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第5回 賃金・退職・懲戒・解雇編/[その4]遅刻常習者の懲戒処分は可能? 管理者が押さえておきたい懲戒・解雇の注意点

従業員が非違行為(悪い行い)をした場合、事業所としてそれを放っておかずに、懲戒処分を行うかを検討すべきです。懲戒処分が問題になる従業員とは、後々、法的紛争に発展することが予想されるため、法律面をしっかりと押さえた対応が求められます。 あるスタッフが3時間も遅刻をしてきました。理由を聞くと単なる寝坊だということです。このスタッフは日頃からやる気がないので、いっそのこと解雇にしたいと思っています。これまでにこのスタッフを懲戒処分にしたことはありませんが、今回の件で一発解雇ということはできないものでしょうか? これだけの事情では解雇できません。解雇は労働契約法16条によって厳しく制限されています。 一発解雇ができる場合とは 前回の記事「[3]「2週間後に辞めます」でも問題なし? 急な退職申し出を受けたらどうする?」で述べたとおり 、「解雇」とは、使用者(会社)が一方的に雇用契約を終了させるもので、いわゆるクビのことです。解雇には「普通解雇」と「懲戒解雇」がありますが、いずれであっても労働契約法16条が適用され、解雇できる場合は厳しく制限されています。「気に入らないから解雇」ということは認められません。 【労働契約法第16条】解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 一発解雇ができる場合というのは、典型的には、職務に関連して犯罪を意図的に行ったような場合です。例えば、銀行員が銀行のお金を横領したり、訪問看護のスタッフが利用者様の居宅で窃盗を行ったような場合が挙げられます。 対して、ご質問のケースのように誰もが起こしうるミス・不始末を理由として一発解雇をするというのは難しいです。 悔い改める機会を与えていたか とはいえ、同じようなミス・不始末を何度も行う従業員をいつまでたっても解雇できないということでもありません。ポイントは、「これまでに、その従業員に対して悔い改める機会を与えていたか」という点です。 遅刻をするスタッフがいるとして、最初は口頭で注意し、それでも遅刻することがあるので懲戒処分の中でも比較的軽い「戒告」として反省をうながし、それでも遅刻を繰り返すので今度は「出勤停止」という比較的重い懲戒処分を下して強く反省を促し、それでも改善しないので最終的に「懲戒解雇」にするということは、場合によっては許容されます。 重要なことは、そのように段階を踏んでいったことを裁判所にもわかってもらえるように、証拠を残しておくということです。「致命的なミスや不始末じゃないから、まあ放っておいたらいいか」という対応を続けていると、後々になって解雇をしたいと思っても、何も「積み重ね」がないため解雇できないという事態になりかねません。「解雇をするには積み重ねが必要だ」ということを強く意識していただければと思います。 解雇できる場合は厳しく制限されていますので、一発解雇はなかなかできません。「解雇をするには積み重ねが必要だ」という視点を持ちましょう。 先ほどの遅刻をするスタッフに対して「戒告」の懲戒処分をしたいと思います。どのような点に注意して進めるべきでしょうか?  ①懲戒事由該当性(就業規則上の根拠)、②懲戒処分の相当性、③適正手続きの3要件を満たすようにしましょう。 懲戒処分を行う際に注意すべきことは? 懲戒処分には、譴責・戒告・減給・降格・出勤停止・諭旨解雇・懲戒解雇などの種類がありますが、そのいずれをするにしても、①懲戒事由該当性(就業規則上の根拠)、②懲戒処分の相当性、③適正手続きの3要件を満たす必要があります。1つずつ見ていきましょう。 ①懲戒事由該当性(就業規則上の根拠) まず、就業規則の「懲戒」の章において、今回のミスや不始末が懲戒事由として規定されているかをチェックします。規定されていないならば懲戒できません。 そこで、懲戒事由をあらかじめ網羅的に規定しておくことが必要となるわけですが、すべての事象を予測して規定しておくことはできません。そのため、懲戒事由として、「その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき」などとして、包括的な条項を設けておくことが必要になります。 ②懲戒処分の相当性 次に、「比例原則」と「平等原則」を満たすことを意識しましょう。 比例原則とは、軽い懲戒事由に対しては軽い懲戒処分を選択し、重い懲戒事由に対しては重い懲戒処分を選択すべきというふうに、懲戒事由とそれに対する懲戒処分は比例していなければならないことをいいます。「遅刻」という軽い懲戒事由に対して、いきなり懲戒解雇という重い懲戒処分を選択すると、比例原則違反になります。 次に、平等原則とは、同じようなミスや不始末に対する懲戒処分は、社内の他の労働者との間で同じものであるべきという原則です。例えば、遅刻をした労働者が2人いたならば、原則として2人の処分は同じであるべきということです。ポイントは、「過去の懲戒事例と比べても、平等な取り扱いになっているか」ということです。過去には遅刻を黙認しておきながら、今回から急に重い処分にするということは基本的に許されません。そのため、法人内において、過去に、いかなる事例に対していかなる懲戒処分を行ってきたのかを整理して一覧化しておくべきでしょう。 ③適正手続きとは 最後に、懲戒処分を行う前に、一度、本人に弁明の機会を与えましょう。「今回の遅刻に対して懲戒処分を行うことを考えていますが、何か弁明すべきことはありますか?」と尋ねるということです。 就業規則において弁明の機会を与えることになっている場合には絶対に必要ですが、そうでなくても、与えた方がベターといえます。 懲戒処分というと「職場の雰囲気・秩序」を乱すもののように思われがちですが、本来は「職場の雰囲気・秩序」を保つために行うものです。3つの要件を念頭において、時には毅然と対応することを心がけましょう。 懲戒処分を行う際は、就業規則に懲戒事由があらかじめ規定されているか、不始末の事由と処分がつりあっているか、対象者の処分に格差がないか、弁明の機会を与えたかという点をチェックしましょう。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。所属する法律事務所のホームページはこちらhttps://mulaw.jp/ 記事編集:株式会社照林社

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第5回 賃金・退職・懲戒・解雇編/[その3]「2週間後に辞めます」でも問題なし? 急な退職申し出を受けたらどうする?

スタッフから突然「仕事を辞めたいです」と言われた場合、どのように対応すべきでしょうか。スタッフは何日前から辞めると言えるのでしょうか。また、有給休暇を消化していないスタッフが、退職にあたって一気に有給休暇を申請してきた場合はどうすればよいのでしょうか。その場合に引き継ぎをきちんと行ってもらうためにはどういう方法が考えられるのでしょうか。今回は、退職の際に頭を悩ませる問題について、考えていきましょう。 私の事業所では、就業規則に「従業員が退職を希望する場合は、退職希望日の3か月以上前に申し出なければならない」と規定し、雇用契約書にも同様のことを記載しています。そうしたところ、先日ある正社員スタッフから、「転職をしたいので、2週間後に辞めます。」と言われました。事業所としては、引き継ぎや後任のスタッフの採用も必要なので困ります。就業規則に規定しているとおり「3か月後まで退職を認めません」と伝えていいですよね?いいえ。労働者は、2週間の予告期間をおけばいつでも辞職できます。これより長い予告期間を設定した就業規則は無効とされます。 まず、概念を整理しておきましょう。 図1 雇用契約終了の種類 「解雇」と「退職」の違い 雇用契約が終了する場合というのは、大別して、「解雇」と「退職」があります。「解雇」とは、使用者(会社)が一方的に雇用契約を終了させるもので、いわゆるクビのことです。解雇には「普通解雇」と「懲戒解雇」があります。ポイントは、解雇は労働契約法16条によって厳しく制限されているということです。 「退職」とは 「退職」とは、解雇以外の雇用契約の終了原因を指し、大別して「合意退職」と「辞職」があります。「合意退職」とは、使用者と労働者がお互いに合意して雇用契約を終了させることをいいます。対して「辞職」とは、労働者が一方的に雇用契約を終了させることをいいます。 ポイントは、労働者は特に理由がなくても辞職できるということです。 辞職の際の「2週間ルール」 辞職する時期については、無期雇用(正社員)の場合は、民法627条1項によって、2週間前の予告期間を設ければ、いつでも辞めることができるとされています。ある日突然、「2週間後に辞めます」と言うことが法的に許容されているわけです。 そして、この「2週間ルール」を会社が勝手に「30日前」や「3か月前」などに変更することはできません。 ご質問のケースでは、就業規則の規定は民法627条1項に反しているため無効となります。その結果、同項に基づいて、「2週間後に辞めます」という労働者の言い分が通ることになります。 無期雇用(正社員)の場合は、労働者は2週間の予告期間を設ければいつでも辞めることができるとされています。 ワンポイントアドバイス 民法の改正点 以前は、月給制の無期雇用(正社員)の労働者が、とある月の給与計算期間の終わりをもって辞めたいと希望する場合は、その給与計算期間の前半までに申し出ておく必要があり、給与計算期間の後半に辞職を申し出た場合は次の給与計算期間が終わるまで辞職できないという制約がありました(旧民法627条2項)。 しかし、2020年4月1日から施行された新しい民法においては、そのような制約は撤廃され、月給制の無期雇用の労働者であっても、2週間前の予告期間を設ければ、いつでも辞めることができることになりました。 この点は、法改正があった点ですので、古い知識をアップデートしておきましょう。 なお、有期雇用の労働者の場合は、労働者も「やむを得ない事由」がなければ辞職できません(民法628条)。ただし、1年を超える有期雇用の場合は、1年経過後は、労働者はいつでも辞職できます(労働基準法附則137条)。 Q1で辞職を申し出たスタッフに退職前の引き継ぎをお願いしようと電話をしたところ、そのスタッフから「2週間後に辞めるという意思に変わりはありません。さらに、これまで有給休暇をまったく消化できていなかったので、この際、未消化の有給休暇をすべて申請します。ですので2週間後の退職日までに職場に行くことはありませんし、引き継ぎもしません」と一方的に言われてしまいました。事業所として何か対応できる方法はありますか?「有給休暇の買い取り」を提案することはできますが、強制はできません。このような事態にならないように平時からの備えが大切です。 退職間際の有給休暇の申請に応じなくてはいけないの? 有給休暇の取得条件などについては、連載第4回の「[その4]有給休暇、パートでもアルバイトでも取れます」をご覧ください。 ご質問のようなケースは実務上よくあります。事業所としては、「せめて引き継ぎくらいしてほしい」と考えることでしょう。 しかし、有給休暇というのは労働者に認められた権利です。使用者には「その時期は忙しいから別の時期に取得してください」という時季変更権が一定の場合に認められていますが、退職することが決まっているスタッフの場合には、別の時期に有休休暇を与えることができないわけですから、時季変更権を行使することもできません。よって、申請があったとおり有給休暇を与えることになります。 引き継ぎはどうするの? 従業員が引き継ぎをすべき義務というのは、あくまで就労義務を負う範囲においてのみ負担していると考えるべきです。この点、従業員は、有給休暇を取得した日については就労義務を負っていませんので、引き継ぎを行う義務も負わないと考えることになるでしょう。 そうすると、「2週間後に辞める。それまでの間は有給休暇を申請するから引き継ぎもしない」というスタッフの言い分は基本的には通ることになります。 有給休暇の買い取り こうした場合は、「有給休暇の買い取り」を検討しましょう。つまり、「未消化の有給休暇分の賃金は別途支払うので、出勤して引き継ぎをしてください」とお願いするということです。 この点、有給休暇は、労働者にしっかりと休んでもらうことに意味があるので、「有給休暇を買い取るから出勤しなさい」と強制することは違法です。しかし、退職間際に従業員と合意のうえで未消化の有給休暇を買い取ることは違法ではありません。 ただし、この方法も強制はできず、あくまでお願いベースになります。 普段の事業所運営で心がけておくべきこと そこで、ご質問のケースのようにならないためには、普段から業務の内容を全体で共有しておいて、「特定のスタッフしか把握していない事柄」をできるだけ少なくしておくべきでしょう。 また、退職間際になって有給休暇を一気に申請されないように、普段からスタッフには有給休暇を取得させるようにして、未消化分を減らしておくべきでしょう。 「引き継ぎもしない辞職」というのは、多くの場合は、職場に対する強い不信感や不満からくる対応といえます。そのような事態にならないために、普段からスタッフとの信頼関係を築いておくことが何よりも重要です。 退職間際の有給休暇の申請には応じる必要があります。ただし、従業員と合意のうえで未消化の有給休暇を買い取ることは違法ではありません。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。所属する法律事務所のホームページはこちらhttps://mulaw.jp/ 記事編集:株式会社照林社

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第5回 賃金・退職・懲戒・解雇編/[その2]その給与の差、説明できますか? 必読「同一労働同一賃金」の考え方のポイント

「パートタイム労働法」が「パートタイム・有期雇用労働法」へと新しく生まれ変わり、それに伴って、2021年4月1日から、中小企業においても「同一労働同一賃金」への取り組みが求められるようになりました。正社員だけでなく、パートタイム労働者や有期雇用労働者を雇用している事業所は多いかと思います。今回の改正は実務上とても重要なものですので、しっかりと理解しておきましょう。 私の事業所には、無期雇用労働者(正社員)と、有期雇用労働者と、パートタイム労働者がいます。無期雇用労働者(正社員)には自宅からの交通費の実費を「通勤手当」として支給していますが、有期雇用労働者とパートタイム労働者には一律支給していません。皆さん、これまでこの運用で納得してくれているので、特に問題はないですよね?いいえ。そのような取り扱いは不合理な待遇差として許されません。通勤手当は、有期雇用労働者やパートタイム労働者に対しても支給する必要があります。 同一労働同一賃金とは 「同一労働同一賃金」とは、平たくいえば、「同じ労働に対しては、同じ賃金を払いましょう」ということです。 これまでわが国では、「無期雇用労働者(正社員)が上」「有期雇用労働者やパートタイム労働者は下」といったゆがんだ差別意識のようなものがあり、その結果、ご質問のケースのように、通勤手当を無期雇用労働者には支払うけれど、有期雇用労働者とパートタイム労働者には一律支給しないといったような不合理な取り扱いが見られました。 しかし、法改正がされた結果、今後は、このような不合理な取り扱いは認められません。例えば、無期雇用労働者も有期雇用労働者もパートタイム労働者も、電車通勤をしている場合は交通費がかかることに変わりなく、そこに区別を設ける理由はありません。 今回の法改正では、このような視点を、基本給、賞与、手当、福利厚生など広い分野で適用することが求められています。 厚生労働省のガイドライン・マニュアル 厚生労働省は、この件に関して、とても詳細なガイドラインやマニュアルを出しています。 ・ガイドライン『短時間・有期雇用労働者および派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針』 ・マニュアル『不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(福祉業界編)』 考え方のポイントは? ポイントは、「手当などに差を設けるとして、その理由を合理的に説明できるか?」ということです。 例えば、ある事業所で4名ほどの部下を抱える無期雇用(正社員)のチーフに対して、チームを統率しなければならないという役割の重さに対する対価として「役職手当」を支給しているとしましょう。 他方で、この事業所では、ほかにももう1つチームがあり、そのチームのチーフが有期雇用労働者だったとします。ここで、この労働者が行っているチーフとしての業務は無期雇用のチーフと同じですが、有期雇用のチーフには「役職手当」が支給されていないとしましょう。 そうすると、両者は、チーフとしての責任の重さや仕事の内容は同じなのに、「無期雇用か有期雇用か」という雇用契約の形式的な側面のみをもって、「役職手当」の支給の有無が変わってくることになります。しかし、これでは、手当に差を設けた理由を合理的に説明できておらず、同一労働同一賃金の要請を満たせていないことになります。 手当の性質 手当の支給に差を設けた理由を合理的に説明するためには、まずその手当なりがどういう趣旨で支給されているのかを明らかにしなければなりません。 例えば、「業務手当」という名称はよく聞きますが、一口に「業務手当」といっても、それが何に対する対価であるのかは必ずしも明確ではありません。ある会社では「売上成績への対価」として支払っていることもありますし、ある会社では「固定残業代」として支払っていることもあります。 手当の名称から一義的にその手当の性質が決まるわけではありません。あらためて、事業所で支給しているすべての手当や賞与などについて「どういう趣旨で、どういう条件で支給しているのか」という点を確認しましょう。 支給に差を設ける場合の考慮要素は何か? そのうえで、無期雇用と、有期雇用・パートタイム労働者の役割などにどのような違いがあるのかを確認します。その際、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情を検討することになります(詳細は上記マニュアルの20頁参照)。 ①について、訪問看護の事業所であれば、チーフなどの責任の重い業務を担当しているか、オンコールに対応しなければならないか、休日・緊急出動をしなければならないか、教育担当か、外部の会議に出席するか、渉外交渉をするか、複雑な患者さんへの対応を求められるかといったことなどを考慮することになるでしょう。 ②については、転勤や昇進といった人事異動や役割の変化の有無などを考慮します。 ③その他の事情とは、①や②以外の事情を指しており、成果、能力、経験などを指します。 具体的に考えてみよう 例えば「オンコール手当」という手当があるとしましょう。 この手当の性質が、「オンコール待機をしてくれたことに対する1待機日あたりの手当」という趣旨だとします。 そして、この事業所では、「無期雇用と有期雇用はオンコール待機をしなければならないが、パートタイムはしなくてよい」とされているとしましょう。そうすると、①職務の内容としては、オンコールに関していえば、無期雇用と有期雇用で違いはありません。 とすれば、この事業所の場合は、オンコール手当を無期雇用と有期雇用に支給しなければなりませんが、パートタイムに対しては支払う必要はないということになるでしょう。 マニュアルを参照してチェックをしていこう このように、手当の性質を考慮したうえで、無期雇用と有期雇用・パートタイム労働者の役割などの違いを踏まえ、その手当を支給しないこと(もしくは、すること)を合理的に説明できるかを検討するわけです。 この検討はかなり手間を要しますので、上のマニュアルを参照しつつ、チェック表を設けて、順次チェック作業を進めていくようにしましょう。 従業員の間で手当などに「差」を設ける場合は次のことを検討します。①職務の内容②職務の内容・配置の変更の範囲③その他の事情(成果、能力、経験など) ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。所属する法律事務所のホームページはこちらhttps://mulaw.jp/ 記事編集:株式会社照林社

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第5回 賃金・退職・懲戒・解雇編/[その1]固定残業代、正しく理解・運用できていますか?

「固定残業代」は、適切に運用ができていないと事業者としてとても大きなリスクを負うことになりますが、正しく運用できていない事業所は少なくありません。ある日突然、元従業員から数百万円や、場合によっては1000万円を超える請求がくることもあります。法的に正しい知識を理解して、就業規則や運用の見直しを進めましょう。 私の事業所は残業が多いので、従業員に対して、基本給30万円に加えて、固定残業代として毎月5万円を支給しています。固定残業代を毎月払っているのですから、いくら残業させても問題ないし、残業代の計算はしなくても大丈夫ですよね? いいえ、残業時間は管理しなければなりませんし、固定残業代を超えた分の残業代は必ず支払わなければなりません。 固定残業代とは 「固定残業代」(「みなし残業代」や「定額残業代」とも呼ばれます。)とは、時間外労働や休日労働や深夜労働に対して支払われる割増賃金(これを俗に「残業代」と呼びます。)を、あらかじめ、一定額支払っておく制度のことをいいます。 この「固定残業代」は、ご質問のように、「固定残業代を毎月払っているのだから、いくら残業させても問題ないし、残業代の計算はしなくても大丈夫」と誤解されていることが多くあります。例えていうならば、固定残業代を、携帯電話の「ネット無制限使い放題」のようにとらえているわけです。 しかし、そのような完全な固定残業代制度というものは、労働基準法37条に違反するため許されません。 固定残業代とは、携帯電話で例えるならば、「ネット5ギガ使い放題」のようなものです。5ギガまではネット回線の利用料金は別途かからないわけですが、5ギガを超えて使う場合は、別途利用料金を支払わなくてはならないわけです。 固定残業代の考え方もこれと同じで、例えばご質問のケースのように5万円の固定残業代を毎月支払っているならば、残業代は5万円までは支払わなくてもよいですが、5万円を超える残業をさせた場合は差額を支払わなくてはいけません。ある月に7万円分の残業をさせたならば、2万円の差額を別途支払う必要があるということです。 そのため、いかに固定残業代を支払っていたとしても、月々の労働時間・残業時間はしっかりと把握しておく必要があります。そうしないと、一体いくらの差額が発生しているのか把握できず、差額を支払うことができないためです。 固定残業代制においても月々の労働時間・残業時間の管理は必要です。固定残業代を超えた差額分の残業代は必ず支払いましょう。 私の事業所では、事業所の事務長に対して、基本給として30万円を支払い、職務手当として10万円を支払っています。職務手当は、事務長という重要なポジションについていることに対する役職手当としての意味と、固定残業代としての意味があります。ただし、職務手当10万円のうち、いくらが役職手当で、いくらが固定残業代なのかは明確にしていません。この場合、10万円分の固定残業代を毎月支払っているのですから、それを超える残業代の差額のみを支払えばよいのですよね?いいえ。この場合、固定残業代という制度自体が無効になる可能性があります。 固定残業代が有効になるための要件 これまでに述べたとおり、固定残業代は、その額の分を超えて残業をさせた場合は、必ず差額を支払わなければなりません。 ここから、固定残業代が有効といえるための要件が導き出されます。すなわち、①固定残業代が、時間外労働などの割増賃金の「対価」として支払われていること(対価性の要件)、②その割増賃金部分が、他の賃金と判別することができること(判別可能性の要件)です。 少しわかりにくいと思いますので、具体的に見ていきましょう。 ①について。ご質問のケースでは「職務手当」という名称がついていますが、これだと「固定残業代」とは別の名称であるため、一見して、それが割増賃金の代わりに支払われているということがわかりません。そういった場合、事業所が、「この職務手当は、固定残業代として支払っているのですよ」と主張しても、裁判所に信用してもらえないことがあります。手当の名称ですべてが決まるわけではありませんが、少なくとも給与規程や雇用契約書において「その手当を割増賃金の対価として支払っていること」を明記しておくべきです。 次に②について。ご質問のケースを例にとれば、「職務手当」として10万円を支払っており、その中には、役職手当としての意味と、固定残業代としての意味が両方含まれているということです。この時、例えば「役職手当4万円、固定残業代6万円」のように、固定残業代の金額を、他の賃金から区別することができるのであれば、労働者としては、「固定残業代6万円を超えて残業したら、別途差額を支払ってもらえるんだな」と理解できるわけです。 しかし、ご質問のケースのようにその内訳が不明確な場合は、労働者の立場からすると、「固定残業代は10万円のうち一体いくらで、自分はどれだけ働いたら固定残業代を超える分の差額を支払ってもらえるのか」という点がわかりません。 もしも無効とされた場合は・・・・・・ そうすると、固定残業代制は無効とされるリスクが出てきます。無効となった場合は、割増賃金を算定する際の基礎賃金が40万円(30万円+10万円)に跳ね上がり、さらに、固定残業代はこれまで一切支払っていなかったことになるわけですから過去にさかのぼって割増賃金を払い直すことになるという「ダブルパンチ」をくらうことになります。 その結果、固定残業代が無効と判断された場合は、通常の残業代の未払い案件よりも支払うことになる残業代の額が高額になりがちです(1000万円を超えることもあります)。 現場の対応 そのため、(1)就業規則(給与規程)において固定残業代が割増賃金の対価として支払われるものであることを明記し、(2)個別の雇用契約書において、固定残業代の額と、そこに含まれる時間外労働などの時間数を明記し、(3)さらに、給与明細において、「固定残業代」といった費目を設けて他の賃金と明確に区別して給与を支給し、(4)固定残業代分を超える残業をしてもらった場合には、毎月差額を支払っておく必要があります。なお、(2)について、少なくとも、固定残業代に含まれる時間外労働の時間数は、36協定の延長限度時間である45時間を超えないようにしておくべきでしょう。 固定残業代が有効といえるためには2つの要件が必要です。①固定残業代が、時間外労働などの割増賃金の「対価」として支払われていること(対価性の要件)②その割増賃金部分が、他の賃金と判別することができること(判別可能性の要件)  ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。所属する法律事務所のホームページはこちらhttps://mulaw.jp/ 記事編集:株式会社照林社

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第4回 残業・休憩・休日編/[その4]有給休暇、パートでもアルバイトでも取れます

年次有給休暇(年休)は働く人にとって当然の権利です。今では、10日以上の年休のある人は、年5日の年休を取らなければならないようになりました。年休は、働く人の心身のリフレッシュを図ることを目的として設けられています。事業所のスタッフも、管理者も、正しい知識をもって、年休を上手に活用できる職場づくりを進めていきましょう。  訪問看護ステーションで働き始めて10か月が経ちました。週4日のパート勤務なので年休はもらえないのかと思っていましたが、同僚はパートでも年休はもらえると言います。本当ですか?   要件を満たせばパート勤務でも年休はもらえますので、事業所に確認してみてください。  2つの要件を満たせば有給休暇は取れる パート、アルバイト問わず、どのような勤務形態でも年次有給休暇(以下「年休」とします)を取ることができます。労働基準法では、業種や職種、雇用形態にかかわらず、一定の要件を満たしたすべての労働者に対して、年休を与えなければならないと定めています(労働基準法39条)。それでは、年休が取れる要件とはどんなものでしょう。以下の2つの要件が挙げられています。 ①雇い入れの日から6か月経過している②その期間の全労働日の8割以上出勤している 年休の日数は継続勤務年数によって変わる この2つの要件が満たされれば、パート、アルバイトを問わず年休が発生し、労働者は理由を問わず年休を取ることができます。取れる年休の日数は継続勤務年数によって変わってきますので、次の表1を参考にしてください。 表1 年次有給休暇の付与日数 なお、②の要件で示されている、全労働日の「8割以上」という率の計算をする際に注意したいのは、次のような場合は出勤したものとみなすという点です。 ・業務上の負傷・疾病などにより療養のため休業した日・産休や育児休業、介護休業、年休を取得した日 さらに、パート、アルバイトのように、週の所定労働日数が少ない人については、年休の日数は、所定労働日数に応じて、表2のように比例付与されます。 表2 週所定労働日数が少ない場合の年次有給休暇の付与日数 なお、年休の権利は、2年間で時効によって自然消滅してしまうので、これは十分に注意してください(労働基準法115条)。必ず2年間で消化するようにしましょう。 事業所から、必ず年5日は年休を取るようにと強く言われています。以前はそんな強制はなかったのですが、変わったのでしょうか? 法改正に伴い、年休が年10日以上付与される労働者は、年5日の年休を取らなければなりません。これは事業所の義務なのです。 確実に年休を取得できる環境づくりが必須 以前は義務ではなかったのですが、2019年4月から、使用者は年休が10日以上付与されている労働者に対して、年5日の年休を取得させなければならなくなりました。 この法改正の前までは、労働者の自主的な請求に任せると年休取得を申請しづらい、ということから年休の取得が進まなかった背景がありました。そのため、図1に示すように、年5日の年休の取得が進んでいない労働者に対しては、事業所が聴取して、年休取得を促すという意味があります。 さらに、年休の取得時季については、労働者に時季指定権があります。複数の労働者が同じ時期に年休取得の請求が集中したような場合などには、事業所には労働者に対する年休の取得時季の変更権が認められていますが、取得を認めないとすることはできません。 そのため、ステーションの所長は、定期的にスタッフと話し合いを行い、年5日の年休を確実に取得してもらえるような環境づくりを行っていきましょう。 図1 時季取得のイメージ ステーションの管理者ですが、年休管理に関して特に注意しなければならないことはありますか? また、これに関して相談できる窓口はありますか? 管理者は「年次有給休暇管理簿」を作成し保管する義務がありますので、注意しましょう。また、管理に関する情報は都道府県労働局のホームページが参考になります。相談窓口も設置されています。 管理簿は3年間の保存が必要 ステーションの管理者は、スタッフ全員の「年次有給休暇管理簿」を作成する義務があります。年次有給休暇管理簿には、次のような項目を記載する必要があります。 ・労働者が年休を取得した日の「日付」・スタッフが1年間で取得した「年休の日数」・6か月連続勤務などの所定の条件を満たし、年休を付与する「基準日」 さらに、「年次有給休暇管理簿」は、年休を与えた期間と期間満了してから3年間の保存が義務づけられていますので注意してください。保存方法は、データと紙媒体どちらでも構いません。 労働局の管理台帳や相談窓口を活用しよう また、都道府県労働局では、年休を取得しやすい労働環境づくりに向けたさまざまな支援を行っていますので、ぜひ参考にしてください。例えば、福井労働局のホームページでは、「年次有給休暇取得管理台帳」が公開されており、ダウンロードができます。 ▼福井労働局ホームページ有給休暇の計画的付与、時間単位年休および年5日の時季指定に対応した有給休暇の管理台帳を作成しました 北海道労働局のホームページでは、職場全体でも個人でも活用できる「年次有給休暇表」をはじめ、「年次有給休暇取得計画表」、「個人別年次有給休暇取得計画表」、「年次有給休暇取得状況チェック表」が公開され、ダウンロードができます。 ▼北海道労働局ホームページ年次有給休暇を適正に付与・管理していますか また、都道府県労働局では、「働き方・休み方改善コンサルタント」による電話相談や個別訪問など、無料で働き方・休み方改善のためのアドバイスを行ってくれます。詳細は、ステーションの所在地の都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)にお問い合わせください。 ▼厚生労働省ホームページ都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧 年休の管理や取得促進に取り組みたいと考える管理者の方は、ぜひこのような労働局のサービスをご活用いただき、上手に働きやすい職場づくりを進めてください。 ** 加藤 明子 加藤看護師社労士事務所代表看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント ●プロフィール看護師として医療機関に在職中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。▼加藤看護師社労士事務所https://www.kato-nsr.com/ 記事編集:株式会社照林社

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第4回 残業・休憩・休日編/[その3]知らぬ間に発生しているかも!? 注意したい、休日労働の割増賃金

休日には、「所定休日」と「法定休日」があることをご存知ですか? この違いは、休日労働の割増賃金にも関わりますので、正しく理解しておくことが必要です。ほかにも、休日を別の日に代える「振替休日」と「代休」にも違いがあります。管理者にとって必須の知識である「休日」の違いについて、今回は詳しく説明していきます。 私の事業所では、就業規則で週休2日制を採用しています。ある週の業務が忙しく、スタッフに2日ある休日のうち1日だけ、働いてもらいました。この場合、働いてもらった1日について、休日労働の割増賃金を支払わなければなりませんか?法律では、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいとされているので、就業規則で法定休日を特定していないならば、休日労働の割増賃金を支払う必要はありません。 休日にも「所定」と「法定」がある 休日には、「所定休日」と「法定休日」があります。 所定休日とは、労働契約上で付与されている休日のことです。質問のケースでは、就業規則で週休2日制を採用しているわけですから、「所定休日」は2日間ということになります。 対して、「法定休日」とは、労働基準法35条で定められた休日のことをいい、同条1項では、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいとされています。 昨今、週休2日制を採用する事業所も少なくありませんが、それは、労働基準法35条が求める最低基準(週休1日)よりも、多くの休日を事業所が自主的に与えているということになります。 このように「所定休日」と「法定休日」というのは別の概念です。そして、休日労働に対する割増賃金(35%増)を支払う必要があるのは「法定休日」です。要するに、「1週間に1日も休ませることなく働かせた場合は、その休日労働に対しては35%増で賃金を支払ってください」ということです。 法定休日を確保できていれば割増賃金は不要 質問のケースでは、就業規則で週休2日制を採用している事業所において、そのうち1日を働いてもらったということです。この点、法定休日は、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいわけですから、設例の場合では、法定休日は確保できていることになり、休日労働の割増賃金を支払う必要はないといえます。 私の事業所では、就業規則で1週間の始まりを月曜日と定めて、日曜日を休日にしています。ある週、容態が急変した利用者様に対応するため、急遽、スタッフに日曜日に出勤してもらいました。ただし、そのスタッフには、代わりに、次の週に1日追加で休日をとってもらっています。この場合、全体でみれば休日の日数は変わらないので、休日労働の割増賃金は不要ですよね?これは「休日の振替」ではなく、「代休」にあたります。その週に1日も休日を与えることができていない場合は、休日労働の割増賃金の支払いが必要です。 「休日の振替」と「代休」は意味が異なる 業務の都合などで、休日とされている日を事前に労働日に変更し、その代わりに、もともとは労働日とされていた別の日を休日にすることがあります。これを「休日の振替」といいます。ポイントは『事前に』という点です。 対して、質問のケースのように、急ぎの対応が必要なため、急遽、もともとは休日であった日に出勤してもらい、事後的に代わりとして、別の日に1日追加で休日をとってもらうということもあります。これを「代休」といいます。ポイントは『事後的に』という点です。 代休では法定休日を確保できないことも 休日の振替は、事前に休日を入れ替えているため、労働基準法35条1項が定める「毎週少くとも1回」の休日を結果として与えることができていることが多くあります。その場合、法律で定められた35%の休日労働割増賃金を支払う必要はありません。対して、代休は、あくまで事後的な対応であるため、例えば質問のケースのように、休日と定めていた日曜日に急遽出勤すれば、その週だけを見ると月曜日から日曜日まで1日も休まずに勤務したことになります。よって、法定休日である日曜日の労働に対して、35%の休日労働割増賃金を支払わなければなりません。 「休日の振替」には正しい運用が必要 休日の振替と代休は、いずれも休日を別の日に代えるという点では共通していますが、休日の振替はそれを「事前」に行うのに対し、代休ではそれを「事後」に行うという点に違いがあります。そして、法定休日を確実に確保するという観点からは、「事前」の対応である休日の振替が適しているといえます。 前回の記事のとおり、休日労働にあたる場合は35%の割増賃金を上乗せして支払う必要がありますので、スタッフの勤怠管理を適切に行えていないと、気づかないうちに割増賃金の未払いといった法律違反につながるおそれがあります。事前にスタッフの労働状況を把握して休日の振替を正しく運用し、それと同時に日頃から無理のない人員配置を心がけましょう。 ○ひとくちメモ○1週間の始まりは何曜日? 質問のケースでは、就業規則で1週間の始まりを月曜日と定めていました。では、そのような規定がない場合、1週間は何曜日から始まって、何曜日で終わるのでしょうか? 多くの人が、「月曜日から始まって、日曜日に終わるんでしょ?」と思うかもしれません。しかし、実は行政解釈では、1週間の始まりは日曜日とされています(昭和63年1月1日基発第1号)よって、質問のケースで、仮に就業規則に週の始まりを規定していなければ、急遽働いてもらった日曜日は1週間の始まりの日とされます。そのため、翌日からの月曜日〜土曜日のうちのどこかで1回休日を与えれば、「毎週少くとも1回」という法定休日は確保できていることになります。 就業規則に何も規定がなければ、この行政解釈が適用されますが、逆に言えば、週の始まりを何曜日にするかは、就業規則で自由に決めることができます。 「週の始まりは何曜日か?」という視点は、実務上は意外に重要です。ぜひ一度、就業規則の規定を確認してみてください。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

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第4回 残業・休憩・休日編/[その2]朝礼や昼休みの電話当番、これって労働時間に入りますか?

前回の記事で、労働時間には「所定」と「法定」があること、「1日8時間・1週間40時間」という法定労働時間を超える残業に対しては、時間外割増賃金を支払う必要があることを説明しました。今回は、休憩時間などの周辺知識を含めて、何が「労働時間」とみなされるのかを具体的に検討します。 私の事業所は9時から始業ですが、実際は、毎朝8時30分にみんなで集まり、その日の業務を確認する「朝礼」を行っています。この始業前の朝礼は、労働時間に含まれますか?朝礼への参加を義務づけていれば、労働時間になります。 使用者の指揮命令下にあるかどうかがポイント 労働時間とは、過去の判例で次のように定義されています。 「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」(三菱重工長崎造船所事件・最高裁平成12年3月9日判決) 少し難しい表現ですが、ポイントは、使用者の指揮命令下にあるかどうかということです。あくまで客観的に判断するため、事業所が「始業時間は9時ですので、その前の朝礼は労働時間ではありません」と勝手に(主観的に)決めることはできません。 参加が義務づけられた朝礼は労働時間 質問のケースでは、仮に、朝礼に参加しなくてもよく、参加が完全に自由であれば、「使用者の指揮命令下」にあるとはいえないでしょう。 しかし、参加が義務づけられていたり、参加をしなければ上司から注意を受けたり、処分を受けたりするといった不利益がある場合には、「使用者の指揮命令下」にあるといえ、朝礼に参加している時間は労働時間になります。 私の事業所では、昼の12時から13時までを休憩時間としています。ただし、休憩時間中に利用者様から電話がかかってくることがあるため、その電話には出られるよう、スタッフに交代で電話当番をしてもらっています。先日、あるスタッフから「電話に出なくてはいけないなら、休憩時間といえないのではないか?」と言われました。電話がかかってくることは多くないので、それほど負担になっていないと思うのですが、これは休憩時間とはいえないのでしょうか?休憩時間とはいえず、法定労働時間になります。 必要な休憩時間を正確に把握しましょう 使用者(事業所)は、一定の休憩時間を労働者に与えることが法律で義務づけられています(労働基準法34条1項)。具体的には、図1に示すように、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、また8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間が必要とされています。ポイントは、「超える」という言葉の意味です。労働時間が8時間ぴったりちょうどの場合は、8時間を「超え」ていませんので、「8時間以内」として45分の休憩を与えればよいということになります。なお、この休憩時間は分割して与えてもよく、例えば1時間の休憩を30分×2回とすることも可能です。 図1 労働基準法上の休憩時間のルール ポイントは、休憩時間は「労働から解放されていなければならない」ということです。法律でも、労働者は、休憩時間を自由に利用できると定められています(労働基準法34条3項)。 休憩中の電話当番は労働時間 ここで質問のケースを振り返ってみましょう。この事業所では、休憩時間中に利用者様から電話があった場合は、当番制でその電話に出てもらうようにしているとのことですが、これはスタッフの立場からすると「電話にすぐに気づけるように、音楽を聞くのはやめておこう」「昼休みの外出はできないな……」というように、休憩時間を自由に利用できなくなってしまいます。そのため、労働から完全に解放されているとはいえず、結果的に電話当番をしている間も労働時間となっています。これは、仮に1本も電話がなかったとしても同じです。 休憩はみんなで一斉にとるの? この事業所の場合、12時から13時まで電話当番をしてもらうスタッフには、この時間帯とは別に休憩時間をとってもらうようにするとよいでしょう。 なお、法律では、休憩は全スタッフに一斉に与えることが原則とされていますが(労働基準法34条2項)、看護事業に関しては、例外的にそのような原則は適用されないこととされています(労働基準法施行規則31条)。そのため、訪問看護の事業所においては、休憩は皆バラバラにとってもよいことになっています。 看護事業に関しては特別な取り扱いが認められていますので、チェックしておきましょう。 上司から指示されているわけではないのですが、業務量が多いため、仕事を自宅に持ち帰ってやらざるを得ません。深夜に上司に対してメールで成果物を提出したりしています。この場合、割増賃金は何ももらえないのでしょうか。事業所が、自宅に持ち帰って仕事をしていることを黙認している場合、労働時間とされ、割増賃金の支払いが必要になることがあります。 使用者の指揮命令下であれば残業代は必要 これまで説明してきたように、労働時間にあたるかどうかは、「使用者の指揮命令下」にあるか否かによって決まります。仕事をする場所が、職場でないといけないという決まりはありません。 上司が、自宅で作業することを指示した場合、それは強制にあたり、仕事をしている時間は労働時間になります。 黙認された持ち帰り残業は労働時間にあたる場合も では、上司からの明確な指示がない場合はどうでしょう。 質問のようなケースでは、上司は、深夜にメールで提出された成果物を受け取っているのですから、スタッフが深夜まで作業をしていることを認識できているといえます。にもかかわらず、深夜の作業は止めるように指導せず、成果物を利用しているならば、結局、その上司は、スタッフが自宅で作業していることを黙認しているといえるでしょう。そのような場合は、作業をしていた時間は労働時間にあたるとされることがあります。そのため、事業所としては、①自宅での持ち帰り残業は「許可制」とし、②仮にスタッフが自宅での持ち帰り残業を事業所の許可なく行っていることがわかった場合は、それを黙認するのではなく、注意して止めさせるべきでしょう。また、スタッフ一人ひとりの業務量を見直すなど、職場環境の整備も必要といえます。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

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第4回 残業・休憩・休日編/[その1]この違いわかりますか? 割増賃金が発生する残業、しない残業

労働時間の管理は、労務管理の『基本中の基本』です。何が労働時間にあたるのかをきちんと理解していないと、法律で定められた残業代(時間外割増賃金)を適切に支払うことはできません。残業代の未払いに気づかず、ある日突然、スタッフからまとめて請求される……というケースも少なくありません。こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、法的に正しい知識を身につけ、日頃からきちんと労働時間を管理しましょう。 私の事業所では、就業時間は9時~17時まで(うち1時間休憩あり)と決まっています。忙しい日にスタッフに18時まで1時間の残業をしてもらった場合、その分の割増賃金を支払う必要はありますか?この場合は法内残業にあたりますので、労働基準法が求める割増賃金の支払いは不要です。  労働時間には「所定」と「法定」がある 労働時間には「所定労働時間」と「法定労働時間」があります。まずはこの違いをしっかりと押さえることが管理におけるポイントです。 まず、「所定労働時間」とは、就業規則や雇用契約書の中で定められた労働時間のことで、始業から終業までの合計時間から休憩時間を差し引いた時間をいいます。所定労働時間は、企業や労働者ごとに自由に決めることができるので、労働契約の内容によってさまざまです。例えば、「9時~18時」と定めているところもあれば、「10時~17時」と定めているところもあるでしょうし、パートについては「13時~17時」としているところもあるでしょう。 対して、「法定労働時間」とは、その名のとおり「法律で定められた=法定」、つまり労働基準法32条で定められた労働時間をいいます。同法で、使用者は、労働者を1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えて働かせてはいけないことになっています。 これを超えて働かせるには、①36協定(※)を締結し、かつ、②労働基準法で定められた割増賃金(時間外労働は原則25%増)を支払う必要があります。 割増賃金の支払いが必要なのは法定外残業 この質問のケースでは、就業時間が「9時~17時、うち1時間休憩あり」なので、所定労働時間は、始業から終業までの8時間から休憩時間の1時間を差し引いた7時間です。 ですので、17時から18時まで1時間の残業を行っても、法定労働時間の「1日8時間」という上限を超えないため、割増賃金を支払う必要がありません。このように、残業はしているけれども法定労働時間内に収まっている残業を「法内残業」といいます。なお、賃金規程などで「法内残業についても割増賃金を支払う」と定めることは自由ですが、定めた場合は、当然その支払いをしなければいけません。 では、19時まで2時間の残業を行った場合はどうでしょうか。この場合、17時から18時までの1時間は法内残業ですが、18時から19時までの1時間は、1日8時間の上限を超えています。このように、法定労働時間を超える残業を「法定外残業」といいます。法定外残業に対しては、労働基準法で定められた25%増の割増賃金を支払う必要があります。 ここまでの内容を図1にまとめましたので、ご参照ください。 図1 所定労働時間7時間の場合の割増賃金 ※36(さぶろく)協定:労働基準法36条(時間外及び休日の労働)に基づく労使協定のこと。使用者が法定労働時間の上限を超えて労働させる場合に必要となる。 ある日、利用者様の体調変化が重なり、とても忙しい日がありました。スタッフのAさんは、午前9時から始業し、昼に休憩を1時間とりましたが、その後、午後11時まで働きました。この場合、13時間労働ということになりますが、割増賃金は1日8時間を超えた分に対して25%増で支払えばよいのですよね?いいえ。午後6時から午後10時までは25%増ですが、午後10時から午後11時までは深夜割増賃金が加算されますので、50%増で支払う必要があります。 割増賃金の3つの種類 割増賃金のしくみをきちんと押さえておきましょう。まず、割増賃金には、①時間外割増(1日8時間、1週間40時間超えの労働)、②休日割増(法定休日における労働)、③深夜割増(午後10時から午前5時までの労働)の3種類があります。それぞれの割増率は図2に示したとおりです。 図2 時間外労働、休日労働、深夜労働の割増率 時間外労働が1か月60時間を超える場合は、時間外割増は50%増となることに注意(ただし、中小企業は2023年4月1日以降から適応) 深夜労働が重なると割増賃金は50%増に 注意しなければいけないこととして、深夜労働の割増賃金は、時間外労働と休日労働の割増賃金に『加算される』ということです。下の図3をご覧ください。 図3 深夜労働と重なった場合 深夜労働をするという時点で、すでに1日8時間の法定労働時間は超過していることが多いですから、深夜に行われた作業に対しては50%増(25%+25%)の割増賃金を支払うことがしばしばあります。事業所としては、スタッフの健康のためのみならず、人件費抑制の観点からも、深夜の作業は可能な限り控えてもらうように指導したほうがよいでしょう。 なお、労働時間の管理については、厚生労働省が出している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 」が参考になります。厚生労働省のホームページから誰でもアクセスすることができますので、ぜひ、ご参照ください。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

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