インタビュー

寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チーム~

寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チーム~

2025年10月、河口湖を舞台に医療的ケア児と家族のための「第6回 キラキラこどもキャンプ 湖と富士山を見たい! 2025 in河口湖」が開催されました。医療的ケアを必要とする子どもたちとご家族にとって、旅行は大きなハードルであると同時に、かけがえのない体験でもあります。その一歩をどう支え、どのように連携を整えてきたのか、キャンプの企画・運営に携わる木戸さんにお話をうかがいました。

>>前編はこちら
医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプ再開に込めた想い~

木戸 恵子(きど けいこ)さん
株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと 管理者・代表取締役
訪問看護師として25年以上の経験を持ち、在宅療養を支える実践を続けている。
「ナイトナース」制度を導入し、24時間対応体制の課題に対する新しい働き方を訪問看護業界に提案。看護師の負担軽減と利用者満足度の両立に取り組む。
「第3回 みんなの訪問看護アワード」大賞受賞。
(エピソード漫画化記事:「お母さん〜看護の襷をつなぐということ〜」)

垣間見えたこどもたちの成長と頼もしさ

―キャンプ内で心に残ったご家族の言葉やエピソードはありますか?

例えば、保護者の方々からは以下のような声をいただいています。

「自分たちが旅行を計画するとなると、部屋のお湯や電子レンジの有無など、細かな確認が必要で本当に大変です。今回はそういった確認が不要で、安心して参加できました」   「娘と一緒にキャンプに行くのがずっと夢でした。普段は旅行に連れていく余裕もなくて…。でも今回は移動中も医療者の方が見てくださって、本当に助かりました」

「久しぶりにキャンプが開催されると知って、思い切って申し込みました。シングルなので、一人で子どもたちを旅行に連れていくことが難しい状況があります。キャンプでは子どもたち同士が自然と仲良くなっていました」

普段の訪問では、ごきょうだいの揺れ動く気持ちや我慢はどうしても見えにくいものですが、このキャンプはごきょうだいのケアも大切にしたいという思いで運営しています。

あるご家庭からは、どうしても医療的ケアが必要な子に注目が集まり、ほかのごきょうだいが自然と我慢を重ねる場面が多いというお話を伺っていました。そこで、キャンプ中はごきょうだいたちにも小さな役割をたくさんお願いすることにしたんです。バスタオルを配ったり、歯ブラシを届けたり。任せた仕事をどれも丁寧にこなしてくれて、来年に向けての意気込みを語ってくれた子もいました。自己肯定感の向上につながる経験のひとつになったのではないかと思います。

24時間体制での連携

―キャンプ地でのサポート体制はどのように組んでいたのでしょうか。

キャンプ地で24時間医療的ケアを支えるためには、当日だけでなく、丁寧な準備が欠かせません。キャンプの前日と前週水曜日に往診を行い、参加するすべてのご家庭を医師と看護師が事前に回り、カルテを作成してアレルギーや体調について把握していました。また、事前に必要な情報を共有し、看護師・医師が即時に対応できるよう、さまざまなケースのシミュレーションも重ねていました。

キャンプ当日は、医療従事者20名ほどが参加。夜間は看護師が必要に応じて各部屋を訪問する体制を取り、「一家族一ナース」には至らないものの、必要なタイミングで寄り添う形を重視しました。食事や移動時のトイレ対応、医療的ケアなど、担える部分は積極的に引き受け、ご家族が休息できる時間を確保することを心がけました。

―想定外の事態などはありましたか。

キャンプ当日にインフルエンザが発生しました。感染症に罹患した場合のこともシミュレーションして臨んでいたので、初動対応は比較的スムーズに進めることができたと感じています。発熱が確認された時点で、運営・看護師・医師がすぐに協議し、感染拡大防止を最優先に対応しました。医師は点滴や検査キット、緊急薬剤を含む医療機材を持参しており、その備えが現場で生きました。

しかし、準備していた抗ウイルス薬が結果的に不足してしまった点が想定外でした。そのため、夜間対応が可能な薬局を手分けして探し、当日中に必要な量の薬剤を調達する対応が発生したんです。最終的には、運営・医療スタッフ・ご家族それぞれの協力によって、影響を最小限に抑えることができたと受け止めていますが、プログラムは変更せざるを得ませんでした。

過去にも、海で鼻血がでてしまったり、夜に興奮しすぎて発熱したり、急な体調変化や疲れによる不調など、想定外の出来事は少なくありません。どれほど準備を重ねても、現場では「想定外」が起こりえます。「次はもっとこうしよう」という振り返りの積み重ねが、より安全で安心できる場づくりにつながるのだと考えています。

参加した医療職の動機と気づき

―今回は、他の事業所の医療職の皆さんも数多く参加されたそうですね。

はい。医療的ケア児の生活により近い形で関わりたい、家族看護の視点を深めたい、自分たちの地域でもキャンプを実現してみたい…。そんな前向きな思いで来てくれていました。若いスタッフから経験豊富なメンバーまで、立場はさまざまでも共通していたのは「現場の外で子どもたちを見る機会がほしい」という願いでした。中には、キャンプの運営方法や広報の工夫、場所選びのポイントなど、すぐに持ち帰って応用したいという情熱を持った方もいました。

実際に参加した医療職からは、
「キャンプは非日常の場だけれど、ごきょうだいの関係やご家族の過ごし方を見て、むしろ『日常そのもの』を感じさせていただいた」
「訪問看護をしていて利用者さんのことや生活について分かっているつもりでしたが、実際には知らないことも多かったと気づきました」
といった声をいただきました。こちらとしても、その場の状況を瞬時に読み取り、柔軟に動いてくださり、本当に心強い存在でした。

どの事業所も当然ながらスタッフ全員がキャンプに参加できるわけではありませんし、スタッフの人数に合わせて受け入れられるご家庭の数も調整が必要になります。それでも、今回他事業所の方々を含めて協力していただいて、「小規模だから無理」ではなく「やると決めて仲間を集めれば実現できる」ということを改めて強く感じました。大事なのは規模ではなく、情熱と連携。この2つがあれば、どの地域でも形になるはずです。

スタッフ・支援者・寄附の力

―協賛・協力をしてくださった方も多かったと聞いています。

はい。このキャンプは、これまで「地域みんなで育てていく」という思いで続けてきました。私たちの活動は個人ではなく、地域の医師をはじめとした協力やつながりが土台になっています。今回も、日頃から関わってくださっている方々が自然と力を貸してくださり、その温かさに何度も救われました。

クラウドファンディングでは、直接お会いしたことがない方々も理念に共感して寄付してくださいました。その一つひとつの思いに触れ、「世の中にはこんなにも優しさが残っている」と胸が熱くなると同時に、託された責任や期待の大きさも実感しました。

第6回キッズキャンプ特設サイト
立ち上げの思いに共感した仲間たちが、構成づくりから担ってくれた特設サイト
第6回キッズキャンプ in 河口湖―小児疾患の子どもたちの勇気を膨らます会―」HPより

久しぶりの開催だったこともあり、「待っていたよ」という声をたくさんいただきました。朝早くから駆けつけてくれた方、差し入れで場を盛り上げてくれた方、「本当は企画段階から関わりたかった」と言いながら当日に参加してくれた方……。その気持ちの一つひとつが励みになりましたし、私ひとりの力では絶対に形にできませんでした。

寄付をしてくださった人のなかには、「うちの子も医療的ケア児です。今回は参加しませんが活動を応援したい。来年は参加します」というメッセージもありました。小児科の先生から、支援金とともに「小児科医はいくらいてもいいよね。来年は行くよ」と連絡をいただいたりもしました。

こうした声に触れるたびに思うのは、「このキャンプは、もう私たちの会社だけの取り組みではない」ということです。関わる人が時間も体力も心も注いでくれる。医療的ケアが必要な子どもたちとその家族が「自分たちは支えられている」「未来がある」と感じられる場所であり続けたいし、そのための努力をもっと積み重ねていかなければいけないと感じています。声を上げれば、誰かが応えてくれる。応えた力が、また次の誰かを動かす。この循環を、未来へもっと広げていきたいですね。

未来への展望・これからの活動

―今後の展望についてお聞かせください。

子どもキャンプは、これからも続けていくつもりです。そのためには募金活動を継続することに加え、いずれはNPO化など、持続可能な体制づくりも必要かもしれません。活動としての「器」を整える段階に入りつつあると感じています。

地域や法人の枠を越えて協力し、より多くのお子さんが参加できる形をつくることが理想です。車の台数やルート調整など運営上の課題もありますが、それも皆でつくり上げるキャンプの醍醐味だと思っています。

また、現地に来られない子どもたちにも、今回のお出かけの楽しさや心に残る風景を映像で届けたら素敵ですね。医療的ケアが必要な子どもが多く通う放課後デイサービスに共有するのもいいと思っています。そんなふうに「体験を分かち合う」ことで、どの子も少しずつキャンプに参加している気持ちになれるのではないかと思っています。

第6回キッズキャンプ(きらきら子どもキャンプ)集合写真
富士山を背に記念撮影

―最後に訪問看護師の皆さんへメッセージをお願いします。

訪問看護師の皆さんは、日々やることを整理し、チームで助け合いながら、看護に取り組まれていると思います。しかし、看護の本質はそれだけに収まらないと感じています。看護は本来「気づいて、想像して、つくっていく」もの。

少し視野を広げて、どこに本当のニーズがあるのか目を向けてみると、まだ埋まっていない穴がたくさんあることに気づきます。特に医療的ケア児やそのご家族は、日々たくさんの「我慢」が積み重なっているので、ちょっとした声かけや小さな配慮によって救われることがあります。大きなことじゃなくていいんです。そっと差しのべたひと手間。その温かい「気配り」こそ、看護の本質だと思うんです。技術だけでは届かない部分が、確かにそこにあります。

そのためには、何より自分自身が元気でいてください。心身が健康であれば、「ここでこんな関わりをしたら、きっと心が和らぐだろうな」と自然に想像できるようになります。それが、私から訪問看護師の皆さんへ送るエールです。

取材・編集:NsPace編集部
執筆:小松原 菜々

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