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2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)の全体像 ポイント解説

2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)ポイント解説

2024年度のトリプル改定に向け、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬の3分野の具体的項目が出揃いました。今回から、訪問看護が特に押さえておきたい3分野の改定内容を解説します。改定項目も多い中、まずは全体像を把握し、頭の中を整理しましょう。

医療・介護・障害福祉の各分野は、さまざまな課題に直面しています。その課題は大きくは3つに分けられます。

課題1 高齢化に伴うニーズの多様化

1つめは、高齢化に伴う中長期的な課題です。いわゆる団塊世代が全員75歳以上を迎える2025年が間近に迫り、医療・介護の複合ニーズも急速に高まります。この傾向は、2025年以降さらに顕著になるでしょう。障害福祉の分野も、障害当事者の高齢化でやはり医療・介護の複合ニーズが高まります。

そうした中では、医療・介護・障害福祉の切れ目のない連携とともに、例えば訪問看護では、容態急変時等の緊急対応や在宅での看取りなど、多様な場面での備えを強化しなければなりません。

課題2 賃金水準向上と人手不足

2つめは、「課題1」に対応するためにも解決しなければならない直近の課題。具体的には、近年の急速な物価高騰を受け、全産業での賃金水準も上がっていることです。

こうした状況下では、医療・介護・障害福祉分野も手をこまねいてはいられません。物価高騰によって事業運営が厳しくなれば、そこで働く看護師をはじめとした従事者の賃金も上がりにくくなります。そうなれば、他産業との競合で従事者不足が加速する恐れもあります。

これを解決するには、3分野における現場の支え手の処遇改善とともに、働きやすい職場環境の構築が必要です。

課題3 現場業務の効率化を図るためのDX

3つめの課題は、事業運営や職場環境の改善を視野に入れた場合に不可欠な業務の効率化です。この場合の業務効率化とは、現場従事者の業務負担を減らしつつ、患者・利用者へのサービスの質の維持・向上を実現することを指します。

この業務効率化に向けて求められているのが、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)、いわゆるデジタル改革です。例えば、デジタル化された医療・介護情報の利活用やICTを使った多職種連携などが挙げられます。これらは、「課題1」「課題2」を同時に解決していくカギとなります。

3つの課題はそれぞれに関連しあっている

多様なニーズへの対応強化を図りつつ、事業運営や従事者の処遇改善を進める。そのために「業務効率化」を検討していく。という具合に、3つの課題への対処を同時に進めていくことが、2024年度トリプル改定全般を通じた主要テーマです。

1つの加算内でも「3つの課題」への対応が

訪問看護を例に挙げましょう。訪問看護では、利用者ニーズに応じた24時間対応体制の確保が大きな課題です。これを診療報酬上で評価したものに「24時間対応体制加算」があります。

この加算について今改定で単位数が引き上げられました。これにより、課題1への対処を強化しています。と同時に、24時間対応にかかる看護師の業務負担の軽減への対策を講じた場合に、さらに単位の引き上げを実施。これで、課題2にも対処したことになります。

加えて、その業務負担軽減策では、ICT、AI、IoT等の活用も要件に定められました。これは3つめの課題への対処にあたります。1つの加算の見直しでも、3つの課題への同時対処を目指したことが分かります。

課題対応に向け、報酬はどこまで引き上げられた?

3つの課題解決を同時に進めていくには、当然ながらその原資を確保するために、一定の報酬引き上げが必要です。今改定では、3分野ともにプラスの改定率となりました(薬価を除く)。

まず、診療報酬の改定率は+0.88%。この中には、看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種(勤務医や勤務歯科医師などを除く)について、2024・2025年度に賃金のベースアップを図るための特例的な対応としての+0.61%も含まれます。

介護報酬の改定率は+1.59%と、診療報酬を上回りました。このうち、介護職員の処遇改善分は+0.98%で、これは6月に施行される新処遇改善加算の加算率の引き上げ分です。

さらに、障害福祉サービスの報酬改定率は+1.12%。こちらの改定率アップも診療報酬を上回っています。

プラス改定が患者・利用者にもたらす影響

このように、3分野ともプラス改定となったことで、事業運営には一定の追い風となります。しかも現場従事者の処遇改善に特に力を入れたことで、人員不足への対処も図られています。

一方、プラス改定となることで、国民の社会保険料や患者・利用者の一時負担も増加する懸念があります。その負担増の納得を得るには、設定された報酬がニーズへの対応やその手間に見合っているかを精査し、「適正化」を図る必要があります。

ニーズ対応やその手間を精査した適正化も

例えば、訪問看護では「緊急時のニーズ対応」について、診療報酬で「緊急訪問看護加算」が算定されます。これが頻回となる場合、本当に緊急時の訪問なのかが問われます。そこで、月あたり15日目以降の単位が引き下げとなりました。

また、診療報酬上の訪問看護療養費について、同一建物居住者の割合に応じて単位を引き下げた区分が設けられました。これは、同じ算定対象でかかる手間に応じた適正化を図ったわけです。

こうした大きな改定の括りを頭に入れることで、今改定で国が何を求めているかを理解しやすくなります。その上で、次回から3分野にわたる改定項目を個別に見ていくことにしましょう。

※本記事は、2024年3月26日時点の情報をもとに記載しています。

執筆:田中 元
介護福祉ジャーナリスト
 
編集:株式会社照林社

【参考】
〇厚生労働省(2023).「診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001180683.pdf
2024/3/26閲覧
〇厚生労働省(2024).「個別改定項目について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220377.pdf
2024/3/26閲覧
〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf
2024/3/26閲覧
〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001213182.pdf
2024/3/26閲覧

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