も情報も足りない中での判断を迫られます。だからこそ、平時に安全な場で「チームで決める」経験をしておくことに価値があるのだと感じました。 また、このゲームは医療職と介護職の合意形成ツールとしての側面も持っています。医療の正義と生活の正義、どちらも大切だからこそぶつかる。その調整を疑似体験できる研修ツールは、訪問看護ステーションと連携先の施設・事業所が合同で取り組む研修としても効果的だと感じました。 BCP(業務継続計画)は作って終わりになりがちです。自分たちの計画が本当に機能するのか、ゲームという形で点検してみる。そんな選択肢があることを、多くの事業所の方に知っていただきたいと感じた90分でした。 【参考文献】 第8回日本在宅医療連合学会大会運営事務局:「ワークショップ・交流集会・ハンズオンセミナー(事前予約)」.第8回日本在宅医療連合学会大会.https://www.aeplan.jp/jahcm2026/workshop/ 2026/8/6閲覧 一般社団法人KISA2隊:「感染クラスター8|感染対策研修をゲームで楽しく実施する!」.一般社団法人KISA2隊ウェブサイト.https://kisa2tai.or.jp/lp/cluster8/ 2026/8/6閲覧 厚生労働省老健局:「介護現場における感染対策の手引き 第3版」.厚生労働省ウェブサイト.令和5年9月.https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001149870.pdf 2026/8/6閲覧 厚生労働省:「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」.厚生労働省ウェブサイト.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html 2026/8/6閲覧

学校だけがゴールではない─不登校支援と訪問看護師のケアマネジメント
学校だけがゴールではない─不登校支援と訪問看護師のケアマネジメント
コラム
2026年8月4日
2026年8月4日

学校だけがゴールではない─不登校支援と訪問看護師のケアマネジメント

不登校支援において、訪問看護師はどのような役割を担えるのでしょうか。家庭と学校・福祉をつなぐ多機関連携の実践と、訪問看護師が果たすケアマネジメント機能についてお伝えします。 不登校支援における訪問看護師の立場 ショートケーキ訪問看護ステーションは、東京都豊島区、板橋区、北区を中心に、発達障害や不登校など、生きづらさを抱える子どもと家族を対象とした児童精神科訪問看護を提供しています。 私たちは家庭という生活の場で子どもや家族と関わりながら、医療だけでなく教育や福祉とも積極的に連携し、その子らしく成長できる環境づくりを支援しています。学校訪問や支援者会議への参加、関係機関との情報共有も日常的な実践の1つです。 近年、不登校児童生徒数は増加し続けています。その背景には発達障害や精神的な不調、家庭環境の課題、友人関係の悩みなど、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。そのため、不登校支援は学校だけで完結するものではなく、家庭、医療、福祉、地域資源など、多くの関係者が連携しながら支援を行うことが求められています。 児童精神科領域の訪問看護に携わる中で、私は「子どもを支援する」というよりも、「子どもを取り巻く環境全体を支援する」という感覚を持つことが少なくありません。特に不登校支援においては、多機関連携をどのように進めるかが支援の質を大きく左右すると感じています。 今回は、ショートケーキ訪問看護ステーションでの実践を通して感じている多機関連携と訪問看護師のケアマネジメントについてお伝えしたいと思います。 学校と家庭をつなぐ情報共有 当ステーションでは、保護者の同意を得たうえで学校へ情報提供書を送付しています。担任やスクールソーシャルワーカー、特別支援教育コーディネーターなどと、定期的な情報共有やカンファレンスも行っています。 訪問看護師は家庭という生活の場に入るため、子どもや保護者から日常の様子を直接聞くことができます。 例えば、 「昨夜、両親とのトラブルがあり気持ちが不安定になっている」「友達とけんかをしたが仲直りはできた。しかし本人はまだ不安を抱えている」「睡眠が乱れており朝から活動することが難しい」 といった情報は、家庭で関わる訪問看護師だからこそ把握できる内容です。 一方で学校には、 「今日は朝から表情が硬かった」「授業中に集中が続かなかった」「休み時間は一人で過ごしていた」 など、家庭では見えない子どもの姿があります。 どちらも子どもの状態を理解するために重要な情報ですが、それぞれが独立して存在しているだけでは十分な支援にはつながりません。訪問看護師が学校と家庭の間に入り、双方の情報を整理しながら共有することで、支援者全体の目線を合わせることができます。 実際に行った支援者会議では、担任の先生から次のような言葉がありました。 「学校は楽しいところだよって本人に知ってもらいたいんです。来てくれたらたくさん楽しませたいと思っています。でも、そのための手立てが分からなかったんです」 家庭では本人の不安や悩みを聞くことができても、その情報が学校へ十分に伝わっていないことがあります。一方で学校側も、子どもを支えたいという思いを持ちながら、どのように関わればよいか悩んでいることがあります。 家庭での様子や本人の思いを共有したことで、学校側からは「子どもへのアプローチの選択肢が増えたことが嬉しい」という声が聞かれました。 この経験を通して、多機関連携の目的は支援者を増やすことではなく、子どもを理解する視点を増やすことなのだと改めて感じました。 子どもの居場所を増やすという視点 不登校支援では、「学校へ行けるようになること」が目標として語られることがあります。しかし、私たちが目指しているのは単純な登校ではありません。大切なのは、子どもが安心して過ごせる場所を増やしていくことです。 自宅だけでなく、 学校 保健室 別室登校 教育支援センター 放課後等デイサービス フリースクール 習い事や地域活動 など、本人が安心して過ごせる居場所を確保しながら、その子のペースに合わせた学習や社会参加の機会を整えていくことが重要です。 実際に、学校への登校は難しくても、放課後等デイサービスへ通うことが外出のきっかけになる子どもがいます。また、フリースクールが新たな学びの場となり、自信を取り戻していく子どももいます。 私たちは「学校へ戻すこと」をゴールにするのではなく、その子が安心して過ごせる場所を1つでも増やし、その子らしい社会とのつながり方を一緒に探していくことを大切にしています。 訪問看護師が担うケアマネジメント 成人領域では、介護支援専門員が支援全体を調整する役割を担っています。 一方、児童領域では事情が異なります。 障害福祉サービスを利用している場合には、計画相談支援事業所の相談支援専門員がケアマネジメントを担います。しかし、不登校の子どもの中には放課後等デイサービスや移動支援などの障害福祉サービスを利用しておらず、相談支援専門員が関与していないケースも少なくありません。 その場合、学校との調整、医療との連携、福祉サービスの導入検討、地域資源とのつながりづくりなど、多くの役割を保護者が担うことになります。 しかし、不登校が長期化すると、保護者自身も疲弊し、十分に調整役を担うことが難しくなることがあります。 そのような場面で訪問看護師は、子どもや保護者の思いを整理し、学校や医療機関、児童相談所、福祉機関へつなぎ、必要に応じて支援者会議を開催します。 また、放課後等デイサービスやフリースクール、教育支援センターなどの地域資源を紹介し、子どもや家族と一緒に新たな選択肢を検討することもあります。 制度上、訪問看護師はケアマネジャーではありません。しかし実践の中では、以下のコーディネーターとしての役割を担っています。 支援者同士をつなぐ 情報を整理する 支援の方向性をそろえる 私は、このケアマネジメント機能こそが、児童精神科領域における訪問看護師の大きな特徴の1つであると感じています。 訪問看護師が担う橋渡しの可能性 不登校支援は、1つの機関だけで完結するものではありません。 家庭、学校、医療、福祉、そして地域の多様な居場所がつながることで、初めて継続的で安定した支援が実現します。 訪問看護師は家庭に最も近い専門職の一人として、子どもと家族の思いを受け止めながら、多機関をつなぐ橋渡し役を担うことができます。 学校に行けることだけがゴールではありません。 子どもが安心して過ごせる場所を1つでも増やし、その子らしいペースで成長していける環境を整えること。そのために今後も、多機関連携とケアマネジメントを大切にした実践を続けていきたいと思います。 執筆:齋藤 透ケアプロ株式会社ショートケーキ訪問看護ステーション リーダー日本赤十字看護大学大学院 地域看護学領域 専門看護師コース修了 児童精神・発達支援・不登校支援を中心に活動。「学校に行かせること」だけをゴールにせず、家庭という生活の場から、親子関係や安心感、人とのつながりを支えることを大切にしている。ゲームや好きな話題を通した関係形成、親子間の感情整理、学校連携などを得意としている。 編集:NsPace 編集部 【参考文献】〇文部科学省「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」https://www.mext.go.jp/content/20260305-mxt_jidou02-100002753_3.pdf2026/6/25閲覧

第8回日本在宅医療連合学会大会レポート!訪問看護に役立つ注目プログラム
第8回日本在宅医療連合学会大会レポート!訪問看護に役立つ注目プログラム
特集
2026年7月28日
2026年7月28日

第8回日本在宅医療連合学会大会レポート!訪問看護に役立つ注目プログラム

2026年7月4日・5日の2日間、札幌で「第8回日本在宅医療連合学会大会」が開催されました。在宅医療に携わる多職種が全国から集まる年に一度の大会に、NsPace編集部も参加してきました。会場の熱気や、訪問看護師の皆さんにもぜひ知っていただきたいプログラムの数々を、参加レポートとしてお届けします。 第8回日本在宅医療連合学会大会とは 日本在宅医療連合学会が開催する全国大会で、今回で8回目を迎えます。会期は2026年7月4日(土)・5日(日)の2日間、会場は札幌コンベンションセンターと札幌市産業振興センターの2ヵ所。大会長は大友 宣氏(医療法人財団老蘇会 静明館診療所)が務め、大会テーマには「在宅医療ラララララ~パラダイムシフトをパラダイムシフトする次世代の在宅医療~」が掲げられました。 在宅医療の学会と聞くと医師向けの印象があるかもしれませんが、実際の参加者は医師のほか、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護職、リハビリテーション職など実に多彩です。プログラムもシンポジウムや一般演題だけでなく、参加型のワークショップ、市民公開講座など幅広く用意されており、「在宅医療に関わるすべての職種のための大会」という空気を強く感じました。 編集部が聴講したシンポジウムとワークショップ 編集部は、訪問看護の現場に関わりの深いテーマを中心に選んで聴講しました。その一部をご紹介します。 「在宅ドクターカーの対応と在宅病院前救急との融合 ―地域包括ケアにおける新たな医療体制構築に向けて―」 在宅医療と救急医療をどうつなぐかを考えるシンポジウム。利用者さんの急変時に「搬送か、在宅での継続か」を迫られる場面は訪問看護師にとっても身近なテーマであり、在宅と救急の連携という切り口が印象的でした。 在宅医療の効率化、ご自慢バトル! 全国の在宅医療の現場から、業務効率化の工夫を持ち寄ってプレゼンし、参加者の投票で最優秀を決めるユニークな企画。従来のFAX管理を突き詰めた効率化からAI活用まで、明日から真似したくなるアイデアが次々と登場し、会場も大いに盛り上がっていました。 感染クラスター乗り切り体験ゲーム「クラスター8」 介護施設で新型感染症のクラスターが発生した、という設定をカードゲームで疑似体験するワークショップ。多職種のチームで「限られた人手で何を優先するか」を話し合いながら進める形式で、編集部も実際にプレイヤーとして参加しました。 ACPで安楽死を求められたら 「終末期の意思決定支援」という重いテーマを、寸劇を交えながら現場目線で考えるシンポジウム。答えのない問いに、多職種がそれぞれの立場から向き合う構成でした。 在宅で挑む終末期がん患者の苦痛緩和〜緩和的鎮静の決断と多職種の力〜 在宅での緩和的鎮静をテーマに、講義と多職種でのグループワークを組み合わせたワークショップ。多くの参加者が集まる盛況ぶりで、このテーマへの現場の関心の高さがうかがえました。 会場で感じた3つのこと (1)「体験して学ぶ」プログラムの充実 ゲームやグループワーク、投票企画など、参加者が手と口を動かして学ぶ「参加型のプログラム」が目立ちました。講義を聞くだけでは持ち帰りにくい「判断の難しさ」を、体験を通して実感できる仕掛けが印象的でした。 (2)多職種がフラットに議論する文化 医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護職が同じテーブルで対等に意見を交わす場面が、参加型のプログラムを中心に数多く見られました。在宅医療の意思決定は多職種の力で支えるものだ、というメッセージを会場全体から感じました。 (3)答えのないテーマから逃げない姿勢 終末期の意思決定や感染対応など、正解が1つに定まらないテーマこそ、現場の実感を持ち寄って議論する。そんな姿勢が大会全体を貫いていたように思います。 まとめ 在宅医療の「今」を肌で感じられる2日間でした。訪問看護師の皆さんにとっても、日々のケアを見つめ直すヒントが数多くある大会だと感じます。編集部が特に注目した「クラスター8」と「緩和的鎮静」のワークショップについては、あらためて詳しいレポート記事をお届けする予定です。どうぞお楽しみに。 取材・編集・執筆:NsPace編集部 【参考】 第8回日本在宅医療連合学会大会運営事務局:「開催概要」.第8回日本在宅医療連合学会大会.https://www.aeplan.jp/jahcm2026/outline/ 2026/7/6閲覧 第8回日本在宅医療連合学会大会運営事務局:「プログラム」.第8回日本在宅医療連合学会大会.https://www.aeplan.jp/jahcm2026/program/ 2026/7/6閲覧 第8回日本在宅医療連合学会大会運営事務局:「ワークショップ・交流集会・ハンズオンセミナー(事前予約)」.第8回日本在宅医療連合学会大会.https://www.aeplan.jp/jahcm2026/workshop/2026/7/6閲覧

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