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生活保護制度(医療扶助) 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

レセプト業務を行っていると、患者さんの自己負担金が発生しないケースに出合うことがあります。これまで取り上げてきた医療費助成制度の中でも、生活保護制度による医療扶助は異質かもしれません。生活保護については、訪問看護ステーションにおけるレセプトの公費の欄に医療券番号を入力することになっているため、生活保護における医療扶助のしくみについて知っておく必要があります。

※本記事は、2025年6月時点の情報をもとに構成しています。

生活保護制度とは

訪問看護を利用している方の中には、生活が困難な状況にあると思われる方もいます。所得が低く、自己負担額の支払いが難しい場合には、生活保護制度(以下、生活保護)の対象となるかもしれません。

日本国憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。生活保護は、最低生活の保障と自立の助長を図ることを目的とし、生活に困窮している人々に対し「健康で文化的な最低限度の生活」を保障し、自立した生活ができるように積極的に援助する制度です。

生活保護は世帯単位で申請しますが、世帯に資産や能力などがある場合には、まずは世帯員全員がそれらを活用し、最低限度の生活を維持することが求められます。言い換えると、生活保護を受けるには、資産や能力などが活用できないことが要件になります。また、扶養義務の履行ができるかどうかも保護の決定に影響を与えます。扶養義務者が扶養できるのであれば、生活保護は期待できません。

生活保護には8つの扶助があります。このうち、訪問看護ステーションに関係するのは、「(4)医療扶助」と「(5)介護扶助」です。

(1)生活扶助:日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)
(2)住宅扶助:アパート等の家賃
(3)教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
(4)医療扶助:医療サービスの費用
(5)介護扶助:介護サービスの費用
(6)出産扶助:出産費用
(7)生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
(8)葬祭扶助:葬祭費用

生活保護が決定されれば、「最低生活費」といわれる決められた生活費が支払われます。この最低生活費は、年金や児童扶養手当など受給できる費用(収入)を控除して支払われます(図1)。

図1 収入がある場合の最低生活費(生活保護費)

図1 収入がある場合の最低生活費(生活保護費)

生活保護を受けるまでの流れ

生活保護を受けたい場合、住所地の市区町村を管轄する福祉事務所の生活相談窓口に相談するところから始まります。生活保護の申請を行うと、主に福祉事務所が訪問調査や資産調査などを実施し、申請から原則14日以内に生活保護を受けることができるかどうかを審査し、判断します。生活保護の受給が開始されると、ケースワーカーが年数回の訪問調査を行い、生活に関する指導を行います。

このようなことから、市区町村のケースワーカーと訪問看護ステーションが連携し、生活保護の対象者について情報を共有しておくことも、訪問看護において有効でしょう。

生活保護による医療扶助とは

生活保護を受けている場合、国民健康保険の被保険者から除外され、「医療扶助」により医療サービスを受けられることが保障されています。

医療に関する制度として、健康保険法・国民健康保険法などの医療保険制度や、これまで解説してきたさまざまな医療費助成制度がありますが、これらの制度では支給の適用範囲に限りがあります。この範囲から外れるものについて、生活保護の医療扶助で賄われることになるのです。

訪問看護ステーションは指定医療機関として要届け出

生活保護を受ける方が医療扶助を受ける場合、福祉事務所などに申請しなければなりません。申請に基づいて認められると、「生活保護法医療券」(以下、医療券)または「診療依頼書」が発行され、この医療券によって指定医療機関で診療を受けることができます。

訪問看護ステーションも生活保護法の指定医療機関として都道府県に届出をし、健康保険や国民健康保険などと変わらないサービスを提供することが求められます。

なお、訪問看護療養費のレセプト請求は、都道府県の社会保険診療報酬支払基金へ請求します。医療券は1ヵ月ごとに発行されます。医療券から請求明細書に必要事項を間違いなく入力し、請求しなくてはなりません。また、医療券は1年間保管する義務があります。

医療扶助によって支給される可能性があるもの

医療扶助では医療のほかに次のものが支給される場合があります。

  • 入院患者に対する日用品費
  • おむつ代
  • 寝巻などの被服費
  • 入院や退院、通院のための移送費
  • 治療材料費(義肢や装具、眼鏡、収尿器、ストマ用装具など)

訪問看護には関係ありませんが、保険外併用療養費に当たる部分は、原則として医療扶助の対象として認められていません。

【生活保護による介護扶助について押さえておこう】
医療扶助に関連する制度として、介護扶助についても簡単に紹介します。

介護サービスも介護扶助として生活保護の対象です。介護保険では自己負担の割合は1割ですが、医療保険未加入者の場合、介護報酬の全額を介護扶助で負担します。

介護扶助の場合、介護サービス指定事業者や指定居宅介護支援事業者が「介護券」を受け取ります。請求時は、介護券の必要事項を介護報酬明細書へ転記し、介護レセプトを国民健康保険団体連合会に提出します。

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在宅医療において療養生活が長くなると生活が困窮する可能性があります。訪問看護師の皆さんも、基本的な生活保護に関する知識を身に付けた上で、利用者さんやそのご家族を支えていくとよいでしょう。

執筆:木村 憲洋
高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授

武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。
著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある

編集:株式会社照林社

【参考文献】
○ 厚生労働省:生活保護制度.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html
2025/6/27閲覧

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