インタビュー

命まで責任を負う団地自治会のまちづくり

命まで責任を負う団地自治会のまちづくり

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。シリーズ最終回は、「日本一住みたい」と言われる東京都立川市の大山団地。会長を15年務めた佐藤良子さんに自治会加入率100%、住民主体の運営の秘訣をお聞きした。(内容は2017年5月当時のものです。)

ゲスト:佐藤良子
東京都立川市大山自治会相談役

1999年より東京都立川市の大山団地で15年間自治会長を務める。現在は相談役。在任中に自治会加入率100%、自治会費回収率100%、孤独死ゼロ、格安自治会葬を手掛けるなど、そのアイデアと行動力で「日本一の自治会」と称される自治会を育て上げた。2004年内閣府男女共同参画局「女性のチャレンジ賞」受賞、09年「全国防災まちづくり大賞」受賞、11年東京都地域活動功労者表彰、14年厚生労働大臣賞表彰。
プロフィール

大山自治会のあらましや手がける仕事

新聞配達も巻き込み孤独死ゼロを達成

川越●大山団地は、自治会活動が評価され「日本でいちばん住みたい団地」といわれています。どれくらいの規模で何世帯の住民がいるんですか。

佐藤●26棟約1,600世帯です。1棟100世帯以上のところはさらに2つに分けているので31区分あります。構成はざっくり高齢者が3分の1、子育て世代も3分の1、残りがその他です。

川越●高齢者の多い団地では、孤独死が重要なテーマになっていますが、大山団地ではどうですか。

佐藤●実は、団地内でも以前、住民が孤独死されました。隣近所に助け合いの意識があれば防げたかもしれないと、以後、見守りネットワークができました。住民には自宅の両隣、つまり2軒のお宅の存在を確認してくださいと呼びかけ、郵便や新聞がたまっていないか、洗濯物はどうか、ゴミを捨てている様子はあるか。もしいつもと様子が違うなら、住民がすぐ自治会に連絡します。自治会の携帯電話を交代で持ち、24時間いつでも対応していました。

川越●まさに向こう三軒両隣ですね。効果はありましたか。

佐藤●てきめんでした。自治会費が毎月集金制なのは、実は安否確認の意味もあるんです。ほかにも、公共料金の検針時に前月からまったく使われていなかったら連絡を、新聞も新聞受けにたまっていたら連絡してもらえるよう6紙の配達所にお願いしました。

川越●お金のやりとりなしに、みんな承諾していただけたんですか。

佐藤●はい。それでも孤独死ゼロになるまで5年かかりました。2004年からは1件もありません。

ゴミ出しボランティアも無償

川越●在宅医療をやっていると、地域包括ケアの行きつくところはまちづくりであることに気づきます。佐藤さんは、そんな地域のしくみづくりに20年近く取り組んでおられたことに驚きました。たとえば、引きこもりの方は把握していますか。

佐藤●いろいろな活動に誘っても出てこないから、わかります。訪問したり電話したりしますが、引きこもりの人って「この人なら話してもいい」と人を選ぶんです。

川越●それは相性なんでしょうか。

佐藤●そうですね。「民生委員さんもお隣さんもだめだけど、○○さんなら入れてくれる」とか。ささいな会話や昔話などからその人の趣味嗜好がわかり、そこから興味がありそうなサークルがあるとか、無料の古い映画上映会があるから来ないかとか、常にコンタクトをとって誘い出します。これでうつ病が治った方もいて、病院の先生がびっくりしていました。

川越●高齢者のゴミ出しはどうなっていますか。

佐藤●捨てに行けないからゴミがたまるわけです。大山団地にはゴミボランティアさんが何十人もいます。玄関先に置いておけば誰かが捨ててくれるしくみで、いつかはわが身だから全部無償です。

川越●団地は1,600世帯もあるわけですから、当然介護を受けている人もたくさんいるでしょう。ヘルパーさんが団地を車で巡っている感じですか。

佐藤●車を使っていますね。警察に申請すると公道に停めることができる許可証をもらえますが、公道から遠い棟の場合は、住民が借りている駐車場で、介護の車に日中貸してもいい人を募って、提供しています。もちろん無償です。

川越●住民の駐車場のどこかが空いている点は、大規模団地のメリットですね。

地域のいろいろな人によって化学反応が起こる

川越●独居の方を自治会で看取ったことはありますか。

佐藤●それはまだないですね。認知症になってひとり暮らしが難しくなった人に施設を紹介したことはあります。

川越●行政との調整が必要になりますね。

佐藤●はい、行政もそうですし、ふだんから近隣のホームともかかわりをもっておくと、施設から「食事を作ってくれるパートの人を紹介してくれないか」という依頼も来るわけです。そうやってお互いに持ちつ持たれつも大事です。

高齢者にはお弁当をとっている人もいますが、いつも家でつくっているお惣菜を少し多めにつくればやれるよねと、グループで食事をつくって提供している人もいます。私はそれが当たり前にできる世の中にしたいんです。

川越●どこまでも地域住民として活動していることが強みです。よく、自治会の役員をやりたがらない人が多いと聞きますが、どうですか。

佐藤●車いすの方が、車いすを押してくれれば会合に行けると言うので、サポーターを付けました。障害のある人が役員になることで、「歩道の凸凹が不便」「集会場の段差が超えられない」など、市への要望がたくさん出ました。健常者には気づけない視点です。班長になると言ってくれた要介護の人にもサポーターを付けて、夜の会議のときには送迎もしました。

川越●医療者は医療、介護者は介護の枠で考えがちなんですけど、そうではなくてみんな地域で生きて生活していて、いろいろな人がいて、そのなかで化学反応が起こるということなんでしょうね。

佐藤●医療も介護も、葬儀にしても、どんな場合でも困らないまちを作ることだと思います。誰かが困っていたら誰かが気がつき支え合える、困らないまちづくり。それが組織を作る上での目標であり、これからも追い続けていくテーマです。

あおぞら診療所院長 川越正平
【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。
 
記事編集:株式会社メディカ出版

「医療と介護Next」2017年5月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

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