インタビュー

医療的ケアが必要な子どもに当たり前の経験を提供

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第3回は、NHKアナウンサーから、50歳をすぎて福祉の世界に転身した内多勝康さん。医療的ケアを必要とする子どもたちを取り巻く問題がクローズアップされた。
(内容は2017年3月当時のものです。)

ゲスト:内多 勝康
1963年生まれ。東京大学卒業。1986年、NHKに入局。アナウンサーとしてローカルニュースや生活情報番組を多く担当した。2016年3月退職し、国立成育医療研究センターが運営する医療型短期入所施設「もみじの家」のハウスマネージャーに就任。社会福祉士。




概念自体が新しい「医療的ケアが必要な子ども」

川越●NHKのアナウンサーから、「もみじの家」(国立成育医療研究センターに設立された子どものための医療型短期入所施設)への転身には驚きました。ハウスマネージャーというのは、どのようなお仕事なんでしょう。

内多●子どもたちとときどき交流しながら、主に事務的な仕事を行っています。寄付集めの対外活動、マスコミや見学者の対応、ホームページの管理やニュースレターの編集といった広報活動、ボランティアさんとの連絡調整など、組織運営全般にかかわっています。

川越●これまで主に医療的ケア児を対象とした短期入所施設があまりなかったのは意外です。

内多●医療的ケアが必要なお子さんという概念自体が新しいもので、そういうお子さんと家族をまるごと支えるような制度は、整っていないのが実情です。子どもはワクワクする体験や多世代の子どもたちとの触れ合いが必要ですから、遊びの時間を十分楽しんでもらうために、保育士や介護福祉士も配置しています。

合理的でなくても家庭のやり方にこだわる

川越●レスパイトなら本来、家族は家で休めるわけですが、「もみじの家」を利用する子どもたちは、必ずご家族が一緒なのですか。

内多●初めて利用するときの初日はお母さんと一緒に来ていただいて、自宅でされているノウハウを看護師たちが引き継ぎます。後は自宅に帰ってもいいし、一緒に泊まってもいいんです。

家ではずっと「介護する親とされる子ども」という関係だった親子が、ここにきて「安心してケアを任せることができて、初めて子育てができた」とおっしゃるお母さんもいました。

川越●「もみじの家」のような短期入所施設と日中預かりの施設が、どちらも全国に増えていってほしいですね。ところで、「もみじの家」運営のための報酬の出どころは障害者総合支援法ですか。

内多●はい、障害福祉サービス費が主な収入源です。しかし、福祉の枠だけでは支えることができないのが現実です。

医療型短期入所施設は、濃厚な医療が必要な子たちを受け入れると加算がつきますが、金額としては非常に少ないので、民間で事業としてやるには厳しい。今は運営上、寄付も重要な収入源ですが、政策に訴えるのならきちんと数字を出さなければと思っています。

医療と介護のハイブリッドな制度が待たれる

川越●病院ではなく施設で預かることで費用を節減できるという政策提言や、親御さんの負担軽減を訴えるといいかもしれませんね。それに親御さんが高齢になりケアが継続できなくなるという現実が起こりはじめていますから。

内多●それは非常に大きな問題だと思います。われわれが受け入れられるのは19歳未満のお子さんが対象なので、今でも「何とか延ばしてもらえませんか」という声は頻繁にいただきます。

川越●介護保険も特定疾病の場合で40歳から、一般には65歳からしか利用できません。でも本来、どんな年齢であれ、医療も介護も福祉も必要な方はおられます。

内多●医療的ケアが必要な、今ある制度では狭間に落ちている子を救えないのは確かです。どういう制度があればいいのか、子どもたちが置かれている環境や、お母さんがどのように在宅で支えているのかという実態を、より多くの人に知っていただき、支えるのは家族だけではなく社会的な問題なんだと思っていただくことに力を入れていくつもりです。

楽しい雰囲気の中で社会性をはぐくむ経験

川越●ご家族からの具体的な訴えを聞くこともありますか。

内多●自分の子どもが、ずっと社会との接点が持てないまま成長するという不安がすごく大きなストレスになっているようです。外出するチャンスがあっても受け入れてもらえる場所がない。だから、まず居場所をつくらないと。

川越●「もみじの家」が、その社会との接点になるわけですね。

内多●そうなんです。子どもたちは2階のプレイコーナーに集まって活動するんですが、自分ではそんなに動けない子も、楽しい雰囲気のなかにいることで「ふだんは見せない表情を見せる」とお母さんが気づくんです。居場所があると役割ができるし、親以外の大人がかかわることで社会性をはぐくむ経験になると思います。

教育の現場では医療的な保証がないので、今は、入学できても「ずっと親御さんがついていてください」というケースが多いです。医療的ケアが必要な子どもと家族も社会で支えていくコンセンサスが生まれるのが理想です。

川越●今は出産年齢も高年齢化していて、出産のリスクが高くなると、医療的ケアを必要とする子どもたちはこれからも増えていくことが予想されます。みんなで支えていくほうが、トータルでみれば国のためになるというシミュレーションができるといいですね。

内多●皆さんの意識がそうなっていってほしいと思います。最初の年の大事なテーマとして、医療的ケアが必要な子や家族の現状を知っていただくことを掲げてきましたが、今後は地域連携を進めていって、「もみじの家」が情報発信のハブ機能を備えた場所になれたらうれしいですね。

第4回へ続く

〇国立成育医療研究センター
2002年に東京都世田谷区に設立された子どものための高度専門医療機関。
http://www.ncchd.go.jp/

〇もみじの家
http://home-from-home.jp/

あおぞら診療所院長 川越正平
【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。

記事編集:株式会社メディカ出版

『医療と介護Next』2017年3月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

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