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特集
2021年9月7日
2021年9月7日

亜急性硬化性全脳炎

難病を知る 亜急性硬化性全脳炎は、麻疹に感染後、長い潜伏期間を経て発症する難病です。幼児~学童期に発症する予後不良の病ですが、麻疹ワクチンの接種が進み、患者数は減少しています。 病態 亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん:SSPE)は、変異した麻疹ウイルスによる遅発性の感染症です。麻疹にかかってから、数年から十数年の潜伏期間を経て発症します。 麻疹にかかり治癒した後、脳内に持続感染した麻疹ウイルスの変異株(SSPEウイルスとも呼ばれる)が脳炎を引き起こします。発症後は、数か月から数年で神経症状が進行していき、予後は不良です。 好発年齢は5~14歳です。2歳未満の子どもや免疫機能が低下している人が、麻疹ウイルスに感染した場合に、発症するリスクが高いとされています。(※1)なお、SSPEが人にうつることはありません。遺伝性もありません。 疫学 現在、国内の患者数は150人程度と推測されています。国内のデータでは麻疹罹患者約8,000人に1人の発症だったとの調査がありますが、近年はもっと多いという報告もあります。(※1)SSPEの受給者証所持者数は、2019年末時点で73人、年代別にみると20~30歳代が中心です。(※2)ワクチンの接種率の向上に伴って麻疹の罹患が減り、今後は新規の発症はかなり少ないと見込まれます。 症状・予後 発症後の経過は比較的定型的で、4期に分類されています(Jabbourの分類)。ただし、経過は必ずしも一様ではなく、急激に症状が進む劇症型や、10年以上の経過をとる緩徐進行型、少数ながら歩行可能な状態に改善する例もあります。病期が進むにつれ、経口摂取困難や自律神経障害、胃食道逆流、呼吸障害などの合併症が現れるため、重症度に応じた対応が求められます。 Ⅰ期 比較的軽度の精神面・行動面の変化がⅠ期に分類されます。具体的には、成績低下や記銘力の低下、落ち着きがなくなる、ささいなことで不機嫌になる(易刺激性)、挑戦的な行動をとるなどの性格の変化、周囲に無関心になるなどの症状があり、緩やかに進行します。けいれん発作や、立てない・歩けないなど、運動面の変化がみられることもあります。 Ⅱ期 けいれん発作や運動機能低下、不随意運動などが出てきます。周期的なミオクローヌス(体の一部がピクッと動く)が、頭部から始まり体幹や四肢にまで起こるようになるのが特徴的です。筋緊張亢進、全身のけいれんや失立、振戦などの不随意運動も出現します。 Ⅲ期 不随意運動や筋緊張亢進が増し、運動機能低下がさらに進み、座位をとることも困難になります。臥床状態で、後弓反張(手足が伸び体が弓なりに反る)が多くなります。自律神経の異常も進行します。顔面紅潮や蒼白、チアノーゼを伴う異常な発汗や、不規則な発熱など自律神経症状が出現します。加えて、摂食・嚥下が困難になってくるため、経管栄養法の導入も検討されます。意識障害が進み、徐々に昏睡に至ります。 Ⅳ期 ミオクローヌスや筋緊張亢進は目立たなくなり、眼球が不規則に動く、病的な笑い・泣きなどの反応、音への驚愕反応などがみられます。覚醒時には目をあけますが、昏睡状態にあり自発的に言葉を発しません(無言症)。筋強直や呼吸異常のために、人工呼吸管理が必要になります。 治療法 根治的な治療法はまだありませんが、免疫賦活薬と抗ウイルス薬の併用療法が用いられます。またほかに、研究段階の治療も試みられています。治療に加えて、病期や重症度に応じて対症療法が必要になります。 リハビリのポイント 関節可動域や運動機能を評価し、必要に応じて筋緊張を緩和させる理学療法を行う歩行や座位保持などが難しくなっていくため、残存機能を生かした動作、福祉用具などの活用を提案する 看護の観察ポイント 症状の変化を経時的に観察する現在~近く予測される症状に応じて、医師やケアマネジャーと連携し、タイムリーに必要な介助につなげる誤嚥や食事後の胃食道逆流などに留意し、食事中~後の状態を確認する排尿・排便状況を確認する息苦しさなど呼吸症状を確認する家族の状況(介護疲労の有無など)を確認する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班『亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)診療ガイドライン2020』http://prion.umin.jp/guideline/pdf/guideline_SSPE2020.pdf※2 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450027&tstat=000001031469&cycle=8&tclass1=000001148807&tclass2=000001148808&tclass3=000001148810&stat_infid=000032045204&tclass4val=0・難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)亜急性硬化性全脳炎(SSPE)(指定難病24)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/42

インタビュー
2021年9月7日
2021年9月7日

自分自身を癒す時間も持ち、在宅での看取りを支えてほしい

トップランナーから現場へのエール 訪問看護の道を切り開いてきたトップランナーにお話を伺うシリーズ第2回、秋山正子さんの後編をお届けします。 「ただ医療処置をする人」ではない訪問看護師 コロナ禍で、在宅での看取りが見直されています。今、在宅を選ぶ方には、本人の意思も確認し、家族も残り少ない命なら家でみようと連れて帰る方が多くなっています。不安ながらも覚悟を決めている方が多く、訪問看護としてはケアに入りやすくなりました。 コロナ以前はというと、家には帰ってきたものの、本当は病院の方が安心という方が多く見られました。そうした方を担当する訪問看護師は、まず気持ちを解きほぐし、最期の日々をともに過ごしていく関係を築く必要があります。 特にがん末期の方には細やかな配慮が求められます。がんの最期は、元気そうに見えても急カーブで病状が悪化していきます。「治療はできなくてもまだ半年くらい余裕はあるだろう。」本人や家族がそう考えていても、実際には月単位、週単位の状態ということもあります。この先の病状の加速をどのように理解し、受け止めているのか。訪問看護師は丁寧に聞き取り、時には修正していくことが大切になります。 病気が見つかったとき。治療が始まったとき。医師から受けた要所要所での説明を、その方がどう受け止めてきたかを確かめます。そして、病気になったつらさや厳しい治療の日々に思いを致しつつ、必要であれば、残された時間に限りがあることにもあえて触れていきます。 そうしたやりとりは、決して「せねばならぬ」ことでも、「手順」として行うことでもありません。最期の時間をよりよく過ごしてもらうため、本人や家族の反応、受け止め方に応じ、丁寧な対話の中でなされていくものなのです。 その対話の中では、本人や家族に対し、訪問看護師として最期まで支えていく意思表明をすることも必要です。それがきちんとできていないと、人生最期の難しい時間をとも共に過ごし、支え切ることはできません。看取りを支える訪問看護師は、「死にゆくまでの医療処置をするために来ている人」であってはならないのです。 看取りを振り返り、意義を再確認する このコロナ禍はいつまで続くか、まだ先が見通せません。訪問看護の現場は、これからも緊張が続くでしょう。少しでもリラックスできる時間を持てればよいのですが、現状ではなかなかそれもかないません。そんな中、一つの支えになるのが『振り返り』の時間です。気になった事例をチームで振り返って話し合い、行ったケアの意義や価値を再確認するのです。 私たちが新宿区で運営する医療や介護、生活についてのよろず相談所、「暮らしの保健室」では、月1回、看取りを振り返る勉強会を開催しています。先日は、人工呼吸器を付けて在宅復帰した、脳腫瘍末期の30代の方の看取りを取り上げました。自宅で過ごせたのはわずか11日という方でした。 残された日がわずかであることを承知してケアにあたった訪問看護師ですが、振り返ると、もっとこうすれば良かったと、さまざまな思いがあふれます。その一方で、本人のすぐ傍らに母親と妹がいて、看護師に足をさすられながら、母親が「○○ちゃん」と娘さんに話しかけていた様子など、在宅ならではのよさも思い起こします。やがて、担当した看護師からは、「あの方は最期までよく頑張ってくれたと思う」という言葉があふれました。 自分自身では、提供したケアも看取った過程もきちんと受け止めていたつもりだった。でも、それを皆に伝え、共有することが必要だった。その看護師はそう語りました。振り返りのプロセスによって、グリーフケアが進んだことを実感できたのだと思います。 こうした振り返りは、共有したチームみなにとってのグリーフケアにもなります。このときも、「いろいろなことがあるけれど、もう少し頑張っていこうと思えた」「元気をもらえた」といった感想が聞かれました。 先日、「暮らしの保健室」では、オンラインで誰でも参加できる振り返りのカンファレンスを開催しました。コロナ禍の今、対面での振り返りが難しかったり、開催する余裕がなかったりするというステーションも多いかもしれません。ぜひオンライン開催なども検討し、少しでも現場の訪問看護師がリラックスしたり、元気を取り戻せたりする時間を持ってもらえればと思います。 ** 秋山正子株式会社ケアーズ 白十字訪問看護ステーション・白十字ヘルパーステーション統括所長、暮らしの保健室室長/認定NPOマギーズ東京センター長   取材・文/宮下公美子(介護ライター) 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2021年8月31日
2021年8月31日

第2回 理念作成と事業計画/[その3]事業計画―夢を実現するストーリー

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第2回目では[その1~4]にわたり訪問看護ステーションの運営に必要な理念と事業計画について解説していきます。[その3]のテーマは“事業計画”です。事業計画には人に理解してもらい、納得してもらえるストーリー性が求められます。めざすべき方向性や将来像を明確にし、相手に伝わる、共感してもらえる事業計画に仕上げていくことが大切です。 ●ここがポイント!・事業計画とは事業所の存在意義と進むべき方向性を示すもの。・理念達成のための中間目標や基本方針が明確になっていると、事業計画は立てやすくなる。・事業計画を立てたあとはもう一度見直すことが大切である。 理念と基本方針だけでうまくいくの? 理念や基本方針は概念的、抽象的であるため、定めることによる成果が見えにくいかもしれません。事業者の中には「理念や基本方針を作成することでいくら儲かるの? どんな効果があるの?」とダイレクトに訊ねる方もいらっしゃいます。 理念と基本方針は、事業所と職員の一体感を醸成しブランド構築に寄与しますが、即効性のあるものではなく、時間をかけて育んでいくものです。しかし、事業者としてはいち早く収入が安定し、資金や職員確保の心配から解放されたいのが心情でしょう。そこで必要となるのが「事業計画」です。 事業計画とは 事業計画とは、事業所の存在意義と進むべき方向性を示すものです。いわば、理念を実現するためのストーリーを表現したものといえるでしょう。相手が理解でき、納得できるような話の流れをつくる必要があります。 ここで、私の体験をお話ししたいと思います。コロナ禍の前、私は仕事に追われ、忙しくて休みが取れない状況が数年続いていました。 そんなある日、ひょんなことから社員旅行として4泊6日のハワイ(オワフ島)旅行に行くことが決まりました。会社の行事とはいえ、初日のウェルカムパーティー以外は団体行動の必要がなく、2日目以降は完全自由行動です。 今回の社員旅行では日中は1人で過ごし、夜は気心の知れた仲間と食事をしたいと考え、以下のような計画を立てました。 ●初日チェックイン後ワイキキでおいしいスイーツを食べる。その後はワイキキやアラモアナでショッピングをして、夜はウェルカムパーティー。●2~3日目日中は、スキューバダイビングのライセンスを取得できる講習を受けて、夜はステーキ、ロコモコがおいしい店に行く。●4日目日帰りでハワイ島に移動し、火山観光をする。 そして、さっそくお店のリサーチです。ワイキキで楽しむスイーツは、世界一おいしい朝食が食べられると評判のレストランのパンケーキに決めました。ステーキはホテルからも近く、港の夜景が臨めるレストランで、ロコモコはハワイフード・ロコモコ部門で第1位に選ばれたことのあるレストランに決定です! 夕食を共にしたい同僚に声をかけ、ダイビング、ハワイ島ツアーの予約もして、準備万全の計画を立てることができました。 果たして、旅行では素晴らしい体験や思い出がたくさんできました。想定外のトラブルもありましたが、それも含めてよい旅行になりました。 さて、ここまでに私がお話しした体験を、理念や基本方針、事業計画に置き換えてみると、このようになります。 ●私の夢(=理念) 1人でのびのびと過ごしたい●旅行中の過ごし方(=基本方針) 日中は1人で思い出になることをする 夜は気心の知れた仲間と食事をする●旅程(=事業計画) 初日はスイーツとショッピング、ウェルカムパーティー、2~3日目の日中はダイビングライセンス講習と、夜は仲間と夕食、4日目は火山ツアー 「1人でのびのびと過ごす」ために、それを実現する方針とその方針に沿った計画を立て、実行することで満足度の高い旅行になったというわけです。 事業計画には目標が必要 「将来ありたい姿」を理念として描き、それを達成するための道程に中間的・段階的な目標(中間目標)を設定します。基本方針は、中間目標を達成するための考え方や方向性を示したものです。理念達成のための中間目標や基本方針が明確になっていると、事業計画は立てやすくなります。 事業計画が具体的になると、ワクワクしてきます。なぜならその段階になれば、目標の実現が確定するからです。そのワクワクは人に伝わりやすく、共感してくれる人も表れ、協力してくれる人もでてきます。計画はより具体的になればなるほど相手に伝わるものです。「いつまでに」、「どこで」、「何を」、「誰と」、「どのように」、「どのくらいの予算が必要か」の視点で計画を立てるとよいでしょう。 最後に、計画を立てたら「なぜそれをするのか?」という視点で、もう一度見直してみることが大切です。本当に必要な計画か、ワクワクする計画かなど、自問自答してみましょう。もし腑に落ちない部分があれば、もう一度、理念や基本方針に立ち戻って考え直します。そこにきっとモヤモヤの答えがあるはずです。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社  

特集
2021年8月31日
2021年8月31日

脊髄性筋萎縮症

脊髄性筋萎縮症/難病を知る 今回は、発症する年齢によってさまざまなタイプに分類され、予後も異なる脊髄性筋萎縮症について解説します。ALSとの違いを理解する必要があります。 病態 脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう:SMA)は、進行性で筋力低下や筋萎縮が起こる運動ニューロンの疾患です。 運動ニューロンのうち、上位運動ニューロンは、脳の大脳皮質運動野から出た指令を、脳幹や脊髄に伝えます。下位運動ニューロンは、脳幹や脊髄に伝わった指令を、末端の筋肉に伝達します。SMAは、脊髄の細胞の変性により、下位運動ニューロンが障害される疾患です。 よく知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)も、運動ニューロンの障害が原因です。ALSは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの、両方が障害される疾患です。 幼児期に発症するSMAの多くは、遺伝性の要因が主です。それに対して、成人期の発症例では遺伝子変異がない例が多く、複数の要因がかかわっていると考えられています。 疫学 SMAはI~Ⅳ型に分類されます。Ⅲ・Ⅳ型では生命予後は良好です。それぞれの特徴は以下のとおりです(個人差があります)。 I型(重症型、ウェルドニッヒ・ホフマン病) ●出生直後から生後6か月ごろまでに発症●急激に運動機能の低下が進行する●筋緊張の著明な低下●支えなしに座位をとれない●奇異呼吸(吸気時に胸部がへこみ呼気時に膨らむ)●舌の線維束性収縮(舌の細かい震え)●嚥下障害(経管栄養療法が必要)●呼吸筋の筋力低下(人工呼吸器が必要) Ⅱ型(中間型、デュボビッツ病) ●1歳6か月ごろまでに発症●座位は保てるが、支えなしに起立や歩行ができない●舌の線維束性収縮、手指の振戦●成長にしたがって関節拘縮と側彎が生じる Ⅲ型(軽症型、クーゲルベルグ・ウェランダー病) ●1歳6か月以降に発症●よく転ぶ、歩けない、立てない●小児期以前に発症した場合、側彎がみられる Ⅳ型(成人期以降発症) ●成人期から老年期にかけて発症●軽度の筋力低下●発症年齢が遅いほど進行は緩やか●認知機能低下や呼吸器の症状はみられない 治療・管理など 症状に合わせた対症療法を行います。Ⅰ・Ⅱ型では嚥下障害がみられるため、経管栄養療法が選択されることがあります。呼吸不全には、マスクによる非侵襲的陽圧換気(NPPV)も有効ですが、Ⅰ型ではほぼ全例で気管切開下陽圧換気(TPPV)が必要になります。 以前は上記のような対症療法のみでしたが、最近ではSMAの病因となる遺伝子の作用発現を抑制する遺伝子治療薬も登場しています。 Ⅰ~Ⅳのどの型であっても、筋力低下や関節拘縮に対するリハビリテーションが有効です。また、必要に応じ、装具導入を検討する必要があります。 リハビリのポイント ●筋力低下や関節拘縮を評価し、理学療法を計画する。必要ならば装具の導入も検討する●呼吸障害に対してNPPVやTPPVが選択される●嚥下障害では嚥下の補助も検討する●車いすを選択するときは上肢の筋力も評価する。小児では上肢の筋力が弱いため、電動車いすが適していることがある●側彎がある場合は手術が選択されることもある 看護のポイント ●患者により症状・重症度はさまざまなので、それぞれに合わせた対症療法を行う●座位保持、起立、歩行の状態や転びやすさなど、運動機能を観察する●栄養状態、嚥下困難や哺乳困難がないか、観察する●呼吸状態の変化を観察する●寝たきりの場合は、褥瘡の有無等、皮膚状態を確認する など 次回は亜急性硬化性全脳炎について解説します。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 厚生労働省『令和元年度衛生行政報告例 統計表 年度報 難病・小児慢性特定疾病』2021-03-01https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450027&tstat=000001031469&cycle=8&tclass1=000001148807&tclass2=000001148808&tclass3=000001148810&stat_infid=000032045204&tclass4val=0・難病情報センター『脊髄性筋萎縮症(指定難病3) 病気の解説(一般利用者向け)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/135・国立精神・神経医療研究センター『脊髄性筋萎縮症』https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease28.html

インタビュー
2021年8月31日
2021年8月31日

現場を苦しめる新型コロナが共に支え合う地域連携を進展させた

トップランナーから現場へのエール 今回より6回シリーズで訪問看護のレジェンドともいえる方々3人にご登場いただきます。第1回前編は、訪問看護ステーションのみならず多方面でご活躍の秋山正子さんに、コロナ禍での訪問看護ステーションの実情についてうかがいました。 陽性者対応だけでない新型コロナ問題 新型コロナウイルス感染症のまん延は、訪問看護の現場にもさまざまな影響を及ぼしています。一つには、運営のあり方です。自宅待機の新型コロナ陽性者を訪問するなど、最前線で利用者を支えている訪問看護ステーションがある一方で、発熱や咳のある利用者の訪問を極力控えているステーションもあります。 訪問看護ステーションはだいぶ大規模化が進んできましたが、それでもやはり看護師5~6人のステーションが中心です。もし職員に感染者や濃厚接触者が一人でも出れば、たちまち訪問が滞ります。小規模ステーションであれば、運営自体に大きな影響が出ます。そうなれば利用者にも迷惑をかけることになりますから、自分たちの身を守ることも大切です。ここは難しいところですね。 職員の家族の発熱への対応も悩ましい問題です。私が統括所長を務める白十字訪問看護ステーションでも、この春、職員の子どもが通う保育園でクラスターが発生し、職員が出勤できなくなりました。休むことになった職員の訪問を、誰がどうカバーするかなどの対応が必要になりましたが、慌ててもしかたがありません。そういうときは淡々と対処していくしかないですね。 職員のやりくりに苦心する一方で、感染の影響による新規の依頼もあります。クラスターが発生してデイサービスが休業したから、臨時で訪問看護を利用したい。入院した病院の面会制限が厳しいので在宅で看取りたいから訪問看護に来てほしい。そんな依頼です。 陽性者にどう対応するかだけでなく、その周辺も含めたさまざまな影響が今、訪問看護に出ていると思います。 この難局を地域で連携して乗り越える とはいえ、悪いことばかりではありません。新型コロナへの対応を通して、地域でさまざまな連携や新しい取組が生まれてきています。 例えば、白十字訪問看護ステーションのある東京都新宿区は、一時期、夜の町での感染拡大がセンセーショナルに取り上げられました。これに対応するため、新宿区医師会が動きました。区内の複数の大病院が重症者対応に注力できるよう、開業医の先生方が発熱外来を運用したり、訪問でPCR検査をしたり、後方支援に取り組んだのです。たとえ陽性者数が増加しても、重症者や死者を増やさない。今ではそんな意識がかなり徹底されています。 訪問看護も、事業所同士の連携が進んでいます。感染拡大初期、病院に比べて在宅では、防護服などの感染予防の医療用品が手に入りにくい時期がありました。そこで、連絡会として行政に訴えるなど解決に動いたことをきっかけに、連絡会による横の連携が活発になりました。一つの事業所だけで悩むのではなく、一緒に考えましょうという意識が強まったのです。今では、防護服などの行政からの支援物資は、少し広い事業所がまとめて備蓄し、そこから不足している事業所に出すというしくみがつくられました。 また、医師会の先生方と月1回情報交換するなど、医療職同士の連携も進みました。そのおかげで、PCR検査の実施方法、感染初期の対応など、今ではさまざまな情報共有が速やかに行われるようになっています。 定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回)でも、事業所同士の連携が進んでいます。訪問看護同様、限られた人数で訪問介護を提供している事業所では、感染者や濃厚接触者が一人出れば、やはり欠員となった職員をどうカバーするかが問題になります。 あるとき、一人暮らしの利用者を支える定期巡回の事業所で、夜間帯を担当していた介護職が濃厚接触者になり、訪問できる介護職がいなくなったことがありました。そのときには、事情を知った他の訪問介護事業所がカバーし、何とか利用者を守り抜いたのです。 新型コロナの感染拡大は、これまでに誰も経験したことのない危機的状況です。だからこそ、地域の中で他の事業所とのチームワークが芽生え、互いに支え合っていこうという意識が強くなったとも言えます。この難局は、そうしたいい面も引き出しているのではないかと思います。 (後編へつづく) ** 秋山正子株式会社ケアーズ 白十字訪問看護ステーション・白十字ヘルパーステーション統括所長、暮らしの保健室室長/認定NPOマギーズ東京センター長   取材・文/宮下公美子(介護ライター) 記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2021年8月31日
2021年8月31日

私はALSを発症して6年になる40歳の医師です

enjoy! ALS 『enjoy! ALS』では、ALS患者として在宅療養をしながら、現在も診療を行っている現役の医師が、ALSに関するpositiveな情報をお届けします。 まず簡単に自己紹介を 私はALSという病気を発症して6年になる40歳の医師です。もともと、大学病院で皮膚科医として勤務しながら、医学部と看護学部で皮膚科の講義を行なったり、『毛包幹細胞』について研究したりしていました。2015年に研究のため、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学したのですが、同年の7月にALSを発症して帰国してきました。帰国後は、さまざまな検査や治療をしながら、同僚のサポートのもと大学病院で医師として診療を続けていました。徐々に手が動かなくなっていったため、カルテは音声入力で記録。歩けなくなったため、電動車いすで通勤……など工夫をしていましたが、発声が困難になってしまったため、2019年の3月に退職しました。 その後は自宅で、皮膚科医として遠隔診療をしながら、現在に至るまで在宅加療を続けています。診療の対象は、離島など皮膚科医のいない地域の患者さんや、私のように在宅療養しており皮膚科医の診察を受けられない患者さんで、iPadで画像や問診票を見て診療する形です。 このたび、お世話になっている訪問看護師さんから、「NsPaceでコラムを書いてみないか?」というお話をいただきました。すぐに「やります」と答えました。自分で言うのもなんですが、私は医師で、若年発症のALSという、かなりまれな患者です。発症してから国内外問わずさまざまな論文を読んでALSに関する知識を深めてきましたし、工夫をこらして快適な生活環境を作ってきました。 その中で強く感じたのは、「世の中にはALSに関してnegativeな情報が多すぎる!!」ということ。 あふれるnegativeな情報 ALSと診断された患者やその家族、それにかかわる看護師や介護士が、まずインターネットなどでALSを調べると、 “ALSは進行性の神経難病で、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていき、治療法はなく、発症してからの平均余命は2〜5年” そんな乾いた文字だけが針のように突き刺さってきます。それは、今までのALS患者の症状や経過をただ統計学的にまとめて、羅列しただけ。 そういう私も約20年前、医学部生だったころに神経内科の授業でそう習いました。なんてつらくて、無慈悲な病気なんだと思い、絶対になりたくない病気ランキングワースト3には必ず入っていました。その当時はまさか自分がなるなんて思ってもおらず、ただ他人ごとのように授業を聞いていたものです。 つらい・残酷なだけの病気なのか しかし、そんな文字からは、現場の生の声は、入ってこないのです! 確かにALSは今でも治療法はありませんが、私が医学部生の時代とは違い、病態はわかってきています。運動ニューロンの中にTDP-43という異常なタンパク質が蓄積して、それが細胞死を引き起こしているということです。なんでTDP-43が蓄積するのか? どうすればそれを除去できるのか? それがわかれば根本的な治療につながってくるのですが、そこはまだ時間はかかりそうです。 しかし、ALS患者を取り巻く環境は劇的に進歩してきています!特にコミュニケーションツールの発展は目覚ましいものがあります。私は2021年2月に気管切開+声門閉鎖手術をしたため、声は出せず、目と口、足が少し動くくらいです。でもそれだけ動けば、できることが山ほどあります。歯のわずかな動きでiPadを操作して、皮膚科医として月100〜300人の患者さんを診察しているし、YouTubeやNetflixなども見ることができます。また、iPadに赤外線リモコンを記憶させて、テレビをはじめ、エアコンや扇風機など、さまざまな家電を操作することができます。目の動きだけで文字盤など何も使わずに会話することができるし(後々紹介します!)、目の動きだけでパソコンを操作して、大学で講義をする時のPowerPointスライドを作っています。ほかにもできることはたくさんあるし、やりたいこともたくさんあって、毎日時間が足りません。 ALSと前向きに向き合っていく人たちへ 私は日々充実して本当に楽しく過ごしています。 多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!ALSと前向きに向き合っていく、患者とその家族、周りの医療スタッフに、ただただpositiveで有益な情報を伝えたくて、このコラムのタイトルをつけました。『enjoy! ALS』 **コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2021年8月13日
2021年8月13日

在宅医療でヒヤッとしたこと4選

仕事中、いくら注意していても誰もがヒヤッとした経験が1度はあるのではないでしょうか。関わる対象が人だからこそ、他の職業に比べてヒヤッとする度合いが大きいかもしれません。そして在宅では、病院では起こらないようなことが起こりヒヤッとすることがあります。 今回は訪問入浴介護勤務の看護師が経験した、在宅ならではのヒヤッとしたことをご紹介したいと思います。 目次 ◆訪問したら利用者様が不在だった ◆入浴中、カテーテルが自然抜去 ◆利用者様のベッド上に忘れ物 ◆お布団の中にペットや虫 ◆まとめ   ◆訪問したら利用者様が不在だった 今回のケースの利用者様は、軽度の認知症がありましたが一人で暮らしていました。ふらつきが時々あるけれど歩行ができる方でした。ある日訪問すると、家の中のどこにもいません。ふらつきがあるのでどこかで転んで動けなくなっているのではないか、何か事故に巻き込まれたのではないかと一緒に訪問したスタッフと家の周囲を必死に探しました。 しばらくすると、私たちの心配をよそに「どうしたの?何かあった?」と利用者様が帰ってきました。利用者様にはあらかじめ訪問時間を伝えていますが、忘れて買い物に出かけてしまったそうです。利用者様の顔を見たときは、ホッとして一気に力が抜けました。 このことはケアマネジャーに伝え、その後は私たちが訪問する前にサービスに入るヘルパーさんからも、再度訪問時間を伝えてもらうようにしました。 ◆入浴中、カテーテルが自然抜去 訪問入浴介護の利用者様で、膀胱留置カテーテルを挿入している方は多いです。そのためスタッフ皆で抜去しないように気を付けて介助しているのですが、自然抜去してしまった経験があります。入浴中いつも通り介助をしていたのですが、湯船の中にぷかぷか浮かぶカテーテルを発見しました。手早く入浴を済ませ、すぐに訪問看護師に連絡しました。全身状態を伝えると、すぐに向かうので退室していいとのことでした。 後で伺うと、原因は膀胱留置カテーテルを交換したばかりだったのですが、固定液の量が少なかったために自然抜去したのではないかとのことでした。湯船に浮かぶカテーテルを見たときはスタッフと一緒に青ざめましたが、自分たちが原因ではなくてホッとしました。 ◆利用者様のベッド上に忘れ物 在宅の仕事では、たくさんの荷物を持って利用者様のお宅に伺うと思います。訪問入浴介護も同じです。多くの物品を持ち歩くため、利用者様のお宅に忘れ物をすることも少なくありません。私は体温計を利用者様の枕元に忘れてしまうことが何度かありました。 次の利用者様のお宅に行って使おうとしたときに気付くのですが、本当にヒヤッとします。サービスを中断してしまうことで利用者様に迷惑をかけてしまいます。そしてもし忘れた場所が利用者様のベッドで、寝返りなどをしたときに体の下敷きにしてしまったら怪我をするかもしれません。それがはさみなど鋭利なものだったら本当に危険です。 私はなるべく利用者様のお宅を出る前か、車に戻ったらすぐにナースバックの中身を確認するように心がけ、忘れ物をなくすようにしました。 ◆ お布団の中にペットや虫 これは今では笑い話ですが、その時は本当にヒヤッとしたことです。入浴の準備が整ったため、利用者様に「お洋服を脱ぎましょうね」と声をかけました。そして布団をめくると、なんとペットの猫がいて「ニャー!」という鳴き声と共にものすごい勢いで飛び出してきました。びっくりして、私も思わず声をあげてしまいました。利用者様のお部屋は昔ながらの造りでとても寒かったので、猫もお布団の中でぬくぬくしていたのでしょう。 他には虫がいたことも何回かあります。整った環境で暮らしている利用者様ばかりではありません。 病気のため体の自由がきかず、そのうえ一人暮らしという方も多くいらっしゃいます。訪問入浴介護の仕事を始めて、色んなお宅があるということを学びました。 ◆まとめ 重大な事故につながるものから珍事件までご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。命に関わる仕事だからこそ、ヒヤッとすることは極力少なくしたいですね。 その為には事前の準備や、ヒヤッとした原因を認識ことが大切だと思います。実際にヒヤッとした事例を共有して、対策を立てることに役立てていただけたら嬉しいです。 ** 記事提供:株式会社3Sunny(スリーサニー)  

インタビュー
2021年8月13日
2021年8月13日

オーストラリアで出会った訪問看護の魅力/海外訪問看護

オーストラリアでは訪問看護師特有の業務形態により、長年従事する看護師が多いため、求人の空きがなかなかないそうです。また、急性期、慢性期に分業されているため高いスキルが求められます。今回お話を伺った本田一馬さんは、オーストラリアで看護師資格を取得し、さまざまな経験を経て急性期の訪問看護師になりました。これまでの経緯や働き方、日本との違いについてご紹介します。 オーストラリアで訪問看護師になるまで Q 訪問看護師を目指したきっかけとは 高校卒業後に語学留学のために中国へ渡りました。その後、オーストラリアに移動したので、看護師資格を取得したのは27歳のときです。当時、オーストラリアでボランティアをしていて、そのなかで「看護師になってみてはどう?」と声をかけていただいたことがきっかけとなり、看護の道に進みました。 学生最後の実習で訪問看護を経験し、今までのクリティカルな領域とは大きな違いを感じました。患者さんと関わる中で、医学的な治療よりも住み慣れた家や家具、愛するパートナーやペットたちに囲まれた環境で、話を聴いてもらうことが一番の特効薬になり、大きな力が生まれることに気が付いたんです。 卒後はすぐにでも訪問看護師として働きたいと懇願しましたが、スタッフは経験8年以上のベテランばかり。師長からは「経験を積んできなさい」と諭されてしまいました。その言葉通り、救急外来や集中治療部、研究や老人ホーム勤務などの経験を積みました。その後も訪問看護の魅力が忘れられず、採用枠が空くのを待ちました。そしてある時、奇跡的にも1つポジションに空きが出たことで、念願だった急性期訪問看護師チームの一員になることができました。急性期訪問看護チームはなかなか求人情報が出ないこともあり、私の働いている医療機関ではゴールデンジョブと呼ばれることがあります。 急性期の訪問看護師の仕事 Q 急性期に特化した訪問看護とは オーストラリアの訪問看護は急性期と慢性期に分かれており、急性期では、1日3~4人の患者さんを訪問しています。1人当たり、約1~2時間かけて看護ケアを提供しています。また、日本でいうオンコールのような夜間対応はなく、必要があれば速やかに救急外来の受診をすすめています。 おもな仕事は、蜂窩織炎、骨髄炎、肺炎などを患った患者さんに在宅で抗生物質の投与を行うことがメインとなります。ほかには乳房摘出術後のドレーン管理などです。オーストラリアでは、ドレーンの抜去や抜糸なども看護師が行います。 急性期訪問看護チームの役割は、患者さんをできるだけ地域で看ることによって病院への入院を防ぐことです。そして容態が安定していても継続した点滴管理が必要な患者さんを、私たちのチームで受けることによって早期退院を目指し実現させることです。 患者さんの紹介は個人医院や病院からの紹介になりますが、入院されている患者さんが在宅でケアすることが可能かどうか退院前に確認し、難しそうであれば医師に対して意見することもあります。在宅では1人でケアすることになり、責任もありますからね。実際に働いてみて、やはり高い知識と技術、判断力が必要だなと感じます。経験や場数を踏んでいく必要があるという考えの方が多いですね。医療アシストを呼ぶことができない状況の中、とっさの判断を迫られたときに、いろいろな経験がとても役立ちます。 訪問看護ならではのかかわり Q 訪問看護師としてのやりがいとは 乳房摘出後のケアは男性看護師が介入しにくい部分ではありますが、まずは、患者さんと患者さんを取り囲む家族の皆さんと信頼関係を築くことだと思います。在宅なので、旦那さんが同席するケースが多くあります。一般的に女性としてのシンボルとして認識されている体の一部を失ってしまった妻を、少し離れたところから心配そうに見つめる旦那さん、そして、その妻に対して「どのように接していけばいいのか。」と悩む旦那さんは少なくありません。そういった家族の気持ちも含めたケアを行います。男性だから話せることがあったり、言いづらいことを引き出したり、家族全体のケアをいかにホリスティックに見ていくのかが大切ですね。 ただ、コミュニケーションが英語なので、細かいニュアンスが伝わりにくいことはあります。オーストラリアは多文化なので、患者さんの文化背景によって話し方やアプローチのしかたを考慮し、その患者さんに合った看護ケアを提供するよう心掛けています。もし、言葉が通じなくても、「自分のことを気にかけてくれている。」という姿勢が患者さんに伝わると信頼関係の構築につながり、コミュニケーションや看護ケアの提供がスムーズになるという経験をたくさんしています。そこがやりがいにもつながっていますね。 急性期の訪問看護は、一人ひとりにケアをする時間が長く取れることが魅力の一つだと感じます。もちろん、医師とも意見の交換をしますし、患者さんのために常に疑問を持って問いかけるようにしています。医師の言ったことがすべてとは捉えずに、納得できなかったことはとことん話し合います。看護師主体で率先して動けるので、ここもやりがいの一つですね。 日本とオーストラリアの懸け橋に Q 今後のビジョンについて 今は色々な意味で自分の視野や可能性を広げるために、大学院で修士課程(プライマリーヘルスケア看護)の勉強をしています。このまま学業に励み、博士課程まで勉強できればと思っています。博士課程取得後には、オーストラリアと日本のさらなる共同看護研究の発展や看護技術のエクスチェンジプログラムなどに加担する事で、お互いの科学的な看護実践の質を高め、より一層、患者のニーズに沿った安全で高度な看護ケアの提供につながればと考えています。日本からオーストラリアに留学や短期プログラムに参加する学生にも、グローバルな視点が身につくように色々な経験ができるような支援もしていきたいですね。お互いの文化を大切にしながら良いアイディアを取り込んでいくことで、良い変化が生まれ、最終的には患者さん、そしてコミュニティーの健康へつながると信じています。 また、知り合いの同僚が日本に行った時の感想を聞くと、とても親切であり、素晴らしい国だと言ってくれます。そんな自分の国を誇りに思います。日本の先輩や後輩の方々に、少しでも役に立つことができるよう精進していくことが最優先だと思っています。 ** Registered Nurse Nurse Immuniser Central Coast Local Health District Acute Post Acute Care Team (急性期訪問看護所属) 本田一馬 【略歴】 2010年 ニューカッスル大学 (オーストラリア) 医学部看護学科卒業 2011年 オーストラリア連邦内閣総理大臣賞を受賞し、山口大学へ客員研究員非常勤講師として赴任 2014年 主任看護師Aurrum Erina (高齢者介護施設) 2015年 正看護師 急性期内科 (Gosford Hospital, Australia) 2018年 急性期訪問看護師 Acute Post Acute Care Team, Gosford Hospital 2020年 シドニー大学 医学部保健学科修士課程 Master of Primary Health Care Nursing 入学 2021年 Nurse Immuniser として急性期訪問看護の傍、ワクチン接種業務に従事 Facebook:https://www.facebook.com/KazyAus Twitter:@KazumaHonda Instagram:kazuma_honda_aus

コラム
2021年8月10日
2021年8月10日

訪問看護師に必要なスキル・知識のまとめ

前回は医療制度・介護制度、礼節・礼儀などについてお話ししました。 第6回は、本コラム連載の最終回として訪問看護師に必要なスキル・知識の総括についてお話ししたいと思います。 訪問看護師に必要なスキル・知識のまとめ 今回を含めて、これまで全6回にわたり訪問看護師に必要なスキルを私なりにまとめさせていただきました。最後にこれらをもう一度、訪問看護の実際の業務フローに落とし込み、可視化したいと思います。 下図は、訪問看護業務フローと8つのスキル・知識の関係図です。見方としては、図・左下の「患者・利用者」から始まり、反時計回りで、患者・利用者→アセスメント→必要な看護の提供となります。 【訪問看護の業務フローにおける各スキルの位置づけ】 ➀患者・利用者の意向・状態変化 ここでは、「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」、「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」が必要なスキルとなります。特に本人の思いの吸い上げは、最も重要であり、看護方針の基盤となるだけでなく、さまざまな判断の軸となります。 また本人のリアルな状態変化をしっかり見極め、看護に反映させるため、平時の本人の状態を想像するスキルが必要となります。詳しくは、下記をご参照ください。 第1回 思いを吸い上げるスキル・想像するスキル ②アセスメントと他職種との連携 次にご本人の意向などをもとにアセスメントを実施し、さまざまな看護プランを立てることになりますが、ここでは「マネジメントスキル(チームマネジメント)」、「コミュニケーションスキル」、が必要となります。 アセスメントをもとにし、設定された目標に対してどういった職種にどのように動いてもらうかを考え、さらに円滑に動いてもらうために、マネジメントスキルが必要となります。その際に、在宅現場においては、ひとつの職種で利用者さんの療養を支えることは難しいため、医師を含めた他職種とのコミュニケーションスキルが非常に重要となります。 コミュニケーションを取る時には、相手の職種・役割・所属組織の方針などを考慮にいれた俯瞰力を持って臨むことで、より円滑な連携が生まれ、マネジメントも良質なものとなります。また、特に医師に対しては、SBARを改めて実践することで、より良好な関係性を目指していただければと思います。詳しくは下記をご参照ください。 第2回 医師・他職種とのコミュニケーションスキル 第3回 コミュニケーションスキル(訪問看護指示書)とマネジメントスキル ③在宅現場での必要な看護の提供 最後に在宅現場での必要な看護の提供段階となりますが、ここではより良い看護を提供するために「医師のいない場で医療的判断を行うスキル」、「在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)」、「医療制度・介護制度などに関しての知識」、「礼節・礼儀などを実践できる素養」が必要となります。 まず医師がいない場で、訪問看護師が医療的判断を行うことはさまざまな不安があると思いますが、その不安は何をどこまで実践してよいか明確になっていないことが原因であることが多いです。そのため、ご本人の意向を知り、かつ医師からの包括的指示をもらうことで、その不安は払拭することが可能となります。 次に在宅療養中の利用者さんに起こりやすい疾患などに対しての看護スキルについては、「看護は芸術である」という観点のもと、それぞれの利用者さんに対して、みなさんが持っている看護技術を生かして、彩られた療養環境を作り出してみてください。 制度面については、訪問看護は医療保険と介護保険の2つの制度で成り立っており、さらに疾患などにより訪問回数なども決まっています。そのため、制度を知らないと看護プランを立てられないことがあるので、しっかりと理解することが重要です。 礼節・礼儀については前回コラムのとおりです。 これらのスキル・知識をもって、在宅現場でより良い訪問看護を実践していただきたいと思います。詳しくは下記をご参照ください。 第4回 医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) 第5回 医療制度・介護制度などに関しての知識と礼節・礼儀などを実践できる素養 本コラム最終回として、訪問看護師に必要なスキル・知識の総括についてお話しさせていただきました。 これまで8つのスキル・知識をまとめてきましたが、豊富な訪問看護経験がある方にとって、本連載の内容は当たり前のことも多かったと思います。一方で、連載を通じて、さまざまな気付きをもらえた、という非常にありがたいご意見もいただきました。 患者・利用者さんのQOLの向上のために、今回の8つのスキル・知識が少しでもみなさんのお役に立てば幸いです。 おわりに、本連載を読んでいただいた方、また本連載に関わっていただいた関係者の方々に感謝を申し上げます。 ** 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

特集
2021年8月10日
2021年8月10日

重症筋無力症(MG)

「難病を知る」シリーズ、第2回は、近年、有病率が増えている重症筋無力症(MG)です。 病態 重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう:MG)は、筋力の低下を主な症状とする自己免疫疾患です。遺伝性ではありません。 骨格筋の収縮は、アセチルコリン(ACh)の働きが関与しています。神経と筋とのつなぎ目の部分で、AChが神経終末から放出され、筋肉側にあるACh受容体にAChが結合することで、筋収縮が起こります。 MGでは、ACh受容体などを攻撃する異常な自己抗体が生じます。その抗体がAChの結合などを阻害し、筋収縮が妨げられる結果、筋力低下につながります。 なぜ、そのような自己抗体が作られるのか、原因はよくわかっていません。ACh受容体抗体のある人では胸腺腫などの合併も多く、胸腺のかかわりも疑われています。 疫学  2018年の全国疫学調査では患者数は約2.9万人で、人口10万人あたりの有病率は23.1人でした。2006年の調査結果と比べると、有病率は約2倍に増えています(難病情報センター調べ)。 男性よりも女性に多い疾患です(男女比1:1.7)。好発年齢は5歳未満と、女性では30~50歳代、男性では50~60歳代です。近年は高齢での発症(後期発症)が増加しています。 症状・予後 運動の継続ですぐに力が入らなくなり(易疲労性)、休息することで回復するのが特徴です。症状は日内変動し、夕方に症状が悪化しがちです。 初期には、まぶたが下がる(眼瞼下垂)、ものが二重に見える(複視)といった、眼症状の出現がよくみられます。 力が入らず持ったものをよく落とす、階段を上るときに脚がだるい、頸が前に下がるなど四肢や頸部の筋力低下、発語の障害(構音障害)や嚥下障害、咀嚼障害、また顔面筋力の低下や呼吸困難などがみられることもあります。 症状の出かたにより、眼瞼下垂や複視など眼症状のみが現れるタイプ(眼筋型)と、四肢の筋力にも症状が及ぶ(全身型)に分類されることがあります。重症度を示す指標であるMGFA分類では、眼筋型はⅠ、全身型はⅡ~Ⅴです。眼筋型から全身型に移行することもあります。 全身型では、急激な呼吸状態の悪化(クリーゼ)に注意が必要です。クリーゼの誘因は、感染症や手術、薬物、疲労などです。重篤な場合は人工呼吸器が必要になりますが、生命予後には影響はありません。 MGの長期予後は、免疫療法の普及により大きく改善しました。寛解率は2割未満ですが、生活や仕事に支障がない程度まで改善する例が5割以上に達しています。その一方で、あまり改善がみられないケースも1割ほどあります。 治療法 MGは自己免疫疾患なので、ステロイドや免疫抑制薬を用いた免疫療法が基本です。特に全身型の治療では免疫療法が中心となります。ただ、免疫療法でステロイド剤の長期投与は副作用がQOLを悪化させるため、早期からの免疫療法で生活に支障をきたす症状は短期間で改善させ、維持量を少量に抑えることが目指されます。 そのほか対症療法として、神経筋接合部のAChの濃度を高めることで神経から筋肉の信号量を増やす、コリンエステラーゼ阻害薬が補助的に用いられます。胸腺腫の合併のある人などでは、手術で胸腺を摘出することもあります。全身型で、これらの治療法で効果がみられない場合は、抗体製剤が用いられることもあります。 一方、症状が重篤な場合や、急激な増悪時は、自己抗体を除去する血液浄化療法や、免疫グロブリンを大量に投与する方法なども用いられます。 看護の観察ポイント ●筋力低下や眼症状など症状の変化 ●日常生活やセルフケアの実施に支障をきたしていないか ●転倒していないか ●構音障害によりコミュニケーションに問題が生じていないか ●嚥下障害や食事動作による筋疲労で、食事内容・量に影響が出ていないか ●適切に服薬ができているか ●口から唾があふれる、頭を支えられず首が垂れる、呼吸時に分泌物でごろごろと音がするなどの症状がないか ●患者さん、家族が不安やストレスを抱えていないか 次回は脊髄性筋萎縮症について解説します。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】 東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】 ・難病情報センター『重症筋無力症(指定難病11) 病気の解説(一般利用者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/120 ・日本神経学会『重症筋無力症診療2014』 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/mg.html ・井上智子ほか編(2016)『疾患別看護過程 第3版』,医学書院

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