初めての訪問看護に関する記事

小児に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
小児に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2026年1月13日
2026年1月13日

小児に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

小児の場合、居住地や条件に応じて乳幼児・義務教育就学児を対象とした医療費助成制度や、小児慢性特定疾病医療費助成制度などの対象になります。今回は、訪問看護師が知っておきたい小児の主な医療費助成制度について整理します。 ※本記事は、2025年4月時点の情報をもとに構成しています。 まずは、都道府県・市区町村が実施している子どもの医療費助成制度についてです。 自治体の助成で小児医療費の自己負担が軽減 医療機関受診時の自己負担は、義務教育就学前(未就学児)までは2割、義務教育就学後(小学生以上)は3割ですが、実際には各自治体が発行する「医療費受給者証」と保険証を窓口で提示することで、自己負担額の支払いが援助されます。 自治体によっては「無料」の地域もあれば、1回300円や500円など定額の負担が求められる地域もあります。また、所得制限の有無や対象となる年齢もさまざまで、高校生まで医療費が無料となる自治体も増えています。居住する都道府県を越えて医療機関を受診した場合は、いったん窓口で自己負担分の医療費を支払い、後日、領収書を添付し居住する自治体に申請することで助成が受けられます。 ただし、この助成制度は、医療保険上の自己負担が対象であり、選定療養費(差額ベッド代や紹介状なしの受診など)に当たるものは対象外です。また、居住する地域により支援内容に差があるため、自治体に確認する必要があります。 * * * 小児の医療費助成制度には、一般的な助成だけでなく、長期的・継続的な医療が必要な子どもや、障害のある子どもへの専門的な制度もあります。今回は、小児慢性特定疾病の医療費助成と更生医療、育成医療について解説します。これらの制度の基本を押さえておきましょう。 慢性的な疾患のある小児への支援:小児慢性特定疾病医療費助成制度(公費番号:52) 小児慢性特定疾病医療費助成制度は、小児がんや腎疾患、呼吸器疾患など、特定の疾病に対して医療費の一部を助成する制度です。この制度の対象となるのは、以下の4つの条件を満たす18歳未満の児童です。  1.慢性に経過する疾病であること2.生命を長期に脅かす疾病であること3.症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること4.長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること文献1)より引用 なお、2025年4月1日より対象となる疾病が拡大され、801疾病になりました。対象疾病の詳細は、小児慢性特定疾病情報センターのウェブサイトから確認できます。>>小児慢性特定疾病情報センター:小児慢性特定疾病の対象疾病リストhttps://www.shouman.jp/disease/search/disease_list 自己負担上限額について この制度では、表1に示すように世帯の所得に応じて、自己負担上限月額が決まっています(0円~15,000円)。 表1 小児慢性特定疾病医療の自己負担上限月額 ※重症:(1)高額な医療費が長期的に継続する者(医療費総額が5万円/月(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円/月)を超える月が年間6回以上ある場合)、(2)現行の重症患者基準に適合するもの、のいずれかに該当。文献2)より引用 小児の医療費は自己負担額がない場合が多いですが、図1のとおり、高額療養費制度を適用した後、自治体が小児慢性特定疾患の自己負担上限額を自治体が負担する、という流れです。 なお、訪問看護には直接関係しませんが、入院時の食事療養費は2分の1が助成されます。 図1 月額医療費の自己負担のイメージ 障害のある子どもへの支援:更生医療(15)・育成医療(16) 小児慢性特定疾病とは別に、心身の障害を除去・軽減するための医療に対しても助成があります。それが「自立支援医療制度」であり、「精神通院医療」「更生医療」「育成医療」の3種類があります。 精神通院医療:統合失調症やうつ病などの精神疾患(てんかんを含む)により、通院による精神医療を継続する必要がある方を対象に、医療費の自己負担を軽減する制度。 更生医療:身体障害者手帳を交付された18歳以上の方が対象。その障害を除去・軽減する効果が期待できる医療*の一部費用を助成する制度。 育成医療:身体障害がある、または現存する疾患を放置すると将来障害を残すと認められる18未満の児童が対象。その障害を除去・軽減する効果が期待でき、生活能力を獲得するために行われる医療*の一部費用を助成する制度。 * 対象となる医療について:障害認定を受けた障害のために行われるものであり、身体障害者の疾病に伴うすべての医療を対象とするものではない。対象となる障害と標準的な治療の例は厚生労働省や各自治体のサイトを参照のこと。 訪問看護では、特に更生医療と育成医療を利用しているお子さんに出会う可能性があると思います。 自己負担上限月額について この制度でも、世帯の所得区分によって表2に示すように自己負担額の上限月額が設定されています(0円~20,000円)。育成医療の「中間所得1」「中間所得2」については、総医療費の1割または高額療養費(医療保険)の自己負担限度額までと定められており、軽減措置がとられています。また、一定所得以上の場合、更生医療・精神通院医療・育成医療ともに対象外となっています。 表2 自立支援医療の自己負担上限月額 文献3)を参考に作成 訪問看護ステーションの制度対応 今回紹介した制度における助成を受けるためには、訪問看護ステーションが制度ごとに定められた「指定医療機関」であることが求められます。 小児慢性特定疾病制度の場合は「指定小児慢性特定疾病医療機関」、自立支援医療制度の場合は「指定自立支援医療機関(育成医療・更生医療)」(精神通院医療は別の手続きが必要)の申請が必要です。訪問看護ステーションとして登録されると、指定番号が割り振られます。 訪問看護の利用者は高齢者の方が多い傾向にありますが、近年では新生児医療の進歩や医療的ケア児の増加といった社会的背景を受け、小児の訪問看護の依頼も増えつつあります。訪問看護を利用する小児患者さんに対応するために、助成についての理解を深め、忘れずに施設の届出だけはしておいてください。  執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある編集:株式会社照林社 【文献】1)小児慢性特定疾病情報センター:概要.https://www.shouman.jp/assist/outline2025/4/25閲覧2)小児慢性特定疾病情報センター:小児慢性特定疾病の医療費助成に係る自己負担上限額.https://www.shouman.jp/assist/expenses2025/4/25閲覧3)厚生労働省:自立支援医療の患者負担の基本的な枠組み.https://www.mhlw.go.jp/content/001507772.pdf2025/4/25閲覧

高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2025年11月25日
2025年11月25日

高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

高額療養費制度は、医療費が高額になり、患者さんの経済的負担が大きくなる状況を防ぐための重要な制度ですが、内容が複雑で分かりにくい点があります。今回は、同制度の基本的な知識や訪問看護におけるレセプト処理に関する注意点について解説します。 ※本記事は、2025年4月時点の情報をもとに構成しています。 高額療養費制度とは 高額療養費制度は、患者さんが支払う医療費が一定の限度額を超えた場合に、その超過分を保険者が負担してくれる制度です(図1)。本来の自己負担額に対し、高額療養費として払い戻しを受けられるため、患者さんの負担が際限なく増えないしくみになっています。金銭的な理由で治療を中断することがないようにするのが高額療養費制度なのです。 訪問看護の場合、訪問回数が多くなれば、当然患者さんの自己負担は増えます。ターミナル期であれば毎日訪問することもあるため、訪問看護療養費(医療保険)の請求額が数十万円を超えてしまうケースもあります。患者さんの自己負担額が3割であってもかなり重い負担といえます。このような状況で、高額療養費制度がどのように患者さんを支援するのかを理解しておくことが重要です。 図1 高額療養費制度のしくみと自己負担上限額の考え方例)70歳以上、年収約370~770万円の場合(3割負担)  高額療養費制度と年齢区分 高額療養費制度は、年齢や所得に応じて負担限度額が異なります。年齢区分別に制度内容を説明します。 70歳未満の場合(表1) 70歳未満の患者さんの場合、自己負担額は所得区分(ア~オ)に応じて異なります。例えば、所得区分「ア」の場合、自己負担限度額は252,600円で、その後は医療費の1%が負担されます。具体的には、所得区分ごとに上限額が設定されており、表1に示すように、自己負担額が段階的に減少します。 なお、表内の「多数該当」については後ほど説明します。 表1 70歳未満の上限額 *1 標準報酬月額とは被保険者が受け取る給与の総支給額のこと*2 報酬月額とは一定の幅で1から50等級が区分されている。報酬月額の票により保険料が定められている。 70歳以上75歳未満の場合(表2) 70歳以上75歳未満の患者さんは、現役並み所得者(現役並みⅠ・Ⅱ・Ⅲ、一般所得、低所得)や一般所得者、低所得者で区分が分かれます。例えば、一般所得者の自己負担限度額は18,000円で、低所得者は8,000円です。 表2 70歳以上75歳未満の上限額 75歳以上の場合(表3) 75歳以上の患者さんは、基本的に70歳以上75歳未満の場合と同じですが、「一般所得」がⅠとⅡに分かれます。一般所得Ⅰは1割負担、Ⅱが2割負担です。 表3 75歳以上の上限額 高額療養費は月単位で負担軽減 高額療養費は月単位で自己負担額が軽減されます。また、さらに負担を軽減する「多数該当」と「世帯合算」というしくみがあります。 多数該当:12ヵ月の間に3回以上高額療養費の支給があった場合、4回目以降の自己負担額がさらに下がる制度。 世帯合算:同じ医療保険に加入している家族が、同じ月にそれぞれの自己負担額が21,000円以上の場合、自己負担額が下がる制度。 訪問看護におけるレセプト処理の注意点 訪問看護ステーションで「高額療養費」と聞いて思い浮かぶのは、レセプト(請求)についてではないでしょうか。レセプトの「特記事項」欄や「負担金額」欄の記載ミスが原因で、レセプトが返戻となってしまうことがあります。訪問看護ステーションで導入しているシステムによっては、これらの欄を手動で入力しなければならないため、返戻となるケースが少なくないかもしれません。 高額療養費に関わるレセプトの記載では、特記事項欄に記載が必要な場合に何を記載しなければならないのかを押さえておきましょう。 高額療養費については「限度額適用認定証」を提示され、高額療養費が現物支給された場合に、「特記事項欄に対象となる区分を記載すること」と覚えておいてください。特記事項欄には、この記事の表1~3に示した「26区ア~30区オ」のいずれかを入力します。ただし、75歳以上のみ「一般Ⅰ」と「一般Ⅱ」が「41区カ」と「42区キ」になります。 また、70歳以上75歳未満、75歳以上の「30区オ(低所得者)」の場合は、「備考」欄に「低所得Ⅰ」または「低所得Ⅱ」の記載が必要です。 高額療養費制度のこれから 2025年に高額療養費の負担上限額の引き上げが国会で議論されましたが、いったん見送りとなりました。国民医療費の増加が社会保障費の大きな負担となっている現状において、患者さんの自己負担の増加が受診の抑制につながる可能性があるとの指摘もあります。今後も高額療養費制度については議論が重ねられると思いますので、制度変更について注視していく必要があります。   執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある編集:株式会社照林社 【参考文献】○厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から).https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf2025/4/17閲覧

第3回みんなの訪問看護アワード 投稿エピソードを深掘り【特別トークセッション 後編】
第3回みんなの訪問看護アワード 投稿エピソードを深掘り【特別トークセッション 後編】
インタビュー
2025年5月20日
2025年5月20日

第3回みんなの訪問看護アワード 投稿エピソードを深掘り【特別トークセッション 後編】

2025年3月8日(土)に、東京駅からすぐのイベントホール「My Shokudo Hall & Kitchen」にて開催した「第3回 みんなの訪問看護アワード」表彰式。ファシリテーターに特別審査員の長嶺由衣子さんを迎え、受賞者の皆さんとトークセッションを開催しました。後編では、エピソード投稿のきっかけや書ききれなかった想いを深掘りしていきます。 >>前編はこちら第3回みんなの訪問看護アワード 訪問看護師になった理由【特別トークセッション 前編】 【ファシリテーター】長嶺 由衣子(ながみね ゆいこ)さん東京科学大学 公衆衛生学分野 非常勤講師【登壇者】有川 美紀(ありかわ みき)さん八幡医師会訪問看護ステーション(福岡県)「みんなの訪問看護アワード2025」入賞投稿エピソード「訪問看護の『正解』とは」松橋 久恵(まつはし ひさえ)さん株式会社メディハート 訪問看護ステーションそら(東京都)「みんなの訪問看護アワード2025」入賞投稿エピソード「私たちの足跡は残さない」 服部 景子(はっとり けいこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)「みんなの訪問看護アワード2025」審査員特別賞投稿エピソード「意思疎通、出来ます。」 ※以下、本文中敬称略※本記事は、2025年3月時点の情報をもとに構成しています。 『正解』に悩みながらも、再び前を向く 長嶺: ここからは皆さんのエピソードを深掘ってディスカッションしていきたいと思います。まずは有川さんから、どうしてこのエピソードを投稿しようと思ったのですか? 有川: はい。エピソードを投稿するときは、ちょうど利用者のNさんが亡くなられて間もないタイミングで、「本当にこの関わりで良かったのだろうか」とモヤモヤを抱えていました。そんな時に投稿をすすめていただいたので、エピソードにまとめてみることにしたんです。 長嶺: ALS(筋萎縮性側索硬化症)は人によって経過が大きく異なりますし、関わり方に悩む訪問看護師さんも多いと思います。交流会に「絶対に行かない」と言われた時は、どのようなアプローチをされたのでしょうか。 有川: 交流会の話が出る前から、Nさんは「やりたいことは全部やったから」とおっしゃり、外出には消極的で、寝たきりの時間が増えていました。でも、私たちがサポートに入れば、近所へのお花見や奥様との外出も十分に可能な状態だったので、「まだまだ目標を持てるのに……」と思っていたんです。そこで私は「どうして行きたくないのか」を、利用者さんの気持ちに寄り添いながら丁寧に聞いていきました。すると、車椅子での移動やお手洗いのことなど、外出時の不安を教えてくださいました。 それからは、リハビリスタッフとともに利用者さんの不安を一つひとつ解消していきました。スタッフが会場の下見をし、Nさんと車椅子選定をして、当日のスケジュールも綿密に決めていきました。最終的には奥様の後押しもあって、ご参加いただけることになったんです。 長嶺: 専門職から見たら、「まだまだできることがある」と評価し、支援したくなる気持ちと、ご本人の意欲が乖離している場合、アプローチすることは医療者のエゴなのでは……と悩むこともありますよね。有川さんは、リハビリスタッフとともに信頼関係を築き上げ、丁寧に利用者さんの不安を解消していったのだろうと思います。交流会参加後は、利用者さんやご家族にどのような変化がありましたか? 有川: 参加直後はNさんもご家族もとても喜んでくださり、私たちも嬉しく感じていました。しかしその後、利用者さんが涙もろくなったり、「息が苦しい」と訴えたりすることが増え、体調を崩されてしまい……。私の中では悔いが残っています。エピソードタイトルにもあるように「訪問看護の『正解』とは」を改めて考えるきっかけになりました。でも、奥様のあたたかな声かけによって「よし!また頑張ろう」と前向きになることができ、今後より良い看護をしていくための原動力になっています。 長嶺: 私もALSの方と向き合う時は、常に「関わり方」を問われているように感じます。貴重なご経験を共有いただきありがとうございました。 家族を想い続けた利用者さんの気持ちを代筆 長嶺: 続いて松橋さんは、若年性のがんを患われた女性のエピソードを投稿してくださいました。投稿のきっかけを教えてください。 松橋: 私は、以前から亡くなった方についてノートにまとめて振り返りをしてきたのですが、ノートに書き留めていた彼女のことがまっさきに思い浮かんだんです。彼女は訪問に伺っても、つらいことや症状について話すのは始めの10分程度。残りの時間はずっとご家族の話をしてくださいました。そんな彼女の言葉が次々と頭に浮かんできたので、このエピソードを書くことにしました。 長嶺: いつもご家族の話を聞かせてくださっていたんですね。利用者さんのご家族が幼い場合、闘病の様子をあえて見せる場合と、見せない場合とがあると思うのですが、今回はどういう経緯で隠すことになったのでしょうか? 松橋: あえて「隠す」というよりも、彼女のお話やご自宅の様子から、自然と私たちの足跡は残さない結果になったんです。お部屋の中はお子さんたちの描かれた絵でいっぱいでしたし、彼女は「平然と生きていたい」とおっしゃっていました。ご家族の前では平然としていたい。けれども平然とできないこともあり、そうした部分を私たち訪問看護でサポートするために、自然と足跡を残さない看護をすることになりました。 長嶺: そうだったんですね。お薬をファイルにセットしてさらに本棚に入れるというアプローチも素晴らしいと思ったのですが、なぜそのアイデアに至ったのでしょうか? 松橋: 彼女はどんな薬か一つひとつ確認してから飲みたいとおっしゃっていましたが、お薬カレンダーに入れてしまうと、それが難しくなります。また、お子さんたちの素敵な絵がいっぱいのお部屋にお薬カレンダーを飾るのは相応しくないと感じました。ファイルなら、月曜の朝の薬はこれ、夜の薬はこれ、火曜日は……とページごとにファイリングして、彼女自身も薬の内容を確認しながら飲むことができますので、その方法を活用していました。 長嶺: 非常に勉強になりました。お手紙は松橋さんが代筆されたとのことですが、どんな風に書いていったのでしょうか? 松橋: 彼女はいつも、お子さんの名前の由来やご主人との馴れ初め、大切にしているご友人とのエピソードなどを楽しそうに話してくださったんです。だから、私の頭の中には、彼女の言葉がまるで録音テープから流れるようにすーっと出てきたので、その言葉をそのまま書いたという流れです。病状が進む中で、書きたい気持ちはあるものの「書く気になれない」とおっしゃったので、私が書いてよいか確認した上で、代筆しました。 長嶺: 訪問看護ならではの素敵なエピソードをありがとうございました。 「困難事例」といわれたケースへのアプローチ方法 長嶺: 続いて服部さん、エピソードを投稿しようと思ったきっかけを教えていただけますか? 服部: はい。トシ子さんは、当初「困難事例」と言われていましたが、次第に表情が柔らかくなり、できることが増えていきました。所長やケアマネジャーさんたちからも「トシ子さん、すごく変わったね!」と言われ、ぜひ皆さまにもこのエピソードをお伝えできればと思い、投稿しました。 長嶺: このエピソードを読んで、まさに看護のプロフェッショナリズムだと思いました。服部さんのような看護師さんとご一緒させていただくと、私たち医師もすごく助けられる場面が多いと思います。「意思疎通不可」「サービス利用をさせてもらえません」と言われる方は少なくないと思いますが、どうアプローチされていますか? 服部: 私自身も病院で勤めていた時には、サマリーの入力欄に『意思疎通「可」「不可」』のチェック項目しかなく、乱暴な共有をしていたと反省しています。だからこそ、実際に伺ってみて、利用者さんから何を求められているのか、何ができて何ができないのかという情報整理から始めています。 長嶺: 私も自分の目でご本人の状態を確認するところから始めますが、後からサマリーを見返すと「意思疎通不可」と書かれていて、自分のアセスメントとのギャップを感じることがあります。「困難事例」といわれているケースについて、どう思いますか? 服部: 利用者さん自身が困難なのではなく、それを受け取る「私たち」が困難なのかなと思っています。 長嶺: 確かに、「困難」と感じる側の課題であることは多分にありますね。体制の問題もありますが、私たちがどれだけ人を受け入れるキャパシティがあるかどうかというところにかかっているのではないかと思います。 今回のエピソードでは、スタートからどれくらいの期間で利用者さんのSOSに気付くことができたのでしょうか。 服部: これまでの経験上、お通じが整っていないとさまざまなトラブルが起こる印象があり、実は始めから「お腹が原因ではないか」とは思っていました。ただ、当初はバイタルサイン測定もお腹を触ることも難しい状態でした。 そうした中、4回目の訪問に伺うと、私がご自宅に入る前にトシ子さんが娘さんに大声をあげている声が聞こえてきたのです。「これは訪問看護やデイサービスが嫌だからではなく、娘さんに何かSOSを発しているのでは?」と感じました。そこで、娘さんに「これは感情失禁や認知症ではなく、何か意味があるはず」とお伝えすると、「実は私もそう思ってるんです!」と笑顔を見せてくださいました。娘さんの緊張が解れた様子をトシ子さんもしっかりと見ていて、その後から急にトシ子さんが私と目を合わせて「ううん!!」と声をあげてくださるようになり、エピソードに書いた流れでお腹のSOSに気付けました。娘さんの心のバリアを解す声かけができたことが、その後のスムーズなケアに繋がったのではないかと自分では考えています。 長嶺: 私も経験上、「困難事例」と言われている方の中には、「食事」「排泄」「睡眠」のどれかがうまくいっていないだけで、それを改善するとみるみる状態がよくなることが多いなという印象があります。 皆さん、本日は本当に学びになるお話をありがとうございました。 執筆: 高橋 佳代子取材・ 編集: NsPace編集部

第3回みんなの訪問看護アワード 訪問看護師になった理由【特別トークセッ
第3回みんなの訪問看護アワード 訪問看護師になった理由【特別トークセッ
インタビュー
2025年5月13日
2025年5月13日

第3回みんなの訪問看護アワード 訪問看護師になった理由【特別トークセッション 前編】

2025年3月8日(土)に、東京駅からすぐのイベントホール「My Shokudo Hall & Kitchen」にて開催した「第3回 みんなの訪問看護アワード」表彰式。表彰、特別トークセッション、懇親会などを行い、会場は大いに盛り上がりました。ここでは、特別トークセッションの内容をピックアップしてお届けします。 ファシリテーターに特別審査員の長嶺由衣子さんを迎え、訪問看護の道に進んだ理由ややりがい、エピソードを投稿したきっかけや背景などを3名の受賞者の皆さまにお話しいただきました。前編は、訪問看護の道に進んだきっかけややりがいについてのお話です。 【ファシリテーター】長嶺 由衣子(ながみね ゆいこ)さん東京科学大学 公衆衛生学分野 非常勤講師【登壇者】有川 美紀(ありかわ みき)さん八幡医師会訪問看護ステーション(福岡県)「みんなの訪問看護アワード2025」入賞投稿エピソード「訪問看護の『正解』とは」松橋 久恵(まつはし ひさえ)さん株式会社メディハート 訪問看護ステーションそら(東京都)「みんなの訪問看護アワード2025」入賞投稿エピソード「私たちの足跡は残さない」 服部 景子(はっとり けいこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)「みんなの訪問看護アワード2025」審査員特別賞投稿エピソード「意思疎通、出来ます。」 ※以下、本文中敬称略※本記事は、2025年3月時点の情報をもとに構成しています。 訪問看護師を志したきっかけややりがいは? 長嶺: 本日は、訪問看護師の皆さまが抱える心配事や葛藤にまつわるエピソードをピックアップし、それらのエピソードを投稿してくださった三名の受賞者の方々とお話ししていければと思っています。まずは自己紹介をお願いします。 有川: 福岡の北九州市から来ました「八幡医師会訪問看護ステーション」の有川美紀と申します。私の働く地域は高齢化率が35%を超えているのですが、山の麓にあって、とにかく階段がたくさんある地域です。家の前まで車で行けないようなお宅もたくさんあります。7年ほど大学病院で働いた後に訪問看護師を15年ほどやっています。よろしくお願いします。 松橋: 東京の「訪問看護ステーションそら」の松橋久恵と申します。私は20年病院で勤めていましたが、家庭の都合で退職して訪問看護師になりました。2024年まで感染管理認定看護師としても活動していました。どうぞよろしくお願いします。 服部: 北海道から参りました「訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう」の服部景子と申します。私は看護師歴25年で、うち訪問看護師歴は12年ほどになります。よろしくお願いいたします。 利用者さんと膝を突き合わせ、心を通わせる 長嶺: よろしくお願いします。では、皆さんが訪問看護の道に進んだ理由を教えてください。 有川: 私は、実は学生時代の実習のころから訪問看護の仕事にとても魅力を感じていたんです。病院実習に泣きながら通っていたということもありますが……。「訪問看護っていいな」「いつかやりたいな」と思っていたので、出産を機にこの道に進みました。さまざまな課題を抱えている地域ではありますが、日々前向きにお仕事をさせてもらっています。 長嶺: ありがとうございます。松橋さんは20年病院勤めをされてから訪問看護に移られたのですね。どうして訪問看護師になったのですか? 松橋: はい。家庭の都合で病院を退職することになり、次の仕事でも感染管理の経験を活かそうと思ったのですが、改めて「どんな仕事をすると楽しいかな」とじっくり考えた時に、訪問看護の世界が頭に浮かんだんです。 訪問看護の魅力は、利用者さんの暮らしの中に入り込み、「生活」と「看護」が並行し、互いに影響し合いながら進んでいく点にあると思います。これまで得られなかった体験が日々積み重なり、人としての経験値も深まっていくのを感じます。そうした環境で、その人らしく過ごせるよう支援しながら看護を届けられることに、大きなやりがいを感じています。 長嶺: ありがとうございます。服部さんは、今回三度目の受賞ですね。訪問看護を始めたきっかけを教えてください。 服部: はい。私は、急性期の病院で働いていた際、「今と違うステージで働いてみたいな」と思った時に、本屋さんで一冊の本に出会ったことが訪問看護を始めるきっかけになりました。聖路加病院の押川真喜子先生が書かれた『在宅で死ぬということ』という一冊なのですが、本当に感動して……。「家で死ぬってすごくいいな」「自分の家族も家で看取りたいな」と思ったんです。それで「訪問看護やってみよう!」と決意しました。 訪問看護は、利用者さんやご家族と膝を突き合わせて、じっくり対話を重ねながら信頼関係を築いていくことができると感じています。利用者さんとご家族と一緒に悩んだり、悲しんだり、喜んだりする日々にやりがいを感じています。 長嶺: 利用者さんやご家族とじっくり関係を築いていけるのも訪問看護ならではの魅力ですね。ありがとうございます。 * * * 次回は、エピソードを投稿したきっかけやその背景を深掘ります。エピソードには書ききれなかった想いやその後の利用者さんの様子などを語っていただきます。 >>後編はこちら第3回みんなの訪問看護アワード 投稿エピソードを深掘り【特別トークセッション 後編】 執筆:高橋 佳代子取材・編集:NsPace編集部 【参照】〇日本医師会.『JMAP地域医療情報システム』「福岡県 北九州市八幡東区」https://jmap.jp/cities/detail/city/401082025/5/9閲覧〇北九州市「各区の高齢者人口・高齢化率比較」(令和6年4月1日現在)https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/001111766.pdf2025/5/9閲覧

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年4月22日
2025年4月22日

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】

2025年1月23日に実施したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」。聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生をお招きし、新任訪問看護師の戸惑いをテーマに講演いただきました。セミナーレポート後編では、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みなどをまとめます。 ※60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護業界全体の育成の課題 業界全体の教育における課題には、以下のようなものがあります。 即戦力人材の減少 訪問看護が急拡大したのは、介護保険制度が始まり、ステーションが増えた2000年からです。当時は、再就職を考えている、もしくはブランクがある病院出身の看護師を即戦力として採用するのが一般的でした。しかし、病院の機能分化が進み、入院期間も短くなるにつれて、「生活を支援する」という視点で即戦力となれる看護師は、ほとんど見かけなくなっています。 育成体制が追い付いていない 人手も資金も時間も限られているステーションでは、育成体制を十分に整えることが難しいといわれています。 「病院や病棟の色」がついた看護師の増加 訪問看護に求められるのは「看護師基礎教育で学んだ内容」であり、特別に学ぶことはほとんどありません。しかし、例えば急性期医療の経験があると、安全や感染の知識に偏って重きを置いてしまうケースも。その結果、訪問看護の現場でギャップに苦しみます。 事業所の育成力 もちろん個人差がありますが、ベテラン訪問看護師はノウハウや思考の言語化が苦手な傾向があり、新任者にうまく伝わらないケースが多いです。 こうした訪問看護業界の現状をふまえ、新任者には「自分が先輩も新人もお互いに学べる職場を作る」という意識をもってもらえるとありがたいです。また、「訪問看護」と一口にいっても、事業所ごとに性質は異なります。新任者にとっては、入職したステーションの性質とやりたいことが合わないと、つらさの一因になるでしょう。訪問看護ステーションの内実がわかりづらい点も業界の課題であり改善が必要ですが、新任者の方は、就活中も入職後も時間をかけて慎重に見極めてください。 東京ひかりナースステーションの取り組み 訪問看護師の育成では、知識・技能・態度が重要です。そこで、東京ひかりナースステーションでは、以下の取り組みを実践しています。 知識の支援 レベル別の知識テスト(基本知識、特定の利用者さんを担当する際に必要な知識など)を実施。正解を伝えるだけでなく、足りない知識の勉強方法も解説します。 技術の支援 爪切りや巻き爪のケア、胼胝と鶏眼の処理、スキンテアの対処法など「病院では頻度が低いけれど訪問看護ではよく実践する技術」をリスト化し、演習を行います。演習は訪問予定に応じて都度実施し、「忘れてしまった」ということがないようにします。 態度や姿勢の支援 態度や姿勢を支えるのは、「考え方や行動の指針」です。正解はないので、各ステーションで「何を大切に看護するか」を考えてください。 なお、当ステーションでは毎週2時間のミーティングを行い、お互いのケースについて相談し合います。全員が自分ごととして考え、行動レベルのプランを協力して構築。態度や姿勢を言葉で伝えるのは難しいですが、実例を挙げて対話し、「自分たちが大切にしたいこと」を共通認識にしていくと、自ずと行動指針ができてきます。 普遍的な訪問看護の行動指針 ステーションごとに指針を確立し、共有することが重要とお話ししましたが、一方で「訪問看護の普遍的な考え方、行動指針」もあると思います。 利用者さんが暮らすこと、生きることを支援する 「生きる」は「命がある」だけを指すのではなく、生きがいや役割をもつことも含みます。1秒でも長く生きられるように支援するだけでは、十分とはいえないでしょう。また、暮らしに焦点を当てるからこそ、短期目標に加えて超長期目標を立てることも特徴です。数年先の暮らしを想像しながら看護を展開します。 セルフケアの維持・向上を目指す 訪問看護師の多くは、自分ではなく「利用者さん」を主語にしてケアを語ります。例えば「(私が)患者を立たせる」とはいわずに「(支援したら)患者が立った」と表現するのは、利用者さんの能動的・自律的な行動を支援したいと考えているからでしょう。 利用者さんごとに正常・異常を判断する 訪問看護師のアセスメントの基準は、「前回訪問時の利用者さんの様子や個々人にとっての正常」です。病院では驚かれる数値でも、訪問看護師は利用者さんの軌跡をふまえて評価します。 利用者さんを含めたチームでアプローチする 訪問看護師は、利用者さんの目標に向かってチームでアプローチします。ポイントは、「チーム」に利用者さんやご家族も含まれること。ご本人やご家族が行動しないと目標を達成できませんし、彼らが最も真剣に目標と向き合っていることをわかっているからこその考え方です。 また、訪問看護師だけでは何もできないことを理解し、多職種やフォーマル、インフォーマルを含めたチームでの協働を目指します。そして、そのために必要な合意や情報共有を大切にしています。 * * * 訪問看護は地域医療において重要な役割を担い、その支え手である看護師の育成と意識づけは欠かせません。より良い看護を提供できる環境を整えるためには、皆で成長できる環境を目指すことが大切です。新任者の皆さまも、より良い職場を作るために積極的にアプローチしていく姿勢で臨んでいただけたら幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年4月15日
2025年4月15日

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】

2025年1月23日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」を開催。新任訪問看護師の戸惑いをテーマに、聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生にお話を伺いました。セミナーレポート前編では、新任者の悩みと、それらを解消するサポート方法を紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護入職者の一般的な戸惑い・困難感 訪問看護師が感じる戸惑いや困難感に関して、いくつかの研究をもとに、以下のように分類しました。 ■個人の課題(仕事がうまくできない情けない思い)・知識や技術の不足・単独訪問の判断の難しさと責任・時間内にケアが終わらない など■場やシステムの課題、職場全体で取り組むべき問題・勤務体制(24時間対応、休みのとりにくさ)・(薬剤を含む)医療データが少ない、かつ入手が困難・他職種連携(これまで関わったことがない職種との連携) など■訪問看護特有ではない問題・職場内の人間関係・家庭との両立 など文献1)-3)の結果を集約 私が問いたいのは、「これらの問題は本当に『問題』なのか」ということです。例えば、ベテラン訪問看護師の多くは「介護保険制度や医療保険制度の理解は追い追いで良い」と話します。 また、単独訪問の判断の難しさと責任については、考え方を変える必要があるでしょう。訪問看護では、「患者の管理」を行うのではなく「ケアの管理」をします。患者管理をしようとすると、判断することや責任を負うことがつらくなってしまうでしょう。具体例として、訪問看護師が「この利用者さんは次回の訪問まで転倒しない」と判断することはできませんよね。「転ばせない」ことを主軸に患者管理をしようとすると、訪問の後も不安感が募ってしまうのです。それよりもちゃんと動けるケア、転んだらどのように起き上がるのかを考えるほうが良いです。 さらに、時間内にケアが終わらないのも新任者なら当たり前のことであり、問題ありません。技術は経験を重ねることで向上します。まずはそのことを上司や同僚に相談しましょう。 誤解されがちな「現場での判断のあり方」 「訪問看護師は一人で現場に行き、判断する」と考えている方もいますが、これは誤りです。テクノロジーの発達により、現場で個人が判断する時代は終わりました。例えば、利用者さんの体に新しい傷があれば、共有アプリに写真をアップロードし、先輩やドクターにその場で処置方法を確認できます。 また、私は訪問看護の最大の強みは、利用者さんと一緒に判断できることだと考えています。「私は看護師としてこのように判断しましたが、いつもどのように対処していますか?私はこの対応が良いと思いますが。」と利用者さんにぜひ尋ねてみてください。本来、医療やケアの選択は、利用者さんご自身が最も強い決定権をもつものです。 ただし、自分で判断するのが難しい利用者さんには噛み砕いて伝えたり、過去の記録に基づいて検討したりすることは必要です。 先輩看護師のフォローについて ここからは、主に新任者本人ではなく、サポートする先輩看護師に向けてお話しします。新任訪問看護師が一人で訪問するようになった際、「電話があるから大丈夫」「カメラがあるから大丈夫」ではなく、適切なフォローをすることが大切です。 例えば、よく言われる「何かあったら言ってね」という言葉は、一見親切そうで、実はとても不親切。新任者はその「何か」を判断できないからこそ困っているのです。 「どう?何か気になることはある?」「特に問題がなくても、訪問終わる前に連絡してね」といった積極的な声かけが大切です。新任者が自信を持って判断できるようになるまで、少ししつこいくらいに寄り添う(やりすぎかどうかは本人に聞いてくださいね)ことが、本当の支援につながります。 アンラーニングについて 訪問看護の新任者の葛藤を理解するためには、「アンラーニング」への理解も不可欠です。アンラーニングとは、既存の知識や価値観を捨て、新たに学び直すことを指します。 新任者は、前の職場の価値観を新しい職場で少なからず捨てるものがあります。捨てて新しい価値観を受け入れる過程では、苦しさを感じ、その気持ちを怒りとして表すことがあります。「このやり方は間違いだ」「前の職場ではこうしていた」と主張したり、悶々としたりといった具合です。受け入れる側には、その苦しみを理解するとともに、現在の職場の価値観を言葉にすることが求められます。サポーティブに関わることを意識しましょう。 なお、こうした苦しみは、キャリアを積んだ方でも感じます。なぜなら、看護理論家のパトリシア・ベナーさんもおっしゃっている通り、「経験がない部門に移れば、誰もが初心者になる」から。そして、初心者は行動指針やルールが分からず、状況に応じた行動ができないので、職場のローカルルールや大事にしていることを伝えてくださいね。 実践の原則を学ぶポイントは「経験の質」 初心者の成長に必要なのは、時間ではなく「経験の質」です。 経験学習のコツ経験すれば理解するのではなく、その経験にどんな意味があったのか、なぜそうなったのかを振り返り次に活かす。その振り返りは、なぜそうなったのかが分かるベテラン先輩が支援すべし! 「経験による学習」をうまくできない方は多く、周りが支援をしないと「ただ経験しただけ」になってしまいます。ベテラン先輩が「振り返り」の部分を支援しましょう。私が顧問を務めるステーションでは、クラウド上で「振り返りノート」をやりとりします。新任者の記録に先輩がフィードバックする形式です。 フィードバックのコツ 入職したてはすべての事象が新鮮で、情報を「そのまま」受け止めがち。そこで私は、振り返りノートで「起きた行為の意味」を説明します。また、「印象的だった」「勉強になった」という記述があれば、「具体的に何が印象的で、何を学んだか」を繰り返し聞きます。 特に注意すべきは「印象的」という言葉で、これは予想と違うことを意味します。先輩の仕事に「感動したケース」もあれば、「教科書と違って違和感を持ったケース」もあるでしょう。そこを明確にしないと、アンラーニングにおける葛藤や、誤った価値観の構築を招きます。 また、教訓が身についてくると、さまざまなケースで使いたくなるもの。その際は、どんなケースで教訓を適用できるかといった留意点をフィードバックします。 次回は、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みについてお話しいただきます。 >>後編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用文献】1)森 陽子ら著.「新たに訪問看護分野に就労した看護師が訪問看護への移行期に経験した困難とその関連要因」日本看護管理学会誌,2016,20(2),p104-1142)平尾 由美子ら著.「病棟業務から訪問看護業務に移行した直後に看護師が感じる戸惑い・困難,8(1)」千葉県立保健医療大学紀要,2017,p169-176.3)柴田 滋子ら著.「訪問看護師が抱く困難感」日本農村医学会雑誌,2018,66(5),p.567-572 【参考文献】〇P.ベナーら著.早野ZITO真佐子訳.「ベナー ナースを育てる」医学書院,2011〇松尾 睦.『職場が生きる人が育つ 「経験学習」入門』ダイヤモンド社,2011

【4月8日up】第3回 みんなの訪問看護アワード表彰式イベントレポート【3月8日開催】
【4月8日up】第3回 みんなの訪問看護アワード表彰式イベントレポート【3月8日開催】
特集
2025年4月8日
2025年4月8日

第3回 みんなの訪問看護アワード表彰式イベントレポート【3月8日開催】

2025年3月8日(土)、東京駅近くのイベントホール「My Shokudo Hall & Kitchen」(東京都千代田区)で「第3回 みんなの訪問看護アワード」の表彰式を開催しました。エピソードの審査は、応募者の所属や氏名を完全に伏せた状態で厳正に行われ、計26のエピソードが選出されました。表彰式では、受賞者の方々や特別審査員の先生方、協賛企業の皆さまとともに、表彰、特別トークセッション、懇親会などで盛り上がりました。本イベントの様子や参加者の皆さまの声を、写真とともにご紹介します。 入賞から大賞まで受賞者を表彰 贈呈されたトロフィー 審査員特別賞を受賞した田端 支普さん まずは受賞者の皆さまへの表彰が執り行われました。入賞16名、協賛企業賞5名、審査員特別賞3名、ホープ賞1名、大賞1名が選出され、審査員の先生方からトロフィーと記念品が授与されました。 ・全受賞エピソードつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 大賞に輝いたのは、木戸 恵子さん(東京都)の投稿エピソード「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」です。千葉で容体が悪化した患者さんを、東京で体調を整えた上、宮崎まで陸路で送り届けたエピソードを投稿してくださいました。 大賞を受賞した木戸さんのコメントを一部ご紹介します。 「もしエピソードが受賞して漫画になったら、えみさん(患者さん)のお子さんたちに『お母さんがどれだけの愛情を持って家に帰ろうとしたのか』『どれだけ子どもたちに会いたかったのか』を伝えられるのでは、と考えて応募しました。エピソードは私が書きましたが、関わってくださった仲間は大勢います。厳しい状況の中で、宮崎に帰ることが果たして正しいのか、不安と葛藤もありましたが、その時はそれが正しいと信じ、たくさんの仲間の力を借りて宮崎への帰宅が実現しました。決して一人で実現できたことではありません。だからこそ、襷をつないでくれた仲間に会いに行って、受賞をみんなで分かち合いたいですし、お子さんたちに素敵な漫画をお届けできればと思っています。この度は素晴らしい賞をありがとうございました。」 木戸さんのエピソードを大賞に選出した理由について、特別審査員の高砂 裕子さんは次のように語りました。 「1,200kmという長距離を移動する中で、木戸さんたちがどれだけ患者さんの容体の把握に努め、ケアしてきたのか。短い文章の中から想像できることはたくさんあります。多くの不安と葛藤がある中でも、仲間の力を借りながら帰宅を実現させたことが本当に素晴らしいと思い、大賞に選出させていただきました。仲間の力・連携の力の大きさに気づかされるエピソードだったと思います。ぜひ皆さんもたくさんの方の力を借りて、木戸さんのように色々なことを成し遂げていってほしいと思います。そして、皆さんの体験したことを、積極的に周囲に伝えていっていただけたら嬉しいです」 大賞を受賞した木戸 恵子さん(左)と特別審査員の高砂 裕子さん エピソードや訪問看護に関するトークセッション 表彰後は、特別審査員の長嶺 由衣子さんと、受賞者3名による特別トークセッションが行われました。訪問看護師になった理由ややりがいをはじめ、投稿のきっかけや文章の中で伝えきれなかったケアの経緯や葛藤などが語られました。登壇者の話に深くうなずき、真剣に耳を傾けている受賞者や関係者の皆さまの様子が印象的でした。 例えば、「私たちの足跡は残さない」を投稿した松橋 久恵さんは、利用者さんの「平然と生きていきたい」という本音や家族への想いを受け、自然と足跡を残さないように努めたことを紹介。どのエピソードにも、書ききれなかったドラマや想い・葛藤などがあり、訪問看護師さんが利用者さんとひたむきに向き合っている様子が伝わるトークセッションとなりました。 お祝いの声が飛び交い、笑顔が絶えなかった懇親会 式典の終了後は、看護師・漫画家の広田奈都美さんによる大賞エピソードの漫画下書きもお披露目されました。広田さんのコメントも一部ご紹介します。 「私は漫画家であり訪問看護の経験もありますが、今回の大賞エピソードのように多職種や他の地域の仲間と連携をしていくのは決して簡単なことではありません。日頃のコミュニケーションやお互いの信頼関係が土台にあるからこそ、成立するものだと思います。物事が動くときは、いつも『感動』が隣にあります。そしてその感動こそ、皆さんが綴ってくれたナラティブ(物語)そのものです。私はこれからも漫画家として皆さんのナラティブを伝える仕事をずっと続けていきたいと思っています」 懇親会では、受賞者、特別審査員、協賛企業の皆さまが、このイベントの意義についてや訪問看護の魅力を広く伝えるためにはどうすべきかを語り合っている様子が見受けられました。エピソードに書ききれなかった経緯を深堀りしたり、感動の声を改めて伝えたりなど、お話がいつまでも尽きず、あちこちで笑顔の花が咲く様子が印象的でした。 審査員の先生方&参加者コメント 最後に、「みんなの訪問看護アワード」や表彰式について、特別審査員の先生や参加者の皆さまにうかがった感想をご紹介します。 高砂 裕子さん(一般社団法人全国訪問看護事業協会 副会長)訪問看護のエピソードを書いて発表することで、現場でのケア内容やそこにあった心の動きなどが明らかになります。皆さんの頑張りが形になること、そして表彰されて称えられることを、自分のことのように嬉しく思います。 こうした現場でのリアルを、看護職や他職種の方にも広く知ってほしいものです。全国で活躍されている訪問看護に携わる皆さんには、ぜひご自身のケアに自信を持ち、ご自身の経験や想いを色々な方に伝える機会を持っていただけたらと思います。 山辺 智子さん(公益財団法人日本訪問看護財団 事業部 研究員)※公益財団法人日本訪問看護財団 事業部部長 高橋 洋子さんの代理出席 どのエピソードをとっても、訪問看護師としての熱い思いだけでなく、技術や経験に裏付けられた冷静な判断があったことが垣間見え、素晴らしいと感じました。「その時、何を大事にしたのか」「その結果、どのような変化が生じたのか」といった一連の流れは、言葉として残してこそ広く世の中に広まり、同じ分野の仲間に継承されていくのだと思います。在宅ケアの拡充を図ることは当財団のミッションでもあります。ぜひ今後もこうしたイベントを開催していただければと思います。 山本 則子さん(東京大学大学院医学系研究科 教授)素晴らしいエピソードの数々に胸が熱くなり、とても悩みながらの選出でした。日々忙しく活躍される中で、ご自身の経験を振り返って文章にまとめる機会はなかなかないと思います。皆さん、素晴らしいスキルや想いを持っておられますので、これからもぜひ共有していただけたらと思います。私の周りでも「訪問看護をやって初めて看護に目覚めた」という方や、「人生で大事なことは全部訪問看護に習った」という方もいます。ぜひ、一人でも多くの方が訪問看護の魅力に気づいてくだされば嬉しく思います。 長嶺 由衣子さん(東京科学大学 公衆衛生学分野 非常勤講師)たくさんのエピソードを拝読する中で、すべての訪問看護師に通ずる「普遍的な価値観」がそこにあるのではないかと感じました。主語は「ケアをする自分たち」ではなく、「利用者さん」にあることが伝わり、短い文章の中でも医療従事者としてのプロフェッショナリズムや利用者さんのQOLを向上させるアプローチが垣間見えるエピソードが数多くありました。こうしたエピソードの蓄積は財産になっていきますし、今回のような取り組みをもっと広げていきたいと思います。 大石 佳能子さん(株式会社メディヴァ 代表取締役)日々、ひたむきに利用者さんと向き合っておられる訪問看護師の皆さんに、こちらからマイクを向ける企画は本当に素晴らしく、貴重だと思います。皆さんの想いを言葉にすることで、利用者さんやそのご家族にも「こういうしくみがあるんだ」「訪問看護を利用するとこんな可能性があるんだ」ということが伝わり、ご自身やご家族の終末期に対する考え方にも変化が起きるかもしれません。一人ひとりのドラマをもっと深掘りし、広く伝えていきたいと感じました。 西田 歩惟さん(入賞/福岡/香住ヶ丘リハビリ訪問看護ステーション) 今回、ずっと心に残っていた訪問看護入職1ヵ月目の経験を投稿しました。エピソードとして形に残せたことがとても嬉しいですし、受賞したことをIさんのご家族にも伝えたところ、たくさんの感謝の言葉をいただき、心があたたかくなりました。「みんなの訪問看護アワード」に投稿されたエピソードを読んで、少しでも訪問看護に興味を持ってくださった方は、新卒の方もブランクがある方も含めて、ぜひこの世界に来てほしいなと思います。 木内 亜紀さん(協賛企業賞/埼玉/株式会社ピコグラム 地域ケアステーションゆずり葉) 今回、素晴らしい賞を受賞できたことを光栄に思います。表彰式も本当に素敵なイベントでした。皆さんのエピソードを聞いて、同じ空の下で頑張っている人がこんなにたくさんいるということを改めて実感しました。皆さんの中には素晴らしい「宝物」があって、そこから力をもらいながら、利用者さんに向き合っているんだと思います。もちろん大変なこともありますが、私もそうした想いを力に変えて、今後も訪問看護の道を歩んでいきたいと思います。 「第3回 みんなの訪問看護アワード」表彰式にご参加いただいた皆さまの集合写真 表彰式にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。後日、表彰式のトークセッションのレポート記事や大賞・審査員特別賞・ホープ賞の漫画の公開も予定しています。どうぞお楽しみに! 執筆: 高橋 佳代子取材・編集: NsPace編集部

ニャースペース【訪問看護あるある】
ニャースペース【訪問看護あるある】
特集
2025年4月1日
2025年4月1日

昔はね…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

利用者さんの過去のお話を聞ける醍醐味 訪問看護をしていると、利用者さんの歴史を知れることがあるにゃ 訪問看護を通じて利用者さんとの関係性が築けてくると、過去のお話を伺えることも。訪問看護師さんからは、「90代の女性の利用者さん。お若いころのお写真をみせてくれて、まるでオードリーヘップバーンのようでした」「『実はそうだったの⁉』と驚くような利用者さんのお話を聞けるのは、訪問看護師の醍醐味の一つだと思います」といった声が聞かれました。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2025年3月25日
2025年3月25日

指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

指定難病の医療費助成制度においては、患者さん自身が「自己負担上限額管理票」を使って毎月の自己負担額を管理しています。そのため、月初からのレセプト処理が終わると、患者さんの自己負担上限額管理票を確認した上で、訪問看護の利用料金を請求しなければならないことがあります。自己負担上限額管理票からもらう金額が毎月バラバラになるため、患者さんや家族から説明をしてほしいと言われることもあります。今回は、指定難病と医療費助成制度について解説します。 ※本記事は、2025年2月時点の情報をもとに構成しています。 指定難病とは 難病および指定難病は「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)により、次のように定義されています。 難病とは発病の機構が明らかでなく、治療法が確立されていない希少な疾病で、長期にわたり療養を必要とするもの指定難病とは上記のうち、患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%)に達しておらず、客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が確立している疾病 2024年4月現在、指定難病に該当する疾患は341あります1)。 なお、難病法は、難病の克服をめざすこと、難病患者さんが社会参加の機会を確保できること、地域社会において尊厳を保ちながら他の人々と共生できることを基本理念としています。 指定難病の医療費助成制度のしくみ 指定難病に対する医療費助成制度は、難病法の第5条で、その対象や助成額などが規定されています。 医療費助成の対象 指定難病は、個々の疾病ごとに診断基準と重症度分類が設定されています。その基準に基づき、指定難病と診断され、以下に該当する場合、難病法による医療助成の対象になります。 重症度分類で病状が一定程度以上 軽症高額該当(重症度分類を満たさない軽症者でも、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が3ヵ月以上ある場合2)) 医療費助成を受けるには申請が必要 指定難病の医療費助成を受けるには、医療受給者証が必要です。医療受給者証は、都道府県や指定都市の窓口(住所地を管轄する保健福祉事務所や保健所など)に申請を行い、審査の結果、認定されると交付されます。 交付された医療受給者証を、指定医療機関(病院、診療所、薬局、訪問看護ステーションなど)に持参し提示することで、医療費の助成を受けられます。なお、認定審査には時間がかかるため、申請日から医療受給者証が交付されるまでの間に指定医療機関でかかった医療費は、払戻し請求ができます。 医療費助成の開始時期と有効期間 医療費助成の開始時期は、前倒しすることも可能です。さかのぼりの期間は、原則として申請日から1ヵ月です。また、医療費助成の支給認定には有効期間があり、原則1年。治療の継続が必要な場合には更新の申請が必要です。 医療費助成における自己負担上限額 指定難病の医療費助成には、自己負担の上限額が設定されています。医療費が高額になった場合でも、この上限額を超えて支払うことはありません。自己負担上限額は、表1に示したとおり、患者さんの所得や治療の状況に応じて設定されています。 例えば、医療サービスを多く受けて医療費が高額になり、自己負担額が50,000円になった場合でも、「低所得Ⅰ」の患者さんは2,500円、「上位所得」の患者さんは30,000円が支払いの上限額となります。 自己負担割合は3割負担から2割負担に 医療保険や介護保険の負担割合が3割の場合、助成を受けている医療費は2割に軽減されます。ただし、年齢・年収等の条件によりすでに医療保険の負担割合が2割や1割に軽減されている場合は、それ以上負担割合が減ることはありません。介護保険も同様です。 表1 医療費助成における自己負担上限額(月額) (単位:円) ※「高額かつ長期」とは、月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上ある者(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円を超える月が年間6回以上)。 文献2)より引用 自己負担上限額管理票の記載方法 指定難病患者さんは、公費負担者番号が54番から始まる医療受給者証を持っており、この医療受給者証を持つ患者さんの自己負担額は、毎月「自己負担上限額管理票」で管理する必要があります。レセプト処理後、指定難病の医療費助成を受けている患者さんについては、自己負担上限額管理票をもとに自己負担分を請求します。 この自己負担額に入院・入院外(外来)の区別はありません。複数の指定医療機関で負担した自己負担額をすべて合算し、患者さんが自己負担額の上限を超えて支払うことがないように毎月管理しているのです。 患者さんは受診した指定医療機関で、管理票に医療費総額や自己負担額、自己負担の累積額(月額)などを記入してもらいます。指定医療機関では累積額を確認し、自己負担上限額に達していなければ本人に請求し、達した場合は上限額を超える分をすべて公費請求するという流れです。 自己負担上限額管理票の各記載項目と記載方法については図1で説明します。 図1 自己負担上限額管理表の記載項目(例) ※自己負担上限管理票は都道府県ごとに様式が異なります。ここでは、東京都保健医療局が作成した資料に掲載されている管理票の様式を例に解説します。東京都保健医療:特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用).https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r3kisai 1患者さんの自己負担上限月額が記載されています。この例では10,000円が上限額です。2自己負担額を徴収した日付を記載します。3自己負担額を徴収した指定医療機関名を記載します。4医療費・介護サービス費の総額を記載します。54の自己負担額を記載します。2割負担の患者さんであれば、総額の2割の金額を記載します。6自己負担の累積額を記載します。その月支払った合計額です。7自己負担の累計額は、A病院の自己負担額2,000円とB薬局の4,000円を合計した6,000円になります。8D訪問看護ステーションが医療費50,000円を請求しました。本来、50,000円×2割負担で、自己負担額は10,000円ですが、患者さんはすでにC診療所までで合計7,600円を負担しています。そのため、この日は上限額との差額分2,400円のみを患者さんに請求します。上限額を超える分は、すべて公費請求します。9上限月額(10,000円)に達したため、同月内のそれ以降の医療費は患者さんに請求せず、斜線を引きます。10上限月額(10,000円)に達したときの指定医療機関が記載します。 訪問看護師としてサポートできること 指定難病の医療費助成制度は、患者さんやご家族の経済的な負担を軽減する大切なしくみですが、自己負担上限額管理票の管理が必要となり、手間がかかることが課題です。今後、マイナンバーカードをはじめとしたICTを活用することで、管理の簡素化が期待されます。それまでは訪問看護師として、しっかりと制度を理解し、患者さんとご家族が適切に管理できるようサポートすることが大切です。 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある 編集:株式会社照林社 【引用文献】1) 厚生労働省:指定難病.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000084783.html2025/2/21閲覧2) 難病情報センター:指定難病患者への医療費助成制度のご案内.https://www.nanbyou.or.jp/entry/54602025/2/21閲覧

訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説
訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説
特集
2025年3月18日
2025年3月18日

訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説

訪問看護で利用者さんやご家族と良好な信頼関係を築くためには、訪問時のマナーが重要です。訪問前、訪問中、訪問後のそれぞれの段階で意識すべきポイントを押さえることで、より安心感を与えるケアを行うことができます。本記事では、訪問看護におけるマナーを解説します。訪問看護先で適切な対応を取るために、ぜひ参考にしてください。 【訪問前】訪問看護における訪問のマナー 利用者さんのご自宅へ訪問する前に、以下の内容をチェックしましょう。 身だしなみに注意する 訪問看護では第一印象が利用者さんとの信頼関係に直結するため、清潔感を意識した身だしなみが大切です。以下のポイントに注意しましょう。 清潔なユニフォームを着用する 髪を整える(髪色は自然な色味にして、長い髪はまとめる) 華美なアクセサリーは身に着けない 派手なメイクは避け、ナチュラルな印象を心がける 爪を短く清潔に整える ひげは剃る 香水や強い香りのハンドクリームは使用しない 体臭や汗、食後の口臭など、においに気を配る 靴下や服に埃やペットの毛などが付いていないか確認する なお、訪問先によっては靴下が汚れる場合があるため、予備の清潔な靴下を常に用意し、必要に応じて履き替えましょう。利用者さんやご家族に不快感を与えず、安心していただけます。 駐輪・駐車のマナーを守る 訪問看護の際は、駐輪・駐車のマナーを守ることが大切です。マナー違反をすると、利用者さんや近隣住民とのトラブルにつながる可能性もあり、大変な迷惑をおかけしてしまいます。新規契約時に駐車場所は確認すると思いますが、利用者さんごとの決めごとをしっかり確認して駐輪・駐車し、周囲の迷惑にならないよう配慮しましょう。当然のことながら、「自転車は車道が原則」「夜間はライトを点灯」といったルールも守りましょう。 参考記事:訪問看護師が知っておきたい自転車の交通ルールは?道路交通法改正も解説 トイレは事前に済ませておく ビジネスシーンにおいても、原則として訪問先でトイレをお借りするのはマナー違反。また、訪問看護の訪問先では、プライバシー保護や感染予防の観点からも、訪問前にトイレを済ませておくことが原則です。基本的には訪問看護事業所内のトイレを利用しましょう。ただし、「1日中訪問に出ている」「事務所に戻ると道順として明らかに非効率」など、訪問看護事業所に立ち寄れない場合もあるため、訪問する道順に公共のトイレ等があるか事前に確認しておくと安心です。 それでも、体調によってはどうしても我慢できない場合があるかもしれません。その際は、「本来は借りることは望ましくない」ことを認識した上で利用者さんに丁寧にお願いし、トイレをお借りするようにしましょう。 訪問時間の厳守 訪問看護の信頼性を保つために、約束した訪問時間を厳守することが重要です。万が一訪問先への到着が遅れたり予定変更が発生したりする場合は、速やかに利用者さんやご家族へ連絡し、理由を伝えた上で、訪問時間を再調整しましょう。 【訪問中】訪問看護における訪問のマナー 訪問中は、以下のマナーを守りましょう。 インターフォン対応と玄関でのマナー 訪問看護中のインターフォン対応や玄関でのマナーは、利用者さんが抱く印象に大きく影響します。インターフォンを押す前に、姿勢を正し、顔全体からバストアップまでが画面上に収まるよう距離を調整します。インターフォンを押した後は、まずカメラに目線を合わせ、続いて軽くお辞儀をして挨拶をしましょう。 また、基本的に、玄関に入る前にコートは脱いでおきます。玄関に入る際、靴は脱いだ後、丁寧に揃え直し、利用者さんやご家族に、清潔感や礼儀正しさを感じてもらえるよう心がけてください。 傘やレインコートの取り扱い 雨の日には傘やレインコートを使用しますが、これらの扱いにも注意が必要です。 傘は、訪問先に傘立てがあれば利用しましょう。傘立てがなく、判断に迷った場合は、傘袋に入れて玄関先に置くと気遣いのある振る舞いになります。玄関の外側の邪魔にならない場所に傘を立てかけることも失礼には当たりませんが、マンションの内廊下など、住居形態によっては水滴が廊下に滴ってあまり良い印象を与えない場合があります。状況に合わせた十分な配慮が必要です。 なお、折り畳み傘に関しては、オフィスビルなどのビジネスシーンでは屋内へ持ち込むケースもありますが、訪問看護の場合、長傘と同様にベルトでとめて玄関の傘立てに置くのがよいでしょう。傘についている水滴を落としてからベルトをとめ、できるだけ訪問先の玄関を濡らさないように注意します。 レインコートは、同じくできるだけ水滴を落としてから、ビニール性の袋や防水性のある風呂敷に収納することをおすすめします。特に防水性のある風呂敷は、多用途に活用できるため、持ち歩くと便利です。また、冬場に持ち込むことが多い上着やマフラー、手袋などを風呂敷に包むことで荷物をコンパクトにまとめることもできます。 荷物の取り扱い マナーや衛生上の観点から、訪問時に持参する荷物は、テーブルや椅子の上に置かないようにしましょう。部屋の中で邪魔にならないところに置くという配慮も大切です。 雨の日や汚れがある場合は、前述の防水性の風呂敷やシートの上、または玄関に置かせていただき、清潔を保つよう心がけます。 室内での基本マナー 住居内の扉・ふすま等を開ける際には、利用者さんやご家族のプライバシーに配慮し、ノックをして「失礼します」と声をかけてから開けるようにしましょう。すでに扉が開いている場合や、ノックをする場所がない状況でも、部屋に入る際には必ず「失礼します」と声をかけてから足を踏み入れます。状況に応じて「周囲からの視線を遮るためにカーテンを閉める」「ケアに必要な部屋以外には立ち入らない」といった配慮も必要です。 ケアを行う際には「失礼します」「カーテンを閉めますね」「今からお身体を拭いていきますね」などと声をかけ、利用者さんが安心してケアを受けられるよう心がけましょう。 訪問中に緊急の電話対応が必要になった場合は、必ず一言断りを入れた上で、利用者さんやご家族に迷惑をかけない適切な場所を選んで対応するよう心がけてください。 食べ物やお礼の品物への対応 お茶やお菓子などの食べ物やお礼の品物については、原則として感謝の気持ちを伝えた上でお断りすることが基本です。訪問看護サービスを受ける立場(お客様)である利用者さんやご家族から、おもてなしを受ける行為は適切ではありません。 また、訪問時間内にお茶やお菓子をいただくことによって、本来のケアに充てるべき時間が削られたり、次の訪問先のスケジュールに遅延が生じたりする可能性もあります。お礼の品物においては、ご家族のご負担になってしまうことも。そのため、「お茶やお菓子はいただけません/お礼の品物は受け取れません」といった事業所の方針を決めておき、初回訪問時や契約時にきちんと説明することが大切です。 おもてなしに対してお断りする際は、「お気持ちだけで十分です」と丁寧にお伝えし、相手に失礼のない対応を心がけましょう。 清掃と衛生マナー 訪問先で手を洗う際は、洗面台や鏡面に水しぶきが残らないよう、タオルやティッシュで丁寧に拭き取りましょう。このような小さな配慮が利用者さんやご家族に好印象を与え、プロフェッショナルとしての意識を示すことができます。 言葉遣いとコミュニケーション 利用者さんやご家族と接する際には、基本的に敬語を使用し、丁寧な態度でコミュニケーションを取ります。ただし、利用者さんの状態や関係性によっては、あえてカジュアルな口調を用いる場合もあります。親しみやすい雰囲気を大切にする場合でも、利用者さんへの敬意は決して忘れず、状況に応じて適切な言葉遣いを選びましょう。また、専門用語や難しい言葉は避け、相手にわかりやすい表現を心がけることが大切です。 記録とデジタル機器の利用 記録作業でパソコンやタブレットを使用する際は、「記録を行いますね」と一言声をかけて、利用者さんやご家族にデバイスを使用する意図を伝えます。また、記録用の写真撮影が必要な場合は、事前に「記録のために写真を撮らせていただきます」と説明し、許可を得ることが大切です。 当然ながら、個人情報保護の観点から個人のスマートフォンは使用せず、業務用のデジタル機器を用いましょう。 【訪問後】訪問看護における訪問のマナー ケアが終了したら、利用者さんやご家族への挨拶を丁寧に行い、感謝の気持ちを伝えます。退室時には玄関のドアを静かに閉め、上着やレインコートは外に出てから着用しましょう。また、玄関外や廊下での会話は避けることが重要です。 使用後のユニフォームやタオルなど、汚れがひどいものは個別に洗浄してから洗濯機へ入れるなど、衛生管理を徹底します。また、訪問中に「後で連絡する」と約束した内容については、必ず期日内に対応し、万が一対応が間に合わない場合でも、利用者さんへ事前に連絡を入れましょう。 * * * 訪問看護では、細かなマナーを守ることで利用者さんやご家族と信頼関係を築きやすくなります。訪問前の準備から訪問中の対応、訪問後のケアまで、清潔感や礼儀、配慮を徹底しましょう。この記事でご紹介したポイントを実践し、より質の高い訪問看護を目指してください。 編集・執筆:加藤 良大監修:大川 ユカ子 一般社団法人 スマートマナークリエイト 代表理事学習院大学卒業後、全日本空輸株式会社(ANA)客室乗務員として国際線チーフパーサーや政財界のVIPフライト、ファーストクラスパーサーを担当する。のちに一般社団法人スマートマナークリエイトを設立。代表理事として医療接遇、企業研修、接客指導、幼児マナー教育を中心に活動を続ける。セミナー受講者数のべ12,000人以上。〈メディア〉挨拶の達人 記事監修/日本テレビ「news every」出演/ビズアップ総研「場の空気の読み方」DVD出演/気持ちよく引き受けてもらう「頼みかた」DVD出演/フラワーラジオ定期出演/雑誌「ネイルUP!」(マナー特集)/小学館 美レンジャー/美容業界季刊誌「ガモウニュース」連載/書籍「おもてなしの教科書」/電報のマナー(冊子) ほか多数ホームページURLhttps://smartmannercreate.com/

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